説明

トランス

【課題】コイル間およびコイルとコア間に所望の沿面距離を確保することができ、かつコイルの巻き戻しも防止することができるとともに、容易かつ確実に組立精度の向上と製造コストの低減化を実現することが可能とになるトランスを提供する。
【解決手段】仕切板2によって軸線方向に第1および第2の巻線部が形成された筒状のボビン1と、ボビン1の第1および第2の巻線部に各々巻回された第1および第2のコイル3、4を備え、第1および第2のコイル3、4は、各々両端部3a、4aを同方向に延出させ、かつ第1および第2のコイル3、4の外周に、各々第1および第2の巻線部の軸線方向の長さ寸法を有し、かつ第1および第2のコイル3、4の円周方向の1/2以上の範囲を覆う絶縁性樹脂からなる開環円筒状の第1および第2のホルダ11、12を、各々の開口部11a、12aからコイル3、4の両端部3a、4aを外方に延出させて嵌着した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル間およびコイルとコア間に所望の沿面距離を確保することができるとともに、コイルの巻き戻しも防止することが可能になるトランスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、車載用のトランスのように、大電流仕様のトランスにあっては、抵抗値を小さくするために1.0mφ以上といった大径の巻線を巻回したコイルが多く用いられている。また、コイル間やコイルとコア間に所定の沿面距離を確保するための様々な方策が採られている。
【0003】
図7〜図9は、従来のこの種のトランスを示すもので、図中符号1が円筒状のボビンである。
このボビン1は、両端部および中間部に方形板状の仕切板2が一体に形成されることにより、その軸線方向に2つの巻線部に区画されており、一方の巻線部に1次コイル3が巻回され、他方の巻線部に2次コイル4が巻回されている。
【0004】
ここで、1次コイル3の両端部3aは、互いに平行となるように仕切板2の一辺2a側に引き出されているとともに、2次コイル4の両端部4aは、1次コイル3の両端部3aと180°反対方向となる仕切板2の他辺2b側に、同様に互いに平行となるように引き出されている。
【0005】
さらに、1次および2次コイル3、4の両端部3a、4aが引き出されている仕切板2の辺2a、2bと隣接する辺部2c側には、1次コイル3および2次コイル4を外方から覆う外観略方形平板状の絶縁カバー5が配置されている。そして、これらボビン1および絶縁カバー5の外側に、フェライトコア6が設けられている。
【0006】
このフェライトコア6は、正面視においてE型をなす一対の分割コア7、7によって、全体として正面視日字状に形成されたものである。また、各分割コア7は、平板部8と、この平板部8の長手方向両端部に垂設された略平板状の側壁部9と、これら側壁部9間の中央部に立設された円柱状の中脚10とが一体に成形されたものである。
【0007】
そして、一対のコア7は、平板部8がボビン1の両端の仕切板2側に配置され、中脚10がボビン1の中心開口部に挿入された状態で、側壁部9が絶縁カバー5を間に挟んで1次コイル3および2次コイル4に対向配置され、側壁部9の先端部が当接された状態で、テープ6aが巻回されることにより一体化されて閉磁路を形成するフェライトコア6が構成されている。
【0008】
上記構成からなるトランスによれば、図9に示すように、中央の仕切板2によって1次コイル3と2次コイル4とを区画するとともに、1次コイル3および2次コイル4とフェライトコア6の側壁部9との間に絶縁カバー5を介装しているために、1次コイル3および2次コイル4間のみならず、1次および2次コイル3、4とフェライトコア6との間に対しても、所定の沿面距離を確保することができる。
【0009】
ところで、このようなトランスにあっては、1次および2次コイル3、4を構成する巻線の弾性係数が高いために、製造時にボビン1に上記巻線を巻回して1次コイル3および2次コイル4を形成する際に、スプリングバックによって巻き戻りが生じ、当該1次コイル3や2次コイル4の巻き径が大きくなって上記沿面距離が短くなったり、あるいは1次コイル3あるいは2次コイル4から引き出された端部3a、4aの位置精度が悪化して、基板等との接続に支承を来したりする等の不都合が生じる。
【0010】
そこで、従来この種のトランスを製造する際には、1次コイル3および2次コイル4の巻線を施した後に、当該巻線の巻き戻りを防止するために、別途クリップ等の治具や、テープ等を用いて仮止めを行い、コア7等の他の部品を組み立てた後に、これらの治具やテープを取り外す等の対策を講じているが、当該作業に多くの手間を要し、この結果製造コストが嵩むという問題点があった。
【0011】
なお、下記特許文献1には、同様の大電流仕様のトランスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2011−082205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、コイル間およびコイルとコア間に所望の沿面距離を確保することができ、かつコイルの巻き戻しも防止することができるとともに、容易かつ確実に組立精度の向上と製造コストの低減化を実現することが可能とになるトランスを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、外周面から環状に突出する仕切板によって、軸線方向に第1の巻線部および第2の巻線部が形成された筒状のボビンと、このボビンの上記第1および第2の巻線部に各々巻回された第1のコイルおよび第2のコイルと、上記ボビンの外周を囲繞して閉磁路を形成するコアとを備えたトランスにおいて、上記第1のコイルは、その両端部を同方向に延出させ、かつ上記第2のコイルは、その両端部を同方向に延出させるとともに、上記第1および第2のコイルの外周に、各々上記第1および第2の巻線部の軸線方向の長さ寸法を有し、かつ上記第1および第2のコイルの円周方向の1/2以上の範囲を覆う絶縁性樹脂からなる開環円筒状の第1および第2のホルダを、各々の開口部から上記コイルの両端部を外方に延出させて嵌着したことを特徴とするものである。
【0015】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記コアが、第1および第2のコイルを間に挟んで上記軸線方向に延在する一対の側壁部を有し、かつ上記第1および第2のホルダには、各々の軸線方向の両端部であって、少なくとも上記コアの側壁部と対向する部分に、外周面から突出するとともに上記仕切板に当接する鍔部が形成されていることを特徴とするものである。
【0016】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、上記第1および第2のホルダの上記開口部を画成する両端部には、各々外方へ平行に延出するとともに、各々上記第1および第2のコイルの両端部を案内する平板部が形成されていることを特徴とするものである。
【0017】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、上記コアの側壁部は、対向面の中央部分に上記ボビン並びに第1および第2のホルダを囲繞する円筒面が形成され、この円筒面の両側に、上記第1および第2のホルダの平板部と対向する平面部が形成されるとともに、上記第1および第2のホルダには、各々の外周面から突出して上記平面部に当接する廻り止め部が形成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1〜4のいずれかに記載の発明によれば、第1および第2のコイルの軸線方向の全長にわたって、各々の当該第1および第2のコイルの円周方向の1/2以上の範囲を覆う絶縁性樹脂からなる開環円筒状の第1および第2のホルダを装着しているために、これら第1および第2のホルダによって、第1および第2のコイル間および当該コイルとコアとの間に所定の沿面距離を確保することができる。
【0019】
加えて、第1および第2の巻線部に巻線を施して上記第1および第2のコイルを形成した後に、各々の外周に上記第1および第2のホルダを嵌め合わせて装着することにより、上記巻線の巻き戻りも防止することができる。このため、巻線の線径が大きくなった場合においても、従来のようクリップ等の治具やテープ等を用いることなく、容易かつ確実に組立精度を向上させることができるとともに、併せて製造コストの低減化も実現することができる。
【0020】
しかも、上記第1および第2のホルダを、開環円筒状に形成し、その開口部から第1および第2のコイルの端部を外方に延出させているために、これら第1および第2のホルダと第1および第2のコイルの両端引き出し部分とが干渉することがない。
【0021】
また、特に請求項3に記載の発明によれば、上記第1および第2のホルダの開口部を画成する両端部に、各々外方へ平行に延出するとともに、各々上記第1および第2のコイルの両端部を案内する平板部を形成しているために、巻線が太くなって、その引き出し部分をそのまま接続端子として使用する場合においても、上記平板部によって当該両端部の位置決め精度を向上させることが可能になる。
【0022】
さらに、請求項4に記載の発明によれば、開環円筒状をなす第1および第2のホルダに、その外周面から突出してコアの側壁部の平面部に当接する廻り止め部を形成しているために、第1および第2のホルダを第1および第2のコイルの外周に嵌合して、その周囲にコアを配置した後は、上記コアの側壁部に当接する廻り止め部によって、第1および第2のホルダに位置ズレが生じることを未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るトランスの一実施形態を示す分解斜視図である。
【図2】上記トランスの平面図である。
【図3】上記トランスの正面図である。
【図4】上記トランスの側面図である。
【図5】図2のA−A線視断面図である。
【図6】図3のB−B線視断面図である。
【図7】従来のトランスを示す分解斜視図である。
【図8】図7の平面図である。
【図9】図8のA−A線視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1〜図6は、本発明に係るトランスの一実施形態を示すもので、図7〜図9に示したものと同一構成部分については、同一符号を付してその説明を簡略化する。
図1〜図6に示すように、このトランスにおいては、図7〜図9に示したトランスにおける絶縁カバー5に代えて、1次コイル(第1のコイル)3の外周に第1のホルダ11が設けられるとともに、2次コイル(第2のコイル)4の外周に第2のホルダ12が設けられている。
【0025】
これら第1および第2のホルダ11、12は、いずれも電気絶縁性を有するPET等の熱可塑性樹脂によって、開環円筒状(横断面C字状)に形成されたもので、対応する1次コイル3あるいは2次コイル4の円周方向の1/2以上の範囲を覆う円弧長さに形成されており、各々の開口部11a、12aから1次コイル3の端部3aあるいは2次コイル4の端部4を外方に延出させて嵌着されている。
【0026】
さらに、第1および第2のホルダ11、12の開口部11a、12aに臨む両端部には、各々外方へ平行に延出する平板部11b、12bが一体に形成されており、各平板部11b、12bに沿って、第1および第2のコイル3、4の両端部3a、4aが外方へと案内されている。
【0027】
また、第1および第2のホルダ11、12の各々の軸線方向の長さ寸法は、装着される1次コイル3が巻回されている巻線部あるいは2次コイル4が巻回されている巻線部の軸線方向の長さ寸法に設定されている。そして、これら第1および第2のホルダ11、12の軸線方向の両端部であって、フェライトコア6の側壁部9と対向する部分には、外周面から突出するとともに仕切板2に当接する鍔部11c、12cが一体に形成されている。
【0028】
他方、図6に示すように、上記側壁部9の第1および第2のホルダ11、12との対向面の中央部分には、第1および第2のホルダ11、12の円弧部分を囲繞する円筒面13が軸線方向に沿って形成されている。そして、この円筒面13の上記軸線方向と直交する方向の両側部には、第1および第2のホルダ11、12の平板部11b、12bと対向する平面部14が形成されている。
【0029】
そして、第1および第2のホルダ11、12の鍔部11c、12cにおける開口部11a、12aと反対側の端部には、当該鍔部11c、12cからさらに外方に突出して側壁部9の平面部14に当接する廻り止め部11d、12dが形成されている。また、第1および第2のホルダ11、12の平板部11b、12bの先端には、側壁部9の平面部14側から側面15側に屈曲形成されて、当該側面15に係合する抜け止め部11e、12eが形成されている。
【0030】
ちなみに、上記構成からなる第1および第2のホルダは、各々の内径が、装着される1次コイル3の外径あるいは2次コイル4の外径と同等あるいは僅かに小さい寸法に形成されるとともに、1次コイル3あるいは2次コイル4の外周に装着される際に、開口部11a、12aが拡張され、コイルの最大外径部分が通過後に、弾性力によって復元して1次コイル3あるいは2次コイル4の外周に嵌め合わされた状態となるような寸法諸元に形成されている。
【0031】
以上の構成からなるトランスにおいては、1次および2次コイル3、4の軸線方向の全長にわたって、各々の1次および2次コイル3、4の円周方向の1/2以上の範囲を覆う絶縁性樹脂からなる開環円筒状の第1および第2のホルダ11、12を装着しているために、これら第1および第2のホルダ11、12によって、図5に太線矢印で示す1次コイル3と2次コイル4との間の沿面距離L1および1次および2次コイル3、4とフィライトコア6の側壁部9との間の沿面距離L2を、所定の長さ寸法に確保することができる。
【0032】
これに加えて、ボビン1の第1および第2の巻線部に巻線を施して1次コイル3および2次コイル4を形成した後に、各々の外周に第1および第2のホルダ11、12を嵌め合わせて装着することにより、上記巻線の巻き戻りも防止することができる。このため、巻線の線径が大きくなった場合においても、容易かつ確実に組立精度を向上させることができるとともに、併せて製造コストの低減化も実現することができる。
【0033】
この際に、第1および第2のホルダ11、12を、開環円筒状に形成し、互いの開口部11a、12aから1次および2次コイル3、4の端部3a、4aを外方に延出させているために、これら第1および第2のホルダ11、12と1次および2次コイル3、4の両端引き出し部分3a、4aとが干渉することがない。
【0034】
さらに、第1および第2のホルダ11、12の開口部11a、12aに臨む両端部に、各々外方へ平行に延出する平板部11b、12bを形成し、各々の平板部11b、12bによって1次および2次コイル3、4の両端部3a、4aを案内しているために、巻線が太くなって、その引き出し部分3a、4aをそのまま接続端子として使用する場合においても、各平板部11b、12bによって両端部3a、4aの位置決め精度を向上させることができる。
【0035】
しかも、第1および第2のホルダ11、12に、その外周面から突出して側壁部9の平面部14に当接する廻り止め部11d、12dを形成しているために、第1および第2のホルダ11、12を1次および2次コイル3、4の外周に嵌合して、その周囲にコア7を配置した後は、側壁部9に当接する廻り止め部11d、12dによって、第1および第2のホルダ11、12に円周方向の位置ズレが生じることを未然に防止することができる。
【0036】
加えて、第1および第2のホルダ11、12の開口部11a、12a側に形成した平板部11b、12bの先端に、側壁部9の側面15に係合する抜け止め部11e、12eを形成しているために、コア7を配置した後は、第1および第2のホルダ11、12が1次および2次コイル3、4から脱落することも防止することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 ボビン
2 仕切板
3 1次コイル(第1のコイル)
4 2次コイル(第2のコイル)
6 フェライトコア
9 側壁部
11 第1のホルダ
12 第2のホルダ
11a、12a 開口部
11b、12b 平板部
11c、12c 鍔部
11d、12d 廻り止め部
13 円筒面
14 平面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面から環状に突出する仕切板によって、軸線方向に第1の巻線部および第2の巻線部が形成された筒状のボビンと、このボビンの上記第1および第2の巻線部に各々巻回された第1のコイルおよび第2のコイルと、上記ボビンの外周を囲繞して閉磁路を形成するコアとを備えたトランスにおいて、
上記第1のコイルは、その両端部を同方向に延出させ、かつ上記第2のコイルは、その両端部を同方向に延出させるとともに、
上記第1および第2のコイルの外周に、各々上記第1および第2の巻線部の軸線方向の長さ寸法を有し、かつ上記第1および第2のコイルの円周方向の1/2以上の範囲を覆う絶縁性樹脂からなる開環円筒状の第1および第2のホルダを、各々の開口部から上記コイルの両端部を外方に延出させて嵌着したことを特徴とするトランス。
【請求項2】
上記コアは、第1および第2のコイルを間に挟んで上記軸線方向に延在する一対の側壁部を有し、かつ上記第1および第2のホルダには、各々の軸線方向の両端部であって、少なくとも上記コアの側壁部と対向する部分に、外周面から突出するとともに上記仕切板に当接する鍔部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のトランス。
【請求項3】
上記第1および第2のホルダの上記開口部を画成する両端部には、各々外方へ平行に延出するとともに、各々上記第1および第2のコイルの両端部を案内する平板部が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のトランス。
【請求項4】
上記コアの側壁部は、対向面の中央部分に上記ボビン並びに第1および第2のホルダを囲繞する円筒面が形成され、この円筒面の両側に、上記第1および第2のホルダの平板部と対向する平面部が形成されるとともに、上記第1および第2のホルダには、各々の外周面から突出して上記平面部に当接する廻り止め部が形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のトランス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−58528(P2013−58528A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194733(P2011−194733)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000237721)FDK株式会社 (449)