説明

トリアザシクロノナンの橋かけマンガン錯体の製造方法

本発明は、一般式(1)


[式中、M、X、L、z、Yおよびqは請求項1で定義された意味を有する]
で表されるマンガン錯化合物の製造方法に関する。当該方法は以下の段階を特徴とする:
a)1種またはそれ以上の二価金属塩であって、二価マンガン塩および鉄塩から選択され、少なくとも1種の二価金属塩がマンガン塩である、1種またはそれ以上の二価金属塩を、配位子Lと、溶剤としての水において反応させ、1種またはそれ以上の二価金属塩と配位子Lとの配位化合物を形成させること、
b)段階a)からの配位化合物を酸化剤で酸化し、その際、同時にpH値を11〜14に維持して、金属Mを二価から三価および/または四価状態に移行させること、
c)反応混合物のpHを、4〜9のpH値に低下させること、ならびに、場合により形成する金属Mの金属酸化物または金属水酸化物を分離すること、および
d)式Me(式中、Meはアルカリ金属イオン、アンモニウムイオンまたはアルカノールアンモニウムイオンを表し、Y、zおよびqは式1で定義される)の塩を、4〜9のpH値で添加すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗剤および洗浄剤における漂白触媒として使用される、難溶性の結晶性金属錯化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
欧州の粉末洗剤において、漂白成分は、以前から、洗浄の間にペルオキシド化合物を遊離する漂白剤を基礎としている。この強力な酸化作用を有する活性化合物は、非常に効率的に種々の汚れの種類(例えば茶、ワインおよび果物の)を、他の国で広く用いられている塩素系漂白の場合のように環境を損うことなく除去する。使用されるペルオキシド化合物(多くの場合、過ホウ酸塩または過炭酸塩)に応じて、有効な漂白に必要な洗浄温度は60〜95℃になる。それとは逆に、60℃未満の温度では、酸素漂白の有効性が著しく低下する。従って、経済的および生態学的な理由から、低い温度においても酸素漂白を可能にする化合物を見出そうという努力がなされている。低温での織物における洗剤の漂白性能の改善のために多くの場合に漂白活性化剤、例えばテトラアセチルエチレンジアミン(TAED)、ノナノイルオキシベンゼンスルホナートナトリウム(NOBS)またはデカノイルオキシ安息香酸(DOBA)が広く受け入れられているが、硬質表面の洗浄のために、例えば食器用洗剤において、漂白活性化剤と一緒に漂白触媒がますます使用されている。その際、特に、頑固な茶の汚れにおける良好な洗浄能力が期待される。より最近になって、漂白活性化剤はまた、織物の漂白および紙漂白において、および化学合成(酸化反応)において、大いに使用されている。
【0003】
これらの漂白触媒は、多くの場合に、鉄、コバルトまたはマンガンの金属含有化合物である。一方では、比較的単純な化合物、例えば金属塩(例えばマンガン酢酸塩)、または配位化合物、例えばペンタミン酢酸コバルトが使用され、他方では、開鎖もしくは環状配位子を有する遷移金属錯体が特に重要であり、なぜならば、それらは単純な系より漂白能力の点で何倍も優れているからである。最後に挙げた一連の触媒のうち、特に、トリアザシクロノナンおよびその誘導体を基礎とする配位子を含有するマンガン錯体または鉄錯体は、特に漂白活性な効果または高い酸化力を示す。
【0004】
そのような金属錯体の製造および使用の例は、特に、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7および特許文献8に記載されている。 製造、処理および使用の間の容易な取り扱いのために、多くの場合に、固体の、低吸湿性の化合物を使用することが必要である。ここでは、特に、大量の対イオン、例えばヘキサフルオロホスファート、ペルクロラートまたはテトラフェニルボラートを含有する漂白触媒および酸化触媒が有効であることが示されている。このような錯体は、例えば、特許文献9、特許文献10および特許文献11に記載されている。
【0005】
トリアザシクロノナンおよびその誘導体のそのような遷移金属錯体の合成には、一連の製造方法が知られている。例えば特許文献9には、有効なマンガン錯体触媒の製造方法が記載されており、それは以下の段階を含む:
i)マンガン(II)塩をトリアザシクロノナン誘導体、例えば、1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナンと、対イオン塩、例えばKPFの存在下で、水性−アルコール性媒体において反応させることにより、マンガン配位化合物を形成させること、
ii)そして引き続き、マンガン配位化合物を酸化剤を用いて酸化させ、その際同時に、pH値を少なくとも12に維持することによって、所望のマンガン錯体を形成させ、ここでマンガンは好ましくは酸化状態+3および/または+4にあること、
iii)段階ii)で得られた反応混合物を、7〜9のpH値に調節し、引き続き形成したマンガン酸化物をろ過して、マンガン錯体を溶剤混合物の蒸発により単離すること。達成される収率は59〜73%である。
【0006】
特許文献13において、同様の方法において、エチルで橋架けされたトリアザシクロノナン配位子を酢酸マンガン(II)でKPFの存在下で錯化し、引き続き過酸化水素を用いた酸化により、所望のマンガン(III/IV)錯体に転化する。
【0007】
特許文献14では、非水性溶剤(アセトニトリル)において処理され、その際、マンガン(III)塩が同様に配位子および対イオンの存在下でマンガン(III)錯体に転化され、それは引き続いてマンガン(IV)錯体に酸化される。
【0008】
上記の方法は、時に低い収率と、工業的規模における実施に関して以下の問題を提起する:
−マンガン錯体の可溶性を達成するために、溶剤混合物である水/アルコール(エタノール)を大量に使用する。これは低い空時収量(0.05kg/l)をもたらし、そのほかに、錯体の単離のために、大量の溶剤を蒸発させなければならない。
−粉末状のマンガン錯体の単離のための大量の溶剤の熱的な分離の間に、工業的な規模において、目的生成物が酸化マンガンの形成下で部分的に分解し、それを分離しなければならない。しかしながら、再結晶化は追加の反応段階を意味する。
−マンガン錯体は多くの場合に不要な副生成物によって不純である。それは、配位子(トリアザシクロノナン/−誘導体)および対イオン(例えばPF6−)から形成される塩である。その除去はさらなる精製段階を必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0126121号明細書
【特許文献2】国際公開第2008/086937号
【特許文献3】米国特許出願公開第2002/0066542号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2001/0044402号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2001/0025695号明細書
【特許文献6】米国特許第5,516,738号
【特許文献7】国際公開第2000/088063号
【特許文献8】欧州特許出願公開第0530870号明細書
【特許文献9】欧州特許出願公開第0458397号明細書
【特許文献10】欧州特許出願公開第0458398号明細書
【特許文献11】国際公開第96/06154号
【特許文献12】国際公開第93/25562号
【特許文献13】国際公開第96/06145号
【特許文献14】欧州特許出願公開第0522817号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、場合によりさらなる金属として鉄を含むことができる難溶性の結晶性金属錯体の、好ましくはマンガン錯体の製造のための、大規模に実施可能な新規の方法であって、改善された空時収量をもたらし、少ない精製段階で済まされる方法に対する需要が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
今回驚くべきことに、比較的濃縮された出発溶液から出発され、この固体濃度が本質的に反応の最後まで維持される場合に、この課題が解決され、上記の金属錯体の製造も可能であることが見出された。この方法では、唯一の溶剤としての水が用いられる。
【0012】
第一の段階において、最初に、有機配位子、例えば、トリシクロノナン配位子を金属塩、例えばマンガン塩と反応させ、その際、後に必要な対イオンは添加しない。形成した錯体の金属イオンを、上昇させたpHで所望の酸化状態に酸化し、引き続き、副生成物として生成した金属酸化物、例えばマンガン酸化物をろ過し、その後に初めて、対イオンの添加によって難溶性の錯体を沈殿させ、単離する。
【0013】
本発明を用いることで、有機溶剤なしで済ませられ、大規模で転化可能であり、高い空時収量および純度で高純度の生成物をもたらす、金属錯体の穏やかな製造方法が提供される。特に、前記生成物は副生成物、例えばマンガン酸化物、および配位子塩を含まず、その結果、合成後にさらなる精製段階なしで済ませることができる。
【0014】
本発明は、一般式(1)
【0015】
【化1】

【0016】
[式中、
MはIIIもしくはIVの酸化状態にあるマンガンおよび鉄から選択され、しかし、少なくとも1つのMはIIIもしくはIVの酸化状態にあるマンガンであり、
Xは互いに独立して、HO、O2−、O、O2−、OH、HO、SH、S2−、SO、Cl、N3−、SCN、N、RCOO、NHおよびNRから選択される配位種または橋かけ種であり、RはH、アルキルおよびアリールから選択されるラジカルであり、
Lは、マンガンにおよび場合により鉄に配位した少なくとも2つの窒素原子を含有する有機配位子であり、
Zは−4〜+4の整数であり、
Yは、錯体の電荷を中性にする、ヘキサフルオロホスファート、ペルクロラートまたはテトラフェニルボラートの群からの一価もしくは多価の対イオンであり、そして
qは1〜4の整数である]
で表されるマンガン錯化合物の製造方法であって、以下の段階:
a)1種またはそれ以上の二価金属塩であって、二価マンガン塩および鉄塩から選択され、少なくとも1種の二価金属塩が二価マンガン塩である、1種またはそれ以上の二価金属塩を、配位子Lと、溶剤としての水において反応させ、1種またはそれ以上の二価金属塩と配位子Lとの配位化合物を形成させること、
b)段階a)からの配位化合物を酸化剤で酸化し、その際、同時にpH値を11〜14、好ましくは12〜14に維持して、金属Mを二価から三価および/または四価状態に移行させること、
c)反応混合物のpHを、4〜9、好ましくは5〜8のpH値に低下させること、ならびに、場合により形成する金属Mの金属酸化物または金属水酸化物を分離すること、および
d)式Me(式中、Meはアルカリ金属イオン、アンモニウムイオンまたはアルカノールアンモニウムイオンを表し、Y、zおよびqは上記の意味を有する)の塩を、4〜9、好ましくは5〜8のpH値で添加すること、
を特徴とする製造方法に関する。
【0017】
ラジカルRとして記載したアルキル基は、好ましくはC〜C−アルキルであり、そしてラジカルRとして記載したアルキル基は、好ましくはC(フェニル)である。
【0018】
本発明の方法の好ましい実施態様において、結晶状に析出した一般式(1)のマンガン錯化合物を段階e)で、好ましくはろ過または遠心分離で単離する。
【0019】
本発明の方法は、反応を濃縮された水性の反応混合物中において実施できること、および、特に対イオン塩Meを、酸化段階ならびに形成した金属酸化物および金属水酸化物の除去の後に初めて、反応混合物に導入し、反応させる点で、先行技術と異なる。
【0020】
本発明の方法の段階a)において、水溶性のマンガン(II)塩および場合により追加的に水溶性の鉄(II)塩(好ましくは酢酸塩、炭酸塩、ハロゲン化物、硝酸塩および硫酸塩の群から選択され、例えば二酢酸マンガン、二塩化マンガン、二臭化マンガン、硫酸マンガン、二硝酸マンガン、塩化鉄、硫酸鉄または硝酸鉄)を、配位子化合物Lと、好ましくは4:1〜1:2のモル比、特に好ましくは2:1〜1:1のモル比、さらに好ましくは1.5:1〜1:1のモル比で反応させる。ここで、金属(II)塩および錯化合物は、100重量部の水あたり少なくとも15重量部の全量で使用される。
【0021】
特に好ましくは、一般式(1)における全てのMがIIIもしくはIVの酸化状態のマンガンであり、段階a)からの全ての二価金属塩が二価のマンガン塩である。特に好ましくは、段階a)から二価金属塩は、二塩化マンガン・4水和物である。
【0022】
有機配位子Lとしては、少なくとも9員の環を表すものが好ましく、その際、少なくとも2つ、好ましくは3または4つの窒素原子が環に関与しており、マンガンに配位している。例としては以下が挙げられる:1,4,7−トリアザシクロノナン(TACN)、1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン(1,4,7−Me−TACN)、1,5,9−トリアザシクロドデカン(TACD)、1,5,9−トリメチル−1,5,9−トリアザシクロドデカン(1,5,9−Me−TACD)、1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン(シクラム)、1,4,7,10−テトラメチル−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン(1,4,7,10−Me−シクラム)、2−メチル−1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン(2−Me−1,4,7−Me−TACN)、2−メチル−1,4,7−トリアザシクロノナン(2−Me−TACN)または1,2−ビス−(4,7−ジメチル−1,4,7−トリアザシクロン−1−イル)−エタン(Me−DTNE)。特に好ましくは、これらの群のうち、1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン(1,4,7−Me−TACN)および1,2−ビス−(4,7−ジメチル−1,4,7−トリアザシクロン−1−イル)−エタン(Me−DTNE)が特に好ましい。これらの群のうち1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン(1,4,7−Me−TACN)がさらに好ましい。
【0023】
段階a)におけるマンガン(II)塩および場合により追加的に鉄(II)塩の配位子Lとの反応は、本発明により、唯一の溶剤としての水において実施される。好ましくは、二価金属塩または金属(II)塩(すなわち、マンガン(II)塩および場合により追加的に鉄(II)塩の合計)および錯化合物が合わせて100重量部の水あたり少なくとも15重量部の量で存在するのに十分な水のみが使用される。金属(II)塩および錯化合物の濃度の上限は非常に高くてよく、なぜならば、このおよびさらなる反応は、溶液中でも懸濁液(分散液)中でも実施することができるからである。従って、濃度上限は本質的に、反応混合物の撹拌能力(Ruehrbarkeit)に依存し、撹拌能力はまた空時収量に対する限定因子でもある。従って、金属(II)塩および配位子は合わせて、100重量部の水あたり、好ましくは15〜55重量部、特に好ましくは20〜50重量部の量で使用される。水中における金属(II)塩の配位子Lとの反応は、100〜30℃、好ましくは15〜25℃(室温)の温度で、および大気圧で実施される。本発明の方法の段階a)は、溶剤混合物に溶解した、金属(II)塩および配位子化合物からの配位化合物を形成させる。水中における金属(II)塩および配位子の量の計算では、場合により金属(II)塩に含有される結晶水を溶剤である水に含める。
【0024】
本発明の段階b)において、金属(II)配位化合物を、11〜14、好ましくは12〜13のpH値で、段階a)で得られた溶液において酸化し、その際、酸化剤および上記のpH値の調節のための塩基を、好ましくは同時に導入する。酸化は、好ましくは、空気、純酸素、過酸化水素、アルカリ金属ペルオキシドおよびアルカリ金属ペルマンガナートおよびアルカリ金属水酸化物の群からの酸化剤を、段階a)で得られた溶液に同時に混合することにより、上記のpH値を維持しながら実施する。好ましくは、0.5〜35重量%、好ましくは3〜20重量%の過酸化水素水溶液および5〜40重量%、好ましくは10〜30重量%のアルカリ金属(ナトリウムまたはカリウム)水酸化物水溶液からなる(調製された)混合物の混合による酸化が実施される。上記温度および圧力に関する限り、上記酸化は、概して3〜20℃、好ましくは5〜15℃で、そして大気圧で実施される。この場合に、使用される二価金属が、三価にあるいは好ましくは三価および/または四価状態に酸化される。
【0025】
本発明による方法の段階c)において、段階b)で得られた反応混合物を、酸、例えば塩酸または硫酸の添加により、pH4〜9、好ましくは5〜8に調節し、そして引き続いて、酸化段階で形成された金属酸化物および金属水酸化物を通例の方法、例えばろ過または遠心分離により除去する。
【0026】
最後に、段階d)において、対イオン塩Me(式中、Meはアルカリ金属イオン、アンモニウムイオンまたはアルカノールアンモニウムイオンであり、z、qおよびYは上記の意味を有する)を段階c)で得られた反応混合物に添加し、式(1)で表される金属錯体が形成する。
【0027】
対イオン塩Meは、好ましくは、段階a)で使用された金属(II)塩とMe塩とのモル比が、4:1〜1:4、特に好ましくは2:1〜1:2、殊に好ましくは1:1〜1:2であるような量で使用される。好適な対イオン塩は、例えば、ペルクロラート、テトラフェニルボラートおよびヘキサフルオロホスファートであり、ヘキサフルオロホスファートが好ましい。
【0028】
塩Meを、電荷平衡化対イオンY(式(1)参照)の導入のために、固体形態でもしくは水に溶解した形態で、段階c)で得られる反応混合物に導入する。本発明の好ましい実施形態において、塩Meの飽和溶液を、通常、5〜100℃、好ましくは40〜80℃の温度および大気圧下で、10〜40℃に維持された反応混合物に添加する。所望の金属錯体が冷却後に結晶性の固体物質として沈殿し、例えばろ過によりまたは遠心分離により分離することができる。
【0029】
本発明の方法を用いることにより、一般式(1)の二核のマンガン錯化合物(特に四価の金属を有する)が穏やかな方法で製造される。特に好ましくは、この方法で合成できる錯体は以下である:
[Mn(IV)(μ−O)(1,4,7−Me-TACN)]2PF*H
[Mn(IV)Fe(III)(μ−O)(1,4,7−Me-TACN)]2PF*H
[Mn(IV)(μ−O)(1,4,7−Me-TACN)]2BF*H
[Mn(IV)(μ−O)(μ−OAc)(1,4,7−Me-TACN)]2PF*H
[Mn(IV)Mn(III)(μ−O)(4,7−Me-DTNE)]2PF*HO。
【0030】
特に好ましくは、本発明の方法を用いて、トリ−μ−オキソ−ビス[(1,4,7−トリメチル-−1,4,7−トリアザシクロノナン)−マンガン(IV)]−ビス−ヘキサフルオロホスファート一水和物を製造することができる。
【0031】
唯一の溶剤としての比較的少ない水の量、および反応段階の特有の順序のために、高い空時収量(約0.2kg/l)および非常に純粋な生成物が同時に得られる。収率は該して80%を超え、純度は少なくとも98.5%である。金属酸化物および金属水酸化物、例えばMnOの割合は、0.3重量%未満である。金属錯体は配位子塩(例えばモノプロトン化シクロアミンおよびPF−アニオンからの塩)を含まないが、先行技術の方法ではその形成が頻繁に生じる(下記の比較例を参照)。
【0032】
高い経済性が達成され、なぜならば上記反応が少量の溶剤で、すなわち、濃縮形態で実施することができ、蒸留コストが生じないからである。これは錯体の熱的ストレスが生じないというさらなる利点を有する。
【0033】
本発明の方法に従って製造される金属錯体は、酸化触媒として、特に、家庭におけるまたはクリーニング産業における洗剤および洗浄剤における漂白剤成分として、さらに、織物の漂白および紙の漂白においてならびに工業的な酸化反応において使用される。
【実施例】
【0034】
以下に本発明を実施例に基づいて説明するが、これらは本発明をこれに限定するものではない。
【0035】
比較例1(国際公開第93/25562号に従って、アルコール性溶剤を用い、酸化段階前にKPFを添加)
28.9gの二塩化マンガン・4水和物(0.146mol)を2リットルフラスコにおいて、530gのエタノールおよび330gの水の混合物に入れて撹拌し、25gの1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン(0.146mol)および28.8g(0.156mol)のヘキサフルオロリン酸カリウムと混合する。該混合物を室温で20分間撹拌した後で、氷浴で約5℃に冷却し、165g(0.146mol)の3重量%過酸化水素溶液および44g(0.22mol)の20重量%水酸化ナトリウム溶液を、10分にわたって滴加する。引き続き、更に1時間氷浴中において約5℃で撹拌し、氷浴を外し、1時間再度撹拌する。後処理のために、反応混合物を25.8gの1N硫酸で8〜9のpH値に調整し、不溶性の固体物質(マンガン酸化物)を吸引ろ過し、通過した水が無色を維持するまでろ過ケーキを約200gの水で洗浄する。ろ液を、生成物の結晶化のために、その体積の約1/8まで濃縮し、形成した結晶を吸引ろ過する。濃赤色の結晶泥を再度20gのエタノールで洗浄した後に、真空乾燥棚において50℃で乾燥する。43.1g(73%の収率、純度:90〜96%)のトリ−μ−オキソ−ビス[(1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン)−マンガン(IV)]−ビス−ヘキサフルオロホスファート一水和物が得られる。生成物において、HPCLにより、4〜10重量%の配位子塩(C21PF)を確認することができる(逆相カラムおよび移動相としてのメタノール/水を用いるHPLC、205nmのUVを用いる検出)。
【0036】
比較例2(高pH値でのKPFの添加)
39.6gの二塩化マンガン・4水和物(0.2mol)を、1リットルフラスコにおいて180gの水に入れて、34.3gの1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン(0.2mol)と混合する。室温で45分間撹拌した後で、5℃に冷却し、60.3g(0.301mol)の20重量%水酸化ナトリウム溶液および226.7g(0.2mol)の3重量%過酸化水素溶液を、温度制御下で混合し、すなわち、このアルカリ性過酸化水素溶液の添加の間、反応混合物の温度を10〜15℃に保つ。その後、39.4g(0.214mol)のヘキサフルオロリン酸カリウムを12.5を超えるpH値で、固体形態で添加し、引き続き、更に2〜3時間室温で再度撹拌する。後処理のために、反応混合物(pH>12.5)を9.7gの50重量%硫酸で8〜9のpH値に調整し、反応混合物の固体物質をろ紙で吸引ろ過する。残量の水溶性無機塩を完全に除去するために、ろ過ケーキを2回、それぞれ70gの氷水で洗浄する。真空乾燥棚において80℃で乾燥した後に、64g(79%の収率)のトリ−μ−オキソ−ビス[(1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン)−マンガン(IV)]−ビス−ヘキサフルオロホスファート一水和物が、96%の固体(HPLCによる)として得られる。生成物において、配位子塩は確認されない(測定限界<0.1重量%)。生成物における二酸化マンガンの含量は4重量%である。
【0037】
実施例1
39.6gの二塩化マンガン・4水和物(0.2mol)を、1リットルフラスコにおいて180gの水に入れて、34.3gの1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン(0.2mol)と混合する。5℃に冷却した後に、60.3g(0.301mol)の20重量%水酸化ナトリウム溶液および226.7g(0.2mol)の3重量%過酸化水素溶液の混合物を、温度制御下(10〜15℃)で添加する。添加完了後に、反応混合物(pH>12.5)を12.1gの50重量%硫酸でpH値6に調節する。沈殿した黒褐色の固体物質を吸引ろ過し、得られたろ液を、pH値6で、固体形態の39.4g(0.214mol)の粉砕したヘキサフルオロリン酸カリウム(<10μm)と混合する。反応混合物に生成した固体物質を吸引ろ過し、それぞれ70gの氷水を用いて2回洗浄する。真空乾燥棚において80℃で乾燥した後に、65.4g(81%の収率)のトリ−μ−オキソ−ビス[(1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン)−マンガン(IV)]−ビス−ヘキサフルオロホスファート一水和物が得られる。当該生成物は配位子塩(測定限界<0.1重量%)および二酸化マンガン(測定限界<0.1重量%)を含まない。
【0038】
実施例2
39.6gの二塩化マンガン・4水和物(0.2mol)を、1リットルフラスコにおいて110gの水に入れて、34.3gの1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン(0.2mol)と混合する。該溶液を冷却し、60.3g(0.301mol)の20重量%水酸化ナトリウム溶液および226.7g(0.2mol)の3重量%過酸化水素溶液の混合物と10〜15℃で混合する。添加完了後に、反応混合物(pH>12.5)を12.1gの50重量%硫酸でpH値6に調節する。反応混合物の固体物質(マンガン酸化物/−水酸化物)を吸引ろ過し、得られたろ液を、pH値6で、34.9g(0.214mol)のヘキサフルオロリン酸アンモニウムと30gの水中において混合し、引き続き1時間撹拌する。反応混合物に生成した固体物質を吸引ろ過し、それぞれ70gの氷水を用いて2回洗浄する。真空乾燥棚において80℃で乾燥した後に、67g(83%の収率)の橙赤色のトリ−μ−オキソ−ビス[(1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン)−マンガン(IV)]−ビス−ヘキサフルオロホスファート一水和物が、少なくとも99%の固体物質(HPLCによる)として得られる。生成物において、配位子塩および二酸化マンガン(測定限界<0.1重量%)は確認されない。
【0039】
実施例3
39.6gの二塩化マンガン・4水和物(0.2mol)を、1リットルフラスコにおいて110gの水に入れて、34.3gの1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン(0.2mol)と混合する。5℃に冷却した後、60.3g(0.301mol)の20重量%水酸化ナトリウム溶液および226.7g(0.2mol)の3重量%過酸化水素溶液の混合物を温度制御下で添加する。添加完了後に、5分間撹拌し、反応混合物(pH>12.5)を12.1gの50重量%硫酸でpH値6に調節する。暗色の沈殿物(マンガン酸化物/−水酸化物)を吸引ろ過し、得られたろ液を、pH値6で、80℃に熱した75gの水中における39.4g(0.214mol)のヘキサフルオロリン酸カリウム溶液と混合する。反応混合物に生成した固体物質を吸引ろ過し、それぞれ70gの氷水を用いて2回洗浄する。真空乾燥棚において80℃で乾燥した後に、67g(83%の収率)のトリ−μ−オキソ−ビス[(1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン)−マンガン(IV)]−ビス−ヘキサフルオロホスファート一水和物が、少なくとも99%の固体物質(HPLCによる)として得られる。生成物において、配位子塩および二酸化マンガン(測定限界<0.1重量%)は確認されない。
【0040】
実施例4
Mn/Fe錯体[Mn(IV)Fe(III)(μ−O)(1,4,7−Me-TACN)]2PF*HOの合成
19.8gの二塩化マンガン・4水和物(0.1mol)および19.9gの塩化鉄(II)(0.1mol)を、1リットルフラスコにおいて110gの水に入れて、34.2gの1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン(0.2mol)と混合する。5℃に冷却した後、60.3g(0.301mol)の20重量%水酸化ナトリウム溶液および226.7g(0.2mol)の3重量%過酸化水素溶液の混合物を温度制御下で添加する。添加完了後に、5分間撹拌し、反応混合物(pH>12.5)を12.1gの50重量%硫酸でpH値8.0に調節する。暗色の沈殿物(マンガン酸化物/−水酸化物)を吸引ろ過し、得られたろ液を、pH値8で、70℃に熱した75gの水中における39.4g(0.214mol)のヘキサフルオロリン酸カリウム溶液と混合する。反応混合物に生成した固体物質を吸引ろ過し、それぞれ70gの氷水を用いて2回洗浄する。真空乾燥棚において80℃で乾燥した後に、48.3gのMn/Fe錯体[Mn(IV)Fe(III)(μ−O)(1,4,7−Me-TACN)]2PF*HOが赤褐色固体としてとして得られる。母液からさらなる11.2gの錯体を分離する。全収量:59.5g。生成物において、配位子塩および二酸化マンガン(測定限界<0.1重量%)は確認されない。
【0041】
実施例5
[Mn(IV)Mn(III)(μ−O)(4,7−Me-DTNE)]2PF*HOの合成
8.5gの1,2−ビス−(4,7−ジメチル−1,4,7−トリアザシクロン−1−イル)−エタン(Me−DTNE)(25mmol)を実施例3に従って、4.95g(25mmol)の二塩化マンガン・4水和物と反応させ、pH12でMn(III)/Mn(IV)−化合物に酸化する。pHを7.5に下げ、マンガン酸化物を分離した後に、7.5のpH値で4.6gのKPFの熱水溶液を添加する。後処理後、12.7gの[Mn(IV)Mn(III)(μ−O)(4,7−Me-DTNE)]2PF*HOの緑がかった結晶を単離する。生成物において、配位子塩および二酸化マンガン(測定限界<0.1重量%)は確認されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

[式中、
MはIIIもしくはIVの酸化状態にあるマンガンおよび鉄から選択され、しかし、少なくとも1つのMはIIIもしくはIVの酸化状態にあるマンガンであり、
Xは互いに独立して、HO、O2−、O、O2−、OH、HO、SH、S2−、SO、Cl、N3−、SCN、N、RCOO、NHおよびNRから選択される配位種または橋かけ種であり、RはH、アルキルおよびアリールから選択されるラジカルであり、
Lは、マンガンにおよび場合により鉄に配位した少なくとも2つの窒素原子を含有する有機配位子であり、
Zは−4〜+4の整数であり、
Yは、錯体の電荷を中性にする、ヘキサフルオロホスファート、ペルクロラートまたはテトラフェニルボラートの群からの一価もしくは多価の対イオンであり、そして
qは1〜4の整数である]
で表されるマンガン錯化合物の製造方法であって、以下の段階:
a)1種またはそれ以上の二価金属塩であって、二価マンガン塩および鉄塩から選択され、少なくとも1種の二価金属塩が二価マンガン塩である、1種またはそれ以上の二価金属塩を、配位子Lと、溶剤としての水において反応させ、1種またはそれ以上の二価金属塩と配位子Lとの配位化合物を形成させること、
b)段階a)からの配位化合物を酸化剤で酸化し、その際、同時にpH値を11〜14に維持して、金属Mを二価から三価および/または四価状態に移行させること、
c)反応混合物のpHを、4〜9、好ましくは5〜8のpH値に低下させること、ならびに、場合により形成する金属Mの金属酸化物または金属水酸化物を分離すること、および
d)式Me(式中、Meはアルカリ金属イオン、アンモニウムイオンまたはアルカノールアンモニウムイオンを表し、Y、zおよびqは上記の意味を有する)の塩を、4〜9、好ましくは5〜8のpH値で添加すること、
を特徴とする製造方法。
【請求項2】
結晶状に析出した一般式(1)のマンガン錯化合物を段階e)で、好ましくはろ過または遠心分離で単離することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
一般式(1)におけるMがIIIもしくはIVの酸化状態のマンガンであり、段階a)からの1種またはそれ以上の二価金属塩が二価のマンガン塩であることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
有機配位子Lが1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナンであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
段階a)の反応において1種またはそれ以上の二価金属塩および配位子化合物が合わせて100重量部の水あたり少なくとも15重量部の量で存在することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
段階a)の反応において1種またはそれ以上の二価金属塩および配位子化合物が合わせて100重量部の水あたり15〜55重量部の量で存在することを特徴とする、請求項5記載の方法。
【請求項7】
段階a)の反応において1種またはそれ以上の二価金属塩および配位子化合物が合わせて100重量部の水あたり20〜50重量部の量で存在することを特徴とする、請求項5記載の方法。
【請求項8】
酸化剤が空気、純酸素、過酸化水素、アルカリ金属ペルオキシドおよびアルカリ金属ペルマンガナートの群から、場合によりアルカリ金属水酸化物と組み合わせて選択されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
対イオンYがヘキサフルオロホスファートであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
トリ−μ−オキソ−ビス[(1,4,7−トリメチル-−1,4,7−トリアザシクロノナン)−マンガン(IV)]−ビス−ヘキサフルオロホスファート一水和物が製造されることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1つに記載の方法。

【公表番号】特表2013−505206(P2013−505206A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−529144(P2012−529144)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【国際出願番号】PCT/EP2010/005569
【国際公開番号】WO2011/032666
【国際公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(398056207)クラリアント・ファイナンス・(ビーブイアイ)・リミテッド (182)
【出願人】(512068570)クラリアント・スペシャルティ・ファイン・ケミカルズ(フランス) (1)
【Fターム(参考)】