説明

トランスクリプションチップ

転写因子が結合し得るエレメント配列を含む少なくとも1つのポリヌクレオチドが基板上に固定化されてなるトランスクリプションチップ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、トランスクリプションチップおよび該チップを用いた転写因子の活性測定方法に関する。
【背景技術】
DNAチップは遺伝子多型やmRNA発現量の変動量をプロファイルするツールであり、現在広い研究分野で利用されている。ゲノム情報の伝達体であるmRNAから翻訳されて得られる最終的な産物である蛋白質が、時々刻々変動する生命現象を担っている。そのため、mRNAのプロファイリングから得られる情報よりも有用な情報が得られるものと考えられており、蛋白質を網羅的に解析するプロテオーム解析技術の開発が現在活発に行われている。
そのような現状の中で、蛋白質を基板上に捕捉し、その性状を効率的に解析するシステムが完成すれば、大規模解析やコスト面において、従来までの2次元電気泳動あるいは液体クロマトグラフィーを用いたプロテオーム解析法を凌駕する新技術となると推定される。これまで、プロテオーム解析をターゲットとしたチップとしては抗体チップが開発されている。抗体チップとは、チップ表面に抗体を多数固定化し、固定化した抗体それぞれと相互作用する抗原量をプロファイル化するツールである。DNAチップよりは後発であるが、直接蛋白質量の変動を解析することが可能なことから、将来的には創薬、毒性試験あるいは病態の診断等広い分野での応用が期待されている。
転写因子は、各遺伝子の上流領域のエレメント配列と呼ばれる領域に結合し、種々の遺伝子発現調節を担う蛋白質であることから、細胞の炎症応答、癌化と転写制御因子の活性化と深く関与しており、生物活性を保持した種々の転写因子の蛋白質レベルでのプロファイルを行うことは非常に重要である。
従来より、転写因子はゲルシフトアッセイと呼ばれるラジオアイソトープを用いたアクリルアミドゲル電気泳動を用いた手法により解析されているが、スループット、安全性に問題があり今後のプロテオミクス的手法には対応が難しいと考えられる。
本発明は、効率的に転写因子をプロファイリングする技術を提供することを目的とする
【図面の簡単な説明】
図1は、抗体チップとトランスクリプションチップを比較して示す。
図2は、固定化した遺伝子を示す。
図3は、FITC標識したNFκB応答配列固定化チップ(PRDII−1)を示す
図4は、NFκB応答配列の競合実験結果を示す。
図5は、固定化二本鎖DNAの検討結果を示す。
図6は、ブロッキング剤の検討結果を示す。
図7は、同時再現性試験と測定間再現性試験(DLC)の結果を示す。
図8は、DLCチップのジーンダイヤTMの比較を示す。
図9は、有意水準5%における感度試験の結果を示す。
図10は、A:HeLa細胞抽出液からのNFκBの検出結果を示す。B:ジーンダイヤTMを用いたHeLa細胞炎症関連転写因子の発現プロファイリングを示す。
図11は、二本鎖DNAのマイクロアレイ化の結果を示す。
図12は、蛍光スキャナーによるNFκBの特異的検出結果を示す。
図13は、NFκBのon chip digestionによるペプチドマップを示す。
図14は、溶液中トリプシン分解により得られたNFκBペプチドマップを示す。
図15は、PMFによるデータベース倹索結果を示す。
図16は、on chip digesionの結果を示す。
図17は、溶液中トリプシン分解により得られたVDRペプチドマスフィンガープリントを示す。
図18は、本発明のトランスクリプションチップからのVDRの直接検出の結果を示す。
図19は、MALDI−TOF MS用のDLCプレートの1例を示す。
図20は、ダイヤモンド薄膜を有する基板の修飾方法を示す。
図21は、NFκBのペプチドマスフィンガープリント(A)ならびに、1701.10m/z(B),1808.01m/z(C),2413.35m/z(D)の2次スペクトルを示す。
図22は、MASCOTデータベースサーチにより得られたNFκB同定結果である。
【発明の開示】
本発明者は、基板上に転写因子の1以上のエレメント配列を含む1本鎖あるいは2本鎖DNAを固定化したトランスクリプションチップを作製し、該チップにより転写因子或いは該因子と相互作用する物質の発現量をDNA結合能という生物機能に基づいてプロファイルできることを見出した。本発明は、以下のトランスクリプションチップおよびそれを用いた転写因子のアッセイ方法を提供するものである。
1.転写因子が結合し得る1以上のエレメント配列を含む少なくとも1つのポリヌクレオチドが基板上に固定化されてなるトランスクリプションチップ。
2.各々に転写因子が結合し得る1以上のエレメント配列を含む少なくとも2つのポリヌクレオチドが結合してなる項1に記載のチップ。
3.前記ポリヌクレオチドが各遺伝子の上流(5’)側のプロモーターの部分配列を有する項1に記載のチップ。
4.前記基板が支持体上にダイヤモンド薄膜を形成したものである項1に記載のチップ。
5.前記ポリヌクレオチドがダイヤモンド薄膜と任意に適当なスペーサーを介して結合したものである項1に記載のチップ。
6.項1〜5のいずれかに記載のトランスクリプションチップに転写因子を含み得る試料を作用させる工程を含む、転写因子の結合をアッセイする方法。
7.前記試料が被験物質の存在下で培養された細胞の細胞溶解物である、被験物質の転写因子に対する影響を評価するための項6に記載の方法。
8.転写因子の結合を転写因子に対する抗体または質量分析を利用した方法を用いて検出する項6または7に記載の方法。
9.抗体を用いた検出がELISA法であり、質量分析を利用した方法がペプチドマスフィンガープリント法である項8に記載の方法。
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明のトランスクリプションチップは、抗体チップ、DNAチップのいずれとも異なっている(図1)。
転写因子は、各遺伝子の上流領域のエレメント配列と呼ばれる領域に結合し、種々の遺伝子発現調節を担う蛋白質であることから、細胞の炎症応答、癌化は転写制御因子の活性化と深く関与しており、生物活性を保持した種々の転写因子の蛋白質レベルでのプロファイルを行うことは非常に重要である。
転写因子は、DNAに結合して転写開始等の転写調節に関与する因子であり、例えば、NFκB(例えばp50、p65)、NFATc1、CREB、ATF−2、c−Jun、c−Rel、c−Fos、AP1、AP−2、RBP−J、Nrf2、KLF5、BTEB2、NF−AT、MITF、RUNXファミリー、GATA−1、GATA−2、HIF1α、HLF、Brn−3、EBP、CDP、c−Myb、c−Myc、E2F、EGR、Ets、Ets1/PEA3、FAST−1、BRCA1、HNF−4、GATA、NF−1、Max、IRF−1、NFATc、NF−E1、NF−E2、1−Oct、MEF−1、MEF−2、Myc−Max、p53、Pax−5、Pbx1、TR、AhR、ER、GR、MR、AR、VDR、RAR、RXR、LXR、FXR、PPAR、ERR、ROR、SXR、PXR、USF−1、Sp1、Stat1、Stat3、Stat4、Stat5、Stat6、COUP−TF、Ftz−F1、TFIIB、TFIID、TBP、TFIIE、TFIIF、TFIIH、TAF、PolI、PolII、PolIII、ELL、TFIIS、Elongin、P−TEFb、DSIF、CBP/p300、p160(SRC−1、TIF2、AIB1)TRRAP/GCN5、NcoR、SMRT、HDAC、DRIP/TRAP、Smad、などが例示される。
転写因子は哺乳類の転写因子が好ましく、特にヒトの転写因子が好ましい。
エレメント配列は公知であり、種々のエレメント配列を1または2以上含むポリヌクレオチドを適宜チップ上に形成することができる。具体的なエレメント配列としては、下記の実施例1のプライマーにおいて下線を引いてある配列(GGAATTTCCCおよびGGGAAATTCC;GGGGATCCCおよびGGGATCCCC;TGACTCATおよびATGAGTCA;AGGTCAおよびTGACCT;AGGTCAおよびTGACCT;AGGTCAおよびTGACCT;AGGTCATGACCT;AGAACAおよびTGTTCT;TGACGTCA)が例示される。他のエレメント配列としては、例えばSagroves,Tらの報告(Cancer Cell 1:211−212(2002))、Ishii,Sらの報告(Science 232:1410−1413(1986))に記載されている。
該エレメント配列は、哺乳類の転写因子が結合し得るエレメント配列が好ましく、特にヒト転写因子が結合し得るエレメント配列が好ましい。
本発明のチップがその動態の把握を必要とする複数の転写因子に対応したオリゴヌクレオチドをチップ上に固定化していれば、1枚のチップで全ての転写因子のプロファイリングを行うことができるので好ましい。もちろん1つのアレイに1種のみの転写因子に対応するオリゴヌクレオチドを固定化し、必要な数のチップを用いて転写因子のプロファイリングを行ってもよい。
1つのポリヌクレオチドには、エレメント配列は少なくとも1種含まれ得、同一のエレメント配列を1または複数個含んでいても良く、2種以上のエレメント配列を1つのポリヌクレオチド中に含んでいてもよい。
基板上に結合されるエレメント配列を含むポリヌクレオチドは、公知のエレメント配列の前後に適当なオリゴまたはポリヌクレオチドを結合させて人工的に作製してもよいが、各遺伝子の上流(5’)側のプロモーターの部分配列を好ましく使用できる。ポリヌクレオチドの長さは特に限定されないが、例えば10〜500個程度、好ましくは15〜300個程度、より好ましくは20〜100個程度である。
長すぎる塩基対は調製が困難であったり、自己相補的塩基対を生じたり、目的の部位と異なる部位でハイブリダイゼーションしたりして、目的のオリゴヌクレオチドが得られない可能性がある。
エレメント配列を含むポリヌクレオチドとしては、配列番号1〜22のポリヌクレオチドが例示される。
基板としては、DNAを結合させ得るものであればよく、特に限定されないが、例えばカルボキシメチルデキストランやカルボキシル基で末端修飾されPEGのような水溶性高分子を基板表面に結合させてカルボキシル基を導入したものや、金属(特に金)の表面薄膜を有する基板などが使用できるが、好ましくは多数のカルボキシル残基が表面上に形成されたダイヤモンド薄膜を有するチップ、例えばジーンダイヤ(登録商標)、DLCチップが例示される。多数の2本鎖DNAを高密度に結合可能であることからダイヤモンド薄膜を有する基板が好ましく、特にジーンダイヤTMが好ましい。ダイヤモンド薄膜は、任意の支持体、例えばシリコン基板上に形成することができる。
ダイヤモンド薄膜上に、アミノ基、カルボキシル基などの置換基を導入する方法の概略を図20に示す。
DNAと基板の結合は、カップリング試薬により行うことができる。カップリング試薬としては、通常のペプチド結合を形成するのに使用されている試薬が挙げられ、例えばカルボジイミド類(DCC,WSC),カルボニルジイミダゾールなどが例示される。或いは、基板のCOOH末端基を上記カルボジイミド類、特に水溶性カルボジイミドを使用し、N−ヒドロキシコハク酸イミド、1−ヒドロキシベンゾトリアゾールなどの活性エステルとし、5’または3’末端側にアミノ基などの結合性基を有するDNAを結合することができる。DNAとの結合は、さらに適当なスペーサーを介して行い、基板とDNAとの距離を適度に離してもよく、DNAの結合部位と転写因子の結合部位の間に適当な配例(例えばプロモーター由来の配列)を介在させ、転写因子の結合配例をトランスクリプションチップの基板から離してもよい。適当なプロモーターを使用することで、表面から一定のスペースを保った状態で転写因子の結合配列を固定化することが可能となり、転写因子のアッセイを、転写因子のモビリティを確保しつつ、行うことができる。
本願実施例では、5’末端にNH(CH12を有するポリヌクレオチドを使用した。このような5’または3’末端にアミノ基のような結合性基を有する置換基(例えばNH(CH12)を備えた修飾オリゴヌクレオチドは、公知の方法に従い製造でき、例えば以下の公開されている方法および特公平3−74239号公報に従い製造することができる。

本発明のチップは、基板上に2本鎖DNAを結合させ、該2本鎖DNAのエレメント配列に転写因子を結合させて、該結合転写因子を質量分析または抗体を使用するなどの適当な検出方法に従い検出するために使用する。
2本鎖DNAの結合は、5’または3’末端側にアミノ基などの反応性基(これを介して基板にポリヌクレオチドを結合させる)を有する1本鎖DNAを基板に結合させた後にこれと相補性のポリヌクレオチドをハイブリダイスさせて行っても良く、或いは、少なくとも一方の鎖結合性基(例えばNH2)を有する2本鎖DNAを直接基板に結合させてもよい。
このようにして作製されたトランスクリプションチップは、次に転写因子を含み得る試料と接触されて、転写因子をチップ上に結合させる。このような試料としては、哺乳類細胞の細胞溶解物(cell lysate)が好ましく、特にヒト細胞の細胞溶解物が好ましい。例えば各種のヒト細胞を種々の培養条件或いは種々の被験物質の存在下で培養し、その細胞溶解物の転写因子を本発明のチップを用いてプロファイリングすることにより、転写因子に及ぼす各種の因子の影響を定量的に評価することができる。
転写因子の定量は、該転写因子に対する抗体を使用し、ELISA法などの公知の方法を用いて免疫学的に測定するか、或いは、マススペクトルを使用して測定できる。例えば、マススペクトルとしては、転写因子を直接マススペクトルで測定してもよいが、チップに結合した転写因子をトリプシンのような適当なプロテアーゼで消化し、得られたペプチド断片をマススペクトルにより分析し、当該転写因子のプロテアーゼ消化物のマススペクトルパターン(マスフィンガープリント)と比較して、結合した転写因子の同定、定量分析を行うことが好ましい。マススペクトルとしては、MALDI−TOFなどが好ましく例示される。
ELISA法は、トリス系、スキムミルク系、ゼラチン系、エタノールアミン系などの種々のブロッキング剤で処理し、特異性を向上させることができる。
本発明のオリゴヌクレオチドは、FITCなどのフルオレセイン、ローダミン、cy2、cy3、cy5などの蛍光色素、アクリジウムエステル、ルミノール、発光性アダマンタン化合物などの発光物質などで標識するのが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明する。
【実施例1】
(1)実験材料と方法
(i)実験装置
蛍光スキャナー:CRBIO II(日立ソフトウェア(株))、マイクロアレイヤー:SPBIO(日立ソフトウェア(株))、マイクロプレートリーダー:μQuant(BIO−TEK)、プレートシェイカー:Micro mixer MX−4(三共純薬)、COインキュベータ:HERAcell(Kendro)、質量分析装置:ABI4700 Proteomics Analyzer(アプライドバイオシステムズ)、Voyager−DESTR(アプライドバイオシステムズ)
(ii)実験材料
チップ、プレート:DLCチップC4(3mm・3mm)(東洋綱鈑(株))、ジーンダイヤTMC4(3mm・3mm)(東洋鋼鈑(株))、96穴U底マイクロプレート(グライナー)、NFκB(p50)(Promega)
抗体:Anti−NFκB p50抗体(Active Motif社)、Anti−NFκB p50抗体(Rockland #100−4164)、POD標識抗ウサギIgG(Active Motif社)、AP標識抗ウサギIgG(ナカライテスク)、FITC標識抗ウサギIgG(ナカライテスク)、BD Mercury TransFactor kit Inflamation 1(BD Biosciences)
試薬:WSC(Dojin)、NHS(Wako)、POD発色基質TMBZ(住友ベークライト(株)#ML−1120T)、活性化バッファー1(10mM WSC,0.1M MES(pH4.5))、活性化バッファー2(100mM WSC,20mM NHS,0.1M NaPB(pH6.0))(Activation buffar)、ブロッキングバッファー(1M Tris−HCl(pH8.0),150mM KCl,0.1%Tween20)、結合バッファー(1%BSA,10mM HEPES緩衝液(pH7.5),10μg/mlサケ精子DNA,2mM DTT,100倍希釈protease inhibitor cocktail(SIGMA))、洗浄バッファー(50mM NaCl,10mM NaPB(pH7.5),0.1%Tween20)、Protein Assay Reagent(BioRad)、TNFα(Wako #203−15263)、Phorbol 12−myristate 13−acetate(SIGMA #P1585)、シナピン酸溶液(1mg/mlシナピン酸,50%アセトニトリル,0.1%Trifluoroacetic acid(TFA))、α−Cyano−4−hydoroxycinnamic acid(αCHCA)溶夜(1mg/ml αCHCA,50%アセトニトリル,0.1%TFA)、低塩濃度バッファー(5mM Tris−HCl(pH8.0),1mM NaCl)、トリプシン反応液(50mM重炭酸アンモニウム,0.1−4μg/mlトリプシン)、GFX purification kit(アマシャム#27−9602−01)、NE−PER Nuclear and Cytoplasmic extraction reagents(PIECE #78833)、ProteoMassTM Peptide MALDI−MS Calibration kit
オリゴヌクレオチド:以下のプライマーならびにオリゴヌクレオチドを合成した。下線部は転写因子の認識配列(エレメント配列)を示す。オリゴヌクレオチドは、2本鎖の最終濃度50μMとなるように相補鎖とともに混合し、95℃で5分間熱処理後徐々に冷却した。


(iii)実験方法
i.エレメント配列固定化チップの作製(ELISA用)
ポリプロピレン製96穴U底マイクロプレートにチップをコート面を上にしてチップ(DLCあるいはジーンダイヤTM)をセットした。次に種々の濃度の2本鎖DNAエレメント配列を含む活性化バッファー1を50μl添加し、プレートをシールした。つぎに1時間室温でプレートシェイカーで振とうした。洗浄バッファーで2回洗浄後、ブロッキングバッファーを200μl添加し、室温で1時間振とうしたのち、4℃で保存した。
ii.On Chip Enzyme−Linked Immunosorbent Assay(On Chip ELISA)
洗浄バッファーで2回後、結合バッファーで希釈した種々の濃度のNFκBを添加し、1時間室温で振とうした。洗浄バッファーで3回洗浄後、抗体希釈バッファーで2000倍希釈した抗NFκB抗体を添加し、1時間室温で振とうした。洗浄バッファーで3回洗浄後、抗体希釈バッファーで2000倍希釈したPOD抗ウサギIgG2次抗体を添加し、1時間室温で振とうした。洗浄バッファーで5回洗浄後、POD発色基質TMBZの吸光に基づく450nmの波長をマイクロプレート洗浄したリーダーで測定した。
iii.HeLa細胞抽出液の調製
250cmシャーレを用いて25mlの10%Fetal Bovine Serum(FBS)を添加したDMEM培地でHeLa細胞を70%コンフルエントまでCOインキュベーターで37℃で培養した。無血清培地に交換後、TNFαを100ng/mlになるように添加し、30分間COインキュベーターで37℃で培養した。セルスクレイパーにて細胞を剥離させた後、遠心分離で(×1000g,5分)培地を除いた。PBSを添加して混和した後再び遠心分離(×1000g,5分)を行ない上清を廃棄した。細胞を含む沈殿に細胞溶解バッファーを添加し細胞を溶解し、遠心(×1000g,5分)後、上清を回収し、蛋白質濃度を測定した。1枚のチップあたり60μgの細胞抽出液由来蛋白質を用いてOn chip ELISAを行った。一方、転写因子のプロファイリングには、TNFα刺激(100ng/ml)、PMA刺激(1μM)したHeLa細胞ならびにコントロール細胞由来の核抽出液を用いた。核抽出液にはピアス社のキットを用いた。1枚のチップあたり20μg核抽出液由来蛋白質を用いてOn chip ELISAを行った。
iv.チップへの2本鎖DNAのアレイ化
ポリプロピレン製96穴U底マイクロプレートにチップをコート面を上にしてDLCチップをセットした。その後、活性化バッファー2を50μl添加し、プレートをシールした。つぎに30分間室温でプレートシェイカーで振とうした。蒸留水で2回洗浄後、遠心により乾燥させた。マイクロアレイヤー内に活性化されたDLCをセットした後、25μM、30%グリセロールになるように調製した2本鎖オリゴヌクレオチドを150μmピンを用いて活性化されたDLC上にスポットした。50℃で12時間インキュベートしたのち、ブロッキングバッファーを用いてブロックした後、4℃で保存した。
v.トランスクリプションチップアレイの蛍光検出
洗浄バッファーで2回洗浄した後、結合バッファーで100ng/mlに希釈したNFκBを添加し、1時間室温で振とうした。洗浄バッファーで3回洗浄後、抗体希釈バッファーで100倍希釈した抗NFκB抗体(RCK社)を添加し、1時間室温で振とうした。洗浄バッファーで3回洗浄後、抗体希釈バッファーで50倍希釈したFITC標識抗ウサギIgG抗体を添加し、1時間室温で振とうした。洗浄バッファーで2回洗浄後、レーザー波長473nmで励起し、FITCの蛍光に基づく535nmの蛍光波長をCRBIO IIマイクロアレイスキャナーで検出した。
vi.MALDI−TOF MSによるトランスクリプションチップに捕捉された転写因子の検出
ポリプロピレン製96穴U底マイクロプレートにチップを、コート面を上にしてチップ(DLCあるいはジーンダイヤTM)をセットした。次に種々の濃度の2本鎖DNAエレメント配列を含む活性化バッファー1を50μl添加し、プレートをシールした。つぎに1時間室温でプレートシェイカーで振とうした。洗浄バッファーで2回洗浄後、ブロッキングバッファーを200μl添加し、室温で1時間振とうしたのち、4℃で保存した。洗浄バッファーで2回洗浄した後、結合バッファーで希釈した種々の濃度のNFκBを添加し、1時間室温で振とうした。洗浄バッファーで3回洗浄後、低塩濃度バッファーで洗浄した。その後チップを遠心により乾燥させた。MALDIプレートにチップを両面テープで固定した後、1mg/mlのシナピン酸溶液をマトリックスとして1μlチップに添加し、乾燥させた。
vii.On Chip DigestionとPeptide Mass Fingerprint
チップを新しいELISAプレートに移し、チップ表面に1μlのトリプシン反応液を添加し2〜6時間37℃でインキュベートした後、1μlの0.1%TFAを添加し反応を終結させた。その後1mg/mlのαCHCA溶液をマトリックスとして1μlチップに添加し、乾燥させた。そのうち0.5μlはMALDIプレートにスポットした。ペプチドマップはMS−Fit Searchを用いて解析した。
viii タンデムマススペクトルによる捕捉分子の同定
上述の方法を用いてDLCにNFκBを捕捉し、On chipトリプシン消化を行なった。次にABI4700proteomicsanalyzerにてProteoMassTM Peptide MALDI−MS Calibration kitを質量補正に用いて、ペプチドマスフィンガープリントを取得した。得られたNFκBのPMFをタンデムマス解析に供した。
(3)実験結果
(A)基礎的条件検討
i.ジーンダイヤTMならびにDLCチップへの2本鎖DNAの固定化
NFκBが認識するエレメント配列のうち、インターフェロンβ1遺伝子の上流配列にあるエレメント領域を含む領域をPRD FプライマーならびにPRD RIプライマーを用いてPCR法で取得した(PRD II−1、図2)。PCR産物をGFX精製キットを用いて精製後、固定化したところ、DLCチップ、ジーンダイヤTMともに2本鎖DNAが結合していることを確認した(図3)。
ii.On Chip ELISA最適条件の検討(DLC)
a.競合阻害実験
チップに固定化した2本鎖DNAで転写因子を捕捉し、ELISAにより特異的に検出することが可能かどうかを検討するため、結合バッファー中にPRDII−1を添加し、固定化したPRDII−1とNFκBの結合において競合するかどうか検討した。一方コントロールとして結合バッファー中に固定化したPRDII−1配列を含まない2本鎖オリゴヌクレオチドを添加して実験を行った。その結果、結合バッファー中にPRDII−1を添加した場合は濃度依存的にNFκBのチップへの捕捉は強く阻害されたが、コントロール配列を用いた場合はほとんど阻害効果は見られなかった(図4)。以上のことから、NFκBはDLCチップ上のPRDII配列を特異的に認識し結合していることが示唆された。
b.DNA固定化配列の検討
NFκB ELISA条件を検討するため、長さやコピー数の異なるエレメントDNA配列を含んだ2本鎖DNAをPCR法あるいは合成法で作製し検討した。PRDII配列を1コピー含むPRDII−1とPRDII−2を比較した場合、PRDII−2を固定化する方が、NFκBをトラップする効率が優れていた(図5)。また、PRDII−2と同じエレメント配列を6コピー含むPCR産物(PRDII×6)と比較しても、PRDII−2の方が固定化効率が優れていた。次に、PCR法を用いず、人工合成により作製したオリゴヌクレオチドを用いてNFκBを効率的に捕捉可能か検討した。イムノグロブリン由来NFκB結合エレメント配列IgκBを2コピー含む2本鎖オリゴヌクレオチドならびに、PRDII配列を2コピー含むオリゴヌクレオチドPRDIIいずれを用いても、PRDII−2と同等あるいはそれ以上のNFκBのトラップ効率を示した(図5)。
以上の結果から、ELISA検出系においては、PCR産物ならびに2本鎖オリゴヌクレオチドの末端側(固相化部位と反対の液相側)にNFκB認識配列が近い認識配列が効率的にNFκBをトラップさせることが可能で、内部の認識配列は立体障害によりNFκB−抗体複合体がアクセスされにくく、コピー数は、NFκBのトラップに重要ではないことが示唆された。しかし、AP1配列を固定化したチップやDNAを固定化しなかったネガティブコントロールからも30−50%程度の発色が見られたことから、ブロッキング条件を検討し特異性を向上させる必要があることが明らかとなった。
c.ブロッキング条件の検討
ELISAの特異性を向上させるため、種々のブロッキング剤の検討を行なった。ブロッキングバッファーとして、トリス系(1M Tris−HCl(pH8.0),150mM KCl,0.1%Tween20)、スキムミルク系(5%スキムミルク,150mM KCl,0.1%Tween20)、BSA系(5%BSA,150mM KCl,0.1%Tween20)、ゼラチン系(2.5%ゼラチン,150mM KCl,0.1%Tween20)、ならびにエタノールアミン系(0.5Mエタノールアミン,150mM KCl,0.1%Tween20)を用いた。その結果、いずれも特異性に関して大きな差異が見られなかった(図6)。以後、非蛋白性のブロッキング剤としてトリスを用いた。また、ブロッキングの反応時間を室温1時間から、室温1時間の後に、4℃ O/Nのステップを加えることで測定間再現性を高めることが出来た。
iii.再現性の検討
前項で最適化された条件を用いてDLCチップの同時再現性ならびに測定間再現性を検討した。その結果、同時再現性、測定間再現性において良好な成績を示した(図7)。
iv.ジーンダイヤTM(ダイヤモンドチップ)とDLCチップの比較
a.濃度変化による定量性の比較
DLCチップとジーンダイヤTMの性能を比較するために種々のNFκB濃度で同一条件で比較を行なった。その結果、ほぼ同様の定量性を示したが、低濃度域においてはジーンダイヤTMのほうがNFκB検出において優れていた(図8)。
b.検出限界の比較
低濃度域(10ng/ml)以下でのプロファイルを詳細に解析するために、それぞれのチップにおける検出限界の算定を試みた。その結果ジーンダイヤTMでは1.0ng/ml、0.33ng/mlいずれにおいてもPRDIIを固定化したチップは、AP1配列を固定した配列とDNAを固定化しなかったチップに対して、有意差水準5%で有意差判定すると有意差が見られたが、DLCは1.0ng/ml(20pM)においてのみAP1固定化チップならびにDNAを固定化しなかったチップに対する有意差が見られた(図2.1.3−9)。また0.33ng/mlにおいてはAP1固定化チップに対してのみ有意差が見られたことから、検出限界は、AP1をコントロールとした場合はいずれも0.33ng/ml(6.7pM)以下であることが明らかとなった。従ってpMオーダーの低濃度サンプルからNFκBを検出可能であることが示唆された。これらのことから他の転写因子に対しても同様に高感度なOn chip ELISAシステムの構築が可能であると考えられる。
(B)トランスクリプションチップの応用
i.細胞培養液からの転写因子の検出
HeLa細胞の培養細胞抽出液から転写因子NFκB p50を捕捉できるかどうかOn chip ELISAを行ない検討した。その結果、TNFα(100ng/ml)で刺激した細胞抽出液からは、TNFα刺激をしなかったコントロール細胞抽出液と比較して、PRDIIを固定化したチップから強く発色が見られた(図10A)。
その他の転写因子においてもTNFα刺激、あるいはPMA刺激(10nM)処理を行うことにより、種々の転写因子の発現量が変動するかどうか検討を行った。本法においては、AP標識2次抗体を用いた。その結果、NFκB p50以外にも多くの転写因子(NFκB p65、c−Rel、c−Fos、c−Jun、ATF2、CREB)を特異的に捕捉することができた(図10B)。
ii.トランスクリプションチップのマイクロアレイ化
これまでに,DNA2本鎖を固相に固定化して、DNA結合蛋白質を捕捉しELISA法を用いて検出するという試みは行なわれているが、スループット性や多重同時検出数が限られるため、プロテオーム解析のための技術として問題は解決されていない。本項では、これらの方法に変わる技術としてDLCチップを用いたトランスクリプションマイクロアレイチップの開発に関して報告する。
a.2本鎖DNAのアレイ化の検討
FITC標識されたPRD IIのオリゴヌクレオチドを9スポット固定化したDLCチップをCRBIO II蛍光スキャナーを用いて検出した(図11)。アレイヤーを用いてスポットした場合も同様に2本鎖DNAを固定化できることが明らかとなった。
b.トランスクリプションマイクロアレイチップからNFκBの特異的検出
FITCラベルを行なわないPRDII、AP1、p53、VDRE、RARE、GRE、TRE、GRE、ERE以上9種のエレメント配列を含むオリゴヌクレオチドを同様にDLCチップ上に固定化した。この9種の転写因子をアレイ化したDLCチップにNFκB(100ng/ml)を添加し、蛍光イムノアッセイにより検出を試みた。その結果NFκBの認識配列であるPRDIIを含むオリゴヌクレオチドからのみ蛍光が検出された。以上のことから、NFκBはエレメント配列をアレイ化したDLCチップ上で特異的に検出できることが明らかとなった(図12)。従って、他のエレメント配列に結合する転写因子を特異的に認識する抗体を組み合わせることにより、一度に複数の転写因子を少量のサンプルから検出するシステムを構築することが可能となる。
iii.MALDI−TOF MSによる転写因子の検出
転写因子をOn chip ELISAで検出する方法は、特異的抗体を用いて同時に多くの転写因子を解析するシステムとしては、ELISAやゲルシフトアッセイと比較した場合、スループットに優れた方法である。しかし、このシステムは既知の転写因子を検出することは可能であるが、未知蛋白質の同定は不可能である。現在のプロテオーム解析においては、未知蛋白質の同定は非常に重要な命題であることから、トランスクリプションチップを用いて蛋白質を同定する技術開発は非常に有用性が高いと考えられる。本項目では、MALDI−TOF MS質量分析系を用いた転写因子の検出法の開発について報告する。
a.On Chip Digestion法によるNFκBのPeptide Mass Fingerprint(RMF)
チップ上でトリプシン分解を行うことは一般的には困難である。その原因として、疎水表面上での酵素活性の失活あるいは、立体障害による基質部位のマスク等が挙げられている。しかし、トランスクリプションチップは低塩濃度で2本鎖DNAが解離するため、DNA蛋白質相互作用が低塩濃度では失われ容易にタンパク質が酵素反応液中に遊離されること、またチップ表面はDNAが共有結合で固定されているため親水性を示すと考えられることからトランスクリプションチップはOn chip digestionを行う上で理想的なチップであると考えられた。2pmol/chipのNFκBを添加・反応させた後、On chipトリプシン分解を行った。その後、チップ上に存在するペプチドをZip Tip精製チップにより精製しMALDIプレートで検出、あるいはトランスクリプションチップ上からの直接検出の2通りの方法を行った。
その結果、On chipでトリプシン分解を行い、Zip Tipにより精製後、MALDIプレートに試料を添加した場合は理想的なペプチドマップが観察された(図13)。またこれは、溶液中でトリプシン(4μg/ml)を用いてNFκBを分解して観察されるペプチドマップと非常に良く一致していた(図14)。このペプチドマスフィンガープリント情報をもとに、MS−FIT Searchによりデータベース検索を行った結果、NFκBが非常に高いスコアでヒットしたことから、多くのNFκB由来ペプチドを捕捉していることが確認された(図15)。
b.PMF法によるビタミンD受容体(VDR)のOn Chip検出・同定
次に500fmol/chipのビタミンD受容体を、その認識配列であるエレメント配列VDREを固定化したチップでトリプシン(1μg/ml)を用いてOn chip digestionを行った後、MALDIプレートにサンプルを添加したところ、NFκB同様に溶液中でトリプシン分解を行った試料と同様にペプチドマップが得られた(図16、図17)。
一方、トランスクリプションチップ上に直接レーザー照射を行い、直接ペプチドマップを観察できるかどうかも試みた。その結果、チップ上から直接VDRのペプチドマップを観察することが出来た(図18)。
c.タンデムマススペクトル解析による転写因子の同定
ペプチドマスフィンガープリント(PMF)法は、質量分析により、試料中に含有されるタンパク質の同定に用いられるが、得られるスペクトルピーク数が少ないと、試料中に含まれる目的タンパク質の同定を行なうことは難しい。そこで、侠雑物を多く含んだ試料から、目的とするタンパク質を同定する場合、タンデムマススペクトル解析による同定がしばしば行なわれる。しかし、タンデムマススペクトルは一般的にペプチドマスフィンガープリント法と比較すると感度が低いことが難点であった。
NFκBを固定化したトランスクリプションチップから、質量補正して得られたペプチドマスフィンガープリント(図21A)から、1701.10m/z,1808.01m/z,2413.35m/zのピークについては、タンデムマス解析を行なった(図21B,C,D)。それぞれのピークから、2次スペクトルを得ることが出来たことから、MASCOTデータベースサーチにこれらの分析結果を供した。その結果いずれのペプチドもNFκBのデータベース上の質量データーと良く一致した(図22)。以上の結果は、トランスクリプションチップがエレメントDNAを介し、効率的にNFκBを捕捉することが可能であり、その結果タンデムマス解析を行い得ることをしている。
(4)本発明の応用の可能性
(A)トランスクリプションチップを用いた転写因子高感度定量検出
エレメント配列をDLCチップあるいはジーンダイヤTM上に固定化したチップ(トランスクリプションチップ)に蛋白質(転写因子)を捕捉させ、高感度で特異性の高い実験系を構築し、高感度な定量検出系を確立することが本研究の第一の大きな課題である。この課題を解決するためには、転写因子の捕捉能が高いDNA固定化チップを作製し、転写因子や抗体の非特異的結合をできる限り抑制できるアッセイ系の確立が重要であった。ブロッキング条件など結合反応条件の検討、固定化するDNA配列の検討を行うことで、以上の課題に対応した。
転写因子NFκBの認識配列(エレメント配列)部分は、コピー数よりむしろ、固定化した2本鎖DNA内での位置が重要と思われる結果が得られた(図5)。2本鎖DNAのエレメント配列の位置が液層側から近いほうがNFκBの捕捉能が高かった。オリゴヌクレオチドの表面側から離れた位置に存在する内部の認識配列は立体障害により転写因子−抗体複合体が形成されにくいことが示唆された。従って高感度な検出を実現する一般的な方法として、2本鎖オリゴヌクレオチドの表面側(固相化部位と反対側)近くにエレメント配列を設計することが転写因子の捕捉能に重要であると示唆された。固定化するDNAにはオリゴヌクレオチド、PCR産物いずれも固定化が可能なことを明らかにしたことから、オリゴヌクレオチドを用いた通常のアッセイに加えて、ある特定の遺伝子領域をPCR法により取得し固定化することで、特定の遺伝子領域における転写開始複合体について将来解析可能になると考えられた。
アッセイの非特異的結合を減少させるためにはブロッキング条件の検討は重要であった。結合バッファー中のBSA濃度が1%の場合が最適な条件であった。また実験系構築時において、非特異的結合の影響と思われる陰性コントロールからのアッセイ値の上昇がしばしば見られたが、トリス緩衝液を用いたブロッキングの時間を長く取る(4℃、O/N)ことで、再現性が高い実験系を構築することができた(図7)。
以上の点を中心に検討した結果、最終的にジーンダイヤTMを用いた場合0.33ng/mlまで、DLCチップを用いた場合1.00ng/mlまで検出限界が得られた。また、HeLa細胞核抽出液を用いて、TNFα刺激や、PMA刺激によって活性化された炎症系転写因子の蛋白質レベルのプロファイリングを行うことが可能となった。
(B)2本鎖DNAの高集積化(マイクロアレイ化)チップを用いた転写因子の検出
小規模な研究用途としては、従来の技術ですでに転写因子のプロファイリング・定量に関しては達成していると言えるが、今後のプロテオーム解析的な立場での診断・創薬への支援システムとしては、スループット性とサンプル消費量の点から考慮すると実用化には至っていない現状である。
本成果のOn chip ELISAの結果で示したように3mm×3mmサイズで定量的測定を可能にしたことから、カラススライド2枚程度のサイズで96ウェルマイクロプレートと同数の定量的な高感度測定が可能としている。
さらに、On chip蛍光イムノアッセイにおいては、2本鎖DNAをマイクロアレイ化したトランスクリプションチップの作製を行うことで、2本鎖DNAを3mm×3mmサイズのチップに9スポットのDNAを固定化したチップからNFκBがPRDII配列に特異的に結合していることをモニターすることができた(図12)。
(C)MALDI−TOF MSを用いた転写因子の検出・同定
質量分析計を用いて蛋白質を検出することで、ELISAでは検出が困難な、未知蛋白質の検出・同定あるいは翻訳後修飾の解析などが可能となる。
現在、サイファージェン社SELDI−TOF MSを用いた蛋白チップシステムが市販化されており、このシステムを用いて、抗体を固定化した蛋白チップが開発されているが、スループット性、質量分析精度の点においては十分とはいえない。
一方、DNAを固定化したトランスクリプションチップに関しても、転写因子は一般的に分子量が5万程度のものが多く、質量情報から同定を行うのは現在の質量分析計の精度では困難であった。そこで、トリプシン分解によるペプチドマスフィンガープリント法を用いて、DNAを高密度に固定化可能なダイヤモンド(DLC)チップとMALDI−TOF MSを用いたシステムを用いれば、チップ上から直接転写因子の分子の質量情報を取得できるのではないかと考え、検出システムを作成した結果、初めてチップ上からの直接転写因子の検出・同定を実現をすることができた(図18)。さらには、タンデムマススペクトル解析と組み合わせることで、チップに捕捉した転写因子の検出・同定を行なうことが可能となった(図21)。
本発明によれば、on chip ELISAにより高感度なトランスクリプションチップを用いた多数の転写因子のプロファイリングが実現され、培養細胞抽出液や組織から転写因子を高感度に検出・定量化が可能となり、創薬時における、スクリーニングや毒性予測のツールとして、あるいは診断情報のツールとして使用可能である。
また、ペプチドマスフィンガープリント法を用いて直接チップ上から転写因子の同定を行うことが可能である。さらに、タンデムマススペクトル解析が可能であったことから、侠雑物を含む試料中からの転写因子の同定を行い得る。
イオン化レーザーの焦点位置に対応するトランスクリプションチップ(図19)を用いることで従来から用いられているMALDIプレート以上の感度ならびに精度を保持した転写因子の検出.同定が行い得る。
本発明により、効率的に転写因子をプロファイリングすることができる。
【配列表】





【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
転写因子が結合し得る1以上のエレメント配列を含む少なくとも1つのポリヌクレオチドが基板上に固定化されてなるトランスクリプションチップ。
【請求項2】
各々に転写因子が結合し得る1以上のエレメント配列を含む少なくとも2つのポリヌクレオチドが結合してなる請求項1に記載のチップ。
【請求項3】
前記ポリヌクレオチドが各遺伝子の上流(5’)側のプロモーターの部分配列を有する請求項1に記載のチップ。
【請求項4】
前記基板が支持体上にダイヤモンド薄膜を形成したものである請求項1に記載のチップ。
【請求項5】
前記ポリヌクレオチドがダイヤモンド薄膜と任意に適当なスペーサーを介して結合したものである請求項1に記載のチップ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のトランスクリプションチップに転写因子を含み得る試料を作用させる工程を含む、転写因子の結合をアッセイする方法。
【請求項7】
前記試料が被験物質の存在下で培養された細胞の細胞溶解物である、被験物質の転写因子に対する影響を評価するための請求項6に記載の方法。
【請求項8】
転写因子の結合を転写因子に対する抗体または質量分析を利用した方法を用いて検出する請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
抗体を用いた検出がELISA法であり、質量分析を利用した方法がペプチドマスフィンガープリント法である請求項8に記載の方法。

【図21】
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【図22】
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【国際公開番号】WO2004/101784
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506242(P2005−506242)
【国際出願番号】PCT/JP2004/006796
【国際出願日】平成16年5月13日(2004.5.13)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【Fターム(参考)】