説明

トリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールの回収方法

【課題】トリフルオロアセトアルデヒド水溶液から簡単な操作にて、且つ高い取得率にてトリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールを提供することを目的とする。
【解決手段】トリフルオロアセトアルデヒド水溶液を一般式(1)
ROH (1)
(式中、Rは炭素数4〜10の直鎖または分岐のアルキル基を表す)
で表されるアルコールにより抽出し、一般式(2)


(式中、Rは前記定義に同じ)
で表されるトリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールのアルコール溶液として回収することを特徴するトリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールの回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリフルオロアセトアルデヒドの等価体であるトリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールの回収方法に関する。トリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールは各種含フッ素化合物へと誘導され、電子材料、医農薬原料として極めて有用である。
【背景技術】
【0002】
トリフルオロアセトアルデヒドは、沸点が−18℃とガス状で取り扱いにくい上、重合し易く、保存が難しいため、トリフルオロアセトアルデヒド水和物またはヘミアセタールの形態で取り扱われる。このうちトリフルオロアセトルデヒド水和物は、有機溶媒に対する溶解性が十分でないため、利用にあたり条件が制限される問題がある。また、蒸留精製を行う際、分解を抑えるために、酸性条件下にて行う必要があり、特殊な設備を必要とする等の問題がある。一方、トリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールの場合は、有機溶媒に対する溶解性が高いため利用し易く、中性条件下で蒸留精製しても分解しにくいことから、より有利な形態と言える。
【0003】
ところが、トリフルオロアセトアルデヒドは、製造時に水和物または水溶液の形態をとっている場合が多い。例えば、トリフルオロ酢酸の還元によりトリフルオロアセトアルデヒドを製造する場合、生成物はトリフルオロアセトアルデヒド水和物となる(特許文献1)。また、他の方法により製造する場合においても、トリフルオロアセトアルデヒドの回収効率と経済性の理由から、生成したトリフルオロアセトアルデヒドを水に吸収させている(特許文献2、特許文献3)。この場合、トリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールを得るためには、トリフルオロアセトアルデヒド水和物から水を除く方法が必要になる。トリフルオロアセトアルデヒド水和物をトリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールに変換する方法としては、特許文献4、特許文献5にアルコール存在下で、塩化カルシウムを添加し脱水する方法か開示されている。しかし、この方法によっても脱水は十分でなく、別途ゼオライト等による吸着脱水処理が必要である。このため、操作が煩雑になったり、ゼオライトへの吸着によりトリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールを損失し易い等の問題があった。
【0004】
このため、トリフルオロアセトアルデヒド水溶液からトリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールを簡単な操作にて高い取得率で得る方法が望まれていた。
【特許文献1】特開平5−294882号公報
【特許文献2】特公平6−62465号公報
【特許文献3】米国特許第3038936号明細書
【特許文献4】特公平7−51526号公報
【特許文献5】特公平6−35412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みなされたものである。即ち、トリフルオロアセトアルデヒド水溶液から簡単な操作にて、且つ高い取得率にてトリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題に鑑み本発明者らは鋭意検討した結果、特定の方法よりトリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールがトリフルオロアセトアルデヒド水溶液から簡単な操作にて、且つ高い取得率にて回収され、また、簡単な操作にて且つ高い取得率でトリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールを分離して回収できることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は下記要旨に関わるものである。
【0007】
(1) トリフルオロアセトアルデヒド水溶液を一般式(1)
ROH (1)
(式中、Rは炭素数4〜10の直鎖または分岐のアルキル基を表す)
で表されるアルコールにより抽出し、一般式(2)
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、Rは前記定義に同じ)
で表されるトリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールのアルコール溶液として回収することを特徴するトリフルオロアセトアルデヒドへミアセタールの回収方法。
【0010】
(2) 抽出により得られたトリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールのアルコール溶液を蒸留し、水−アルコール共沸混合物を留出させた後、トリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールを留出させることを特徴とする(1)項に記載のトリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールの回収方法。
【0011】
(3) アルコールがn−ブタノールまたはイソブタノールであることを特徴とする(1)項または(2)項に記載のトリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールの回収方法。
【0012】
(4) トリフルオロアセトアルデヒド水溶液に無機塩基を添加し抽出することを特徴とする(1)項ないし(3)項のいずれか1項に記載のトリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールの回収方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、トリフルオロアセトアルデヒド水溶液から簡単な操作にて、且つ高い取得率にてトリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明ではトリフルオロアセトアルデヒド水溶液から、前記一般式(1)で示されるアルコールで抽出することによりトリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールとして回収する。トリフルオロアセトアルデヒドは水に非常に溶解し易い化合物であるが、意外にも抽出操作によりほとんどトリフルオロアセトアルデヒドのロスが生じない。
【0015】
抽出溶媒としては、前記一般式(1)のアルコールが用いられる。一般式(1)においてRは炭素数1〜10の直鎖または分岐のアルキル基である。このようなアルコールとして、例えばn−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、1−メチルプロパノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール、n−オクタノール、n−デカノール及びシクロヘキサノール等を挙げることができる。これらのうち、特に、n−ブタノール及びイソブタノールがトリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールの取得率の点から好ましい。
【0016】
本発明により得られるトリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールは、一般式(2)で表される。このようなトリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールとして、例えばトリフルオロアセトアルデヒドn−ブチルヘミアセタール、トリフルオロアセトアルデヒドイソブチルヘミアセタール、トリフルオロアセトアルデヒドn−ヘキシルヘミアセタール、トリフルオロアセトアルデヒドn−オクチルヘミアセタール、トリフルオロアセトアルデヒドn−デシルヘミアセタール及びトリフルオロアセトアルデヒドシクロヘキシルヘミアセタール等を挙げることができる。
【0017】
出発原料となるトリフルオロアセトアルデヒド水溶液中のトリフルオロアセトアルデヒド水和物の濃度は、特に限定されないが、通常、10〜90wt%である。
【0018】
トリフルオロアセトアルデヒド水溶液の製造方法は特に限定されないが、例えば、
2,2,2−トリフルオロエタノールを気相にて酸化した反応ガスを水に吸収させる方法、トリクロロアセトアルデヒドを気相にてフッ素化等した反応ガスを水に吸収させる方法、及びトリフルオロ酢酸を気相にて還元した反応ガスを水に吸収させる方法を挙げることができる。
【0019】
抽出を行う際のトリフルオロアセトアルデヒド水溶液のpHは4〜10の範囲である。
【0020】
pHが4未満または10を超える場合は、それぞれ、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等のアルカリ、塩酸及び硫酸等の酸を添加し、pHを調整する。
【0021】
抽出に用いるアルコールの量は、トリフルオロアセトアルデヒド水溶液に対し重量比で0.1〜100倍、好ましくは0.5〜10倍である。抽出時の温度は、0〜100℃、好ましくは、10〜50℃である。抽出時間は、通常、10分から10時間である。また、抽出時に塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム及び硫酸カリウム等の無機塩類を加えてもよい。無機塩類を加えることにより更にトリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールの取得率が向上する等の効果が得られる。
【0022】
得られた抽出液には、通常、0.1〜10wt%の水分が含まれており、抽出液中において、トリフルオロアセトアルデヒドは、ヘミアセタールと水和物の混合物として存在する。
【0023】
得られた抽出液からトリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールは、容易に分離される。抽出液を大気圧下または減圧下にて蒸留すると、初留として、アルコール−水が共沸混合物として留出する。この共沸混合物は層分離するため、下層の水層を分離除去することにより、水を分離でき、アルコールは再利用することができる。意外にも、この初留中にはトリフルオロアセトアルデヒドが全く留出しないため、トリフルオロアセトアルデヒドのロスが生じにくい。
【0024】
次いで、アルコールを留出させた後、主留分としてトリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールを留出させる。この際、通常、主留分はアルコールの同伴を伴う。アルコールの含有量は、通常、0〜40wt%である。また、主留分中、トリフルオロアセトアルデヒドは、水和物を含まず、ほぼ100%トリフルオロアセトアルデヒドブチルヘミアセタールとして存在し、十分な純度を有している。
【0025】
実施例
以下に実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこの実施例によって限定されるものではない。
【0026】
参考例1
7wt%V−12.5wt%SnO/ZrO担持触媒40mlを25mmφ×600mmのステンレス製反応管に充填し、反応管出口に水8.3kgを入れた反応ガス吸収容器を取り付けた。触媒層の温度を290℃とし、空気を5.4L/min、2,2,2−トリフルオロエタノールを定量ポンプで0.75g/minの速度で供給した。100時間後、反応ガス吸収液を19F−NMRにて分析を行ったところ、液の組成は以下の通りであった。
【0027】
トリフルオロアセトアルデヒド水和物 30.2wt%、トリフルオロ酢酸 1.9wt%、フッ化水素 1.8wt%、2,2,2−トリフルオロエタノール 1.3wt%
【実施例1】
【0028】
参考例1で得られた反応ガス吸収液2003gを500ml三つ口フラスコに入れ、48wt%水酸化カリウム水溶液238gを加えてpH6とし、20kPaの減圧下、60℃に加熱して2,2,2−トリフルオロエタノール 26gを含む水 102gを蒸留回収した。釜液として2110gが得られ、19F−NMRで分析したところ、トリフルオロアセトアルデヒド水和物 605g、トリフルオロ酢酸カリウム 51g、フッ化カリウム 105gが含まれていた。次に、釜液800gにn−ブタノール800g、塩化カリウム102gを加えて、室温で2時間攪拌した。5分間静置後、層分離を行い、上層として1026gが得られた。上層(n−ブタノール層)を19F−NMRで分析したところ、トリフルオロアセトアルデヒドn−ブチルヘミアセタール 306g、トリフルオロアセトアルデヒド水和物 19gであった。トリフルオロアセトアルデヒドの取得率は 98%であり、ほとんど回収ロスは認められなかった。
【0029】
次に上層511gを1Lのフラスコに仕込み蒸留した。20kPaの圧力にて、塔頂温度56〜61℃の留分84gを分取した。この留分は、層分離しており、下層として水25gを回収した。
【0030】
上層、下層を19F−NMRにて分析したところ、いずれにもトリフルオロアセトアルデヒドは検出されなかった。
【0031】
次いで、圧力を徐々に下げ8kPaとし、塔頂温度61〜70℃の留分209g(n−ブタノール>90wt%)を留出させた後、8kPaにて塔頂温度70〜74℃の留分197gを主留分として分取した。主留分を19F−NMRにて分析したところ、n−ブチルヘミアセタール 74wt%であった。参考例1で得られたトリフルオロアセトアルデヒド水溶液を基準とし、主留分中のトリフルオロアセトアルデヒドn−ブチルヘミアセタールの収率は86mol%であった。
【0032】
なお主留分中にトリフルオロアセトアルデヒド水和物は認められず、抽出と蒸留操作という簡便な操作のみで、高品質のトリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールを得ることができた。
【実施例2】
【0033】
実施例1において、n−ブタノールに変えてイソブタノールとした以外は実施例1と同様に抽出を行った。上層として1060gが得られた。上層(イソブタノール層)を19F−NMRで分析したところ、トリフルオロアセトアルデヒドイソブチルヘミアセタール 307g、トリフルオロアセトアルデヒド水和物 18gであった。トリフルオロアセトアルデヒドの取得率は 98%であり、ほとんど回収ロスは認められなかった。
【0034】
次に上層456gを1Lのフラスコに仕込み蒸留した。常圧にて、塔頂温度90〜92℃の留分59gを分取した。この留分は、層分離しており、下層として水19gを回収した。
【0035】
また、上層、下層を19F−NMRにて分析したところ、いずれにもトリフルオロアセトアルデヒドは検出されなかった。
【0036】
次いで、塔頂温度92〜122℃の留分152g(イソブタノール>90wt%)を留出させた後、塔頂温度122〜124℃の留分180gを主留分として分取した。主留分を19F−NMRにて分析したところ、イソブチルヘミアセタール 70wt%であった。参考例1で得られたトリフルオロアセトアルデヒド水溶液を基準とするトリフルオロアセトアルデヒドイソブチルヘミアセタールの収率は86mol%であった。
【0037】
なお主留分中にトリフルオロアセトアルデヒド水和物は認められず、抽出と蒸留操作という簡便な操作のみで、高品質のトリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールを得ることができた。
【実施例3】
【0038】
実施例1において、釜液20gを使用し、n−ブタノールに変えてn−ペンタノール20gを使用した以外は実施例1と同様に抽出を行った。上層(n−ペンタノール層)を19F−NMRで分析したところ、トリフルオロアセトアルデヒドペンチルヘミアセタール 8.4g、トリフルオロアセトアルデヒド水和物 0.3gであり、トリフルオロアセトアルデヒドの取得率は 97%であった。
【実施例4】
【0039】
実施例1において、釜液20gを使用し、n−ブタノールに変えてn−ヘキサノール20gを使用した以外は実施例1と同様に抽出を行った。上層(n−ヘキサノール層)を19F−NMRで分析したところ、トリフルオロアセトアルデヒドヘキシルヘミアセタール 8.7g、トリフルオロアセトアルデヒド水和物 0.3gであり、トリフルオロアセトアルデヒドの取得率は 94%であった。
【実施例5】
【0040】
実施例1において、釜液20gを使用し、n−ブタノールに変えてn−オクタノール20gを使用した以外は実施例1と同様に抽出を行った。上層(n−オクタノール層)を19F−NMRで分析したところ、トリフルオロアセトアルデヒドオクチルヘミアセタール 9.6g、トリフルオロアセトアルデヒド水和物 0.3gであり、トリフルオロアセトアルデヒドの取得率は 91%であった。
【実施例6】
【0041】
実施例1において、釜液20gを使用し、塩化カリウムを使用しなかったこと以外は実施例1と同様に抽出を行った。上層(n−ブタノール層)を19F−NMRで分析したところ、トリフルオロアセトアルデヒドn−ブチルヘミアセタール 7.0g、トリフルオロアセトアルデヒド水和物 0.7gであった。トリフルオロアセトアルデヒドの取得率は 94%であった。
【0042】
比較例1
実施例1において、釜液20gを使用し、n−ブタノールに変えてエタノール20gを使用した以外は実施例1と同様に抽出を行った。溶液は二層分離せず、抽出操作が不可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明により、簡単な方法にて、且つ高い取得率でトリフルオロアセトアルデヒド水溶液からトリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールを得ることができる。トリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールは、電子材料、医農薬の原料として極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリフルオロアセトアルデヒド水溶液を一般式(1)
ROH (1)
(式中、Rは炭素数4〜10の直鎖または分岐のアルキル基を表す)
で表されるアルコールにより抽出し、一般式(2)
【化1】

(式中、Rは前記定義に同じ)
で表されるトリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールのアルコール溶液として回収することを特徴するトリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールの回収方法。
【請求項2】
抽出により得られたトリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールのアルコール溶液を蒸留し、水−アルコール共沸混合物を留出させた後、トリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールを留出させることを特徴とする請求項1に記載のトリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールの回収方法。
【請求項3】
アルコールがn−ブタノールまたはイソブタノールであることを特徴とする請求項1または2に記載のトリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールの回収方法。
【請求項4】
トリフルオロアセトアルデヒド水溶液に無機塩基を添加し抽出することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のトリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールの回収方法。

【公開番号】特開2007−119351(P2007−119351A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−309285(P2005−309285)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【出願人】(591180358)東ソ−・エフテック株式会社 (91)
【Fターム(参考)】