説明

トランジスタ

【課題】新たな半導体材料を用いたトランジスタを提供する。
【解決手段】水素濃度が1×1016cm−3以下の領域を有する酸化物半導体層又はキャリア密度が1×1014cm−3未満の領域を有する酸化物半導体層を有し、酸化物半導体層の膜厚は、酸化物半導体層のドナー密度に基づく空乏層の広がり得る最大幅よりも薄いトランジスタである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示する発明の技術分野は、酸化物半導体を用いたトランジスタ及び当該トランジスタを
有する半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
絶縁表面を有する基板上に形成された半導体薄膜を用いて薄膜トランジスタ(TFT)を
構成する技術が注目されている。薄膜トランジスタは液晶テレビに代表されるような表示
装置に用いられている。薄膜トランジスタに適用可能な半導体薄膜としてシリコン系半導
体材料が公知であるが、その他の材料として酸化物半導体が注目されている。
【0003】
酸化物半導体の材料としては、酸化亜鉛又は酸化亜鉛を成分とするものが知られている。
そして、電子キャリア密度が1018cm−3未満である非晶質酸化物(酸化物半導体)
なるもので形成された薄膜トランジスタが開示されている(特許文献1乃至3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−165527号公報
【特許文献2】特開2006−165528号公報
【特許文献3】特開2006−165529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、大電力用途の半導体装置に用いるトランジスタは、高耐圧、高変換効率、高速
スイッチングなどの特性が必要となる。現在、これらの半導体装置の半導体材料としては
シリコンが採用されているが、上述の観点から、さらなる特性の向上が可能な新たな半導
体材料が求められている。
【0006】
上述の諸特性を向上させる可能性がある半導体材料としては、例えば、炭化シリコンを挙
げることができる。炭化シリコンは、Si−C結合の原子間距離が約0.18nmと短く
、結合エネルギーが高く、シリコンと比較して約3倍と大きなバンドギャップを有するた
め、半導体装置の耐圧向上、電力損失の低減などに有利であることが知られている。
【0007】
ところが、炭化シリコンは、その性質上溶融させることが困難であるため、シリコンウェ
ハを製造する際に用いられるチョクラルスキー法(CZ法)などの生産性の高い方法を用
いて製造することができないという問題がある。また、炭化シリコンには、マイクロパイ
プと呼ばれる欠陥の問題が存在する。これらの問題から、炭化シリコンを用いた半導体装
置の実用化は遅れている。
【0008】
上述に鑑み、開示する発明の一態様では、生産性の高い新たな半導体材料を用いた大電力
向けの半導体装置を提供することを目的の一とする。または、新たな半導体材料を用いた
新たな構造の半導体装置を提供することを目的の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一形態は、酸化物半導体中で電子供与体(ドナー)となり得る不純物を除去する
ことで、真性又は実質的に真性な半導体であって、シリコン半導体よりもバンドギャップ
が大きい酸化物半導体でチャネル形成領域が形成される縦型トランジスタであり、酸化物
半導体の厚さが1μm以上、好ましくは3μmより大、より好ましくは10μm以上であ
る。
【0010】
また、本発明の一形態は、酸化物半導体中で電子供与体(ドナー)となり得る不純物を除
去することで、真性又は実質的に真性な半導体であって、シリコン半導体よりもバンドギ
ャップが大きい酸化物半導体でチャネル形成領域が形成される縦型トランジスタであり、
酸化物半導体の厚さが1μm以上、好ましくは3μmより大、より好ましくは10μm以
上であり、酸化物半導体においてゲート絶縁膜に接する領域に結晶領域が形成される。
【0011】
すなわち、本発明の一形態は、酸化物半導体に含まれる水素を低減し、好ましくは水素濃
度を1×1016cm−3以下とし、酸化物半導体に含まれる水素若しくはOH基を除去
し、キャリア密度を1×1014cm−3未満、好ましくは1×1012cm−3未満、
さらに好ましくは測定限界以下の1×1011cm−3未満とした酸化物半導体膜でチャ
ネル形成領域が形成される縦型トランジスタである。
【0012】
酸化物半導体のバンドギャップは2eV以上、好ましくは2.5eV以上、より好ましく
は3eV以上として、ドナー水素等の不純物を極力低減し、キャリア密度を1×1014
cm−3未満、好ましくは1×1012cm−3未満、さらに好ましくは測定限界以下の
1×1011cm−3未満となるようにする。
【0013】
このように高純度化された酸化物半導体を、トランジスタのチャネル形成領域に用いるこ
とで、ゲート絶縁膜と接する酸化物半導体の表面だけでなく、酸化物半導体の内部(酸化
物半導体膜全体)においてもチャネルを形成することが可能である。また、オフ状態にお
いては、空乏層が酸化物半導体の内部のより深い領域まで広がるため、オフ状態に流れる
オフ電流を低減することができる。更には、耐圧が高くなると共に、ホットキャリア劣化
が生じにくくなり、高電圧が印加される大電力用の半導体装置を作製することができる。
【0014】
なお、本発明の一形態において、トランジスタのゲート電極は、環状であり、ゲート絶縁
膜を介して、ソース電極、酸化物半導体膜、及びドレイン電極を囲んでいる。このため、
チャネル幅は大きい。
【0015】
また、本発明の一形態のトランジスタは、絶縁ゲート電界効果トランジスタ(Insul
ated−Gate Field−Effect Transistor(IGFET)
)、パワーMOSFETを含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一形態によれば、水素濃度が低減され高純度化された酸化物半導体を用いること
で、トランジスタの動作を良好なものとすることができる。特に、耐圧を高め、ショート
チャネル効果を抑制し、オンオフ比を高めることができる。このため、当該トランジスタ
を用いることで、大電力用の半導体装置を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】トランジスタを説明する上面図及び断面図である。
【図2】トランジスタを説明する断面図である。
【図3】InGaZnOの結晶構造を示す図である。
【図4】酸化物半導体を用いた縦型のトランジスタの縦断面図である。
【図5】図4に示すA−A’断面におけるエネルギーバンド図(模式図)である。
【図6】真空準位と金属の仕事関数(φM)、酸化物半導体の電子親和力(χ)の関係を示す図である。
【図7】図4におけるB−B’の断面におけるエネルギーバンド図である。
【図8】(A)ゲート(G1)に正の電位(+VG)が印加された状態を示し、(B)ゲート(G1)に負の電位(−VG)が印加された状態示す図である。
【図9】最大空乏層幅及びデバイ長の計算結果を説明する図である。
【図10】トランジスタの作製方法を説明する断面図である。
【図11】トランジスタの作製方法を説明する断面図である。
【図12】トランジスタの作製方法を説明する断面図である。
【図13】太陽光発電システムの一例を説明する図である。
【図14】デバイスシミュレータにより計算した結果を説明する図である。
【図15】デバイスシミュレータにより計算した結果を説明する図である。
【図16】デバイスシミュレータにより計算した結果を説明する図である。
【図17】CV測定を説明する図である。
【図18】CV測定の結果を説明する図である。
【図19】酸化物半導体膜の断面TEM写真である。
【図20】酸化物半導体膜の断面TEM写真である。
【図21】酸化物半導体膜の断面TEM写真及び電子線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。但し、本発明は以下の説明
に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々
に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施
の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、以下に説明する本発明の構
成において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共
通して用い、その繰り返しの説明は省略する。
【0019】
なお、本明細書で説明する各図において、各構成の大きさ、層の厚さ、または領域は、明
瞭化のために誇張されている場合がある。よって、必ずしもそのスケールに限定されない

【0020】
また、本明細書にて用いる第1、第2、第3などの用語は、構成要素の混同を避けるため
に付したものであり、数的に限定するものではない。そのため、例えば、「第1の」を「
第2の」または「第3の」などと適宜置き換えて説明することができる。
【0021】
また、電圧とは2点間における電位差のことをいい、電位とはある一点における静電場の
中にある単位電荷が持つ静電エネルギー(電気的な位置エネルギー)のことをいう。ただ
し、一般的に、ある一点における電位と基準となる電位(例えば接地電位)との電位差の
ことを、単に電位もしくは電圧と呼び、電位と電圧が同義語として用いられることが多い
。このため、本明細書では特に指定する場合を除き、電位を電圧と読み替えてもよいし、
電圧を電位と読み替えてもよいこととする。
【0022】
(実施の形態1)
本実施の形態では、トランジスタの構造について、図1を用いて説明する。
【0023】
図1(A)はトランジスタ145の上面図であり、図1(B)は図1(A)の一点鎖線A
−Bの断面図に相当する。
【0024】
図1(B)に示すように、基板101上に形成された絶縁膜103上に、第1の電極10
5、酸化物半導体膜107、及び第2の電極109が積層される。なお、酸化物半導体膜
107の上面すべてに接して第2の電極109が積層される。また、第1の電極105、
酸化物半導体膜107、及び第2の電極109を覆うように、ゲート絶縁膜111が設け
られている。ゲート絶縁膜111上には、少なくとも酸化物半導体膜の側面と対向する第
3の電極113が設けられている。ゲート絶縁膜111及び第3の電極113上には層間
絶縁膜として機能する絶縁膜117が設けられている。絶縁膜117上には、開口部が形
成されており、開口部において第1の電極105と接続する配線131(図1(A)参照
)、第2の電極109と接続する配線129、第3の電極113と接続する配線125が
形成される。なお、本明細書においては、膜の上面とは、基板101と平行な一対の面に
おいて、基板101と反対側に設けられる面のことをいう。
【0025】
第1の電極105は、トランジスタ145のソース電極及びドレイン電極の一方として機
能する。第2の電極109は、トランジスタ145のソース電極及びドレイン電極の他方
として機能する。第3の電極113は、トランジスタ145のゲート電極として機能する

【0026】
本実施の形態では、ゲート電極として機能する第3の電極113が環状であることを特徴
とする。ゲート電極として機能する第3の電極113を環状とすることで、トランジスタ
のチャネル幅を大きくすることができる。本実施の形態のトランジスタにおいて、チャネ
ル長Lは酸化物半導体膜の厚さであり、チャネル幅Wは第1の電極または第2の電極に接
する酸化物半導体膜の端部の長さである。なお、ここでは、第1の電極または第2の電極
において、面積の広い方と酸化物半導体膜の接する酸化物半導体膜の端部の長さをWとす
る。本実施の形態では、トランジスタの酸化物半導体膜の上面形状はWとWを辺とす
る長方形であるため、チャネル幅Wは2W及び2Wの和である。なお、トランジスタ
の酸化物半導体膜の上面形状が円形の場合は、酸化物半導体膜の半径rとした場合、チャ
ネル幅Wは2πrである。
【0027】
また、酸化物半導体膜107の厚さが、1μm以上、好ましくは3μmより大、より好ま
しくは10μm以上である。
【0028】
また、本実施の形態のトランジスタは、酸化物半導体膜が真性であり、真性キャリア密度
がきわめて低いため、最大空乏層幅が極めて広くなり、空乏層が酸化物半導体膜の内部に
広がるトランジスタとなる。
【0029】
なお、トランジスタは、ゲートと、ドレインと、ソースとを含む少なくとも三つの端子を
有する素子であり、ドレイン領域とソース領域の間にチャネル形成領域を有しており、ド
レイン領域とチャネル形成領域とソース領域とを介して電流を流すことができる。ここで
、ソースとドレインとは、トランジスタの構造や動作条件などによって変わるため、いず
れがソースまたはドレインであるかを限定することが困難である。そこで、ソース及びド
レインとして機能する領域を、ソースもしくはドレインとよばない場合がある。その場合
、一例としては、それぞれを第1の端子、第2の端子と表記する場合がある。あるいは、
それぞれを第1の電極、第2の電極と表記する場合がある。あるいは、第1の領域、第2
の領域と表記する場合がある。
【0030】
基板101は、少なくとも、後の加熱処理に耐えうる程度の耐熱性を有していることが必
要となる。基板101としては、バリウムホウケイ酸ガラスやアルミノホウケイ酸ガラス
などのガラス基板を用いることができる。
【0031】
また、ガラス基板としては、後の加熱処理の温度が高い場合には、歪み点が730℃以上
のものを用いるとよい。また、ガラス基板には、例えば、アルミノシリケートガラス、ア
ルミノホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラスなどのガラス材料が用いられている
。一般に酸化ホウ素(B)と比較して酸化バリウム(BaO)を多く含ませること
で、より実用的な耐熱ガラスが得られる。このため、BよりBaOを多く含むガラ
ス基板を用いることが好ましい。
【0032】
なお、上記のガラス基板に代えて、セラミック基板、石英基板、サファイア基板などの絶
縁体でなる基板を用いてもよい。他にも、結晶化ガラス基板などを用いることができる。
【0033】
絶縁膜103は、酸化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜など酸化物絶縁膜、または窒化シ
リコン膜、窒化酸化シリコン膜、窒化アルミニウム膜、または窒化酸化アルミニウムなど
の窒化物絶縁膜で形成する。また、絶縁膜103は積層構造でもよく、例えば、基板10
1側から上記した窒化物絶縁膜のいずれか一つ以上と、上記した酸化物絶縁膜のいずれか
一つ以上との積層構造とすることができる。
【0034】
第1の電極105及び第2の電極109は、アルミニウム、クロム、銅、タンタル、チタ
ン、モリブデン、タングステン、イットリウムから選ばれた金属元素、または上述した金
属元素を成分とする合金、上述した金属元素を組み合わせた合金などで形成する。また、
マンガン、マグネシウム、ジルコニウム、ベリリウムのいずれか一または複数から選択さ
れた金属元素を用いることができる。また、第1の電極105は、単層構造、または二層
以上の積層構造とすることができる。例えば、シリコンを含むアルミニウム膜の単層構造
、アルミニウム膜上にチタン膜を積層する二層構造、タングステン膜上にチタン膜を積層
する二層構造、チタン膜と、そのチタン膜上に重ねてアルミニウム膜を積層し、さらにそ
の上にチタン膜を形成する三層構造などが挙げられる。また、アルミニウムに、チタン、
タンタル、タングステン、モリブデン、クロム、ネオジム、スカンジウムから選ばれた元
素を単数、または複数組み合わせた膜、合金膜、もしくは窒化膜を用いてもよい。
【0035】
また、第1の電極105及び第2の電極109として、インジウム錫酸化物、酸化タング
ステンを含むインジウム酸化物、酸化タングステンを含むインジウム亜鉛酸化物、酸化チ
タンを含むインジウム酸化物、酸化チタンを含むインジウム錫酸化物、インジウム亜鉛酸
化物、酸化ケイ素を添加したインジウム錫酸化物などの透光性を有する導電性材料を適用
することもできる。また、上記透光性を有する導電性材料と、上記金属元素の積層構造と
することもできる。
【0036】
酸化物半導体膜107としては、四元系金属酸化物であるIn−Sn−Ga−Zn−O膜
や、三元系金属酸化物であるIn−Ga−Zn−O膜、In−Sn−Zn−O膜、In−
Al−Zn−O膜、Sn−Ga−Zn−O膜、Al−Ga−Zn−O膜、Sn−Al−Z
n−O膜や、二元系金属酸化物であるIn−Zn−O膜、Sn−Zn−O膜、Al−Zn
−O膜、Zn−Mg−O膜、Sn−Mg−O膜、In−Mg−O膜や、In−O膜、Sn
−O膜、Zn−O膜などの酸化物半導体膜を用いることができる。また、上記酸化物半導
体膜中にSiOを含んでもよい。
【0037】
また、酸化物半導体膜107は、InMO(ZnO)(m>0)で表記される薄膜を
用いることができる。ここで、Mは、Ga、Al、MnおよびCoから選ばれた一または
複数の金属元素を示す。例えばMとして、Ga、Ga及びAl、Ga及びMn、またはG
a及びCoなどがある。InMO(ZnO)(m>0)で表記される構造の酸化物半
導体膜のうち、MとしてGaを含む構造の酸化物半導体を、上記したIn−Ga−Zn−
O酸化物半導体とよび、その薄膜をIn−Ga−Zn−O膜ともよぶこととする。
【0038】
本実施の形態で用いる酸化物半導体膜107は、酸化物半導体膜に含まれる水素を低減し
、好ましくは、酸化物半導体膜に含まれる水素が除去されている。即ち、酸化物半導体膜
の主成分以外の不純物が極力含まれないように高純度化されている。このときの酸化物半
導体膜107の水素濃度は、1×1016cm−3以下が好ましい。また、酸化物半導体
膜107のキャリア密度が1×1014cm−3未満、好ましくは1×1012cm−3
未満、さらに好ましくは測定限界以下の1×1011cm−3未満である。即ち、酸化物
半導体膜のキャリア密度は、限りなくゼロに近い。また、バンドギャップは2eV以上、
好ましくは2.5eV以上、より好ましくは3eV以上である。なお、酸化物半導体膜中
の水素濃度測定は、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion M
ass Spectroscopy)で行うことができる。キャリア密度は、ホール効果
測定により測定することができる。
【0039】
酸化物半導体膜107の厚さは、1μm以上、好ましくは3μmより大、より好ましくは
10μm以上とする。酸化物半導体膜107の厚さを厚くすることで、ショートチャネル
効果(しきい値の変動、オンオフ比の低減)を低減することができ、大電力用の半導体装
置を作製することができる。
【0040】
ゲート絶縁膜111は、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜、窒化酸
化シリコン膜、または酸化アルミニウム膜を単層でまたは積層して形成することができる
。ゲート絶縁膜111は、酸化物半導体膜107と接する部分が酸素を含むことが好まし
く、特に好ましくは酸化シリコン膜により形成する。酸化シリコン膜を用いることで、酸
化物半導体膜107に酸素を供給することができ、特性を良好にすることができる。
【0041】
また、ゲート絶縁膜111として、ハフニウムシリケート(HfSiO(x>0))、
Nが添加されたハフニウムシリケート(HfSiO(x>0,y>0))、ハフニ
ウムアルミネート(HfAlO(x>0))、酸化ハフニウム、酸化イットリウムなど
のhigh−k材料を用いることでゲートリーク電流を低減できる。さらには、high
−k材料と、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜、窒化酸化シリコン
膜、または酸化アルミニウム膜のいずれか一以上との積層構造とすることができる。ゲー
ト絶縁膜111の厚さは、50nm以上500nm以下とするとよい。ゲート絶縁膜11
1の厚さを厚くすることで、ゲートリーク電流を低減することができる。
【0042】
ゲート電極として機能する第3の電極113は、アルミニウム、クロム、銅、タンタル、
チタン、モリブデン、タングステンから選ばれた金属元素、または上述した金属元素を成
分とする合金か、上述した金属元素を組み合わせた合金膜などを用いて形成することがで
きる。また、マンガン、マグネシウム、ジルコニウム、ベリリウムのいずれか一または複
数から選択された金属元素を用いてもよい。また、第3の電極113は、単層構造でも、
二層以上の積層構造としてもよい。例えば、シリコンを含むアルミニウム膜の単層構造、
アルミニウム膜上にチタン膜を積層する二層構造、チタン膜と、そのチタン膜上にアルミ
ニウム膜を積層し、さらにその上にチタン膜を形成する三層構造などがある。また、アル
ミニウムに、チタン、タンタル、タングステン、モリブデン、クロム、ネオジム、スカン
ジウムから選ばれた元素の膜、または複数組み合わせた合金膜、もしくは窒化膜を用いて
もよい。
【0043】
また、ゲート電極として機能する第3の電極113は、インジウム錫酸化物、酸化タング
ステンを含むインジウム酸化物、酸化タングステンを含むインジウム亜鉛酸化物、酸化チ
タンを含むインジウム酸化物、酸化チタンを含むインジウム錫酸化物、インジウム亜鉛酸
化物、酸化ケイ素を添加したインジウム錫酸化物などの透光性を有する導電性材料を適用
することもできる。また、上記透光性を有する導電性材料と、上記金属元素の積層構造と
することもできる。
【0044】
次に、酸化物半導体膜107を有するトランジスタの動作についてエネルギーバンド図を
用いて説明する。
【0045】
図4は、酸化物半導体を用いた縦型のトランジスタの縦断面図を示す。ドレイン電極(D
)上に酸化物半導体層(OS)が設けられ、酸化物半導体層(OS)上にソース電極(S
)が設けられ、ドレイン電極、酸化物半導体層、及びソース電極上にゲート絶縁膜(GI
)が設けられ、その上にゲート電極(GE1)が設けられている。
【0046】
図5は、図4に示すA−A’断面におけるエネルギーバンド図(模式図)を示す。図5(
A)はソースとドレインの間の電圧を等電位(VD=0V)とした場合を示し、図5(B
)は図4において、ゲート電圧に正の電圧(VG>0)を加え、ソースに対しドレインに
正の電位(VD>0)を加えた場合を示す。
【0047】
図7は、図4におけるB−B’の断面におけるエネルギーバンド図(模式図)を示し、ゲ
ート電圧が0Vの場合の状態を示す。図8(A)はゲート(G1)に正の電位(+VG)
が印加された状態であり、ソース及びドレイン間にキャリア(電子)が流れるオン状態を
示している。また、図8(B)は、ゲート(G1)に負の電位(−VG)が印加された状
態であり、オフ状態である場合を示す。
【0048】
図6は、真空準位と金属の仕事関数(φM)、酸化物半導体の電子親和力(χ)の関係を
示す。
【0049】
室温において金属の自由電子縮退状態にあり、フェルミ準位は伝導帯内に位置する。一方
、従来の酸化物半導体は一般にn型であり、その場合のフェルミ準位(Ef)は、バンド
ギャップ中央に位置する真性フェルミ準位(Ei)から離れて、伝導帯寄りに位置してい
る。なお、酸化物半導体において水素の一部はドナーとなりn型化する一つの要因である
ことが知られている。
【0050】
これに対して本発明に係る酸化物半導体は、n型不純物である水素を酸化物半導体から除
去し、酸化物半導体の主成分以外の不純物が極力含まれないように高純度化することによ
り真性(i型)とし、又は真性型とせんとしたものである。すなわち、不純物を添加して
i型化するのでなく、水素や水等の不純物を極力除去したことにより、高純度化されたi
型(真性半導体)又はそれに近づけることを特徴としている。そうすることにより、フェ
ルミ準位(Ef)は真性フェルミ準位(Ei)と同じレベルにまですることができる。
【0051】
酸化物半導体のバンドギャップ(Eg)が3.15eVである場合、電子親和力(χ)は
4.3eVと言われている。ソース電極及びドレイン電極を構成するチタン(Ti)の仕
事関数は、酸化物半導体の電子親和力(χ)とほぼ等しい。この場合、金属−酸化物半導
体界面において、電子に対してショットキー型の障壁は形成されない。
【0052】
すなわち、金属の仕事関数(φM)と酸化物半導体の電子親和力(χ)がほぼ等しい場合
、両者が接触すると図5(A)で示すようなエネルギーバンド図(模式図)が示される。
【0053】
図5(B)において黒丸(●)は電子を示し、ドレインに正の電位が印加されると、電子
はバリア(h)をこえて酸化物半導体に注入され、ドレインに向かって流れる。この場合
、バリア(h)の高さは、ゲート電圧とドレイン電圧に依存して変化するが、正のドレイ
ン電圧が印加された場合には、電圧印加のない図5(A)のバリア(h)の高さすなわち
バンドギャップ(Eg)の1/2よりもバリア(h)の高さは小さい値となる。
【0054】
酸化物半導体層の厚さは1μm以上、好ましくは3μmより大、より好ましくは10μm
以上であり、また真性キャリア密度が少ない。このため、ゲート(G1)に正の電位(+
VG)が印加された状態では、図8(A)に示すように、酸化物半導体層の表面における
バンドの曲がりが少なく、伝導帯の下端がフェルミ準位に近づき、酸化物半導体層全体に
おいてエネルギー的に安定となる。このため、ゲート絶縁膜の近傍のみでなく、酸化物半
導体全体においても電子が流れやすくなり、酸化物半導体全体にチャネルが形成され、よ
り多くの電流を流すことができる。一方、ゲート(G1)に負の電位(−VG)が印加さ
れた状態では、少数キャリアであるホールは実質的にゼロであるため、電流は限りなく低
く、チャネルの単位面積あたりの電流が100aA/μm以下、好ましくは10aA/μ
m以下、より好ましくは1aA/μm以下とゼロに近い値となる。
【0055】
ここで、酸化物半導体の真性キャリア密度について説明する。
【0056】
半導体に含まれる真性キャリア密度nは、フェルミ・ディラック統計によるフェルミ・
ディラック分布をボルツマン分布の式で近似することで、求められる(数式1参照)。
【0057】
【数1】

【0058】
近似式により求められる真性キャリア密度nは、伝導帯における実効状態密度Nc、価
電子帯における実効状態密度Nv、及びバンドギャップEgの関係式であり、数式1から
シリコンの真性キャリア密度nは1.4×1010cm−3、酸化物半導体(ここでは
、In−Ga−Zn−O膜)の真性キャリア密度nは1.2×10−7cm−3となる
。シリコンと比較して、酸化物半導体の真性キャリア密度が極端に低いことが分かる。
【0059】
次に、ゲート(G1)に負の電位(−VG)を印加した場合の空乏層幅及びデバイ長につ
いて、以下に説明する。
【0060】
ドナー密度Nの半導体と、絶縁物と、金属とで構成されるMOSトランジスタに電圧を
印加したときに、半導体中に形成される最大空乏層幅TD MAXは、数式2で求められ
る。
【0061】
【数2】

【0062】
最大空乏層幅はドナー密度及びフェルミポテンシャルの関数で表され、フェルミポテンシ
ャルφは数式3で求められる。
【0063】
【数3】

【0064】
また、MOSトランジスタのデバイ長Lは数式4で求められる。
【0065】
【数4】

【0066】
なお、εは酸化物半導体の比誘電率、εは真空の誘電率、Nはドナー密度、qは素
電荷、kはボルツマン定数、Tは温度を示す。
【0067】
シリコンのn(真性キャリア密度)を1.4×1010cm−3、εを11.9とし
、酸化物半導体のnを1.2×10−7cm−3、εを10として、シリコンを用い
たMOSトランジスタ、酸化物半導体を用いたMOSトランジスタ、それぞれの最大空乏
層幅、デバイ長を計算した結果を図9に示す。ここでのトランジスタは、チャネルが基板
表面に対して平行に形成される横型トランジスタの構造を用いて計算した。また、ここで
の最大空乏層幅は、基板に対して垂直方向に広がる空乏層の幅に相当する。なお、横型M
OSトランジスタの空乏層の広がりは、縦型MOSトランジスタにおいても同様の傾向が
みられるとしている。
【0068】
なお、シリコンの場合、ドナー密度は不純物(P)の密度に相当する。酸化物半導体の場
合、ドナーとしては酸素欠陥や水素が寄与する。
【0069】
図9(A)は、ドナー密度が1×1012cm−3から1×1018cm−3までの範囲
における酸化物半導体(OSと示す。)及びシリコン(Siと示す。)の最大空乏層幅及
びデバイ長を示す。太実線161は酸化物半導体の最大空乏層幅を示し、太一点鎖線16
3はシリコンの最大空乏層幅を示す。また、細実線165は酸化物半導体のデバイ長を示
し、細一点鎖線167はシリコンのデバイ長を示す。
【0070】
図9(B)は、ドナー密度が1×10−5cm−3から1×10cm−3までの範囲に
おける酸化物半導体の最大空乏層幅及びデバイ長を示す。なお、この密度範囲は、シリコ
ンの真性キャリア密度(n=1.4×1010cm−3)を下回るので、酸化物半導体
のみの計算結果を示す。太実線は酸化物半導体の最大空乏層幅を示し、細実線は酸化物半
導体のデバイ長を示す。
【0071】
図9より、ドナー密度が低いほど、最大空乏層が広がり、デバイ長が増大することが分か
る。また、最大空乏層幅TD MAXは真性キャリア密度nに依存し、nが少ない酸
化物半導体の方がシリコンよりも空乏層が広がることがわかる。また、酸化物半導体がn
型からi型になればなるほど、即ちドナー密度(N)が低減するほど、図9(B)に示
すように、最大空乏層幅が数十μmから数千μm、デバイ長が数μmから数百μmと大幅
に増大し、空乏層が酸化物半導体全体に広がることがわかる。
【0072】
以上のことから、酸化物半導体は、バンドギャップが広く、真性キャリア密度が低いため
、最大空乏層及びデバイ長が増大し、オフ状態においては酸化物半導体全体に空乏層が広
がるため、オフ電流を低減することができ、限りなくゼロに近くなる。
【0073】
なお、このように酸化物半導体の主成分以外の不純物が極力含まれないように高純度化す
ることにより真性(i型)とし、又は実質的に真性型とすることで、ゲート絶縁膜との界
面特性は顕在化する。そのためゲート絶縁膜は、酸化物半導体と良好な界面を形成できる
ものが好ましい。例えば、VHF帯〜マイクロ波帯の電源周波数で生成される高密度プラ
ズマを用いたCVD法で作製される緻密な絶縁膜、又はスパッタリング法で作製される絶
縁膜を用いることが好ましい。さらには、ゲート絶縁膜とゲート電極との界面を良好にす
るため、ゲート絶縁膜の表面に、VHF帯〜マイクロ波帯の電源周波数で生成される高密
度プラズマを用いたCVD法で作製される緻密な絶縁膜を形成してもよい。
【0074】
このように、酸化物半導体の主成分以外の不純物が極力含まれないように高純度化するこ
とにより、オン電流が高く、オフ電流が低く、オンオフ比の高い、良好な動作特性を有す
るトランジスタとなる。
【0075】
ここで、酸化物半導体を用いたトランジスタのドレイン耐性について説明する。
【0076】
半導体中の電界があるしきい値に達すると、衝突イオン化が生じ、空乏層内で高電界によ
り加速されたキャリアが結晶格子に衝突し、電子と正孔の対を生成する。さらに電界が高
くなると、衝突イオン化により発生した電子と正孔の対もさらに電界によって加速され、
衝突イオン化を繰り返し、電流が指数関数的に増加するアバランシェ降伏が生じる。衝突
イオン化は、キャリア(電子、正孔)が半導体のバンドギャップ以上の運動エネルギーを
有することにより発生する。衝突イオン化の起こりやすさを示す衝突イオン化係数とバン
ドギャップには相関があり、バンドギャップが大きいほど衝突イオン化係数が小さくなる
傾向が知られている。
【0077】
酸化物半導体のバンドギャップは、3.15eVであり、シリコンのバンドギャップの1
.12eVとくらべると、大きいため、アバランシェ降伏が起こりにくいと期待される。
このため、酸化物半導体を用いたトランジスタはドレイン耐圧が高くなり、高電界が印加
されてもオン電流の指数関数的急上昇が生じにくいと期待される。
【0078】
次に、酸化物半導体を用いたトランジスタのホットキャリア劣化について説明する。
【0079】
ホットキャリア劣化とは、高速に加速された電子がチャネル中のドレイン近傍でゲート酸
化膜中に注入されて固定電荷となったり、ゲート絶縁膜界面にトラップ準位を形成するこ
とにより、しきい電圧の変動やゲートリーク等のトランジスタ特性の劣化が生じることで
あり、ホットキャリア劣化の要因としては、チャネルホットエレクトロン注入(CHE注
入)とドレインアバランシェホットキャリア注入(DAHC注入)がある。
【0080】
シリコンはバンドギャップが狭いため、アバランシェ降伏によって雪崩的に電子が発生し
やすく、ゲート絶縁膜への障壁を越えられるほど高速に加速される電子数が増加する。し
かしながら、本実施の形態で示す酸化物半導体は、バンドギャップが広いため、アバラン
シェ降伏が生じにくく、シリコンと比べてホットキャリア劣化の耐性が高い。なお、高耐
圧材料の一つであるシリコンカーバイドのバンドキャップと酸化物半導体のバンドギャッ
プは同等であるため、SiCと同等の耐圧が期待される。
【0081】
以上のことから、酸化物半導体を用いたトランジスタはドレイン耐圧が高く、具体的には
100V以上、好ましくは500V、好ましくは1kV以上のドレイン耐圧を有すること
が可能である。
【0082】
ここで、トランジスタの代表例であるシリコンカーバイドと酸化物半導体の比較について
以下に示す。ここでは、シリコンカーバイドとして、4H−SiCを用いる。
【0083】
酸化物半導体と4H−SiCはいくつかの共通点を有している。真性キャリア密度はその
一例である。常温におけるフェルミ・ディラック分布を用いると、酸化物半導体の真性キ
ャリア密度は10−7cm−3程度と見積もられるが、これは、4H−SiCにおける6
.7×10−11cm−3と同様、極めて低い値である。
【0084】
また、酸化物半導体のエネルギーバンドギャップは3.0〜3.5eVであり、4H−S
iCのエネルギーバンドギャップは3.26eVであるから、ワイドギャップ半導体とい
う点においても、酸化物半導体とシリコンカーバイドとは共通している。
【0085】
しかしながら、酸化物半導体及びシリコンカーバイドにおいて、プロセス温度が大きく異
なる。シリコンカーバイドは例えば1500℃〜2000℃の活性化熱処理を必要とする
。一方、酸化物半導体は、300〜500℃(ガラス転移温度以下、最大でも700℃程
度)の熱処理で作製することが可能であり、大面積基板上にトランジスタを作製すること
ができる。また、スループットを高めることができる。
【0086】
SiC−MOSFETの作製工程においては、ドナーまたはアクセプターとなりうる不純
物(リン、ボロン等)のドーピング工程、及び活性化のための高温熱処理工程を含む。と
ころで、酸化物半導体はその電子親和力が比較的大きい。そのため、適切な仕事関数を持
つ金属を電極として選択することで、トランジスタ作製工程において不純物を添加しなく
とも電極とのオーミック接触を形成することができ、コンタクト部にn領域を形成しや
すい点で工程の簡略化を図れる。
【0087】
なお、酸化物半導体において、バンドギャップ内のDOS(density of st
ate)等の物性研究は多くなされているが、これらの研究は、エネルギーギャップ中の
DOSそのものを十分に減らすという思想を含まない。本実施の形態では、DOSの原因
たり得る水や水素を酸化物半導体中より除去することで、高純度化した酸化物半導体を作
製する。これは、DOSそのものを十分に減らすという思想に基づくものである。そして
、これによって極めて優れた工業製品の製造を可能とするものである。
【0088】
さらに、酸素欠乏により発生する金属の未結合手に対して酸素を供給し、酸素欠陥による
DOSを減少させることにより、いっそう高純度化された(i型の)酸化物半導体とする
ことも可能である。たとえば、チャネル形成領域に密接して酸素過剰の酸化膜を形成し、
当該酸化膜から酸素を供給して、酸素欠陥によるDOSを減少させることが可能である。
【0089】
酸化物半導体の欠陥は、過剰な水素による伝導帯の下0.1〜0.2eVの浅い準位や、
酸素の不足による深い準位、などに起因するものとされている。これらの欠陥を無くすた
めに、水素を徹底的に除去し、酸素を十分に供給する、という技術思想は正しいものであ
ろう。
【0090】
また、酸化物半導体は一般にn型とされているが、本実施の形態では、不純物、特に水や
水素を除去することによりi型化を実現する。この点、シリコンなどのように不純物を添
加してのi型化ではなく、従来にない技術思想を含むものといえる。
【0091】
また、酸化物半導体をi型化することにより、トランジスタの温度特性が良好であり、代
表的には、−25℃から150℃までの温度範囲において、トランジスタの電流電圧特性
において、オン電流、オフ電流、電界効果移動度、S値、及びしきい値電圧の変動がほと
んどなく、温度による電流電圧特性の変動がほとんどない。
【0092】
なお、本実施の形態で示す酸化物半導体を用いたトランジスタは、シリコンカーバイドを
用いたトランジスタと比較して、チャネル移動度がやや低いが、ドレイン電圧を高くする
、チャネル幅(W)を大きくすることで、トランジスタの電流値を高め、デバイス特性を
向上させることができる。
【0093】
本実施の形態の技術思想は、酸化物半導体中に、さらに不純物を加えることをせずに、逆
に不本意に存在する水、水素という不純物を意図的に除去することにより、酸化物半導体
自体を高純度化することである。すなわち、ドナー準位を構成する水または水素を除去し
、さらに酸素欠陥を低減し、酸化物半導体を構成する主成分材料の酸素を十分に供給する
ことにより、酸化物半導体を高純度化することである。
【0094】
酸化物半導体を成膜することで1020cm−3のレベルの水素がSIMS(二次イオン
質量分析)で測定される。このドナー準位の原因となる水または水素を意図的に除去し、
さらに水または水素の除去に伴い同時に減少してしまう酸素(酸化物半導体の成分の一つ
)を酸化物半導体に加えることにより、酸化物半導体を高純度化し、電気的にi型(真性
)半導体とする。
【0095】
また、本実施の形態においては、酸化物半導体中の水、水素の量は少なければ少ないほど
好ましく、キャリアも少なければ少ないほど良い。すなわち、キャリア密度は1×10
cm−3未満、好ましくは1×1012cm−3未満、さらに好ましくは測定限界以下
の1×1011cm−3未満が求められる。更には本実施の形態の技術思想的には、ゼロ
に近いまたはゼロが理想である。酸化物半導体のキャリアを低減し、好ましくは無くして
しまうことで、トランジスタにおいて酸化物半導体はソースから供給されたキャリア(電
子)を通過させる通路(パス)として機能させる。その結果、酸化物半導体は高純度化し
たi型(真性)半導体であり、キャリアがない、または極めて少なくせしめることにより
、トランジスタのオフ状態ではオフ電流を極めて低くできるというのが本実施の形態の技
術思想である。
【0096】
また、酸化物半導体は通路(パス)として機能し、酸化物半導体自体がキャリアを有さな
い、または極めて少ないように高純度化したi型(真性)とすると、キャリアは電極のソ
ース、ドレインにより供給される。供給の程度は、酸化物半導体の電子親和力χおよびフ
ェルミレベル、理想的には真性フェルミレベルと一致したフェルミレベルとソース、ドレ
インの電極の仕事関数よりも、バリアハイト(障壁高さ)が主に寄与する。
【0097】
ところで、チャネルが基板と概略平行に形成される横型トランジスタにおいては、チャネ
ルのほかにソース及びドレインを設ける必要があり、基板におけるトランジスタの占有面
積が大きくなってしまい、微細化の妨げとなる。しかしながら、縦型トランジスタにおい
ては、ソース、チャネル、及びドレインを積層するため、基板表面における占有面積を低
減することができる。この結果、トランジスタの微細化が可能である。
【0098】
このように、酸化物半導体膜の主成分以外の不純物、代表的には水素、水、水酸基または
水素化物などが極力含まれないように高純度化することにより、トランジスタの動作を良
好なものとすることができる。特に、耐圧を高め、ショートチャネル効果を抑制し、オン
オフ比を高めることができる。
【0099】
(実施の形態2)
本実施の形態では、実施の形態1と比較して、信頼性が高く、電界効果移動度が高いトラ
ンジスタの構造について、図2及び図3を用いて説明する。
【0100】
本実施の形態では、図2(A)に示すような第1の電極105及び第2の電極109の間
に設けられる酸化物半導体膜151aにおいて、表層部に結晶領域157を有することを
特徴とする。酸化物半導体膜151a及びゲート絶縁膜111の界面近傍の拡大図を図2
(B)に示す。
【0101】
酸化物半導体膜151aは、非晶質を主たる構成とする非晶質領域155と、酸化物半導
体膜151aの表層部に形成される結晶領域157とを有する。なお、表層部とは、表面
からの距離(深さ)が酸化物半導体膜の厚さの10%以下である領域である。
【0102】
ここで、非晶質領域155は、非晶質酸化物半導体膜を主たる構成としている。なお、「
主たる」とは、例えば、50%以上を占める状態をいい、この場合には、非晶質酸化物半
導体膜が体積%(または重量%)で50%以上を占める状態をいうものとする。つまり、
非晶質酸化物半導体膜以外にも、酸化物半導体膜の結晶などを含むことがあるが、その含
有率は体積%(または重量%)で50%未満であることが望ましいがこれらの範囲に限定
される必要はない。
【0103】
酸化物半導体膜の材料としてIn−Ga−Zn−O酸化物半導体膜を用いる場合には、上
記の非晶質領域155の組成は、Znの含有量(原子%)が、InまたはGaの含有量(
原子%)以上となるようにするのが好適である。このような組成とすることにより、所定
の組成の結晶領域157を形成することが容易になるためである。
【0104】
表層部の結晶領域157の結晶は、酸化物半導体膜151aの表面に対して略垂直な方向
にc軸(c−axis)が配向した結晶であり、当該結晶が隣接している。例えば、In
−Ga−Zn−O系の酸化物半導体材料を用いる場合には、結晶領域157の結晶は、I
nGaZnO結晶のc軸が酸化物半導体膜151aの表面に対して略垂直な方向に配向
したものとなる。なお、「表層部(表面の近傍)」とは、例えば、表面からの距離(深さ
)が20nm以下の領域をいう。
【0105】
上記InGaZnOの結晶は、In、Ga、Znのいずれかを含有し、a軸(a−ax
is)およびb軸(b−axis)に平行なレイヤーの積層構造として捉えることができ
る(図3参照)。すなわち、InGaZnOの結晶は、Inを含有する第1のレイヤー
と、Inを含有する第2のレイヤーと、Inを含有する第3のレイヤーと、がc軸方向に
積層された構造を備える。
【0106】
InGaZnO結晶の電気伝導は、主としてInによって制御されるため、Inを含有
する第1のレイヤー乃至第3のレイヤーの、a軸およびb軸に平行な方向に関する電気特
性は良好である。これは、Inを含有する第1のレイヤー乃至第3のレイヤーのいずれか
一以上では、一のInの5s軌道が、隣接するInの5s軌道と重なりを有することによ
り、キャリアパスが形成されるためである。
【0107】
このような結晶が配向することで、酸化物半導体膜151aの電気的特性にも影響が現れ
る。具体的には、例えば、酸化物半導体膜151aの表面と平行な方向の電気特性が向上
する。これは、InGaZnO結晶のc軸が酸化物半導体膜151aの表面に対して略
垂直な方向に配向しており、InGaZnO結晶において、a軸およびb軸に平行な方
向に電流が流れるためである。
【0108】
なお、結晶領域157の結晶構造は上記に限定されず、他の結晶構造の結晶を含んでいて
も良い。例えば、In−Ga−Zn−O系の酸化物半導体材料を用いる場合には、InG
aZnOの結晶に加え、InGaZnO、InGaZn等の結晶などを含
んでいても良い。もちろん、結晶領域157全体に渡ってInGaZnOの結晶が存在
する場合には、より効果的であり、好適である。
【0109】
以上において説明したように、酸化物半導体膜151aでは、表層部に結晶領域157を
有することで、良好な電気特性を実現できる。特に、結晶領域157が、InGaZnO
結晶のc軸が酸化物半導体膜151aの表面に対して略垂直な方向に配向したものを含
んで構成される場合には、InGaZnO結晶の電気特性によって、酸化物半導体膜1
51a表層部におけるキャリア移動度が上昇する。このため、当該酸化物半導体膜151
aを有するトランジスタの電界効果移動度が上昇し、良好な電気特性を実現できる。
【0110】
また、結晶領域157は、非晶質領域155と比較して安定であるため、これを酸化物半
導体膜151aの表層部に有することで、非晶質領域155に不純物(例えば水素、水、
水酸基または水素化物など)が取り込まれることを低減することが可能である。このため
、酸化物半導体膜151aの信頼性を向上させることができる。
【0111】
以上の工程により酸化物半導体膜中の水素の濃度を低減し、高純度化することができる。
それにより酸化物半導体膜の安定化を図ることができる。また、ガラス転移温度以下の加
熱処理で、キャリア密度が極端に低く、バンドギャップの広い酸化物半導体膜を形成する
ことができる。このため、大面積基板を用いてトランジスタを作製することができるため
、量産性を高めることができる。また、当該水素濃度が低減され高純度化された酸化物半
導体膜を用いることで、耐圧が高く、ショートチャネル効果に強く、オンオフ比の高いト
ランジスタを作製することができる。
【0112】
(実施の形態3)
本実施の形態では、耐熱性の高いトランジスタについて、図1を用いて説明する。
【0113】
図1に示す基板101において、放熱性の高い基板を用いることで、耐熱性の高いトラン
ジスタを作製することができる。放熱性の高い基板としては、半導体基板、金属基板、プ
ラスチック等があり、半導体基板の代表例としては、シリコンや炭化シリコンなどの単結
晶半導体基板、多結晶半導体基板、シリコンゲルマニウムなどの化合物半導体基板等があ
る。金属基板の代表例としては、アルミニウム基板、銅基板、ステンレス基板等がある。
プラスチック基板の代表例としては、カーボン繊維、金属繊維、金属片等を有するプラス
チックがある。なお、半導体基板、金属基板、及びプラスチック基板は、これらに限定さ
れず放熱性の高いものであれば、適宜用いることができる。
【0114】
また、図1に示す絶縁膜103として、熱伝導率の高い絶縁膜を形成することで、耐熱性
の高いトランジスタを作製することができる。熱伝導率の高い絶縁膜としては、窒化アル
ミウム膜、窒化酸化アルミニウム膜、窒化シリコン膜等がある。
【0115】
また、図1に示す第1の電極105と絶縁膜103の間に半導体膜を設けてもよい。半導
体膜の代表例としては、シリコン膜、ゲルマニウム膜、シリコンカーバイド膜、DLC(
Diamond Like Carbon)膜等がある。
【0116】
なお、以上の構成のいずれか一つ以上を用いることで、耐熱性の高いトランジスタを作製
することができる。
【0117】
(実施の形態4)
本実施の形態では、第1の電極105及び第2の電極109において、仕事関数の異なる
材料を用いて形成することを特徴とするトランジスタについて説明する。
【0118】
本実施の形態では、第1の電極105及び第2の電極109の一方が、酸化物半導体の電
子親和力以下の仕事関数の導電材料で形成され、第1の電極105及び第2の電極109
の他方が、酸化物半導体の電子親和力より大きい仕事関数の導電材料で形成される。
【0119】
例えば、酸化物半導体の電子親和力(χ)が4.3eVである場合、酸化物半導体の電子
親和力よりも大きい仕事関数の導電性材料の例として、タングステン(W)、モリブデン
(Mo)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、酸化インジウム錫(ITO)などを用いること
ができる。また、仕事関数が酸化物半導体の電子親和力以下である導電性材料の例として
、チタン(Ti)、イットリウム(Y)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)
、銀(Ag)、ジルコニウム(Zr)などを用いることができる。
【0120】
はじめに、ドレインとして機能する電極を酸化物半導体の電子親和力より仕事関数の大き
い導電性材料で形成し、ソースとして機能する電極を酸化物半導体の電子親和力以下の仕
事関数の導電性材料で形成する場合について、説明する。
【0121】
ドレインとして機能する電極を形成する導電性材料の仕事関数をφmdとし、ソースとし
て機能する電極を形成する導電性材料の仕事関数φmsとし、仕事関数φms、電子親和
力χ、及び仕事関数φmdの関係が、数式5で示す関係となるようにする。
φms≦χ<φmd (数5)
【0122】
このように、ソースとして機能する電極の仕事関数が、酸化物半導体の電子親和力以下で
あるため、トランジスタがオン状態における障壁(例えば図5(B)のh)を低減でき、
低いゲート電圧でオン状態となり、大電流を流すことができる。
【0123】
一方、仕事関数φmd、電子親和力χ、及び仕事関数φmsの関係が、数式6で示す関係
となるようにする。
φmd≦χ<φms (数6)
【0124】
このように、ソースとして機能する電極の仕事関数が、酸化物半導体の電子親和力より大
きいため、トランジスタの障壁が高くなる。このため、オフ状態における電流を低減する
ことができる。
【0125】
なお、ソースとして機能する電極を第1の電極105及び第2の電極109の一方とし、
ドレインとして機能する電極を第1の電極105及び第2の電極109の他方とすること
ができる。
【0126】
以上のことから、第1の電極105及び第2の電極109の一方が、酸化物半導体の電子
親和力以下の仕事関数の導電材料で形成され、第1の電極105及び第2の電極109の
他方が、酸化物半導体の電子親和力より大きい仕事関数の導電材料で形成されることで、
トランジスタのオン特性またはオフ特性を向上させることができる。
【0127】
(実施の形態5)
本実施の形態では、図1または図2に示すトランジスタの製造工程について、図10を用
いて説明する。
【0128】
図10(A)に示すように、基板101上に絶縁膜103を形成し、絶縁膜103上に第
1の電極105を形成する。第1の電極105は、トランジスタのソース電極及びドレイ
ン電極の一方として機能する。
【0129】
絶縁膜103は、スパッタリング法、CVD法、塗布法などで形成することができる。
【0130】
なお、スパッタリング法で絶縁膜103を形成する場合、処理室内に残留する水素、水、
水酸基または水素化物などを除去しつつ絶縁膜103を形成することが好ましい。これは
、絶縁膜103に水素、水、水酸基または水素化物などが含まれないようにするためであ
る。処理室内に残留する水素、水、水酸基または水素化物などを除去するためには、吸着
型の真空ポンプを用いることが好ましい。吸着型の真空ポンプとしては、例えば、クライ
オポンプ、イオンポンプ、チタンサブリメーションポンプを用いることが好ましい。また
、排気手段としては、ターボポンプにコールドトラップを加えたものであってもよい。ク
ライオポンプを用いて排気した処理室では、不純物、特に水素、水、水酸基または水素化
物などが排気されるため、当該処理室で絶縁膜103を形成すると、絶縁膜103に含ま
れる不純物の濃度を低減できる。
【0131】
また、絶縁膜103を形成する際に用いるスパッタガスは、水素、水、水酸基または水素
化物などの不純物が濃度ppm程度、濃度ppb程度まで除去された高純度ガスを用いる
ことが好ましい。
【0132】
スパッタリング法にはスパッタ用電源に高周波電源を用いるRFスパッタリング法、直流
電源を用いるDCスパッタリング法、さらにパルス的にバイアスを与えるパルスDCスパ
ッタリング法がある。RFスパッタリング法は主に絶縁膜を形成する場合に用いられ、D
Cスパッタリング法は主に金属膜を形成する場合に用いられる。
【0133】
また、材料の異なるターゲットを複数設置できる多元スパッタ装置もある。多元スパッタ
装置は、同一チャンバーで異なる材料の膜を積層形成することも、同一チャンバーで複数
種類の材料を同時に放電させて形成することもできる。
【0134】
また、チャンバー内部に磁石機構を備えたマグネトロンスパッタリング法を用いるスパッ
タ装置や、グロー放電を使わずマイクロ波を用いて発生させたプラズマを用いるECRス
パッタリング法を用いるスパッタ装置がある。
【0135】
また、スパッタリング法として、成膜中にターゲット物質とスパッタガス成分とを化学反
応させてそれらの化合物薄膜を形成するリアクティブスパッタリング法や、成膜中に基板
にも電圧をかけるバイアススパッタリング法を用いることもできる。
【0136】
本明細書のスパッタリングにおいては、上記したスパッタリング装置及びスパッタリング
方法を適宜用いることができる。
【0137】
本実施の形態では、基板101を処理室へ搬送し、水素、水、水酸基または水素化物など
が除去された高純度酸素を含むスパッタガスを導入し、シリコンターゲットを用いて、基
板101に絶縁膜103として、酸化シリコン膜を形成する。なお、絶縁膜103を形成
する際は、基板101は加熱されていてもよい。
【0138】
例えば、石英(好ましくは合成石英)を用い、基板温度108℃、基板とターゲットの間
との距離(T−S間距離)を60mm、圧力0.4Pa、高周波電源1.5kW、酸素及
びアルゴン(酸素流量25sccm:アルゴン流量25sccm=1:1)雰囲気下でR
Fスパッタリング法により酸化シリコン膜を形成する。膜厚は100nmとするとよい。
なお、石英(好ましくは合成石英)に代えてシリコンターゲットを用いることができる。
なお、スパッタガスとして、酸素、または酸素及びアルゴンの混合ガスを用いて行う。
【0139】
また、絶縁膜103を積層構造で形成する場合、例えば、酸化シリコン膜と基板との間に
水素、水、水酸基または水素化物などが除去された高純度窒素を含むスパッタガス及びシ
リコンターゲットを用いて窒化シリコン膜を形成する。この場合においても、酸化シリコ
ン膜と同様に、処理室内に残留する水素、水、水酸基または水素化物などを除去しつつ窒
化シリコン膜を形成することが好ましい。なお、当該工程において、基板101は加熱さ
れていてもよい。
【0140】
絶縁膜103として窒化シリコン膜及び酸化シリコン膜を積層する場合、窒化シリコン膜
と酸化シリコン膜を同じ処理室において、共通のシリコンターゲットを用いて形成するこ
とができる。先に窒素を含むスパッタガスを導入して、処理室内に装着されたシリコンタ
ーゲットを用いて窒化シリコン膜を形成し、次に酸素を含むスパッタガスに切り替えて同
じシリコンターゲットを用いて酸化シリコン膜を形成する。窒化シリコン膜及び酸化シリ
コン膜を大気に曝露せずに連続して形成することができるため、窒化シリコン膜表面に水
素、水、水酸基または水素化物などの不純物が吸着することを防止することができる。
【0141】
第1の電極105は、基板101上に導電膜をスパッタリング法、CVD法、または真空
蒸着法で形成し、当該導電膜上にフォトリソグラフィ工程によりレジストマスク形成し、
当該レジストマスクを用いて導電膜をエッチングして、形成することができる。または、
フォトリソグラフィ工程を用いず、印刷法、インクジェット法で第1の電極105を形成
することで、工程数を削減することができる。なお、第1の電極105の端部をテーパ形
状とすると、後に形成されるゲート絶縁膜の被覆性が向上するため好ましい。第1の電極
105の端部と絶縁膜103のなす角の角度を30°以上60°以下、好ましくは40°
以上50°以下とすることで、後に形成されるゲート絶縁膜の被覆性を向上させることが
できる。
【0142】
本実施の形態では、第1の電極105となる導電膜として、スパッタリング法により膜厚
50nmのチタン膜を形成し、厚さ100nmのアルミニウム膜を形成し、厚さ50nm
のチタン膜を形成する。次に、フォトリソグラフィ工程により形成したレジストマスクを
用いてエッチングして、第1の電極105を形成する。
【0143】
次に、図10(B)に示すように、第1の電極105上に酸化物半導体膜107及び第2
の電極109を形成する。酸化物半導体膜107はトランジスタのチャネル形成領域とし
て機能し、第2の電極109はトランジスタのソース電極及びドレイン電極の他方として
機能する。
【0144】
ここで、酸化物半導体膜107及び第2の電極109の作製方法について、説明する。
【0145】
基板101及び第1の電極105上にスパッタリング法、塗布法、印刷法等により酸化物
半導体膜を形成する。次に、酸化物半導体膜上に導電膜を形成する。本実施の形態では、
スパッタリング法により酸化物半導体膜を形成する。
【0146】
酸化物半導体膜107に水素がなるべく含まれないようにするために、前処理として、ス
パッタリング装置の予備加熱室で第1の電極105が形成された基板101を予備加熱し
、基板101に吸着した水素、水、水酸基または水素化物などの不純物を脱離し排気する
ことが好ましい。なお、予備加熱室に設ける排気手段はクライオポンプが好ましい。なお
、この予備加熱の処理は省略することもできる。またこの予備加熱は、後に形成するゲー
ト絶縁膜111の形成前の基板101に行ってもよいし、後に形成する第3の電極113
形成前の基板101に行ってもよい。
【0147】
なお、酸化物半導体膜をスパッタリング法により形成する前に、アルゴンガスを導入して
プラズマを発生させる逆スパッタを行い、第1の電極105の表面に付着しているパーテ
ィクルを除去することで、第1の電極105及び酸化物半導体膜の界面における抵抗を低
減することができるため好ましい。逆スパッタとは、ターゲット側に電圧を印加せずに、
アルゴン雰囲気下で基板側に高周波電源を用いて電圧を印加して基板近傍にプラズマを形
成して表面を改質する方法である。なお、アルゴン雰囲気に代えて窒素、ヘリウムなどを
用いてもよい。
【0148】
本実施の形態では、In−Ga−Zn−O系金属酸化物ターゲットを用いたスパッタリン
グ法により酸化物半導体膜を形成する。また、酸化物半導体膜は、希ガス(代表的にはア
ルゴン)雰囲気下、酸素雰囲気下、または希ガス(代表的にはアルゴン)及び酸素雰囲気
下においてスパッタリング法により形成することができる。また、スパッタリング法を用
いる場合、SiOを2重量%以上10重量%以下含むターゲットを用いて形成してもよ
い。
【0149】
酸化物半導体膜を形成する際に用いるスパッタガスは水素、水、水酸基または水素化物な
どの不純物が、濃度ppm程度、濃度ppb程度まで除去された高純度ガスを用いること
が好ましい。
【0150】
酸化物半導体膜をスパッタリング法で作製するためのターゲットとして、酸化亜鉛を主成
分とする金属酸化物のターゲットを用いることができる。また、金属酸化物のターゲット
の他の例としては、In、Ga、及びZnを含む金属酸化物ターゲット(組成比として、
In:Ga:ZnO=1:1:1[mol数比]を用いることができる。ま
た、In、Ga、及びZnを含む金属酸化物ターゲットとして、In:Ga:Zn=1:
1:2[atom比]、またはIn:Ga:Zn=1:1:4[atom比]の組成比を
有するターゲットを用いることもできる。金属酸化物ターゲットの充填率は90%以上1
00%以下、好ましくは95%以上99.9%以下である。充填率の高い金属酸化物ター
ゲットを用いて形成した酸化物半導体膜は緻密な膜となる。
【0151】
酸化物半導体膜は、減圧状態に保持された処理室内に基板を保持し、処理室内に残留する
水を除去しつつ、水素、水、水酸基または水素化物などが除去されたスパッタリングガス
を導入し、金属酸化物をターゲットとして基板101上に酸化物半導体膜を形成する。処
理室内に残留する水素、水、水酸基または水素化物などを除去するためには、吸着型の真
空ポンプを用いることが好ましい。例えば、クライオポンプ、イオンポンプ、チタンサブ
リメーションポンプを用いることが好ましい。また、排気手段としては、ターボポンプに
コールドトラップを加えたものであってもよい。クライオポンプを用いて排気した処理室
は、例えば、水素、水、水酸基または水素化物など(より好ましくは炭素原子を含む化合
物も含む。)が排気されるため、酸化物半導体膜に含まれる不純物の濃度を低減できる。
また、基板を加熱しながら酸化物半導体膜を形成してもよい。
【0152】
本実施の形態では、酸化物半導体膜の成膜条件の一例として、基板温度は室温、基板とタ
ーゲットの間との距離を110mm、圧力0.4Pa、直流(DC)電源0.5kW、酸
素及びアルゴン(酸素流量15sccm:アルゴン流量30sccm)雰囲気下の条件が
適用される。なお、パルス直流(DC)電源を用いると、成膜時に発生する粉状物質(パ
ーティクル、ゴミともいう。)が軽減でき、膜厚分布も均一となるために好ましい。酸化
物半導体膜の厚さは、1μm以上、好ましくは3μmより大、より好ましくは10μm以
上とする。なお、適用する酸化物半導体膜材料により適切な厚みは異なり、材料に応じて
適宜厚みを選択すればよい。
【0153】
第2の電極109となる導電膜は、第1の電極105の材料及び手法を適宜用いることが
できる。ここでは、第2の電極109となる導電膜として、厚さ50nmのチタン膜、厚
さ100nmのアルミニウム膜、及び厚さ50nmのチタン膜を順に積層する。
【0154】
次に、フォトリソグラフィ工程により導電膜上にレジストマスクを形成し、当該レジスト
マスクを用いて第2の電極109となる導電膜及び酸化物半導体膜107となる酸化物半
導体膜をエッチングして、島状の第2の電極109及び島状の酸化物半導体膜107を形
成する。なお、フォトリソグラフィ工程により形成したレジストマスクの代わりに、イン
クジェット法を用いてレジストマスクを作製することで、工程数を削減することができる
。当該エッチングにより、第2の電極109及び酸化物半導体膜107の端部と、第1の
電極105の表面となす角の角度を30°以上60°以下、好ましくは40°以上50°
以下とすることで、後に形成されるゲート絶縁膜の被覆性を向上させることができるため
好ましい。
【0155】
なお、ここでの導電膜及び酸化物半導体膜のエッチングは、ドライエッチングでもウェッ
トエッチングでもよく、両方を用いてもよい。所望の形状の酸化物半導体膜107及び第
2の電極109を形成するために、材料に合わせてエッチング条件(エッチング液、エッ
チング時間、温度など)を適宜調節する。
【0156】
なお、第2の電極109となる導電膜及び酸化物半導体膜と、第1の電極105とのエッ
チングレートが異なる場合は、第1の電極105のエッチングレートが低く、第2の電極
109となる導電膜及び酸化物半導体膜のエッチングレートの高い条件を選択する。また
は、酸化物半導体膜のエッチングレートが低く、第2の電極109となる導電膜のエッチ
ングレートの高い条件を選択して、第2の電極109となる導電膜をエッチングした後、
第1の電極105のエッチングレートが低く、酸化物半導体膜のエッチングレートの高い
条件を選択する。
【0157】
酸化物半導体膜をウェットエッチングするエッチング液としては、燐酸と酢酸と硝酸を混
ぜた溶液、アンモニア過水(過酸化水素:アンモニア水:水=5:2:2)などを用いる
ことができる。また、ITO07N(関東化学社製)を用いてもよい。
【0158】
また、ウェットエッチング後のエッチング液はエッチングされた材料とともに洗浄によっ
て除去される。その除去された材料を含むエッチング液の廃液を精製し、含まれる材料を
再利用してもよい。当該エッチング後の廃液から酸化物半導体膜に含まれるインジウムな
どの材料を回収して再利用することにより、資源を有効活用し低コスト化することができ
る。
【0159】
また、酸化物半導体膜をドライエッチングする際に用いるエッチングガスとしては、塩素
を含むガス(塩素系ガス、例えば塩素(Cl)、塩化硼素(BCl)、塩化珪素(S
iCl)、四塩化炭素(CCl)など)が好ましい。
【0160】
また、フッ素を含むガス(フッ素系ガス、例えば四弗化炭素(CF)、六弗化硫黄(S
)、三弗化窒素(NF)、トリフルオロメタン(CHF)など)、臭化水素(H
Br)、酸素(O)、これらのガスにヘリウム(He)やアルゴン(Ar)などの希ガ
スを添加したガス、などを用いることができる。
【0161】
ドライエッチング法としては、平行平板型RIE(Reactive Ion Etch
ing)法や、ICP(Inductively Coupled Plasma:誘導
結合型プラズマ)エッチング法を用いることができる。所望の加工形状にエッチングでき
るように、エッチング条件(コイル型の電極に印加される電力量、基板側の電極に印加さ
れる電力量、基板側の電極温度など)を適宜調節する。
【0162】
本実施の形態では、エッチャントとしてアンモニア過水を用いて、第2の電極109とな
る導電膜をエッチングした後、燐酸と酢酸と硝酸を混ぜた溶液で酸化物半導体膜をエッチ
ングして、酸化物半導体膜107を形成する。
【0163】
次に、本実施の形態では、第1の加熱処理を行う。第1の加熱処理の温度は、400℃以
上750℃以下、好ましくは400℃以上基板の歪み点未満とする。ここでは、加熱処理
装置の一つである電気炉に基板を導入し、酸化物半導体膜に対して窒素、希ガスなどの不
活性ガス雰囲気下において450℃、1時間の加熱処理を行った後、大気に触れさせない
ことで、酸化物半導体膜への水素、水、水酸基または水素化物などの再侵入を防ぐことが
可能であり水素濃度が低減され高純度化され、i型化または実質的にi型化された酸化物
半導体膜を得ることができる。即ち、この第1の加熱処理によって酸化物半導体膜107
の脱水化及び脱水素化の少なくとも一方を行うことができる。
【0164】
なお、第1の加熱処理においては、窒素、またはヘリウム、ネオン、アルゴンなどの希ガ
スに、水素、水、水酸基または水素化物などが含まれないことが好ましい。または、加熱
処理装置に導入する窒素、またはヘリウム、ネオン、アルゴンなどの希ガスの純度を、6
N(99.9999%)以上、好ましくは7N(99.99999%)以上、(即ち不純
物濃度を1ppm以下、好ましくは0.1ppm以下)とすることが好ましい。
【0165】
また、第1の加熱処理の条件、または酸化物半導体膜の材料によっては、酸化物半導体膜
が結晶化せず、図1(B)に示す酸化物半導体膜107となる。このような条件の一つは
、加熱温度が400℃以上550℃未満、好ましくは400℃以上500℃未満である。
また、このような条件の一つは、スパッタリング法により形成されるIn−Ga−Zn−
O系の酸化物半導体の場合は、ターゲットのInの含有量(原子%)及びGaの含有量(
原子%)に対して、Znの含有量(原子%)が1未満(代表的にはIn:Ga:Zn=1
:1:0.5)の場合、酸化物半導体膜は結晶化せず、図1(B)に示す酸化物半導体膜
107となる。
【0166】
また、第1の加熱条件、または酸化物半導体膜の材料によっては、酸化物半導体膜は結晶
化し、結晶を有する酸化物半導体膜となる場合もある。例えば、結晶化率が90%以上、
または80%以上の結晶を有する酸化物半導体膜となる場合もある。
【0167】
また、第1の加熱条件、または酸化物半導体膜の材料によっては、非晶質の酸化物半導体
膜の表層部に結晶領域が形成される酸化物半導体膜となる場合もある。このような条件の
一つは、加熱温度が500℃以上750℃以下、好ましくは550℃以上基板の歪み点未
満である。また、このような条件の一つは、スパッタリング法により形成されるIn−G
a−Zn−O系の酸化物半導体の場合は、ターゲットのInの含有量(原子%)及びGa
の含有量(原子%)に対して、Znの含有量(原子%)が1以上(代表的にはIn:Ga
:Zn=1:1:1)の場合、図2(B)に示すような、酸化物半導体膜の表層部に結晶
領域157を有する酸化物半導体膜151aとなる。
【0168】
また、酸化物半導体膜の第1の加熱処理は、島状の酸化物半導体膜を形成する前の酸化物
半導体膜に行ってもよい。その場合には、第1の加熱処理後に、加熱装置から基板を取り
出し、フォトリソグラフィ工程を行う。
【0169】
なお、酸化物半導体膜に対する脱水化、脱水素化の効果を奏する加熱処理は、酸化物半導
体膜を形成した後、酸化物半導体膜上に第2の電極となる導電膜を積層した後、第1の電
極、酸化物半導体膜及び第2の電極上にゲート絶縁膜を形成した後、またはゲート電極を
形成した後のいずれで行ってもよい。
【0170】
次に、図10(C)に示すように、第1の電極105、酸化物半導体膜107、第2の電
極109上にゲート絶縁膜111を形成する。
【0171】
不純物を除去することによりi型化または実質的にi型化された酸化物半導体膜(水素濃
度が低減され高純度化された酸化物半導体膜)は界面準位、界面電荷に対して極めて敏感
であるため、ゲート絶縁膜111との界面は重要である。そのため高純度化された酸化物
半導体膜に接するゲート絶縁膜111は、高品質化が要求される。
【0172】
例えば、μ波(2.45GHz)を用いた高密度プラズマCVDにより、緻密で絶縁耐圧
の高い高品質な絶縁膜を形成できるので好ましい。水素濃度が低減され高純度化された酸
化物半導体膜と高品質ゲート絶縁膜とが密接することにより、界面準位を低減して界面特
性を良好なものとすることができるからである。
【0173】
もちろん、ゲート絶縁膜として良質な絶縁膜を形成できるものであれば、スパッタリング
法やプラズマCVD法など他の成膜方法を適用することができる。また、ゲート絶縁膜の
形成後の加熱処理によってゲート絶縁膜の膜質、酸化物半導体膜との界面特性が改質され
る絶縁膜であっても良い。いずれにしても、ゲート絶縁膜としての膜質が良好であること
は勿論のこと、酸化物半導体膜との界面準位密度を低減し、良好な界面を形成できるもの
であれば良い。
【0174】
さらに、85℃、2×10V/cm、12時間のゲートバイアス・熱ストレス試験(B
T試験)においては、不純物が酸化物半導体膜に添加されていると、不純物と酸化物半導
体膜の主成分との結合が、強電界(B:バイアス)と高温(T:温度)により切断され、
生成された未結合手がしきい値電圧(Vth)のドリフトを誘発することとなる。
【0175】
これに対して、酸化物半導体膜の不純物、特に水素や水などを極力除去し、上記のように
ゲート絶縁膜との界面特性を良好にすることにより、BT試験に対しても安定なトランジ
スタを得ることを可能としている。
【0176】
スパッタリング法でゲート絶縁膜111を形成することでゲート絶縁膜111中の水素濃
度を低減することができる。スパッタリング法により酸化シリコン膜を形成する場合には
、ターゲットとしてシリコンターゲットまたは石英ターゲットを用い、スパッタガスとし
て酸素または、酸素及びアルゴンの混合ガスを用いて行う。
【0177】
なお、酸化物半導体膜に接して設けられる絶縁膜にハロゲン元素(例えば、フッ素または
塩素)を含ませ、または酸化物半導体膜を露出させた状態でハロゲン元素を含むガス雰囲
気中でのプラズマ処理によって酸化物半導体膜にハロゲン元素を含ませ、酸化物半導体膜
または該酸化物半導体膜に接して設けられる絶縁膜との界面に存在しうる、水素、水、水
酸基又は水素化物(水素化合物ともいう)などの不純物を排除してもよい。絶縁膜にハロ
ゲン元素を含ませる場合には、該絶縁膜中におけるハロゲン元素濃度は、5×1018
−3〜1×1020cm−3程度とすればよい。
【0178】
また、上記したように酸化物半導体膜中または酸化物半導体膜とこれに接する絶縁膜との
界面にハロゲン元素を含ませ、酸化物半導体膜と接して設けられた絶縁膜が酸化物絶縁膜
である場合には、酸化物半導体膜と接しない側の酸化物絶縁膜を、窒素物絶縁膜で覆うこ
とが好ましい。すなわち、酸化物半導体膜に接する酸化物絶縁膜の上に接して窒化シリコ
ン膜などを設ければよい。このような構造とすることで、水素、水、水酸基又は水素化物
などの不純物が酸化物絶縁膜に侵入することを低減することができる。
【0179】
ゲート絶縁膜111は、第1の電極105、酸化物半導体膜107、及び第2の電極10
9側から酸化シリコン膜と窒化シリコン膜を積層した構造とすることもできる。例えば、
第1のゲート絶縁膜として膜厚5nm以上300nm以下の酸化シリコン膜(SiO
x>0))を形成し、第1のゲート絶縁膜上に第2のゲート絶縁膜としてスパッタリング
法により膜厚50nm以上200nm以下の窒化シリコン膜(SiN(y>0))を積
層して、膜厚100nmのゲート絶縁膜としてもよい。本実施の形態では、圧力0.4P
a、高周波電源1.5kW、酸素及びアルゴン(酸素流量25sccm:アルゴン流量2
5sccm=1:1)雰囲気下でRFスパッタリング法により膜厚100nmの酸化シリ
コン膜を形成する。
【0180】
次に、不活性ガス雰囲気下、または酸素ガス雰囲気下で第2の加熱処理(好ましくは20
0℃以上400℃以下、例えば250℃以上350℃以下)を行う。当該加熱処理により
、第1の加熱処理で発生した酸素欠陥に酸素を供給することで、ドナーとなる酸素欠陥を
低減し、化学量論比を満たす構成とすることが可能であり、酸化物半導体膜107をi型
化または実質的にi型化にすることができる。なお、当該第2の加熱処理は、のちに形成
される第3の電極113、絶縁膜117、または配線125、129のいずれかを形成し
た後に行ってもよい。当該加熱処理により、酸化物半導体膜中に含まれる水素若しくは水
をゲート絶縁膜に拡散させることができる。
【0181】
次に、ゲート絶縁膜111上にゲート電極として機能する第3の電極113を形成する。
【0182】
第3の電極113は、ゲート絶縁膜111上に第3の電極113となる導電膜をスパッタ
リング法、CVD法、または真空蒸着法で形成し、当該導電膜上にフォトリソグラフィ工
程によりレジストマスクを形成し、当該レジストマスクを用いて導電膜をエッチングして
、形成することができる。
【0183】
本実施の形態では、厚さ150nmのチタン膜をスパッタリング法により形成した後、フ
ォトリソグラフィ工程により形成したレジストマスクを用いてエッチングして、第3の電
極113を形成する。
【0184】
以上の工程で、水素濃度が低減され高純度化された酸化物半導体膜107を有するトラン
ジスタ145を形成することができる。
【0185】
次に、図11(A)に示すように、ゲート絶縁膜111及び第3の電極113上に絶縁膜
117を形成した後、コンタクトホール119、123を形成する。
【0186】
絶縁膜117は、酸化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜、酸化アルミニウム膜、または酸
化窒化アルミニウム膜などの酸化物絶縁膜、窒化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜、窒化
アルミニウム膜、または窒化酸化アルミニウム膜などの窒化物絶縁膜を用いる。または、
酸化物絶縁膜及び窒化物絶縁膜の積層とすることもできる。
【0187】
絶縁膜117は、スパッタリング法、CVD法などで形成する。なお、スパッタリング法
で絶縁膜117を形成する場合、基板101を100℃〜400℃の温度に加熱し、水素
、水、水酸基または水素化物などが除去された高純度窒素を含むスパッタガスを導入しシ
リコンターゲットを用いて絶縁膜を形成してもよい。この場合においても、処理室内に残
留する水素、水、水酸基または水素化物などを除去しつつ絶縁膜を形成することが好まし
い。
【0188】
なお、絶縁膜117の形成後、さらに、大気中、100℃以上200℃以下、1時間以上
30時間以下での加熱処理を行ってもよい。この加熱処理によって、ノーマリーオフとな
るトランジスタを得ることができる。よって表示装置や半導体装置の信頼性を向上できる

【0189】
コンタクトホール119、123は、フォトリソグラフィ工程によりレジストマスクを形
成し、選択的にエッチングを行ってゲート絶縁膜111及び絶縁膜117の一部を除去し
て、第1の電極105、第2の電極109、及び第3の電極113に達するコンタクトホ
ール119、123を形成する。
【0190】
次に、ゲート絶縁膜111、及びコンタクトホール119、123上に導電膜を形成した
後、フォトリソグラフィ工程により形成したレジストマスクを用いてエッチングして、配
線125、129を形成する(図11(B)参照)。なお、レジストマスクをインクジェ
ット法で形成してもよい。レジストマスクをインクジェット法で形成するとフォトマスク
を使用しないため、製造コストを削減できる。
【0191】
配線125、129は、第1の電極105と同様に形成することができる。
【0192】
なお、第3の電極113及び配線125、129の間に平坦化のための平坦化絶縁膜を設
けてもよい。平坦化絶縁膜の代表例としては、ポリイミド、アクリル、ベンゾシクロブテ
ン、ポリアミド、エポキシなどの、耐熱性を有する有機材料を用いることができる。また
上記有機材料の他に、低誘電率材料(low−k材料)、シロキサン系樹脂、PSG(リ
ンガラス)、BPSG(リンボロンガラス)などがある。なお、これらの材料で形成され
る絶縁膜を複数積層させることで、平坦化絶縁膜を形成してもよい。
【0193】
なおシロキサン系樹脂とは、シロキサン系材料を出発材料として形成されたSi−O−S
i結合を含む樹脂に相当する。シロキサン系樹脂は置換基としては有機基(例えばアルキ
ル基やアリール基)やフルオロ基を用いてもよい。また、有機基はフルオロ基を有してい
てもよい。
【0194】
平坦化絶縁膜の形成法は、特に限定されず、その材料に応じて、スパッタリング法、SO
G法、スピンコート、ディップ、スプレー塗布、液滴吐出法(インクジェット法、スクリ
ーン印刷、オフセット印刷など)、ドクターナイフ、ロールコーター、カーテンコーター
、ナイフコーターなどを用いることができる。
【0195】
上記のように酸化物半導体膜中の水素の濃度を低減し、高純度化することができる。それ
により酸化物半導体膜の安定化を図ることができる。また、ガラス転移温度以下の加熱処
理で、キャリア密度が極端に少なく、バンドギャップの広い酸化物半導体膜を形成するこ
とができる。このため、大面積基板を用いてトランジスタを作製することができるため、
量産性を高めることができる。また、当該水素濃度が低減され高純度化された酸化物半導
体膜を用いることで、耐圧が高く、ショートチャネル効果に強く、オンオフ比の高いトラ
ンジスタを作製することができる。
【0196】
本実施の形態は、他の実施の形態に記載した構成と適宜組み合わせて実施することが可能
である。
【0197】
(実施の形態6)
本実施の形態では、実施の形態2に示すトランジスタの作製方法について、図10及び図
12を用いて説明する。
【0198】
実施の形態5と同様に、図10(A)に示すように、基板101上に絶縁膜103及び第
1の電極105を形成する。次に、図10(B)に示すように、第1の電極105上に酸
化物半導体膜107及び第2の電極109を形成する。
【0199】
次に、第1の加熱処理を行う。本実施の形態における第1の加熱処理は、上記実施の形態
における第1の加熱処理とは異なるものであり、当該加熱処理によって、図12に示すよ
うに、表層部に結晶領域157が形成される酸化物半導体膜151aを形成することがで
きる。
【0200】
本実施の形態では、抵抗発熱体などの発熱体からの熱伝導及び熱輻射の少なくとも一方に
よって被処理物を加熱する装置を用いて第1の加熱処理を行う。ここで、加熱処理の温度
は500℃以上750℃以下、好ましくは550℃以上基板の歪み点未満とすることが好
適である。なお、加熱処理温度の上限に関し、発明の本質的な部分からの要求はないが、
加熱処理温度の上限は基板101の耐熱性の範囲内とする必要がある。また、加熱処理の
時間は、1分以上10分以下とすることが好適である。上述のようなRTA処理を適用す
ることで、短時間に加熱処理を行うことができるため、基板101に対する熱の影響を小
さくすることができる。つまり、加熱処理を長時間行う場合と比較して、加熱処理温度の
上限を引き上げることが可能である。また、酸化物半導体膜の表面近傍に、所定の構造の
結晶領域を選択的に形成することが可能である。
【0201】
本実施の形態で用いることができる加熱装置としては、GRTA(Gas Rapid
Thermal Anneal)装置、LRTA(Lamp Rapid Therma
l Anneal)装置などのRTA(Rapid Thermal Anneal)装
置などがある。LRTA装置は、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、キセノンアー
クランプ、カーボンアークランプ、高圧ナトリウムランプ、高圧水銀ランプなどのランプ
から発する光(電磁波)の輻射により、被処理物を加熱する装置である。GRTA装置は
、高温のガスを用いて加熱処理を行う装置である。気体には、アルゴンなどの希ガス、ま
たは窒素のような、加熱処理によって被処理物と反応しない不活性気体が用いられる。
【0202】
例えば、第1の加熱処理として、650℃〜700℃の高温に加熱した窒素または希ガス
などの不活性ガス雰囲気に基板を移動し、数分間加熱した後、高温に加熱した不活性ガス
中から基板を出すGRTAを行ってもよい。GRTAを用いると短時間での高温加熱処理
が可能となる。
【0203】
なお、第1の加熱処理においては、窒素、またはヘリウム、ネオン、アルゴンなどの希ガ
スに、水素、水、水酸基または水素化物などが含まれないことが好ましい。または、加熱
処理装置に導入する窒素、またはヘリウム、ネオン、アルゴンなどの希ガスの純度を、6
N(99.9999%)以上、好ましくは7N(99.99999%)以上、(即ち不純
物濃度を1ppm以下、好ましくは0.1ppm以下)とすることが好ましい。
【0204】
なお、上記の加熱処理は、酸化物半導体膜を形成した後であればいずれのタイミングで行
ってもよいが、脱水化または脱水素化を促進させるためには、酸化物半導体膜107の表
面に他の構成要素を設ける前に行うのが好適である。また、上記の加熱処理は、一回に限
らず、複数回行っても良い。
【0205】
この後、実施の形態5と同様に、ゲート絶縁膜と、ゲート電極として機能する第3の電極
を形成してトランジスタを作製する。
【0206】
酸化物半導体膜151aの表面に結晶領域157を有することで、ソース及びドレイン間
の抵抗が低減すると共に、酸化物半導体膜151a表面におけるキャリア移動度が向上す
る。このため、当該酸化物半導体膜151aを有するトランジスタの電界効果移動度が高
く、良好な電気特性を実現できる。
【0207】
また、結晶領域157は、非晶質領域155と比較して安定であるため、これを酸化物半
導体膜151の表面近傍に有することで、非晶質領域155に不純物(例えば水素、水、
水酸基または水素化物など)が取り込まれることを低減することが可能である。このため
、酸化物半導体膜151aの信頼性を向上させることができる。
【0208】
以上の工程により酸化物半導体膜中の水素の濃度を低減し、高純度化することができる。
それにより酸化物半導体膜の安定化を図ることができる。また、ガラス転移温度以下の加
熱処理で、キャリア密度が極端に少なく、バンドギャップの広い酸化物半導体膜を形成す
ることができる。このため、大面積基板を用いてトランジスタを作製することができるた
め、量産性を高めることができる。また、当該水素濃度が低減され高純度化された酸化物
半導体膜を用いることで、耐圧が高く、ショートチャネル効果に強く、オンオフ比の高い
トランジスタを作製することができる。
【0209】
本実施の形態は、他の実施の形態に記載した構成と適宜組み合わせて実施することが可能
である。
【0210】
(実施の形態7)
本実施の形態では、図1に示すトランジスタの製造工程について、図10を用いて説明す
る。
【0211】
実施の形態5と同様に、図10(A)に示すように、基板101上に絶縁膜103を成膜
し、島状の第1の電極105を形成する。
【0212】
次に、図10(B)に示すように、島状の第1の電極105上に酸化物半導体膜107及
び島状の第2の電極109を形成する。
【0213】
なお、酸化物半導体膜をスパッタリング法により形成する前に、アルゴンガスを導入して
プラズマを発生させる逆スパッタを行い、第1の電極105の表面に付着しているパーテ
ィクルを除去することで、第1の電極105及び酸化物半導体膜の界面における抵抗を低
減することができるため好ましい。なお、アルゴン雰囲気に代えて窒素、ヘリウムなどを
用いてもよい。
【0214】
基板101及び第1の電極105上にスパッタリング法により酸化物半導体膜を形成する
。次に、酸化物半導体膜上に導電膜を形成する。
【0215】
本実施の形態では、酸化物半導体膜をIn−Ga−Zn−O系金属酸化物ターゲットを用
いたスパッタリング法により形成する。本実施の形態では、減圧状態に保持された処理室
内に基板を保持し、基板を室温以上400℃未満の温度に加熱する。処理室内に残留する
水素、水、水酸基または水素化物などを除去しつつ、水素、水、水酸基または水素化物な
どが除去されたスパッタガスを導入し、金属酸化物をターゲットとして基板101及び第
1の電極105上に酸化物半導体膜を形成する。処理室内に残留する水素、水、水酸基ま
たは水素化物などを除去するためには、吸着型の真空ポンプを用いることが好ましい。例
えば、クライオポンプ、イオンポンプ、チタンサブリメーションポンプを用いることが好
ましい。また、排気手段としては、ターボポンプにコールドトラップを加えたものであっ
てもよい。クライオポンプを用いて排気した処理室は、例えば、水素、水、水酸基または
水素化物(より好ましくは炭素原子を含む化合物も含む。)が排気されるため、当該処理
室で形成した酸化物半導体膜に含まれる不純物の濃度を低減できる。また、クライオポン
プにより処理室内に残留する水素、水、水酸基または水素化物などを除去しながらスパッ
タリングを行うことで、基板温度が室温から400℃未満でも、ドナーとなる水素原子、
水などの不純物を低減することが可能であり、化学量論比を満たす構成であるi型または
実質的にi型の酸化物半導体膜を形成することができる。
【0216】
本実施の形態では、基板とターゲットの間との距離を100mm、圧力0.6Pa、直流
(DC)電源0.5kW、酸素(酸素流量比率100%)雰囲気下での成膜条件が適用さ
れる。なお、パルス直流(DC)電源を用いると、成膜時に発生する粉状物質(パーティ
クル、ゴミともいう。)が軽減でき、膜厚分布も均一となるために好ましい。酸化物半導
体膜は好ましくは30nm以上3000nm以下とする。なお、適用する酸化物半導体膜
材料により適切な厚みは異なり、材料に応じて適宜厚みを選択すればよい。
【0217】
次に、第2の電極109となる導電膜を、第1の電極105の材料及び手法を用いて形成
する。
【0218】
次に、実施の形態5と同様に、第2の電極109となる導電膜及び酸化物半導体膜107
となる酸化物半導体膜をエッチングして、第2の電極109及び酸化物半導体膜107を
形成する。所望の形状の酸化物半導体膜107及び第2の電極109を形成するために、
材料に合わせてエッチング条件(エッチング液、エッチング時間、温度など)を適宜調節
する。
【0219】
次に、図10(C)に示すように、実施の形態5と同様に、第1の電極105、酸化物半
導体膜107、第2の電極109上にゲート絶縁膜111を形成する。なお、本実施の形
態では、酸化物半導体膜中に含まれる水素濃度が低減されているため、ゲート絶縁膜11
1を形成する前に、実施の形態6に示す第1の加熱処理は行わなくともよい。ゲート絶縁
膜111は、酸化物半導体膜107との界面特性が良好なものとすることが好ましく、μ
波(2.45GHz)を用いた高密度プラズマCVDで緻密なゲート絶縁膜111を形成
することで、緻密で絶縁耐圧の高い高品質な絶縁膜を形成できるので好ましい。また、ゲ
ート絶縁膜として良質な絶縁膜を形成できるものであれば、スパッタリング法やプラズマ
CVD法など他の形成方法を適用することができる。さらには、スパッタリング法やプラ
ズマCVD法で形成した絶縁膜の表面に、μ波(2.45GHz)を用いた高密度プラズ
マを照射することで、更に緻密で絶縁耐圧の高い高品質なゲート絶縁膜を形成できるので
好ましい。
【0220】
なお、ゲート絶縁膜111を形成する前に逆スパッタを行い、少なくとも酸化物半導体膜
107の表面に付着しているレジスト残渣などを除去することが好ましい。
【0221】
また、ゲート絶縁膜111を形成する前にNO、N、またはArなどのガスを用いた
プラズマ処理によって露出している酸化物半導体膜の表面に付着した水素、水、水酸基ま
たは水素化物などを除去してもよい。また、酸素とアルゴンの混合ガスを用いてプラズマ
処理を行ってもよい。プラズマ処理を行った場合、大気に触れることなく、酸化物半導体
膜の一部に接するゲート絶縁膜111を形成することが好ましい。
【0222】
また、ゲート絶縁膜111に、水素、水、水酸基または水素化物などがなるべく含まれな
いようにするために、前処理として、スパッタリング装置の予備加熱室で第1の電極10
5から第2の電極109まで形成された基板101を予備加熱し、基板101に吸着した
水素、水、水酸基または水素化物などの不純物を脱離し排気することが好ましい。または
、ゲート絶縁膜111を形成した後、基板101を、スパッタリング装置の予備加熱室で
予備加熱して、基板101に吸着した水素、水、水酸基または水素化物などの不純物を脱
離し排気することが好ましい。なお、予備加熱の温度としては、100℃以上400℃以
下好ましくは150℃以上300℃以下である。なお、予備加熱室に設ける排気手段はク
ライオポンプが好ましい。なお、この予備加熱の処理は省略することもできる。
【0223】
ゲート絶縁膜111は、第1の電極105、酸化物半導体膜107、及び第2の電極10
9側から酸化シリコン膜と窒化シリコン膜とを積層した構造とすることもできる。例えば
、第1のゲート絶縁膜としてスパッタリング法により膜厚5nm以上300nm以下の酸
化シリコン膜(SiO(x>0))を形成し、第1のゲート絶縁膜上に第2のゲート絶
縁膜として膜厚50nm以上200nm以下の窒化シリコン膜(SiN(y>0))を
積層して、ゲート絶縁膜とする。
【0224】
次に、図10(C)に示すように、実施の形態5と同様に、ゲート絶縁膜111上にゲー
ト電極として機能する第3の電極113を形成する。
【0225】
以上の工程で、水素濃度が低減された酸化物半導体膜107を有するトランジスタ145
を形成することができる。
【0226】
上記のように酸化物半導体膜を形成する際に、反応雰囲気中に残留する水素、水、水酸基
または水素化物などを除去することで、該酸化物半導体膜中の水素濃度を低減することが
できる。それにより酸化物半導体膜の安定化を図ることができる。
【0227】
次に、図11(A)に示すように、実施の形態5と同様に、ゲート絶縁膜111及び第3
の電極113上に絶縁膜117を形成した後、コンタクトホール119、123を形成す
る。なお、絶縁膜117の形成後、さらに、実施の形態6と同様に、大気中、100℃以
上200℃以下、1時間以上30時間以下での加熱処理を行ってもよい。この加熱処理に
よって、ノーマリーオフとなるトランジスタを得ることができる。よって表示装置や半導
体装置の信頼性を向上できる。
【0228】
次に、図11(B)に示すように、実施の形態5と同様に、配線125、129を形成す
る。
【0229】
なお、第3の電極113及び配線125、129の間に平坦化のための平坦化絶縁膜を設
けてもよい。
【0230】
上記のように酸化物半導体膜を形成するに際し、反応雰囲気中に残留する水素、水、水酸
基または水素化物などを除去することで、該酸化物半導体膜中の水素の濃度を低減し、高
純度化することができる。それにより酸化物半導体膜の安定化を図ることができる。また
、ガラス転移温度以下の加熱処理で、キャリア密度が極端に少なく、バンドギャップの広
い酸化物半導体膜を形成することができる。このため、大面積基板を用いてトランジスタ
を作製することができるため、量産性を高めることができる。また、当該水素濃度が低減
され高純度化された酸化物半導体膜を用いることで、耐圧が高く、ショートチャネル効果
に強く、オンオフ比の高いトランジスタを作製することができる。
【0231】
本実施の形態は、他の実施の形態に記載した構成と適宜組み合わせて実施することが可能
である。
【0232】
(実施の形態8)
実施の形態1乃至実施の形態7に示すトランジスタを有する回路を用いた形態について説
明する。
【0233】
実施の形態1乃至実施の形態7に示すトランジスタは、オンオフ比が高く、耐圧が高く、
劣化が少ないため、エアコン、冷蔵庫、炊飯器、太陽光発電システムなどのインバータ技
術を応用した家電製品、ノート型のコンピュータをはじめとするバッテリ駆動型携帯情報
端末機器、ストロボなどの電力増幅装置、電気自動車、DC/DC(直流/直流)コンバ
ータ回路、モータ制御回路、オーディオ増幅器、ロジック回路、スイッチ回路、高周波リ
ニア増幅器などに用いることができる。
【0234】
ここで、実施の形態1乃至実施の形態7に示すトランジスタを用いて構成されるインバー
タを備えた太陽光発電システムの一例について、図13を参照して説明する。なお、ここ
では、住宅等に設置される太陽光発電システムの構成の一例について示す。
【0235】
図13に示す住宅用の太陽光発電システムは、太陽光発電の状況に応じて、電力の供給方
式を変更するシステムである。例えば、晴天時など太陽光発電が行われる状況においては
、太陽光発電により生じた電力を家庭内で消費し、また、余剰電力は電力会社からの配電
線414に供給する。一方、太陽光発電による電力が不足する夜間や雨天時には、配電線
414から電気の供給を受けて、それを家庭内で消費する。
【0236】
図13に示す住宅用の太陽光発電システムは、太陽光を電力(直流)に変換する太陽電池
パネル400や、その電力を直流から交流に変換するインバータ404などを含む。イン
バータ404から出力される交流電力は、各種の電気器具410を動作させる電力として
使用される。
【0237】
余分な電力は、配電線414を通じて家庭外に供給される。すなわち、当該システムを利
用して電力の売却が可能である。直流開閉器402は、太陽電池パネル400とインバー
タ404との接続または遮断を選択するために設けられている。また、交流開閉器408
は、配電線414と接続されるトランス412と、分電盤406との接続または遮断を選
択するために設けられている。
【0238】
上記のインバータに、開示する発明の半導体装置を適用することで、信頼性が高く、安価
な太陽光発電システムを実現することができる。
【0239】
本実施の形態に示す構成、方法などは、他の実施の形態と適宜組み合わせて用いることが
できる。
【実施例1】
【0240】
本実施例では、ショートチャネル効果が生じにくく、オンオフ比の高いトランジスタの酸
化物半導体膜の厚さ及びチャネル幅について二次元デバイスシミュレータを用いて計算し
た結果を、図14乃至図16を用いて説明する。なお、ここでは、デバイスシミュレータ
としてSilvaco社のAtlasを用いた。
【0241】
はじめに、計算を行ったトランジスタの構造について、図1を用いて説明する。第1の電
極105及び第2の電極109は、酸化物半導体膜107とオーミック接触が可能な材料
(代表的にはチタン)を想定し、仕事関数を4.3eVとした。酸化物半導体膜107を
In−Ga−Zn−O膜とし、電子親和力を4.3eVとした。ゲート絶縁膜111を厚
さ100nmのSiOとした。また、酸化物半導体膜107の厚さをLとし、図1(A
)のWを1μmに固定し、W及びLを変化させて計算を行った。
【0242】
デバイスシミュレータにより、オンオフ比を計算し、オンオフ比が1×10の動作を示
すL及びWの関係を直線201で示し、オンオフ比が1×10以上の動作を示すL及
びWの領域をハッチング203で示した(図14(A)参照)。また、Vds(ソース
ドレイン電圧)が10Vと0.1Vそれぞれのしきい値電圧の差(以下、ΔVthと示す
。)を計算し、ΔVthが−0.5VのときのL及びWの関係を直線211で示し、Δ
thが−1VのときのL及びWの関係を破線213で示し、ΔVthが−2Vのとき
のL及びWの関係を破線215で示した。また、ΔVthが−0.5V以下の領域をハ
ッチング217で示し、ΔVthが−0.5Vより大きく−1V以下の領域をハッチング
219で示した(図14(B)参照)。
【0243】
図14(A)のハッチング203で示す領域を満たすL及びWの関係を満たすことで、
トランジスタのオンオフ比を高めることができる。更には、図14(B)のハッチング2
19で示す領域を満たすL及びWの関係、より好ましくは図14(B)のハッチング2
17で示す領域を満たすL及びWの関係を満たすことで、トランジスタのオンオフ比を
高めると共に、ショートチャネル効果を抑制することができる。
【0244】
次に、図15(A)および図16(A)に、Lを1μm、Wを0.7μm、第2の電極
109の幅0.5μmとしたときの酸化物半導体におけるキャリア密度分布を示し、図1
5(B)及び図16(B)にLを1μm、Wを1.2μm、第2の電極109の幅1.
0μmとしたときの酸化物半導体におけるキャリア密度分布を示す。なお、図15はV
(ゲートソース電圧)を−2Vとしたオフ状態のキャリア密度分布を示し、図16はV
GS(ゲートソース電圧)を+2Vとしたオン状態のキャリア密度分布を示す。また、ゲ
ート電極として機能する第3の電極113がゲート絶縁膜111を介して第2の電極10
9上を覆っているが、これはシミュレーションの図形を簡略化するためであり、シミュレ
ーション結果には影響はない。
【0245】
図15(A)に示すトランジスタは、キャリア密度の低い領域(キャリア密度1×10
〜1×10−10cm−3)が酸化物半導体膜107の中央まで広がっているため、図
15(B)と比較してオフ状態においてオフ電流を低減することができる。図16(A)
及び図16(B)はそれぞれ、酸化物半導体膜107の表面だけでなく中央においても電
子密度が高く、ゲート絶縁膜と接する酸化物半導体膜の表面だけでなく、酸化物半導体膜
の内部にまでチャネル形成領域が形成されていることが分かる。以上のことから、本実施
例に示すトランジスタは、オン電流を高めることが可能であることが分かる。
【実施例2】
【0246】
本実施例では、酸化物半導体のキャリア密度について、図17及び図18を用いて説明す
る。
【0247】
はじめに、容量電圧(CV)測定に用いた試料の構造について、図17を用いて説明する

【0248】
ガラス基板501上に厚さ300nmのチタン膜503をスパッタリング法により形成し
、その上に厚さ100nmの窒化チタン膜505をスパッタリング法により形成した。
【0249】
窒化チタン膜505上に酸化物半導体膜507として、厚さ2000nmのIn−Ga−
Zn−O膜をスパッタリング法により形成した。このときの堆積条件は、スパッタガスと
して流量30sccmのAr、流量15sccmの酸素を用い、ターゲット及び基板間隔
を60mmとし、直流(DC)電源0.5kW、成膜温度を室温とした。
【0250】
次に、CVD法により厚さ300nmの酸化窒化シリコン膜509を形成し、その上に厚
さ300nmの銀膜511を形成した。
【0251】
次に、当該試料をCV測定した結果を図18(A)に示し、図18(A)に示す測定結果
から電圧に対するC−2の曲線を図18(B)に示す。ここで、試料の弱反転状態でのC
−2の曲線の傾きを数式7に代入することで、キャリア密度を求めることができる。なお
、図18(B)においてC−2の曲線を実線で示し、弱反転状態でのC−2の傾きを破線
で示す。傾きは1.96×1018−2−1であった。
【0252】
【数7】

【0253】
なお、eは素電荷、εは酸化物半導体の比誘電率、εは真空の誘電率、nはキャリア
密度である。
【0254】
数式7から、本実施例の酸化物半導体のキャリア密度は、6×1010cm−3であった
。このことから、本実施例に示す酸化物半導体のキャリア密度が極めて低いことがわかる

【実施例3】
【0255】
本実施例では、加熱処理により脱水化または脱水素化した酸化物半導体膜について、TE
M分析法を用いて解析した結果について図19乃至図21を用いて説明する。
【0256】
はじめに試料の作製方法について、説明する。
【0257】
基板601上にスパッタリング法により酸化物半導体膜を成膜した。
【0258】
ここでは、基板601として、EagleXG基板(コーニング社製)を用いた。酸化物
半導体膜は、In:Ga:ZnO=1:1:1の金属酸化物ターゲットを使
用して、In−Ga−Zn−O膜603を堆積した。当該試料を比較例である試料Bとす
る。
【0259】
次に、電気炉装置を用い窒素ガス雰囲気中で650℃、60分間の加熱処理を行った。加
熱処理を行った酸化物半導体膜を酸化物半導体膜605とする。当該試料を試料Aとする

【0260】
それぞれの試料の結晶状態を調べるために、高分解能透過電子顕微鏡(日立製作所製「H
9000−NAR」:TEM)を用いて、加速電圧を300kVとし、断面の結晶状態の
観察を行った。図19に試料Aの断面写真を示し、図20に試料Bの断面写真を示す。な
お、図19(A)、図20(A)は低倍写真(200万倍)、図19(B)、図20(B
)は高倍写真(400万倍)である。
【0261】
図19に示す650℃で60分間、電気炉での加熱処理を行った試料Aは、その断面にお
いて、表層部に連続した格子像が観察された。特に図19(B)の高倍写真では、白枠で
囲んだ領域に明瞭な格子像が観察され、揃った結晶の存在が示唆されている。このことか
ら、650℃で60分間、電気炉での加熱処理においてIn−Ga−Zn−O膜の表層部
は結晶化し、結晶領域を有するようになることが明らかとなった。なお、表層部を除くそ
の他の領域においては、連続した明瞭な格子像は観察されず、非晶質領域の所々に微結晶
粒子が浮いている様子が確認された。微結晶の粒子サイズは2nm以上4nm以下の所謂
ナノクリスタルであった。
【0262】
一方、図20(試料B)の断面写真からは膜厚方向のどの領域においても明瞭な格子像は
観察されず、非晶質であることが確認された。
【0263】
次に、650℃で60分間、電気炉での加熱処理を行った試料Aの表層部の拡大写真を図
21(A)に示し、結晶領域の電子線回折パターンを図21(B)〜図21(F)に示す
。表層部の拡大写真(図21(A))には、格子像が並ぶ方向を示した1〜5の矢印が示
してあり、膜の表面に対して垂直方向に結晶が成長していることがわかる。図21(B)
、図21(C)、図21(D)、図21(E)、図21(F)に示す電子線回折パターン
はそれぞれ、矢印番号の1、2、3、4、5の位置で観測されたもので、C軸方向の配向
が確認されている。また、この電子線回折パターンと既知の格子定数を比較した結果、結
晶構造はInGaZnOであることが判明した。
【0264】
以上の解析結果により、650℃で60分間、電気炉での加熱処理を行った試料は、その
表層部に結晶領域が存在することが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素濃度が1×1016cm−3以下の領域を有する酸化物半導体層を有し、
前記酸化物半導体層の膜厚は、前記酸化物半導体層のドナー密度に基づく空乏層の広がり得る最大幅よりも薄いことを特徴とするトランジスタ。
【請求項2】
キャリア密度が1×1014cm−3未満の領域を有する酸化物半導体層を有し、
前記酸化物半導体層の膜厚は、前記酸化物半導体層のドナー密度に基づく空乏層の広がり得る最大幅よりも薄いことを特徴とするトランジスタ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
前記酸化物半導体が有する空乏層の幅は、シリコンが有する空乏層の幅よりも広いことを特徴とするトランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2013−62553(P2013−62553A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−2718(P2013−2718)
【出願日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【分割の表示】特願2010−255558(P2010−255558)の分割
【原出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】