説明

トリオキサンの合成方法

【目的】ホルマリンからトリオキサンを効率的に合成する方法の提供
【構成】 ホルマリンを酸性触媒の存在下で反応させてトリオキサンを合成する方法において、該反応を、100℃以上の温度で操作される第1の反応器並びに該第1の反応器の温度より10℃以上低い温度でかつ減圧下で操作される第2の反応器を用いて行い、第1の反応器で生成したトリオキサンを含む蒸気を、ヘテロポリ酸を触媒とする該第2の反応器の熱源として用い、該第2の反応器で発生した蒸気を蒸留搭の搭底に導き、蒸留搭を減圧下で操作し、第2の反応器の熱源として使用された蒸気の凝縮液を蒸留搭の下段以上の搭中に導き、蒸留搭の搭頂よりトリオキサンを得ることを特徴とするトリオキサンの合成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジニアリング樹脂として重要なポリアセタール樹脂を製造するための原料モノマーであるトリオキサンを合成する方法に関する。さらに詳しくは、ホルマリンからヘテロポリ酸を触媒としてトリオキサンを効率良く合成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、ホルマリンからトリオキサンを合成するための触媒としては硫酸が用いられてきたが、硫酸は金属材質に対して腐食性があるため、反応容器等の材質としては硫酸に対して耐食性のある特殊な金属あるいは、非金属のガラス繊維強化プラスチック(FRP)が使用されていた。しかしながら、FRPではホルマリンの沸点である100℃以上の温度における材料への応力の負荷に対する不安が残る。又、FRPと金属材料とのつなぎ目に不安が残る。
【0003】
このような観点から、ホルマリンからトリオキサンの合成用触媒として非腐食性の触媒であるヘテロポリ酸を用いることを本出願人は提案した(特許文献1参照)。しかしながら、特許文献1に開示されている方法では、原料ホルマリンに対して、トリオキサンへの転換率は30%以下であり、原料ホルマリンからトリオキサンへの転換率が低いという点が問題となる。
【0004】
また、同じく本出願人は、効率的なトリオキサンの合成方法として、100℃以上の温度で操作する高温反応器ならびに高温反応器より少なくとも10℃低い温度で操作する低温反応器の2つの反応器を用いると共に、高温反応器よりの生成蒸気を低温反応器及び濃縮搭の熱源に用いる方法を提案した(特許文献2参照)。そして、この方法は、従来用いられていた硫酸触媒を用いる方法に比べて、いくつかの点で優れた効果が見いだされた。
しかしながら、この方法でもトリオキサンへの転化率は30%台であった。また、触媒活性を維持する点において、不十分なものがあったので更なる改善の必要があった。
【0005】
また、本発明者らは、ヘテロポリ酸触媒の活性を維持する方法として、反応器及びトリオキサン濃縮系の材質としてギ酸に対して耐食性のある材質を使用すると活性が維持されることを見出した(特許文献3参照)。
しかしながら、この方法では、トリオキサンの取れ高STY(Space Time Yield:空間時間収率)は、0.1(kg/L・時)以下であり、STYが低いことが問題となる。また、トリオキサンへの収率は、最高82%止まりであるので、さらなる収率向上が望まれる。また、この方法では還流比が5必要であり、還流比をより下げて省エネルギー化を達成する方法が望まれる。
ヘテロポリ酸は、ホルマリンからトリオキサンを合成する際に、トリオキサンの選択率が硫酸触媒等に比して非常に高く、また、高濃度のホルマリンを低温でも溶解できるために、反応の転換率が高い等の優れた特性を有しているが、上記のように、従来の技術は種々の問題を有しているので、ヘテロポリ酸触媒を用いてホルマリンからトリオキサンを効率的に合成する方法が望まれている。
【0006】
【特許文献1】特公昭63−37109号公報
【特許文献2】特公平3−25428号公報
【特許文献3】特開2002−220384号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来のホルマリンからトリオキサンを合成する方法が、転換率が低い、STYが低い、エネルギー消費が大きいという諸課題を有することに鑑みて、省エネルギー的、かつ高収率でホルマリンからトリオキサンを合成する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に記載する構成を備えた本発明により上記課題が解決できることを見出した。すなわち、本発明は次の(1)及び(2)である。
【0009】
(1)ホルマリンを酸性触媒の存在下で反応させてトリオキサンを合成する方法において、該反応を、100℃以上の温度で操作される第1の反応器並びに第1の反応器の温度より10℃以上低い温度でかつ減圧下で操作される第2の反応器を用いて行い、第1の反応器で生成したトリオキサンを含む蒸気を、ヘテロポリ酸を触媒とする第2の反応器の熱源として用い、第2の反応器で発生した蒸気を蒸留搭の搭底に導き、該蒸留搭を減圧下で操作し、第2の反応器の熱源として使用された蒸気の凝縮液を該蒸留搭の下段以上の搭中に導き、該蒸留搭の搭頂よりトリオキサンを得ることを特徴とするトリオキサンの合成方法。
(2)第1の反応器、第2の反応器及び蒸留搭の材質が、ギ酸に対して耐食性のある材質である特徴とする上記(1)に記載のトリオキサンの合成方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のトリオキサンの合成方法によれば、ホルマリンからトリオキサンを省エネルギーかつ高収率で合成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のトリオキサンの合成方法は、原料としてホルマリンを用い、触媒としてヘテロポリ酸を用いる。
ホルマリンはメタノールを酸化することにより得られる。メタノールの酸化方法としては銀を触媒とするメタノール過剰法と酸化鉄−酸化モリブデン複合化合物を触媒とする空気過剰による方法とがある。また、別の最も好ましい方法としては、メチラールを酸化することによって高濃度のホルマリンを得る方法がある。この方法は本出願人らによる特公平4−15213号公報により示されている。原料のホルマリンとしては通常はホルマリンの濃度が55%から70%のものが使用される。ホルマリンの濃度の高い方がトリオキサンの合成上有利である。
【0012】
触媒として用いるヘテロポリ酸としては、ケイタングステン酸、リンタングステン酸などの触媒が望ましい。望ましい触媒の例は本出願人より提案された前記特許文献1に詳しく説明されている。ヘテロポリ酸の使用量はホルマリン100重量部に対して50重量部から1000重量部が適当である。ヘテロポリ酸の使用量が増していくと、使用するホルマリン濃度を高める事ができる。単位時間当たりのホルマリンからトリオキサンへの転化量を増すことも可能となる。また、場合により、同一ホルマリン濃度に対して、反応温度を下げることもできる。
【0013】
本発明においては、反応器として100℃以上の温度で操作される第1の反応器と、第1の反応器よりも10℃以上低い温度で操作される第2の反応器とを用いる。
本発明では、第1の反応器においては、触媒としては必ずしもヘテロポリ酸触媒を使用する必要はなく、たとえば、硫酸触媒、強酸性イオン交換樹脂触媒を用いても良い。しかしながら、ヘテロポリ酸触媒を使用する方が運転操作上好ましい。この場合のヘテロポリ酸触媒濃度は、ホルマリン100重量部に対して、30−1000重量部の範囲で使用される。
【0014】
第1の反応器は、100℃以上の温度で操作されるが、通常は、100−120℃の範囲で操作されるのが望ましい。反応温度が100℃より高い場合は加圧系での反応操作となる。第1の反応器における反応温度が高くなると、単位時間当たりのトリオキサンへの転化量を増大し得るが、選択率が低下するという欠点がある。
【0015】
第2の反応器は、通常は70−90℃の範囲で操作される。第2の反応器の操作は、減圧下で操作される。第2の反応器における反応温度が低くなると、選択率が上昇するが、反応速度が低下し、単位時間当たりのトリオキサンへの転化量も低下する。反応温度はこれらの点を考慮しながら、必要とするトリオキサンの量により最適化される。
第2の反応器のヘテロポリ酸濃度は、通常ホルマリン100重量部に対して100−1000重量部が使用される。特に300−1000重量部が好ましく使用される。
【0016】
本発明においては、反応器及びそれに続く蒸留搭の材質としてはギ酸に対して耐食性のある材料が用いられる。ギ酸に対して耐食性のある材料としては、ガラス、ガラス繊維強化プラスチック(FRP)、炭素材料、あるいはチタン系材料などが挙げられる。
【0017】
本発明においては、第2の反応器は減圧下で操作され、第1の反応器で生成した蒸気が第2の反応器の熱源として使用される。第2の反応器で生成した蒸気は、続く蒸留搭の搭底に導かれ、蒸気として、蒸留搭を上昇する。
【0018】
第1の反応器で生成した蒸気は、第2の反応器の熱源として使用されて凝縮し凝縮液となる。この凝縮液は、蒸留搭の底部よりも上部に位置する所、たとえば、蒸留搭の中部に導かれる。導かれる箇所は、凝縮液中のトリオキサン濃度、ホルマリン濃度等と蒸留搭の操作条件(温度、圧力、搭長など)を勘案して、蒸留等の中部、上部などの最適の箇所に導入される。
反応に供給される原料ホルマリンは、第1の反応器に供給される場合もあれば第2の反応器に供給される場合もあり、また、両者に供給される場合もある。通常は、第1の反応器に供給される。
【0019】
蒸留搭の搭頂で得られた還流液は、蒸留搭を下降し、組成変化を受けて搭底より、第1の反応器及び第2の反応器に戻される。反応器での反応条件、蒸留搭の操作条件は、蒸留搭も含めた反応系全体の定常化運転で決定される。
【0020】
本発明において、トリオキサン合成はいくつかの指標で評価することができる。たとえば、反応収率、トリオキサンへの選択率、空間時間収率(STY: Space Time Yield)(単位はKg/L・時)、エネルギー消費量指標Eなどで評価される。
本発明においては、STYを評価する時には、便宜上、ホルマリン、ヘテロポリ酸及びそれぞれの混合物の密度は1.0(Kg/L)と仮定した。また、エネルギー消費量指標Eは、簡単には、次式で表すことができる。
E=(r+1)F/T
なお、rは蒸留塔の操作での還流比を表す。また、Tは1時間当たりのトリオキサンの取れ高、Fは原料ホルマリンの1時間当たりのフィード量である。この式のフィジカルミーニングは、以下の通りである。すなわち、(r+1)Fは、蒸留塔を上昇する蒸気のエネルギーと見なすことができる。また、Tはトリオキサンの取れ高なので、Eは単位トリオキサン取れ高あたりの必要エネルギーと見なすことができる。
【実施例】
【0021】
以下実施例で本発明の主旨を説明するが、これはこの発明の範囲を限定するものではない。
[実施例1]
反応器およびホルマリンからトリオキサンの濃縮系である蒸留塔について、ギ酸に対して耐食性のあるチタン材質を用いた。
第1の反応器に、70%ホルマリン50g及びケイタングステン酸250gを仕込み、反応温度を105℃とした。また、第2の反応器に70%ホルマリン50g及びケイタングステン酸500gを仕込み、反応温度を85℃となるように減圧下で第2の反応器を操作した。ここで、第1の反応器の容積を500mLとした。反応器を加熱された油浴に浸し、内容物を沸騰させた。
また、第2の反応器の容積を1000mLとした。第1の反応器で生成した蒸気を第2の反応器の熱源として使用した。反応器中の反応物の容積は、一定になるように液面計でコントロールされた。
【0022】
第1の反応器に毎時400gのホルマリンを連続的に供給した。また、第1の反応器の生成蒸気を反応器から連続的に取り出して第2の反応器の熱源に使用した。第2の反応器で生成した蒸気は連続的に蒸留塔(塔高3m)の塔底に供給された。蒸留搭と第2の反応器は連続的に連結され操作された。すなわち、第2の反応器の圧力(減圧下)は、蒸留搭の操作圧力と連動して行われた。蒸留塔の塔頂には還流器をつけ還流比3で生成トリオキサンと希薄なホルマリンの凝縮液を抜き出した。凝縮液の残りは蒸留塔の塔頂に戻され、蒸留塔の塔底からは凝縮液を抜き出し、連続的に第1の反応器及び第2の反応器に戻した。反応器には液面計を設置し、油浴の温度および各反応器の戻り流量と連動させ、反応器の液面が一定になるように操作された。
【0023】
定常状態で蒸留塔の塔頂から毎時253gのトリオキサンが抜き出された。反応の選択率は99.5%であった。また、ここで得られたSTYを計算すると0.3kg/L・時であった。(なお、ここでは、簡単のために、反応系の密度を1(kg/L)と仮定した。)また、反応の収率は90%であった。
エネルギー消費指標Eは、6.3であった。
【0024】
[比較例1]
実施例1において、第2の反応器のない操作を行った。すなわち、第1の反応器のみで操作を行い、第1の反応器で発生する蒸気をそのまま蒸留塔の搭底に連結し、蒸留塔の操作圧力とした他は、実施例1と同様の操作を行った。
定常状態で蒸留塔の塔頂から毎時150gのトリオキサンが抜き出された。反応の選択率は98.5%であった。また、ここで得られたSTYを計算すると0.5kg/L・時であった。また、反応の収率は54%であった。また、エネルギー消費指標Eは、10.7であった。すなわち、比較例1は、実施例1に比して、STYは、上昇するが、選択率、反応収率はともに悪化した。また、エネルギー消費指標は、実施例1の6.3に対して10.7であり、トリオキサンの取れ高に対して、大幅にエネルギーが必要となっていることから、エネルギー効率が悪いことがわかる。
【0025】
[比較例2]
前記特許文献2記載のように、第1の反応器の蒸気を蒸留搭に導き、また、第2の反応器の蒸気を蒸留搭上部に導き、実施例1と同様の操作をおこなった。毎時100gのトリオキサンが得られた。反応系の収率は36%であり、実施例1の90%より明らかに低い。また、STYは0.12kg/L・時であり、実施例1のSTYである0.3kg/L・時よりも、明らかに低い。また、エネルギー消費指標Eは16.0であり、実施例1の6.3に対して、大きい。すなわち、比較例2では、実施例1よりも、単位トリオキサン取れ高に対して、大幅にエネルギーが必要であり、エネルギー効率が悪いことがわかる。
【0026】
[実施例2]
実施例1において、原料のホルマリンを毎時500g供給した他は、実施例1と同様の操作を行った。蒸留塔の塔頂から毎時300gのトリオキサンが抜き出された。反応の選択率は99.5%であった。すなわち、反応の収率は86%であり、STYは0.35kg/L・時であった。また、エネルギー消費指標Eは、6.7であった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明のトリオキサンの合成方法は、ポリアセタール樹脂の原料モノマーとして用いられるトリオキサンを、ホルマリンから高収率かつ省エネルギーで製造することができるので産業上の利用性は高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホルマリンを酸性触媒の存在下で反応させてトリオキサンを合成する方法において、該反応を、100℃以上の温度で操作される第1の反応器並びに第1の反応器の温度より10℃以上低い温度でかつ減圧下で操作される第2の反応器を用いて行い、第1の反応器で生成したトリオキサンを含む蒸気を、ヘテロポリ酸を触媒とする第2の反応器の熱源として用い、第2の反応器で発生した蒸気を蒸留搭の搭底に導き、該蒸留搭を減圧下で操作し、第2の反応器の熱源として使用された蒸気の凝縮液を該蒸留搭の下段以上の搭中に導き、該蒸留搭の搭頂よりトリオキサンを得ることを特徴とするトリオキサンの合成方法。
【請求項2】
第1の反応器、第2の反応器及び蒸留搭の材質が、ギ酸に対して耐食性のある材質である特徴とする請求項1に記載のトリオキサンの合成方法。