説明

トランスジェニック非ヒト哺乳動物およびその利用

【課題】細胞を処理するための工程や抗体を使用する工程を設けずに、細胞内IL−5量の経時的変化の調査や細胞内IL−5産生量に影響を与える物質のスクリーニングを可能とする、試験材料および試験方法を提供する。
【解決手段】インターロイキン−5遺伝子のエクソン1の読み取り枠内に蛍光タンパク質遺伝子を含む、トランスジェニック非ヒト哺乳動物とその作製に用いる胚性幹細胞、およびそれらの作製方法。さらに、該動物または細胞を用いる、IL−5遺伝子発現に影響を与える物質をスクリーニングする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスジェニック非ヒト哺乳動物に関する。詳しくは、本発明は、(1)インターロイキン−5遺伝子の発現に伴って発現するレポーター遺伝子を含む、トランスジェニック非ヒト哺乳動物に関する。さらに本発明は、(2)該トランスジェニック非ヒト哺乳動物を製造するための胚性幹細胞、(3)該胚性幹細胞および該トランスジェニック非ヒト哺乳動物を製造する方法、(4)該トランスジェニック非ヒト哺乳動物を用いたスクリーニング方法、ならびに(5)該トランスジェニック非ヒト哺乳動物を用いた検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
体内の免疫システムは様々な因子によって緻密に制御されている。この免疫系を制御する因子の一つにサイトカインと呼ばれる液性因子が存在する。これまでにヒト・マウスにおいてサイトカインは30種類以上同定されているが、これらのうち特定の1種類のサイトカインの発現が制御不能になるだけで免疫機構が破綻しアレルギー性疾患などに陥る(非特許文献1を参照)。このアレルギー性疾患に関与するサイトカインはT細胞の一種であるTh2細胞から産生されTh2サイトカインと呼ばれる。Th2サイトカインには、インターロイキン−(IL−)4、5、13が含まれる。
【0003】
IL−5は主に抗原感作されたTh2細胞、活性化されたマスト細胞および好酸球から産生される二量体の糖タンパク質である。IL−5の生物学的効果として顕著なものは、好酸球への影響である。IL−5は、好酸球の分化や生存に深く関わっている。また、IL−5は、寄生虫感染の防御に重要な役割を担っていると考えられている。
【0004】
IL−5は、アレルギー性炎症反応に呼応する骨髄での好酸球前駆体の終末分化を促進させ、成熟好酸球の末梢血液への移行に大きく寄与する。その後の炎症反応部位への好酸球浸潤の細胞接着の過程にもIL−5の関与が認められる。そこで、ヒトにおいてIL−5を標的とした喘息治療が試みられている。
【0005】
IL−5を中和する抗IL−5抗体を哺乳動物へ投与すると、末梢血液中の好酸球の顕著な減少が観察されるが、肺組織中の好酸球は存続し疾患の改善は観察されない。しかしながら、難治性喘息、好酸球増多症候群、好酸球性食道炎などの疾患においては、抗IL−5抗体を投与することにより、疾患の改善や喘息死の防止などが観察されている。これらの観察結果からわかるとおり、IL−5の疾患に対する作用機序は極めて複雑であり、未だ正確には解明されていない。
【0006】
IL−5の詳細な生理的作用の解明は、アレルギー性疾患の原因究明や治療の進歩に寄与し得る。そこで、アレルギー反応の機構を解明することを目的として、生体内におけるIL−5の産生機序を分析することがこれまでに試みられている。
【0007】
IL−5などのTh2サイトカインの細胞内産生量を検出する試験管内の培養と検出からなるIn vitroアッセイ系はすでに確立されており、様々な文献に記載されている(たとえば、非特許文献2を参照)。このようなIn vitroアッセイ系では、最初に細胞をタンパク質輸送阻害剤であるモネンシンやブレフェルジンAで処理し、次いで細胞をホルムアルデヒドで固定し、次いで界面活性剤で細胞膜を可溶化し、最後に特異的な抗体で細胞内のサイトカインを検出することにより実施される。
【0008】
生物体を用いるIn vivoアッセイ系としては、IL−5の生体内の挙動を調べることを目的とした、IL−5遺伝子を欠損させたIL−5ノックアウトマウスを用いたアッセイ系が知られている(非特許文献3を参照)。
【0009】
一方、上記したIn vitroアッセイ系やIn vivoアッセイ系などを利用して、被験物質を細胞やマウスに投与し、次いでサイトカインの発現に影響を与える物質を選択(スクリーニング)する試みがある。たとえば、T細胞のサイトカイン産生を抑制する分子としてサイクロスポリンやタクロリムスなどの化合物がこれまでに得られている。これらの化合物は、すでに臨床化されており、世界中で使用されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】菅村和夫 宮園浩平 宮澤恵二 田中伸幸 編、「サイトカイン・増殖因子 用語ライブラリー」、羊土社、pp.25
【非特許文献2】Palm N, Germann T, Goedert S, Hoehn P, Koelsch S, Rude E, Schmitt E., Immunobiology. 1996-1997;196(5):475-84.
【非特許文献3】M Kopf et al., (1996), immunity, Vol.4, pp.15-24
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記In vitroアッセイ系を利用すれば、IL−5の細胞内産生量を分析することができる。しかし、このIn vitroアッセイ系は、細胞を処理した後に、抗体を使用して細胞内のIL−5を検出することから、細胞を処理するための複数の工程を要し、および抗体を使用するために経済的にも不利である。さらに、このIn vitroアッセイ系では、同じ細胞を使って経時的にIL−5の発現を検出することができないという問題がある。
【0012】
上記In vivoアッセイ系として、IL−5遺伝子を欠損させたIL−5ノックアウトマウスを利用すれば、IL−5による生体内の影響を調べることができる。しかし、IL−5ノックアウトマウスを用いたIn vivoアッセイ系では、被験物質を投与した場合のIL−5産生量の変化を調べることはできない。このような変化は、野生型マウスを用いた細胞内染色法により調べることができる。しかし、細胞内染色法は、検出感度が低く、抗体を使用するために経済性が非常に悪く、さらにIL−5産生量をリアルタイムで解析することができず、生体内から細胞を取得し、該細胞を染色するまでに数時間程度を要する。
【0013】
一方、一部のサイトカイン産生を抑制する化合物が、臨床に用いられている。しかし、これらの化合物は、いずれも副作用を奏し、すべての患者に利用できない。一般的に、臨床可能な医薬を探求する創薬化学においては、疾患の種類や程度に幅広く対応するために、多数の候補分子のスクリーニングが要求される。
【0014】
これらの従来技術の問題点から、細胞を処理するための工程や抗体を使用する工程を設けずに、細胞内IL−5量の経時的変化を調べるための、または細胞内IL−5産生量に影響を与える物質をスクリーニングするためのアッセイ系が求められている。しかし、このようなアッセイ系を可能とする試験材料はこれまでに知られていない。
【0015】
そこで、本発明は、細胞を処理するための工程や抗体を使用する工程を設けずに、細胞内IL−5量の経時的変化の調査や細胞内IL−5産生量に影響を与える物質のスクリーニングを可能とする試験材料やこの試験材料の製造方法を提供することを発明が解決しようとする課題とした。さらに、上記該試験材料を利用して、細胞を処理するための工程や抗体を使用する工程を設けずに、細胞内IL−5産生量に影響を与える物質をスクリーニングする方法および好酸球増加を伴う疾患を発症させる物質を検査する方法を提供することを、発明が解決しようとする課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、まず、上記試験材料として、IL−5遺伝子座にIL−5遺伝子の発現の指標となるレポーター遺伝子を組み込んだノックインマウスを作製することを試みた。特に、レポーター遺伝子として自家的に蛍光発光するGFPやVenusなどの蛍光タンパク質をコードする遺伝子を用いれば、これらの蛍光タンパク質をFACSなどの装置を用いて検出することにより、細胞を処理するための工程や抗体の使用を必要とせずに、細胞内IL−5量の経時的変化の調査や細胞内IL−5産生量に影響を与える物質のスクリーニングを実施できるのではないかと本発明者らは考えた。特に蛍光発光は高感度で検出することができるので、IL−5遺伝子座に蛍光タンパク質遺伝子を組み込んだIL−5/蛍光タンパク質ノックインマウスを作製できれば、IL−5の発現への影響がごく微量な物質さえもスクリーニングすることが期待できる。一般的に、医薬は、薬理効果が大きいほど副作用が大きくなる傾向にある。そこで、薬理効果が小さくても、副作用が小さい医薬は、たとえば、幼児や老齢者などに、または比較的軽度のアレルギー性疾患の罹患者の治療に資することが期待できる。したがって、広い範囲のIL−5の発現に影響を与える物質をスクリーニングできれば、投与対象者や用途によって分類された医薬の開発が期待できると本発明者らは考えた。
【0017】
そこで、本発明者らは、蛍光タンパク質としてVenusを選択し、IL−5/Venusノックインマウスを作製することを試みた。通常のノックインマウスの作製方法(たとえば、特許第4219617号公報を参照)では、200〜800のコンストラクト導入ESクローンを用いて2〜6%程度の相同組換え率により4〜50個のノックインESクローンが得られる。しかし、本発明者らが試したIL−5/Venusノックインマウスの作製に際しては、通常のエレクトロポレーション法の条件下でコンストラクトをES細胞内に導入して約1,000クローンを得たが、コンストラクトのIL−5/Venus遺伝子がES細胞内のIL−5遺伝子座に組み込まれたIL−5/VenusノックインESクローンを得ることはできなかった。これには種々の要因が考えられるが、その理由として、ES細胞内のIL−5遺伝子が凝集などしている可能性があるために、ES細胞内のIL−5遺伝子座へのコンストラクトIL−5/Venus遺伝子のアクセスが阻害される可能性があることや、相同組換え領域が大きい(6,000塩基以上)などが主な理由として考えられた。
【0018】
そこで、本発明者らは、上記コンストラクトのIL−5/Venus遺伝子とES細胞内のIL−5遺伝子座との接触頻度を向上させることを目的として、エレクトロポレーション条件を鋭意検討したところ、細胞数を通常の細胞数(1x10個)よりも若干少ない細胞数(約5x10個)に設定することにより、コンストラクトの導入効率が向上することを見出した。そして、細胞数を約5x10個に設定したエレクトロポレーションにより、前回のエレクトロポレーション時よりもES細胞1クローンあたり導入コンストラクト数が多いと想定される約1,300個のコンストラクト導入ESクローンを得ることができ、この中からただ1個のノックインESクローンを得ることができた。さらに、この1個のノックインESクローンをマウス8細胞期胚に注入して偽妊娠マウスに移植したところ、10〜50%のキメラ率(通常のこの場合のキメラ率は100%近い)でキメラマウスを得た。さらにこのキメラマウスと野生型マウスとを交配させたところ、誕生した203匹中ただ1匹がIL−5/Venusノックインマウスであった。このように、通常のノックインマウスの作製方法と比べて非常に低い相同組換え率およびキメラ率でありながらも、IL−5/Venusノックインマウスを得ることができた。このようなIL−5/Venusノックインは、本発明者らによってはじめて作製されたものである。
【0019】
したがって、本発明によれば、インターロイキン−5遺伝子のエクソン1の読み取り枠内に蛍光タンパク質遺伝子を含む、トランスジェニック非ヒト哺乳動物が提供される。
【0020】
好ましくは、前記蛍光タンパク質が、GFP、VENUS又はmCherryである。
【0021】
好ましくは、非ヒト哺乳動物が、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシおよびサルから成る群から選ばれる非ヒト哺乳動物である。
【0022】
好ましくは、非ヒト哺乳動物が、非ヒト哺乳動物の臓器、組織、または細胞である。
【0023】
本発明の別の側面によれば、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物の作製に用いるための、インターロイキン−5遺伝子のエクソン1の読み取り枠内にレポーター遺伝子を含む、非ヒト哺乳動物の胚性幹細胞が提供される。
【0024】
本発明の別の側面によれば、インターロイキン−5遺伝子のエクソン1の読み取り枠内に蛍光タンパク質遺伝子を含む0.6×10塩基以上の相同領域を含有するベクターを、4×10〜6×10個の胚性幹細胞へ電気穿孔法により導入することを含む、本発明の非ヒト哺乳動物の胚性幹細胞または本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物を製造する方法が提供される。
【0025】
本発明の別の側面によれば、本発明の非ヒト哺乳動物の胚性幹細胞を非ヒト哺乳動物の初期胚に注入して得られたキメラ胚を、偽妊娠非ヒト哺乳動物に移植することを含む、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物の製造方法が提供される。
【0026】
本発明の別の側面によれば、候補物質およびT細胞受容体に対する抗原を本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物に投与し、または候補物質およびT細胞受容体に対する抗原と本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物の臓器、組織もしくは細胞とを接触させること;ならびに、
前記候補物質および前記抗原を投与したトランスジェニック非ヒト哺乳動物または前記候補物質および前記抗原を接触させたトランスジェニック非ヒト哺乳動物の臓器、組織もしくは細胞における、インターロイキン−5遺伝子のエクソン1の読み取り枠内にある蛍光タンパク質遺伝子の発現に影響を与える物質を選択すること
を含む、前記蛍光タンパク質遺伝子の発現に影響を与える物質をスクリーニングする方法が提供される。
【0027】
好ましくは、前記蛍光タンパク質遺伝子の発現に影響を与える物質が、前記蛍光タンパク質遺伝子の発現を低下させる物質である。
【0028】
好ましくは、前記蛍光タンパク質遺伝子の発現を低下させる物質が、IL−5遺伝子の発現を抑制及び/又は阻害する物質である。
【0029】
本発明の別の側面によれば、被験物質を本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物に投与し、または被験物質と本発明の該トランスジェニック非ヒト哺乳動物の臓器、組織もしくは細胞とを接触させること;および、
前記被験物質を投与したトランスジェニック非ヒト哺乳動物または前記被験物質を接触させたトランスジェニック非ヒト哺乳動物の臓器、組織もしくは細胞における、インターロイキン−5遺伝子のエクソン1の読み取り枠内にある蛍光タンパク質遺伝子の発現を確認することを含む、
前記被験物質が前記トランスジェニック非ヒト哺乳動物に対して好酸球増加を伴う疾患を発症させる物質であるか否かを検査する方法が提供される。
【0030】
好ましくは、前記好酸球増加を伴う疾患が、接触性皮膚過敏症、アレルギー性炎症、気管支喘息、好酸球増多症候群および好酸球性食道炎からなる群から選択される少なくとも一種の疾患である。
【発明の効果】
【0031】
本発明のノックイン非ヒト動物によれば、細胞を処理するための工程や抗体を使用するための工程を設けずに、細胞内インターロイキン(IL)−5量の経時的変化の調査や細胞内IL−5産生量に影響を与える物質のスクリーニングが可能となる。このような本発明のノックイン非ヒト動物は、本発明の非ヒト哺乳動物の胚性幹細胞や製造方法によって製造され得る。
【0032】
本発明のスクリーニング方法によれば、IL−5の発現に影響を与える物質、すなわち、IL−5の発現を維持、促進又は抑制する物質を探索することが可能となる。このようなIL−5の発現を維持、促進又は抑制するための物質は、IL−5が関与すると考えられる接触性皮膚過敏症、アレルギー性炎症、気管支喘息、好酸球増多症候群、好酸球性食道炎などの疾患を予防及び/又は治療するための薬剤の有効成分として使用することが期待できる。
【0033】
本発明の検査方法によれば、被験物質が本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物に対して好酸球増加を伴う疾患を発症させる物質であるか否かを検査することができる。in vitroのスクリーニングにおいてIL−5産生を増強させるような物質が同定された場合、本発明の検査方法によれば、そのような物質がin vivoにおいて好酸球増加を伴う疾患を発症誘導する物質であるかを確認することができる。このようなアッセイ系は、好酸球増加を伴う疾患のメカニズムの解明や治療対策、および好酸球増加を伴う疾患の治療薬を探索する際に利用することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】例1(1)で用いたターゲッティングコンストラクトの概略を示した図である。
【図2】例1(2)のエレクトロポレーションの検討結果を示した図である。
【図3】例1(3)におけるサザンブロットの結果を示した図である。
【図4】例2におけるフローサイトメトリーの実験結果を示した図である。
【図5】例3のIL−5の産生を抑制する物質のスクリーニングの概要および結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に、本発明を詳細に説明する。
(1)本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物の特徴
本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物は、インターロイキン(IL)−5遺伝子のエクソン1の読み取り枠内に蛍光タンパク質遺伝子を含む。この蛍光タンパク質遺伝子は、たとえば、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物におけるTh2細胞のT細胞受容体(TCR)が、TCRに親和性のある抗原と結合することによる刺激などによってIL−5遺伝子が発現するタイミングに応じて発現する。
【0036】
本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物において、蛍光タンパク質遺伝子は、IL−5遺伝子座の片方の対立遺伝子(アリール)に存在してもよく(ヘテロ型)、両方の対立遺伝子に存在してもよい(ホモ型)。たとえば、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物を用いて、IL−5遺伝子の発現およびIL−5の動物体内での挙動の両方を観察したい場合やIL−5遺伝子が欠失していることにより動物体内での悪影響が懸念される場合などには、蛍光タンパク質遺伝子はヘテロ型であることが好ましい。
【0037】
本明細書でいうインターロイキン−5およびIL−5は、インターロイキン−5(interleukin-5)として当業界において通常の意味として用いられているものであり、一般的には、ヘルパーT細胞タイプ2(Th2細胞)、マスト細胞、好酸球などが産生するサイトカインの一種であって、B細胞や好酸球に作用して、その増殖や分化を促進するものとして知られている。たとえば、マウス由来のIL−5遺伝子はNCBI(GeneBank)にてNM_010558として登録されており、さらにヒト由来のIL−5遺伝子はNCBI(GeneBank)にてNM_000879として登録されているが、マウスまたはヒトのIL−5遺伝子は上記登録された遺伝子に限定されず、これらに変異が挿入されたものなども含む。
【0038】
蛍光タンパク質としては、一般に入手可能なものであれば、由来、アミノ酸配列、発光色などについて特に制限はないが、たとえば、緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein;GFP)が挙げられる。GFPは、緑色発光オワンクラゲ(Aequoria victoria)から単離されたタンパク質であり、紫外線または青色光の照射を受けると緑色に輝く性質を持つ。本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物が発現する蛍光タンパク質は、GFP以外にもGFPを改変させた蛍光タンパク質や緑色以外の可視領域に蛍光を有する蛍光タンパク質であってもよい。蛍光タンパク質として好ましいのは、GFP、VENUS、mCherryなどである。GFPはシモムラらの文献(SHIMOMURA O, JOHNSON FH, SAIGA Y., J Cell Comp Physiol. 1962 Jun;59:223-39.)に記載され、VENUSはナガイらの文献(Nagai T, Ibata K, Park ES, Kubota M, Mikoshiba K, Miyawaki A., Nat Biotechnol. 2002 Jan;20(1):87-90.)に記載され、およびmCherryはPDB (protein data bank)にて、2h5qとして登録されている。
【0039】
(2)本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物の作製
本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物の作製方法は、概略すると、胚性幹細胞にIL−5遺伝子のエクソン1の読み取り枠内に蛍光タンパク質遺伝子を含むターゲッティングベクター(ターゲッティングコンストラクト)を導入して相同組換えを起こさせ、次いで得られた相同組換え体を選別し、該相同組換え体を胚盤胞腔内に戻してキメラ胚を形成させ、次いでこのキメラ胚を仮親の子宮に移植することによりキメラ動物を作製し、次いで該キメラ動物を野生型動物と交配させてヘテロ接合体であるトランスジェニック非ヒト哺乳動物を作製するというプロセスを経る。ヘテロ接合体である本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物の雄と雌を交配させれば、ホモ接合体が得られる。このホモ接合体も、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物に含まれる。
【0040】
非ヒト哺乳動物としては、例えば、マウス、ハムスター、モルモット、ラット、ウサギ等のげっ歯類の他、イヌ、ネコ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ブタ、サル等を使用することができるが、作製、育成及び使用の簡便さなどの観点から見て、マウス、ハムスター、モルモット、ラット、ウサギ等のげっ歯類が好ましく、マウスがより好ましい。
【0041】
ターゲッティングベクターには、エクソン1の読み取り枠内に蛍光タンパク質遺伝子を含むIL−5遺伝子の他に、相同組換え体を選別し濃縮するために、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、及びピューロマイシン耐性遺伝子等のポジティブ選択マーカー、並びに、ジフテリア毒素A遺伝子及び単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子等のネガティブ選択マーカーが含まれていることが好ましい。また、ターゲッティングベクターにおいて、選択マーカーはトランスジェニック非ヒト哺乳動物の作製後には不要となるため、これらを削除するための領域を含んでいることが好ましい。たとえば、Creリコンビナーゼによって特異的に認識されるloxp配列を選択マーカー遺伝子の両側に設置することができる。このようなターゲッティングベクターを構築する方法は特に制限されず、例えば、Molecular Cloning: A laboratory Manual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38, John Wiley & Sons (1987-1997)などに記載の方法に準じて実施することができる。
【0042】
ターゲッティングベクターを胚性幹(ES)細胞に導入する方法は、胚性幹細胞の細胞膜と核膜を物理的に同時に穿孔し、ターゲッティングベクターを直接核内へ送ることができることから、電気穿孔法(エレクトロポレーション法)を採用することが好ましい。しかし、後述する実施例に記載がある通り、エクソン1の読み取り枠内に蛍光タンパク質遺伝子を含むIL−5遺伝子は、胚性幹細胞内のIL−5遺伝子座へ組み込まれにくいことが予想される。そこで、導入効率をさらに高めるために、エレクトロポレーション法は、胚性幹細胞の数を、通常(1x10個)よりも少ない条件、たとえば、4×10〜6×10個、好ましくは4.5〜5.5×10、より好ましくは約5×10個で実施する。このようにターゲッティングベクターを胚性幹細胞へ導入した細胞の中から、胚性幹細胞内のIL−5遺伝子座の一方の対立遺伝子にターゲッティングベクター由来の蛍光タンパク質遺伝子が組み込まれているノックインESクローンを選別する。ノックインESクローンの選別、ノックインESクローンを非ヒト哺乳動物の初期胚へ注入することによるキメラ胚の形成、仮親の子宮へのキメラ胚の移植、キメラ動物の出産などは、当業者によく知られているラミレス−ソリスらの文献(METHODS IN ENZYMOLOGY, R. Ramirez-Solis, et al, 1993, p855-878)などに記載のトランスジェニック動物を作製する方法を参照して実施することができる。
【0043】
得られたキメラ動物と野生型動物とを交配させ、毛色を観察することなどによってIL−5遺伝子のエクソン1の読み取り枠内に蛍光タンパク質遺伝子を含むトランスジェニック非ヒト哺乳動物を得ることができる。なお、ターゲッティングベクターにおいて選択マーカー遺伝子の両側にloxp配列を設置している場合は、生殖細胞においてCreリコンビナーゼを発現する動物と交配させることが好ましい。
【0044】
本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物には、非ヒト哺乳動物の細胞、細胞内小器官、組織、および臓器のほか、頭部、指、手、足、腹部、尾などが含まれる。
【0045】
本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物は、内在性のIL−5遺伝子が発現するタイミングに応じて蛍光タンパク質遺伝子を特異的に発現するものであり、ノックイン非ヒト哺乳動物におけるIL−5が関与した発生機構の解明などの研究分野において有用である。また、後述する通りに、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物は、IL−5が関与する可能性のある接触性皮膚過敏症、アレルギー性炎症、気管支喘息、好酸球増多症候群、好酸球性食道炎などの疾患を予防及び/又は治療するための薬剤のスクリーニング試験に利用可能なモデルである。
【0046】
本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物を利用することにより、IL−5遺伝子の発現量に関与している疾患、たとえば、アレルギー性疾患の治療効果及び予防効果を評価することが可能であり、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物は、このような疾患の病態評価モデル動物として利用することができる。たとえば、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物を用いて、これらの病態回復および重篤程度を判定し、上記疾患の治療方法を検討することも可能である。IL−5遺伝子の発現と、上記疾患の進行度などを分析することにより、該疾患の発症・進行のメカニズムを解明することができる。
【0047】
(3)ノックイン非ヒト哺乳動物を用いたスクリーニング方法
本発明のスクリーニング方法は、候補物質およびT細胞受容体に対する抗原を本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物に投与し、または候補物質およびT細胞受容体に対する抗原と本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物の臓器、組織もしくは細胞とを接触させること;ならびに、前記候補物質および前記抗原を投与したトランスジェニック非ヒト哺乳動物または前記候補物質および前記抗原を接触させたトランスジェニック非ヒト哺乳動物の臓器、組織もしくは細胞における、インターロイキン−5遺伝子のエクソン1の読み取り枠内にある蛍光タンパク質遺伝子の発現に影響を与える物質を選択することを含む。
【0048】
本発明のスクリーニング方法では対照を用いてもよい。対照としては、たとえば、候補物質及び/又はT細胞受容体に対する抗原を投与または接触させずに、インターロイキン−5遺伝子のエクソン1の読み取り枠内にある蛍光タンパク質遺伝子の発現を測定した結果を採用することができる。
【0049】
本発明のスクリーニング方法に供される候補物質としては、例えば、ペプチド、タンパク、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液、血漿などが挙げられ、これら化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。またペプチドライブラリーや化合物ライブラリーなど、多数の分子を含むライブラリーを候補物質として使用することもできる。
【0050】
本発明のスクリーニング方法に供されるT細胞受容体に対する抗原は、T細胞受容体(TCR)に親和性のある抗原であれば特に制限されないが、たとえば、CD3ε、マイトジェンなどが挙げられるが、このうちCD3εが好ましい。
【0051】
本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物に候補物質およびT細胞受容体に対する抗原を投与する方法は、たとえば、経口投与、静脈注射などが用いられる。投与の順番は特に制限されず、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物に対して、候補物質を投与した後にT細胞受容体に対する抗原を投与しても、T細胞受容体に対する抗原を投与した後に候補物質を投与しても、候補物質およびT細胞受容体に対する抗原を同時に投与してもよい。
【0052】
本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物の臓器、組織もしくは細胞と候補物質およびT細胞受容体に対する抗原とを接触させる方法としては、たとえば、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物の臓器、組織もしくは細胞を含む溶液と、候補物質もしくは候補物質を含む溶液およびT細胞受容体に対する抗原もしくはT細胞受容体に対する抗原を含む溶液、または候補物質およびT細胞受容体に対する抗原を含む溶液を混合し、次いで本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物のIL−5産生条件に適した条件下でインキュベートする方法などが用いられる。この場合においても、投与の順番は特に制限されず、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物の臓器、組織もしくは細胞に対して、候補物質を接触させた後にT細胞受容体に対する抗原を接触させても、T細胞受容体に対する抗原を接触させた後に候補物質を接触させても、候補物質およびT細胞受容体に対する抗原を同時に接触させてもよい。候補物質およびT細胞受容体に対する抗原の投与量および投与時間、または接触量および接触時間は、投与または接触方法、候補物質およびT細胞受容体に対する抗原の性質などに応じて適宜選択することができる。
【0053】
蛍光タンパク質遺伝子の発現は、たとえば、ノーザンブロット、RT−PCRおよび免疫組織染色などの、通常の遺伝子の発現を定性的または定量的に検出または測定する方法により確認できる。しかし、これらの方法は、蛍光タンパク質が細胞内に蓄積する場合は、細胞を処理する工程や抗体を使用する工程を要する。そこで、蛍光タンパク質遺伝子の発現は、X線、紫外線、可視光線などの照射によってエネルギーを吸収し電子を励起させ、次いで電子が基底状態に戻る際に余分なエネルギーとして電磁波を放出するという蛍光の性質を利用して確認することが好ましい。たとえば、蛍光タンパク質が緑色蛍光タンパク質である場合は、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物に紫外線または青色光の照射をして、放出される緑色蛍光の電磁波を確認することにより、緑色蛍光タンパク質の発現を検出することができる。
【0054】
細胞内在性のIL−5遺伝子が発現する条件では、IL−5遺伝子のエクソン1の読み取り枠内に組み込んだ蛍光タンパク質遺伝子も発現することから、蛍光タンパク質の発現をIL−5遺伝子の発現とみなすことができる。
【0055】
本発明のスクリーニング方法の具体的態様の一つは、たとえば、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物の臓器から未分化T細胞を精製分離し、次いでこの未分化T細胞の分化を誘導し、次いで分化後の細胞とCD3εやマイトジェンなどのT細胞受容体(TCR)に対する抗原とを接触させることにより細胞におけるIL−5遺伝子発現の活性化を誘導する刺激を与えるなどしてIL−5産生が活性化した細胞を得て、次いでIL−5産生が活性化した細胞に候補物質を接触させ、次いでこの候補物質を接触させた細胞におけるインターロイキン−5遺伝子のエクソン1の読み取り枠内にある蛍光タンパク質遺伝子の発現を定性的または定量的に測定する。次いで、対照と比べるなどして、候補物質の中から蛍光タンパク質遺伝子の発現に影響を与える物質を、IL−5遺伝子の発現に影響を与える物質として選択する。
【0056】
たとえば、蛍光タンパク質遺伝子の発現に影響を与える物質が蛍光タンパク質遺伝子の発現を低下させる物質である場合は、IL−5遺伝子の発現を低下させる物質、すなわち、IL−5遺伝子の発現を抑制及び/又は阻害する物質である可能性が高い。このようなIL−5遺伝子の発現を抑制及び/又は阻害する物質は免疫抑制剤として利用できる可能性があり、さらには接触性皮膚過敏症、アレルギー性炎症、気管支喘息、好酸球増多症候群および好酸球性食道炎などの好酸球増加を伴う疾患を治療及び/又は予防するための医薬の有効成分として利用することも期待できる。
【0057】
(4)ノックイン非ヒト哺乳動物を用いた好酸球増加関連疾患を誘発する物質の検査方法
本発明の検査方法は、被験物質を本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物に投与し、または被験物質と本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物の臓器、組織もしくは細胞とを接触させること;および、前記被験物質を投与したトランスジェニック非ヒト哺乳動物または前記被験物質を接触させたトランスジェニック非ヒト哺乳動物の臓器、組織もしくは細胞における、インターロイキン−5遺伝子のエクソン1の読み取り枠内にある蛍光タンパク質遺伝子の発現を確認することを含む。本発明の検査方法では、適宜、対照を用いてもよい。
【0058】
本発明の検査方法に供される被験物質としては特に制限はなく、例えば、合成化合物、天然物、細菌やウイルスといった微生物などが挙げられる。
【0059】
被験物質を本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物に投与する方法、被験物質と本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物の臓器、組織もしくは細胞とを接触させる方法、および蛍光タンパク質遺伝子の発現を確認する方法は、本発明のスクリーニング方法を参照することができる。
【0060】
本発明の検査方法では、被験物質が本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物に対して好酸球増加を伴う疾患を発症させる物質であるか否かを検査することができる。たとえば、本発明の検査方法によって、蛍光タンパク質遺伝子が発現されていることを確認することにより、または蛍光タンパク質遺伝子の発現レベルが増大していることを確認することにより、被験物質が本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物に対して好酸球増加を伴う疾患を発症させる物質であると推測し得る。
【0061】
好酸球増加を伴う疾患は、特に制限されず、複合的に発症する可能性がある。たとえば、好酸球増加を伴う疾患は、接触性皮膚過敏症、アレルギー性炎症、気管支喘息、好酸球増多症候群および好酸球性食道炎からなる群から選択される1種または2種以上の疾患を挙げることができる。
【0062】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0063】
[例1]IL−5/Venusノックインマウスの作製
(1)ターゲッティングコンストラクトの作製
ベクターpCR(登録商標)-XL-TOPO(登録商標)(Invitrogen)を用いて、マウスIL−5遺伝子エクソン1の翻訳開始コドン(ATG)にフレームを一致させるようにVenus遺伝子(東京大学医科学研究所幹細胞治療部門中内先生よりご供与)を挿入したターゲッティングコンストラクトを作製した(図1参照)。ポジティブ選択マーカーにはネオマイシン耐性遺伝子(PGK−Neo)を、ネガティブ選択マーカーにはヘルペスウイルス・チミジンキナーゼ(HSV−TK)を用いた。ターゲッティングベクターに用いたIL−5遺伝子の相同領域の長さは、Venus遺伝子の5’側で7.0Kb、ネオマイシン耐性遺伝子の3’側で3.0Kbである。コンストラクト全体の大きさは、約18Kbである。また、ネオマイシン耐性遺伝子はノックインマウス誕生後には不必要であり、且つ強力なプロモーターを有するためにCreリコンビナーゼによって削除する必要がある。そのためCreリコンビナーゼによって特異的に認識されるloxp配列をネオマイシン耐性遺伝子の両側に設置した。
【0064】
(2)コンストラクトのES細胞へのエレクトロポレーションの条件検討
上記(1)で作製したターゲッティングコンストラクトをマウスES細胞に電気穿孔法によって導入した後、ネオマイシンを加えた培地でESクローンを選択することを試みた。このエレクトロポレーションは2回実施した。一回目のエレクトロポレーションでは、約1,000クローンを通常のエレクトロポレーションの条件でES細胞へ導入しようとした。しかしながら、その中には目的の遺伝子座で相同組換えが起こったクローンは検出できなかった。
【0065】
ここで、相同組換のスクリーニングを行ったES細胞は薬剤(ネオマイシン)でスクリーニングしているので、スクリーニングされたES細胞にはIL−5/Venusコンストラクトに含まれるネオマイシン耐性遺伝子が挿入されている。つまり、コンストラクト自身はゲノムDNA上のIL−5遺伝子座とは異なったどこかに挿入されていることなる。しかしながら、一回目のエレクトロポレーションでは目的の遺伝子座で相同組換えが起こったクローンが得られなかった。そこで、より多くのターゲッティングコンストラクトをES細胞内に導入できれば、より多くのターゲッティングコンストラクトをES細胞内のIL−5遺伝子座の近傍に存在させることができ、結果として相同組換えが生じる効率を向上させることができるのではないかと考え、ターゲッティングコンストラクトをES細胞内に導入するためのエレクトロポレーションの条件を検討した。
【0066】
用いたES細胞はAK−7と呼ばれるES細胞で、今回のノックインマウスの作製に用いたものである。ベクターはpcDNAEGFPを用い、細胞内でGFPを発現するベクターである。このGFPを発現する細胞の割合をエレクトロポレーションの効率とした。検討した条件は細胞数であり、1x10、1x10、5x10、1x10個である。従来は1x10個の細胞を用いていた。
【0067】
図2に示すように5x10個の細胞を用いた場合が最も多くの割合(34.7%)のGFP陽性細胞が観察された。従来の1x10個の細胞を用いるよりも5x10個の細胞を用いた方が高効率でターゲッティングベクターがES細胞に導入されると結論づけた。この条件で2回目のエレクトロポレーションを行い、前回のエレクトロポレーション時よりもES細胞1クローンあたりの導入コンストラクト数が多いと想定されるおよそ1,300個のES細胞が得られた。これらの細胞を用いてサザンブロット法によりスクリーニングした結果、相同組換え効率が0.04%と低かったものの、相同組換えによるIL−5遺伝子座にVenusがノックインされたESクローン1個を得ることができた。
【0068】
(3)トランスジェニックマウス(IL−5Venusノックインマウス)の作製
上記ノックインESクローンをマウス8細胞期胚に注入することにより、キメラ率が10%−50%キメラマウスを得た。キメラ率が低かったため、キメラマウスと野生型マウスとを交配した結果誕生した203匹の仔のうち2匹のみがES細胞由来のマウスであることが毛色の観察から同定された。さらに、仔2匹中1匹がIL−5/Venusノックインマウスであることが、PCRを用いたジェノタイピングから同定された。誕生したノックインマウスからネオマイシン耐性遺伝子をCreリコンビナーゼによって削除するために生殖細胞でCreリコンビナーゼが発現するCAG−Creマウス(Sakai, K., et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 237, 318-324(1997))と交配した。Creリコンビナーゼによってネオマイシン耐性遺伝子が削除されたことをサザンブロット法によって確認した(図3参照)。
【0069】
[例2]IL−5の発現挙動の検討
例1で作製したIL−5/Venusノックインマウスの脾臓から細胞を採取しマウスCD4陽性細胞をAnti-Mouse CD4 Magnetic Particles(BD Bioscience)キットとBD IMag細胞分離システム(BD Bioscience)を用いて精製した。精製した1x10個のT細胞胞を抗CD3ε抗体を付着させた培養プレートに播種し、抗IFNγ抗体、抗IL−12抗体、抗CD28抗体、IL−4の存在下で2日間培養した。その後、抗CD3ε抗体を付着させていない通常の培養プレートで3日間T細胞増殖因子IL−2の存在下で培養した。用いた培地は10%FCS(JRH Biosciences)、100IU/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、50μM−2MEをRPMI1640(Gibco Invitrogen)に添加したものを用いた。この培養系はTh2細胞分化誘導培養系と知られ、未刺激T細胞をTh2細胞へと分化させることが可能である。その後分化させたTh2細胞を再び抗CD3ε抗体を付着させた培養プレートに播種し、分泌型蛋白質の細胞外への流出を阻害する試薬(Golgistop: BD Bioscience)の存在下で6時間培養した。
【0070】
細胞を固定して細胞膜を溶解させ、IL−5に特異的な抗体で細胞内のIL−5を認識させ、フローサイトメトリー法で検出した(図4を参照)。図4は横軸にVenus産生を、縦軸にIL−5の産生を示している。用いたマウスの遺伝子型は野生型(+)/+、+/VenusとVenus/Venusである。未刺激状態では若干のIL−5陽性細胞とVenus陽性細胞が認められるのみであるが、+/Venusの細胞に刺激が加わるとIL−5、Venus産生細胞が顕著に増加し、また両陽性の細胞もみられるようになる。対して+/+の細胞ではVenusの発現が、Venus/Venus細胞ではIL−5の発現が検出されない。この結果から目的のIL−5遺伝子座にVenus遺伝子が相同組換えされ、その発現挙動もIL-5遺伝子と同様の発現を示すことが判明した。
【0071】
[例3]IL−5の発現に影響を与える物質のスクリーニング
例2と同様に、IL−5/Venusノックインマウスの脾臓からCD4陽性T細胞を得て、次いでTh2細胞へと分化させた。その後人工的に分化させたTh2細胞を活性化(CD3ε刺激)し、候補物質(10μM)の存在下で12時間培養した。候補物質を添加しない群を対照とした。
【0072】
候補物質として天然物ライブラリー(約500種類)をスクリーニングしたところ、IL−5の産生を抑制する45の候補物質が得られた(図5を参照)。これらには免疫抑制剤である、サイクロスポリンが含まれており、これは本発明の実用性を示唆するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インターロイキン−5遺伝子のエクソン1の読み取り枠内に蛍光タンパク質遺伝子を含む、トランスジェニック非ヒト哺乳動物。
【請求項2】
前記蛍光タンパク質が、GFP、VENUS又はmCherryである、請求項1に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
【請求項3】
非ヒト哺乳動物が、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシおよびサルから成る群から選ばれる非ヒト哺乳動物である、請求項1または2に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
【請求項4】
非ヒト哺乳動物が、非ヒト哺乳動物の臓器、組織、または細胞である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物の作製に用いるための、インターロイキン−5遺伝子のエクソン1の読み取り枠内にレポーター遺伝子を含む、非ヒト哺乳動物の胚性幹細胞。
【請求項6】
インターロイキン−5遺伝子のエクソン1の読み取り枠内に蛍光タンパク質遺伝子を含む0.6×10塩基以上の相同領域を含有するベクターを、4×10〜6×10個の胚性幹細胞へ電気穿孔法により導入することを含む、請求項5に記載の非ヒト哺乳動物の胚性幹細胞または請求項1〜4のいずれか1項に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物を製造する方法。
【請求項7】
請求項5に記載の非ヒト哺乳動物の胚性幹細胞を非ヒト哺乳動物の初期胚に注入して得られたキメラ胚を、偽妊娠非ヒト哺乳動物に移植することを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物の製造方法。
【請求項8】
候補物質およびT細胞受容体に対する抗原を請求項1〜3のいずれか1項に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物に投与し、または候補物質およびT細胞受容体に対する抗原と請求項4に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物の臓器、組織もしくは細胞とを接触させること;ならびに、
前記候補物質および前記抗原を投与したトランスジェニック非ヒト哺乳動物または前記候補物質および前記抗原を接触させたトランスジェニック非ヒト哺乳動物の臓器、組織もしくは細胞における、インターロイキン−5遺伝子のエクソン1の読み取り枠内にある蛍光タンパク質遺伝子の発現に影響を与える物質を選択すること
を含む、前記蛍光タンパク質遺伝子の発現に影響を与える物質をスクリーニングする方法。
【請求項9】
前記蛍光タンパク質遺伝子の発現に影響を与える物質が、前記蛍光タンパク質遺伝子の発現を低下させる物質である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記蛍光タンパク質遺伝子の発現を低下させる物質が、IL−5遺伝子の発現を抑制及び/又は阻害する物質である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
被験物質を請求項1〜3のいずれか1項に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物に投与し、または被験物質と請求項4に記載の該トランスジェニック非ヒト哺乳動物の臓器、組織もしくは細胞とを接触させること;および、
前記被験物質を投与したトランスジェニック非ヒト哺乳動物または前記被験物質を接触させたトランスジェニック非ヒト哺乳動物の臓器、組織もしくは細胞における、インターロイキン−5遺伝子のエクソン1の読み取り枠内にある蛍光タンパク質遺伝子の発現を確認することを含む、
前記被験物質が前記トランスジェニック非ヒト哺乳動物に対して好酸球増加を伴う疾患を発症させる物質であるか否かを検査する方法。
【請求項12】
前記好酸球増加を伴う疾患が、接触性皮膚過敏症、アレルギー性炎症、気管支喘息、好酸球増多症候群および好酸球性食道炎からなる群から選択される少なくとも一種の疾患である、請求項11に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−30448(P2011−30448A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177159(P2009−177159)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度文部科学省知的クラスター創成事業(第II期)「ほくりく健康創造クラスター」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)
【出願人】(510192802)独立行政法人国立国際医療研究センター (8)
【Fターム(参考)】