説明

トランスファー成形法による成形品の製造方法及び該製造方法で製造された成形品

【課題】トランスファー成形法によって成形品を製造する場合において、成形品の表面を平滑にすることができるトランスファー成形法による成形品の製造方法及び該製造方法で製造された成形品を提供する。
【解決手段】結合材としての熱硬化性樹脂と、非可塑性原料としての無機材料とを含んでなる成形材料をポット15に収容し、前記成形材料を加熱・溶融して前記ポットの底部とキャビティとの間を連通させる連通路17を介して前記キャビティ内に注入し、注入完了後に一定時間保温保圧して硬化させた後、型開きを行う方法であって、前記成形材料は、粉粒状の前記無機材料の表面に前記熱硬化性樹脂を被覆し、前記熱硬化性樹脂の前記無機材料に対する配合比が18質量%〜35質量%で被覆してなり、金型のパーティング部に前記キャビティ側のガスを吸引して排出する空気流路を設け、該空気流路から吸引しながら成形材料の溶融物を注入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラファイトなどの炭素素材やマイカ等のセラミック素材、その他の無機材料を熱硬化性樹脂で被覆してなる成形材料を用いてトランスファー成形法により成形品を製造する方法及び該製造方法で製造された成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
トランスファー成形法は、金型のキャビティ部分とは別にポットを設け、ポット内の成形材料を加熱・溶融させて、プランジャーで金型内に注入して成形する方法である。このようなトランスファー成形方法又は装置の一例として、例えば特許文献1、2に開示されている。
【0003】
トランスファー成形法は、圧縮成形法に比べて、均一に溶融された成形材料が金型へ注入され、流動時圧力をかけることができるので、成形材料の流れに対して縦方向と横方向での成形材料の密度が均一となり、成形品は、成形材料の流れ方向に関係なく強度が有り、寸法精度がよいという特徴がある。トランスファー成形法の更なる長所として、肉厚が不同で形状が複雑な成形品が得られること、寸法精度、特にパーティングラインを横切る方向の寸法精度に優れていること、加熱時間が圧縮成形法に比べて10〜30%短縮できることなどが挙げられる。トランスファー成形法は、成形材料による制約がある場合や、成形品が大形で厚肉である等のため、射出成形法の採用が困難な場合に採用されている。
【0004】
上記のようなトランスファー成形法によって成形品を製造する方法を概説する。一定温度の保温した金型を型閉め後に、粉粒状の成形材料や粉粒をタブレット化した成形材料をポットに収容し、成形材料を加熱・溶融する。溶融した成形材料をプランジャーで前記ポットの底部とキャビティとの間を連通させる連通路を介してキャビティ内に注入する。金型のパーティング面に設けられた隙間から溶融材料が若干はみだすタイミングでプランジャーの移動を停止する。その後、一定時間保温保圧して硬化させた後、油圧シリンダを作動させて型開きをし、型開き途中又は型開き終了後、成形品を脱型する。
【0005】
このように、トランスファー成形法では、金型のパーティング面に隙間を設けて、その隙間から溶融材料がはみだすようにしているので、成形初期のキャビティ内に存在する空気その他のガスは当該隙間から排出される。また、トランスファー成形法の成形材料は、粉粒状あるいは粉粒をタブレット化したものであることから、成形材料自体に空気を含んでいる。この成形材料に含まれている空気は、成形中期や成形終期においてプランジャーとポット(シリンダー)の間に設けられた隙間(0.01から0.02mm程度)から排出される。さらに、トランスファー成形法では、成形品に過剰な圧力がかからないように、プランジャーの先端面とポットの底面との間に1〜2mmの間隙を残すようにしている。そのため、前記隙間に残留するカル分に空気が残留し、成形品側には空気が移動しないようにしている。
以上のように、トランスファー成形法では、キャビティ内の空気その他のガスは金型のパーティング面の隙間から排出されるので、キャビティ内の空気その他のガスを強制的に排出するようにしていないのが一般的である。
【0006】
他方、熱硬化性樹脂を使用する射出成形法においては、成形品を製造するに際してはキャビティ内から空気その他のガスを強制的に排出しながら行うことがある。これは、射出成形法においては、金型同士の間に隙間を設けていないために金型内のガスを積極的に排出させる必要があるからである。
このような射出成形法においてキャビティ内のガスを強制的に排出する点に関しては、特許文献3において、以下のように記載されている。
「つまり、均質で高い物性を得るには、金型内にある空気などのガスを排出しながら成形材料の良好な流動状態を確保することが肝要で、溶融状態の結合材であるフェノール樹脂などの結合材と成形圧力の向上が必須である反面、射出成形時の硬化段階で金型内にある空気や結合材の硬化反応に伴う副生成物の各種ガスが充填の阻害や成形品への気泡の内在を促すことになる。このため、金型の合わせ面から成形時の圧力に応じてガスを排出するのみでは不十分であり、減圧排気を行うためのガス抜き孔を金型の最終充填位置に設ける必要があった。」(特許文献3の[0010]参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000-299329号公報
【特許文献2】特開平7-329100号公報
【特許文献3】特開2010-179542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のようにトランスファー成形法では、空気その他のガスが成形品内に含まれないようにしているが、成形初期にはポットの底面に設けられた連通路の位置にある成形材料が、溶融が不十分な状態でキャビティに押し出されることがあり、成形材料が溶融する際に空気を含み、そのままキャビティに注入されることがある。更に、注入開始後は速やかに金型端部まで成形材料を充填する必要があり、そのために成形材料が良好な流動状態を付与する必要がある。
また、成形材料として、熱硬化性樹脂と無機材料(粒子)との組み合わせである複合材料では、樹脂の硬化反応により発生した副生成物の各種ガスや注入時に樹脂に混入した空気が樹脂材料の充填を阻害して、気泡を成形品に内在させたままとなる。このように成形品内にガスにより気泡が残留すると、特に成形品の表面近くに存在するガスが成形後の脱型操作により大気開放されたときに、ガス自身の圧力により成形品の表面を薄く膜状に膨らませて、図11に示すように、ドーム状の突起73を形成したり、薄膜が破損して痘痕75となったりして、成形品の表面の平滑性が損なわれることがある。
【0009】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、熱硬化性樹脂と無機材料とを含んでなる成形材料を用いてトランスファー成形法によって成形品を製造する場合において、成形品の表面を平滑にすることができるトランスファー成形法による成形品の製造方法及び該製造方法で製造された成形品を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
熱硬化性樹脂と無機材料(粒子)との組み合わせである複合材料を成形材料とするトランスファー成形においては、成形品の表面を平滑にするためには、成形材料の流動性を高めること、成形品に残ったガスは粒子相互をできるだけ相対移動させて気泡を排出ないし圧縮すること、成形材料に含まれる空気が成形品に含まれないようにすることなどの必要がある。本発明は上記の知見に基づくものであり、具体的には以下の構成からなるものである。
【0011】
(1)本発明に係るトランスファー成形法による成形品の製造方法は、結合材としての熱硬化性樹脂と、非可塑性原料としての無機材料とを含んでなる成形材料をポットに収容し、前記成形材料を加熱・溶融して前記ポットの底部とキャビティとの間を連通させる連通路を介してキャビティ内に注入し、注入完了後に一定時間保温保圧して硬化させた後、油圧シリンダを作動させて型開きを開始させ、型開き途中又は型開き終了後、成形品を脱型するトランスファー成形法による成形品の製造方法であって、
前記成形材料は、粉粒状の前記無機材料の表面に前記熱硬化性樹脂を被覆し、前記熱硬化性樹脂の前記無機材料に対する配合比が18質量%〜35質量%とし、
前記パーティング部に前記キャビティ側のガスを吸引して排出する吸引排出流路を設け、該吸引排出流路から吸引しながら前記成形材料の溶融物を注入することを特徴とするものである。
樹脂の配合比が18質量%以下であると、粒子の表面に付着している樹脂量が十分でなく、粒子表面で摩擦が生じやすく、充填時ないし保温保圧時に粒子の相対位置の移動が難しくなり、粒子間の気泡を排出ないし圧縮することが困難になる。一方、樹脂の配合比が35質量%を超えると、粒子に付着している樹脂量が過剰となり、無機材料としての物性よりも樹脂の物性のほうが強く発揮され、無機材料特有の物性(圧縮強度)を発揮させることができない。
【0012】
例えば、電磁誘導加熱炊飯器の内釜は、無機材料としてグラファイトを用いて成形したものであり、円形の底部とその周囲から垂直に延びる側壁を有しており、流動長を等しくするために底部の中心から成形材料を注入するようにしているが、底部と側壁部との間に略90度の屈曲部があるから、焼肉プレートのような平板状のものと比べて側壁部に圧力が加わりにくく、底部に比べて側壁におけるグラファイトの粉粒の充填密度が低くなるので、焼成後の外観が粗くなる。そこで、焼成後の外観をよくするためには、グラファイトの充填度を高めること、成形後の樹脂量を減らすことが必要である。一方、金型端部まで充填する必要があるから、成形材料の流動性を確保する必要があるので、樹脂の配合比は18質量%〜25質量%がより好ましい。
電磁誘導加熱炊飯器の内釜のように流動長の途中に屈曲部があり、流動方向が変わることにより側壁部に圧力が加わりにくくなった成形品であっても、樹脂配合比を18質量%から25質量%とすることにより、成形後の気泡の残留を減らして、焼成後の外観が良好なものを得ることができる。
【0013】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記熱硬化性樹脂がフェノール樹脂であることを特徴とするものである。フェノール樹脂にはノボラック樹脂とレゾール樹脂とがあるが、ノボラック樹脂はフェノールの多核体(2から8量体)であり、硬化剤を添加して硬化反応をさせる必要がある。一方、レゾール樹脂は多メチロール(1から4量体)であり、硬化剤を添加しなくても硬化反応が起こる。なお、フェノール樹脂は硬化反応条件を設定することにより、ガラス質相を主としたものからゴム質相を主とした不溶不融物とすることができる。ノボラック樹脂の硬化反応では、縮重合反応のほかに硬化剤の分解による種々のガスが発生する。一方、レゾール樹脂の硬化反応では、メチロール基が重縮合して、-CH2OCH2-,-CH2-,CH=CH-などになり、脱水反応により水蒸気その他のガスが発生する。
【0014】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記無機材料が石英、焼粉、長石等のセラミック粒子であることを特徴とするものである。
【0015】
(4)また、上記(1)又は(2)のいずれかに記載のものにおいて、前記無機材料がグラファイト又はその他のカーボン素材であることを特徴とするものである。
【0016】
(5)本発明に係る成形品は、上記(1)〜(4)のいずれかに記載のトランスファー成形法による成形品の製造方法によって製造されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るトランスファー成形法による成形品の製造方法においては、成形材料を、前記無機材料に対する前記熱硬化性樹脂の配合比を18質量%〜35質量%とし、粒子間の摩擦を低減することにより、成形材料の流動性を高めて成形材料が金型端部まで速やかに充填でき、注入時及び充填後の保温保圧により粒子が相対移動して粒子間の気泡を排出ないし圧縮するように移動できるようにする。
また、成形初期、成形中期及び成形終期において、吸引排出流路から吸引しながら成形材料の溶融物を金型に注入するようにしたので、成形材料の粒子間に連続的に存在する連続気泡を介して成形材料に含まれる空気や反応生成ガスを強制的に排出することができ、従って、成形品に含まれる気泡を圧縮し、又は排除できるので、粒子の充填密度が高まり、成形品の表面を平滑にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態に係るトランスファー成形による成形品の製造方法の説明図である。
【図2】図1の丸で囲んだA部の拡大図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係るトランスファー成形機においてキャビティを形成した状態における金型を示す図である。
【図4】図3における丸で囲んだB部を拡大して示す拡大図である。
【図5】図3における矢視A−A線に沿う図面である。
【図6】本発明の一実施の形態の成形材料における空気排出のメカニズムを説明する説明図である。
【図7】本発明の一実施の形態のトランスファー成型方法の説明図である。
【図8】図7の丸○で囲んだC部の拡大図である。
【図9】板状試験片についての落球試験方法の説明図である。
【図10】電磁誘導加熱炊飯器の内釜についての落球試験方法の説明図である。
【図11】発明が解決しようとする課題の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本実施の形態に係る成形品を製造するトランスファー成形機1の主要部を、図1に基づいて説明する。なお、図1においては、トランスファー成形機1に電磁誘導加熱炊飯器の内釜を成形する金型を設置している。
トランスファー成形機1は、図示しない基台に設置された油圧シリンダと、該油圧シリンダのロッド3に固定されると共に基台に立設されたポール(図示なし)にガイドされて上下動可能な雄金型受け5と、雄金型受け5の上面には固定された雄金型7と、雄金型7を貫いて上下動可能な突出ピン9と、基台に立設されたポール(図示なし)の中間部に雄金型受け5と当接・離隔可能に設置された浮動盤11と、浮動盤11の下部側に設置された雌金型13と、浮動盤11の上部側に設置されたポット15を備えている。
雌金型13の頂上部とポット15の底部とは、両者を連通させる連通路17によって連通している。
連通路17は、図2に示すように、ポット15の底部側から下方に向って徐々に縮径しており、連通路17の途中で通路径が最小となる最小径部19が形成され、該最小径部19から雌金型13側に向って拡径して雌金型13に至るように形成されている。つまり、連通路17は、ポット15の底部から最小径部19まではロート状をしており、最小径部19から雌金型13までは円錐台形状となっている。
【0020】
上記のような連通路17は、ポット15の底部に形成された孔21及び、ポット15と雌金型13との間に設置されたゲート入子23に設けた貫通孔25によって形成されている。
ポット15の底部に形成された孔21は、図2に示すように、下方に向って徐々に縮径しており、この孔21にゲート入子23に設けられた貫通孔25が連続している。
ゲート入子23は、上端部が拡径された頭部27を有し、頭部27の下部に本体部29が形成された、垂直断面が略T字状をしている。ゲート入子23は、雌金型に設けた開口孔31に本体部29が挿入されて、頭部27がポット15の底面に設けた凹部33に嵌合するようにしてポット15と雌金型の間に設置されている。
ゲート入子23には、その中心部に連通路17の一部を形成する貫通孔25が形成されている。貫通孔25の形状は、頭部27側から下方に向って徐々に縮径しており、途中で孔径が最小となる最小径部19が形成され、該最小径部19から下端に向って拡径している。
【0021】
連通路17における最小径部19の内径は無機材料の粒径に関係しており、無機材料の粒径として最大長さ500μmのものを使用するときには、内径で4.0〜7.0mm、好ましくは5.0から6.5mmとする。
また、最小径部19から雌金型13に至る孔の勾配角と長さは、実際の成形条件のぶれや、成形材料のロットぶれを考慮して決定すればよく、勾配角としては30度〜50度、長さとしては5mm〜15mmとしておくことが実用的である。
【0022】
浮動盤11の上方には図示しないポールの上部位置に固定プラテン35が固定されており、固定プラテン35の下面にプランジャー37が設置されている。プランジャー37の頭頂面の中央には垂直断面が逆台形状の取出し溝39が形成されている。
プランジャー37とポット15の間には0.01〜0.02mm程度の隙間が形成されている。
また、成形品に過剰な圧力がかからないようにするため、プランジャー37を最も下動させたときにプランジャー37の先端面とポット15の底面との間に1〜2mmの間隙が形成されるようになっている。
【0023】
パーティング面においては、図3および図4に示すように、雄金型7を雌金型13に最も近づけてキャビティ41を形成した状態(図3参照)において、雄金型7と雌金型13との間にはわずかな隙間43(約0.02mm)が形成されるようになっている。この隙間43は、成形時にキャビティ41内のガスの排出経路となると共に成形終期において成形材料の溶融物が流れ出る流出路となる。
雄金型7側における最終充填部の外側に幅0.5mmのリング状の縁部45が形成され、さらにその外側には、縁部45に沿ってリング状の吸引流路47が設けられている。そして、吸引流路47に連通して径方向に延びる径方向流路49が形成され、この径方向流路49はL形の連結流路51を介して真空エジェクタ53に連結されている。
【0024】
真空エジェクタ53は、図5の拡大断面図に示すように、連結流路51に直交方向に延びる空気流路55を有し、該空気流路55における連結流路51との接続部の流路径が急激に縮径する縮径部57を有している。そして、空気流路55に図5の矢印で示す方向に空気を高速で流すことにより、連結流路51が負圧になり、これによって径方向流路49、吸引流路47、縁部45に形成される隙間43を介してキャビティ41内のガスが吸引されて空気流路55に排出される。隙間43、吸引流路47、径方向流路49、連結流路51及び空気流路55が本発明の吸引排出流路に相当する。
【0025】
上記のような構成部材を有するトランスファー成形機1で電磁誘導加熱炊飯器の内釜を成形する成形方法を説明する。電磁誘導を発揮する無機材料としてグラファイト粉粒体を用いる。グラファイト粉粒は、500μm以下に粉砕後に特定粒径以下の微細粒子を排除せずに用いることができる。グラファイト粉粒体の表面をフェノール樹脂のような熱硬化性樹脂で、無機材料に対する熱硬化性樹脂の配合比が18質量%〜35質量%、好ましくは18質量%〜25質量%となるように熱硬化性樹脂で無機材料を被覆してなるものである。樹脂配合比を18質量%〜35質量%にすることにより、溶融温度以上の加熱下で加圧した時に、図6に示すように、グラファイト粒子59の表面を熱硬化性樹脂61が被覆し、樹脂の流動性によりグラファイト粒子59が好適な位置に移動しやすくなる。その結果、図6(a)に示すように気泡63が大きい状態から図6(b)の状態に移行して気泡63を埋める。気泡63が連続気泡であれば、埋められたことによって成形材料内に含まれていた空気は、ポット15とプランジャー37の隙間、あるいは真空エジェクタ53によって排出される。このため、成形品に含まれるガスを最小限に抑えることができ、成形品の表面の平滑性を向上させることができる。実際のグラファイト粒子は、球形ではなく不定形であるが、説明を容易にするために模式的に球形としている。なお、気泡63が独立気泡であるときは、気泡が圧縮されてその体積が減少することになる。
【0026】
予め、雌雄の金型、ポット15、プランジャー37を成形材料に適した温度に加熱し、タブレットに形成した成形材料をポット15内に投入する。ポット内に投入する成形材料として、グラファイト粒子の無機材料とフェノール樹脂の熱硬化性樹脂の粉末の混合物からなり、熱温度は部分的な硬化や充填途中での流動停止がない限り、できるだけ高温に設定する。油圧シリンダのロッド3を伸長させて雄金型受け5を上昇させ、雄金型受け5を浮動盤11に当接させて、キャビティ41を形成する。キャビティ41が形成された時点で、真空エジェクタ53によってキャビティ41内のガスの排出を開始する。油圧シリンダのロッド3を、さらに伸長させることにより、雄金型受け5と浮動盤11を一緒に上昇させて、ポット15内にプランジャー37を挿入する。ポット15の熱により流動しやすくなっている成形材料は、連通路17を介して徐々にキャビティ41内に注入される。この注入の過程において、上述したように、成形材料内の空隙63が小さくなり、それによって押し出されたガスは、ポット15とプランジャー37の隙間、あるいは真空エジェクタ53によって排出される。成形材料の注入速度は、成形品の肉厚や、硬化性樹脂の硬化速度を考慮して決定する。
【0027】
連通路17を通過する溶融した成形材料は、最小径部19で圧縮され、最小径部19を通過した直後の拡径された流路で一気に開放されて、高い流動性を保持しながら、金型端部に向けて流動する。溶融した成形材料を金型に充填した状態で6〜8分程度保温保圧して硬化させる。プランジャー37の頭頂面のポット15の底面に対する最下動位置は、ポット15の底面より1〜2mm上方になるように設定されており、プランジャー37が最下動した状態でもポット15の底面との間に隙間が形成される。この隙間によって、成形材料の硬化物からなるカル分65が形成される。カル分65とは、図1のカル分65を示した図における破線で示した部位よりも図中上方の部位をいう。カル厚(材料の仕込み量)は1〜2mmが標準で、これ以上厚い場合は過剰な圧力がかかり、充填される成形材料の内部応力を大きくする結果となる。薄い場合は充填不足が生じて、充填される成形材料の密度が低下する。
【0028】
硬化反応により不溶不融物となった硬化物は、ポット15底部、連通路17、キャビティ41内に繋がった状態になっている。この状態で油圧シリンダを作動させて浮動盤11と雄金型受け5とを一緒に降下すると、カル分65が取出し溝39によってプランジャー37に固定されているので、硬化物はカル分65によって上部が固定されて状態で下方に引っ張られ、その結果最も小断面である最小径部19で破断する(図7参照)。その結果、カル分65及び連通路17における最小径部19よりも上方の部位によって形成された逆円錐台状の硬化物43はプランジャー37側に保持され、最小径部19よりも下方の流路によって形成された円錐台状の凸部69は成形品71と共に浮動盤11側に保持される。
【0029】
連通路17は最小径部19の下流側で拡径しており、拡径した後、円錐台状の流路を経てキャビティ41に連通している。このため、型開き時に、連通路の切断により、最小径部付近に成形不良が発生するが、成形品71側には影響しない。そして、最小径部19よりも下方の流路によって形成された円錐台状の凸部69は脱型後に切除するから、成形品71における連通流路付近において成形不良による機械的強度に低下をきたすことがない。
【0030】
次に、浮動盤11をポールの中間位置に固定した状態で、更に油圧シリンダを作動させて雄金型受け5を下動させると、円錐台状の凸部69が一体成形された成形品71が雄金型7側に固定された状態で露出する。この状態で突出ピン9を突出させて成形品71を脱型する。成形品71を脱型した後、放置冷却する。その後、円錐台状の凸部69を根元で切除して成形品71とする。前述したように、成形不良部が発生したとしても成形不良の部位は円錐台状の凸部69の上部に集中しており、凸部69を切除することで成形品71側に成形不良が生じることがない。このため、成形時の注入圧力を高めることが可能となり、無機材料に対する熱硬化性樹脂の配合比を調整することにより、流動長の長い成形品71の先端部や、連通路17から成形品71の先端部の間に屈曲部をもつ成形品71(例えば鍋や内釜)を成形することができる。
【0031】
また、本実施の形態においては、ポット15とキャビティ41が連通路17を介して縦方向に配置され、連通路17がキャビティ41の中央部に配置されているので、流動長の長い成形品71の先端部や、連通路17から成形品71の先端部の間に屈曲部をもつ成形品71に対しても各部に均等に注入することができる。さらに、本実施の形態においては、成形材料における熱硬化性樹脂の無機材料に対する配合比を18質量%〜35質量%となるようにすると共に、キャビティ41内のガスを真空エジェクタ53で強制的に排気しているので、成形品に残存するガスを少なくして成形品の表面を平滑にすることができる(図8参照)。
【実施例】
【0032】
以下に、無機材料としてグラファイト粒子を用いてトランスファー成形法で成形した焼肉プレートと電磁誘導加熱炊飯器の内釜を例に挙げ、本発明の実施例を詳細に説明する。尚、今回は、電磁誘導加熱炊飯器の内釜の例を挙げたが、電磁誘導加熱調理器として、フライパン、鍋、焼肉等の為のプレート、たこ焼き器、やかん等も今回の発明に適している。
【0033】
<成形材料の調製工程>
グラファイトとしては2種類のものを用い、第1番目のものは中国製黒鉛であり、ジェットミルにより20μm以下に粉砕した等方製のものである。第2番目のものは日本製黒鉛であり、グラファイトインゴットから電極を削りだしたときに生じる切り粉を浮選により選別して、200μm以下にグラファイト粒子を得る。グラファイト粒子は、200μm以下に粉砕後に特定粒径以下の微細粒子を排除せずに用いた場合、40〜65%の50μm以下の粒子を含有する。これを低級アルコール類、例えばエタノールで希釈した3から5量体のレゾール樹脂を混合する。
【0034】
粉砕後の粒子を、そのまま分級せずに用いる。ここで用いる第四級アンモニウム塩型カチオン活性剤としては、アルキルトリメチル基とアルキルジメチルベンジル基を含むカチオン活性剤を用いた。界面活性剤は保護コロイド性を有して、溶液には高分子電解質挙動を示してアニオン性水溶性樹脂とポリイオンコンプレックスを形成するので、溶液中に分散した樹脂が過度に大きくない、例えば、本実施の形態で用いたグラファイト粒子と同程度の200μm以下の粒子であれば、球状を成すように作用するので、好ましい。
【0035】
次に、任意温度に加温しながらグラファイト粒子が均一分散するように撹拌し、レゾール樹脂でグラファイト粒子の全面を被覆する。この被覆物は好適な流動性や粘度を発揮する。これを10〜−10℃程度の低温状態でロータリー乾燥機に移して減圧下で溶剤の低級アルコール類を飛散する乾燥処理を行った。
【0036】
以上の方法によって得られた成形材料は、グラファイト粉粒物の表面をレゾール樹脂の原料液で常に濡れた状態で被覆したので、グラファイトの粉粒の外周面に膜として保持されて成る粒状の成形材料となる。この時、成形材料における樹脂付着率は、グラファイト粒子とレゾール樹脂原料の配合比を調整した。本発明では、焼成後の表面の平滑度がレゾール樹脂のグラファイト粒子に対する配合比に関係しているとの知見から、レゾール樹脂のグラファイト粉粒に対する配合比を、18質量%〜35%質量の範囲で変化させ、焼肉プレートと電磁誘導加熱炊飯器の内釜とを成形し、焼成後にそれらの表面の外観を目視検査することにした。
【0037】
<成形工程>
次に、上記成形材料で鍋状の成形品(内釜)を成形する。雌雄の金型を硬化温度である約160℃に加熱しておき、所定の量の成形材料(タブレット化したもの)を投入する。このとき、レゾール樹脂が硬化に至る前の反応初期段階に副生成物である水蒸気などのガスの放散を促し、反応の進行に伴う流動時の粘度が過度に高くならない時間、本実施の形態では80〜90秒間をグラファイトの粒子が充分な気泡を備えた状態を維持する触圧で保持した後、充填密度を高めて緻密な成形品内部構造を有する成形品を得るための高圧、本実施の形態では射出圧力が200ton(樹脂圧力に換算すると85MPaになる。樹脂圧力は、射出圧力を内釜の断面積で除した値です。)で加圧して流動させた後に6分間の完全硬化に至る保持時間を経て、型開きを開始する。連通部を最小径部で破断した後、円錐台状の凸部45が一体化された成形品を金型から脱型し、円錐台状の凸部69を根元部で切除する。なお、熱硬化性樹脂は硬化反応によりゲル化し、硬化反応が進むとゴム状になり、更に反応が進むとガラス状になり完全に硬化する。硬化温度がガラス転移点より高い場合はガラス状にならずにゴム状のまま樹脂の硬化を完了させることができる。硬化状態をガラス状でなくゴム状で完了させれば、成形品の耐衝撃性を向上させることができる。
【0038】
<焼成工程>
得られた成形品は、無酸素状態で1000〜1200℃の雰囲気下に放置して不溶不融性の硬化物となったレゾール樹脂を凝結ないし炭化させ、これによりグラファイト粒子相互を連結させて、鍋状を成すグラファイト凝結体を得た。この時、レゾール樹脂の凝結ないし炭化に伴って、当該成形品から放散せずに内部に滞留している分解ガスがある場合には、分解ガスが断層亀裂を発生して生じる局部的な膨れを防止するため、1ヶ月かけて徐々に昇温する。結合材として用いられるレゾール樹脂は、その成形時の反応硬化過程で、硬化反応による収縮、つまり硬化収縮に伴う硬化応力を生じる。樹脂とグラファイト粒子との組み合わせである成形材料では、発生する硬化応力が大きい。硬化応力が過大であると焼成過程で開放されて、爆裂という現象が発生して、製品不良となる。
【0039】
焼成後の表面の外観について、グラファイト粒子とレゾール樹脂の配合比との関係で整理したのが、表1である。
なお、表1における粒径とはグラファイト粒子の粒径であり、焼成後の外観の評価における○は外観が美しいことを意味しており、△は○よりも劣るものの許容範囲内であることを意味している。
また、成形品の肉厚は4mmである。
【0040】
表1に示した落球試験について説明する。
図9は試験対象物が平板の焼肉プレートの場合(表1における番号1、2)であり、図10は試験対象物が電磁誘導加熱炊飯器の内釜の場合(表1における番号3〜6)である。いずれの場合も、クッションマット81の上に試験対象物83を載置し、試験対象物に筒体85を立設し、所定の高さに配置された引抜きプレート87上に載置された鋼球89を引抜きプレート87を引抜くことで落下させ、亀裂が入らない限界高さ(mm)を落球強度とした。
【0041】
【表1】

【0042】
表1に示されるように、グラファイトに対する樹脂配合比が19.5質量%〜35質量%の範囲では、焼成後の外観が美しかった。また、この範囲であれば、落球強度も100mm以上であることから実用に耐えうるものである。
他方、樹脂配合比を18質量%にしたものでは、落球強度が50mmで、外観も少し劣っていたが、いずれも許容範囲であった。
また、グラファイトの粒径に関し、20μmの場合と200μmの場合とで20μmの方が若干だけ落球強度において優れる傾向があるが、グラファイトに対する樹脂配合比が18質量%〜35質量%の範囲であればいずれの粒径の場合でも落球強度、焼成後の外観共に許容範囲である。
【0043】
上記の考察から、グラファイトに対する樹脂配合比が18質量%〜35質量%の範囲であれば、少なくとも外観においては実用に適することが分かる。他方、強度に関しては、使用用途に応じて適否が判断されるので、高い強度が要求される場合には、樹脂配合比率を大きくすることが望ましい。
【0044】
樹脂配合比を18質量%〜35質量%にした成形材料は、溶融温度以上の加熱下で加圧した時に、金型内でグラファイト粒子が好適な位置に移動しやすい、つまり、流動性に優れるという特徴を有しているため、焼成後の成形品表面の外観がよい考えられる。また、グラファイト粒子の表面にレゾール樹脂を配した本実施の形態による成形材料は、均質であることからも流動性に優れており、この点でも焼成後の成形品表面の外観がよくなったと考えられる。
【0045】
<塗装工程>
電磁誘導加熱炊飯器の内釜の内面塗装工程について説明する。まず、調理に供する下地塗装を行う。ポリエーテルスルフォン(PES)の水分散溶液に、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(4.6フッ化)(FEP)微粉末の10容積%を分散させて200センチポアズの低粘度である下塗り樹脂を、スプレーを用いて複数回に分けて、表面に薄く残留する程度まで吹き付ける。
【0046】
次に、表面塗装を行う。下地塗装に用いた液状樹脂が未乾燥の状態で、液状樹脂の表面にFEPと相溶するテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)微粉末を均一付着させて、液状樹脂を吸収して固定する。その後、200℃の炉中に10分間の乾燥を行う。
続いて、融着処理を行うために360℃の炉中に投入する。これによって、PESとFEPは、溶融してグラファイト凝結体の気孔に馴染むようにして接合するとともに、ピンホールなどの気孔を含まない塗膜を形成するので、調理時に調理に供する液状の具材が浸透しない態様を形成する。
【符号の説明】
【0047】
1 トランスファー成形機
5 雄金型受け
7 雄金型
9 突出ピン
11 浮動盤
13 雌金型
15 ポット
17 連通路
19 最小径部
21 孔
23 ゲート入子
25 貫通孔
27 頭部
29 本体部
31 開口孔
33 凹部
35 固定プラテン
37 プランジャー
39 取出し溝
41 キャビティ
43 隙間
45 縁部
47 吸引流路
49 径方向流路
51 連結流路
53 真空エジェクタ
55 空気流路
57 縮径部
59 無機材料
61 熱硬化性樹脂
63 気泡
65 カル分
69 凸部
71 成形品
73 突起
75 痘痕
81 クッションマット
83 試験対象物
87 引抜きプレート
89 鋼球

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合材としての熱硬化性樹脂と、非可塑性原料としての無機材料とを含んでなる成形材料をポットに収容し、前記成形材料を加熱・溶融して前記ポットの底部とキャビティとの間を連通させる連通路を介してキャビティ内に注入し、注入完了後に一定時間保温保圧して硬化させた後、型開きを行う成形品の製造方法であって、
前記成形材料は、粉粒状の前記無機材料の表面に前記熱硬化性樹脂を被覆し、前記熱硬化性樹脂の前記無機材料に対する配合比を18質量%〜35質量%とし、
前記パーティング部に前記キャビティ側のガスを吸引して排出する吸引排出流路を設け、該吸引排出流路から吸引しながら前記成形材料の溶融物を注入することを特徴とするトランスファー成形法による成形品の製造方法。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂がフェノール樹脂であることを特徴とする請求項1記載のトランスファー成形法による成形品の製造方法。
【請求項3】
前記無機材料が石英、焼粉、長石等のセラミック粉粒であることを特徴とする請求項1又は2記載のトランスファー成形法による成形品の製造方法。
【請求項4】
前記無機材料がグラファイト又はその他のカーボン粉粒であることを特徴とする請求項1又は2に記載のトランスファー成形法による成形品の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかのトランスファー成形法による成形品の製造方法によって製造されたことを特徴とする成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−135940(P2012−135940A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289554(P2010−289554)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000107066)株式会社リッチェル (77)
【Fターム(参考)】