説明

トリクロロシラン製造方法

【課題】熱交換器を通過した後のテトラクロロシランおよび水素の温度に熱変動が生じた場合でも、高い転換効率でトリクロロシランを製造することができるトリクロロシランの製造方法を提供する。
【解決手段】金属シリコンとテトラクロロシランおよび水素を含む混合ガスを反応させてトリクロロシランを製造する方法であって、反応により生じたガスと混合ガスとを熱交換させる熱交換工程と、熱交換した前記混合ガスをその反応温度以下まで金属製ヒーターにより加熱する加熱工程と、加熱工程により加熱された混合ガスを反応可能な温度に発熱させたカーボン製ヒーターに接触させて加熱する事前転化反応工程と、前記事前転化反応工程により加熱された混合ガスと金属シリコンとを反応させてトリクロロシランを含む反応ガスを生成する転化反応工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラクロロシランをトリクロロシランに転換するトリクロロシランの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体材料に用いられる高純度多結晶シリコンは、トリクロロシラン(三塩化珪素:SiHCl:TCS)と水素とを混合して原料とし、この混合ガスを反応炉に導入して赤熱したシリコン棒に接触させ、高温下でトリクロロシランの水素還元や熱分解の反応によってシリコン棒表面に多結晶シリコンを析出させる方法(シーメンス法)で主に製造されている。
この高純度多結晶シリコンの製造において、反応炉の排出ガス中には、未反応のトリクロロシラン及び水素、副生成物のテトラクロロシラン(四塩化珪素:SiCl:STC)、塩化水素などが含まれている。このため、反応後の排出ガスを冷却して、非凝縮成分より水素を回収するとともに、凝縮液を蒸留して、トリクロロシラン、テトラクロロシランを回収している。
そして、この蒸留により得られたテトラクロロシランをトリクロロシランに転化して、多結晶シリコン析出の原料として再利用することが行われている。
【0003】
トリクロロシランを製造する方法としては、例えば特許文献1および特許文献2に示す二通りの方法がある。
特許文献1には、抵抗加熱器の加熱エレメント(ニオブ、タングステン、タンタル、あるいはこれらを含有する金属合金)を、例えば、700〜950℃に加熱して、その加熱エレメントに、ガス状の水素とテトラクロロシランを含有する混合物を直接接触させ、触媒的に作用させる反応の方法が開示されている。
ところが、この特許文献1の技術では、加熱エレメントを700〜950℃という高温に加熱するために、加熱エレメントに高耐熱金属を使用する必要があるとともに、トリクロロシラン生成時に副生する塩化水素の回収設備が必要となる。
【0004】
この特許文献1の技術に対して、特許文献2に開示の技術は、低温で処理することができる。特許文献2に開示の技術は、珪素粒子(金属シリコン)、テトラクロロシランおよび水素を、銅シリサイドを含む触媒の存在下で、転化炉の流動層で、400〜700℃で反応させることにより、トリクロロシランに転化する技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007−533585号公報
【特許文献2】特開平10−29813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2の技術は、低温で処理することから反応速度が遅く、生産性が悪いとされている。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、高い転換効率でトリクロロシランを製造することができるトリクロロシランの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、高い転換効率でトリクロロシランを製造する方法として、テトラクロロシランおよび水素を含む混合ガスを転化炉に導入する前に加熱器で加熱し、混合ガス温度を反応設定温度まで上げた状態で転化炉に導入することで、転化炉内での反応を効率的に高めることができると考えた。また、混合ガスの温度を上げるための加熱ヒーターについては、ヒーターの材質や耐久性を考慮し、安定してヒーター表面温度を上げるようにすることで反応を効率的に高めることができると考えた。さらに、この混合ガスの加熱においては、高温状態で転化炉から排出される反応ガスの温度を利用して、排出ガスとの熱交換を行うことにより、効率的な加熱を行うことができる。
しかしながら、反応後のガス中に転化炉内で生成したトリクロロシランや副生物としてのテトラクロロシラン、未反応ガス等の他、金属シリコンの微粉や、金属シリコンに含まれるアルミニウム等の塩化物や金属触媒等が含まれており、熱交換を利用した混合ガスの加熱に際しては、これら不純物等が冷却されて生じるスケールが熱交換器の伝熱面に付着して熱交換性能の変動を招くことから、加熱器に供給されるガスの温度が変動する。加熱器では、供給される混合ガスの温度の変動に伴い、その混合ガスを反応可能な温度まで加熱するために、ヒーター表面温度を変化させる必要があり、ヒーター表面温度を一定温度に維持することが困難となる。そのため、ヒーター表面温度が低い場合には、ヒーター表面でのガス分解が進行せず、転換効率を向上させることができないし、ヒーターの表面温度が高い場合には、ヒーター表面から不純物が発生するなどして、ヒーターの耐久性が著しく低下する。
すなわち、熱交換器で熱交換された混合ガスの温度に変動が生じると、その後に混合ガスが導入される加熱器への負荷も変動し、転化炉に供給される混合ガスの温度も変動しやすくなることから、転化炉内でのトリクロロシランへの転換効率を低下させる要因となる。
そこで、本発明者は、高い転換効率でトリクロロシランを製造するために、転化炉に供給する混合ガスを安定して加熱することが重要であるとの結論に至り、以下のような解決手段とした。
【0009】
本発明は、金属シリコンとテトラクロロシランおよび水素を含む混合ガスを反応させてトリクロロシランを製造する方法であって、反応により生じたガスと前記混合ガスとを熱交換させる熱交換工程と、熱交換した前記混合ガスをその反応温度以下まで金属製ヒーターにより加熱する加熱工程と、前記加熱工程により加熱された前記混合ガスを反応可能な温度に発熱させたカーボン製ヒーターに接触させて加熱する事前転化反応工程と、前記事前転化反応工程により加熱された前記混合ガスと前記金属シリコンとを反応させてトリクロロシランを含む反応ガスを生成する転化反応工程とを備えることを特徴とする。
【0010】
この場合、混合ガスは、熱交換工程および加熱工程により、転化炉内で反応する反応温度以下まで加熱され、その後の事前転化反応工程で金属シリコンとの反応可能な温度に加熱される。
加熱工程では、熱交換工程の熱交換性能が変動し、供給される混合ガスの温度が変動しても、ヒーター出力の調整により出口ガス温度が一定となるように運転され、事前転化反応工程に反応温度以下の一定温度に加熱された混合ガスを供給する。この加熱工程での加熱は反応温度以下までとしたことから、金属製ヒーターの負荷も少なくて済む。
事前転化反応工程では、加熱工程から供給される混合ガスを所定温度に維持されたヒーター表面で反応温度に加熱する。事前転化反応工程は、加熱工程により一定温度に加熱された混合ガスが供給されるので、熱負荷による変動が少なく、ヒーター表面温度を所定温度範囲内に維持する運転が容易である。また、一定温度に維持されたヒーター表面温度によって、十分に反応温度に加熱できるようになっている。そのため、ヒーター表面温度を劣化が起こらない温度(その材質上使用可能な温度)に保つことができ、ヒーター表面から不純物が発生する等の影響による汚染を防止できる。
そして、事前転化反応工程においては、ヒーター表面の温度で、供給された混合ガスの一部において以下の反応式(1)の反応を起こさせ、転化炉に供給することができる。これにより、高い転換効率でトリクロロシランを製造することができる。
SiCl+H → SiHCl+HCl …(1)
【0011】
本発明のトリクロロシランの製造方法において、前記事前転化反応工程のカーボン製ヒーターの表面温度は、600℃〜850℃に設定されるとよい。
カーボン製ヒーターの表面温度が600℃以上であれば、混合ガスを580℃以上に加熱でき、確実に金属シリコンとの反応を行わせることができる。また、カーボン製ヒーターの表面温度が850℃を超えるとカーボン製ヒーターの表面から不純物(メタン)が発生するおそれがあるため、ヒーター表面温度を850℃以下に設定することで、不純物の発生を防止することができる。
なお、加熱工程においては、混合ガスを事前転化反応工程よりも低い設定温度の約400℃まで加熱できればよく、不純物の発生を抑制できることから、金属製ヒーターを用いることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、加熱工程と事前転化反応工程とを備えることにより、混合ガスを確実に所定温度に加熱して供給することができ、高い転換効率でトリクロロシランを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態のトリクロロシランの製造方法を実施するための装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のトリクロロシランの製造方法の実施形態について説明する。
図1は、トリクロロシラン製造装置の全体の概略構成を示しており、図中、トリクロロシランはTCS、テトラクロロシランはSTC、金属シリコンはSi、水素はH、銅触媒の塩化銅はCuClとして表記している。
【0015】
トリクロロシラン製造装置1は、テトラクロロシランを金属シリコン、水素と反応させて、トリクロロシランを含むクロロシラン類を生成する転化炉2と、テトラクロロシランおよび水素の混合ガスを加熱して転化炉2に供給する加熱器3と、転化炉2から導出される反応ガスから金属シリコン微粉等の固形分を除去するサイクロン等のダスト除去器4と、ダスト除去器4を経由した反応ガスが加熱器3に供給される前の混合ガスと熱交換される熱交換器5とを備えている。
【0016】
転化炉2に供給される金属シリコンは、粒状をなしており、転化炉2は、この金属シリコンと水素、テトラクロロシランを流動層によって反応させる構成である。転化炉2内の反応は吸熱反応であり、水素およびテトラクロロシランは、事前に加熱器3により加熱された状態で供給される。
【0017】
加熱器3は、加熱部31と、事前転化反応部32とで構成されており、加熱部31は、熱交換器5を経由して加熱された状態の混合ガスを、その混合ガスの反応温度以下まで加熱し、事前転化反応部32は、加熱部31により加熱された混合ガスをさらに加熱して、混合ガスが反応可能な温度に加熱する構成とされる。
また、加熱部31は、金属製の電気ヒーター(金属製ヒーターという)により混合ガスを約400℃まで加熱する構成とされ、事前転化反応部32は、内部にカーボン製ヒーターが備えられており、600℃〜850℃の高温に発熱したカーボン製ヒーターに混合ガスを接触させることにより、速やかに混合ガスを580℃以上の温度に加熱する構成とされる。
なお、図1に示す符号6は金属シリコンの乾燥器、符号7は金属シリコンと後述する触媒の塩化銅とを混合するホッパー、符号8は、熱交換器5を経由することにより析出した不純物等を取り除くフィルター、符号9は、精製蒸留系である。
【0018】
次に、このトリクロロシラン製造装置1によりトリクロロシランを製造する方法について説明する。
原料としては、金属シリコン、テトラクロロシラン、水素が用いられる。金属シリコンは珪石(SiO)を精錬して、純度98%程度にした粒状のシリコンである。
これらのうち、テトラクロロシランと水素との混合ガスを、転化炉2に供給する前に加熱する。まず、これらテトラクロロシランと水素との混合ガスは、熱交換器5で、転化炉2で生成される高温の反応ガス(約550℃)と熱交換され、約300℃まで加熱される(熱交換工程)。
【0019】
その後、混合ガスは、加熱器3の加熱部31で約400℃に加熱され(加熱工程)、次の事前転化反応部32のカーボン製ヒーターにより速やかに580℃以上に加熱される(事前転化反応工程)。このとき、混合ガスは、以下の反応式(1)によって一部が反応する。
SiCl+H → SiHCl+HCl …(1)
【0020】
一方、転化炉2内には金属シリコンが供給され、流動層を形成しており、加熱された混合ガスが転化炉2に供給されると、これらが反応してトリクロロシランを含む反応ガスが生成される(転化反応工程)。この場合、反応触媒として塩化銅(CuCl)などの銅系の触媒が用いられる。このとき、トリクロロシランは、以下の反応式(2)により生成される。
Si+3SiCl+2H → 4SiHCl …(2)
【0021】
なお、事前転化反応工程で発生した塩化水素(HCl)も、金属シリコン(Si)と反応してトリクロロシランが生成される(反応式(3))。
Si+3HCl → SiHCl+H …(3)
【0022】
前述したように、転化反応工程で生成される反応ガス中には、トリクロロシランの他に、未反応のテトラクロロシラン、水素が含まれているとともに、金属シリコンの微粉や金属シリコン中の不純物(Fe、Al、Ti、Ni等)が反応して生成された金属塩化物および高次塩化珪素化合物からなるポリマーが含まれる。
この転化反応後のガスは、ダスト除去器4で金属シリコンの微粉等の不純物が除去され、熱交換器5に送られる。反応ガスは、熱交換器5で冷却され、そのガス中に含まれている塩化銅等が析出するが、フィルター8で除去される。その後、精製蒸留系9で蒸留されて、トリクロロシランの純度が高められる。
【0023】
上述したように、反応ガスは、熱交換器5で冷却されることにより、そのガス中に含まれている塩化銅等が析出する。そのため、装置の操業を続けていくうちに、スケールが熱交換器5の伝熱面に次第に付着することによって熱交換性能に変動が生じ、熱交換器5を通過するテトラクロロシランおよび水素の混合ガスの温度にも変動が生じる。
加熱器31が無い場合には、事前転化反応部32のカーボン製ヒーターにより混合ガスの温度変動に対応する必要があるが、その場合、カーボン製ヒーターの負荷変動が大きくなり、低温から高温まで制御することが難しい。また、熱交換器5の温度変動を見込んで、カーボン製ヒーターの伝熱面積を大きくしておくと、熱交換器にスケールが付着する前はヒーターの表面温度が低くても、混合ガス温度が所定の温度に上がってしまい、ヒーター表面で上記の反応式(1)の反応が起こらず、転換効率が低下する。また、熱交換器にスケールが付着する前に、ヒーター表面で反応式(1)の反応が起こるように伝熱面積を設定しておくと、熱交換器にスケールが付着した場合、ヒーター表面温度をさらに高くする必要があり、ヒーターの劣化、不純物の発生が起こるおそれがある。
【0024】
上記のトリクロロシラン製造装置1においては、熱交換器5で加熱された混合ガスを、加熱部31で予熱することにより、事前転化反応部32に供給される混合ガスの温度の変動の幅を小さくしており、事前転化反応部32で速やかに反応温度まで上昇させることができる。加熱部31が無い場合には、事前転化反応部32での運転条件が変動して、カーボン製ヒーターの負荷が大きくなるが、加熱部31を設けたことにより、事前転化反応部32を一定条件で運転できる。これにより、事前転化反応部32のカーボン製ヒーターの負荷を軽減でき、混合ガスを効率よく加熱することができる。
【0025】
また、カーボン製ヒーターの温度は、600℃〜850℃に設定されており、600℃以上であれば、混合ガスを580℃以上に加熱でき、確実に反応させることができる。また、850℃を超えるとカーボン製ヒーターから不純物(メタン)が発生するおそれがあるため、850℃以下に設定することで、不純物の発生を防止することができる。
また、加熱工程は、混合ガスを、事前転化反応工程よりも低い設定温度の約400℃まで加熱する構成であり、不純物の発生を抑制できることから、カーボン製ヒーターではなく、金属製ヒーターを用いることができる。
【0026】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上述実施形態のトリクロロシラン製造装置においては、金属シリコンを、転化炉への導入前に乾燥器を通して乾燥させているが、乾燥させた後に、さらに加熱する工程を設けてもよい。
【符号の説明】
【0027】
1 トリクロロシラン製造装置
2 転化炉
3 加熱器
4 ダスト除去器
5 熱交換器
6 乾燥器
7 ホッパー
8 フィルター
9 精製蒸留系
31 加熱部
32 事前転化反応部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属シリコンとテトラクロロシランおよび水素を含む混合ガスを反応させてトリクロロシランを製造する方法であって、反応により生じたガスと前記混合ガスとを熱交換させる熱交換工程と、熱交換した前記混合ガスをその反応温度以下まで金属製ヒーターにより加熱する加熱工程と、前記加熱工程により加熱された前記混合ガスを反応可能な温度に発熱させたカーボン製ヒーターに接触させて加熱する事前転化反応工程と、前記事前転化反応工程により加熱された前記混合ガスと前記金属シリコンとを反応させてトリクロロシランを含む反応ガスを生成する転化反応工程とを備えることを特徴とするトリクロロシラン製造方法。
【請求項2】
前記事前転化反応工程のカーボン製ヒーターの表面温度は、600℃〜850℃に設定されることを特徴とする請求項1記載のトリクロロシラン製造方法。

【図1】
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