説明

トリアリールメタン系染料

【課題】電気化学的、熱的に安定なだけでなく、光に対する耐久性に優れ、有機溶媒や樹脂への良好な溶解性をも両立できるとともに、NMPに対する耐性の高いトリアリールメタン系染料を提供することである。
【解決手段】下記一般式(I)で表されるトリアリールメタン系染料である。


(R1、R2、R3、R4、R5及びR6は、各々独立に水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基のいずれかを示し、R1とR2、R3とR4、及びR5とR6のいずれかは、結合して環構造あるいは複素環構造の一部を形成していてもよい。式中のXは水素原子の少なくとも一部がフッ素原子に置換されていてもよいアルキル基、Yは二価の炭化水素基を示し、Zは光反応性基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なトリアリールメタン系染料に関し、詳細には光耐久性、溶解性に優れたトリアリールメタン系染料に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、多数の染料が知られており、大きくは天然染料及び合成染料として区別がなされている。該合成染料としては、例えば、アニリンブルー、フクシンまたはメチルオレンジなどが挙げられるが、ほとんどの合成染料は、芳香族または複素環式であり、イオン性(例えば、すべての水溶性染料)または非イオン性化合物(例えば、分散染料)のいずれかである。また、イオン性染料の場合において、アニオン(陰イオン)性染料とカチオン(陽イオン)性染料との間で区別がされる。
【0003】
上記カチオン性染料は、共役結合にわたり非局在化する正の電荷を有する有機カチオン及び通常無機のアニオンからなる。またこれらは通常、置換されていてもよいアミノ基が共鳴に関与する染料である。よってカチオン性染料の選択は、対イオンであるアニオンの数や種類によることが多く、対アニオンとしては、例えば塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、アルキルまたはアリール硫酸イオン、トシル酸イオン、酢酸またはシュウ酸イオン等が挙げられる。
【0004】
カチオン性染料であるローダミン、サフラニンまたはビクトリアブルーは、通常、対イオンとして塩化物イオンまたはトシル酸を有する。しかし、これらの化合物は、あまり電気化学的に安定ではない。このため、これらの染料を一層化学的に安定にする新規な対アニオンを導入する技術が検討されている。
【0005】
例えば、トリアリールメタンなどカチオン性染料の耐久性を向上する手段として、対アニオンとしてシアノホウ酸イオン、フルオロアルキルリン酸イオン、フルオロアルキルホウ酸塩イオン、イミド酸イオンを用いることが開示されているが(例えば、特許文献1参照)、溶解性の向上と耐久性向上が課題である。
【0006】
また、染料や顔料を塗膜中に固定化し、十分な耐熱性を得るために、アルコキシシランなどの金属アルコキシドを導入することが提案されている(例えば、特許文献2及び3参照)。例えば、特許文献3では、ゾル−ゲル法を用いて、金属−酸素結合からできた重合体の網目構造の中に顔料が包接されているか、又は顔料が金属−酸素結合からできた重合体に化学結合した着色膜を得ることができるために、有機溶媒等によって顔料が溶出することがないとされている(特許文献3、段落0028参照)。
【0007】
また、バインダーポリマー、架橋性モノマー、光重合開始剤、着色剤としての染料、及び光架橋性官能基と脱水重合反応によりシロキサン結合を生成する反応基を有するシラン化合物を含有するカラーフィルター用着色剤組成物が提案されている(特許文献4参照)。このカラーフィルター用着色剤組成物は、着色剤として染料を使用して、透明性、着色性に優れ、かつ高耐久性を有するとされている(特許文献4、段落0004参照)。
さらに、トリアリールメタン系色素単量体又は該色素単量体を重合して得られる重合体と、対アニオンとして光反応性基を持つ芳香族スルホン酸を有し、バインダーとして樹脂を含有するカラーフィルター用として好適な感光性着色組成物が提案されている(特許文献5参照)。この感光性着色組成物によれば、耐光性、耐熱性、及び透明性の優れたカラーフィルター用感光性着色組成物が得られるとしている(特許文献5、段落0008参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−503477号公報
【特許文献2】米国特許第4948843号公報
【特許文献3】特開平6−308314号公報
【特許文献4】特開2000−47020号公報
【特許文献5】特許第4266627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載のカチオン性染料は、電気化学的、熱的にはある程度の安定性を有するが、前記フルオロアルキルリン酸イオン、フルオロアルキルホウ酸塩イオンは耐光性が十分でなく、また耐光性を改良しようとすると、各種溶媒への溶解性が低下するといった問題があった。さらに、前記シアノホウ酸イオン、イミド酸イオンは、例えば重合性モノマーと併用する場合にラジカル開始剤との共存で失活要因となるという問題もあった。
【0010】
ところで、液晶ディスプレイに使用されるカラーフィルターでは、配向膜が必須の構成要件であり、配向膜としてポリイミドの膜を使用することが多い。ポリイミド膜は、その製造過程で溶媒として、通常、N−メチルピロリドン(以下「NMP」と省略する。)が用いられるが、カラーフィルターに接する形で該ポリイミド膜が用いられる場合に、該カラーフィルターが、NMPに対する耐性を有することが求められる。カラーフィルターとして、従来用いられる顔料分散レジストを使用する場合には、このような問題は生じないが、染料を用いる系では、染料がNMPに溶出する性質を有することは、非常に大きな問題であり、NMPに接した場合であっても、染料が膜中に固定化されていることが要求される。
【0011】
上述の特許文献1に開示されるカチオン性染料は、レジストを十分に硬化させても染料の溶媒への溶出を抑制することができず、カラーフィルター用の着色組成物として用いることはできない。
また、上述の特許文献2〜5に開示される、対イオンにアルコキシシランなどの金属アルコキシドを導入したカチオン性染料は、膜中に染料が固定化されており、有機溶媒に染料が流出し難いものとはなっているが、NMPに対する耐性という点では不十分であり、さらなる改良が必要であることが、本発明者らの検討により明らかとなった。
【0012】
すなわち、本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、電気化学的、熱的に安定なだけでなく、光に対する耐久性に優れ、有機溶媒や樹脂への良好な溶解性をも両立できるとともに、NMPに対する耐性の高いトリアリールメタン系染料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、トリアリールメタン系染料における対アニオンを、特定のアルコキシシラン基を導入したスルホニルイミド酸イオンとすることにより、耐熱性を維持しつつ、有機溶媒や樹脂に対する溶解性と耐光性とを両立させることができるとともに、NMPに対する耐性を向上させ得ることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、
(1)下記一般式(I)で表されるトリアリールメタン系染料、
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、R1、R2、R3、R4、R5及びR6は、各々独立に水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基のいずれかを示し、R1とR2、R3とR4、及びR5とR6のいずれかは、結合して環構造あるいは複素環構造の一部を形成していてもよい。式中のXは水素原子の少なくとも一部がフッ素原子に置換されていてもよいアルキル基、Yは二価の炭化水素基を示し、Zは光反応性基である。)
(2)前記一般式(I)におけるYがアリーレン基である上記(1)に記載のトリアリールメタン系染料、
(3)前記一般式(I)におけるZがビニル基、アリル基、(メタ)アクリル基、及び(メタ)アクリロイル基から選ばれる基である上記(1)又は(2)に記載のトリアリールメタン系染料、
(4)前記一般式(I)におけるXがパーフルオロアルキル基である上記(1)〜(3)のいずれかに記載のトリアリールメタン系染料、
(5)前記一般式(I)におけるR5が水素原子であり、R1、R2、R3、R4、及びR6が各々独立に炭素数1〜20のアルキル基である上記(1)〜(4)のいずれかに記載のトリアリールメタン系染料、及び
(6)R1、R2、R3、R4、及びR6がすべて同一である上記(5)に記載のトリアリールメタン系染料、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電気化学的、熱的に安定なだけでなく、有機溶媒や樹脂への良好な溶解性をも両立でき、かつNMPに対する耐性の高いトリアリールメタン系染料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本実施形態のトリアリールメタン系染料は、下記一般式(I)で表されることを特徴とする。
【0018】
【化2】

【0019】
上記式中、R1、R2、R3、R4、R5及びR6は、各々独立に水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基のいずれかを示し、R1とR2、R3とR4、及びR5とR6のいずれかは、結合して環構造あるいは複素環構造の一部を形成していてもよい。式中のXは水素原子の少なくとも一部がフッ素原子に置換されていてもよいアルキル基、Yは二価の炭化水素基を示し、Zは光反応性基である。
【0020】
前記R1〜R6におけるアルキル基としては、飽和アルキル基、不飽和アルキル基、及びシクロアルキル基が挙げられ、これらは、アリール基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、ハロゲン原子、アシルアミノ基、アルキルオキシカルボニル基、アミノカルボニル基、ヒドロキシ基及びシアノ基等の置換基を有していてもよい。
より具体的には、前記アルキル基は直鎖または分岐若しくは環状のアルキル基でもよく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−アミル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−エイコサニル基、i−プロピル基、sec−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、1−メチルブチル基、1−エチルプロピル基、2−メチルブチル基、i−アミル基、ネオペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、t−アミル基、1,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基、2−エチル−2−メチルプロピル基、直鎖または分岐のヘプチル基、1−メチルヘプチル基、2−エチルヘキシル基、1,5−ジメチルヘキシル基、t−オクチル基、分岐したノニル基、分岐したデシル基、分岐したウンデシル基、分岐したドデシル基、分岐したトリデシル基、分岐したテトラデシル基、分岐したペンタデシル基、分岐したヘキサデシル基、分岐したヘプタデシル基、分岐したオクタデシル基、直鎖または分岐のノナデシル基、直鎖または分岐のエイコサニル基、シクロプロピル基、シクロプロピルメチル基、シクロブチル基、シクロブチルメチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロヘキシルプロピル基、シクロドデシル基、ノルボルニル基、ボルニル基、シス−ミルタニル基、イソピノカンフェニル基、ノルアダマンチル基、アダマンチル基、アダマンチルメチル基、1−(1−アダマンチル)エチル基、3,5−ジメチルアダマンチル基、キヌクリジニル基、シクロペンチルエチル基、ビシクロオクチル基が好ましく挙げられる。
【0021】
前記R1〜R6におけるアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニレニル基、アセナフテニル基、フルオレニル基、アントラセニル基、アンスラキノニル基、ピレニル基、及び複素環基が挙げられ、これらはアルキル基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、置換カルバモイル基、置換スルファモイル基、置換アミノ基、置換オキシカルボニル基、置換オキシスルホニル基、アルキルチオ基、アリールスルホニル基、及びフェニル基等の置換基を有していてもよい。
【0022】
より具体的に、例えば置換基を有するフェニル基としては、o−、m−もしくはp−メチルフェニル基、o−、m−もしくはp−エチルフェニル基、o−、m−もしくはp−プロピルフェニル基、o−、m−もしくはp−イソプロピルフェニル基、o−、m−もしくはp−tert−ブチルフェニル基、o−、m−もしくはp−アミノフェニル基、o−、m−もしくはp−(N,N−ジメチルアミノ)フェニル基、o−、m−もしくはp−ニトロフェニル基、o−、m−もしくはp−ヒドロキシフェニル基、o−、m−もしくはp−メトキシフェニル基、o−、m−もしくはp−エトキシフェニル基、o−、m−もしくはp−(トリフルオロメチル)フェニル基、o−、m−もしくはp−(トリフルオロメトキシ)フェニル基、o−、m−もしくはp−(トリフルオロメチルスルファニル)フェニル基、o−、m−もしくはp−フルオロフェニル基、o−、m−もしくはp−クロロフェニル基、o−、m−もしくはp−ブロモフェニル基、o−、m−もしくはp−ヨードフェニル基、3,4−もしくは3,5−ジメトキシフェニル基、5−フルオロ−2−メチルフェニル基、3,4,5−トリメトキシフェニル基または2,4,5−トリメチルフェニル基などが挙げられる。
また、例えば置換基としてアルキル基を有するアリール基としては、ベンジル基、4−メトキシフェニルエチル基、3−メトキシフェニルエチル基、2−メトキシベンジル基、3−メトキシベンジル基、4−メトキシベンジル基、2−エトキシベンジル基、2−メチルベンジル基、3−メチルベンジル基、4−tert−ブチルベンジル基、2−(トリフルオロメチル)ベンジル基、3−(トリフルオロメチル)ベンジル基、4−フルオロベンジル基、3−ヨードベンジル基、4−(トリフルオロメトキシ)ベンジル基、3−(トリフルオロメトキシ)ベンジル基及び4−(トリフルオロメチルスルファニル)ベンジル基などが挙げられる。
【0023】
さらに、前記一般式(I)中、R1とR2、R3とR4、及びR5とR6のいずれかは、結合して環構造あるいは複素環構造の一部を形成していてもよく、環としては、例えば、ピペリジン、モルホリン、ピロリジン、ピペラジン、ヘキサメチレンイミン等が挙げられる。このようなR12N−、R34N−、及びR56N−で表される置換基として、例えば、ピロリジノ基、ピペラジノ基、モルホリノ基、N−エチルピペラジンノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、N−エチル−N−イソブチルアミノ基、N−エチル−ベンジルアミノ基、ジアミルアミノ基、ジヘキシルアミノ基、ジオクチルアミノ基、N−エチル−N−テトラフルフリルアミノ基、ジベンジルアミノ基などが挙げられる。これらの中でも、5員環及び6員環が好ましい。
【0024】
これらの中でも、R5が水素原子であり、R1、R2、R3、R4及びR6が各々独立にアルキル基であることが色素製造のし易さの点で好ましく、該アルキル基は炭素数1〜20であることが好ましく、1〜10であることがより好ましく、エチル基及びメチル基であることが特に好ましい。
また、前記のようにR1、R2、R3、R4及びR6は各々異なっていても同一であってもよいが、色素構造の観点からはすべて同一であることが好ましい。
【0025】
一方、対アニオンである光反応性基を有するスルホニルイミド酸イオンにおいて、上述のように、Xは水素原子の少なくとも一部がフッ素原子に置換されていてもよいアルキル基であり、Yは二価の炭化水素基であり、Zは光反応性基である。
Xを構成するアルキル基としては、前記R1〜R6におけるアルキル基と同様のものが挙げられ、水素原子の一部がフッ素原子に置換されていてもよい。特に炭素数が1〜3であり、水素原子の一部又は全部がフッ素原子に置換されたフッ化アルキル基が好ましく、中でもすべての水素原子がフッ素原子に置換されているパーフルオロアルキル基がイミド酸の酸性度を高め染料の安定性を向上させる点で特に好ましい。
具体的には、例えば、トリフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、フルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、2−フルオロエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、3−フルオロプロピル基等を挙げることができる。
【0026】
次に、Yで表わされる二価の炭化水素基としては、特に制限はなく、例えば炭素数1〜10の直鎖又は分岐を有するアルキレン基、炭素数6〜20のアリーレン基、炭素数7〜20のアリールアルキレン基などが挙げられる。具体的には、アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、各種ブチレン基などが挙げられ、アリーレン基としては、フェニレン基、ナフチレン基などが挙げられる。また、アリールアルキレン基としては、アリールメチレン基、アリールエチレン基、アリールプロピレン基などが挙げられる。これらのうち、炭素数7〜10のアリールアルキレン基が原料の入手および製造上の容易さの点から好ましく、特にアリールメチレン基、アリールエチレン基、アリールプロピレン基が好ましい。
なお、アリールアルキレン基では、オルト体、メタ体及びパラ体があるが、立体障害がないとの観点から、パラ体であることが好ましい。
【0027】
また、Zで表わされる光反応性基としては、光ラジカル重合、光カチオン重合、光アニオン重合のような重合反応を経て反応が進行するものが挙げられる。
光ラジカル重合反応性基としては、例えば、エチレン性不飽和結合(好ましくはエチレン性二重結合)を有する官能基が挙げられ、具体的には、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリロイル基、ビニルシクロアルキル基等が挙げられる。これらのうち、光反応性および合成の容易さの観点から、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリル基、及び(メタ)アクリロイル基が好ましい。
また、光カチオン重合反応性基としては、例えば、エポキシ基、オキセタニル基等の環状エーテル基、チオエーテル基、ビニルエーテル基が挙げられる。
【0028】
前記一般式(I)で表されるトリアリールメタン系染料としては、例えば、下記例示化合物(1)〜(3)で示される化合物が挙げられる。
【0029】
【化3】

【0030】
【化4】

【0031】
【化5】

【0032】
前記例示化合物(1)〜(3)のように、一般式(I)におけるR5が水素原子であり、R1、R2、R3、R4及びR6が同一のアルキル基である例示化合物が特に好ましい。
【0033】
一般式(I)で示されるトリアリールメタン系染料は、既知の方法で合成することができる。合成法としては、例えば「総説合成染料」(堀口博著、三共出版、1968年)に記載の方法が参考になる。
対アニオンが、下記式で示される色素は、例えば対アニオンがCl-で示される色素に、対応するスルホニルイミド酸を加え、塩交換を行うことにより合成することができる。
【0034】
【化6】

【0035】
具体的には、対アニオンがCl-で示される色素を反応溶媒に溶解し、対応するスルホニルイミド酸を加え、攪拌した後、沈殿を濾過により取り出すことにより合成できる。スルホニルイミド酸の添加量としては、例えば1〜3等量程度である。反応溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール系溶媒;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエチレンなどのハロゲン系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒;あるいはそれらの混合溶媒が挙げられ、反応温度としては例えば0℃から40℃が好適である。
【0036】
本実施形態のトリアリールメタン系染料は、有機溶剤等に良好な溶解性を有する。当該溶解性は、特定の溶剤あるいは該溶剤を含む樹脂溶液などに、染料を一定の濃度となるように加え、そのときの溶解の程度を目視で観察することにより確認することができる。
上記良好な溶解性の対象となる有機溶剤の具体例としては、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート等のエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート等のジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;ジプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類等の酢酸エステル類;エチレングリコールジアルキルエーテル類;メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール等のジエチレングリコールジアルキルエーテル類;トリエチレングリコールジアルキルエーテル類;プロピレングリコールジアルキルエーテル類;ジプロピレングリコールジアルキルエーテル類;1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール類;ベンゼン、トルエン、キシレン、オクタン、デカン等の炭化水素類;石油エーテル、石油ナフサ、水添石油ナフサ、ソルベントナフサ等の石油系溶剤;乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等の乳酸エステル類;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等が挙げられる。これらの溶剤の中で、特にアセトン、酢酸エチル、メタノールなどへの溶解性に優れることが望ましい。
【0037】
また、本実施形態のトリアリールメタン系染料は、500〜700nmの波長域の光に対する吸収性を有する材料であるが、樹脂等に分散させて塗膜とした場合に、上記波長域以外において高い透過率を有することが望ましい。具体的には、例えば430〜450nmの波長域においては、透過率が90%以上であることが好ましく、93%以上であることがより好ましい。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例により何ら限定されるものではない。
【0039】
実施例1
((p−ビニルフェニル)トリフルオロメタンスルホニルイミド酸トリエチルアミン塩の合成)
p−ビニルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩5g(24.3mmol)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)1mLをn−ヘプタン50mLに添加し、塩化チオニル4.51g(37.9mmol)を室温下滴下した。滴下終了後、内温を70〜75℃に制御して2時間反応させた。n−ヘプタン層を分液し、5%炭酸水素ナトリウム水溶液、ついで水にて有機層を洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで脱水、濃縮し、p−ビニルベンゼンスルホニルクロライドを得た。収量は1.83g(収率:37%)であった。
次いで、東京化成工業(株)製トリフルオロメタンスルホンアミド1.34g(9.00mmol)を塩化メチレン25mL中に溶解し、内温を5℃以下に冷却した。内温が10℃を越えないように和光純薬工業(株)製トリエチルアミン1.82g(18.0mmol)を滴下し、滴下終了後10℃以下で合成したp−ビニルベンゼンスルホニルクロライド1.83g(9.0mmol)を添加した。5℃以下で1時間攪拌した後、室温下で5時間さらに攪拌し、該反応液に水100mLを加え抽出した。分液した有機層を水洗し、硫酸ナトリウムで脱水し、有機層をエバポレーターで減圧濃縮して、下記構造式(5)で示される(p−ビニルフェニル)トリフルオロメタンスルホニルイミド酸トリエチルアミン塩2.98g(収率79%)を得た。
上記(p−ビニルフェニル)トリフルオロメタンスルホニルイミド酸トリエチルアミン塩(構造式13)について、下記の分析結果より目的の化合物であることを確認した。
・MS(ESI)(m/z):102(+)、314(−)
・元素分析値:CHN実測値(42.93%、5.42%、6.94%);理論値(43.26%、5.57%、6.73%)
【0040】
(染料の合成)
下記構造式(4)で示される東京化成工業(株)製Basic Blue 7(CI−42595)1.85g(3.60mmol)をメタノール30mLに溶解し、上記のように製造した下記構造式(5)で示される(p−ビニルフェニル)トリフルオロメタンスルホニルイミド酸トリエチルアミン塩を攪拌しながら、1.50g(3.60mmol)を加え、さらに室温で1時間攪拌した。エバポレーターで溶液中のメタノールを濃縮し、水100mLを加え沈殿物を濾取し、水で洗浄した。該ケーキを減圧乾燥して、前記例示化合物(1)で表される染料A、2.33g(収率82%)を得た。例示化合物(1)で表される染料Aについて、下記の分析結果より目的の化合物であることを確認した。
・MS(ESI)(m/z):478(+)、314(−)
・元素分析値:CHN実測値(63.78%、6.09%、7.11%);理論値(63.62%、5.97%、7.07%)
【0041】
【化7】

【0042】
【化8】

【0043】
(評価)
以下の方法により、着色組成物を調製し、該着色樹脂組成物を塗液として、これをスピンコート法によりガラス基板上に塗布し、80℃で乾燥させ、塗膜側から高圧水銀灯にて紫外光を200mJ/m2露光し、硬化させることより評価用の塗膜を作製した。この塗膜を用いて、NMP耐性、CHXA耐性及び耐熱性の評価を行なった。
【0044】
[1]着色組成物の調製
まず、以下の組成からなる感光性透明樹脂組成物を調製した。
・アクリル酸樹脂のPGMEA溶液(有効成分42質量%、樹脂(ベンジルメタクリレート/メタクリル酸=62/38)、酸価:70mgKOH/g、重量平均分子量:9000、PGMEA=プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート):12質量部
・多官能アクリレートモノマー(SR399E、巴化学):2質量部
・光重合開始剤(2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オン(商品名イルガキュア907、チバスペシャルティケミカルズ社製)):0.7質量部
・光増感剤(4,4’−ジメチルアミノベンゾフェノン):0.07質量部
・PGMEA:5.2質量部
次いで、以下の各成分を混合、攪拌して、不揮発成分が22質量%の着色樹脂組成物を調製した。
・染料A2.7質量部と2−メトキシエタノール33質量部を混合した溶液
・上記感光性透明樹脂組成物:28質量部
・メガファックR−08MH(大日本インキ化学工業(株)製):0.02質量部
・PGMEA:2質量部
【0045】
[2]NMP耐性
NMP耐性評価用のサンプルとしては、高圧水銀灯により露光硬化した後に230℃30分の加熱をして十分に硬化させた塗膜を用いた。
NMP耐性は、ガラス基板上の該塗膜表面にNMPを1滴たらし、10秒静置した後ワイプ(ガードナー社製 ベンコットリントフリーAZ−8)でNMPを拭う。NMP滴下前後での塗膜の分光、すなわちΔEab値をオリンパス(株)製顕微分光装置OSP−SP200を用いて測定し色差を算出することで評価した。色差が小さいほどNMPによる溶出が少なく、NMP耐性が高いということができる。
【0046】
[3]CHXA(シクロヘキサノールアセテート)耐性
用いた溶媒をNMPからCHXAに変え、上記NMP耐性評価と同様の手順でCHXA耐性を評価した。
【0047】
[4]耐熱性
塗膜を作製したガラス基板を、該基板面が接するようにホットプレート上に載置し、80℃で3分間放置後、高圧水銀灯により200mJ/m2で露光した。次に、該ガラス基板を、以下の条件(a)又は(b)で処理した。処理前後の色差(ΔEab値)を上記と同様にして算出した。なお、ΔEab値は小さい方が耐熱性に優れることを示す。
・条件(a):200℃で30分間放置。
・条件(b):230℃で30分間放置。
【0048】
実施例2
実施例1において、(p−ビニルフェニル)トリフルオロメタンスルホニルイミド酸トリエチルアミン塩に代えて、下記構造式(6)で示される(p−アクロイルオキシフェニル)トリフルオロメタンスルホニルイミド酸トリエチルアミン塩1.70g(3.69mmol)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、前記例示化合物(2)で表される染料B、2.67g(収率86%)を得た。例示化合物(2)で表される染料Bについて、下記の分析結果より目的の化合物であることを確認した。
・MS(ESI)(m/z):478(+)、358(−)
・元素分析値:CHN実測値(61.95%、5.43%、6.41%);理論値(61.71%、5.66%、6.69%)
【0049】
【化9】

【0050】
実施例3
実施例1において、(p−ビニルフェニル)トリフルオロメタンスルホニルイミド酸トリエチルアミン塩に代えて、下記構造式(7)で示される(p−アクリロイルオキシブトキシフェニル)トリフルオロメタンスルホニルイミド酸トリエチルアミン塩2.00g(2.63mmol)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、前記例示化合物(3)で表される染料C、2.15g(収率78%)を得た。例示化合物(3)で表される染料Cについて、下記の分析結果より目的の化合物であることを確認した。
・MS(ESI)(m/z):478(+)、430(−)
・元素分析値:CHN実測値(62.32%、6.38%、6.22%);理論値(62.10%、6.10%、6.16%)
【0051】
【化10】

【0052】
比較例1
実施例1において、染料Aの代わりに下記構造式(8)で示される化合物)を用いた以外は、実施例1と同様にして評価を行った。なお、下記構造式(8)で示される化合物は実施例1における染料の合成において、(p−ビニルフェニル)トリフルオロメタンスルホニルイミド酸トリエチルアミン塩の代わりに、アルドリッチ製ビストリフルオロメタンスルホニルイミドを等モル用いた以外は、実施例1と同様にして合成し7.31g、収率99%で得た。
【0053】
【化11】

【0054】
【表1】

【0055】
第1表の結果に示すように、対アニオンとして光硬化基を導入したスルホニルイミド酸イオンを用いた実施例1〜3のトリアリールメタン系染料は、耐熱性が良好であり、かつNMPや保護層に用いられる溶媒であるCHXAに対する耐性が高いことがわかる。
一方、本発明とは異なる光硬化基を有さないトリアリールメタン系染料を用いた比較例1では、耐熱性は良好であるものの、NMPや保護層に用いられる溶媒であるCHXAに対する耐性が不十分であり、液晶ディスプレイに使用されるカラーフィルターに用いることは困難である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のトリアリールメタン系染料は、熱的に安定なだけでなく、有機溶媒や樹脂への良好な溶解性をも両立でき、NMP耐性及びCHXA耐性に優れるため、液晶ディスプレイに使用されるカラーフィルターに好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるトリアリールメタン系染料。
【化1】

(式中、R1、R2、R3、R4、R5及びR6は、各々独立に水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基のいずれかを示し、R1とR2、R3とR4、及びR5とR6のいずれかは、結合して環構造あるいは複素環構造の一部を形成していてもよい。式中のXは水素原子の少なくとも一部がフッ素原子に置換されていてもよいアルキル基、Yは二価の炭化水素基を示し、Zは光反応性基である。)
【請求項2】
前記一般式(I)におけるYがアリーレン基である請求項1に記載のトリアリールメタン系染料。
【請求項3】
前記一般式(I)におけるZがビニル基、アリル基、(メタ)アクリル基、及び(メタ)アクリロイル基から選ばれる基である請求項1に記載のトリアリールメタン系染料。
【請求項4】
前記一般式(I)におけるXがパーフルオロアルキル基である請求項1〜3のいずれかに記載のトリアリールメタン系染料。
【請求項5】
前記一般式(I)におけるR5が水素原子であり、R1、R2、R3、R4、及びR6が各々独立に炭素数1〜20のアルキル基である請求項1〜4のいずれかに記載のトリアリールメタン系染料。
【請求項6】
1、R2、R3、R4、及びR6がすべて同一である請求項5に記載のトリアリールメタン系染料。