トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの製造方法

【課題】本発明は、硬質ポリウレタンフォームの発泡剤、溶剤、洗浄剤、冷媒、作動流体、噴射剤、フッ素樹脂等の原料として利用できる、トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明の方法によれば、トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを、従来技術と比べて高選択率かつ高収率で製造することができる。用いる触媒は非常に安価で製造又は入手可能であり、本願発明はトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの工業的な製造として優位性が極めて高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(以下、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを「1233zd」、又は単に「1233」ということがある。)は、硬質ポリウレタンフォームの発泡剤、溶剤、洗浄剤、冷媒、作動流体、噴射剤、フッ素樹脂の原料等として有用である。本発明に係る従来技術として、特許文献1に、気相で1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパンをフッ化水素と反応させて1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを得る方法が記載されている。また、特許文献2に、1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパンを無触媒でフッ素水素と反応させて1,1,1−トリフルオロ−3−クロロ−2−プロペン(1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン)を得る方法が記載されている。特許文献3では、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの製造方法として、1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパンを反応容器中、ルイス酸触媒又はルイス酸触媒の混合物の存在下、150℃より低い温度で、液相で反応させること、反応容器中で生成した塩化水素及び1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを連続的に取り出すこと、及び前工程で得られた1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを単離する方法が記載されている。
【0003】
しかしながら、これらの方法では1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンが、通常、シス体とトランス体の混合物として得られ、一方の異性体のみを利用する場合には不都合である。
【0004】
そこで、異性化による相互変換が試みられ、特許文献4には平衡反応を利用してトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンをシス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンに変換する方法が記載されている。
【0005】
また、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの異性化に関しては、特許文献5にはトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンをフッ素化して1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを製造する際に、副反応として異性化反応が起こり、その結果、シス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンが生成した旨が実施例に記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献4での異性化反応では、フッ素化触媒としてフッ素化クロミア触媒を用いて検討がなされているが、反応温度103℃〜199℃において、トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの収率が58.9〜70.2%と低く、特許文献5は、副生成物であり、これらの方法は必ずしも工業的な実用化に適した方法とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−183740号公報
【特許文献2】特開平11−180908号公報
【特許文献3】国際公開2005−014512号公報
【特許文献4】米国特許出願公開第2010/0152504号
【特許文献5】特開2007−38216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況の下、工業的に有利かつ効率的な方法で、シス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを異性化してトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを製造する方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、下記式[1]で表されるシス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを、特定の温度で乾燥処理をした特定の触媒と接触させることで、下記式[2]で表されるトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンに異性化できることを見出した。また、この異性化反応は、他の触媒を用いた場合と比べ、低温でも反応が進行し、95%程度以上の高選択率で目的物を得ることができるという知見を得、本発明を完成した。
【化1】

【0010】
すなわち、本発明は下記[発明1]〜[発明6]を含む、トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを製造する方法を提供する。
【0011】
[発明1]
シス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを触媒と接触させる工程を含むトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの製造方法であって、
前記触媒が金属原子について50原子%以上をアルミニウムとする一種又は二種以上の金属を含む金属酸化物をフッ素化処理することにより、該金属酸化物の一部又は全部の酸素原子がフッ素原子で置換されたフッ素化金属酸化物又は金属フッ化物であり、該フッ素化金属酸化物又は金属フッ化物が400〜600℃で乾燥処理を経て得られた化合物である、、製造方法。
【0012】
[発明2]
前記触媒がアルミニウムの他に、クロム、チタン、マンガン、鉄、ニッケル、コバルト、マグネシウム、ジルコニウム及びアンチモンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む、発明1に記載の製造方法。
【0013】
[発明3]
フッ素化金属酸化物又は金属フッ化物がフッ素化アルミナ又はフッ化アルミニウムである、発明1に記載の製造方法。
【0014】
[発明4]
気相においてシス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを前記触媒と接触させる、発明1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【0015】
[発明5]
シス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを0〜200℃で前記触媒と接触させる、発明1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【0016】
[発明6]
シス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンが少なくともシス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを含む混合物である発明1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【0017】
本出願人は、特開2009−91301号公報にてトランス−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペンを触媒と接触させることからなるシス−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペンの製造方法にて、400〜900℃でフッ化水素にてフッ素化処理されたアルミナ触媒を用いることで、選択性よくかつ高収率で異性化反応を行えることを開示している。また、特開2009−108049号公報においても、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを触媒と接触させることからなるトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造方法にて、金属原子の50%以上をアルミニウムとする一種又は二種以上の金属からなる金属酸化物が触媒として非常に有効であり、さらに該金属酸化物を200℃以上の高温でフッ素化処理することが好ましい形態であることを開示している。
【0018】
そこで、本発明者らは、本発明の出発原料であるシス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンに対しても前述と同様にフッ素化処理をしたアルミナ触媒で異性化反応を行ったところ、フッ素化処理温度によっては反応はほとんど進行せず、また、反応は進行するものでも、前述したほかの化合物に比べて異性化反応の選択性が低く、充分とはいえないものであった(参考例1〜2参照)。これは、トランス−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペンやシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンのフッ素原子に比べて、シス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの塩素原子の方が、異性化の際に生じる立体障害が大きいためではないかと推測される(スキーム1参照)。
【化2】

【0019】
ところが、本発明では、フッ素化処理を行った触媒を特定の温度条件下で乾燥処理することで、シス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの異性化反応は選択性良く、高収率で、効果的に進行することを見出した。
【発明の効果】
【0020】
本発明の方法によれば、トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを、従来技術と比べて高選択率かつ高収率で製造することができる。用いる触媒は非常に安価で製造又は入手可能であり、本発明はトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの工業的な製造として優位性が極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの製造方法は、シス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを金属触媒と接触させる工程(接触工程)を用いて異性化させるものであり、該金属触媒が金属原子について50原子%以上をアルミニウムとする一種又は二種以上の金属を含むフッ素化金属酸化物又は金属フッ化物(以降、「フッ素化金属酸化物又は金属フッ化物」を総称して「フッ素化金属酸化物」と記載することもある)であり、該フッ素化金属酸化物が400〜600℃で乾燥処理されたフッ素化金属酸化物であることを特徴とするものである。
【0022】
なお、本発明の範囲は、これらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。また、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0023】

1.接触工程
1.1 反応形式
接触工程は、気相反応、処理形式は流通式又はバッチ式であってもよく、これらの反応形式及び処理形式を組み合わせた形式を適宜採用できる。反応に関与する化学物質の沸点が低いことから、実用的には気相流通形式が最も好ましい。気相流通形式では、触媒の保持方法は固定床、流動床、移動床などいずれの形式でもかまわないが、固定床で行うのが簡便であるので、好ましい。
【0024】

1.2 出発物質
本発明に使用するシス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの製造方法は特に限定されないが、公知の方法で製造できる。例えば、気相で1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパンをフッ化水素と反応させて1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを得る方法(特許文献1)が知られている。
【0025】
これらの方法により製造される場合、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンはトランス体とシス体の混合物として得られるが、本発明の製造方法ではそのような混合物はシス体とトランス体の比率に拘わらずそれをそのまま原料として使用することができる。例えば、シス体とトランス体の異性体比がトランス:シス=90:10の混合物のように、トランス体が多量に含まれる場合でも、本発明の方法によって、混合物中のトランス体の含有量を増加させることが出来るため、充分に出発原料として使用できる。他方、シス体のみからなる1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンも使用できる。
【0026】
また、前述した気相で1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパンをフッ化水素と反応させる方法や、他の製造方法によって得られる1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンには副反応生成物やフッ化水素などの同伴物を含むことがあるが、酸成分が同伴した場合は水洗等の公知の方法で酸成分の除去を行えばよく、その他の副反応生成物は精製することなく本発明の方法でシス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを異性化し、トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとすることが出来る。
【0027】
触媒活性を維持するために出発物質の1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンは、乾燥処理を行ったものを用いるのが好ましい。当該乾燥処理は、合成ゼオライト、シリカゲル、アルミナなどの汎用の乾燥剤を用いることができる。
【0028】

1.3 生成物
また、本発明の方法により得られた生成物は、実質的にトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンのみからなる生成物に限られず、シス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンに対してトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの含有量が増加した混合物であればよい。
【0029】
本発明の方法により得られるトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを主成分とする生成物は、公知の方法で精製して製品とすることができる。
【0030】
精製方法は限定されないが、例えば、生成物を最初に水又はアルカリ性水溶液で洗浄してフッ化水素などの酸性物質を除去し、乾燥の後、蒸留に付してシス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンや有機不純物を除いてトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを得ることで行うことができる。分離されたシス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンは、再度異性化反応の原料として用いることができる。
【0031】

1.4 反応器
本発明の方法は、フッ化水素に対して実質的に不活性な材質で造られた反応器を用い、温度の調節された触媒の充填された反応領域へシス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを導入することでおこなわれる。容器は通常、管状であってステンレス鋼、ハステロイTM、モネルTM、白金、炭素、フッ素樹脂又はこれらをライニングした材質で製作されたものが用いられる。
【0032】

1.5 反応条件
本発明において、シス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを触媒と接触させる工程(接触工程)の温度は特に限定されないが、−10〜300℃であり、0〜200℃がよりに好ましく、10〜150℃がさらに好ましい。接触工程の温度が−10℃よりも低いと反応装置に特別の冷却設備を設ける必要があり、エネルギー効率的にも有利でないので好ましくない。一方、接触工程の温度が300℃を超えても特に反応率は向上せず、分解生成物が生成してトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの選択率が低下するので好ましくない。
【0033】
本発明の方法において、反応領域へ供給するシス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンは、反応に関与しない窒素、ヘリウム、アルゴンなどのガスと共に供給してもよい。このようなガスは、シス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン又はそれを含む混合物からなる原料1モル当たり100モル以下の比率とし、10モル以下が好ましく、通常は使用しないのがよい。
【0034】
本発明の接触工程の圧力は特に限定されないが、気相で行われる場合は、特に加圧又は減圧などの圧力調節をすることなく行うことができるが、装置の面から0.01〜1MPa(絶対圧)で行うのが好ましい。圧力を決定する場合、系内に存在する原料などの有機物が、反応系内で液化しないような条件を選ぶことが望ましい。
【0035】
本発明の接触工程におけるシス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと触媒との接触時間は標準状態において、通常0.1〜500秒、好ましくは30〜300秒である。接触時間が短いと反応率が低下し、接触時間が長すぎると副反応が起こるので好ましくない。
【0036】

2.触媒
本発明で触媒として用いるフッ素化金属酸化物は、金属原子について50原子%以上をアルミニウムとする一種又は二種以上の金属を含むフッ素化金属酸化物であれば特に限定はされないが、触媒として調製した金属酸化物をフッ素化して得ることが入手の容易さや操作性の面から好ましい。
【0037】
2.1 金属酸化物
金属酸化物は、金属原子について50原子%以上をアルミニウムとする一種又は二種以上の金属を含む金属酸化物であり、金属としてはアルミニウム単独で用いることも出来るし、アルミニウムと、クロム、チタン、マンガン、鉄、ニッケル、コバルト、マグネシウム、ジルコニウム及びアンチモンからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属とが複合したものを使用することもできる。
【0038】
該金属酸化物の調製法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、金属化合物の水溶性塩をアンモニアで中和して沈殿させた水酸化物ゾルを乾燥し、次いで得られた塊を粉砕・成型し、さらに焼成することで調製できる。このとき、主となる金属の化合物とともにその金属と異なる少なくとも1種の金属の化合物を併用することで複合酸化物を調製することができる。このような複合酸化物としては、例えば、アルミナとクロム、アルミナとジルコニア、アルミナとチタニア、アルミナとマグネシアの複合酸化物が好ましいものとして挙げられる。これらは、いずれもアルミニウムを50原子%以上含むものであればよく、80原子%以上含むものがより好ましい。50原子%未満では異性化の転化速度が遅く好ましくない。
【0039】
また、これらの金属酸化物は各種のものが触媒や乾燥剤として市販されているのでそれらの中から選んで使用することもできる。これらの金属酸化物は粉状でもよいが通常粒状で使用し、その形状、大きさは特に限定されず、通常の知識をもって反応器の大きさを基準に決定することができる。一般的には、取り扱いが容易であることから、金属酸化物は球形、棒状又は錠剤状に成形された平均的に1〜10mm程度の直径又は長さを有するものが好ましい。金属酸化物は一種以上の結晶形を取ることがあり、たとえば、アルミナにはγ−アルミナとα−アルミナ、チタニアにはアナターゼとルチルの結晶形のものがある。金属酸化物の結晶形はいずれであってもよいが、アルミナではγ−アルミナは表面積が大きく好ましい。
【0040】

2.2 フッ素化金属酸化物
フッ素化金属酸化物の調製(以下、単に「フッ素化処理」とも記載する)は、前記金属酸化物と、フッ化水素、フッ素化炭化水素、フッ素化塩素化炭化水素などのフッ素化剤とを接触させることにより行われる。フッ素化処理は、通常、段階的に行うのが好ましい。フッ化水素でフッ素化処理する場合、大きな発熱を伴うので、最初は希釈されたフッ酸水溶液やフッ化水素ガスにより比較的低温度でフッ素化し、徐々に濃度及び/又は温度を高くしながら行うのが好ましい。最終段階は、異性化反応の反応温度以上で行うのが好ましいが、この条件に加えて、反応中の経時変化を予防するためには金属酸化物のフッ素化温度は150℃以上で行い、ホットスポット温度が250℃以上においてフッ化水素で金属酸化物をフッ素化処理するのが好ましい。温度の上限は特にないが、900℃を超えるのはフッ素化処理装置の耐熱性の点から困難であり、実用的には600℃以下で行うのが好ましい。
【0041】
前記金属酸化物のフッ素化処理では、金属酸化物その一部の酸素原子がフッ素原子で置換されたフッ素化金属酸化物又は全部の酸素原子がフッ素原子で置換した金属フッ化物が得られるが、酸素原子がフッ素原子に置換した比率は特に限定されず、広い範囲のものが使用できる。
【0042】
また、前記フッ素化処理は、反応中の触媒の組成変化を防止するために、使用の前に処理することが好ましい。
【0043】

3.乾燥処理
本発明は前記フッ素化処理を行った触媒を、特定の温度で乾燥処理することが最大の特徴である。
【0044】
3.1 乾燥処理
金属酸化物にフッ素化処理を行うと、金属酸化物はフッ素化され、フッ素化反応と同時に水が副成する。副成した水は触媒表面に化学吸着し、著しく触媒活性を阻害すると推測される。このため、特に低温で温和な反応条件において高い触媒活性を得るためには、反応使用前の触媒は高温で乾燥処理を行うことが好ましい。乾燥処理としては、乾燥窒素ガスやヘリウムガスなどのイナートガスを流通させ、温度としては、400〜600℃が好ましく、450〜550℃がより好ましい。600℃以上での乾燥処理は、触媒の結晶相の転移速度が速くなるため好ましくない。乾燥処理は、前記フッ素化処理において、フッ素化の最終段階での温度を乾燥温度と同様の温度域で処理する(以下、「高温フッ素化処理」と記載する)ことで異性化反応にある程度効果的な触媒を得ることが可能である。しかしながらフッ素化による水の副成が終了してからも、フッ化水素の流通を継続する必要があるため、処理に時間がかかり、また、乾燥処理を行ったものと比較すると異性化反応の選択性が低下するため、反応性、操作性等の面から乾燥処理を行うことが好ましいといえる。
【0045】

3.2 処理条件
乾燥処理の処理時間は、処理温度や用いる触媒の種類、量によって異なるので、条件に応じて適宜検討を行えばよい。
【0046】
また、本発明で使用する何れの触媒の場合も、反応中に塩素、フッ素化炭化水素、フッ素化塩素化炭化水素、塩素化炭化水素などを反応器中に供給することは触媒寿命の延長、反応率、反応収率の向上に有効である。
【実施例】
【0047】
以下に本発明を、例を挙げて具体的に説明するが、これらによって本発明は限定されるものではない。ここで、組成分析値の「%」は、反応混合物をガスクロマトグラフィー(特に記述のない場合、検出器はFID)によって測定して得られた組成の「面積%」を表す。
【0048】
[触媒調製例1]粒状γ−アルミナ(住化アルケム、KHS−46)160gをジャケット付反応管に充填し、150℃に昇温した。フッ化水素を15g/時間の流量で導入し、ホットスポットが反応管出口に到達するまで継続し、フッ素化アルミナを調整した。
【0049】
[比較例1]乾燥処理なしの場合
外部加熱装置を具備する円筒形反応管からなる気相反応装置(SUS316L製、直径2.5cm・長さ40cm)に触媒として調製例1で調製した触媒を50ml充填した。続いて約20ml/分の流量で窒素ガスを流しながら反応管の温度を100℃に昇温した。
【0050】
次に、出発原料としてシス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(シス体99.5%)を予め気化させて約0.10g/分の速度で反応管へ供給開始した。有機物の流量が安定したところで窒素ガスの導入は停止した。
【0051】
反応開始2時間後には反応は安定したので、反応器から流出するガスを水中に吹き込んで酸性ガスを除去した後、生成物をガスクロマトグラフィーで分析した。結果を表1に示した。
【0052】
[実施例1]乾燥処理した場合
比較例1と同様に触媒を充填し、約500ml/分の流量で窒素ガスを流しながら反応管の温度を500℃に昇温した。反応管内温が450℃以上に到達してから、3時間乾燥処理を継続した。
【0053】
乾燥処理終了後、反応管の温度を100℃に降温し、温度が安定したところで出発原料としてシス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(シス体99.5%)を予め気化させて約0.10g/分の速度で反応管へ供給開始した。有機物の流量が安定したところで窒素ガスの導入は停止した。
【0054】
反応開始2時間後には反応は安定したので、反応器から流出するガスを水中に吹き込んで酸性ガスを除去した後、生成物をガスクロマトグラフィーで分析した。結果を表1に示した。
【0055】
[実施例2−4]乾燥処理した場合
反応温度をそれぞれ80℃、60℃、45℃とした以外は実施例1と同様に反応を実施した。
【0056】
以上、比較例及び実施例の結果をまとめて表1に示す。
【表1】

【0057】
このように、乾燥処理をしていない触媒を反応に用いた場合、トランス体からシス体への異性化反応がほとんど見られない(比較例1)のに対して、500℃で乾燥処理を行うとトランス体からシス体への異性化反応が良好に進行し、高選択的にトランス体が得られた(実施例1−4)。また、反応温度を45℃とより低温にすることで、トランス体の選択性が向上した。
【0058】
[参考例1]触媒を320℃でフッ素化処理した場合
比較例1と同様に触媒を充填し、約20ml/分の流量で窒素ガスを流しながら反応管の温度を320℃に昇温した。フッ化水素を約0.3〜0.4g/分の速度で導入し、3時間フッ素化処理を継続した。
【0059】
フッ素化処理終了後、反応管の温度を100℃に降温し、温度が安定したところで出発原料としてシス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(シス体92.9%)を予め気化させて約0.10g/分の速度で反応管へ供給開始した。有機物の流量が安定したところで窒素ガスの導入は停止した。
【0060】
反応開始2時間後には反応は安定したので、反応器から流出するガスを水中に吹き込んで酸性ガスを除去した後、生成物をガスクロマトグラフィーで分析した。結果を表2に示した。
【0061】
[参考例2]触媒を500℃でフッ素化処理した場合
フッ素化処理温度を500℃とした以外は、参考例1と同様に反応を実施した。結果を表2に示した。
【表2】

【0062】
参考例1のように、フッ素化処理温度が320℃でも目的の異性化反応はほとんど進まない。参考例2のようにフッ素化処理を500℃程度の高温で行うと、参考例1に比べると反応が良好に進行するが、実施例1のように高温で乾燥処理した場合ほどの選択性は得られず、本発明の反応が、触媒の乾燥処理を行うことで格段に優位に進行することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本願発明の製造方法で得られたトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンは、硬質ポリウレタンフォームの発泡剤、溶剤、洗浄剤、冷媒、作動流体、噴射剤、フッ素樹脂等の原料として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを触媒と接触させる工程を含むトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの製造方法であって、
前記触媒が金属原子について50原子%以上をアルミニウムとする一種又は二種以上の金属を含む金属酸化物をフッ素化処理することにより、該金属酸化物の一部又は全部の酸素原子がフッ素原子で置換されたフッ素化金属酸化物又は金属フッ化物であり、該フッ素化金属酸化物又は金属フッ化物が400〜600℃で乾燥処理を経て得られた化合物である、製造方法。
【請求項2】
前記触媒がアルミニウムの他に、クロム、チタン、マンガン、鉄、ニッケル、コバルト、マグネシウム、ジルコニウム及びアンチモンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
フッ素化金属酸化物又は金属フッ化物がフッ素化アルミナ又はフッ化アルミニウムである請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
気相においてシス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを前記触媒と接触させる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
シス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを0〜200℃で前記触媒と接触させる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
シス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンが少なくともシス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを含む混合物である請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。

【公開番号】特開2013−107848(P2013−107848A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253543(P2011−253543)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】