説明

トリチウムサンプラ

【課題】特別な装置を設けることなく、トリチウムを凍結させることなく回収することができ、装置を小型化することができるトリチウムサンプラを提供する。
【解決手段】トリチウムを含む放射性放出ガスからトリチウムを液体として回収するためのトリチウムサンプラ1であって、トリチウムサンプラ1が、放射性放出ガスを冷却する冷却装置10を備えており、冷却装置10が、放射性放出ガスに接触し、放射性放出ガスを冷却する冷却部11と、冷却部11において放射性放出ガスから吸収した熱を放出する放熱部12と、放熱部12と冷却部11との間に設けられた熱電変換素子20とからなる。放射性放出ガスに含まれているトリチウムを冷却部11の表面に水滴として付着させることができ、その水滴を回収することができる。冷却装置10の構造を簡単かつコンパクトにすることができ、トリチウムサンプラ1を持ち運びできる程度の大きさに構成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリチウムサンプラに関する。原子力発電施設から排出されるガスには放射性物質を含まれており、この放射性物質を含むガス(以下、放射性放出ガスという)は、そのガス自体から放出される放射線量を許容値以下に抑えなければならない。とくに、放射性放出ガスに含まれるトリチウム(3H:β崩壊する放射性核種)は、半減期が12.3年と長いので、その排出量を連続的に測定することが義務付けられている。
本発明は、原子力発電施設から排出される放射性放出ガスに含まれるトリチウムを測定するためのトリチウムサンプラに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電施設から排出される放射性放出ガス中において、トリチウムは蒸気の状態で存在することから、トリチウムを水蒸気などともに液体の状態にしてから回収し、その液体中のトリチウムの量を測定することによって、全放射性放出ガス中に含まれるトリチウムの量が推定されていた。
従来、トリチウムを液体にする場合、原子力発電施設から排出されるガスをサンプリングし、そのガスを−60℃以下に冷却してトリチウムを凍らせた後で溶解する方法が採用されていた(例えば、特許文献1〜3)
しかるに、上記の方法は、蒸気の状態のトリチウムを、一旦凍らせた後に溶解する必要があり、基本的に間欠的な捕集システムとなる。しかし、トリチウムの測定は、原則的に連続計測を行わなければならないため、従来は、水分を凍結・溶解させる系統を少なくとも2系統用意しなければならず、また、交互に凍結・溶解を繰り返す複雑な間欠運転を行わなければならなかった。
【0003】
かかる方法の問題を解決する技術として、トリチウムを凍らせずに、液体のままで採取する方法が開示されている(従来例1:特許文献4)。この方法は、除湿ユニットを設けて、放射性放出ガスからトリチウムや水蒸気などの水分を分離するものであり、放射性放出ガスに含まれるトリチウムを凍結させずに回収することができるので、一系統のシステムであっても連続して液体状のトリチウムを回収することができる。
【0004】
しかるに、従来例1の方法では、除湿ユニットによって放射性放出ガスから水分を分離することができるものの、分離された水分は、蒸気相と液体相の2相を有する状態で存在している。このため、従来例1の方法には、蒸気相の水分を冷却凝集して液体に戻すための冷却手段が必要であるから、除湿ユニットを設けた分だけ装置が大型化するし、構成が複雑になるという問題がある。
【0005】
【特許文献1】特開2001‐330695
【特許文献3】特開平11‐064532
【特許文献2】特開平06‐331791
【特許文献4】特開平11‐248882
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑み、特別な装置を設けることなく、トリチウムを凍結させることなく回収することができ、装置を小型化することができるトリチウムサンプラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明のトリチウムサンプラは、トリチウムを含む放射性放出ガスからトリチウムを液体として回収するためのトリチウムサンプラであって、該トリチウムサンプラが、放射性放出ガスを冷却する冷却装置を備えており、該冷却装置が、前記放射性放出ガスに接触し、該放射性放出ガスを冷却する冷却部と、該冷却部において前記放射性放出ガスから吸収した熱を放出する放熱部と、該放熱部と前記冷却部との間に設けられた熱電変換素子とからなることを特徴とする。
第2発明のトリチウムサンプラは、第1発明において、前記冷却部が、裏面が、前記熱電変換素子に取り付けられる基板部材と、該基板部材の表面に立設された複数本の針状部材とからなることを特徴とする。
第3発明のトリチウムサンプラは、第1または第2発明において、前記放射性放出ガスが導入される冷却室を備えており、該冷却室内と、前記熱電変換素子との間を液密に分離する遮断材が設けられていることを特徴とする。
第4発明のトリチウムサンプラは、第1、2または第3発明において、前記熱電変換素子と前記冷却部および前記放熱部の間に、シリコングリースが塗布されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
第1発明によれば、熱電変換素子に電圧を加えれば、冷却部の熱を吸収して、放熱部に伝達することができるから、冷却部の温度を低下させることができる。すると、冷却部によって放射性放出ガスを冷却することができるから、放射性放出ガスに含まれているトリチウムを冷却部の表面に水滴として付着させることができ、その水滴を回収することができる。しかも、熱電変換素子と電源があれば冷却部を作動させることができるから、冷却装置の構造を簡単かつコンパクトにすることができる。よって、トリチウムサンプラ自体の構造も簡単かつコンパクトにすることができるから、トリチウムサンプラを持ち運びできる程度の大きさに構成することができる。
第2発明によれば、冷却部が複数本の針状部材を備えているので、放射性放出ガスと冷却部の接触面積を大きくすることができる。しかも、放射性放出ガスが冷却部を通過するときの抵抗が大きくなるので、冷却部における放射性放出ガスの滞留時間を長くすることができる。よって、冷却装置による放射性放出ガスの冷却効率を向上させることができ、トリチウムを含む水分の回収効率も向上させることができる。また、針状部材の先端を鉛直下方に向けておけば、針状部材に付着した水分は針状部材の先端に向って流れ、先端まで流れると水滴がそれほど大きくならなくても落下するので、水分の回収時間を短くすることができる。
第3発明によれば、熱電変換素子が、遮断材によって放射性放出ガスが供給される冷却室から液密に隔離されているので、放射性放出ガスに含まれる水分の影響で、熱電変換素子が損傷することを防ぐことができる。しかも、作業終了後、冷却室内および冷却部に水などを吹付けて表面に付着している物質を簡単に洗い流すことができるし、また、冷却室内および冷却部に水などを吹付けても熱電変換素子が損傷することがないので、メンテナンスが容易になる。
第4発明によれば、シリコングリースを配置したことによって、冷却部から熱電変換素子、および、熱電変換素子から放熱部への熱伝導性を向上させることができる。よって、冷却装置による放射性放出ガスの冷却効率を向上させることができ、トリチウムを含む水分の回収効率も向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明のトリチウムサンプラは、原子力発電施設から排出される放射性放出ガスに含まれるトリチウムを液体として回収するために使用されるものであり、放射性排出ガスを冷却する冷却装置の冷却源として、熱電変換素子を利用したことによって、冷却装置をコンパクトな構成としたことに特徴を有するものである。
【0010】
まず、本発明のトリチウムサンプラによるトリチウム回収作業の概略を説明する。
図2は本実施形態のトリチウムサンプラ1の概略ブロック図である。同図において、符号EPは原子力施設の排気手段を示している。また符号5は、例えば真空ポンプ等の公知のポンプを示している。このポンプ5を作動させると、排気手段EPから、電磁弁等のサンプリング手段2を介してトリチウムサンプラ1内に放射性排出ガスが取り込まれる。
トリチウムサンプラ1内に取り込まれた放射性排出ガスは、粉塵等を除去するためのフィルタ3を通してから、トリチウムを液体として回収する回収手段4の冷却室4a内に供給される。
回収手段4の冷却室4a内に供給された放射性排出ガスは、冷却室4a内に設けられている冷却装置10の冷却部11によって冷却される。すると、冷却装置10の冷却部11の表面に、トリチウムや水蒸気、水溶性物質等を結露として付着させることができる。そして、付着した結露がある程度の大きさまで成長した段階で、冷却装置10を逆転運転させれば、結露は冷却部11の表面から離れて落下するから、落下した水滴を集水タンク7集めれば、トリチウムを液体として回収できる。
そして、トリチウムが除去されたガスは電磁弁等の排出手段6から排出される。
【0011】
つぎに、本発明の特徴である冷却装置10を説明する。
図1(A)は本実施形態のトリチウムサンプラ1における冷却装置10の概略説明図であり、(B)は熱電変換素子20の概略説明図である。図3は本実施形態のトリチウムサンプラ1における冷却装置10の冷却室4aの概略説明図であって、(A)は正面図であり、(B)は側面図である。図1および図3において、符号11は、前記回収手段4の冷却室4a内に配置される冷却部を示している。この冷却部11は、例えばアルミ等の熱伝導性に優れた素材によって形成された部材であり、板状の基板部材11aと、この基板部材11aの表面に立設された複数本の針状部材11bとから構成されている。この針状部材11bは、その先端が、鉛直下方に向くように配設されており、かつ、その先端が、冷却室4a内に放射性排出ガスを導入する導入口4hよりも下方に位置するように配設されている。
このため、導入口4hより冷却室4a内に導入された放射性排出ガスは、冷却部11の針状部材11bに確実に接触して冷却されるのである。
【0012】
また、符号12は、前記冷却部11が放射性放出ガスから吸収した熱を外部に放出するための放熱部を示している。この放熱部12は、例えばアルミやステンレス等の素材によって形成された板状の部材である。
【0013】
図1(A)に示すように、前記冷却部11と前記放熱部12との間には、熱電変換素子20が配置されている。図1(B)に示すように、熱電変換素子20は、いわゆるペルチェ素子であり、n型半導体21とp型半導体22とが電極23aによって連結された複数の熱電変換部材PBが連結電極23bによって直列に連結されて熱電変換モジュールを形成しており、この熱電変換モジュールが、電極23aに接触する放熱側絶縁体24aと連結電極23bに接触する吸熱側絶縁体24bによって挟まれた状態で固定された構造を有するものである。そして、この熱電変換素子20は、前記冷却部11と前記放熱部12との間に、放熱側絶縁体24aが放熱部12に接触し、吸熱側絶縁体24bが冷却部11に接触するように配設されており、電極23aと連結電極23bが、図示しない直流電源に連結されている。
【0014】
このため、直流電源によって熱電変換素子20に電圧を加えれば、熱電変換素子20は、吸熱側絶縁体24bを介して冷却部11の熱を吸収して、放熱側絶縁体24aを介して放熱部12その熱を伝達して、放熱部12から外部に熱を放出することができる。すると、冷却部11の温度を、例えば、通常運転時は外気の温度に対して最大では45度以上低い温度まで下げることができるから、冷却部11によって回収手段4の冷却室4a内に供給された放射性放出ガスを冷却することができ、放射性放出ガスに含まれている、トリチウムの水蒸気や水溶性物質等の水蒸気を冷却部11の表面に水滴として付着させることができる。
しかも、熱電変換素子20と直流電源があれば冷却部11を冷却することができ、一般的な冷凍機等のように液体や気体の冷却媒体を必要としないから、冷却装置10の構造を簡単かつコンパクトにすることができる。そして、冷却装置10の構造が簡単かつコンパクトな構成となるから、トリチウムサンプラ1自体の構造も簡単かつコンパクトにすることができ、トリチウムサンプラ1を持ち運びできる程度の大きさに構成することができる。
【0015】
さらに、冷却部11が複数本の針状部材11bを備えているので、放射性放出ガスと冷却部11との接触面積を大きくすることができる。しかも、放射性放出ガスは、冷却部11の針状部材11b同士の間を通過することになるが、そのときの流動抵抗が大きくなるので、冷却部11における放射性放出ガスの滞留時間を長くすることができる。よって、冷却装置11による放射性放出ガスの冷却効率を向上させることができ、トリチウムを含む水分の回収効率も向上させることができる。そして、針状部材11bの先端が鉛直下方に向いているから、針状部材11bに付着した水分はその先端に向かって流れる。すると、針状部材11bの先端では、水滴と針状部材11bの接触面積が小さくなるので、水滴がそれほど大きくならなくいうちに落下するから、水分の回収時間を短くすることができる。
【0016】
なお、各熱電変換部材PBの各半導体21,22を、隣接する半導体同士の間に隙間ができるように構成しておけば、熱電変換素子20全体としての耐熱衝撃性を高くすることができる。そして、柔軟性を有する素材、例えば、柔軟性プラスチック等によって形成されたセパレータ25に各半導体21,22を固定するようにしておけば、熱電変換素子20に柔軟性を付与することができ、その耐衝撃性を高めることができる。
【0017】
さらになお、放熱部12の外面にヒートシンク15bと放熱用のファン15aを備えた放熱手段15を設けておけば、放熱部12における放熱性能を高くすることができ、放熱部12の温度を低く保つことができるから、熱電変換素子20による冷却部11の熱吸収効率を高くすることができ、冷却部11の温度をより低く保つことができる。
【0018】
また、熱電変換素子20の吸熱側絶縁体24bと冷却部11の間、および熱電変換素子20の吸熱側絶縁体24bと冷却部11の間にシリコングリース13を配置しておけば、冷却部11から熱電変換素子20、および、熱電変換素子20から放熱部12への熱伝導性を向上させることができるから、冷却装置10による冷却部11の冷却効率、つまり冷却装置10による放射性放出ガスの冷却効率を向上させることができ、放射性放出ガスに含まれるトリチウムを含む水分の回収効率も向上させることができる。
なお、熱電変換素子20と冷却部11および放熱部12の間に設ける材料は、シリコングリースに限られず、熱電変換素子20と冷却部11および放熱部12の間の熱伝導性を向上させることができるものであればアルミやステンレス鋼などの熱伝導性の高い素材によって形成された部材を設けてもよく、とくに限定はない。
【0019】
また、冷却装置10は、冷却室4の上壁4bに設けられた貫通孔4hに液密に取り付けられており、その冷却部11のみが冷却室4a内に配設されている。そして、熱電変換素子20および放熱部12は、冷却室4aを形成する上壁4bによって冷却室4aから液密に隔離されている。冷却室4aは、その内部が上壁4bおよび下壁4cによって液密に密封された空間となっており、放射性放出ガスが導入される導入口4hと結露した水分を集水タンク7に排出する排出口4dとだけで外部と連通している。
このため、冷却室4aに放射性放出ガスが導入されても、放射性放出ガスに含まれる水分の影響で、熱電変換素子20が損傷することを防ぐことができる。
しかも、冷却室4a内は、液密に密封された空間となっているので、作業終了後、冷却室4a内および冷却室4a内に配設されている冷却部11に、導入口4hや排出口4dから水などを吹付ければ、冷却部11の表面に付着している物質を簡単に洗い流すことができるし、また、冷却室4a内および冷却部11に水などを吹付けても熱電変換素子20が損傷することがないので、メンテナンスが容易になる。
上記の上壁4bが、特許請求の範囲にいう遮断材である。
【0020】
なお、冷却部11および放熱部12の間に、熱電変換素子20の周囲を囲むように、例えばシリコンゴムやプラスティック等の遮断部材14を設け、遮断部材14の端部を冷却部11および放熱部12に液密に取り付けてもよい。この場合、熱電変換素子20を外部から液密に隔離できるから、熱電変換素子20を冷却室4a内に配置しても、冷却部11によって冷却された水分が、熱電変換素子20に付着することを防ぐことができる。すると、放射性放出ガスに含まれる水分の影響で、熱電変換素子20が損傷することを防ぐことができるし、冷却室4a外に配置されている部分が小さくなるので、装置をより一層コンパクトにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明のトリチウムサンプラは、トリチウムの回収だけでなく、腐食性ガス以外の全ての気体を結露させて回収する装置として使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(A)は本実施形態のトリチウムサンプラ1における冷却装置10の概略説明図であり、(B)は熱電変換素子20の概略説明図である。
【図2】本実施形態のトリチウムサンプラ1の概略ブロック図である。
【図3】本実施形態のトリチウムサンプラ1における冷却装置10の冷却室4aの概略説明図であって、(A)は正面図であり、(B)は側面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 トリチウムサンプラ
10 冷却装置
11 冷却部
12 放熱部
13 シリコングリース
14 遮断部材
20 熱電変換素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリチウムを含む放射性放出ガスからトリチウムを液体として回収するためのトリチウムサンプラであって、
該トリチウムサンプラが、放射性放出ガスを冷却する冷却装置を備えており、
該冷却装置が、
前記放射性放出ガスに接触し、該放射性放出ガスを冷却する冷却部と、
該冷却部において前記放射性放出ガスから吸収した熱を放出する放熱部と、
該放熱部と前記冷却部との間に設けられた熱電変換素子とからなる
ことを特徴とするトリチウムサンプラ。
【請求項2】
前記冷却部が、
裏面が、前記熱電変換素子に取り付けられる基板部材と、
該基板部材の表面に立設された複数本の針状部材とからなる
ことを特徴とする請求項1記載のトリチウムサンプラ。
【請求項3】
前記放射性放出ガスが導入される冷却室を備えており、
該冷却室内と、前記熱電変換素子との間を液密に分離する遮断材が設けられている
ことを特徴とする請求項1または2記載のトリチウムサンプラ。
【請求項4】
前記熱電変換素子と前記冷却部および前記放熱部の間に、シリコングリースが塗布されている
ことを特徴とする請求項1、2または3記載のトリチウムサンプラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−46927(P2006−46927A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−223999(P2004−223999)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(504293377)田所電機システム株式会社 (1)
【Fターム(参考)】