説明

トランクピストンエンジン用潤滑油組成物

【課題】改善された重油相溶性を示すトランクピストンエンジン用潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】下記の成分を含むトランクピストンエンジン用潤滑油組成物:(a)主要量の、飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含有する基材油;および(b)(i)エステル基材油、ただしエステル基材油は潤滑油組成物の全質量に基づき10質量%より多く約45質量%以下の量で存在する、(ii)アルキル化芳香族基材油、(iii)少なくとも約50質量%の芳香族含量を有する基材油、ただし少なくとも約50質量%の芳香族含量を有する基材油は芳香族抽出物ではない、およびそれらの混合物からなる群より選ばれる基材油。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に云ってトランクピストンエンジン用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
トランクピストンエンジンは、様々な種類や品質のディーゼル燃料および重油を用いて運転される。これらの燃料は、通常アスファルテン、すなわち一般に最も重質で最も極性が強い石油の留分を高濃度で含有している。アスファルテンは、アルキル側鎖を含む多環芳香族シートの構造からなると考えられている非常に複雑な化合物であり、一般に潤滑油には不溶性である。重油と従来の潤滑油組成物がトランクピストンエンジンの様々な温度領域で混ざり合うと、黒スラッジ(例えば、アスファルテン堆積物もしくは他の堆積物)や、他のアスファルテン誘導堆積物(例えば、アンダークラウン堆積物)が生成しがちである。黒スラッジもしくは堆積物の生成は、トランクピストンエンジンの定期点検期間と維持費とに悪影響を及ぼす可能性がある。
【0003】
今日、世界の様々な地域の産業において、トランクピストンエンジン油のI種基油をII種基油で置き換えようとする動向がある。II種基油は一般にI種基油よりも芳香族含量が少なく、その結果、I種基油ではなくII種以上の基油をトランクピストンエンジン用潤滑油に使用すると、(残さ燃料油としても知られている)重油との相溶性の低下をもたらす。この重油相溶性の低下は、I種基油に比べてII種もしくはその上の基油ではアスファルテンの溶解度がずっと低いことによると考えられる。概して重油相溶性の低下の問題は、清浄剤含有トランクピストンエンジン用潤滑油添加剤パッケージの量を増やすことによって、通常は処理されている。
【0004】
特許文献1(「349出願」)には、(a)潤滑粘度の油、(b)少なくとも一種の過塩基性金属清浄剤、および(c)少なくとも一種の置換ジアリール化合物を含有する潤滑油組成物が開示されている。この「349出願」には更に、潤滑油組成物がトランクピストンディーゼルエンジン内で、アスファルテン分散性の改善を示すことも開示されている。
【0005】
特許文献2(「387出願」)には、(a)II種基材油、および(b)塩基度指数が2未満の中性もしくは過塩基性の金属炭化水素置換ヒドロキシベンゾエート清浄剤を含有する潤滑油組成物が開示されている。この「387出願」には更に、塩基度指数が2未満の中性もしくは過塩基性の金属サリチレート清浄剤が、II種基材油のアスファルテン分散性を改善することも開示されている。
【0006】
特許文献3(「009出願」)には、(a)主要量のI種基油および/またはII種基油;および(b)アルキル置換ヒドロキシ安息香酸の塩を含む少なくとも一種の清浄剤、ただしアルキル基の少なくとも90%はC20以上であり、かつ該潤滑油組成物が中級もしくは高級な石鹸の配合物である、を含む潤滑油組成物が開示されている。この「009出願」には更に、従来のサリチレート系清浄剤を含む潤滑油組成物と比較して、該組成物が、より少ない黒スラッジの形成、酸化を原因とする粘度増加に対して、より優れた安定性、および低硫黄の舶用残さ燃料中で改善された清浄性を示すことが開示されている。
【0007】
特許文献4(「869出願」)には、(a)II種基材油、および、(b)塩基度指数が5.5以上の過塩基性金属炭化水素置換ヒドロキシベンゾエート清浄剤;および(c)塩基度指数が2以下の過塩基性金属炭化水素置換ヒドロキシベンゾエート清浄剤、ただし清浄剤(b)中の金属の質量対清浄剤(c)中の金属の質量の比率は10以下であり;トランクピストン舶用エンジン潤滑油組成物が(ASTM D2896を採用して)20乃至60のTBNを有する、を含むトランクピストン舶用エンジン潤滑油組成物が開示されている。この「869出願」には更に、該組成物ではII種基材油中のアスファルテン分散性が改善されていることが開示されている。
【0008】
特許文献5(「870出願」)には、(a)II種基材油、および(b)塩基度指数が5.5以上の過塩基性金属炭化水素置換ヒドロキシベンゾエート清浄剤;および(c)塩基度指数が2.1乃至5.4の範囲の過塩基性金属炭化水素置換ヒドロキシベンゾエート清浄剤、ただし清浄剤(b)中の金属の質量対清浄剤(c)中の金属の質量の比率は1以下であり;トランクピストン舶用エンジン潤滑油組成物が(ASTM D2896を採用して)20乃至60のTBNを有する、を含むトランクピストン舶用エンジン潤滑油組成物が開示されている。この「870出願」には更に、該組成物ではII種基材油中のアスファルテン分散性が改善されていることが開示されている。
【0009】
特許文献6には、エンジン中のアスファルテン沈澱(ブラックペイント)を少なくする方法であって、(a)相対的に多量の潤滑粘度の油;および(b)相対的に少量の、一種以上の中性もしくは過塩基性アルカリ土類金属C22炭化水素置換サリチレート類を含むサリチレート清浄剤系(ただし、該サリチレート清浄剤系はアルカリ金属サリチレートを含まない)を含む、もしくはそれらを混合することにより製造される潤滑油組成物でエンジンを潤滑状態で運転する工程を含む方法が開示されている。
【0010】
特許文献7(「114出願」)には、2ストローク舶用ディーゼルエンジン・シリンダ油、2ストローク舶用ディーゼルエンジン・システム油および4ストローク舶用ディーゼルエンジンに使用できる液体潤滑基油組成物が開示されている。この「114出願」に開示されている潤滑基油組成物は、(a)飽和炭化水素類を少なくとも95質量%含む基材油、および(b)0.2乃至30質量%の芳香族(ブライトストック)抽出物を含有している。ブライトストックは、一般に残さ油又は塔底油から生成して高度に精製および脱ろうされた高粘度の基油である。この「114出願」には更に、II種基油と少量の多環芳香族ブライトストック抽出物との組合せが、粘度比の改善および酸化及び摩耗性能の改善を示したことも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0039349号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2009/0093387号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2009/0281009号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2009/0291869号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2009/0291870号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2010/0062957号明細書
【特許文献7】国際公開第2008/102114号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
改善された重油との相溶性を示すトランクピストンエンジン用潤滑油組成物を開発することが望まれるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第一の態様によれば、下記の成分を含むトランクピストンエンジン用潤滑油組成物が提供される:(a)主要量の、飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含有する基材油;および(b)(i)エステル基材油、ただし該エステル基材油は潤滑油組成物の全質量に基づき10質量%より多く約45質量%以下の量で存在する、(ii)アルキル化芳香族基材油、(iii)少なくとも約50質量%の芳香族含量を有する基材油、ただし該少なくとも約50質量%の芳香族含量を有する基材油は芳香族抽出物ではない、およびそれらの混合物からなる群より選ばれる基材油。
【0014】
本発明の第二の態様によれば、下記の成分を含むトランクピストンエンジン用潤滑油組成物が提供される:(a)主要量の、飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含有する基材油;および(b)(i)エステル基材油、ただし該エステル基材油は潤滑油組成物の全質量に基づき10質量%より多く約45質量%以下の量で存在する、(ii)アルキル化芳香族基材油、(iii)少なくとも約50質量%の芳香族含量を有する基材油、ただし該少なくとも約50質量%の芳香族含量を有する基材油は芳香族抽出物ではない、およびそれらの混合物からなる群より選ばれる基材油、ただし基材油(b)(ii)は基材油(b)(iii)とは異なる。
【0015】
本発明の第三の態様によれば、下記の成分を含むトランクピストンエンジン用潤滑油組成物が提供される:(a)主要量の、飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含有する基材油;および(b)(i)エステル基材油、ただし該エステル基材油は潤滑油組成物の全質量に基づき10質量%より多く約45質量%以下の量で存在する、(ii)アルキル化芳香族基材油、(iii)少なくとも約50質量%の芳香族含量を有する基材油、ただし該少なくとも約50質量%の芳香族含量を有する基材油は芳香族抽出物ではない、およびそれらの混合物からなる群より選ばれる基材油、ただしトランクピストンエンジン用潤滑油組成物はI種基材油を実質的に含まない。
【0016】
本発明の第四の態様によれば、飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含有する基材油を主要量で含むトランクピストンエンジン用潤滑油組成物の重油相溶性を改善する方法であって、トランクピストンエンジン用潤滑油組成物に、(i)エステル基材油、ただしエステル基材油は潤滑油組成物の全質量に基づき10質量%より多く約45質量%以下の量で存在する、(ii)アルキル化芳香族基材油、(iii)少なくとも約50質量%の芳香族含量を有する基材油、ただし少なくとも約50質量%の芳香族含量を有する基材油は芳香族抽出物ではない、およびそれらの混合物からなる群より選ばれる基材油を加えることを含む方法が提供される。
【0017】
本発明の第五の態様によれば、トランクピストンエンジンを作動させる方法であって、下記の成分を含むトランクピストンエンジン用潤滑油を用いて、トランクピストンエンジンを潤滑にすることを含む方法が提供される:(a)主要量の、飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含有する基材油;および(b)(i)エステル基材油、ただし該エステル基材油は潤滑油組成物の全質量に基づき10質量%より多く約45質量%以下の量で存在する、(ii)アルキル化芳香族基材油、(iii)少なくとも約50質量%の芳香族含量を有する基材油、ただし該少なくとも約50質量%の芳香族含量を有する基材油は芳香族抽出物ではない、およびそれらの混合物からなる群より選ばれる基材油。
【0018】
本発明の第六の態様によれば、主要量の、飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含有する基材油を含むトランクピストンエンジン用潤滑油組成物の重油相溶性を改善することを目的とする(i)エステル基材油、ただし該エステル基材油は潤滑油組成物の全質量に基づき10質量%より多く約45質量%以下の量で存在する、(ii)アルキル化芳香族基材油、(iii)少なくとも約50質量%の芳香族含量を有する基材油、ただし該少なくとも約50質量%の芳香族含量を有する基材油は芳香族抽出物ではない、およびそれらの混合物からなる群より選ばれる基材油の使用方法が提供される。
【発明の効果】
【0019】
飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含有する基油を主要量で含むトランクピストンエンジン用潤滑油組成物に、(i)エステル基材油、ただしエステル基材油は潤滑油組成物の全質量に基づき10質量%より多く約45質量%以下の量で存在する、(ii)アルキル化芳香族基材油、(iii)少なくとも約50質量%の芳香族含量を有する基材油、ただし少なくとも約50質量%の芳香族含量を有する基材油は芳香族抽出物ではない、およびそれらの混合物からなる群より選ばれる基材油を添加することによって、トランクピストンエンジン用潤滑油組成物の重油との相溶性が有利に改善される。また、本発明のトランクピストンエンジン用潤滑油組成物は、飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含有する基材油しか含まないトランクピストンエンジン用潤滑油組成物よりも、黒スラッジ生成が少なくなる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、(a)主要量の、飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含有する基材油;および(b)(i)エステル基材油、ただし該エステル基材油は潤滑油組成物の全質量に基づき10質量%より多く約45質量%以下の量で存在する、(ii)アルキル化芳香族基材油、(iii)少なくとも約50質量%の芳香族含量を有する基材油、ただし該少なくとも約50質量%の芳香族含量を有する基材油は芳香族抽出物ではない、およびそれらの混合物からなる群より選ばれる基材油を含むトランクピストンエンジン用潤滑油組成物に関する。飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含有する基材油は主要量で存在し、例えば組成物の全質量に基づき50質量%よりも多い量である。ある態様では、飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含有する基材油は、組成物の全質量に基づき50質量%よりも多い量で存在する。別の態様では、飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含有する基材油は、組成物の全質量に基づき70質量%よりも多い量で存在する。さらに別の態様では、飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含有する基材油は、組成物の全質量に基づき50質量%乃至約95質量%の量で存在する。さらにまた別の態様では、飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含有する基材油は、組成物の全質量に基づき約70質量%乃至約95質量%の量で存在する。
【0021】
飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含有する基材油は、一種以上のII種基油、および/または一種以上のIII種基油、および/またはフィッシャー−トロプシュ法で合成したろう質のパラフィン系炭化水素物質から誘導された基材油を含有していてもよい。II種基油および/またはIII種基油は、API公報1509、第14版、補遺I、1998年12月で規定された、任意の石油から誘導された潤滑粘度の基油であってよい。APIガイドラインは基材油を、各種の異なる方法を用いて製造することができる潤滑油成分として規定している。
【0022】
II種基油は一般に、全硫黄分が(ASTM D2622、ASTM D4294、ASTM D4927もしくはASTM D3120で決定して)百万分の300部(ppm)以下、飽和含量が(ASTM D2007で決定して)90質量%以上、かつ粘度指数(VI)が(ASTM D2270で決定して)80乃至120である石油誘導潤滑基油を意味する。
【0023】
III種基油は一般に、硫黄分が300ppm未満、飽和含量が90質量%より多く、かつVIが120以上である。ある態様では、基材油は少なくとも約95質量%の飽和炭化水素を含有している。別の態様では基材油は、少なくとも約99質量%の飽和炭化水素を含有している。
【0024】
用語「フィッシャー−トロプシュ誘導」もしくは「FT誘導」は、生成物、留分、もしくは原料油が、フィッシャー−トロプシュ法により、ある段階を起源として生じること、もしくはある段階において生成されることを意味する。フィッシャー−トロプシュ法の原料油は、天然ガス、石炭、シェール油、石油、一般廃棄物、これらの誘導体、およびそれらの混合物を含む広く様々な炭化水素系資源から得ることができる。
【0025】
粗ろうは、通常の石油誘導原料油から水素化分解もしくは潤滑油留分の溶媒精製のいずれかにより得ることができる。一般には、粗ろうは、これらの方法の一つにより製造される溶媒脱ろう原料油から回収される。水素化分解は窒素量を低い値まで低減することもできるため、通常は水素化分解が好ましい。溶媒精製油から誘導される粗ろうについては、脱油を用いて窒素量を削減することができる。粗ろうの水素化処理を用いて、窒素および硫黄の量を低下させることもできる。粗ろうは非常に高い粘度指数を有し、油量および粗ろうを製造する出発物質に依存するが、通常は約140乃至200の範囲である。従って、粗ろうは、非常に高い粘度指数を有するフィッシャー−トロプシュ誘導基材油の製造に適している。
【0026】
本発明で有用なろう質の原料油では、一般に結合している窒素および硫黄の全量が約25ppm未満である。窒素は、ろう質の原料油を溶融させ、次に酸化的燃焼とASTM D4629−96に従う化学ルミネセンス検出によって測定される。試験方法は、さらに米国特許第6503956号明細書に記載されており、その内容は参照のため本明細書の記載とする。硫黄は、ろう質の原料油を溶融させ、次にASTM D5453−00に従い紫外蛍光によって測定される。試験方法は、さらに米国特許第6503956号明細書に記載されており、その内容は参照のため本明細書の記載とする。
【0027】
本発明で有用なろう質の原料油は、近い将来、大規模なフィッシャー−トロプシュ合成法による生産が可能になると、豊富かつ比較的価格競争力があるものになることが予想される。フィッシャー−トロプシュ法から製造される合成原油は、様々な固体、液体、および気体からなる炭化水素の混合物を含む。それらのフィッシャー−トロプシュ生成物は潤滑基油の範囲に沸点を有し、それらを処理により潤滑基油とするための理想的な候補にするろうを高い割合で含む。従って、フィッシャー−トロプシュろうは、本発明の方法に従う高品質の潤滑基油を製造するための優れた原料油を代表する。フィッシャー−トロプシュろうは、通常は室温において固体であり、そのため、流動点および曇り点のような低温特性が貧弱であることを示す。しかし、ろうの水素異性化に続いて製造することにより、優れた低温特性を有するフィッシャー−トロプシュ誘導潤滑基油を製造することができる。適切な水素異性化脱ろう処理の一般的な記載は、米国特許第5135638号および同5282958号;および米国特許出願公開第2005/0133409号の各明細書に示されており、それらの内容は参照のため本明細書の記載とする。
【0028】
水素異性化は、水素異性化条件下の異性化領域中、ろう質の原料油を水素異性化触媒に接触させることにより実施される。水素異性化触媒は、好ましくは形状選択的中間孔径分子ふるい、貴金属水素化成分、および耐火性酸化物支持体を有する。形状選択的中間孔径分子ふるいは、好ましくはSAPO−11、SAPO−31、SAPO−41、SM−3、ZSM−22、ZSM−23、ZSM−35、ZSM−48、ZSM−57、SSZ−32、オフレタイト、フェリエライト、およびそれらの混合物からなる群より選択される。SAPO−11、SM−3、SSZ−32、ZSM−23、およびそれらの混合物がさらに好ましい。好ましい貴金属水素化成分は、白金、パラジウム、もしくはそれらの混合物である。
【0029】
水素異性化条件は、使用したろう質の原料油、使用した水素異性化触媒、触媒が硫化されているか否か、望ましい収量、および望ましい潤滑基油の特性に依存する。本発明において好ましい有用な水素異性化条件は、260℃乃至約413℃(500乃至約775°F)の温度、15乃至3000psigの全圧、および約0.5乃至30MSCF/bbl、好ましくは約1乃至約10MSCF/bbl、さらに好ましくは約4乃至約8MSCF/bblの水素原子対原料油の比率を含む。一般に、水素原子は、生成物から分離され、そして異性化領域で再利用される。
【0030】
水素異性化条件は、好ましくは単環パラフィン性機能を伴う分子を約5質量%よりも多く有する、そしてさらに好ましくは単環パラフィン性機能を伴う分子を約10質量%よりも多く有する一種以上の留分を生産するように調整することである。留分は、単環パラフィン性機能を伴う分子対多環パラフィン性機能を伴う分子の比率が、約20よりも大きいことが好ましい。留分は概して、式:VI=28×Ln(100℃における動粘度)+95で計算される値よりも大きな粘度指数と0℃よりも低い流動点とを有する。好ましい流動点は、−10℃よりも低い。VI式における「Ln」は、『e』を底とする自然対数を意味する。粘度指数は、ASTM D2270−93(1998)により決定する。
【0031】
ある好ましい態様では、飽和炭化水素を少なくとも90質量%もしくは飽和炭化水素を少なくとも約95質量%もしくは飽和炭化水素を少なくとも約99質量%含む基材油は、一種以上のII種基油である。
【0032】
トランクピストンエンジン用潤滑油組成物の基材油(b)は、(i)エステル基材油、ただしエステル基材油は潤滑油組成物の全質量に基づき10質量%より多く約45質量%以下の量で存在する、(ii)アルキル化芳香族基材油、および(iii)少なくとも約50質量%の芳香族含量を有する基材油、ただし少なくとも約50質量%の芳香族含量を有する基材油は芳香族抽出物ではない、およびそれらの混合物からなる群より選択される基材油である。
【0033】
適切な有機エステル基材油は、これらに限定されるものではないが、モノエステル類、ジエステル類、ポリオールエステル類等を含む。エステル基材油は一般にV種基材油とみなされ、このV種はI〜IV種基油の分類に属さない全ての基油の集合体である。一般に、有機エステル基材油は、動物もしくは植物資源から誘導される。天然起源の有機エステルは、鯨油およびラード油のような動物脂肪、もしくは菜種およびひまし油のような植物油中に見出される。有機エステルは、有機酸をアルコールと反応させることにより合成できる。
【0034】
モノエステルは、一価アルコール類を一価脂肪酸と反応させ、単一のエステル結合と鎖状もしくは分岐したアルキル基とを伴う分子を形成することにより製造される。これらの生成物は、一般に粘度が非常に低く(通常は100℃において2cSt未満)、さらに極端に低い流動点と高いVIとを示す。
【0035】
ジエステルは、一価アルコールを二価酸と反応させ、二つのエステル基を伴う鎖状、分岐した、もしくは芳香族である分子を形成することにより製造される。より一般的なジエステル類は、アジペート類、アゼレート類、セバケート類、ドデカンジオエート類、フタレート類、およびジメレート類である。ある態様では、ジエステルは、例を挙げると、ジ(1−エチルプロピル)アジペート、ジ(3−メチルブチル)アジペート、ジ(1,3−メチルブチル)アジペート、ジ(2−エチルヘキシル)アジペート、ジ(イソノニル)アジペート、ジ(イソデシル)アジペート、ジ(ウンデシル)アジペート、ジ(トリデシル)アジペート、ジ(イソテトラデシル)アジペート、ジ(2,2,4−トリメチルペンチル)アジペート、ジ[混合(2−エチルヘキシル、イソノニル)]アジペート、ジ(1−エチルプロピル)アゼレート、ジ(3−メチルブチル)アゼレート、ジ(2−エチルブチル)アゼレート、ジ(2−エチルヘキシル)アゼレート、ジ(イソオクチル)アゼレート、ジ(イソノニル)アゼレート、ジ(イソデシル)アゼレート、ジ(トリデシル)アゼレート、ジ[混合(2−エチルヘキシル、イソノニル)]アゼレート、ジ[混合(2−エチルヘキシル、デシル)アゼレート、ジ[混合(2−エチルヘキシル、イソデシル)]アゼレート、ジ[混合(2−エチルヘキシル、2−プロピルヘプチル)]アゼレート、ジ(n−ブチル)セバケート、ジ(イソブチル)セバケート、ジ(1−エチルプロピル)セバケート、ジ(1,3−メチルブチル)セバケート、ジ(2−メチルブチル)セバケート、ジ(2−エチルヘキシル)セバケート、ジ[2−(2−エチルブトキシ)エチル]セバケート、ジ(2,2,4−トリメチルベンジル)セバケート、ジ(イソノニル)セバケート、ジ(イソデシル)セバケート、ジ(イソウンデシル)セバケート、ジ(トリデシル)セバケート、ジ(イソテトラデシル)セバケート、ジ[混合(2−エチルヘキシル、イソノニル)]セバケート、ジ(2−エチルヘキシル)グルタレート、ジ(イソウンデシル)グルタレート、およびジ(イソテトラデシル)グルタレートを含む。
【0036】
ポリオールエステルは、一種以上のポリオールを一種以上の有機酸でエステル化することにより製造できる。例えば、米国特許第6462001号明細書を参照、その内容は参照のため本明細書の記載とする。一種以上のポリオールおよび一種以上の有機酸からのポリオールエステルの合成は、この分野で公知の方法、例えば、それらを酸触媒の存在下で脱水縮合することにより実施できる。ポリオールエステルの製造に使用するポリオールは、2乃至約10の炭素原子および2乃至6のヒドロキシル基を有するものであってもよい。本発明で使用するポリオールの一例は、5乃至10の炭素原子を有するネオペンチルポリオールである。本明細書で使用する用語「ネオペンチルポリオール」は、ネオペンチル基を有する多価アルコールを意味する。これらポリオールの例は、これらに限定されるものではないが、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ジオール、(すなわち、ネオペンチルグリコール)、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2,2−ジエチルプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジブチルプロパン−1,3−ジオール、2−メチル−2−プロピルプロパン−1,3−ジオール、トリメチロールプロパン(TMP)、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール等およびそれらの混合物を含む。
【0037】
ポリオールエステルの製造に使用する有機酸は、4乃至約24の炭素原子を有するものであってもよい。有機酸の例は、これらに限定されるものではないが、ブタン酸、イソブタン酸、ペンタン酸、イソペンタン酸、ヘキサン酸、2−エチルブタン酸、シクロヘキサン酸、ヘプタン酸、イソヘプタン酸、メチルシクロヘキサン酸、オクタン酸、ジメチルヘキサン酸、2−エチルヘキサン酸、2,4,4−トリメチルペンタン酸、イソオクタン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸、ノナン酸、イソノナン酸、イソデカン酸、イソウンデカン酸、2−ブチルオクタン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、2−エチルヘキサデカン酸、ノナデカン酸、2−メチルオクタデカン酸、イコサン酸、2−メチルイコサン酸、3−メチルノナデカン酸、ドコサン酸、テトラドコサン酸、2−メチルトリコサン酸等およびそれらの混合物を含む。
【0038】
有機酸は、炭化水素長鎖および末端カルボキシレート基を含み、さらに二重結合が炭化水素鎖中に存在するか否かによって不飽和もしくは飽和が決定される化合物に分類される脂肪酸であってもよい。従って、不飽和脂肪酸はその炭化水素鎖中に少なくとも一つの二重結合を有し、それに対して飽和脂肪酸はその脂肪酸鎖中に二重結合を有していない。不飽和脂肪酸の例は、これらに限定されるものではないが、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノレン酸等およびそれらの混合物を含む。飽和脂肪酸の例は、これらに限定されるものではないが、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等およびそれらの混合物を含む。
【0039】
別の態様では、ポリオールエステルは、C乃至約C75の脂肪酸グリセロールエステル、そして好ましくはC乃至約C24の脂肪酸グリセロールエステルのような少なくとも一つのグリセロールエステルである。本発明で使用するためのグリセロールエステルは、例えば、天然原料から誘導されるグリセリド、すなわち植物もしくは動物のような天然原料から誘導されるグリセリド;合成油等およびそれらの混合物であってもよい。有用な天然油は、これらに限定されるものではないが、ココヤシ油、ババスーヤシ油、ヤシの実油、パーム油、オリーブ油、ひまし油、菜種油、とうもろこし油、牛脂油、鯨油、ひまわり油、綿実油、亜麻仁油、桐油、獣脂油、ラード油、ピーナッツ油、キャノーラ油、大豆油等およびそれらの混合物を含む。有用な合成油は、これらに限定されるものではないが、一種以上のカルボン酸と一種以上のグリセロール、例えばグリセロールトリアセテートとの反応から誘導される合成油等およびそれらの混合物を含む。適切な出発油は、通常はトリアシルグリセロール類(TAGs)を含む。トリアシルグリセロール類は、グリセロール部分にエステル化している3個の脂肪酸鎖を含み、天然もしくは合成のいずれであってもよい。例えば、トリオレイン、トリエイコセノイン、もしくはトリエルシンのようなTAGsは、出発物質として使用できる。TAGsは、市販品を、例えばシグマ化学社(セント・ルイス、ミズーリ州)から利用でき、あるいは標準的な技術により合成することもできる。
【0040】
以上述べたグリセロールエステルは、約C乃至約C75、好ましくは約C乃至約C24の脂肪酸エステル類を含むことができる。すなわち、いくつかの脂肪酸部分は、数および種類が、油の起源により異なっている。脂肪酸部分は独立に、不飽和もしくは飽和脂肪酸であってもよい。不飽和脂肪酸の例は、これらに限定されるものではないが、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノレン酸等およびそれらの混合物を含む。飽和脂肪酸の例は、これらに限定されるものではないが、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等およびそれらの混合物を含む。
【0041】
酸部分は、完全エステル化化合物もしくは完全エステル化には至らない化合物、例えば、グリセリルトリ−ステアレート、グリセリルジ−ラウレートおよびグリセリルモノ−オレエートのそれぞれを与える。この分野の当業者ならば容易に、出発物質を植物誘導油、すなわち植物油とすることができるであろう。適切な植物油は、脂肪酸全量に基づき少なくとも約50%のモノ不飽和脂肪酸量を有し、さらに、例えば、菜種(Brassica)、ひまわり(Helianthus)、大豆(Glycine max)、とうもろこし(Zea mays)、クランビー(Crambe)、およびメドウフォーム(Limnanthes)油を含む。キャノーラ油は、エルカ酸が2%未満であって、特に有用な菜種油である。少なくとも70%のモノ不飽和脂肪酸量を有する油も、特に有用である。モノ不飽和脂肪酸量は、例えば、オレイン酸(C18:1)、エイコセン酸(C20:1)、エルカ酸(C22:1)、もしくはそれらの混合物から構成することができる。
【0042】
ある態様では、ポリオールエステルは、一般式(I)のグリセロールエステルであってもよい:
【0043】
【化1】

【0044】
式中、R、RおよびRは独立に、全体として4乃至約75の炭素原子、好ましくは4乃至約24の炭素原子を有する脂肪族炭化水素部分であり、そして、さらに好ましくは、少なくともの一つのR、RおよびRは全体として4乃至約10の炭素原子を有する飽和脂肪族炭化水素部分であり、かつ少なくともの一つのR、RおよびRは全体として11乃至約24の炭素原子を有する脂肪族炭化水素部分である。
【0045】
別の態様では、ポリオールエステルは、一般式(II)の化合物である:
【0046】
【化2】

【0047】
式中、R、RおよびRは独立に、4乃至約24の炭素原子を有する脂肪族炭化水素部分であり、Rは水素原子もしくは1乃至10の炭素原子を有する脂肪族炭化水素部分であり、そしてx、yおよびzは同一もしくは異なっている1乃至10の整数である。式(II)の化合物は公知の化合物であって、公知の方法により製造でき、それゆえ容易に市販品を利用できる。R、RおよびRの基について、脂肪族炭化水素部分は独立に、飽和もしくは不飽和の鎖状(直鎖)もしくは分岐鎖状であり、好ましくは4乃至約24の炭素原子、さらに好ましくは4乃至約16の炭素原子、そして最も好ましくは6乃至約10の炭素原子を有することができる。Rの基は、水素原子もしくは脂肪族炭化水素部分であってもよく、脂肪族炭化水素部分は、例えば、鎖状もしくは分岐した鎖状アルキル基であって、1乃至約10の炭素原子、そして好ましくは1乃至6の炭素原子を有し、任意に芳香族もしくはアリール基を含む。本発明で使用するためのポリオールエステルの例は、これらに限定されるものではないが、例えば、TMPトリ(2−エチルヘキサノエート)、TMPトリヘプタノエート、TMPトリカプリレート、TMPトリカプレート、TMPトリ(イソノナノエート)等のようなトリメチロールプロパン(TMP)エステルを含む。
【0048】
ある態様では、本発明のトランクピストンエンジン用潤滑油組成物で使用するためのエステル基材油は、100℃において約2乃至約10cStの動粘度を有するエステル基材油である。別の態様では、本発明のトランクピストンエンジン用潤滑油組成物で使用するためのエステル基材油は、100℃において約10乃至約100cStの動粘度を有するエステル基材油である。
【0049】
ある態様では、本発明のトランクピストンエンジン用潤滑油組成物で使用するためのエステル基材油は、プリオルーベ(Priolube、商標)3970、すなわちネオペンチルポリオール、より的確に述べるとトリメチロールプロパンと少なくとも一つの脂肪族飽和モノカルボン酸とのエステルであって、6乃至12の炭素原子を有し、さらに100℃において4.4cStの動粘度を有するポリオールエステルである。
【0050】
別の態様では、エステル基材油は、本発明のトランクピストンエンジン用潤滑油組成物中に、トランクピストンエンジン用潤滑油組成物の全質量に基づき、約20質量%乃至約40質量%の量で存在する。
【0051】
本発明のトランクピストンエンジン用潤滑油組成物中で使用するためのアルキル化芳香族基材油は、モノアルキル化芳香族基材油、ジアルキル化芳香族基材油、トリアルキル化芳香族基材油等であってもよい。アルキル化芳香族基材油は一般に、V種基材油とみなされる。アルキル化部分は、約C乃至C30のアルキルの任意に鎖状もしくは分岐したアルキル基、例えば、C乃至C30のアルファオレフィンアルキル化剤から誘導されるものであってもよい。適切な芳香族基は、少なくとも一つの6員芳香族環、例えばベンゼン環、ジフェニル環のような芳香族性を有する任意の分子構造からなることができ、任意に結合もしくは連結構造によって共に縮合もしくは連絡している任意の数の上記のような6員環を有する。例えば、芳香族基は、1乃至約10のそのような置換もしくは無置換の芳香族環を有することができる。必要ならば、芳香族基のような一つ以上の環を含む基を用いる場合に、環を含む基を、同一もしくは異なる連結基、例えばC乃至C20の任意にエーテルもしくはエステル結合を含むアルキレンもしくはハロアルキレン基で連結することもできる。適切に縮合および/または多縮合した芳香族基は、これらに限定されるものではないが、アントラセン、フェナントレン、ピレン、インデン、アセナフチレン、ベンズアントレン、クリセン、トリフェニレン、およびナフタレンを含む。ある好ましい態様では、芳香族基はナフタレンである。
【0052】
アルキル化芳香族基材油は、市販品、例えばキング・インダストリーズ社のKRシリーズ(例、NA−LUBE(商標)KR−007)等の原材料を利用するか、あるいはこの技術において公知の任意の方法により製造できる。例えば、合成、鉱物油、および生物起源の潤滑剤、化学および技術、レスリーR.ルドニック(編)、テイラー&フランシス社、7、139−146頁(2006年)を参照、その内容は参照のため本明細書の記載とする。NA−LUBE(商標)は、キング・インダストリーズ・スペシャルティ・ケミカルズの登録商標である。例えば、アルキル化ナフタレンのようなアルキル化芳香族基材油は、触媒の存在下、オレフィン、アルコール、ハロゲン化アルキル、もしくは他の当業者に公知のアルキル化剤により芳香族をアルキル化することにより製造できる。適切な触媒は、この分野で公知の任意のルイス酸もしくは超酸触媒を含む。適切なルイス酸は、三フッ化ホウ素、三塩化鉄、四塩化スズ、二塩化亜鉛、および五フッ化アンチモンを含む。酸性クレイ、シリカ、もしくはアルミナも適切である。例えば、米国特許第4604491号および同4764794号の各明細書を参照。適切な超酸触媒は、トリフルオロメタンスルホン酸、フッ化水素酸もしくはトリフルオロメチルベンゼンスルホン酸を含む。他の適切な触媒は、ゼオライトベータ、ゼオライトY、ZSM−5、ZSM−35、およびUSYのような酸性ゼオライト触媒を含む。
【0053】
ある態様では、アルキル化芳香族基材油は、本発明のトランクピストンエンジン用潤滑油組成物中に、トランクピストンエンジン用潤滑油組成物の全質量に基づき約1質量%乃至約45質量%の量で存在する。別の態様では、アルキル化芳香族基材油は、本発明のトランクピストンエンジン用潤滑油組成物中に、潤滑油組成物の全質量に基づき約5質量%乃至約40質量%の量で存在する。別の態様では、アルキル化芳香族基材油は、本発明のトランクピストンエンジン用潤滑油組成物中に、潤滑油組成物の全質量に基づき約25質量%乃至約35質量%の量で存在する。
【0054】
少なくとも約50質量%の芳香族含量を有する基材油は、この分野で公知であり、流動触媒分解(FCCおよびTCC法に関連)、コーキング、高温分解等のような石油−誘導原料油の精製により回収されるような高度な芳香族基材油を含む。これらの基材油は、一般にV種の基材油とされている。ある態様では、本発明のトランクピストンエンジン用潤滑油組成物の製造に使用する少なくとも約50質量%の芳香族含量を有する基材油は、一種以上のFCC軽循環油、FCC中循環油、FCC重循環油およびそれらの混合物であって、流動触媒分解精製処理のような触媒分解精製処理により誘導される。「軽循環油」は、約302°F(150℃)乃至約752°F(400℃)の間に沸点の分布を有し、流動触媒分解系により製造される炭化水素を意味する。軽循環油量は、ASTMの方法D5307に規定されている。「中循環油」は、約270°F(132℃)乃至約900°F(482℃)の間に沸点の分布を有し、流動触媒分解系により製造される炭化水素を意味する。重循環油量は、ASTMの方法D5307に規定されている。「重循環油」は、約320°F(160℃)乃至約1112°F(600℃)の間に沸点の分布を有し、流動触媒分解系により製造される炭化水素を意味する。重循環油量は、ASTMの方法D5307に規定されている。
【0055】
一般に、FCC中循環油は、モノ−、ジおよびポリ芳香族の混合物、例えば、モノ芳香族が約5質量%乃至約15質量%、ジ芳香族が約35質量%乃至約50質量%そしてポリ芳香族が約20質量%乃至約35質量%の混合物であってもよい。本発明で使用するFCC中循環油の例は、通常のFCC中循環油、重FCC中循環油等およびそれらの混合物を含む。
【0056】
ある態様では、少なくとも約50質量%の芳香族含量を有する基材油は、少なくとも約60質量%の芳香族含量を有する基材油である。
【0057】
ある態様では、少なくとも約50質量%の芳香族含量を有する基材油は、本発明のトランクピストンエンジン用潤滑油組成物中に、潤滑油組成物の全質量に基づき約1質量%乃至約45質量%の量で存在する。別の態様では、少なくとも約50質量%の芳香族含量を有する基材油は、本発明のトランクピストンエンジン用潤滑油組成物中に、潤滑油組成物の全質量に基づき約5質量%乃至約40質量%の量で存在する。別の態様では、少なくとも約50質量%の芳香族含量を有する基材油は、本発明のトランクピストンエンジン用潤滑油組成物中に、トランクピストンエンジン用潤滑油組成物の全質量に基づき約25質量%乃至約35質量%の量で存在する。
【0058】
少なくとも約50質量%の芳香族含量を有する基材油は、芳香族抽出物ではない。一般に、芳香族抽出物は、溶媒抽出法において少なくとも一つの精製処理流路における処理によって製造することができる抽出物である。溶媒抽出法は、少なくとも一つの精製処理流路を、フルフラール、n−メチルピロリドン、二酸化硫黄、デュオ−ソル(商標)もしくはフェノールのような溶媒に接触させることを含み、精製流路から芳香族複素環物質を選択的に抽出し、さらに溶媒中にこれらの物質の溶液を形成する。次に溶媒が抽出処理で再利用するため溶液から回収され、残る生成物が芳香族抽出物である。
【0059】
芳香族抽出物の製造は、この分野で公知であり、例えば「潤滑基油およびろうの処理(A.セクエイラ、81〜118頁、マルセル・ディッカー社刊、ニューヨーク、1994年)」に記載されている。
【0060】
芳香族抽出物は、残留芳香族抽出物であってもよい。残留芳香族抽出物は、デュオ−ソル(商標)、プロパン、ブタンもしくはそれらの混合物を脱れきの溶媒として用いる抽出法の処理により溶媒脱れき減圧残さ(DAOとしても知られている)として製造できる。
【0061】
芳香族抽出物は、蒸留芳香族抽出物(DAE)であってもよい。蒸留芳香族抽出物は、抽出法の処理により、減圧蒸留法からの蒸留液の流れとして製造される芳香族抽出物である。蒸留芳香族抽出物は、処理済み蒸留芳香族抽出物であってもよい。処理済み蒸留芳香族抽出物は、少なくとも一つの追加処理、例えば、水素化処理、水素化、硫化水素処理、粘土処理、酸処理、および追加溶媒抽出の対象となった蒸留芳香族抽出物である。
【0062】
芳香族抽出物は、ASTM D2007で測定される60乃至85質量%の芳香族含量を有することができる。
【0063】
蒸留芳香族抽出物は、250乃至680℃の範囲にASTM D2887に従い測定される沸点を有することができる。蒸留芳香族抽出物は、5乃至18000mm/sの範囲にASTM D445に従い測定される40℃における動粘度を有することができる。蒸留芳香族抽出物は、3乃至60mm/sの範囲にASTM D445に従い測定される100℃における動粘度を有することができる。蒸留芳香族抽出物は、300乃至580の範囲にASTM D2887に従い測定される平均分子量を有することができる。蒸留芳香族抽出物は、C15乃至C54の範囲にASTM D2887に従い測定される炭素数を有することができる。蒸留芳香族抽出物は、65乃至85質量%の範囲にASTM D2007に従い測定される芳香族含量を有することができる。
【0064】
残留芳香族抽出物は、380℃よりも高いASTM D2887に従い測定される沸点を有することができる。残留芳香族抽出物は、4000mm/sよりも高いASTM D445に従い測定される40℃における動粘度を有することができる。残留芳香族抽出物は、60〜330mm/sの範囲にASTM D445に従い測定される100℃における動粘度を有することができる。残留芳香族抽出物は、400よりも多いASTM D2887に従い測定される平均分子量を有することができる。残留芳香族抽出物は、C25よりも多いASTM D2887に従い測定される炭素数を有することができる。残留芳香族抽出物は、60乃至85質量%の範囲にASTM D2007に従い測定される芳香族含量を有することができる。
【0065】
本発明のトランクピストンエンジン用潤滑油組成物の全塩基価(TBN)は、トランクピストンエンジンに使用するのに適していれば何れのレベルであってもよい。「全塩基価(TBN)」は、試料1グラム中のKOHのミリグラムと等価な塩基の量を意味する。従って、TBNの数値が高いほど、生成物のアルカリ性が強いこと、よって保有するアルカリ度が大きいことを反映している。トランクピストンエンジン用潤滑油組成物のTBNは、任意の好適な方法により、例えばASTM D2896により測定することができる。一般に、トランクピストンエンジン用潤滑油組成物のTBNは、少なくとも約12である。ある態様では、トランクピストンエンジン用潤滑油組成物のTBNは、約20乃至約60である。別の態様では、トランクピストンエンジン用潤滑油組成物のTBNは、約30乃至約50である。
【0066】
本発明のトランクピストンエンジン用潤滑油組成物の粘度は、トランクピストンエンジンに使用するのに適していれば何れのレベルであってもよい。一般に、トランクピストンエンジン用潤滑油組成物の粘度は、100℃で約5乃至約25センチストークス(cSt)、好ましくは100℃で約10乃至約20cStの範囲にあってよい。トランクピストンエンジン用潤滑油組成物の粘度は、任意の好適な方法により、例えばASTM D2270により測定することができる。
【0067】
本発明のトランクピストンエンジン用潤滑油組成物は、当該分野の熟練者に知られている任意のトランクピストンエンジン用潤滑油製造方法により製造することができる。成分を任意の順序で、任意の方法で添加することができる。成分をブレンド、混合または可溶化するのに適した任意の混合装置または分散装置を用いることができる。ブレンダ、撹拌器、分散機、混合機(例えば、遊星形ミキサおよび二段遊星形ミキサ)、ホモジナイザ(例えば、ガウリン・ホモジナイザまたはラニー・ホモジナイザ)、微粉砕機(例えば、コロイドミル、ボールミルまたはサンドミル)、もしくは当該分野で知られているその他任意の混合又は分散装置を用いて、ブレンド、混合または可溶化を行うことができる。
【0068】
ある態様では本発明のトランクピストンエンジン用潤滑油組成物は、I種基油を実質的に含まない。「実質的に含まない」とは本明細書で使用するとき、如何なるI種基油であれその量が相対的に僅かであるか、あるいは全く無いこと、例えばトランクピストンエンジン用潤滑油組成物の全質量に基づき約5質量%未満、好ましくは1質量%未満、最も好ましくは約0.1質量%未満の量を意味すると理解されたい。「I種基油」は本明細書で使用するとき、飽和含量が(ASTM D2007で決定して)90質量%未満、および/または全硫黄分が(ASTM D2622、ASTM D4294、ASTM D4297又はASTM D3120で決定して)300ppmより多く、かつ粘度指数(VI)が(ASTM D2270で決定して)80以上120未満である石油誘導潤滑基油を意味する。
【0069】
本発明のトランクピストンエンジン用潤滑油組成物は、補助機能を付与するための従来のトランクピストンエンジン用潤滑油組成物添加剤も含有していてもよく、これら添加剤が分散または溶解したトランクピストンエンジン用潤滑油組成物(最終配合物)をもたらす。例えば、酸化防止剤、無灰分散剤、耐摩耗性添加剤、金属清浄剤などの清浄剤、さび止め添加剤、曇り除去剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、摩擦緩和剤、流動点降下剤、消泡剤、補助溶媒、パッケージ混合剤、腐食防止剤、染料、極圧剤等およびそれらの混合物と、トランクピストンエンジン用潤滑油組成物をブレンドすることができる。様々な添加剤が知られていて市販もされている。これらの添加剤またはこれらに類似した化合物を通常のブレンド手段によって、本発明のトランクピストンエンジン用潤滑油組成物の製造に用いることができる。
【0070】
酸化防止剤の代表例としては、これらに限定されるものではないが、アミン系、例えば、ジフェニルアミン、フェニル−アルファ−ナフチルアミン、N,N−ジ(アルキルフェニル)アミン類、およびアルキル化フェニレンジアミン類;フェノール系、例えばBHT、立体障害のあるアルキルフェノール類、具体的に2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、および2,6−ジ−tert−ブチル−4−(2−オクチル−3−プロパン酸)フェノール;およびそれらの混合物を挙げることができる。
【0071】
無灰分散剤の代表例は、これらに限定されるものではないが、アミン、アルコール、アミド、もしくはエステルの極性部分が架橋基を介して、ポリマーの骨格に結合している。本発明の無灰分散剤は、例えば、長鎖炭化水素置換モノおよびジカルボン酸もしくはそれらの無水物の油溶性塩、エステル、アミノ−エステル、アミド、イミド、およびオキサゾリン;長鎖炭化水素のチオカルボキシレート誘導体、直接結合しているポリアミンを有する長鎖脂肪族炭化水素;および長鎖置換フェノールをホルムアルデヒドおよびポリアルキレンポリアミンで縮合することにより製造したマンニッヒ縮合生成物から選択される。
【0072】
カルボン酸系分散剤は、少なくとも約34、そして好ましくは少なくとも約54の炭素原子を含むカルボン酸系アシル化剤(酸、無水物、エステル等)と、窒素含有化合物(例えばアミン)、有機ヒドロキシ化合物(例えば一価および多価アルコールを含む脂肪族化合物、もしくはフェノールおよびナフトールを含む芳香族化合物)、および/または塩基性無機物質との反応生成物である。これらの反応生成物はイミド、アミド、およびエステルを含む。
【0073】
コハク酸イミド分散剤は、カルボン酸系分散剤の一種である。それらは、炭化水素置換コハク酸アシル化剤を、有機ヒドロキシ化合物と、もしくは窒素原子に結合している少なくとも一つの水素原子を含むアミンと、もしくはヒドロキシ化合物とアミンとの混合物と反応させることによって製造される。用語「コハク酸アシル化剤」は炭化水素置換コハク酸もしくはコハク酸−生成化合物を意味し、後者は酸そのものを包含する。そのような物質は、通常は炭化水素置換コハク酸、無水物、エステル(半エステルを含む)およびハロゲン化物を含む。
【0074】
コハク酸−起源の分散剤は、広く様々な化学構造を有する。コハク酸−起源の分散剤のある分類は、下記式で表すことができる:
【0075】
【化3】

【0076】
式中、Rは、それぞれ独立に、炭化水素基、例えばポリオレフィン誘導基である。通常は、炭化水素基はアルキル基、例えばポリイソブチル基である。別の表現では、Rの基は約40乃至約500の炭素原子を含むことができ、そしてこれらの原子は脂肪族の状態で存在することができる。Rはアルキレン基、普通はエチレン(C)基である。コハク酸イミド分散剤の例は、例えば、米国特許第3172892号、同第4234435号および同第6165235号の各明細書に記載されているものを含む。
【0077】
置換基を誘導するポリアルケンは、一般に2乃至約16の炭素原子、そして通常は2乃至6の炭素原子の重合性オレフィンモノマーのホモポリマーおよび共重合体である。コハク酸アシル化剤と反応してカルボン酸系分散剤組成物を形成するアミンは、モノアミンもしくはポリアミンのいずれでもよい。
【0078】
コハク酸イミド分散剤は、それらが通常は主にイミドとして機能する状態の窒素を含むため、そのように呼ばれるが、アミドとして機能するアミン塩、アミド、イミダゾリン、並びにそれらの混合物の状態であってもよい。コハク酸イミド分散剤を製造するため、一種以上のコハク酸−生成化合物と一種以上のアミンとは、任意に実質的に不活性な有機液状溶媒/希釈剤の存在下、加熱され、そして通常は水が除去される。反応温度は、約80℃乃至混合物もしくは生成物の分解温度(通常は約100℃乃至約300℃の範囲に入る)にすることができる。本発明のコハク酸イミド分散剤の製造方法について、その他の詳細および例は、例えば、米国特許第3172892号、同第3219666号、同第3272746号、同第4234435号、同第6165235号、および同第6440905号の各明細書に記載されているものを含む。
【0079】
適切な無灰分散剤は、アミン分散剤も含む。アミン分散剤は、比較的高分子量の脂肪族ハロゲン化物とアミン、好ましくはポリアルキレンポリアミンとの反応生成物である。そのようなアミン分散剤の例は、例えば、米国特許第3275554号、同第3438757号、同第3454555号、および同第3565804号の各明細書に記載されているものを含む。
【0080】
適切な無灰分散剤は、さらに「マンニッヒ分散剤」も含む。マンニッヒ分散剤は、アルキルフェノール(アルキル基は少なくとも約30の炭素原子を含む)とアルデヒド(特にホルムアルデヒド)およびアミン(特にポリアルキレンポリアミン)との反応生成物である。そのような分散剤の例は、例えば、米国特許第3036003号、同第3586629号、同第3591598号、および同第3980569号の各明細書に記載されているものを含む。
【0081】
適切な無灰分散剤は、後処理されたコハク酸イミド(例、ボレートもしくはエチレンカーボネート、例えば米国特許第4612132号および同第4746446号の各明細書に開示されているものを用いる後処理法;等、並びに他の後処理法)のような後処理された無灰分散剤であってもよい。カーボネート処理されたアルケニルコハク酸イミドは、約450乃至約3000、好ましくは約900乃至約2500、さらに好ましくは約1300乃至約2400、そして最も好ましくは約2000乃至約2400の分子量を有するポリブテン、並びにこれらの分子量の混合物から誘導されるポリブテンコハク酸イミドである。例えば米国特許第5716912号明細書(その記載は参照のため本明細書の記載とする)に開示されているように、反応性条件下で、ポリブテンコハク酸誘導体、不飽和酸性試薬とオレフィンとの不飽和酸性試薬共重合体、およびポリアミンの混合物を反応させることにより製造することが好ましい。
【0082】
適切な無灰分散剤は、重合体であってもよい。重合体は、油溶性モノマー、例えばデシルメタクリレート、ビニルデシルエーテルおよび高分子量オレフィンと、極性置換基を含むモノマーとの共重合体である。重合体分散剤の例は、例えば、米国特許第3329658号;同第3449250号および同第3666730号の各明細書に記載されているものを含む。
【0083】
本発明の好ましい態様の一つでは、潤滑油組成物で使用する無灰分散剤は、約700乃至約2300の数平均分子量を有するポリイソブテニル基から誘導されるビス−コハク酸イミドである。本発明の潤滑油組成物で使用する分散剤は、好ましくは非重合体(例えば、モノ−もしくはビス−コハク酸イミド)である。
【0084】
一般に、一種以上の無灰分散剤は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約10質量%の範囲の量で潤滑油組成物中に存在する。
【0085】
耐摩耗性添加剤の代表的な例は、これらに限定されるものではないが、ジアルキルジチオリン酸亜鉛およびジアリールジチオリン酸亜鉛、例えば「様々な潤滑の機構において幾つかのジアルキル−およびジアリール−ジチオリン酸金属の化学構造と効果との関係」との表題のボーン外の文献、潤滑の科学、4−2、1992年1月において公表、例えば97〜100頁参照に記載のもの;アリールリン酸および亜リン酸、硫黄含有エステル、リン硫黄化合物、金属もしくは灰を含有しないジチオカルバメート、キサンテート、硫化アルキル等およびそれらの混合物を含む。
【0086】
金属清浄剤の代表的な例は、スルホネート、アルキルフェネート、硫化アルキルフェネート、カルボキシレート、サリチレート、ホスホネート、およびホスフィネートを含む。商業的な製品は、一般に中性もしくは過塩基性とされる。過塩基性金属清浄剤は一般に、炭化水素、清浄剤の酸、例えば:スルホン酸、アルキルフェノール、カルボキシレート等、金属酸化物もしくは水酸化物(例えば、カルシウム酸化物もしくはカルシウム水酸化物)と、促進剤、例えばキシレン、メタノールおよび水との混合物を炭酸塩化することによって製造される。例えば、炭酸塩化による過塩基性カルシウムスルホネートの製造においては、カルシウム酸化物もしくは水酸化物を二酸化炭素ガスと反応させ、カルシウムカーボネートが製造される。スルホン酸は過剰量のCaOもしくはCa(OH)で中和され、スルホネートが製造される。
【0087】
金属含有もしくは灰形成清浄剤は、堆積物を削減もしくは除去する清浄剤と酸中和剤もしくはさび止め剤との双方として機能し、それにより摩耗および腐食を減少させ、さらにエンジンの寿命を延ばす。清浄剤は、一般に長い疎水性尾部を伴う極性の頭部からなる。極性の頭部は、酸性有機化合物の金属塩を含む。塩は、実質的に化学量論的な量の金属を含むことができ、そのような場合、それらは通常は通常もしくは中性の塩として記述され、そして、通常は0乃至約80の全塩基価(TBN、ASTM D2896で測定できる)を有する。多量の金属塩基は、過剰量の金属化合物(例、酸化物もしくは水酸化物)を酸性ガス(例、二酸化炭素)と反応させることにより導入できる。結果として得られる過塩基性清浄剤は、金属塩基(例、カーボネート)ミセルの外層として中和清浄剤を含む。そのような過塩基性清浄剤は、約150以上のTBNを有することができ、そして通常は約250乃至約450以上のTBNを有する。
【0088】
使用できる清浄剤は、金属、特にアルカリもしくはアルカリ土類金属、例えば、バリウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、およびマグネシウムの油溶性かつ中性および過塩基性スルホネート、フェネート、硫化フェネート、チオホスホネート、サリチレート、およびナフテネートおよび他の油溶性カルボキシレートを含む。最も一般に使用される金属は、カルシウムおよびマグネシウムであって、潤滑剤中で使用する清浄剤と、カルシウムおよび/またはマグネシウムとナトリウムとの混合物との双方に存在できる。特に都合の良い金属清浄剤は、TBNが約20乃至約450の中性および過塩基性カルシウムスルホネート、TBNが約50乃至約450の中性および過塩基性カルシウムフェネートおよび硫化フェネート、およびTBNが約20乃至約450の中性および過塩基性マグネシウムもしくはカルシウムサリチレートである。清浄剤の混合物は、過塩基性もしくは中性あるいはそれらの双方のいずれの場合でも使用できる。
【0089】
ある態様では、清浄剤は一種以上のアルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボン酸のアルカリもしくはアルカリ土類金属塩であってもよい。適切なヒドロキシ芳香族化合物は、1乃至4、そして好ましくは1乃至3のヒドロキシル基を有する単環モノヒドロキシおよびポリヒドロキシ芳香族炭化水素を含む。適切なヒドロキシ芳香族化合物は、フェノール、カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロガロール、クレゾール等を含む。好ましいヒドロキシ芳香族化合物はフェノールである。
【0090】
アルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボン酸のアルカリもしくはアルカリ土類金属塩のアルキル置換部分は、約10乃至約80の炭素原子を有するアルファオレフィンから誘導される。使用するオレフィンは、鎖状、異性化した鎖状、分岐したもしくは部分的に分岐した鎖状のいずれでもよい。オレフィンは、鎖状オレフィンの混合物、異性化した鎖状オレフィンの混合物、分岐したオレフィンの混合物、部分的に分岐した鎖状の混合物もしくは上記の何れかの混合物であってもよい。
【0091】
ある態様では、使用できる鎖状オレフィンの混合物は、分子当たり約12乃至約30の炭素原子を有するオレフィンから選ばれる直鎖状アルファオレフィンの混合物である。ある態様では、直鎖状アルファオレフィンは、少なくとも一つの固体もしくは液体触媒を用いて異性化されている。
【0092】
他の態様では、オレフィンは、約20乃至約80の炭素原子を有する分岐したオレフィン性プロピレンオリゴマーもしくはそれらの混合物、すなわち、プロピレンの重合により誘導される分岐した鎖状オレフィンであってもよい。オレフィンは、他の官能基、例えばヒドロキシ基、カルボン酸基、ヘテロ原子等により置換されていてもよい。ある態様では、分岐したオレフィン性プロピレンオリゴマーもしくはそれらの混合物は、約20乃至約60の炭素原子を有する。ある態様では、分岐したオレフィン性プロピレンオリゴマーもしくはそれらの混合物は、約20乃至約40の炭素原子を有する。
【0093】
ある態様では、アルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボン酸のアルカリもしくはアルカリ土類金属塩に含まれるアルキル基、例えばアルキル置換ヒドロキシ安息香酸清浄剤のアルカリ土類金属塩のアルキル基は、少なくとも約75モル%(例えば、少なくとも約80モル%、少なくとも約85モル%、少なくとも約90モル%、少なくとも約95モル%、もしくは少なくとも約99モル%)が、C20以上である。他の態様では、アルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボン酸のアルカリもしくはアルカリ土類金属塩は、アルキル置換ヒドロキシ安息香酸から誘導されるアルキル置換ヒドロキシ安息香酸のアルカリもしくはアルカリ土類金属塩であって、アルキル置換ヒドロキシ安息香酸におけるアルキル基は、少なくとも75モル%のC20以上直鎖アルファ−オレフィンを含む直鎖状アルファ−オレフィンの残基である。
【0094】
他の態様では、アルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボン酸のアルカリもしくはアルカリ土類金属塩に含まれるアルキル基、例えばアルキル置換ヒドロキシ安息香酸のアルカリもしくはアルカリ土類金属塩のアルキル基は、少なくとも約50モル%(例えば、少なくとも約60モル%、少なくとも約70モル%、少なくとも約80モル%、少なくとも約85モル%、少なくとも約90モル%、少なくとも約95モル%、もしくは少なくとも約99モル%)は、約C14乃至約C18である。
【0095】
結果として得られるアルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボン酸のアルカリもしくはアルカリ土類金属塩は、オルトおよびパラ異性体の混合物である。ある態様では、生成物は約1乃至99%のオルト異性体と99乃至1%のパラ異性体とを含む。他の態様では、生成物は約5乃至70%のオルトおよび95乃至30%のパラ異性体を含む。
【0096】
アルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボン酸のアルカリもしくはアルカリ土類金属塩は、中性もしくは過塩基性であってもよい。一般に、アルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボン酸の過塩基性アルカリもしくはアルカリ土類金属塩では、アルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボン酸のアルカリもしくはアルカリ土類金属塩のBNが処理、例えば塩基源(例、生石灰)および酸性過塩基化化合物(例、二酸化炭素)の添加によって増加する。
【0097】
過塩基性塩は、低過塩基性、例えば、約100未満のBNを有する過塩基性塩であってもよい。ある態様では、低過塩基性塩のBNは約5乃至約50であってもよい。他の態様では、低過塩基性塩のBNは約10乃至約30であってもよい。さらに別の態様では、低過塩基性塩のBNは約15乃至約20であってもよい。
【0098】
過塩基性清浄剤は、中過塩基性、例えば、約100乃至約250のBNを有する過塩基性塩であってもよい。ある態様では、中過塩基性塩のBNは約100乃至約200であってもよい。他の態様では、中過塩基性塩のBNは約125乃至約175であってもよい。
【0099】
過塩基性清浄剤は、高過塩基性、例えば、約250を超えるBNを有する過塩基性塩であってもよい。ある態様では、高過塩基性塩のBNは約250乃至約450であってもよい。
【0100】
スルホネートはスルホン酸から製造できる。スルホン酸は、通常はアルキル置換芳香族炭化水素、例えば石油の精留もしくは芳香族炭化水素のアルキル化で得られるものをスルホン化することにより得られる。例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、ジフェニルもしくはそれらのハロゲン誘導体をアルキル化することにより得られるもの含む。アルキル化は触媒の存在下、約3乃至70を超える炭素原子を有するアルキル化剤を用いて実施できる。アルカリールスルホネートは通常は、アルキル置換芳香族部分当たり約9乃至約80以上の炭素原子、好ましくは約16乃至約60の炭素原子を含む。
【0101】
油溶性スルホネートもしくはアルカリールスルホン酸は、金属の酸化物、水酸化物、アルコキシド、カーボネート、カルボキシレート、硫化物、水硫化物、硝酸化物、ホウ酸化物およびエーテルにより中和されていてもよい。金属化合物の量は、最終生成物が必要とするTBNに応じて選択されるが、通常は化学量論的な必要量に対して約100乃至約220質量%(好ましくは少なくとも約125質量%)の範囲である。
【0102】
フェノールおよび硫化フェノールの金属塩は、適切な金属化合物、例えば酸化物もしくは水酸化物との反応により製造され、中性もしくは過塩基性生成物は良く知られている方法により得ることができる。硫化フェノールは、フェノールを硫黄もしくは硫黄含有化合物、例えば硫化水素、モノハロゲン化硫黄もしくはジハロゲン化硫黄と反応させることにより生成され、その生成物は、一般に、2つ以上のフェノールが硫黄含有連結基により架橋されている化合物の混合物である。
【0103】
一般に、清浄剤はトランクピストンエンジン用潤滑油組成物中に、トランクピストンエンジン用潤滑油組成物の全質量に基づき約1質量%乃至約15質量%の量で存在する。
【0104】
さび止め剤の代表的な例は、これらに限定されるものではないが、非イオン性ポリオキシアルキレン界面活性剤、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、およびポリエチレングリコールモノオレエート;ステアリン酸および他の脂肪酸;ジカルボン酸;金属石鹸;脂肪酸アミン塩;重質スルホン酸の金属塩;多価アルコールの部分カルボン酸エステル;リン酸エステル;(短鎖)アルケニルコハク酸;それらの部分エステルおよびそれらの窒素含有誘導体;合成アルカリールスルホネート、例えば、金属ジノニルナフタレンスルホネート;等およびそれらの混合物を含む。
【0105】
摩擦緩和剤の代表的な例は、これらに限定されるものではないが、アルコキシル化脂肪族アミン;ホウ酸化脂肪族エポキシド;脂肪族ホスファイト、脂肪族エポキシド、脂肪族アミン、ホウ酸化アルコキシル化脂肪族アミン、脂肪酸の金属塩、脂肪酸アミド、グリセロールエステル、ホウ酸化グリセロールエステル;および米国特許第6372696号明細書に開示されている脂肪族イミダゾリン、その開示内容も参照のため本明細書の記載とする;C乃至C75、好ましくはC乃至C24、最も好ましくはC乃至C20の脂肪酸エステルと、アンモニアおよびアルカノールアミンからなる群より選ばれた窒素含有化合物との反応生成物から得られた摩擦緩和剤等およびそれらの混合物を含む。
【0106】
消泡剤の代表的な例は、これらに限定されるものではないが、アルキルメタクリレートの重合体;ジメチルシリコーンの重合体等;およびそれらの混合物を含む。
【0107】
流動点降下剤の代表的な例は、これらに限定されるものではないが、ポリメタクリレート、アルキルアクリレート重合体、アルキルメタクリレート重合体、ジ(テトラ−パラフィンフェノール)フタレート、テトラ−パラフィンフェノールの縮合物、塩素化パラフィンとナフタレンとの縮合物、およびそれらの混合物を含む。ある態様では、流動点降下剤はエチレン−ビニルアセテート共重合体、塩素化パラフィンとフェノールとの縮合物、ポリアルキルスチレン等およびそれらの混合物を含む。流動点降下剤の量は、約0.01質量%乃至約10質量%の範囲で変更することができる。
【0108】
抗乳化剤の代表的な例は、これらに限定されるものではないが、アニオン性界面活性剤(例、アルキル−ナフタレンスルホネート、アルキルベンゼンスルホネート等)、非イオン性アルコキシル化アルキルフェノール樹脂、アルキレンオキシドの重合体(例、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等のブロック共重合体)、油溶性酸のエステル、ポリオキシエチレンのソルビタンエステル等およびそれらの混合物を含む。抗乳化剤の量は、約0.01質量%乃至約10質量%の範囲で変更することができる。
【0109】
腐食防止剤の代表的な例は、これらに限定されるものではないが、ドデシルコハク酸、リン酸エステル、チオホスフェート、アルキルイミダゾリン、サルコシン等の半エステルもしくはアミドおよびそれらの混合物を含む。腐食防止剤の量は、約0.01質量%乃至約5質量%の範囲で変更することができる。
【0110】
極圧剤の代表的な例は、これらに限定されるものではないが、硫化した動物もしくは植物の脂肪もしくは油、硫化した動物もしくは植物の脂肪酸エステル、完全にもしくは部分的にエステル化したリンの3価もしくは5価の酸のエステル、硫化オレフィン、ジ炭化水素ポリスルフィド、硫化したディールス−アルダー付加物、硫化ジシクロペンタジエン、脂肪酸エステルおよびモノ不飽和オレフィンの硫化もしくは共硫化混合物、脂肪酸の共硫化混合物、脂肪酸エステルおよびアルファ−オレフィン、官能基置換ジ炭化水素ポリスルフィド、チアアルデヒド、チアケトン、エピチオ化合物、硫黄−含有アセタール誘導体、テルペンおよび非環状オレフィンの共硫化混合物、およびポリスルフィドオレフィン生成物、リン酸エステルもしくはチオリン酸エステルのアミン塩等およびそれらの混合物を含む。極圧剤の量は、約0.01質量%乃至約5質量%の範囲で変更することができる。
【0111】
以上述べた添加剤を使用する場合は、潤滑剤に望ましい性質を与えるため機能的に有効な量でそれぞれを使用する。すなわち、例えば、添加剤が摩擦緩和剤である場合、この摩擦緩和剤の機能的な有効量は、必要とする摩擦機能を潤滑剤に付与するために充分な量である。一般に、これらの添加剤それぞれを使用する際の濃度は、別に特定する場合を除き、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.001%乃至約20質量%、そしてある態様では約0.01%乃至約10質量%の範囲である。
【0112】
必要ならば、トランクピストンエンジン潤滑油添加剤は、添加剤パッケージもしくは濃縮物として提供でき、その中の添加剤は、実質的に不活性な通常は液体の有機希釈剤、そのような例としては、鉱物油、ナフサ、ベンゼン、トルエンもしくはキシレン、に加えて、添加剤濃縮物を形成する。これらの濃縮物は、通常はそのような希釈剤を約20%乃至約80質量%含む。通常は100℃において約4乃至約8.5cStの粘度、そして好ましくは100℃において約4乃至約6cStの粘度を有する中性油を希釈剤として用いるが、添加剤および最終潤滑油と相溶性がある合成油並びに他の有機液体も用いることができる。添加剤パッケージは、通常は上記のような一種以上の様々な添加剤を必要とされる量かつ(a)比較的多量の、飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含有する基材油;および(b)比較的少量の(i)エステル基材油、ただしエステル基材油は潤滑油組成物の全質量に基づき10質量%より多い量で存在する、(ii)アルキル芳香族基材油、および(iii)少なくとも50質量%の芳香族含量を有する基材油、ただし少なくとも50質量%の芳香族含量を有する基材油は芳香族抽出物ではない、からなる群より選ばれる基材油の必要な量と直接的に組み合わせることを可能にする比率で含有する。
【0113】
本発明のトランクピストンエンジン用潤滑油組成物は、エンジン速度が毎分約200乃至約2000回転(rpm)、例えば約400乃至約1000rpmで、シリンダ当りの制動馬力(BHP)が約50乃至約5000、好ましくは約100乃至約3000、最も好ましくは約100乃至約2000である四ストローク・トランクピストンエンジンに使用するのに適していると言える。補助発電用途や陸上発電用途で用いられるエンジンにも適している。
【0114】
以下の限定的ではない実施例により、本発明を説明する。
【実施例】
【0115】
[実施例1〜5、および比較例A〜C]
トランクピストンエンジン用潤滑油組成物を、下記の第1表に示すように製造した。各トランクピストンエンジン用潤滑油組成物は、SAE40粘度グレードで、TBNが40mgKOH/gであった。実施例1〜5(本発明の範囲内)のトランクピストンエンジン用潤滑油組成物は、II種基油と(i)エステル基油30質量%、(ii)アルキル芳香族基油もしくは(iii)少なくとも50質量%の芳香族含量を有する基油との組合せで配合したが、一方、比較例A−C(本発明の範囲外)のトランクピストンエンジン用潤滑油組成物は、次のように配合した:I種基油のみ(比較例A)、II種基油のみ(比較例B)、およびII種基油とエステル基油10質量%との組合せ(比較例C)。
【0116】
実施例1〜5および比較例A−Cのトランクピストンエンジン用潤滑油組成物について、黒スラッジ堆積物(BSD)試験にて黒スラッジ生成量の試験を行った。BSD試験では、試験油の試料を7.5質量%重油と混ぜ合わせて試験混合物とした。各試験混合物を規定時間、ポンプで熱した試験板にかけた。試験板を冷却してすすいだ後、乾燥して計量した。各試験鋼板の重さを求め、そして試験鋼板に残った堆積物の重さを、試験鋼板の重さの変化として測定して記録した。下記の第1表に、BSD試験の結果を示す。
【0117】
【表1】

【0118】
データが示すように、II種基材油とエステル基油30質量%(実施例1)、もしくはアルキル化芳香族基材油(実施例2および3)あるいは少なくとも50質量%の芳香族含量を有する基材油(実施例4および5)との組合せを含むトランクピストンエンジン用潤滑油組成物は、II種基材油のみを含むトランクピストンエンジン用潤滑油組成物(比較例B)よりも少ない黒スラッジ堆積を示し、I種基材油のみを含むトランクピストンエンジン用潤滑油組成物(比較例A)と同程度の黒スラッジ堆積を示した。II種基材油のみを含むトランクピストンエンジン用潤滑油組成物(比較例B)およびII種基材油とエステル基材油10質量%との組合せを含むトランクピストンエンジン用潤滑油組成物(比較例C)は、実施例1〜5のトランクピストンエンジン用潤滑油組成物と比較して、顕著な黒スラッジ堆積物生成を示した。
【0119】
本明細書に開示した態様には様々な変更を成しうることを理解されたい。従って、上記の説明は、限定的なものではなくて、単に好ましい態様の例示であると解釈すべきである。例えば、上述した本発明を実施する最良の形態として遂行した機能は、説明のためでしかない。当該分野の熟練者であれば、本発明の範囲及び真意から逸脱することなく、その他の配合や方法を遂行することができよう。また、当該分野の熟練者であれば、本出願に添付した特許請求の範囲の真意及び範囲内で、他の変更を考慮するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分を含むトランクピストンエンジン用潤滑油組成物:
(a)主要量の、飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含有する基材油;および
(b)(i)エステル基材油、ただし該エステル基材油は潤滑油組成物の全質量に基づき10質量%より多く約45質量%以下の量で存在する、(ii)アルキル化芳香族基材油、(iii)少なくとも約50質量%の芳香族含量を有する基材油、ただしこの少なくとも約50質量%の芳香族含量を有する基材油は芳香族抽出物ではない、およびそれらの混合物からなる群より選ばれる基材油。
【請求項2】
飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含有する基材油が、II種基材油、III種基材油、もしくはフィッシャー−トロプシュ法で合成したろう質のパラフィン系炭化水素物質から誘導された基材油のうちの少なくとも一種を含む請求項1に従うトランクピストンエンジン用潤滑油組成物。
【請求項3】
飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含有する基材油がII種基材油の少なくとも一種を含む請求項1に従うトランクピストンエンジン用潤滑油組成物。
【請求項4】
I種基材油を実質的に含まない請求項1乃至3のいずれか1項に従うトランクピストンエンジン用潤滑油組成物。
【請求項5】
基材油(b)がエステル基材油である請求項1乃至4のいずれか1項に従うトランクピストンエンジン用潤滑油組成物。
【請求項6】
基材油(b)がエステル基材油であり、該エステル基材油が100℃において約2乃至約10cStの動粘度を有する請求項1乃至4のいずれか1項に従うトランクピストンエンジン用潤滑油組成物。
【請求項7】
該エステル基材油がポリオールエステル基材油である請求項5に従うトランクピストンエンジン用潤滑油組成物。
【請求項8】
基材油(b)がアルキル化芳香族基材油である請求項1乃至4のいずれか1項に従うトランクピストンエンジン用潤滑油組成物。
【請求項9】
アルキル化芳香族基材油がアルキル化縮合および/または多縮合芳香族基材油である請求項8に従うトランクピストンエンジン用潤滑油組成物。
【請求項10】
アルキル化芳香族基材油がアルキル化ナフタレンである請求項8に従うトランクピストンエンジン用潤滑油組成物。
【請求項11】
基材油(b)が少なくとも約50質量%の芳香族含量を有する基材油である請求項1乃至4のいずれか1項に従うトランクピストンエンジン用潤滑油組成物。
【請求項12】
該少なくとも約50質量%の芳香族含量を有する基材油が約60質量%乃至約70質量%の芳香族含量を有する基材油である請求項11に従うトランクピストンエンジン用潤滑油組成物。
【請求項13】
さらに、酸化防止剤、耐摩耗性添加剤、清浄剤、さび止め剤、曇り除去剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、摩擦緩和剤、流動点降下剤、消泡剤、補助溶媒、パッケージ混合剤、腐食防止剤、無灰分散剤、染料、極圧剤、およびそれらの混合物からなる群より選ばれる一種以上のトランクピストンエンジン用潤滑油組成物添加剤を含む請求項1乃至12のいずれか1項に従うトランクピストンエンジン用潤滑油組成物。
【請求項14】
トランクピストンエンジンを作動させる方法であって、請求項1乃至13のいずれか1項に従うトランクピストンエンジン用潤滑油組成物を用いて、トランクピストンエンジンを潤滑にすることを含む方法。
【請求項15】
飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含有する基材油を主要量で含むトランクピストンエンジン用潤滑油組成物の重油相溶性を改善する方法であって、トランクピストンエンジン用潤滑油組成物に、(i)エステル基材油、ただしエステル基材油は潤滑油組成物の全質量に基づき10質量%より多く約45質量%以下の量で存在する、(ii)アルキル化芳香族基材油、(iii)少なくとも約50質量%の芳香族含量を有する基材油、ただし少なくとも約50質量%の芳香族含量を有する基材油は芳香族抽出物ではない、およびそれらの混合物からなる群より選ばれる基材油を加えることを含む方法。

【公開番号】特開2012−12600(P2012−12600A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−142493(P2011−142493)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(501381217)シェブロン・オロナイト・テクノロジー・ビー.ブイ. (11)
【Fターム(参考)】