説明

トリチウムモニタ

【課題】キャリヤガスの消費量が少なく、また、吸着剤の交換作業やドレン処理が不要で保守作業が簡単であり、且つ測定感度の高いトリチウムモニタを提供する。
【解決手段】純度の高い窒素ガスをキャリヤガスとして使用し、サンプルガス100中の水蒸気を水蒸気分離器6で選択的に分離してキャリヤガス中に放出し、放出された水蒸気を含むキャリヤガスを測定用電離箱16に導入してその電離量からトリチウム濃度を求めるようにしたので、キャリヤガスをラドン、トロンおよびその娘核種やその他のガス状放射性物質から遮断することができ、高感度でトリチウム濃度を測定することができる。また、キャリアガス除湿器18でキャリアガスを除湿、再生し、漏洩した分のキャリアガスを自動補填するようにし、さらに、サンプルガスコンプレッサ7において生成されたドレンをサンプルガスの排気中で蒸発させる蒸発器29を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力炉施設、使用済燃料再処理施設、放射性同位元素使用施設、粒子線使用施設等の建屋内の空気または排気設備から放出されるガス状廃棄物(サンプルガス)に含まれるトリチウムの濃度を連続的に測定するトリチウムモニタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
トリチウムモニタは、原子力炉施設、使用済燃料再処理施設、放射性同位元素使用施設、粒子線使用施設等の建屋内の空気または排気設備の排気をサンプリングし、サンプルガス中の水蒸気に含まれるトリチウムの濃度を気体の状態で測定するものである。トリチウムから放射される放射線はβ線で、最大エネルギーが18keVと低エネルギーであるため、通気式電離箱に通して気体の状態で測定する必要がある。更に、天然放射性核種として環境中に存在するラドン、トロン及びその娘核種から放射されるα線は、トリチウムから放射される前記β線の約千個分相当の電離を生じるため、高感度でトリチウムの濃度を測定するためには、前記核種およびその他のエネルギーの高い核種からトリチウムだけを分離して測定する必要がある。
【0003】
従来のトリチウムモニタは、中空糸膜が水蒸気を選択的に透過する性質を利用し、サンプルガスから水蒸気を分離して中空糸膜の外側を流れるキャリヤガス中に放出し、分離された水蒸気を含むキャリヤガスを通気式電離箱に導入することにより、他の放射性核種が混入しない状態でトリチウム濃度を測定している。中空糸膜の水蒸気透過作用はサンプルガスとキャリヤガスの水蒸気の差圧に依存するため、キャリヤガスは乾燥ガスであることが求められる。また、低エネルギーのトリチウムの濃度を測定するために他の放射能を含まないことが求められる。窒素ガスはこれらの条件に適合し、ボンベに封入した形で容易に入手できるため、キャリガスとして窒素ガスを用い、ボンベから供給する方法が一般的であった。
【0004】
以上のように構成された従来のトリチウムモニタでは、キャリヤガスを常時流しているためその消費量が多くなり、ボンベ交換を頻繁に行う必要がある。例えば、キャリヤガスを3L/minの状態で使用した場合、7m3(14.7MPa/cm3G)ボンベを30時間程度の頻度で交換する必要があり、キャリヤガスの消費量削減が課題となっていた。
【0005】
このような問題点を解消するため、例えば特許文献1では、大気中の空気を吸入してフィルタで粒子状物質を除去し、加圧した空気を中空糸膜に通して水蒸気を除去し、活性炭でラドン、トロンを吸着除去して放射能を含まない清浄空気を精製することにより、キャリヤガスとして空気を用いることができ、ボンベフリーを実現したトリチウムモニタが提案されている。
【特許文献1】特開平3−189587号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のボンベフリー型トリチウムモニタでは、吸着剤に吸着されたラドン、トロンおよびその娘核種の一部が離脱してキャリヤガス中に排出されるという問題があった。また、モニタ設置場所の周辺空気にトリチウム及びラドン、トロン以外の気体状の放射能が存在する場合は、それらを除去できないという問題があった。さらに、トリチウム濃度の測定を行うための測定用電離箱からの出力電流と、バックグラウンドの測定を行う補償用電離箱からの出力電流の差をとって正味の電流値を求め、その結果に基づきトリチウム濃度を求める測定方法において、吸着剤から離脱したラドン、トロンとその娘核種およびその他の気体状放射能は、バックグラウンド電流値のゆらぎを増大させる原因となり、トリチウム濃度の測定感度を高める上で障害となっていた。また、ラドン、トロンとその娘核種および水蒸気の吸着除去の目的で吸着剤を使用するため、吸着剤の交換作業という新たな保守作業が発生するという問題があった。さらに、空気を加圧することにより発生するドレンは放射性廃棄物として処理する必要があり、ドレンレス化が課題であった。
【0007】
本発明は、上記のような問題点を改善するためになされたもので、キャリヤガスの消費量が少なく、また、吸着剤の交換作業やドレン処理が不要で保守作業が簡単であり、且つ測定感度の高いトリチウムモニタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係わるトリチウムモニタは、サンプルガスを加圧するサンプルガスコンプレッサを有し、サンプルガスの吸入を連続的に行うサンプリング手段と、サンプリング手段により吸入されたサンプルガス中の水蒸気を選択的に分離し、キャリヤガス中に放出する水蒸気分離手段と、この水蒸気分離手段によりキャリヤガス中に放出された水蒸気に含まれるトリチウム濃度を測定する測定手段と、測定手段による測定結果をもとに、サンプルガス中のトリチウム濃度を算出する演算手段と、水蒸気分離手段にて水蒸気の一部が分離されたサンプルガス中に残留する水蒸気を除去するサンプルガス乾燥手段と、サンプルガスコンプレッサにおいて生成されたドレンをサンプルガスの排気中で蒸発させるドレン蒸発手段、および水蒸気分離手段から放出された水蒸気を含むキャリヤガスから水蒸気を除去して、キャリヤガスを再生、循環させるキャリヤガス再生手段を備え、キャリヤガス再生手段は、キャリヤガスを加圧するキャリヤガスコンプレッサと、このキャリヤガスコンプレッサにより濃縮されたキャリヤガス中の水蒸気を除去するキャリヤガス除湿器を含み、水蒸気分離手段、測定手段、およびキャリヤガス再生手段を閉ループで接続し、キャリヤガス再生手段によりキャリヤガスを再生しながら閉ループ内を循環させるとともに、キャリヤガス補充手段により閉ループにキャリヤガスを自動補充するようにしたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、キャリヤガス再生手段によりキャリヤガスを除湿、再生して閉ループ内を循環させるとともに、キャリヤガス補充手段によりキャリヤガスを自動補充するようにしたので、キャリヤガス中にラドン、トロンおよびその娘核種、その他の放射能が存在しない好適な状態でトリチウム濃度を高感度に測定することができる。また、キャリヤガス消費量を大幅に削減することができるため、キャリヤガスボンベの交換頻度を大幅に低減でき、さらにサンプルガスコンプレッサにおいて生成されたドレンをサンプルガスの排気中で蒸発させるようにしたので、吸着剤交換等のドレン処理が不要となり、保守作業を大幅に省力化することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を説明する前に、本発明の基本原理について図1を流用して説明する。
本発明の請求項1の発明に係わるトリチウムモニタは、サンプルガス100の吸入を連続的に行うサンプリング手段として、サンプルガス100を加圧するサンプルガスコンプレッサ7を有している。サンプルコンプレッサ7が動作すると、その吸気側が負圧となることにより、サンプルガス100は入口弁1から吸入される。
【0011】
また、サンプリング手段により吸入されたサンプルガス100中の水蒸気を選択的に分離し、キャリヤガス中に放出する水蒸気分離手段として、水蒸気分離器6を備えている。本発明に係わるトリチウムモニタは、キャリヤガスとして純度の高い窒素ガスを用いている。図1に示すように、水蒸気分離器6は2つの入口a、cと、2つの出口b、dを有しており、入口aから導入されたサンプルガス100は出口bより排出され、入口cから導入されたキャリヤガスは出口dより排出される。なお、水蒸気分離器6は、サンプルガスコンプレッサ7の吸気側、排気側のどちらに配置することもでき、実施の形態1では吸気側に、実施の形態2では排気側に配置した例を示している。
【0012】
また、水蒸気分離器6によりキャリヤガス中に放出された水蒸気に含まれるトリチウム濃度を測定する測定手段として測定用電離箱16および補償用電離箱28を備えている。さらに、測定用電離箱16による測定結果および補償用電離箱28による測定結果をもとに、サンプルガス中のトリチウム濃度を算出する演算手段として、演算部31を備えている。なお、演算部31の詳細については、請求項6に係わる発明の項で説明する。
【0013】
また、水蒸気分離器6にて水蒸気の一部が分離されたサンプルガス100中に残留する水蒸気を除去するサンプルガス乾燥手段としてサンプルガス除湿器11を備えている。さらに、サンプルガスコンプレッサ7において生成されたドレンをサンプルガス100の排気中で蒸発させるドレン蒸発手段として蒸発器29を備えている。
【0014】
また、水蒸気分離器6から放出された水蒸気を含むキャリヤガスから水蒸気を除去し、キャリヤガスを再生、循環させるキャリヤガス再生手段として、キャリヤガスを加圧するキャリヤガスコンプレッサ17と、このキャリヤガスコンプレッサ17により濃縮されたキャリヤガス中の水蒸気を除去するキャリヤガス除湿器18を備えている。
【0015】
さらに、請求項1の発明に係わるトリチウムモニタは、これらの水蒸気分離器6、測定用電離箱16、キャリヤガスコンプレッサ17、キャリヤガス除湿器18及び補償用電離箱28を閉ループ200で接続し、キャリヤガス再生手段によりキャリヤガスを再生しながら閉ループ200内を循環させるとともに、キャリヤガス補充手段によりこの閉ループ200に、キャリヤガスを自動補充するようにしたものである。具体的には、キャリヤガスは、窒素ボンベ21から定圧調整弁22を経由して、閉ループ200に自動供給される。
【0016】
以上、請求項1に係わる発明のトリチウムモニタによれば、水蒸気分離器6でトリチウムを含む水蒸気を選択的に分離してキャリヤガス中に放出し、この水蒸気を含むキャリヤガスを測定用電離箱16に導入してトリチウム濃度を測定するようにしたので、キャリヤガスをラドン、トロンおよびその娘核種、さらにその他のガス状放射性物質から本質的に遮断することができ、トリチウム濃度の測定感度を高めることができる。また、キャリヤガス除湿器18でキャリヤガスを除湿して再生し、漏洩した分のキャリヤガスを自動補給するようにしたので、キャリヤガスの消費量を従来よりも大幅に削減できる。さらに、サンプルガスコンプレッサ7において生成されるドレンをサンプルガス100の排気中に蒸発させるようにしたので、放射性液体廃棄物としてのドレン処理及び吸着剤の交換作業が不要であり、保守作業を大幅に省力化できる。
【0017】
次に、本発明の請求項2の発明に係わるトリチウムモニタは、本発明の請求項1に記載のトリチウムモニタにおいて、サンプルガス乾燥手段であるサンプルガス除湿器11から排出される乾燥したサンプルガス100を2つに分流し、一方はサンプルガス除湿器11において除湿された水蒸気をパージし、他方はキャリヤガス除湿器18において除湿された水蒸気をパージして、これらのパージにより回収された水蒸気をサンプルガス100と共にドレン蒸発手段である蒸発器29に導入するようにしたものである。
【0018】
請求項2に係わる発明によれば、サンプルガス除湿器11から排出される乾燥したサンプルガス100によって、サンプルガス除湿器11とキャリヤガス除湿器18両方の水蒸気パージを効率的に行うことができ、さらにこれらをサンプルガス100の排気として蒸発器29に導入することにより、簡単な構造でドレン処理が不要なトリチウムモニタが得
られる。
【0019】
次に、本発明の請求項3の発明に係わるトリチウムモニタは、本発明の請求項1に記載のトリチウムモニタにおいて、水蒸気分離器6は第1の中空糸膜を、キャリヤガス除湿器18は第2の中空糸膜を、サンプルガス除湿器11は第3の中空糸膜をそれぞれ備え、これらの中空糸膜によって水蒸気を分離するものである。水蒸気分離器6、キャリヤガス除湿器18、およびサンプルガス除湿器11の基本構造は同じであり、水蒸気を選択的に透過させる性質を有する中空糸膜によって、水蒸気を被処理ガスからパージガス側に透過させることができる。
【0020】
さらに、本発明の請求項4の発明に係わるトリチウムモニタは、本発明の請求項3に記載のトリチウムモニタにおいて、水蒸気分離器6の第1の中空糸膜として非多孔質のイオン交換膜、具体的にはパーフロロスルフォン酸樹脂膜を用い、キャリヤガス除湿器18の第2の中空糸膜およびサンプルガス除湿器11の第3の中空糸膜として微多孔質膜、具体的にはポリイミド膜を用いたものである。パーフロロスルフォン酸樹脂膜は、給水力が高く、水蒸気分離能力に優れているが、一方、同一容積では、ポリイミド膜の方が膜面積を大きくとれるため水蒸気分離効率の点では優れており、小型化が可能である。請求項4の発明に係わるトリチウムモニタによれば、水蒸気分離器6において、より選択的に水蒸気を分離することができる。
【0021】
また、本発明の請求項5の発明に係わるトリチウムモニタは、本発明の請求項3に記載のトリチウムモニタにおいて、キャリヤガス除湿器18の第2の中空糸膜として、上流から非多孔質のイオン交換膜であるパーフロロスルフォン酸樹脂膜、続いて微多孔質膜であるポリイミド膜の順に直列に接続したものである。これにより、キャリヤガスコンプレッサ17でミストが生成された場合にも、非多孔質のイオン交換膜で吸収処理されるため、水蒸気分離器6からキャリヤガスに放出される水蒸気量を安定して高く維持することができ、測定感度を高めることができる。
【0022】
次に、本発明の請求項6の発明に係わるトリチウムモニタの演算手段について説明する。請求項6の発明に係わるトリチウムモニタは、請求項1記載のトリチウムモニタにおいて、演算手段である演算部31に、サンプルガス100中の水蒸気密度と、測定用電離箱16により測定された、水蒸気分離器6から放出された水蒸気を含むキャリヤガスの電離量Aと、水蒸気分離器6から放出された水蒸気を含むキャリヤガス中の水蒸気密度と、補償用電離箱28により測定された、再生したキャリヤガスの電離量Bをそれぞれ入力する。これらのデータをもとに、演算部31は、電離量Aから電離量Bを補償し、サンプルガス中の水蒸気密度とキャリヤガス中の水蒸気密度の比に基づき水蒸気分離効率を補償して、サンプルガス中のトリチウム濃度を高い精度で算出できるものである。なお、演算方法については実施の形態1で詳しく説明する。
【0023】
さらに、本発明の請求項7の発明に係わるトリチウムモニタは、請求項6に記載のトリチウムモニタにおいて、バックグラウンド測定手段である補償用電離箱28の前段にキャリヤガスフィルタ26を、その前段にイオントラップ25を備えたものである。請求項6に係わる発明によれば、キャリヤガス中に含まれる帯電ダスト及び帯電ミストを捕集して除去することができるため、補償用電離箱28および測定用電離箱16が帯電ダストにより誤動作することがなくなり、安定して動作させることができる。
【0024】
また、本発明の請求項8の発明に係わるトリチウムモニタは、請求項1に記載のトリチウムモニタにおいて、サンプルガスコンプレッサ7の排気側に水蒸気分離器6を配置し、加圧により濃縮された水蒸気を水蒸気分離器6にて分離してキャリヤガス中に放出するようにしたものである。請求項8に係わる発明によれば、水蒸気分離器6において安定した水蒸気分離効率が得られるため、常時好適な条件で運転でき、測定感度を高めることができる。なお、請求項8に係わる発明については、以下の実施の形態2で詳細に説明する。
【0025】
また、本発明の請求項9の発明に係わるトリチウムモニタは、本発明の請求項1に記載のトリチウムモニタにおいて、水蒸気分離手段である水蒸気分離器に、図8に示すように、固体高分子電解質膜6231と、この固体高分子電解質膜6231の両側に設けられた触媒電極、具体的には陽極6232及び陰極6233と、これらの触媒電極に電圧を印加する直流電源6234より構成される電界駆動水蒸気分離膜623を用いるものである。
【0026】
請求項9に係わる発明によれば、分離された水蒸気がキャリヤガスに放出される際に約25%が水素ガスに変換されるため、測定用電離箱16におけるキャリヤガスの湿度条件が改善され、測定感度を高めることができる。なお、請求項9に係わる発明については、以下の実施の形態3で詳細に説明する。
【0027】
実施の形態1.
以下、請求項1〜請求項7の発明の具体例である実施の形態1について、図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の実施の形態1に係わるトリチウムモニタの構成を示す図である。なお、本実施の形態1では、サンプルガスコンプレッサ7の吸気側に水蒸気分離器6を配置した例を示している。
【0028】
本実施の形態1におけるトリチウムモニタは、サンプリング手段であるサンプルガスコンプレッサ7が動作するとその吸気側が負圧となることにより、サンプルガス100が入口弁1から吸入される。入口弁1から吸入されたサンプルガス100は、サンプルガスフィルタ2にて粒子状のダスト及び放射性物質が除去され、サンプルガス流量計3により流量が測定される。なお、入口弁1は、排気筒またはトリチウムを取り扱っている室内などの測定点(図示せず)に設けられている。
【0029】
続いて、サンプルガス100は、水蒸気の密度を測定するサンプルガス水蒸気密度測定手段であるサンプルガス露点計4によりその露点(*1)が測定され、サンプルガス圧力計5によりその圧力(*2)が測定される。露点が測定されたサンプルガス100は、水蒸気分離手段である水蒸気分離器6に導入される。水蒸気分離器6は、図1に示すように、2つの入口a、cと2つの出口b、dを有しており、入口aより導入されたサンプルガス100は、水蒸気分離器6内において水蒸気の一部が分離されてキャリヤガス中に放出され、水蒸気を含むキャリヤガスは出口dより排出される。
【0030】
また、水蒸気分離器6の出口bから排出されたサンプルガス100、すなわち水蒸気分離器6にて水蒸気の一部が分離されたサンプルガス100は、サンプルガスコンプレッサ7に吸入されて加圧される。加圧されて温度上昇したサンプルガス100は放熱器8に導入されて冷却され、さらにミストセパレータ9において、冷却により水蒸気が凝縮して発生したミストが除去される。ミストが除去された湿潤サンプルガスは、加圧サンプルガス圧力計10で圧力が測定され、サンプルガス乾燥手段であるサンプルガス除湿器11に導入されて除湿され、サンプルガス減圧弁12で大気圧近くまで減圧されることにより、乾燥したサンプルガス100となる。
【0031】
一方、水蒸気分離器6において、サンプルガス100から分離された水蒸気は、キャリヤガス中に放出される。放出された水蒸気を含むキャリヤガスは、キャリヤガス水蒸気密度測定手段であるキャリヤガス露点計14によりその露点(*3)が測定され、キャリヤガス圧力計15によりその圧力が測定される。続いて測定手段である測定用電離箱16に導入されて電離電流(*4)すなわちキャリヤガス中のトリチウムのβ線と環境γ線を合計したものが測定され、この電流値をもとにトリチウム濃度が測定される。なお、トリチウム濃度の演算方法については後に詳しく説明する。
【0032】
測定用電離箱16から排出されたキャリヤガスは、キャリヤガス再生手段であるキャリヤガスコンプレッサ17で加圧されてキャリヤガスに含まれる水蒸気が濃縮され、キャリヤガス除湿器18に導入されて水蒸気が除湿される。除湿されたキャリヤガスは、切換電磁弁19を経由し、加圧キャリヤガス圧力計23で圧力が測定され、キャリヤガス減圧弁24で大気圧近くまで減圧されて乾燥したキャリヤガスとなる。なお、水蒸気分離器6、サンプルガス除湿器11およびキャリヤガス除湿器18の構造及び動作については、後に図2及び図3を用いて説明する。
【0033】
乾燥したキャリヤガスは、イオントラップ25に導入され、キャリヤガス中に含まれる帯電ダストを電極に捕集して除去する。帯電ダストは、主にキャリヤガスコンプレッサ17内部で使用部材が磨耗することにより発生する。電極に捕集された帯電ダストは放電して電極に付着し、粒子径が増大すると電極から離脱する。キャリヤガスフィルタ26は、部材の磨耗等でキャリヤガス中に放出されるダストを除去する。ダストを除去されたキャリヤガスは、キャリヤガス流量計27でその流量が測定された後、補償用電離箱28に導入され、再生されたキャリヤガスの電離量B、すなわちキャリヤガス中に残留するトリチウムのβ線と環境γ線を合計したバックグラウンド放射線の電離電流(*5)が測定される。補償用電離箱28から排出されたキャリヤガスは、水蒸気分離器6の入口cに導入される。
【0034】
このように、水蒸気分離器6、測定用電離箱16及び補償用電離箱28、キャリヤガス再生手段であるキャリヤガスコンプレッサ17およびキャリヤガス除湿器18等の各機器は閉ループ200で接続されており、キャリヤガスを再生しながら閉ループ200内を循環させると共に、この閉ループ200から漏洩した分のキャリヤガスは、キャリヤガス補充手段により自動補充される。
【0035】
キャリヤガス補充手段としては、キャリヤガスである窒素が、窒素ボンベ21から閉ループ200に定圧調整弁22を経由して自動的に供給されるようにしている。さらに、切換電磁弁19を開から閉に切換え、パージ電磁弁20を閉から開に切換えることより、必要に応じて閉ループ200内のキャリヤガスを入れ換えることができる。
【0036】
また、サンプルガス除湿器11により除湿され、サンプルガス減圧弁12から排出された乾燥したサンプルガス100は、2つに分流される。一方は、サンプルガス除湿器11で除湿された水蒸気をパージし、もう一方は、キャリヤガス除湿器18で除湿された水蒸気をパージする。これらのパージにより回収された水蒸気は、サンプルガス100と共にドレン蒸発手段である蒸発器29に導入される。サンプルガスコンプレッサ7において生成され、ミストセパレータ9から排出されたドレンは、蒸発器29においてミスト状に噴出され、サンプルガス100中で蒸発し、サンプルガス100と共に出口弁30から排出される。蒸発器29の構造については、後に図5を用いて説明する。
【0037】
さらに、本実施の形態1におけるトリチウムモニタは、測定用電離箱16による測定結果をもとに、サンプルガス100中のトリチウム濃度を算出する演算手段である演算部31を備えている。演算部31には、サンプルガス露点計4から出力されたサンプルガス露点(*1)、サンプルガス圧力計5から出力されたサンプルガス圧力(*2)、キャリヤガス露点計14から出力されたキャリヤガス露点(*3)、測定用電離箱16から出力された電離電流(*4)、補償用電離箱28から出力された電離電流(*5)がそれぞれ入力される。
【0038】
さらに、露点に対する水蒸気密度テーブルからサンプルガス露点に対応するサンプルガスの水蒸気密度が求められ、サンプルガス圧力から大気圧換算されたサンプルガスの水蒸気密度W1が求められる。また、同様に水蒸気密度テーブルから、キャリヤガス露点に対応するキャリヤガスの水蒸気密度W2が求められる。また、測定用電離箱16で測定された電離電流と補償用電離箱28で測定された電離電流の差が正味電離電流値として求められ、その正味電離電流値に濃度換算係数を乗じ、その結果に水蒸気密度比W1/W2を乗じてトリチウム濃度が算出され、出力される。
【0039】
なお、サンプルガス水蒸気密度測定手段およびキャリヤガス水蒸気密度測定手段として、サンプルガス露点計4及びキャリヤガス露点計14の代わりに、温度計と湿度計を使用してもよい。また、本実施の形態1では測定用電離箱16の出力と補償用電離箱28の出力をそれぞれ演算部31に入力する場合について説明したが、測定用電離箱16と補償用電離箱28に互いに逆極性の高電圧を印加すると、放射線を測定した結果の電離電流の方向は互いに逆方向になり、それぞれの電離電流を突合せることによりバックグラウンド放射線が除去された正味電離電流を得て、これを入力する方法でもよい。
【0040】
図2は、本実施の形態1における水蒸気分離器6の構成と構造を示す図である。図2中、矢印a、b、c、dは、図1に示す水蒸気分離器6の出入口a、b、c、dにそれぞれ対応しており、サンプルガスおよびキャリヤガスの流れを示している。サンプルガス(湿潤ガス)は、被除湿ガス入口611より導入され(矢印a)、多数の管状中空糸膜612の内側を分流して流れ、被除湿ガス出口613から排出される(矢印b)。一方、キャリヤガス(乾燥ガス)は、パージガス入口614から導入されて(矢印c)管状中空糸膜612の外側と外筒615の間を流れ、パージガス出口616から排出される(矢印d)。なお、サンプルガス除湿器11及びキャリヤガス除湿器18の構成および構造も、これと同じである。
【0041】
図3は、水蒸気分離器6を構成する中空糸膜612の水蒸気分離の動作を示す図である。中空糸膜612は水蒸気を選択的に透過させる性質を持っており、水蒸気は被除湿ガス側(a→b)からパージガス側(c→d)に透過する。このため、水蒸気分離器6は、サンプルガス100中のラドン、トロンの娘核種、その他のガス状放射性物質からトリチウムを含む水蒸気を分離することができる。なお、サンプルガス除湿器11及びキャリヤガス除湿器18を構成する中空糸膜612の動作もこれと同様である。
【0042】
さらに、中空糸膜612を透過する水蒸気量は、中空糸膜612の各微小部位における差圧に依存している。このため、水蒸気分離器6、サンプルガス除湿器11およびキャリヤガス除湿器18それぞれの中空糸膜612の面積、サンプルガス流量、加圧サンプルガス圧力、キャリヤガス流量、加圧キャリヤガス圧力を適切に設定することにより、測定用電離箱16内のキャリヤガスの湿度を、絶縁性と測定感度の両方の観点から好適な状態に維持することができる。これにより、キャリヤガスコンプレッサ17の加圧によるミストを発生させることなく、除湿効率を90%以上に維持できる。
【0043】
水蒸気分離器6、サンプルガス除湿器11およびキャリヤガス除湿器18に用いられる中空糸膜612としては、例えば、市販されている宇部興産(株)製のポリイミド膜を使用することができる。この膜は、微多孔質膜で、膜を隔てて水蒸気圧の高い側の膜面から水蒸気が膜に溶解し、膜の中を拡散移動して水蒸気圧の低い側の膜面から拡散される。ガス成分の種類よって透過速度に差が生じ、水蒸気の透過速度が空気(酸素と窒素)及び水蒸気以外のガスのそれに比べて数千倍大きいので、選択的な水蒸気分離が可能となる。ただし、ポリイミド膜にミスト状の水が浸入すると透過しないで排出されるため除湿効率が低下する。
【0044】
また、その他の中空糸膜612としては、例えば、旭硝子エンジニアリング(株)製のパーフロロスルフォン酸樹脂膜が市販されている。この膜は、非多孔質のイオン交換膜で、親水性の官能基(-SO3H)を有するものであり、近接するフッ素原子の効果で酸性度が高められ、その結果吸水力が高められて水分を多量に吸着する性質がある。この膜は水蒸気の透過速度が空気(酸素と窒素)のそれに比べて数十万倍大きいので、選択的な水蒸気分離能力においてはポリイミド膜より優れている。一方、同一容積ではポリイミド膜の方が膜面積を大きくとれるため、小型化または水蒸気分離効率の点ではポリイミド膜の方が優れている。また、パーフロロスルフォン酸樹脂膜は吸水力が高いため、ミスト状の水が浸入しても水蒸気分離効率が低下しない。したがって、水蒸気分離器6の中空糸膜612としてパーフロロスルフォン酸樹脂膜を使用し、サンプルガス除湿器11とキャリヤガス除湿器18の中空糸膜612としてポリイミド膜を使用することにより、水蒸気分離器6において、より選択的に水蒸気を分離することができる。
【0045】
また、キャリヤガス除湿器18の中空糸膜612としてポリイミド膜だけを用いた場合は、キャリヤガスコンプレッサ17から排出される加圧キャリヤガスの温度をできるだけ下げないように、キャリヤガスコンプレッサ17にキャリヤガス除湿器18を近接して接続させ、さらに、水蒸気分離器6からキャリヤガスに放出する水蒸気量を抑制して中空糸膜612の内部で結露しないようにする必要がある。そこで、キャリヤガス除湿器18の中空糸膜612として、上流側にパーフロロスルフォン酸樹脂膜、続いてポリイミド膜を直列に接続することにより、キャリヤガスコンプレッサ17で結露してもパーフロロスルフォン酸樹脂膜で吸収処理することができる。これにより、水蒸気分離器6からキャリヤガスに放出する水蒸気量を、連続運転で電離箱を安定に動作させるための湿度限界の50%RH程度まで高めることが可能となる。
【0046】
図4は、本実施の形態1における放熱器8の構成と構造を示す図である。フィン付管81の一端81aから導入されたサンプルガス100は、サンプルガスコンプレッサ7による加圧で蓄積した熱を、ファン82からの送風でフィン81cから放熱する。温度を下げられたサンプルガス100は、フィン付管81の他端81bから排出される。サンプルガス100の温度を下げると、その温度における飽和水蒸気圧を超える水蒸気は凝縮してミスト状の水になる。
【0047】
図5は、本実施の形態1におけるドレン蒸発手段である蒸発器29の構成と構造を示す図である。なお、図中、矢印f、gは、図1に示す矢印f、gに対応している。サンプルガス除湿器11およびキャリヤガス除湿器18のパージにより回収された水蒸気は、サンプルガス100と共に蒸発容器入口291から蒸発容器292に導入される。蒸発容器292内にはヒータ293が挿入されており、ヒータ293と蒸発容器292の間にスチールウール294が設置されている。一方、蒸発容器292の蒸発容器入口291側に設けられたドレン吹き出しノズル295からは、ミストセパレータ9から排出されたドレンがミスト状になって吹き出してスチールウール294を濡らし、ヒータ293で加熱することによりサンプルガス100中で蒸発する。蒸発した水蒸気はサンプルガス100と共に蒸発容器出口296から排出され、さらに出口弁30から排出される。
【0048】
トリチウムモニタの運転に際しては、切換電磁弁19を閉、パージ電磁弁20を開にすることにより、定圧調整弁22が動作して窒素ガスボンベ21から閉ループ200に窒素ガスが自動供給され、閉ループ200内の空気がキャリヤガスに置き換えられる。閉ループ200内の窒素ガス置換が完了したら切換電磁弁19を開、パージ電磁弁20を閉にして運転を開始する。運転開始後は、加圧キャリヤガス圧力計23が所定の圧力となるように、定圧調整弁22を調整する。次にキャリヤガス圧力計15が所定の圧力となるようにキャリヤガス減圧弁24を調整する。続いて、加圧サンプルガス圧力計10が所定の圧力になるようにサンプルガス減圧弁12を調整する。最後に、サンプルガス流量計3の指示を見てサンプリングが正常に行われていることを確認する。同様に、キャリヤガス流量計27の指示を見てキャリヤガスの循環が正常に行われていることを確認する。
【0049】
運転中に漏洩したキャリヤガスは、定圧調整弁22が動作して窒素ガスボンベ21から減った分のみを自動補給される。通常の配管接続で漏洩量を0.1cm3/sec以下に抑制することは容易である。キャリヤガス流量3L/minの時、再生しないで窒素ガスを供給した場合に対し、本実施の形態1においてキャリヤガスを再生利用した場合の窒素ガスの消費量は2/100以下に節減でき、従来7m3(14.7MPa/cm3G)ボンベを30時間で交換していたのが、2ケ月程度まで延長できるようになる。
【0050】
以上のように、本実施の形態1によれば、純度の高い窒素ガスをキャリヤガスとして使用し、サンプルガス100中の水蒸気を水蒸気分離器6で選択的に分離してキャリヤガス中に放出し、放出された水蒸気を含むキャリヤガスを測定用電離箱16に導入してその電離量からトリチウム濃度を測定するようにしたので、キャリヤガスをラドン、トロンおよびその娘核種、さらにその他のガス状放射性物質から本質的に遮断することができ、測定感度を高めることができる。
【0051】
また、キャリヤガス除湿器18でキャリヤガスを除湿して再生するとともに、漏洩して減った分のみを自動補給するようにしたので、窒素ガスの消費量を従来と比べて大幅に削減することができ、それにより窒素ガスボンベの交換頻度を従来の日単位から月単位に減らすことができるため、保守作業を大幅に省力化できる。
【0052】
さらに、サンプルガス除湿器11で除湿して乾燥したサンプルガス100を分流して、サンプルガス除湿器11とキャリヤガス除湿器18において除湿された水蒸気をそれぞれパージし、これらのパージにより回収された水蒸気をサンプルガス100と共に蒸発器29に導入し、ドレンを蒸発させてサンプルガス100の排気に戻すようにしたので、放射性液体廃棄物としてのドレン処理および吸着剤の交換作業が不要であり、保守作業を大幅に省力化できる。
このように、本実施の形態1によれば、窒素ガスの消費量を大幅に削減でき、且つ、ドレン処理が不要になったので、小型ボンベを搭載した可搬型のトリチウムモニタも容易に実現できる。
【0053】
また、補償用電離箱28の前段にキャリヤガスフィルタ26を、その前段にイオントラップ25を備えて、キャリヤガス中に含まれる帯電ダスト及び帯電ミストを電極に捕集して除去し、キャリヤガスフィルタ26で捕集するようにしたので、補償用電離箱28及び測定用電離箱16が帯電ダストで誤動作することがなくなり、安定して動作させることができる。
【0054】
また、水蒸気分離器6の中空糸膜612として非多孔質のイオン交換膜であるパーフロロスルフォン酸樹脂膜を用い、サンプルガス除湿器11及びキャリヤガス除湿器18の中空糸膜612として微多孔質膜のポリイミド膜を用いることにより、水蒸気分離器6、サンプルガス除湿器11およびキャリヤガス除湿器18の中空糸膜612を全て微多孔質膜のポリイミド膜を使用する場合に対して、より選択的に水蒸気を分離できる。また、キャリヤガス除湿器18の中空糸膜612として、上流から非多孔質のイオン交換膜であるパーフロロスルフォン酸樹脂膜、続いて微多孔質膜のポリイミド膜の順に直列に接続することにより、キャリヤガスコンプレッサ17でミストが生成されても給水力の高いパーフロロスルフォン酸樹脂膜で吸収処理されるため、水蒸気分離器6からキャリヤガスに放出する水蒸気量を、連続運転で電離箱を安定に動作させるための湿度限界である50%RH程度まで高めることが可能となり、測定感度を高めることができる。
【0055】
実施の形態2.
次に、請求項8の発明の具体例である実施の形態2について、図面を参照して説明する。上記実施の形態1では、サンプルガスコンプレッサ7の吸気側に水蒸気分離器6を接続した場合について述べたが、本実施の形態2では、ミストセパレータ9の排気側に水蒸気分離器6を接続した例について図6を用いて説明する。図6は、本発明の実施の形態2に係わるトリチウムモニタの構成を部分的に示す図であり、図中、同一、相当部分には同一符号を付している。また、図6において、矢印に付した記号h、i、j、k、mは、それぞれ図1中の同記号の箇所に対応している。
【0056】
本実施の形態2におけるトリチウムモニタは、サンプルガスコンプレッサ7により加圧され、放熱器8で冷却され、ミストセパレータ9によってミストが除去されたサンプルガス100を水蒸気分離器6に導入し、濃縮された水蒸気を水蒸気分離器6にて分離して、キャリヤガス中に放出するものである。それ以外の構成については上記実施の形態1と同様であるので説明を省略する。
【0057】
水蒸気分離効率は、サンプルガス100の水蒸気密度(水蒸気圧)に依存する。このため、上記実施の形態1の場合、冬季にサンプルガス100中の水蒸気密度が低くなると、水蒸気分離器6で分離されてキャリヤガス中に放出される水蒸気量が減少する。これに対し、本実施の形態2では、サンプルガスコンプレッサ7でサンプルガス100を加圧し、ミストセパレータ9でミストを除去した後、水蒸気分離器6に導入するため、キャリヤガス中に放出される水蒸気密度を安定して高い状態に維持することができる。このため、本実施の形態2によれば、測定点のサンプルガス100の水蒸気密度が低い場合においても、高感度な測定が可能である。
【0058】
しかしながら、湿度が高くなり過ぎると電離箱のリーク電流が増加して測定感度が悪くなる。このため、閉ループ200内が所定の湿度範囲となるように、キャリヤガス流量で調整しなければならない。上記実施の形態1のようにサンプルガスコンプレッサ7の吸気側に水蒸気分離器6を接続した場合は、キャリヤガス流量の調整を細かく行う必要があるが、水蒸気分離器6に水が付かないので汚れにくいという長所がある。一方、本実施の形態2のようにサンプルガスコンプレッサ7の排気側に水蒸気分離器6を接続した場合は、水蒸気分離器6に水がつくため清掃保守が必要となるが、水蒸気分離効率が安定しているため、頻繁な流量調整は不要であり、常時好適な条件で運転することが可能である。
【0059】
実施の形態3.
次に、請求項9の発明の具体例である実施の形態3について、図面を参照して説明する。上記実施の形態1および実施の形態2では、水蒸気分離器6、サンプルガス除湿器11およびキャリヤガス除湿器18に中空糸膜612として非多孔質のイオン交換膜や微多孔質膜を使用し、膜の面間の水蒸気差圧を駆動力として水蒸気を分離したが、本実施の形態3では、固体高分子電解質膜の両面の電極に印加された直流電圧による電界を駆動力として水蒸気を分離する例について、図7および図8を用いて説明する。
【0060】
図7は、本発明の実施の形態3に係わる水蒸気分離器6aの構成を示す図であり、図8は本実施の形態3における水蒸気分離器6aに用いられる電界駆動水蒸気分離膜623の動作を示す図である。図7中、水蒸気分離器6aに付した矢印a、b、c、dは、図1に示す水蒸気分離器6の出入口a、b、c、dにそれぞれ対応しており、サンプルガスおよびキャリヤガスの流れを示している。なお、本実施の形態3におけるトリチウムモニタの構成は、水蒸気分離器6aの構成以外は上記実施の形態1と同様であるので、図1を流用して説明する。
【0061】
図7に示すように、サンプルガス100は、水蒸気分離器6aの除湿室入口621から除湿室622に導入され(矢印a)、電界駆動水蒸気分離膜623で水蒸気の一部が分離されて除湿室出口625から排出される(矢印b)。一方、キャリヤガスは加湿室入口626から加湿室624に導入され(矢印c)、電界駆動水蒸気分離膜623からキャリヤガス中に放出された水蒸気をパージして加湿室出口627から排出される(矢印d)。
【0062】
本実施の形態3における水蒸気分離器6aに用いられる電界駆動水蒸気分離膜623は、図8に示すように、固体高分子電解質膜6231、陽極6232、陰極6233、直流電源6234から構成される。陽極6232と陰極6233は多孔性の触媒電極である。サンプルガスの水蒸気は陽極6232に吸着されて電気分解され、生成された酸素は酸素ガスとし加湿室624へ放出される。水素イオン(H)及びトリチウムイオン(T)は2個程度の水分子を随伴し、直流電源6234で陽極6232と陰極6233の間に印加された直流電圧による電界で駆動されて固体高分子電解質膜6231内を陰極6233側へ移動する。陰極6233で水素イオンは水素ガスとなり、トリチウムイオン(T)は水素イオンと結合した状態(HT)となり、それぞれ随伴した水蒸気とともに加湿室出口627より放出される。
【0063】
キャリヤガス中に放出された水蒸気及び水素ガスは、測定用電離箱16に導入された後、キャリヤガスコンプレッサ17で加圧濃縮され、キャリヤガス除湿器18の中空糸膜612で水蒸気と水素ガスが除去される。微多孔質のポリイミド膜の中空糸膜612は、水蒸気と同様に水素を透過する性質を持っているため、キャリヤガスは再生利用することができる。
【0064】
本実施の形態3によれば、水蒸気分離器6aに電界駆動水蒸気分離膜623を使用することにより、分離された水蒸気がキャリヤガス中に放出される際には約25%程度が水素ガスに変換されるため、測定用電離箱16におけるキャリヤガスの湿度条件が改善される。連続運転で電離箱を安定に動作させるための湿度限界は50%RH程度であるが、電界駆動水蒸気分離膜623を使用した場合は、湿度62.5%(50%+50%×0.25=62.5%)であっても中空糸膜612において湿度50%で運転しているのと同等の条件となるため、高い湿度においても高感度で測定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施の形態1に係わるトリチウムモニタの構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係わる水蒸気分離器の構成と構造を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係わる水蒸気分離器の水蒸気分離の動作を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係わる放熱器の構成と構造を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係わる蒸発器の構成と構造を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態2に係わるトリチウムモニタの構成を部分的に示す図である。
【図7】本発明の実施の形態3に係わる水蒸気分離器の構成を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態3に係わる水蒸気分離器に用いられる電界駆動水蒸気分離膜の動作を示す図である。
【符号の説明】
【0066】
1 入口弁、2 サンプルガスフィルタ、3 サンプルガス流量計、
4 サンプルガス露点計、5 サンプルガス圧力計、6、6a 水蒸気分離器、
611 被除湿ガス入口、612 中空糸膜、613 被除湿ガス出口、
614 パージガス入口、615 外筒、616 パージガス出口、
621 除湿室入口、622 除湿室、623 電界駆動水蒸気分離膜、
6231 固体高分子電解質膜、6232 陽極、6233 陰極、
6234 直流電源、624 加湿室、625 除湿室出口、626 加湿室入口、627 加湿室出口、7 サンプルガスコンプレッサ、
8 放熱器、81 フィン付管、82 ファン、
9 ミストセパレータ、10 加圧サンプルガス圧力計、11 サンプルガス除湿器、
12 サンプルガス減圧弁、13 乾燥サンプルガス流量計、
14 キャリヤガス露点計、15 キャリヤガス圧力計、16 測定用電離箱、
17 キャリヤガスコンプレッサ、18 キャリヤガス除湿器、19 切換電磁弁、
20 パージ電磁弁、21 窒素ガスボンベ、22 定圧調整弁、
23 加圧キャリヤガス圧力計、24 キャリヤガス減圧弁、25 イオントラップ、26 キャリヤガスフィルタ、27 キャリヤガス流量計、28 補償用電離箱、
29 蒸発器、291 蒸発容器入口、292 蒸発容器、293 ヒータ、
294 スチールウール、295 ドレン吹き出しノズル、296 蒸発容器出口、
30 出口弁、31 演算部、100 サンプルガス、200 閉ループ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルガスを加圧するサンプルガスコンプレッサを有し、サンプルガスの吸入を連続的に行うサンプリング手段、
前記サンプリング手段により吸入されたサンプルガス中の水蒸気を選択的に分離し、キャリヤガス中に放出する水蒸気分離手段、
前記水蒸気分離手段によりキャリヤガス中に放出された水蒸気に含まれるトリチウム濃度を測定する測定手段、
前記測定手段による測定結果をもとに、サンプルガス中のトリチウム濃度を算出する演算手段、
前記水蒸気分離手段にて水蒸気の一部が分離されたサンプルガス中に残留する水蒸気を除去するサンプルガス乾燥手段、
前記サンプルガスコンプレッサにおいて生成されたドレンをサンプルガスの排気中で蒸発させるドレン蒸発手段、および
前記水蒸気分離手段から放出された水蒸気を含むキャリヤガスから水蒸気を除去して、キャリヤガスを再生、循環させるキャリヤガス再生手段を備え、
前記キャリヤガス再生手段は、キャリヤガスを加圧するキャリヤガスコンプレッサと、このキャリヤガスコンプレッサにより濃縮されたキャリヤガス中の水蒸気を除去するキャリヤガス除湿器を含み、前記水蒸気分離手段、前記測定手段、および前記キャリヤガス再生手段を閉ループで接続し、前記キャリヤガス再生手段によりキャリヤガスを再生しながら前記閉ループ内を循環させるとともに、キャリヤガス補充手段により前記閉ループにキャリヤガスを自動補充するようにしたことを特徴とするトリチウムモニタ。
【請求項2】
請求項1に記載のトリチウムモニタであって、前記サンプルガス乾燥手段から排出される乾燥したサンプルガスを2つに分流し、一方は前記サンプルガス乾燥手段において除湿された水蒸気をパージし、他方は前記キャリヤガス除湿器において除湿された水蒸気をパージして、これらのパージにより回収された水蒸気をサンプルガスと共に前記ドレン蒸発手段に導入するようにしたことを特徴とするトリチウムモニタ。
【請求項3】
請求項1に記載のトリチウムモニタであって、前記水蒸気分離手段は第1の中空糸膜を、前記キャリヤガス除湿器は第2の中空糸膜を、前記サンプルガス乾燥手段は第3の中空糸膜をそれぞれ備え、これらの中空糸膜によって水蒸気を分離することを特徴とするトリチウムモニタ。
【請求項4】
請求項3に記載のトリチウムモニタであって、前記第1の中空糸膜として非多孔質のイオン交換膜を用い、前記第2の中空糸膜および前記第3の中空糸膜として微多孔質膜を用いたことを特徴とするトリチウムモニタ。
【請求項5】
請求項3に記載のトリチウムモニタであって、前記第2の中空糸膜として、上流から非多孔質のイオン交換膜、続いて微多孔質膜の順に直列に接続したことを特徴とするトリチウムモニタ。
【請求項6】
請求項1に記載のトリチウムモニタであって、前記演算手段は、サンプルガス中の水蒸気密度と、前記測定手段により測定された前記水蒸気分離手段から放出された水蒸気を含むキャリヤガスの電離量Aと、前記水蒸気分離手段から放出された水蒸気を含むキャリヤガス中の水蒸気密度と、前記測定手段により測定された再生したキャリヤガスの電離量Bがそれぞれ入力され、これらのデータをもとに、電離量Aから電離量Bを補償し、サンプルガス中の水蒸気密度とキャリヤガス中の水蒸気密度の比に基づき水蒸気分離効率を補償して、サンプルガス中のトリチウム濃度を算出することを特徴とするトリチウムモニタ。
【請求項7】
請求項6に記載のトリチウムモニタであって、再生したキャリヤガスの電離量Bを測定する前記測定手段の前段にキャリヤガスフィルタを、その前段にイオントラップを備えたことを特徴とするトリチウムモニタ。
【請求項8】
請求項1に記載のトリチウムモニタであって、前記サンプルガスコンプレッサの排気側に前記水蒸気分離手段を配置し、加圧により濃縮された水蒸気を前記水蒸気分離手段にて分離してキャリヤガス中に放出するようにしたことを特徴とするトリチウムモニタ。
【請求項9】
請求項1に記載のトリチウムモニタであって、前記水蒸気分離手段として、固体高分子電解質膜と、この固体高分子電解質膜の両側に設けられた触媒電極と、これらの触媒電極に電圧を印加する直流電源より構成される電界駆動水蒸気分離膜を用いたことを特徴とするトリチウムモニタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−108120(P2007−108120A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−301707(P2005−301707)
【出願日】平成17年10月17日(2005.10.17)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】