説明

トリテルペン含有抽出物、フラボノイド含有抽出物の製造方法

【課題】抗糖尿、抗炎症、抗ガン等の機能が知られるウルサン型および/またはオレアナン型トリテルペンの効率的な製造方法、並びに抗酸化、α−グルコシダーゼ阻害等の機能が知られるフラボノイドの効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】トリテルペン含有抽出物の製造方法は、(1)バラ科アロニア(Aronia)属などの植物の細胞を培養し、トリテルペンをその培養物中に生産させる工程と、(2)培養物より1種または2種以上のトリテルペンを含有するトリテルペン含有抽出物を取得する工程とを有する。
また、本発明にかかるフラボノイド含有抽出物の製造方法は、(1)バラ科アロニア(Aronia)属植物の細胞を培養し、フラボノイドをその培養物中に生産させる工程と、(2)培養物より1種または2種以上のフラボノイドを含有するフラボノイド含有抽出物を取得する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バラ科アロニア(Aronia)属、マルス(Malus)属、マルメロ(Cydonia)属、ナシ(Pyrus)属、ザイフリボク(Amelanchier)属、ナナカマド(Sorbus)属、シャリンバイ(Rhaphiolepis)属、アズキナシ(Aria)属、カナメモチ(Photinia)属、サンザシ(Crataegus)属、シャリントウ(Cotoneaster)属、テンノウメ(Osteomeles)属及びトキワサンザシ(Pyracantha)属からなる群から選ばれる植物の細胞を培養し、トリテルペンを生産させる工程と、その培養物より1種または2種以上のトリテルペンを含有するトリテルペン含有抽出物を取得する工程とからなるトリテルペン含有抽出物の製造方法に関する。更に、バラ科アロニア(Aronia)属に属する植物の細胞を培養し、フラボノイドを生産させる工程と、その培養物より1種または2種以上のフラボノイドを含有するフラボノイド含有抽出物を取得する工程とからなるフラボノイド含有抽出物の製造方法に関する。本方法により製造されたトリテルペン含有抽出物、トリテルペン、トリテルペン混合物、トリテルペン含有組成物およびフラボノイド含有抽出物、フラボノイド、フラボノイド混合物、フラボノイド含有組成物は、医薬品、医薬部外品、化粧品、食品、飲料等の分野において利用される。
【背景技術】
【0002】
ウルサン型トリテルペンとしてはウルソール酸、コロソリン酸、トルメンチック酸等が知られており、ウルソール酸には、しわの発生防止、紫外線による繊維束の崩壊改善、抗腫瘍作用、抗炎症作用が、コロソリン酸にはインスリン様活性、糖の細胞内への取り込み促進作用、血糖値上昇抑制作用、育毛作用が、トルメンチック酸には抗腫瘍作用、抗炎症作用が知られている。また、オレアナン型トリテルペンであるマスリン酸には抗炎症作用、抗HIV活性、抗腫瘍作用、抗酸化作用が知られている。ウルソール酸はシソ科ローズマリーやツツジ科クマコケモモをはじめ多くの植物に広く含まれることが知られている。その一方でコロソリン酸はミソハギ科オオバナサルスベリやビワの葉、シソの葉等に、トルメンチック酸はノウゼンカズラ科ノウゼンカズラやイチゴ等に含まれていることが報告されているが、ウルソール酸に比べるとその含有報告がある植物種は限定されており、且つ含有量も非常に低い。例えばコロソリン酸を比較的多量含有するとされているオオバナサルスベリの葉やビワの葉でさえ、その含有量はそれぞれ0.1%、0.36%にすぎない。また、コロソリン酸に更に水酸基が導入された構造を有するトルメンチック酸に至っては、ビワの葉の分析においては検出限界(乾燥葉1g中に0.01mg、10ppm)以下であることが示されている(非特許文献1)。マスリン酸については、ウルソール酸、コロソリン酸と並んでリンゴの果皮より同定されている(非特許文献2)。しかしながらこれらの含有量は非常に低く、最も多いウルソール酸で果皮(新鮮重)の0.15%、コロソリン酸で0.007%、マスリン酸で0.0002%と計算され、農薬なしに栽培することが難しい果樹のリンゴにおいて果皮からこれらの有用な成分を高い純度で大量に取得することは非常に困難であると言わざるを得ない。従って、植物中の含有量が低いこれらトリテルペン、例えばコロソリン酸について合成法を用いて大量に得ようとする試みもなされているが(特許文献1)、食品や化粧品の分野では使用溶媒が限定され、その一方で合成反応に必要な成分の除去が必要であることから充分な精製品を取得するには非常に高いコストを要することが問題であった。
【0003】
植物細胞培養技術を用いてコロソリン酸やトルメンチック酸が生産された例としては、ビワカルスの例がある(非特許文献1)。生薬として用いられるビワの葉は民間的にビワの葉療法と称した温熱療法に用いられ悪性腫瘍などに有効とされているが、その抗腫瘍活性成分については未詳であり、培養法を用いて抗腫瘍成分の生産を目的に実験を行ったところ、ビワ葉より誘導したカルスでは親植物に比べてウルソール酸含有量が1/2以下に低下する一方でコロソリン酸含有量が1.37倍に増加し、親植物では検出限界以下であったトルメンチック酸がコロソリン酸の3倍程度まで生産されることが報告されている。また、トルメンチック酸と同様に親植物では検出限界以下であったトルメンチック酸の3位オキソ体(3-oxoTA)もトルメンチック酸の1/2量程度生産されており、且つTPAをプロモーターとするマウス皮膚発癌二段階実験においてEGCGにほぼ匹敵する活性が認められている。
【0004】
植物体の分析においてこれらトリテルペンが検出された例としては、ウルソール酸がマルメロ属、ナシ属、ナナカマド属、サンザシ属、シャリントウ属から、コロソリン酸がナナカマド属、サンザシ属から、トルメンチック酸がシャリントウ属から検出された報告があるがその含有量は極めて低く商業的に取得活用できるレベルとは程遠い。
【0005】
一方で、ビワカルスの例のように親植物からは検出されていない化合物が生産されたり、また反対に親植物で生産が認められている化合物がカルスなど未分化細胞の状態にすることによって全く生産されなくなる例が知られており、親植物から検出された成分であるからといってカルス培養や細胞培養でも同様の成分が生産される訳ではないことは当該分野において周知の事実である。このことは、カンゾウ(Glycyrrhiza glabra)の培養細胞では親植物での生産が認められるグリチルリチンの生産は認められないことを例として文献にも記載されている(非特許文献3)。また、シソ植物体にコロソリン酸が含まれることは報告されているが、シソカルス培養系を確立し、その細胞抽出物を分析した結果コロソリン酸をはじめとし、ウルソール酸、マスリン酸、トルメンチック酸、およびトルメンチック酸の3位オキソ体である3-oxoTAの生産は認められなかった。従って、植物細胞培養技術を用いてコロソリン酸やトルメンチック酸をはじめとするトリテルペンを大量に生産させたいという目的へのアプローチにおいても、どの植物種を用いた場合にこの目的をなし得るかについては全く予測できなかった。
【0006】
一方、フラボノイドであるエリオジクチオールは7−O−ラムノシドのエリオジクチンや7−O−ネオヘスペリオシドのネオエリオシトリンとしてミカン科植物に含まれている。その含有量は、高含量とされるレモンの果汁100g中にエリオシトリン12mg、ネオエリオシトリン1.5mg、果皮100gにエリオシトリン280mgと分析されている(非特許文献4)。しかしながら、レモン等の柑橘類におけるエリオジクチオール−7−O−グルコシド(E7G)およびナリンゲニン−7−O−グルコシド(N7G)の含有についての報告はない。アグリコンであるエリオジクチオール、ナリンゲニンおよびこれらの配糖体であるエリオシトリン、ナリンジンには神経成長因子の増強作用及び記憶学習能の向上作用が報告されており(特許文献2)、E7Gにはアグリコンであるエリオジクチオールに比して高いα−グルコシダーゼ阻害作用が見出され、その他にも糖尿病治療、予防や肥満改善、防止等への有効性が報告されている(特許文献3)。また、N7Gには前駆脂肪細胞の分化促進作用を高める効果があることが確認されている(特許文献4)。このように機能性が知られるE7G、N7Gおよびこれらのアグリコンであるエリオジクチオール、ナリンゲニンを大量に安定的に取得することは非常に困難であった。
【0007】
北米原産のバラ科アロニア属植物にはアロニア・アルブティフォリア(Aronia arbutifolia)と、アロニア・メラノカルパ(Aronia melanocarpa)の2種があり、またその交雑種であるアロニア・プルニフォリア(Aronia x prunifolia)も栽培される。アロニアは果樹であり、赤〜黒に熟す果実にはアントシアニンが豊富に含まれていることが知られ、ファイトニュートリエント(植物性栄養素)の原料として注目されている(非特許文献5)。耐寒性に優れることからロシアや北欧を中心に栽培されているが、日本においても1976年に北海道立林業試験場が種子を導入して栽培が開始され、北海道内で栽培された果実を材料としてジュースやジャム、キャンディなどの加工食品が販売されている。
【0008】
従ってアロニアの抽出成分および機能性に関わる検討は、アロニアの果実や果実に含まれるアントシアニンを用いてなされているもののみであり、アロニア植物の細胞培養系を確立して生産される成分の検討に関する情報は全く無かった。アロニア植物体に含まれるフラボノイドに関しては、アロニア・メラノカルパの果実および花部について分析されており、両部位から含有量の多い成分としてシアニジンの配糖体、ケルセチンの配糖体が、含有量は記載されていないが果実のみにエリオジクチオール−7−O−β−グルクロニドが検出されている(非特許文献6)。しかしながら本願記載のE7GおよびN7Gについての報告はなされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−29570号公報
【特許文献2】特開2007−230878号公報
【特許文献3】特開2009−57319号公報
【特許文献4】特許3069686号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Taniguchi, S. et al. Phytochemistry 59, 315-323(2002)
【非特許文献2】He, X. et al. J Agric. Food Chem. 55, 4366-4370(2007)
【非特許文献3】Saimaru, H. et al. Chem. Pharm. Bull. 55, 784-788(2007)
【非特許文献4】浜松医科大HP(http://www2.hama-med.ac.jp/w1a/health/kyouiku/kisohai/2001_1/2001_1_lemonlime.html#fukumareru)
【非特許文献5】Strigl, A.W. et al. Zeitschrift fuer Lebensmittel-Untersuchung und -Forschung 91, 177-180(1995)
【非特許文献6】Slimestad, R. Et al., J Food Comp Anal 18, 61-68(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、抗糖尿、抗炎症、抗ガン等の機能が知られるウルサン型および/またはオレアナン型トリテルペンの効率的な製造方法、並びに抗酸化、α−グルコシダーゼ阻害等の機能が知られるフラボノイドの効率的な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明にかかるトリテルペン含有抽出物の製造方法は、
以下の工程:
(1)バラ科アロニア(Aronia)属、マルス(Malus)属、マルメロ(Cydonia)属、ナシ(Pyrus)属、ザイフリボク(Amelanchier)属、ナナカマド(Sorbus)属、シャリンバイ(Rhaphiolepis)属、アズキナシ(Aria)属、カナメモチ(Photinia)属、サンザシ(Crataegus)属、シャリントウ(Cotoneaster)属、テンノウメ(Osteomeles)属及びトキワサンザシ(Pyracantha)属からなる群から選ばれる植物の細胞を培養し、トリテルペンを該植物の細胞の培養物中に生産させる工程と、
(2)前記培養物より1種または2種以上のトリテルペンを含有するトリテルペン含有抽出物を取得する工程と、
を有することを特徴とする。本発明にかかるトリテルペン含有抽出物の製造方法により、(A)トリテルペン含有抽出物、(B)トリテルペン及び(C)トリテルペン混合物のいずれか1種または2種以上を含むトリテルペン含有組成物を提供することができる。
【0013】
更に、本発明にかかるフラボノイド含有抽出物の製造方法は、
以下の工程:
(1)バラ科アロニア(Aronia)属植物の細胞を培養し、フラボノイドを該植物の細胞の培養物中に生産させる工程と、
(2)前記培養物より1種または2種以上のフラボノイドを含有するフラボノイド含有抽出物を取得する工程と、
を有することを特徴とする。本発明にかかるフラボノイド含有抽出物の製造方法によれば、(D)フラボノイド含有抽出物、(E)フラボノイド及び(F)フラボノイド混合物のいずれか1種または2種以上を含むフラボノイド含有組成物を提供することができる。
【0014】
本発明にかかるフラボノイドアグリコンまたはフラボノイドアグリコン混合物の製造方法は、上記の製造方法により糖鎖を有するフラボノイドを含有する抽出物を得る工程と、
抽出物中の糖鎖を有するフラボノイドから糖鎖を切断してフラボノイドアグリコンまたはフラボノイドアグリコン混合物を得る工程と、
を有することを特徴とするフラボノイドアグリコンまたはフラボノイドアグリコン混合物の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、医薬品、医薬部外品、化粧品、食品、飲料等の分野において利用される、植物体からは取得困難なトリテルペンおよび/またはフラボノイド(フラボノイドアグリコンを含む)を効率よく製造することが可能となり、クロロフィルに由来する着色の無いトリテルペン含有抽出物、トリテルペン、トリテルペン混合物、トリテルペン含有組成物、フラボノイド含有抽出物、フラボノイド、フラボノイド混合物、フラボノイドアグリコン、フラボノイドアグリコン混合物、及びフラボノイド(フラボノイドアグリコンを含む)含有組成物を安定的かつ大量に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】アロニア培養細胞抽出物のトリテルペン分析HPLCクロマトグラムを示す図である。
【図2】細胞増殖およびトリテルペン生産のタイムコースを示す図である。
【図3】エゴマ培養細胞抽出物のトリテルペン分析HPLCクロマトグラムを示す図である。
【図4】アロニア培養細胞抽出物のフラボノイド分析HPLCクロマトグラムを示す図である。
【図5】E7G及びL7Gの加水分解による糖鎖切断処理におけるHPLCクロマトグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明に用いられるバラ科アロニア(Aronia)属、マルス(Malus)属、マルメロ(Cydonia)属、ナシ(Pyrus)属、ザイフリボク(Amelanchier)属、ナナカマド(Sorbus)属、シャリンバイ(Rhaphiolepis)属、アズキナシ(Aria)属、カナメモチ(Photinia)属、サンザシ(Crataegus)属、シャリントウ(Cotoneaster)属、テンノウメ(Osteomeles)属、トキワサンザシ(Pyracantha)属植物の培養細胞抽出エキスの調製法は特に限定されない。例えば、植物の葉、根、茎等の植物体の一部から定法により培養細胞を樹立し、この細胞を培養し、培養物、すなわち培養細胞或いは培養液から溶媒を用いて抽出することにより得ることができる。
【0019】
培養細胞を樹立するための原材料となるアロニア属(Aronia)植物としては、アロニア・メラノカルパ(Aronia melanocarpa)、アロニア・アルブティフォリア(Aronia arbutifolia)、アロニア・プルニフォリア(Aronia x prunifolia)等が挙げられ、中でもアロニア・メラノカルパ(Aronia melanocarpa)が好ましい。
【0020】
培養細胞を樹立するための原材料となるマルス(Malus)属植物としては、リンゴ(Malus domestica)、ハナカイドウ(Malus halliana)、ミカイドウ(Malus micromalus)、ワリンゴ(Malus asiatica)、マルバカイドウ(Malus prunifolia var. ringo)、ノカイドウ(Malus spontanea)、イヌリンゴ(Malus prunifolia)、ズミ(Malus toringo)、エゾノコリンゴ(Malus baccata var. mandshurica)、オオウラジロノキ(Malus tschonoskii)、オオズミ(Malus toringo var. zumi)、カイドウズミ(Malus floribunda)、マルス・シルベストリス(Malus sylvestris)、マルス・レモイネイ(Malus lemoinei)等が挙げられ、中でもリンゴ(Malus domestica)、ワリンゴ(Malus asiatica)、ハナカイドウ(Malus halliana)が好ましい。
【0021】
培養細胞を樹立するための原材料となるマルメロ(Cydonia)属植物としては、マルメロ(Cydonia oblonga)が挙げられる。
【0022】
培養細胞を樹立するための原材料となるナシ(Pyrus)属植物としては、セイヨウナシ(Pyrus communis)、ナシ(Pyrus pyrifolia (Burm. fil.) Nakai var. culta)、ニホンナシ(Pyrus pyrifolia)、チュウゴクナシ(Pyrus bretschneideri)、ヒマラヤナシ(Pyrus pashia)、マメナシ(Pyrus calleryansa)、マンシュウマメナシ(Pyrus betulifolia)、ユキナシ(Pyrus nivalis)、アイナシ(Pyrus x uyematsuana)、アオナシ(Pyrus ussuriensis var. hondoensis)、イワテヤマナシ(Pyrus ussuriensis)、ピルスアミグダリフォルミス(Pyrus amygdaliformis)、ピルスサリシフォリア(Pyrus salicifolia)、ピルスセロティナ(Pyrus serotina)等が挙げられ、中でもセイヨウナシ(Pyrus communis)が好ましい。
【0023】
培養細胞を樹立するための原材料となるザイフリボク(Amelanchier)属植物としては、ザイフリボク(Amelanchier asiatica)、ジューンベリー(Amelanchier alnifolia)等が挙げられ、中でもジューンベリー(Amelanchier alnifolia)が好ましい。
【0024】
培養細胞を樹立するための原材料となるナナカマド(Sorbus)属植物としては、ナナカマド(Sorbus commixta)、ウラジロナナカマド(Sorbus matsumurana)、ナンキンナナカマド(Sorbus gracilis)、タカネナナカマド(Sorbus sambuchifolia)、カワシロナナカマド(Sorbus x kawashiroi)、サビバナナカマド(Sorbus commixta var. rufoferruginea)、ミヤマナナカマド(Sorbus sambuchifolia var. pseudoglacilis)、アメリカナナカマド(Sorbus americana)、オウシュウナナカマド(Sorbus aucuparia)、オンタケナナカマド(Sorbus x yokouchii)、タチナンキンナナカマド(Sorbus viminalis)、ツシマナナカマド(Sorbus commixta var. wirfordii)、デワノハゴロモナナカマド(Sorbus x uzenensis)、ヨサノハゴロモナナカマド(Sorbus x tangoensis)、リクチュウナナカマド(Sorbus x rikuchuensis)、ナンキンナナカマドモドキ(Sorbus matsumurana f. pseudoglacilis)、ハゴロモナナカマド(Sorbus rikuchuensis)、ソルブスカシミリアナ(Sorbus cashmiriana)、ソルブスディスコロル(Sorbus discolor)、ソルブスデコラ(Sorbus decora)等が挙げられ、中でもナナカマド(Sorbus commixta)が好ましい。
【0025】
培養細胞を樹立するための原材料となるシャリンバイ(Rhaphiolepis)属植物としては、シャリンバイ(Rhaphiolepis indica var. umbellata f. umbellata)、ヒメシャリンバイ(Rhaphiolepis indica var. umbellata f. minor)、ホソバシャリンバイ(Rhaphiolepis indica var. liukiuensis)、モッコクモドキ(Rhaphiolepis indica)等が挙げられる。
【0026】
培養細胞を樹立するための原材料となるアズキナシ(Aria)属植物としては、アズキナシ(Aria alnifolia)、ウラジロノキ(Aria japonica)、オクシモアズキナシ(Aria alnifolia var. submollies)、キミノウラジロノキ(Aria japonica f. calocarpa)、コモノウラジロノキ(Aria japonica f. denudata)、フギレアズキナシ(Aria alnifolia f. lobulata)等が挙げられる。
【0027】
培養細胞を樹立するための原材料となるカナメモチ(Photinia)属植物としては、カナメモチ(Photinia glabra)、オオカナメモチ(Photinia serratifolia)、セイヨウカナメモチ(Photinia x fraseri)、シマカナメモチ(Photinia wrightiana)等が挙げられる。
【0028】
培養細胞を樹立するための原材料となるサンザシ(Crataegus)属植物としては、サンザシ(Crataegus cuneata)、クロミサンザシ(Crataegus chlorosarca)、オオサンザシ(Crataegus pinnatifida)、エゾサンザシ(Crataegus jozana)、アラゲアカサンザシ(Crataegus maximowiczii)、クラタエグスクルスガリ(Crataegus crus-galli)、クラタエグスアザロルス(Crataegus azarolus)、クラタエグススブモリス(Crataegus submollis)、クラタエグスフラバ(Crataegus flava)、クラタエグスモノギナ(Crataegus monogyna)、クラタエグスァエビガタ(Crataegus laevigata)等が挙げられる。
【0029】
培養細胞を樹立するための原材料となるシャリントウ(Cotoneaster)属植物としては、ベニシタン(Cotoneaster horizontalis)、ヒメシャリントウ(Cotoneaster microphyllus)、ヤナギバシャリントウ(Cotoneaster salicifolius)、ギンヨウシャリントウ(Cotoneaster pannosus)、ヒマラヤシャリントウ(Cotoneaster frigidus)、コトネアスターアドプレッスス(Cotoneaster adpressus)、コトネアスターインテゲルリムス(Cotoneaster integerrimus)、コトネアスターフランケティイ(Cotoneaster franchetii)、コトネアスターワテレリ(Cotoneaster x watereri)等が挙げられる。
【0030】
培養細胞を樹立するための原材料となるテンノウメ(Osteomeles)属植物としては、テンノウメ(Osteomeles anthyllidifolia var. subrotunda)、タチテンノウメ(Osteomeles schwerinae)、シラゲテンノウメ(Osteomeles lanata)等が挙げられる。
【0031】
培養細胞を樹立するための原材料となるトキワサンザシ(Pyracantha)属植物としては、トキワサンザシ(Pyracantha coccinea)、タチバナモドキ(Pyracantha angustifolia)、カザンデマリ(Pyracantha crenulata)が挙げられる。
【0032】
また、培養細胞を樹立するためのこれらバラ科アロニア(Aronia)属 、マルス(Malus)属、マルメロ(Cydonia)属、ナシ(Pyrus)属、ザイフリボク(Amelanchier)属、ナナカマド(Sorbus)属、シャリンバイ(Rhaphiolepis)属、アズキナシ(Aria)属、カナメモチ(Photinia)属、サンザシ(Crataegus)属、シャリントウ(Cotoneaster)属、テンノウメ(Osteomeles)属、トキワサンザシ(Pyracantha)属植物の産地は特に限定されない。
【0033】
アロニア(Aronia)属、マルス(Malus)属、マルメロ(Cydonia)属、ナシ(Pyrus)属、ザイフリボク(Amelanchier)属、ナナカマド(Sorbus)属、シャリンバイ(Rhaphiolepis)属、アズキナシ(Aria)属、カナメモチ(Photinia)属、サンザシ(Crataegus)属、シャリントウ(Cotoneaster)属、テンノウメ(Osteomeles)属、トキワサンザシ(Pyracantha)属植物の培養細胞の樹立および樹立した培養細胞の培養方法としては特に限定されない。好ましい例としては、アロニア(Aronia)属、マルス(Malus)属、マルメロ(Cydonia)属、ナシ(Pyrus)属、ザイフリボク(Amelanchier)属、ナナカマド(Sorbus)属、シャリンバイ(Rhaphiolepis)属、アズキナシ(Aria)属、カナメモチ(Photinia)属、サンザシ(Crataegus)属、シャリントウ(Cotoneaster)属、テンノウメ(Osteomeles)属、トキワサンザシ(Pyracantha)属植物の組織の一部、例えば子葉を定法により殺菌および洗浄し、固体培地上で無菌的に培養することによりカルスを取得し、この中から増殖能が高く維持されたカルスを取得した後、液体培地に移植して、一定期間毎に継代培養を繰り返して安定した細胞増殖性が認められる細胞株を取得する。次にこの継代培養細胞をトリテルペン・フラボノイド高生産培地、例えばMS−10の液体培地、あるいはジャスモン酸メチル添加培地で培養してトリテルペンおよび/またはフラボノイド含量の高まった培養細胞を取得する方法が挙げられる。
【0034】
ここで、カルス誘導に用いる培地としては、窒素、リン酸、カルシウム塩、マグネシウム塩等の植物の成育に必須な無機塩類、ビタミン、糖類、植物ホルモンを含む培地であれば良く、これらを含む培地をアガロース、ゲルライト等のゲル化剤を用いて固形状に固めたものが通常用いられる。無機塩類とビタミンの種類や量を調節した基本培地としてはムラシゲスクーグ(MS)培地、ガンボーグB5(B5)培地、ウッディープラント(WP)培地等が挙げられる。糖類としてはスクロース、グルコース等が挙げられる。また、植物ホルモンとしてはオーキシン単独またはオーキシンとサイトカイニンとの組合せを基本として用いればよく、これらの他にカザミノ酸、ココナツミルク、アミノ酸等の添加物がカルスの形成に有利に働く場合がある。オーキシンとしては2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)、ナフタレン酢酸(NAA)、インドール酢酸(IAA)、インドール酪酸(IBA)等が挙げられ、サイトカイニンとしてはベンジルアデニン(BA)、カイネチン、ゼアチン、イソペンテニルアデニン等が挙げられる。
【0035】
継代培養を行う液体培地としては、カルス誘導に用いる培地からゲル化剤を除いたものであれば良く、カルス化誘導に用いた際の基本培地や糖類濃度、植物ホルモンの種類や濃度については特に限定されない。
【0036】
トリテルペンまたはフラボノイド生産に用いる培地としては、特に基本培地や糖類濃度、植物ホルモンの種類や濃度については限定されず、基本培地をMS培地とし、これに3%スクロース、10-5M IBAおよび10-5M kinetinを含むMS−IK培地を用いることが出来る。しかしながらMS培地よりも塩濃度の低い培地を用いることが望ましく、このような基本培地としてはB5培地、WP培地、White培地等が挙げられる。植物ホルモンは含まれていても含まれていなくても良い。更に培地に含まれる窒素源の中からアンモニア態窒素を除去したり、アンモニア態窒素の割合を基本培地に含まれる濃度より低く設定する等の改変を加えることが望ましく、このような培地の例としてMS10HF培地等が挙げられる。また、ジャスモン酸メチル等のジャスモン酸類を添加した培地をトリテルペンまたはフラボノイド生産用培地として用いることが出来る。
【0037】
アロニア(Aronia)属、マルス(Malus)属、マルメロ(Cydonia)属、ナシ(Pyrus)属、ザイフリボク(Amelanchier)属、ナナカマド(Sorbus)属、シャリンバイ(Rhaphiolepis)属、アズキナシ(Aria)属、カナメモチ(Photinia)属、サンザシ(Crataegus)属、シャリントウ(Cotoneaster)属、テンノウメ(Osteomeles)属、トキワサンザシ(Pyracantha)属植物培養細胞からの抽出エキス調製に際し、用いられる抽出溶媒としては、例えば水、低級1価アルコール(メチルアルコール、エチルアルコール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール等)、液状多価アルコール(グリセリン、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等)、低級アルキルエステル(酢酸エチル等)、炭化水素(ベンゼン、ヘキサン、ペンタン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジプロピルエーテル等)、アセトニトリル等が挙げられ、一種又は二種以上を用いることができる。
【0038】
好ましい抽出方法の例としては、含水濃度0〜100vol%のエチルアルコール、1,3−ブチレングリコール又は水を用い、室温で、又は加温して1〜5日間抽出を行った後ろ過し、得られた濾液を更に1週間程放置して熟成させ、再びろ過を行う方法が挙げられる。
【0039】
本発明にかかるトリテルペン含有抽出物の製造方法により得られた抽出物は、トリテルペンとしてウルサン型トリテルペンおよび/またはオレアナン型トリテルペンを含むことができ、好ましくは、以下の一般式(I)で表される化合物及び一般式(II)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことができる。
【0040】
一般式(I):
【0041】
【化1】

【0042】
[式中、R1は−OX1(ここで、X1は水素原子、アシル基又は糖残基を表す)であり、R2は水素原子であるか、又はR1と一緒になってオキソを表し;R3は、水素原子又は−OX2(ここで、X2は水素原子、アシル基又は糖残基を表す)であり;R4は、水素原子又は−OX3(ここで、X3は水素原子、アシル基又は糖残基を表す。)である。]
一般式(II):
【0043】
【化2】

【0044】
[式中、R1は−OX1(ここで、X1は水素原子、アシル基又は糖残基を表す)であり、R2は水素原子であるか、又は一緒になってオキソを表し;R3は、水素原子又は−OX2(ここで、X2は水素原子、アシル基又は糖残基を表す。)である。]
更に好ましくは、抽出物は、トリテルペンとして、コロソリン酸、マスリン酸、トルメンチック酸、ウルソール酸及び2,19−ジヒドロキシ−3−オキソ−ウルス−12−エン−28−オイック酸からなる群からから選ばれる少なくとも1種を含むことができる。
【0045】
アロニア属植物の細胞の培養に際して、一般式(III):
【0046】
【化3】

【0047】
[式中、R5a、R5b、R5c、R5d、R5e及びR5fは、それぞれ独立に水素原子、水酸基、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数1〜6のアルコキシ基を表し;R6、R7、R8、R9及びR10は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表し;C1−C2−C3−C4−C5−C6からなる側鎖は、1個又は2個以上の二重結合を含んでもよく;R11は水酸基、OM(ここで、Mはアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子又はNH4を表す。)、NR12a12b(ここでR12a及びR12bは、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜6のアシル基、炭素数1〜6アルキル基又はアミノ酸残基を表す。)、OR13(ここで、R13は、炭素数1〜6のアルキル基又は炭水化物残基を表す。)又は炭素数1〜6のアルキル基を表し;nは1〜7の整数を表し、前記五員環は隣接する環員炭素原子間で形成される1個又は2個の二重結合を有していてもよい。]で示されるジャスモン酸類の存在下に植物細胞を培養することが好ましい。
【0048】
ジャスモン酸類の好適な例としては、ジャスモン酸メチル、ジャスモン酸、ジャスモン酸イソロイシル、ジヒドロジャスモン酸メチル等を例示することができる。
【0049】
上記一般式(I)及び(II)のX1、X2、X3において、
アシルとは直鎖もしくは分枝状のアルキルカルボニル(好ましくは炭素数1〜10、さらに好ましくは炭素数1〜6、最も好ましくは炭素数1〜4)、直鎖もしくは分枝状のアルケニルカルボニル(好ましくは炭素数2〜10、さらに好ましくは炭素数2〜6、最も好ましくは炭素数2〜4)、置換されていてもよいシクロアルキルカルボニル(好ましくは炭素数4〜9、さらに好ましくは炭素数4〜7)、置換されていてもよいアリールカルボニル、置換されていてもよいヘテロ環カルボニルを包含する。
【0050】
アルキルカルボニルまたはアルケニルカルボニルは任意の位置に1以上の置換基を有していても良い。置換基としてはヒドロキシ、アルコキシおよびアセチルオキシ等から選択される1以上の基で置換されたフェニルが挙げられる。
【0051】
具体的には、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、アクリロイル、プロピオロイル、メタクリロイル、クロトノイル、シクロプロピルカルボニル、シクロヘキシルカルボニル、シクロオクチルカルボニル、ベンゾイル、シンナモイル、カフェオイル、クマロイル、フェルロイル等が挙げられ、好ましくはアセチル、シンナモイル、クマロイル、カフェオイルまたはフェルロイルである。
【0052】
糖残基とはグルコシル基およびオリゴ糖残基を包含する。
【0053】
グリコシル基とは、単糖またはその誘導体の環状形からグリコシド性ヒドロキシ基を取り去ってできる基を包含し、例えばフルクトフラノシル、グルコフラノシル、リボフラノシル、リブロフラノシル、キシルロフラノシル、アピオフラノシル、アロピラノシル、アルトロピラノシル、グルコピラノシル、マンノピラノシル、イドピラノシル、ガラクトピラノシル、タロピラノシル、プシコピラノシル、フルクトピラノシル、ソルボピラノシル、タガトピラノシル、アラビノピラノシル、キシロピラノシルおよびリキソピラノシル等が挙げられる。
【0054】
また、これらのデオキシ体(例えば6−デオキシグルコピラノシル、6−デオキシマンノピラノシル、6−デオキシガラクトピラノシル等)、置換フェニルオキソプロペニル体(例えば3−(4−メトキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペニルガラクトピラノシル、3−(3,4−ジメトキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペニルガラクトピラノシル、1−オキソ−3−(3,4,5−トリメトキシフェニル)−2−プロペニルガラクトピラノシル等)も包含する。
【0055】
好ましくはアピオフラノシル、グルコピラノシル、マンノピラノシル、ガラクトピラノシル、アラビノピラノシル、キシロピラノシルまたはそれらのデオキシ体である。
【0056】
オリゴ糖残基は、上記のグリコシル基から選択される2〜10個、好ましくは3〜6個がグリコシド結合した基を包含する。また、それらのデオキシ体も包含する。
【0057】
代謝性エステル残基とは、化学的または代謝的に分解されるエステル残基を意味する。好ましくはC1〜C6アルキルエステル(メチルエステル、エチルエステル、n−プロピルエステル、イソプロピルエステル、n−ブチルエステル、イソブチルエステル、t−ブチルエステル、n−ペンチルエステル、ネオペンチルエステル、イソペンチルエステル、n−ヘキシルエステル等)、フェニルエステルまたはベンジルエステルであり、さらに好ましくはメチルエステルまたはエチルエステルである。
【0058】
前記一般式(III)において、R5a、R5b、R5c、R5d、R5e、R5f、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12a、R12b又はR13で表される炭素数1〜6のアルキル基としては、例えばメチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等が挙げられる。
【0059】
前記一般式(III)において、R5a、R5b、R5c、R5d、R5e又はR5fで表される炭素数1〜6のアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0060】
R11がOMである場合において、Mで表されるアルカリ金属原子又はアルカリ土類金属原子としては、例えばナトリウム、カリウム、カルシウムが挙げられる。R11がNR12aR12bである場合において、R12a又はR12bで表される炭素数1〜6のアシル基は直鎖、分岐鎖のいずれでもよく、例えばホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、ヘキサノイル基、アクリロイル基等が挙げられる。
【0061】
R11がNR12aR12bである場合において、R12a又はR12bで表されるアミノ酸残基としては、例えばイソロイシル基、チロシル基、トリプトフィル基が挙げられる。R11がOR13である場合において、R13で表される炭水化物残基である場合における炭水化物残基としては、グルコピラノシル基が挙げられる。
【0062】
また、前記一般式(III)で示される化合物においては、五員環は、隣接する環員炭素原子間で二重結合を形成しても良い。
【0063】
前記一般式(III)で示される化合物の具体例としては、以下に示す化合物が挙げられる。
(化合物A)
R5a、R5b、R5c、R5d、R5e、R5f、R6、R7、R8、R9、R10:H、C 3とC4間で二重結合形成、R10:−OH又は−OCH3、n:1〜3
(化合物B)
R5a、R5b、R5c、R5d、R5e、R5f、R6、R7、R8、R9:H、R10:−OH又は−OCH3、n:1
前記一般式(III)で示される化合物において、R5a又はR5b又はR5c又はR5d又はR5e又はR5fが水酸基である化合物、又は五員環において隣接する環員炭素原子間で二重結合が形成された化合物の具体例としては、例えば、以下に示す化合物が挙げられる。
(化合物C)
【0064】
【化4】

【0065】
(化合物D)
【0066】
【化5】

【0067】
(化合物E)
【0068】
【化6】

【0069】
(化合物F)
【0070】
【化7】

【0071】
前記一般式(III)において示される化合物の好ましいものとしては、R5a、R5b、R5c、R5d、R5e、R5f、R6、R7、R8、R9及びR10が水素原子であり、R11が水酸基又はメトキシ基であり、C1−C2−C3−C4−C5−C6からなる側鎖が、二重結合を含まないか、あるいはC1とC2、C2とC3、C3とC4の間で二重結合を形成している化合物が挙げられる。
【0072】
本発明で使用される前記一般式(III)で示されるジャスモン酸類には種々の立体異性体(シストランス異性体、光学異性体)が存在するが、それぞれの異性体を単独で用いても、混合物の形で用いてもよい。
【0073】
以上のジャスモン酸類の中でも前記一般式(III)において、R5a、R5b、R5c、R5d、R5e、R5f、R6、R7、R8、R9及びR10が水素原子であり、R11がメトキシ基であり、nが1であり、C3とC4の間で二重結合を形成しているジャスモン酸のメチルエステルが生産性向上に対する効果の大きさの点から特に好ましい。
【0074】
本発明の製造方法により得られたトリテルペン含有抽出物には、抽出に用いた溶媒と、溶媒の種類と抽出条件に応じて植物細胞から抽出されてきたトリテルペン及びその他の成分が含まれる。更に、この抽出物を溶媒からろ過、溶媒置換、乾燥などの定法により処理した植物細胞から抽出されてきたトリテルペン及びその他の成分が含まれる抽出物も本発明におけるトリテルペン含有抽出物に含まれる。これらのトリテルペン含有抽出物から、定法により、トリテルペンおよびトリテルペン混合物を得ることができる。
【0075】
本発明の製造方法から得られるトリテルペン含有抽出物、トリテルペンおよびトリテルペン混合物の少なくとも1種を有効成分として、医薬品、医薬部外品、化粧品、食品、飲料等の分野において利用される組成物を得ることができる。これらの組成物の有効成分以外の成分としては、例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、乳糖、デキストリン、デンプン類、メチルセルロース、脂肪酸グリセリド類などの各種の担体、賦型剤または基剤、水、プロピレングリコール、マクロゴール類、アルコールなどの希釈剤、着色剤や安定化剤、崩壊助剤などの添加剤などが利用でき、組成物の目的とする用途に応じて適宜選択される。このようなトリテルペンの少なくとも1種を含む組成物中のトリテルペンの含有割合は、0.01〜10質量%とすることができる。また、医薬品製造において利用する場合は、抽出溶媒として医薬用途に適用した薬学的に許容される水などの溶媒を用いたトリテルペン含有抽出物、このトリテルペン含有抽出物から得られたトリテルペンまたはトリテルペン混合物を用いて、必要に応じて薬学的に許容される溶媒、希釈剤及び担体などの少なくとも1種を用いて医薬品製造用の原料組成物とすることができる。更に、化粧品などの医薬部外品や食品の分野で使用される組成物とする場合は、これらの分野において許容される溶媒、希釈剤及び担体などの少なくとも1種を用いてこれらの分野で用いられる組成物、例えば、医薬部外品や食品の製造に用いる添加剤とすることができる。
【0076】
本発明の製造方法により得られたフラボノイド含有抽出物は、フラボノイドとして、エリオジクチオールグルコシドおよび/またはナリンゲニングルコシドを含むことができる。更に、本発明のフラボノイド含有抽出物の製造方法においては、アロニア属植物の細胞を、アンモニウム態窒素を含まない培地を用いて培養することが好ましい。更に、先に挙げた一般式(III)で示されるジャスモン酸類の存在下に培養するが好ましい。
【0077】
本発明の製造方法により得られたフラボノイド含有抽出物からフラボノイドおよびフラボノイド混合物を得ることができる。更にはフラボノイドが糖鎖を有する場合に、フラボノイド含有抽出物、フラボノイド含有抽出物から得られたフラボノイドおよびフラボノイド混合物を加水分解、または糖鎖切断酵素処理することによりフラボノイドアグリコン及びフラボノイドアグリコン混合物を得ることができる。例えば、エリオジクチオールはエリオジクチオール−7−O−グルコシドから、ナリンゲニンはナリンゲニン−7−O−グルコシドから糖鎖切断処理により得ることができる。加水分解には、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸や酢酸、乳酸などの有機酸が利用できる。糖鎖切断酵素としてはエンドグリコシダーゼなどが利用できる。糖鎖の切断処理には、抽出物が糖鎖切断処理に適用可能な状態であれば抽出物をそのまま糖鎖切断処理に利用することができる。あるいは、必要に応じて、濃縮、溶媒置換、精製などの前処理を行ってから糖鎖切断処理を行う。糖鎖切断処理は定法により行うことができる。
【0078】
また、本発明の製造方法から得られるフラボノイド含有抽出物、フラボノイド及びフラボノイド混合物、フラボノイドアグリコン及びフラボノイドアグリコン混合物の少なくとも1種を有効成分として、医薬品、医薬部外品、化粧品、食品、飲料等の分野において利用される組成物を得ることができる。この組成物のその他の成分としては、トリテルペン含有抽出物の場合と同様に、各種の担体、賦型剤、基剤、添加剤などが利用でき、組成物の目的とする用途に応じて適宜選択される。このようなフラボノイドの少なくとも1種を含む組成物中のフラボノイドの含有割合は、0.01〜10質量%とすることができる。更に、本発明の製造方法から得られるフラボノイド含有抽出物、フラボノイド、フラボノイド混合物、フラボノイドアグリコン及びフラボノイドアグリコン混合物の少なくとも1種を用いて、トリテルペンの場合と同様に、医薬品製造用の原料組成物や、医薬部外品または食品の製造に用いる添加剤を提供することができる。
【0079】
更に、トリテルペン含有抽出物、トリテルペン、トリテルペン混合物、フラボノイド含有抽出物、フラボノイド、フラボノイド混合物、フラボノイドアグリコン及びフラボノイドアグリコン混合物の少なくとも1種を有効成分として、上記と同様にして、医薬品、医薬部外品、化粧品、食品、飲料等の分野において利用される各種組成物を得ることができる。各種組成物中での有効成分の含有量も上記と同様にして、0.01〜10質量%とすることができる。
【実施例】
【0080】
以下、参考例、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]アロニア・メラノカルパ(Aronia melanocarpa)カルスの取得および液体培養系の確立
3%スクロース、10-5M NAAおよび10-5M kinetinを含むムラシゲ&スクーグ(MS)の0.25%ゲルライト固体培地に、前もって70%エタノール溶液、2%アンチホルミン溶液等で滅菌処理したアロニア・メラノカルパの葉の組織片を置床し、25℃、暗所にて静置培養してカルスを得た。固体培地で継代をくり返すことにより安定して増殖するカルスを取得した後、ゲルライトを含まない液体培地(MS−NK培地)にカルスを移植し、7〜14日毎に継代を繰り返して細胞の増殖性を高め、7日ごとに継代可能(細胞増殖倍率:8倍)なAMY−N株を取得した。
【0081】
医薬部外品、化粧品、食品、飲料等の分野においては、AMY−N株は合成オーキシンであるNAAを用いた培養であり、天然に存在する成分でのみ培養を行うことが望まれる。しかしながら合成オーキシンを用いて確立した培養系の細胞を天然型のオーキシンを用いて培養しても、3代以内の継代培養の過程で細胞の増殖が急激に抑制されるケースが多く、一般には合成オーキシンから天然型のオーキシンへの切換えは非常に難しい。AMY−N株についても天然系のオーキシンであるIBAをNAAに換えて用いた場合(MS−IK培地)、細胞増殖倍率が1代目:6.1倍、2代目:4.5倍、3代目:5.4倍と低下した。IBAを用いた培地で継代を続けることで6.5倍/7日の株を確立し、更に初期細胞密度を1/2に低下させた環境下で増殖する細胞株を選抜し、7日ごとに継代可能(細胞増殖倍率:10.1倍)なAMY−I株を取得した。
[実施例2]AMY−I株の培養経過に伴うトリテルペン成分の生産
AMY−I株を12.5g/Lの細胞密度になるようMS−IK培地に移植し、培養3日目より毎日培養物を回収して細胞の増殖性およびトリテルペンの生産について測定した。尚、トリテルペンの定量は以下に示す条件(TTAM)でHPLC−PDAを用いて行い、検出された主ピーク5本についてはそれぞれコロソリン酸(CA)、マスリン酸(MA)、トルメンチック酸(TA)、ウルソール酸(UA)、2,19−ジヒドロキシ−3−オキソ−ウルス−12−エン−28−オイック酸(3−oxoTA)であることを確認した。HPLCクロマトグラムを図1に、細胞増殖およびトリテルペン生産のタイムコースを図2に示す。
HPLC conditions (TTAM);
Column; YMC-Pak ODS-AM302 (4.6x150mm)
Sol. A; 0.04%TFA-aq, Sol. B; CH3CN (gradient)
Sol. B(%)/min = 60/0 → 75/30
Oven temp.; 40℃
Flow rate; 1mL/min
Wave length; 202nm
[実施例3]ジャスモン酸メチル添加によるトリテルペン生産促進
AMY−I株を25g/Lの細胞密度になるようMS−IK培地に移植し、直ちに終濃度0.1mMとなるようジャスモン酸メチルを添加して培養を行い、7日目に回収した培養物に含まれるトリテルペン量を実施例2に記載の分析条件にてHPLC−PDAを用いて定量した。結果を表1に示す。
【0082】
[実施例4]
ジャスモン酸メチルを添加しない以外は実施例3と同様の方法にて実施した。結果を表1に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
ジャスモン酸メチルの添加によりトリテルペンの生産が明らかに促進された。
【0085】
[実施例5]細胞移植密度のトリテルペン生産への影響
AMY−I株の移植密度を78g/L、156g/L、313g/Lとした以外は実施例3と同様の方法にて実施した。結果を表2に示す。
【0086】
【表2】

【0087】
移植密度を高くすることによりトリテルペン収量が向上した。
【0088】
[実施例6]アンモニウムイオンおよび植物ホルモンフリー、総窒素源濃度:10mMとした改変培地(MS−10HF培地)の効果
実施例3において、MS−IK培地の代わりにMS−IK培地に含まれるアンモニウムイオンおよび植物ホルモンを除去し、且つ総窒素濃度を10mMとした改変培地(MS−10HF培地)を用いた以外は同様の方法にて実施した。結果を表3に示す。
【0089】
[実施例7]
ジャスモン酸メチルを添加しない以外は実施例6と同様の方法にて実施した。結果を表3に示す。
【0090】
[実施例8]細胞移植密度のトリテルペン生産への影響
AMY−I株の移植密度を78g/L、156g/L、313g/Lとした以外は実施例6と同様の方法にて実施した。結果を表3に示す。
【0091】
【表3】

【0092】
MS−10HF培地とジャスモン酸メチル添加を組み合わせることにより、単位容積あたりのトリテルペン収量が向上した。
【0093】
[実施例9]セイヨウリンゴ(Malus domestica)液体培養系の確立およびトリテルペン成分の生産
3%スクロース、10-5M NAAおよび10-5M kinetinを含むムラシゲ&スクーグ(MS)の0.25%ゲルライト固体培地に、前もって70%エタノール溶液、2%アンチホルミン溶液等で滅菌処理したセイヨウリンゴの幼胚軸の組織片を置床し、25℃、暗所にて静置培養してカルスを得た。固体培地で継代をくり返すことにより安定して増殖するカルスを取得した後、ゲルライトを含まない液体培地(MS−NK培地)にカルスを移植し、7〜14日毎に継代を繰り返して細胞の増殖性を高め、7日ごとに継代可能(細胞増殖倍率:8倍)なMDT−N株を取得した。
【0094】
MDT−N株についても天然系のオーキシンであるIBAをNAAに換えて用いることにより、7倍/7日に増殖する株MDT−I株を取得した。MDT−I株を12.5g/Lの細胞密度になるようMS−IK培地に移植し、培養7日目の培養物を回収し、実施例2に記載の方法でトリテルペンの生産について測定した。結果を表4に示す。
【0095】
[参考例1]セイヨウリンゴ果実に含まれるトリテルペン量
セイヨウリンゴ果実を果皮、果肉、芯部に分けて凍結乾燥処理した後、各部位0.5gより40mLメタノールを用いて抽出し、抽出液を減圧濃縮乾固した。このようにして得られたメタノール抽出物に対し、酢酸エチル/H2O=1/1液を加えて液−液分配を行い、酢酸エチル層を減圧濃縮した後、メタノールに溶解して、実施例2に記載の方法でトリテルペンの生産について測定した。その結果、果肉、芯部にはいずれのトリテルペンも検出されなかった。また、果皮にはトリテルペンが認められたが、その含有量は非常に低く、実施例9の培養における生産量と比較するとセイヨウリンゴ果実1個に含まれる量はおおよそ50〜110mLスケール程度の培養で生産される量に相当した。
【0096】
[実施例10]ワリンゴ(Malus asiatica)液体培養系の確立およびトリテルペン成分の生産
3%スクロース、10-5M NAAおよび10-5M kinetinを含むムラシゲ&スクーグ(MS)の0.25%ゲルライト固体培地に、前もって70%エタノール溶液、2%アンチホルミン溶液等で滅菌処理したワリンゴの幼胚軸の組織片を置床し、25℃、暗所にて静置培養してカルスを得た。固体培地で継代をくり返すことにより安定して増殖するカルスを取得した後、ゲルライトを含まない液体培地(MS−NK培地)にカルスを移植し、14日毎に継代を繰り返して細胞の増殖性を高め、14日ごとに継代可能(細胞増殖倍率:6倍)なMAT−N株を取得した。
【0097】
MAT−N株を12.5g/Lの細胞密度になるようMS−NK培地に移植し、培養14日目の培養物を回収し、実施例2に記載の方法でトリテルペンの生産について測定した。結果を表4に示す。
【0098】
[実施例11]マルメロ(Cydonia oblonga)液体培養系の確立およびトリテルペン成分の生産
3%スクロース、10-5M NAAおよび10-5M kinetinを含むムラシゲ&スクーグ(MS)の0.25%ゲルライト固体培地に、前もって70%エタノール溶液、2%アンチホルミン溶液等で滅菌処理したマルメロの葉の組織片を置床し、25℃、暗所にて静置培養してカルスを得た。固体培地で継代をくり返すことにより安定して増殖するカルスを取得した後、ゲルライトを含まない液体培地(MS−NK培地)にカルスを移植し、14日毎に継代を繰り返して細胞の増殖性を高め、14日ごとに継代可能(細胞増殖倍率:6倍)なCOY−N株を取得した。
【0099】
COY−N株を12.5g/Lの細胞密度になるようMS−NK培地に移植し、培養14日目の培養物を回収し、実施例2に記載の方法でトリテルペンの生産について測定した。結果を表4に示す。
【0100】
[実施例12]セイヨウナシ(Pyrus communis)液体培養系の確立およびトリテルペン成分の生産
3%スクロース、10-5M NAAを含むガンボルグB5(B5)の0.25%ゲルライト固体培地に、前もって70%エタノール溶液、2%アンチホルミン溶液等で滅菌処理したセイヨウナシの葉の組織片を置床し、25℃、暗所にて静置培養してカルスを得た。固体培地で継代をくり返すことにより安定して増殖するカルスを取得した後、ゲルライトを含まない液体培地(B5−N培地)にカルスを移植し、14日毎に継代を繰り返して細胞の増殖性を高め、14日ごとに継代可能(細胞増殖倍率:6倍)なPCT−N株を取得した。
【0101】
PCT−N株を12.5g/Lの細胞密度になるようB5−N培地に移植し、培養14日目の培養物を回収し、実施例2に記載の方法でトリテルペンの生産について測定した。結果を表4に示す。
【0102】
【表4】

【0103】
[比較例2]エゴマ(Perilla frutescens)液体培養系の確立およびトリテルペン成分の生産
3%スクロース、10-5M NAAおよび10-6M kinetinを含むムラシゲ&スクーグ(MS)の0.25%ゲルライト固体培地に、前もって70%エタノール溶液、2%アンチホルミン溶液等で滅菌処理したエゴマの幼胚軸の組織片を置床し、25℃、暗所にて静置培養してカルスを得た。固体培地で継代をくり返すことにより安定して増殖するカルスを取得した後、ゲルライトを含まない液体培地(MS−NK6培地)にカルスを移植し、14日毎に継代を繰り返して細胞の増殖性を高め、14日ごとに継代可能なPFN−N株を取得した。
【0104】
PFN−N株を12.5g/Lの細胞密度になるようMS−NK6培地に移植し、培養14日目の培養物を回収し、実施例2に記載の方法でトリテルペンの生産について測定した。結果を図3に示す。エゴマ細胞培養系ではトリテルペンの生産は認められなかった。
[実施例13]フラボノイド生産への影響
アロニア・メラノカルパAMY−I株を25g/Lの細胞密度になるようMS−10HF培地に移植し、培養7日目の培養物を回収して細胞の増殖性およびフラボノイドの生産について測定した。尚、フラボノイドの定量は以下に示す条件(FAM)でHPLC−PDAを用いて行い、MS−10HF培地で生産性が向上するピーク2本についてはそれぞれ7−グルコシド(E7G)およびナリンゲニン−7−グルコシド(N7G)であることを確認した。HPLCクロマトグラムを図4に、生産量の測定結果を表5に示す。
HPLC conditions (FAM);
Column; YMC-Pak ODS-AM302 (4.6x150mm)
Sol. A; 0.04%TFA-aq, Sol. B; CH3CN (gradient)
Sol. B(%)/min = 5/0 → 5/5 → 20/6 → 30/26 → 40/27 → 100/35
Oven temp.; 40℃
Flow rate; 1mL/min
Wave length; 280nm
[実施例14]
培地がMS−IK培地である以外は実施例13と同様の方法にて実施した。結果を表5に示す。
【0105】
[実施例15]ジャスモン酸メチル添加の影響
AMY−I株を25g/L、78g/L、156g/L、313g/Lの細胞密度になるようMS−IK培地に移植し、直ちに終濃度0.1mMとなるようジャスモン酸メチルを添加して培養を行い、7日目に回収した培養物に含まれるトリテルペン量をHPLC−PDAを用いて定量した。結果を表5に示す。
【0106】
[実施例16]MS−10HF培地を用いた際のジャスモン酸メチル添加効果
培地がMS−10HF培地である以外は実施例15と同様の方法にて実施した。結果を表5に示す。
【0107】
【表5】

【0108】
フラボノイドの生産はアンモニウムイオンおよび植物ホルモンフリー、総窒素源濃度を継代培地の60mMに比べて低濃度に抑えることで生産性が約5倍に向上した。また、ジャスモン酸メチルの添加はフラボノイド生産を強く刺激し、元々生産性の低いMS−IK培地では29倍(E7G:19.8倍、N7G:50.9倍)に、MS−IK培地に比べて生産性が向上するMS−10HF培地においても更に5.3倍(E7G:3.2倍、N7G:8.7倍)に生産性が向上した。初期移植密度を高めることにより、総フラボノイドは319.5mg/Lに達した。
[実施例17]糖鎖切断処理
実施例16記載の方法(移植密度78g/L)により取得した培養細胞を凍結乾燥処理し、本凍結乾燥細胞100mgに対して5mLメタノールを加えてソニケーション抽出を行った(30分、2回)。遠心分離によりメタノール抽出液を取得した後、減圧濃縮により溶媒を留去し、そこに8mLの酢酸エチル/H2O=1/1液を加えて液−液分配を行って酢酸エチル層を取得した。酢酸エチル層の溶媒を減圧濃縮により留去した後、3mLの5%硫酸を加えて80℃、2時間加水分解処理を行い、室温にまで冷却後3mLの酢酸エチルを用いてフラボノイドアグリコンを抽出した(2回)。酢酸エチル抽出液を減圧濃縮することにより溶媒を留去した後、実施例13記載のFAM分析条件でHPLC分析を行った。HPLCクロマトグラムを図5に示す。加水分解前(クロマトA)のピークA及びピークBはそれぞれ標品のE7G(クロマトC)およびN7G(クロマトD)のリテンションタイム、吸収スペクトルともに一致した。加水分解後(クロマトB)にはアグリコンに由来するピークaおよびピークbが生成し、それぞれ標品のeriodictyol(クロマトC)およびnaringenin(クロマトD)のリテンションタイム、吸収スペクトルともに一致した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
(1)バラ科アロニア(Aronia)属、マルス(Malus)属、マルメロ(Cydonia)属、ナシ(Pyrus)属、ザイフリボク(Amelanchier)属、ナナカマド(Sorbus)属、シャリンバイ(Rhaphiolepis)属、アズキナシ(Aria)属、カナメモチ(Photinia)属、サンザシ(Crataegus)属、シャリントウ(Cotoneaster)属、テンノウメ(Osteomeles)属及びトキワサンザシ(Pyracantha)属からなる群から選ばれる植物の細胞を培養し、トリテルペンを該植物の細胞の培養物中に生産させる工程、
(2)前記培養物より1種または2種以上のトリテルペンを含有するトリテルペン含有抽出物を取得する工程、
を有することを特徴とするトリテルペン含有抽出物の製造方法。
【請求項2】
トリテルペンがウルサン型トリテルペンおよび/またはオレアナン型トリテルペンであることを特徴とする請求項1記載のトリテルペン含有抽出物の製造方法。
【請求項3】
トリテルペンが一般式(I):
【化1】

[式中、R1は−OX1(ここで、X1は水素原子、アシル基又は糖残基を表す)であり、R2は水素原子であるか、又はR1と一緒になってオキソを表し;R3は、水素原子又は−OX2(ここで、X2は水素原子、アシル基又は糖残基を表す)であり;R4は、水素原子又は−OX3(ここで、X3は水素原子、アシル基又は糖残基を表す。)である。]
で表される化合物、および一般式(II):
【化2】

[式中、R1は−OX1(ここで、X1は水素原子、アシル基又は糖残基を表す)であり、R2は水素原子であるか、又は一緒になってオキソを表し;R3は、水素原子又は−OX2(ここで、X2は水素原子、アシル基又は糖残基を表す。)である。]
で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1および2記載のトリテルペン含有抽出物の製造方法。
【請求項4】
トリテルペンがコロソリン酸、マスリン酸、トルメンチック酸、ウルソール酸及び2,19−ジヒドロキシ−3−オキソ−ウルス−12−エン−28−オイック酸からなる群からから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のトリテルペン含有抽出物の製造方法。
【請求項5】
アロニア属(Aronia)植物が、アロニア・メラノカルパ(Aronia melanocarpa)である、請求項1〜4のいずれかに記載のトリテルペン含有抽出物の製造方法。
【請求項6】
アロニア属植物の細胞を一般式(III):
【化3】

[式中、R5a、R5b、R5c、R5d、R5e及びR5fは、それぞれ独立に水素原子、水酸基、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数1〜6のアルコキシ基を表し;R6、R7、R8、R9及びR10は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表し;C1−C2−C3−C4−C5−C6からなる側鎖は、1個又は2個以上の二重結合を含んでもよく;R11は水酸基、OM(ここで、Mはアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子又はNH4を表す。)、NR12a12b(ここでR12a及びR12bは、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜6のアシル基、炭素数1〜6アルキル基又はアミノ酸残基を表す。)、OR13(ここで、R13は、炭素数1〜6のアルキル基又は炭水化物残基を表す。)又は炭素数1〜6のアルキル基を表し;nは1〜7の整数を表し、前記五員環は隣接する環員炭素原子間で形成される1個又は2個の二重結合を有していてもよい。]で示されるジャスモン酸類の存在下に培養することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のトリテルペン含有抽出物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法により製造したトリテルペン含有抽出物。
【請求項8】
請求項7記載のトリテルペン含有抽出物より取得したトリテルペンおよびトリテルペン混合物。
【請求項9】
請求項7記載のトリテルペン含有抽出物、並びに請求項8記載のトリテルペン及びトリテルペン混合物の内1種または2種以上を含むことを特徴とするトリテルペン含有組成物。
【請求項10】
以下の工程:
(1)バラ科アロニア(Aronia)属植物の細胞を培養し、フラボノイドを該植物の細胞の培養物中に生産させる工程、
(2)前記培養物より1種または2種以上のフラボノイドを含有するフラボノイド含有抽出物を取得する工程、
を有することを特徴とするフラボノイド含有抽出物の製造方法。
【請求項11】
フラボノイドがエリオジクチオールグルコシドおよび/またはナリンゲニングルコシドである請求項10記載のフラボノイド含有抽出物の製造方法。
【請求項12】
アロニア属植物の培養細胞を、アンモニウム態窒素を含まない培地を用いて培養することを特徴とする請求項10または11記載のフラボノイド含有抽出物の製造方法。
【請求項13】
アロニア属植物の細胞を一般式(III):
【化4】

[式中、R5a、R5b、R5c、R5d、R5e及びR5fは、それぞれ独立に水素原子、水酸基、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数1〜6のアルコキシ基を表し;R6、R7、R8、R9及びR10は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表し;C1−C2−C3−C4−C5−C6からなる側鎖は、1個又は2個以上の二重結合を含んでもよく;R11は水酸基、OM(ここで、Mはアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子又はNH4を表す。)、NR12aR12b(ここでR12a及びR12bは、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜6のアシル基、炭素数1〜6アルキル基又はアミノ酸残基を表す。)、OR13(ここで、R13は、炭素数1〜6のアルキル基又は炭水化物残基を表す。)又は炭素数1〜6のアルキル基を表し;nは1〜7の整数を表し、前記五員環は隣接する環員炭素原子間で形成される1個又は2個の二重結合を有していてもよい。]で示されるジャスモン酸類の存在下に培養することを特徴とする請求項10〜12のいずれかに記載のフラボノイド含有抽出物の製造方法。
【請求項14】
アロニア属(Aronia)植物が、アロニア・メラノカルパ(Aronia melanocarpa)である、請求項10〜13のいずれかに記載のフラボノイド含有抽出物の製造方法。
【請求項15】
請求項10〜14のいずれかに記載の方法により製造したフラボノイド含有抽出物。
【請求項16】
請求項15記載のフラボノイド含有抽出物より取得したフラボノイドおよびフラボノイド混合物。
【請求項17】
フラボノイドが糖鎖を有する場合に、請求項15記載のフラボノイド含有抽出物、あるいは請求項16記載のフラボノイドまたはフラボノイド混合物を加水分解、または糖鎖切断酵素処理することにより取得したフラボノイドアグリコンまたはフラボノイドアグリコン混合物。
【請求項18】
請求項15記載のフラボノイド含有抽出物、並びに請求項16記載のフラボノイド及びフラボノイド混合物の内1種または2種以上を含むことを特徴とするフラボノイド含有組成物。
【請求項19】
請求項17記載のフラボノイドアグリコン及びフラボノイドアグリコン混合物の内1種または2種以上を含むことを特徴とするフラボノイドアグリコン含有組成物。
【請求項20】
請求項7記載のトリテルペン含有抽出物、請求項8記載のトリテルペンおよびトリテルペン混合物、及び請求項9記載のトリテルペン含有組成物からなる群から選ばれる1種または2種以上と、請求項15記載のフラボノイド含有抽出物、請求項16記載のフラボノイドおよびフラボノイド混合物、請求項17記載のフラボノイド含有組成物、請求項18記載のフラボノイドアグリコン及びフラボノイドアグリコン混合物、及び請求項19記載のフラボノイドアグリコン含有組成物からなる群からから選ばれる1種または2種以上を含むことを特徴とするトリテルペンおよびフラボノイド含有組成物、またはトリテルペンおよびフラボノイドアグリコン含有組成物。
【請求項21】
フラボノイドアグリコンまたはフラボノイドアグリコン混合物の製造方法であって、
請求項10〜14のいずれかに記載される製造方法により糖鎖を有するフラボノイドを含有する抽出物を得る工程と、
抽出物中の糖鎖を有するフラボノイドから糖鎖を切断してフラボノイドアグリコンまたはフラボノイドアグリコン混合物を得る工程と、
を有することを特徴とするフラボノイドアグリコンまたはフラボノイドアグリコン混合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−26265(P2011−26265A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175417(P2009−175417)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(501123547)北海道三井化学株式会社 (8)
【Fターム(参考)】