説明

トリグリセリド組成物

【課題】起泡性、保型性、離水耐性、オイルオフ耐性、作業性等に優れ、かつ口溶け等の食感、風味に優れたトリグリセリド組成物の提供。
【解決手段】次の油脂(A)、(B)及び(C):(A)構成脂肪酸の30重量%以上がラウリン酸である油脂、(B)構成脂肪酸の70重量%以上が炭素数が18の不飽和脂肪酸である油脂、(C)構成脂肪酸の30重量%以上がベヘン酸である油脂、の三成分を混合し、エステル交換反応を行うことにより製造されるトリグリセリド組成物、当該トリグリセリド組成物は、次のトリグリセリドX、Y及びZ:X:炭素数が20以上の飽和脂肪酸と炭素数が18の不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とし、Y:炭素数が20以上の飽和脂肪酸と炭素数が8〜12の飽和脂肪酸を構成脂肪酸とし、Z:炭素数が8〜12の飽和脂肪酸と炭素数が18の不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菓子、ケーキ、デザート、パン等のトッピング用、フィリング用、サンド用として利用されるトリグリセリド組成物、これを用いた起泡性ショートニング、起泡性水中油型(O/W型)乳化物、起泡性油中水型(W/O型)乳化物、及び起泡性油中水中油型乳化物(O/W/O型)、とそれを起泡させたホイップクリームに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より水中油型乳化油脂組成物は、外相が水相であるために口溶けが良好でサッパリとした水性感を伴う独特の食感とコク味が後から発現する独特の風味を有し、可塑性が油脂の硬さに影響されず、べとつかず展延性が良好である点が特徴として知られており、洋菓子・パン用のホイップクリーム等に用いられている。
【0003】
このような起泡性水中油型乳化物は、以下のような特性が備えられていることが望ましい。
(1)起泡性水中油型乳化物の保存中、輸送中、又は使用中、通常の外部環境変化によって増粘や固化が生じないこと(高い乳化安定性を有している)。
(2)起泡させてホイップクリームとして用いる場合、最適ホイップ状態に達するまでの時間が一定で、ホイップ終点に適度な幅があり、オーバーラン(起泡性)が一定している。また、所謂「造花」が容易に行えるように造形性に優れていること(ホイップ特性に優れている)。
(3)ケーキ、パン等に起泡させたホイップクリームをフィリング、トッピング、サンドした場合、クリームの組織が保持できるように優れた保型性を有し、時間を経過しても離水を起こさないこと(高い離水耐性)、そして表面の滑らかさ、光沢が維持されていること(外観がよい)。
(4)口溶けが良く、くせがなく、風味、食感が良好であり、ショーケース(5〜12℃)などに保存しても経時的な変化が少ないこと(保存性が良い)。
【0004】
上記のような優れた特性を持つ高品質のクリームを得るために、従来から製造プロセスや原料配合について種々検討されてきた。例えば、原料配合の検討については、各種乳化剤の選定(特許文献1、特許文献2)、天然又は合成糊料の配合、乳蛋白質の変性又は改質等が行われている。
しかしながら、添加物を多用すると、乳化物として最も基本的な特性である風味、食感を著しく低下させ、実用上その使用は制限せざるを得ない。また、水中油型乳化物中の油脂そのものに関して、特定の混酸基トリグリセリドを用いた検討(特許文献3)が行われているが、高融点部等の溶剤分別により所定の油脂調製を行う手法しか開示されてなく、製造コストも高くまた、起泡性能も十分ではなかった。
【0005】
一方、ショートニング、油中水型乳化物及び油中水中油型乳化物は、外相が油脂であるため、微生物が繁殖しにくく、その起泡物については保型性に優れ、日持ちがするといった特徴を有することが知られており、クリーム用、スプレッド用、サンド用、調理用、製菓・製パン用等に広く用いられている。しかし、これらの油脂組成物は外相が油脂であるため、口溶けが悪いと言った欠点を有しており、この欠点を改良しようとすると、外相の油脂を柔らかいものにせねばならず、保型性が悪化し、オイルオフを発生しやすい。
【0006】
このような外相が油脂であるショートニング、油中水型乳化物及び油中水中油型乳化物の欠点を改良する方法として、特定の混酸基を有するトリグリセリドを用いた検討(特許文献4)、や特定の固体脂含量(SFC)の油脂を用いた検討(特許文献5)が行われているが、高融点部等の分別により所定の油脂を調製する方法しか開示されておらず、製造コストも高くまた、口溶け等の食感と保型性の両立の点で十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63−267250号
【特許文献2】特開平3−62387号
【特許文献3】特許第3112551号
【特許文献4】特許第2048916号
【特許文献5】特開平4−325054号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ホイップクリームに要求される起泡性、保型性、離水耐性、オイルオフ耐性、作業性等に優れ、かつ口溶け等の食感、風味に優れたトリグリセリド組成物、ショートニング、起泡性水中油型乳化物、起泡性油中水型乳化物及び起泡性油中水中油型乳化物、及びそれらを起泡させたホイップクリームを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、トリグリセリドの構成脂肪酸が特定の長鎖脂肪酸である混酸基トリグリセリド、特定の中鎖脂肪酸である混酸基トリグリセリド及び鎖長差が広く飽和脂肪酸のみからなるトリグリセリドを、それぞれ特定量含有するトリグリセリド組成物を油相に有するショートニング及び種の形態の乳化物が、起泡性に優れ、ホイップクリームに要求される諸物性を有し、食感、風味等が優れ、更に経時安定性が良好であることを見出した。
【0010】
本発明は、次のトリグリセリドX、Y及びZ:
X:炭素数が20以上の飽和脂肪酸と炭素数が18の不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とし、かつ、構成脂肪酸の炭素数の合計が50以上のトリグリセリド、
Y:炭素数が20以上の飽和脂肪酸と炭素数が8〜12の飽和脂肪酸を構成脂肪酸とし、かつ、構成脂肪酸のすべてが飽和脂肪酸のトリグリセリド、
Z:炭素数が8〜12の飽和脂肪酸と炭素数が18の不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とし、かつ、構成脂肪酸の炭素数の合計が50未満のトリグリセリド
を合計量で30〜80重量%含有し、かつX、Y、Zの三成分の含有重量比率が図1に示す点a(X=80、Y=20、Z=0)、点b(X=75、Y=25、Z=0)、点c(X=20、Y=25、Z=55)、点d(X=42、Y=3、Z=55)及び点e(X=80、Y=3、Z=17)の各点で囲まれる範囲内であるトリグリセリド組成物を提供するものである。
また本発明は、上記トリグリセリド組成物を含有するショートニングを提供するものである。
また本発明は、上記トリグリセリド組成物を含有する起泡性油中水型乳化物又は起泡性油中水中油型乳化物を提供するものである。
また本発明は、上記トリグリセリド組成物、乳化剤及び乳蛋白質を含有する起泡性水中油型乳化物を提供するものである。
更に本発明はこれらの乳化物を起泡させたホイップクリームを提供するものである。
更にまた本発明は、次の油脂(A)、(B)及び(C):
(A)構成脂肪酸の30重量%以上がラウリン酸である油脂、
(B)構成脂肪酸の70重量%以上が炭素数が18の不飽和脂肪酸である油脂、
(C)構成脂肪酸の30重量%以上がベヘン酸である油脂
の三成分を、図2の点α、β、γ、δ及びεの各点で囲まれる範囲内の重量比率で混合し、エステル交換する前記トリグリセリド組成物の製造方法を提供するものである。
なお、本発明においてホイップクリームには、通常の水中油型のホイップクリーム、ショートニング、並びに油中水型及び油中水中油型のバタークリームのいずれも含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】トリグリセリドX、Y及びZの含有重量比率の範囲を示す図である。
【図2】油脂(A)、(B)及び(C)の混合重量比率の範囲を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のトリグリセリド組成物は、次の3種のトリグリセリドX、Y及びZを含有する。
トリグリセリドXは、炭素数が20以上の飽和脂肪酸と炭素数が18の不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とし、かつ、構成脂肪酸の炭素数の合計が50以上のトリグリセリドである。ここで炭素数が20以上の飽和脂肪酸としては、アラキン酸又はベヘン酸が好ましく、ベヘン酸がより好ましい。炭素数18の不飽和脂肪酸は、オレイン酸、リノール酸又はリノレン酸が好ましく、オレイン酸又はリノール酸がより好ましい。トリグリセリドXの最も典型的なものは、グリセリンモノベヘニルジオレエート、グリセリンモノベヘニルジリノレート、グリセリンモノベヘニルモノオレオイルモノリノレート、グリセリンジベヘニルモノリノレート、グリセリンジベヘニルモノオレエート、グリセリンモノベヘニルモノラウリルモノオレエート、グリセリンモノベヘニルモノラウリルモノリノレート、グリセリンモノベヘニルモノオレイルモノステアレートである。また、不飽和脂肪酸の結合位置はグリセリンのα位、β位のいずれでも良く、混合物でも良い。
【0013】
トリグリセリドYは、炭素数が20以上の飽和脂肪酸と炭素数が8〜12の飽和脂肪酸を構成脂肪酸とし、かつ、構成脂肪酸のすべてが飽和脂肪酸のトリグリセリドである。ここで炭素数が20以上の飽和脂肪酸としては、アラキン酸又はベヘン酸が好ましく、ベヘン酸がより好ましい。炭素数が8〜12の飽和脂肪酸としては、カプリン酸、ラウリン酸が好ましく、ラウリン酸がより好ましい。トリグリセリドYの最も典型的なものは、グリセリンモノベヘニルジラウレート、グリセリンモノベヘニルモノステアリルモノラウレート、グリセリンジベヘニルモノラウレートである。
【0014】
トリグリセリドZは、炭素数が8〜12の飽和脂肪酸と炭素数が18の不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とし、かつ、構成脂肪酸の炭素数の合計が50未満のトリグリセリドである。ここで炭素数が8〜12の飽和脂肪酸としては、カプリン酸、ラウリン酸が好ましく、ラウリン酸がより好ましい。炭素数18の不飽和脂肪酸は、オレイン酸、リノール酸又はリノレン酸が好ましく、オレイン酸又はリノール酸がより好ましい。トリグリセリドZの最も典型的なものは、グリセリンモノラウリルジオレエート、グリセリンモノラウリルジリノレート、グリセリンモノラウリルモノオレイルモノリノレート、グリセリンジラウリルモノリノレート、グリセリンジラウリルモノオレエート、グリセリンモノラウリルモノオレイルステアレートである。また、不飽和脂肪酸の結合位置はグリセリンのα位、β位のいずれでも良く、混合物でも良い。
【0015】
トリグリセリド組成物中のトリグリセリドX、Y、Zの含有重量比率は、図1に示すX、Y、Z三成分の三角図において、点a(X=80、Y=20、Z=0)、点b(X=75、Y=25、Z=0)、点c(X=20、Y=25、Z=55)、点d(X=42、Y=3、Z=55)、及び点e(X=80、Y=3、Z=17)で囲まれる範囲内である。トリグリセリドX、Y、Zの含有重量比率が、上記点a、b、c、d及びeで囲まれる範囲外の組成物を用いた場合には、起泡性、食感、経時安定性等の良好な乳化物が得られない。当該トリグリセリドX、Y、Zの含有重量比率は、起泡特性の観点から、好ましくは、図1の三角図において、点a(X=80、Y=10、Z=10)、点b(X=70、Y=10、Z=20)、点c(X=25、Y=20、Z=55)、点d(X=40、Y=5、Z=55)、点e(X=80、Y=5、Z=15)で囲まれる範囲内である。
更に好ましくは、図1の三角図において、点a(X=80、Y=10、Z=10)、点b(X=75、Y=15、Z=10)、点c(X=30、Y=15、Z=55)、点d(X=40、Y=5、Z=55)、及び点e(X=80、Y=5、Z=15)で囲まれる範囲内である。
【0016】
トリグリセリド組成物は、グリセリドX、Y、Zを合計量で30〜80重量%(以下、単に%と記載する)を含有する。当該含有量が30%未満の場合には、食感と経時安定性の両方が良好な乳化物やショートニングが得られず、80重量%を超えると、工業的生産が困難である。起泡性の点から、このトリグリセリドX、Y、Zの合計含有量は、トリグリセリド組成物中40〜70%、特に40〜60%が好ましい。
トリグリセリドX、Y及びZそれぞれの含有量は、保型性もよく、またオイルオフも発生しない点で、トリグリセリドXは油相中に3%以上、好ましくは3〜25%、より好ましくは4〜20%、特に好ましくは5〜18%含有される。トリグリセリドYは、油相中に0.3%以上、好ましくは0.3〜3.0%、より好ましくは0.4〜2.5%、特に好ましくは0.6〜2.0%含有される。トリグリセリドZは油相中に1%以上、好ましくは1〜20%、より好ましくは1.5〜15%、特に好ましくは2〜10%含有される。
【0017】
これらの特定のトリグリセリドを含有するトリグリセリド組成物は、NMR測定法による固体脂含量(SFC)が30℃において20以下であるのが好ましく、口溶け性と保型性の両立の点で更に好ましくは2〜15、特に好ましくは3〜10である。
【0018】
本発明のトリグリセリドX、Y、Zを特定比率で含有するトリグセリド組成物の製造方法としては、酸、アルカリ触媒又は酵素を利用するエステル交換法、エステル化法等があり、例えば、3種以上の油脂を原料とするエステル交換反応や3種以上の脂肪酸及びグリセリンを原料とするエステル化反応等が挙げられるが、製造の簡便性の点でエステル交換反応による製造方法が好ましい。エステル交換方法としては、アルカリ触媒を用いて脂肪酸のランダム再配置を行う方法や、リパーゼ等の酵素触媒を用いてα位を選択的にエステル交換する方法が利用できる。アルカリ触媒としては、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート等が挙げられる。アルカリ触媒を原料油脂100重量部に対して0.01〜1.0重量部添加することでエステル交換できる。また、酵素触媒としては、糸状菌、酵母及び細菌由来のリパーゼが挙げられる。
上記の方法で得られたエステル交換油は、口溶け性に悪影響を与えると考えられる構成脂肪酸の炭素数の合計が60以上の三飽和トリグリセリド(高融点部)の存在比率が小さくなるため、これら高融点部を、例えばヘキサン等溶媒を用いた晶析ろ過等による分別除去をしなくても良い。得られたエステル交換油は、蒸留による脱臭を行った後、本発明のトリグリセリド組成物に利用するのが好ましい。
【0019】
本発明のトリグリセリドX、Y、Zを特定比率で含有するトリグリセリド組成物は、次の油脂(A)、(B)及び(C):
(A)構成脂肪酸の30%以上がラウリン酸である油脂、
(B)構成脂肪酸の70%以上が炭素数が18の不飽和脂肪酸である油脂、
(C)構成脂肪酸の30%以上がベヘン酸である油脂
の三成分を、図2に示す点α(A=35、B=25、C=40)、点β(A=35、B=50、C=15)、点γ(A=15、B=70、C=15)、点δ(A=5、B=70、C=25)及び点ε(A=5、B=55、C=40)の各点で囲まれる範囲内の重量比率で混合し、エステル交換反応を行うことにより製造するのが好ましい。ここで、油脂(A)は、構成脂肪酸の30%以上がラウリン酸である油脂であり、例えば、ヤシ油、パーム核油、これらの混合物又はそれらの硬化油が挙げられる。油脂(B)は、構成脂肪酸の70%以上が炭素数が18の不飽和脂肪酸である液体油脂であり、例えば、大豆油、オリーブ油、サフラワー油、コーン油、綿実油、ナタネ油(カノーラ油)、落花生油、ひまわり油又はこれらの混合油が挙げられる。油脂(C)は、構成脂肪酸の30%以上がベヘン酸である油脂であり、例えば、ベヘン酸トリグリセリド、極度硬化ハイエルシンナタネ油又はこれらの混合物が挙げられる。
【0020】
油脂(A)、(B)及び(C)の混合重量比率は、起泡特性の観点から、図2に示す三成分の三角図において、点α(A=35、B=25、C=40)、点β(A=35、B=50、C=15)、点γ(A=15、B=70、C=15)、点δ(A=5、B=70、C=25)、点ε(A=5、B=55、C=40)で囲まれる範囲内が好ましく、更に点α(A=30、B=35、C=35)、点β(A=30、B=50、C=20)、点γ(A=20、B=60、C=20)、点δ(A=10、B=60、C=30)、及び点ε(A=10、B=55、C=35)で囲まれる範囲内が好ましい。
【0021】
かくして得られるトリグリセリド組成物を油相成分の全部又は一部として使用することにより、ショートニング、起泡性水中油型乳化物、起泡性油中水型乳化物、起泡性油中水中油型乳化物及びホイップクリーム等を調製することができる。
【0022】
これらのショートニング、各種乳化物及びホイップクリームにおける、前記トリグリセリド組成物以外の油相成分としては、食用油脂の他、安定剤、呈味剤等の添加剤等が挙げられる。ここで用いられる食用油脂としては、例えばパーム油、菜種油、大豆油、コーン油、綿実油、サフラワー油、オリーブ油、ヤシ油、パーム核油等の植物油脂;乳脂、ラード、牛脂、魚油等の動物油脂;これら動植物油脂の硬化油;エステル交換油;ジグリセリド類;及びこれらの2種以上の混合油が挙げられる。ここでジグリセリド類としては、上記食用油脂から選ばれた1種又は2種以上の油脂とグリセリンの混合物をエステル交換反応するか、又は上記食用油脂由来の脂肪酸組成物とグリセリンをエステル化反応した後、得られたグリセリド混合物中に形成された過剰のモノグリセリドを、分子蒸留法又はクロマトグラム法によって除去することにより得られるジグリセリド等が挙げられる。
【0023】
本発明ショートニング、各種乳化物及びホイップクリームの油相中の前記トリグリセリド組成物の含有量は、3〜80%が好ましく、起泡性の点から更に3〜70%、特に5〜60%が好ましい。このうち、ショートニング、起泡性油中水型乳化物及び起泡性油中水中油型乳化物の場合は、油相中の前記トリグリセリド組成物の含有量は、起泡性の点から3〜50%、更に3〜40%、特に5〜30%が好ましい。また、起泡性水中油型乳化物の場合は、油相中の前記トリグリセリド組成物の含有量は、起泡性の点から10〜80%、更に10〜70%、特に10〜60%が好ましい。
【0024】
本発明のショートニングは必要に応じて乳化剤を使用することができ、当該ショートニングはケーキ、パン、菓子等のトッピング、フィリング、サンド用に好適である。また、本発明の起泡性油中水型乳化物及び起泡性油中水中油型乳化物は必要に応じて乳化剤を使用することができ、当該乳化物はケーキ、パン、菓子等のトッピング、フィリング、サンド用に好適である。
【0025】
ここで用いられる乳化剤としては食品用の乳化剤であればよく、例えば、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセロール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等を挙げることができる。これらの中から、親油性の乳化剤と親水性乳化剤とを組み合わせて使用してもよい。特に、レシチン、モノグリセリド及びショ糖脂肪酸エステルを併用することが好ましい。これらの乳化剤はその1種又は2種以上の合計含有量が、ショートニング又は前記乳化物中に0.1〜2.5%の範囲で使用されることが好ましい。
【0026】
起泡性水中油型乳化物の水相成分には、一般に水、乳蛋白質及び必要により糖類を含有する。乳蛋白質としては、例えば、牛乳、濃縮乳、脱脂乳、脱脂粉乳、ホエーパウダー等を供給源とし、乳蛋白質固形分として、全乳化物中に0.5〜10%、特に2〜9%含有するのが好ましい。また、糖類の例としては、ショ糖、ブドウ糖、果糖、液糖、麦芽糖、水あめ等挙げられ、全乳化物中に5〜25%、特に5〜20%含有するのが好ましい。なお、通常、前記乳化物の調製においては、乳蛋白質を含む水性液が使用され、糖類は、この乳化物を起泡(ホイップ)する際に他の添加剤等と一緒に添加される場合が多い。しかし、前記乳化物に乳蛋白質とともに糖類を含ませてもよい。
【0027】
起泡性水中油型乳化物の場合には、油相と水相は重量比で20:80〜50:50、特に25:75〜40:60が好ましい。また起泡性油中水型乳化物又は起泡性油中水中油型乳化物の場合には、油相と水相は重量比で98:2〜60:40、特に95:5〜70:30が好ましい。
【0028】
なお、本発明の乳化物には、安定剤、呈味剤等の公知の添加剤が含まれていてもよい。これらを添加する場合には、親油性の添加物は油性液中に、また親水性の添加物は水性液中にそれぞれ添加される。
【0029】
本発明の起泡性水中油型乳化物は、従来公知の方法で製造することができる。例えば、グリセリド組成物と、乳蛋白質を含む水性液、及び糖類及び乳蛋白質を含む水性液とを混合乳化(予備乳化工程)した後、以下通常の工程(均質化、殺菌、冷却、エージング)を経て調製される。調製工程条件は、例えば予備乳化は、約60〜70℃にて約15分間行われ、均質化は、ホモジナイザーを用いて、通常、106〜107Paの圧力下で行われる。均質化は、殺菌終了後に再度行っても良い(再均質化)。殺菌処理後、5〜10℃まで急冷却し、更に15時間以上エージングして、本発明の乳化物を得ることができる。このようにして得た本発明の乳化物は、比較的粘度が低く(10〜300mPa・s:10℃)、外部環境の変化に対応した高い乳化安定性を有している。
【0030】
本発明のショートニングは従来公知の方法で製造することができる。例えば、グリセリド組成物とその他油脂類及び乳化剤を40〜80℃下で添加、混合後、ボーテータあるいはコンビネーター等を使用して冷却混練して調製する方法が挙げられる。
本発明の油中水型乳化物は従来公知の方法で製造することができる。例えば、グリセリド組成物とその他油脂類及び乳化剤を40〜80℃下で添加混合して調製した油相と水相とをパドルあるいはホモミキサー等にて撹拌乳化後、ボーテータあるいはコンビネーター等を使用して冷却混練して調製する方法が挙げられる。
本発明の油中水中油型乳化物は従来公知の方法で製造することができる。例えば、グリセリド組成物とその他油脂類及び乳化剤を40〜80℃下で添加混合して調製した油相と常法により調製した水中油型乳化物とをパドル等にて撹拌乳化後、ボーテータあるいはコンビネーター等を使用して冷却混練して調製する方法が挙げられる。
【0031】
本発明の水中油型乳化物は、これを乾燥させることによって得た粉末(粒状物、あるいは粉状物、粉末のクリーム)であってもよい。粉末化する方法は、スプレードライ法、真空乾燥法、粉砕等を組み合わせてもよい。
【0032】
本発明のホイップクリームは、上記乳化物を低温で熟成した後、ミキサー等を用いて起泡(ホイップ)させることにより調製することができる。なお、ホイップ時に、所望により呈味剤等を加えても良く、また、粉末を用いてホイップクリームを作るには、通常、糖類水溶液に該粉末を加え、上記と同様な方法で行えばよい。
【0033】
本発明のホイップクリームは、トッピング用、フィリング用、サンド用等として、製菓、製パン等の分野において利用できる。
【実施例】
【0034】
実施例1
(1)トリグリセリド組成物(TG)の調製:
TG1の調製
ヤシ油(脂肪酸組成;カプリル酸7%、カプリン酸6%、ラウリン酸47.7%、ミリスチン酸18.3%、パルミチン酸9.3%、ステアリン酸2.7%、オレイン酸7.1%、リノール酸1.7%)15%、ナタネ油(脂肪酸組成;パルミチン酸3.6%、ステアリン酸1.7%、オレイン酸59.1%、リノール酸21.9%、リノレン酸12.7%、アラキン酸0.5%、ベヘン酸0.4%)55%、極度硬化したハイエルシンナタネ油(脂肪酸組成;パルミチン酸3.8%、ステアリン酸40.2%、アラキン酸8.8%、ベヘン酸46.7%)30%の混合油を、該混合油100重量部に対して0.1重量部のナトリウムメチラートを触媒とし、80℃で30分間反応を行い、エステル交換油を得た。得られたエステル交換油は、常法により脱臭してTG1を得た。
【0035】
TG2の調製
硬化ヤシ油(脂肪酸組成;カプリル酸7.5%、カプリン酸6.2%、ラウリン酸47.7%、ミリスチン酸17.7%、パルミチン酸9.0%、ステアリン酸11.4%)20%、ナタネ油(TG1の調製と同一物)45%、極度硬化したハイエルシンナタネ油(TG1の調製と同一物)35%の混合油を、該混合油100重量部に対して0.1重量部のナトリウムメチラートを触媒とし、80℃で30分間反応を行い、エステル交換油を得た。得られたエステル交換油は、常法により脱臭してTG2を得た。
【0036】
TG3の調製
硬化ヤシ油(TG2の調製と同一物)20%、ナタネ油(TG1の調製と同一物)60%、極度硬化したハイエルシンナタネ油(TG1の調製と同一物)20%の混合油を、該混合油100重量部に対して0.1重量部のナトリウムメチラートを触媒とし、80℃で30分間反応を行い、エステル交換油を得た。得られたエステル交換油は、常法により脱臭してTG3を得た。
【0037】
TG4の調製
硬化ヤシ油(TG2の調製と同一物)10%、ナタネ油(TG1の調製と同一物)55%、極度硬化したハイエルシンナタネ油(TG1の調製と同一物)35%の混合油を、該混合油100重量部に対して0.1重量部のナトリウムメチラートを触媒とし、80℃で30分間反応を行い、エステル交換油を得た。得られたエステル交換油は、常法により脱臭してTG4を得た。
【0038】
TG5の調製
パーム核油(脂肪酸組成;カプリル酸4%、カプリン酸4%、ラウリン酸47.9%、ミリスチン酸15.8%、パルミチン酸8.4%、ステアリン酸2.3%、オレイン酸14.7%、リノール酸2.5%)30%、サフラワー油(脂肪酸組成;ミリスチン酸0.2%、パルミチン酸6.9%、ステアリン酸2.7%、オレイン酸13%、リノール酸76%、リノレン酸0.5%)50%、極度硬化したハイエルシンナタネ油(TG1の調製と同一物)20%の混合油を、該混合油100重量部に対して0.1重量部のナトリウムメチラートを触媒とし、80℃で30分間反応を行い、エステル交換油を得た。得られたエステル交換油は、常法により脱臭してTG5を得た。
【0039】
TG6の調製(比較品)
サフラワー油(TG5の調製と同一物)50%、極度硬化したハイエルシンナタネ油(TG1の調製と同一物)50%の混合油を、該混合油100重量部に対して0.1重量部のナトリウムメチラートを触媒とし、80℃で30分間反応を行い、エステル交換油を得た。得られたエステル交換油は、常法により脱臭してTG6を得た。
【0040】
TG7の調製(比較品)
サフラワー油(TG5の調製と同一物)50%、極度硬化したハイエルシンナタネ油(TG1の調製と同一物)50%の混合油を、該混合油100重量部に対して0.1重量部のナトリウムメチラートを触媒とし、80℃で30分間反応を行い、エステル交換油を得た。このエステル交換油を1g当たり4mLのn−ヘキサンに溶解し、ゆっくり撹拌しながら40℃から25℃まで冷却して析出した三飽和トリグリセリドを主体とした高融点部(収率:エステル交換油21.8%)を濾別した。得られた濾液から常法により溶剤留去した後、残留部を1g当たり5mLのアセトンに溶解し、ゆっくり撹拌しながら30℃から6℃まで冷却して析出した目的とする画分を採取した。この画分は、溶剤を留去した後、常法により脱臭してTG7を得た。
【0041】
TG8の調製(比較品)
オリーブ油(脂肪酸組成;パルミチン酸10.6%、ステアリン酸3.2%、オレイン酸81.2%、リノール酸5.4%)40%、ベヘン酸(脂肪酸組成;ステアリン酸2.7%、アラキン酸10.1%、ベヘン酸86.1%)40%、及びラウリン酸(脂肪酸組成;カプリン酸0.5%、ラウリン酸98.3%、ミリスチン酸0.9%)20%の混合油を脂肪酸の5倍量(対重量)のヘキサンに溶解した後、仕込み油脂に対して10%のセライトに吸着させたα−位選択的エステル交換能を有するリパーゼ(田辺製薬(株)製リゾプスデレマー属)を仕込み油脂1gに対して520リパーゼ単位添加し、45℃、72時間α−位選択的エステル交換反応を行った。反応液を濾過し、ヘキサン留去した残留分から分子蒸留により脂肪酸を除去した。脂肪酸を除去したα−位選択的エステル交換油を1g当たり4mlのn−ヘキサンに溶解し、ゆっくり撹拌しながら40℃から25℃迄冷却して析出した三飽和トリグリセリドを主体とした高融点部(収率:エステル交換油に対して6%)を濾別した。得られた濾液から常法により溶剤留去した後、残留部を1g当たり5mlのアセトンに溶解し、ゆっくり撹拌しながら30℃から6℃まで冷却して析出した目的とする画分を採取した。この画分は、溶剤を留去した後、常法により脱臭してTG8を得た。
【0042】
TG9の調製
硬化ヤシ油(TG2の調製と同一物)70%、ナタネ油(TG1の調製と同一物)10%、極度硬化したハイエルシンナタネ油(TG1の調製と同一物)20%の混合油を、該混合油100重量部に対して0.1重量部のナトリウムメチラートを触媒とし、80℃で30分間反応を行い、エステル交換油を得た。得られたエステル交換油は、常法により脱臭してTG9を得た。
【0043】
調製したTG1〜TG9のトリグリセリド組成物の脂肪酸組成を表1、またガスクロマトグラフィーによるトリグリセリド組成分析から得られるトリグリセリドX、Y及びZの測定値を表2に示す。なお、表1中、「収率」は、エステル交換油に対する収率を表す。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
(2)油相のベースとして用いる食用油脂の調製
【0047】
ジグリセリド(DG)の調製
ナタネ油75%とグリセリン25%を混合し、水酸化カルシウム0.1%を加えてエステル交換反応を行った後、分子蒸留法にてモノグリセライドをできるだけ除去し、ジグリセリドを得た。得られたジグリセリドは、常法により脱臭してDGを得た。
【0048】
硬化エステル交換油(TG−E)の調製
パーム油(ヨウ素価52)45%とナタネ油(ヨウ素価118)55%の混合油を、該混合油100重量部に対して0.1重量部のナトリウムメチラートを触媒とし、80℃で30分間反応を行いエステル交換油を得た。該エステル交換油100重量部に対してニッケル触媒0.1部とメチオニン0.02部を混合し、ヨウ素価が66減ずるまで硬化を行い、硬化エステル交換油を得た。得られた硬化エステル交換油は、常法により脱臭してTG−Eを得た。
【0049】
実施例2
次の組成の起泡性水中油型乳化物を調製した。なお、予め油相及び水相の予備混合物を調製した。
(油相) %
トリグリセリド組成物(TG1〜TG9) 10
大豆硬化油(融点32℃) 10
ヤシ硬化油(融点32℃) 14
ステアリン酸モノグリセリド 0.1
レシチン 0.3
(水相)
脱脂粉乳 6
ヘキサメタリン酸ナトリウム 0.1
ショ糖脂肪酸エステル(HLB11) 0.1
水 59.4
この予備乳化物を混合撹拌して水中油型の予備乳化物を得た。次いで、この予備乳化物をホモゲナイザーで65℃の温度下、4×106Paの圧力で均質化処理を行った後、UHT滅菌処理(アルファラバル社製VTIS滅菌装置)を行い、70℃にて、2.5×106Paの圧力で再均質化処理をした。均質化処理後の乳化物を8℃に冷却後、無菌充填して起泡性水中油型乳化物を得た。
【0050】
調製した起泡性水中油型乳化物を5℃で72時間熟成後、この水中油型乳化物を縦型ミキサーでホイップし、ホイップクリームを調製した。そして、ホイップ時のホイップ特性(ホイップ時間、オーバーラン)を調べた。また、このホイップクリームを20℃で24時間保存した後、造花性、保型性、離水状態、外観、風味及び食感について官能評価を行った。
【0051】
評価法:
(1)粘度の測定:ビスコテスターを使用
(2)ホイップ時間:20コートの縦型ホイップ機(関東ミキサー)を使用し、回転数700r/minで5kgの水中油型乳化物に対して、外比で9%のグラニュー糖を添加してホイップした時の最適ホイップ状態になるまでの時間(3)オーバーラン(%):次式で示されるホイップによる容積増加割合
【0052】
【数1】

【0053】
(4)20℃、24時間保存後のホイップクリームの官能評価ランク
【0054】
【表3】

【0055】
表4に調製した起泡性水中油型乳化物の油相中のトリグリセリドX、Y及びZの含有量、及び評価結果を示す。
【0056】
【表4】

【0057】
本発明品1〜5は、いずれも粘度が比較的低く、ホイップクリームの保型性、離水状態等いずれも良好で、特に造花性等の作業性に優れ、口溶け、風味も優れていた。
【0058】
実施例3
次の起泡性水中油型乳化物を、実施例1と同じ方法で調製し、評価した。
本発明品6:
(油相) %
トリグリセリド組成物(TG1) 15
バター脂(融点32℃) 15
パーム硬化油(融点37℃) 5
ステアリン酸モノグリセリド 0.1
レシチン 0.8
(水相)
脱脂粉乳 5.5
ヘキサメタリン酸ナトリウム 0.1
ショ糖脂肪酸エステル(HLB11) 0.2
水 58.3
比較例5:
(油相) %
大豆硬化油(融点32℃) 14
ヤシ硬化油(融点32℃) 20
ステアリン酸モノグリセリド 0.1
レシチン 0.3
(水相)
脱脂粉乳 6
ヘキサメタリン酸ナトリウム 0.1
ショ糖脂肪酸エステル(HLB11) 0.1
水 59.4
比較例6:
(油相) %
バター脂(融点32℃) 15
パーム核硬化油(融点34℃) 6
パーム硬化油(融点37℃) 2
大豆硬化油(融点32℃) 12
ステアリン酸モノグリセリド 0.1
レシチン 0.8
(水相)
脱脂粉乳 5.5
ヘキサメタリン酸ナトリウム 0.1
ショ糖脂肪酸エステル(HLB11) 0.2
水 58.3
【0059】
調製した起泡性水中油型乳化物の油相中のトリグリセリドX、Y及びZの含有量及び評価結果を表5に示す。
【0060】
【表5】

【0061】
本発明品6は、保型性、離水状態、外観に優れ造花性も良好で作業性に優れ、更に、口溶け、風味の点でも優れていた。
【0062】
実施例4
次の組成の油相を、常法により混合、急冷、捏和して起泡性ショートニングを調製した。
【0063】
本発明品7、8

トリグリセリド組成物(TG1、TG3) 8
DG 6
TG−E 85.7
ショ糖脂肪酸エステル 0.3
【0064】
比較品7

トリグリセリド組成物(TG6) 8
DG 6
TG−E 85.7
ショ糖脂肪酸エステル 0.3
【0065】
比較品8

DG 6
TG−E 93.7
ショ糖脂肪酸エステル 0.3
【0066】
そして、この起泡性ショートニングを20℃に調整後、下記の配合で5コートのホバートミキサー(HOBART 社製 C-100型)を使用して20℃の環境下で30分間高速でホイップし、バタークリームを調製した。
【0067】

起泡性ショートニング 140
シロップ(21重量%液糖) 180
ホワイトチョコ(融解後30℃保管したもの) 80
【0068】
このバタークリームを20℃、24時間保存した後、比重、オイルオフ率、口溶け、及び風味について評価を行った。
【0069】
評価法:
(1)比重:一定容積(80mL)のバタークリーム重量より算出した値。
(2)オイルオフ率:直径2cm×高さ2cmの円筒にバタークリームを充填したものをろ紙上に置き、25℃の環境下24h静置後のろ紙へのしみ込み量を測定し、充填したバタークリームの重量に対する値。
(3)保型性、口溶け及び風味:10人のパネラーによる下記表3の官能評価ランクに準じ評価し、その合計点。
【0070】
【表6】

【0071】
表7に調製した起泡性ショートニングの油相中のトリグリセリドX、Y及びZの含有量、及び評価結果を示す。
【0072】
【表7】

【0073】
本発明品7及び8は、いずれもクリーム比重が低く、オイルオフ率も小さく、更に保型性、口溶け及び風味も優れていた。
【0074】
実施例5
次の組成の油相及び水相をそれぞれ調製し、それぞれを60℃で混合後、急冷乳化して起泡性油中水型乳化物を調製した。
【0075】
本発明品9、10
(油相) %
トリグリセリド組成物(TG1、TG3) 8
DG 16
パーム硬化油(融点37℃) 60.8
ショ糖脂肪酸エステル 0.1
レシチン 0.1
(水相) %
水 14
カゼインナトリウム 1
【0076】
比較品9
(油相) %
トリグリセリド組成物(TG6) 8
DG 16
パーム硬化油(融点37℃) 60.8
ショ糖脂肪酸エステル 0.1
レシチン 0.1
(水相) %
水 14
カゼインナトリウム 1
【0077】
比較品10
(油相) %
トリグリセリド組成物(TG9) 8
DG 16
パーム硬化油(融点37℃) 60.8
ショ糖脂肪酸エステル 0.1
レシチン 0.1
(水相) %
水 14
カゼインナトリウム 1
【0078】
比較品11
(油相) %
DG 16
パーム硬化油(融点37℃) 68.8
ショ糖脂肪酸エステル 0.1
レシチン 0.1
(水相) %
水 14
カゼインナトリウム 1
【0079】
調製した起泡性油中水型乳化物150gとシロップ(液糖21%)150gで混合し、5コートのホバートミキサー(HOBART 社製 C-100型)を使用し20℃の環境下で20分間高速でホイップし、バタークリームを調製した。
【0080】
このバタークリームを20℃、24時間保存した後、実施例1と同様にして、比重、オイルオフ率、口溶け、及び風味について評価を行った。
【0081】
表8に調製した起泡性ショートニングの油相中のトリグリセリドX、Y及びZの含有量、及び評価結果を示す。
【0082】
【表8】

【0083】
本発明品9及び10は、いずれもクリーム比重が低く、オイルオフ率も小さく、更に保型性、口溶け及び風味も優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明のトリグリセリド組成物は、ホイップクリームにした場合に要求される物性(起泡性、耐離水性、オイルオフ耐性、保型性)に優れ、そして基本的に備えられるべき食感(口溶け)、風味の点においても優れている。従って菓子、ケーキ、パン等のトッピング用、フィリング用、サンド用等に最適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の油脂(A)、(B)及び(C):
(A)構成脂肪酸の30重量%以上がラウリン酸である油脂、
(B)構成脂肪酸の70重量%以上が炭素数が18の不飽和脂肪酸である油脂、
(C)構成脂肪酸の30重量%以上がベヘン酸である油脂
の三成分を、図2上の以下の点:(A=20、B=45、C=35);(A=20、B=60、C=20);(A=10、B=60、C=30);及び(A=10、B=55、C=35)で囲まれる範囲内の重量比率で混合し、エステル交換反応を行うことにより製造されるトリグリセリド組成物、
当該トリグリセリド組成物は、次のトリグリセリドX、Y及びZ:
X:炭素数が20以上の飽和脂肪酸と炭素数が18の不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とし、かつ、構成脂肪酸の炭素数の合計が50以上のトリグリセリド、
Y:炭素数が20以上の飽和脂肪酸と炭素数が8〜12の飽和脂肪酸を構成脂肪酸とし、かつ、構成脂肪酸のすべてが飽和脂肪酸のトリグリセリド、
Z:炭素数が8〜12の飽和脂肪酸と炭素数が18の不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とし、かつ、構成脂肪酸の炭素数の合計が50未満のトリグリセリド
を合計量で30〜80重量%含有し、かつX、Y、Zの三成分の含有重量比率は図1上の以下の点:(X=80、Y=10、Z=10);(X=75、Y=15、Z=10);(X=30、Y=15、Z=55);(X=40、Y=5、Z=55);及び(X=80、Y=5、Z=15)で囲まれる範囲内である。
【請求項2】
請求項1記載のトリグリセリド組成物を含有するショートニング。
【請求項3】
請求項1記載のトリグリセリド組成物を含有する起泡性油中水型乳化物、起泡性油中水中油型乳化物又は起泡性水中油型乳化物。
【請求項4】
請求項1記載のトリグリセリド組成物を含有するホイップクリーム。
【請求項5】
請求項2記載のショートニング、又は請求項3記載の起泡性油中水型乳化物、起泡性油中水中油型乳化物もしくは起泡性水中油型乳化物を起泡させたホイップクリーム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−297033(P2009−297033A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186382(P2009−186382)
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【分割の表示】特願2002−114354(P2002−114354)の分割
【原出願日】平成14年4月17日(2002.4.17)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】