説明

トリクロロシラン製造方法

【課題】配管閉塞等を生じさせることなく、塩化アルミニウムを効率的に除去する。
【解決手段】金属シリコンとテトラクロロシラン、水素を反応させて、その反応ガスを凝縮した後、その凝縮液を粗蒸留塔13及び二次蒸留塔15を有する蒸留系7で蒸留してトリクロロシランを精製するトリクロロシラン製造方法において、凝縮液中の塩化アルミニウム濃度が飽和溶解度以下となるように高温状態に維持し、その高温状態に維持したまま凝縮液を粗蒸留塔13まで流通させ、粗蒸留塔13において留出する液を二次蒸留塔15で蒸留してトリクロロシランを精製するとともに、粗蒸留塔13の底部より塩化アルミニウムが濃縮した液を抜き出し、その抜出し液を濃縮、乾燥させて塩化アルミニウムを含む固形物を排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶シリコンの原料となるトリクロロシランを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体材料に用いられる高純度多結晶シリコンは、トリクロロシラン(三塩化珪素:SiHCl3:TCS)と水素(H)とを混合して原料とし、この混合ガスを反応炉に導入して赤熱したシリコン棒に接触させ、高温下でトリクロロシランの水素還元や熱分解による反応によってシリコン棒表面に多結晶シリコンを析出させる方法(シーメンス法)によって主に製造されている。
【0003】
この高純度多結晶シリコンの製造において、反応炉の排出ガスには、未反応のトリクロロシラン及び水素、副生成物のテトラクロロシラン(四塩化珪素:SiCl:STC)、塩化水素などが含まれている。このため、反応後の排出ガスを冷却して非凝縮成分より水素を回収するとともに、凝縮液を蒸留してトリクロロシラン、テトラクロロシランを回収している。
【0004】
そして、この蒸留により得られたテトラクロロシランを金属シリコン、水素と反応させ、その反応ガスを冷却して得られた凝縮液を蒸留精製し、これにより得られたトリクロロシランを多結晶シリコン析出の原料として再利用することが行われている。
【0005】
特許文献1では、珪素粒子(金属シリコン)、テトラクロロシラン及び水素を、銅シリサイドを含む触媒の存在下で、流動層で高温で反応させることにより、トリクロロシランに転化する技術が開示されている。
また、この転化反応で生じたガス中には、生成されるトリクロロシランの他に、未反応のテトラクロロシラン、水素が含まれているとともに、原料として用いた金属シリコンの粉末やその他金属シリコン中の不純物(Fe、Al、Ti、Ni等)が反応して生成された金属塩化物及びポリマーが含まれる。この金属塩化物のうち塩化アルミニウム(AlCl)は、比較的昇華点が低く、配管閉塞や腐食の原因となる。そこで、転化反応ガスからトリクロロシランを回収する際の蒸留塔の塔底から塩化アルミニウム等を抜き出して処分しているとともに、転化炉から蒸留塔までの間の配管閉塞を防止するために、原料の金属シリコンにおけるアルミニウム濃度を一定量未満に管理している(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−29813号公報
【特許文献2】特開2006−1804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の金属シリコンを原料としたトリクロロシラン製造方法では、特許文献2に開示されるように金属シリコン中のアルミニウム濃度を厳密に管理する必要があるが、原料中の不純物を低減させることは、原料の製造コストの上昇や原料種の制約を受ける問題がある。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、配管閉塞等を生じさせることなく、塩化アルミニウムを効率的に除去することができるトリクロロシラン製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のトリクロロシラン製造方法は、金属シリコンとテトラクロロシラン、水素を反応させて、その反応ガスを冷却して得られた凝縮液を粗蒸留塔及び二次蒸留塔を有する蒸留系で蒸留してトリクロロシランを精製するトリクロロシラン製造方法において、前記凝縮液中の塩化アルミニウム濃度が飽和溶解度以下となるように高温状態に維持し、その高温状態に維持したまま前記凝縮液を前記粗蒸留塔まで流通させ、前記粗蒸留塔において留出する液を前記二次蒸留塔で蒸留してトリクロロシランを精製するとともに、前記粗蒸留塔の底部より塩化アルミニウムが濃縮した液を抜き出し、その抜出し液を濃縮、乾燥させて前記塩化アルミニウムを含む固形物を排出することを特徴とする。
【0010】
反応ガスを冷却して凝縮液が得られる際に、反応ガス中に含まれる塩化アルミニウムも析出するおそれがあるが、凝縮液中の塩化アルミニウム濃度は例えば2質量%以下と低いため、その飽和溶解度以下となるように高温状態に維持することにより、その高温の凝縮液中に溶解させておくことができる。そこで、凝縮液を塩化アルミニウム濃度が飽和溶解度以下となるように高温状態に維持して、塩化アルミニウムを溶解させた状態で粗蒸留塔まで流通させることにより、配管閉塞等の発生を防止する。そして、粗蒸留塔より抜き出した液から塩化アルミニウムを分離し、濃縮、乾燥後に排出する。
【0011】
本発明のトリクロロシラン製造方法において、前記抜出し液を濃縮、乾燥させる際に、前記粗蒸留塔から前記抜出し液を下方に流下させて濃縮器に供給し、さらに前記濃縮器の下方から濃縮物を下方に移送して乾燥器に供給するとよい。
粗蒸留塔の底部より抜き出した液には塩化アルミニウムが含まれており、濃度が高まっているため析出し易い。このため、粗蒸留塔の抜出し液、及び濃縮器の濃縮物をそれぞれ下方に流し落すように移送することにより、蒸留塔、濃縮器、乾燥器の間を連絡する配管内で詰まり等が生じにくくしている。
【0012】
本発明のトリクロロシラン製造方法において、前記粗蒸留塔のリボイラを循環液量が導入液量の20%以上となるように運転するとよい。
リボイラでは、粗蒸留塔から抜き出した液を加熱して粗蒸留塔に戻すことにより、粗蒸留塔との間で液を循環させるが、このとき加熱により液の一部が蒸発してガス化するため、残った液がリボイラ内で濃縮して塩化アルミニウムが析出するおそれがある。このため、導入液量の20%以上の循環液量を維持することにより、塩化アルミニウムの析出を抑えて溶解状態で循環させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のトリクロロシラン製造方法によれば、反応ガスを高温の凝縮液とすることにより、その高温の凝縮液中に塩化アルミニウムを溶解し、この塩化アルミニウムが溶解した凝縮液の状態で粗蒸留塔まで流通するようにしているから、配管閉塞等の発生が防止され、安定した操業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態のトリクロロシラン製造方法を実施するためのトリクロロシラン製造装置の全体を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のトリクロロシラン製造方法の実施形態について説明する。
図1は、トリクロロシラン製造装置の概略構成を示しており、図中、金属シリコンはMeSi、トリクロロシランはTCS、テトラクロロシランはSTC、水素はHとして表記している。
【0016】
トリクロロシラン製造装置1は、テトラクロロシランを金属シリコン、水素と反応させて、トリクロロシランを含むクロロシラン類を生成する転化炉2、そのテトラクロロシラン及び水素の混合ガスを加熱して転化炉2に供給する加熱器3、転化炉2から導出される反応ガスから金属シリコン粉末等の固形分を除去するサイクロン等のダスト除去器4、ダスト除去器4を経由した反応ガスを加熱器3に供給される前のテトラクロロシラン及び水素を含む混合ガスと熱交換する熱交換器5、熱交換後の反応ガスを冷却して水素と凝縮液に分離する凝縮系6、その凝縮液を蒸留してトリクロロシラン及びテトラクロロシランを精製する蒸留系7、塩化アルミニウムを含む蒸留塔底部よりの抜出し液を濃縮、乾燥して固形物を排出する残渣処理系8を備えている。
【0017】
転化炉2に供給される金属シリコンは、粒状をなしており、転化炉2は、この金属シリコンと水素、テトラクロロシランを流動層によって反応させる構成である。転化炉2内の反応は吸熱反応であり、水素及びテトラクロロシランは、事前に加熱器3により反応温度まで加熱された状態で供給される。
凝縮系6は、反応ガスをテトラクロロシラン液により洗浄しながら冷却する洗浄塔11、洗浄塔11からのガスをさらに冷却する冷却器12を備えており、冷却器12を経由した水素は原料ガスの一部として用いられ、冷却により生じた凝縮液は洗浄塔11に循環して反応ガスの洗浄に用いられる。この場合、凝縮系6は高圧に保持され、配管にスチーム配管を添わせたスチームトレースが用いられるなどにより、循環する凝縮液が後述する温度となるように維持される構成である。
【0018】
蒸留系7は、凝縮系6から送られてきた凝縮液より塩化アルミニウム等の塩化物を塔底抜出し液として除き、トリクロロシラン、テトラクロロシランが留出される粗蒸留塔13、粗蒸留塔13を経由した液を蒸留する二次蒸留塔15を備えている。
また、粗蒸留塔13には残渣処理系8が接続されており、残渣処理系8には、塔底に残った塩化アルミニウムを含む液を抜き出して煮詰めることによりクロロシランを蒸発させる蒸発器16、この蒸発器16内でのクロロシランの蒸発により底部に溜まった濃縮物を乾燥させる乾燥器17が備えられている。この場合、これら粗蒸留塔13、蒸発器16、乾燥器17は垂直方向に並んで配置され、垂直配管18,19により接続されている。蒸発器16及び乾燥器17には、発生するクロロシラン蒸気を液化して二次蒸留塔15に送る凝縮器21が接続されている。
【0019】
次に、このトリクロロシラン製造装置1によりトリクロロシランを製造する方法について、転化反応工程、その後のクロロシラン精製工程、クロロシラン精製工程で発生した蒸留塔底部よりの抜出し液を含む残渣の処理工程に分けて説明する。
【0020】
<転化反応工程>
原料としては、金属シリコン、テトラクロロシラン、水素が用いられる。金属シリコンは、珪石(SiO)を精錬して、純度98%程度にした粒状のシリコンである。
これらのうち、テトラクロロシランと水素とを含む混合ガスを転化炉2に供給する前に加熱する。まず、これらの混合ガスが、熱交換器5により、転化炉2で生成される反応ガスと熱交換され、その後、加熱器3により、例えば580℃以上の温度に加熱される。
一方、転化炉2内には金属シリコンが供給され、流動層を形成しており、加熱された混合ガスが転化炉2に供給されると、これらが反応してトリクロロシランを含む反応ガスが生成される。この場合、反応触媒として塩化銅(CuCl)などの銅系の触媒が用いられる。
【0021】
<クロロシラン精製工程>
前述したように転化反応工程で生成される転化反応ガスには、トリクロロシランの他に、未反応のテトラクロロシラン、水素が含まれているとともに、金属シリコンの微粉や金属シリコン中の不純物(Fe、Al、Ti、Ni等)が反応して生成された金属塩化物及び高次塩化珪素化合物からなるポリマーが含まれる。
【0022】
この転化反応後のガスはダスト除去器4で金属シリコンの粉末等のダストが除去され、前述した熱交換器5を経由した後、凝縮系6に送られる。凝縮系6では、洗浄塔11でテトラクロロシランによって洗浄され、冷却器12によって冷却されて、気体の水素と、テトラクロロシラン及びトリクロロシランを含む凝縮液とに分離し、水素は原料の一部として回収され、凝縮液は洗浄塔11に戻される。
このとき、洗浄塔11及び冷却器12、これらの間の配管内が高温に保持され、凝縮液は、洗浄塔11で75℃以上、冷却器12で40℃以上に維持される。
【0023】
そして、この凝縮液は、洗浄塔11から75℃以上に維持された状態で次の蒸留系7に送られる。蒸留系7では、まず粗蒸留塔13によりトリクロロシラン、テトラクロロシランを留出する。また、粗蒸留塔13に備えられるリボイラ20は、粗蒸留塔13から抜き出した液を加熱して粗蒸留塔13に戻すことにより、粗蒸留塔13との間で液を循環させるが、このとき、リボイラ20への導入液量の20%以上の循環液量となる設定としている。
そして、粗蒸留塔13より留出した液は二次蒸留塔15に送られ、この二次蒸留塔15で蒸留され、トリクロロシラン、テトラクロロシランが回収され、テトラクロロシランは原料の一部として利用され、トリクロロシランは多結晶シリコン製造用に供される。
【0024】
<蒸留残渣処理工程>
蒸留系7の粗蒸留塔13の塔底抜出し液は、垂直配管18を介して抜き出され、蒸発器16に送られる。蒸発器16では、スラリー状の残渣を煮詰めることによりクロロシランを蒸発させる。そのクロロシラン蒸気は、凝縮器21で液化され、粗蒸留塔13の留出液とともに二次蒸留塔15に供給され、蒸留される。一方、蒸発器16の底部には塩化アルミニウム等の固形物を含むスラリー状の液が濃縮されて溜まっており、その濃縮物が一定量溜まったら、下方の垂直配管19を介して乾燥器17に送られ、乾燥器17内で乾燥される。乾燥により生じた固形物は、スクリューフィーダ等の掻き出し装置によって掻き出され、処分される。また、この乾燥器17でもクロロシラン蒸気が発生し、そのクロロシラン蒸気も、蒸発器16からのクロロシラン蒸気と同様、凝縮器21で液化された後、粗蒸留塔13の留出液とともに二次蒸留塔15に供給され、蒸留される。
また、二次蒸留塔15の残渣はポリマーが主成分であり、排出されて分解等の処理がされる。
【0025】
このように、このトリクロロシラン製造方法においては、転化炉2で発生する塩化アルミニウムを含む反応ガスは、凝縮系6までは高温のガスの状態で移送され、熱交換器5で温度が低下するとしても約300℃程度であり、塩化アルミニウムは昇華した状態に維持される。したがって、転化炉2から凝縮系6までの間で塩化アルミニウムが析出することはない。
また、凝縮系6においては、凝縮液が洗浄塔11で75℃以上、冷却器12で40℃以上に維持されており、75℃での飽和溶解度が2.0質量%、40℃での飽和溶解度が0.5質量%に対して、凝縮液中の塩化アルミニウム濃度は、それより十分に低い値(洗浄塔11で0.007質量%、冷却器12で0.005質量%)であり、したがって、塩化アルミニウムは、凝縮液中に溶解状態に維持される。
【0026】
そして、この凝縮液に溶解した状態で洗浄塔11から蒸留系7の粗蒸留塔13まで移送される。粗蒸留塔13内は高温に維持されるが、リボイラ20においては、その液の導入口の付近では液量が多いため塩化アルミニウム濃度も低いが、出口付近では蒸発により濃縮して塩化アルミニウム濃度が高まるため析出のおそれがある。前述したように、このリボイラ20においては、吸入液量の20%以上は蒸発せずに循環するように設定されており、これにより、濃縮しても飽和溶解度以下の濃度に維持することができ、塩化アルミニウムの析出が抑制される。
【0027】
粗蒸留塔13の底部より抜出した液は、垂直配管18を介して蒸発器16に送られる。蒸発器16では、スラリー状の濃縮物を溜めておいて、バッチ式で一度に流し落すように垂直配管19を経由して乾燥器17に移送することにより、その垂直配管19の閉塞を防止している。
最後は、乾燥器17で乾燥され、塩化アルミニウムを含む固形物がスクリューフィーダ等によって掻き出される。
【0028】
以上のように、このトリクロロシラン製造方法においては、転化炉2からの反応ガスの凝縮液を高温状態に維持することにより、塩化アルミニウムの析出を抑えて、粗蒸留塔13まで溶解状態で流通させることができ、しかも粗蒸留塔13の抜出し液を垂直下方に流し落しながら濃縮、乾燥しているので、その間の配管で詰まることも防止することができ、塩化アルミニウムを効率的に除去して、系全体の配管詰まりを防止し、操業を安定させることができる。
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 トリクロロシラン製造装置
2 転化炉
3 加熱器
4 ダスト除去器
5 熱交換器
6 凝縮系
7 蒸留系
8 残渣処理系
11 洗浄塔
12 冷却器
13 粗蒸留塔
15 二次蒸留塔
16 蒸発器
17 乾燥器
18、19 垂直配管
20 リボイラ
21 凝縮器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属シリコンとテトラクロロシラン、水素を反応させて、その反応ガスを凝縮した後、その凝縮液を粗蒸留塔及び二次蒸留塔を有する蒸留系で蒸留してトリクロロシランを精製するトリクロロシラン製造方法において、前記凝縮液中の塩化アルミニウム濃度が飽和溶解度以下となるように高温状態に維持し、その高温状態に維持したまま前記凝縮液を前記粗蒸留塔まで流通させ、前記粗蒸留塔において留出する液を前記二次蒸留塔で蒸留してトリクロロシランを精製するとともに、前記粗蒸留塔の底部より塩化アルミニウムが濃縮した液を抜き出し、その抜出し液を濃縮、乾燥させて前記塩化アルミニウムを排出することを特徴とするトリクロロシラン製造方法。
【請求項2】
前記抜出し液を濃縮、乾燥させる際に、前記粗蒸留塔から前記抜出し液を下方に流下させて濃縮器に供給し、さらに前記濃縮器の下方から濃縮物を下方に移送して乾燥器に供給することを特徴とする請求項1記載のトリクロロシラン製造方法。
【請求項3】
前記粗蒸留塔のリボイラを循環液量が導入液量の20%以上となるように運転することを特徴とする請求項1又は2記載のトリクロロシラン製造方法。

【図1】
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