説明

トランス

【課題】 トランスの巻線作業の作業性を向上させ、トランスの特性のばらつきを抑えつつ、特性を向上させる。
【解決手段】 コア30に貫通孔36と、これよりも面積が小さい貫通孔38とを形成し、貫通孔36に巻線14を巻回し、貫通孔38に巻線8を巻回する。巻線8は巻線14よりも巻数が少なく、貫通孔38は貫通孔36よりも小さく形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスに関し、特に、2つの貫通孔を有するメガネコアを使用したものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、メガネコアを使用した高周波トランスの一例が特許文献1の第2図に開示されている。特許文献1の第2図には一方の貫通孔に1つの巻線が巻回され、他方の貫通孔に別の巻線が巻回されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平3−12407号公報
【0004】
このようなメガネコアを使用した高周波トランスを分岐器用のトランスとして使用することがある。1分岐器は、例えば図6に示すように、入力端子2と出力端子4との間に幹線側巻線6を有し、幹線側巻線6と電磁結合された幹線側接地巻線8の一端が接地され、他端が、分岐側巻線10の一端に接続され、分岐側巻線10の他端が分岐端子12に接続されている。分岐側巻線10と電磁結合された分岐側接地巻線14の一端が出力端子4に接続され、他端が接地されている。幹線側接地巻線8と分岐側巻線10の接続点は、整合用抵抗器16を介して接地されている。各巻線6、8、10及び14には同じ太さ、例えば同じ外径の円形のものが使用されており、幹線側巻線6は巻数が最も少なく例えば1ターン(T)で、幹線側接地巻線8は、幹線側巻線6よりも巻数が多く、例えば3Tである。分岐側巻線10は、幹線側巻線6よりも巻数は多いが、幹線側接地巻線8よりも巻数が少なく、例えば2Tであり、分岐側接地巻線14は最も巻数が多く、例えば7Tである。
【0005】
これら各巻線6、8、10、14は、図7に示すようなメガネコア18に設けられている。メガネコア18は、小判型のもので、対向する主表面17、19間を貫通して同じ直径の貫通孔20及び22が、メガネコア18の長さ方向に間隔をおいて形成されている。図8に示すように、貫通孔20には幹線側巻線6及び幹線側接地巻線8が設けられている。即ち、幹線側巻線6が、主表面17側から主表面19側に抜けるように貫通孔20に挿通され、幹線側接地巻線8は、その一端が貫通孔20内に主表面17側から主表面19側に挿通され、主表面19側で一方の端部側に折り返され、一方の端部側で主表面17側に折り返されて、再び貫通孔20内に挿通されることを繰り返して、メガネコア18の一端部貫通孔20との間の巻回部24の回りに巻回されて、主表面19側に引き出されている。同様に、貫通孔22には分岐側巻線10と分岐側接地巻線14とが設けられている。即ち、分岐側巻線10及び分岐側接地巻線14の一端は貫通孔22内に主表面17側から主表面19側に挿通され、メガネコア18の他方の端部側に折り返され、他方の端部側で主表面17側に折り返されて、貫通孔22内に挿通されることを繰り返して、貫通孔22とメガネコア18の他方の端部との間の巻回部26の回りに巻回されて、主表面19側に引き出されている。これら巻線6、8、10、14の直径は、貫通孔20及び22の直径の約1/5である。図8から明らかなように分岐側巻線10及び分岐側接地巻線14は整列巻きされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように各巻線6、8、10及び14には同じ太さのものが使用されており、幹線側の巻線6及び8が巻回される貫通孔20に合計4本、分岐側の巻線10及び14が巻回される貫通孔22には合計9本の巻線が挿通される。即ち、貫通孔20への巻線数が少ないのに、貫通孔20及び22の直径が同じであるので、貫通孔20には空間が多く、逆に貫通孔22では巻線が密集状態である。貫通孔20には空間が多く、貫通孔20への巻線の巻き付け作業の作業性が悪く、平均磁路長が長くなり、実効透磁率が低く、特性が良好でなかった。
【0007】
本発明は、巻線作業の作業性を向上させ、かつ特性を向上させたトランスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様のトランスは、コアを有し、このコアには、第1及び第2の貫通孔が形成されている。第1の貫通孔よりも第2の貫通孔の方の面積が小さい。第1及び第2の貫通孔は、例えば円形のものとすることもできるが、他の形状、例えば矩形や三角形のような多角形状とすることもできるし、或いは楕円や長孔状とすることもできる。第1の貫通孔に第1の巻線が設けられている。第2の貫通孔に第2の巻線が設けられている。前記第1の巻線よりも少ない巻数に巻いたものである。なお、第1及び第2の巻線には、円形の巻線を使用することもできるし、角型の巻線を使用することもできる。
【0009】
このように構成されたトランスでは、巻数の少ない第2の巻線が設けられる第2の貫通孔の面積が、第1の貫通孔の面積よりも小さいので、第2の巻線を第2の貫通孔に密着した状態で設けることができ、巻線作業の作業性が向上するし、しかも平均磁路長が短くなり、実効透磁率が上がり、特性向上が見込める。
【0010】
第1及び第2の巻線は、同じ太さのものとすることができる。例えば第1及び第2の巻線に円形のものを使用した場合、同じ直径のものを使用することができ、例えば面積の大きい第1の貫通孔に設けることを基準にして第1の巻線の太さを選択した場合、その太さと同じ太さの巻線を面積の小さい第2の貫通孔に設けた場合、第2の貫通孔内における空間が小さくなり、このトランスを大量生産した場合、いずれのトランスにおいても第2の巻線の巻線間隔がばらつきにくくなり、トランスの特性もばらつきにくくなる。
【0011】
前記コアは、1つのコア本体部に第1及び第2の貫通孔が間隔をおいて形成されているものとすることができるし、或いは、前記コアは、ほぼ接触させて配置された第1及び第2のコア本体部を有し、第1のコア本体部に第1の貫通孔が、第2のコア本体部に第2の貫通孔が、それぞれ形成されているものとすることもできる。
【0012】
前記第1の巻線は、分岐器の分岐側の接地用巻線とすることができる。この場合、前記第2の巻線は前記分岐器の幹線側の接地用巻線で、第1の貫通孔には第1の巻線よりも少ない巻数の前記分岐器の分岐側巻線も設けられ、第2の貫通孔には第2の巻線よりも少ない巻数の前記分岐器の幹線側巻線も設けられている。このように構成することによって、分岐用のトランスを構成することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、トランスの巻線作業の作業性を向上させることができる上に、製造されたトランスの特性のばらつきを抑えてかつ特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の1実施形態のトランスを使用した分岐器の正面図である。
【図2】図1の分岐器に使用するコアの斜視図である。
【図3】図1の分岐器と従来の分岐器との挿入損失、結合損失、逆結合損失を示す図である。
【図4】図1の分岐器と従来の分岐器との入力反射損失、出力反射損失及び分岐出力反射損失を示す図である。
【図5】図1の分岐器に使用するコアの変形例の斜視図である。
【図6】分岐器の回路図である。
【図7】従来の分岐器に使用されているコアの斜視図である。
【図8】従来の分岐器の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態のトランスは、分岐器、例えば1分岐器に本発明を実施したもので、図1及び図2に示すようにコア、例えばメガネコア30を使用している。メガネコア30は、例えば厚みのある小判型に形成されている本体部31を有している。このメガネコア30は、図8及び図9に示したメガネコア18と同一の材料及び大きさのものである。メガネコア30の本体部31は、対向する2つの同一形状の主表面32及び34を有している。これら2つの主表面32及び34間を貫通するように第1及び第2の貫通孔、例えば2つの円形の貫通孔36及び38が穿設されている。第1の貫通孔の一例である貫通孔36は、図8及び図9に示した貫通孔20及び22と同一の直径のものである。第2の貫通孔の一例である貫通孔38は、貫通孔36の直径よりも小さい、例えば約1/2の直径のものである。
【0016】
貫通孔38には、貫通孔22と同様に図7に示す1分岐器を構成する幹線側巻線6、幹線側接地巻線8が巻回され、貫通孔36には、分岐側巻線10及び分岐側接地巻線14が巻回される。これら巻線6、8、10及び14の直径は、全て同一の直径で、貫通孔36の直径に対して約1/5で、貫通孔38の直径に対して約1/3に相当する。巻線6、8、10及び14の直径は、直径の大きい貫通孔36に巻線10及び14を所定巻数巻くことができることを基準として選択されており、もし貫通孔38の直径が貫通孔36の直径と同じであれば、巻線6、8を貫通孔38に巻いたなら、貫通孔38には空間が多くなり、大量生産で1分岐器を生産した場合、巻線6、8の巻線間隔が1分岐器ごとにばらつきやすいものである。
【0017】
貫通孔38には、主表面32側から主表面34側に抜けるように幹線側巻線6が挿通され、巻数は1Tである。幹線側接地巻線8は、主表面32側から主表面34側に一端が抜けるように挿通され、その一端は、主表面34でメガネコア30の本体部31の一端部側に折り返され、一端側で主表面32を通って貫通孔38側に折り返されて、貫通孔38内に挿通されることを繰り返して、貫通孔38とメガネコア30の本体部31の一端部と間の巻回部40に3Tにわたって巻回されている。
【0018】
同様に、貫通孔36では、主表面32側から主表面34側に抜けるように分岐側巻線10、分岐側接地巻線14それぞれの一端が挿通され、それらの一端は、主表面34側でメガネコア30の本体部31の他端部側に折り返され、他端側で主表面32を通って貫通孔36側に折り返されて、貫通孔36内に挿通されることを繰り返して、貫通孔36とメガネコア30の本体部31の他端部と間の巻回部42に、分岐側巻線10が2Tに亘って、分岐側接地巻線14が7Tにわたってそれぞれ巻回されている。
【0019】
貫通孔38に巻回される幹線側巻線6及び幹線側接地巻線8の巻数は、分岐側巻線10及び分岐側接地巻線14の巻数と比較して少ない。従って、貫通孔38の直径を貫通孔36よりも小さくしている。これによって、幹線側接地巻線8は貫通孔38の円周に沿って密着して巻くことが容易になり、巻線作業の作業性が向上するし、1分岐器の特性のばらつきを抑えることができる。また、貫通孔38の直径が小さいので平均磁路長を短くすることができ、実効透磁率を上げることができ、1分岐器の特性を向上させることができる。
【0020】
図3は、図1及び図2に示す1分岐器と図7及び図8に示す従来の1分岐器の挿入損失、結合損失、逆結合損失を示したもので、符号60で示すのが図1及び図2に示す分岐器の挿入損失、符号62で示すのが図7及び図8に示す従来の1分岐器の挿入損失で、両者には殆ど差は無い。符号64で示すのが図1及び図2に示す分岐器の結合損失、符号66で示すのが図7及び図8に示す従来の1分岐器の結合損失で、図1及び図2に示す分岐器の結合損失の方が図7及び図8に示す従来の1分岐器の結合損失よりも若干小さい。符号68で示すのが、図1及び図2に示す1分岐器の逆結合損失で、符号70で示すのが、従来の1分岐器の逆結合損失で、図1及び図2に示す1分岐器の逆結合損失が図7及び図8に示す従来の1分岐器の逆結合損失よりも約5dB大きい。
【0021】
図4は、図1及び図2に示す1分岐器と図7及び図8に示す従来の1分岐器の入力側反射損失、幹線出力側反射損失及び分岐出力側反射損失を示したもので、符号72で示すのが図1及び図2に示す分岐器の入力側反射損失、符号74示すのが図7及び図8に示す従来の1分岐器の入力側反射損失で、両者には殆ど差は無い。符号76で示すのが図1及び図2に示す分岐器の幹線出力側反射損失で、符号78で示すのが図7及び図8に示す従来の1分岐器の幹線出力側反射損失で、図1及び図2に示す分岐器の結合損失の方が図7及び図8に示す従来の1分岐器の結合損失よりも最大約3dB大きい。符号80で示すのが、図1及び図2に示す1分岐器の分岐出力側反射損失で、符号82で示すのが、従来の1分岐器の分岐出力側損失で、図1及び図2に示す1分岐器の逆結合損失が図7及び図8に示す従来の1分岐器の逆結合損失よりも約5dB大きい。
【0022】
図3及び図4には、100MHzを超えた周波数での特性は示していないが、100MHzを超えた周波数でも、図1及び図2に示す1分岐器の挿入損失、結合損失、逆結合損失、入力側反射損失、幹線出力側反射損失及び分岐出力側反射損失は、図3及び図4に示したものと同様な特性を示す。
【0023】
上記の実施形態では、メガネコア30の本体部31には、一体のものを示したが、図5に示すように貫通孔36を穿設した第1の本体部31aと、貫通孔38を穿設した第2の本体部31bとを、別個に形成し、第1及び第2の本体部31a及び31bを接触するように配置したものを使用することもできる。
【0024】
上記の実施形態では、貫通孔36及び38は円形の貫通孔としたが、これに限ったものではなく、例えば矩形や三角形のような多角形状の貫通孔としたり、楕円状の貫通孔としたりすることもできる。また、上記の実施形態では、各巻線6、8、10、14には、円形の巻線を使用したが、これに限ったものではなく、例えば長さ方向に垂直な方向の縦断面形状が矩形状である角型の巻線を使用することもできる。また、上記の実施形態では、各巻線6、8、10、14の太さを同一のものとしたが、貫通孔36に設けられる巻線と、貫通孔38に設けられる巻線との太さを異なったものとすることができ、例えば巻数が少ない巻線6、8の太さを巻数が多い巻線10、14の太さよりも太くすることができる。上記の実施形態では、本発明によるトランスを1分岐器に使用したが、これに限ったものではなく、例えば2つの貫通孔にそれぞれ別個に巻回される巻線を有するトランス、例えば高周波トランスにおいて、一方の巻線に巻回される巻線の巻数が他方の巻線よりも少ないような場合にも、本発明を実施することができる。その場合、巻数の少ない巻線が巻回される貫通孔の面積(貫通孔の長さ方向に対して垂直な断面の面積)を、巻数の多く巻線が巻回される貫通孔の面積(貫通孔の長さ方向に対して垂直な断面の面積)よりも小さくする。
【符号の説明】
【0025】
6 幹線側巻線(第1の巻線)
8 幹線側接地巻線(第1の巻線)
10 分岐側巻線(第2の巻線)
14 分岐側接地巻線(第2の巻線)
30 メガネコア(コア)
31 コア本体部
36 貫通孔(第1の貫通孔)
38 貫通孔(第2の貫通孔)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の貫通孔と、第1の貫通孔よりも面積が小さい第2の貫通孔とを、有するコアと、
第1の貫通孔に設けられた第1の巻線と、
第2の貫通孔に設けられ、前記第1の巻線よりも少ない巻数で設けられた第2の巻線とを、
具備するトランス。
【請求項2】
請求項1記載のトランスにおいて、前記第1及び第2の巻線は、同じ太さであるトランス。
【請求項3】
請求項1記載のトランスにおいて、前記コアは、1つのコア本体部に前記第1及び第2の貫通孔が間隔をおいて形成されているトランス。
【請求項4】
請求項1記載のトランスにおいて、前記コアは、ほぼ接触させて配置された第1及び第2のコア本体部を有し、前記第1のコア本体部に前記第1の貫通孔が、前記第2のコア本体部に前記第2の貫通孔が、それぞれ形成されているトランス。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか記載のトランスにおいて、前記第1の巻線は、分岐器の分岐側の接地用巻線で、前記第2の巻線は前記分岐器の幹線側の接地用巻線で、前記第1の貫通孔には前記第1の巻線よりも少ない巻数の前記分岐器の分岐側巻線も設けられ、前記第2の貫通孔には前記第2の巻線よりも少ない巻数の前記分岐器の幹線側巻線も設けられているトランス。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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