説明

トリコット地とその製造方法

【課題】極めて高い伸長性、特に、経方向だけでなく緯方向への高い伸長性を有するようにする。
【解決手段】弾性繊維からなる編成糸のみを使用してトリコット地を編成する。18ゲージ以上のトリコット編機を用い、糸通し方法は、全通しと、1イン1アウトと、1イン2アウトとのいずれかとする。弾性繊維からなる編成糸のうちの少なくとも1つの編組織は鎖編みである。好ましくは、コース方向(緯方向)の伸長率を400%以上とし、ウェール方向(経方向)の伸長率を150%以上とし、或いはウェール方向(経方向)の伸長率とコース方向(緯方向)の伸長率との和を600%以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィットネスウエア、レオタード、水着、スパッツ、スポーツインナー、レッグウエア、インナーウエア、スポーツウエアなどの用途に用いられる伸長性の高いトリコット地とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリコット地のごとき経編地は、非弾性繊維を基本として編成されるものであるが、従来、非弾性繊維とともに弾性繊維を併用し、非弾性繊維からなる基本組織に弾性繊維を編み込んだり挿入したりすることにより、伸長性を付与することも行われ、所望の伸長性を得るべく、非弾性繊維やこれと併用する弾性繊維において、編組織や糸の本数、繊度などについての種々の工夫がなされてきた(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−70893号公報
【特許文献2】特開2003−201654号公報
【特許文献3】特開2008−240183号公報
【発明の概要】
【0004】
上記のごとき従来技術は、主として経(タテ)方向への伸長性を向上させるものであって、緯(ヨコ)方向への伸長性を大幅に向上させるような工夫はなされてこなかった。しかし、トリコット生地を使用した衣料品において、着用者の体型を選ばず、あらゆる方向の運動に対しても着用者に窮屈感、つっぱり感を感じさせないようにする上では、緯方向の伸長性も大幅に改良することが重要であることが分かった。
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、極めて高い伸長性、特に、経方向だけでなく緯方向への高い伸長性をも有するトリコット地とその製造方法を提供することにある。
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行い、その過程において、従来、経編地の編成には非弾性繊維の使用が必須であるという先入観があったために試みられることのなかった弾性繊維のみでのトリコット地の編成を実践したところ、意外にも、従来当然に生じるであろうと考えられていたカールの発生などといった問題は軽微で、十分に実用に耐え得るものであること、しかも、上に述べた点において要求される極めて高い伸長性、特に、経方向だけでなく緯方向への高い伸長性をも確保し得ることを見出し、それを確認して、本発明を完成するに到った。
【0007】
即ち、本発明1はトリコット地に関し、弾性繊維からなる編成糸のみを使用して編成されてなることを特徴とする。
また本発明2はトリコット地の製造方法に関し、弾性繊維からなる編成糸のみを使用して編成されてなるトリコット地の製造方法であって、トリコット編機により編成するものであり、編機のゲージ数は18ゲージ以上の編機を用い、糸通し方法が全通しと、1イン1アウトと、1イン2アウトとのいずれかであることを特徴とする。
【0008】
上記のトリコット地は、弾性繊維からなる編成糸のみを使用して編成してあるので、寸法安定性に優れているうえ、極めて高い伸長性を発揮することができ、特に、ウェール方向(経方向)だけでなくコース方向(緯方向)への高い伸長性をも発揮することができる。
【0009】
上記のトリコット地は、特定の伸長率を備えたものに限定されないが、具体的には、例えば、コース方向(緯方向)の伸長率が400%以上であったり、ウェール方向(経方向)の伸長率が150%以上であったり、或いは、ウェール方向(経方向)の伸長率とコース方向(緯方向)の伸長率との和が600%以上であると好ましい。これらの高い伸長性を発揮させることにより、例えば、トリコット地をインナー素材などの伸縮性衣料や衣料資材として適応すると、着用者の曲げ、屈伸などの運動に生地が追従するだけでなく、つっぱり感を感じることなく着用できる。
【0010】
上記の本発明で用いる弾性繊維としては、例えば、ポリウレタン系弾性繊維、ポリオレフィン系弾性繊維、天然ゴム、合成ゴム、伸縮性を有する複合繊維などを用いることができるが、その伸縮性、熱セット性、耐ガス脆化、耐薬品などの点からポリウレタン系弾性繊維が特に好ましい。
【0011】
上記の弾性繊維は、可染性を有すると意匠性を高めることができるので好ましい。例えば上記の弾性繊維がポリウレタン系弾性繊維である場合は、ポリウレタンの組成に適した任意の染料を用いて染色でき、編成前の糸条と、編成後のトリコット地とのいずれか又は両方を染色してもよい。例えば上記のポリウレタン系弾性繊維は、酸性染料やカチオン染料を用いることができ、特にこのポリウレタン系弾性繊維がスルホン酸基を含む重合体を含有する場合は、カチオン染料で染色すると優れた堅牢度を発揮できて好ましい。
【0012】
上記のトリコット地は、特定の編組織に限定されないが、上記の弾性繊維からなる編成糸のうちの少なくとも1つの編組織が鎖編みであると、得られたトリコット地のカール性が抑制されて好ましい。
【発明の効果】
【0013】
(1)本発明1にかかるトリコット地は、弾性繊維のみからなるので、寸法安定性に優れているうえ、極めて高い伸長性を備えており、特に、経方向だけでなく緯方向への高い伸長性をも発揮することができる。この結果、これを用いた伸縮性衣料等は、繰り返し着用しても歪みや型崩れの発生がなく寸法安定性に優れており、良好な伸長性がいつまでも十分に維持されていて、肌へのフィット性が良好である。
(2)本発明2にかかるトリコット地の製造方法は、上記の優れた寸法安定性と伸長性を備えるトリコット地を、容易に編成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1にかかるトリコット地の各編成糸の編組織図である。
【図2】実施例2,7または8にかかるトリコット地の各編成糸の編組織図である。
【図3】実施例3にかかるトリコット地の各編成糸の編組織図である。
【図4】実施例4にかかるトリコット地の各編成糸の編組織図である。
【図5】実施例5にかかるトリコット地の各編成糸の編組織図である。
【図6】実施例6にかかるトリコット地の各編成糸の編組織図である。
【図7】実施例9にかかるトリコット地の各編成糸の編組織図である。
【図8】実施例10にかかるトリコット地の各編成糸の編組織図である。
【図9】実施例11にかかるトリコット地の各編成糸の編組織図である。
【図10】実施例12にかかるトリコット地の各編成糸の編組織図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
【0016】
〔トリコット地〕
本発明のトリコット地は、弾性繊維のみで構成されている。弾性繊維のみで構成されることにより既存では得られなかった破格の伸長性、特に、経方向だけでなく緯方向への高い伸長性をも有するトリコット地を得ることができる。
上記のトリコット地において使用する弾性繊維は1種類でも良いし、複数種類の交編であっても良い。編組織については、どんな編組織であっても良いが、生地のカールを低減させる必要がある場合には、少なくとも1種類を鎖編みにすることが好ましい。
【0017】
具体的な編組織としては、例えば、2種の弾性繊維を用いて、以下のとおりとすることができる。すなわち、
(1) 1−0/2−3の繰り返し単位からなる編組織と1−2/1−0の繰り返し単位からなる編組織との組み合わせ(後述の実施例1,12で採用する編組織、図1または図10参照。)、
(2) 1−0/0−1の繰り返し単位からなる編組織と0−0/1−1/0−0/5−5/4−4/5−5の繰り返し単位からなる編組織との組み合わせ(後述の実施例2,7または8で採用する編組織、図2参照。)、
(3) 1−0/0−1の繰り返し単位からなる編組織と0−0/1−1/0−0/1−1/0−0/5−5/4−4/5−5/4−4/5−5の繰り返し単位からなる編組織との組み合わせ(後述の実施例3で採用する編組織、図3参照。)、
(4) 1−0/0−1の繰り返し単位からなる編組織と0−0/1−1/0−0/1−1/0−0/1−1/0−0/7−7/6−6/7−7/6−6/7−7/6−6/7−7の繰り返し単位からなる編組織との組み合わせ(後述の実施例4で採用する編組織、図4参照。)、
(5) 1−0/1−2/1−0/1−2/2−3/2−1/2−3/2−1の繰り返し単位からなる編組織と2−3/2−1/2−3/2−1/1−0/1−2/1−0/1−2の繰り返し単位からなる編組織との組み合わせ(後述の実施例5で採用する編組織、図5参照。)、
(6) 1−0/1−2/2−3/2−1の繰り返し単位からなる編組織と2−3/2−1/1−0/1−2の繰り返し単位からなる編組織との組み合わせ(後述の実施例6で採用する編組織、図6参照。)、
(7) 1−0/0−1の繰り返し単位からなる編組織と1−0/2−3の繰り返し単位からなる編組織との組み合わせ(後述の実施例9で採用する編組織、図7参照。)、
(8) 1−0/0−1の繰り返し単位からなる編組織と1−2/1−0の繰り返し単位からなる編組織との組み合わせ(後述の実施例10で採用する編組織、図8参照。)、
などが好ましく挙げられる。
【0018】
上記(2)〜(4)の例は、鎖編組織と挿入組織の組み合わせであり、鎖編組織によって編地のカール性が抑制されるとともに、挿入組織によって経方向、緯方向の伸長率が様々に変化する。
例えば、上記(2)挿入組織では、3コースを1組として、それらが5ウェール分の振りで左右交互に振られ、上記(3)の挿入組織では、5コースを1組として、それらが5ウェール分の振りで左右交互に振られ、上記(4)の挿入組織では、7コースを1組として、それらが7ウェール分の振りで左右交互に振られている。そして、本発明者の実験に基づく検証によれば、挿入組織におけるウェール方向への振りの頻度(例えば、上記(2)では3コース毎、上記(3)では5コース毎にウェール方向に振られる)が少ないほど、経方向および緯方向への伸長率が大きくなることが分かった(後述の実施例2,3参照)。
【0019】
上記(5)、(6)の例は、2種の弾性繊維を相対抗させて編成したものであり、メッシュ調外観のハリ、コシをも持ったトリコット地を得ることが出来る。
上記(5)、(6)の編組織を比較してみると、最左の針位置から最右の針位置に到達するまでのピッチ数は(5)が4ピッチであるのに対し、(6)が2ピッチであり、(5)の方が緯振りが多い組織と言える。結果、(6)の方が経方向および緯方向の伸長率が小さくなると推測される。そして、この推測は、実際に、本発明者の実験に基づく検証と符合するものであった(後述の実施例5,6参照)。
【0020】
本発明で用いる弾性繊維としては、例えば、ポリウレタン系弾性繊維、ポリオレフィン系弾性繊維、天然ゴム、合成ゴム、伸縮性を有する複合繊維などを用いることができるが、その伸縮性、熱セット性、耐ガス脆化、耐薬品などの点からポリウレタン系弾性繊維が好ましい。
【0021】
上記のポリウレタン系弾性繊維を用いる場合、例えば、ポリマージオールと有機ジイソシアネートを主体とするイソシアネートと鎖伸長剤として多官能活性水素化合物とを反応させて得られるポリウレタン重合体を紡糸して得られたものが特に好ましい。
【0022】
上記のポリマージオールとしては、例えば、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレンエーテルグリコールのようなポリエーテルグリコール類、エチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコールなどのグリコール類の少なくとも1種とアジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、β−メチルアジピン酸、イソフタル酸などのジカルボン酸の少なくとも1種を反応させて得られるポリエステルグリコール類、ポリカプロラクトングリコール、ポリヘキサメチレンジカーボネートグリコールのようなポリマージオールなどの1種または2種以上の混合物または共重合物が例示できる。
【0023】
上記の有機ジイソシアネートとしては、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートのような有機ジイソシアネートの1種または2種以上の混合物が例示できる。さらにトリイソシアネートを少量併用してもよい。
【0024】
上記の鎖伸長剤としては多官能活性水素化合物が用いられ、例えば、エチレンジアミン、1,2−プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、キシリレンジアミン、4,4’−ジフェニルメタンジアミン、ヒドラジン、1,4−ジアミノピペラジン、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、水などの1種またはこれらの2種以上の混合物が例示できる。所望により、これらの化合物に、モノアミン、モノアルコールのような停止剤を少量併用してもよい。
【0025】
上記のポリウレタン重合体には、例えば、2,6−ジテトラブチルパラクレゾール、亜リン酸エステルなどの酸化防止剤、ヒドロキシベンゾフェノン系またはヒドロキシベンゾチアゾールなどの光または紫外線吸収剤、1,1−ジアルキル置換セミカルバジド、ジチオカルバミン酸塩などのガス黄変、劣化防止剤、および、酸化チタン、酸化亜鉛などの白色顔料を適宜添加してもよい。
【0026】
本発明で使用されるポリウレタン系弾性繊維からなる編成糸は、特定の繊度(総繊度)のものに限定されないが、11dtex以上であると好ましく、22dtex以上であるとより好ましく、33dtex以上であるとさらに好ましい。またこの編成糸の繊度の上限は特定の値に限定されないが、大きすぎると編地が厚手になるので、好ましくは310dtex以下とされ、より好ましくは156dtex以下にされる。またこの編成糸の破断伸度は300%以上であることが好ましい。編成糸の断面形状は、円形であってもよく、扁平やその他の形状であってもよい。
【0027】
製品の美観の観点から、本発明の弾性繊維は可染性を有することが好ましい。可染性を有する弾性繊維として、例えば、カチオン可染型ポリウレタン系弾性繊維や酸性可染型ポリウレタン系弾性繊維などが挙げられる。
ここで、カチオン可染型ポリウレタン系弾性繊維について説明すると、カチオン可染型ポリウレタン系弾性繊維としては、スルホン酸基を含む重合体を含有することがより好ましい。このスルホン酸基を含む重合体は、スルホン酸基を有する化合物をモノマーとして重合した化合物であれば特に制限されるものでなく、モノマーとしてスルホン酸基を有する化合物のみを用いてもよく、その他のモノマーを含む共重合体でもよい。なお、高耐薬品性、高強伸度のポリウレタン糸を得る観点から、スルホン酸基を有するモノマーの含有モル濃度は5モル%以上が好ましい。
【0028】
本発明のトリコット地は、緯方向の伸びも高く、例えば、緯方向の伸長率が400%以上という高い伸長性を発揮させることができる。
また、経方向の伸びについては、例えば、経方向の伸長率が150%以上という高い伸長性を発揮させることができる。
本発明のトリコット地は、経方向の伸長率と緯方向の伸長率の和が600%以上であることが好ましい。これにより、例えば、本発明のトリコット地をインナー素材として適応する場合、着用者の曲げ、屈伸などの運動に生地が追従するだけでなく、つっぱり感を感じることなく着用できる。
なお、上述の伸長率は、後述の実施例における測定方法に準じて算出される値とする。
【0029】
〔トリコット地の製造〕
本発明にかかるトリコット地は、トリコット編機により編成されるものであり、弾性繊維のみを用いて編成を行う。
トリコット編機のゲージ数としては、特に限定するわけではないが、例えば、18〜40ゲージとすることができる。
編成条件としては、例えば、以下の条件が好ましく採用できる。
糸通し方法は、全通しでも、1イン1アウトでも良いし、1イン2アウトでも良く、特に限定しない。
【0030】
編成後には、精錬、熱セット、染色などの従来公知の処理を行うことができる。
弾性繊維は、一般に染色しにくいものであるが、上述のように、可染性を有する弾性繊維を用いることにより、弾性繊維のみからなる本発明にかかるトリコット地においても、染色を行って、好ましい美観を付与することができる。
染色段階での付帯加工として、防汚加工、抗菌加工、消臭加工、防臭加工、吸汗加工、吸湿加工、紫外線吸収加工、減量加工など、さらに、後加工として、カレンダー加工、エンボス加工、シワ加工、起毛加工、オパール加工、ボンディング加工などを行うようにしても良い。
熱セットは省略することができるが、表面を平滑化するなどの理由から熱セットを施しても良い。この熱セットの温度としては、使用する弾性繊維の種類や特性によっても異なるが、190℃以下が好ましく、150〜180℃とすることがより好ましい。
【0031】
〔用途〕
本発明のトリコット地は、経方向だけでなく緯方向への伸長性も高いので、製品の伸び代が大きく、これを使用した衣料品は、例えば、体型を選ばない、所謂、フリーサイズ製品としても適応することもでき、また、あらゆる方向の運動に対しても着用者に窮屈感、つっぱり感を感じさせない。
また、優れた伸長性を利用した運動パフォーマンスが望まれる衣類、例えば、フィットネスウエア、レオタード、水着、スパッツ、スポーツインナーなどに好適に使用できる。
予め、小寸で製品を作成し、伸ばして着用するようにすれば、伸縮を受ける運動に対して安定した着圧を得ることも出来る。
【実施例】
【0032】
以下に、実施例および比較例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
〔実施例1〕
カールマイヤー社製トリコット編機タイプHKS4、28ゲージ機を用い、以下の糸使いおよび編組織によって製造した。
<糸使い>
フロント筬:カチオン可染型ポリウレタン系弾性繊維44dtex(東レ・オペロンテックス株式会社製の「ライクラ(登録商標)」T−909B)からなる弾性糸を用いた。
バック筬 :フロント筬と同様の弾性糸を用いた。
糸通し方法としては、フロント筬、バック筬とも全通しとした。
【0034】
<編組織>
フロント筬:1−0/2−3
バック筬 :1−2/1−0
フロント筬に糸通しされた弾性糸(10)の編組織図を図1(a)、バック筬に糸通しされた弾性糸(20)の編組織図を図1(b)に示す。
【0035】
以上の糸使いと編組織とで得られた生機を、カチオン染料を用いた染色加工により仕上げ、トリコット地を得た。具体的には、リラックス、精練を行った後、150℃で熱セットを行い、さらに120℃で染色、120℃で乾燥後、150℃で仕上げセットを実施した。
【0036】
〔実施例2〕
カールマイヤー社製トリコット編機タイプHKS4、28ゲージ機を用い、以下の糸使いおよび編組織によって製造した。
<糸使い>
フロント筬:カチオン可染型ポリウレタン系弾性繊維44dtex(東レ・オペロンテックス株式会社製の「ライクラ(登録商標)」T−909B)からなる弾性糸を用いた。
バック筬 :フロント筬と同様の弾性糸を用いた。
糸通し方法としては、フロント筬、バック筬とも1イン1アウトとした。
【0037】
<編組織>
フロント筬:1−0/0−1 (鎖編み)
バック筬 :0−0/1−1/0−0/5−5/4−4/5−5
フロント筬に糸通しされた弾性糸(10)の編組織図を図2(a)、バック筬に糸通しされた弾性糸(20)の編組織図を図2(b)に示す。
以上の糸使い、編組織で得られた生機を、実施例1と同様に、カチオン染料を用いた染色加工により仕上げ、トリコット地を得た。
【0038】
〔実施例3〕
編組織のみ下記通りに変更した以外は、実施例2と同一条件でトリコット生地を得、実施例1と同様に、生機をカチオン染料を用いた染色加工により仕上げ、トリコット地を得た。
<編組織>
フロント筬:1−0/0−1 (鎖編み)
バック筬 :0−0/1−1/0−0/1−1/0−0/5−5/4−4/5−5/4−4/5−5
フロント筬に糸通しされた弾性糸(10)の編組織図を図3(a)、バック筬に糸通しされた弾性糸(20)の編組織図を図3(b)に示す。
【0039】
〔実施例4〕
糸通し方法および編組織のみ下記通りに変更した以外は、実施例2と同一条件でトリコット生地を得、実施例1と同様に、生機をカチオン染料を用いた染色加工により仕上げ、トリコット地を得た。
糸通し方法としては、フロント筬、バック筬とも1イン2アウトとした。
<編組織>
フロント筬:1−0/0−1 (鎖編み)
バック筬 :0−0/1−1/0−0/1−1/0−0/1−1/0−0/7−7/6−6/7−7/6−6/7−7/6−6/7−7
フロント筬に糸通しされた弾性糸(10)の編組織図を図4(a)、バック筬に糸通しされた弾性糸(20)の編組織図を図4(b)に示す。
【0040】
〔実施例5〕
編組織のみ下記通りに変更した以外は、実施例2と同一条件でトリコット生地を得、実施例1と同様に、生機をカチオン染料を用いた染色加工により仕上げ、トリコット地を得た。
<編組織>
フロント筬:1−0/1−2/1−0/1−2/2−3/2−1/2−3/2−1
バック筬 :2−3/2−1/2−3/2−1/1−0/1−2/1−0/1−2
フロント筬に糸通しされた弾性糸(10)の編組織図を図5(a)、バック筬に糸通しされた弾性糸(20)の編組織図を図5(b)に示す。
【0041】
〔実施例6〕
編組織のみ下記通りに変更した以外は、実施例2と同一条件でトリコット生地を得、実施例1と同様に、生機をカチオン染料を用いた染色加工により仕上げ、トリコット地を得た。
<編組織>
フロント筬:1−0/1−2/2−3/2−1
バック筬 :2−3/2−1/1−0/1−2
フロント筬に糸通しされた弾性糸(10)の編組織図を図6(a)、バック筬に糸通しされた弾性糸(20)の編組織図を図6(b)に示す。
【0042】
〔実施例7〕
糸使いのみ下記通りに変更した以外は、実施例2と同一条件でトリコット生地を得た。 得られた生地を染色することなく仕上げ加工し、トリコット地を得た。
<糸使い>
フロント筬:ポリウレタン系弾性繊維44dtex(東レ・オペロンテックス株式会社製の「ライクラ(登録商標)」T−127C)からなる弾性糸を用いた。
バック筬 :フロント筬と同様の弾性糸を用いた。
【0043】
〔実施例8〕
糸通し方法として、フロント筬、バック筬とも全通しとした以外は実施例2と同一条件でトリコット生地を得、実施例1と同様に、生機をカチオン染料を用いた染色加工により仕上げ、トリコット地を得た。
【0044】
〔実施例9〕
編組織のみ下記通りに変更した以外は、実施例2と同一条件でトリコット生地を得、実施例1と同様に、生機をカチオン染料を用いた染色加工により仕上げ、トリコット地を得た。
<編組織>
フロント筬:1−0/0−1 (鎖編み)
バック筬 :1−0/2−3
フロント筬に糸通しされた弾性糸(10)の編組織図を図7(a)、バック筬に糸通しされた弾性糸(20)の編組織図を図7(b)に示す。
【0045】
〔実施例10〕
編組織のみ下記通りに変更した以外は、実施例2と同一条件でトリコット生地を得、実施例1と同様に、生機をカチオン染料を用いた染色加工により仕上げ、トリコット地を得た。
<編組織>
フロント筬:1−0/0−1 (鎖編み)
バック筬 :1−2/1−0
フロント筬に糸通しされた弾性糸(10)の編組織図を図8(a)、バック筬に糸通しされた弾性糸(20)の編組織図を図8(b)に示す。
【0046】
〔実施例11〕
編組織のみ下記通りに変更した以外は、実施例2と同一条件でトリコット生地を得、実施例1と同様に、生機をカチオン染料を用いた染色加工により仕上げ、トリコット地を得た。
<編組織>
フロント筬:1−0/0−1 (鎖編み)
バック筬 :2−3/1−0
フロント筬に糸通しされた弾性糸(10)の編組織図を図9(a)、バック筬に糸通しされた弾性糸(20)の編組織図を図9(b)に示す。
【0047】
〔実施例12〕
編組織のみ下記通りに変更した以外は、実施例2と同一条件でトリコット生地を得、実施例1と同様に、生機をカチオン染料を用いた染色加工により仕上げ、トリコット地を得た。
<編組織>
フロント筬:1−2/1−0
バック筬 :1−0/2−3
フロント筬に糸通しされた弾性糸(10)の編組織図を図10(a)、バック筬に糸通しされた弾性糸(20)の編組織図を図10(b)に示す。
【0048】
〔比較例1〕
糸使いのみ下記通りに変更した以外は、実施例1と同一条件でトリコット生地を得た。
<糸使い>
フロント筬:ウーリーナイロン糸44dtex−34フィラメントを用いた。
バック筬 :ポリウレタン系弾性繊維44dtex(東レ・オペロンテックス株式会社製の「ライクラ(登録商標)」T−127C)からなる弾性糸を用いた。
糸通し方法としては、フロント筬、バック筬とも全通しとした。
得られた生機を酸性染料を用いた染色加工により仕上げ、トリコット地を得た。
【0049】
〔比較例2〕
糸使いのみ下記通りに変更した以外は、実施例1と同一条件でトリコット生地を得た。
<糸使い>
フロント筬:ウーリーポリエステル糸56dtex−24フィラメントを用いた。
バック筬 :ポリウレタン系弾性繊維44dtex(東レ・オペロンテックス株式会社製の「ライクラ(登録商標)」T−127C)からなる弾性糸を用いた。
糸通し方法としては、フロント筬、バック筬とも全通しとした。
得られた生機を分散染料を用いた染色加工により仕上げ、トリコット地を得た。
【0050】
〔比較例3〕
糸使いのみ下記通りに変更した以外は、実施例2と同一条件でトリコット生地を得、実施例1と同様に、生機をカチオン染料を用いた染色加工により仕上げ、トリコット地を得た。
<糸使い>
フロント筬:カチオン可染型ポリエステルフィラメント糸84dtex−36フィラメ
ントを用いた。
バック筬 :カチオン可染型ポリウレタン系弾性繊維44dtex(東レ・オペロンテックス株式会社製の「ライクラ(登録商標)」T−909B)からなる弾性糸を用いた。
【0051】
〔評価試験〕
上記実施例1〜12、比較例1〜3の各トリコット地について、経、緯それぞれの伸長率およびカールを以下のようにして、測定・評価した。
【0052】
<伸長率>
JIS L 1096:2010(織物及び編物の生地試験方法)の、8.16.1(伸び率) D法(編物の定荷重法)の規定に準じて、経、緯方向について測定を行った。なお、サンプル巾を50mm、荷重を4.9Nとし、標線間距離は100mmとした。
【0053】
<カール>
経:5cm×緯:30cmの試験片を、温度20±2℃、湿度65±2%RHの雰囲気中に4時間放置し、生地のメクレを見る。生地の緯方向の先端からのカールが、180°未満のものを「良」、180°以上360°未満のものを「やや良」、360°以上のものを「不良」と判定した。
【0054】
〔試験結果〕
各トリコット地についての経の伸長率、緯の伸長率およびその和ならびにカールの性能結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
実施例1と比較例1,2は、従来の一般的なトリコット地の編組織である。これらは、実施例1が弾性繊維のみで編成され、比較例1,2が非弾性繊維と弾性繊維とで編成されてなるものである点で異なり、これらの性能試験の結果の対比から、弾性繊維のみで編成されてなる実施例1のトリコット地の方が、伸長性、特に、経方向のみならず、緯方向への伸長性においても優れていることが分かる。
【0057】
実施例2〜6は、実施例1と比べて、経方向・緯方向ともに、伸長性がさらに優れていることが分かる。さらに、実施例2,3についてみると、これらは、一方の弾性繊維による鎖編みによって、カールが抑制されていることが分かる。そして、これらを個別に対比すれば、ウェール方向の振りの頻度が少ない程、経方向および緯方向の伸長率が大きくなることが分かる。
【0058】
実施例4は糸通しを1イン2アウトとしており、実施例2,3の1イン1アウトのものよりも生地密度が粗くなり、経方向の伸長率が大きくなることが分かる。
【0059】
また、実施例5,6についてみると、最左の針位置(0)から最右の針位置(3)に到達するまでのピッチ数は実施例5が4ピッチに対し、実施例6が2ピッチである。このことから、実施例6の編み組織の方が緯振りが多い組織と言え、結果、実施例6の方が経方向および緯方向の伸長率が小さくなる。
【0060】
実施例7は、非染色性の弾性繊維を用いた点以外は、実施例2と同様にして作成したトリコット地であるが、実施例2と比較すると、経方向・緯方向ともに伸長性がやや低くなっているが、十分に高い伸長性を発揮している。
【0061】
実施例8は、糸通しを1イン1アウトではなく全通しとしたこと以外は実施例2と同様にして作成したトリコット地であるが、実施例2と比較すると、経方向・緯方向ともに伸長性がやや低くなっているが、やはり、十分に高い伸長性を発揮している。
【0062】
比較例3は、非弾性繊維と弾性繊維とで編成されてなるものである以外は実施例2と同様にして作成したトリコット地であるが、実施例2と比べると、経方向・緯方向ともに伸長性が格段に劣っていることが分かる。
【0063】
実施例9〜12は、比較例1〜3と対比すれば、経方向・緯方向ともに非常に高い伸長性が得られていることが分かるが、他の実施例と対比すれば、これらの伸長性はやや劣っていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のトリコット地は、極めて高い伸長性、特に、経方向だけでなく緯方向への高い伸長性をも発揮できることから、フィットネスウエア、レオタード、水着、スパッツ、スポーツインナー、レッグウエア、インナーウエア、スポーツウエアなどの用途に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0065】
10…フロント筬に糸通しされた編成糸
20…バック筬に糸通しされた編成糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性繊維からなる編成糸のみを使用して編成されてなることを特徴とする、トリコット地。
【請求項2】
コース方向(緯方向)の伸長率が400%以上である、請求項1に記載のトリコット地。
【請求項3】
ウェール方向(経方向)の伸長率が150%以上である、請求項1または請求項2に記載のトリコット地。
【請求項4】
ウェール方向(経方向)の伸長率とコース方向(緯方向)の伸長率との和が600%以上である、請求項1から3のいずれかに記載のトリコット地。
【請求項5】
上記の弾性繊維がポリウレタン系弾性繊維である、請求項1から4のいずれかに記載のトリコット地。
【請求項6】
上記の弾性繊維が可染性を有する、請求項1から5のいずれかに記載のトリコット地。
【請求項7】
上記の弾性繊維からなる編成糸のうちの少なくとも1つの編組織が鎖編みである、請求項1から6のいずれかに記載のトリコット地。
【請求項8】
弾性繊維からなる編成糸のみを使用して編成されてなるトリコット地の製造方法であって、トリコット編機により編成するものであり、編機のゲージ数は18ゲージ以上の編機を用い、糸通し方法が全通しと、1イン1アウトと、1イン2アウトとのいずれかであることを特徴とする、トリコット地の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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