説明

トリオキサンの効率的な合成方法

【目的】ホルマリンからトリオキサンを効率的に合成する方法の提供
【構成】 ヘテロポリ酸を触媒としてホルマリン水溶液からトリオキサン合成するに際して、ホルマリン、ヘテロポリ酸、トリオキサンを含む反応系の温度を沸騰点に保ち、反応系から沸騰して生成した蒸気をトリオキサンを濃縮分離する蒸留搭に導き、反応系およびホルマリンからトリオキサンを濃縮分離する系の材質をギ酸に対して、耐食性のある材質を使用し、かつ下記の数式で示される反応系の接触時間tを2時間以下する。
t=V/F (但し、F:原料ホルマリンの反応系への供給量(L/時間)、V:反応相の容積(L))

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジニアリング樹脂として重要なポリアセタール樹脂を製造するための原料モノマーであるトリオキサンを合成する方法に関する。さらに詳しくは、ホルマリンからヘテロポリ酸を触媒としてトリオキサンを効率良く合成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、ホルマリンからトリオキサンを合成するための触媒としては硫酸が用いられてきたが、硫酸は金属材質に対して腐食性があるため、反応容器等の材質として、硫酸に対して耐食性のある特殊な金属あるいは非金属のガラス繊維強化プラスチック(FRP)が使用されていた。しかしながら、FRPではホルマリンの沸点である100℃以上の材料への応力の負荷に対する不安が残る。又、FRPと金属材料とのつなぎ目に不安が残る。
【0003】
このような観点から、ホルマリンからトリオキサンの合成用触媒として非腐食性の触媒であるヘテロポリ酸を用いることを本出願人は提案した(特許文献1参照)。この方法は、従来の硫酸触媒を用いる方法と比較すると、いくつかの点で優れた効果が見いだされた。しかしながら、この方法は触媒活性を維持する点において、不十分なものがあり、また、原料ホルマリンに対して、トリオキサンへの転換率は30%以下であって、原料ホルマリンからトリオキサンへの転換率が低いという点が問題であった。
【0004】
また、本発明者らは、反応器及びトリオキサン濃縮系の材質をギ酸に対して耐食性のある材質とすることによりヘテロポリ酸触媒の活性が維持されることを見出した(特許文献2参照)。しかしながら、この方法では、トリオキサンの取れ高STY(Space Time Yield:空間時間収率)は、0.1(kg/L・時)以下であり、STYが低いことが問題となる。
ヘテロポリ酸は、ホルマリンからトリオキサンを合成する際に、トリオキサンの選択率が硫酸触媒等に比して非常に高く、また、高濃度のホルマリンを低温でも、溶解できるために、反応の転換率が高い等の優れた特性を有しているが、上記のように、従来の技術は種々の問題を有しているので、ヘテロポリ酸触媒を用いてホルマリンからトリオキサンを効率的に合成する方法が望まれている。
【0005】
【特許文献1】特公昭63−37109号公報
【特許文献2】特開2002−220384号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来のヘテロポリ酸を触媒としてホルマリンからトリオキサンを合成する方法においては、転換率が低い、STYが低いという課題があることに鑑みて、より効率的にトリオキサンを得る合成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に記載する構成を具えた本発明の合成方法がホルマリンからトリオキサンを合成する際の転換率を高め、かつSTYを高めることができることを見出した。すなわち本発明の構成は次の通りである。
(1)ヘテロポリ酸を触媒としてホルマリン水溶液からトリオキサンを合成する方法において、反応系およびホルマリンからトリオキサンを濃縮分離する系の材質をギ酸に対して耐食性のある材質とし、ホルマリン、ヘテロポリ酸、トリオキサンを含む反応系の温度を沸騰点に保ち、反応系から沸騰して生成した蒸気をトリオキサンを濃縮分離する蒸留搭に導き、かつ反応系の接触時間tを2時間以下することを特徴とするトリオキサンの合成方法。
(但し、ここで、反応系の接触時間tとは、以下の数式で定義される値である。
t=V/F
また、上記数式におけるF及びVは次の値を示す。
F:原料ホルマリンの反応系への供給量(L/時間)
V:反応相の容積(L)
但し、Lはリットルを示す。
また、反応系に供給する原料ホルマリンの密度を1(kg/L)とし、また、反応系(ヘテロポリ酸、ホルマリン、トリオキサンから構成される系)の密度も1(kg/L)とする。)
【発明の効果】
【0008】
本発明のトリオキサンの合成方法によれば、ホルマリンからトリオキサンを高収率で合成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のトリオキサンの合成方法は、原料としてホルマリンを用い、触媒としてヘテロポリ酸を用いる。
ホルマリンはメタノールを酸化することにより得られる。メタノールの酸化方法としては銀を触媒とするメタノール過剰法と酸化鉄−酸化モリブデン複合化合物を触媒とする空気過剰による方法とがある。また、別の最も好ましい方法としては、メチラールを酸化することによって高濃度のホルマリンを得る方法がある。この方法は本出願人らによる特公平4−15213号公報により示されている。原料のホルマリンとしては通常はホルマリンの濃度が55%から70%のものが使用される。ホルマリンの濃度の高い方がトリオキサンの合成上有利である。
【0010】
本発明において触媒として用いるヘテロポリ酸としては、ケイタングステン酸、リンタングステン酸などの触媒が望ましい。望ましい触媒の例は本出願人より提案された前記特許文献1に詳しく説明されている。ヘテロポリ酸の使用量はホルマリン100重量部に対して50重量部から1000重量部が適当である。ヘテロポリ酸の使用量が増していくと、使用するホルマリン濃度を高める事ができる。単位時間当たりのホルマリンからトリオキサンへの転化量を増すことも可能となる。また、場合により、同一ホルマリン濃度に対して、反応温度を下げることもできる。
【0011】
ホルマリンからトリオキサンをヘテロポリ酸触媒の存在下で接触させてトリオキサンを得る際の反応温度は通常70℃から120℃の範囲で実施することが可能である。反応温度が100℃より高い場合は加圧系での反応であり、反応温度が100℃以下の場合は減圧系での反応である。温度が高くなると高濃度のホルマリンを使用し、トリオキサンへの収量を増加し、単位時間当たりのトリオキサンへの転化量を増大しうるが、選択率が低下する欠点がある。
【0012】
一方、反応温度が低くなると、選択率が上昇するが、使用しうるホルマリンの濃度は低下し、その結果、トリオキサンの収量は低下し、単位時間当たりのトリオキサンへの転化量も低下する。反応温度はこれらの点を考慮しながら、必要とするトリオキサンの量により最適化される。通常は常圧下での反応が行われる。
【0013】
ギ酸に対して耐食性のある材料として、ガラス、ガラス繊維強化プラスチック(FRP)、炭素材料、あるいはチタン系材料などが上げられる。
【0014】
本発明における接触時間tは以下の式で定義される。
t=V/F
ここで、F及びVは次の値を示す。
F:原料ホルマリンの反応系への供給量(L/時間)
V:反応相の容積(L)
また、Lはリットルを示す容積の記号である。
なお、本発明では、簡単のために、反応系に供給する原料ホルマリンの密度を1(kg/L)と仮定し、また、反応系(ヘテロポリ酸、ホルマリン、トリオキサンから構成される系)の密度も1(kg/L)と仮定する。
すなわち、反応相の体積Vが一定の場合には、接触時間tが短いということは、反応系に供給する原料ホルマリンの供給量Fが大きいことを意味する。
【0015】
なお、トリオキサン合成には、濁点という概念が重要であることがわかった。濁点とは、反応系に濁りが生じるか否かの境界点のことであり、濁点を過ぎると反応系にパラホルムの析出が認められる。パラホルムが過度に析出すると、反応系の運転が不能となる。
この濁点は、反応系での反応温度、ホルマリン濃度、ヘテロポリ酸濃度により定まる。一般に濁点は、ホルマリン濃度が高くなると生じやすい。また、反応温度が低くなると生じやすい。また、ヘテロポリ酸濃度が低くなると生じやすい。
【0016】
一般的には、同一の反応温度、ヘテロポリ酸濃度では、濁点は、反応系のホルマリン濃度で定まる。反応系のホルマリン濃度の決定因子として、反応系に供給される熱源量(蒸気の発生量)、原料ホルマリンの供給量、反応系に還流される蒸留搭の搭頂還流量の3者がある。もし、熱源量が一定の場合、原料ホルマリンの供給量と還流量で、ホルマリン濃度は定まる。一般的には、反応系の体積は一定なので、マスバランス上、ホルマリンの供給量が定まると還流量も自動的に決定される。本発明では、ホルマリンの供給量は、反応系が濁点以下になるように制御され、運転される。
また、別の条件の水準として、ホルマリン供給量を一定とした場合、濁点を下げる方法として、熱源(発生蒸気量)を増やす方法も可能となる。この場合には、マスバランス上、還流量が制御される。
いずれにせよ、本発明で大事なことは、接触時間tを2時間以下とすることであり、その上で、濁点以下になるように運転制御を行う。
【実施例】
【0017】
以下実施例で本発明の主旨を説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
[実施例1]
反応器およびホルマリンからトリオキサンの濃縮系である蒸留塔について、ギ酸に対して耐食性のあるガラス材質を用いた。常圧下で、70%ホルマリン100gに対してケイタングステン酸500gをガラス製の1000mLのガラス製反応器仕込み,反応器を加熱された油浴に浸し、内容物を沸騰させた。接触時間を1時間とするために、反応器には毎時600gのホルマリンを連続的に供給した。また、生成蒸気を反応器から連続的に外部に抜き出し、ガラス製の蒸留塔(塔高3m)の塔底に供給した。蒸留塔の塔頂には還流器をつけ還流比5で生成トリオキサンと希薄なホルマリンの凝縮液を抜き出した。凝縮液の残りは蒸留塔の塔頂に戻され、蒸留塔の塔底からは凝縮液を抜き出し、連続的に反応器に戻した。反応器には液面計を設置させ、液面計を油浴の加熱温度と連動させるシークエンスとし、反応器の液面を一定になるように蒸発量を制御するために、油浴の温度をコントロールした。定常状態で蒸留塔の塔頂から毎時310gのトリオキサンが抜き出された。反応の選択率は99.5%であった。また、ここで得られたSTYを計算すると0.52kg/L・時であった。(なお、ここでは、簡単のために、反応系の密度を1(kg/L)と仮定した。)また、反応の収率は73%であった。
【0018】
[実施例2]
実施例1の場合の反応器、連結部および蒸留塔の材質を、ギ酸に対して耐食性のあるチタン材質とした他は実施例1と同様の操作を行った。
蒸留塔の塔頂から毎時320gのトリオキサンが抜き出された。反応の選択率は99.5%であった。すなわち、STYは0.53kg/L・時、収率は76%であった。
【0019】
[比較例1]
実施例1において、反応系へのホルマリン供給量100g/時とし、接触時間を6時間としたことを除いては実施例1と同様の操作を行った。蒸留塔の塔頂から毎時57gのトリオキサンが抜き出された。反応系のSTYは0.095kg/L・時であり、実施例1のSTYである0.52kg/L・時よりも、明らかに低い。
【0020】
[比較例2]
反応器を蒸留塔に連結することなく、反応器のみとした反応系を用いたことを除いては実施例1と同様の操作を行った。すなわち、実施例1と同様に、接触時間を1時間とし、反応系に毎時600gの70%ホルマリンを連続的に供給し、連続的に蒸気を発生させた。定常状態で反応系から120gのトリオキサンが抜き出された。反応の選択率は99.5%であった。また、ここで得られたSTYを計算すると0.2kg/L・時であった。(なお、ここでは、簡単のために、反応系の密度を1(kg/L)と仮定した。)また、反応の収率は29%であった。ここで得られた、STY及び反応収率は、実施例1の0.52kg/L・時および73%より、明らかに低い。
【0021】
[実施例3]
実施例2において、接触時間を0.5時間とした他は実施例2と同様の操作を行った。
蒸留塔の塔頂から毎時620gのトリオキサンが抜き出された。反応の選択率は99.5%であった。すなわち、STYは1.03kg/L・時、収率は74%であった。
【0022】
[実施例4]
実施例2において、反応器に70%ホルマリンを200g、ケイタングステン酸を400g仕込み、蒸留搭の還流比を5.5とした他は実施例2と同様の操作を行った。
蒸留塔の塔頂から毎時300gのトリオキサンが抜き出された。反応の選択率は99.5%であった。すなわち、STYは0.5kg/L・時、収率は71%であった。
【0023】
[実施例5]
実施例2において、反応器に70%ホルマリンを300g、ケイタングステン酸を300g、仕込み蒸留搭の還流比を6とした他は実施例2と同様の操作を行った。
蒸留塔の塔頂から毎時270gのトリオキサンが抜き出された。反応の選択率は99.5%であった。すなわち、STYは0.45kg/L・時、収率は64%であった。
【0024】
[実施例6]
実施例2において、接触時間を1.5時間とした他は実施例2と同様の操作を行った。
蒸留塔の塔頂から毎時210gのトリオキサンが抜き出された。反応の選択率は98.5%であった。すなわち、STYは0.35kg/L・時、収率は75%であった。
【0025】
[実施例7]
実施例2において、反応器に70%ホルマリンを200g、ケイタングステン酸を400g仕込み、蒸留搭の還流比を7とした他は実施例2と同様の操作を行った。
蒸留塔の塔頂から毎時260gのトリオキサンが抜き出された。反応の選択率は99.5%であった。すなわち、STYは0.43kg/L・時、収率は62%であった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明のトリオキサンの合成方法は、ポリアセタール樹脂の原料モノマーとして用いられるトリオキサンを、ホルマリンから高収率で製造することができるので産業上の利用性は高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘテロポリ酸を触媒としてホルマリン水溶液からトリオキサンを合成する方法において、反応系およびホルマリンからトリオキサンを濃縮分離する系の材質をギ酸に対して耐食性のある材質とし、ホルマリン、ヘテロポリ酸、トリオキサンを含む反応系の温度を沸騰点に保ち、反応系から沸騰して生成した蒸気をトリオキサンを濃縮分離する蒸留搭に導き、かつ反応系の接触時間tを2時間以下することを特徴とするトリオキサンの合成方法。
(但し、ここで、反応系の接触時間tとは、以下の数式で定義される値である。
t=V/F
また、上記数式におけるF及びVは次の値を示す。
F:原料ホルマリンの反応系への供給量(L/時間)
V:反応相の容積(L)
但し、Lはリットルを示す。
また、反応系に供給する原料ホルマリンの密度を1(kg/L)とし、また、反応系(ヘテロポリ酸、ホルマリン、トリオキサンから構成される系)の密度も1(kg/L)とする。)

【公開番号】特開2006−124307(P2006−124307A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−313271(P2004−313271)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】