説明

トランスジェニック甜菜植物

本発明は、遅延抽苔の表現型を有するトランスジェニック甜菜植物に関する。本発明は更に、甜菜ゲノム内の抽苔遺伝子もしくはB遺伝子に密接に連鎖し、且つ、一年生遺伝子型と二年生遺伝子型の間の、又は二年生遺伝子型を示している甜菜植物の植物分類内での異なるハプロタイプ間の識別に使用できるポリヌクレオチドに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広く植物分子生物学、植物形質転換、及び植物育種の分野に関する。より詳しく述べると、本発明は、遅延抽苔の表現型を有するトランスジェニック甜菜植物に関する。本発明は更に、甜菜ゲノム内の抽苔遺伝子又はB遺伝子に密接に連鎖するか又はその内部に存在し、且つ、一年生遺伝子型と二年生遺伝子型の間、又は二年生遺伝子型を表す甜菜植物の植物分類における異なるハプロタイプ間の識別に使用できるポリヌクレオチド・マーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
栽培される甜菜(Beta vulgaris ssp. vulgaris L.)は、一年目に貯蔵根と葉ロゼットを形成する二年生植物である。新芽の伸長(抽苔)及び花形成は低温期間の後に開始する。対照的に、多くのB. vulgaris ssp. maritima属の野生型ビートは、B遺伝子座における抽苔遺伝子Bの存在のために一年生的な成長習性に示し、該遺伝子は染色体IIの中心部にマッピングされる。抽苔遺伝子(B遺伝子)は甜菜における一年生的な習性の測定に関与する。ビート種の年生(annuality)は一遺伝子性であり、且つ、優性特徴であると考えられる。抽苔とその後の開花が起こるのに春化を必要とする優性B対立遺伝子を担持する二年生植物とは逆に、優位B対立遺伝子を担持する植物は春化から独立した様式で幼若性成長段階から生殖性成長段階に切り換えることができる。遺伝子座Bの優性対立遺伝子は野生型ビートで豊富であり、劣性対立遺伝子を担持している二年生栽培種に通常必須である寒冷要件がなくても長期間にわたり抽苔を引き起こす(Abe et al., 1997)。
【0003】
Bolting(茎伸長)は、植物性から生殖性成長への転移に際して明らかに観察できる第一段階である。
【0004】
伝統的に、栽培される二年生甜菜は、春に栽培され、そして秋に収穫される。しかしながら、秋の播種による栽培時期の延長、そして冬を越える栽培は、実質的に収量の増加が見込めるので、砂糖製造業の1つの要求に対処する甜菜加工活動を延長することを可能にするであろう。しかしながら、(冬の間に寒い気温に晒すことで誘導される)春化が抽苔と収量損失をもたらすので、冬を越える中央ヨーロッパにおける(即ち、冬作物としての)現在の甜菜の栽培は今のところ不可能である。春化反応が寒冷誘導後の抽苔への耐性又はその顕著な遅延を与えるように修飾された非抽苔冬ビートを開発することは、このため非常に望ましい。B遺伝子は甜菜における春化反応で重要な役割を果たしているので、それは春化反応を調節することによって抽苔耐性をデザインする上で有望な候補の典型である。
【0005】
更に、栽培される甜菜の場合、抽苔は収量の急激な減少をもたらし収穫や砂糖抽出の間に問題を引き起こすために、望ましくない現象である。甜菜の商業的種子生産は、しばしば一年生雑草ビートが生育している領域で行われ、それは種子製品に花粉混入を引き起こし、種子商品の一年生化を引き起こす。これは消費者に受け入れられない。一年生植物による混入を同定するために、種子を収穫した直後に、商業的な種子ロットを野生型一年生ビートが生育しない領域で栽培する。植物を春化処理せずに、ボルターの存在によって混入を同定する。容易に結果を得ることができ、種子処理における費用削減をもたらすであろうマーカーを使用するスクリーニングアッセイによるこのテストの置換は非常に望ましい。
【0006】
マーカー補助型アプローチは、甜菜育種において、例えば育種法を促進するために、又は野生型ビートからの新品種を導入するために、有利に使用することもできる。B対立遺伝子の不完全な浸透度とその環境依存性のため、密接に連鎖した分子マーカーを育種系におけるその存在についてスクリーニングする必要もある。これらの全ての場合について、B遺伝子に密接に連鎖したマーカーを獲得して、一年生植物又は二年生植物を正確に同定できることが重要である。
【0007】
上記の理由で、甜菜の春化反応を調節するためのトランスジェニック手段を必要としており、そしてまた、種子生産と甜菜育種におけるB遺伝子の一年生対立遺伝子と二年生対立遺伝子を区別するためのマーカー補助型手段も必要としている。
【0008】
本発明は、上記の必要性に対処するそのようなトランスジェニック手段、並びにマーカー補助型手段がここに提供される。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、配列番号1、4、5、6、7、8、9、10、53、又は54のいずれか1つに記載されている、核酸配列の群から選択される核酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有する核酸配列に関するか、配列番号1、4、5、6、7、8、9、10、53、又は54のいずれか1つに記載されている、核酸配列の群から選択される核酸配列のうちの少なくとも15個の連続したヌクレオチドを含んで成る核酸配列に関するか;或いは上述のものに、又は配列番号1、4、5、6、7、8、9、10、53、又は54のいずれか1つに記載されている、核酸配列の群から選択される核酸配列に緊縮条件下でハイブリダイズする核酸配列に関する。
【0010】
好ましい態様では、以前に記載した本発明の核酸配列は、単離された核酸である。相同性に関して、上記に言及した少なくとも70%から始まる範囲に入る個々の数値、即ち、71%、72%、73%、74%、75%…80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%は、同様に本発明により包含されるであろう。本発明の核酸配列の長さは、配列番号1、4、5、6、7、8、9、10、53、又は54のいずれか1つに記載されている、核酸配列の群から選択される核酸配列のうちの少なくとも15、20、25、30、35、40、45、又は少なくとも50個の隣接ヌクレオチドを含んで成ることが好ましい。「少なくともx個のヌクレオチド」という用語は、xから始まり、そしてそれを上回る任意の数値を持つ核酸分子を網羅すると理解される。例えば、「少なくとも15個のヌクレオチド」という用語は、15、16、17、18、19、20個、又はより多くのヌクレオチドを持つ核酸分子を網羅することを意図する。更なる好ましい態様では、上文に記載した本発明の核酸配列は、緊縮条件下、より好ましくは高緊縮条件下、配列番号1、4、5、6、7、8、9、10、53、又は54のいずれか1つに記載されている、核酸配列の群から選択される核酸配列にハイブリダイズする。
【0011】
この観点の更なる態様では、核酸分子は、配列番号1、4、5、6、7、8、9、10、53、もしくは54、又はその相補鎖から成る群から選択されるヌクレオチド配列を含んで成る。別の好ましい態様では、上文に記載した本発明の核酸配列は、配列番号8に記載されている核酸配列を含んで成る、ここで上記配列は、表7-1及び7-2に示されている1又は数個核酸置換、欠失、又は付加を含んで成る、ここで表7-1及び7-2示される多型は、配列番号8にそれぞれ与えられたその配列の18個の一年生対立遺伝子と2個の二年生対立遺伝子を表している。表7-1及び7-2はまた、図10及び11としても示されている。
【0012】
別の観点によると、本発明は更に、上文に記載した本発明の核酸配列によってコードされるポリペプチドを提供する。好ましい態様では、上文に記載した本発明のポリペプチドは、配列番号11又は12に与えられたアミノ酸配列の群から選択されるアミノ酸配列を持つ。
【0013】
本発明は更に、非抽苔表現型を発現する植物を作製するための、トランスジェニックアプローチにおけるB遺伝子、特にBvPRR7遺伝子の使用に関する。特に、本発明は、調節要素の調節下に、特に植物において機能的な調節要素の調節下に、先に記載した本発明の核酸配列を含んで成る発現カセットを含むキメラ構成物に関する。
【0014】
本発明の一態様では、上述したキメラ構成物は、選択方法において形質転換済みの植物材料と未形質転換の植物材料とを識別可能にする選択マーカー遺伝子を更に含有してもよい。
【0015】
一態様では、本発明のキメラ構成物は、負の選択マーカー、特に植物毒性化合物、例えば抗生物質又は除草剤などに対する耐性をコードする選択マーカーを含んで成る。別の態様では、本発明のキメラ構成物は、正の選択マーカー、特に、未形質転換植物を上回る選択的利点、特に、栄養上の利点、例えばホスホマンノースイソメラーゼ遺伝子又はキシロースイソメラーゼ遺伝子など、を有する形質転換植物を提供する酵素をコードする選択マーカーを含んで成る。
【0016】
好ましい態様では、本発明のキメラ構成物は、特にアンチセンス又はRNAiアプローチによる、BvPRR7遺伝子発現のトランスジェニック・ダウンレギュレーションのために提供される。このような関係において、「ダウンレギュレーション」又は「抑制」という用語は、同じ条件下で未形質転換植物におけるその遺伝子の発現と比較したBvPPR7遺伝子の発現レベルのいくらかの低下を指すことを意味する。これは、遺伝子の発現が検出されないような遺伝子の「サイレンシング」を含んでいる。別の好ましい態様では、BvPRR7遺伝子発現のトランスジェニック・ダウンレギュレーションのための本発明のキメラ構成物は、分解のために、B遺伝子タンパク質、好ましくはBvPRR7タンパク質、をコードするDNA配列の転写によって生じるmRNAを標的指向することができるdsRNAをコードする核酸分子を含んで成る。別の好ましい態様では、上文に記載した本発明のキメラ構成物は、上述のdsRNAをコードする核酸分子を含んで成る、ここで上記核酸分子は、少なくとも21ヌクレオチドの長さを有し、且つ、BvPRR7遺伝子のコード配列の少なくとも一部と実質的に同一である。上述のBvPRR7遺伝子のコード配列は、好ましくは上文に記載した本発明の核酸配列である。より好ましくは上述のBvPRR7遺伝子のコード配列は、本発明において配列番号1、4、5、6、9、10、53、又は54として記載されている配列を含んでいる核酸分子である。「実質的に同一のもの」は、緊縮条件下、互いにハイブリダイズすることができる2つの核酸分子を指す。通常、dsRNAとBvPRR7遺伝子のコード配列もしくはその一部の間の同定又は相同性は、dsRNA全長にわたる必要はない。それは少なくとも21ヌクレオチドの範囲で同一性を有すれば十分であるが、核酸配列が、21ヌクレオチドを上回る範囲にわたって標的RNA分子に対して相同性を有するコード化dsRNAが選択されることが好ましい。好ましくは、上文に記載した本発明のキメラ構成物は、dsRNAをコードし、且つ、21ヌクレオチドを上回る長さ、より好ましくは50、10、100、250、500、600、750、1000ヌクレオチド又はそれを上回る長さを有する核酸分子を含んで成る。
【0017】
好ましい態様では、本発明のキメラ構成物中に含まれるdsRNAをコードする核酸分子は、構成的プロモーター、好ましくはアラビドプシス(Arabidopsis)からのUbi3プロモーター、の調節下にある配列番号1に与えられたヌクレオチド配列を有する。他の態様では、本発明のキメラ構成物は更に、ジャガイモStLS1遺伝子からの第2イントロンの配列を含んで成る(Eckes et al, 1986; Vancanneyt et al, 1990)。好ましい態様では、本発明のキメラ構成物は、ジャガイモからのStLS1遺伝子の第2イントロンにより分割された、アンチセンス方向とセンス方向の両方でUbi3プロモーター(Norris et al., 1993)とNosターミネーターの間にクローニングされた配列番号1に与えられたヌクレオチド配列を含んで成るBvPRR7を標的指向する逆転反復配列を含んで成る。
【0018】
本発明の一態様では、形質転換ベクター及び/又は発現ベクター、特に本明細書の上述したキメラ構成物を含んで成る植物形質転換ベクター及び/又は発現ベクターが提供される。更なる態様では、植物発現ベクターは、上文に記載した本発明のキメラ構成物を含んで成るRNAi発現ベクターである。より好ましい態様では、RNAi発現ベクターは、図11に示された本発明のキメラ構成物を含んで成る。
【0019】
本発明の更なる観点では、本発明に係る上述したキメラ構成物又はベクター分子(例えば、形質転換ベクターもしくは発現ベクター)を含んで成る植物細胞が提供される。好ましい態様では、本発明のキメラ構成物又はベクター分子を含んで成る上述の植物細胞は、甜菜植物の植物細胞である。
【0020】
先に記載した、本発明の植物細胞、及び/又は本発明に係るキメラ構成物、及び/又は本発明の核酸配列をそれぞれ含んで成る、遅延抽苔の表現型を有するトランスジェニック植物、特に甜菜植物、又はその細胞、組織、もしくは種子が更に提供される、ここで上述したトランスジェニック植物は、抽苔が遅れるように、特に抑制されるようにdsRNAを発現しているので、その植物は遅延抽苔の表現型、好ましくは非抽苔表現型を発現する。「抽苔の遅延」は、甜菜の天然の抽苔反応の調節と理解されなければならない。抽苔の間、最初のステップとして、植物の春化(即ち、低温への暴露)後の植物性成長から生殖性成長への転移の間に茎が伸び、そして最終的に開花をもたらす。抽苔反応の遅延は、正常な植物と比較して遅れて始まる茎の伸長を指すことを意味する;それらの植物は遅延抽苔の表現型を発現する。抽苔反応は、数日(即ち、5、6、7、8、9、10、11、12、13、もしくは14日間まで)、そして最長で数週間(即ち、1、2、3、4週間まで)又は数カ月(即ち、1、2、3、5、もしくは6カ月まで)まで遅らせることができる。好ましい態様では、抽苔応答は完全に抑制される;そのような植物は、春化後に抽苔を開始しないので、非抽苔表現型を発現する。更に好ましい態様では、本発明は、本発明に係る上述の細胞、組織又は種子から生じるトランスジェニック植物、特に甜菜植物、を提供する。
【0021】
別の観点では、本発明は、そこから調節抽苔(modulated bolting)の表現型を有する植物、特に甜菜植物、が栽培できるハイブリッド種子の生産方法を提供する。そのような方法は、好ましくは:(a)第一の親系列として、本発明に係る上述した植物系列、特に調節抽苔の表現型を有する甜菜系列、特にトランスジェニック甜菜植物を準備し、(b)第二の親系列として、第二の植物系列、特に異なる遺伝子型を有する甜菜系列を準備し;ここでステップa)又はステップb)の親系列の一方が雄性不稔CMS系列であり、且つ、ここでもう一方の親系列が雄性稔性であり、そして(c)雄性稔性親系列の植物に第二の雄性不稔親系列の花で受粉させ、種子を成熟させ、そしてハイブリッド種子を収穫する;ここで収穫したハイブリッド種子が遅延抽苔の表現型を有するハイブリッド植物、特に甜菜ハイブリッド植物、の種子である。好ましい態様では、両方の親系列が甜菜植物系列である、ここで甜菜親系列の少なくとも一方が本発明のトランスジェニック甜菜系列である。調節抽苔の表現型を有する少なくとも1つの甜菜親系列はまた、好ましくは、導入遺伝子を全く含まない植物である可能性もあり、それは以下で記載するようにその他の遺伝操作法によってその後に得られる。この観点のある態様では、ステップ(a)で準備される甜菜親系列は、本発明の核酸配列又はその断片の1以上を含んで成る雄性不稔CMS同系交配甜菜系列であり、そして、ステップ(b)で準備される第二の甜菜親系列は、雄性稔性同系交配甜菜系列である。別の好ましい態様では、ステップ(a)で準備される甜菜親系列は、本発明の核酸配列又はその断片の1以上を含んで成る雄性稔性甜菜植物であり、そして、ステップ(b)で準備される第二の甜菜親系列は、雄性不稔CMS同系交配甜菜系列である。
【0022】
本発明の更なる観点は、遅延抽苔の表現型を発現する植物、特に甜菜植物、のハイブリッド種子に関する。本発明の更に別の観点では、ハイブリッド種子が、本発明に係る上述の方法によって作製される。更なる好ましい態様では、遅延抽苔の表現型を有するハイブリッド植物、特にハイブリッド甜菜植物が本発明に係る上述のハイブリッド種子を栽培することによって作製される。本発明の更なる好ましい態様は、種子、胚、小胞子、接合体、プロトプラスト、細胞、胚珠、花粉、主根、子葉、抽出物又は生物学的サンプルから成る群から選択される植物部分に関し、それらは本発明のトランスジェニック甜菜植物もしくはその種子に由来するか、又は先に記載した本発明のハイブリッド植物もしくはその種子に由来する。
【0023】
本発明の別の観点は、植物細胞、特に甜菜植物の細胞、の形質転換のための本発明の核酸配列又はその断片の使用に関する。本発明の核酸配列又はその断片を含む形質転換植物細胞、特に甜菜植物の細胞、の目的は、先に記載した通り、植物の抽苔習性を調節することである。この観点の他の態様は、植物細胞、特に甜菜植物の細胞、を形質転換する方法に関する;ここで上記方法は、本発明の核酸配列、本発明のキメラ構成物、又は本発明に係る上述したベクターの使用を含んで成る。別の観点では、本発明は、砂糖の製造方法、好気性発酵方法、及び嫌気性発酵方法から成る群から選択される方法における、本発明のトランスジェニック植物、本発明のハイブリッド植物、又は本発明に係る上述した植物部分の使用を提供する。好ましくは、本発明のトランスジェニック植物、本発明のハイブリッド植物、又は本発明に係る上述の植物部分は、砂糖の製造方法で使用される。別の観点は、砂糖の製造方法に関し、ここで本発明に係る上述した甜菜、又はその細胞もしくは組織が砂糖を製造するために加工される。本発明は更に、加工される、本発明に係る上述した甜菜植物、又はその細胞もしくは組織から製造された砂糖を提供する。
【0024】
更なる観点では、本発明は、甜菜において抽苔遺伝子(B遺伝子)関連表現型と完全な同時分離を示すゲノムDNA領域から得ることができる核酸配列に基づいて開発されたポリヌクレオチド・マーカーに関し、そしてここで上記マーカーは、一年生遺伝子型と二年生遺伝子型の間の、又は一年生遺伝子型と二年生遺伝子型を示す甜菜植物の植物分類の中の異なるハプロタイプ間の識別を可能にする。好ましい態様では、本発明のポリヌクレオチド・マーカーは、本発明に係る上述した核酸配列の1又は複数から得ることができる核酸配列を持つ。一態様では、本発明のポリヌクレオチド・マーカーは更に、1又は複数の多型、特にSNP、SSR、少なくとも1つのヌクレオチドの欠失又は挿入に基づく多型、とりわけSNPに基づく多型、を含んで成り、その多型はB遺伝子座のB対立遺伝子について診断される。そのようなポリヌクレオチド・マーカーは、好ましくは、本明細書中の配列番号8として記載され、且つ、表7-1(更に図10に与えられる)及び7-2(更に図11に与えられる)に示されるゲノム配列の中の異なる対立遺伝子内に存在する様々なSNPの少なくとも1つを検出することができる、ここで上述したポリヌクレオチド・マーカーは、特に一年生甜菜系列と二年生甜菜系列の間の、異なる対立遺伝子を識別することができる。好ましい態様では、本発明のポリヌクレオチド・マーカーは、配列番号8として記載され、且つ、表7-1(更に図10に与えられる)及び7-2(更に図11に与えられる)に示される配列の224、351、615、897、1082、1841、1915、2334、11592、12316、12490、又は12544位におけるSNPを含んで成る群から選択される少なくとも1つのSNPを検出できる。本発明の更なる観点は、本発明に係る上述した複数のポリヌクレオチド・マーカーを含んで成る一組のポリヌクレオチド・マーカーに関する。これに関連して、「複数」という用語は、2以上のポリヌクレオチド・マーカーのセットを指し、そしてそれは2、3又はそれより多いマーカーから成ることが好ましい。
【0025】
本発明の別の観点は、正プライマーと逆プライマーから成る一対のプライマーに関し、それらのプライマーは抽苔遺伝子(B遺伝子)との完全な同時分離を示す甜菜ゲノムDNAのゲノム領域内のヌクレオチド配列にアニーリングできる。好ましい態様では、本発明のプライマー対は、本発明に係る上述した核酸配列にアニールし、そしてポリヌクレオチド、好ましくは本発明のポリヌクレオチド・マーカー、又はその情報部分を増幅する、ここで上述したポリヌクレオチドは、1又は複数の多型、特にB遺伝子座におけるB対立遺伝子を診断し、そして一年生遺伝子型と二年生遺伝子型を識別することを可能にする1又は数個の多型を含んで成る。好ましい態様では、本発明のプライマー対は、以下の:(a)配列番号6に与えられたBvPPR7の第3イントロン内のヌクレオチド配列にアニールし、そして多型、特に87位にC/T SNP及び/又は160位にC/T SNP及び/又は406位にA/G SNPを含んで成る多型を含む上述した領域から情報断片を増幅する一対のプライマー;或いは(b)配列番号8として記載された核酸配列にアニールし、そして表7-1(更に図10に与えられる)と7-2(更に図11に与えられる)に示されている上述した配列の異なる対立遺伝子内に存在しているSNPに基づく多型から選択される多型を含んで成る上述した配列から情報断片を増幅する一対のプライマー、から成る群から選択される。更なる好ましい態様では、本発明のプライマー対は、以下の:(a)SNP#2334を含んで成る断片を増幅するための配列番号49に与えられた正プライマーPRR7(T6)-Fと配列番号50に与えられた逆プライマーPRR7(T6)-R;又は(b)SNP#160を含んで成る断片を増幅するための配列番号13に与えられた正プライマーPRR7(T1)-Fと配列番号14に与えられた逆プライマーPRR7(T1)-R;又は(c)断片、並びに第一の蛍光色素としてのVICで標識された第一のプローブ分子として配列番号57に与えられたプローブ分子1r22(T1)-VIC及び第二の蛍光色素としてのFAMで標識された第二のプローブ分子として配列番号58に与えられたプローブ分子1r22(T1)-FAM、を増幅するための配列番号55に与えられた正プライマー1r22(T1)-Fと配列番号56に与えられた逆プライマー1r22(T1)-R、を含んで成る。
【0026】
一態様では、本発明は、1又は複数のプローブ分子、及び/又は1又は複数のプライマー、特に1又は複数のプライマー対、とりわけ正プライマーと逆プライマーから成る1又は複数のプライマー対に関するが、上記プライマーは甜菜の表現型に関連する抽苔遺伝子(B遺伝子)との完全な同時分離を示すゲノムDNA領域から得ることができる核酸配列にアニーリングできる、そしてここで上記マーカーは、一年生遺伝子型と二年生遺伝子型の間の、又は一年生遺伝子型もしくは二年生遺伝子型を示す甜菜植物の植物分類の中のハプロタイプ間の識別を可能にする。
【0027】
一態様では、本発明は、一組のプローブ・ポリヌクレオチドであって、多型部位を含んで成り、そして重複の領域内の1塩基又は2塩基の塩基不対合によってのみ異なる部分的に重複する断片を増幅する、本発明に係る上述した情報ポリヌクレオチド断片内の部分領域に相補的である少なくとも2つの別々のプローブ分子を含んで成る一組のプローブ・ポリヌクレオチドに関し、ここで第一のプローブ、特に第一の蛍光色素で標識されたプローブ、更に特には第一の蛍光色素と消光剤で標識されたプローブは一方の対立遺伝子を表し、そして第二のプローブ、特に第一の色素とは異なる第二の蛍光色素で標識された第二のプローブ、更に特には第二の蛍光色素と消光剤で標識された第二のプローブはもう一方の対立遺伝子を表す。
【0028】
本発明の上記のポリヌクレオチド・マーカー、一組の本発明のポリヌクレオチド・マーカー、又は一対の本発明のプライマーを、甜菜植物の年生に関連する対立遺伝子の不在又は存在を同定するための対立遺伝子識別アッセイに使用することができる。
【0029】
本発明の別の観点では、甜菜植物の年生に関連する対立遺伝子の不在又は存在を同定するための対立遺伝子識別アッセイが提供され、それは一年生植物と二年生植物を識別することを可能にする。好ましい態様では、本発明のポリヌクレオチド・マーカー、一組の本発明のポリヌクレオチド・マーカー、又は一対の本発明のプライマーがこのアッセイで使用される。
【0030】
更なる好ましい態様では、本発明の対立遺伝子識別アッセイは、以下のステップ:(a)分析しようとする甜菜植物からゲノムDNAのサンプルを獲得し、(b)一対の本発明のプライマーを使用して上述したサンプル又はゲノムDNAから断片を増幅し、そして(c)上記増幅された断片をそれぞれ二年生表現型に関連するが一年生表現型に関連しないことが知られている対立遺伝子配列と比較する、を含んで成る。このアッセイでは、ステップ(c)の増幅された断片の配列が、二年生表現型に関連することが知られている対立遺伝子の配列と比較される。配列が二年生対立遺伝子の配列と異なれば、これは一年生対立遺伝子の存在を暗示している(即ち、一年生植物)。別の好ましい態様では、本発明の対立遺伝子識別アッセイのステップc)で得られた増幅された断片が、一年生対立遺伝子に特異的な配列を含んで成る第一の蛍光標識プローブ分子を用いて調べられる。反応中に第一のプローブの色素蛍光が増強されれば、これは一年生対立遺伝子の存在を暗示している。
【0031】
好ましい態様では、本発明のアッセイは、(a)SNP#2334を含んで成る断片を増幅するための配列番号49に与えられた正プライマーPRR7(T6)-Fと配列番号50に与えられた逆プライマーPRR7(T6)-R、並びに第一蛍光色素としてのVICで標識された第一のプローブ分子として配列番号51に与えられたプローブ分子PRR7(T6)-VIC及び第二の蛍光色素としてのFAMで標識された第二のプローブ分子として配列番号52に与えられたプローブ分子PRR7(T6)の-FAM;又は(b)SNP#160を含んで成る断片を増幅するための配列番号13に与えられた正プライマーPRR7(T1)-Fと配列番号14に与えられた逆プライマーPRR7(T1)-R、並びに第一の蛍光色素としてのVICで標識された第一のプローブ分子として配列番号15に与えられたプローブ分子PRR7(T1)-VIC及び第二の蛍光色素としてのFAMで標識された第二のプローブ分子として配列番号16に与えられたプローブ分子PRR7(T1)-FAM;又は(c)断片を増幅するための配列番号55に与えられた正プライマー1r22(T1)-Fと配列番号56に与えられた逆プライマー1r22(T1)-R、並びに第一の蛍光色素としてのVICで標識された第一のプローブ分子として配列番号57に与えられたプローブ分子1r22(T1)-VIC及び第二の蛍光色素としてのFAMで標識された第二のプローブ分子として配列番号58に与えられたプローブ分子1r22(T1)-FAM、のいずれかを用いる。
【0032】
一態様では、本発明は、本発明に係る上述したマーカー補助対立遺伝子識別アッセイを使用した市販の種子における一年生の混入を同定する方法に関する。
【0033】
配列
配列番号1は甜菜EST CV301305のヌクレオチド配列を表す。
配列番号2は正プライマーPRR7-Fのヌクレオチド配列を表す。
配列番号3は逆プライマーPRR7-Rのヌクレオチド配列を表す。
配列番号4はBvPRR7の対立遺伝子変異体2(ハプロタイプ2)のイントロン3のヌクレオチド配列を表す。
配列番号5はBvPRR7の対立遺伝子変異体1(ハプロタイプ1)のイントロン3のヌクレオチド配列を表す。
配列番号6は、マッピングのためのBvPRR7のイントロン3のヌクレオチド配列とその対立遺伝子変異性を表す。
配列番号7はBvPRR7の二年生対立遺伝子のゲノム・ヌクレオチド配列を表す。
配列番号8は、プロモーター及びターミネーター領域を含むBvPRR7のゲノム・ヌクレオチド配列のヌクレオチド配列を表す。
【0034】
配列番号9はBvPRR7の二年生対立遺伝子のコード領域のヌクレオチド配列を表す。
配列番号10はBvPRR7の一年生対立遺伝子のコード領域のヌクレオチド配列を表す。
配列番号11はBvPRR7の二年生対立遺伝子の推定アミノ酸配列を表す。
配列番号12はBvPRR7の一年生対立遺伝子の推定アミノ酸配列を表す。
配列番号13はプライマーPRR7(T1)-Fのヌクレオチド配列を表す。
配列番号14はプライマーPRR7(T1)-Rのヌクレオチド配列を表す。
配列番号15はプローブPRR7(T1)-VICのヌクレオチド配列を表す。
配列番号16はプローブPRR7(T1)-FAMのヌクレオチド配列を表す。
配列番号17はプライマーGJ131(T1)-Fのヌクレオチド配列を表す。
配列番号18はプライマーGJ131(T1)-Rのヌクレオチド配列を表す。
配列番号19はプローブGJ131(T1)-VICのヌクレオチド配列を表す。
配列番号20はプローブGJ131(T1)-FAMのヌクレオチド配列を表す。
配列番号21はプライマーED031700(T1)-Fのヌクレオチド配列を表す。
配列番号22はプライマーED031700(T1)-Rのヌクレオチド配列を表す。
【0035】
配列番号23はプローブED031700(T1)-VICのヌクレオチド配列を表す。
配列番号24はプローブED031700(T1)-FAMのヌクレオチド配列を表す。
配列番号25はプライマー9_27(T2)-Fのヌクレオチド配列を表す。
配列番号26はプライマー9_27(T2)-Rのヌクレオチド配列を表す。
配列番号27はプローブ9_27(T2)-VICのヌクレオチド配列を表す。
配列番号28はプローブ9_27(T2)-FAMのヌクレオチド配列を表す。
配列番号29はプライマーGJ01(T1)-Fのヌクレオチド配列を表す。
配列番号30はプライマーGJ01(T1)-Rのヌクレオチド配列を表す。
配列番号31はプローブGJ01(T1)-VICのヌクレオチド配列を表す。
配列番号32はプローブGJ01(T1)-FAMのヌクレオチド配列を表す。
【0036】
配列番号33はプライマーSELA3977のヌクレオチド配列を表す。
配列番号34はプライマーSELA3988のヌクレオチド配列を表す。
配列番号35はプライマーSELA4442のヌクレオチド配列を表す。
配列番号36はプライマーSELA3809のヌクレオチド配列を表す。
配列番号37はプライマーSELA3810のヌクレオチド配列を表す。
配列番号38はプライマーSELA3807のヌクレオチド配列を表す。
配列番号39はプライマーSELA3766のヌクレオチド配列を表す。
配列番号40はプライマーSELA3769のヌクレオチド配列を表す。
配列番号41はプライマーSELA3857のヌクレオチド配列を表す。
配列番号42はプライマーSELA3860のヌクレオチド配列を表す。
配列番号43はプライマーSELA3861のヌクレオチド配列を表す。
配列番号44はプライマーSELA3864のヌクレオチド配列を表す。
【0037】
配列番号45は遺伝子発現解析に使用される正プライマーBvPRR7のヌクレオチド配列を表す。
配列番号46は遺伝子発現解析に使用される逆プライマーBvPRR7のヌクレオチド配列を表す。
配列番号47は遺伝子発現解析に使用される正プライマーBvlCDHのヌクレオチド配列を表す。
配列番号48は遺伝子発現解析に使用される逆プライマーBvlCDHのヌクレオチド配列を表す。
配列番号49はプライマーPRR7(T6)-Fのヌクレオチド配列を表す。
配列番号50はプライマーPRR7(T6)-Rのヌクレオチド配列を表す。
配列番号51はプローブPRR7(T6)-VICのヌクレオチド配列を表す。
【0038】
配列番号52はプローブPRR7(T6)-FAMのヌクレオチド配列を表す。
配列番号53は約1.3kbのそのプロモーター領域から成る一年生PRR7対立遺伝子下流のコード領域のヌクレオチド配列を表す。
配列番号54は約1.3kbのそのプロモーター領域及び約0.7kbのそのターミネーター領域を含むBvPRR7の一年生対立遺伝子のコード領域のヌクレオチド配列を表す。
配列番号55はプライマー1r22(T1)-Fのヌクレオチド配列を表す。
配列番号56はプライマー1r22(T1)-Rのヌクレオチド配列を表す。
配列番号57はプローブ1r22(T1)-VICのヌクレオチド配列を表す。
配列番号58はプローブ1r22(T1)-FAMのヌクレオチド配列を表す。
【0039】
定義
本明細書の範囲内で使用する技術用語と表現は一般に、下記に別記しない限り、植物分子生物学の関連分野においてそれらに一般に適用される意味を有するものである。
【0040】
本明細書及び添付の請求の範囲において使用する時、単数形の「a」、「an」及び「the」は、その意味が明白に別のものを表さない限り、複数形のものを包含する。例えば、「植物」への言及は1又は複数の植物を包含し、そして「細胞」への言及は細胞、組織等の混合物を包含する。
【0041】
「甜菜」とは、Beta属の中の種及び亜種並びにベータ・ブルガリス(Beta vulgaris)の栽培ビートの全ての種を指して言う。栽培ビートは次の4グループに分類される:葉ビート、ガーデンビート、飼料用(fodder)ビート、及び甜菜。「甜菜」は、砂糖、エタノール、プラスチック又は工業製品の生産以外の他の目的で栽培されるものを包含する全ての栽培ビートにも言及される。特に、「甜菜」は飼料用ビート及び甜菜、特に甜菜を指す。この用語はまた、熱帯又は亜熱帯地域での栽培に適合させた甜菜植物も含む。
【0042】
「一年生甜菜系列」とは、ヘテロ及びホモ接合状態でB遺伝子座に優性対立遺伝子Bを含有する甜菜植物を言う。
「二年生甜菜系列」とは、ホモ接合状態でB遺伝子座に劣性対立遺伝子bを含有する甜菜を言う。
「抽苔」とは、植物ロゼット段階から花茎形成(infloscense)又は生殖成長段階への転移を言う。
【0043】
本明細書中で用いる「遅延抽苔」又は「抽苔の遅延」とは、甜菜植物の自然な抽苔反応の調節と理解されるべきである。遅延抽苔を有する植物では、抽苔の最初の観察可能ステップとしての茎伸長が正常な植物より遅く始まる。抽苔反応は、僅か数日(即ち、例えば5、6、7、8、9、10、11、12、13もしくは14日間まで)、そして最長で数週間(即ち、1、2、3、4週間)まで又は数カ月(即ち、1、2、3、5、もしくは6カ月)まで遅らせることができる。抽苔の遅延はまた、抽苔応答の完全な抑制ももたらす;そのような植物は、春化後に抽苔しないので、非抽苔表現型を発現する。
【0044】
本明細書中で用いる「B遺伝子」とは、甜菜の一年生習性(早期抽苔)の判断に関与する遺伝子を言う。優性対立遺伝子Bを担持する植物は、春化から独立した様式で幼若性成長段階から生殖性成長段階に切り替わることができる、即ち、続いて、低温への事前暴露を伴わずに新芽の伸長に続いて開花を示す。
【0045】
「春化」とは、或る期間植物を冷却に暴露することにより、或る植物の開花誘導が促進される過程を言う。
【0046】
「対立遺伝子」とは、1つの遺伝子の又は同定可能な遺伝要素の任意種類の様々な形態に関連する種々の遺伝単位の別形態を言い、それは相同染色体中の同一遺伝子座にそれらが位置するために遺伝的形質で別形態である。二倍体細胞又は生物体では、特定の遺伝子(又はマーカー)の2つの対立遺伝子は、典型的には一対の相同染色体上の対応する遺伝子座を占有する。
【0047】
本明細書中に用いる「ハプロタイプ」という用語とは、一方の親から個別に遺伝した対立遺伝子の組を言う。よって、二倍体の個体には2種類のハプロタイプがある。「ハプロタイプ」という用語は、表現型形質(本発明との関連において、甜菜植物の一年生又は二年生の抽苔習性など)に関連する物理的に繋がりのある及び/又は繋がりのない遺伝子マーカー(例えば、配列多型)を言うためのより限定された意味に使用される。B遺伝子に関して、この遺伝子のハプロタイプもまた直接的表現型を与える。例えば、甜菜の一年生成長習性は、第II染色体における遺伝子座Bの優性対立遺伝子の存在によって引き起こされる。
【0048】
「遺伝子座」とは、本発明の範囲内では、遺伝子もしくは他の遺伝要素又は形質に起因する要素を含んで成る、染色体上の一領域を言う。
【0049】
本明細書中で使用する時、「遺伝マーカー」とは、1又は複数の着目の遺伝子座と関連する個々のゲノムの特徴(例えば個々のゲノム中に存在するヌクレオチド又はポリヌクレオチド配列)を言う。或る態様では、遺伝マーカーは状況に応じて着目の集団中の多型、又は多型により占められる遺伝子座である。遺伝マーカーとしては、例えば、一塩基多型(SNP)、インデル(即ち挿入/欠失)、単純配列反復(SSR)、制限断片長多型(RFLP)、ランダム増幅多型DNA(RAPDs)、切断増幅多型配列(CAPS)マーカー、多様性アレイ技術(DArT)マーカー、及び増幅断片長多型(AFLPs)が特に他の例の中でも挙げられる。遺伝マーカーは例えば、染色体上の表現型形質の発現に際して多様性に起因する対立遺伝子を含有する遺伝子座を局在化するのに使用することができる。「遺伝マーカー」という語句はゲノム配列、例えばプローブとして使用される核酸の配列に相補的なポリヌクレオチド配列も指すことができる。
【0050】
遺伝マーカーはそれに関連づけられる遺伝子座の内側又は外側にある(即ちそれぞれi遺伝子内又は遺伝子外である)染色体上の位置に物理的に局在化することができる。別の言い方では、着目の遺伝子座に相当する遺伝子の染色体上の位置が既に同定され、そして遺伝マーカーと着目の遺伝子座との組み換え率が非ゼロである場合に遺伝マーカーが使用される時、本明細書中に示される主題は、遺伝子座の境界の内側に物理的に存在する遺伝マーカー(即ち、或る遺伝子に相当するゲノム配列の内側に存在する遺伝マーカー、例えば遺伝子のイントロン又はエキソンの中の多型)を使用することができる。本明細書に開示される主題の一態様では、1又は複数の遺伝マーカーが1〜10のマーカーを含んで成り、また或る態様では1又は複数の遺伝マーカーが10以上の遺伝マーカーを含んで成る。
【0051】
本明細書中で用いる「表現型形質」という語句は、個体の外見又は別の検出可能な特徴を指し、それはそのゲノムと環境との相互関係から生じる。
「表現型」は、本発明の範囲内では、遺伝的に制御された形質の識別可能な1又は複数の特徴を指して言うと理解される。
【0052】
本明細書中で用いる「密接に連鎖した」又は「遺伝的に密接に連鎖した」という用語とは、B遺伝子に連鎖した甜菜ゲノムのゲノム領域との関連において、遺伝子座間の組み換えの割合(%)(センチモルガン、cM)によって計測された、同じ染色体上で近接している両者の位置に起因する、遺伝的形質におけるゲノム領域とB遺伝子の密接な関係を言うと理解される。本明細書中で使用する時、「連鎖した」という用語及び文法的なその変形とは、それらの伝播が独立している場合に偶然に予想されるよりもより高い頻度で一緒に分離される(同時分離)、同じ染色体上の異なる遺伝子座における対立遺伝子の傾向を言う。
【0053】
本明細書中で使用する時、「情報断片」という語句は、検出可能であり且つ着目の遺伝子座の決定及び/又は特徴づけに役立つことができる情報内容を有するポリヌクレオチド断片を言う。この情報内容は、他の例の中でも特に、前記着目の遺伝子座と関連づけられる多型、例えば、一ヌクレオチド置換(SNP)、インデル(即ち挿入/欠失)、単純配列反復(SSR)、制限断片長多型(RFLP)、ランダム増幅多型DNA(RAPD)、切断増幅多型配列(CAPS)マーカー、多様性アレイ技術(DArT)マーカー、及び増幅断片長多型(AFLP)により表され、それらは遺伝マーカーの開発に使用することができる。そのような「情報断片」の情報内容は、対応するプローブ分子により検出することができる特定配列により表されてもよい。そのような情報断片は、プライマー、マーカー又はその一部であり得る。そのような断片には、少なくとも10ヌクレオチド、好ましくは少なくとも15、20、25、30、50、又は100ヌクレオチドの長さがある。
【0054】
「マーカー補助選択」は、本発明の範囲内では、植物からの1又は複数の核酸を検出するための遺伝マーカーの使用を言い、ここで前記核酸は、それらの植物が選択的育種プログラムで使用することができる(又は回避することができる)ように、望ましい(又は望ましくない)形質の遺伝子を担持する植物を同定するための所望の形質と関連づけられると理解される。
【0055】
「PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)」は、本発明の範囲内では、DNAの比較的多量の特定領域を作製し、それによりそれらの領域に基づく様々な分析を可能にする方法を指して言うと理解される。
【0056】
「PCRプライマー」又は「プライマー」は、本発明の範囲内では、DNAの特定領域のPCR増幅に使用される単離された一本鎖DNAの短鎖断片を言うと理解される。それらを核酸ハイブリダイゼーションによって相補的な標的DNA鎖にアニールさせて、プライマーと標的DNA鎖の間にハイブリッドを形成させ、そして次に、DNAポリメラーゼなどのポリメラーゼによって標的DNA鎖に沿って伸長させる。プライマー対又は組は、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)又はその他の従来の核酸増幅法によって、核酸分子の増幅に使用できる。プライマーは、通常、10〜15ヌクレオチド以上の長さである。プライマーはまた、少なくとも20ヌクレオチド以上の長さ、少なくとも25ヌクレオチド以上の長さ、又は少なくとも30ヌクレオチド以上の長さであることもできる。そのようなプライマーは、高緊縮ハイブリダイゼーション条件下で標的配列に特異的にハイブリダイズする。本発明に係るプライマーは、標的配列と完全な配列相補性を有することもできる。本発明のプライマーの長さが本明細書中に指定された値の間の数値のいずれかであり得ることは理解されるべきである。よって、通常10〜15ヌクレオチド以上の長さのプライマーは、10、11、12、13、14、又は15ヌクレオチドの長さのプライマーを網羅するのに対して、「少なくとも20ヌクレオチド」という表現は、16、17、18、又は19ヌクレオチドの長さを有するプライマーを更に含んでいる。同じことが「少なくとも25ヌクレオチド以上」及び「少なくとも30ヌクレオチド以上の長さ」といった表現に当てはまる。
【0057】
本明細書中で用いる場合、「増幅した」という用語とは、核酸分子の複数の複製物の構築、又は鋳型として少なくとも1つの核酸分子を使用した相補的な核酸分子の複数の複製物の構築を意味する。増幅システムとしては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)システム、リガーゼ連鎖反応(LCR)システム、核酸配列ベースの増幅(NASBA、Cangene、Mississauga, Ontario)、Q-ベータ・レプリカーゼ・システム、転写ベースの増幅システム(TAS)、及び鎖置換増幅(SDA)が挙げられる。例えば、Diagnostic Molecular Microbiology: Principles and Applications, D. H. Persing et al., Ed., American Society for Microbiology, Washington, D.C. (1993)を参照のこと。増幅の成果物は増幅生成物と呼ばれる。
【0058】
「プローブ」は、例えば放射性同位体、リガンド、化学発光作用物質、蛍光標識もしくは酵素などの従来の検出可能な標識又はレポーター分子が取り付けられた、単離された核酸である。そのようなプローブは標的核酸の鎖に相補的である。本発明に係るプローブとしては、デオキシリボ核酸又はリボ核酸だけではなく、標的DNA配列に特異的に結合し、そして標的DNA配列の存在を検出するのに使用できるポリアミド及びその他のプローブ材料も挙げられる。
【0059】
プライマー及びプローブは、通常、10〜15ヌクレオチド以上の長さである。プライマー及びプローブはまた、少なくとも20ヌクレオチド以上の長さ、少なくとも25ヌクレオチド以上の長さ、又は少なくとも30ヌクレオチド以上の長さであることもできる。そのようなプライマー及びプローブは、高緊縮ハイブリダイゼーション条件下で標的配列に特異的にハイブリダイズする。標的配列と異なり、そして標的配列にハイブリダイズする能力を保有するプローブを従来の方法によってデザインすることもできるが、本発明に係るプライマー及びプローブは、標的配列と完全な配列相補性を有することもできる。本発明のプライマー及びプローブの長さが本明細書中に指定された値の間の数値のいずれかであり得ることは理解されるべきである。よって、通常10〜15ヌクレオチド以上の長さのプライマー及びプローブは、10、11、12、13、14、又は15ヌクレオチドの長さのプライマー及びプローブを網羅するのに対して、「少なくとも20ヌクレオチド」という表現は、16、17、18、又は19ヌクレオチドの長さを有するプライマー及びプローブを更に含んでいる。同じことが「少なくとも25ヌクレオチド以上」及び「少なくとも30ヌクレオチド以上の長さ」といった表現に当てはまる。
【0060】
「多型」は、本発明の範囲内では、遺伝子、遺伝マーカー又は遺伝形質の2以上の異なる形態の集団の存在を指して言うと理解される。
「単一ヌクレオチド多型」又は「SNP」は、本発明の範囲内では、ゲノム(又はその他の共有配列)内の単一ヌクレオチドが種の構成員の間で又は個体の対合染色体の間で異なる時に起こるDNA配列変化を言うと理解される。単一ヌクレオチドに相違を含んでいる別の個体からの2つの配列決定したDNA断片が、2つの対立遺伝子と呼ばれる。好ましくは、SNPには2つの対立遺伝子しかない。
【0061】
「ポリヌクレオチド」は、糖、リン酸及びプリン又はピリミジンのいずれかの塩基を含有する単量体(ヌクレオチド)から構成される、一本鎖又は二本鎖であることができる高分子量のポリマー分子を指すと理解される。「ポリヌクレオチド断片」は、特定のポリヌクレオチド分子の一部分である。高等植物では、デオキシリボ核酸(DNA)が遺伝物質であり、一方でDNAからタンパク質へと含まれる情報の輸送にはリボ核酸(RNA)が関与する。「ゲノム」は、生物体の各細胞中に含まれる遺伝物質の全体である。用語「ポリヌクレオチド」は、一本鎖又は二本鎖であることができ、場合によりDNA又はRNAポリマー中に組み込むことができる合成型、非天然型又は変形型ヌクレオチド塩基を含むことがある、DNA又はRNAのポリマーを指して言う。別記しない限り、本発明の特定の核酸配列は、それの保存的修飾変異体(例えば縮重コドン置換)及び相補的配列並びに指摘される配列明白性を包含する。具体的には、縮重コドン置換は、1又は複数の特定の(又は全ての)コドンの三番目の位置が混合塩基及び/又はデオキシイノシン残基により置換されている配列を作製することにより達成される(Batzer et al., 1991; Ohtsuka et al., 1985; Rossolini et al., 1994)。ポリヌクレオチドという用語は、核酸、ヌクレオチド配列と交換可能に使用され、遺伝子、遺伝子によりコードされるcDNA及びmRNAを包含しうる。
【0062】
「単離された」という用語は、本発明の核酸分子との関連において使用される時、それぞれの起源生物体内のその染色体核酸配列状態の中で同定され、そしてそこから単離/分離される核酸配列を指す。単離された核酸が、それが実際に天然に存在する相等物を有する場合には、それが生来の状態にあるような核酸ではない。対照的に、単離されていない核酸はDNAやRNAなどの核酸であり、それらはそれらが天然に存在している状態で見られる。例えば、所定のDNA配列(例えば、遺伝子)は、隣接する遺伝子に近接して宿主細胞染色体上に見られる。単離された核酸配列は、一本鎖の形態で存在していても二本鎖の形態で存在していてもよい。或いは、それは、センス鎖とアンチセンス鎖の両方を含んでいてもよい(即ち、核酸配列は二本鎖であってもよい)。植物ゲノムの状態で記載される場合には、本発明の核酸分子は、ゲノム中への挿入側及びその挿入部位の隣接配列により天然に存在する相等物から識別される。好ましい態様では、本発明の核酸分子が単離されるべきであることが理解される。
【0063】
本明細書中で使用する時「核酸」という語句は、ヌクレオチドのポリマー(例えば典型的なDNA又はRNAポリマー)、変更オリゴヌクレオチド(例えば生物学的RNA又はDNAに典型的でない塩基を含有するオリゴヌクレオチド、例えば2’−O−メチル化オリゴヌレオチド)等を含む、ヌクレオチドの鎖に相当する単量体単位の任意の物理的連鎖を指して言う。或る態様では、核酸は一本鎖、二本鎖、多重鎖、又はそれの組み合わせであることができる。別記しない限り、本明細書中で開示される主題の特定の核酸配列は、場合により指摘した任意の配列明白性に加えて、相補的配列を含んで成るか又はコードすることがある。
【0064】
用語「遺伝子」は、生物学的機能と関連づけられる核酸の任意断片を指して広範囲に用いられる。遺伝子はコード配列及び/又はそれの発現に必要な調節配列を包含する。例えば遺伝子は、mRNAもしくは機能的RNAを発現するか又は特定のタンパク質をコードし、そして調節配列を含む核酸断片を指して言う。遺伝子は、例えば別のタンパク質の認識配列を形成する未発現のDNAセグメントを含んでもよい。遺伝子は、着目の源からクローニングするか、又は既知のもしくは推定配列情報から合成することを含む、様々な減から得ることができ、そして所望のパラメーターを有するようにデザインされた配列を含んでもよい。
【0065】
本明細書中で用いる「発現カセット」は、終止シグナルに作用可能に連結された着目のヌクレオチド配列に作用可能に連結されたプロモーターを含んで成る、適当な宿主細胞において特定のヌクレオチド配列の発現を指示できる核酸分子を意味する。それはまた、ヌクレオチド配列の適切な翻訳に必要とされる配列も通常含んで成る。発現カセットはまた、配列に着目のヌクレオチド配列の直接発現に必須ではないが、発現ベクターからのカセットの除去のための簡便な制限部位のため存在しているものを含んで成ることもできる。着目のヌクレオチド配列を含んで成る発現カセットはキメラであってもよく、その成分の少なくとも1つがその他の成分の少なくとも1つに関して異種であることを意味する。発現カセットはまた、天然に存在するものであってもよいが、異種発現に有用な組み換え物の形態で得られた。しかしながら、通常、発現カセットは、宿主に関して異種である、即ち、発現カセットの特定の核酸配列は、宿主細胞において天然に生じないので、当該技術分野で知られている形質転換方法によって宿主細胞又は宿主細胞の祖先に導入されなければならなかった。発現カセット内のヌクレオチド配列の発現は、構成的プロモーター、又は宿主細胞が何らかの特定の外的刺激に晒された時だけ転写を開始する誘導プロモーターの調節下にあってもよい。植物などの多細胞生物の場合では、プロモーターはまた、特定の組織もしくは臓器、又は発生の段階に特異的であることもできる。発現カセット又はその断片は、植物に形質転換されると「挿入された配列」又は「挿入配列」と呼ばれることもある。
【0066】
遺伝子などの核酸配列に関して使用される場合、「発現」という用語は、遺伝子にコードされている遺伝情報を、その遺伝子の「転写」により(即ち、RNAポリメラーゼの酵素作用を介して)RNA(例えば、mRNA、rRNA、tRNA、又はsnRNA)に変換し、そしてmRNAの「翻訳」により、当てはまる場合に(遺伝子がタンパク質をコードしている時)タンパク質に変換する過程を言う。遺伝子発現は、過程の多くの段階で調節されることができる。
【0067】
用語「キメラ遺伝子」は、1) 生来には一緒に見つからない調節配列とコード配列を含むDNA配列、2) 生来には結合しないタンパク質の部分をコードする配列、又は3) 生来には結合しないプロモーターの部分、を含有する任意の遺伝子を指して言う。従って、キメラ遺伝子は、異なる起源に由来する調節配列とコード配列を含んで成るか、又は同一の起源に由来するが生来に見つかるものとは異なる方法で配列されている調節配列とコード配列を含んで成ることができる。
【0068】
「トランス遺伝子」は、形質転換によりゲノム中に導入されており安定に維持されている遺伝子を言う。トランス遺伝子は例えば、形質転換しようとする特定の植物の遺伝子に対して非相同又は相同のいずれかである遺伝子を包含する。従って、トランス遺伝子は非生来の生物中に挿入された生来の遺伝子、又はキメラ遺伝子を含んで成ることができる。
【0069】
「形質転換」は、異種核酸を宿主細胞又は生物体内に導入する過程である。特に、「形質転換」は、着目の生物体のゲノム内へのDNA分子の安定した統合を意味する。
「形質転換/トランスジェニック/組み換え体」とは、そこに異種核酸分子が導入された細菌又は植物などの宿主生物を言う。その核酸分子は宿主のゲノム内に安定して組み込まれるか、又はその核酸分子はまた、染色体外分子として存在することもできる。そのような染色体外分子は自己複製することができる。形質転換細胞、組織、又は植物は、形質転換過程の最終生成物だけではなく、そのトランスジェニック子孫も網羅することが理解される。「非形質転換」、「非トランスジェニック」、又は「非組み換え」宿主とは、野生型生物体、例えば異種核酸分子を含まない細菌又は植物を言う。本明細書中で用いる「トランスジェニック」とは、遺伝操作及び遺伝子挿入の周知の技術を介して着目の遺伝子を表す核酸の配列を、植物ゲノムに、そして通常、細胞核の染色体、ミトコンドリア又は他の細胞小器官の染色体に、天然の植物又は植物細胞内に通常存在しているのと異なる遺伝子座にて又はそれより多くのコピーで組み込まれた植物細胞、又は構造化もしくは非構造化植物細胞を言う。トランスジェニック植物は、そのような核酸配列の操作及び挿入に由来して、天然に存在する突然変異と対照的に、天然に存在しない植物又は天然に存在しない遺伝子型を有する植物を生じる。植物や植物細胞の形質転換のための技術は、当該技術分野で周知であり、例えばエレクトロポレーション、マイクロインジェクション、アグロバクテリウム媒介型形質転換、及びバリスティック(ballistic)形質転換を包含することもできる。
【0070】
用語「タンパク質」、「ペプチド」及び「ポリペプチド」は互いに交換可能に使用される。
「コード配列」は、特定のアミノ酸配列をコードし且つ非コード配列を除外するDNA又はRNA配列を指して言う。それは「中断されないコード配列」、即ち、例えばcDNA中のようなイントロンを欠き、例えばcDNAを構成することができ、又は適当なスプライス結合により結合された1又は複数のイントロンを包含することができる。「イントロン」は、一次転写物中に含まれるが細胞内のRNAの開裂及び再連結を通して除去されてタンパク質に翻訳することができる成熟mRNAを作製するRNAの配列である。
【0071】
「プロモーター」は、一般にコード配列の上流(5’)にあり、RNAポリメラーゼの認識又は正確な転写に必要な別の因子の認識を提供することによりコード配列の発現を制御するヌクレオチド配列を指して言う。「プロモーター」は、TATAボックス及び転写開始部位を特定するのに役立つ他の配列から成る短いDNA配列である最小プロモーターを包含し、それに発現の調節のための調節要素が付加される。「プロモーター」は、コード配列又は機能的RNAの発現を調節することができる調節要素と最小プロモーターを包含するヌクレオチド配列も指す。このタイプのプロモーター配列は、近位及びより遠位の上流要素から成り、後者の要素はしばしばエンハンサーと呼ばれる。従って、「エンハンサー」は、プロモーター活性を刺激することができ且つプロモーターの固有の要素又はプロモーターのレベルもしくは特異性を増強するために挿入された非相同の要素であってもよいDNA配列である。それは両方の配向(正常又は反転)で作用することができ、プロモーターから上流又は顆粒のいずれかに移動した時であっても機能することができる。エンハンサー及び別の上流プロモーター要素は共に、それらの効果を媒介する配列特異的DNA結合タンパク質を結合する。プロモーターは生来の遺伝子から完全な形で誘導されるか、又は生来に見つかる異なるプロモーターから誘導された異なる要素から構成されるか、又は合成DNAセグメントから構成されてもよい。プロモーターは、生理条件又は発達条件に応答した転写開始の効果を調節するタンパク質因子の結合に関与するDNA配列を含んでもよい。
【0072】
「開始部位」は、転写配列の一部である第一ヌクレオチド、これは+1位として定義される、の周囲の位置である。この部位に関して、遺伝子及びそれの調節領域の他の全ての配列が番号付けられる。下流配列(即ち、3’方向でタンパク質をコードする配列)は正に特徴づけられ、一方で上流配列(5’方向の調節領域の大部分)は負に特徴づけられる。
【0073】
不活性であるか又は上流の活性化の不在下で大幅に減少したプロモーター活性を有するプロモーター要素、特にTATA要素は、「最小又はコアプロモーター」と呼ばれる。適当な転写因子の存在下では、最小プロモーターは機能して転写を可能にする。「最小又はコアプロモーター」は、転写開始に必要な全ての基本的要素、例えばTATAボックス及び/又は転写開始因子からのみ成る。
【0074】
「構成的発現」は、構成的又は調節プロモーターを使った発現を言う。「条件的」及び「調節発現」は、調節プロモーターにより制御された発現を言う。
「構成プロモーター」は、植物の全ての又はほぼ全ての発達段階の間に植物組織の全て又はほぼ全てを調節する転写解読枠(ORF)を発現することができるプロモーターを指して言う。各々の転写活性化要素は絶対的な組織特異性を発現しないけれども、転写が最も活性である植物の部分で達成されるレベルの≧1%のレベルで大部分の植物部分において転写活性化を媒介する。
【0075】
「調節プロモーター」は、非構成的に、ただし一時的及び/又は空間的に調節された方法で、遺伝子発現を指令し、且つ組織特異的プロモーターと誘導性プロモーターの両方を包含するプロモーターを指して言う。それには天然及び合成配列、並びに合成配列と天然配列の組み合わせであることができる配列が含まれる。異なるプロモーターは、異なる組織又は細胞型の遺伝子の発現を指令することができ、又は発生の異なる段階で、又は異なる環境条件に応答して発現を指令することができる。植物細胞に有用な様々なタイプの新規プロモーターが常に開発されており、無数の実施例をOkamuroら(1989)による編集物中に見つけることができる。植物に有用な典型的な調節プロモーターはとしては、非限定的に、薬害軽減剤(safener)誘導性プロモーター、テトラサイクリン誘導性系由来のプロモーター、サリチル酸誘導性系由来のプロモーター、アルコール誘導性系由来のプロモーター、グルココルチコイド誘導性系由来のプロモーター、病原体誘導性系由来のプロモーター、及びエクジソン誘導性系由来のプロモーターが挙げられる。
【0076】
「組織特異的プロモーター」は、全ての植物細胞で発現されるのではなく特定の器官(例えば葉又は種子)、特定の組織(例えば胚及び子葉)又は特定の細胞型(例えば葉柔組織又は種子貯蔵細胞)の1又は複数の細胞型において発現される調節プロモーターを指して言う。それらは一時的に調節されるプロモーター、例えば早期又は後期胚形成において、種子又は果実の形成における果実熟成の間に、完全に分化された葉において、又は老化の開始時に調節されるプロモーターを包含する。
「誘導性プロモーター」は、外的刺激、例えば化学物質、光、ホルモン、ストレス又は病原体により1又は複数の細胞型上で作動することができる調節プロモーターを言う。
【0077】
「作用可能に連結された」とは、或るものの機能が他のものにより影響を受けるような単一の核酸断片への核酸配列の会合を言う。例えば、調節DNA配列は、その調節DNA配列がコード配列の発現に作用するように2つの配列が置かれるならば(即ち、コード配列又は機能的RNAがプロモーターの転写調節下に置かれるならば)、RNA又はポリペプチドをコードするDNA配列と「作用可能に連結された」又は「会合した」と言及される。コード配列はセンス方向又はアンチセンス方向で調節配列に作用可能に連結することができる。
【0078】
「発現」は、植物における内因性遺伝子、ORFもしくはそれの部分又はトランス遺伝子の転写及び/又は翻訳を言う。例えばアンチセンス構成物の場合、発現はアンチセンスDNAのみの転写のことを言うことができる。加えて、発現はセンス(mRNA)又は機能的RNAの転写及び安定な蓄積を指して言う。発現はタンパク質の生産を指して言うこともできる。
【0079】
「過剰発現」は、正常の又は未形質転換(非トランスジェニック)細胞又は生物体における発現レベルを超えるトランスジェニック細胞又は生物体における発現レベルを指して言う。
「アンチセンス阻害」は、内因性遺伝子又はトランス遺伝子からのタンパク質の発現を抑制することができるアンチセンスRNA転写物の産生を指して言う。
【0080】
「遺伝子サイレンシング」は、ウイルス遺伝子、トランス遺伝子又は内因性核遺伝子の相同性依存性抑制のことを言う。遺伝子サイレンシングは、抑制が作用を受けた遺伝子の転写の減少による場合には転写時、又は抑制が作用を受けた遺伝子に相同のRNA種の代謝回転(分解)の増加による場合には転写後であることができる。遺伝子サイレンシングはウイルス誘導遺伝子サイレンシングを包含する。
【0081】
「RNA干渉」(RNAi)は、低分子干渉RNA(siRNAs)によって介在される植物及び動物における配列特異的な転写後遺伝子サイレンシングの過程を言う。siRNA、標的RNA分子、ダイサー又はリボヌクレアーゼIII酵素などの様々な用語が当業者に知られている概念であり、これらの用語及びRNAiに関連する他の概念の完全な解説は参考文献に見ることができる。RNAiの機構を説明するいずれの特定の仮説も本発明を実施するのに必要でないことが理解される。
【0082】
「siRNAs」という用語は低分子干渉RNAを言う。いくつかの態様では、siRNAsは、約21〜23ヌクレオチドの長さの二本鎖又は二本鎖領域を含んで成る;siRNAsは、それぞれの鎖の3’末端に約2〜4個の不対ヌクレオチドを含むことが多い。siRNAの二本鎖又は二本鎖領域の少なくとも一方の鎖は、標的RNA分子に実質的に対して相同性であるか又は実質的に相補的である。標的RNA分子に対して相補的な鎖は「アンチセンス鎖」である;標的RNA分子に対して相同性な鎖は「センス鎖」であり、且つ、siRNAアンチセンス鎖に対して相補的である。siRNAsはまた、付加配列を含んでいてもよい;そのような配列の制限されることのない例としては、リンキング配列、又はループ並びにステム及び他の折り畳み構造が挙げられる。siRNAsは、無脊椎動物及び脊椎動物におけるRNA干渉を引き起こす際に、そして植物における転写後遺伝子サイレンシング中の配列特異的なRNA分解を引き起こす際に、主要な媒介物質として機能すると思われる。
【0083】
「dsRNA」又は「二本鎖RNA」は、2本の相補鎖を持つRNAであり、それがRNA干渉(RNAi)として知られている過程を通じたmRNAの配列特異的な分解に向かわせる。dsRNAは、特異的遺伝子の発現を妨げるsiRNAsに切断される。
【0084】
「標的RNA分子」という用語はsiRNA(又はdsRNA)の低分子二本鎖領域のうちの少なくとも一方の鎖がそれに相同性又は相補性であるRNA分子を言う。通常、そのような相同性又は相補性が少なくとも21ヌクレオチドの範囲にわたり約100%である時、siRNAが標的RNA分子をサイレンス化するか又はその発現を抑制することができる。処理済みのmRNAがsiRNAの標的であると考えられているが、本発明はいずれの特定の仮説にも制限されることなく、そしてそのような仮説は本発明を実施する際に必要ではない。よって、その他のRNA分子もまたsiRNAの標的になることができると企図される。そのようなRNA標的分子としては、未処理のmRNA、リボソームRNA、及びウイルスRNAゲノムが挙げられる。dsRNAの全長にわたって標的RNA分子とdsRNAの間に100%の相同性がある必要はないが、dsRNAのヘアピンは、標的RNA分子の間に少なくとも95%、好ましくは100%の相同性を有する、少なくとも21ヌクレオチド、好ましくは少なくとも23ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも50ヌクレオチド、よりいっそう好ましくは少なくとも500ヌクレオチド、最も好ましくは少なくとも700ヌクレオチド、そして最長で1000ヌクレオチドの範囲を含んでいる。
【0085】
本明細書中で使用する用語「ハイブリダイズする」は、通常のハイブリダイゼーション条件、好ましくは5×SSPE、1%SDS、1×デンハーツ溶液を溶液として使用しそして/又はハイブリダイゼーション温度が35℃から70℃、好ましくは65℃であるハイブリダイゼーション条件のことを言う。ハイブリダイゼーション後、35℃から75℃、特に45℃から65℃、特に59℃で、まず2×SSC、1%SDSで洗浄を行い、続いて0.2×SSCで洗浄を行う(SSPE,SSC及びデンハーツ溶液の定義に関してはSambrook et al.、前掲を参照のこと)。例えばSambrook et al.、前掲に記載されたような高緊縮条件が特に好ましい。特に好ましい緊縮ハイブリダイゼーション条件は、例えばハイブリダイゼーションと洗浄を上述したように65℃で行う場合に存在する。非緊縮ハイブリダイゼーション条件は、例えばハイブリダイゼーションと洗浄を45℃以下で、更に35℃以下で行う。
【0086】
「配列相同性又は配列同一性」は互いに交換可能に使用される。2以上の核酸又はタンパク質配列の中の用語「同一」又は「同一性」%は、下記の配列比較演算法の1つ又は視覚検査を使って測定した時に、最大の一致について比較し整列した時に、同一であるか、又は同一であるアミノ酸残基又はヌクレオチドの特定の割合を有する2以上の配列又は部分配列を言う。互いに比較することになっている2つの配列が長さの点で異なる場合、配列同一性は、好ましくは長い方の配列のヌクレオチド残基と同一である短い方のヌクレオチド残基を言う。配列同一性は、Bestfitプログラム(Wisconsin Sequence Analysis Package, Unix(登録商標)用の第8版,Genetics Computer Group, University Research Park, 575 Science Drive Madison, WI 53711)のようなコンピュータープログラムを使って便利に決定することができる。Bestfitは、2つの配列間の最大配列同一性を有するセグメントを見つけるために、Smith and Waterman, Advances in Applied Mathematics 2 (1981), 482-489の局所相同性演算法を使用する。Bestfit又は他の配列整列プログラムを使って、特定の配列が本発明の参照配列と例えば95%同一性を有するかどうかを決定する場合、参照配列の全長に渡って同一性の割合を計算し、そして参照配列中のヌクレオチドの総数の5%までの相同性ギャップを許容するようにパラメーターが調整される。Bestfitを使用する場合、いわゆる任意パラメーターは好ましくはそれらのプリセット(「デフォルト」)値である。与えられた配列と上述した本発明の配列との比較において出現する偏差は、例えば付加、削除、置換又は組み換えにより生じることができる。そのような配列比較は、好ましくはプログラム「fasta20u66」(バージョン2.0u66, 1998年9月,William R. Pearson 及びthe University of Virginiaによる;Pearson, 1990、添付の実施例及びhttp://workbench.sdsc.edu/も参照のこと)を使って実施することもできる。この目的には、「デフォルト」パラメーター設定が使用される。
【0087】
2つの核酸配列が「実質的に同一」である別の指標は、2つの分子が緊縮条件下で互いにハイブリダイズすることである。分節「特異的にハイブリダイズする」とは、2つの配列が混成混合物(例えば全細胞)DNA又はRNAである時に、緊縮条件下で特定のヌクレオチド配列にのみ分子が結合、二本鎖形成又はハイブリダイズすることを言う。「実質的に結合する」とは、プローブ核酸と標的核酸との相補的ハイブリダイゼーションを言い、ハイブリダイゼーション培地の緊縮性を低下させて標的核酸配列の所望の検出を達成することにより適合させることができる僅かな不正対合を容認する。
【0088】
核酸ハイブリダイゼーション実験、例えばサザン及びノーザンハイブリダイゼーションの場合の「緊縮条件」、「緊縮ハイブリダイゼーション条件」又は「緊縮ハイブリダイゼーション洗浄条件」には、プローブが他の配列に比べて、検出可能なほど高い程度で標的配列にハイブリダイズする条件の基準が含まれる。緊縮条件は、標的配列依存性であり、異なる環境パラメーターの下で異なり、そしてポリヌクレオチドの構造によって異なるであろう。長い配列は特に高温でハイブリダイズする。核酸のハイブリダイゼーションについての詳しいガイドは、Tijssen P., 1993 Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology-Hybridization with Nucleic Acid Probes, Part I, Chapter 2 "Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid probe assays" Elsevier, New York;及びCurrent Protocols in Molecular Biology, Chapter 2, Ausubel et al., Eds., Greene Publishing and Wiley-lnterscience: New York (1995)、そしてまたSambrook et al. (2001) Molecular Cloning: A Laboratory Manual (5th Ed. Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY)中に見られる。
【0089】
通常、選択性はハイブリダイゼーション後の洗浄の働きであり、重要な要因は最終的な洗浄溶液のイオン強度と温度である。一般に、高度に緊縮なハイブリダイゼーション及び洗浄条件は、限定されたイオン強度及びpHで特定配列についての熱融点(Tm)よりも約5℃低いように選択される。典型的には、「緊縮条件」下では、プローブはそれの標的配列にハイブリダイズするが別の配列には全くハイブリダイズしないだろう。
【0090】
Tmは、標的配列の50%が完全に一致したプローブにハイブリダイズする温度(限定されたイオン強度及びpHで)である。非常に緊縮な条件は、特定のプローブのTmに等しいように選択される。サザン又はノーザンブロットのフィルター上に100以上の相補的核酸を有する相補的核酸のハイブリダイゼーションの緊縮条件の例は、42℃で1mgのヘパリンを含む50%ホルムアミドであり、ハイブリダイゼーションは一晩実施される。
しばしば、高緊縮性洗浄は、バックグラウンドプローブシグナルを除去するための低緊縮性洗浄の後に行われる。高緊縮性洗浄条件の例は、65°Cにて15分間の0.2×SSCでの洗浄であるが(SSC緩衝液の記載についてはSambrook、前掲を参照のこと)、それに対して超高緊縮性洗浄条件の例は、0.15MのNaCl、72°Cで約15分間である。例えば100ヌクレオチド以上の二本鎖についての中緊縮性洗浄の例は、1×SSCで45℃にて15分間である。例えば100ヌクレオチド以上の二本鎖についての低緊縮性洗浄の例は、4〜6×SSCで40℃にて15分間である。短いプローブ(例えば約10〜50ヌクレオチド)には、緊縮条件は典型的には、1.0M Naイオン未満の塩濃度、典型的には0.01〜1.0M Naイオン濃度(又は他の塩)でpH 7.0〜8.3であり、温度は典型的には少なくとも約30℃である。緊縮条件は、ホルムアミドのような不安定化剤の添加により達成することもできる。一般に、特定のハイブリダイゼーションアッセイにおいて無関係のプローブについて観察されたものよりも2×(又はそれ以上)のシグナル対ノイズ比は、特異的ハイブリダイゼーションの検出を示す。緊縮条件下で互いにハイブリダイズしない核酸は、それらがコードするタンパク質が実質的に同一であるならばまだ実質的に同一である。これは、例えば、遺伝暗号により許容される最大コドン縮重を使って1コピーの核酸が作製された時に起こる。
【0091】
以下の条件は、本発明の基準ヌクレオチド配列と実質的に同一であるヌクレオチド配列をハイブリダイズするのに使用することもできるハイブリダイゼーション/洗浄条件の代表的なセットである:基準ヌクレオチド配列はその基準ヌクレオチド配列に、好ましくは50℃にて7%のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、0.5MのNaPO4、1mMのEDTA中でハイブリダイズし、50℃にて2×SSC、0.1%のSDS中での洗浄を伴う、より好ましくは、50℃にて7%のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、0.5MのNaPO4、1mMのEDTA中でハイブリダイズし、50℃にて1×SSC、0.1%のSDS中での洗浄を伴う、更により望ましくは50℃にて7%のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、0.5M NaPO4、1mMのEDTA中でハイブリダイズし、50℃にて0.5×SSC、0.1%のSDS中での洗浄を伴う、好ましくは50℃にて7%のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、0.5M NaPO4、1mMのEDTA中でハイブリダイズし、50℃にて0.1×SSC、0.1%のSDS中での洗浄を伴う、より好ましく50℃にて7%のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、0.5M NaPO4、1mMのEDTA中でハイブリダイズし、65℃にて0.1×SSC、0.1%のSDS中での洗浄を伴う。本発明の配列は全ての上記条件を用いて検出されうる。本発明を特徴付けるために、高緊縮条件が用いられる。
【0092】
「植物」は、任意の発育段階の任意植物であり、特に種子植物である。
「植物細胞」は、プロトプラスト及び細胞壁を含んで成る、構造的及び生理学的単位である。植物細胞は単離された単細胞又は培養された細胞の形であることができ、又は例えば植物組織、植物期間又は完全植物のような高度に組織化された単位の一部としてであることができる。
【0093】
「植物細胞培養物」は、例えば、任意の発育段階のプロトプラスト、細胞培養細胞、植物組織中の細胞、花粉、花粉管、胚珠、胚嚢、接合体及び胚のような植物単位の培養物である。
「植物材料」は、葉、茎、根、花もしくは花部分、果実、花粉、卵細胞、接合体、種子、挿し木、細胞もしくは組織培養物、又は植物の他の任意部分もしくは生成物を言う。これにはまた、カルス又はカルス組織、並びに抽出物(主根からの抽出物など)又はサンプルも含まれる。
【0094】
「植物器官」は、植物の別々の且つ視覚的に構造化され分化した部分、例えば根、茎、葉、つぼみ又は胚である。本明細書中で使用する「植物組織」は、構造的及び機能的単位に組織化された植物細胞の群を意味する。植物体又は培養中の植物の任意組織も含まれる。この用語としては、非限定的に、完全植物、植物器官、植物種子、組織培養物並びに構造的及び/又は機能的単位に組織化された植物細胞の任意群が挙げられる。上記に挙げた植物組織の任意の特定タイプと一緒の又は不在下でのこの用語の使用は、植物組織の任意の他のタイプを排除するものではない。
【0095】
本明細書中で使用する時、「育種」という用語及びそれの文法上の同義語は、子孫個体を生成する任意過程を言う。育種は有性もしくは無性、又はそれの任意組み合わせであることができる。育種の典型的な非限定の種類としては、交配、自殖、倍加したハプロイド誘導体生成、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
「選択的育種」とは、本発明の範囲内では、親として望ましい形質を所有又は提示する植物を使用する育種プログラムを指して言うと理解される。
【0096】
本明細書中で用いる「発酵」は、微生物を使用して有機分子を別の分子に変換する過程を言う。例えば「発酵」は、本発明の植物材料などの植物材料からの糖又は他の分子の好気性変換、アルコール(例えば、エタノール、メタノール、ブタノール);有機酸(例えば、クエン酸、酢酸、イタコン酸、乳酸、グルコン酸);ケトン(例えば、アセトン)、アミノ酸(例えば、グルタミン酸);気体(例えば、H2とCO2)、抗生物質(例えば、ペニシリンとテトラサイクリン);酵素;ビタミン(例えば、リボフラビン、B12、β-カロテン);及び/又はホルモンの製造を言う。発酵には、消耗品アルコール工業(例えば、ビールとワイン)に使用される発酵が含まれる。発酵にはまた、例えば、バイオ燃料の生産のための嫌気性発酵も含まれる。発酵は、これだけに限定されるものではないが、細菌、真菌、古細菌、及び原生生物を含めた、所望の発酵ステップにおける使用に好適な任意の生物体によって達成できる。好適な発酵生物体には、単糖、二糖、及び三糖、特にグルコースとマルトース、又はその他のバイオマス由来分子を、直接的又は間接的に所望の発酵生成物(例えば、エタノール、ブタノールなど)に変換できるものが含まれる。好適な発酵生物体にはまた、非糖分子を所望の発酵生成物に変換するものも含まれる。そのような生物体と発酵方法が当業者に知られている。
【0097】
本明細書中で用いる「バイオ燃料」という用語は、植物材料の好気性又は嫌気性発酵によって生じる任意のバイオ燃料を言う。好気性発酵によって得られたバイオ燃料の制限されることのない例は、バイオエタノールである。嫌気性発酵によって得られるバイオ燃料としては、これだけに限定されるものではないが、バイオガス及び/又はバイオディーゼルが挙げられる。好気性及び/又は嫌気性発酵の方法は当業者に知られている。
【0098】
詳細な説明
本発明は、遅延抽苔の表現型を有するトランスジェニック甜菜植物を開示する。
栽培される甜菜(Beta vulgaris ssp. vulgaris L.)は、一年目に貯蔵根と葉ロゼットを形成する二年生植物である。新芽の伸長(抽苔)及び花形成が低温期間の後に開始するのに対して、多くのB. vulgaris ssp. maritima属の野生型ビートは、B遺伝子座における抽苔遺伝子Bの存在のために一年生的な成長習性に示す。抽苔遺伝子(B遺伝子)は甜菜における一年生的な習性の測定に関与する。ビート種の年生(annuality)は一遺伝子性であり、且つ、優性特徴であると考えられる。抽苔とその後の開花が起こるのに春化を必要とするb対立遺伝子を担持する二年生植物とは逆に、優位B対立遺伝子を担持する植物は春化から独立した様式で幼若性成長段階から生殖性成長段階に切り換えることができる。遺伝子座Bの優性対立遺伝子は野生型ビートで豊富であり、劣性対立遺伝子を担持している二年生栽培種に通常必須である寒冷要件がなくても長期間にわたり抽苔を引き起こす(Abe et al., 1997)。B遺伝子が甜菜の春化反応において重要な物質であることは知られていたが、その遺伝子それ自体は今まで同定されていなかった。
【0099】
本発明者は、甜菜における推定抽苔制御遺伝子の同定及び特徴づけのための候補となる遺伝子アプローチをここで使用した。このアプローチでは、受入番号CV301305を有するEST配列を、BLASTを使った相同性検索を用いてPRR7の推定ビート相同体として同定した(実施例1.1を参照のこと)。対応するアミノ酸配列は、どれも概日時計で重要な役割を担っているPRR遺伝子ファミリーの顕著な特徴である(Nakamichi et al., 2005)Pseudo Response Regulator receiver(PRR、pfam00072)又はSignal Receiver(REC、cd00156)ドメインの部分的な存在を示す(図1)。図2は、CV301305のアミノ酸配列とそれの最も近いアラビドプシス相同体であるPRR7との整列を示す。アラビドプシスにおいて当初説明されていたPSEUDO RESPONSE REGULATOR 7(PRR7)遺伝子は、どれもが2つの特徴的なシグネチャー:応答制御因子レシーバー(REC)とCCTドメイン、を含む偽応答制御因子遺伝子ファミリー(PRR1もしくはTOC1、PRR3、PRR5、PRR7又はPRR9)の構成員である。PRRファミリー構成員の転写レベルは概日様式で振動し、それらのタンパク質が概日時計に密接に関連することを示唆している。実際に、PRR7は温度感受性概日系の一成分としてアラビドプシスにおいて説明されている(Nakamichi et al., 2007;Salome and McClung 2005)。植物において、概日時計は、葉の運動、光合成活性の日変化、及び開花期の光周期制御を含めた多くの基本的な生物学的過程の調整に関与する(Imaizumi and Kay, 2006;Zhou et al., 2007)。最近、PRR7相同体が、大麦、小麦、及び米において同定及び特徴づけされ(HvPPD、TaPPD、及びOsPRR37)、穀類における光周応答の主要決定因子であることが示された。
【0100】
本発明の一観点では、BvPRR7のいくつかの一年生対立遺伝子及び二年生対立遺伝子の配列、好ましくは配列番号1、4、5、6、7、8、9、10、53、又は54に与えられる配列がこうして提供され、上記配列はB遺伝子と機能的に同等なタンパク質をコードする。
【0101】
EST配列に基づいて、約0.5KBの部分的なビートPRR7断片を増幅され、そして配列決定した(実施例1.1を参照のこと)。160位の1つのSNPについて多型の一年生系列と二年生系列の間の交配から誘導された198の個体から成るF2集団を使用したマッピングは、BvPRR7が春化独立性開花のためのB遺伝子を含むことが知られている(Mohring et al., 2004;Gaafar et al., 2005)GJ131マーカーの約1cM下流の距離の染色体IIにマッピングされることを示した。マーカーアッセイの結果は、B遺伝子の推定遺伝子型とBvPRR7遺伝子の遺伝子型との完全な一致を示す(実施例1.1を参照のこと)。更なるマッピング分析、即ち、温度感受性概日リズムに関連する生物学的機能(Salome and McClung, 2005)と組み合わせたそのマップ位置、の結果は、BvPRR7がB遺伝子の有力な候補であることを示した(実施例1.1)。
【0102】
次のステップでは、甜菜PRR7遺伝子の全長ゲノム配列を回収するために当業者に周知の標準的なPCR技術を使用してBACライブラリーをスクリーニングした(実施例1.2を参照のこと)。使用されるBACライブラリーは、市販の二年生甜菜栽培種H20からのDNAを使って確立されたBACライブラリーであった。100〜400 kbのサイズの部分的に(HindIII)消化されたHMW DNA断片を、2回サイズ選別した。該DNA断片をベクターpBeloBAC-Kan中に連結せしめた。該ライブラリーは、甜菜ゲノムの8×包含に相当する、約120 kbの平均挿入断片サイズを有する57,600クローンを含有する。単一コピープローブを使ってスクリーニングすることにより冗長量を試験し、ミトコンドリア及びプラスミドDNAからのクローンの頻度が1%より低いと推定された。断片BvPRR7についてのDNAプールのその後のスクリーニングは、各々の断片を担持しているBACクローンの正の同定をもたらした。
【0103】
BvPRR7遺伝子の全長配列を得るために、以前に同定されたBACクローン(BAC SBA079-L24)を、標準配列決定技術を使って配列決定する。両方ともEST CV301305と配列相同性を共有する2つの非重複コンティグを1つの単一配列(配列番号8)に結合することができる。EST CV301305へのBAC配列の整列及びアラビドプシスからのPRR7遺伝子への配列相同性に基づいて、イントロンとエキソンを含んで成る甜菜BvPRR7遺伝子の推定遺伝子構造を図5に示すように推定することができる。この推定をもとに、ゲノム配列はATG終止コドンの上流の3.6 Kb配列とコード領域の下流の2.2 Kbを有する完全なBvPRR7に及ぶことを示すことができる。BvPRR7の対応するアミノ酸配列は配列番号11に示される。BvPRR7とTOC1(PRR1),PRR3,PRR5,PRR7及びPRR9を含むアラビドプシス由来のPRR遺伝子ファミリーとのアミノ酸配列の比較は、NH2末端の近くのPRR(Pseudo Response Regulator Receiver)ドメイン及びCOOH末端のところのCCTモチーフ(pfam06203)の強力な保存を表す(図6)。下流のアラビドプシスからのPRR遺伝子ファミリーに加えて、図7に示される系統樹により描写されるように、BvPRR7は穀類のPRR7相同体に対しても強い相同性を示す。Ppdとしてよく知られている穀類のPRR7相同体は、光周期反応の主な決定基を表すことが示されている(Turner et al, 2005;Beales et al, 2007)。甜菜のような春化反応における機能はまだ明らかにされなかった。
【0104】
調節タンパク質に代表的な保存領域の存在により示唆されるような既知の開花時調節遺伝子又はそれらの推定調節機能に対する相同性に基づいて、B遺伝子の可能な候補としての遺伝子はほとんど同定することができない。それらの遺伝子は、一年生遺伝子型と二年生遺伝子型との間の対立遺伝子可変性及び/又は遺伝子発現研究による、又はトランスジェニックアプローチを使った補足又はノックアウト実験による、更なる検証を必要とする。
【0105】
B遺伝子により付与される一年生植物習性は、単一の優性形質として振る舞い;従って二年生植物における春化の必要条件が劣性である。BvPRR7の一年生対立遺伝子から二年生遺伝子型への形質転換は、一年生の開花性質から二年生受容遺伝子型へ供与すると推定される。この仮説を確かめるために、一年生プロモーター及びターミネーターの調節下のBvPRR7の一年生対立遺伝子のコード配列を、二年生遺伝子型、例えばG018に形質転換する(実施例2を参照のこと)。形質転換は、外植片として甜菜分裂組織をそして選択マーカーとしてホスホマンノースイソメラーゼ(PMI)を使ってChangら、2002により開示されたような当業界で既知の方法により達成することができる。トランスジェニック新芽を選択マーカー、例えばPMI活性(Joersbo et al., 1998)の発現について確認し、続いて植え付け、土壌中に植え、温室に移動する。負の対照は、同じ試験管内再生手順であるがアグロバクテリウム感染及び選択を行わない非トランスジェニック新芽から成る。植物を温室中で18℃の低温で17時間の採光と7時間の遮光の光周期において生育させる。それらの条件下(低温を適用することによる抽苔誘導なし)では、非トランスジェニック二年生対照は最長12週間の観察期間の間、何ら抽苔の兆候を示さず、一方で一年生対照植物は通常6〜8週間以内に抽苔を開始する。非トランスジェニック二年生対照植物とは異なり、相当な数のトランスジェニック現象は4〜10週間の間に抽苔を開始し、それらの二年生遺伝子バックグラウンドにも関わらず、実質的に一年生植物として振る舞う。抽苔を開始しそして開花したトランスジェニック植物を、二年生維持系列と交差受粉せしめ、子孫を作製する。子孫植物をPMI活性について試験し、続いて春化なしでの抽苔及び開花についてモニタリングする。これらの子孫植物は1対1の分離比を示し、PMI活性と一年生形質との間に完全な相関関係を示す。それらのデータは、甜菜における原因となるBvPRR7と春化独立性開花との間の関係を証明する。
【0106】
本発明者は、BvPRR7が甜菜の春化反応において重要な役割を果たし、よって春化応答を抑制することにより甜菜植物の抽苔反応を操作するために使用することができることを更に見出した。本発明の一観点では、これにより、BvPRR7遺伝子を、甜菜ゲノム内に安定して組み込まれた上述したポリヌクレオチドを含んで成るトランスジェニック甜菜植物を作製するためのトランスジェニックアプローチに使用することもできる。特に、ゲノムからの発現により、B遺伝子の発現を抑制するか又はダウンレギュレーションすることによって甜菜植物の春化反応を調節するのにその発現生成物を使用できる。
【0107】
着目のDNA配列は、植物で機能する調節要素の調節下でトランスジェニック植物において発現される核酸配列を含むキメラ構成物へと集成される。そのようなキメラ構成物を集成する方法は当業者に周知である。
適当な植物組織において十分なレベルのトランス遺伝子発現を得ることは、遺伝子操作された植物の生産において重要な点である。植物宿主中での異種DNA配列の発現は、該植物宿主中で機能的である作用可能に連結されたプロモーターの存在に依存する。プロモーター配列の選択は、生物体中で異種DNA配列が発現される時及び場所を決定するだろう。
【0108】
例えば、再生植物の全ての組織中の遺伝子の直接発現を指令するであろう植物プロモーター断片を使用することができる。そのようなプロモーターは、「構成的」プロモーターと呼ばれ、大部分の環境条件及び発達段階又は細胞分化段階の下で活性である。構成的プロモーターの例としては、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35S転写開始領域、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciense)のT-DNAに由来する1’−又は2’−プロモーター、及び当業者に既知である様々な植物遺伝子からの他の転写開始領域が挙げられる。そのような遺伝子としては、例えば、AP2遺伝子、アラビドプシス(Arabidopsis)からのACT11(Huang et al., Plant Mol. Biol. 33:125-139 (1996))、アラビドプシスからのCat3(GenBank No. U43147;Zhong et al., Mol. Gen. Genet. 251:196-203 (1996))、ブラッサ・ナプス(Brassa napus)からのステアロイル−アシル担体タンパク質デサチュラーゼをコードする遺伝子(GenBank No. X74782;Solocombe et al., Plant Physiol. 104:1167-1176 (1994))、トウモロコシからのGPc1(GenBank No. X15596;Martinez et al., J. Mol. Biol. 208:551-565 (1989))及びトウモロコシからのGpc2(GenBank No. U45855;Manjunath et al., Plant Mol. Biol 33:97-112 (1997))が挙げられる。
【0109】
或いは、植物プロモーターは、特定の組織中で本発明の核酸分子の発現を直接指令するか、又は他の方法でより正確な環境的もしくは発生的調節のもとにあることができる。誘導性プロモーターによる転写に影響を及ぼすこともある環境条件の例としては、嫌気条件、高温、又は光の存在が挙げられる。そのようなプロモーターは「誘導性」又は「組織特異的」プロモーターと呼ばれる。当業者は、組織特異的プロモーターが作用可能に連結された配列の発現を指令することができることを認識するだろう。よって、本明細書中で使用する時、組織特異的プロモーターは、標的組織中で優先的に発現を指令するものであるが、他の組織においても同様に何らかの発現をもたらしてもよい。
【0110】
発生的調節の下のプロモーターの例としては、或る組織、例えば果実、種子又は花においてのみに(又は最初はそれのみに)転写を開始するプロモーターが挙げられる。胚珠、花又は種子における核酸の発現を指令するプロモーターは、特に本発明に置いて有用である。本明細書中で使用する時、種子特異的又は優先的プロモーターは、種子組織において特異的に又は優先的に発現を指令するものであり、そのようなプロモーターは例えば、胚珠特異的、胚特異的、内胚乳特異的、インテグメント特異的、種子皮特異的、又はそれらの組み合わせにおいて特異的に又は優先的に発現を指令するものであることができる。例としてはReiser et al., Cell 83:735-742 (1995)中に記載された胚珠特異的BEL1遺伝子(GenBank No. U39944)からのプロモーターが挙げられる。他の適当な種子特異的プロモーターは、次の遺伝子から誘導される:トウモロコシからのMAC1(Sheridan et al., Genetics 142:1009-1020 (1996))、トウモロコシからのCat3(GenBank No. L05934;Abler et al., Plant Mol. Biol. 22:10131-10138 (1993))、トウモロコシからのオレオシン18 kDをコードする遺伝子(GenBank No. J05212;Lee et al., Plant Mol. Biol. 26:1981-1987 (1994))、アラビドプシスからのvivparous-1(GenBank U93214)、アラビドプシスからのオレオシンをコードする遺伝子(GenBank No. Z17657)、アラビドプシスからのAtmycl(Urao et al., Plant Mol. Biol. 32:571-576 (1996))、アラビドプシスからの2s種子貯蔵タンパ質遺伝子ファミリー(Conceicao et al., Plant 5:493-505 (1994))、ブラッサ・ナプスからのオレオシン20 kDをコードする遺伝子(GenBangk No. M63985)、ブラッサ・ナプスからのnapA(GenBank No. J02798;Josefsson et al., JBL 26:1296-1301 (1987))、ブラッサ・ナプスからのナピン遺伝子ファミリー(Sjodahl et al., Planta 197:264-271 (1995))、ブラッサ・ナプスからの2S貯蔵タンパク質をコードする遺伝子(Dasgupta et al., Gene 133:301-302 (1993))、大豆からのオレオシンAをコードする遺伝子(GenBank No. U09118)及びオレオシンBをコードする遺伝子(GenBank No. U09119)、並びに大豆からの低分子量高イオウ含量タンパク質をコードする遺伝子(Choi et al., Mol. Gen. Genet. 246:266-268 (1995))。
【0111】
或いは、プロモーターに望ましい発現特徴を提供する特定の配列、又は発現増強活性を有するプロモーターを同定することができ、変異を介してそれら及び類似の配列を配列中に導入することができる。特定の種におけるトランス遺伝子の発現を増強するためにそれらの配列を突然変異誘発することができることも更に理解される。
【0112】
更に、複数のプロモーターからの要素を組み合わせたプロモーターを使用できることも考えられる。例えば、米国特許第5,491,288号明細書は、カリフラワーモザイクウイルスプロモーター(CaMV)をヒストンプロモーターと組み合わせることを開示している。よって、本明細書中に開示されるプロモーターからの要素は、別のプロモーターからの要素と組み合わせることができる。
【0113】
様々な5’及び3’転写調節配列が本発明での使用に利用可能である。転写ターミネーターは、転写の開始を担い、そしてmRNAポリアデニル化を修正する。3’非翻訳調節DNA配列は、好ましくは約50〜約1,000、より好ましくは約100〜約1,000ヌクレオチド塩基対を含み、植物転写及び翻訳終止配列を含有する。適当な転写ターミネーター、及び植物中で機能することが知られているものとしては、CaMV 35Sターミネーター、tmlターミネーター、ノパリンシンターゼターミネーター、エンドウ豆rbcS E9ターミネーター、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefacience)のオクトピン合成遺伝子からのT7転写物のターミネーター、及びジャガイモ又はトマトからのプロテアーゼ阻害剤I又はII遺伝子の3’末端が挙げられるが、当業者に既知の他の3’要素も使用することができる。或いは、γコイキン、オレオシン3又はCoix属からの他のターミネーターを使用することもできる。
【0114】
好ましい3’要素としては、アグロバクテリウム・ツメファシエンスのノパリンシンターゼ遺伝子からのもの(Bevan et al., 1983)、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(のオクトピンシンターゼ遺伝子からのT7転写物のターミネーター、及びジャガイモ又はトマトからのプロテアーゼ阻害剤I又はII遺伝子の3’末端が挙げられる。
【0115】
転写開始部位とコード配列の開始点の間のDNA配列、即ち翻訳のリーダー配列は、遺伝子発現に影響を及ぼし得るので、特定のリーダー配列を使用することが望ましい場合もある。好ましいリーダー配列は、結合した遺伝子の最適な発現を指令すると予想される配列を含むもの、即ちmRNA安定性を増加又は維持し且つ翻訳の不適切な開始を防止することができる好ましい共通リーダー配列を含むものである。そのような配列の選択は本発明の開示に照らして当業者に既知であろう。植物中で高度に発現される遺伝子から誘導される配列が最も好ましいだろう。
【0116】
トランスジェニック植物における遺伝子発現を強化することがわかっている他の配列としては、イントロン配列(例えばAdh1, bronze1, actin1, actin2 (WO 00/760067)又はショ糖シンターゼイントロン)、及びウイルスリーダー配列(例えばTMV, MCMV及びAMV)が挙げられる。例えば、多数のウイルス由来の非翻訳リーダー配列が発現を増強することが知られている。具体的には、タバコモザイクウイルス(TMV)、トウモロコシChlorotic Mottleウイルス(MCMV)及びアルファルファモザイクウイルス(AMV)からのリーダー配列が発現を増強するのに効果的であることが知られている(例えばGalle et al., 1987;Skuzeski et al., 1990)。当業界で既知の別のリーダー配列としては非限定的に、ピコルナウイルスリーダー、例えばEMCVリーダー(エンセファロミオカルジティス5’非コード領域)(Elroy-Stein et al., 1989);ポチウイルスリーダー、例えばTEVリーダー(タバコEtchウイルス);MDMVリーダー(トウモロコシDwarfモザイクウイルス);ヒト免疫グロブリン重鎖結合タンパク質(BiP)リーダー(Macejak et al., 1991);アルファルファモザイクウイルスの外被タンパク質mRNA(AMV RNA 4)からの未翻訳リーダー(Jobling et al., 1987);タバコモザイクウイルスリーダー(TMV)(Gallie et al., 1989);及びトウモロコシChrotic Mottleウイルスリーダー(MCMV)(Lommel et al., 1991)が挙げられる。Della-Cioppa et al., 1987を参照のこと。
【0117】
Adhイントロン1(Callis et al., 1987)、ショ糖シンターゼイントロン(Vasil et al., 1989)又はTMVオメガ要素(Gallie et al., 1989)のような調節要素を所望であれば含めることができる。
エンハンサーの例としては、CaMV 35Sプロモーター、オクトピンシンターゼ遺伝子(Ellis et al., 1987)、イネアクチンI遺伝子、トウモロコシアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子(Callis et al., 1987)、トウモロコシシュルンケンI遺伝子(Vasil et al., 1989)、TMVオメガ要素(Gallie et al., 1989)及び非植物真核生物からのプロモーター(例えば酵母;Ma et al., 1988)が挙げられる。
【0118】
発現の調節のための主な方法の1つが、減少発現である。減少発現では、「アンチセンスダウンレギュレーション」と「センスダウンレギュレーション」と呼ばれる2つの主な方法がある(センスダウンレギュレーションは「同時抑制(cosuppression)」とも呼ばれる)。一般に、それらの方法は「遺伝子サイレンシング」と呼ばれる。それらの方法は両方とも標的遺伝子の発現の抑制に至る。
【0119】
本発明は、本発明の核酸分子の発現、量、活性、及び/又は機能を低減するための様々なストラテジーを含んで成る。当業者は、所望の方法で本発明の核酸分子の発現、量、活性、及び/又は機能に影響を及ぼすために多くの様々な方法が利用可能であるという事実を認識している。言及されてもよいが、制限されることのない例は、以下の通りである。
【0120】
「センス」抑制
本発明のヌクレオチド配列の発現の変更、好ましくは発現の減少は、「センス」抑制により得られる(例えばJorgensen他(1996)Plant Mol. Biol. 31, 957-973を参照のこと)。この場合、本発明のヌクレオチド配列の全部又は一部がDNA分子中に含まれる。DNA分子は好ましくは、標的遺伝子を含んで成る細胞、特に植物細胞中で機能的なプロモーターに作用可能に連結され、そして該ヌクレオチド配列が発現可能である細胞中に導入される。ヌクレオチド配列は「センス方向」でDNA中に挿入され、これは該ヌクレオチド配列のコード鎖が転写され得ることを意味する。好ましい態様では、ヌクレオチド配列又はその部分はポリペプチドに翻訳される。別の好ましい態様では、ヌクレオチド配列は部分的に翻訳され、短いペプチドが翻訳される。好ましい態様では、これは、翻訳を停止させる少なくとも1つの未熟な終止コドンをヌクレオチド配列中に挿入することにより達成される。別のより好ましい態様では、ヌクレオチド配列は転写されるが翻訳生成物を全く生産しない。更に好ましい態様では、該ヌクレオチド配列又はその部分を含んで成るDNA分子が、植物細胞のゲノム中に安定に組み込まれる。別の好ましい態様では、ヌクレオチド配列又はその部分を含んで成るDNA分子が、染色体外複製分子中に含められる。
【0121】
直前に記載したDNA分子の1つを含有するトランスジェニック植物では、DNA分子中に含まれるヌクレオチド配列に相当するヌクレオチド配列の発現が好ましくは減少される。好ましくは、DNA分子中のヌクレオチド配列は、その発現が減少されるヌクレオチド配列に少なくとも80%同一であり、より好ましくは、それは少なくとも90%同一であり、更により好ましくは少なくとも95%同一であり、そして最も好ましくは少なくとも99%同一である。
【0122】
「アンチセンス」抑制
別の好ましい態様では、本発明のヌクレオチド配列の発現の変更、好ましくは発現の減少は、「アンチセンス」抑制により得られる。本発明のヌクレオチド配列の全部又は一部がDNA分子中に含められる。DNA分子は好ましくは、植物細胞中で機能的なプロモーターに作用可能に連結され、そして該ヌクレオチド配列が発現可能である植物細胞中に導入される。ヌクレオチド配列は「アンチセンス方向」でDNA分子中に挿入され、これはヌクレオチド配列の逆の相補体(しばしば非コード鎖と呼ばれる)が転写され得ることを意味する。好ましい態様では、ヌクレオチド配列又はその部分を含んで成るDNA分子が植物細胞のゲノム中に安定に組み込まれる。別の好ましい態様では、ヌクレオチド配列又はその部分を含んで成るDNA分子が、染色体外複製分子中に含められる。このアプローチを記載する幾つかの刊行物が更なる説明のために引用される(Green, P.J. et al., Rev. Biochem. 55:569-597 (1986);van der Krol, A.R. et al., Antisense Nuc. Acids and Proteins, 125-141頁(1991);Abel, P.P. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:6949-6952 (1989);Ecker, J.R. et al., Proc. Natl. Avcad. Sci. USA 83:5372-5376 (Aug. 1986))。
【0123】
直前に記載したDNA分子の1つを含有するトランスジェニック植物では、該DNA分子中に含まれるヌクレオチド配列に相当するヌクレオチド配列の発現が好ましくは減少される。好ましくは、DNA分子中のヌクレオチド配列は、その発現が減少されるヌクレオチド配列に少なくとも80%同一であり、より好ましくは、それは少なくとも90%同一であり、更により好ましくは少なくとも95%同一であり、そして最も好ましくは少なくとも99%同一である。
【0124】
相同組み換え
別の好ましい態様では、本発明のヌクレオチド配列に相当する少なくとも1つのゲノムコピーが、Paszkowski et al., EMBO Journal 7:4021-26 (1988)に記載されたような相同組み換えにより植物のゲノム中に修飾される。この技術は、相同組み換えとして当業界で知られる方法により互いを認識しそしてヌクレオチド配列を交換する相同配列の特性を利用する。相同組み換えは、細胞中のヌクレオチド配列の染色体コピーと形質転換により細胞に導入されたヌクレオチド配列の新規コピーとの間で起こることができる。よって、ヌクレオチド配列の染色体コピー中に特定の変更が導入される。一態様では、本発明のヌクレオチド配列の調節要素が変更される。そのような調節要素は、プローブとして本発明のヌクレオチド配列又はその部分を使ってゲノムライブラリーをスクリーニングすることにより容易に得られる。現存する調節要素を別の調節要素に置き換え、それによりヌクレオチド配列を変更し、又はそれらを突然変異せしめるか又は削除し、それによってヌクレオチド配列の発現を排除する。別の態様では、ヌクレオチド配列を該ヌクレオチド配列の一部又は完全なヌクレオチド配列の削除により変更する。植物細胞中での変更されたポリペプチドの発現も本発明に含まれる。内因性植物遺伝子を破壊する最近のこの技術の改良が記載されている(Kempin et al., Nature 389:802-803 (1997)及びMiao and Lam, Plant J., 7:359-365 (1995))。
【0125】
当業者は、標的とされた様式でどのようにゲノム配列を修飾するかに関して多数の可能性のある過程を知っている。これらには、特に、例えば、終止コドンの作製、解読枠のシフトなどによる標的相同組み換えによるノックアウト変異体の作出(Hohn BとPuchta H(1999)Proc Natl Acad Sci USA96: 8321-8323)、又は例えば、配列特異的なリコンビナーゼ又はヌクレアーゼ、による配列の標的欠失又は逆位などの過程が含まれる。別の好ましい態様では、ヌクレオチド配列の染色体コピー中の変異が、両端に二重ヘアピンキャップを有する二本鎖構造中にRNAとDNA残基の連続鎖から構成されるキメラオリゴヌクレオチドを用いて細胞を形質転換せしめることにより導入される。該オリゴヌクレオチドの追加の特徴は、例えばRNA残基の所の2’−O−メチル化の存在である。RNA/DNA配列は、本発明のヌクレオチド配列の染色体コピーの配列と整列しそして所望のヌクレオチド変更を含むようにデザインされる。例えば、この技術は米国特許第5,501,967号明細書及びZhu他(1999)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96:8768-8773中に更に説明されている。
【0126】
リボザイム
更なる態様では、本発明のポリペプチドをコードするRNAを、触媒性RNA又はそのようなRNAに特異的なリボザイムにより開裂させる。リボザイムはトランスジェニック植物において発現され、そして植物細胞中の本発明のポリペプチドをコードするRNAの減少量をもたらし、よって植物細胞中に蓄積した減少した量のポリペプチドをもたらす。この方法は米国特許第4,987,071号明細書に記載されている。
【0127】
優性−陰性変異
別の好ましい態様では、本発明のヌクレオチド配列によりコードされるポリペプチドの活性が変更される。これはトランスジェニック植物中の該タンパク質の優性陰性変異体の発現により達成され、内因性タンパク質の活性の低下を引き起こす。
【0128】
アプタマー
更なる態様では、本発明のポリペプチドの活性は、トランスジェニック植物中で、タンパク質に特異的に結合する核酸リガンド、いわゆるアプタマーを発現させることにより達成される。アプタマーは好ましくはSELEX(指数関数的増加によるリガンドの体系的発現;Systematic Evolution of Ligands by Exponential Enrichment)法により得られる。SELEX法では、ランダム配列の領域を有する一本鎖核酸の候補混合物をタンパク質と接触させ、標的に対する増加した親和性を有するその核酸を、候補混合物の残りから分割せしめる。分割された核酸を増幅してリガンド豊富混合物を提供する。数回の反復後、ポリペプチドに対する最適親和性を有する核酸が得られ、それをトランスジェニック植物中での発現に使用する。この方法は米国特許第5,270,163号明細書中に更に説明されている。
【0129】
亜鉛フィンガータンパク質
本発明のヌクレオチド配列に又はそれの調節領域に結合する亜鉛フィンガータンパク質も、該ヌクレオチド配列の発現を変更するために使用される。好ましくは、ヌクレオチド配列の転写が減少又は増加される。亜鉛フィンガータンパク質は例えばBeerli他(1998)PNAS 95:14628-14633又はWO 95/19431,WO 98/54311又はWO 96/06166中に記載されており、それら全ての全内容が参考として本明細書中に組み込まれる。
【0130】
dsRNA
本発明のヌクレオチド配列の発現の変更はまた、dsRNA干渉(RNAi)によっても得られる。二本鎖RNAによる遺伝子調節の過程(「二本鎖RNA干渉」;dsRNAi)は、動物及び植物生物体について何回もを記載された(例えば、Matzke M A et al. (2000) Plant Mol Biol 43:401-415;Fire A. et al. (1998) Nature 391:806-811;WO 99/32619;WO 99/53050;WO 00/68374;WO 00/44914;WO 00/44895;WO 00/49035;WO 00/63364、全文献の全体を本明細書中に援用する)。提示した参考文献に記載の過程及び方法はこれにより明らかに言及される。dsRNAi過程は、相補鎖と、高能率な様式で対応遺伝子の発現を抑える遺伝子転写物のカウンター鎖を同時に導入する現象に基づいている。好ましくは、生じた表現型は、対応するノックアウト変異体のものと非常に類似している(Waterhouse P M et al. (1998) Proc Natl Acad Sci USA 95:13959-64)。dsRNAiの過程は、マーカータンパク質の発現の低減に特に効果的、且つ、有利であることが判明した。
【0131】
二本鎖RNA(dsRNA)分子は、本発明の範囲内で、相補配列のため、理論的(例えば、ワトソンとクリックの塩基対ルールに従って)及び/又は実際に(例えば、試験管内及び/又は生体内のハイブリダイゼーション実験により)二本鎖RNA構造を形成することができる1又は複数のリボ核酸配列を意味することが好ましい。当業者は、二本鎖RNA構造の形成が平衡状態を表すという事実を知っている。好ましくは、二本鎖分子に対する対応する分離形態の比は、少なくとも1:10、好ましくは1:1、特に好ましくは5:1、最も好ましくは10:1である。
【0132】
更に本発明は、植物生物体内(又は細胞、組織、臓器もしくはそこから誘導された繁殖材料内)に導入された時、少なくとも1つの標的遺伝子の発現の低減を引き起こす二本鎖RNA分子に関する。標的遺伝子の発現を低減するための二本鎖RNA分子には、ここではa)標的遺伝子の「センス」RNA転写物の少なくとも一部に実質的に同一である少なくとも1つのリボヌクレオチド配列を含んで成る「センス」RNA鎖、及びb)a)に含まれるRNAセンス鎖に対して実質的に、好ましくは完全に相補的な「アンチセンス」RNA鎖を含んで成ることが好ましい。
【0133】
「実質的に同一」とは、dsRNA配列もまた、標的遺伝子配列と比較して挿入、欠失、及び個々の点突然変異を持つこともでき、そしてそれにもかかわらず、発現の効果的な低減を引き起こすことを意味する。抑制dsRNAの「センス」鎖と標的遺伝子核酸配列の「センス」RNA転写物の少なくとも一部の間(又は標的遺伝子の核酸配列の相補鎖の「アンチセンス」鎖の間)の(本明細書中で以下で規定される)相同性は、好ましくは少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、非常に特に好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは100%である。
【0134】
dsRNAとマーカータンパク質遺伝子転写物の間の100%の配列同一性は、標的遺伝子発現の効果的な低減を引き起こすのに絶対に必要というわけではない。その結果、上記過程は、有利なことには、遺伝子変異、多型又は進化的分岐に起因して存在している可能性もある配列の偏差に対して許容性がある。よって、例えば、第二の生物体における標的遺伝子発現を抑えるために、第一の生物体の標的遺伝子の配列から開始して作り出されたdsRNAを使用することが可能である。このために、dsRNAは、保存領域に相当する標的遺伝子転写物の配列領域を含んでいることが好ましい。上述した保存領域は、配列比較から容易に得ることもできる。
【0135】
或いは、「実質的に同一である」dsRNAはまた、標的遺伝子転写物の一部にハイブリダイズすることができる核酸配列と規定することもできる。
「実質的に相補的な」は、「アンチセンス」RNA鎖もまた、この「センス」RNA鎖の相補鎖と比較して挿入、欠失、及び個々の点突然変異も持つこともできることを意味する。「アンチセンス」RNA鎖と「センス」RNA鎖の相補鎖の間の相同性は、好ましくは少なくとも80%である、好ましくは少なくとも90%、非常に特に好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは100%である。
【0136】
標的遺伝子の核酸配列の「「センス」RNA転写物の一部」は、標的遺伝子の核酸配列から転写された又は転写可能なRNA又はmRNAの断片を意味する。これに関連して、その断片には、好ましくは少なくとも20塩基、好ましくは少なくとも50塩基、特に好ましくは少なくとも100塩基、非常に特に好ましくは少なくとも200塩基、最も好ましくは少なくとも500塩基の配列長がある。完全な転写可能なRNA又はmRNAもまた含まれる。別の方法で自然条件下では転写されない標的遺伝子の領域、例えばプロモーター領域など、から人工条件下で転写できるものの配列もまた含まれる。
【0137】
dsRNAは、1つ又は複数のポリリボヌクレオチド鎖から成ることもできる。当然ながら、同じ目的を達成するためには、その都度、上記に規定されたリボヌクレオチド配列部分の1つを含んで成る複数の個々のdsRNA分子を、細胞又は生物体内に導入することもまた可能である。二本鎖dsRNA構造は、2本の相補的な、別々のRNA鎖から開始するか、又は好ましくは、一本鎖の自己相補RNA鎖から開始して形成されてもよい。この場合、「センス」RNA鎖と「アンチセンス」RNA鎖は、逆転「反復」の形態で互いに共有結合されるのが好ましい。
【0138】
例えば、WO 99/53050に記載されるように、dsRNAはまた、接続配列(「リンカー」;例えばイントロン)によって「センス」鎖と「アンチセンス」鎖を接続することによるヘアピン構造を含むこともできる。RNA配列の発現だけが必要とされ、そして常に相補性RNA鎖を等モル比で含んでいるので、自己相補dsRNA構造が優先される。接続配列は、好ましくはイントロンであることもできる(例えばジャガイモST-LS1遺伝子のイントロン;Vancanneyt G F et al. (1990) Mol Gen Genet 220 (2):245-250)。
【0139】
dsRNAをコードする核酸配列は、更なる要素、例えば、転写停止シグナル又はポリアデニル化シグナルなどを含むこともできる。
まとめると、意図するなら、細胞又は植物におけるdsRNAの2本の鎖は、以下の方法:a)両方の発現カセットを含んで成るベクターによる細胞又は植物の形質転換、b)その一方が「センス」鎖を含んで成る発現カセットを含み、もう一方が「アンチセンス」鎖を含んで成る発現カセットを含む2つのベクターによる細胞又は植物の同時形質転換、による例を手段として達成することもできる。RNA二本鎖の形成は、細胞外又は細胞内のいずれかで開始することもできる。
【0140】
dsRNAは、生体内又は試験管内のいずれかで合成することもできる。このために、dsRNAをコードするDNA配列は、少なくとも1つの遺伝子制御要素(例えばプロモーターなど)の調節下で発現カセット内に挿入されることもできる。ポリアデニル化は必要でなく、翻訳を開始するためのいずれかの要素が存在する必要もない。標的遺伝子を標的指向するdsRNAのための発現カセットが形質転換構成物又は形質転換ベクター上に存在していることが優先される。このために、標的遺伝子を標的指向するdsRNAの「アンチセンス」鎖及び/又は「センス」鎖、或いはdsRNAの自己相補鎖をコードする発現カセットは、好ましくは形質転換ベクター内に挿入され、そして以下に記載した過程を使用することによって植物細胞内に導入される。ゲノム内への安定した挿入は、本発明の過程に有利であり得るが、絶対に必要というわけでない。dsRNAが長期間作用を引き起こすので、多くの場合、一過性発現もまた十分である。dsRNAはまた、例えば、上述したRNAの3’非翻訳部分にそれを融合することによって挿入される核酸配列によって発現されるRNAの一部であることもできる。
【0141】
dsRNAは、1細胞あたり少なくとも1コピーを産生できるようにする量で導入されることもできる。適当であるなら、量が多いほど(例えば、1細胞あたり少なくとも5、10、100、500、又は1000コピー)、より効果的な低減を引き起こすことができる。
【0142】
BvPRR7のRNAi抑制のために、本発明者は、例えば配列番号1に与えられる0.6Kbの断片などのcDNA断片を、構成的プロモーターの調節下でRNAiカセットへと集成する(実施例3を参照のこと)。好適な構成的プロモーターは、例えばアラビドプシスからのUbi3プロモーター(ノリスet a!、1993)、CaMV 35Sプロモーター、又は甜菜中で構成的発現を促進することが知られているその他のプロモーターである。発現カセットは、適当なプロモーターの調節下に選択マーカー遺伝子を更に含有する。特に、マーカー遺伝子は、ホスホマンノースイソメラーゼ又はキシロースイソメラーゼのような正の選択マーカーをコードする。BvPRR7断片の逆転反復は、ジャガイモStLS1(Eckes et al., 1986;Vancanneyt et al., 1990)からの第二イントロンにより分割されてRNAiカセットを安定化し、RNAi現象の効率も改善することができる(Wang and Waterhouse, 2001;Smith et al., 2000)。
【0143】
DNA分子の挿入(挿入変異誘発)
別の好ましい態様では、DNA分子が本発明のヌクレオチド配列の染色体コピー中に又はその調節領域中に挿入される。好ましくは、そのようなDNA分子は植物細胞中で転位することができる転位可能な要素、例えばAc/Ds,Em/Spm変異誘発因子を含んで成る。或いは、DNA分子はアグロバクテリウムT-DNAのT-DNAボーダーを含んで成る。DNA分子はリコンビナーゼ又はインテグラーゼ認識部位を含んでもよく、該部位は植物細胞の染色体からDNA分子の一部を除去するのに使用することができる。T-DNA、トランスポゾン、オリゴヌクレオチドを使った挿入変異誘発法、又は当業者に既知である他の方法も包含される。挿入変異誘発にT-DNAとトランスポゾンを使った方法は、Winkler et al., (1989)Methods Mol. Biol. 82:129-136及びMartienssen (1998) PNAS 95:2021-2026中に記載されており、それらの全内容が参考として本明細書中に組み込まれる。更なる適切な方法は、例えば、植物内にRNA/DNAオリゴヌクレオチドを導入することによる、内在性標的遺伝子内へのナンセンス突然変異の導入である(Zhu et al. (2000) Nat Biotechnol 18(5): 555-558)。点突然変異はまた、「キメラ形成法」としても知られているDNA-RNAハイブリッドによって作り出されることもできる(Cole-Strauss et al. (1999) Nucl Acids Res 27(5):1323-1330;Kmiec (1999) Gene therapy American Scientist 87(3): 240-247)。
【0144】
欠失変異誘発
更に別の態様では、本発明の核酸分子の変異は、細胞又は植物中の配列のゲノムコピー中にヌクレオチド配列又は調節配列の一部の欠失により作製される。
欠失変異誘発法は当業者に既知である。例えば、Miao et al., (1995) Plant J. 7:359を参照のこと。標的遺伝子の発現の活性又は量はまた、例えば、標的遺伝子の核酸配列内又はその近くのDNA二本鎖切断の特異的誘発のための認識配列におけるDNA二本鎖切断の配列特異的な誘導による、標的遺伝子内の標的欠失によって低減されることもある。
【0145】
更に別の態様では、この欠失は、化学的変異誘発又は照射により植物の大部分において任意に作製することができ、本発明の遺伝子中に欠失を有する植物は正又は逆の遺伝学により単離される。迅速な中性子又はガンマ線での照射は、植物中に欠失変異を引き起こすことが知られている(Silverstone et al., (1998) Plant Cell, 10:155-169;Bruggemann et al., (1996) Plant J., 10:755-760;Redei and Koncz in Methods in Arabidopsis Research, World Scientific Press (1992), pp. 16-82)。本発明の遺伝子中の欠失変異は、C.エレガンス(C. elegans)中に示されるようにゲノムDNAのプールセットを用いるPCRを使った逆の遺伝学において回収することができる(Liu et al., (1999) Genome Research 9:859-867)。今後の遺伝学は、PTGSを表示する系列の変異誘発に続いてPTGSの欠損下でM2子孫をスクリーニングすることを含む。中でもそれらの変異体は本発明の遺伝子を中断するものであると期待される。これは、それらの変異体からのゲノムDNAを用いた本発明の遺伝子についてのサザンブロット又はPCRにより評価することができる。
【0146】
更に別の態様では、本発明のヌクレオチド配列の発現は植物の細胞毎に変更される。これは例えば相同組み換え又は染色体中への挿入により得られる。これは例えば、センスもしくはアンチセンスRNA、亜鉛フィンガータンパク質又はリボザイムを、センス又はアンチセンスRNAを発現することができるプロモーターの調節下で、植物の細胞毎に発現させることにより得られる。本発明のヌクレオチド配列のセンスもしくはアンチセンスRNA、亜鉛フィンガータンパク質又はリボザイムの発現用の又は本発明のヌクレオチド配列の過剰発現用の構成物を調製し、そして本発明の技術に従って、例えば上述したように、植物細胞中に形質転換せしめる。
【0147】
併用もまた考えられる。更なる方法が当業者に知られていて、そして標的遺伝子のプロセッシングの阻害もしくは停止、標的遺伝子によってコードされたタンパク質もしくはそのmRNAの輸送、リボソーム付着の阻害、RNAスプライシングの阻害、標的遺伝子RNAを分解する酵素の誘導、、及び/又は翻訳伸長もしくは停止の阻害を含むこともできる。
【0148】
そのため、本発明は、配列表の配列番号1、4、5、6、7、8、9、10、53、又は54に記載された配列に相当するセンス及びアンチセンス核酸分子、並びにそれらのオーソロガスも提供する。
【0149】
対応する任意のアンチセンス構成物を含む配列番号6に与えられたポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に実質的に類似している本発明に係る遺伝子及び転写解読枠は、植物宿主中で機能的である任意プロモーター及び本発明の係るプロモーター配列又はそれの変異体に作用可能に連結することができる。
【0150】
一度完成されれば、発現カセット又はRNAiカセットを含んで成る本発明のポリヌクレオチド構成物は、植物形質転換に適当なベクター、例えば二元ベクター中に移すことができ、次いでそれを周知の形質転換技術の1つ、例えばアグロバクテリウム媒介形質転換を使って甜菜に移すことができる。
【0151】
本発明の核酸配列又はdsRNAを組み込みそして発現するトランスジェニック植物(又は植物細胞、植物外植片もしくは植物組織)は、様々な周知の技術により作製することができる。本発明に係る上述した核酸配列を組み込んでいる発現カセット又はRNAiカセットを含んで成る本発明のキメラ構成物の作製後、標準技術を使ってそのキメラ構成物を着目の植物、植物細胞、植物外植片又は植物組織中に導入することができる。場合により、植物細胞、外植片又は組織を再生してトランスジェニック植物を作製することができる。植物は、裸子植物、単子葉植物又は双子葉植物を包含する任意の高等植物であることができる。適当なプロトコルはマメ科(アルファルファ、大豆、クローバー等)、セリ科(ニンジン、セロリ、アメリカボウフウ)、アブラナ科(キャベツ、ダイコン、ナタネ、ブロッコリー等)、キュウリ科(メロン及びキュウリ)、イネ科(小麦、トウモロコシ、米、大麦、きび等)、ナス科(ジャガイモ、トマト、タバコ、カラシ等)及び様々な他の作物に適用することができる。Ammirato et al., eds., (1984) Handbook of Plant Cell Culture-Crop Species, Macmillan Publ. Co., New York, N.Y.;Shimamoto et al. (1989) Nature 338: 274 276;Fromm et al. (1990) Bio/Technol. 8: 833 839;及びVasil et al. (1990) Bio/Technol. 8: 429 434に記載されたプロトコルを参照のこと。単子葉植物及び双子葉植物細胞の両方の形質転換及び再生は今や日常茶飯事であり、最も適当な形質転換技術の選択は実施者により決定されるだろう。方法の選択は形質転換すべき植物の種類により異なり;当業者は、特定の植物種への特定方法の適切性を理解するだろう。適当な方法としては非限定的に、植物プロトプラストのエレクトロポレーション;リボソーム媒介形質転換;ポリエチレングリコール(PEG)媒介形質転換;ウイルスを使った形質転換;植物細胞のマイクロインジェクション;植物細胞のマイクロプロジェクティル衝撃;真空浸透;及びアグロバクテリウム・ツメファシエンス媒介形質転換が挙げられる。
【0152】
植物の形質転換は単一のDNA分子又は複数のDNA分子(例えば同時形質転換)を用いて行われ、両方の技術とも本発明のキメラ構成物での使用に適する。多数の形質転換ベクターが植物形質転換に利用可能であり、本発明の発現カセットをそのようなベクターと共に使用することができる。ベクターの選択は好ましい形質転換技術及び形質転換用の標的種に依存するだろう。
【0153】
植物細胞宿主中に構成物を導入するための様々な技術が利用可能であり、当業者に既知である。それらの技術としては一般に、形質転換誘発剤としてA.ツメファシエンス又はA.リゾゲネス、リポソーム、PEG沈澱、エレクトロポレーション、DNA注入、直接DNA組み込み、マイクロプロジェクティル衝撃、粒子促進等を用いたDNAによる形質転換が挙げられる(例えば、EP 295959及びEP 138341を参照のこと)(下記参照)。しかしながら、植物細胞以外の細胞は、本発明のポリヌクレオチド構成物を用いて形質転換することができる。植物発現ベクター及びレポーター遺伝子、アグロバクテリウム及びアグロバクテリウム媒介遺伝子輸送の一般的記載は、Gruber et al., (1993)中に見つけることができる。
【0154】
本発明に係る核酸配列を含有する発現ベクターは、プロトプラスト中に又は完全な組織もしくは単離された細胞中に導入することができる。好ましくは発現ベクターは完全組織中に導入される。植物組織を培養するための一般法は、例えばMaki et al., (1993)により;及びPhillips et al., (1988)により提供されている。好ましくは、発現ベクターはトウモロコシ又は他の植物組織に直接遺伝子トランスファー法、例えばマイロプロジェクタイル媒介送達、DNA注入、エレクトロポレーション等を使って導入される。より好ましくは、発現ベクターは、生分解装置を用いたマイクロプロジェクタイル媒介媒体を使って植物組織中に導入される。例えば、Tomes et al., (1995)を参照のこと。本発明のベクターは、構造遺伝子の発現に使用できるだけでなく、エキソン−トラップクローニング、又は組織の多様性において示差的遺伝子発現を検出するためのプロモータートラップ手順においても使用することができる(Lindsey et al., 1993;Auch and Reth et al.)。
【0155】
アグロバクテリウム種のTi及びRiプラスミドの二元型ベクターを使用することが特に好ましい。Ti由来のベクターは、多種多様な高等植物、例えば単子葉植物及び双子葉植物、例えば大豆、綿、ナタネ、タバコ及び米を形質転換する(Pacciotti et al., 1985;Byrne et al., 1987;Sukhapinda et al., 1987;Lorz et al., 1985;Potrykus et al., 1985;Park et al., 1985;Hiei et al., 1994)。植物細胞を形質転換するためのT-DNAの使用は、広範囲の研究を受け入れ、そして十分に記載されている(EP 120516;Hoekema, 1985;Knauf et al., 1983;及びAn et al., 1985)。植物中への導入のために、本発明のキメラ構成物を実施例に記載するような二元ベクターに挿入することができる。
【0156】
当業者は、方法の選択が形質転換用に標的指向される植物の型、即ち単子葉植物又は双子葉植物に依存することを理解するだろう。植物細胞を形質転換する適当な方法としては、非限定的に、マイクロインジェクション(Crossway et al., 1986)、エレクトロポレーション(Riggs et al., 1986)、アグロバクテリウム媒介形質転換(Hinchee et al., 1988)、直接遺伝子移入(Paszkowsky et al., 1984)、及びAgracetus, Inc., Madison, Wis.及びBioRad, Hercules, Calif.から入手可能である装置を使った弾道粒子加速(例えば、Sanford et al., 米国特許第4,945,050号;及びMcCabe et al., 1988を参照のこと)が挙げられる。Weissinger et al., 1988(大豆);Sanford et al., 1987(タマネギ);Christou et al., 1988(大豆);McCabe et al., 1988(大豆);Daitta et al., 1990(米);Klein et al., 1988(トウモロコシ);Klein et al., 1988(トウモロコシ);Klein et al., 1988(トウモロコシ);Fromm et al., 1990(トウモロコシ);Gordon-Kamm et al., 1990(トウモロコシ);Svab et al., 1990(タバコクロロプラスト);Koziel et al., 1993(トウモロコシ);Shimamoto et al., 1988(米);Christou et al., 1991(米);欧州特許出願第EP 0 332 581号(オーチャードグラス及び他のイチゴツナギ亜科Pooideae);Vasilhoka ,1993(小麦);Weeks et al., 1993(小麦)も参照のこと。一態様では、トウモロコシのプロトプラスト形質転換法が使用される(欧州特許出願第EP 0 292 435号;米国特許第5,350,689号)。
【0157】
本発明の主な焦点は、甜菜の形質転換にある。甜菜の形質転換のための実験手順は当業者に周知であり、例えば外植片材料として甜菜分裂組織を使用するChang et al., 2002により開示されたもの又はJoersbo et al., 1998に記載されたものなどが周知である。
【0158】
(実施例3に示される)好ましい態様では、RNAiカセットは、例えばG018などの二年生甜菜遺伝子型の中に形質転換することができる。選択マーカー、例えばPMI活性(Joersbo et al., 1998)の発現についてトランスジェニック新芽を確認する。陽性の新芽及び非トランスジェニック対照を植え付け、最低18℃で2週間の環境順化期間のために温室に移した後、春化処理を行う。十分に確立されたら、トランスジェニック植物を14週間の期間の6℃の定温及び12時間の弱い人工光から成る春化処理に曝露する。抽苔誘導条件を適用する前に、春化した植物をゆっくりと環境室中で2週間に渡り段階的に温度を10℃から18℃に高めることによりゆっくり環境順化させる。続いて植物を大きな鉢(2リットル)に移し、18℃の定温及び17時間採光/7時間遮光の長日光周期に曝露しながら抽苔についてモニタリングする。
【0159】
形質転換された植物細胞又は植物を選別し、そして成熟まで生育させた後、着目の形質を示す植物を同定する。形質は上述した形質のいずれかであることができる。加えて、着目の形質が、本発明に係る調節ヌクレオチドの調節下での導入された着目の核酸配列のためであることを確証するために、着目のポリペプチド又は核酸配列の発現レベル又は活性を、ノーザンブロット、RT−PCRもしくはマイクロアレイを使って、又は免疫ブロットもしくはウエスタンブロットもしくはゲルシフトアッセイを使ってmRNAを分析することにより、測定することができる。
【0160】
よって本発明は、例えば下記に記載する形質転換法のいずれか1つにより得られる加工された植物製品を包含する、植物細胞及び組織、そのような細胞及び組織から誘導された植物、植物材料、そのような植物から誘導された子孫及び種子、並びに農産物に関する。
【0161】
本発明に係る核酸配列を含んで成る本発明に係る上述した発現カセットが一旦植物宿主中に形質転換されたら、典型的な育種技術を使って、その種において繁殖させるか又は別の品種もしくは同一品種、特に市販品種に変更することができる。好ましい本発明の植物としては、種子植物、単子葉植物及び双子葉植物、特に農学的に重要な作物、例えば米、小麦、大麦、ライ麦、ナタネ、トウモロコシ、ジャガイモ、ニンジン、サツマイモ、甜菜、豆類、エンドウ豆、チコリ、レタス、キャベツ、カリフラワー、ブロッコリー、カブ、ダイコン、ホウレン草、アスパラガス、タマネギ、ニンニク、ナス、カラシ、セロリ、ニンジン、ホウレン草、カボチャ、ズッキーニ、キュウリ、リンゴ、ナシ、マルメロ、メロン、プラム、サクランボ、モモ、ネクタリン、アプリコット、イチゴ、ブドウ、ラズベリー、ブラックベリー、パイナップル、アボカド、パパイヤ、マンゴ、バナナ、大豆、タバコ、トマト、ソルガム及びサトウキビが挙げられる。
【0162】
上述したトランスジェニック植物中に操作される遺伝形質は、有性生殖又は植物性成長により継代され、よって子孫植物において維持され繁殖することができる。一般に前記維持及び繁殖は、特定の目的、例えば耕作、播種又は収穫に適合するように開発された既知の農業法を使用する。水耕法又は温室技術のような特異化された方法も適用できる。本発明に係るトランスジェニック植物の有利な遺伝形質の使用は、改善された性質、例えば害虫、除草剤又はストレスに対する耐性、改善された栄養価、増加された収量、又は脱粒傾倒からの損失の減少を引き起こす構造を有する植物の開発を目的とする植物育種において更に利用することができる。様々な育種段階が十分に定義された人間の介在、例えば交配しようとする系列の選択、親の系列の受粉の指令、又は適当な子孫植物の選択により特徴づけられる。所望の性質に依存して異なる育種法が採択される。所望の性質に依存して、異なる育種法が採用される。関連技術は、当業者に十分既知であり、非限定例としてはハイブリダイゼーション、同系交配、異数性技術等が挙げられる。ハイブリダイゼーション技術には、機械的、化学的又は生化学的手段による雄又は雌の不稔植物を与えるための植物の不稔化も含まれる。雄無菌植物と異なる系列の花粉との交差受粉は、雄は不稔で雌は繁殖性の植物のゲノムが両親の系列の性質を均一に獲得することを断定する。よって、本発明に係るトランスジェニック植物は、除草剤もしくは殺虫剤処理のような常用法の効率を増加させる改善された植物系列の育種に使用することができるか、又はそれらの変更された遺伝形質のために前記方法を免除できるようにすることができる。或いは、改善されたストレス抵抗性を有する新規作物、それらの最適化された遺伝「装置」のために、不利な発育条件を容認することができなかった製品よりもより高品質の収穫製品を提供する新規作物が得られる。
【0163】
当業者は、本発明のトランスジェニック遺伝子型が異なるトランスジェニック又は非トランスジェニック遺伝子型を含む他の植物系列(好ましくは甜菜植物系列)に育種することによって遺伝子移入できると認識するあろう。この異なるトランスジェニック又は非トランスジェニック遺伝子型はどんな遺伝子型であってもよいが、着目の少なくとも1つの形質を含んで成る遺伝子型が好ましい。例えば、本発明のトランスジェニック遺伝子型を含む同系交配甜菜は、甜菜植物に感染することが知られている異なるウイルスに対して現象耐性のトランスジェニック遺伝子型を含む同系交配甜菜系列と交配することができる。得られた種子と子孫植物は、スタック形態で遅延抽苔形質と耐性形質を有するであろう。例えば本発明のトランスジェニック遺伝子型を有する同系交配甜菜は、グリホサート耐性H7-1現象(欧州特許出願EPA1-1597373号、本明細書中に援用する)のトランスジェニック遺伝子型を含む同系交配甜菜と交配することができる。得られた種子と子孫植物には、耐性形質と遅延抽苔形質の両方がある。除草剤耐性、耐病性又はウイルス(即ち、(Holly又はC48のような)従来の起源からのトランスジェニック形態のBNYVVもしくは従来の起源からのBNYVVのようなウイルス、又は BNYVV以外のウイルス)に対する耐性のような形質もまた、本発明のトランスジェニック遺伝子型とスタッキングするために使用されることができる。他の組み合わせ又はスタックが本発明のトランスジェニック遺伝子型を用いて行われることができ、それにより、これらの例を制限的なものとして見なすべきでないことが更に認識されるであろう。
当業者はまた、本発明のトランスジェニック遺伝子型を含むトランスジェニック甜菜種子が本発明の耐性を更に増強するために様々な農薬や殺虫剤を含めた様々な種子処理用化学物質で処理されることもできる。
【0164】
本発明のトランスジェニック遺伝子型は、技術分野で認識されている技術を使用することでいずれかの同系交配甜菜内に遺伝子移入されるか又はハイブリッドすることができる。植物育種の目標は、単一種に組み合わせることか、又は様々な望ましい形質をハイブリッドすることである。農作物に関して、これらの形質としては、昆虫や疾患(例えば、これだけに限定されるものではないが、HollyやC48を含めた従来の起源由来のもの)に対する耐性、除草剤に対する寛容性、熱や干ばつに対する寛容性、より多い収量、及びより良い農耕学的特質を挙げることもできる。
多くの作物の機械的な収穫にとって、発芽や主根の定着、生育速度、成熟、及び根のサイズなどの植物特徴の均一性は重要である。
【0165】
別の観点では、本発明は、そこから遅延抽苔の表現型を有する甜菜植物からハイブリッド種子の生産方法を提供する。そのような方法は:(a)第一の親系列として、遅延抽苔の表現型を有する甜菜系列、特に本発明に係るトランスジェニック甜菜植物を準備し;(b)第二の親系列として異なる遺伝子型を持つ第二の甜菜系列を準備し;(c)ステップ(a)の第一の親系列の植物とステップ(b)の第二の親系列の植物を互いに受粉させ、種子を成熟させ、そしてハイブリッド種子を収穫する、ことを含み、ここで収穫されたハイブリッド種子は、遅延抽苔の表現型を有する甜菜ハイブリッド植物の種子である。この観点のある態様では、ステップ(a)で準備される第一の親系列は、1つ又は複数又は全ての本発明のポリヌクレオチドを含んで成る同系交配甜菜系列である。この観点の更なる態様では、第二の親系列は、(a)甜菜に影響を及ぼすウイルス、例えばビート壊疽性葉脈黄化ウイルスなど、の少なくとも1つに耐性である同系交配甜菜植物系列;(b)除草剤の少なくとも1つに対して耐性である同系交配甜菜植物系列;及び(c)疾患の少なくとも1つに対して耐性である同系交配甜菜植物系列、から成る群から選択される。甜菜に影響を及ぼす一般的なウイルスと疾患、及びこれらのウイルス又は疾患に対する耐性のための源に関する例は、当業者に知られている。更に、甜菜に使用される除草剤、及びこれらの除草剤に対する耐性の源もまた、当業者に知られている。
【0166】
自家受粉させ、そして多くの世代にわたってタイプを選択した植物は、はぼ全ての遺伝子座においてホモ接合になるので、本当の育種子孫の均一集団を生じる。2つの異なるホモ接合系列の間の交配は、多くの遺伝子座に関してヘテロ接合であり得るハイブリッド植物の均一集団を生じる。多くの遺伝子座に関してそれぞれヘテロ接合性の2つの植物の交配は、遺伝的に異なるハイブリッド植物の集団を生じるので、均一にならないであろう。
【0167】
当該技術分野で知られて、甜菜植物育種プログラムで使用される植物育種方法としては、これだけに限定されるものではないが、循環選択、戻し交配、系統育種、制限長多型増大選択(restriction length polymorphism enhanced selection)、遺伝子マーカー増大選択(genetic marker enhanced selection)、及び形質転換が挙げられる。甜菜植物育種プログラムによる甜菜ハイブリッドの開発には、一般に、ホモ接合同系交配系列の開発、これらの系列の交配、及び交配の評価が必要である。系統育種と循環選択育種法は、育種集団から同系交配系列を開発するのに使用される。甜菜植物育種プログラムでは、自殖と所望の表現型の選択によってそこから新しい同系交配系列が開発される育種プールの中に2つ以上の同系交配系列又は他の様々な胚形質起源からの遺伝的背景を組み合わせる。新しい同系交配体は、他の同系交配系列と交配され、そして商業的に可能性があるか判断するために、これらの交配からのハイブリッド体が評価される。甜菜植物育種プログラムで実施される植物育種及びハイブリッド体開発は、高価であり、そして時間のかかる工程である。
【0168】
系統育種は、それぞれがもう一方に欠けているか又はもう一方の補完となる1又は複数の望ましい特徴を有することができる2つの遺伝子型の交配から始まる。2体の元親が所望の特徴の全てを提供しない場合には、他の起源を育種集団に含むこともできる。系統法では、優れた植物を自殖させ、そして後に続く世代において選択する。後世では、自家受粉と選択の結果として、ヘテロ接合状態がホモ接合系列に移行する。通常、系統法の育種では、5世代以上の自殖と選択が実施される:F1→F2;F2→F3;F3→F4;F4→F5;など。
【0169】
循環選択育種、例えば戻し交配は、それらの同系交配体を使用して作製された同系交配系列とハイブリッド体を改善するのに使用できる。戻し交配は、特定の望ましい形質をある同系交配体又は源からその形質を欠いている同系交配体に伝えるのに使用できる。これは、例えば、優れた同系交配体(反復親)の、着目の形質に適当な遺伝子を担持するドナー同系交配体(一回親)との一代交配によって達成されることができる。この交配の子孫は、その後、優れた反復親と戻し交配され、それに続いて一回親から伝えられた所望の形質に関して得られた子孫の中で選択する。所望の形質に関する選択を伴った5代以上の戻し交配の後に、子孫は、伝えられた特徴を制御する遺伝子座に関してホモ接合であるが、その他の遺伝子の実質的に全てに関して優れた親のようであろう。その後、最後の戻し交配世代を自殖させて、そして伝えらた(単数もしくは複数の)遺伝子に関して純粋な育種子孫を与える。(単数もしくは複数の)伝えられた遺伝子を含む同系交配体から開発されたハイブリッド体は、伝えられた遺伝子を含まない同じ同系交配体から開発されたハイブリッド体と実質的に同じである。
【0170】
優良同系交配系列、即ち、純粋育種、ホモ接合同系交配系列もまた、育種のための出発物質又はそこから他の同系交配系列が開発される起源集団として使用されることができる。優良同系交配系列から得られたこれらの同系交配系列は、先に記載した系統育種法及び循環選択育種法を使用して開発されることができる。例としては、甜菜植物育種プログラムでこれらの派生系を作り出すのに戻し交配育種法が使用される時、優良同系交配が、親系列、又は出発物質もしくは起源集団として使用されることができ、そしてドナー又は反復親としての役割を果たすことができる。
【0171】
単交配ハイブリッドは2つの同系交配系列の交配から生じ、そのそれぞれがもう一方の遺伝子型の補完となる遺伝子型を有する。第一世代のハイブリッド子孫はF1と示される。甜菜植物育種プログラムにおける、商業的ハイブリッドの開発では、F1ハイブリッド植物だけが求められている。好ましいF1ハイブリッドはそれらの同系交配親より活力がある。このハイブリッド強勢、又は雑種強勢は、栄養成長の増強や増収を含めた多くの多遺伝子性形質で示され得る。
【0172】
甜菜植物育種プログラムにおける甜菜ハイブリッドの開発は、以下の3つのステップ:(1)最初の育種交配のための様々な生殖細胞質プールからの植物の選択;(2)互いに異なるが、純種を生じ、高度に均一である一連の同系交配系列を生み出すための、数世代にわたる育種交配から選択された植物の自殖;そして(3)ハイブリッド子孫(F1)を生み出すための、選択された同系交配系列の異なる同系交配系列との交配、を伴う。甜菜における同系交配過程の間、系列の強勢は減少する。2つの異なる同系交配系列が配されて、ハイブリッド子孫(F1)を生じる時、強勢が回復する。同系交配系列のホモ接合性とヘテロ接合性の重要な因果関係は、規定された同系交配体対の間のハイブリッドが常に同じになるということである。優れたハイブリッドをもたらす同系交配体が一旦同定されると、ハイブリッド種子は、同系交配親のホモ接合性が維持される限り無制限に再形成させることができる。
【0173】
2つの同系交配系列が配されてF1子孫を生じる時、単交配ハイブリッドが生み出される。複交配ハイブリッドは、対で交配され(A×BとC×D)、次いでその2つのF1ハイブリッドが再び交配される(A×B)×(C×D)、4つの同系交配系列から生み出される。三系交配ハイブリッドは、2つの同系交配系列が交配され(A×B)、次いで得られたF1ハイブリッドが第3の同系交配体と交配される(A×B)×C、3つの同系交配系列から生じる。F1ハイブリッドによって示される多くのハイブリッド強勢は、次世代(F2)で失われる。その結果、ハイブリッド体からの種子が、種蒔き用の貯蔵に使用されることはない。
【0174】
ハイブリッド種子生産において、雌親による花粉形成を排除又は不活化することが好ましい。花粉の不完全な除去又は不活性化が自家受粉の可能性を与える。不注意な自家受粉種子が、気付かずに収穫され、そしてハイブリッド種子と一緒に包装される可能性もある。種子が一旦植え付けられれば、これらの自家受粉植物を同定し、そして選択することは可能である。これらの自家受粉植物は、ハイブリッドを作製するのに使用した雌同系交配系列と遺伝的に同等であるだろう。通常、これらの自家受粉植物は、減少した活力により同定され、そして選択される。雌の自家受粉は、植物特徴及び/又は生殖特徴に関して活力の低下した外観によって同定される。これらの自家受粉系列の識別もまた、分子マーカー分析により達成されることができる。しかしながら、商業的ハイブリッド種子生産において自家受粉を除外することによって雑種強勢の利用を確実にする簡単で効果的な受粉調節システムが存在する。親の一方が自家受粉できない自己不和合(SI)、細胞質雄性不稔(CMS)、もしくは核雄性不稔(NMS)植物であるか、又は花粉を産生できないのであれば、他家受粉だけが起こるだろう。交配における片親変種の花粉を排除することによって、植物育種家は、親が均一な品質であり、且つ、育種家が単交配を行うことを条件に、均一な品質のハイブリッド種子を得ることを確信する。細胞質雄性不稔(CMS)は、母性遺伝現象であり、その遺伝的決定因子は細胞小器官であるミトコンドリアのゲノム内に位置している。そのような植物は、機能的な花粉粒を産生する能力が大きく損なわれている。CMS系の稔性回復遺伝子は、優性核内遺伝子であり、それが細胞質の雄性不稔効果を抑制する。CMS植物における雄性不稔の発現は、劣性核内遺伝子と雄性不稔特異的細胞質ゲノムの間の不適合性の結果である。
【0175】
好ましい態様では、CMS系が、本発明のハイブリッド甜菜植物の生産に適用される。そのような系では、雄親として使用される雄性稔性系列によって受粉される雄性不稔CMS系列が雌親として使用される。
【0176】
本発明に係る遅延抽苔の形質は、CMS雄性不稔(雌)親系列もしくは雄性稔性(雄)親系列に、又はその両方にさえ存在している。好ましくは、遅延抽苔の形質は、雄親によって取り除かれた形質を含む花粉を介したGM混入を避けるために雄性不稔側に保持される。
【0177】
当業者には容易に明らかであるように、上記のものは、他の甜菜系列に本発明のトランスジェニック遺伝子型を遺伝子移入することを目指す者により、本発明の同系交配がそれによって得られる可能性がある様々な方法のうちのいくつかにすぎない。その他の手段は、利用されることができ、且つ、当業者に知られているので、上記の例は実例にすぎない。
【0178】
一般的に、ハイブリッド生産に使用される第二の親系列もまた、例えば本発明の甜菜植物のような遅延抽苔の表現型を有する甜菜植物系列であることができる。好ましくは、ハイブリッド種子の生産で用いられる第一の親系列と第二の親系列は、遺伝的に多様な背景に基づいている。遺伝距離は、例えば、Knaak(1996)に記載されているような分子マーカーの使用によって計測されることができる。しかしながら、第二の親系列はまた、例えば、これだけに限定されるものではないが、(例えば、欧州特許出願EP-A1-1597373号(本明細書中に援用)に記載のH7-1現象を含む)グリホサート耐性のような別の着目の形質を含んで成る同系交配甜菜である可能性もある。得られたハイブリッド種子は、遅延抽苔と除草剤グリホサートのスタックされた形質を含むであろう。除草剤耐性、耐病性、又は(Holly又はC48のような)従来の起源からのBNYVV又はBNYVV以外のウイルスに対する耐性のような更なる形質もまた、ハイブリッド種子における本発明のトランスジェニック遺伝子型とのスタッキングのために第二の親系列に含まれる可能性がある。他の組み合わせ又はスタックが本発明のトランスジェニック遺伝子型を用いて行われることができ、それにより、これらの例を制限的なものとして見なすべきでないことが更に認識されるであろう。
【0179】
本発明の別の好ましい態様は、遅延抽苔の表現型を有する甜菜植物のハイブリッド種子に関する。本発明の一観点では、上述したハイブリッド種子は、本発明の遅延抽苔の表現型を有する甜菜植物の甜菜ハイブリッド種子の生産方法によって生産される。そのような方法は当業者に知られている。本発明の更に別の観点では、遅延抽苔の表現型を有するハイブリッド甜菜植物が、本発明のハイブリッド種子を栽培することによって作り出されるものを提供する。好ましくは、このハイブリッド植物は全く抽苔しない、即ち、春化反応の完全抑制を示す。本発明の更なる好ましい態様は、上述した本発明のハイブリッド甜菜植物の部分に関する。好ましくは、上述した部分は、種子、胚、小胞子、接合体、プロトプラスト、細胞、胚珠、花粉、主根、子葉、又はその他の繁殖部分か植物部分、或いは抽出物もしくはサンプルを含んで成る群から選択される。
【0180】
本発明の他の観点によれば、生物学的サンプル中の本発明の核酸配列又はキメラ構成物の存在を検出する方法が提供される。それらの方法は:(a)本発明の核酸配列又はキメラ構成物を担持する甜菜からのゲノムDNAを用いた核酸増幅反応に使用されると本発明の甜菜に特徴的である増幅生成物を生じさせる一対のプライマーと、DNAを含んでいるサンプルとを接触させ;(b)核酸増幅反応を実施し、その結果、増幅生成物を生じさせ;そして(c)増幅生成物を検出する、を含んで成る。増幅生成物の検出は、これだけに限定されるものではないが、蛍光、化学発光、放射線学的、免疫学的、又はその他の方法を含めた当該技術分野で周知の手段によって行われることができる。増幅生成物を作り出すための特定の配列の増幅手段としてハイブリダイゼーションを使用することを意図する場合には、当該技術分野で周知の任意の手段による増幅生成物の生産と検出が、1つのプローブもしくはプライマーが利用される標的配列への、又は2つ以上のプローブもしくはプライマーが利用される配列への計画的なハイブリダイゼーションを示すことを意図している。
【0181】
砂糖を製造するために本発明の甜菜植物、その細胞、組織、生物学的サンプル又は抽出物が加工される砂糖の製造方法が更に組み入れられる。更に、砂糖が本発明によって提供される、つまり、砂糖は本発明の砂糖の製造方法によって製造される。砂糖の製造方法は、当業者に知られている従来の砂糖製造方法のいずれかである。
【0182】
別の好ましい観点は、1又は複数のバイオ燃料を製造するための本発明のトランスジェニック甜菜植物、或いはその細胞もしくは組織、又は生物学的サンプルもしくは抽出物を加工することによる、エタノール、バイオガス、及び/又はバイオディーゼルを含んで成る群から選択される1又は複数のバイオ燃料の製造方法に関する。バイオ燃料は、植物材料の好気性又は嫌気性発酵によって得られるバイオ燃料のいずれかである。好気性発酵によって得られるバイオ燃料の制限されることのない例は、バイオエタノールである。嫌気性発酵によって得ることができるバイオ燃料としては、これだけに限定されるものではないが、バイオガス及び/又はバイオディーゼルが挙げられる。好気性及び/又は嫌気性発酵の方法は当業者に知られている。本発明の1又は複数のバイオ燃料の製造方法によって製造される、エタノール、バイオガス、及び/又はバイオディーゼルから成る群から選択されるバイオ燃料が本発明によって更に組み入れられる。
【0183】
別の好ましい観点では、本発明は、B遺伝子座のところ又はそれに近接して、特にマーカーMP01761及びGJ01の1cM上流の距離のところに位置づけられそしてマーカーGJ131(Mohring S. et al., 2004;Gaafar R.M. et al., 2005)と同時分離するポリヌクレオチド・マーカーを提供する(図5)。
【0184】
本発明は更に、その変種と誘導体を含めた甜菜ゲノム内で同定されたポリヌクレオチド・マーカーに関し、そのポリヌクレオチド・マーカーは甜菜において抽苔遺伝子(B遺伝子)関連表現型と完全な同時分離を示すゲノムDNA領域から得ることができる核酸配列に基づいて開発された、そしてここで上記マーカーは、一年生遺伝子型と二年生遺伝子型の間の、又は一年生表現型と二年生表現型を示す甜菜植物の植物分類の中の異なるハプロタイプ間の識別を可能にする。好ましい態様では、本発明のポリヌクレオチド・マーカーは、本発明に係る上述した核酸配列の1又は複数から得ることができる核酸配列を持つ。好ましくは、本発明のポリヌクレオチド・マーカーは更に、1又は数個の多型、特にSNP、SSR、少なくとも1つのヌクレオチドの欠失又は挿入に基づく多型、とりわけSNPに基づく多型、を含んで成り、その多型はB遺伝子座のB対立遺伝子について診断される。そのようなポリヌクレオチド・マーカーは、好ましくは、本明細書中の配列番号8として記載され、且つ、表7-1(更に図10に与えられる)及び7-2(更に図11に与えられる)に示されるゲノム配列セットの中の異なる対立遺伝子内に存在する様々なSNPの少なくとも1つを検出することができ、ここで上述したポリヌクレオチド・マーカーは、特に一年生甜菜系列と二年生甜菜系列の間の、異なる対立遺伝子を識別することができる。好ましい態様では、本発明のポリヌクレオチド・マーカーは、配列番号8として記載され、且つ、表7-1(更に図10に与えられる)及び7-2(更に図11に与えられる)に示される配列セットの224、351、615、897、1082、1841、1915、2334、11592、12316、12490、又は12544位におけるSNPを含んで成る群から選択される少なくとも1つのSNPを検出できる。本発明の更なる観点は、本発明に係る上述した複数のポリヌクレオチド・マーカーを含んで成る一組のポリヌクレオチド・マーカーに関する。これに関連して、「複数」という用語は、2以上のポリヌクレオチド・マーカーのセットを指し、そしてそれは2、3又はそれより多いマーカーから成ることが好ましい。
【0185】
本発明の一観点では、本明細書中に明確に開示されていないマーカー又はいまだ同定さえされていないマーカーを開発しそして使用することもできる。本明細書に与えられた情報に基づいて、当業者は、本明細書中に明確に開示されていないが抽苔遺伝子もしくはB遺伝子に遺伝的に密接に連鎖するか又は好ましくは該遺伝子内に位置するか、或いは本明細書中に開示されたマーカーに関連するマーカーを同定し又は開発することが可能であろう。当業者は、他のマーカーがスクリーニングアッセイ及びマーカー補助選択における少なくとも同等の有用性を提供できることを理解する。
【0186】
分子マーカー、好ましくはEnd point TaqMan(登録商標)は、例えば一年生及び二年生植物から増幅させた配列決定したPCR生成物から特徴づけたSNPに基づいて開発することができる。よって、幾つかのPCR増幅は、該遺伝子の全配列を包含するために実施できるだろう。異なる一年生及び二年生遺伝子バックグラウンドの中で新規分子マーカーを試験して、分子試験のロバスト性を評価するだろう。
【0187】
一態様では、分子マーカーはPCRにより増幅されたDNA断片、例えばSSRマーカー又はRAPDマーカーである。一態様では、増幅されたDNA断片の存在又は不在が、形質それ自体の又は該形質の特定対立遺伝子の存在又は不在の指標である。一態様では、増幅されたDNA断片の長さの差が、形質の特定対立遺伝子の存在の指標であり、よってその形質の異なる対立遺伝子間を識別することができる。
【0188】
本発明の特定の態様では、単一配列反復(SSR)マーカーを使用して、親植物及び/又はその先祖並びに前記親植物の交配から生じた子孫植物における本発明に関連する対立遺伝子を同定する。
【0189】
B遺伝子領域に連鎖不均衡にある及び/又はそれに関連する及び/又はその中に位置するマーカー、並びに二年生遺伝子型の原因である実際の原因の変異を表すマーカーを同定しそして/又は開発するための使用することができる、当業者に既知である幾つかの更なる方法又はアプローチが利用可能である。完全に徹底的ではなくても、当業者に既知である幾つかのアプローチとしては、次のものが挙げられる:
【0190】
‐着目の領域中の別の配列を同定するためのハイブリダイゼーションアプローチにおける開示されたマーカー/配列の使用:本明細書中に開示されたプライマー配列及び/又はそのプライマー配列を使って決定することができるマーカー/遺伝子配列(又はその部分)を、該マーカーに隣接する及び/又はゲノム核酸試料及び/又はRNAもしくはcDNA試料又は試料のプール(例えばBACライブラリーのようなゲノム源のスクリーニング又はgDNAもしくはcDNAライブラリースクリーニング)からのB遺伝子領域に隣接するそして/又は連結したそして/又は関連したそして/又は特異的な核酸配列/遺伝子を単離する際に(ハイブリダイゼーション)プローブとして使用することができる;
【0191】
‐着目の領域中の別の配列を同定するためのPCRアプローチにおける開示された配列/マーカーの使用:開示されたようなプライマー配列を使って決定することができる本明細書中に開示されたプライマー配列及び/又はマーカー/(候補)遺伝子配列(もしくはその部分)を、ゲノム核酸試料及び/又はRNAもしくはcDNA試料又は特定の植物組織から単離されたか単離されていない及び/又は植物の特定の処理後に甜菜から又は理論上は十分な相同性を有する別の生物体から単離されたか単離されていない試料のプールからのQLT領域に隣接するそして/又は関連したそして/又は特異的な核酸配列/遺伝子を増幅するための(PCR)増幅プライマーとして使用することができる;
【0192】
‐着目の領域中の別の配列を同定するためのPCRアプローチにおける開示された配列/マーカーの使用:1又は複数のマーカーのヌクレオチド配列/遺伝子を、前記マーカー配列についての内部プライマーをデザインしそしてB遺伝子領域内の及び/又は遺伝的に連鎖した及び/又は形質と関連した追加の隣接配列/遺伝子を更に決定するために決定することができる;
【0193】
‐同領域(別の地図上のB遺伝子の位置決定)のマーカーを同定するためのマッピング及び/又は比較マッピングアプローチにおける開示された配列/マーカーの使用:本明細書中に開示された位置情報及び/又はマーカー情報に基づいて、遺伝子マッピングアプローチにより、最終的には(高密度)遺伝子地図及び/又は集成遺伝子地図もしくは共通地図上の(既に必要ならば)開示されたマーカーの位置決定により、任意のタイプのマーカーを同定することができる。既に知られているかそして/又は開示されたマーカーに遺伝的に連鎖するかそして/又は開示されたマーカーの付近に位置するマーカーが同定されそして/又は得られ、そして/又は最終的に遺伝子(詳細)マッピング及び/又はB遺伝子クローニング及び/又はMAS育種用途において使用することができる;
【0194】
‐B遺伝子領域中の追加の配列/マーカー(候補)遺伝子を同定するための「in-silico(コンピューター使用)」アプローチにおける開示された配列/マーカーの使用:本明細書中に開示されたプライマー配列を使って又は連鎖したマーカーに基づいて決定することができる本明細書に開示されたプライマー配列及び/又はマーカー(候補)遺伝子配列(もしくはその部分)を、B遺伝子と遺伝的に連鎖するそして/又は本明細書に記載された形質に関連するそして/又はB遺伝子領域に位置する、(追加の)隣接及び/又は相同配列/遺伝子及び/又は対立遺伝子多様性について配列又はタンパク質データベース(例えばBLAST)(唐辛子及び/又は他の生物体に由来するゲノム及び/又はcDNA配列又は更にタンパク質)を調べるための「in-silico」法において使用することができる;
【0195】
‐物理的マッピングアプローチ(物理地図又はゲノム配列上のB遺伝子の位置決定)における開示された配列/マーカーの使用:本明細書中に開示されたプライマー配列を使って又は本明細書に開示されたマーカーに遺伝的に連鎖するそして/又はB遺伝子領域中に位置する別のマーカーを使って、決定することができる本明細書中に開示されたプライマー配列及び/又はマーカー/遺伝子配列(もしくはその部分)は、B遺伝子(詳細なマッピング)又はB遺伝子クローニング及び/又はMAS育種用途に適用可能な(候補)配列/マーカー/遺伝子を同定するために、十分な相同性を有する理論上任意の生物体の物理地図及び/又は(完全)ゲノム配列上に位置決定することができる;
【0196】
‐別の(物理)地図又はゲノム(生物種間)上にB遺伝子を位置づけるための開示された配列/マーカーの使用:本明細書中に開示されたプライマー配列を使って決定することができる本明細書中に開示されたプライマー配列及び/又はマーカー/遺伝子配列(又はその部分)は、B遺伝子領域に遺伝的に連鎖したそして/又はB遺伝子領域中に位置し、そしてB遺伝子(詳細)マッピング及び/又はB遺伝子クローニング及び/又はMAS育種用途に適用可能である、相同領域及び相同及び/又はオーソロガス遺伝子配列/(候補)遺伝子を同定するための、比較ゲノム又は合成マッピングアプローチにおいて使用することができる;
【0197】
‐遺伝子アプローチによる着目の領域中のマーカーの同定を可能にする適当な個体を選択するための開示された配列/マーカーの使用:本明細書中に開示されたプライマー配列及び/又はマーカーを、異なる/対照的なB遺伝子対立遺伝子を有する個体を選択するために使用することができる。遺伝子関連アプローチ及び/又は嵩高セグメント分析(BSA;Michelmore et al., 1991)を、着目の及び/又は記載の形質に関連するか又は遺伝的に連鎖した特定領域(B遺伝子領域)においてマーカー/遺伝子を同定するために使用することができる;又は
【0198】
‐(位置)候補遺伝子について研究するための開示された情報の使用:開示された方法を使って、記載の形質と関連した及び/又は遺伝的に連鎖した位置及び/又は機能的候補遺伝子を同定することができる。
【0199】
本発明の別の特定の態様では、単一ヌクレオチド多型に基づいたマーカーを使用し、親植物及び/又はその祖先並びに前記親植物の交配から生じた子孫植物における本発明に関連する対立遺伝子を同定する。
【0200】
甜菜の市販の種子生産の大部分は、南フランスと北イタリアで行われている。両地域では、一年生の雑草ビートの存在が種子生産中に花粉混入を引き起こし、市販の種子に一年生を引き起こしている。これは消費者に受け入れられず、従って全ての市販の種子ロットは、種子の収穫直後に野生ビートが全く生育しないアルゼンチンのような地域で栽培される。植物は春化されず、抽苔の存在を用いて一年生植物が混入した種子ロットを同定する。
【0201】
そのため、本発明に係るポリヌクレオチド・マーカーは、一年生の混入について市販の二年生の甜菜をスクリーニングすることにより市販の種子ロットの品質管理に、及び育種プログラムにおける一年生/二年生を同定するために使用することができ、これは育種法を促進するために一年生形質を使用するか、又は一年生形質を遺伝子変異の新たな源と一緒に導入する時に使用することができる。
【0202】
本発明に係る上述した遺伝子配列に基づいた様々なアッセイを開発することができ、そして一年生対立遺伝子の存在又は不在について植物材料をスクリーニングするのに使用することができる。
【0203】
今までに、遺伝子マッピング、遺伝子クローニング、マーカーにより補助される植物育種、及びゲノムフィンガープリンティング及び遺伝子関係の研究に使用することができる分子マーカー技術が開発されている。遺伝子マーカーは、ゲノム領域のヌクレオチド配列中のDNA多型に基づいて開発されており、そして制限酵素により又は2つのプライム部位により検出することができる。制限断片長多型(RFLP)、多型DNAのランダム増幅(RAPD)、増幅制限断片長多型(AFLP)、単一配列反復(SSR)及び単一ヌクレオチド多型(SNP)をはじめとするマーカー補助選択に使用することができる幾つかの種類の分子マーカーが存在する。
【0204】
異なるタイプのマーカーの情報内容は、マーカーを採点するマーカーデータ及び集団を得るために使用される方法に依存して異なりうる。例えば、ヘテロ接合断片からのヘテロ接合状態で存在するゲノム断片を識別することは常に可能なわけではない。F2のようなヘテロ接合集団では、制限酵素断片長多型(PFLP;Botstein et al., 1980)及び優性的に採点される増幅断片長多型(AFLP;Vos et al., 1995)のような同時優性(co-dominant)マーカーは、ランダム増幅多型DNA(RAPD;Wels and MzCleland, 1990)及び優性的に採点されるAFLPのような優性マーカーよりも多くの情報を提供する。RFLPは同時優性であり、ユニークな遺伝子座を同定することができる。RFLPは、特定の短い制限部位の所で染色体DNAを切断するための制限酵素の使用を含み、多型は、その部位の間の重複もしくは欠失又はその制限部位の所の突然変異から生じる。
【0205】
AFLPは、特異的断片を増幅するためのプライマーに使用する選択的ヌクレオチド及びPCRを使用する前に制限酵素での細胞DNAの消化を必要とする。この方法を使って、100までの多型遺伝子座を測定することができ、比較的少量のDNA試料だけが各試験に必要である。
【0206】
植物ゲノムの多型領域に及ぶヌクレオチド断片の増幅を達成する最も好ましい方法は、二重鎖形中の多型を限定する近位配列にハイブリダイズすることができる逆及び正プライマーを含むプライマー対を使用するポリメラーゼ連鎖反応(「PCR」)(Mullis et al., 1986)を使用する。
【0207】
RFLPに比較して、PCR技術は、PCR増幅により多量の標的配列を生成するために鋳型として少ない割合(ほぼ10%)のDNA量だけを必要とする。
1つのそのようなPCR技術はRAPDであり、これは匿名のDNA断片の鎖特異的アレイを作製するために任意配列の単一プライマーを用いた低緊縮性ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用する。この方法は、微量のDNA試料だけを必要とし、多量の多型遺伝子座を分析する。しかしながら、多数の反応条件により影響を受ける短いプライマーの予測できない挙動、優性形式での遺伝形質、及び集団特異性がRAPDの主な欠点である。
【0208】
マイクロサテライト、又は単純配列反復(SSR)、単純配列長多型(SSLP)、短い盾列反復(STR)、単純配列モチーフ(SSM)及び配列標的マイクロサテライト(STM)は、真核生物のゲノム全体に渡り広く分布している1組の繰り返し配列を表す。この反復配列の数及び長さの変動は、密接に関連した個体間でさえも多型の源である。SSR分析は、単純な配列反復の変異を検出するために選択的に増幅されるそれらの(短い繰り返し)配列に基づく。そのようなマイクロサテライト配列は、一対の隣接する遺伝子座特異的オリゴヌクレオチドをプライマーとして使用したPCRにより容易に増幅することができ、そしてDNA長多型を検出することができる(Litt and Luty, 1989;Weber and May, 1989)。
【0209】
部分置換、欠失又は挿入をもたらす単一ヌクレオチド位置での変異は、単一ヌクレオチド多型又はSNPをもたらし、これはヒトでほぼ1.3 kb毎に存在する(Cooper et al., 1985;Kwok et al., 1996)。この種の多型の大部分は、2つの対立遺伝子のみを有し、二対立遺伝子とも呼ばれる。SNPに基づいた位置クローニングは、病気形質の同定及び生物学的な情報変異の範囲の同定を促進することができる(Wang et al., 1998)。
【0210】
点変異を効率的に感知するPCR伸長アッセイは、SNPを検出するために使用することができる。この手順は試料当たり少量のDNAしか必要としない。3つの広く利用されているPCR法を使用するSNP検出アッセイは、開裂増幅多型配列(CAPS)(Konieczny and Ausubel, 1993;Thiel et al., 1998)、誘導CAPS(dCAPS)(Michaels and Amasino, 1998;Neff et al., 1998)及び一本鎖コンホメーション多型(SSCP)(Orita et al., 1989)である。
【0211】
CAPS多型は、遺伝子座特異的オリゴヌクレオチドプライマーにより生成されたPCRアンプリコン中のエンドヌクレアーゼ認識部位を作製するか又は削除するSNP又はINDELにより引き起こされる制限断片長の差異である。CAPSアッセイは、1又は複数の制限酵素により遺伝子座特異的PCRアンプリコンを消化し、次いでアガロース又はポリアクリルアミドゲル上で消化DNAを分離することにより実施される。
【0212】
dCAPSは、不正対合したPCRプライマーを使って大部分の単一ヌクレオチド変異の検出を可能にするCAPS技術の変形である。この方法を使って、SNPを含む制限酵素認識部位を、鋳型DNAに対する1又は複数の不正対合によりPCR生成物中に導入する。この方法で修飾されたPCR生成物を、次いで制限酵素消化にかけ、そしてSNPの存在又は不在を制限消化パターンにより決定する。
【0213】
SSCP技術は、未変性ゲル上で変性二本鎖DNAを分離し、そして一本鎖DNAの二次構造、並びに分子量を決定してゲル移動度を決定できるようにする。
【0214】
ARMS(増幅耐性変異系)−PCR手順(Ye et al., 2001)は、SNP遺伝子型決定に単一のPCRの使用を必要とする(Fan et al., 2003;Chiapparino et al., 2004)。2つのプライマー対を使用する四プライマーを使って、1回のPCR反応でSNPの2つの異なる対立遺伝子を増幅する。
【0215】
別の方法を使ってそのような断片を増幅してもよく、例えば、2対のオリゴヌクレオチドプローブを使用して特異的標的を指数関数的に増幅する「リガーゼ連鎖反応」(「LCR))(Barany, F., 1991)を使用してもよい。各対のオリゴヌクレオチドの配列は、そのプローブ対が標的の同一鎖の隣接配列にハイブリダイズできるように選択される。そのようなハイブリダイゼーションは、鋳型依存性リガーゼの基質を形成する。PCRと同様に、そのように得られた生成物はその後のサイクルにおける基質として働き、所望の配列の指数関数的増幅が得られる。
【0216】
LCRは、多型部位の同一鎖の近位及び遠位配列を有するオリゴヌクレオチドを使って実施することができる。一態様では、いずれかのオリゴヌクレオチドが多型の実際の多型部位を含むようにデザインされるだろう。そのような態様では、反応条件は、標的分子がオリゴヌクレオチド上に存在する多型部位に相補的である特異的ヌクレオチドを含むか又は欠いている場合にのみ、オリゴヌクレオチドが一緒に連結することができるように選択される。或いは、オリゴヌクレオチドは、それらが多型部位を含まないように選択することもできる(Segav, PCT出願WO 90/01069を参照のこと)。
【0217】
他に使用することができる別法は「オリゴヌクレオチド連結アッセイ」(「OLA」)(Landegren et al., 1988)である。OLAプロトコルは、標的の一本鎖の隣接配列にハイブリダイズすることができるようにデザインされた2つのオリゴヌクレオチドを使用する。OLAは、LCRと同様に点変異の検出に適している。しかしながらLCRとは異なり、OLAは標的配列の指数関数的増幅よりもむしろ「直線状」増幅をもたらす。
【0218】
Nickerson et al., 1990は、PCRとOLAの特性を組み合わせた核酸検出アッセイを記載している(Nickerson et al., 1990)。この方法では、標的DNAの指数関数的増幅を達成するのにPCRを使用し、次いでOLAを使って検出する。多数の、別々の後処理段階を必要とすることに加えて、そのような組み合わせに関連する1つの問題点は、それらがPCRとOLAに関連した問題の全てを受け継ぐことである。
【0219】
「生じたジ−オリゴヌクレオチド」の配列を有し、従ってジオリゴヌクレオチドを増幅する2つ(又はそれ以上)のオリゴヌクレオチドの連結に基づくスキームも知られており(Wu and Wallence, 1989)、本発明の目的に容易に適応することができる。
【0220】
本発明の更に別の態様では、少なくとも1つのヌクレオチドの欠失又は挿入(「INDEL」)に基づいたマーカーを使って、親植物及び/又はその先祖並びに前記親植物の交配から生じた子孫植物における本発明に関連する対立遺伝子を同定する。それらのマーカーは、本発明に係る上述したポリヌクレオチドの配列に基づいて開発することができる。
【0221】
特に、本発明に係るマーカーは、対立遺伝子識別アッセイにおいて、特に二年生遺伝子型を表す甜菜植物の植物分類の中の様々なハプロタイプ間を区別するためのアッセイにおいて使用することができる。前記アッセイは、例えばそれぞれ配列番号13と配列番号14に与えられる正プライマーPRR7(T1)-Fと逆プライマーPRR7(T1)-Rに基づいたPCR増幅により得られるBvPRR7遺伝子の部分領域に相補的である2つの別々のプローブ分子を含んで成る一組のプロープポリヌクレオチドに基づいており、前記プローブ分子は1つの塩基不対合によってのみ異なっている、プローブPRR7(T1)-VIC(配列番号15)とPRR7(T1)-FAM(配列番号16)である。
【0222】
更なる好ましい組は、配列番号49正プライマーPRR7(T6)-Fと配列番号50に与えられた逆プライマーPRR7(T6)-Rそれと共にプローブPRR7(T6)-VIC(配列番号51)とPRR7(T6)-FAM(配列番号52)、並びに配列番号55に与えられた正プライマー1r22(T1)-Fと配列番号56に与えられた逆プライマーの1r22(T1)-Rそれと共にプローブ1r22(T1)-VIC(配列番号57)と1r22(T1)-FAM(配列番号58)である。
【0223】
一組のプローブ・ポリヌクレオチドが使用されるそうしたアッセイは、少なくとも1つの塩基不対合によって異なるが、特に隣接した部位に位置している2つ以上の塩基不対合によって異なり、とりわけ1つの単独塩基不対合によって異なる少なくとも2つの別々のプローブ分子を含むことが好ましい。ここで、第一のプローブ分子、特に標識されたプローブ分子、より特には第一の蛍光色素及び消光剤で標識されたプローブ分子が一方の対立遺伝子を表し、そして、第二のプローブ分子、特に標識されたプローブ分子、より特には(第一の色素と同一ではない)第二の蛍光色素及び消光剤で標識されたプローブ分子がもう一方の対立遺伝子を表し、そしてここで、上述したプローブ・ポリヌクレオチドの組は2つの対立遺伝子変異体を識別するのに使用される。更に、2つの異なる蛍光標識を利用することができ、その蛍光は容易に識別されることができる。例えば、第一のプローブは(例えばFAMのような)第一の蛍光色素で標識され、そして第二のプローブは(例えばVICのような)第二の蛍光色素で標識される。本発明のそのようなアッセイの好ましい態様では、先に記載した本発明の対立遺伝子識別アッセイのステップb)で得られた増幅断片は更に、二年生対立遺伝子に特異的な配列を含んで成る第2の蛍光標識プローブ分子を用いて調べられる。このアッセイでは、第一のプローブの色素蛍光のみの増大は、一年生対立遺伝子の存在を示している。このアッセイで使用される2つの色素はVICとFAMであることが好ましい。ほとんどの場合、本発明のアッセイは、2つのプライマー(即ち、本発明による一対のプライマー)と一年生対立遺伝子に関する少なくとも1つのプローブを利用することが好ましい。第二のプローブが更に利用されることができ、それは二年生対立遺伝子に関するプローブである。
【0224】
本発明の別の観点では、一年生植物と二年生植物とを特異的に区別することができ、従って例えば種子ロットの品質管理に使用することができる、マーカーを含んで成るアッセイが提供される。
【0225】
特に、本発明はアッセイに関し、そのアッセイは、例えばそれぞれ配列番号13と配列番号14に与えられる正プライマーPRR7(T1)-Fと逆プライマーPRR7(T1)-Rに基づいたPCR増幅により得られるBvPRR7遺伝子の部分領域に相補的である2つの別々のプローブ分子を含んで成る一組のプロープポリヌクレオチドに基づいており、前記プローブ分子は1つの塩基不対合によってのみ異なっている、プローブPRR7(T1)-VIC(配列番号15)とPRR7(T1)-FAM(配列番号16)である。更なる好ましい組は、配列番号49正プライマーPRR7(T6)-Fと配列番号50に与えられた逆プライマーPRR7(T6)-Rそれと共にプローブPRR7(T6)-VIC(配列番号51)とPRR7(T6)-FAM(配列番号52)、並びに配列番号55に与えられた正プライマー1r22(T1)-Fと配列番号56に与えられた逆プライマーの1r22(T1)-Rそれと共にプローブ1r22(T1)-VIC(配列番号57)と1r22(T1)-FAM(配列番号58)である。
【0226】
本発明の別の観点は、市販の種子中の一年生混入を同定する方法を提供する。好ましくは、この方法は、本発明に係る本明細書中に記載したマーカー補助対立遺伝子識別アッセイの使用を含んで成る。
以下の実施例は、本発明の1以上の好ましい態様を例証することのみを意図しており、本発明の範囲を限定するものと解釈されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0227】
【図1】様々な種間のRECドメイン及び甜菜EST CV301305の推定RECドメインのアミノ酸配列比較。同一アミノ酸は黒色で;保存アミノ酸は灰色で;僅かに類似のアミノ酸は薄灰色で;そして非類似アミノ酸は白色で示される。Bb、ボルデテラ・ブロンキセプチカ(Bordetella bronchiseptica);Bs、バシラス・サチリス(Bacillus subtilis);Bv、ベータ・ブルガリス(Beta vulgaris);Ec、エシェリキア・コリ(Escherichia coli);Kp、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae);Pa、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa);Rc、ロドバクター・カプスラツス(Rodobacter capsulatus);Sc、ストレプトマイセス・セリコロル(Streptomyces coelicolor);Sf、シゲラ・フレクスネリ(Shigella flexneri);St、サルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhmurium)。
【図2】アラビドプシスPRR7タンパク質及び甜菜EST CV301305からの推定部分タンパク質のアミノ酸配列比較。同一アミノ酸は黒色で;類似アミノ酸は灰色でそして非類似アミノ酸は白色で囲まれている。
【図3−1】アラビドプシスPRR7遺伝子と甜菜EST CV301305のゲノム及びmRNA配列間の配列の整列。アラビドプシスとベータ・ブルガリス(Beta vulgaris L.)間で保存されたヌクレオチドは灰色で示される。イントロンはダッシュで表される。
【図3−2】図3−1のつづき。
【図4】甜菜染色体IIの遺伝子地図。マーカー名は染色体の右側に与えられ、累積遺伝子距離は左側に示される。
【図5】推定エキソンとイントロンを示すBvPRR7遺伝子の遺伝子構造の概略。EST CV301305により包含される領域は黒色の矢印により示される。
【図6−1】アラビドプシスPRR遺伝子ファミリー構成員及びBvPRR7タンパク質のアミノ酸配列比較。同一アミノ酸は黒色で;保存アミノ酸は灰色で;僅かに類似のアミノ酸は薄い灰色で;そして非類似アミノ酸は白色で示される。
【図6−2】図6−1のつづき。
【図7】Neibor-Joininig法(Saitou and Nei, 1987)を使うことによる、甜菜からのPRR7相同体、アラビドプシス・タリアナ(Arabidopsis thaliana)(TOC1、NP_200946;PRR3、NP_568919;PRR5、NP_568446;PRR7、NP_568107;及びPRR9、NP_566085)、オリザ・サチバ(Oryza sativa)(PRR37、Q0D3B6)、ホルデウム・ブルカレ(Hordeum vulgare)(PPD-H1、AAY17586)並びにトリチカム・エスチブム(Triticum aestivum)(PPD-D1、ABL09477)を含めたいくつかの植物種からのPRR遺伝子ファミリーの複数の構成員の系統発生学的分析に基づくBvPRR7とその他の開花植物からの関連タンパク質との系統発生学的関係。1000の複製物から推測されたブートストラップ共通系統樹を、分析した分類群の発生歴を表すために取る(Feisenstein, 1985)。50%未満のブートストラップにおいて再生される区分に相当する分枝を崩壊させる。関連する分類群がブートストラップ試験(1000複製物)において一緒にクラスター形成した複製物の割合は、その分枝の隣に表示される。この系統樹は、発生学的系統樹を推測するのに使用した発生距離のものと同じ単位の分枝長を使って、一定の縮尺で描かれる。発生距離は、Poisson補正法(Zuckerkandl and Pauling, 1965)を使って計算され、それは一部位あたりのアミノ酸置換の数の単位である。ギャップを含む全ての位置と欠失データは、データセット(完全欠失オプション)から推定された。最終のデータセットには合計352位置が含まれた。
【図8】一年生甜菜植物及び二年生甜菜植物におけるBvPRR7の日周発現様式。葉組織は24時間の期間にわたり2時間毎に採集された。白色と濃い灰色の背景はそれぞれ明期と暗期を表す。値は幾何的平均化分析(Vandesompele et al., 2002)によりBvlCDH参照遺伝子に対して標準化された相対発現レベルとして表された。エラーバー、±SD。ZT、ツァイトゲーバー時間。
【図9】一組の一年生植物個体と二年生植物個体の間の対立遺伝子識別解析の終点測定値。Y軸とX軸の値は、それぞれFAM色素の蛍光レベルとVIC色素の蛍光レベルを表す。VIC色素蛍光(X軸)のかなりの増大は、二年生対立遺伝子(この図では対立遺伝子Xとも呼ばれる)についてホモ接合性を示すだけである。FAM色素蛍光のかなりの増大は、一年生対立遺伝子(この図では対立遺伝子Yとも呼ばれる)についてホモ接合性を示すだけである。両蛍光シグナルのかなりの増大は、ヘテロ接合性、即ち、B遺伝子座についてヘテロ接合性を有する一年生植物を示す。
【図10】RNAiによるBvPRR7のトランスジェニック抑制に使用される二元ベクターのプラスミド地図。BvPRR7の逆転反復配列は、ジャガイモからのStLS1遺伝子(Eckes et al., 1986; Vancanneyt et al., 1990)の第二イントロンにより分割された、アンチセンス方向とセンス方向の両方でUbi3プロモーター(Norris et al., 1993)とNosターミネーターの間にクローニングされた0.6 Kb cDNA断片から成った。選択可能マーカーは、HSP80プロモーター(Brunke and Wilson, 1993)の調節下のPMI遺伝子から成った。
【図11】BvPRR7の18個の一年生対立遺伝子と2個の二年生対立遺伝子を比較した時にBvPRR7のプロモーター領域において同定された多型を示す表;表中に示されたSNPの位置は配列番号8に合わせて付番されている。
【図12】BvPRR7の18個の一年生対立遺伝子と2個の二年生対立遺伝子を比較した時にBvPRR7のコード領域において同定された多型を示す表;表中に示されたSNPの位置は配列番号8に合わせて付番されている。
【実施例】
【0228】
次の実施例は例示的態様を提供する。本開示及び当業者の一般技術レベルに照らして、当業者は次の実施例が例示的のみでありそして特許請求される主題の範囲から逸脱することなく多数の修飾、改良及び変更を使用できることを理解するだろう。
【0229】
実施例1:甜菜PRR7遺伝子の特徴づけ
実施例1.1:甜菜からの推定PRR7相同体のマッピング
甜菜における推定抽苔調節遺伝子の同定及び特徴づけのための候補となる遺伝子アプローチに基づいて、受入番号CV301305を有するEST配列を、BLASTを使った相同性検索を用いてPRR7の推定甜菜相同体として同定した。配列番号1は、EST CV301305のヌクレオチド配列を示す。対応するアミノ酸配列は、概日時計で重要な役割を果たしているPRR遺伝子の顕著な特徴である(Nakamichi et al., 2005)Pseudo Response Regulator Receiver(PRR,pfam0072)又はシグナル受容体(REC, cd00156)ドメインの部分配列を示す(図1)。図2は、CV301305のアミノ酸配列とそれの最も近いアラビドプシス相同体であるPRR7との整列を示し、PRR7は温度感受性概日系の一成分として記載されている(Nakamichi, 2007;Salome and McClung,2005)。概日時計は開花時調節を含む植物における幾つかの発育過程を調節することが知られている(Imaizumi and Kay, 2006;Zhou et al., 2007)。
【0230】
上記観察に基づき、アラビドプシスPRR7遺伝子のゲノム配列及びmRNA(それぞれAT5G02810及びNM 120359)とBvPRR7甜菜EST(CV301305)の間の整列を使って、部分的甜菜PRR7断片の推定遺伝子構造を推定し、それは数個の推定インドロン領域の存在を明らかにした(図3)。第三番目のイントロン領域を包含するプライマーPRR7-F及びPRR7-R(配列番号2及び3)は、ゲノム甜菜DNAを鋳型として使って約0.5 Kbの増幅生成物を誘導した。増幅反応用のPCR条件は次の通りであった:95℃で5分間の一次変性、続いて95℃で30秒間、60℃で30秒間及び72℃で30秒間の35増幅サイクル、続いて72℃で5分間。PCR実験はApplied Biosystems Inc.からのGeneAMP PCR System 9600機器においてInvitrogen CorporationからのPlatinum Taq DNAポリメラーゼと対応する反応混合物を使って、供給業者により推奨される通りに実施した。PCR生成物の配列分析は、BvPRR7遺伝子断片のイントロン3の辺りのゲノム配列の再構成を可能にし、長さで296塩基対のイントロンの存在を確かめた(配列番号4)。
【0231】
BvPRR7遺伝子のゲノム断片を増幅させ、そして15の二年生系列と1つの一年生系列から成る甜菜親系列のパネルと交差配列決した。2つの異なるハプロタイプのみが観察されたので、全ての二年生系列はBvPRR7について単一形態を示した:1つは二年生対立遺伝子でもう1つは一年生対立遺伝子(表1)。一年生遺伝形質に分離する集団の中でBvPRR7をマッピングするために、EndPoint TaqMan(登録商標)技術を使って160位のSNP(配列番号4)を標的指向するアッセイを開発した。表2は160位のSNPを標的指向するPRR7(T1)TaqMan(登録商標)アッセイ用にデザインされたプライマー及びプローブのヌクレオチド配列を要約する;反応液は更に、製造業者の推奨に従ってApplied Biosystems Inc.からのPRR7(T1)TaqMan(登録商標)Universal PCR Master Mix, No AmpErase(登録商標)UNG(2×)から成った。PCR増幅は次の通りに実施した:PRISM 7700 Sequence Detector 機器を使って、95℃で10分、続いて95℃で15秒間の40サイクル及び60℃で1分。エンドポイント(EndPoint)測定はSequence Detection System 2.0ソフトウエアを使って実施した。
【0232】
【表1】

【0233】
【表2】

【0234】
上記PRR7(T1)アッセイを使って、160位のSNPについて多型の一年生系列と二年生系列の間の交配から誘導された198の個体のF2集団においてBvPRR7遺伝子をマッピングした。BvPRR7は、春化独立性開花のためのB遺伝子を含むことが知られている(Mohring et al., 2004;Gaafar et al., 2005)GJ131マーカーの下流の約1cMの距離の所の染色体IIにマッピングされた(図4)。PRR7(T1)アッセイの結果は、B遺伝子の推定遺伝子型とBvPRR7遺伝子の遺伝子型との完全な一致を示す。B遺伝子の遺伝子型は、春化独立性開花のための個々のF2植物から誘導されたF3集団の表現型評価に基づいて推定された。表3は、最も近接した組み換え現象を含んで成る9つの個々の子孫についてのB遺伝子領域の詳細な地図の図解を示す。それのマップ位置と温度感受性概日リズムに関連する生物学的機能(Salome and McClung, 2005)の組み合わせは、BvPRR7を明らかに強力な候補にする。
【0235】
【表3】

【0236】
実施例1.2:BvPRR7の全長ゲノム配列の回収
プライマーPRR7-FとPRR7-Rを使って、PCRにより甜菜BACライブラリーをスクリーニングした。該ライブラリーは、市販の二年生栽培品種H20から開発されそして120 Kbの平均挿入断片サイズを有する6つのゲノム等価物を表すように計算された(McGrath et al., 2004)。このライブラリーのDNAプールを、Amplicon Express, Pullman WAにより分配した。DNAプールのスクリーニングのためのPCR条件は次の通りであった:95℃で5分間の一次変性、続いて95℃で30秒間、60℃で3秒間及び72℃で30秒間の35増幅サイクル、続いて72℃で5分間。PCR実験は、Invitrogen CorporationからのPlatinum Taq DNAポリメラーゼ及び対応する反応混合物を使って、供給業者により推奨される通りに、Applied Biosystems 9700機器において行った。その後の供給業者の教示に従ったBvPRR7断片の配列についてのDNAプールのスクリーニングは、BAC SBA079-L24の正の同定をもたらした。
【0237】
BvPRR7遺伝子の全長配列を得るために、454配列決定技術を使った配列分析のためにBASC SBA079-L24をMWG Biotech AG, Germanyに送った。必要であれば、得られたコンティグ間のギャップを従来のサンガー配列決定法により充填し、1つの単一のBvPRR7遺伝子のゲノム配列(配列番号8)を与えた。このゲノム配列とEST CV301305との整列及びアラビドプシスからのPRR7遺伝子に対する配列相同性に基づいて、イントロンとエキソンを含む甜菜BvPRR7遺伝子の推定遺伝子構造を図5に示すように推定した。この推定に基づいて、ゲノム配列はATG開始コドンの上流の3.6 Kb配列とコード領域の下流の2.2 Kbを有する完全なBvPRR7遺伝子に及ぶ。BvPRR7の対応するアミノ酸配列は配列番号11に示される。BvPRR7とアラビドプシスからのPRR遺伝子ファミリーの全構成員、例えばTOC1 (PRR1), PRR3, PRR5, PRR7及びPRR9とのアミノ酸配列の整列は、NH2末端の近くのPRR(Pseudo Regulator Receiver)ドメインモチーフ(pfam00072)及びCOOH末端の所のCTTモチーフ(pfam06203)の強力な保存を表す(図6)。アラビドプシスからのPRR遺伝子ファミリーに加えて、BvPRR7は、図7に示された系統樹により表されるように、穀類のPRR7相同体に対しても強力な相同性を共有する。Beta vulgaris BvPRR7、アラビドプシス・タリアナ(TOC1、NP_200946;PRR3、NP_568919;PRR5、NP_568446;PRR7、NP_568107;及びPRR9、NP_566085)、オリザ・サチバ(PRR37、Q0D3B6)、ホルデウム・ブルカレ(PPD-H1、AAY17586)並びにトリチカム・エスチブム(PPD-D1、ABL09477)を含めたいくつかの植物種からのPRR遺伝子ファミリーの複数の構成員に対するNeibor-Joininig法(Saitou and Nei, 1987)の適用によって、図7に示される系統樹を作成した。ClustalWを使ったアミノ酸配列の整列から未定義の系統樹を作り、そして系統発生学的系統樹をMEGA4(Tamura et al., 2007)によって表示した。1000の複製物についてのブートストラップ値を、各分枝上に示す。驚くべきことに、Ppdとしてもよく知られる穀類のRR7相同体は、甜菜について本明細書中に示差されるような春化反応よりも光周期反応の主な決定因子を表すことが知られている(Turner et al., 2005;Beales et al., 2007)。
【0238】
実施例1.3:B遺伝子座の詳細なマッピング
上記の実施例1.1に記載した初期マッピングの結果に基づいて、マッピングに使用される分子マーカーGJ131とGJ01の周りの領域を埋め、及びB遺伝子の推定遺伝子型とBvPRR7遺伝子の遺伝子型との相関関係を確認するために、非常に詳細な分解能マッピングを開始した。一年生習性に関して分離された数集団から得られた合計5157のF2個体を、2つの隣接マーカーGJ01(T1)とGJ131(T1)(Gaafar et al., 2005)を用いて分析した。2つの隣接マーカーの間で再結合した合計71のF2植物を同定した。従って、B遺伝子のマッピング距離を0.69cMで計算した。それに続いて、組み換え植物を欧州特許出願EP 1 995 320 A1号で開示された通り、上記距離で利用可能な先に記載したPRR7(T1)アッセイ及び9_27(T2)とED031700(T1)アッセイを使用して遺伝子型を決定した。表4には、GJ131(T1)、9_27(T2)、ED031700(T1)、PRR7(T1)、及びGJ01(T1)TaqMan(登録商標)アッセイのためにデザインされたプライマーとプローブのヌクレオチド配列をまとめてある;上記反応には更に、製造業者の推奨に従ってApplied Biosystems Inc.製のTaqMan(登録商標)Universal PCR Master Mix、No AmpErase(登録商標)UNG(2×)を利用した。PCR増幅を、Applied Biosystems 7500 Real-Time PCR System機器を使用して以下の通り実施した:95℃にて10分間、続いて95℃にて15秒間と60℃にて1分間を40サイクル。
【0239】
【表4】

【0240】
B遺伝子の対立遺伝子の状態を、個々のF2植物に対して行われた表現型観察(即ち、18時間の昼と6時間の夜の長日条件下における抽苔又は非抽苔)、並びにF2植物の自殖によって得られた対応する子孫集団から推測した。表5は、様々な組み換え植物に関して得られた遺伝型データ及び表現型データをまとめたB遺伝子領域の詳細な分解能マップの図示表示を提供する。PRR7遺伝子の遺伝子型と全ての組み換え体にわたる表現型との完全な相関関係が、ビートPRR7相同体が実際にはB遺伝子であると結論づけることを可能にする。B遺伝子のそれぞれの側における単一組み換え現象を想定する時、一年生習性のためのB遺伝子の先端に同時局在化しているPRR7遺伝子とB遺伝子のマッピング距離はここでは0.02cMまで減少する。
【0241】
【表5】

【0242】
実施例1.4:BvPRR7の遺伝子発現分析
遺伝子発現分析のため、一年生、二年生、及び二年生春化植物からの種子を、18℃の定温及びそれぞれ16時間の採光/8時間の遮光(LDs)又は8時間の採光/16時間の遮光(SDs)の光周期に制御された環境の温室中で生育させた。葉試料を24時間に渡り2時間ごとに採集し、Ambionにより販売されているRNAqueous(登録商標)4PCR Kitを使って、基本的に供給業者の教示に従って、全RNAを単離した。植物RNA Isolation Aid(Ambion)をRNA単離段階に添加して、多糖類とポリフェノールのような汚染物を除去し、そしてDNA残渣の除去のためにRNA試料をDNアーゼI(Ambion)で処理した。RNA試料をRETROscriot(登録商標)キット(Ambion)を使って、鋳型として1μgの全RNAから出発してcDNAに変換した。BvPRR7遺伝子の発現を、Power SYBP(登録商標)Green PCR Master Mix(Applied Biosystems Inc.)を使ってReal-Time PCR 7500 System機器上での定量的PCR(qPCR)により測定した。PCR条件は次の通りであった:95℃で10分間の一次変性、続いて95℃で15秒及び60℃で1分の40増幅サイクル。BvPRR7の正及び逆プライマーのヌクレオチド配列は次の通りである:それぞれ5’-TTGGAGGAGGTGTCACAGTTCTAG-3’(配列番号45)及び5’-TGTCATTGTCCGACTCTTCAGC-3’(配列番号46)。イソシトレートデヒドロゲナーゼ(BvlCDH)遺伝子(AF173666)を、BvPRR7の発現を標準化するための参照遺伝子として使用した。この参照遺伝子用にデザインされたプライマー配列は、5’-CACACCAGATGAAGGCCGT-3’(配列番号47)と5’-CCCTGAAGACCGTGCCAT-3’(配列番号48)から成った。発現レベルを3つの生物学的反復試料の平均として計算し、各qPCR反応は3回繰り返した。
【0243】
図8に要約されるように、BvPRR7は、LD(16時間の採光/8時間の遮光)条件下とSD(8時間の採光/16時間の遮光)条件下の両方で夜明けの約7時間後にピークを有する3つの植物分類(即ち、一年生、二年生、及び二年生春化植物)のすべてで発現の日周振動を示す。この実験は、このように無理に同定された時計関連遺伝子の大部分に記載されているのと同様なBvPRR7のリズム及び概日発現を確証する(McClung, 2006)。
【0244】
実施例1.5:対立遺伝子多様性及び春化要件への関連
表6に与えられたプライマー対を使って、BvPRR7遺伝子の全コード領域、並びに±1.0Kbのそのプロモーター領域を増幅せしめ、二年生及び一年生の登録種(accessions)のパネルに渡り配列決定した。このパネルは、Syngenta胚形質プールからの3つの二年生優良系列、並びにヨーロッパ各地で採集した一年生及び二年生の野生型及び雑草ビートを含んで成った。増幅のためのPCR条件は次の通りであった:95℃で5分間の一次変性、続いて95℃で30秒間、60℃で30秒間及び72℃で30秒間の35増幅サイクル、続いて72℃で5分間。PCR実験は、Applied Biosystems Inc.からのGeneAMP PCR System 9700機器において、Invitrogen CorporationからのPlatinum Taq DNAポリメラーゼ及び対応する反応混合物を使って、供給業者に推奨される通りに実施した。観察された遺伝子型の図解は数個の一年生対立遺伝子と2つは二年生対立遺伝子を示した((それぞれ図10及び11も参照のこと)としても示されている表7-1及び7-2を参照のこと)。いくつかの多型は、BvPRR7について観察された対立遺伝子変異と一年生又は二年生植物遺伝形質との強力な相関関係を示す。この観察は、BvPRR7と甜菜の春化独立性開花のB遺伝子との関係を更に強調する。表7-1(図10)は、一年生対立遺伝子と二年生対立遺伝子を比較した際にプロモーター領域内で同定された多型を示す。対立遺伝子のヘテロ接合形態を有する植物系列を分析から取り除いた。表中に示したSNP位置を、配列番号8に合わせて付番する。星印(*)によって示したヌクレオチド部位は、一年生及び二年生対立遺伝子の識別に使用できる。表7-1(図10)から分かるように、プロモーター領域のそれぞれ11592位、12316位、12490位、及び12544位のSNPが、二年生対立遺伝子と全ての一年生対立遺伝子を識別するのに使用できる。一年生対立遺伝子と二年生対立遺伝子を比較する際にコード領域内で同定された多型を表7-2(図11)に示す。ヘテロ接合形態を有する植物系列を分析から再び取り除いた。表7-2(図11)では、SNPとアミノ酸の位置を、それぞれ配列番号9と11に合わせて付番する。星印(*)によって示したヌクレオチドとアミノ酸の位置は、一年生及び二年生対立遺伝子の識別に使用できる。コード領域内で検出されたSNPの中で、それぞれ224位、351位、615位、897位、1082位、1841位、1915位、及び2334位のSNPが、二年生対立遺伝子からの全ての一年生対立遺伝子を識別するのに使用できる。品質保証の目的のために、コード領域、並びにプロモーター領域から検出されたSNPのいずれか1つの、又は2つ以上の組み合わせが、この1つ以上のSNPを標的指向する分子マーカーによる二年生栽培品種の市販種子ロット中の一年生対立遺伝子の存在を検出するために使用できる。
【0245】
【表6】

【表7】

【表8】

【0246】
実施例1.6:一年生甜菜植物と二年生甜菜植物の間での対立遺伝子の識別
ハイブリッド種子生産中の一年生花粉の流入による市販種子ロット中の「ボルター」、即ち、一年生B対立遺伝子を担持する甜菜植物、の存在は、甜菜の生産及びマーケティングにおける主要な品質パラメーターを表す。そのため、種子生産における品質管理のために、一年生植物と二年生植物とを見分けることを可能にする手段を持っていることが重要である。
【0247】
対立遺伝子識別のために、試験する植物又は種子から従来のDNA分離方法を用いることによってDNAを単離する。そして、DNAを、コード領域の2334位のSNPを標的指向するTaqMan(登録商標)アッセイで試験する。このアッセイで使用されるヌクレオチド配列は、以下の通りである:PRR7(T6)-F:5’-GCTATC-GGTATTCCTTCCTTTGTTT-3’(配列番号49)、PRR7(T6)-R:5’-CTCGTGTTCGT-GGGCAATT-3’(配列番号50)、PRR7(T6)-VIC:5’-VIC-CTCGTACCTGGCGCAC-MGB-NFQ-3’(配列番号51)及びPRR7(T6)-FAM:5’-FAM-CTCGCACCTGGCGC-AC-MGB-NFQ-3’(配列番号52)。PCR反応は更に、製造業者の推奨に従ってApplied Biosystems Inc.製のTaqMan(登録商標)Universal PCR Master Mix及びNo AmpErase(登録商標)UNG(2×)から成った。PCR増幅を、Real Time PCR 7500 System機器を使用して、以下の通り実施した:95℃にて10分間、続いて95℃にて15秒間と60℃にて1分間の40サイクル。終点計測を、Sequence Detection System 2.0ソフトウェアを使用して実施した。上記分析がVIC色素蛍光のみの実質的な増大に示せば、これは対立遺伝子Xのホモ接合性(即ち、二年生対立遺伝子のホモ接合性)を示す。FAM色素蛍光のみの実質的な増大は、対立遺伝子Yのホモ接合性(即ち、一年生対立遺伝子のホモ接合性)を示す。両方の蛍光シグナルが実質的に増強されれば、その植物はヘテロ接合体(即ち、B遺伝子座のヘテロ接合性を伴う一年生植物)である。
【0248】
図9には、一組の個々の一年生植物と二年生植物の対立遺伝子識別アッセイの結果を示す。
このアッセイで同様に使用でき、そして同様の結果をもたらす(即ち、個々の一年生植物と二年生植物を識別することを可能にする)ヌクレオチド配列は、以下の通りである:1r22(T1)-F:5’-GATAAATTCTGACCCGCATCACA-3’(配列番号55)、1r22(T1)-R:5’-GGACTGAGTTGATAATAATCAACTTTCC-3’(配列番号56)、1r22(T1)-VIC:5’-VIC-CTAGCGCAATTTC-MGB-NFQ-3’(配列番号57)及び1r22(T1)-FAM:5’-FAM-AGCTAGCGCCCAATT-MGB-NFQ-3’(配列番号58)。
【0249】
実施例2:相補性研究によるBvPRR7のトランスジェニック検証
B遺伝子により付与された一年生植物習性は、単一の優性形質として振る舞い;二年生植物における春化の必要条件が受け入れられる。二年生遺伝子型へのBvPRR7の一年生対立遺伝子の形質転換は、二年生受容性遺伝子型上へ一年生開花挙動を授与すると推測される。よって、形質転換されたBvPRR7の一年生対立遺伝子が一年生習性を付与する春化の必要性を却下するはずなので、抽苔を誘導するためにトランスジェニック植物の春化を必要としないはずである。この仮説を確かめるために、ターミネーター断片と共に一年生プロモーターの調節下でのBvPRR7の一年生対立遺伝子のコード配列を、二年生遺伝子型G018中に形質転換せしめる。PMI選択マーカー遺伝子と一年生BvPRR7対立遺伝子の両方の遺伝子カセットを担持する二元ベクターを図10に示す。甜菜の形質転換のために使用した実験手順はChang et al., 2002により本質的に記載されており、外植片材料として甜菜分裂組織を使用しそして選択マーカーとしてホスホマンノースイソメラーゼ(PMI)遺伝子を使用した。配列番号53は、一年生PRR7対立遺伝子のコード領域(配列番号49の第1306〜3672ヌクレオチド)であるそのプロモーター領域(配列番号49の第1〜1305ヌクレオチド)の1.3kb下流のヌクレオチド配列を与える。トランスジェニック新芽をPMI活性について確認し(Joersbo et al., 1998)、続いて植え付け、土壌中に植え、温室に移した。負の対照は、同じ試験管内再生手順を受けたがアグロバクテリウム感染及びマンノース選択を使用しない非トランスジェニック一年生甜菜植物と二年生甜菜植物の両方の新芽から成った。植物を18℃の定温及び17時間の採光と7時間の遮光の光周期の生育室中で生育させた。
【0250】
(低温の適用による抽苔の誘導を伴わない)それらの条件下では、非トランスジェニック二年生対照は最長12週間の観察期間内に、抽苔の徴候を何も示さず、一方で一年生対照植物は通常6〜8週間以内に抽苔を開始する。非トランスジェニック二年生対照植物に対比して、それらの二年生遺伝子バックグラウンドにもかかわらず、相当の数のトランスジェニック現象が4〜10週間内に抽苔を開始しそして一年生植物のように振る舞う。抽苔し開花したトランスジェニック植物を、子孫を作らせるために二年生維持体と交差受粉させた。子孫植物をPMI活性について試験し、次いで春化処理しない抽苔及び開花についてモニタリングした。これらの子孫植物は、1:1の分離比を示し、PMI活性と一年生形質との間に完全な相関関係を示すだろう。それらのデータは、甜菜におけるBvPRR7と春化独立性開花との密接な関係を証明するだろう。
【0251】
実施例3:BvPRR7のトランスジェニック抑制は抽苔耐性を付与する
BvPRR7は甜菜における春化反応に重要な役割を果たすので、BvPPR7は春化反応を抑制することにより抽苔耐性を操作するための明らかな候補である。この目的のために、アラビドプシスからの構成的Ubi3プロモーター(Norris et al., 1993)の調節下にRNAiカセット中に0.6 KbのBvPRR7 cDNA断片(配列番号1)を集成した。BvPRR7断片の逆転反復をジャガイモStLS1遺伝子(Eckes et al., 1986;Vancanneyt et al., 1990)からの第二イントロンにより分割してRNAiカセットを安定化させ且つRNAi現象の効率を改善した(Wang and Waterhouse, 2001;Smith et al., 2000)。BvPRR7及びPMI選択マーカー遺伝子のRNAi遺伝子カセットを担持している二元ベクターのプラスミド地図を図11に示す。このRNAiカセットを前の実施例に記載したように二年生遺伝子型G018中に形質転換せしめ、そしてPMI陽性新芽について選択を実施した。PMI陽性新芽及び非トランスジェニック対照を植え付け、最大18℃で2週間の環境順化のために温室に移した後、春化処理を行った。一旦確立されたら、トランスジェニック植物を6℃の定温で12時間の弱い人工光で14週間の期間から成る春化処理に暴露し、10℃から18℃に温度を段階的に増加させることにより、春化した植物を順化室中で2週間の間ゆっくりと順化させた。続いて植物を大きな植木鉢(2リットル)に移植し、17時間の明/7時間の暗の光周期に暴露しながら抽苔についてモニタリングした。非トランスジェニック対照植物は常に春化後4〜6週間の間に抽苔を開始した。BvPRR7が抑制されたトランスジェニック植物は、2週間から2カ月以上までに及ぶ抽苔の遅れを示した。温室に適用された条件下で僅かな抽苔の現象も観察されなかった。抽苔及び開花とは別に、トランスジェニック植物は正常に生育しそして表現型収差を全く示さなかった。一般に、抽苔が遅れた植物は、延長された植物性段階の結果として抽苔時点でずっと多数の葉数を示す。
【0252】
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1、4、5、6、7、8、9、10、53、又は54のいずれか1つに記載されている核酸配列の群から選択される核酸配列に対して:
a)少なくとも70%の配列同一性を有するか;又は
b)少なくとも15個の連続したそのヌクレオチドを含んで成るか;又は
c)緊縮条件下でそれにハイブリダイズする、
核酸配列。
【請求項2】
上記核酸配列が、配列番号1、4、5、6、7、8、9、10、53、又は54のいずれか1つに記載されている核酸配列を含んで成る、請求項1に記載の核酸配列。
【請求項3】
上記核酸配列が配列番号8に与えられた核酸配列を含んで成り、ここで、上記配列が表7-1(図10に与えられる)及び7-2(図11に与えられる)に示されている核酸置換、欠失、又は付加のうちの1つ又は数個含んで成り、ここで、表7-1(図10に与えられる)及び7-2(図11に与えられる)に示されている多型が配列番号8にそれぞれ与えられた配列の18個の一年生対立遺伝子及び2個の二年生対立遺伝子を表している、請求項2に記載の核酸配列。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の核酸配列によってにコードされたポリペプチド。
【請求項5】
配列番号11又は12に与えられたアミノ酸配列の群から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項4に記載のポリペプチド。
【請求項6】
調節要素の調節下に、好ましくは植物において機能的な調節要素の調節下に、請求項1〜3のいずれか1項に記載の核酸配列を含んで成る発現カセットを含むキメラ構成物。
【請求項7】
選択過程において形質転換植物材料と非形質転換植物材料との識別を可能にする選択マーカー遺伝子を更に含む、請求項6に記載のキメラ構成物。
【請求項8】
上記キメラ構成物をBvPRR7遺伝子発現のトランスジェニック・ダウンレギュレーションのために提供する、請求項6又は7に記載のキメラ構成物。
【請求項9】
請求項8に記載のBvPRR7遺伝子発現のトランスジェニック・ダウンレギュレーションのためのキメラ構成物であって、ここで、上記キメラ構成物がB遺伝子タンパク質、好ましくはBvPRR7タンパク質、をコードするDNA配列の転写によって生じるmRNAを標的指向することができるdsRNAをコードする核酸分子配列を分解のために含んで成る上記キメラ構成物。
【請求項10】
上記dsRNAをコードする核酸分子が、少なくとも21ヌクレオチドの長さを持ち、且つ、BvPRR7遺伝子のコード配列の少なくとも一部、好ましくは請求項1〜3のいずれか1項に記載の核酸配列、と実質的に同一である、請求項9に記載のキメラ構成物。
【請求項11】
上記dsRNAをコードする核酸分子が、構成的プロモーター、好ましくはアラビドプシスからのUbi3プロモーター、の調節下に配列番号1に与えられたヌクレオチド配列を持つ、請求項9又は10に記載のキメラ構成物。
【請求項12】
ジャガイモStLS1遺伝子からの第2イントロンの配列を更に含んで成る、請求項9〜11のいずれか1項に記載のキメラ構成物。
【請求項13】
請求項6〜12のいずれか1項に記載のキメラ構成物を含んで成る植物形質転換ベクター及び/又は植物発現ベクター。
【請求項14】
請求項6〜12のいずれか1項に記載のキメラ構成物を含んで成るRNAi発現ベクターである、請求項13に記載の植物発現ベクター。
【請求項15】
上記RNAi発現ベクターが図11に示されたキメラ構成物を含んで成る、請求項14に記載のRNAi発現ベクター。
【請求項16】
請求項6〜12のいずれか1項に記載のキメラ構成物又は請求項13〜15のいずれか1項に記載のベクターを含んで成る植物細胞。
【請求項17】
甜菜植物の植物細胞である、請求項16に記載の植物細胞。
【請求項18】
遅延抽苔の表現型を有するトランスジェニック植物、好ましくは甜菜植物、あるいは請求項16又は17に記載の植物細胞又は請求項6〜12のいずれか1項に記載のキメラ構成物又は請求項1〜3のいずれか1項に記載の核酸配列をそれぞれ含んで成る上記トランスジェニック植物の細胞、組織、又は種子であって、ここで上記トランスジェニック植物、特に甜菜植物、が抽苔を遅延させる、特に抽苔を抑制する、ようなdsRNAを発現しているので、遅延抽苔の表現型、好ましくは非抽苔表現型、を発現する、上記トランスジェニック植物、あるいはその細胞、組織、又は種子。
【請求項19】
請求項18に記載の細胞、組織、又は種子から生じたトランスジェニック植物、特に甜菜植物。
【請求項20】
そこから調節抽苔の表現型を有する植物、特に甜菜植物、を栽培することができるハイブリッド種子の生産方法であって、以下のステップ:
a.第一の親系列として、調節抽苔の表現型を有する植物系列、特に甜菜系列、特に請求項18又は19に記載のトランスジェニック甜菜植物を準備し;
b.第二の親系列として、異なる遺伝子型を有する第二の植物系列、特に甜菜系列、を準備し;
ここで、ステップa)又はステップb)の親系列の一方は雄性不稔cms系列であり、及びここで、親系列のもう一方は雄性稔性であり、そして
c.雄性稔性親系列の植物に第二の雄性不稔親系列の花で受粉させて、種子を成熟させ、そしてハイブリッド種子を収穫する;
ここで、収穫したハイブリッド種子が遅延抽苔の表現型を有するハイブリッド植物、特に甜菜ハイブリッド植物、の種子である、
を含んでなる上記方法。
【請求項21】
上記雄性不稔CMS甜菜親系列が請求項1〜3のいずれか1項に記載の核酸又はその断片を含んで成る同系交配甜菜系列である、請求項20に記載のハイブリッド種子、特に甜菜ハイブリッド種子、の生産方法。
【請求項22】
遅延抽苔の表現型を有する植物、特に甜菜植物、のハイブリッド種子。
【請求項23】
請求項20又は21の方法によって生産される、請求項22に記載のハイブリッド種子。
【請求項24】
請求項22又は23に記載のハイブリッド種子を栽培することによって生産される遅延抽苔の表現型を有するハイブリッド植物、特にハイブリッド甜菜植物。
【請求項25】
請求項18又は19に記載のトランスジェニック甜菜植物又はその種子に由来するか、あるいは請求項22又は23に記載のハイブリッド植物又はその種子に由来する種子、胚、小胞子、接合体、プロトプラスト、細胞、胚珠、花粉、主根、子葉、抽出物、又は生物学的サンプルから成る群から選択される植物部分。
【請求項26】
植物細胞、特に甜菜植物の細胞、の形質転換のための請求項1〜3のいずれか1項に記載の核酸配列又はその断片の使用。
【請求項27】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の核酸配列、請求項6〜12のいずれか1項に記載のキメラ構成物、又は請求項13〜15のいずれか1項に記載のベクターの使用を含んで成る植物細胞、特に甜菜植物の細胞、の形質転換方法。
【請求項28】
砂糖の製造方法、好気性発酵の方法、及び嫌気性発酵の方法を含んで成る群から選択される方法、特に砂糖の製造方法、における請求項18又は19に記載のトランスジェニック植物、請求項24に記載のハイブリッド植物、又は請求項25に記載の植物部分の使用。
【請求項29】
請求項18、19、24、又は25のいずれか1項に記載の甜菜植物、又はその細胞もしくは組織を加工して砂糖を製造する、砂糖の製造方法。
【請求項30】
請求項18、19、24、又は25のいずれか1項に記載の甜菜植物、又はその細胞もしくは組織から製造される砂糖。
【請求項31】
甜菜において抽苔遺伝子(B遺伝子)関連表現型との完全な同時分離を示すゲノムDNA領域から得ることができる核酸配列に基づいて開発され、且つ、一年生遺伝子型と二年生遺伝子型の間を、又は二年生表現型もしくは一年生表現型を示す甜菜植物の植物分類内での異なるハプロタイプ間を識別できるようにするポリヌクレオチド・マーカー。
【請求項32】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の核酸配列から核酸配列を得ることができる、請求項31に記載のポリヌクレオチド・マーカー。
【請求項33】
1又は数個の多型、特にSNP、SSR、少なくとも1つのヌクレオチドの欠失又は挿入に基づいた多型、とりわけ、SNPに基づく多型を更に含んで成り、上記多型がB遺伝子座のB対立遺伝子について診断可能である、請求項31又は32に記載のポリヌクレオチド・マーカー。
【請求項34】
配列番号8に記載された、及び表7-1(図10に与えられる)と7-2(図11に与えられる)に示されたゲノム配列の異なる対立遺伝子内に存在している様々なSNPのうちの少なくとも1つを検出することができる、異なる対立遺伝子の間の、特に一年生甜菜系列と二年生甜菜系列の間を差別化することができる、請求項33に記載のポリヌクレオチド・マーカー。
【請求項35】
配列番号8に記載された、及び表7-1(図10に与えられる)と7-2(図11に与えられる)に示された配列の224位、351位、615位、897位、1082位、1841位、1915位、2334位、11592位、12316位、12490位、又は12544位のSNPを含んで成る群から選択される少なくとも1つのSNPを検出することができる、請求項34に記載のポリヌクレオチド・マーカー。
【請求項36】
請求項31〜35のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド・マーカーを複数含んで成るポリヌクレオチド・マーカーの組。
【請求項37】
抽苔遺伝子(B遺伝子)との完全な同時分離を示す甜菜ゲノムDNAのゲノム領域内のヌクレオチド配列にアニールすることができる、正プライマーと逆プライマーから成るプライマー対。
【請求項38】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の核酸配列にアニールし、そして請求項31〜35のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド又はその情報部分を増幅する、請求項37に記載のプライマー対であって、ここで、上記ポリヌクレオチドは1又は数個の多型、特にB遺伝子座のB対立遺伝子について診断可能であり、且つ、一年生遺伝子型と二年生遺伝子型の間を識別できるようにする1又は数個の多型を含んで成る上記プライマー対。
【請求項39】
以下の:
a.配列番号6に与えられたBvPPR7の第3イントロン内のヌクレオチド配列にアニールし、そして多型、特に87位のC/T SNP及び/又は160位のC/T SNP及び/又は406位のA/G SNPを含んで成る多型、を含む上記領域から情報断片を増幅する一対のプライマー;
b.配列番号8に記載されたヌクレオチド配列にアニールし、そして表7-1(図10に与えられる)と7-2(図11に与えられる)に示された上述した配列の異なる対立遺伝子内に存在しているSNPに基づく多型から選択される多型を含む上述した配列から情報断片を増幅する一対のプライマー、
から成る群から選択される、請求項38に記載のプライマー対。
【請求項40】
以下の:
a.SNP#2334を含んで成る断片を増幅するための配列番号49に与えられた正プライマーPRR7(T6)-Fと配列番号50に与えられた逆プライマーPRR7(T6)-R;又は
b.SNP#160を含んで成る断片を増幅するための配列番号13に与えられた正プライマーPRR7(T1)-Fと配列番号14に与えられた逆プライマーPPR7(T1)-R;又は
c.配列番号55に与えられた正プライマー1r22(T1)-Fと配列番号56に与えられた逆プライマー1r22(T1)-R、
を含んで成る、請求項39に記載のプライマー対。
【請求項41】
甜菜植物の年生に関連する対立遺伝子の不在又は存在を同定する対立遺伝子識別アッセイにおける請求項31〜36のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド・マーカー、請求項36に記載の一組のポリヌクレオチド・マーカー、又は請求項37〜40のいずれか1項に記載の一対のプライマーの使用。
【請求項42】
一年生植物と二年生植物の間を識別することを可能にする、甜菜植物の年生に関連する対立遺伝子の不在又は存在を同定するための対立遺伝子識別アッセイであって、ここで、請求項31〜36のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド・マーカー、請求項36に記載の一組のポリヌクレオチド・マーカー、又は請求項37〜40のいずれか1項に記載の一対のプライマーが使用される上記対立遺伝子識別アッセイ。
【請求項43】
以下のステップ:
a.分析しようとする甜菜植物からゲノムDNAのサンプルを獲得し;
b.請求項37〜40のいずれか1項に記載の一対のプライマーを使用して、上述したサンプル又はゲノムDNAから断片を増幅し;そして
c.増幅された断片を、二年生表現型に関連するが一年生表現型に関連しないことが知られている対立遺伝子配列とそれぞれ比較する、
を含んで成る、請求項42に記載の対立遺伝子識別アッセイ。
【請求項44】
ステップc)において、ステップb)において得られた増幅断片が一年生対立遺伝子に特異的な配列を含んで成る第一蛍光標識プローブ分子を用いて調べられ、その第一プローブの色素蛍光の増大が一年生対立遺伝子の存在を示す、請求項42又は43に記載の対立遺伝子識別アッセイ。
【請求項45】
ステップb)において得られた増幅断片が更に二年生対立遺伝子に特異的な配列を含んで成る第二蛍光標識プローブ分子を用いて調べられ、上記第一プローブの色素蛍光のみの増大が一年生対立遺伝子の存在を示している、請求項44に記載の対立遺伝子識別アッセイ。
【請求項46】
請求項42〜45のいずれか1項に記載のマーカー補助対立遺伝子識別アッセイを使用した市販の種子中の一年生混入の同定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2011−520461(P2011−520461A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−510002(P2011−510002)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【国際出願番号】PCT/EP2009/056262
【国際公開番号】WO2009/141446
【国際公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(500584309)シンジェンタ パーティシペーションズ アクチェンゲゼルシャフト (352)
【Fターム(参考)】