説明

トランス

【課題】渦電流損失を発生させることなく、直流重畳特性を改善することができるトランスを提供すること。
【解決手段】板状コア3における頂面23Uと対向する対向部分に、入力端子6及び出力端子7に対向しない第1の対向部分31と、入力端子6及び出力端子7と対向する第2の対向部分32とを形成する。また、頂面23Uと第1の対向部分31との間に、スペーサ34,34によって第1の隙間d1を形成する。また、入力端子6及び出力端子7と第2の対向部分32との間に、第2の対向部分32に対応して設けられた板状コア3の逃げ部によって第1の隙間d1よりも大きい第2の隙間d2を形成する。これにより、磁束は、第1の隙間d1が形成された頂面23Uと第1の対向部分31との間を通過し、第1の隙間d1よりも大きい第2の隙間d2が形成された入力端子6及び出力端子7と板状コア3との間は通過が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスに関する発明である。
【背景技術】
【0002】
従来、小型の電子機器等に用いるトランスとして、例えば特許文献1に記載のバルントランスが知られている。この従来のトランスは、両端に四角形状の端部つばを有し中央に中央つばを有するドラム型コアに、平板状コアを接合させて構成されている。また、ドラム型コアの端部つばと中央つばとの間に形成された巻線溝(巻芯部)には、二本の巻線(1次巻線及び2次巻線)が巻回されている。そして、つば側面に電極を設け、この電極に巻線の端末を継線している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−326715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような構成に準じた構成のトランスにおいて、巻線の端末を電極に熱圧着する際、熱圧着による熱のために電極の継線部周辺が劣化することがある。この劣化した部分が基盤への実装面に含まれると実装不良が生じるおそれがあり、これを防止するために継線部を実装面と反対側の板状コアと対向する面に設けることが考えられる。また、このような構成のトランスにおいて、その直流重畳特性を改善する方法として、鍔部と板状コアとの間に隙間を設けて、磁気飽和を抑制する方法が考えられる。しかし、従来の板状コアのように単純な平板状の構造では、板状コアと端子電極との間にも磁束が通過して端子電極において渦電流が発生してしまい、渦電流損失が発生してしまう。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、渦電流損失を発生させることなく、直流重畳特性を改善することができるトランスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るトランスは、フェライトからなり、巻芯部及び巻芯部の両端に設けられた鍔部を有するドラムコアと、巻芯部に巻回される巻線と、鍔部に設けられ、鍔部の頂面において巻線の端末が継線される端子電極と、フェライトからなり、頂面と対向するように配置された板状コアとを備えたトランスであって、板状コアは、頂面と対向する対向部分において、端子電極に対向しない第1の対向部分と、端子電極と対向する第2の対向部分とを有し、頂面と第1の対向部分との間には、スペーサによって第1の隙間が形成され、端子電極と第2の対向部分との間には、第2の対向部分に対応して設けられた板状コアの逃げ部によって第1の隙間よりも大きい第2の隙間が形成されていることを特徴とする。
【0007】
このトランスでは、板状コアは、頂面と対向する対向部分において、端子電極に対向しない第1の対向部分と、端子電極と対向する第2の対向部分とを有する。また、頂面と第1の対向部分との間には、スペーサによって第1の隙間が形成される。また、端子電極と第2の対向部分との間には、第2の対向部分に対応して設けられた板状コアの逃げ部によって第1の隙間よりも大きい第2の隙間が形成される。これにより、このトランスでは、磁束は、第1の隙間が形成された頂面と第1の対向部分との間を通過し、第1の隙間よりも大きい第2の隙間が形成された端子電極と第2の対向部分との間は通過が抑制される。したがって、端子電極において渦電流が発生することが抑制され、渦電流損失を発生させることなく、直流重畳特性を改善することができる。
【0008】
ここで、第2の隙間は、第1の隙間の3倍以上であることが好ましい。こうすると、端子電極と板状コアとの間の隙間を確実に確保することができる。したがって、このトランスでは、端子電極において渦電流が発生することがさらに抑制され、渦電流損失を発生させることなく、直流重畳特性を改善することができる。
【0009】
また、逃げ部における板状コアの厚さは、0.25mm以上であることが好ましい。こうすると、トランスの使用時における熱による板状コアの反りを抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、渦電流損失を発生させることなく、直流重畳特性を改善することができるトランスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係るトランスを示す斜視図である。
【図2】図1の正面図である。
【図3】図1の側面図である。
【図4】図1の上面図である。
【図5】図1の底面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る板状コアの正面図である。
【図7】図6の側面図である。
【図8】図6の上面図である。
【図9】図6の底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ本発明のトランスの好適な実施形態について詳細に説明する。
【0013】
図1〜図5は、それぞれ本発明の実施形態に係るトランスを示す斜視図、正面図、側面図、上面図及び底面図である。また、図6〜図9は、それぞれ本発明の実施形態に係る板状コアの正面図、側面図、上面図及び底面図である。
【0014】
本実施形態に係るトランス1は、カメラ等の小型機器において変圧を行うために用いられるものである。このトランス1は、図1〜5に示すように、ドラムコア2、板状コア3、1次巻線4、2次巻線5、入力端子(端子電極)6,6及び出力端子(端子電極)7,7を備えている。トランス1は、ここでは、長さ(図4において、紙面上下方向)が3.2mm程度、幅(図4において、紙面左右方向)が2.5mm程度、高さ(図2において、紙面上下方向)が1.2〜2.4mm程度となっている。
【0015】
ドラムコア2は、フェライトからなる部材であり、巻芯部21及び鍔部22U,22Lを有している。巻芯部21は、例えば略四角柱等をなしている。鍔部22U,22Lは、巻芯部21の両端に設けられており、巻芯部21よりも断面が大きい略直方体をなしている。
【0016】
1次巻線4及び2次巻線5は、巻芯部21に巻回されるものであり、いずれも、鍔部22U側から見て時計回り(右回り)に巻芯部21に巻回されている。巻芯部21に対してまず2次巻線5が巻回され、この2次巻線5の外周に1次巻線4が巻回されている。1次巻線4の径は、2次巻線5の径よりも2〜5倍程度大きく、ここでは、1次巻線4の径は50〜100μm程度、2次巻線5の径は10〜40μm程度となっている。
【0017】
入力端子6は、鍔部22Uの上面(以下、「頂面」という)23U、側面24U及び底面25Uに亘って、略コ字状をなすように設けられており、同様にして鍔部22Lにも設けられている。また、出力端子7は、入力端子6と同様にして、鍔部22U,22Lにそれぞれ設けられている。入力端子6は、鍔部22U,22Lの一方側(図2において紙面右側)寄りに設けられており、出力端子7は、鍔部22U,22Lの他方側寄りに設けられている。入力端子6及び出力端子7の幅(図2において紙面左右方向)は、それぞれ鍔部22U,22Lの幅の1/5程度となっている。そして、鍔部22U,22Lの頂面23U,23Lにおいて、1次巻線4の端末が入力端子6,6に継線され、2次巻線5の端末が出力端子7,7に継線されている。
【0018】
入力端子6及び出力端子7は、鍔部22U,22Lの頂面23U,23L、側面24U,24L及び底面25U,25Lに、例えばAg等を主成分とする導電ペーストを転写した後に所定温度(例えば、700℃程度)にて焼き付け、更に金属めっきを施すことにより形成される。金属めっきには、例えばSn等を用いることができる。なお、入力端子6及び出力端子7は、金属製の板材にて構成し、鍔部22U,22Lの対応する位置に装着して構成してもよい。金属製の板材には、例えば金属めっき(NiとSn)を施した燐青銅等を用いることができる。
【0019】
板状コア3は、フェライトからなる略矩形状の部材であり、磁気抵抗を下げて、トランス1のインダクタンスを向上させるために用いるものである。板状コア3は、ドラムコア2を覆う程度の大きさとなっており、本実施形態では、例えば幅(図4において、紙面左右方向)が2.5mm程度、長さ(図4において、紙面上下方向)が3.2mm程度、厚さが0.45mm程度となっている。板状コア3は、図3に示すように、その長さ方向の両端部付近が、鍔部22U,22Lの頂面23U,23Lと対向するように配置されている。
【0020】
板状コア3は、頂面23U,23Lと対向する対向部分において、入力端子6及び出力端子7に対向しない第1の対向部分31,31と、入力端子6及び出力端子7と対向する第2の対向部分32,32とを有している。また、板状コア3は、巻芯部21と対向する部分に第3の対向部分33を有している。第1の対向部分31は、図6〜図9に示すように、略矩形状の部分であり、その大きさは、例えば、幅T1が1.44mm程度、長さT2が0.7mm程度となっている。第1の対向部分31の側面31a,32b,32cは、いずれも傾斜した面となっている。第2の対向部分32は、第1の対向部分31を囲む略コ字状の部分において、この第1の対向部分31を挟んでいる略矩形状の部分(図9において、一点鎖線で囲まれた部分)であり、その大きさは、例えば、幅T3が0.53mm、長さT4が0.7mm程度となっている。第3の対向部分33は、略矩形状の部分であり、その大きさは、例えば、幅T5が2.5mm程度、長さT6が1.4mm程度となっている。第3の対向部分33の側面33a,33aは、いずれも傾斜した面となっている。
【0021】
第1の対向部分31には、スペーサ34,34が板状コア3の幅方向に離間して設けられており、このスペーサ34,34によって板状コア3と鍔部22U,22Lとの間に第1の隙間d1が形成されている(図2参照)。このスペーサ34,34は、図7に示すように、板状コア3から突出した球面状の突起であり、例えば、直径が0.2mm程度、高さdaが0.03〜0.1mm程度であり、ここでは高さdaが0.05mm程度となっている。そして、その高さdaが第1の隙間d1と対応している。すなわち、第1の隙間d1は0.05mmとなっている。また、第1の対向部分31における板状コア3の厚さdtは、0.35〜0.8mm程度であり、ここでは、0.45mmとなっている。
【0022】
第2の対向部分32は、第1の対向部分31よりも窪んだ逃げ部となっており、この逃げ部によって入力端子6及び出力端子7と第2の対向部分32との間に、第1の隙間d1よりも大きい第2の隙間d2が形成されている(図2参照)。第2の対向部分32の窪み量は、例えば0.1mm程度であり、この窪み量とスペーサ34の高さdaを合計した値dcが、第2の隙間d2と対応している。すなわち、第2の隙間d2は0.15mmであり、第2の隙間d2は、第1の隙間d1の3倍となっている。なお、第2の隙間d2は、第1の隙間d1の3倍以上であることが好ましい。これによって、鍔部22U,22Lと第2の対向部分32,32との間における磁気抵抗を増加させ、鍔部22U,22Lと第2の対向部分32,32との間で磁束が通過することを抑制し、鍔部22U,22Lと第1の対向部分31,31との間でのみ磁束を通過させることができる。また、逃げ部である第2の対向部分32における板状コア3の厚さdmは、0.25mm以上であることが好ましく、ここでは、0.35mmとなっている。
【0023】
板状コア3の上面及び底面には、トランス1の基盤への実装の際、その極性方向を識別できるように方向性識別マーク35,35が設けられている。板状コア3は、スペーサ34,34の間に塗布された接着剤によって、鍔部22U,22Lの上面に固定されている。
【0024】
このようなトランス1では、板状コア3は、頂面23U,23Lと対向する対向部分において、入力端子6及び出力端子7に対向しない第1の対向部分31と、入力端子6及び出力端子7と対向する第2の対向部分32とを有する。また、頂面23U,23Lと第1の対向部分31との間には、スペーサ34,34によって第1の隙間d1が形成される。また、入力端子6及び出力端子7と第2の対向部分32との間には、第2の対向部分32に対応して設けられた板状コア3の逃げ部によって第1の隙間d1よりも大きい第2の隙間d2が形成される。これにより、このトランス1では、磁束は、第1の隙間d1が形成された頂面23U,23Lと第1の対向部分31との間を通過し、第1の隙間d1よりも大きい第2の隙間d2が形成された入力端子6及び出力端子7と板状コア3との間は通過が抑制される。したがって、入力端子6及び出力端子7において渦電流が発生することが抑制され、渦電流損失を発生させることなく、直流重畳特性を改善することができる。
【0025】
また、第2の隙間d2は、第1の隙間d1の3倍以上となっているため、入力端子6及び出力端子7と板状コア3との間の隙間を確実に確保することができる。また、鍔部22U,22Lと第2の対向部分32,32との間における磁気抵抗を増加させ、鍔部22U,22Lと第2の対向部分32,32との間で磁束が通過することを抑制し、鍔部22U,22Lと第1の対向部分31,31との間でのみ磁束を通過させることができる。したがって、このトランス1では、入力端子6及び出力端子7において渦電流が発生することがさらに抑制され、渦電流損失を発生させることなく、直流重畳特性を改善することができる。
【0026】
また、逃げ部である第2の対向部分32における板状コア3の厚さは、0.25mm以上となっているため、トランス1の使用時における熱による板状コア3の反りを抑制することができる。
【0027】
なお、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、上記実施形態においては、スペーサ34は板状コア3から突出した突起となっているが、これに代えて、板状コア3とは独立した別の部材をスペーサとして用いても良い。
【符号の説明】
【0028】
1…トランス、2…ドラムコア、3…板状コア、4…1次巻線、5…2次巻線、6,6…入力端子、7,7…出力端子、21…巻芯部、22U,22L…鍔部、23U,23L…頂面、31,31…第1の対向部分、32,32…第2の対向部分、34…スペーサ、d1…第1の隙間、d2…第2の隙間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェライトからなり、巻芯部及び前記巻芯部の両端に設けられた鍔部を有するドラムコアと、
前記巻芯部に巻回される巻線と、
前記鍔部に設けられ、当該鍔部の頂面において前記巻線の端末が継線される端子電極と、
フェライトからなり、前記頂面と対向するように配置された板状コアとを備えたトランスであって、
前記板状コアは、前記頂面と対向する対向部分において、前記端子電極に対向しない第1の対向部分と、前記端子電極と対向する第2の対向部分とを有し、
前記頂面と前記第1の対向部分との間には、前記ドラムコア又は前記板状コアから突出した突起であるスペーサによって第1の隙間が形成され、
前記端子電極と前記第2の対向部分との間には、前記第2の対向部分に対応して設けられた前記板状コアの逃げ部によって前記第1の隙間よりも大きい第2の隙間が形成されているトランス。
【請求項2】
前記第2の隙間は、前記第1の隙間の3倍以上である請求項1に記載のトランス。
【請求項3】
前記逃げ部における前記板状コアの厚さは、0.25mm以上である請求項1又は2に記載のトランス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−77857(P2013−77857A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−17229(P2013−17229)
【出願日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【分割の表示】特願2010−264074(P2010−264074)の分割
【原出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】