説明

トランジスタ用エピタキシャルウェハの製造方法

【課題】成長時間を短縮してスループットを向上することが可能なトランジスタ用エピタキシャルウェハの製造方法を提供する。
【解決手段】基板2上に、電子供給層6,10及びチャネル層8を有する高電子移動度トランジスタ構造層3を形成する工程と、高電子移動度トランジスタ構造層3上に、コレクタ層14、ベース層15、エミッタ層16及びノンアロイ層18を有するヘテロバイポーラトランジスタ構造層4を形成する工程と、を有するトランジスタ用エピタキシャルウェハの製造方法において、ヘテロバイポーラトランジスタ構造層4を、気相成長法により成長温度400℃以上600℃以下で、かつ、一定の成長温度で成長するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に高電子移動度トランジスタ構造層を形成する工程と、高電子移動度トランジスタ構造層上にヘテロバイポーラトランジスタ構造層を形成する工程と、を有するトランジスタ用エピタキシャルウェハの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通信端末機器用のパワー増幅器等では、化合物半導体を用いて形成されるヘテロバイポーラトランジスタ(Hetero Bipolar Transistor;以下、HBTという)や高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor;以下、HEMTという)が用いられている。
【0003】
まず、ヘテロバイポーラトランジスタ(HBT)について説明する。
【0004】
HBTの動作は、基本的には通常のバイポーラトランジスタ(Bipolar Junction Transistor;以下、BJTという)と同様である。npn型BJTでは、エミッタからコレクタに向かって流れる電子量をベース電流(ホール電流)により制御することで、トランジスタとしての動作をさせている。すなわち、ホール電流を増やすことにより、コレクタ電流が増大する。しかし、ホール電流をさらに増やすと、ベースからエミッタに向かってホールが漏れだし、トランジスタの電流増幅率が低下する。
【0005】
これに対し、エミッタにバンドギャップの大きな半導体材料を用いて構成されるnpn型HBTでは、ベース・エミッタ界面に障壁ができ、ホールがエミッタに漏れるのを抑えることができる。これによりHBTでは、電流増幅率を低下させずにコレクタ電流を大きくできる利点を有する。
【0006】
HBTの代表的な構造を図4に示す。図4に示すように、HBT31は、半絶縁性GaAs基板32上に、サブコレクタ層33となるn型GaAs層を500nm、コレクタ層34となるn型GaAs層を700nm、ベース層35となるp型GaAs層を80nm、エミッタ層36となるn型InxGa1-xP層(x=0.48)を40nm、エミッタコンタクト層37となるn型GaAs層を100nm、グレーデッドノンアロイ層38となるn型InxGa1-xAs層(x=0→0.5)を50nm、均一組成ノンアロイ層39となるn型InxGa1-xAs層(x=0.5)を50nm順に積層したものである。
【0007】
次に、高電子移動度トランジスタ(HEMT)について説明する。
【0008】
HEMTは、InGaAs層をチャネル層とし、チャネル層の両側又は片側に電子供給層を有する。ヘテロ接合HEMTは、電子が高速移動する利点を活かして高速動作が可能なだけでなく、マイクロ波帯等の超高周波帯における高出力かつ高効率動作が可能である。
【0009】
HEMTの代表的な構造を図5に示す。図5に示すように、HEMT41は、半絶縁性GaAs基板42上に、バッファ層43となるアンドープGaAs層、電子供給層44となるn型AlxGa1-xAs層、スペーサ層45となるアンドープAlxGa1-xAs層、チャネル層46となるアンドープInxGa1-xAs層、スペーサ層47となるアンドープAlxGa1-xAs層、電子供給層48となるn型AlxGa1-xAs層、キャップ層49となるn型GaAs層、を順に積層したものである。
【0010】
なお、図4において、キャリア濃度を示す表記として、n+、n、n-が使用されているが、これらはキャリア濃度の一例を示すものであり、+が付いたものは高キャリア濃度で1018以上、無印が1017台、−が付いたものは低キャリア濃度で1014以上1017未満を表す。また、図4,5におけるn−はn型、p−はp型、un−はアンドープであることを意味する。
【0011】
これらトランジスタは、主に携帯端末の送受信用パワー増幅器に用いられてきたが、近年、音声やテキストデータだけでなく、動画像などの大容量かつ多様な情報を高速で送受信する必要がでてきた。このため、携帯端末の中で最も電力消費が大きい部品である送受信用パワー増幅器にも高性能化が求められ、低電圧で動作し、かつ消費電力を少なくすることが要求されている。これらの要求は、パワー増幅器の効率を上げることにより対応できるが、一般に、増幅器を高効率で動作させた場合には、出力信号の歪が大きくなるという問題がある。出力信号の歪が大きくなると、歪により隣接する通信チャネルへ電波が漏れ出して信号同士が干渉し、送信データが異なった値となってしまう問題が生じる。
【0012】
そこで、電流駆動能力の高いHBTと、低消費電力かつ高周波雑音特性のよいHEMTを1つのパワー増幅器モジュールに複数用いることで、出力信号の歪みを抑えると共に消費電力の低減を図り、高い振幅を持つ出力信号が得られるパワー増幅器モジュールとすることが行われている。例えば、図6に示すパワー増幅器モジュール51では、入力信号を駆動用HBT52により増幅し、その増幅信号を後段の出力用HEMT53でさらに増幅して、出力信号とするように構成されている。
【0013】
しかしながら、図6のパワー増幅器モジュール51のようにHBT52とHEMT53とを配線で接続した場合、配線によるRC遅延、素子の発熱が問題となってしまう。
【0014】
そこで、この配線をなくし、基板上にエピタキシャル成長によりHEMTを設け、HEMTの上にさらにHBTを設けた2段トランジスタ構造(BI−FET構造)のトランジスタが用いられるようになっている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2006−228784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、上述のようなBI−FET構造のトランジスタ用エピタキシャルウェハを製造する際には、HEMTを構成する複数のエピタキシャル層の上に、HBTを構成する複数のエピタキシャル層を成長させるが、従来方法では、HBTを構成する複数のエピタキシャル層を成長させる際に、エピタキシャル層毎に成長温度を変更するため、エピタキシャル層を形成する時間に加えて、温度を変更するための時間や、温度を安定させるための時間が別途必要となり、トータルの成長時間が長くなりスループットが低下してしまうという問題があった。
【0017】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、成長時間を短縮してスループットを向上することが可能なトランジスタ用エピタキシャルウェハの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、基板上に、電子供給層及びチャネル層を有する高電子移動度トランジスタ構造層を形成する工程と、前記高電子移動度トランジスタ構造層上に、コレクタ層、ベース層、エミッタ層及びノンアロイ層を有するヘテロバイポーラトランジスタ構造層を形成する工程と、を有するトランジスタ用エピタキシャルウェハの製造方法において、前記ヘテロバイポーラトランジスタ構造層を、気相成長法により成長温度400℃以上600℃以下で、かつ、一定の成長温度で成長するようにしたトランジスタ用エピタキシャルウェハの製造方法である。
【0019】
前記電子供給層は、Siをドープしたn型AlGaAs層からなってもよい。
【0020】
前記電子供給層のドーパントが、Si、Se、Teのいずれかから選択されてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、成長時間を短縮してスループットを向上することが可能なトランジスタ用エピタキシャルウェハの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施の形態に係るトランジスタ用エピタキシャルウェハの製造方法で製造するトランジスタ用エピタキシャルウェハの積層構造図である。
【図2】本発明における成長時間と基板温度(成長温度)の関係を示すグラフ図である。
【図3】従来技術における成長時間と基板温度(成長温度)の関係を示すグラフ図である。
【図4】HBTの積層構造図である。
【図5】HEMTの積層構造図である。
【図6】従来のパワー増幅器モジュールの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0024】
図1は、本実施の形態に係るトランジスタ用エピタキシャルウェハの製造方法で製造するトランジスタ用エピタキシャルウェハの積層構造図である。
【0025】
図1に示すように、トランジスタ用エピタキシャルウェハ1は、GaAs基板2上に高電子移動度トランジスタ構造層(以下、HEMT構造層という)3が形成され、HEMT構造層3上にヘテロバイポーラトランジスタ構造層(以下、HBT構造層という)4が形成された構造(BI−FET構造)となっている。なお、図1におけるn−はn型、p−はp型、un−はアンドープであることを意味する。
【0026】
トランジスタ用エピタキシャルウェハ1を製造する際には、まず、半絶縁性のGaAs基板2上に、エピタキシャル成長により、バッファ層5となるアンドープAlxGa1-xAs層(x=0.28)を500nm、電子供給層6となるn型AlxGa1-xAs層(x=0.3)を30nm、スペーサ層7となるアンドープAlxGa1-xAs層(x=0.3)を10nm、チャネル層8となるアンドープInxGa1-xAs層(x=0.18)を15nm、スペーサ層9となるアンドープAlxGa1-xAs層(x=0.3)を10nm、電子供給層10となるn型AlxGa1-xAs層(x=0.48)を30nm、ショットキー層11となるアンドープGaAs層を30nm、を順に積層することにより、HEMT構造層3を形成する。本実施の形態では、HEMT構造層3を、気相成長法(MOVPE(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)法)により、成長温度600℃以上750℃以下、V/III比150以下の条件で成長した。なお、本明細書において、成長温度とは、成長時のGaAs基板2の基板温度を意味する。
【0027】
HEMT構造層3の電子供給層6,10は、Siのδドープ層からなる。つまり、電子供給層6,10はSiをドープしたn型AlGaAs層からなる。なお、δドープ層とは局所的にドーパント(ここではSi)が高濃度に含まれた領域であり、図1に示すような縮尺の層として存在していない。つまり、図1では、便宜上各層の縮尺を変更し、トランジスタ用エピタキシャルウェハ1の構造を概略的に示している。ここでは、電子供給層6,10をn型AlGaAs層としたが、n型InGaP層とすることも可能である。また、ドーパントとしてSiを用いたが、電子供給層6,10のドーパントは、Si、Se、Teのいずれかから選択されるとよい。
【0028】
HEMT構造層3上(HEMT構造層3とHBT構造層4との間)には、エピタキシャル成長により、n型InxGa1-xP層(x=0.48)を10nm積層してエッチングストッパ層(ストッパー層)12を形成する。本実施の形態では、HEMT構造層3の成長温度と同じ、もしくは低い成長温度で、As混入濃度を制御したInGaPからなるエッチングストッパ層12を形成した。
【0029】
その後、エッチングストッパ層12上に、エピタキシャル成長により、サブコレクタ層13となるn型GaAs層を500nm、コレクタ層14となるn型GaAs層を700nm、ベース層15となるp型GaAs層を120nm、エミッタ層16となるn型InxGa1-xP層(x=0.48)を40nm、バラスト層17となるn型GaAs層を100nm順次積層し、バラスト層17上にノンアロイ層18を積層して、HBT構造層4を形成する。
【0030】
ノンアロイ層18は、n型不純物としてSe又はTeをドーピングし、成長方向でIn組成を変化させたn型InxGa1-xAsからなるグレーデッドノンアロイ層19と、グレーデッドノンアロイ層19上に形成され、In組成比が0.3〜0.6で一定であるn型InxGa1-xAsからなる均一組成ノンアロイ層20と、を有している。
【0031】
本実施の形態では、グレーデッドノンアロイ層19を、バラスト層17から離れるにしたがってIn組成比が0から均一組成ノンアロイ層20と同じIn組成比まで徐々に変化するようにし、また、GaAs基板2の基板温度(成長温度)や、GaAs基板2を加熱するヒータの温度を適宜調整することにより、In組成比の傾斜やオートドーピングされる炭素量を調節して、グレーデッドノンアロイ層19における炭素濃度が3.0×1018cm-3以下となるように、n型不純物濃度が1.0×1018cm-3以上5.0×1019cm-3以下の範囲となるように、50nmのn型InxGa1-xAs層(x=0→0.5)を成長した。
【0032】
また、本実施の形態では、均一組成ノンアロイ層20を、In組成比が0.5で一定となるようにし、また、グレーデッドノンアロイ層19と同様にオートドーピングされる炭素量を調節して、炭素濃度がSIMS分析下限値(1.0×1016cm-3)以下となるよう、n型不純物濃度が1.0×1019cm-3以上5.0×1019cm-3以下の範囲となるようにし、50nmのn型InxGa1-xAs層(x=0.5)を成長した。
【0033】
さて、本実施の形態に係るトランジスタ用エピタキシャルウェハの製造方法では、HBT構造層4を、気相成長法(MOVPE法)により成長温度400℃以上600℃以下で、かつ、一定の成長温度で成長するようにした。
【0034】
HBT構造層4を一定の成長温度で成長することにより、図2に示すように、成長温度(=基板温度)を変更するのは、HEMT構造層3を成長した後、HBT構造層4を成長し始める前の1回のみとなり、温度を変更するための時間や、温度を安定させるための時間を短縮することが可能となる。よって、トランジスタ用エピタキシャルウェハ1全体での成長時間(つまりトランジスタ用エピタキシャルウェハ1の製造にかかる時間)を短縮することが可能になる。
【0035】
これに対して、図3に示すように、エピタキシャル層毎に成長温度(=基板温度)を変更してHBT構造層4を成長する場合、成長温度を変更する毎に、温度を変更するための時間と、温度を安定させるための時間が必要となり、トータルの成長時間が長くなる。
【0036】
図2のように、HEMT構造層3の成長温度を650℃、HBT構造層4の成長温度を500℃とした場合(本発明)、および、図3のように、HEMT構造層3の成長温度を650℃とし、サブコレクタ層13を700℃、コレクタ層14を650℃、ベース層15を500℃、エミッタ層16とバラスト層17を600℃、ノンアロイ層を450℃の成長温度で成長した場合(従来技術)の両者について、成長したHBTの特性を測定した。測定結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示すように、本発明と従来技術とでは、電流利得β等の各特性にほとんど差がなく、成長温度を一定としても、良好な特性のトランジスタ用エピタキシャルウェハ1が得られることが分かる。
【0039】
以上説明したように、本実施の形態に係るトランジスタ用エピタキシャルウェハの製造方法では、HBT構造層4を、気相成長法により成長温度400℃以上600℃以下で、かつ、一定の成長温度で成長している。
【0040】
従来は、エピタキシャル層毎に成長温度を変更してHBT構造層を成長していたため、温度を変更するための時間や、温度を安定させるための時間が必要であったが、本発明では、HBT構造層4を一定の成長温度で成長することにより、温度を変更するための時間や、温度を安定させるための時間を削減でき、トータルの成長時間を短縮して、スループットを向上することが可能となる。
【0041】
また、本発明では、HEMT構造層3の上にHBT構造層4を成長させてBI−FET構造のトランジスタ用エピタキシャルウェハ1を製造しているため、得られたトランジスタ用エピタキシャルウェハ1を素子化することにより、送受信用パワー増幅器として使用する際に、低電圧で動作し、出力信号の歪みを抑え、消費電力を低減でき、かつ、高移動度のトランジスタ素子を実現できる。具体的には、本実施の形態では、ベース抵抗180Ω/sqで電流利得70(1kA/cm2)と増幅し、移動度5000cm2/V・s、シートキャリア濃度2.1×1012cm-2、ピンチオフ電圧−0.5Vと動作するトランジスタ素子を得ることができた。
【0042】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【0043】
例えば、上記実施の形態では、基板として半絶縁性のGaAs基板2を用いたが、Si基板、InP基板に対しても本発明は適用できる。
【0044】
また、基板上にHBT構造層4のみを形成してHBT単体を製造する場合にも、本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 トランジスタ用エピタキシャルウェハ
2 GaAs基板(基板)
3 HEMT構造層(高電子移動度トランジスタ構造層)
4 HBT構造層(ヘテロバイポーラトランジスタ構造層)
5 バッファ層
6,10 電子供給層
7,9 スペーサ層
8 チャネル層
11 ショットキー層
12 エッチングストッパ層
13 サブコレクタ層
14 コレクタ層
15 ベース層
16 エミッタ層
17 バラスト層
18 ノンアロイ層
19 グレーデッドノンアロイ層
20 均一組成ノンアロイ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、電子供給層及びチャネル層を有する高電子移動度トランジスタ構造層を形成する工程と、
前記高電子移動度トランジスタ構造層上に、コレクタ層、ベース層、エミッタ層及びノンアロイ層を有するヘテロバイポーラトランジスタ構造層を形成する工程と、
を有するトランジスタ用エピタキシャルウェハの製造方法において、
前記ヘテロバイポーラトランジスタ構造層を、気相成長法により成長温度400℃以上600℃以下で、かつ、一定の成長温度で成長するようにした
ことを特徴とするトランジスタ用エピタキシャルウェハの製造方法。
【請求項2】
前記電子供給層は、Siをドープしたn型AlGaAs層からなる
請求項1記載のトランジスタ用エピタキシャルウェハの製造方法。
【請求項3】
前記電子供給層のドーパントが、Si、Se、Teのいずれかから選択される
請求項1記載のトランジスタ用エピタキシャルウェハの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−74142(P2013−74142A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212413(P2011−212413)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】