説明

トリグリセリドを含有する原材料の連続的水素化方法

直列に配列されかつ水素化触媒を含む複数の触媒床を有する固定床反応器システムにおいてトリグリセリド含有原材料を連続的に水素化する方法。原材料供給原料、水素含有ガスおよび希釈剤は、水素化条件で触媒床を一緒に通過させられる。原材料供給原料流並びに水素含有ガス流は、同数の異なる分流に分けられる。これらは、それぞれ、希釈剤対原材料供給原料の重量比が、全ての触媒床の入口において実質的に同じになりかつ4:1を超えないような方法で一つの触媒床中を通過させられる。特許請求された方法は、好ましくは、低い温度で行われ、低い再循環比に起因して既存装置の利用を可能にする。さらに、十分に過剰な水素が用いられ、その結果、脱炭反応を通じて有用な生成物が喪失しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素化触媒を含むいくつかの触媒床を有する固定床反応器システムにおいて、植物油のようなトリグリセリドを含有する原材料を連続的に水素化するための改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料製造において、植物油のような再生可能資源を使用することが、着実に増加している。生物由来のニートの油脂は、劣等の特性を示すので、そのような材料をより満足のいく燃料製品に転化するための、かなりの数の提案がなされてきた。従来技術の包括的レビューが、本明細書において援用されており、特許文献1に記載されている。
【0003】
改良のための可能性の1つは、動物および植物の油脂を、接触水素化処理することにより、例えばディーゼルおよび/またはケロシン燃料として有用になり得るかもしれない飽和炭化水素を生成させることである。このような水素化処理は、不飽和の除去およびトリグリセリドの水素化脱酸素を含む。これらの反応の高い発熱性に起因して、望ましくない副反応を避けるために温度制御が非常に重要である。このような副反応は、動物および植物の油脂中に相当量存在する遊離脂肪酸によって更に促進される。これらの問題を軽減させるために、特許文献1では、5重量%超の遊離脂肪酸を含有するこのような生物由来材料に、希釈剤(希釈剤の新鮮な供給原料に対する比は5〜30:1である)の存在下に200〜400℃の反応温度で接触水素化処理を施すことが提案されている。希釈剤は好ましくは、該方法の再循環生成物である。
【0004】
しかし、特許文献1で提案された方法は、依然としていくつかの重大な不利な点を有している。従って、必要量の希釈剤を提供するための再循環量は、非常に多い。このことは、反応器の高い液圧下流負荷を構成し、要求される拡大した反応器容積を提供するために、既存装置の相当な改良を必要とする。更に、特許文献1は、水素化処理触媒を適切に選択することを通じて、脱炭反応を通して脱酸素を促進すること(カルボン酸酸素からのCOおよびCOの形成)によって水素消費量を低減させることを教示している。しかし、このようなトリグリセリドの脱酸素の結果、高価なパラフィン生成物が喪失され、COの阻害効果のために触媒が不活性化され、かつCOの存在のために腐食性が高くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1741768号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、より少ない再循環を用い、既存装置の改良をより少ししか必要としない、遊離脂肪酸によって生じる腐食を最小限にとどめ、および/または、高価なパラフィン生成物の喪失、および上述の脱炭反応を通じたトリグリセリドの脱酸素に起因する他の不利な点を本質的に回避する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
それ故に、本発明は、請求項1に記載の水素化触媒を含むいくつかの触媒床を有する固定床反応器システムにおける植物油等のトリグリセリドを含有する原材料の連続的水素化方法に関する。サブクレームは、本発明の好ましい実施形態に関し、本発明の詳細および利点は、以下の説明から明らかになっていくこととなる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図1を参照しながら本発明が説明されることとなる。図1には、本発明を実施するのに適切な方法スキームが示されている。
【0009】
本発明による方法において、トリグリセリドを含有する原材料、水素含有ガス、および希釈剤が一緒に、水素化条件での反応器システムの触媒床に通過させられ、該床は、直列に配列されている。トリグリセリドを含有する原材料は、あらゆる植物および動物の油脂であり得る。このような材料は、例えばEP 1 741 768 A1に開示されており、該文献の開示内容は本明細書に援用されている。例えば、ヒマワリ油、オリーブオイル、ピーナッツオイル、ココナッツオイル、および牛脂が非常に適しており、ジャトロファオイル、ヤシ油、大豆油、ナタネ油などの植物の油脂が好ましい。
【0010】
水素含有ガスは、高純度の水素からなるか、あるいは好ましくは不活性である更なる成分を含み得る。このことは、それらが、本発明による方法の条件下で、トリグリセリドを含有する原材料と反応しないことを意味する。一般に、このような水素含有ガスは、水蒸気改質装置並びに接触改質装置から生じる。実際には、適切なガスは75〜95容積%の水素を含有し得、残りはメタン、エタン、プロパン、ブタン等の炭化水素である。水素は、理論的水素消費量を超過して(例えば、少なくとも50%、好ましくは75〜400%、更により好ましくは100〜300%、150%等)用いられ、その量は水素分圧によって制御され、該水素分圧は好ましくは10〜80バールの範囲である。
【0011】
始動期間を除き、希釈剤は、本発明による方法からの生成物である。それ故に、用語「希釈剤」には、各触媒床において形成された水素化生成物、並びに、請求項1の特徴b)に定義されたこの特定の小部分が含まれ、これは、反応器入口の第一触媒床に再循環させられ、かつ、追加希釈剤(added diluting agent)と称される。始動期間の間、反応器入口の第一触媒床への再循環のために十分な水素化生成物が利用可能となるまで、あらゆる適切な炭化水素、例えば軽質軽油が、追加希釈剤として用いられ得る。
【0012】
図1を参照すると、原材料供給原料(ここでは植物油)がライン(1)を介して供給され、水素含有ガスがライン(2)を介して供給される。両方の流れが、異なる分流(F、F、・・・F、およびH、H、・・・H)に分けられ、最も小さい供給原料の分流(F)は、最も小さい水素含有ガスの分流(H)と混合され、次に大きい供給原料の分流(F)は、次に大きい水素含有ガスの分流(H)と混合され、以下、同様に混合される。このようにして得られた混合分流はそれぞれ、1個の触媒床に送られ、最も小さい混合分流(F+H)が、固定床反応器システムの頂部の第一触媒床(3)に送られ、次に大きい混合分流(F+H)が、第二触媒床(4)に送られ、以下、同様に送られるようにされ、最も大きい混合分流(F+H)が、固定床反応器システムの底部の最終触媒床(7)に送られる。第一混合分流(F+H)が第一触媒床(3)に入る前に、それは追加希釈剤と混合される。同様に、更なる混合分流(F+H;F+H;等)が、先行する触媒床からの成分(水素化生成物、未反応の水素含有ガス、追加希釈剤)と固定床反応器システムの触媒床間の混合帯域内で混合される。
【0013】
あるいは、あまり好ましくないが、供給原料の分流および対応する水素含有ガスの分流は、第一触媒床の前および固定床反応システムの触媒床間の混合帯域に、事前混合することなく直接供給される。
【0014】
原材料供給原料流れおよび供給原料の分流の温度は、80℃未満であるが、原材料供給原料が反応器システムへ適切に輸送されるのが可能である程十分高く、すなわち、原材料の粘度が適切である必要がある。同様に、水素含有ガスの温度は、実質的側面から適切な範囲で低い。このことは、水素の温度が低いことが、触媒床を出る水素化生成物のクエンチ処理に関して、かつ、第一触媒床の入口で要求される追加希釈剤の量に関して、有利であるからである。しかし、水素は、反応器システム内で所望の圧力まで圧縮されるべきであり、このことにより温度が上昇するに至るため、圧縮水素はしばしば適切な温度まで冷却される。実際、水素の温度は、110℃を超えるべきではなく、かつ、殆どの場合40〜100℃の範囲内、例えば50℃である。
【0015】
反応器入口の第一触媒床に導入された混合分流の温度は、追加希釈剤で更に調整され、該希釈剤は、本方法によって得られる水素化生成物の特定の小部分(fraction)である。それは、145〜280℃(高温分離器(8))および15〜60℃(低温分離器(9))での制御された圧力低減を伴わない2つの工程における分離によって、反応器出口生成物混合物から回収される。このような反応器入口での温度の調整は、要求される場合または望ましい場合、熱交換器(10)によってサポートされる。
【0016】
好ましい実施形態において、第二分離工程から得られた特定の小部分の凝縮物は、それが反応器入口の第一触媒床へ再循環させられる前に、脱ガス容器(12)内で膨張(expand)させられる。
【0017】
反応器入口における第一触媒床の温度は、第一触媒床の出口の温度が好ましくは280℃以下となるように調整されるべきである。反応器入口における第一触媒床の適切な温度は、例えば200℃であり得、この温度は、水素化反応に起因して第一触媒床の出口において例えば250℃まで上昇する。原材料の水素化は、第一の床中および後続の床中で本質的に完了する。
【0018】
第一触媒床(3)を出る水素化生成物に、原材料および水素含有ガスの第二混合分流(F+H)が、希釈剤対原材料供給原料の重量比が第一触媒床(3)の入口におけるものと本質的に同じになるような量で加えられる。前記比が第一触媒床(3)の入口において例えば4:1であるならば、第二混合分流(F+H)によって導入される新鮮な原材料供給原料(F)の量は、第一触媒床(3)の入口において混合分流(F+H)によって導入される原材料供給原料(F)の量より1.25倍大きくなければならず、その結果、希釈剤(追加される希釈剤および第一触媒床において形成される希釈剤)の重量比は再度4:1である。同様に、好ましくは、第二混合分流(F+H)によって提供される水素(H)の量は、第一混合分流(F+H)によって提供される水素の量より1.25倍多く、これにより、第二触媒床(4)内で、第一触媒床(3)と同一の水素過剰が維持される。
【0019】
第二混合分流(F+H)を、第一触媒床(3)を出る水素化生成物に加えることによって、水素化生成物の温度が低減し、その結果、第二触媒床(4)に入る新たに形成された混合物が許容される低温度、例えば200℃とされ、その結果、触媒床(3)および(4)中の反応条件が好ましくは本質的に同一にされる。
【0020】
第二触媒床(4)を出る水素化生成物は、第三混合分流(F+H)と混合され、その量は、同倍、例えば、1.25倍、先行する混合分流(F+H)より多く、すなわち、第三混合分流(F+H)を通して加えられる新鮮な原材料供給原料(F)の量は、同倍、例えば、1.25倍、第二混合分流(F+H)によって導入される新鮮な原材料供給原料(F)の量より多い。同じ事が好ましくは、第三混合分流(F+H)によって導入される水素(H)の量に適用され、これにより第三触媒床(5)において第一触媒床(3)および第二触媒床(4)と同一の水素過剰が維持される。
【0021】
第二触媒床(4)を出る水素化生成物と第三混合分流(F+H)との混合物は、その後、第三触媒床(5)に導入される。
【0022】
記載された手順が、後続の触媒床を出て、その次の触媒床に入る前の各水素化生成物で繰り返される。
【0023】
温度制御を向上させるために、原材料および水素含有ガスの分流を調節する弁が、触媒床入口および出口での温度値によって作動させられ得、これにより、所望の温度が触媒床の入口および触媒床中で維持されるように、操作中の原材料供給原料および水素含有ガスの分流並びに追加希釈剤の流れが適合させられる。このことは、図1の点線によって例示されている。更に、温度制御は、反応器システムに供給される原材料供給原料および水素含有ガスの温度を変えることによって影響され得る(上記参照)。
【0024】
最終触媒床(7)を出る水素化生成物は、ライン(11)を通って取り出され、上述の分離工程へと送られる。第一混合分流に加えるために再循環させられない水素化生成物の一部は、品質向上された生成物、好ましくは、ケロシンまたはディーゼル燃料を製造するために、更なる処理、例えば、異性化または水素化分解並びに精製所成分との調合に付され得る。
【0025】
上記から続いて、希釈剤が、反応器入口に入りかつ第一触媒床を通過する第一混合分流にのみ加えられる。触媒床の間では更なる希釈剤は追加されないが、希釈剤の全量は、触媒床内で形成された水素化生成物の量だけ増加する。好ましくは、追加希釈剤(請求項1の特徴b)で定義されたような本発明による方法によって得られた水素化生成物の特定の小部分)対原材料供給原料の全量の重量比は、1未満であり、より好ましくは0.5未満であり、更により好ましくは0.4以下であり、更に一層より好ましくは0.2以下(例えば、実施例3にあるように、約0.4または約0.2)である。触媒床の数に応じて、前記比は、0.1或いは更に0.05といった低数値であり得る。
【0026】
好ましくは、供給原料の分流と水素含有ガスの分流がすべて、ガスの標準立方メートル対原材料供給原料の立方メートルの同じ比で混合される。同様に、好ましくは、第二触媒床および次の触媒床への混合分流の量は、全ての触媒床の入口における温度を、反応器入口における第一触媒床の温度と本質的に同一の温度に調節するように制御される。
【0027】
本発明による方法を実施するのに適した反応器システムは、任意の適切な数の触媒床を含み得る。通常、それは、3個超、好ましくは4個超、特に5個超の触媒床を含むが、20個未満、好ましくは15個未満、特に10個未満の触媒床を含む。換言すれば、nは、好ましくは4〜19、より好ましくは5〜14、特に好ましくは6〜9である。
【0028】
適切な水素化触媒は、当該技術分野において周知である(例えば、W. Reschetilowski “Hydroraffinationskatalysatoren in der Erdolverarbeitung - Stand und Perspektiven”, Chemie Ingenieur Technik, June 2007, Vol. 79, 729-740参照)。好ましくは、水素化触媒は、周期律表(IU−PAC元素周期律表)の第6、8、9、および10族の1以上の硫化元素から選択される。特に、ニッケル、モリブデン、コバルト、および/またはタングステンが好ましい。通常、水素化触媒は、好ましくはAl上に担持される。
【0029】
特に断らない限り、本発明による方法は、当該技術分野において一般的に知られた水素化条件で実施される(例えば、EP 1 741 768 A1を参照のこと)。従って、圧力は、20〜150バール、好ましくは50〜100バールの知られた範囲内であり得る。
【0030】
上記のように、水素が過剰に用いられる。本発明による方法において、水素の原材料供給原料に対する比は、100〜1,000Nm/mの範囲であるのが好ましい。
【0031】
副反応、特に脱カルボニル化/脱カルボキシル化を避けるために、水素化は好ましくは145〜280℃の温度で行われる。水素化の間温度が上昇するので、触媒床の入口の温度は、触媒床を出る反応混合物の温度が高すぎず、好ましくは280℃を超えないように制御されなければならない。好ましくは触媒床入口の温度は250℃超であってはならず、より好ましくは前記温度は220℃以下である。
【0032】
本発明による方法を実施するために、場合により、各床における原材料供給原料の空間速度(LHSV)は、0.1〜5m/m(触媒)/時の範囲であるべきであり、好ましくは0.1〜1m/m(触媒)/時の範囲であり、液体材料の線速度は、1〜6mm/秒の範囲であるべきである。このような低い線速度は、少ない圧力低下、最適なホールドアップ(hold up)および結果的に最大限の目標転化率を達成するのに有利であり、先行技術に開示されたような高い再循環比では達成されない。
【0033】
触媒床の容積は、新鮮な原材料供給原料の各流れ(F〜F)について本質的に同一の空間速度を確保するために、流れ方向に増加し得る。従って、各触媒床に導入される新鮮な原材料をベースとする空間速度は、全ての触媒床においてほぼ同一でありかつ上記範囲内であることが好ましい。しかし、各触媒床中の原材料供給原料の線速度は異なり、床から床へと下流方向に向かうにつれて上昇するが、全ての床において上記の範囲内であるべきである。
【0034】
本発明によるもののような方法のために、通常トリックルベッド反応器(trickle bed reactor)が用いられる。反応物質(新鮮な供給原料および水素)は、反応器の頂部から底部にかけて併流で、反応器内を通過させられる。このような反応器は、周知であり、好ましくは本発明において用いられる(例えば、US 7,070,745 B2、特に第1欄;Andreas Schulze “Entwicklung der Strukturen der Erdolraffinerien in Deutschland, 27.06.2005, scheme “Hydroraffination( Hydrotreating)”参照)。
【0035】
本発明による方法において、下流方向に流れる原材料供給原料の各分流は、先行する分流よりかなり大きく、希釈剤対原材料供給原料の重量比は、全ての触媒床の入口で本質的に同一であり、4:1を超えない事が必須である。従って、好ましくは、反応器入口における希釈剤対原材料供給原料の重量比は、4:1以下であり、新鮮な原材料供給原料の各分流は、1.25倍以上、前の分流より大きい。特定の原材料供給原料、所望の処理条件、および所望の水素化生成物に応じて、1:1まで下がる希釈剤対原材料供給原料の重量比が、実際実行可能である。
【0036】
好ましくは、下流方向に流れる水素含有ガスの各分流も、水素含有ガスが混合される対応する原材料供給原料の分流と本質的に同じ倍率割合で、先行する分流より大きい。従って、上記の実施形態において、水素含有ガスの各分流も前の分流より1.25倍以上大きいことが好ましい。
【0037】
本発明による方法は、新鮮な原材料の全てをベースとする最低限の再循環量のみが要求されるという点において重要な利点を提供する。このことによって、次に、反応器の低い液圧下流負荷(downstream hydraulic load)が結果的に得られ、かつ、相当な改良無しに既存装置が使用可能となる。これに対し、EP 1 741 768 A1に開示された方法にあるような先行技術における温度制御では高い再循環量を必要とし、これは次に高い投資費および高い操作費用を意味する。更に、高い希釈は、要求される、水素の水素化触媒の触媒中心への迅速な輸送に関して不利である。
【0038】
本発明による方法の別の利点は、その高い柔軟性にあり、これは、実際に全ての利用可能なトリグリセリドを含有する原材料が、油脂のような適切な原材料の発熱性(exothermy)が相当変化するという事実に拘わらず、処理され得ることを意味する。
【0039】
更に、本発明による方法は、それが、問題のない鉱物油、例えば、重質ガソリン、ケロシン、軽質軽油等のような直留フラクションとの共処理を可能にする限り、すなわち、鉱物油を、トリグリセリドを含有する原材料と共に注入することによって、柔軟性を有する。このような鉱物油成分は「希釈効果」も有するので、再循環量を更に低減させることがしばしば可能である。硫黄とまた場合による窒素を鉱物油成分から除去するために、第二反応器が、上記の固定床反応器システムと高温分離器(8)と低温分離器(9)との間に配置され、該反応器は、要求されたこの目的のために、280℃を超える高温、例えば310〜330℃で作動する。本発明の方法によって得られる生成物が窒素に対してセンシブルな貴金属触媒を用いる異性化のような更なる処理を施されることとなる場合、そのような第二反応器は、植物油のみが処理される場合であっても有用であり、植物油に含有されかつ本発明による連続的水素化のための第一固定床反応システムにおいて低温で除去されない少量の窒素含有分子(5〜10ppm)が除去される。
【0040】
鉱物油との共処理が特に重要であるのは、既存装置において本発明による方法を実施する場合である。それは、精製所の特定の要件に対応する容量利用の共用を可能にするからである。それ故に、植物油を処理するために既存の装置を完全に取っておくことができないならば、その容量は、一部を鉱物油フラクションの水素化のために、一部を本発明による植物油の水素化のために用いられ得る。このようにして、原材料供給原料流れの1/3以下の量の鉱物油成分が、植物油成分と一緒に用いられかつ水素化処理され得る。
【0041】
上流領域において、トリグリセリドを含有する原材料の温度は低く、そのため遊離脂肪酸による腐食が存在しない。このことにより、ステンレス鋼を必要としないため、既存の設備が利用可能となる。
【0042】
本発明による方法において、ディーゼルおよびケロシン燃料のような高価なパラフィン生成物の最大収率が達成され、COおよびCOを形成する副反応によるCの喪失が実際存在しない。従って、下流における腐食も最小限化される。
【0043】
本方法を通して用いられる比較的低い温度のために、かつ、望まれない温度ピークが避けられるという事実のために、本発明は、液体生成物の質を損なう副反応を伴わず、かつ、触媒の損傷を伴わず、トリグリセリドを含有する原材料の非常に穏やかな転化率を提供する。
【0044】
(比較例1)
通常の周知のディーゼルの水素化処理に従って、ジャトロファオイル(表1に特徴付けられている)を、3個の触媒床を有するパイロット反応器内で、1.0のLHSV(liquid hourly space velocity:液体の毎時空間速度)、40barg、かつ新鮮な供給原料体積(リットル)あたりH700リットルで水素化処理した。3個の触媒床は、1:2:4の比で市販のCoMo触媒を含有していた。
【0045】
反応器内の5カ所の測定ポイントから得られた平均触媒床温度は、100時間のテスト期間の間、362℃であった。パイロットプラントに典型的な高い熱放散を有する大きいメタルジャケットブロックにもかかわらず、20℃以下の望ましい等温曲線からの相当な狂いを観測したことは、注目に値することであった。これらの観測は、最近第三者によって報告されたパイロットテストの結果(Karl Hutter “CO-Processing of BIO Oils in HDS/HDN Vienna Albemarle’s 9th Pre-ERTC Seminar 17 Nov 2008)と合致している。
【0046】
テスト期間の残りは結果的に、以下の平均収率構成をもたらした。
【0047】
【表1A】

【0048】
高い脱カルボニル化/脱カルボキシル化に拘わらず、化学的H消費は、高価な液体生成物の軽質ガスへの明らかに相当な水素化分解のために、供給原料について5.1重量%という非常に高い値で測定された。高い程度の水素化分解は、水素化処理触媒の活性に対して阻害効果を通常有する高いCO分圧に鑑み、特に驚くべきことである。おそらく、活性触媒のサイトでの温度は、実際測定されたものよりはるかに高く、この温度が増大した分解ならびにCOの迅速な脱着を引き起こしたであろう。
【0049】
【表1B】

【0050】
(比較例2)
植物油のための公知の技術に従って、パーム油(表1に特徴付けられている)を、3個の触媒床を有する反応器内で、1.0のLHSV、50barg、かつ新鮮な供給原料体積(リットル)あたりH800リットルで水素化処理した。3個の触媒床は、1:2:4の比で市販のNiMo触媒を含有していた。
【0051】
得られた液体生成物を、6容積部の再循環対1容積部の新鮮な供給原料の比が確立されるまで、反応器入口に再循環させた。両方の成分を、反応器への導入前に、285℃迄段階的に加熱した。反応器出口の温度は320℃であった。100時間の以下のテスト期間の間の平均収率は表2に要約されている。化学的H消費は、新鮮な供給原料をベースとして2.24重量%を測定した。
【0052】
480時間のテスト期間の後、ラフィネートの密度の増加は、転化率の低下を示し、従って、CO分圧によって引き起こされたかもしれない触媒の失活を示した。この失活のバランスを保つために、温度を約15℃上昇させなければならなかった。しかし、このことにより、ラフィネート収率が低減する結果となった(0.6重量%)。
【0053】
6〜12容積部から1容積部の新鮮な供給原料へラフィネートの再循環を増加させたことを除き、同一の条件で、新鮮な触媒を用いてテストを繰り返した。反応器入口の温度を300℃で制御した。反応器出口の温度は315℃であったが、相当な圧力変動に伴って、該温度も相当に変動した。異常に高い断面負荷によって、明らかにフラッジングおよび不安定な操作がもたらされ、その結果、テストを中止しなければならなかった。安定な操作を達成するためには、相当大きい反応器が必要だったのであろう。
【0054】
(比較例3)
植物油のための公知の技術に従って、パーム油(表1に特徴付けられている)を、5個の触媒床を有する反応器内で、0.3のLHSV、50barg、かつ新鮮な供給原料体積(リットル)あたりH900リットルで水素化処理した。5個の触媒床は、1:1.5:2:2.5:3の比で市販のNiMo触媒を含有していた。
【0055】
得られた液体生成物を、6容積部の再循環対1容積部の新鮮な供給原料の比が確立されるまで反応器入口に再循環させた。両方の成分を、反応器への導入前に、280℃迄段階的に加熱した。反応器出口の温度は330℃であった。120時間の後のテスト期間の間の平均収率は表2に要約されている。化学的H消費は、新鮮な供給原料をベースとして2.31重量%を測定した。
【0056】
(実施例4)
実施例2および3におけるのと同じパーム油を、新鮮な供給原料をベースとして0.3のLHSV、50bargおよび新鮮な供給原料体積(リットル)あたりH900リットルで、5個の触媒床(図1の(3)〜(7))を有する断熱反応器内で用いた。5個の触媒床は、実施例2および3におけるのと同一の市販のNiMo触媒を、1:1.5:2:3:4.5の比で含有していた。
【0057】
図1に示されているように、流動点より高い60℃で保存されたパーム油は、更なる加熱もなく、5個の分流F、F、F3、F4、およびFに分けられ、新鮮な供給原料1リットル当たり900リットルの割合で水素の分流H、H、H3、H4、およびHと混合した。水素分流は、50℃、反応器の圧力をわずかに超える圧力で提供された。分流Fを水素の分流Hと混合した後、反応器入口の温度並びに第一触媒床の平均温度を制御するために、特定の小部分を希釈剤として加えた。反応器入口の温度は主に、特定の小部分の温度を調節することによって制御され、第一触媒床の平均温度は主に、特定の小部分の量によって制御された。
【0058】
特定の小部分の温度は315℃であり、新鮮な供給原料および水素の混合分流(F+H)に、新鮮な供給原料の重量をベースとして2.2の過剰量で加えられた。反応器入口の温度は210℃であり、第一触媒床の平均温度は245℃であった。
【0059】
希釈剤として用いられる特定の小部分を、ライン(11)を通して反応器を出る生成物混合物から、ほぼ反応器出口温度(高温分離器(8))および45℃(低温分離器(9))の二工程分離および続く、脱ガス容器(12)での45℃で得られた凝縮物の5bargへの膨張によって得た。
【0060】
冷たい新鮮な供給原料/H混合分流F2+H2、F3+H3、F4+H4、およびF5+H5の、それぞれの続く触媒床への量を制御することによって、再度、210℃の同じ入口温度が、各床について調節された。結局、全ての新鮮な供給原料の分流の分割は、およそ以下の通りであった:F 8.5%、F 12%、F3 17.5%、F4 25%、およびF 37%。
【0061】
この反応器操作によって5個の触媒床全ての平均温度が245±1℃で調節可能となり、その結果全ての床において水素化条件がほぼ同じとなったことは、驚くべきことであった。また、このことは、異なる飽和度のために相当異なる反応熱を放出する、異なる組成の他の新鮮な供給原料を用いた場合でも達成された。成分の特性を変えることによって、全ての触媒床において同じ温度を調節することが可能であろう。
【0062】
1000時間超のテスト期間の間、活性または収率の喪失の兆候はなかった。平均収率構成を表2に要約する。
【0063】
(実施例5)
実施例2、3および4におけるのと同じパーム油を、新鮮な供給原料をベースとして1.0のLHSV、50bargおよび新鮮な供給原料の体積(リットル)当たりH900リットルで、3個の触媒床を有する断熱反応器において用いた。3個の触媒床は、実施例2、3および4と同じ市販のNiMo触媒を、1:1.3:1.6の比で含有していた。
【0064】
触媒床の数が少ないことを除き、方法は実施例4と同じ方法で行った。特定の小部分の温度は288℃であり、これを、新鮮な供給原料および水素の混合分流(F+H)に、新鮮な供給原料の重量をベースとして3.7の過剰量で加えた。反応器入口の温度は230℃であり、3個の触媒床全ての出口の温度は、275℃でほぼ一定であった。120時間のテスト期間の間の平均収率を表2に要約する。化学的H消費は、新鮮な供給原料をベースとして3.18重量%を測定した。
【0065】
【表2】

【0066】
上記テスト結果は、本発明による方法ではプラントに過剰の負荷をかけることなく非常に経済的な方法で安定した操作が可能であり、最大限の収率で植物油を水素化しかつ望ましくないCOおよびCO2への副反応を抑制することが可能であることを示している。
【0067】
希釈剤または反応制御剤として機能する特定の小部分を比較的少量用いてこの結果が達成されたことは、特に驚くべきことである。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明を実施するのに適切な方法スキームを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化触媒を含むいくつかの触媒床を有する固定床反応器システムにおいて、植物油のようなトリグリセリドを含有する原材料を連続的に水素化する方法であって、該床は、直列に配列され、原材料供給原料、水素含有ガス、および希釈剤が一緒に、水素化条件で反応器システムの触媒床に通過させられ、
a)原材料供給原料流れが、反応器システム内で80℃未満の温度で触媒床の数nと等しい多くの異なる分流F〜Fに分けられ、水素含有ガス流れもまた、110℃未満の温度で同じ数の異なる分流H〜Hに分けられ、その後、原材料供給原料の分流Fおよび水素含有ガスの分流Hは、第一触媒床に送られ、原材料供給原料の分流Fおよび水素含有ガスの分流Hは、第二触媒床に送られ、以下、同様に送られ、nが2超である場合、下流方向に流れる原材料供給原料の各分流は、先行する流れよりはるかに大きいものであり、希釈剤対原材料供給原料の重量比が、すべての触媒床の入口において本質的に同じでありかつ4:1を超えず、各触媒床中に形成された水素化生成物を含む希釈剤並びに追加希釈剤という用語は以下b)に定義され、
b)反応器入口における第一触媒床の温度(始動期間後)が追加希釈剤で調整され、該希釈剤は本方法によって得られる水素化生成物の特定の小部分であり、該希釈剤は、制御された圧力の低減を伴わない、145〜280℃および15〜60℃での2つの工程における分離によって、反応器出口の生成物混合物から回収され、
c)希釈剤は、反応器入口に入りかつ第一触媒床を通過する、原材料供給原料流Fと水素含有ガス流Hにのみ添加され、かつ、
d)理論的水素消費量を超える水素が用いられる
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
原材料供給原料の各分流は、対応する水素含有ガスの分流と混合されて、混合分流(F+H、F+H、等)を形成した後に、反応器システムに入る、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
下流方向に流れるそれぞれの水素含有ガスの分流は、それらが混合される対応原材料供給原料分流と実質的に同一倍、先行の流れより多い、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
水素過剰は、少なくとも50%、好ましくは75〜400%、更により好ましくは100〜300%である、請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
追加希釈剤対全原材料供給原料の重量比は、1未満、好ましくは0.5未満である、請求項1〜4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
供給原料分流および対応する水素含有ガス分流はすべて、ガスの標準立方メートル対原材料供給原料の立方メートルの同じ比で混合される、請求項1〜5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
第二触媒床および存在する場合次の触媒床への分流または混合分流の量は、全ての触媒床の入口における温度を、反応器入口における第一触媒床と本質的に同一の温度に調節するように制御される、請求項1〜6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
反応器システムは、3個超、好ましくは4個超、特に5個超の触媒床を含むが、20個未満、好ましくは15個未満、特に10個未満の触媒床を含む、請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
水素化触媒は、周期律表の第6、8、9、および10族の1種以上の硫化元素、好ましくはニッケル、モリブデン、タングステン、および/またはコバルトから選択される、請求項1〜8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
水素化は、1〜8MPaの範囲の水素分圧で行われる、請求項1〜9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
水素化は、145〜280℃の範囲の温度で行われる、請求項1〜10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
原材料供給原料のLHSVは、0.1〜1m/m(触媒)/時である、請求項1〜11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
液体材料の線速度は、各床において1〜6mm/秒である、請求項1〜12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
反応器入口における追加希釈剤対原材料供給原料の重量比は、4:1以下であり、新鮮な原材料供給原料の各分流並びに水素含有ガスの各分流は、1.25倍以上、前の分流より大きい、請求項1〜13のいずれか1つに記載の方法。
【請求項15】
トリグリセリドを含有する原材料は、鉱物油と一緒に処理される、請求項1〜14のいずれか1つに記載の方法。
【請求項16】
水素化生成物の一部は、反応器入口で入りかつ第一触媒床を通過する原材料供給原料Fおよび水素含有ガスHの流れへの追加のために再循環させられず、更に処理されて、品質向上したケロシンまたはディーゼル燃料が得られる、請求項1〜15のいずれか1つに記載の方法。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2012−519744(P2012−519744A)
【公表日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−552536(P2011−552536)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【国際出願番号】PCT/IB2010/000694
【国際公開番号】WO2010/100565
【国際公開日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(591007826)イエフペ エネルジ ヌヴェル (261)
【氏名又は名称原語表記】IFP ENERGIES NOUVELLES
【Fターム(参考)】