説明

トランクスルー部のリアボディー構造

【課題】トランクスルー部分の開口を阻害することなく、且つ、質量の増加を抑え、ボディー剛性・ボディー強度を保て、所謂マッチ箱変形を抑制可能であると共に、製造コストの増加に繋がらないトランクスルー部のリアボディー構造を提供する
【解決手段】アッパーバック7は板状体の前側端部を下方へ折曲して補強端71を形成し、ブレース9の下端はリアシート固定クロスバー3のリアホイールハウス2側に固設して筋交い状に形成することでリアシート固定クロスバー3の中央部を大きく開口させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、リアフロアを形成する際のリアフロア回りの変形を防止するトランクスルー構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セダン型等の乗用車では、トランクルームと乗車スペースである車内とを一体化させるボディー構造としてトランクスルータイプのものがある。
【0003】
このトランクスルータイプの乗用車では、車輌後方から見て、トランクルームと室内との間を隔てる壁がなくなるので、該部分を含めて車輌全体の構造を補強しなければならない。
特に、段差などを乗り越える際に発生するねじり方向への負荷に対しての強度が減少するためこれを考慮した剛性を確保する必要が有り、例えば従来例1として図4に表すような例がある。
この従来例1は、現在実際に市販されているモデル等に利用されている一般的なものである。
【0004】
従来例1に表すトランクスルー構造100では、リヤホイールハウスインナRWの上方で、左右のリヤホイールハウスインナRW間に架け渡すようにアッパーバック101を設置する。このアッパーバック101は、自動車のフロント側(以後、単にフロント側という。)はフロント側ストレーナ102によってリヤホイールハウスインナRWに固定され、自動車のリヤ側(以後、単にリヤ側という。)はリヤ側ストレーナ103によってリヤホイールハウスインナRWに固定されていた。
また、左右のリヤホイールハウスインナRW間には、該インナRW間に渡って、リヤシート固定クロスバー104が固定されている。このリヤシート固定クロスバー104は円筒状の補強パイプであり、リヤシートを固定させるためのものであり、リヤホイールハウスインナRW、アッパーバック101、フロント側ストレーナ102、リヤ側ストレーナ103と共に、車輌の剛性を保っている。
【0005】
また、アッパーバック101のフロント側は、図4に一部切欠Xとして表したように、角柱状に加工した補強部105を形成し、機械的な剛性を高め高強度としてある。
このように、アッパーバック101を左右方向のみならず、上下方向、前後方向に対しても補強することで、発生するねじり方向への負荷に対しての剛性を高め車輌剛性を保っている。
【0006】
また、別の従来例としては、公開特許文献として従来例2があった。この従来例2は『自動車補強部材の取付構造』(特開平5-338558)である。
この従来例2は、図5に表す通り、その特徴は、サブパフォーマンスロッド215を構成するロアブレース213の端部を、左側のスプリングサポート205の上部とリアフロア202とにそれぞれ取付固定し、また、ロアブレース214の端部を右側のスプリングサポート206と前記リアフロア202とにそれぞれ取付固定した点である。これによって従来例2では、スプリングサポート205と一体形成された左のリアホイールハウス203(同様にスプリングサポート206と一体成形された右右のリアホイールハウス204)は、ロアブレース213およびロアブレース214によって個々にその変形が防止されていた。また、リアホイールハウス203および204間に渡って、アッパーブレース208を架け渡して固定することで、ロアブレース213および214とアッパーブレース208とによって三角形状を形成して更に剛性や強度を保っている。
【0007】
そして、このように構成することで、パフォーマンスロッド215によるリアホイールハウス203,204の剛性をより一層向上できるとともにリアホイールハウス203,204に加わる荷重の方向に関係なく常にリアホイールハウス203,204の変形を防止して操縦性の安定度を増加することが可能な自動車用補強部材の取付構造が提供された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−338558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来例1では、トランクスルー部分の開口を確保でき、ボディー剛性・ボディー強度を確保することが出来るが、補強部105を設けなければならず、さらには、ストレーナもフロント側ストレーナ102とリヤ側ストレーナ103とが必須となるので、車両重量の増加を伴ってしまうという問題点を有した。更には、補強部105をプレート状のアッパーバック101に一体的に形成しなければならず、製造工程が増えるばかりか、意匠的に一体にすることが求められるので、更に製造コストがかかってしまうと言う問題点を有した。
【0010】
また、従来例2では、リアホイールハウス203および204を起点に、アッパーブレース208およびロアブレース213、214によって三角形状を形成して剛性を保つので、ボディー剛性・ボディー強度を保つことが可能となり、更に、各ブレース以外に構成部品を要しないので、車輌重量の減少にも寄与できるが、通常部品以外に各ブレースを要するため、製造コストが増加してしまうと言う問題点を有した。更には、ロアブレース213、214が、リアフロア202の略中央で固定されることで各ブレースによる三角形状を構成するので、トランクスルー部分にロアブレース213、214が大きくはみ出し、トランクスルー部分を狭めてしまうと言う問題点を有した。
【0011】
この発明は、上記問題点に鑑み、トランクスルー部分の開口を阻害することなく、且つ、質量の増加を抑え、ボディー剛性・ボディー強度を保て、所謂マッチ箱変形を抑制可能であると共に、製造コストの増加に繋がらないトランクスルー部のリアボディー構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこでこの発明は、トランクスルー部を大きく開口できると共に必要なボディー剛性等を確保し且つ軽量化を図れる構造として、リアフロアの左右に形成されたリアホイールハウス間を接続してリアシートを取り付け固定されるリアシート固定クロスバーを備え、左右それぞれのリアホイールハウスの上方に位置されるブラケットパッケージトレイ間に亙ってアッパーバックを固設し、ブラケットパッケージトレイの前側に上端が固設され下端がリアホイールハウスに固設されるストレーナおよびブラケットパッケージトレイの車輌側方側に上端が固設され下端がリアホイールハウスに固設されるリアサスタワーによってブラケットパッケージトレイとアッパーバックとを左右のリアホイールハウス間に亙り跨設させ、上端をブラケットパッケージトレイに固設し下端をリアシート固定クロスバーに固設するブレースを配し、アッパーバックは板状体の前側端部を下方へ折曲して補強端を形成し、ブレースの下端はリアシート固定クロスバーのリアホイールハウス側に固設して筋交い状に形成することでリアシート固定クロスバーの中央部を大きく開口可能なことを特徴とするトランクスルー部のリアボディー構造を提供する。
【0013】
このリアボディー構造で、左右のリアタイヤハウス間に固設されたリアシート固定クロスバーと、リアホイールハウスから立設されたストレーナおよびリアサスタワー並びにこれらと固設されたブラケットパッケージトレイと、リアシート固定クロスバーとブラケットパッケージトレイとの間に筋交い状に固設するブレースとが、略三角形状を形成する事となり、トランクスルー部の機械的強度を増している。これに伴い、アッパーバックの機械的強度を従来ほど強固にすることがなくなり、前側を例えばL字状に折曲して補強する程度で構成している。ストレーナは、リアホイールハウスの前側にのみ配し、軽量化がなされている。
なお、アッパーバックの後方側には、アッパーバックリンフォース等の部品が従来同様に備えられている。
【発明の効果】
【0014】
この発明では、従来のアッパーバックに角柱状に形成して剛性を増していた補強部を廃し、補強部に相当する端部はL字状に折曲するだけの補強端として形成するのみであり、剛性確保のためにブレースを追加して設けているので、従来通りあるいはそれ以上の剛性を、ブレースと、ストレーナ・リアサスタワーおよびブラケットパッケージトレイと、リアシート固定クロスバーとによって形成される三角形状部分で得ることが出来、補強部の廃止による重量低減を実現し、従来例1に比して低重量化が図れてなお剛性確保が出来るという効果を有する。
そして、ブレースとリアシート固定クロスバーとの接続部分をリアホイールハウス側で固定可能なため、トランクスルー部分の開口を従来例2より広くとることが可能であるという効果を有する。
従って、これらにより、従来例1より1.8[kg]程度の車重削減が可能となる一方でブレース等による構造および形状の簡略化により部品製造時のプレス型等の作成費用の削減とが図れるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の実施例を表す車輌後部の斜視断面説明図
【図2】この発明の実施例の後方から前方を見た説明図
【図3】部品を説明する切断端面説明図
【図4】従来例1を表す斜視断面説明図
【図5】従来例2を表す斜視断面説明図
【実施例1】
【0016】
以下に、この発明の実施例を、図面に基づき説明する。図1はこの発明の実施例を表す車輌後部の断面説明図であり、図2はこの発明の実施例の後方から前方を見た説明図であり、図3は部品を説明する切断端面説明図である。
【0017】
1は、この発明にかかるトランクスルー部分のリアボディー構造である。以下、単にリアボディー構造1と言う。リアボディー構造1は、車両室内後部の後部座席とリアトランクルームとの間でありリアホイールハウス2間のスペース部分の構造である。
【0018】
リアホイールハウス2は、左右それぞれに設けられており、従来の車輌と同じである。また、左右のリアホイールハウス2間には、リアホイールハウス2の前方側相互を連結して補強するリアシート固定クロスバー3が固定されている。このリアシート固定クロスバー3は、リアシート(図示せず)を固定し、リアシート(図示せず)をリアシート固定クロスバー3を中心に回動させることで、トランクスルーを可能とさせている。
【0019】
リアシート固定クロスバー3には、両端および中央付近に、自動車ボディー(図示せず)と締結させるためのブラケット31を固定されており、このブラケット31が自動車ボディー(図示せず)とボルト締め等により固定される。また、リアシート固定クロスバー3の中央には、リアシート(図示せず)の回動操作を行うシートレバー32を備える。リアシート固定クロスバー3は、従来と同様である。
【0020】
左右のリアホイールハウス2上部の前方側からは、ストレーナ4が立設される。そして、ストレーナ4の上端には、ブラケットパッケージトレイ5が固定される。
ストレーナ4は、従来のストレーナ4と同じであり、板状体をプレス加工して成形されたブラケット状の部材であり、上部のブラケットパッケージトレイ5とリアホイールハウス2とを連結固定している。なお、従来の例では、ストレーナ4は、リアホイールハウス2の後方側にも立設してブラケットパッケージトレイ5の後方側と連結固定していたが、この実施例では、後側のストレーナがなくとも充分な強度を得られるので、重量の軽量化を図るために設けていない。
【0021】
また、リアホイールハウス2の上部中央には、リヤサスタワー6を有する。リアサスタワー6は左右のリアホイールハウス2それぞれに設けられており、やはりブラケットパッケージトレイ5とリアホイールハウス2とを連結固定している。リヤサスタワー6も従来のものと何ら変わりない。
【0022】
従って、ストレーナ4とブラケットパッケージトレイ5とに固定されたブラケットパッケージトレイ5は、左右のリアホイールハウス2それぞれの上部に位置されることとなる。
この左右に設けたブラケットパッケージトレイ5には、アッパーバック7が架け渡されて固定される。
【0023】
アッパーバック7は、左右のブラケットパッケージトレイ5間に架け渡されて固定され、前側端部が両ブラケットパッケージトレイ5間に渡ってL字状に折り曲げられて補強端71を形成している。
即ち、従来のアッパーバックでは、自動車ボディー補強のために補強端71の代わりに角柱状のパイプ形状を形成して強固な作りとしていたのに対し、この発明では、アッパーバック本体72を形成する薄板を折曲させただけの補強でアッパーバック7の強度は足りているのである。アッパーバック7のその他は、従来のものと特に変わらない。
【0024】
アッパーバック7の後方には、アッパーブラケットリンフォース8が固定される。アッパーブラケットリンフォース8もやはり左右のブラケットパッケージトレイ5間に亙って設けられて固定されている。アッパーブラケットリンフォース8は、従来から設けられているものと同様の構造である。
【0025】
9はブレースである。ブレース9は、図3に表すような断面形状を成すようにプレス加工された棒状体であり、下方端がリアシート固定クロスバー3の中央よりリアホイールハウス2側に寄った位置にボルトナットにより固定される。従って、リアシート固定クロスバー3の固定位置には、固定ブラケット33が設けられており、ボルトナットによる固定が可能に形成されている。また、ブレース9の上端は、ブラケットパッケージトレイ5とボルトナットによって固定される。ブレース9は、左右両側のブラケットパッケージトレイ5とリアシート固定クロスバー3との間に設ける。
このようにブレース9を両方のブラケットパッケージトレイ5とリアシート固定クロスバー3との間に筋交い状に設けることで、リアホイールハウス2とストレーナ4とリアサスタワー6とブラケットパッケージトレイ5とで形成する一辺と、ブレース9により形成する一辺と、リアシート固定クロスバー3により形成する一辺とによって三角形状を形成することで剛性を確保できる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
この発明は、自動車のトランクスルー部分の構造に利用できる。
【符号の説明】
【0027】
1 トランクスルー部分のリアボディー構造
2 リアホイールハウス
3 リアシート固定クロスバー
31 ブラケット
32 シートレバー
33 固定ブラケット33
4 ストレーナ
5 ブラケットパッケージトレイ
6 リアサスタワー
7 アッパーバック
71 補強端
8 アッパーブラケットリンフォース
9 ブレース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リアフロアの左右に形成されたリアホイールハウス間を接続してリアシートを取り付け固定されるリアシート固定クロスバーを備え、左右それぞれのリアホイールハウスの上方にはブラケットパッケージトレイを位置させ、ブラケットパッケージトレイは、上端がブラケットパッケージトレイの前側に固設され下端がリアホイールハウスに固設されるストレーナと、上端がブラケットパッケージトレイの車輌側方側に固設され下端がリアホイールハウスに固設されるリアサスタワーとによってタイヤハウス上方に支持固定され、左右のブラケットパッケージトレイ間にはアッパーバックを跨設させ、ブラケットパッケージトレイとリアシート固定クロスバー間には、上端をブラケットパッケージトレイに固設させ下端をリアシート固定クロスバーに固設するブレースを配し、
アッパーバックは板状体の前側端部を下方へ折曲して補強端を形成し、ブレースの下端はリアシート固定クロスバーのリアホイールハウス側に固設して筋交い状に形成することでリアシート固定クロスバーの中央部を大きく開口可能なことを特徴とするトランクスルー部のリアボディー構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−184630(P2010−184630A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30731(P2009−30731)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000157083)関東自動車工業株式会社 (1,164)
【Fターム(参考)】