説明

トリアゾール化合物のエナンチオマーの製造方法

【課題】植物病害に対して高い防除効果を示す化合物のラセミ体から、一方のエナンチオマーを選択的に製造する方法を提供する。
【解決手段】式(I)で示されるトリアゾール化合物の或るジアステレオマーにおけるラセミ体に光学活性カンファースルホン酸類を反応させて、塩混合物を形成させ、一方の塩を晶析させた後、塩を解離させて一方のエナンチオマーを得る。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリアゾール化合物のエナンチオマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農園芸用薬剤および工業用材料保護剤等の有効成分として含有される化合物として、特許文献1には、1−[3−(2,2−ジブロモシクロプロピル)−2−(1−クロロシクロプロピル)−2−ヒドロキシプロピル]−1H−1,2,4−トリアゾールが記載されている。
【0003】
一方、特許文献2には、抗真菌剤として有用なトリアゾール誘導体について、高純度の光学活性体を工業的に有利に製造するための方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2011/070742号(2011年6月16日公開)
【特許文献2】特開平7−2802号公報(1995年1月6日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
1−[3−(2,2−ジブロモシクロプロピル)−2−(1−クロロシクロプロピル)−2−ヒドロキシプロピル]−1H−1,2,4−トリアゾールを含め、特許文献1に記載されているトリアゾール誘導体のいくつかには、不斉炭素原子が含まれており、そのためエナンチオマーが存在する。本発明者らが検討を行った結果、これらのトリアゾール誘導体における農園芸用薬剤および工業用材料保護剤等の有効成分としての効果が、エナンチオマー同士で異なることを見出した。そのため、一方のエナンチオマーを選択的に製造する方法であって、工業的に利用できる製造方法の開発が求められている。
【0006】
そこで、本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、上記の要望に応える製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るトリアゾール化合物のエナンチオマーの製造方法は、上記の問題を解決するために、式(I)
【0008】
【化1】

【0009】
(式(I)中、X〜Xは、水素原子またはハロゲン原子を表しており、Xは、ハロゲン原子を表しており、複数あるXは互いに同一の原子であり、XおよびXの少なくとも一方はハロゲン原子であり、複数あるXは互いに同一の原子であり、複数あるXは互いに同一の原子であり、XおよびXは互いに異なる原子であり、mおよびnは0〜3を表している。*は、不斉炭素原子を示している。)
で示されるトリアゾール化合物の或るジアステレオマーにおけるラセミ体に光学活性カンファースルホン酸類を反応させて、該ラセミ体における一方のエナンチオマーと該光学活性カンファースルホン酸類との第1の塩および該ラセミ体における他方のエナンチオマーと該光学活性カンファースルホン酸類との第2の塩を含む塩混合物を形成させる工程、上記塩混合物から上記第1の塩を晶析させる工程、ならびに、晶析した上記第1の塩を解離させて上記一方のエナンチオマーを得る工程を含むことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の製造方法において、上記式(I)中、Xはハロゲン原子であり、Xは水素原子であり、mは0であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の製造方法において、上記式(I)中、XおよびXは水素原子であり、nは1または2であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の製造方法において、上記式(I)中、Xは塩素原子であり、Xは塩素原子または臭素原子であることが好ましい。
【0013】
また、本発明の製造方法において、上記光学活性カンファースルホン酸類は、(+)−カンファー−10−スルホン酸または(−)−カンファー−10−スルホン酸であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の製造方法において、アルカリ水溶液または有機塩基で処理することにより、晶析した上記第1の塩を解離させることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る製造方法は、上記式(I)で示されるトリアゾール化合物のラセミ体から、エナンチオマーを分離して製造することができる。したがって、所望の活性を有するトリアゾール化合物を選択的に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るトリアゾール化合物のエナンチオマーの製造方法について説明する。
【0017】
〔製造方法の概要〕
本発明に係るトリアゾール化合物のエナンチオマーの製造方法は、(i)下記式(I)
で示されるトリアゾール化合物の或るジアステレオマーにおけるラセミ体に光学活性カンファースルホン酸類を反応させて、該ラセミ体における一方のエナンチオマーと該光学活性カンファースルホン酸類との第1の塩および該ラセミ体における他方のエナンチオマーと該光学活性カンファースルホン酸類との第2の塩を含む塩混合物を形成させる工程、(ii)この塩混合物から第1の塩を晶析させる工程、ならびに、(iii)晶析した第1の塩を解離させて一方のエナンチオマーを得る工程を含む方法である。
【0018】
【化2】

【0019】
〔トリアゾール化合物〕
本発明において製造されるトリアゾール化合物のエナンチオマーは、上記式(I)で示される化合物(以下、「化合物(I)」と称する)の或るジアステレオマーにおけるラセミ体の一方のエナンチオマーである。
【0020】
〜Xは、それぞれ独立に水素原子またはハロゲン原子を表しており、Xは、ハロゲン原子を表している。X〜XおよびXにおけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられ、なかでも塩素原子および臭素原子が好ましい。
【0021】
複数(4つ)あるXは互いに同一の原子であり、XおよびXの少なくとも一方はハロゲン原子である。なかでも、Xがハロゲン原子であり、Xが水素原子であることが好ましい。
【0022】
上記のとおり、Xは水素原子またはハロゲン原子であるが、なかでも水素原子であることが好ましい。
【0023】
複数(2つ)あるXは互いに同一の原子であり、同様に、複数(2つ)あるXは互いに同一の原子である。また、XおよびXは互いに異なる原子である。例えば、2つあるXが何れも水素原子であり、2つあるXが何れも塩素原子である場合、あるいは、2つあるXが何れも水素原子であり、2つあるXが何れも臭素原子である場合等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。例えば、XおよびXが互いに異なるハロゲン原子同士であってもよい。
【0024】
mおよびnはそれぞれ独立に0〜3の整数を表している。なかでも、mは0または1であることが好ましく、0が特に好ましい。一方、nは0〜2であることが好ましく、1または2であることが特に好ましい。
【0025】
化合物(I)の具体例としては、例えば、下記式(Ia)で示される化合物が挙げられる。
【0026】
【化3】

【0027】
(式(Ia)中、X1aおよびX5aは、それぞれ独立に塩素原子または臭素原子を表しており、nは、1または2を表している。*は、不斉炭素原子を示している。)
化合物(I)には、2つの不斉炭素原子が存在する(式(I)中、*で示した炭素原子)。そのため、化合物(I)には、2種のジアステレオマーが存在する。したがって、式(I)で示されるトリアゾール化合物の或るジアステレオマーとは、この2種のジアステレオマーのうちの何れか一方のことを指す。なお、本明細書において「ジアステレオマー」とは、分子内の複数の不斉炭素原子の存在によって生じる立体異性体であって、鏡像関係にないものをいう。
【0028】
各ジアステレオマーには、それぞれ1対のエナンチオマーが存在する。なお、本明細書において「エナンチオマー」とは、分子内の不斉炭素原子の存在によって生じる立体異性体であって、鏡像関係にあるものをいう。また、本明細書において「ラセミ体」とは、1対のエナンチオマーを等量ずつ含み、旋光性を示さない物質をいう。また、本明細書において「(+)−エナンチオマー」とは、ナトリウムD線の直線偏光の振動面を右に回転させるエナンチオマーのことを指し、「(−)−エナンチオマー」とは、ナトリウムD線の直線偏光の振動面を左に回転させるエナンチオマーのことを指す。
【0029】
〔製造方法の詳細〕
本発明の製造方法は、以下の工程(i)〜(iii)を含む。
(i)化合物(I)の或るジアステレオマーにおけるラセミ体に光学活性カンファースルホン酸類を反応させて、該ラセミ体における一方のエナンチオマーと該光学活性カンファースルホン酸類との第1の塩および該ラセミ体における他方のエナンチオマーと該光学活性カンファースルホン酸類との第2の塩を含む塩混合物を形成させる工程。
(ii)形成した塩混合物から第1の塩を晶析させる工程。
(iii)晶析した第1の塩を解離させて一方のエナンチオマーを得る工程。
以下、各工程について説明する。
【0030】
(工程(i))
まず、化合物(I)の或るジアステレオマーにおけるラセミ体に光学活性カンファースルホン酸類を反応させる。化合物(I)の或るジアステレオマーにおけるラセミ体は、特定の置換基および連結基の組み合わせによって決定される化合物(I)において2種存在するジアステレオマーのうちの、一方のジアステレオマーにおけるラセミ体である。化合物(I)の或るジアステレオマーにおけるラセミ体は、例えば、後述するトリアゾール化合物のラセミ体の製造方法により得ることができる。
【0031】
光学活性カンファースルホン酸類としては、例えば、1以上の水素原子がハロゲン原子に置換されていてもよい光学活性カンファースルホン酸またはその塩が挙げられる。光学活性カンファースルホン酸類としては、具体的には、(+)−カンファー−10−スルホン酸、(−)−カンファー−10−スルホン酸、(+)−カンファー−10−スルホン酸アンモニウム塩、(−)−カンファー−10−スルホン酸アンモニウム塩、(+)−3−ブロモカンファー−8−スルホン酸、(−)−3−ブロモカンファー−8−スルホン酸、(+)−3−ブロモカンファー−10−スルホン酸、(−)−3−ブロモカンファー−10−スルホン酸、(+)−3−ブロモカンファー−8−スルホン酸アンモニウム塩、(−)−3−ブロモカンファー−8−スルホン酸アンモニウム塩等が挙げられる。好ましくは、(+)−カンファー−10−スルホン酸、(−)−カンファー−10−スルホン酸、(+)−カンファー−10−スルホン酸アンモニウム塩、(−)−カンファー−10−スルホン酸アンモニウム塩であり、より好ましくは(+)−カンファー−10−スルホン酸および(−)−カンファー−10−スルホン酸である。何れの旋光性((+)または(−))を有するカンファースルホン酸類を使用するかは、目的とするエナンチオマーの種類(旋光性)により、適宜決定すればよい。
【0032】
溶媒中で、化合物(I)に光学活性カンファースルホン酸類を反応させることにより、化合物(I)と光学活性カンファースルホン酸類との塩が形成される。また、反応させる化合物(I)はラセミ体であるため、形成される塩は、一方のエナンチオマーと光学活性カンファースルホン酸類との塩である第1の塩と、他方のエナンチオマーと光学活性カンファースルホン酸類との塩である第2の塩との混合物となる。ここで第1の塩と第2の塩とでは溶媒に対する溶解度の差が生じる。
【0033】
溶媒としては、化合物(I)と光学活性カンファースルホン酸類との反応によって生成される第1の塩と第2の塩との塩混合物から、一方の塩を晶析させるのに適したものが好ましい。このような溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノールおよびt−ブタノール等のアルコール類;ベンゼン、トルエンおよびキシレン等の炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタンおよびジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタンおよびクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。なかでも、クロロベンゼン、アセトン、エタノールおよびイソプロパノールが好ましく、クロロベンゼンおよびアセトンがより好ましい。上記溶媒は、単独で用いてもよく、混合溶媒として用いてもよい。また、溶解度を低下させるために、ヘキサン、ペンタン等を混合してもよい。
【0034】
化合物(I)のラセミ体に対する光学活性カンファースルホン酸類の使用量は、例えば、0.5〜1.2倍モルであり、好ましくは0.5〜1倍モルである。反応温度は、0℃から使用する溶媒の沸点までの温度が好適に使用される。
【0035】
また、光学活性カンファースルホン酸のアンモニウム塩を使用する場合は、硫酸、およびメタンスルホン酸等の酸の存在下で、化合物(I)のラセミ体と反応させることが望ましい。これにより、アンモニウムイオンを、硫酸、およびメタンスルホン酸等の酸のアンモニウム塩として除去することが可能となる。
【0036】
(工程(ii))
次に、工程(i)により形成した塩混合物から第1の塩を晶析させる。上述のように、第1の塩と第2の塩とでは溶媒に対する溶解度が異なるため、一方の塩のみを晶析させることができる。具体的には、塩混合物を冷却することで、溶解度の低い塩を晶析させることができる。または第2の塩における溶解度に比べ第1の塩における溶解度が小さな貧溶媒を加えることで、第1の塩を晶析させることができる。
【0037】
光学純度の高い第1の塩を得るために、晶析した第1の塩をさらに繰り返し再結晶して、光学純度を向上させてもよい。
【0038】
また、結晶を形成しやすくするために、予め用意しておいた光学純度の高い第1の塩の種結晶を上記塩混合物に少量添加してもよい。光学純度の高い種結晶は、上記のように繰り返し再結晶することにより光学純度を高めた第1の塩を用いてもよいし、光学異性体分離用カラムを用いて分割した一方のエナンチオマーに光学活性カンファースルホン酸類を作用させて得た第1の塩を用いてもよい。
【0039】
上記光学異性体分離用カラムを用いる場合、光学活性固定相としては、アミローストリス(3,5−ジメチルフェニルカルバメート)、セルローストリス(3,5−ジメチルフェニルカルバメート)、セルローストリス(3,5−ジクロロフェニルカルバメート)、アミローストリス(3,5ジメチルフェニルカルバメート)、セルローストリス(3,5ジメチルフェニルカルバメート))、アミローストリス[(S)−α−メチルベンジルカルバメート]、セルローストリス(4−メチルベンゾエート)、アミローストリス(5−クロロ−2−メチルフェニルカルバメート)またはセルローストリス(3−クロロ−4−メチルフェニルカルバメート)を固定化したシリカゲルを挙げることができる。移動相の溶離液としては、ヘキサン/エタノール(100/0〜0/100)、ヘキサン/イソプロパノール(100/0〜0/100)、エタノール、メタノールまたはアセトニトリル等が挙げられる。
【0040】
(工程(iii))
最後に、晶析した第1の塩を解離させて一方のエナンチオマーを得る。晶析した第1の塩を解離させる方法としては、例えば、アルカリ水溶液で処理する方法が挙げられる。アルカリ水溶液で処理する場合には、例えば、有機溶媒とアルカリ水溶液との混合液中で第1の塩を処理すればよい。この方法により、第1の塩を形成していた化合物(I)のエナンチオマーと光学活性カンファースルホン酸類とが分離するとともに、化合物(I)のエナンチオマーが有機溶媒中に移行する。
【0041】
また、晶析した第1の塩を解離させる方法として、有機塩基で処理する方法も挙げられる。有機塩基で処理する場合には、例えば、有機溶媒と水と有機塩基との混合液中で晶析した第1の塩を処理すればよい。この方法により、第1の塩を形成していた化合物(I)のエナンチオマーと光学活性カンファースルホン酸類とが分離するとともに、化合物(I)のエナンチオマーが有機溶媒中に移行する。
【0042】
あるいは、有機溶媒と有機塩基との混合液中で晶析した第1の塩を処理すればよい。これにより、第1の塩を形成していた化合物(I)のエナンチオマーと光学活性カンファースルホン酸類とが分離する。次いで有機溶媒を水で洗浄することにより、この光学活性カンファースルホン酸類および過剰量の有機塩基を有機溶媒中から除去することができる。
【0043】
以上のように、化合物(I)のエナンチオマーを有機溶媒中に得ることができる。そのため、この有機層を回収し、有機層に溶解している化合物を分離および精製することにより、目的とする化合物(I)のエナンチオマーを容易に得ることができる。
【0044】
ここで用いられる有機溶媒としては、例えば、酢酸エチル、クロロホルムおよび塩化メチレン等が挙げられる。アルカリ水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムおよび炭酸アンモニウム等の水溶液が挙げられる。また、有機塩基としては、例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンおよびピリジン等が挙げられる。
【0045】
また、化合物(I)のエナンチオマーの有機層からの分離および精製は、例えば、再結晶による方法が挙げられる。このときの再結晶溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エーテル、酢酸エチル、トルエンおよびヘキサン等が挙げられる。再結晶溶媒は、単独で用いてもよく、混合溶媒として用いてもよい。
【0046】
なお、本発明に係る製造方法は、化合物(I)の一方のジアステレオマーにおけるラセミ体から、一方のエナンチオマーを分離する方法と換言することができる。
【0047】
〔トリアゾール化合物のラセミ体の製造方法〕
次に、化合物(I)のラセミ体の製造方法の一実施形態について説明する。
【0048】
(1)トリアゾール化合物の製造方法
化合物(I)は、下記反応スキーム1に示すように、公知の技術により得られる下記式(VII)で示される化合物(以下、「化合物(VII)」と称する)、および公知の技術により得られる下記式(VI)で示される化合物(以下、「化合物(VI)」と称する)から、製造することができる。
(反応スキーム1)
【0049】
【化4】

【0050】
反応スキーム1の各工程における反応については、特許文献1に記載の方法に準じて行えばよい。
【0051】
反応スキーム1中に示される一般式において、X〜X、nはそれぞれ上述のX〜X、nと同義であり、Xは、ハロゲン原子を表しており、Mは、水素原子またはアルカリ金属を表しており、Lは、アルカリ金属、アルカリ土類金属−Q1(Q1はハロゲン原子)、1/2(Cuアルカリ金属)、または亜鉛−Q2(Q2はハロゲン原子)を表している。Lにおけるアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウムおよびカリウム等が挙げられ、なかでもリチウムが好ましい。また、アルカリ土類金属としては、マグネシウム等が挙げられる。
【0052】
また、Rは、下記式(XIV)で示す官能基を表している。なお、下記式(XIV)中、X、Xおよびmは、上述のX、Xおよびmと同義である。
【0053】
【化5】

【0054】
なお、反応スキーム1中に示した化合物(IV)のうち、下記式(IVa)で示されるオキシラン化合物(以下、化合物(IVa)と称する)は、下記反応スキーム2に示す反応経路にて好適に得ることができる。
(反応スキーム2)
【0055】
【化6】

【0056】
反応スキーム2の各工程における反応については、特許文献1に記載の方法に準じて行えばよい。
【0057】
反応スキーム2中に示される一般式において、Rは、炭素数1〜4のアルキル基を表しており、Xは、ハロゲン原子を表しており、pは1または2を表している。
【0058】
(2)ジアステレオマーの分離
上記の製造方法で得られた化合物(I)は異性体混合物である。この異性体混合物には、2種のジアステレオマーが含まれており、この2種のジアステレオマーにはそれぞれ1対のエナンチオマーが存在し、各エナンチオマーも異性体混合物中に含まれている(すなわち、異性体混合物は4種類の立体異性体が混合しているものである)。本発明に係る製造方法に先立って、異性体混合物から各ジアステレオマーを分離する。各ジアステレオマーの分離方法としては、順相カラムクロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー、および再結晶等の極性の違いを利用して分離する公知の技術を挙げることができる。
【0059】
カラムクロマトグラフィーにおける固定相としては、シリカゲル、およびアルミナ等の高極性固定相、オクタデシルシリルシリカゲル等のアルキル基結合シリカゲル等の低極性固定相、を用いることができる。また、溶離液としては、ヘキサン、酢酸エチル、クロロホルム、アルコール類およびアセトニトリル等の有機溶媒、水、ならびにこれらの混合物を用いることができ、固定相の種類に応じて適宜決定することができる。
【0060】
再結晶の溶媒としては、例えば、酢酸エチル/ヘキサンの混合溶媒等が挙げられ、溶媒比は、例えば、酢酸エチル:ヘキサン=1:1〜1:6とすればよい。
【0061】
また、複数の分離方法を組み合わせて行ってもよく、例えば、カラムクロマトグラフィーにより分離した後、さらに再結晶による分離および精製を行ってもよい。化合物(I)のジアステレオマーにおいては、比率が片寄って過剰量となった方のジアステレオマーが再結晶により選択的に結晶化する傾向がある。そのため、カラムクロマトグラフィーにより、極性の違いから存在比が片寄った画分を得て、これを再結晶することにより、目的のジアステレオマーを選択的に単離することができる。
【0062】
上記の技術により分離される化合物(I)は、2種のジアステレオマーのうちの一方のジアステレオマーである。また、このジアステレオマーは、(−)−エナンチオマーおよび(+)−エナンチオマーの等量混合物であるラセミ体である。
【0063】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例】
【0064】
<実施例1>
特許文献1に記載の製造例に従い、1−[3−(2,2−ジブロモシクロプロピル)−2−(1−クロロシクロプロピル)−2−ヒドロキシプロピル]−1H−1,2,4−トリアゾール(化合物(I):X=Cl、X=H、X=H、X=H、X=Br、m=0、n=1)(4種の異性体の混合物。以下、化合物(1)と称する。)を合成した。化合物(1)をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液(ヘキサン:酢酸エチル=1:1))に供し、さらに再結晶(結晶化溶媒(ヘキサン:酢酸エチル=1:1〜1:6))を適宜行って、2種のジアステレオマーのうち、より高極性のジアステレオマーを単離した。
【0065】
単離した化合物(1)の高極性ジアステレオマーにおけるラセミ体(5.00g)、および(+)−カンファー−10−スルホン酸(2.91g)にモノクロロベンゼン(15ml)を加え、60℃に加温して、溶解させた。これを室温まで冷却し、ヘキサン(8ml)を加えて一夜静置して、結晶を析出させた。析出した結晶を濾取し、少量のモノクロロベンゼンで洗浄することにより、光学純度の片寄った(+)−カンファー−10−スルホン酸塩を得た。
収量:1.15g
光学純度:34%e.e.
これをイソプロパノールで3回再結晶することにより、高純度を有する目的のエナンチオマーの(+)−カンファー−10−スルホン酸塩を得た。
収量:0.36g
光学純度:99.5%e.e.以上
さらに、この塩を酢酸エチルと炭酸水素ナトリウム水溶液との混合溶媒中で攪拌することにより、化合物(1)のエナンチオマーと(+)−カンファー−10−スルホン酸とを分離させ、酢酸エチル層から分離精製を行うことで、目的のエナンチオマーを無色油状物として、高純度かつ定量的に得た。この油状物を室温で静置することにより、ゆっくりと結晶化した。
融点:72〜74℃
比旋光度:[α]27=−23.8°(C=1:クロロホルム)
<実施例2>
化合物(1)の高極性ジアステレオマーにおけるラセミ体と1倍モルの(+)−カンファー−10−スルホン酸との混合物をモノクロロベンゼンに溶解し、モノクロロベンゼンを減圧留去することにより、ラセミ体の(+)−カンファー−10−スルホン酸塩を調製した。
【0066】
このラセミ体の(+)−カンファー−10−スルホン酸塩(300mg)にアセトン(20ml)を加え、60℃加温して、溶解させた。これを室温まで冷却し、ヘキサン(5ml)を加えて静置して、結晶を析出させた。析出した結晶を濾取し乾燥することにより、目的のエナンチオマーの(+)−カンファー−10−スルホン酸塩を得た。
収量:48mg
光学純度:84%e.e.
<実施例3>
実施例2と同様の方法により、ラセミ体の(+)−カンファー−10−スルホン酸塩を調製した。
【0067】
このラセミ体の(+)−カンファー−10−スルホン酸塩(300mg)にアセトン(20ml)を加え、60℃に加温して、溶解した。これを30℃まで冷却し、種結晶を接種した。その後室温までゆっくり冷却静置して、結晶を析出させた。析出した結晶を濾取し乾燥することにより、目的のエナンチオマーの(+)−カンファー−10−スルホン酸塩を得た。
収量:81mg
光学純度:95%e.e.
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、上記式(I)で示されるトリアゾール化合物の或るジアステレオマーにおけるラセミ体から、所望のエナンチオマーを選択的に得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

(式(I)中、X〜Xは、水素原子またはハロゲン原子を表しており、Xは、ハロゲン原子を表しており、複数あるXは互いに同一の原子であり、XおよびXの少なくとも一方はハロゲン原子であり、複数あるXは互いに同一の原子であり、複数あるXは互いに同一の原子であり、XおよびXは互いに異なる原子であり、mおよびnは0〜3を表している。*は、不斉炭素原子を示している。)
で示されるトリアゾール化合物の或るジアステレオマーにおけるラセミ体に光学活性カンファースルホン酸類を反応させて、該ラセミ体における一方のエナンチオマーと該光学活性カンファースルホン酸類との第1の塩および該ラセミ体における他方のエナンチオマーと該光学活性カンファースルホン酸類との第2の塩を含む塩混合物を形成させる工程、
上記塩混合物から上記第1の塩を晶析させる工程、ならびに、
晶析した上記第1の塩を解離させて上記一方のエナンチオマーを得る工程、
を含むことを特徴とするトリアゾール化合物のエナンチオマーの製造方法。
【請求項2】
上記式(I)中、Xはハロゲン原子であり、Xは水素原子であり、mは0であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
上記式(I)中、XおよびXは水素原子であり、nは1または2であることを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
上記式(I)中、Xは塩素原子であり、Xは塩素原子または臭素原子であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
上記光学活性カンファースルホン酸類は、(+)−カンファー−10−スルホン酸または(−)−カンファー−10−スルホン酸であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
アルカリ水溶液または有機塩基で処理することにより、晶析した上記第1の塩を解離させることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の製造方法。