説明

トリス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド酸塩の製造方法

【課題】有機合成や電池電解質等の分野において、ルイス酸触媒やイオン伝導材として有用な物質であるトリス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド酸塩の簡便且つ効率的な工業的製法を提供する。
【解決手段】パーフルオロアルカンスルホニルフロリドとメチルマグネシウムハライドを反応させた後、得られた反応混合物をそのままアルカリ金属ハロゲン化物、4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種と反応させることで、容易に、かつ高収率で製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトリス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド酸塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド酸塩は有機合成や電池電解質等の分野において、ルイス酸触媒やイオン伝導材として有用な物質である。本発明で対象とするトリス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド酸塩の製造方法としては従来から多く知られており、例えば、非特許文献1では、トリフルオロメタンスルホニルフロリドをメチルマグネシウムハライド(グリニャール試薬)と反応させることによりトリス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド酸塩を得られることが開示されている。
【0003】
また、特許文献1において、パーフルオロアルカンスルホニルハライドとアルカリ金属メタンとの反応を、有機溶媒中で行うことによりメチド酸塩を得る方法が開示されている。
【非特許文献1】Inorg.Chem., 27巻、2135−2137頁、1988年
【特許文献1】特開2000−226392号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1の方法は以下のスキームに示すように、グリニャール試薬とトリフルオロメタンスルホニルフロリドの反応により生成したメチド酸マグネシウムブロミド塩を、一旦硫酸によってメチド酸とし、更にこれを金属炭酸塩(ここでは炭酸セシウム)によりメチド酸塩として得るものである(スキーム1)。
【0005】
【化5】

【0006】
しかしながら、この方法では反応の工程が長いことや、硫酸を用いる為、廃棄物の処理に時間がかかることから、生産性にも負荷がかかり、工業的にいくぶん難があった。
【0007】
一方、特許文献1においては、非特許文献1とは異なり、一段階でメチド酸塩を得られる製造方法であり、非常に有用な方法である。しかしながら、この方法は、アルキル金属メタンが高価であること、反応後に塩酸で処理をする為に廃棄物の問題があることや、−55℃付近で反応を行うことなどから、工業的に生産するには難があった。
【0008】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、トリス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド酸塩を従来の製造法よりも工業的に容易にかつ安価に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討したところ、式[1]で表される、トリス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド酸塩
【0010】
【化6】

【0011】
[式中、Rfは炭素数1〜9の直鎖又は分岐鎖のパーフルオロアルキル基であり、nは該当する陽イオンの価数と同数の整数を、Mは陽イオンでアルカリ金属、(R1)4Nで表される4級アンモニウム、又は(R1)4Pで表される4級ホスモニウムを表す。ここでR1は炭素数1〜9の同一又は異なる直鎖、分岐鎖の飽和もしくは不飽和の脂肪族炭化水素基又はアリール基(ここで水素原子の一部または全てはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アルキル基、アミノ基、ニトロ基、アセチル基、シアノ基もしくはヒドロキシル基で置換されていても良い)を表す。]
の製造方法において、式[2]で表されるメチルマグネシウムハライド
【0012】
【化7】

【0013】
[式中、Xは塩素、臭素、またはヨウ素を表す。]
と、式[3]で表されるパーフルオロアルカンスルホニルフロリド
【0014】
【化8】

【0015】
[式中、Rfは炭素数1〜9までの直鎖又は分岐鎖のパーフルオロアルキル基を表す。]
を反応させた後、得られた反応混合物をそのままアルカリ金属ハロゲン化物、4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種と反応させたところ、短工程で、かつ高純度、高収率でトリス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド酸塩が得られることを見い出し、本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明は、式[1]で表される、トリス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド酸塩の製造方法において、式[2]で表されるメチルマグネシウムハライドと、式[3]で表されるパーフルオロアルカンスルホニルフロリドを反応させた後、得られた反応混合物をそのままアルカリ金属ハロゲン化物、4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種と反応させることを特徴とする、トリス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド酸塩の製造方法である。
【0017】
非特許文献1に記載の方法では、メチルマグネシウムハライドとパーフルオロアルカンスルホニルフロリドを反応させた後、得られた反応混合物である、メチド酸マグネシウムブロミド塩等の、式[4]で表されるトリス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド酸マグネシウムハライド
【0018】
【化9】

【0019】
[式中、Rfは前記に同じ。Xは塩素、臭素、またはヨウ素を表す。]
を、硫酸と反応させて式[5]で表されるトリス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド酸
【0020】
【化10】

【0021】
[式中、Rfは前記に同じ。]
とし、更にこれを金属炭酸塩(ここでは炭酸セシウム)により式[1]で表される、トリス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド酸塩として得るものであるが、この方法では生産性に負荷がかかり、さらに該目的物の純度及び収率が低下してしまい、工業的に製造する上でも難があった。しかしながら、本発明者らは、トリス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド酸を経由することなく、トリス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド酸マグネシウムハライドを、そのままアルカリ金属ハロゲン化物(塩化セシウム、塩化カリウム等)、4級アンモニウム塩(テトラメチルアンモニウムブロミド等)、又は4級ホスホニウム塩(テトラブチルホスホニウムブロミド等)と反応させることで、短工程で、容易に、高選択率かつ高収率で該目的物を得ることができるという驚くべき知見を得た(スキーム2)。
【0022】
【化11】

【0023】
本発明を用いたルートでは、従来と比べて工程が大幅に短縮できることや、硫酸等の酸を用いないため、後処理工程で排出される廃有機溶媒、廃水等の廃液が大幅に軽減でき、さらに、ろ過、再結晶といった、工業的にも簡便な方法で該目的物が容易に得られることとなった。
【0024】
このように、工程及び製造時間の大幅な簡略化ができることから、操作に手間をかけずに容易に該目的物を供給することも可能であり、工業的規模で製造する上で非常に優れた方法である。
【発明の効果】
【0025】
本発明の方法によれば、有機合成や電池電解質として有用なトリス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド酸塩を、従来よりも容易に且つ高純度、高収率で製造することができ、さらに製造の際に排出される廃有機溶媒、廃水等の廃液が大幅に軽減できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。式[2]で表されるメチルマグネシウムハライドの具体的な化合物としてはメチルマグネシウムヨージド、メチルマグネシウムブロミド、メチルマグネシウムクロリドが使用でき、メチルマグネシウムクロリドが好ましい。
【0027】
原料となるメチルマグネシウムハライドは、従来公知の方法により製造することができるが、製品として市販されているものを用いることもでき、当業者が適宜選択することができる。
【0028】
使用できる有機溶媒としては、反応工程中で原料および生成物と反応しない不活性溶媒が好ましく、たとえばジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t−ブトキシメタン、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類等が挙げられる。溶媒の使用量は、式[2]で表されるメチルマグネシウムハライドに対して通常0.5〜10倍容量、好ましくは5〜7倍容量の範囲から適宜選択される。
【0029】
式[3]で表されるパーフルオロアルカンスルホニルフロリドは、炭素数1〜9の直鎖又は分岐鎖のパーフルオロアルキル基が通常用いられるが、炭素数1〜6が好ましく、炭素数1(トリフルオロメチル基)が特に好ましい。具体的な化合物としては、トリフルオロメタンスルホニルフロリド、ペンタフルオロエタンスルホニルフロリド、ヘプタフルオロプロパンスルホニルフロリド、ノナフルオロブタンスルホニルフロリド、ウンデカフルオロペンタンスルホニルフロリド、トリデカフルオロヘキサンスルホニルフロリド、ペンタデカフルオロヘプタンスルホニルフロリド、ヘプタデカフルオロオクタンスルホニルフロリド、ノナデカフルオロノナンスルホニルフロリドなどが挙げられるが、トリフルオロメタンスルホニルフロリド、ペンタフルオロエタンスルホニルフロリド、ヘプタフルオロプロパンスルホニルフロリド、ノナフルオロブタンスルホニルフロリド、ウンデカフルオロペンタンスルホニルフロリド、トリデカフルオロヘキサンスルホニルフロリドが好ましく、トリフルオロメタンスルホニルフロリドが特に好ましい。
【0030】
パーフルオロアルカンスルホニルフロリドの量は、通常メチルマグネシウムハライド1モルに対し0.75〜2.0モルであり、0.75モル〜1.20モルが好ましく、0.8モル〜1.0モルが特に好ましい。
【0031】
本反応は−78℃から100℃の温度範囲で可能であり、−10℃から60℃が好ましい。低沸点のパーフルオロアルカンスルホニルフロリドを用いる場合は、加圧下で行ったり、反応器を低温に保つか、又は低温の凝縮器を用いておこなうのが好ましい。
【0032】
加圧下で反応を行う場合、反応器に、式[2]で表されるメチルマグネシウムハライド溶媒を仕込んだ後、反応器を密閉し、パーフルオロアルカンスルホニルフロリドを添加する。添加は圧力を制御する為に副生するメタンを適宜パージしながら行なう。
【0033】
圧力は、通常、0.1〜10MPa(絶対圧。以下、同じ)であるが、好ましくは0.1〜5MPa、さらに好ましくは0.1〜2MPaとするのがよい。
【0034】
加圧下で反応を行う際の使用する反応器については、ステンレス鋼、ハステロイ、モネルなどの金属製容器を用いて行うことができる。また、常圧下で反応を行う場合、反応器に関しても、当業者が適宜選択することができる。
【0035】
本発明では、得られた反応混合物を、アルカリ金属ハロゲン化物、4級アンモニウム塩、4級ホスホニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種と反応させることにより、式[1]のトリス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド酸塩が得られる。
【0036】
なお、アルカリ金属としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0037】
本発明で用いるアルカリ金属ハロゲン化物の具体的な化合物は、フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、フッ化カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、フッ化ルビジウム、塩化ルビジウム、臭化ルビジウム、ヨウ化ルビジウム、フッ化セシウム、塩化セシウム、臭化セシウム、ヨウ化セシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられるが、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、フッ化カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、フッ化ルビジウム、塩化ルビジウム、臭化ルビジウム、ヨウ化ルビジウム、フッ化セシウム、塩化セシウム、臭化セシウム、ヨウ化セシウムが好ましく、フッ化カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、フッ化ルビジウム、塩化ルビジウム、臭化ルビジウム、ヨウ化ルビジウム、フッ化セシウム、塩化セシウム、臭化セシウム、ヨウ化セシウムが特に好ましい。
【0038】
また、本発明で用いられる4級アンモニウム塩は、(R14+・X-(式中、R1は炭素数1〜9の同一又は異なる直鎖、分岐鎖の飽和もしくは不飽和の脂肪族炭化水素基又はアリール基(ここで水素原子の一部または全てはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アルキル基、アミノ基、ニトロ基、アセチル基、シアノ基もしくはヒドロキシル基で置換されていても良い)を表し、Xはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アセテート、ハイドロスルホネート、アルカンスルホネート、アリールスルホネート(ここで水素原子の一部または全てはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アルキル基、アミノ基、ニトロ基、アセチル基、シアノ基もしくはヒドロキシル基で置換されていても良い)を表す)が挙げられるが、これらのうち炭素数1〜7が好ましく、炭素数1〜4が特に好ましい。
【0039】
4級アンモニウム塩としては、上述した式に該当する、任意に組み合わせたものを使用することができ、それらの中でも、テトラメチルアンモニウムフロリド、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラメチルアンモニウムヨージド、テトラエチルアンモニウムフロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムヨージド、テトラプロピルアンモニウムフロリド、テトラプロピルアンモニウムクロリド、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラプロピルアンモニウムヨージド、テトラブチルアンモニウムフロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムヨージドを使用するのが好ましい。
【0040】
また、本発明で用いられる4級ホスホニウム塩は、(R14+・X-(式中、R1は炭素数1〜9の同一又は異なる直鎖、分岐鎖の飽和もしくは不飽和の脂肪族炭化水素基又はアリール基(ここで水素原子の一部または全てはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アルキル基、アミノ基、ニトロ基、アセチル基、シアノ基もしくはヒドロキシル基で置換されていても良い)を表し、Xはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アセテート、ハイドロスルホネート、アルカンスルホネート、アリールスルホネート(ここで水素原子の一部または全てはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アルキル基、アミノ基、ニトロ基、アセチル基、シアノ基もしくはヒドロキシル基で置換されていても良い)を表す)が挙げられるが、これらのうち炭素数1〜7が好ましく、炭素数1〜4が特に好ましい。
【0041】
4級ホスホニウム塩としては、上述した式に該当する、任意に組み合わせたものを使用することができ、それらの中でも、テトラフェニルホスホニウムフロリド、テトラフェニルホスホニウムクロリド、テトラフェニルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムヨージド、テトラブチルホスホニウムフロリド、テトラブチルホスホニウムクロリド、テトラブチルホスホニウムブロミド、テトラブチルホスホニウムヨージド、ブチルトリフェニルホスホニウムフロリド、ブチルトリフェニルホスホニウムクロリド、ブチルトリフェニルホスホニウムブロミド、ブチルトリフェニルホスホニウムヨージド、トリオクチルエチルホスホニウムフロリド、トリオクチルエチルホスホニウムクロリド、トリオクチルエチルホスホニウムブロミド、トリオクチルエチルホスホニウムヨージド、ベンジルトリフェニルホスホニウムフロリド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロリド、ベンジルトリフェニルホスホニウムブロミド、ベンジルトリフェニルホスホニウムヨージド、エチルトリフェニルホスホニウムフロリド、エチルトリフェニルホスホニウムクロリド、エチルトリフェニルホスホニウムブロミド、エチルトリフェニルホスホニウムヨージドを使用するのが好ましい。
【0042】
本発明では、式[2]で表されるメチルマグネシウムハライドと、式[3]で表されるパーフルオロアルカンスルホニルフロリドを反応させた後、得られた反応混合物を、そのままアルカリ金属ハロゲン化物、4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を溶解した水溶液中に添加して反応させ、反応後に用いた溶媒を留去することで、目的とするトリス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド酸塩が析出する。
【0043】
本発明では、詳細は実施例にて後述するが、ろ過及び再結晶という、工業的にも簡便な方法で該メチド酸塩が高純度で容易に得ることができる。
【0044】
次に、ろ過工程について説明する。ろ過工程に関しては、特に制限はない。この時、水への溶解度が低いトリス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド酸塩の場合、溶媒を留去した後に結晶が析出するので、ろ過することで単離することができる。
【0045】
一方、溶解度が高い塩の場合、トリス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド酸塩に対して溶解度が高い溶媒、例えば酢酸エチル、イソプロピルエーテル、ジエチルエーテルなどの有機溶媒を用いて抽出し、溶媒を留去した後に、後述の再結晶操作をすることで高純度のトリス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド酸塩を得ることが出来る。
【0046】
ろ過工程を行うことにより、該メチド酸塩に含まれている、メチルマグネシウムハライド、アルカリ金属ハロゲン化物由来の無機塩を容易に除去することができる。
【0047】
次に、再結晶工程について説明する。再結晶工程に関しても、特に制限はなく、用いる再結晶溶媒としては、有機溶媒又は水が挙げられる。有機溶媒としては、例えばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、iso−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等のアルコール類、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等のアルカン類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のアルキルケトン類、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族類などが例示できる。これらの有機溶媒はそれぞれ単独で用いてもよく、複数の有機溶媒を組み合わせてもよい。
【0048】
これらのうち、後述の実施例に示されているように、水を溶媒として再結晶した場合でも、十分に高純度のトリス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド酸塩を得ることが出来ることから、水を用いて再結晶することは、本発明の工業的な製造方法における特に好ましい態様の一つとして挙げられる。
【0049】
再結晶によって、トリス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド酸塩が析出する。これを単離するには、通常の有機化学の操作で行えばよく、「ろ過操作」(なお、ここで言う「ろ過操作」とは、再結晶工程におけるろ過操作を示す。以下、同じ。)を施すことで、前述のろ過工程と比べてもさらに高純度のトリス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド酸塩を得ることが出来る。
【0050】
また、ろ過操作により得られた溶液には、メチド酸塩が一部溶解していることから、本発明者らは、得られたろ液を回収し、再結晶工程における溶媒として再利用が可能である知見を得た(後述の表1参照)。再利用することにより、トリス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド酸塩の収率をさらに向上させること、また、後述の参考例と比べても廃有機溶媒、廃水等の廃液が大幅に削減できることから、格段と生産性が向上することとなった。
【0051】
再結晶操作によって得られた固体を減圧乾燥することにより、有機溶媒または水が除去され、式[1]で表されるトリス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド酸塩が高純度で得られる。
【0052】
以下に、本発明を、実施例をもって説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。ここで、組成分析値の「%」とは、反応混合物を核磁気共鳴分析装置(NMR、特に記述のない場合、測定核は19F)によって測定して得られた組成の「モル%」を表す。
【実施例1】
【0053】
コンデンサーを付した300mlの硝子製反応容器に2M-メチルマグネシウムクロリド−テトラヒドロフラン溶液 203gを窒素気流下加えて氷冷した後、トリフルオロメタンスルホニルフロリドを内温0〜20℃にて33g導入した。一旦35−50℃に昇温した後、再度トリフルオロメタンスルホニルフロリド17gを添加した。添加終了後、終夜室温にて熟成し、反応を行った(選択率71%)。
【0054】
500mlのナスフラスコに300mlの純水を加え、塩化セシウム17.3gを添加して完全に溶解した。ここに得られた反応液を添加し、エバポレーターにて反応系内のテトラヒドロフランを減圧留去した(ここで廃有機溶媒170gが副生)ところ、セシウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドが析出した。析出した結晶を濾別し(ここで無機塩を含む廃水320gが副生)、350gの水で再結晶を行ない、析出した結晶を濾別した。再度260gの水で再結晶し、析出した結晶を濾別した。得られた結晶を乾燥したところ、収量29.7g、収率53%そして純度99%でセシウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドを得た。
【実施例2】
【0055】
塩化セシウムの代わりに塩化ルビジウムを使用した他は、実施例1と同様の条件で反応を行った(選択率76%)。結果、ルビジウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドを収率58%、純度99%で得た。
【実施例3】
【0056】
塩化セシウムの代わりに塩化カリウムを使用した他は、実施例1と同様の条件で反応を行った(選択率81%)。結果、カリウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドを収率52%、純度99%で得た。
【実施例4】
【0057】
トリフルオロメタンスルホニルフロリドと塩化セシウムの代わりにそれぞれペンタフルオロエタンスルホニルフロリドと塩化カリウムを使用した他は、実施例1と同様の条件で反応を行った(選択率64%)。結果、カリウムトリス(ペンタフルオロエタンスルホニル)メチドを収率46%、純度99%で得た。
【実施例5】
【0058】
コンデンサーを付した1000mlの硝子製反応容器に1.6M-メチルマグネシウムクロリド−テトラヒドロフラン溶液 494gを窒素気流下加えて氷冷した後、トリフルオロメタンスルホニルフロリドを内温0〜20℃にて64g導入した。一旦35−50℃に昇温した後、再度トリフルオロメタンスルホニルフロリド32gを添加した。添加終了後、終夜室温にて熟成し、反応を行った(選択率75%)。
【0059】
1000mlのナスフラスコに500mlの純水を加え、テトラプロピルアンモニウムクロリド53.2gを添加して完全に溶解した。ここに得られた反応液を添加し、エバポレーターにてテトラヒドロフランを減圧留去し、残った溶液に酢酸エチル800mlを加えて抽出した。得られた有機層をエバポレートし、析出した結晶をエタノール200mlにて再結晶を行なった。析出した結晶を濾別し、得られた結晶を乾燥したところ、収量73.6g、収率62%、純度97%でテトラプロピルアンモニウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドを得た。
【実施例6】
【0060】
コンデンサーを付した300mlの硝子製反応容器に1.6M-メチルマグネシウムクロリド−テトラヒドロフラン溶液124gを窒素気流下加えて氷冷した後、トリフルオロメタンスルホニルフロリドを内温0〜20℃にて16g導入した。一旦35−50℃に昇温した後、再度トリフルオロメタンスルホニルフロリド8gを添加した。添加終了後、終夜室温にて熟成し、反応を行った(選択率75.4%)。
【0061】
500mlのナスフラスコに250mlの純水を加え、テトラメチルアンモニウムブロミド9.2gを添加して完全に溶解した。ここに得られた反応液を添加し、エバポレーターにてテトラヒドロフランを減圧留去し、残った溶液に酢酸エチル200mlを加えて抽出した。得られた有機層をエバポレートし、析出した結晶を水300mlにて再結晶を行なった。析出した結晶を濾別し、得られた結晶を乾燥したところ、収量26.8g、収率48%、純度99%でテトラメチルアンモニウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドを得た。
【0062】
実施例1−6に明らかなように、後述する参考例1と比べて、短工程で、ろ過、再結晶といった工業的に簡便な方法により高収率で該目的物が容易に得ることが可能である。
[参考例1]
【0063】
コンデンサーを付した300mlの硝子製反応容器に2M-メチルマグネシウムクロリド−テトラヒドロフラン溶液200gを窒素気流下加えて氷冷した後、トリフルオロメタンスルホニルフロリドを内温0〜20℃にて32g導入した。一旦35−50℃に昇温した後、再度トリフルオロメタンスルホニルフロリド16gを添加した。添加終了後、終夜室温にて熟成し、反応を行った。
【0064】
500mlの分液ロートに200gの10%塩酸を加えた後、反応液225g、イソプロピルエーテル72gを添加し分液操作を行なった(ここで廃塩酸が232g副生)。得られた有機層を450gの水で2回、150gの水で洗浄、分液を行なった(ここで有機溶媒を含む廃水が1365g副生)。その後、有機層を500mlのナスフラスコに加え、エバポレートした(廃有機溶媒が123g副生)。得られた粗メチド酸に200gの水を添加し、トルエン44g×2を加えて分液ロートにて分液操作を2回行なった(廃有機溶媒94g副生)。得られた水層に50%の水酸化セシウム水溶液を20g加えて中和析出した後、水を60g添加して再結晶を行ない、析出した結晶を濾別した。再度290gの水で再結晶し、析出した結晶を濾別した。得られた結晶を乾燥したところ、収量27.6g、収率52%でセシウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドを得た。
【0065】
このように、参考例1では、実施例1−6と比べて後処理工程で大量に有機物及び排水が排出される為、工業的な実施には負担がかかる。
【0066】
ここで実施例1と参考例1の廃液量の比較を、表1として以下にまとめる。
【0067】
【表1】

【0068】
表1に示すように、実施例1は参考例1と比べて廃液を格段に削減できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式[1]で表されるトリス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド酸塩
【化1】

[式中、Rfは炭素数1〜9の直鎖又は分岐鎖のパーフルオロアルキル基であり、nは該当する陽イオンの価数と同数の整数を、Mは陽イオンでアルカリ金属、(R1)4Nで表される4級アンモニウム、又は(R1)4Pで表される4級ホスホニウムを表す。ここでR1は炭素数1〜9の同一又は異なる直鎖、分岐鎖の飽和もしくは不飽和の脂肪族炭化水素基又はアリール基(ここで水素原子の一部または全てはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アルキル基、アミノ基、ニトロ基、アセチル基、シアノ基もしくはヒドロキシル基で置換されていても良い)を表す。]
の製造方法において、式[2]で表されるメチルマグネシウムハライド
【化2】

[式中、Xは塩素、臭素、またはヨウ素を表す。]
と、式[3]で表されるパーフルオロアルカンスルホニルフロリド
【化3】

[式中、Rfは炭素数1〜9の直鎖又は分岐鎖のパーフルオロアルキル基を表す。]
を反応させた後、得られた反応混合物をそのままアルカリ金属ハロゲン化物、4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種と反応させることを特徴とする、トリス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド酸塩の製造方法。
【請求項2】
得られた反応混合物が、式[4]で表されるトリス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド酸マグネシウムハライド
【化4】

[式中、Rfは前記に同じ。Xは塩素、臭素、またはヨウ素を表す。]
である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アルカリ金属が、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
アルカリ金属ハロゲン化物が、フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、フッ化カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、フッ化ルビジウム、塩化ルビジウム、臭化ルビジウム、ヨウ化ルビジウム、フッ化セシウム、塩化セシウム、臭化セシウム、ヨウ化セシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1乃至3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
4級アンモニウム塩が、テトラメチルアンモニウムフロリド、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラメチルアンモニウムヨージド、テトラエチルアンモニウムフロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムヨージド、テトラプロピルアンモニウムフロリド、テトラプロピルアンモニウムクロリド、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラプロピルアンモニウムヨージド、テトラブチルアンモニウムフロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムヨージドからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1乃至4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
4級ホスホニウム塩が、テトラフェニルホスホニウムフロリド、テトラフェニルホスホニウムクロリド、テトラフェニルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムヨージド、テトラブチルホスホニウムフロリド、テトラブチルホスホニウムクロリド、テトラブチルホスホニウムブロミド、テトラブチルホスホニウムヨージド、ブチルトリフェニルホスホニウムフロリド、ブチルトリフェニルホスホニウムクロリド、ブチルトリフェニルホスホニウムブロミド、ブチルトリフェニルホスホニウムヨージド、トリオクチルエチルホスホニウムフロリド、トリオクチルエチルホスホニウムクロリド、トリオクチルエチルホスホニウムブロミド、トリオクチルエチルホスホニウムヨージド、ベンジルトリフェニルホスホニウムフロリド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロリド、ベンジルトリフェニルホスホニウムブロミド、ベンジルトリフェニルホスホニウムヨージド、エチルトリフェニルホスホニウムフロリド、エチルトリフェニルホスホニウムクロリド、エチルトリフェニルホスホニウムブロミド、エチルトリフェニルホスホニウムヨージドからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1乃至5の何れかに記載の方法。
【請求項7】
メチルマグネシウムハライドがメチルマグネシウムクロリドである、請求項1乃至6の何れかに記載の方法。
【請求項8】
パーフルオロアルカンスルホニルフロリドがトリフルオロメタンスルホニルフロリドである、請求項1乃至7の何れかに記載の方法。

【公開番号】特開2009−155206(P2009−155206A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−324490(P2007−324490)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】