説明

トランスファー成形法による成形品の製造方法及び該製造方法で製造された成形品

【課題】成形品に残留応力や組織の乱れ等の成形不良が残らず、また脱型操作も簡易にできるトランスファー成形法による成形品の製造方法及び該製造方法で製造された成形品の提供。
【解決手段】結合材としての熱硬化性樹脂と、非可塑性原料としての無機材料とを含む成形材料をポット15に収容し、前記成形材料を加熱・溶融して該ポットの底部とキャビティとの間を連通させる連通路17を介してキャビティ内に注入し、注入完了後に一定時間保温保圧して硬化させた後、型開きを行う。該連通路は、その内径が該ポットの底部側から前記キャビティ側に向って徐々に縮径しており、該連通路の途中で通路径が最小となる最小径部19が形成され、該最小径部から前記キャビティ側に向って拡径して前記キャビティに至るように形成され、該最小径部に相当する部位で硬化物を破断させることにより、硬化物のポット側とキャビティ側を分離させた後、成形品47を脱型させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラファイトなどの炭素素材やマイカ等のセラミック素材、その他の無機材料を熱硬化性樹脂で被覆してなる成形材料を用いてトランスファー成形法により成形品を製造する方法及び該製造方法で製造された成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
トランスファー成形法は、金型のキャビティ部分とは別にポットを設け、ポット内の成形材料を加熱・溶融させて、プランジャーで金型内に注入して成形する方法である。
このようなトランスファー成形方法又は装置の一例として、例えば特許文献1、2に開示されている。
【0003】
トランスファー成形法は、圧縮成形法に比べて、均一に溶融された成形材料が金型へ注入され、流動時圧力をかけることができるので、成形材料の流れに対して縦方向と横方向での成形材料の密度が均一となり、成形品は、成形材料の流れ方向に関係なく強度が有り、寸法精度がよいという特徴がある。
また、成形時間が圧縮成形法に比べて10〜30%短縮できることが挙げられる。
更に、トランスファー成形法は、成形材料による制約や、成形品が大形で厚肉である等のため、射出成形法の採用が困難な場合に採用されている。
【0004】
上記のようなトランスファー成形法においては、成形材料をポットに収容し、成形材料を加熱・溶融し、溶融した成形材料を前記ポットの底部とキャビティとの間を連通させる連通路を介してキャビティ内に注入し、注入完了後に一定時間保温保圧して硬化させた後、油圧シリンダを作動させて浮動盤と雄金型受けとを一緒に降下(型開きと言う)を開始させ、型開き途中又は型開き終了後、成形品を脱型する。
上記のように、溶融した成形材料が硬化した状態では、ポットとキャビティが連通路を介して繋がっているので、キャビティ内に溶融した成形材料が注入されて成形された成形品と連通路内の硬化物とポット内に残った硬化物とが繋がった状態になる。
そのため、成形品と連通路内の硬化物とポット内に残った硬化物とを型開き開始時に連通路のどこかの部位で破断する必要がある。そこで、連通路におけるキャビティとの境界部を最小断面にして当該部位で前記破断を行うが、破断を行うのが硬化物の為、最小断面の大きさによっては成形品に不具合が発生する。
また、別の方法としては、連通路から直接キャビティを繋ぐのではなく、連通路とキャビティの間で連通路の終部に連通路に対してほぼ垂直方向に延びる溶融した成形材料の流路(ランナー部)を形成し、該ランナー部を介して連通路とキャビティとを繋げて、溶融した成形材料を注入する方法がある。この場合、連通路の終部を最小径部にして連通路の終部とランナーとを型開き開始時に破断ができるようにしている。この方法では、成形品には破断による不具合は発生しにくい。
なお、射出成形では、連通路はポットの底部とではなく成形機のノズルと繋がっているので、前記破断を行う場所は、連通路におけるキャビティとの境界部ではなく、成形機のノズル側とであり、成形機のノズル側は溶融しているので、連通路との破断は容易であり、破断による問題はほとんどない。
また、圧縮成形では、そもそも連通路は必要ないことから、成形品との破断の問題は生じない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-299329号公報
【特許文献2】特開平7-329100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、トランスファー成形法においては、連通路とキャビティの間にランナー部を設けることが一般的である。
しかしながら、連通路とキャビティの間にランナー部を設けると、溶融した成形材料の流動距離が長くなり、流動性の低い成形材料では成形が難しくなるという問題がある。
また、成形品の形状によっては、ランナー部から、溶融した成形材料を注入すると、最終充填部が、雄金型受けと浮動盤の当接部にならない為に、キャビティにあった空気と溶融した成形材料から発生したガスとを流動過程でまきこんで、成形品に不具合を発生させる可能性が高くなる。
そこで、キャビティと連通路の間にランナー部を設けないで、ポットからキャビティにダイレクトに成形材料を注入する方法がある。
前記の場合は、型開き開始時に連通路と成形品の破断を行うため、成形品と連通路の境界部を最小径部にすることが考えられる。
しかし、最小径部付近では、成形材料を注入したときに圧縮による組織の乱れ、あるいは残留応力その他の成形不良が発生する可能性が高く、成形品側に成形不良が残存する危険性があるという問題がある。
また、成形品と連通路内の硬化物とを破断する際に、強制的に引張って破断をするので、成形品側に応力が直接作用し、成形品に歪等を生ずる可能性もある。
【0007】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、成形品に残留応力や組織の乱れ等の成形不良が残らず、また型開き開始時の硬化物の破断も簡易にできるトランスファー成形法による成形品の製造方法及び該製造方法で製造された成形品を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係るトランスファー成形法による成形品の製造方法は、結合材としての熱硬化性樹脂と、非可塑性原料としての無機材料とを含んでなる成形材料をポットに収容し、前記成形材料を加熱・溶融して前記ポットの底部とキャビティとの間を連通させる連通路を介してキャビティ内に注入し、注入完了後に一定時間保温保圧して硬化させた後、型開きを開始し、型開き途中又は型開き終了後、成形品を脱型する方法であって、
前記連通路は、その内径が前記ポットの底部側から前記キャビティ側に向って徐々に縮径しており、連通路の途中で通路径が最小となる最小径部が形成され、該最小径部から前記キャビティ側に向って拡径して前記キャビティに至るように形成されてなり、
前記最小径部に相当する部位で硬化物の破断をすることにより、前記硬化物のポット側とキャビティ側を分離させ、分離後に成形品を脱型させることを特徴とするものである。
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、ジアリールフタレート樹脂などがあるが、炭化率の高いフェノール樹脂が最も好適である。
【0009】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記連通路における最小径部の内径が4〜7mmであり、前記連通路における前記キャビティとの境界部の内径が20〜28mmであることを特徴とするものである。
連通路の径を上記のように設定することにより、大粒の無機材料を使用することができ、より高い機械的強度を備えた成形品を成形することができる。
連通路における最小径部の内径を小さくすることで成形材料の溶融性と混練性を向上させることができ、他方、前記内径を大きくすることで流動抵抗を少なくできる。
しかし、最小径部を大きくし過ぎると、未溶融の成形材料が、成形品の底部に付着し、成形品の強度を低下させる。更に、成形品側と連通流路内の硬化物を破断するときに成形品に不具合が発生しやすい。
上記の最小径部の寸法はこれらのバランスを考慮したものである。
【0010】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記熱硬化性樹脂がフェノール樹脂であることを特徴とするものである。
熱硬化性樹脂としてのフェノール樹脂は炭化率が高く、焼成後の強度低下を防止することができる。
【0011】
(4)また、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のものにおいて、前記無機材料が石英、焼粉、長石等のセラミック粒子であることを特徴とするものである。
更にセラミック粒子としては、マイカ、アルミナ、ムライト、マグネシウム、ジルコニア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化アルミ、ステアタイト、マシナブルガラスセラミックがある。
無機材料としてのセラミック材料は焼成過程でも変化せず、焼成後は骨材として機能する。
【0012】
(5)また、上記(1)〜(3)に記載のものにおいて、前記無機材料がカーボン素材であることを特徴とするものである。
カーボン素材、特にグラファイトは適度な導電性を有しており、電磁誘導過熱調理器の構成成分として好適である。
【0013】
(6)また、上記(1)〜(5)に記載のものにおいて、熱硬化性樹脂の質量割合が17%〜30%であることを特徴とするものである。
熱硬化性樹脂の質量割合を17%〜30%にすることで、成形材料の流動性を保ちながら、無機材料の質量割合が多いので、高い強度が得られる。例えば、高い強度が必要な電機炊飯器の内釜として好適である。
なお、射出成形では、スクリューによる混練と細いゲートを通過させなければならないので、熱硬化性樹脂の質量割合が50%以上必要であり、高い強度を必要とする成形品には、不向きである。
【0014】
(7)本発明に係る成形品は、上記(1)〜(6)のいずれかに記載のトランスファー成形法によって製造されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るトランスファー成形法による成形品の製造方法は、結合材としての熱硬化性樹脂と、非可塑性原料としての無機材料とを含んでなる成形材料をポットに収容し、前記成形材料を加熱・溶融して前記ポットの底部とキャビティとの間を連通させる連通路を介してキャビティ内に注入し、注入完了後に一定時間保温保圧して硬化させた後、型開きを開始し、型開き途中又は型開き終了後、成形品を脱型する方法であって、前記連通路は、前記ポットの底部側の径が下方に向って徐々に縮径しており、連通路の途中で通路径が最小となる最小径部が形成され、該最小径部から雌金型側に向って拡径して前記キャビティに至るように形成されてなり、前記最小径部相当する部位で硬化物を破断することによりポット側とキャビティ側を分離させ、分離後に成形品を脱型させるようにしたので、成形品に残留応力や組織の乱れ等の成形不良が残りにくい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態に係るトランスファー成形による成形品の製造方法の説明図である。
【図2】図1の丸で囲んだA部の拡大図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係るトランスファー成形による成形品の製造工程の一部を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施の形態に係る成形品を製造するトランスファー成形機1の主要部を、図1に基づいて説明する。
トランスファー成形機1は、図示しない基台に設置された油圧シリンダと、該油圧シリンダのロッド3に固定されると共に基台に立設されたポール(図示なし)にガイドされて上下動可能な雄金型受け5と、雄金型受け5の上面には固定された雄金型7と、雄金型7を貫いて上下動可能な突出ピン9と、基台に立設されたポール(図示なし)の中間部に雄金型受け5と当接・離隔可能に設置された浮動盤11と、浮動盤11の下部側に設置された雌金型13と、浮動盤11の上部側に設置されたポット15を備えている。
雌金型13の頂上部とポット15の底部とは、両者を連通させる連通路17によって連通している。連通路17は、図2に示すように、ポット15の底部側から下方に向って徐々に縮径しており、連通路17の途中で通路径が最小となる最小径部19が形成され、該最小径部19から雌金型13側に向って拡径して雌金型13に至るように形成されている。つまり、連通路17は、ポット15の底部から最小径部19まではロート状をしており、最小径部19から雌金型13までは円錐台形状となっている。
【0018】
上記のような連通路17は、ポット15の底部に形成された孔21及び、ポット15と雌金型13との間に設置されたゲート入子23に設けた貫通孔25によって形成されている。
ポット15の底部に形成された孔21は、図2に示すように、下方に向って徐々に縮径しており、この孔21にゲート入子23に設けられた貫通孔25が連続している。
ゲート入子23は、上端部が拡径された頭部27を有し、頭部27の下部に本体部29が形成された、垂直断面が略T字状をしている。ゲート入子23は、雌金型に設けた開口孔31に本体部29が挿入されて、頭部27がポット15の底面に設けた凹部33に嵌合するようにしてポット15と雌金型13の間に設置されている。
ゲート入子23には、その中心部に連通路17の一部を形成する貫通孔25が形成されている。貫通孔25の形状は、頭部27側から下方に向って徐々に縮径しており、途中で孔径が最小となる最小径部19が形成され、該最小径部19から下端に向って拡径している。
【0019】
連通路17における最小径部19の内径は無機材料の粒径に関係しており、無機材料の粒径として最大長さ500μmのものを使用するときには、内径で4.0mm〜7.0mm、好ましくは5.0mm〜6.5mmとする。
また、最小径部19から雌金型13に至る孔の勾配角と長さは、実際の成形条件のぶれや、成形材料のロットぶれを考慮して決定すればよく、勾配角としては30度〜50度、長さとしては5mm〜15mmとしておくことが実用的である。
【0020】
浮動盤11の上方には図示しないポールの上部位置に固定プラテン35が固定されており、固定プラテン35の下面にプランジャー37が設置されている。プランジャー37の頭頂面の中央には垂直断面が逆台形状の取出し溝39が形成されている。
【0021】
上記のような構成部材を有するトランスファー成形機1で炊飯器の内釜を成形する成形方法を説明する。
予め、雌雄の金型、ポット15、プランジャー37を成形材料に適した温度に加熱し、タブレットに形成した成形材料をポット15内に投入する。
予熱温度は部分的な硬化や充填途中での流動停止がない限り、できるだけ高温に設定する。
油圧シリンダのロッド3を伸長させて雄金型受け5を上昇させ、雄金型受け5を浮動盤11に当接させて、キャビティを形成する。更に、油圧シリンダのロッド3を伸長させることにより、雄金型受け5と浮動盤11を一緒に上昇させて、ポット15内にプランジャー37を挿入する。
ポット15の熱により流動しやすくなっている成形材料は、連通路17を介して徐々にキャビティ内に注入される。
成形材料の注入速度は、成形品の肉厚や、硬化性樹脂の硬化速度を考慮して決定する。
【0022】
連通路17を通過する溶融した成形材料は、最小径部19で圧縮され、最小径部19を通過した直後の拡径された流路で一気に開放されて、高い流動性を保持しながら、金型端部に向けて流動する。
溶融した成形材料を金型に充填した状態で6〜8分程度保温保圧して硬化させる。
プランジャー37の頭頂面のポット15の底面に対する最下動位置は、ポット15の底面より1〜2mm上方になるように設定されており、プランジャー37が最下動した状態でもポット15の底面との間に隙間が形成される。この隙間によって、成形材料の硬化物からなるカル分41が形成される。カル分41とは、図1のカル分41を示した図における破線で示した部位よりも図中上方の部位をいう。
カル厚(材料の仕込み量)は1〜2mmが標準で、これ以上厚い場合は過剰な圧力がかかり、充填される成形材料の内部応力を大きくする結果となる。薄い場合は充填不足が生じて、充填される成形材料の密度が低下する。
【0023】
硬化物は、ポット15底部と連通路17とでキャビティ内で繋がった状態になっている。この状態で油圧シリンダを作動させて浮動盤11と雄金型受け5とを一緒に降下させると、カル分41が取出し溝39によってプランジャー37に固定されているので、硬化物はカル分41によって上部が固定されて状態で下方に引っ張られ、その結果最も小断面である最小径部19で硬化物が破断される。(図3参照)。その結果、カル分41及び連通路17における最小径部19よりも上方の部位によって形成された逆円錐台状の硬化物43はプランジャー37側に保持され、最小径部19よりも下方の流路によって形成された円錐台状の凸部45は成形品47と共に浮動盤11側に保持される。
【0024】
連通路17は最小径部19の下流側で拡径しており、拡径した後、円錐台状の流路を経てキャビティに連通している。このため、型開き開始時に、連通路を破断することにより、最小径部付近に成形不良が発生するが、成形品47側には影響しない。そして、最小径部19よりも下方の流路によって形成された円錐台状の凸部45は脱型後に切除するから、成形品47における連通流路付近において成形不良による機械的強度に低下をきたすことがない。
【0025】
次に、浮動盤11をポールの中間位置に固定した状態で、更に油圧シリンダを作動させて雄金型受け5を下動させると、円錐台状の凸部45が一体成形された成形品47が雄金型7側に固定された状態で露出する。この状態で突出ピン9を突出させて成形品47を脱型する。
成形品47を脱型した後、放置冷却する。その後、円錐台状の凸部45を根元で切除して成形品47とする。前述したように、最小軽部付近に成形不良部が発生したとしても成形不良の部位は円錐台状の凸部45の上部に集中しており、凸部45を切除することで成形品47側に成形不良が生じることがない。このため、成形時の注入圧力を高めることが可能となり、流動長の長い成形品47の先端部や、連通路17から成形品47の先端部の間に屈曲部をもつ成形品47(例えば鍋や内釜)を成形することができる。
【0026】
また、本実施の形態においては、ポット15とキャビティが連通路17を介して縦方向に配置され、連通路17がキャビティの中央部に配置されているので、流動長の長い成形品47の先端部や、連通路17から成形品47の先端部の間に屈曲部をもつ成形品47に対しても各部に均等に注入することができる。
【実施例】
【0027】
以下に、無機材料としてグラファイトを用いてトランスファー成形法で成形した電磁調理器の内釜を例に挙げ、本発明の実施例を詳細に説明する。
【0028】
<成形材料の調製工程>
グラファイトインゴットから電極を削りだしたときに生じる切り粉を浮選により選別して、500μm以下にグラファイト粉粒を得る。これを低級アルコール類、例えばエタノールで希釈したフェノールを混合する。グラファイト粉粒は、500μm以下に粉砕後に特定粒径以下の微細粒子を排除せずに用いた場合、40〜65%の50μm以下の粒子を含有する。
【0029】
粉砕後の粒子を、そのまま分級せずに用いる。ここで用いる第四級アンモニウム塩型カチオン活性剤としては、アルキルトリメチル基とアルキルジメチルベンジル基を含むカチオン活性剤を用いた。界面活性剤は保護コロイド性を有して、溶液には高分子電解質挙動を示してアニオン性水溶性樹脂とポリイオンコンプレックスを形成するので、溶液中に分散した樹脂が過度に大きくない、例えば、本実施の形態で用いたグラファイト粉粒と同程度の500μm以下の粒子であれば、球状を成すように作用するので、好ましい。
【0030】
次に、任意温度に加温しながらグラファイト粉粒が均一分散するように撹拌し、硬化剤としてホルムアルデヒドを添加してフェノールと重合させる。重合物が好適な流動性や粘度が得られるように、反応時の温度と時間の調整によって任意重合度を確保した後、10〜−10℃程度の低温状態でロータリー乾燥機に移して減圧下で溶剤の低級アルコール類を飛散する乾燥処理を行った。
【0031】
以上の方法によって得られた未硬化状態のフェノール樹脂は、グラファイト粉粒物の表面がフェノール樹脂を成す原料液で常に濡れた状態で重合したので、グラファイトの粉粒の外周面に膜として保持されて成る粒状の成形材料となる。この時、成形材料の樹脂保有率は、グラファイト粉粒とフェノール樹脂原料の混合比率を調整して、20質量%となるようにした。上述手段によって得られた成形材料は、溶融温度以上の加熱下で加圧した時に、金型内で空隙を埋めるなどして好適な位置に移動しやすい、つまり、流動性に優れるという特徴を有することになる。グラファイト粉粒の表面にフェノール樹脂を配した本実施の形態による成形材料は、均質であることから流動性に優れている。
【0032】
<成形工程>
次に、上記成形材料で鍋状の成形品(内釜)を成形する。
雌雄の金型を硬化温度である約160℃に加熱しておき、所定の量の成形材料(タブレット化したもの)を投入する。このとき、フェノール樹脂が硬化に至る反応の初期段階に副生成物である水蒸気などのガスの放散を促し、反応の進行に伴う流動時の粘度が過度に高くならない時間、本実施の形態では80〜90秒間を成形材料の粉粒が充分な空孔を備えた状態を維持する触圧で保持した後、緻密な成形品内部構造を有する成形品を得るための高圧、本実施の形態では15MPaで加圧して流動させた後に6分間の完全硬化に至る保持時間を経て、型開きを開始し、連通部を最小径部で破断した後、円錐台状の凸部45が一体化された成形品を金型から脱型し、円錐台状の凸部45を根元部で切除する。
【0033】
<焼成工程>
得られた成形品は、無酸素状態で1000〜1200℃の雰囲気下に放置してフェノール樹脂を炭化させてグラファイト粉粒を凝結させ、鍋状を成すグラファイト凝結体を得た。この時、フェノール樹脂の炭化に伴って生成する分解ガスが当該成形品から放散せずに内部に滞留して断層亀裂を発生して生じる局部的な膨れを防止するため、1ヶ月かけて徐々に昇温する。
結合剤として用いられるフェノール樹脂は、その成形時の反応硬化過程で、硬化反応による収縮、つまり硬化収縮に伴う硬化応力を生じる。樹脂とグラファイト粉粒との組み合わせである成形材料では、発生する硬化応力が大きい。硬化応力が過大であると焼成過程で開放されて、爆裂という現象が発生して、製品不良となる。
【0034】
<塗装工程>
内釜の内面塗装工程について説明する。まず、調理に供する下地塗装を行う。ポリエーテルスルフォン(PES)の水分散溶液に、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(4.6フッ化)(FEP)微粉末の10容積%を分散させて200センチポアズの低粘度である下塗り樹脂を、スプレーを用いて複数回に分けて、表面に薄く残留する程度まで吹き付ける。
【0035】
次に、表面塗装を行う。下地塗装に用いた液状樹脂が未乾燥の状態で、液状樹脂の表面にFEPと相溶するテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)微粉末を均一付着させて、液状樹脂を吸収して固定する。その後、200℃の炉中に10分間の乾燥を行う。
続いて、融着処理を行うために360℃の炉中に投入する。これによって、PESとFEPは、溶融してグラファイト凝結体の気孔に馴染むようにして接合するとともに、ピンホールなどの気孔を含まない塗膜を形成するので、調理時に調理に供する液状の具材が浸透しない態様を形成する。
【符号の説明】
【0036】
1 トランスファー成形機
3 ロッド
5 雄金型受け
7 雄金型
9 突出ピン
11 浮動盤
13 雌金型
15 ポット
17 連通路
19 最小径部
21 孔
23 ゲート入子
25 貫通孔
27 頭部
29 本体部
31 開口孔
33 凹部
35 固定プラテン
37 プランジャー
39 取出し溝
41 カル分
43 溶融固化物
45 凸部
47 成形品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合材としての熱硬化性樹脂と、非可塑性原料としての無機材料とを含んでなる成形材料をポットに収容し、前記成形材料を加熱・溶融して前記ポットの底部とキャビティとの間を連通させる連通路を介してキャビティ内に注入し、注入完了後に一定時間保温保圧して硬化させた後、型開きを行う方法であって、
前記連通路は、その内径が前記ポットの底部側から前記キャビティ側に向って徐々に縮径しており、連通路の途中で通路径が最小となる最小径部が形成され、該最小径部から前記キャビティ側に向って拡径して前記キャビティに至るように形成されてなり、
前記最小径部に相当する部位で硬化物を破断させることにより、前記硬化物のポット側とキャビティ側を分離させ、分離後に成形品を脱型させることを特徴とするトランスファー成形法による成形品の製造方法。
【請求項2】
前記連通路における最小径部の内径が4〜7mmであり、前記連通路における前記キャビティとの境界部の内径が20〜28mmであることを特徴とする請求項1記載のトランスファー成形法による成形品の製造方法。
【請求項3】
前記熱硬化性樹脂がフェノール樹脂であることを特徴とする請求項1又は2記載のトランスファー成形法による成形品の製造方法。
【請求項4】
前記無機材料が石英、焼粉、長石等のセラミック粒子であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のトランスファー成形法による成形品の製造方法。
【請求項5】
前記無機材料がカーボン素材であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のトランスファー成形法による成形品の製造方法。
【請求項6】
熱硬化性樹脂の質量割合が17%〜30%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のトランスファー成形法による成形品の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかのトランスファー成形法による成形品の製造方法によって製造されたことを特徴とする成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−111213(P2012−111213A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264566(P2010−264566)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000107066)株式会社リッチェル (77)
【Fターム(参考)】