説明

トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−3−エン−8(又は9)オールの製造法

【課題】固体酸触媒を使用してトリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−3−エン−8(又は9)オールを効率よく合成できる方法を提供する。
【解決手段】ジシクロペンタジエンを固体酸触媒の存在下に水和反応させてトリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−3−エン−8(又は9)オールを製造する方法において、固体酸触媒を水に対して3.0〜10倍重量用い、50〜150℃で水和反応させることを特徴とする、トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−3−エン−8(又は9)オールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−3−エン−8(又は9)オールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線硬化型、あるいは電子線硬化型樹脂には、硬化性成分として種々の(メタ)アクリル酸エステルが使用されている。例えば、ポリエチレングリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、ポリプロピレングリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、ポリオキシエチルトリメチロ−ルプロパントリ(メタ)アクリレ−ト、ポリオキシエチレン化ビスフェノ−ルAジ(メタ)アクリレ−ト、シクロヘキシルアルコ−ルの(メタ)アクリル酸エステル、トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−3−エン−8(又は9)オール等の(メタ)アクリル酸エステルなどの様々な(メタ)アクリル酸エステルが使用されている。これら(メタ)アクリル酸エステルのなかでも、脂環式アルコ−ル特にトリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−3−エン−8(又は9)オールの(メタ)アクリル酸エステルは、その構造より耐熱性や密着性等の向上が特に期待出来る化合物である。
【0003】
トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−3−エン−8(又は9)オールを製造する方法としては、従来より知られている液相でオレフィンを水和してアルコ−ルを製造する方法、即ち鉱酸、芳香族スルホン酸、ヘテロポリ酸等の均一系の酸触媒を使用する方法、あるいは強酸性イオン交換樹脂、結晶性アミノシリケ−ト等のゼオライト類等の固体酸触媒を使用する方法が適用出来る(例えば、特公昭47−45323号公報、特公昭53−15485号公報、特開昭57−70828号公報、特開昭58−124728号公報、特開昭58−194828号公報、特開昭60−104028号公報、特開昭61−180735号公報、特公昭63−47695号公報、特開平7−165646号公報、特開平10−273457号公報、特開2006−232749号公報等)。これら方法の内、液相反応系は粗生成物から酸触媒を除くために中和水洗工程が必要であること、廃水が発生すること、シクロペンタジエンのポリマ−等の副生成物が多量生成し目的物の収率が低下すること等の問題点があった。これら問題点を解決する方法として、固体酸触媒を使用する方法が提案されているが、固体酸触媒重量/水重量の比率が3未満と少なく、この条件でジシクロペンタジエンを水和反応させると反応の進行が遅く工業的にトリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−3−エン−8(又は9)オールを製造するには不適当であった。
【特許文献1】特公昭47−45323号公報
【特許文献2】特公昭53−15485号公報
【特許文献3】特開昭57−70828号公報
【特許文献4】特開昭58−124728号公報
【特許文献5】特開昭58−194828号公報
【特許文献6】特開昭60−104028号公報
【特許文献7】特開昭61−180735号公報
【特許文献8】特公昭63−47695号公報
【特許文献9】特開平7−165646号公報
【特許文献10】特開平10−273457号公報
【特許文献11】特開2006−232749号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、固体酸触媒を使用してトリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−3−エン−8(又は9)オールを効率よく合成できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、(1)ジシクロペンタジエンを固体酸触媒の存在下に水和反応させてトリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−3−エン−8(又は9)オールを製造する方法において、固体酸触媒を水に対して3.0〜10重量用い、50〜150℃で水和反応させることを特徴とする、トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−3−エン−8(又は9)オールの製造方法に関する。
【0006】
また、本発明は、(2)80〜110℃で水和反応させることを特徴とするトリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−3−エン−8(又は9)オールの前記(1)記載の方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造によれば、固体酸触媒を使用してトリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−3−エン−8(又は9)オールを効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の製造方法は、ジシクロペンタジエンを固体酸触媒の存在下に水和反応させてトリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−3−エン−8(又は9)オールを製造する方法において、固体酸触媒を水に対して3.0〜10倍重量用い、50〜150℃で水和反応させることを特徴とする。
【0009】
本発明において、トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−3−エン−8(又は9)オールは、トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−3−エン−8−オールとトリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−3−エン−9−オールの混合物を示す。
本発明では水和反応を行う際の水に対する固体酸触媒の使用量が重要であり、固体酸触媒を水に対して3.0〜10倍重量、好ましくは4.0〜10.0倍重量用いる。水に対する固体酸触媒の使用量が3.0倍重量未満である場合は、水分で固体酸触媒の表面が覆われてしまいジシクロペンタジエンの水和反応が著しく遅くなってしまう。一方、水に対する固体酸触媒の使用量が10倍重量を超える場合は、副生成物であるトリシクロペンタジエン(以下、TCPDと記す。)やビスジシクロペンタジエニルエ−テル(以下、DODと記す。)が生成し、目的物である2−(トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−3−エン−8(又は9)オールの収率が低下してしまう。
【0010】
水和に使用される固体酸触媒は酸性の固体物質であり、酸性イオン交換樹脂、ゼオライト、二酸化チタン、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素等の無機酸化物あるいはこれらの複合酸化物、さらにスクメタイト、カオリタイト等の層状化合物をアルミニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウムの中から選ばれる1種以上の金属酸化物で処理したイオン交換型層状化合物などが例示されるが、本発明における固体酸触媒としては酸性イオン交換樹脂が好ましい。酸性イオン交換樹脂の例として、イオン交換体としてスルホン基またはカルボン酸基を有し、高分子基体としてフェノ−ルとホルムアルデヒドを重縮合して得られる高分子基体や、スチレンまたはハロゲン化スチレンとジビニルベンゼンとの共重合体を高分子基体として有するものがあげられる。これらの中でも、スルホン基を有する強酸性イオン交換樹脂が入手性、取り扱い性等の面で特に好ましい。
【0011】
酸性イオン交換樹脂の好ましい具体例としては、オルガノ(株)製のアンバ−リスト15DRY、アンバ−リスト16DRY、アンバ−リスト31DRY(商品名)、三菱化学(株)製のダイヤイオンPK208LH,PK216LH,PK228LH(商品名)等が挙げられる。
【0012】
固定酸触媒としては水を殆ど含有しないもの(ドライタイプ)であっても、水を含有するもの(ウエットタイプ)であってもよいが、本明細書において固体酸触媒の重量とは、固体酸触媒の水以外の固形分の重量を意味する。
固体酸触媒の形状は特に限定されず、粉末状でも、粒状物でもよい。粒状物の外観形状としては、球状、円盤状、円柱状、円筒状などが例示される。
本発明における反応温度は50〜150℃であり、好ましくは80〜110℃である。反応温度が50℃未満では反応速度が遅く、効率よくトリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−3−エン−8(又は9)オールを製造することができない。一方、反応温度が150℃を超える場合は、副生成物であるトリシクロペンタジエン(TCPD)やビスジシクロペンタジエニルエ−テル(DOD)が生成し、2−(トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−3−エン−8(又は9)オールの収率が低下してしまう。
【0013】
ジシクロペンタジエンの水和反応は、連続式、非連続式(バッチ式)どちらの形態も適用することが出来る。連続式の場合は、ジシクロペンタジエンと水の混合物、例えばジシクロペンタジエン中に水を連続的に混合した液を、固体酸触媒に連続的に供給して水和反応を行う。連続式の場合、本発明における水に対する固体酸触媒の使用量は、水に接する時の固体酸触媒の量を指す。
本発明における反応圧力は特に限定されるものではないが、原料のジシクロペンタジエンが常温で固体となるため、反応条件下で液状を維持することが出来る圧力であることが好ましい。
【0014】
反応後、反応生成物をろ過、抽出、蒸留などの通常の操作を行うことにより、2−(トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−3−エン−8(又は9)オールを得ることができる。
【実施例】
【0015】
以下、実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0016】
実施例1
攪拌機、温度計及び水滴下用ロ−トを備えているフラスコに、ジシクロペンタジエン 113.5g(0.86mol)、アンバ−リスト15DRY 34.1g(オルガノ製)を仕込み、オイルバスにより加温を開始した。また、水滴下用ロ−トにを準備した。フラスコ内の液温が100℃となったところで、オイルバスの高さ調整により液温を100±5℃に保つようにした。そこに固体酸触媒重量/水重量の比が4.0〜5.0となるように反応系の組成を常に分析しながら、水滴下用ロ−トより水を滴下した。滴下完了後も液温を100±5℃に保つようにし反応を行った。圧力は常圧で行った。反応開始から5時間経過時に、フラスコ内の反応液をガスクロマトグラフィ−により分析した結果、ジシクロペンタジエン(以下、DCPDと記す。)/2−(トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−3−エン−8(又は9)オール(以下、CDCと記す。)/トリシクロペンタジエン(以下、TCPDと記す。)/ビスジシクロペンタジエニルエ−テル(以下、DODと記す。)のそれぞれの面積百分率での比率は1.1/91.6/0.2/7.1であった。原料のDCPDがほぼ消失し、目的物のCDCが高選択的に生成していた。
【0017】
実施例2
フラスコ内の液温を70±5℃に保つようにすること以外は、実施例1と同様に操作を行った。反応開始から5時間経過時、フラスコ内の反応液をガスクロマトグラフィ−により分析した結果、DCPD/CDC/TCPD/DODのそれぞれの面積百分率での比率は30.2/65.6/0.1/4.2であった。引き続き反応を行い、反応10時間経過時に、再度フラスコ内の反応液をガスクロマトグラフィ−により分析した結果、DCPD/CDC/TCPD/DODのそれぞれの面積百分率での比率は1.2/93.6/0.2/5.0であった。原料のDCPDがほぼ消失し、目的物のCDCが高選択的に生成していた。
【0018】
実施例3
固体酸触媒重量/水重量の比を9.0〜10.0とすること以外は実施例1と同様に操作を行った。反応開始から5時間経過時に、フラスコ内の反応液をガスクロマトグラフィ−により分析した結果、DCPD/CDC/TCPD/DODのそれぞれの面積百分率での比率は1.2/89.6/0.3/8.9であった。原料のDCPDがほぼ消失、目的物のCDCが高選択的に生成していた。
【0019】
比較例1
フラスコ内の液温を40±5℃に保つようにすること以外は、実施例1と同様に操作を行った。反応開始から5時間経過時に、フラスコ内の反応液をガスクロマトグラフィ−により分析した結果、DCPD/CDC/TCPD/DODのそれぞれの面積百分率での比率は95.5/3.1/0.1/1.3であった。引き続き反応を行い、反応開始から10時間経過時に、再度フラスコ内の反応液をガスクロマトグラフィ−により分析した結果、DCPD/CDC/TCPD/DODのそれぞれの面積百分率での比率は93.1/5.0/0.1/1.8であり、原料のDCPDは大量に残存しており反応が進行していなかった。
比較例2
フラスコ内の液温を160±5℃に保つようにすること以外は、実施例1と同様に操作を行った。反応開始から5時間経過時に、フラスコ内の反応液をガスクロマトグラフィ−により分析した結果、DCPD/CDC/TCPD/DODのそれぞれの面積百分率での比率は1.1/55.2/4.5/39.2であった。原料のDCPDはほぼ消失しており反応は完了していたが、副生成物のTCPD及びDODが多量に生成していた。
【0020】
比較例3
固体酸触媒重量/水重量の比を1.0〜2.0とすること以外は実施例1と同様に操作を行った。反応開始から5時間経過時に、フラスコ内の反応液をガスクロマトグラフィ−により分析した結果、DCPD/CDC/TCPD/DODのそれぞれの面積百分率での比率は90.2/8.1/0.2/1.5であった。引き続き反応を行い、反応10時間経過時に、再度フラスコ内の反応液をガスクロマトグラフィ−により分析した結果、DCPD/CDC/TCPD/DODのそれぞれの面積百分率での比率は82.4/15.9/0.2/1.5であり、原料のDCPDは大量に残存しており反応が進行していなかった。
比較例4
固体酸触媒重量/水重量の比を11.0〜12.0とすること以外は実施例1と同様に操作を行った。反応開始から5時間経過時に、フラスコ内の反応液をガスクロマトグラフィ−により分析した結果、DCPD/CDC/TCPD/DODのそれぞれの面積百分率での比率は0.8/80.9/3.2/15.1であった。原料のDCPDはほぼ消失しており反応は完了していたが、副生成物のTCPD及びDODが多量に生成していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジシクロペンタジエンを固体酸触媒の存在下に水和反応させてトリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−3−エン−8(又は9)オールを製造する方法において、固体酸触媒を水に対して3.0〜10倍重量用い、50〜150℃で水和反応させることを特徴とする、トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−3−エン−8(又は9)オールの製造方法。
【請求項2】
80〜110℃で水和反応させることを特徴とするトリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−3−エン−8(又は9)オールの請求項1記載の方法。

【公開番号】特開2008−208062(P2008−208062A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−45780(P2007−45780)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】