説明

トランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の製造方法

【課題】シス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(c−CHDA)を簡便な方法で効率的に異性化させ、高濃度のトランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(t−CHDA)を得るための製造方法を提供する。
【解決手段】t−CHDAの製造方法であって、c−CHDA及びt−CHDAの混合物(粗CHDA)を、c−CHDAの融点以上に加熱し、かつt−CHDAの融点未満の温度に保持しながら異性化反応を行い、溶融したc−CHDA中に、異性化して生成したt−CHDAを析出させ、かつ溶融したc−CHDA中に析出したt−CHDAを分離、回収して得ることによりt−CHDAを製造して、上記課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(以下、c−CHDAという。)を加熱して異性体であるトランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(以下、t−CHDAという。)を得るt−CHDAの製造方法、及び新規で高品質なt−CHDAに関する。
【背景技術】
【0002】
CHDAは、医薬品、合成樹脂、合成繊維、染料等の原料として有用である。特にt−CHDAは、耐熱性、耐候性、物質的強度等の優れた樹脂や繊維製造用の原料として有用であり、t−CHDA濃度の高いCHDAが要望されている。
【0003】
CHDAを製造する方法としては、テレフタル酸(以下、TPAという。)誘導体のベンゼン環を水素化して得る方法が一般に行われており、例えばTPAのカルボキシル基を一度ナトリウム等の金属塩、または各種エステルにしてからベンゼン環を水素化(核水素化)する方法や、カルボキシル基を残存させた状態で核水素化する方法が行われている。
【0004】
(1)CHDAの製造方法
TPA誘導体ではなく、TPAの水素化工程を経るCHDAの製造方法としては、(i)パラジウム触媒を用い、TPAをTPA可溶性溶媒中で150〜300℃、少なくとも1000p.s.i.g.で水素化して粗CHDAを得、これをアルカリ水溶液に溶解させた後に酸析して精製する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。(ii)また、TPAを150℃、100KGの条件でパラジウム又はルテニウムの存在下に水素化し、得られた反応液を特定の温度条件で濾過して触媒を分離し、その後濾液からCHDAを晶析させる方法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。(iii)ガラス製オートクレーブ中、TPAを130℃、水素圧8.3〜9.8kg/cmで、水溶媒中でパラジウムの存在下に水素化し、反応液を水蒸気蒸留に付して精製する方法などが知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【0005】
これらの製造方法で得られるCHDAは純度の低いものであった。(i)酸析により精製する方法では、水酸化ナトリウムや塩酸等に由来する無機塩の混入が避けられず、(ii)晶析による方法では、反応原料であるTPAや、反応副生物であるトランス−4−メチルシクロヘキサンカルボン酸(以下、t−MCHAという。)、シス−4−メチルシクロヘキサンカルボン酸(以下、c−MCHAという。)、及びシクロヘキサンカルボン酸(以下、CHAという。)等が混入するため、高純度のCHDAを得ることができなかった。更に、(iii)水蒸気蒸留による方法では、大量の水蒸気を必要とし、また、廃水処理設備が必要となり、経済的な問題があった。
【0006】
また、これらの方法によると、TPAのベンゼン環を水素化する際に異性体が生じるため、得られるCHDAはc−CHDA(融点170〜171℃)とt−CHDA(融点312〜313℃)の混合物であり、目的化合物であるt−CHDAの濃度は、反応条件にもよるが20〜50%程度と低い。そこで、TPAからCHDAを得た後に、t−CHDAの濃度を向上させる方法が検討されている。t−CHDAの濃度を上げる方法としては、c−CHDAを加熱してt−CHDAへ異性化する方法が知られている。
【0007】
(2)CHDAの熱異性化
(i)c−CHDAを250℃以上、好ましくはt−CHDAの溶融温度(310℃〜313℃)以上に加熱してt−CHDAを得る方法が知られている(例えば、特許文献4参照。)。特許文献4の実施例には、c−CHDAとt−CHDAとの混合物を310〜320℃に加熱し5分間保持した後、得られた均一な溶融物を常温まで冷却して活性炭を用いて水から再結晶させる方法により、98%のt−CHDAを得られたことが記載されている。特許文献4に記載の方法は、加熱後再結晶前のt−CHDA濃度が不明であり、その実施例では反応物を加熱する際の雰囲気に関する特別の記載がないことから空気中で加熱していると推測され、CHDAが酸化して不純物が発生していると考えられる。また、t体の融点以上に加熱するため、得られたt−CHDAは非常に硬く、取り扱いづらいものとなる。そして、加熱処理後に活性炭を用いて水からt−CHDAを再結晶させないと最終的に98%という高純度のt−CHDAを得ることができない。
【0008】
すなわち、特許文献4に記載の方法によると、2段階の操作が必要になり、操作が煩雑である。また本発明者らが特許文献4に記載の方法を追試したところ、t−CHDAの融点以上での加熱処理後、室温まで冷却すると、得られたCHDAが非常に堅く、取り扱い難いこと、異性化反応で得られるt−CHDAの濃度が低いこと、反応器の腐食性が非常に高かった。
【0009】
取り扱い性を向上させる方法として、(ii)c−CHDAを250℃以上の温度で加熱異性化して得たt−CHDAに不活性な液状物質を混合し、懸濁させてt−CHDAを得る方法が知られている(例えば、特許文献5参照。)。特許文献5の実施例には、c−CHDAを窒素下300℃で30分溶融させた後、流動パラフィンを添加し室温まで冷却後スラリーを分離し、ブタノール、水で洗い、純度99.5%のt−CHDAを得ることが記載されている。
【0010】
特許文献5に記載の方法では、反応系の温度を溶融温度以上に上げて、流動パラフィンを用いて分散する必要があり、分散されたt−CHDAから流動パラフィンを除去するために、ブタノール、及び水で洗う必要があると共に、洗っても、流動パラフィンを完全に除去することが難しいと考えられる。
【0011】
(3)CHDA水溶液の熱異性化
c−CHDAの水溶液を加圧下240℃以上に加熱することでt−CHDAを得る方法が知られている(例えば、特許文献6参照。)。特許文献6の実施例には、c−CHDAの水溶液を窒素下245〜250℃で2時間加熱し、冷却後生成したスラリーを70℃で濾別し、熱水で洗浄することで収率58.9%でt−CHDAが得られたことが記載されている。
【0012】
特許文献6に記載の方法では、水溶液中でc−CHDAをt−CHDAに異性化しているが、水溶液中での反応では、t−CHDAの割合が約60%になるのみで、c−CHDAの約40%が異性化せずに残る。
【0013】
(4)アルカリ金属塩の熱異性化
混合c/t−CHDAのアルカリ(土類)金属塩を水酸化アルカリ金属又は水酸化アルカリ土類金属の存在下固相で加熱してt−CHDAを得る方法が知られている(例えば、特許文献7参照。)。特許文献7の実施例には、c−CHDA、水酸化ナトリウム、水の混合物を減圧下濃縮乾固した後、封管中200℃で1時間加熱し、冷却後、水に溶解し塩酸で酸析して、収率95%でt−CHDAを得ることが記載されている。
【0014】
特許文献7に記載の方法では、アルカリ(土類)金属塩を水酸化アルカリ金属、水酸化アルカリ土類金属の存在下での異性化反応を実施するため、反応終了後、生成物を溶解し、酸析により、カルボン酸にする必要がある。またこの方法では、アルカリ(土類)金属が不純物として生成物に含まれることが予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第2888484号明細書(クレーム1)
【特許文献2】特開昭58−198439号公報(実施例1)
【特許文献3】特開平6−184041号公報(実施例1)
【特許文献4】特公昭39−27244号公報(実施例)
【特許文献5】特開昭49−81349号公報(実施例1)
【特許文献6】特開昭49−82648号公報(実施例)
【特許文献7】特開昭58−24540号公報(実施例1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上述したように、従来のc−CHDAからt−CHDAに異性化する方法は、煩雑な操作を必要としており、また、簡便な方法で単純に加熱したのでは異性化反応後のCHDAの取り扱いが困難であった。このため、生産性の高い方法で、c−CHDAから高濃度のt−CHDAを得る方法が切望されていた。
【0017】
さらに、従来の方法で得られたt−CHDAは、粗CHDAを得る原料のTPAとして、水素化反応が工業的に実施しやすいTPA誘導体を用いていた。すなわち、原料TPAとしてTPA金属塩を用いた場合にはナトリウム等の金属が残留し、またTPAエステルを用いた場合にはエステルを一度塩にしてから酸析するため、かかるt−CHDAから得られたポリマーは、(1)TPA金属塩由来の金属不純物を含む、(2)酸析した際に用いるCl、S等の酸成分が残留する、(3)残留する酸成分のために装置等が腐食する、(3)着色度合いの指標である340nmにおける光透過率が低い、といった問題があり、高品質のt−CHDAが望まれていた。
【0018】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、生産性の高い方法で、c−CHDAから高濃度で高品質なt−CHDAを得る方法を提供すること、及び新規で高品質なt−CHDAを提供することにある。
にある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者等は、c−CHDAを効率的に異性化して高濃度のt−CHDAを得る簡便な方法を鋭意検討した結果、反応系をある温度範囲に保持すると、効率的に高濃度のt−CHDAが得られることを見出し本発明を完成するに至った。
【0020】
また本発明者等は、反応原料としてt/(c+t)が0.5以上のCHDAを用いて加熱異性化をt−CHDAの融点未満の温度で行うと、異性化反応中にCHDAが異性化反応原料の形状を保ったまま、異性化反応が行われ、その結果得られるCHDAは粉粒状のCHDAとして得られるので、反応器の壁に付着したり堅固な塊にならないために、反応器からの取り出しが容易であるすぐれた工業的プロセスとなることを見出して本発明に到達した。
【0021】
また本発明者等は、c−CHDAとt−CHDAとの混合物を、流動下、c−CHDAの融点以上t−CHDA融点未満の温度に保持して加熱異性化することにより、固相状態を保ったまま、又は溶融状態を経て、t−CHDA85%以上のCHDA粉粒体を得ることを見出し本発明を完成するに至った。
【0022】
さらに本発明者らは、粗CHDAとして、工業的には通常用いられないTPAの核水素化により得られた粗CHDAを用い、c/t−CHDAを特定の条件下で熱異性化することにより、従来にない高品質なt−CHDAを提供し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0023】
すなわち本発明の要旨は、粗CHDAを、不活性雰囲気下でc−CHDAの融点以上に加熱し、c−CHDAの融点以上t−CHDAの融点未満の温度域に保持しながら溶融したc−CHDA中にt−CHDAを析出させることを特徴とするt−CHDAの製造方法に存する。
【0024】
また本発明の要旨は、粉粒状の粗CHDAを、不活性雰囲気下、c−CHDAの融点以上で、かつt−CHDAの融点未満の温度に加熱処理し、粉粒状を維持したままシス体からトランス体に異性化することを特徴とするt−CHDAの製造方法に存する。
【0025】
また本発明の要旨は、粗CHDAを、不活性雰囲気下、流動させながら、c−CHDAの融点以上t−CHDA融点未満の温度域に保持して、粉粒状のt−CHDAを得ることを特徴とする、t−CHDA粉粒体の製造方法に存する。
【0026】
さらに本発明は、下記(a)及び(b)を満たすt−CHDAに存する(以下、「高品質t−CHDA」という。)。
(a)t体を90%以上含有すること。
(b)アルカリ水溶液中における340nmでの光透過率が85%以上であること。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように、本発明によると、c−CHDAのt−CHDAへの異性化を、効率的に実施することが出来る。また、本発明により得られた、t−CHDA純度の高いCHDAを用いると、耐熱性、耐候性、物質的強度等の優れた樹脂や繊維を製造できる。
【0028】
さらに本発明の高品質t−CHDAは、酸根の含有量が少ないため、重合容器を腐食せず、アルカリ、アルカリ土類の含有量が少ないため、重合反応時の反応特性の変化を抑制し、ポリマーの電気特性を安定させる上に、T340が高いため、t−CHDAの透明性が高い、という優れた性質を有する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の内容を詳細に説明する。
【0030】
<粗CHDA>
<粗CHDAの製造方法>
粗CHDAの製造方法は特に限定されず、公知の方法で製造されたCHDAを用いることができる。例えば、TPA又はその誘導体のベンゼン環を水素化して得られた粗CHDAを好適に用いることができる。
【0031】
TPA又はその誘導体の核水素化により、通常t/(c+t)が0.2〜0.5である、トランス体とシス体の混合物を含む粗CHDAの水溶液が得られる。また、TPA又はその誘導体の核水素化で得られた反応液から回収した粗CHDA、又は反応液からt体を回収した残査中の粗CHDAも原料として用いることが出来る。
【0032】
TPA又はその誘導体のベンゼン環を水素化するには、例えば特開昭58−198439号公報に記載されている様に、TPA又はそのアルキルエステル、アルカリ金属等の金属塩を、溶媒、水素及び水素化触媒存在下、液相で核水素化する。反応原料としてTPAのアルキルエステル、又は金属塩を用いた場合は反応後カルボン酸の形にもどして異性化の原料として使用できるが、不純物混入の可能性からTPAを用いることが好ましい。
【0033】
本発明に規定する、特定の不純物の含有量が少ない高品質t−CHDAを得るためには、粗CHDAとしてTPAを核水素化して得られる粗CHDAを用いる。
【0034】
<本発明の高品質t−CHDAを得るための粗CHDAの製造方法>
本発明の高品質t−CHDAを得るためのTPAの水素化反応は、公知の方法により行えばよい。反応溶媒としては、粗CHDAの異性化反応温度で揮発するものが好ましい。そのような溶媒としては、例えば、水;酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸;1,4−ジオキサン等の環状エーテル;メタノール、エタノール等のアルコール;モノグライム、ジグライム等のグライムなどが挙げられ、その中で水が好ましい。
【0035】
水素化触媒としては、通常は、ルテニウム、パラジウム、白金等の貴金属触媒を用いる。これらの触媒は、グラファイト、活性炭等の炭素質担体;アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア等の金属酸化物担体などに担持させて用いるのが好ましく、なかでも活性炭に担持して用いるのが好ましい。
【0036】
水素化反応の水素圧は、通常0.2〜30MPaであり、0.5〜20MPaが好ましく、1〜17MPaが特に好ましい。また、反応温度は50〜200℃、特に70〜170℃が好ましい。
【0037】
水素化反応の形式は、回分式、半連続式、連続式など、いずれの方法でも行うことができる。
【0038】
水素化反応の終了後固液分離して触媒を除き、次いで、得られた液体から溶媒を除去するか又は粗CHDAを晶析させて、粗CHDAを得る。
【0039】
<c−CHDAとt−CHDAの割合>
粗CHDAのc−CHDAとt−CHDAの割合は、特に限定されるものではないが、CHDAに対するt−CHDAの割合(以下、t/(c+t)という。)として、通常1重量%以上、好ましくは20重量%以上である。また、生産効率の点から、t/(c+t)は通常80重量%以下である。t/(c+t)は異性化の反応成績に及ぼす影響が小さく、また、本発明の製造方法によると異性化を押し切る事が可能なため、高濃度のt−CHDAであってもより高濃度にすることができる。
【0040】
なお、異性化反応の初期段階でc−CHDAが溶融するため、c−CHDAの割合が多い場合は、反応初期でスラリーまたは溶液状態を経た後、異性化反応が進行すると共にt−CHDAが析出してくる。また、c−CHDAの割合が少ない場合は、見かけ上固相状態を保持したまま異性化が進行する。
【0041】
<粉粒状を維持するためのc−CHDAとt−CHDAの割合>
本発明は、粉粒状の粗CHDAを、c−CHDAの融点以上で、かつt−CHDAの融点未満の温度で加熱処理し、粉粒状を維持したままシス体からトランス体に異性化することを一つの特徴とするが、c−CHDAの融点以上で、かつt−CHDAの融点未満の温度において粗CHDAの粉粒状を維持するためには、反応原料のt/(c+t)を制御する。t/(c+t)が大きいほど粉粒状の維持が容易となるので、通常t/(c+t)が0.5以上、好ましくは0.55以上、より好ましくは0.60以上の粉粒状の粗CHDAを用いる。
【0042】
ここで、異性化温度はc−CHDAの融点以上のため、異性化条件でc−CHDAは溶融する。従って、この場合には、粉粒体の表面が一部溶解した状態となるが、粉粒体全体としては固相状態を維持する。
【0043】
<t/(c+t)が0.5以上の粗CHDAの製造方法>
トランス体とシス体の混合物の粗CHDAからt/(c+t)が0.5以上の粉粒状の粗CHDAを得る方法としては、トランス体とシス体の混合物の粗CHDAにt−CHDAを添加する方法、トランス体とシス体の混合物の粗CHDAの水溶液からt−CHDAを晶析分離する方法、トランス体とシス体の混合物の粗CHDAの水溶液を加熱処理して異性化する方法、トランス体とシス体の混合物の粗CHDAを加熱処理して溶融異性化する方法等が挙げられ、なかでも、トランス体とシス体の混合物の粗CHDAの水溶液を加熱処理して異性化する方法、トランス体とシス体の混合物の粗CHDAを加熱処理して溶融異性化する方法が好ましい。
【0044】
<粒径>
粗CHDAの粒径は、反応器内への導入および取出しが可能であり、反応中に攪拌する場合に攪拌が可能であれば特に限定されないが、通常10μm以上、好ましくは50μm以上、より好ましくは100μm以上である。また、通常15cm以下、好ましくは10cm以下、より好ましくは5cm以下である。不純物が揮発しやすくするためには、粒径が小さいほうが好ましく、通常は粒子径が300μm以下、好ましくは250μm以下、中でも200μm以下のものが好ましい。
【0045】
<粉粒状の粗CHDAの製造方法>
公知の方法で製造された粉粒状の粗CHDAや、公知の方法で製造された塊状の粗CHDAを適宜粉砕して得た粉粒状の粗CHDAを用いてもよい。
【0046】
<原料中の不純物>
本発明の異性化反応原料として用いる粗CHDAは不純物を含まないほうが好ましいが、異性化反応温度以下の沸点を有しかつ粗CHDAと反応しない物質であれば、異性化反応中に揮発除去可能なため、含んでいても良い。
【0047】
ただし、水を含んでいる方が好ましい。後で詳述する通り、粗CHDAが水を含むと異性化反応の際に有機不純物を除くのに有用なためである。含水量は通常0.1〜10重量%である。
【0048】
異性化反応温度以下の沸点を有しかつ粗CHDAと反応しない物質としては、具体的には、粗CHDAの製造工程において用いられた溶媒等、すなわちTPAの水素化反応溶媒、もしくはエステル、または金属塩をカルボン酸に戻す操作で使用した溶媒等が挙げられ、特にTPAの直接核水添により得られた粗CHDAには、TPA、t−MCHA、c−MCHA、CHAなどが不純物として多く含まれている。
【0049】
生産効率の点から、反応原料に含まれていても良い不純物の量は、通常反応原料全体の30重量%以下、好ましくは15重量%以下である。
【0050】
粗CHDA中に、これらの不純物が多量に含まれている場合でも、これらを揮発させ除去することができるが、加熱時間を短縮させるためには、精製に供する粗CHDAの不純物の含有量は10重量%以下がより好ましい。なお、本発明の異性化を不活性ガスの流通下で行うと、従来行われている方法では除去するのが困難なt−MCHAを容易に除去することができるため、粗CHDAにt−MCHAを1〜6重量%、特に1〜4重量%含有していてもよい。
【0051】
<反応装置>
本発明に用いる反応容器は密閉型反応容器でも開放型反応容器でもよいが、反応系を不活性雰囲気に保つため、開放型の場合には不活性ガスでシールできるものを用いる。
【0052】
また、反応はバッチ反応でも連続反応でも実施できるが、生産効率の点から連続反応で実施するのが好ましい。本発明において連続反応に好適に用いられる反応装置はガスフロータイプの加熱機であり、例えばロータリーキルン、シャフト方式攪拌型焼成機、ニーダー型焼成機、流動加熱炉等があげられる。
【0053】
<流動条件下特有の方法>
本発明では反応原料を流動させながら異性化反応を行うことを特徴の一つとする。
【0054】
反応原料を流動させる装置としては、本体(ドラム)が回転し粉粒体を移動させる装置、スクリュー等で強制的に粉粒体を移動させる装置、エプロン(皿板受け)等に粉粒体を乗せ移動させる装置、気流と同伴させて粉粒体を移動させる装置等が挙げられる。中でも回転ドラムタイプ、スクリューコンベアタイプがより好ましい。粗CHDAの装置への付着を抑制する、または付着した粗CHDAを剥離させるような機能を持った装置がさらに好ましい。
【0055】
また、粗CHDAに対するt−CHDAの割合や不純物の含有量等により、異性化反応時の反応系の状態が異なり、必要な攪拌動力の大きさが変わるため、好ましい反応装置が異なる。
【0056】
t−CHDAの割合と反応系の状態との目安としては、
(1)粗CHDAに対するt−CHDAの割合が半分以上場合、反応原料をc−CHDAの融点以上t−CHDAの融点未満の温度域に保持すると、t−CHDAの固体の粒子の表面に溶融したc−CHDAが付着した状態となる。つまり、粗CHDAはほぼ固体を保っているため反応装置の内壁や攪拌部分に付着しづらい。したがって、反応原料を流動させるための攪拌動力は小さくてかまわず、例えばロータリーキルン、逆円錐型リボン攪拌加熱器、逆円錐型スクリュウ攪拌加熱器等を用いることができる。
【0057】
(2)粗CHDAに対するt−CHDAの割合が半分以下の場合、反応系中のCHDAは、溶融したc−CHDAにt−CHDAが浮遊した状態となるか、または完全に粗CHDAが溶融する。つまり、溶融したc−CHDAが反応装置の内壁や攪拌部分に付着する。すなわち、逆円錐型リボン攪拌加熱器、逆円錐型スクリュー攪拌加熱器等が有効と考えられるが、実際は、リボンやスクリューに粗CHDAが塊として付着して、粉粒体として得られないばかりか、排出が不能となる。そこで、付着したCHDAを剥離しながら攪拌する必要がある。
【0058】
攪拌と同時に付着した粗CHDAを剥離する装置としては、例えば回転ドラムの場合には回転ドラム内に付着を抑制しかつ粉砕を促進させるため、ボール、棒、羽根等を存在させ、ドラムを回転させて粗CHDAを流動させると共に、内蔵したボール、棒、羽根がドラムとともに回転することにより、粗CHDAの付着を防止し、または付着した粗CHDAを剥離し、さらに粉化することができる。
【0059】
スクリューコンベアの場合には逆円錐型スクリュー攪拌加熱器と異なりスクリューと本体トラフとの間隔が小さいため、スクリューが回転するとことによる流動に加え、トラフとの接触により回転と逆方向の力が加わり、粗CHDAの付着を防止し、または付着したCHDAを剥離し、さらに粉化することができる。スクリューを2軸にした場合、スクリュー同士の干渉によりさらに好ましい。
【0060】
<供給する粗CHDAの導入方法>
反応器に供給する際の粗CHDAの状態は特に限定されず、粗CHDAの粉粒体、溶媒を含む粗CHDAのスラリー、c−CHDA融点以上t−CHDA融点未満に加熱して溶融したc−CHDAと固体のt−CHDAのスラリー、t−CHDAの融点以上に加熱して溶解した粗CHDAなどを用いることができる。
【0061】
反応原料が、t−CHDAの融点以上に加熱して溶解した粗CHDAは、t−CHDAとの平衡値までの異性化反応時間を短縮でき、また、液体であるので取り扱いが容易である点で好ましい。ただし、反応原料が酸化されて着色されることがあるので、不活性雰囲気下で導入する。
【0062】
反応原料が粉体である場合には、フィーダー、スクリューコンベヤーなど、反応原料が粒体の場合は、ベルトコンベヤーやチェーンコンベヤーなど公知の方法で反応器に導入する。
【0063】
反応原料がスラリーの場合、スラリーフィーダーなど、公知の方法で反応器に導入する。
【0064】
<反応温度>
本発明では、c−CHDAの融点以上、かつt−CHDAの融点以下で異性化反応を行う。
【0065】
本発明でいうc−CHDAおよびt−CHDAの融点とは、実際の異性化反応の条件下でのc−CHDAおよびt−CHDAの融点をいう。公知のc−CHDAの融点は170〜171℃であり、t−CHDAの融点は312〜313℃であるが、反応原料に含まれる不純物の種類及び量や、圧力などの反応条件により変化する。
【0066】
反応温度がc−CHDAの融点未満であると、異性化反応速度が著しく遅く、実用上適用できない。加熱異性化温度の下限は、異性化反応速度を向上させるために、通常c−CHDAの融点以上、好ましくは190℃以上、より好ましくは200℃以上である。一方、反応温度がt−CHDAの融点以上であると、溶融したCHDAにはシス体とトランス体の平衡が存在するため、高濃度のt体に異性化はできない。したがって、t−CHDAの融点未満の温度で異性化する必要がある。すなわち、加熱異性化温度の上限はt−CHDAの融点以下であれば特に制限されないが、通常310℃以下、好ましくは300℃以下である。
【0067】
本反応では、反応温度が低い場合は異性化反応時間が長くなる。反応温度が高い場合は異性化反応時間が短くてすむが、粗CHDAの蒸発および揮発によるロスが多くなるため、原料のt体濃度、目的のt体濃度により、最適な反応温度を選択する。反応原料をc−CHDAの融点以上t−CHDAの融点未満の温度域に保持する方法は特に制限されず、適宜保持温度を設定すればよい。
【0068】
本発明は、異性体の関係にあるc−CHDAとt−CHDAとで融点の異なることと、異性化反応が平衡であることとを利用するものであって、異性化反応の温度を制御することに一つの特徴を有するものである。
【0069】
c−CHDAとt−CHDAとの混合物をc−CHDAの融点以上かつt−CHDAの融点未満の温度域に保持すると、融点の低いc−CHDAだけが溶融する。c−CHDAを溶融させると、c−CHDAとt−CHDAとが一定の濃度比で存在する平衡状態を保とうとして、c−CHDAからt−CHDAへの異性化が起こる。該異性化により生成したt−CHDAは融点未満であるため、c−CHDAに析出する。析出によりt−CHDAの濃度が下がると、溶融したc−CHDA中でc−CHDAからt−CHDAへの異性化反応が促進され、目的物であるt−CHDAを高純度で得ることができる。また、本発明の反応温度によれば、不純物の揮発除去を効率的に実施できたり、反応器の腐食が抑制されるという利点もある。
【0070】
そして、通常、反応原料の加熱から溶融したc−CHDA中にt−CHDAを析出させるまでの工程をt−CHDAの融点未満の温度で行う。この方法によると、異性化反応終了後、生成物を室温まで冷却したときにt−CHDAが融着した針状結晶で得られる。したがって、反応器からのt−CHDAの回収および回収したt−CHDAの粉砕を容易に行うことができる。これは、反応混合物中のt−CHDAは融解しないため、固体として存在しているt−CHDAに、異性化した粗CHDAの結晶が付着するためと考えられる。
【0071】
これに対して、流動条件下で異性化を行う場合には、粗CHDAをt−CHDAの融点以上に加熱した後、c−CHDAの融点以上、t−CHDAの融点未満としても、反応を好ましく実施することができる。
【0072】
t−CHDAの融点以上に加熱した場合粗CHDAは完全に溶融し、溶融液のc/tの比が素早く平衡値(c/t=30〜40/60〜70程度)に達する為、原料の粗CHDAのシス体の割合が高い場合は、反応時間を短縮する事が可能となる。また、t−CHDAの融点以下でないとt−CHDAを造粒できないため、少なくとも反応器の出口で所定の時間t−CHDAの融点以下とする必要がある。
【0073】
すなわち、反応器の出口付近がt−CHDAの融点以下である限りにおいて、反応器内の温度は高温でよく、例えば反応器入り口付近ではt−CHDAの融点以上となってもよい。また、例えば反応器内での異性化反応を実施する前に、溶解槽等でt−CHDA融点以上に加熱しても良いし、ロータリーキルン等、反応器の入口と出口で温度を変えられる場合は、反応器入口側の温度をt−CHDAの融点以上に加熱しても良い。
【0074】
<反応圧力>
反応圧力は、減圧、常圧又は加圧下のいずれで行うこともできるが、通常1.3kPa以上、好ましくは13kPa以上、さらに好ましくは65kPa以上であって、通常950kPa以下、好ましくは700kPa以下、さらに好ましくは400kPa以下であって、操作の簡便性から考えると、常圧が最も好ましい。
【0075】
<反応時間>
反応時間は、粗CHDAの粒径、反応温度、不活性なガスの流量、減圧度、目的とする異性化率などによって異なる。しかし生産効率を考えると通常10時間以内、好ましくは5時間以内、更に好ましくは1時間以内に目的の異性化率になるように条件を設定する。また、通常10分以上反応を行う。本発明の反応時間は、粗CHDAをc−CHDA の融点以上に加熱または保持している時間を意味するが、180℃以上t−CHDAの融点未満に10分以上保持するのが好ましい。
【0076】
<反応雰囲気>
本発明の反応は不活性雰囲気で行うのが好ましい。ここで不活性雰囲気とは、本発明の異性化反応条件において実質的にCHDAと反応しないガス(不活性ガス)の存在下を意味する。本発明における不活性ガスは、酸素含有量が2容量%以下であり、1容量%以下が好ましく、0.5容量%以下がより好ましい。不活性ガスとしては、特に限定されないが、例えば二酸化炭素、窒素、アルゴン、水蒸気、水素、またはこれらの任意のガスの混合物等であり、二酸化炭素または窒素が好ましく、工業的に実施するためには、窒素が好ましい。また、水蒸気を存在させると、後に詳述する理由により好ましい。
【0077】
密閉反応器を使用する場合には反応器内を不活性ガスで置換し、開放型反応器を使用する場合は不活性ガスでシール又は流通する。
【0078】
不活性ガスを流通させるとTPAの核水素化時の未反応TPA、副生物であるt−MCHA、c−MCHA、メチルシクロヘキサン等の有機不純物を効率的に揮発除去できるのでさらに好ましい。不可性ガスを流通で用いる場合は不活性ガスの流量にとくに制限は無いが、不活性ガスの使用量や粗CHDAのロスを少なくするために、また揮発除去したい不純物の濃度により変化するが、不活性ガスを流通する空間速度は、不活性雰囲気下で加熱異性化する場合は通常1/h以上、好ましくは5/h以上、さらに好ましくは10/h以上であって、通常2000/h以下、好ましくは1500/h以下、さらに好ましくは700/h以下である。
【0079】
この様に不活性ガスを流通させ加熱異性化することにより不純物を揮発除去すると、有機不純物の含有量が2%以下、好ましくは1.5%以下、更に好ましくは1%以下の粗CHDAを得ることができる。
【0080】
反応雰囲気に水蒸気を存在させると、揮発した不純物と共に水蒸気を凝縮させ、生成した不純物を含むスラリーをそのまま廃棄することができ、また、反応生成物のT340を有意に向上することができるので好ましい。
【0081】
水蒸気を使用する際の雰囲気中の量としては、通常50mg/L以上、好ましくは100mg/L以上、より好ましくは200mg/L以上である。
【0082】
本発明においては、上記の水蒸気量を達成する方法としては、(1)水を含む粗CHDAを用いる、(2)水蒸気を含む不活性ガスを用いる、(3)反応器に水を供給して反応器内で水蒸気を発生させる方法などが挙げられる。なかでも接触効率が高い点で、水を含む粗CHDAを用いる方法が好ましい。
【0083】
通常、粗CHDAは水溶液から分離取得することから、本発明の反応原料である粗CHDAは、水を含む。しかし粗CHDAを保管する際に、水分が存在すると粗CHDA同士が融着して、非常に取り扱いづらいものとなる。つまり、一度粗CHDAを乾燥させてから保管するのが一般的であるが、一度乾燥させたにもかかわらず、これに水を加えて反応させるのが好ましい。
【0084】
また、不純物を除去するためには減圧するのも好ましい。減圧下に加熱して不純物を揮発させる場合には、容器内に加熱ゾーンのほかに冷却ゾーンを設け、加熱ゾーンで揮発した不純物を冷却ゾーンで凝縮させて除去すればよい。
【0085】
<生成物の回収方法>
反応生成物の回収方法としては特に限定されないが、例えば、反応生成物を室温まで冷却した後に回収する方法以外に、溶融c−CHDAにt−CHDAを析出させた後、析出したt−CHDAを溶融c−CHDAから分離する方法が挙げられる。
【0086】
また、t−CHDAを製造する好適な態様としては、粗CHDAを反応器に連続的に供給し、溶融c−CHDAから析出したt−CHDAを連続的に分離・回収する方法が挙げられる。この方法によれば、高純度の結晶状のt−CHDAを連続的に取得することができる。
【0087】
<得られる反応生成物>
このようにして、本発明によりc−CHDAのt−CHDAへの異性化を効率的に実施することが出来、t/(c+t)が0.8以上、好ましくは0.9以上、更に好ましくは0.95以上のt−CHDAを得ることが出来る。
【0088】
また、不活性ガス流通下で異性化反応を行ったものは、不純物の含有量が1重量%以下のCHDAを得ることができる。
【0089】
本発明により得られた、t−CHDA純度の高いCHDAを用いると、耐熱性、耐候性、物質的強度等の優れた樹脂や繊維を製造できる。
【0090】
粉粒状の粗CHDAを加熱処理し、粉粒状を維持したまま異性化すると、仕込んだ粗CHDAは反応時間を通して固体を維持し、反応前と同程度の粒径を有する粉粒状の生成CHDAが得られる。
【0091】
また、流動させながら加熱異性化すると、反応器出口から得られるt−CHDAは、通常数センチ以下の大きさの粉粒体として得られる。
【0092】
<高品質t−CHDA>
上記したt−CHDAの製造方法に従って、本発明に係る下記(a)及び(b)を満たす高品質t−CHDAを得ることができる。
(a)t体を90%以上含有すること。
(b)アルカリ水溶液中における340nmでの光透過率が85%以上であること。
【0093】
上記、高品質t−CHDAは、t体を90%以上含有すると、熱特性の優れたポリマーが得られる。なお、t体の含有量は液体クロマトグラフィーにより分析することができ、ここで%は重量%を表す。
【0094】
上記、高品質t−CHDAは、波長340nmにおける光線透過率が85%以上である。光線透過率が85%未満であると、かかるCHDAを用いて製造した高分子化合物の光線透過率が低下し、得られるポリマーの透明性が劣ることがある。なお、波長340nmにおける光線透過率は、例えば厚さ1cmの石英セルを用い、2NのKOH溶液10mlにサンプル1gを溶解した溶液を、分光光度計を用いて測定することができる。
【0095】
更に、以下の条件をも満たす高品質t−CHDAを得ることができる。
(c)アルカリ金属及びアルカリ土類金属の含有量の総量が20ppm以下であること。
(d)酸根の含有量が25ppm以下であること。
【0096】
アルカリ金属及びアルカリ土類金属の含有量は15ppm以下であることが好ましく、さらに10ppm以下であることがより好ましく、本発明の方法によれば実質的にアルカリ金属及びアルカリ土類金属を含まない高品質t−CHDAが得られる。アルカリ金属およびアルカリ土類金属の含有量が20ppmを超えると、CHDAはカルボン酸の金属塩として存在して反応特性や、これを用いたポリマーの電気特性に影響を与えたり、ポリマーから金属が溶出して機器等を汚染してしまうおそれがある。なお、ここで言うアルカリ金属はナトリウム、カリウム等で、アルカリ土類金属はマグネシウム、カルシウム等を表す。またかかる金属含有量は、発光分析等を用いて測定できる。
【0097】
また、酸根が25ppmを超えると、酸性度が増し、装置等を腐食するおそれがある。かかる酸根含量は20ppm以下であることが好ましく、さらに10ppm以下であることがより好ましい。ここで言う酸根とは、TPAエステルやTPA金属塩を水素化した後、硫酸、塩酸等を用いて酸析処理することにより混入するものであり、硫酸の場合は硫酸の他に硫酸の金属塩、硫酸イオン、Sを、また塩酸の場合は塩酸の他に塩酸の金属塩、塩素イオン等を表す。かかる酸根は、イオンクロマトグラフィー等でイオン種を、発光分析等により総S、総Clを容易に分析できる。
【実施例】
【0098】
以下に実施例を上げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの例に限定されるものではない。
【0099】
(実施例1)
c−CHDA92.6重量%およびt−CHDA7.4重量%からなる粗CHDA0.2gを内容積70mlのオートクレーブに仕込み、オートクレーブ内を窒素置換した。粗CHDAを攪拌せずに、オートクレーブを230℃に1時間保持した後、オートクレーブを室温まで冷却したところ、融着した針状結晶状の固体を得た。得られた固体の液体クロマトグラフィー(以下、LCという。)による分析結果を表1に示す。
【0100】
(実施例2)
保持時間を3時間とした以外は実施例1と同様に実施したところ、融着した針状結晶状の固体を得た。得られた固体のLCによる分析結果を表1に示す。
【0101】
(実施例3)
保持温度を250℃にした以外は実施例1と同様に実施したところ、融着した針状結晶状の固体を得た。得られた固体のLCによる分析結果を表1に示す。
【0102】
(実施例4)
保持温度を270℃にした以外は実施例1と同様に実施したところ、融着した針状結晶状の固体を得た。得られた固体のLCによる分析結果を表1に示す。
【0103】
(実施例5)
c−CHDA92.6重量%、t−CHDA7.4重量%からなる粗CHDA 1gを長さ30cm、内径20mmである上部にガス入口と出口のコックの付いた反応管に仕込み、バブラーを取り付けたアルゴン導入管を反応管の入口に接続して、アルゴンで充分置換した。その後、出口のコックを閉じ、バブラーでアルゴンをバブリングさせ反応管をアルゴンシールした。反応管を290℃で1時間保持した後、室温まで冷却したところ、反応管の底から融着した針状結晶状の固体を得た。得られた固体のLCによる結果を表1に示す。
【0104】
(比較例A)
反応管を330℃で0.5時間保持した後250℃で1時間保持した以外は、実施例5と同様に実施したところ、堅固な塊状の固体を得た。得られた固体のLCによる分析結果を表1に示す。
【0105】
(比較例1)
反応温度を310℃にして反応混合物は完全に溶解させた後に、180℃まで約4分かけて冷却した以外は、実施例5と同様に実施したところ、堅固な塊状の固体を得た。得られた固体のLCによる結果を表1に示す。
【0106】
(比較例2)
反応温度を330℃にし、180℃まで約4分40秒かけて冷却した以外は、実施例5と同様に実施したところ、堅固な塊状の固体を得た。得られた固体のLCによる結果を表1に示す。
【0107】
(比較例3)
反応時間を3時間にした以外は比較例2と同様に実施したところ、堅固な塊状の固体を得た。得られた固体のLCによる結果を表1に示す。
【0108】
【表1】

【0109】
(実施例7)
TPA20重量%、5%Pd/C(エヌ・イー ケムキャット製)2重量%を含む水溶液を誘導攪拌型ステンレス製オートクレーブに仕込み、窒素置換後、水素1MPa下昇温し、150℃で水素圧を5MPaとして2時間保持した。
【0110】
反応終了後、150℃で反応液を焼結フィルターにより濾過して触媒を除去し、80℃に下げて、析出した粗CHDAを濾過分離した。該粗CHDAをLCで分析したところ、c−CHDA10.6重量%、t−CHDA78.4重量%、TPA0.3重量%、CHA0.1重量%、4−メチルシクロヘキサンカルボン酸(以下、MCHAという。)1.3重量%、および水9.3重量%を含んでいた。
【0111】
この粗CHDA5gを、出口に5℃の水で冷却したトラップをつけた内径15mmのガラス製の縦型反応器に充填した。窒素を空間速度276/時でダウンフローで流し、200℃に1時間保持した後、室温まで冷却したところ、反応管の中に融着した針状結晶状の固体を得た。得られた固体のLCによる結果を表2に示す。
【0112】
(実施例8)
保持時間を3時間にした以外は実施例7と同様の方法で反応を実施した。結果を表2に示す。
【0113】
(実施例9)
反応温度を250℃にした以外は実施例7と同様の方法で反応を行った。結果を表2に示す。
【0114】
【表2】

【0115】
(実施例10)
TPAの核水添により得られた粗CHDAにt−CHDAを加えて、t/(c+t)=0.55(平均粒径0.1mm程度)の粗CHDAを調製した。こうして得た粗CHDA2gを、上部にガス入口と出口のコックの付いた長さ30cm、内径20mmの反応管に仕込んだ。アルゴン導入管を反応管の入口に接続して、反応器内をアルゴンで充分置換した。250℃に昇温した電気炉にセットし、そのまま2h保持した。その結果、仕込んだ粗CHDAは反応時間を通して固体を維持し、反応前と同程度の粒径を有する粉粒状のCHDAが得られた。こうして得られたCHDAをLCで分析したところ、t/(c+t)=0.963であった。
【0116】
(参考例1)
t/(c+t)=0.455の粉粒状(平均粒径0.1mm程度)の粗CHDAを用いた以外は実施例10と同様に反応を実施した。反応の初期でCHDAが液化した。反応終了後、自然冷却で室温まで冷却すると、反応器内のCHDAは1つの塊となり、反応器の壁に付着して、反応器から取り出すのが困難であった。なお、LCで分析したところ、t/(c+t)=0.955のCHDAであった。
【0117】
(実施例11)
t/(c+t)=0.376の粗CHDA10gを水50gと共にステンレス製の200mlオートクレーブに仕込んだ。オートクレーブ内を良く窒素置換し、誘導攪拌下、250℃で1時間加熱した。反応終了後、室温まで冷却して析出した粗CHDAを回収した。この粗CHDAは粉粒状であり、LC分析結果、t/(c+t)=0.618の粉粒状(平均粒径0.1mm程度)粗CHDAであった。
【0118】
こうして得た粗CHDA2gを実施例10と同じ方法で異性化反応させた。CHDAは反応時間を通して固体を維持し、反応前と同程度の粒径を有する粉粒状のCHDAが得られた。こうして得られたCHDAをLCで分析したところ、t/(c+t)=0.956のCHDAであった。
【0119】
(実施例12)
t/(c+t)=0.376の粗CHDA2gを実施例10の方法で330℃で1時間反応させた。粗CHDAは反応の間、液体のままであった。液状の粗CHDAをすばやくステンレス製の底の平らな容器に開けた。固化した粗CHDAは容易にステンレス容器から剥がれた。LC分析の結果、t/(c+t)=0.638の粗CHDAであった。
【0120】
ステンレス容器から剥がれた粗CHDAを0.1mm程度の粒径を有する粉粒状に粉砕した後、該粗CHDA2gを実施例10の方法で異性化反応させた。CHDAは反応時間を通して固体を維持し、反応前と同程度の粒径を有する粉粒状のCHDAが得られた。LC分析の結果、t/(c+t)=0.965のCHDAであった。
【0121】
(参考例2)
t/(c+t)=0.45の粗CHDA2gを330℃で1時間保持した以外は実施例10と同様の方法で異性化反応させた。CHDAは反応の間液体を維持した。反応時間終了後、自然冷却で室温まで冷却した。反応器内のCHDAは1つの塊となり、反応器の壁に付着して、反応器から取り出すのが困難であった。LC分析の結果、t/(c+t)=0.793のCHDAであった。
【0122】
(実施例13)
TPA20重量%、5%Pd/C(エヌ・イー ケムキャット製)2重量%を含む水溶液を誘導攪拌型ステンレス製オートクレーブに仕込み、窒素置換後、水素1MPa下昇温し、150℃で水素圧を5MPaとして2時間保持した。反応終了後150℃で反応液を焼結フィルターにより触媒を除去してLC分析を実施したところ、TPA転化率が99.5モル%、4−メチルシクロヘキサンカルボン酸収率(以下、MCHAという。)が3.1モル%、シクロヘキサンカルボン酸(以下、CHAという。)収率が0.22モル%、CHDA収率が96.2モル%であり、粗CHDAのt/(c+t)は0.35であった。
【0123】
この水溶液をさらに誘導攪拌型ステンレス製オートクレーブに仕込み、窒素下250℃で2時間反応させた。その結果、t/(c+t)=0.618の粗CHDAの水溶液が得られた。この反応液を室温まで冷却し、析出物を濾過しLC分析をしたところ、水4.8重量%、MCHA1.6重量%、CHA0.1重量%、TPA0.5重量%、CHDA93.0重量%であり、粗CHDAのt/(c+t)は0.671であった。
【0124】
こうして得られた粗CHDA5gを0.1mm程度の粒径を有する粉粒状に粉砕した後、縦型のダウンフロータイプの内径が22mmのガラス反応器に仕込みアルゴンを276/hでダウンフローで流し、250℃で2時間反応を行った。その結果、仕込んだ粗CHDAは反応時間を通して固体を維持し、反応前と同程度の粒径を有する粉粒状のCHDAが得られた。
【0125】
その結果、4.43gが回収され、LC分析の結果、MCHA0.4wt%、TPA0.2wt%、CHDA99.4wt%であり、CHDAのt/(c+t)は0.971であった。
【0126】
(実施例14)
c−CHDA45.0%、t−CHDA55.0%からなる粗CHDA粉末6.6kgを、粉砕器(ビーター)内蔵ロータリーキルン(長さ4m、内径200mm:株式会社赤見製作所製ラジアル炉)に、窒素雰囲気下、28分かけて連続的に仕込み、炉温度250℃、滞留時間約8分で処理した。異性化されたCHDAはロータリーキルンから粉体状態で連続的に排出され、その組成はt−CHDA96%であった。
【0127】
(参考例3)
スリーワンモータに攪拌羽根をつけた2リットルのフラスコに粗CHDA(t体35%)を500g仕込み、十分に窒素置換後、窒素を少量流通させ攪拌しながらオイルバスにて250℃まで加熱した。加熱し始めて約20分後攪拌が困難になったので、攪拌を停止した。内温が250℃に達してからさらに1時間その温度を保持した。
【0128】
処理後冷却しCHDAの分析を実施したところ、t体が95%になっていたが、この攪拌方法では、攪拌羽根に付着したCHDAが攪拌羽根とともに回転するのみで剥離できないため、一つの塊となっており取り出しが困難であった。
【0129】
(参考例4)
大川原製作所製リボコーン(RM−10D型、有効容積13.2リットル)を120℃に昇温後、大気圧下粗CHDA(c−CHDA86.0%、t−CHDA14.0%)5.2kgを投入して、リボン回転数を約100rpmで攪拌しながら90分処理した。その後窒素置換後昇温し、190℃で60分処理し、更に昇温し、270℃で120分処理した。
【0130】
処理後、反応器下部より排出を試みたが、排出口から排出できなかった。
【0131】
リボンを缶体から取り出し、CHDAを回収し、分析したところ、t体97.6%であったが、CHDAが缶体円錐部に所々付着すると共に、リボン部に付着したCHDAがリボンとともに回転するのみで剥離できないため塊で存在していた。
【0132】
(実施例15)
TPA20重量%、5%Pd/C(エヌ・イー ケムキャット製)2重量%を含む水溶液を誘導攪拌型ステンレス製オートクレーブに仕込み、窒素置換後、水素1MPa下昇温し、150℃で水素圧を5MPaとして2時間保持した。
【0133】
反応終了後、150℃で反応液を焼結フィルターにより濾過して触媒を除去し、80℃に下げて、析出した粗CHDAを濾過分離した。該粗CHDAをLCで分析したところ、c−CHDA10.6重量%、t−CHDA78.4重量%、TPA0.3重量%、CHA0.1重量%、MCHA1.3重量%、および水9.3重量%を含んでいた。
【0134】
このCHDA5gを、出口に5℃の水で冷却したトラップをつけた内径15mmのガラス製の縦型反応器に充填した。窒素を空間速度276/時でダウンフローで流し、250℃に1時間保持した後、室温まで冷却したところ、反応管の中に融着した針状結晶状の固体を得た。得られた固体のLCによる分析したところ、c−CHDA1.8重量%、t−CHDA97.8重量%、TPA0.1重量%、CHA0%、MCHA0.3wt%であった。
【0135】
(実施例16)
TPA20重量部を水80重量部に懸濁し、5%Pd/C(エヌ・イー ケムキャット社製)2重量部を加えた。これを誘導攪拌型ステンレス製オートクレーブに仕込み、容器内の空気を窒素に置換した。次いで、水素圧1MPaで水素を導入しながら150℃まで昇温し、水素圧を5MPaとし、そのまま2時間反応させた。焼結フィルターを用いて150℃で濾過して触媒を除去した後、反応液を80℃に冷却し、析出した粗CHDAを濾取した。この粗CHDAは、粒径が120μm未満であり、CHDA89.0重量%、TPA0.3重量%、CHA0.1重量%、c−MCHA0.1重量%、t−MCHA1.2重量%、水9.3重量%の組成であった。
【0136】
得られた粗CHDA5gを、5℃の水で冷却したトラップを出口につけた内径15mmのガラス製の縦型反応器に充填し、窒素を空間速度276/時でダウンフローで流しながら、250℃で1時間加熱した後、反応器に残ったCHDA(以下、精製CHDAという。)を分析した。結果を表3に示す。
【0137】
(実施例17)
実施例16の加熱時間1時間を3時間にした以外は、実施例16と同様の方法で加熱し、精製CHDAを得た。分析結果を表3に示す。
【0138】
(実施例18)
実施例16の加熱温度250℃を200℃にした以外は、実施例16と同様の方法で加熱し、精製CHDAを得た。分析結果を表3に示す。
【0139】
(実施例19)
実施例16と同様にして得た粗CHDAを、50℃、5mmHgで2時間乾燥した。この粗CHDAは、粒径が120μm未満であり、CHDA98.0重量%、TPA0.3重量%、CHA0.1重量%、c−MCHA0.1重量%、t−MCHA1.5重量%の組成であった。この粗CHDAを実施例16と同様の条件で加熱し、精製CHDAを得た。分析結果を表3に示す。
【0140】
(実施例20)
実施例19の加熱温度250℃を230℃にした以外は、実施例19と同様の条件で加熱し、精製CHDAを得た。分析結果を表3に示す。
【0141】
(実施例21)
実施例19で得た乾燥した粗CHDAをメノウ乳鉢で粉砕後、350メッシュの篩いを通したもの(粒径44μm未満)を用い、かつ実施例20の空間速度276/時を空間速度36/時に変えた以外は、実施例20と同様な条件で加熱し、精製CHDAを得た。分析結果を表3に示す。
【0142】
(実施例22)
実施例19で得た乾燥した粗CHDAを内径15mmのガラス製の縦型反応器に充填し、反応器の上部と粗CHDAとの間に直径2mmのガラスビーズを充填した。250℃に加熱したガラスビーズ層に水を0.05mL/分で供給して水蒸気を発生させながら、250℃で1時間加熱した後、反応器に残った精製CHDAを分析した。結果を表3に示す。
【0143】
【表3】

【0144】
(実施例23)
TPA10kg、水90kg、5%Pd/C触媒(50%含水品)2kgを130L、SUS316製オートクレーブに仕込んだ後、攪拌しながら150℃、5MPaで1時間、水素の消費がなくなるまで水素化反応を実施した。得られた反応液を110℃まで冷却後、濾過により触媒を分離し、さらに25℃まで冷却し1晩放置してCHDAを晶析させた。遠心分離器を用いて濾過を行った後、得られたケーキを110℃、5mmHgで2時間乾燥してCHDA(t体31.6%)を得た。得られたCHDA100gを0.5Lガラス製フラスコに入れ窒素を使って減圧置換後、そのガスを流しながら250℃で1時間加熱処理を行った。 得られたt−CHDAの340nmにおける光透過率(以下、T340という。)、S、Cl、Naの分析結果を表4に示す。
【0145】
なお、T340は厚さ1cmの石英セルを用い、2NのKOH溶液10mlにサンプル1gを溶解した溶液を、分光光度計(日立製作所製、日立レシオビーム分光光度計 U−1100型)を用いて測定したもので、S、Cl、Naは、それぞれ硫酸イオン又はこれを含む化合物、塩素イオン又はこれを含む化合物、ナトリウムイオン又はこれを含む化合物として、総S、総Cl、総Naを発光分析により測定した。
【0146】
(比較例4)
東京化成社のt−CHDAを実施例23と同様の分析を実施した。結果を表4に示す。
【0147】
(比較例5)
アルドリッチ社のt−CHDAを実施例23と同様の分析を実施した。結果を表1に示す。
【0148】
(比較例6)
イーストマンケミカル製CHDA(t体濃度26.3%)を40g、水60gをガラス製ビーカーに仕込み、攪拌しながら80℃に加熱した。その後80℃で濾過し、80℃の水100mlで洗浄し、110℃、5mmHgで2時間乾燥してt−CHDAを得た。このt−CHDAを実施例23と同様の分析を実施した。結果を表4に示す。
【0149】
(比較例7)
イーストマンケミカル製CHDA(t体26.3%)を40g、水60gをステンレス製オートクレーブに仕込み、窒素雰囲気下245〜250℃で2時間加熱した。その後80℃まで冷却し、70℃で濾過し、80℃の水100mlで洗浄し、110℃、5mmHgで2時間乾燥してt−CHDAを得た。このt−CHDAを実施例23と同様の分析を実施した。結果を表4に示す。
【0150】
【表4】

【0151】
(実施例24)
c−CHDA37重量%を含むCHDA10gをガス導入管,冷却管および攪拌装置を備えた4つ口フラスコに仕込み、真空ポンプで減圧した後酸素2ppmを含む窒素(メイクアップガス)で常圧まで戻す操作を5回繰り返してフラスコ内をメイクアップガスで置換した。予め室温(25℃)の水中にバブリングして飽和水蒸気を含むように調製した窒素であって、反応器内で水蒸気を15mg/l含む窒素をガス導入管から1L/Hrで流通し,攪拌しながら250℃に昇温して1時間加熱処理した。室温まで冷却後、フラスコ中のCHDAを全量回収し、液クロマトグラフィーで分析した。結果を表5に示す。
【0152】
(実施例25)
実施例24で、CHDAの異性化反応時に流したガスが、水蒸気を10g/Hrで10L/Hrの窒素と一緒にフラスコ内に流通させ、反応器内で水蒸気を232mg/l含む窒素であること以外は同様の方法で反応を実施した。結果を表5に示す。
【0153】
(実施例26)
c−CHDA26重量%を含むCHDA100gをフィード口、抜き出し口および攪拌装置を備えたフラスコに仕込み、フラスコ内に窒素を流通して置換した。窒素を25.5L/Hr、水をポンプで10g/Hrの流量でフィード口から供給することで、反応器内で水蒸気を137mg/l含む窒素を流通し、攪拌しながら250℃に昇温して加熱処理した。加熱中に蒸発した水蒸気と窒素は連続的に抜き出し口から抜き出された。250℃で1時間加熱処理した後、室温まで冷却し、フラスコ中のCHDAを全量回収した。得られたCHDAを液クロマトグラフィーおよび分光光度計で分析した。結果を表5に示す。
【0154】
(実施例27)
実施例26で、CHDAの加熱処理の際にフィード口から供給した水の流量が20g/Hrであって、その結果流通した窒素が反応器内で水蒸気を207mg/l含む窒素である以外は実施例26と同様に行った。結果を表5に示す。
【0155】
(実施例28)
実施例26で、CHDAの加熱処理の際に窒素の供給を行わず、その結果、反応器内に419mg/lの水蒸気を流通した以外は実施例26と同様に行った。結果を表5に示す。
【0156】
(実施例29)
c−CHDA26重量%を含むCHDA100gと水1gを、内径20mm×長さ200mmのジムロード冷却管および撹拌装置を備えた1Lのフラスコに仕込み、フラスコ内に窒素を流通して置換した。撹拌しながら250℃に昇温して加熱処理した。加熱中に蒸発した水蒸気を冷却管で冷却して環流させ、フラスコ内の水蒸気濃度を419mg/lに保った。250℃で1時間加熱処理した後、窒素を流通し水分を留去しながら室温まで冷却し、フラスコ中のCHDAを全量回収した。得られたCHDAを液クロマトグラフィーおよび分光光度計で分析した。結果を表5に示す。
【0157】
【表5】

【0158】
(参考例5)
CHDA(t体34.1%、S<5ppm、Cl<5ppm、Na<0.03ppm)に、重量既知のSUS−316製のテストピースを浸し、窒素0.1Mpa下、250℃で1時間加熱処理を行った。処理後テストピースを洗浄し、処理前後のテストピースの表面積及び重量を測定し、腐食速度(mm/年)を算出したところ、0.04mm/年であった。
【0159】
(参考例6)
イーストマンケミカル製CHDA(t体26.3%、S9.2ppm、Cl<5ppm、Na>29ppm)を用い、参考例5と同様の評価を行ったところ、腐食速度は0.23mm/年であった。
【0160】
(参考例7)
1時間の加熱処理を330℃で行った以外は、参考例5と同様の評価を行ったところ、腐食速度は4.52mm/年であった。
【0161】
以上、本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(以下、t−CHDAという)の製造方法であって、シス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(以下、c−CHDAという)及びt−CHDAの混合物(以下、粗CHDAという)を、c−CHDAの融点以上に加熱し、かつt−CHDAの融点未満の温度に保持しながら異性化反応を行い、溶融したc−CHDA中に、異性化して生成したt−CHDAを析出させ、かつ前記溶融したc−CHDA中に析出したt−CHDAを分離、回収して得ることを特徴とするt−CHDAの製造方法。
【請求項2】
粗CHDAの加熱から溶融したc−CHDA中に異性化して生成したt−CHDAを析出させるまでの工程を、t−CHDAの融点未満の温度で行う、請求項1に記載のt−CHDAの製造方法。
【請求項3】
粉粒状の粗CHDAを、c−CHDAの融点以上で、かつt−CHDAの融点未満の温度で加熱処理し、粉粒状を維持したままシス体からトランス体に異性化する、請求項1または請求項2に記載のt−CHDAの製造方法。
【請求項4】
粗t−CHDAを連続的に供給し、溶融c−CHDAから析出したt−CHDAを連続的に分離・回収する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のtCHDAの製造方法。
【請求項5】
粗CHDAを、流動させながら、c−CHDAの融点以上t−CHDA融点未満の温度域に保持して、粉粒状のt−CHDAを得る、請求項1〜のいずれか1項に記載のt−CHDAの製造方法。
【請求項6】
回転ドラム又はスクリューコンベアで粗CHDAを流動させながら得る、請求項に記載のt−CHDAの製造方法。
【請求項7】
粗CHDAが、テレフタル酸を液相で水素化して得られた粗CHDAである、請求項1〜のいずれか1項に記載のt−CHDAの製造方法。
【請求項8】
粗CHDAが、CHDAに対するトランス体の割合t/(c+t)が0.5以上である、請求項1〜のいずれか1項に記載のt−CHDAの製造方法。
【請求項9】
粗CHDAの粒径が、300μm以下である、請求項1〜のいずれか1項に記載のt−CHDAの製造方法。
【請求項10】
粗CHDAをc−CHDAの融点以上t−CHDAの融点未満の温度に保持しながら異性化反応を行う際の反応時間が10分〜10時間である、請求項1〜のいずれか1項に記載のt−CHDAの製造方法。
【請求項11】
異性化を不活性ガス流通下で行う、請求項1〜10のいずれか1項に記載のt−CHDAの製造方法。
【請求項12】
異性化を水蒸気の存在下で行う、請求項1〜11のいずれか1項に記載のt−CHDAの製造方法。
【請求項13】
異性化反応後のトランス体の割合t/(c+t)が0.8以上である、請求項1〜12のいずれか1項に記載のt−CHDAの製造方法。
【請求項14】
異性化反応後のCHDA中の有機不純物が1%以下である、請求項1〜13のいずれか1項に記載のt−CHDAの製造方法。

【公開番号】特開2010−163439(P2010−163439A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39112(P2010−39112)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【分割の表示】特願2002−352104(P2002−352104)の分割
【原出願日】平成14年12月4日(2002.12.4)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】