説明

トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの製造方法

【課題】トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンを高純度、高収率で製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの製造方法は、p−フェニレンジアミンを水素化することによって1,4−ジアミノシクロヘキサンの異性体混合物を生成する水素化反応工程を含み、上記水素化反応工程では、水素化反応の反応系にアルカリ土類金属酸化物が添加されることによって、上記反応系に含まれる水分が除去されるとともに、上記アルカリ土類金属の水酸化物が上記反応系において助触媒として作用する。これによって、水素化反応が十分に進行し、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンを高純度、高収率で製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの製造方法に関するものである。さらに詳しくは、水素化反応の反応系にアルカリ土類金属酸化物を添加して反応系内の水分を除去するとともに助触媒効果を得ることや、水素化反応時にシス−1,4−ジアミノシクロヘキサンを多く含む、低水分の異性体混合物を溶媒として使用することによって、高純度のトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンを高収率で得る方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンは、ポリイミド、ポリアミド等の耐熱性高分子や、ポリウレタンの原料として有用な化合物である(特許文献1)。
【0003】
従来、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの製造方法として、p−ニトロアニリンのニトロ基およびベンゼン環を水素化し、一段階で1,4−ジアミノシクロヘキサンに還元する方法(特許文献2)や、p−フェニレンジアミンに水素添加して製造する方法が開示されている(特許文献3)。
【0004】
また、芳香族ジアミン化合物の水素化時に、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を助触媒として用いることにより、核水素化物の選択率や反応速度を改善できることが開示されている(特許文献3、4)。
【0005】
さらに、1,4−ジアミノシクロヘキサンは、通常シス体とトランス体との異性体混合物として得られるが、当該異性体混合物からトランス体を回収する方法として、当該異性体混合物をルテニウム触媒の存在下で異性化反応させ、トランス体リッチの混合物とした後、トランス体を析出させて回収するとともに、濾液として得られたシス体リッチな溶液を異性化する工程を繰り返す方法が知られている(特許文献5)。
【特許文献1】特開2002−161136号公報(2002年6月4日公開)
【特許文献2】米国特許第2606925号公報(1952年8月12日特許)
【特許文献3】米国特許第3636108号公報(1972年1月18日特許)
【特許文献4】特開2003−183229号公報(2003年7月3日公開)
【特許文献5】米国特許第3657345号公報(1972年4月18日特許)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術では、いずれも高純度のトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンを高収率で得ることはできない。例えば特許文献2に記載された上記製造方法は、p−ニトロアニリンを一段階で1,4−ジアミノシクロヘキサンに還元する方法であるが、1,4−ジアミノシクロヘキサンの純度は74%と低い。
【0007】
ここで、芳香族アミンの水素化時には、反応系内に水が存在するとアルコールなどの副生物が増加する傾向があるとともに、触媒系を部分的に失活させる傾向があることも知られている(特開2001−314767号公報(2001年11月13日公開))。このことから、特許文献2に記載の製造方法によって製造された1,4−ジアミノシクロヘキサンの純度の低さは、p−ニトロアニリンに含まれるニトロ基の還元によって副生する水に起因するものと考えられる。したがって、特許文献2に記載の方法では、高純度の1,4−ジアミノシクロヘキサンを得ることはできない。そのため、高純度のトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンを高収率で得ることもできない。
【0008】
また、p−ニトロアニリンを出発原料として、特許文献4に記載の方法を用いれば、助触媒の働きにより、触媒を単独で使用する場合よりも効率よく1,4−ジアミノシクロヘキサンを得ることはできると考えられるものの、反応系内の水分を完全に除去することは非常に困難である。そのため、水素化反応を効率よく進行させることはできず、高純度の1,4−ジアミノシクロヘキサンを得ることはできない。また、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンは低融点であり、かつ昇華性を持つため、水分除去が非常に困難である。したがって、高純度のトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンを高収率で得ることはできない。
【0009】
さらに、p−フェニレンジアミンを出発原料とする場合も、原料および溶媒に含まれる水分が水素化反応に悪影響を及ぼすため、同様に高純度の1,4−ジアミノシクロヘキサンを得ることはできない。また、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンは上述のような物性を持つため、水分除去が非常に困難である。したがって、高純度のトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンを高収率で得ることはできない。
【0010】
また、特許文献5に記載の方法により、トランス体とシス体とを濾別し、シス体リッチな濾液を異性化させることによって、トランス体の収率を向上させることはできる。しかしながら、この場合も、得られたトランス体からの水分除去が困難である上、シス体リッチな濾液を異性化させる際に、水分の影響によって不純物が増加するという問題点がある。さらに、特許文献5には、水分が水素化反応に与える悪影響については十分に言及されておらず、脱水作用を持つ担体を使用した触媒も例示されているが、当該触媒は特殊な触媒であるため、調製することは経済的に不利である。
【0011】
すなわち、特許文献5に記載された技術では、水分除去および反応性向上を簡易な操作で行うことはできないという問題点がある。
【0012】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、高純度のトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンを、高収率で製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、水素化反応の反応系にアルカリ土類金属酸化物を添加することによって、上記反応系に含まれる水分を効率的に除去できるとともに、アルカリ土類金属酸化物が助触媒としても作用することを見出した。また、水素化反応において、溶媒として、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン(以下単に「トランス体」ともいう)よりもシス−1,4−ジアミノシクロヘキサン(以下単に「シス体」ともいう)を多く含む、低水分の1,4−ジアミノシクロヘキサンの異性体混合物を用いることによって、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの効率的な生産が可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明に係るトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの製造方法は、p−フェニレンジアミンを水素化することによって1,4−ジアミノシクロヘキサンの異性体混合物を生成する水素化反応工程を含み、上記水素化反応工程では、水素化反応の反応系にアルカリ土類金属酸化物が添加されることによって、上記反応系に含まれる水分が除去されるとともに、上記アルカリ土類金属の水酸化物が上記反応系において助触媒として作用することを特徴としている。
【0015】
上記構成によれば、アルカリ土類金属酸化物が水素化反応の反応系中に含まれる水と反応して水酸化物が生成されるため、反応系中の水分をほぼ完全に除去し、保持することができる。また、反応系中の水分に起因する不純物(例えば、4−アミノ−シクロヘキサノール等のアルコール体、シクロヘキシルアミン等の脱アミン体、4,4´−イミノジシクロヘキシルアミン等の多量体等)を低減することができる。
【0016】
アルカリ土類金属の中には、脱水作用を持つものがいくつかあるが、多くは加熱によって水分が反応系に戻ってしまう。水素化反応の反応温度は、後述するように120℃以上180℃以下であることが好ましく、加熱を要するため、このようなアルカリ土類金属を用いても、水分が水素化反応に与える悪影響を除くことはできない。一方、アルカリ土類金属酸化物は、水分と結合して水酸化物を生成するので、高温下でも水分を保持することができ、反応系から水分をほぼ完全に除去することができる。そのため、原料および溶媒に含まれる水の存在によって水素化反応の進行が阻害されるという問題が生ずることはない。
【0017】
また、生成した水酸化物は助触媒として作用するため、水素化反応の速度および1,4−ジアミノシクロヘキサンの異性体混合物の収率を向上させることができる。そして、上記異性体混合物は、加熱することによってトランス体リッチにすることができる。したがって、上記構成によれば、高純度のトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンを高収率で得ることができる。
【0018】
また、本発明に係るトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの製造方法は、上記水素化反応工程では、p−フェニレンジアミンの溶媒または当該溶媒の一部として、1,4−ジアミノシクロヘキサンの異性体混合物を1回または2回以上繰り返して使用し、当該溶媒として用いる異性体混合物は、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンよりもシス−1,4−ジアミノシクロヘキサンを多く含むことが好ましい。なお、以下、シス−1,4−ジアミノシクロヘキサンをトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンよりも多く含む異性体混合物を、「シス体リッチな異性体混合物」ともいう。
【0019】
上記シス体リッチな異性体混合物は、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンよりも融点が低いシス−1,4−ジアミノシクロヘキサンを多く含み、常温で液状である。
【0020】
上記構成によれば、シス体リッチな異性体混合物を水素化反応の溶媒として用いるので、触媒によるp−フェニレンジアミンの水素化の進行とともに、上記溶媒に含まれるシス体のトランス体への異性化も進行する。したがって、トランス体の収率を向上させることができる。
【0021】
また、上記構成によれば、副生物であるシス体を再利用することができるので、効率よくトランス体を生産することができ、しかも廃液が生じないという利点もある。さらに、上述のようにアルカリ土類金属酸化物を用いると、反応系の水分を除去し、高温でも保持することができるため、水分含量の低いトランス体を得ることができる。また、水分除去の際に生成したアルカリ土類金属の水酸化物が助触媒として作用するため、トランス体の生産効率を向上させることができる。
【0022】
また、上記水素化反応の進行とともに、新たに低水分のシス体リッチな異性体混合物が生成するので、当該シス体リッチな異性体混合物をそのまま溶媒として用いることにより、水素化反応を継続的に行うことができる。したがって、トランス体の効率的かつ継続的な製造が可能となる。
【0023】
また、本発明に係るトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの製造方法では、上記溶媒として用いる異性体混合物は、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンよりもシス−1,4−ジアミノシクロヘキサンを多く含み、かつ、上記水素化反応工程によって得られた生成物を濾過することによって得られる濾液であることが好ましい。
【0024】
上記構成によれば、水素化反応で生じたシス体リッチな異性体混合物を、次の水素化反応において、非水溶媒として引き続き用いることができる。したがって、効率的かつ継続的にトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの製造を行うことができる。
【0025】
また、本発明に係るトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの製造方法では、上記アルカリ土類金属酸化物が、酸化カルシウム、酸化マグネシウムおよび酸化バリウムからなる群より選ばれた1種以上の化合物であることが好ましい。これらのアルカリ土類金属酸化物は、安価で入手が容易である上に、水との反応性がよく、反応系内の水を水酸化物としてほぼ完全に除去することができる。また、当該水酸化物は助触媒として作用し、水素化反応をさらに効率的に進行させることができる。したがって、これらのアルカリ土類金属酸化物を用いることによって、より効率的に、収率よく、水分含量の低いトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンを得ることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係るトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの製造方法は、以上のように、p−フェニレンジアミンを水素化することによって1,4−ジアミノシクロヘキサンの異性体混合物を生成する水素化反応工程を含み、上記水素化反応工程では、水素化反応の反応系にアルカリ土類金属酸化物が添加されることによって、上記反応系に含まれる水分が除去されるとともに、上記アルカリ土類金属の水酸化物が上記反応系において助触媒として作用する、という構成である。
【0027】
したがって、反応系中の水分に起因する不純物を低減することができるので、水分含量が低く、高純度のトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンを高収率で、しかも簡単な操作で得ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の実施の形態について説明すれば以下のとおりであるが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0029】
〔トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの製造方法〕
(1.水素化反応工程)
一実施形態において、本発明に係るトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの製造方法は、p−フェニレンジアミンを水素化することによって1,4−ジアミノシクロヘキサンの異性体混合物を生成する水素化反応工程を含み、上記水素化反応工程では、水素化反応の反応系にアルカリ土類金属酸化物が添加されることによって、上記反応系に含まれる水分が除去されるとともに、上記アルカリ土類金属の水酸化物が上記反応系において助触媒として作用する。
【0030】
水素化反応の出発原料としては、水素化反応によるトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの製造に有利な構造を備えることと、安価で入手容易であることに鑑み、p−フェニレンジアミンを用いる。p−フェニレンジアミンとしては、市販のものを用いてもよいし、合成したものを用いてもよい。合成法としては特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。例えば、p−ニトロアニリンを鉄粉と塩酸とで還元する方法を挙げることができる。
【0031】
p−ニトロアニリンを還元することによってp−フェニレンジアミンを合成する場合は、式1に示すように、通常まずニトロ基が水素化され、次に、ベンゼン環が核内水素化されて、1,4−ジアミノシクロヘキサンの異性体混合物が生成する。
【0032】
ニトロ基が水素化される際に生成する水は、反応系に残存していると上述のように水素化反応の効率を低下させるため、除去する必要がある。ニトロ基の水素化によって生成した水を除去する方法としては特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。例えば水を溶媒と共沸させる方法等を挙げることができる。当該溶媒は特に限定されるものではなく、水素化反応の際に用いる溶媒(反応溶媒)よりも共沸点が低い溶媒であればよい。例えば、メチルシクロヘキサンやトルエン、メチルエチルケトン等を挙げることができる。
【0033】
【化1】



【0034】
なお、上記「水素化」とは、分子内の不飽和結合に水素を付加させる反応をいい、水素添加または水素付加と同義である。p−フェニレンジアミンを水素化する場合は、上記「水素化」はベンゼン環の水素化、つまり核内水素化を意味することになる。
【0035】
水素化反応に用いる触媒としては、水素化反応を促進することができるものであれば特に限定されるものではない。例えば、遷移金属の単体や、遷移金属の単体を担体に保持させたもの等を用いることができる。上記遷移金属としては、特に限定されるものではなく、例えば水素化反応触媒として一般的に用いられるニッケル、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、白金等を用いることができる。中でも、ニトロ基の水素化と、ベンゼン環の水素化(以下「核内水素化」ともいう)とを共に円滑に進行させることができるため、ルテニウムが特に好ましく用いられる。
【0036】
上記担体とは、触媒活性を持つ物質を分散させ保持する物質のことである。上記遷移金属の単体は不均一系触媒であるため、露出表面積をできるだけ大きくして活性を増大させるという観点から、担体に保持させることが好ましい。上記担体としては特に限定されるものではないが、例えば、カーボン、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、マグネシア、珪藻土等を用いることができる。中でも、アルミナが特に好ましく用いられる。したがって、触媒としてはアルミナ担持ルテニウム触媒が特に好ましい。
【0037】
担体に上記触媒を担持する方法は特に限定されるものではなく、含浸法、沈殿法等の従来公知の方法を用いることができる。触媒の担持量は特に限定されるものではないが、通常0.5〜10重量%程度であることが好ましい。
【0038】
水素化反応における触媒の使用量は特に限定されるものではないが、通常はp−フェニレンジアミンの重量に対し、金属量として0.1重量%以上10重量%以下であることが好ましく、1重量%以上3重量%以下であることがさらに好ましい。なお、上記触媒は、水素化反応終了後、濾過等の方法によって反応系から回収し、次回の水素化反応に使用することができる。その場合、触媒はそのまま用いてもよいし、必要に応じて適宜再生してもよい。触媒を再生する方法としては、例えば触媒の燃焼、塩素化、還元などの従来公知の方法を用いることができる。
【0039】
水素化反応は、溶媒を用いずに行うことも可能であるが、反応が容易になるため、溶媒を用いて行うことが好ましい。上記溶媒としては、特に限定されるものではなく、シクロヘキサン、ヘキサン、シクロオクタン等の飽和脂肪族および脂環族の炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル等の脂肪族エステル;ジオキサン、プロピレングリコールモノメチルエーテル(以下「PGME」と略記する)、n−プロピルエーテル、イソプロピルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、メチラール、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、アミルエーテル、テトラヒドロフラン、ジシクロヘキシルエーテル、テトラヒドロピラン、ジオキソラン等の脂肪族および脂環族の炭化水素エーテル等を用いることができる。
【0040】
中でも、p−フェニレンジアミンの溶解度が比較的高いので、ジオキサン、PGMEが好ましく用いられる。PGMEは高沸点であり、以下に述べるように、共沸による脱水を行う場合でも蒸発によるロスが少ないことからより好ましい。また、本発明に係る製造方法では、上記溶媒として、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンよりもシス−1,4−ジアミノシクロヘキサンを多く含む1,4−ジアミノシクロヘキサンの異性体混合物(シス体リッチな異性体混合物)を水素化反応工程において用いることが特に好ましいが、この点については後述する。なお、上記溶媒は単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
上記溶媒の使用量は特に限定されるものではないが、通常はp−フェニレンジアミンの重量に対し、1重量倍以上5重量倍以下の範囲で使用することが好ましく、1.5重量倍以上2重量倍以下の範囲で使用することがさらに好ましい。
【0042】
水素化反応の反応温度および反応圧力(水素分圧)は特に限定されるものではないが、反応温度は50℃以上200℃以下であることが好ましく、120℃以上180℃以下であることがさらに好ましい。また、水素分圧は4MPa以上10MPa以下であることが好ましい。p−フェニレンジアミンをp−ニトロアニリンから合成する場合は、ニトロ基の水素化を反応温度が常温以上140℃以下、水素分圧が0.1MPa以上4MPa以下の条件で行い、副生した大量の水を、上述のような溶媒と共沸させる方法等によって除去し、得られたp−フェニレンジアミンを上記の条件で水素化することが好ましい。
【0043】
上記水素化によって、1,4−ジアミノシクロヘキサンの異性体混合物が生成する。上記異性体混合物は、式1に記載したように、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンとシス−1,4−ジアミノシクロヘキサンとの混合物である。
【0044】
水素化反応終了後、反応系の加熱を継続すると、上記異性体混合物において、熱的により安定な構造であるトランス体の含有量が増加する。そのため、上記異性体混合物中のトランス体の割合を増加させることができる。上記加熱温度は170℃以上220℃以下であることが好ましく、水素分圧は4MPa以上10MPa以下であることが好ましい。また、加熱時間は1時間以上3時間以下であることが好ましい。
【0045】
水素化反応終了後、反応系の加熱を継続した異性体混合物におけるシス体およびトランス体の重量比は特に限定されるものではないが、トランス体の重量が、トランス体とシス体との合計重量の50%を超えることが好ましい。本発明に係る製造方法は、水素化反応の反応系にアルカリ土類金属酸化物を添加することによって上記反応系に含まれる水分を除去することができ、しかもアルカリ土類金属の水酸化物が助触媒としても作用することから、水素化反応の反応効率が高い。そのため、水素化反応によって生成する上記異性体混合物中のトランス体の重量が50重量%を超えるようにすることが可能である。したがって、トランス体を高純度および高収率で得ることができる。なお、後述する実施例においては、上記異性体混合物中のトランス体の重量を67%にまで高めることに成功している。
【0046】
(2.水分除去)
本発明に係る製造方法では、水素化反応の反応系にアルカリ土類金属酸化物が添加されることによって、上記反応系に含まれる水分が除去される。上述のように、水素化反応の反応系に存在する水分は、副生成物(不純物)の原因となり、水素化反応の円滑な進行を妨げるため、できる限り除去することが好ましい。
【0047】
上記水分除去は、アルカリ土類金属酸化物を反応系に添加して攪拌するだけで達成することができ、反応系中の水分をほぼ完全に除去することができる。そのため、水素化反応を効率的に進行させることが可能である。
【0048】
上記アルカリ土類金属酸化物としては、特に限定されるものではない。例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムまたはラジウムの酸化物の何れであってもよい。当該アルカリ土類金属酸化物は、いずれも水と反応し、水酸化物を生じる。すなわち、反応系内の水を水酸化物としてほぼ完全に除去することができる。さらに、当該水酸化物が助触媒として作用するため、水素化反応の効率を著しく向上させることができる。中でも、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウムが好ましく用いられ、酸化カルシウムが最も好ましく用いられる。
【0049】
上記アルカリ土類金属酸化物は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記アルカリ土類金属酸化物の使用量は特に限定されるものではないが、水素化反応の反応系に含まれる水のモル量に対して、0.1倍モル以上10倍モル以下であることが好ましく、1倍モル以上2倍モル以下であることがより好ましい。水の量に対するアルカリ土類金属酸化物の量が0.1倍モル未満の場合は、水分除去効果が十分に得られないことがあり、水の量に対するアルカリ土類金属酸化物の量が10倍モルを超えても、過剰分は脱水剤として機能しないため、経済的に不利となる上、操作性が悪化する。
【0050】
反応系に含まれる水分量は、従来公知の方法によって求めることができる。例えば、カールフィッシャー法を用いることができる。測定法としては、容量滴定法であっても電量滴定法であってもよい。
【0051】
上記アルカリ土類金属酸化物を反応系に添加する時期は、p−フェニレンジアミンの水素化が開始される前である。すなわち、本発明においては、p−フェニレンジアミンの水素化反応、すなわち核内水素化反応は、上記アルカリ土類金属酸化物の存在下で行われることを要する。上記アルカリ土類金属酸化物を当該時期に添加することによって、原料および溶媒に含まれる水分を除去することができ、しかも、水と上記アルカリ土類金属酸化物との反応によって生成したアルカリ土類金属の水酸化物が助触媒として作用する。そのため、非常に簡単な操作で水素化反応の効率を著しく向上させることができる。
【0052】
上記アルカリ土類金属酸化物と水とを反応させる方法は、アルカリ土類金属酸化物と水とを反応させ、アルカリ土類金属の水酸化物を得ることができるものである限り、特に限定されるものではない。例えば、アルカリ土類金属酸化物を反応系に添加後、攪拌することによって、アルカリ土類金属酸化物と水とを反応させることができる。反応時間、反応温度等の反応条件は、特に限定されるものではない。
【0053】
上記アルカリ土類金属酸化物と水との反応の終点は、例えばカールフィッシャー水分測定のような従来公知の方法によって決定することができる。上記反応終了後の反応系の水分量は、0.5重量%未満であることが好ましく、0.2重量%未満であることがより好ましい。例えば、後述する実施例では、アルカリ土類金属酸化物を添加後、窒素雰囲気下、常温で30分間攪拌することによって、反応系の水分量を、反応系全体の重量に対して0.1重量%未満に減少させることができた。
【0054】
また、上記水分除去は、アルカリ土類金属酸化物のみでも行うことができるが、これに限定されるものではない。p−フェニレンジアミンをp−ニトロアニリンから合成する場合は、ニトロ基の水素化時に多量の水が生成するので、核内水素化が開始される前に、共沸によって予め脱水しておくことが好ましい。
【0055】
共沸に使用される溶媒は特に限定されるものではなく、反応溶媒の共沸点より低い共沸点を有していればよい。例えば、メチルシクロヘキサン、トルエン、メチルエチルケトン等を挙げることができる。メチルシクロヘキサン、トルエンは安価であるとともに、共沸点が低いため、好ましく用いることができる。
【0056】
(3.トランス体の分離)
水素化反応終了後、上記異性体混合物を含む生成物から、触媒を除去し、冷却、濾過することにより、高純度のトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンを得ることができる。触媒の除去は、上記生成物の濾過等、従来公知の方法によって行うことができる。
【0057】
上記冷却は上記異性体混合物を含む生成物からトランス体を析出させるために行われる。トランス体の析出は、シス体(融点−5℃以下)とトランス体(融点70℃)との融点(溶解度)の差を利用することにより行うことができる。例えば、上記異性体混合物を含む生成物を、シス体が凝結しない温度まで冷却することによって行うことができる。上記温度としては、−5℃以上20℃以下であることが好ましい。
【0058】
トランス体が析出した上記生成物を濾過することによって、トランス体を上記生成物から分離し、回収することができる。上記濾過は、メンブランフィルターや濾紙、遠心濾過等の公知の手段を用いて行うことができる。得られたトランス体の純度は、ガスクロマトグラフィ等の従来公知の手段を用いて確認することができる。
【0059】
また、水素化反応に用いた溶媒が、1,4−ジアミノシクロヘキサンに対しての良溶媒である場合は、冷却してもトランス体が析出しないため、あるいは析出しにくいため、当該溶媒を除去しておく必要がある。当該溶媒は、エバポレータの使用等、従来公知の方法によって除去することができる。
【0060】
こうして得た濾液は、以下に述べるように溶媒として利用した場合でも、トランス体が十分に析出する状態にあるため、反応液から触媒等を除去した後、そのまま冷却すればよい。
【0061】
一方、水素化に用いた溶媒が1,4−ジアミノシクロヘキサンに対しての貧溶媒である場合は、冷却するだけで十分にトランス体を析出させることができる。したがって、必ずしも溶媒を除去する必要はない。この場合、トランス体回収時の濾液を、そのまま水素化時の溶媒として再利用することができる。
【0062】
(4.水素化反応工程における1,4−ジアミノシクロヘキサンの異性体混合物の溶媒としての使用)
一実施形態において、本発明に係る製造方法は、p−フェニレンジアミンを水素化することによって1,4−ジアミノシクロヘキサンの異性体混合物を生成する水素化反応工程を含み、上記水素化反応工程では、p−フェニレンジアミンの溶媒または当該溶媒の一部として、上記のトランス体分離によって得られた濾液である1,4−ジアミノシクロヘキサンの異性体混合物を1回または2回以上繰り返して使用する。
【0063】
すなわち、本発明に係る製造方法では、水素化反応工程において、シス体をトランス体よりも多く含む液状の異性体混合物(シス体リッチな異性体混合物)を溶媒として用いることが好ましい。
【0064】
これによって、触媒によるp−フェニレンジアミンの水素化および異性化反応の進行とともに、当該溶媒に含まれるシス体のトランス体への異性化も進行するので、トランス体の収率を向上させることができる。また、上記水素化反応の結果、新たに低含水のシス体リッチな異性体混合物が濾別できるので、当該シス体リッチな異性体混合物を反応系に戻してそのまま非水溶媒として用い、新たな出発原料を供給すれば、水素化反応を継続的に行うことができる。したがって、トランス体の継続的な製造にも適している。
【0065】
上記シス体リッチな異性体混合物は、トランス体よりもシス体を多く含んでいる液体である。「シス体を多く含む」とは、異性体混合物の全重量に占めるシス体の割合が50重量%を超えることをいう。上記重量比は、異性体混合物をガスクロマトグラフィ等の公知の分析手段を用いて分析することによって確認することができる。
【0066】
溶媒としての上記シス体リッチな異性体混合物の使用量は、既に説明した溶媒の使用量と同様である。また、水素化反応工程では、溶媒として、上記シス体リッチな異性体混合物を単独で用いてもよいし、既に説明した他の溶媒、すなわち、飽和脂肪族および脂環族の炭化水素、エステル、脂肪族および脂環族の炭化水素エーテル等と混合して用いてもよい。すなわち、上記シス体リッチな異性体混合物は、p−フェニレンジアミンの溶媒溶媒の一部として用いてもよい。
【0067】
上記シス体リッチな異性体混合物は、水素化反応工程によって得られた生成物を濾過することによって得られる濾液であることが好ましい。なお、上記濾過は、メンブランフィルターや濾紙、遠心濾過等の公知の手段を用いて行うことができる。
【0068】
水素化反応工程において複数回の水素化反応を行う場合は、当該複数回の水素化反応のうち、少なくとも1回は上記シス体リッチな異性体混合物を溶媒として使用することが好ましい。
【0069】
少なくとも1回は上記シス体リッチな異性体混合物を溶媒として使用する反応の例としては、p−フェニレンジアミンを、上記炭化水素エーテル等の他の溶媒の存在下で水素化し、水素化反応終了後、トランス体を分離して調製したシス体リッチな異性体混合物を反応系に戻して溶媒として使用し、反応系に新たなp−フェニレンジアミンを供給して、引き続き水素化反応を行う場合を例として挙げることができる。
【0070】
もちろん、上記複数回の水素化反応の全てにおいて、上記シス体リッチな異性体混合物を溶媒として使用してもよい。すなわち、上記シス体リッチな異性体混合物を溶媒として使用する場合、1,4−ジアミノシクロヘキサンの異性体混合物を1回または2回以上繰り返して使用すればよい。
【0071】
上記シス体リッチな異性体混合物に含まれるシス体は、上述のように、水素化反応終了後、反応系の加熱を継続することによってトランス体に異性化することができる。したがって、上記シス体リッチな異性体混合物を溶媒として用いることによって、トランス体の収率を向上させることができる。
【0072】
一方、出発原料の水素化によって、新たに異性体混合物が生成し、当該異性体混合物からトランス体を分離すればシス体リッチな異性体混合物が得られるので、これを溶媒として次の水素化反応に用いることができる。そのため、上記シス体リッチな異性体混合物を溶媒として用いることにより、溶媒を新たに供給する必要がないのでトランス体製造の低コスト化を実現することができ、トランス体の収率向上を図ることもできる。
【0073】
水素化反応工程で上記シス体リッチな異性体混合物を溶媒として用いる場合も、上記水素化反応の反応系にアルカリ土類金属酸化物を添加し、上記反応系に含まれる水分を除去することが好ましい。
【0074】
〔トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン〕
本発明に係る製造方法によって得られる1,4−ジアミノシクロヘキサンの異性体混合物は、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンと、シス−1,4−ジアミノシクロヘキサンとを90重量%以上:10重量%以下の割合で含むことが好ましい。
【0075】
上記「トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンと、シス−1,4−ジアミノシクロヘキサンとを90重量%以上:10重量%以下の割合で含む」とは、上記異性体混合物に含まれるトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンおよびシス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの合計重量(100重量%)に占めるトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの重量比が90重量%以上であり、かつ、シス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの重量比が10重量%以下であることを意味する。
【0076】
本発明に係る製造方法によって得られる上記異性体混合物は、トランス体を高純度で含むので、ポリイミド、ポリアミド等の耐熱性高分子や、ポリウレタンの原料として有用である。
【0077】
なお、本発明はトランス体を高純度で得ることを目的としているため、本発明に係る製造方法によって得られる上記異性体混合物は、トランス体が100重量%であり、かつ、シス体が0重量%であってもよい。上記重量比は、従来公知の方法、例えば、ガスクロマトグラフィ等の方法で確認することができる。本明細書では、本発明によって得られる上記異性体混合物を、単に「トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン」と記載することもある。
【0078】
また、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンは高機能ポリイミド原料として期待されているが、原料中に金属が混入していると、ポリイミドの製造時に重合阻害の原因になると考えられる。特に、一般に使用される助触媒からのアルカリ金属などの混入が問題視される。
【0079】
本発明では、水素化反応の反応系にアルカリ土類金属酸化物を添加するが、アルカリ土類金属は、上述のように水酸化物を生成する。そして、当該水酸化物は、エーテル等の有機溶媒に不要であるため、ろ過等の操作でほぼ完全に除去することができる。したがって、上記異性体混合物中には殆ど残存しない。それゆえ、本発明によって得られるトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンは、ポリイミドの製造に悪影響を与えることはない。この点からも、本発明によって得られるトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンは、耐熱性高分子やポリウレタンの原料として有用であるといえる。
【0080】
なお、本発明によって得られるトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンにおける金属の含有量は、従来公知の方法によって測定することができる。例えば、誘導結合プラズマ質量分析(ICP/MS分析)、黒鉛炉原子吸光分析、誘導結合プラズマ発光分析、原子吸光分析等を用いることができる。
【0081】
なお、本発明は以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0083】
〔実施例1〕
出発原料としてp−ニトロアニリン 37.5g、溶媒としてPGME 62.5g、触媒として5%ルテニウム/アルミナ 0.75gを、容積200mlの攪拌機つきオートクレーブ(ナックオートクレーブ製、材質;SUS316)に入れ、120℃、4MPaの水素圧下で4時間、水素化反応を行った。当該水素化反応の生成物を80℃まで冷却後、上記生成物に50gのメチルシクロヘキサンを添加し、100℃まで昇温して、ディーンスターク装置を用い、共沸により水分を除去した。京都電子製MKA−210を用いて、水分除去後の上記生成物中の水分量をカールフィッシャー法によって測定した結果、0.75重量%であった。
【0084】
さらに、上記生成物に5.0gの酸化カルシウムを添加し、窒素雰囲気下で30分間攪拌した。
【0085】
その後、145℃、8MPaの水素圧下で4時間、水素化反応を行い、さらに、180℃、8MPaの水素圧下で2時間反応させた。反応終了後、生成物を80℃まで冷却し、SUS加圧濾過器を用いて濾過することによって触媒を除去した後、ガスクロマトグラフィを用いて組成を分析したところ、触媒を除去した上記生成物は、1,4−ジアミノシクロヘキサンの純度が95.1%、シス体とトランス体の比が33:67であり、水分は0.08重量%であった。
【0086】
次いで、ロータリーエバポレーター(シバタ製)によって上記生成物から溶媒を除去し、1,4−ジアミノシクロヘキサンの異性体混合物を得た。当該異性体混合物を5℃まで冷却し、遠心濾過器(三陽理化学器械製)を用いて濾過することによって、白色のトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン18.2gと、濾液12.7gを得た。すなわち、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの収率は59%であった。上記トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの組成をガスクロマトグラフィを用いて分析したところ、純度は98.9%であった。また、上記濾液の組成をガスクロマトグラフィを用いて分析したところ、シス体とトランス体の比は80:20であった。
【0087】
上記トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンをICP/MS分析した結果、ナトリウムの含有量は0.9ppm、カルシウムの含有量は0.7ppmであった。
【0088】
〔実施例2〕
出発原料としてp−フェニレンジアミン 150g、溶媒としてPGME 350g、触媒として5%ルテニウム/アルミナ 0.7gを、容積1lの攪拌機つきオートクレーブ(ナックオートクレーブ製、材質;SUS316)に入れ、常温で十分に攪拌し混合した。京都電子製MKA−210を用いて、混合物中の水分量をカールフィッシャー法によって測定した結果、0.13重量%であった。
【0089】
次に、上記混合物に5.0gの酸化カルシウムを添加し、窒素雰囲気下で30分間攪拌した。攪拌終了後、上記混合物を140℃、8MPaの水素圧下で5時間、水素化反応に供し、さらに、180℃、8MPaの水素圧下で2時間反応させた。反応終了後、生成物を80℃まで冷却し、SUS加圧濾過器を用いて濾過することによって触媒を除去した後、ガスクロマトグラフィを用いて組成を分析したところ、触媒を除去した上記生成物は、1,4−ジアミノシクロヘキサンの純度が95.8%、シス体とトランス体の比が32:68であり、水分は0.06重量%であった。
【0090】
次いで、ロータリーエバポレーター(シバタ製)によって上記生成物から溶媒を除去し、1,4−ジアミノシクロヘキサンの異性体混合物を得た。当該異性体混合物を5℃まで冷却し、遠心濾過器(三陽理化学器械製)を用いて濾過することによって、白色のトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン88.4gと、濾液61.8gを得た。すなわち、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの収率は56%であった。
【0091】
上記トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの組成をガスクロマトグラフィを用いて分析したところ、純度は98.9%であり、上記濾液の組成をガスクロマトグラフィを用いて分析したところ、シス体とトランス体の比は80:20であった。
【0092】
また、京都電子製 MKA−210を用い、カールフィッシャー法によって、上記トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの水分を測定した結果、0.1重量%以下であった。
【0093】
さらに、上記トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンをICP/MS分析した結果、ナトリウムの含有量は0.9ppm、カルシウムの含有量は0.7ppmであった。
【0094】
〔実施例3〕
(実施例3−1:溶媒としてシス体リッチな異性体混合物を用いたトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの製造)
出発原料としてp−フェニレンジアミン 60g、溶媒として実施例2で得られた濾液40g、触媒として5%ルテニウム/アルミナ 2gを、容積200mlの攪拌機つきオートクレーブ(ナックオートクレーブ製、材質;SUS316)に入れ、常温で十分に攪拌し混合した。京都電子製MKA−210を用いて、混合物中の水分量をカールフィッシャー法によって測定した結果、0.14重量%であった。
【0095】
次に、上記混合物に0.9gの酸化カルシウムを添加し、窒素雰囲気下で30分間攪拌した。攪拌終了後、上記混合物を140℃、8MPaの水素圧下で5時間、水素化反応を行い、さらに、180℃、8MPaの水素圧下で2時間反応させた。反応終了後、生成物を80℃まで冷却し、SUS加圧濾過器を用いて濾過することによって触媒、酸化カルシウムおよび水酸化カルシウムを除去し、1,4−ジアミノシクロヘキサンの異性体混合物を得た。当該異性体混合物の組成をガスクロマトグラフィを用いて分析したところ、1,4−ジアミノシクロヘキサンの純度が89.0%であり、シス体とトランス体の比が33:67であり、水分は0.06重量%であった。
【0096】
次いで、上記異性体混合物を5℃まで冷却し、遠心濾過器(三陽理化学器械製)を用いて濾過することによって、白色のトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン57.6gと、濾液42.4gを得た。すなわち、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの収率は57.6%であった。上記トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの組成をガスクロマトグラフィを用いて分析したところ、純度は98.8%であった。また、上記濾液の組成をガスクロマトグラフィを用いて分析したところ、シス体とトランス体の比は80:20であった。
【0097】
(実施例3−2:継続的なトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの製造)
さらに、上記濾液42.4gのうち、40gを溶媒として用いるため、上記オートクレーブに入れ、p−フェニレンジアミン 60g、5%ルテニウム/アルミナ2g、酸化カルシウム0.9gを用いて、実施例3−1と同様に水素化反応を行い、1,4−ジアミノシクロヘキサンの異性体混合物を得た。
【0098】
当該異性体混合物を5℃まで冷却し、遠心濾過器(三陽理化学器械製)を用いて濾過することによって、白色のトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン56.2gと、濾液43.7gを得た。すなわち、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの収率は56.2%であった。上記トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの組成をガスクロマトグラフィを用いて分析したところ、純度は98.7%であった。また、上記濾液の組成をガスクロマトグラフィを用いて分析したところ、シス体とトランス体の比は80:20であった。
【0099】
〔実施例4〕
出発原料としてp−フェニレンジアミン 150g、溶媒としてPGME 350g、触媒として5%ルテニウム/アルミナ 0.7gを、容積1lの攪拌機つきオートクレーブ(ナックオートクレーブ製、材質;SUS316)に入れ、常温で十分に攪拌し混合した。京都電子製MKA−210を用いて、混合物中の水分量をカールフィッシャー法によって測定した結果、0.13重量%であった。
【0100】
次に、上記混合物に10.1gの酸化バリウムを添加し、窒素雰囲気下で30分間攪拌した。攪拌終了後、上記混合物を140℃、8MPaの水素圧下で5時間、水素化反応に供し、さらに、180℃、8MPaの水素圧下で2時間反応させた。反応終了後、生成物を50℃まで冷却し、SUS加圧濾過器を用いて濾過することによって触媒を除去した後、ガスクロマトグラフィを用いて組成を分析したところ、触媒を除去した上記生成物は、1,4−ジアミノシクロヘキサンの純度が95.2%、シス体とトランス体の比が33:67であり、水分は0.07重量%であった。
【0101】
次いで、ロータリーエバポレーター(シバタ製)によって上記生成物から溶媒を除去し、1,4−ジアミノシクロヘキサンの異性体混合物を得た。当該異性体混合物を5℃まで冷却し、遠心濾過器(三陽理化学器械製)を用いて濾過することによって、白色のトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン87.9gと、濾液62.0gを得た。すなわち、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの収率は56%であった。
【0102】
上記トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの組成をガスクロマトグラフィを用いて分析したところ、純度は98.9%であり、上記濾液の組成をガスクロマトグラフィを用いて分析したところ、シス体とトランス体の比は80:20であった。
【0103】
また、京都電子製 MKA−210を用い、カールフィッシャー法によって、上記トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの水分を測定した結果、0.1重量%以下であった。
【0104】
さらに、上記トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンをICP/MS分析した結果、ナトリウムの含有量は0.9ppm、バリウムの含有量は0.9ppmであった。
【0105】
〔比較例1〕
出発原料としてp−ニトロアニリン 37.5g、溶媒としてPGME 62.5g、触媒として5%ルテニウム/アルミナ 0.75gを、容積200mlの攪拌機つきオートクレーブ(ナックオートクレーブ製、材質;SUS316)に入れ、120℃、4MPaの水素圧下で4時間、水素化反応を行った。
【0106】
上記水素化反応の生成物の水分量をカールフィッシャー法によって測定した結果、約10重量%であった。当該生成物を145℃、8MPaの水素圧下で8時間水素化を行った後、さらに180℃、8MPaの水素圧下で2時間反応を続けた。濾過により触媒を除去した後、ガスクロマトグラフィにより分析した結果、1,4−ジアミノシクロヘキサンの純度は60.1%であり、シス体とトランス体の比は33:67であった。
【0107】
〔比較例2〕
出発原料としてp−ニトロアニリン 37.5g、溶媒としてPGME 62.5g、触媒として5%ルテニウム/アルミナ 0.75gを、容積200mlの攪拌機つきオートクレーブ(ナックオートクレーブ製、材質;SUS316)に入れ、120℃、4MPaの水素圧下で4時間、水素化反応を行った。
【0108】
当該水素化反応の生成物を80℃まで冷却後、上記生成物に50gのメチルシクロヘキサンを添加し、100℃まで昇温して、ディーンスターク装置を用い、共沸により水分を除去した。京都電子製MKA−210を用いて、水分除去後の上記生成物中の水分量をカールフィッシャー法によって測定した結果、0.67重量%であった。
【0109】
その後、145℃、8MPaの水素圧下で8時間水素化を行った後、さらに180℃、8MPaの水素圧下で2時間反応を続けた。濾過により触媒を除去した後、ガスクロマトグラフィにより分析した結果、1,4−ジアミノシクロヘキサンの純度は80.5%であり、シス体とトランス体の比は33:67であった。
【0110】
次いで、ロータリーエバポレーター(シバタ製)によって上記生成物から溶媒を除去し、1,4−ジアミノシクロヘキサンの異性体混合物を得た。当該異性体混合物を5℃まで冷却し、遠心濾過器(三陽理化学器械製)を用いて濾過することによって、白色のトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン6.3gと、濾液24.4gを得た。すなわち、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの収率は20%であった。上記トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの組成をガスクロマトグラフィを用いて分析したところ、純度は98.5%であった。また、上記濾液の組成をガスクロマトグラフィを用いて分析したところ、シス体とトランス体の比は80:20であった。
【0111】
〔比較例3〕
出発原料としてp−フェニレンジアミン 37.5g、溶媒としてPGME 62.5g、触媒として5%ルテニウム/アルミナ 0.75gを、容積200mlの攪拌機つきオートクレーブ(ナックオートクレーブ製、材質;SUS316)に入れ、145℃、8MPaの水素圧下で7時間、水素化反応を行った。さらに、180℃、8MPaの水素圧下で2時間反応を続けた。反応終了後、生成物を80℃まで冷却し、SUS加圧濾過器を用いて濾過することによって触媒を除去した後、ガスクロマトグラフィを用いて組成を分析したところ、触媒を除去した上記生成物は、1,4−ジアミノシクロヘキサンの純度が78.8%、シス体とトランス体の比が32:68であった。
【0112】
また、京都電子製MKA−210を用い、カールフィッシャー法によって、上記トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの水分を測定した結果、0.4重量%であった。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明に係る製造方法は、高純度、高収率でトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンを製造することができ、上記トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンは金属の含有量が非常に低い。したがって、本発明は、機能性ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタン等の原料を供給する方法として好適に用いることができる。それゆえ、本発明は、化学品、繊維、試薬等に関する化学分野に広く応用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
p−フェニレンジアミンを水素化することによって1,4−ジアミノシクロヘキサンの異性体混合物を生成する水素化反応工程を含み、
上記水素化反応工程では、水素化反応の反応系にアルカリ土類金属酸化物が添加される(但し、アルカリ金属が添加される場合を除く)ことを特徴とするトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの製造方法。
【請求項2】
上記水素化反応工程では、p−フェニレンジアミンの溶媒または当該溶媒の一部として、1,4−ジアミノシクロヘキサンの異性体混合物を1回または2回以上繰り返して使用し、当該溶媒として用いる異性体混合物は、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンよりもシス−1,4−ジアミノシクロヘキサンを多く含むことを特徴とする、請求項1に記載のトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの製造方法。
【請求項3】
上記溶媒として用いる異性体混合物は、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンよりもシス−1,4−ジアミノシクロヘキサンを多く含み、かつ、上記水素化反応工程によって得られた生成物を濾過することによって得られる濾液であることを特徴とする請求項2に記載のトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの製造方法。
【請求項4】
上記アルカリ土類金属酸化物が、酸化カルシウム、酸化マグネシウムおよび酸化バリウムからなる群より選ばれた1種以上の化合物であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの製造方法。
【請求項5】
上記水素化反応工程では、触媒としてルテニウム単体及び/又はルテニウムの単体を担体に担持させたものを使用する請求項1から4のいずれか1項に記載のトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの製造方法。
【請求項6】
p−フェニレンジアミンは、p−ニトロアニリンを還元することによって得られたものである請求項1から5のいずれか1項に記載のトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンの製造方法。

【公開番号】特開2013−10805(P2013−10805A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−231789(P2012−231789)
【出願日】平成24年10月19日(2012.10.19)
【分割の表示】特願2006−254903(P2006−254903)の分割
【原出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(000158301)岩谷瓦斯株式会社 (56)
【Fターム(参考)】