説明

トリチウムモニタ

【課題】吸着剤の交換作業のないクリーンなキャリヤガスを生成できるトリチウムモニタを得る。
【解決手段】測定点のガスをサンプリングする入口弁1と、サンプルガス中の水蒸気をサンプルガスから分離してキャリヤガス中に放出する水蒸気分離装置5と、トリチウムモニタの周辺空気を取り込んでキャリヤガスを生成するキャリヤガス生成装置9と、キャリヤガスに含まれるイオン及び帯電微粒子を捕集するイオントラップ10と、イオントラップ10からキャリヤガス中に離脱するダストを除去するダストフィルタ11と、ダストを除去したキャリヤガスを通気してバックグラウンド放射線を測定する補償用電離箱13と、水蒸気分離装置5によりサンプルガスから分離された水蒸気をキャリヤガスで搬送して、当該水蒸気に含まれるトリチウムを測定する測定用電離箱14とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はトリチウムモニタに関し、特に、原子力炉施設、放射性同位元素使用施設、放射線発生装置使用施設等から放出されるガス状廃棄物中のトリチウムを、連続測定するトリチウムモニタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のトリチウムモニタとしては、トリチウムサンプラとトリチウム測定装置としての液体シンチレーションカウンタを融合させ、トリチウムのサンプリングとトリチウムの測定プロセスの自動化を図ったものがあり、サンプルガス中の水蒸気を冷却凝縮して水の形でトリチウムを採取し、採取した水と液体シンチレータを混合して水に含まれるトリチウムのβ線とシンチレータが反応したときに発する蛍光を検出し、それに基づく信号パルスを計数するという一連の工程を自動化している(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
しかし、この装置では、採取した水に自然界に存在する放射性同位元素が混入してしまうため、トリチウムが放出する放射線よりもエネルギーが高い放射線を数多く測定することになり、このことがトリチウムモニタの測定感度の障害になっている。この障害を除去するために、自然界に存在する放射性同位元素を除去する機能を備えたものが提案されており、サンプルガス中の水蒸気を自然環境中に存在するラドン・トロンから中空糸膜で分離し、分離した水蒸気をキャリヤガス中に放出し、その水蒸気を含むキャリヤガスを電離箱に導入し、キャリヤガスを循環させて水蒸気を蓄積しながらトリチウムを連続測定している。同様に、サンプルガス中の水蒸気を高温に加熱された水素イオン導電性セラミックスで分解し、生成した水素イオンをサンプルガスから分離して水素としてキャリヤガス中に放出し、その水素を含むキャリヤガスを電離箱に導入し、キャリヤガスを循環させて水素を蓄積しながらトリチウムを連続測定している。いずれもキャリガスとして窒素ガスを使用しており、窒素ガスはボンベから供給している(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
しかしながら、窒素ガスをボンベから供給すると、ボンベを頻繁に交換する作業が発生する。そのため、これを解決するために、吸着剤を使用して空気から水蒸気とラドン・トロンを除去する機能を備え、ボンベレス化を実現した装置が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0005】
【特許文献1】特開平8−75863号公報
【特許文献2】特開2004−151048号公報
【特許文献3】特開平3−189587号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3に記載されているような従来のトリチウムモニタは、空気を取り入れて圧縮・移送するコンプレッサにおいて、空気を圧縮する時に微小水滴の帯電ミストが発生し、その一部が吸着剤をすり抜けて排出され、また、ラドン・トロンの娘核種の一部が吸着剤から離脱して排出されてしまい、測定対象核種を搬送するキャリヤガス中に混入してしまうという問題点があった。このようにして、排出されてしまった帯電ミストやラドン・トロンの娘核種から放射される放射線は、測定対象核種の放射線を測定する場合に、バックグラウンドの放射線として混入してしまう結果となる。
【0007】
測定対象核種によっては、測定対象核種から放射される放射線のエネルギーよりも、ラドン・トロンの娘核種から放射される放射線のエネルギーの方が大きいこともある。そのため、測定対象核種のトリチウム測定を行う測定用電離箱とバックグラウンドの測定を行う補償用電離箱の出力電流の差をとって正味の電流値を求め、その結果に基づき、トリチウムの放射能を求める測定方法があるものの、この際に、帯電ミスト及びラドン・トロンの娘核種はバックグラウンド放射線測定値の増加の原因となり、測定値の揺らぎが増大するため、トリチウムの測定感度の障害となっている。このため、帯電ミスト及びラドン・トロンの娘核種を出来る限り除去することが望ましいが、従来のトリチウムモニタにおいては、上述したように、吸着剤をすり抜けて排出されてしまうため、結果として、トリチウムを高感度で測定することができないという問題点があった。
【0008】
また、ボンベレス化の結果として吸着剤の交換作業という新たな保守作業が発生するという問題点があった。
【0009】
この発明はかかる問題点を解決するためになされたものであり、保守作業を軽減しながら、かつ、バックグラウンド放射線の原因となる帯電物質やダストを除去して、トリチウムを精度良く測定するためのトリチウムモニタを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、測定点のガスをサンプリングして水蒸気の形で内包するトリチウムを測定するトリチウムモニタであって、上記測定点のガスをサンプリングするサンプリング手段と、上記サンプリング手段によってサンプリングされたサンプルガス中の水蒸気を上記サンプルガスから分離してキャリヤガス中に放出する水蒸気分離手段と、上記トリチウムモニタの周辺空気からキャリヤガスを生成するキャリヤガス生成手段と、上記キャリヤガスに含まれるイオン及び帯電微粒子を捕集する帯電物質捕集手段と、上記帯電物質捕集手段から上記キャリヤガス中に離脱するダストを除去するダスト捕集手段と、上記ダストを除去した上記キャリヤガスを通気してバックグラウンド放射線を測定するバックグラウンド測定手段と、上記水蒸気分離手段により上記サンプルガスから分離された水蒸気を、上記バックグラウンド測定手段から排出される上記キャリヤガスで搬送して、上記水蒸気に含まれるトリチウムを測定するトリチウム測定手段とを備えたトリチウムモニタである。
【発明の効果】
【0011】
この発明は、測定点のガスをサンプリングして水蒸気の形で内包するトリチウムを測定するトリチウムモニタであって、上記測定点のガスをサンプリングするサンプリング手段と、上記サンプリング手段によってサンプリングされたサンプルガス中の水蒸気を上記サンプルガスから分離してキャリヤガス中に放出する水蒸気分離手段と、上記トリチウムモニタの周辺空気からキャリヤガスを生成するキャリヤガス生成手段と、上記キャリヤガスに含まれるイオン及び帯電微粒子を捕集する帯電物質捕集手段と、上記帯電物質捕集手段から上記キャリヤガス中に離脱するダストを除去するダスト捕集手段と、上記ダストを除去した上記キャリヤガスを通気してバックグラウンド放射線を測定するバックグラウンド測定手段と、上記水蒸気分離手段により上記サンプルガスから分離された水蒸気を、上記バックグラウンド測定手段から排出される上記キャリヤガスで搬送して、上記水蒸気に含まれるトリチウムを測定するトリチウム測定手段とを備えたトリチウムモニタである。これにより、周辺空気からキャリヤガスを生成するキャリヤガス生成手段を備えたので、吸着剤の交換作業等の保守作業が不要となる。また、上記キャリヤガスに含まれるイオン及び帯電微粒子を捕集する帯電物質捕集手段と、上記帯電物質捕集手段から離脱して上記キャリヤガス中に放出されるダストを除去するダスト捕集手段とを備えているので、帯電物質やダストを含まないクリーンなキャリヤガスを生成できるので、トリチウムを精度よく測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1に係るトリチウムモニタを図に基づいて説明する。この発明に係るトリチウムモニタによって測定する測定点のガスは、例えば、原子力炉施設、放射性同位元素使用施設、放射線発生装置使用施設等の排気筒(図示せず)またはトリチウムを取り扱っている室内(図示せず)の空気である。また、この発明に係るトリチウムモニタは、測定点のガスをサンプリングして水蒸気の形で内包するトリチウムを測定するものである。図1は実施の形態1に係わるトリチウムモニタの構成を示すもので、測定点からサンプリングされたサンプル空気(サンプルガス)が吸入される入口弁1(サンプリング手段)と、サンプル空気からダスト等を除去する吸気フィルタ2と、サンプル空気の流量を測定するサンプル空気流量計3と、サンプル空気の露点(水蒸気密度)を測定するサンプル空気露点計4(サンプルガス水蒸気密度測定手段)とが設けられている。
【0013】
また、実施の形態1に係るトリチウムモニタには、さらに、キャリヤガス生成用にトリチウムモニタの周辺空気を吸入する周辺空気入口フィルタ7と、吸入した周辺空気を加圧するコンプレッサ8と、当該周辺空気からキャリヤガスを生成するキャリヤガス生成装置9(キャリヤガス生成手段)と、キャリヤガスに含まれるイオン及び帯電微粒子を捕集するイオントラップ10(帯電物質捕集手段)と、イオントラップ10から時間経過とともに離脱してキャリヤガス中にダストとなって放出される帯電微粒子を除去するダストフィルタ11(ダスト捕集手段)と、キャリヤガスの流量を測定するキャリヤガス流量計12と、ダストを除去した上記キャリヤガスを通気してバックグラウンド放射線を測定する補償用電離箱13(バックグラウンド測定手段)とが設けられている。さらに、水蒸気分離装置5(水蒸気分離手段)が設けられており、水蒸気分離装置5には、サンプル空気露点計4により露点が測定されたサンプル空気と、ダストが除去され補償用電離箱13によりバックグラウンド放射線が測定されたキャリヤガスとが、別々に導入される。水蒸気分離装置5は、入口弁1によってサンプリングされたサンプル空気中の水蒸気をサンプル空気から分離してキャリヤガス中に放出する。また、水蒸気分離装置5には、水蒸気が分離された後のサンプル空気が導入されるポンプ16と、当該水蒸気を搬送しているキャリヤガスが導入される測定用電離箱14とが並列に接続されている。測定用電離箱14(トリチウム測定手段)は、水蒸気分離装置5によりサンプルガスから分離された水蒸気を、補償用電離箱13によりバックグラウンド放射線が測定されたキャリヤガスで搬送して、当該水蒸気に含まれるトリチウムを測定する。測定用電離箱14には、水蒸気とキャリヤガスとの混合ガスの露点(水蒸気密度)を測定するキャリヤガス露点計15(キャリヤガス水蒸気密度測定手段)が接続されている。キャリヤガス露点計15から排出されるキャリヤガスと、ポンプ16から排出されるサンプル空気とは下流にて合流されて出口弁17からサンプリングしてきた排気筒またはトリチウムを取り扱っている室内へ排出される構成になっている。
【0014】
また、実施の形態1に係るトリチウムモニタには、図1に示すように、さらに、測定部18と、制御部19とが設けられている。測定部18には、サンプル空気流量計3、サンプル空気露点計4、キャリヤガス流量計12、補償用電離箱13、測定用電離箱14、および、キャリヤガス露点計15からの出力が入力される。また、制御部19は、コンプレッサ8、キャリヤガス生成装置9、および、ポンプ16の動作の制御を行う。
【0015】
次に、動作について説明する。測定点からサンプリングされたサンプル空気は入口弁1から吸入され、吸気フィルタ2でサンプル空気中に含まれる粒子状のダスト及び放射性物質が除去され、サンプル空気流量計3により流量が測定され、サンプル空気露点計4によりサンプル空気の露点が測定される。露点が測定されたサンプル空気は、水蒸気分離装置5に導入されてサンプル空気から水蒸気が分離され、乾燥したサンプル空気が水蒸気分離装置5から排出される。水蒸気分離装置5から排出されたサンプル空気は、ポンプ16から出口弁17に移送されて、出口弁17からサンプリングしてきた排気筒またはトリチウムを取り扱っている室内へ戻される。
【0016】
一方、周辺空気入口フィルタ7からはトリチウムモニタ周辺の空気が吸入され、コンプレッサ8で加圧され、キャリヤガス生成装置9に導入されてキャリヤガスが生成される。生成されたキャリヤガスは、イオントラップ10に導入されてそこに含まれる帯電ミスト及びプラスに帯電したラドン・トロンの娘核種が捕集される。イオントラップ10で捕集された帯電ミストは、時間経過とともに蒸発して水蒸気になり、イオントラップ10から離脱してキャリヤガス中に放出される。捕集されたラドン・トロンの娘核種は、他の粒子状物質に付着して粒子径が徐々に成長してダストとなり、最終的にイオントラップ10を離脱してキャリヤガス中に放出される。キャリヤガス中に放出されたダストは、ダストフィルタ11で除去される。ダストを除去されたキャリヤガスは、キャリヤガス流量計12で流量が測定され、補償用電離箱13で残留放射能から放出される放射線と環境から進入する放射線を合わせたバックグラウンド放射線が測定され、水蒸気分離装置5に導入される。水蒸気分離装置5に導入されたキャリヤガスは、水蒸気分離装置5においてサンプルガスから分離された水蒸気を搬出して測定用電離箱14に導入する。測定用電離箱14は、水蒸気に含まれるトリチウムから放出される放射線と、バックグラウンド放射線が合計された放射線が測定される。測定用電離箱14から排出されたキャリヤガスは、キャリヤガス露点計15で露点が測定され、サンプル空気と合流し、出口弁17を経由してサンプリングしてきた排気筒またはトリチウムを取り扱っている室内へ排出される。
【0017】
補償用電離箱13及び測定用電離箱14には、互いに逆電圧が印加され、両方の電離電流の差、すなわち、バックグラウンド放射線が除去され、トリチウムから放出された放射線のみによる出力が測定部18に入力され、それに基づきトリチウム濃度が演算される。サンプル空気露点計4及びキャリヤガス露点計15で測定された露点は測定部18に入力され、それぞれサンプル空気水蒸気密度及びキャリヤガス水蒸気密度、すなわち、サンプル空気単位体積当たりのそれぞれの水分重量に変換され、前記トリチウム濃度に、サンプル空気水蒸気密度とキャリヤガス水蒸気密度の比を掛け算することにより、水蒸気分離装置5の水蒸気分離効率に係わる補償演算が行われ、サンプル空気のトリチウム濃度として表示される。なお、水蒸気分離効率が概ね一定であれば、水蒸気分離効率に係わる補償係数は定数として設定できるので、高精度の測定が必要でない場合、サンプル空気露点計4及びキャリヤガス露点計15はなくてもよい。
【0018】
図2は水蒸気分離装置5の構成を示すもので、図2(a)において、サンプル空気入口53から吸入された空気は、中空糸膜51の内側を流れてサンプル空気出口54から排出される。一方、キャリヤガスは、キャリヤガス入口55から吸入されて中空糸膜51の外側かつ外筒52の内側を流れ、キャリヤガス出口56から排出される。キャリヤガスは極度に乾燥しているため、サンプル空気との水蒸気圧の差により、水蒸気は中空糸膜51の外部に移動し、サンプル空気から水蒸気が分離されてキャリヤガス中に排出される。キャリヤガス中に排出された水蒸気はキャリヤガスに搬送されてキャリヤガス出口56から排出される。中空糸膜51は、図2(b)に示すように、選択的に水蒸気を透過させる性質を有しており、内部と外部の水蒸気の差圧に依存して水蒸気が分離されるため、サンプルガス中のラドン・トロンの娘核種、その他のガス状放射性物質に対してトリチウムを含む水蒸気を分離することができる。
【0019】
周辺空気入口フィルタ7は、トリチウムモニタの周囲から吸入された空気から粒子状物質を除去し、コンプレッサ8は粒子状物質が除去された空気を4気圧程度に加圧する。4気圧程度に加圧された空気では、飽和水蒸気圧を超える水蒸気が凝縮されて細かい水滴、すなわちミストが発生する。図3はキャリヤガス生成装置9の構成を示すものである。図に示されるように、複数の吸着槽が並列に設けられている。図3においては、2つの吸着槽が設けられている例について示しているが、この場合に限らず、必要に応じた任意の個数を設けるようにしてもよい。図3において、ミストセパレータ91は、コンプレッサ8で発生したミストをドレンに成長させて除去し、オートドレン92はドレンを自動的に排出する。ミストを除去された空気は、第1の三方電磁弁94aから第1の吸着槽93aを通って第2の三方電磁弁94bから排出され、キャリヤガスとしてバッファータンク95に蓄えられる。バッファータンク95に蓄えられたキャリヤガスは、圧力計96で圧力が測定され、減圧弁97で大気圧近くに減圧されてキャリヤガスとなる。キャリヤガスとして供給する流量は、流量調整弁98で調整され、余分なキャリヤガスは第3の三方電磁弁94cを経由し、吸着したガスを減圧して離脱再生中の第2の吸着槽93bに導入され、離脱したガスを搬送して第3の三方電磁弁94dを経由して、トリチウムモニタ周辺の大気中に排出される。第1の吸着槽93aと第2の吸着槽93bは、吸着と離脱が交互に切り替わるように、第1の吸着槽93aについては第1の三方電磁弁94aと第2の三方電磁弁94bの流れ方向と、第2の吸着槽93bについては第3の三方電磁弁94cと第4の三方電磁弁94dの流れ方向が、それぞれ逆転して切り換えられる。なお、第1の吸着槽93a及び第2の吸着槽93bは、吸着剤として活性炭モレキュラシーブスを使用し、活性炭モレキュラシーブスの孔径を選択することにより、例えば、加圧時にサンプル空気から窒素ガスを選択的に通過させ、酸素、炭酸ガス及びトリチウム測定の障害になる水蒸気及びラドン・トロンを同時に吸着させてキャリヤガスとしての窒素を生成し、大気圧時には吸着した前記ガスを解放する。このように、キャリヤガス生成装置9として、複数の吸着槽93a,93bを並列に備えて交互に吸着と離脱を行うようにしたので、吸着剤を再生して繰り返し使用することができる。
【0020】
図4はイオントラップ10の構成を示すもので、陰極101は、例えば上下を端板で塞いだ円筒状の金属容器であり、陽極102はその容器の中心に配置された金属棒で、陽極絶縁物103は陰極101に陽極102を絶縁して固定する。キャリヤガスは、円筒状の金属容器の形状をした陰極101に設けられたイオントラップ入口104から吸入され、同じく陰極101に設けられたイオントラップ出口105から排出する。陰極絶縁物106は、陰極101を配管(図示せず)から電気的に絶縁するためのものである。直流電源107は、陽極102と陰極101間に高電圧を供給する直流電源である。キャリヤガスに含まれる帯電ミストは電界作用で、陽イオンは陰極101に、陰イオンは陽極102に吸引され、放電して電極に付着し、その後は蒸発して水蒸気になり、サンプル空気中に離脱する。プラスに帯電したラドン・トロンの娘核種は、同様に電界作用で陰極101に吸引され、放電して陰極101に付着し、既に電極に付着している粒子状物質、及び、その後に電極に捕集される粒子状物質により粒子径が徐々に成長し、最終的に陰極101から離脱してサンプル空気中に放出される。
【0021】
以上のように、本実施の形態では、キャリヤガス生成装置9として、複数の吸着槽93a,93bを並列に備えて交互に吸着と離脱を行い、吸着剤を再生して繰り返し使用できるようにしたので、キャリヤガス用ボンベが不要になり、頻繁なボンベ交換作業等の保守作業から解放されるとともに、吸着剤の保守作業も不要となり、保守性が格段に向上する。また、キャリヤガスに含まれるイオン及び帯電微粒子を捕集して粒子径を成長させるイオントラップ10と、粒子径が大きくなりイオントラップ10から離脱するダストを捕集して除去するダストフィルタ11とにより、キャリヤガス生成装置9から漏れ出たラドン・トロンのプラスに帯電した娘核種イオン及び帯電ミストを除去し、キャリヤガスを障害核種フリー、障害イオンフリーのクリーンガスに改善できるので、測定用電離箱14と補償用電離箱13の出力電流の差をとって正味の電流値を求め、その結果に基づきトリチウムの放射能を求める測定において、トリチウムを高感度に測定することができる。
【0022】
実施の形態2.
以下、この発明の実施の形態2に係るトリチウムモニタを図に基づいて説明する。図5は実施の形態2に係わるトリチウムモニタの構成を示すもので、図5が図1と異なる箇所は、図1の水蒸気分離装置5が水素・水蒸気分離装置6に置き代わったことと、キャリヤガス露点計15がなく水素・水蒸気分離装置排気露点計20が設けられていることとの2箇所である。他の構成については、図1と同様であるため、同一符号を付して示し、ここではその説明を省略する。なお、本実施の形態においては、測定部18には、サンプル空気流量計3、サンプル空気露点計4、キャリヤガス流量計12、補償用電離箱13、測定用電離箱14、および、水素・水蒸気分離装置排気露点計20からの出力が入力される。また、制御部19は、コンプレッサ8、キャリヤガス生成装置9、ポンプ16、および、水素・水蒸気分離装置6の動作の制御を行う。
【0023】
図5において、水素・水蒸気分離装置6はサンプルガス中の水蒸気を電気分解し、酸素はサンプルガスに戻し、水素と水蒸気を分離してキャリヤガス中に放出する。水素・水蒸気分離装置排気露点計20は、水素・水蒸気分離装置6から排出される除湿されて乾燥したサンプル空気の露点を測定する。サンプル空気露点計4及び水素・水蒸気分離装置排気露点計20で測定された露点、サンプル空気流量計3及びキャリヤガス流量計12で測定された流量は測定部18に入力され、それぞれの露点はサンプル空気水蒸気密度及び水素・水蒸気分離装置排気水蒸気密度、すなわち、サンプル空気単位体積当たりのそれぞれの水分重量に変換される。サンプル空気水蒸気密度から水素・水蒸気分離装置排気水蒸気密度を引き算して除湿された水蒸気密度を求め、トリチウム濃度に、サンプル空気水蒸気密度と除湿された水蒸気密度の比を掛け算し、それにキャリヤガス流量とサンプル空気流量の比を掛け算することにより、水蒸気分離装置5の水蒸気分離効率に係わる補償演算、更に、流量の違いによる補償演算が行われ、サンプル空気のトリチウム濃度として表示される。
【0024】
図6は、水素・水蒸気分離装置6の構成を示すもので、サンプル空気はサンプル空気入口61からサンプル空気室62に導入され、水素・水蒸気分離膜63で水蒸気が電気分解されて水素と水蒸気が分離され、キャリヤガス室64のキャリヤガス中に放出される。除湿されて乾燥したサンプルガスは、サンプルガス出口65から排出される。キャリヤガスはキャリヤガス入口66から導入されて、分離した水素と水蒸気を搬出してキャリヤガス出口67から排出される。水素・水蒸気分離膜63はサンプル空気室62とキャリヤガス室64の境界に配置され、各面がそれぞれサンプルガスとキャリヤガスとに接触するように配置される。
【0025】
図7は水素・水蒸気分離膜63の構成を示すもので、固体電界質膜631と、固体電界質膜631の両側に設けられた触媒電極である陽極632および陰極633と、直流電源634とから構成されており、固体電界質膜631は、陽極632と陰極633に密着した構造となっている。電極の陽極632と陰極633は、多孔質の触媒作用を有する材料を使用しており、直流電源634で電極間に直流電圧を印加すると、陽極632は水蒸気を取り込んでその触媒作用で酸素イオンと水素イオンに分解し、酸素イオンは陽極632の表面で酸素ガスになりサンプルガス中に放出される。水素イオンは水分子を随伴して固体電界質膜631の内部を直流電源634の電界作用で移動し、陰極633の表面から水素ガスとなりキャリヤガス中に放出される。このとき随伴した水蒸気もキャリヤガス中に放出される。固体電界質膜631としては、例えば固体高分子電界質膜がある。この膜は、水素イオン伝導性を有する厚み200μm程度の機能膜で、電極間に直流電圧3V程度を印加することにより上記のように動作する。
【0026】
図8は固体高分子電界質膜の内部を水素イオンが水分子を随伴して移動するメカニズムを示すもので、固体高分子電界質膜はフッ素系の樹脂を主鎖に持ち、スルフォニル基SOを側鎖に持つ構造になっている。水素イオンは水分子を随伴してスルフォニル基SOに沿って移動する。この膜は手で触っても害のない電気絶縁性の透明なフィルムである。なお、電極間に加える電圧は、3V程度と低く万一漏電しても安全である。
【0027】
水素・水蒸気分離膜63において、一定の膜面積のものを使用した場合、その除湿能力は、サンプル空気の絶対湿度のみに比例し、水素・水蒸気分離装置6の除湿能力は次式で与えられる。
【0028】
D=6×10×p×S‥(1)
ここで、D:水素・水素分離装置の除湿能力(g/h)、
p:サンプル空気の水蒸気密度(g/cm)、
S:水素分離膜の有効面積(cm)とする。
【0029】
したがって、サンプル空気露点計4でサンプル空気の露点を測定し、その結果に基づき測定部18で水蒸気密度を求めることにより、上記(1)式から水素・水蒸気分離装置6の除湿能力が求められる。水素・水蒸気分離装置6の除湿能力をキャリヤガス流量で割り算することにより、キャリヤガスの水蒸気密度が求められる。本実施の形態2の場合は、水蒸気の一部が水素に分解されるので、実施の形態1のようにしてサンプル空気とキャリヤガスの露点の測定結果から水蒸気密度の比を求めることはできないが、その代わりに水素・水蒸気分離膜63の除湿能力がサンプル空気の水蒸気密度に比例する性質を利用して、サンプル空気露点とキャリヤガス流量からキャリヤガスの水蒸気密度を間接的に求めることもでき、この方法によれば水素・水蒸気分離装置排気露点計20をなくすことができる。
【0030】
なお、上記実施の形態1では中空糸膜51によりサンプル空気から水蒸気を分離する場合について述べたが、図7に示すように水素・水蒸気分離膜63を設け、それによりサンプル空気の水蒸気を電気分解して水素イオンを生成させ、その水素イオンに水蒸気を随伴させて水素・水蒸気分離膜63中を電界作用で移動させて分離するようにしたので、分離に要する応答時間を速くすることができる。
【0031】
なお、固体電界質膜としてここでは固体高分子電界質膜の例で説明したが、同等の機能を有するものであれば同様に適用できるのはいうまでもない。
【0032】
以上のように、本実施の形態によれば、上記の実施の形態1と同様の効果が得られるとともに、さらに、水素・水蒸気分離装置6の水素・水蒸気分離膜63が、固体電界質膜631と、固体電界質膜631の両側に設けられた触媒電極である陽極632および陰極633と、陽極632および陰極633に電圧をする印加する直流電源634とを有しているので、これらによりサンプル空気の水蒸気を電気分解して水素イオンを生成させ、その水素イオンに水蒸気を随伴させて水素・水蒸気分離膜63中を電界作用で移動させて分離するようにしたので、分離に要する応答時間を速くすることができる。
【0033】
実施の形態3.
なお、上記実施の形態1では、陰極101が円筒で、その円筒の同軸中心に陽極102を配置した形状のイオントラップ10の場合について述べたが、本実施の形態3においては、図9に示すような箱型のイオントラップ10aを用いている。他の構成については、図1と同じであるため、ここでは、図1を参照することとし、詳細な説明は省略する。
【0034】
本実施の形態3においては、図9に示すように、金属箱108の対向する2面に陰極101aと陽極102aを、それぞれ陰極絶縁パッキン106a、陽極絶縁パッキン103aを介して金属箱108に固定し、陰極101aと陽極102aに、例えばマイラーシートのような薄い絶縁シート109を取り外しが容易な糊で貼り付けて箱型のイオントラップ10aを構成した。これにより、プラスに帯電したラドン・トロンの娘核種は電界作用で陰極101aに貼り付けられた絶縁シート109上に未放電の状態で付着するため、付着している時間が長くなり、粒子径の成長が不十分な状態、すなわちダストフィルタ11のメッシュより小さいうちに離脱するものが少なくなり、ダストフィルタ11におけるラドン・トロンの娘核種の除去効率が高くなり、よりクリーンなキャリヤガスが得られる。
【0035】
以上のように、本実施の形態においては、上記の実施の形態1と同様の効果が得られるとともに、さらに、帯電物質捕集手段であるイオントラップ10aが、対向して設けられた電極として陰極101aおよび陽極102aを備え、また、これらの陰極101aおよび陽極102aに貼り付けた絶縁シート109を備えて、キャリヤガスに含まれるイオンや帯電微粒子を絶縁シート109上に捕集するようにしたので、絶縁シート109上に未放電の状態で付着するため、付着している時間が長くなり、粒子径の成長が不十分な状態、すなわち、ダストフィルタ11のメッシュより小さいうちに離脱するものが少なくなり、ダストフィルタ11におけるラドン・トロンの娘核種の除去効率が高くなり、よりクリーンなキャリヤガスを得ることができる。
【0036】
実施の形態4.
上記実施の形態1では、水蒸気分離装置5のサンプル空気の排気はポンプ16に導入され、コンプレッサ8でトリチウムモニタの周辺空気を吸入する場合について述べたが、本実施の形態においては、図10に示すように、水蒸気分離装置5から排出されるサンプル空気をコンプレッサ8に導入するようにし、キャリヤガス生成装置9から排出したガスをキャリヤガス露点計15の下流に排気するようにした。これにより、ポンプ16と周辺空気入口フィルタ7とが不要となるため、図10においては設けられていない。他の構成については、図1と同じであるため、ここでは説明を省略する。なお、本実施の形態においては、制御部19は、コンプレッサ8とキャリヤガス生成装置9とを制御する。
【0037】
このように、本実施の形態においては、水蒸気分離装置5の下流に、キャリヤガス生成装置9のサンプルガスの流れが直列になるようにコンプレッサ8を接続し、コンプレッサ8がキャリヤガス生成装置9の空気を圧縮することを利用して、入口弁1はサンプル空気のサンプリングを行う。
【0038】
以上のように、本実施の形態においては、上記の実施の形態1と同様の効果が得られるとともに、さらに、水蒸気分離装置5から排出されたサンプルガスが、キャリヤガス生成装置9に導入されてキャリヤガスに生成されるようにし、入口弁1のサンプル空気をサンプリングするポンプをキャリヤガス生成装置9の空気を圧縮して移送するコンプレッサ8に機能統合したので、ポンプ16と周辺空気入口フィルタ7とをなくすことができたため、コストを低減することができる。
【0039】
なお、水蒸気分離装置5を水素・水蒸気分離装置6に置き換えた実施の形態2および3についても、本実施の形態の構成を適用して同様の簡素化を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】この発明の実施の形態1に係わるトリチウムモニタの構成を示すブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係わるトリチウムモニタにおける水蒸気分離装置および中空子膜の構成を示した説明図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係わるトリチウムモニタにおけるキャリヤガス生成装置の構成を示すブロック図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係わるトリチウムモニタにおけるイオントラップの構成を示した説明図である。
【図5】この発明の実施の形態2に係わるトリチウムモニタの構成を示すブロック図である。
【図6】この発明の実施の形態2に係わるトリチウムモニタにおける水素・水蒸気分離装置の構成を示した説明図である。
【図7】この発明の実施の形態2に係わるトリチウムモニタにおける水素・水蒸気分離膜の構成を示した説明図である。
【図8】この発明の実施の形態2に係わるトリチウムモニタにける固体高分子電界質膜内の水素イオンと水分子の動きを示した説明図である。
【図9】この発明の実施の形態3に係わるトリチウムモニタにおけるイオントラップの構成を示した説明図である。
【図10】この発明の実施の形態4に係わるトリチウムモニタの構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0041】
1 入口弁、2 吸気フィルタ、3 サンプル空気流量計、4 サンプル空気露点計、5 水蒸気分離装置、6 水素・水蒸気分離装置、7 周辺空気入口フィルタ、8 コンプレッサ、9 キャリヤガス生成装置、10,10a イオントラップ、11 ダストフィルタ、12 キャリヤガス流量計、13 補償用電離箱、14 測定用電離箱、15 キャリヤガス露点計、16 ポンプ、17 出口弁、18 測定部、19 制御部、20 水素・水蒸気分離装置排気露点計、51 中空糸膜、52 外筒、53 サンプル空気入口、54 サンプル空気出口、55 キャリヤガス入口、56 キャリヤガス出口、61 サンプル空気入口、62 サンプル空気室、63 水素・水蒸気分離膜、64 キャリヤガス室、65 サンプル空気出口、66 キャリヤガス入口、67 キャリヤガス出口、91 ミストセパレータ、92 オートドレン、93a 第1の吸着槽、93b 第2の吸着槽、94a 第1の三方電磁弁、94b 第2の三方電磁弁、94c 第3の三方電磁弁、94d 第4の三方電磁弁、95 バッファータンク、96 圧力計、97 減圧弁、98 流量調整弁、631 固体電界質膜、632 陽極、633 陰極、634 直流電源、101,101a 陰極、102,102a 陽極、103 陽極絶縁物、103a 陽極絶縁パッキン、104 イオントラップ入口、105 イオントラップ出口、106 陰極絶縁物、106a 陰極絶縁パッキン、107 直流電源、108 金属箱、109 絶縁シート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定点のガスをサンプリングして水蒸気の形で内包するトリチウムを測定するトリチウムモニタであって、
上記測定点のガスをサンプリングするサンプリング手段と、
上記サンプリング手段によってサンプリングされたサンプルガス中の水蒸気を上記サンプルガスから分離してキャリヤガス中に放出する水蒸気分離手段と、
上記トリチウムモニタの周辺空気からキャリヤガスを生成するキャリヤガス生成手段と、
上記キャリヤガスに含まれるイオン及び帯電微粒子を捕集する帯電物質捕集手段と、
上記帯電物質捕集手段から上記キャリヤガス中に離脱するダストを除去するダスト捕集手段と、
上記ダストを除去した上記キャリヤガスを通気してバックグラウンド放射線を測定するバックグラウンド測定手段と、
上記水蒸気分離手段により上記サンプルガスから分離された水蒸気を、上記バックグラウンド測定手段から排出される上記キャリヤガスで搬送して、上記水蒸気に含まれるトリチウムを測定するトリチウム測定手段と
を備えたことを特徴とするトリチウムモニタ。
【請求項2】
上記キャリヤガス生成手段は、複数の吸着槽を並列に備えて交互に吸着と離脱を行い、上記吸着槽が吸着剤として活性炭モレキュラシーブスを使用することにより、水蒸気とラドン・トロンの両方を同時に除去することを特徴とする請求項1に記載のトリチウムモニタ。
【請求項3】
上記水蒸気分離手段は、固体電界質膜と、上記固体電界質膜の両側に設けられた触媒電極と、上記触媒電極に電圧をする印加する直流電源とを有していることを特徴とする請求項1または2に記載のトリチウムモニタ。
【請求項4】
上記サンプリング手段によってサンプリングされた上記サンプルガスの水蒸気密度を測定するサンプルガス水蒸気密度測定手段と、
上記水蒸気分離手段によって上記サンプルガスから分離された水蒸気と上記バックグラウンド放射線が測定されたキャリヤガスとの混合ガスの水蒸気密度を測定するキャリヤガス水蒸気密度測定手段と
をさらに備えたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のトリチウムモニタ。
【請求項5】
上記帯電物質捕集手段は、対向して設けられた電極と、上記電極に貼り付けた絶縁シートとを有し、
上記イオン及び上記帯電微粒子を上記絶縁シート上に捕集して粒子径を成長させることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のトリチウムモニタ。
【請求項6】
上記水蒸気分離手段から排出されたサンプルガスが、上記キャリヤガス生成手段に導入されてキャリヤガスに生成されるようにしたことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のトリチウムモニタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−126123(P2006−126123A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−317953(P2004−317953)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】