説明

トリハロメタン測定装置

【課題】時間経過に伴うトリハロメタンの測定濃度の変動を抑制すること。
【解決手段】トリハロメタン測定装置は、水酸化ナトリウム溶液を貯留する試薬タンク22aと、試薬タンク22a内を大気開放する配管22bと、配管22bに設けられ、試薬タンク22a内に導入される大気中に含まれる二酸化炭素を除去する吸着装置22cと、を備えている。これにより、試薬タンク22a内に導入される大気中に含まれる二酸化炭素が除去されるので、時間経過に伴うトリハロメタンの測定濃度の変動を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に含まれるトリハロメタンの濃度を測定するトリハロメタン測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クロロホルム,ブロモジクロロメタン,ジブロモクロロメタン,及びブロモホルム(以下、これらをトリハロメタンと総称する)は、水道原水中に含まれる腐植質等の有機物と水道原水の浄水工程で用いられる消毒用塩素とが反応することによって生成される。このトリハロメタンは、発がん性物質であることが知られている。このため、浄水場では、水中に含まれるトリハロメタンの濃度が水質基準項目の一つとして管理されている。
【0003】
このような背景から、特許出願人は、今までに特許文献1に記載されているトリハロメタン測定装置を提案した。このトリハロメタン測定装置は、トリハロメタンを含む試料水と酸性還元剤溶液とを混合した試料溶液中のトリハロメタンを蛍光分析試薬と水酸化ナトリウム溶液とを混合したキャリア液中に溶解移行させ、トリハロメタンが溶解移行したキャリア液中のトリハロメタンと蛍光分析試薬とから蛍光物質を生成し、蛍光物質を含むキャリア液の蛍光強度を測定することによってトリハロメタンの濃度を測定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−14382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明の発明者らは、特許文献1記載のトリハロメタン測定装置によれば、時間経過に伴い、トリハロメタンの実濃度は変動していないのにも係わらず、トリハロメタンの測定濃度が変動することを知見した。このため、時間経過に伴うトリハロメタンの測定濃度の変動を抑制可能な技術の提供が期待されていた。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、時間経過に伴うトリハロメタンの測定濃度の変動を抑制可能なトリハロメタン測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明の発明者らは、鋭意研究を重ねてきた結果、時間経過に伴うトリハロメタンの測定濃度の変動は、水酸化ナトリウムの消費に伴い水酸化ナトリウム溶液を貯留する試薬タンク内に大気が入り込み、水酸化ナトリウム溶液が大気中に含まれる二酸化炭素を吸収することによって、水酸化ナトリウム溶液のpH値が下がることに起因することを知見した。
【0008】
上記の知見に基づき想到された本発明に係るトリハロメタン装置は、トリハロメタンを含む試料水と酸性還元剤溶液とを混合した試料溶液を送り出す試料送液部と、蛍光分析試薬と水酸化ナトリウム溶液とを混合したキャリア液を送り出すキャリア液送液部と、前記試料溶液と前記キャリア液とが供給され、前記試料溶液中のトリハロメタンを前記キャリア液中に溶解移行させる分離溶解部と、前記トリハロメタンが溶解移行したキャリア液が供給され、該キャリア液中のトリハロメタンと蛍光分析試薬とから蛍光物質を生成する反応部と、前記蛍光物質を含むキャリア液が供給され、該キャリア液中の蛍光物質の蛍光強度を測定することによってトリハロメタンを定量する検出部と、を備えるトリハロメタン測定装置であって、前記水酸化ナトリウム溶液を貯留する試薬タンクと、前記試薬タンク内を大気開放する大気導入路と、前記大気導入路に設けられ、前記試薬タンク内に導入される大気中に含まれる二酸化炭素を除去する二酸化炭素除去手段と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るトリハロメタン測定装置によれば、試薬タンク内に導入される大気中に含まれる二酸化炭素を除去するので、時間経過に伴うトリハロメタンの測定濃度の変動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の一実施形態であるトリハロメタン測定装置の全体構成を示す模式図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態である吸着装置の構成を示す模式図である。
【図3】図3は、吸着装置によって大気中の二酸化炭素を除去した場合と除去しなかった場合とにおける経過日数に伴うトリハロメタンの測定濃度の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態であるトリハロメタン測定装置の構成について説明する。
【0012】
〔全体構成〕
始めに、図1を参照して、本発明の一実施形態であるトリハロメタン測定装置の全体構成について説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態であるトリハロメタン測定装置の構成を示す模式図である。図1に示すように、本発明の一実施形態であるトリハロメタン測定装置は、トリハロメタンを含む試料水と酸性還元剤溶液とを混合した試料溶液を送り出す試料送液部10と、トリハロメタン用蛍光分析試薬(以下、蛍光分析試薬と略記)と水酸化ナトリウム溶液とを混合したキャリア液を送り出すキャリア液送液部20と、試料溶液中のトリハロメタンをキャリア液中に溶解移行させる分離溶解部30と、トリハロメタンが溶解移行したキャリア液中のトリハロメタンと蛍光分析試薬とから蛍光物質を生成する反応部40と、蛍光物質を含むキャリア液の蛍光強度を測定することによって、トリハロメタンを定量する検出部50と、を備えている。
【0014】
試料送液部10には、分離溶解部30の試料溶液流路33に試料溶液を供給するための試料溶液用の主管14と、試料溶液用の主管14に接続する2本の支管、すなわちトリハロメタンを含む試料水用の支管11と、酸性還元剤溶液用の支管12とが配設されている。2本の支管11,12には、液体を主管14側に送り出すための送液ポンプ13と、開閉用電磁弁15a,15bとが設置されている。なお、酸性還元剤溶液としては、硫酸ヒドラジン溶液を例示でき、その濃度は例えば1[%]程度であればよい。
【0015】
キャリア液送液部20には、蛍光分析試薬用の支管21と、水酸化ナトリウム溶液用の支管22と、支管21,22が接続された密閉型の混合タンク23と、が設けられている。支管22には、水酸化ナトリウム溶液を貯留する試薬タンク22aが接続され、試薬タンク22a内の水酸化ナトリウム溶液が支管22を介して混合タンク23内に供給される。また、詳しくは後述するが、試薬タンク22aには、試薬タンク22a内を大気開放するための配管22bと、試薬タンク22a内に供給される大気中に含まれる二酸化炭素を吸着除去する吸着装置22cとが設けられている。配管22b及び吸着装置22cはそれぞれ、本発明に係る大気導入路及び二酸化炭素除去手段として機能する。
【0016】
混合タンク23には、混合タンク23内を負圧にするためのエアポンプ25と、混合タンク23内の圧力を測定するための圧力計16とが設置された配管24が配設されている。混合タンク23の側面下部と分離溶解部30のキャリア液流路34との間には、これらを結ぶキャリア液用の主管26が配設されている。
【0017】
キャリア液用の主管26には、蛍光分析試薬と水酸化ナトリウム溶液とを混合したキャリア液を分離溶解部30側に送り出すための送液ポンプ29が設置されている。なお、蛍光分析用試薬としては、ニコチン酸アミド溶液を例示でき、その濃度は30〜40[%]の範囲内にあることが望ましい。また、水酸化ナトリウム溶液の濃度は0.2〜0.4[M]の範囲内にあることが望ましい。
【0018】
混合タンク23には、混合タンク23内を大気開放するための配管27と、混合タンク23内の底部から空気を吹き出すように構成された空気吹込み用の配管28とが配設されている。これら配管27,28並びに支管21,22には、それぞれ開閉用電磁弁15c〜15fが設置されている。
【0019】
分離溶解部30は円筒形状を有しており、その内部にはその軸方向と平行なガス透過性チューブ32が設けられている。分離溶解部30の軸方向内壁とガス透過性チューブ32との間には、これらと平行にガス透過性平膜31が設けられている。分離溶解部30内壁とガス透過性平膜31とで閉空間を構成しており、この閉空間が試料溶液流路33となる。そして、ガス透過性チューブ32の内側空間がキャリア液流路34となり、残りの空間、すなわち、ガス透過性チューブ32とガス透過性平膜31及び分離溶解部30内壁との間の空間は、気相空間となる。
【0020】
分離溶解部30には、試料溶液流路33を流れる試料溶液中のトリハロメタンが揮発する温度に試料溶液を加熱するためのヒータ35が設けられている。分離溶解部30の気相空間には、気相空間内に洗浄用空気を供給するための洗浄用空気配管36と、洗浄後の空気を排出するための排気用配管38と、が設けられている。洗浄用空気配管36には、洗浄用空気を送り込むためのエアポンプ37と、開閉用電磁弁15gと、が設置されている。分離溶解部30の試料溶液流路33には、トリハロメタンが分離除去された試料溶液を排出するための排液用配管39が設けられている。
【0021】
分離溶解部30のキャリア液流路34と反応部40との間には、これらを結ぶキャリア液用の配管41が配設されている。反応部40には、例えば沸騰水を利用してキャリア液用の配管41を加熱することによって、キャリア液中のトリハロメタンと蛍光分析試薬とが反応して蛍光物質を生成する温度にキャリア液を加熱する不図示の装置が設けられている。
【0022】
反応部40と検出部50との間には、これらを結ぶキャリア液用の配管51が配設されている。検出部50には、キャリア液中の蛍光物質の蛍光強度を測定し、その測定値と予め設定してある検量線とから、試料水中のトリハロメタンの濃度を演算する不図示の装置が設けられている。検出部50には、測定後のキャリア液を排出する配管52が設けられており、この配管52は、分離溶解部30の排液用配管39と合流した後、不図示の廃液処理設備へと繋がっている。
【0023】
〔吸着装置の構成〕
次に、図2を参照して、吸着装置22cの構成について説明する。
【0024】
図2は、本発明の一実施形態である吸着装置22cの構成を示す模式図である。図2に示すように、本発明の一実施形態である吸着装置22cは、二酸化炭素を吸着する特性を有するソーダライム(ソーダ石灰)22c1を内部に収容する収容容器22c2と、収容容器22c2内部に形成され、配管22bに連通する通気路22c3とを備えている。このような構成を有する吸着装置22cによれば、大気は通気路22c3を介して試薬タンク22a内に供給されることになる。このため、大気中に含まれる二酸化炭素は、通気路22c3を通過する過程でソーダライム22c1によって吸着され、試薬タンク22a内に供給される大気中に含まれる二酸化炭素は除去される。なお、大気とソーダライム22c1との接触面積及び接触時間を増加させるために、通気路22c3は収容容器22c2内を曲折させて形成することが望ましい。
【0025】
〔実験例〕
次に、図3を参照して、吸着装置22cによって大気中の二酸化炭素を除去した場合と除去しなかった場合とにおける経過日数に伴うトリハロメタンの測定濃度の変化について説明する。
【0026】
図3は、吸着装置22cによって大気中の二酸化炭素を除去した場合と除去しなかった場合とにおける経過日数に伴うトリハロメタンの測定濃度の変化を示す図である。図3に示すように、吸着装置22cを設けなかった場合、トリハロメタンの測定濃度(THM測定値)は経過日数が15日以上になると大きく変動した。一方、吸着装置22cを設けた場合には、トリハロメタンの測定濃度は経過日数が15日以上になっても大きく変動しなかった。以上のことから、試薬タンク22a内に供給される大気中に含まれる二酸化炭素を除去することによって、時間経過に伴うトリハロメタンの測定濃度の変動を抑制できることが知見された。
【0027】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者などによりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術などは全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0028】
10 試料送液部
20 キャリア液送液部
22 支管
22a 試薬タンク
22b 配管
22c 吸着装置
22c1 ソーダライム
22c2 収容容器
22c3 通気路
30 分離溶解部
40 反応部
50 検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリハロメタンを含む試料水と酸性還元剤溶液とを混合した試料溶液を送り出す試料送液部と、蛍光分析試薬と水酸化ナトリウム溶液とを混合したキャリア液を送り出すキャリア液送液部と、前記試料溶液と前記キャリア液とが供給され、前記試料溶液中のトリハロメタンを前記キャリア液中に溶解移行させる分離溶解部と、前記トリハロメタンが溶解移行したキャリア液が供給され、該キャリア液中のトリハロメタンと蛍光分析試薬とから蛍光物質を生成する反応部と、前記蛍光物質を含むキャリア液が供給され、該キャリア液中の蛍光物質の蛍光強度を測定することによってトリハロメタンを定量する検出部と、を備えるトリハロメタン測定装置であって、
前記水酸化ナトリウム溶液を貯留する試薬タンクと、
前記試薬タンク内を大気開放する大気導入路と、
前記大気導入路に設けられ、前記試薬タンク内に導入される大気中に含まれる二酸化炭素を除去する二酸化炭素除去手段と、
を備えることを特徴とするトリハロメタン測定装置。
【請求項2】
前記二酸化炭素除去手段は、前記試薬タンク内に導入される大気中に含まれる二酸化炭素を吸着するソーダライムを含むことを特徴とする請求項1に記載のトリハロメタン測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−172978(P2012−172978A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31841(P2011−31841)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【Fターム(参考)】