説明

トランジスタおよびその製造方法、並びに表示装置

【課題】良好な特性を有するトランジスタおよびその製造方法、並びにそのトランジスタを備えた表示装置を提供する
【解決手段】制御電極と、制御電極に対向する能動層と、能動層に電気的に接続された第1電極および第2電極と、制御電極と第1電極および第2電極との間に設けられ、ジアリルイソフタレート樹脂を含有する絶縁層とを備えたトランジスタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、低温での製造に好適なトランジスタおよびその製造方法、並びに表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの電子機器では、電界効果型トランジスタ(Field Effect Transistor;FET)として、薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor;TFT)が用いられている。薄膜トランジスタは、基板上にゲート電極,ゲート絶縁層,半導体層,ソース電極およびドレイン電極が設けられたものである。このうち、ゲート電極の配置によりトップゲート型とボトムゲート型との2つの構造に大別される。また、ソース電極と
ドレイン電極の配置によりトップコンタクトとボトムコンタクトに分類される。
【0003】
例えば、トップゲート型TFT構造は、基板側から半導体層、ゲート絶縁層、ゲート電極およびソース・ドレイン電極をこの順に有し、ボトムゲート型TFT構造は、基板側からゲート電極、ゲート絶縁層、半導体層およびソース・ドレイン電極をこの順に有している。現在、このようなTFTでは、半導体層としてシリコン(Si)などの無機物がよく使用されている。しかし、無機物の半導体層を形成するためには、高価で大がかりな装置を必要とするため、よりコストを抑え、かつ、簡便な方法で作製可能なTFTを開発することが望まれている。
【0004】
このようなコストを抑えたTFTの一つとして、半導体層に有機半導体材料を用いたものの開発が精力的に進められている。この有機半導体材料は有機溶剤に溶解させて塗布した後、有機溶剤を乾燥させることで半導体層が形成できる。このため、従来のアモルファスシリコン等の無機半導体層の形成工程と比較すると、非常に低温で製造することが可能である。有機半導体は、インク化することが可能であり、例えば印刷法等の塗布成膜法により、低温、かつ簡易な製造工程で形成することができ、低コストでの製造が可能となる(例えば、特許文献1)。これにより、従来から用いている耐熱性のシリコン基板やガラス基板に代えて、安価なプラスチックフィルムなどを用いることが可能となり、フレキシブルなデバイスを作製することができる。
【0005】
また、有機半導体材料の構成分子設計をすることで、その物性や性能を制御することもできる。更に、有機半導体層は無機半導体層よりも軽く、かつ可撓性を有している。このような有機半導体は、低コスト、高性能、可撓性および軽量化を実現可能なため、上記TFT(FET)の他、有機発光素子、有機太陽電池等の有機エレクトロニクスデバイスでの使用も期待されている。
【0006】
ところで、有機半導体層を用いたTFTでは、半導体層以外の層の形成も低温で行うことが検討されている。具体的に、電極類は金属を用いることが好ましく、例えば銀のナノ粒子を有機溶剤に分散させインク化したものを低温(例えば、約150℃)で焼結させて導電性が得られるように設計している。また、ゲート絶縁層等は、無機半導体層のTFTで用いられる酸化シリコン(SiO2)等の無機材料ではなく、高分子有機材料を溶媒に溶解させて塗布成膜したものが用いられている。このようなゲート絶縁層等は、有機半導体の可撓性を損なわず、また低温での製造工程により形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2003/016599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、高分子材料の性質は種類によって大きく異なるため、これを絶縁層に用いるためにはTFTの特性が向上するように高分子材料を選択することが重要となる。特に、ゲート絶縁膜に高分子材料を用いる場合には、半導体層と直接接触するため、精査が必要である。TFTの特性は、例えば高分子材料の耐熱性、製造工程で使用する有機溶剤に対する耐性および吸湿性等が要因となって変化する。絶縁層として、絶縁性の高いポリビニルフェノール(PVP)樹脂やエポキシ樹脂、あるいはフォトレジスト材料等が好んで用いられているが、未だ得られるTFT特性は不十分であり、より絶縁層に適した高分子材料が望まれている。
【0009】
本技術はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、絶縁層に適した材料を用いることにより、その特性を向上させたトランジスタおよびその製造方法、並びに表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本技術によるトランジスタは、制御電極と、制御電極に対向する能動層と、能動層に電気的に接続された第1電極および第2電極と、制御電極と能動層との間に設けられ、ジアリルイソフタレート樹脂を含有する絶縁層とを備えたものである。
【0011】
本技術によるトランジスタの製造方法は上記トランジスタを製造する方法であり、本技術の表示装置は上記トランジスタを備えたものである。
【0012】
本技術のトランジスタ,トランジスタの製造方法または表示装置では、絶縁層がジアリルイソフタレート樹脂を含有しており、この絶縁層は、耐熱性、低吸湿性および表面のぬれ性の点で優れた性質を示す。
【発明の効果】
【0013】
本技術のトランジスタ、トランジスタの製造方法、並びに表示装置によれば、絶縁層がジアリルイソフタレート樹脂を含有するようにしたので、その特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本開示の一実施の形態に係る有機TFTの構造を表す断面図である。
【図2】適用例1に係る表示装置の回路構成を表す図である。
【図3】図2に示した画素駆動回路の一例を表す等価回路図である。
【図4】適用例2の外観を表す斜視図である。
【図5】適用例3の外観を表す斜視図である。
【図6】(A)は適用例4の表側から見た外観を表す斜視図、(B)は裏側から見た外観を表す斜視図である。
【図7】適用例5の外観を表す斜視図である。
【図8】適用例6の外観を表す斜視図である。
【図9】(A)は適用例7の開いた状態の正面図、(B)はその側面図、(C)は閉じた状態の正面図、(D)は左側面図、(E)は右側面図、(F)は上面図、(G)は下面図である。
【図10】図1に示した有機TFTの変形例に係る構造を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本技術の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明
は以下の順序で行う。
1.実施の形態(絶縁層にジアリルイソフタレート樹脂を含む例)
2.適用例
3.実施例
【0016】
<実施の形態>
図1は、本開示の一実施の形態に係る有機薄膜トランジスタ(有機TFT1)の断面構成を表したものである。有機TFT1は、電界効果型のトランジスタであり、液晶,有機ELおよび電気泳動型の表示体を用いたディスプレイの駆動素子として用いられるものである。この有機TFT1は、トップコンタクト・ボトムゲート型構造のTFTであり、基板11上にゲート電極12(制御電極)、ゲート絶縁層13(絶縁層)、有機半導体層14(能動層)およびソース・ドレイン電極15A,15B(第1電極および第2電極)をこの順に有している。
【0017】
基板11は、ガラス基板,石英基板またはプラスチックフィルムなどにより構成されている。プラスチック材料としては、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PI(ポリイミド)、PAR(ポリアリレート)、PES(ポリエチレンスルフィド)あるいはPPS(ポリフェニレンスルフィド)などを用いることができる。
【0018】
ゲート電極12は、有機TFT1にゲート電圧を印加し、このゲート電圧により有機半導体層14中のキャリア密度を制御する役割を有するものである。ゲート電極12は基板11上の選択的な領域に設けられ、例えば白金(Pt),チタン(Ti),ルテニウム(Ru),モリブデン(Mo),銅(Cu),タングステン(W),クロム(Cr),ニッケル(Ni),アルミニウム(Al)およびタンタル(Ta)等の金属単体または合金により構成されている。ゲート電極12には、この他の無機導電材料、または有機導電材料、更には炭素材料を使用してもよい。ゲート電極12と同層にはゲート電極用配線(図示せず)が設けられている。
【0019】
ゲート絶縁層13は、ゲート電極12とソース・ドレイン電極15A,15Bに電気的に接続された有機半導体層14とを絶縁するため、ゲート電極11と有機半導体層14との間に設けられている。本実施の形態では、このゲート絶縁層13が、ジアリルイソフタレート樹脂を含有している。これにより、有機TFT1のTFT特性が向上する。
【0020】
ゲート絶縁層13中でのジアリルイソフタレート樹脂の含有量は、例えば、50%以上(重量比)、好ましくは75%以上である。ゲート絶縁層13がジアリルイソフタレート樹脂のみにより構成されていてもよい。ジアリルイソフタレート樹脂が100%使用された硬化膜の耐熱温度は高く、約250℃である。有機TFT作製のための一般的なプロセス温度(製造工程温度)が150〜160℃、高くても180℃程度であるため、この耐熱温度は充分高い温度であるといえる。また、ゲート絶縁層13中にジアリルイソフタレート樹脂以外の樹脂が添加されていても(添加樹脂)、ジアリルイソフタレート樹脂の含有量が50%以上であれば、その効果が明確に発揮される。例えば、添加樹脂の割合が25%であっても約200℃以上の耐熱性が、50%であっても約150℃以上の耐熱性がそれぞれ得られることを確認している。ゲート絶縁層13形成後のプロセス温度に応じて添加樹脂の割合を選択すればよい。
【0021】
添加樹脂としては、ジアリルイソフタレート樹脂と例えば光硬化する官能基を有する樹脂を用いればよく、例えば、2官能アクリレート,多官能アクリレート,2官能メタクリレートおよび多官能メタクリレート等が挙げられる。アクリレート類、メタクリレート類は多品種であるため、選択し易い。例えば、直鎖アルキルジメタクリレートや直鎖アルキルジアクリレート等が好ましく、具体的には、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート,1,9−ノナンジオールジアクリレート,1,10−デカンジオールジアクリレート,トリシクロデカンジメタノールジアクリレート,9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン,ヘキサンジオールジメタクリレート,ノナンジオールジメタクリレートあるいはトリシクロデカンジメタノールジメタクリレート等を用いることが好ましい。
【0022】
アクリレート類、メタクリレート類、更にはアクリル樹脂等を含むフォトレジスト等は単独で硬化皮膜を作製することも可能であるが、このような皮膜は、耐熱性が非常に低く、プロセス温度に適応させることができない。即ち、これらの添加樹脂はジアリルイソフタレート樹脂と混合することにより、耐熱性の高いゲート絶縁層13を形成することができる。一方、ジアリルイソフタレート樹脂に添加樹脂を加えることで、ジアリルイソフタレート樹脂にはない特性、例えば、直鎖アルキルジメタクリレートや直鎖アルキルジアクリレート等が有する柔軟性をゲート絶縁層13に付与することができる。
【0023】
ジアリルイソフタレート樹脂と類似の構造を有するジアリルフタレート樹脂では、その硬化膜の耐熱温度が150℃前後であり、ジアリルイソフタレート樹脂と比較して低い。このジアリルフタレート樹脂の耐熱性の低さは、化学構造上のフタル酸に起因しており、加熱により自身の分子鎖が切断される。これに対し、ジアリルイソフタレート樹脂では、フタル酸構造を取らないため、耐熱性の高い硬化膜が形成される。このように、ゲート絶縁層13が耐熱温度の高いジアリルイソフタレート樹脂を含有することにより、製造工程でのゲート絶縁層13の劣化を抑え、TFT特性の高い有機TFT1を得ることができる。
【0024】
また、ジアリルイソフタレート樹脂は、その硬化皮膜の表面エネルギーが高く、塗布性能(硬化皮膜表面のぬれ性)に優れている。換言すれば、ジアリルイソフタレート樹脂の硬化表面に容易に別の皮膜を形成することができる。この特性により、ゲート絶縁層13上に塗布法により有機半導体層14を形成する場合に、有機半導体層14の膜厚が均一になり、TFT特性のばらつきを抑えることができる。
【0025】
更に、ポリビニルフェノール(PVP)樹脂やエポキシ樹脂では、その構造中に水酸基や極性基が存在し吸湿性が高くなるのに対し、ジアリルイソフタレート樹脂はこのような吸湿性の官能基を有していない。従って、ジアリルイソフタレート樹脂の硬化皮膜の吸湿性は、他の樹脂と比較して低い。デバイス中に水分が存在すると、TFTの閾値電圧等に影響し、また長期的には特性劣化を生じることが確認されている。よって、このような低吸湿性のゲート絶縁層13により有機TFT1の信頼性を向上させることができる。
【0026】
有機半導体層14は、ゲート絶縁層13上にゲート電極12に対向して設けられ、かつソース・ドレイン電極15A,15Bに接している。有機半導体層14は、島状にパターニングされている。有機半導体層14の構成材料は、例えば、ポリチオフェン、ポリチオフェンにヘキシル基を導入したポリ−3−ヘキシルチオフェン[P3HT]、ペンタセン[2,3,6,7−ジベンゾアントラセン]、ポリアントラセン、ナフタセン、ヘキサセン、ヘプタセン、ジベンゾペンタセン、テトラベンゾペンタセン、クリセン、ペリレン、コロネン、テリレン、オバレン、クオテリレン、サーカムアントラセン、ベンゾピレン、ジベンゾピレン、トリフェニレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリジアセチレン、ポリフェニレン、ポリフラン、ポリインドール、ポリビニルカルバゾール、ポリセレノフェン、ポリテルロフェン、ポリイソチアナフテン、ポリカルバゾール、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンビニレン、ポリフエニレンスルフィド、ポリビニレンスルフィド、ポリチエニレンビニレン、ポリナフタレン、ポリピレン、ポリアズレン、銅フタロシアニンで代表されるフタロシアニン、メロシアニン、ヘミシアニン、ポリエチレンジオキシチオフェン、ピリダジン、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸[PEDOT/PSS]、
4,4’−ビフェニルジチオール(BPDT)、4,4’−ジイソシアノビフェニル、4,4’−ジイソシアノ−p−テルフェニル、2,5−ビス(5’−チオアセチル−2’−チオフェニル)チオフェン、2,5−ビス(5’−チオアセトキシル−2’−チオフェニル)チオフェン、4,4’−ジイソシアノフェニル、ベンジジン(ビフェニル−4,4’−ジアミン)、TCNQ(テトラシアノキノジメタン)、テトラチアフルバレン(TTF)−TCNQ錯体、ビスエチレンテトラチアフルバレン(BEDTTTF)−過塩素酸錯体、BEDTTTF−ヨウ素錯体、TCNQ−ヨウ素錯体に代表される電荷移動錯体、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸、1,4−ジ(4−チオフェニルアセチリニル)−2−エチルベンゼン、1,4−ジ(4−イソシアノフェニルアセチリニル)−2−エチルベンゼン、デンドリマー、C60、C70、C76、C78、C84等のフラーレン、1,4−ジ(4−チオフェニルエチニル)−2−エチルベンゼン、2,2”−ジヒドロキシ−1,1’:4’,1”−テルフェニル、4,4’−ビフェニルジエタナール、4,4’−ビフェニルジオール、4,4’−ビフェニルジイソシアネート、1,4−ジアセチニルベンゼン、ジエチルビフェニル−4,4’−ジカルボキシレート、ベンゾ[1,2−c;3,4−c’;5,6−c”]トリス[1,2]ジチオール−1,4,7−トリチオン、アルファ−セキシチオフェン、テトラチオテトラセン、テトラセレノテトラセン、テトラテルルテトラセン、ポリ(3−アルキルチオフェン)、ポリ(3−チオフェン−β−エタンスルホン酸)、ポリ(N−アルキルピロール)ポリ(3−アルキルピロール)、ポリ(3,4−ジアルキルピロール)、ポリ(2,2’−チエニルピロール)、ポリ(ジベンゾチオフェンスルフィド)またはキナクリドン等である。この他、縮合多環芳香族化合物、ポルフィリン系誘導体、フェニルビニリデン系の共役系オリゴマーまたはチオフェン系の共役系オリゴマー等を用いてもよい。
【0027】
ソース・ドレイン電極15A,15Bは、有機半導体層14に電気的に接続され、例えばタングステン,タンタル,モリブデン,アルミニウム,クロム,銅,チタン,ニッケル,ITO(インジウム錫酸化物)またはこれらの合金からなる金属膜の単層膜あるいは2種以上のこれらの金属膜よりなる積層膜により構成されている。ソース・ドレイン電極15A,15Bと同層には、ソース電極用配線およびドレイン電極用配線(図示せず)が設けられている。
【0028】
この有機TFT1は、例えば次のようにして製造することができる。
【0029】
まず、基板11の全面に例えば、真空成膜法,塗布法または鍍金法を用いて、ゲート電極12およびゲート電極用配線となる金属膜を形成する。真空成膜法としては、真空蒸着法、フラッシュ蒸着法、スパッタリング法、物理的気相成長法(Physical Vapor Deposition;PVD)、化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition;CVD)、パルスレーザ堆積法(PLD)またはアーク放電法などを用いることができる。また、塗布法としては、スピンコート法、スリットコート法、バーコート法またはスプレーコート法等、鍍金法としては、電解鍍金法または無電解鍍金法等による成膜が可能である。
【0030】
次いで、基板11に形成した金属膜上に例えば、レジストパターンや金属パターン等のマスクを形成する。マスクは、例えば、塗布によりフォトレジスト膜を形成した後、これをフォトリソグラフィ法,レーザ描画法,電子線描画法またはX線描画法などによりパターニングして形成する。金属パターンのマスクを使用する場合は、例えばレーザアブレーション法,マスク蒸着法またはレーザ転写法を用いる。続いて、このマスクを用いてドライエッチングまたはエッチャント溶液によるウェットエッチングを行って金属膜をパターニングした後、アッシング法またはエッチング法によりマスクを除去してゲート電極12およびゲート電極用配線を形成する。ドライエッチングとして、例えば、イオンミリングまたは反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching;RIE)を行うことが可能である。ゲート電極12およびゲート電極用配線は、上記の方法の他、金(Au)のナノ粒子や銀(Ag)のナノ粒子等を含有するインクを用いたインクジェット法,スクリーン印刷法,グラビア印刷法またはグラビアオフセット印刷法等の印刷法により形成するようにしてもよい。
【0031】
ゲート電極12およびゲート電極用配線を形成した後、これらを覆うようにゲート絶縁層13を成膜する。ゲート絶縁層13の成膜は、ジアリルイソフタレート樹脂を溶媒に溶解させてジアリルイソフタレート樹脂溶液を調製し、これをゲート電極12およびゲート電極用配線上に塗布または印刷した後、硬化(架橋)させることにより行う。ジアリルイソフタレート樹脂は感光性材料であるため、パターニングしてゲート絶縁層13を形成することも可能である。
【0032】
ジアリルイソフタレート樹脂を溶解させる溶媒としては、例えば、トルエンまたはキシレンなどの芳香族、アセトン,シクロペンタノンまたは2−ブタノンなどのケトン類あるいはPGMEA(Propylene Glycol Monomethyl Ether Acetate)などの炭化水素類等を単独で、または混合して使用することが可能である。この他、エチルアルコール、イソプロピルアルコールまたはブチルアルコールなどのアルコール類を使用してもよい。また、ジアリルイソフタレート樹脂溶液には、界面活性剤やレベリング剤などを添加するようにしてもよい。
【0033】
ジアリルイソフタレート樹脂溶液の塗布または印刷は、例えば、キャストコーティング,スピンコーティング,スプレーコーティング,インクジェット印刷,凸版印刷,フレキソ印刷,スクリーン印刷,グラビア印刷またはグラビアオフセット印刷などにより行う。上記の方法の中から、所望の膜厚に応じて適宜選択すればよい。
【0034】
ジアリルイソフタレート樹脂は、例えば、熱,EB(Electron Beam)またはUV(UltraViolet)照射等により硬化させる。ジアリルイソフタレート樹脂に有機過酸化物を含有させると、熱硬化樹脂として取り扱うことができ、ラジカル重合開始剤を含有させると、UV硬化樹脂として取り扱うことができる。有機過酸化物には、例えば、ハイドロパーオキサイドまたはジアルキルパーオキサイド等の一般的によく使用されているものを用いることができる。ラジカル重合開始剤には、例えば、アルキルフェノン系またはアシルフォスフィンオキサイド系等を適宜選択して使用すればよい。
【0035】
光架橋促進剤をジアリルイソフタレート樹脂(溶液)に含有させると、UV等の光の照度を抑えて、または、照射時間を短縮して硬化を行うことができる。光架橋促進剤は、例えば、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オンあるいは1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン等のアルキルフェノン系光重合開始剤や2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドあるいは1.2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(0−ベンゾイルオキシム)]等のアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤等である。
【0036】
しかしながら、このような光架橋促進剤は、皮膜硬化反応後に例えば一部が未反応の状態、あるいは、反応後の残骸としてゲート絶縁層に残留してTFT特性、特にオン/オフ特性に影響を及ぼすことがある。ゲート絶縁層13に、耐熱性の高いジアリルイソフタレート樹脂を用いることにより、光架橋促進剤を含有させずにゲート絶縁層13を形成することも可能となる。光架橋促進剤添加の有無は、例えば、有機半導体層14への影響(特性面への影響)等を確認して決定すればよい。
【0037】
上記のようにしてゲート絶縁層13を成膜した後、有機半導体層14を形成する。有機半導体層14は、まず、上述の有機半導体層14の構成材料を溶媒に溶解(分散)させ、これをゲート絶縁層13上に塗布して加熱(焼成)した後、島状にパターニングして形成する。パターニングは、上記ゲート電極12の形成と同様の方法により行うことができる。
【0038】
続いて、有機半導体層14上に金属膜を成膜し、これをパターニングすることによりソース・ドレイン電極15A,15B、ソース電極用配線およびドレイン電極用配線を形成する。金属膜の成膜およびパターニングの方法は、上記ゲート電極12およびゲート電極用配線と同様である。以上の工程により、有機TFT1が完成する。
【0039】
以上のように、本実施の形態では、ゲート絶縁層13がジアリルイソフタレート樹脂を含有するようにしたので、このゲート絶縁層13が耐熱性、低吸湿性および硬化皮膜表面のぬれ性の点で優れた性質を示し、有機TFT1のTFT特性が向上する。
【0040】
<適用例1>
図2は、上記有機TFT1,2のいずれかを駆動素子として備えた表示装置の回路構成を表すものである。表示装置90は、例えば液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイまたは電気泳動方式に代表される電子ペーパーなどであり、駆動パネル91上の表示領域110に、マトリクス状に配設された複数の画素10と、画素10を駆動するための各種駆動回路とが形成されたものである。駆動パネル91上には、駆動回路として、例えば映像表示用のドライバである信号線駆動回路120および走査線駆動回路130と、画素駆動回路150とが配設されている。この駆動パネル91には、図示しない封止パネルが貼り合わせられ、この封止パネルにより画素10および上記駆動回路が封止されている。
【0041】
図3は、画素駆動回路150の等価回路図である。画素駆動回路150は、上記有機TFT1,2のいずれかとして、トランジスタTr1,Tr2が配設されたアクティブ型の駆動回路である。トランジスタTr1,Tr2の間にはキャパシタCsが設けられ、第1の電源ライン(Vcc)および第2の電源ライン(GND)の間において、画素10がトランジスタTr1に直列に接続されている。このような画素駆動回路150では、列方向に信号線120Aが複数配置され、行方向に走査線130Aが複数配置されている。各信号線120Aは、信号線駆動回路120に接続され、この信号線駆動回路120から信号線120Aを介してトランジスタTr2のソース電極に画像信号が供給されるようになっている。各走査線130Aは走査線駆動回路130に接続され、この走査線駆動回路130から走査線130Aを介してトランジスタTr2のゲート電極に走査信号が順次供給されるようになっている。この表示装置では、トランジスタTr1,Tr2が、上記実施の形態の有機TFTの1,2により構成されているので、このトランジスタTr1,Tr2の良好なTFT特性により、高品質な表示が可能となる。このような表示装置90は、例えば次の適用例2〜7に示した電子機器に搭載することができる。
【0042】
<適用例2>
図4(A)および図4(B)は、電子ブックの外観を表したものである。この電子ブックは、例えば、表示部210、非表示部220および操作部230を有している。操作部230は、図4(A)に示したように表示部210と同じ面(前面)に形成されていても、図4(B)に示したように表示部210とは異なる面(上面)に形成されていてもよい。
【0043】
<適用例3>
図5は、テレビジョン装置の外観を表したものである。このテレビジョン装置は、例えば、フロントパネル310およびフィルターガラス320を含む映像表示画面部300を有している。
【0044】
<適用例4>
図6は、デジタルスチルカメラの外観を表したものである。このデジタルスチルカメラは、例えば、フラッシュ用の発光部410、表示部420、メニュースイッチ430およびシャッターボタン440を有している。
【0045】
<適用例5>
図7は、ノート型パーソナルコンピュータの外観を表したものである。このノート型パーソナルコンピュータは、例えば、本体510,文字等の入力操作のためのキーボード520および画像を表示する表示部530を有している。
【0046】
<適用例6>
図8は、ビデオカメラの外観を表したものである。このビデオカメラは、例えば、本体部610,この本体部610の前方側面に設けられた被写体撮影用のレンズ620,撮影時のスタート/ストップスイッチ630および表示部640を有している。
【0047】
<適用例7>
図9は、携帯電話機の外観を表したものである。この携帯電話機は、例えば、上側筐体710と下側筐体720とを連結部(ヒンジ部)730で連結したものであり、ディスプレイ740,サブディスプレイ750,ピクチャーライト760およびカメラ770を有している。
【実施例】
【0048】
更に、本技術の具体的な実施例について説明する。
【0049】
(実験例1)
まず、ジアリルイソフタレート樹脂をシクロペンタノンに溶解させてジアリルイソフタレート樹脂溶液を調製した。このジアリルイソフタレート樹脂溶液を厚さ(積層方向の厚さ)200nmのゲート電極上に塗布した後、露光装置により照射強度6000mWで硬化させて厚さ600nmのゲート絶縁層を形成した。このゲート絶縁層上に有機半導体層を形成した後、この有機半導体層に接するようにソース・ドレイン電極を形成して有機TFTを作製した。
【0050】
(実験例2)
1,10−デカンジオールジアクリレート5%を添加して(ジアリルイソフタレート樹脂95%)ゲート絶縁層を形成したこと以外は、実験例1と同様にして有機TFTを作製した。
【0051】
(実験例3)
ノナンジオールジメタクリレート25%を添加して(ジアリルイソフタレート樹脂75%)ゲート絶縁層を形成したこと以外は、実験例1と同様にして有機TFTを作製した。
【0052】
(実験例4)
ゲート絶縁層を、ジアリルフタレート樹脂を用いて構成した以外は、実験例1と同様にして有機TFTを作製した。ゲート電極上に塗布したジアリルフタレート樹脂溶液には、実験例1と同様にジアリルフタレート樹脂をシクロペンタノンに溶解させたものを使用した。
【0053】
(実験例5)
ゲート絶縁層を、PVP系樹脂を用いて構成した以外は、実験例1と同様にして有機TFTを作製した。ゲート電極上に塗布したPVP系樹脂溶液には、PVP系樹脂をPGMEAに溶解させたものを使用し、添加剤としてニカラック(登録商標)100LMを加えた。
【0054】
(実験例6)
ゲート絶縁層を、1,10−デカンジオールジアクリレートを用いて構成した以外は、実験例1と同様にして有機TFTを作製した。
【0055】
(実験例7)
ゲート絶縁層を、ノナンジオールジメタクリレートを用いて構成した以外は、実験例1と同様にして有機TFTを作製した。
【0056】
まず、上記のように作製した実験例1〜7で耐熱性評価を行った結果を表1に表す。この耐熱性評価では、実験例1〜7の硬化皮膜を150℃で30分間ベークし、その表面状態を目視で確認した。有機TFTの作製プロセスでは、150℃での耐熱性が目安となる。なお、表1中、Aは全く問題なく有機半導体材料の塗布が可能な状態、Bは表面に変化が表れたものの有機半導体材料の塗布は可能な状態、Cは表面が変化してしまい有機半導体材料の塗布が不可能な状態をそれぞれ表す。
【0057】
【表1】

【0058】
次に、耐熱性評価がA又はBであった実験例1〜5のTFT特性を半導体パラメータアナライザを用いて調べた。この結果を表2に表す。なお、有機TFTのチャネル長は5μm,チャネル幅は380μmであった。
【0059】
【表2】

【0060】
表2からゲート絶縁層の樹脂材料によるTFT特性の違いを検討する。耐熱性の低いジアリルフタレート樹脂を用いた実験例4では、ON/OFF比特性が実験例1〜3と比較して低く、吸湿性の高いPVP系樹脂を用いた実験例5では、閾値電圧の変動ΔVthが実験例1〜3と比較して大きい。実験例1〜3のON/OFF比特性は実験例5と、実験例1〜3の閾値電圧の変動ΔVthは実験例4とそれぞれ同等である。即ち、ゲート絶縁層をジアリルイソフタレート樹脂を含有させて構成した実験例1〜3は、ON/OFF比特性および閾値電圧の両方のTFT特性において優れている。
【0061】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本技術を説明したが、本技術は上記実施の形態等に限定されるものではなく、種々変形が可能である。例えば、上記実施の形態等では、トップコンタクト・ボトムゲート型の有機TFT1(図1)について説明したが、図10に示したように、ボトムコンタクト・ボトムゲート型の構造であってもよく、図示は省略するが、トップゲート型の構造であってもよい。
【0062】
また、例えば、上記実施の形態において説明した各層の材料および厚み、または成膜方法および成膜条件などは限定されるものではなく、他の材料および厚みとしてもよく、または他の成膜方法および成膜条件としてもよい。
【0063】
なお、本技術は以下のような構成も取ることができる。
(1)制御電極と、前記制御電極に対向する能動層と、前記能動層に電気的に接続された第1電極および第2電極と、前記制御電極と前記能動層との間に設けられ、ジアリルイソフタレート樹脂を含有する絶縁層とを備えたトランジスタ。
(2)前記能動層は、有機半導体材料からなる前記(1)に記載のトランジスタ。
(3)前記絶縁層は、ジアリルイソフタレート樹脂からなる前記(1)に記載のトランジスタ。
(4)前記絶縁層は、ジアリルイソフタレート樹脂を50%以上含有する前記(1)に記載のトランジスタ。
(5)前記絶縁層は、ジアリルイソフタレート樹脂と共にアクリレート類およびメタクリレート類のうち少なくともどちらか一方を含有する前記(1)乃至(4)のうちいずれか1つに記載のトランジスタ。
(6)複数の画素と前記複数の画素を駆動するためのトランジスタとを備え、前記ト
ランジスタは、制御電極と、前記制御電極に対向する能動層と、前記能動層に電気的
に接続された第1電極および第2電極と、前記制御電極と前記能動層との間に設けら
れ、ジアリルイソフタレート樹脂を含有する絶縁層とを備えた表示装置。
(7)制御電極を形成する工程と、前記制御と対向する能動層を形成する工程と、前記能動層に電気的に接続された第1電極および第2電極を形成する工程と、前記制御電極と前記能動層との間に、ジアリルイソフタレート樹脂を含有する絶縁層を形成する工程とを含むトランジスタの製造方法。
【符号の説明】
【0064】
1…有機TFT、11…基板、12…ゲート電極、13,23…ゲート絶縁層、14…有機半導体層、15A,15B…ソース・ドレイン電極、90・・・表示装置、91・・・駆動パネル、10・・・画素、110・・・表示領域、120・・・信号線駆動回路、130・・・走査線駆動回路、150・・・画素駆動回路、Tr1,Tr2・・・トランジスタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御電極と、
前記制御電極に対向する能動層と、
前記能動層に電気的に接続された第1電極および第2電極と、
前記制御電極と前記能動層との間に設けられ、ジアリルイソフタレート樹脂を含有する絶縁層と
を備えたトランジスタ。
【請求項2】
前記能動層は、有機半導体材料からなる
請求項1に記載のトランジスタ。
【請求項3】
前記絶縁層は、ジアリルイソフタレート樹脂からなる
請求項1に記載のトランジスタ。
【請求項4】
前記絶縁層は、ジアリルイソフタレート樹脂を50%以上含有する
請求項1に記載のトランジスタ。
【請求項5】
前記絶縁層は、ジアリルイソフタレート樹脂と共にアクリレート類およびメタクリレート類のうち少なくともどちらか一方を含有する
請求項4に記載のトランジスタ。
【請求項6】
複数の画素と前記複数の画素を駆動するためのトランジスタとを備え、
前記トランジスタは、
制御電極と、
前記制御電極に対向する能動層と、
前記能動層に電気的に接続された第1電極および第2電極と、
前記制御電極と前記能動層との間に設けられ、ジアリルイソフタレート樹脂を含有する絶縁層とを備えた
表示装置。
【請求項7】
制御電極を形成する工程と、
前記制御電極と対向する能動層を形成する工程と、
前記能動層に電気的に接続された第1電極および第2電極を形成する工程と、
前記制御電極と前記能動層との間に、ジアリルイソフタレート樹脂を含有する絶縁層を形成する工程と
を含むトランジスタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−65824(P2013−65824A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−159578(P2012−159578)
【出願日】平成24年7月18日(2012.7.18)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】