説明

トリブロック共重合体を基材とする新規なヒドロゲル、その製造及びその用途

【課題】医薬を包含する疎水性物質及び/又は疎水性巨大分子を保持しかつ徐々に放出するのに適したヒドロゲル、その製造方法を提供。
【解決手段】トリブロック共重合体と水を含有するヒドロゲルが記載されている。共重合体は、式(I):X−G−Y[式中、Gはp個の反復単位を含有する非ヒドロキシル化親水性線状重合体ブロックであり、pは10から150まで変動し得る数であり、X及びYは、それぞれ、m個及びn個の反復単位からなるポリエステルブロックであり、比(m+n)/pは上記共重合体が水に不溶性であるのに十分な大きさでありかつ比(m+n)/pは上記共重合体の水混和性有機溶剤中の溶液に水を添加することにより、上記共重合体の重量と少なくとも等しい量の水を保持することのできる軟質ヒドロゲルが形成されるように選択される]で表される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトリブロック共重合体(triblock copolymer)を基材とする新規なヒドロゲル、その製造及びその用途を主題とする。
【背景技術】
【0002】
ヒドロゲルは、通常、水中で大容量の水を吸収することにより膨潤する固体物質を用いて得ることは知られている。ヒドロゲルは、一般的に、蛋白質のごとき特に大きな分子を保持することのできる三次元網目構造を水中で形成する重合体からなる。ヒドロゲルは架橋親水性重合体から調製し得る。
【0003】
ヒドロゲルは医薬、特に、蛋白質のごとき巨大分子の漸進的な放出を可能にする移植可能な医薬基体として特に推奨されている。ヒドロゲルは一般的に非生分解性であり、医薬は拡散現象により放出される。
【0004】
最近、水溶性共重合体を使用することにより、アクリレート末端を有するポリ(ヒドロキシ酸)−ポリ(エチレングリコール)−ポリ(ヒドロキシ酸)型トリブロック共重合体を基材とする生分解性ヒドロゲルを製造することが提案されている;上記共重合体は該重合体の水溶液の光重合によってその場で架橋させる;A.S.Sawhney 等, Macromolecules, 26, 581-587(1993)参照。
【0005】
EP-A-0,092,918号には薬理学的活性を有するポリペプチドからなる非架橋ブロック共重合体から構成された硬質移植材料(implant)が記載されている。これらの移植材料はこれらを移植した生活媒体(living medium)中に存在する水を吸収することにより徐々に膨潤する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
今般、ある種のトリブロック共重合体から出発して、トリブロック共重合体の重量と少なくとも等しい重量の水を含有する軟質のヒドロゲルを極めて迅速に得ることを可能にする新規な方法が見出だされた。これらの軟質ヒドロゲルは容易に変形することができかつ、特に、2mmの内径を有する中空針、特に、1mmの内径を有する中空針を通過し得る。
【0007】
今日まで、ヒドロゲルは主として親水性巨大分子の閉込め(trapping)と漸進的な放出(gradual release)のために使用されているのに対し、本発明のヒドロゲルは親水性巨大分子ばかりでなしに疎水性物質も保持することができるという明確な特徴を示す。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従って、本発明は、トリブロック共重合体と水とを基材とするヒドロゲルであって、上記ヒドロゲルは上記トリブロック共重合体の重量と少なくとも等しい量の水を含有する軟質ヒドロゲルの形で提供されること及び上記共重合体は式(I):
X−G−Y (I)
[式中、Gはp個の反復単位からなる非ヒドロキシル化親水性線状重合体ブロックであり、pは10から150まで変動し得る数であり、X及びYの各々は、それぞれ、m個及びn個の反復単位からなるポリエステルブロックであり、比(m+n)/pは上記共重合体が水に不溶性であるのに十分な大きさでありかつ比(m+n)/pは上記共重合体の水混和性有機溶剤中の溶液に水を添加することにより、上記共重合体の重量と少なくとも等しい量の水を保持することのできる軟質ヒドロゲルが形成されるように選択される]で表されることを特徴とするヒドロゲルをその主題とする。
【0009】
本発明は、更に、上記ヒドロゲルの凍結乾燥によって得られた製品に関する。かかる凍結乾燥物は高い割合の水を急速に吸収し、該凍結乾燥物を製造するのに使用したヒドロゲルに類似する水膨潤軟質ヒドロゲルを復元し得る。適当な(m+n)/pの比は各々の場合について、以下に規定するごとく日常試験によって決定することができる。一般的には適当な(m+n)/pの比は約1〜5である。
【0010】
特に、比(m+n)/pは上記ヒドロゲルが、該ヒドロゲル中に含有される共重合体の重量と少なくとも等しい量〜2倍の量の水を保持できるように選択される。
【0011】
数pは、特に10〜120、特に15〜100の間で変動させ得る。
【0012】
ブロックX及びYは、勿論、同様のものであること、即ち、同一の反復単位から構成されていることができる。
【0013】
式(I)の共重合体に類似する共重合体を検討した結果から、比(m+n)/pが十分に小さい場合には共重合体は水に溶解することが認められる。上記の比を増大させた場合、対応する共重合体は水に極めて僅かしか溶解せず、恐らくはミセルが形成されるため、濁った溶液を与える。上記の比を更に増大させた場合、共重合体は水に不溶性になる:水と接触させた場合、粉末の形の重合体は溶液にはならずそして例えば室温で24時間水と接触させた後には、共重合体は水と接触した際に僅かに膨潤し得るとしても、もはやミセルを形成しない。
【0014】
本発明の基礎となるこの発見によれば、かかる水不溶性共重合体は、前記したごとき方法に従って、その水混和性有機溶剤中の溶液から出発してヒドロゲルを与え得る。しかしながら、同一の中央ブロックGについて、疎水性連鎖X及びYの長さをある値以上に増大させた場合(換言すれば、比(m+n)/pを増大させた場合)、かく得られるヒドロゲル中に含有される水の量が次第に低下する。従って、各々のタイプの式(I)の重合体について、ヒドロゲルが多量の水を保持することができなくなる比(m+n)/pの値を実験的に決定することは容易である;実際に、水混和性有機溶剤中に溶解しているかかる重合体については、水を添加した場合、水膨潤ヒドロゲルの形成は観察されず、原料有機溶液の容積より低い容積を占める共重合体の沈殿が形成される。
【0015】
かくして、連鎖X及びYの最適な長さは簡単な日常試験によって決定し得る。
【0016】
例えば、ポリ(乳酸)−ポリ(エチレンオキシド)−ポリ(乳酸)の場合、比(m+n)/pが約0.2以下のときは共重合体は水に可溶性である。上記の比が約0.2〜1のときは共重合体は水に僅かしか溶解せず、濁った溶液を与える。上記の比が約1より大きいときは共重合体は水に不溶性である。後者の共重合体を使用した場合、比(m+n)/pが1〜5、特に約1〜4のときは、該共重合体の有機溶剤溶液から出発して、顕著な量の水を保持することのできるヒドロゲルを得ることができる。特に、この比が約1.5〜3の場合、特に満足し得るヒドロゲルが得られる。従って、数m及びnの値は、比(m+n)/pの値が1より大きくなり、そして、前記共重合体が前記した条件下で該共重合体の重量と少なくとも等しい重量の水を保持することができなくなる最大値より小さくなるような値である。
【0017】
以下においては、ヒドロゲルの調製を記載することにより、本発明の前記主題について、その他の情報を詳細に説明する。
【0018】
式(I)においてX及びYで表される重合体ブロックは疎水性線状ポリエステルブロックである。これらの重合体ブロックは特に脂肪族ポリエステルである。
【0019】
脂肪族ポリエステルは
a)ヒドロキシ酸それ自体との重縮合又は種々のヒドロキシ酸の重縮合
b)ラクトンの開環による重合又は
c)ジアシッドとジオールとの重縮合
により得ることができることは知られている。
【0020】
ヒドロキシ酸から誘導されるポリエステルとしては、特に、乳酸、グリコール酸、マレイン酸モノエステル(例えば、アルキル又はアラルキルモノエステル、又は、マレイン酸をヒドロキシル化活性成分、特に、疎水性活性成分によりモノエステル化することにより得られるモノエステル;例えば、米国特許4,320,753号及び4,265,247号参照)、ラクチド(D-ラクチド、L-ラクチド及びD,L-ラクチド)、グリコリド、パラ−ジオキサノン等から選ばれた単量体から誘導されるものが挙げられる。X及びYで表される重合体ブロックは前記単量体相互によって形成される共重合体であり得る。
【0021】
ジアシッドとジオールとから誘導される重合体としては例えばポリ(エチレングリコールサクシネート)が挙げられる。
【0022】
式(I)において、Gで表される重合体ブロックは、例えば下記のものから 選ばれ得る疎水性重合体である:ポリ(エチレングリコール)、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド等。
【0023】
式(I)のブロック共重合体は既知であるか又は既知の方法により調製し得る。
【0024】
X及びY連鎖を形成させる重合は適当に官能化された末端基を有する、予め形成された重合体Gの存在下で行い得る。例えば、ポリ(ヒドロキシ酸)とポリ(エチレングリコール)とに基づくブロック共重合体の製造は既に文献に記載されている;特に、P.Cerrai等、Journal of Materials Science: Materials in Medicine,5 (1994),308-313及び特許出願EP-295,055参照。出発原料の一方はラクチドであり、他方はポリ(エチレングリコール)である。重合操作は金属、オルガノ金属化合物又はルイス酸であり得る触媒の存在下、塊状重合により行うことが好ましい。使用される触媒としては亜鉛粉末、水素化カルシウム、水素化ナトリウム、スズオクタノエート等が挙げられる。ポリ(ヒドロキシ酸)鎖の長さは、本質的に、当初の混合物中のモル比(ラクチド単位)/(PEG)に依存する。ポリ(ヒドロキシ酸)鎖の長さは反応時間と共に増大し得る;この反応時間は例えば数分から数日の間で変動させ得る。官能化末端基、例えば、ヒドロキシル、カルボン酸、アミノ又はチオール末端基等を有するG型の重合体ブロックを使用することにより、XとG及びYとGの連結がエステル、アミド、ウレタン又はチオエステル基等によって行われている、前記式(I)に対応するブロック共重合体を得ることができる。式(I)の共重合体は、両端が既知の方法により適当に官能化されているG型の重合体と、Gの官能化末端基と反応して共有結合を形成することができるように単一の官能化末端基を有するX及びY型の重合体とを使用することにより、予め形成された重合体ブロックからも調製し得る。
【0025】
本発明のヒドロゲルは、ポリ(ヒドロキシ酸)連鎖(X及びY)から凝集(aggregation)により構成される疎水性微小領域(microdomain)を介して連結されている親水性連鎖(G)の三次元網状構造を形成している。これによって、親水性連鎖の物理的な架橋が形成される。連鎖X及びYの凝集体(aggregate)によって形成される疎水性微小領域はナノ粒子(nanoparticle) に類似しており、ヒドロゲル中の共重合体によって形成される三次元網状構造の一部を形成するため、自由ではなくかつ独立していないという明確な特徴を示す。これらの種類のナノ粒子は疎水性物質、例えば医薬を溶解することができ、従って、保持することができる。
【0026】
本発明のヒドロゲルは、その三次元網状構造中に、例えば医薬であり得る蛋白質のごとき水溶性巨大分子も保持し得る。
【0027】
例えば、他の蛋白質(特に、免疫グロブリン)及び蛋白質−抗原複合体、即ち蛋白質がテタヌスアナトキシンであり、抗原が肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)からのポリグリコシド又はポリグリコシドフラグメントであるか又はチフス菌(Salmonella typhi)からのポリグリコシド又はポリグリコシドフラグメントである蛋白質−抗原複合体が本発明のヒドロゲル中に配合されている。
【0028】
本発明のヒドロゲルは進化性ゲル(evolving gel)であり、X及びYブロックのエステル基を無差別に分裂させる加水分解反応により徐々に分解される。X及びYブロックの加水分解生成物は、当初は、ヒドロゲルの調製中に形成される疎水性凝集体中に混入したままになっている。ヒドロゲルを水性媒体と接触させた場合、この加水分解により、場合により十分に短いポリ(ヒドロキシ酸)ブロックに結合したG連鎖から形成される重合体−かかる重合体は水に溶解する−が水性媒体中に溶解することにより、徐々に放出される。その結果、ヒドロゲルの漸進的な崩壊が生起する;このヒドロゲルの漸進的な崩壊は水性媒体と接触したときに生起しかつ親水性巨大分子の一部、X及びYブロックの分解から生じる短いフラグメント及び恐らくヒドロゲル中にも存在する疎水性物質の水性媒体中への放出を伴い得る。
【0029】
本発明は、更に、上記したごときヒドロゲルの製造方法に関する。この方法は、主として、前記ごとき共重合体X−G−Yの水混和性有機溶剤中の溶液を調製しついでこの溶液を軟質ヒドロゲルを製造するのに十分な量の水と接触させることを特徴とする。この軟質ヒドロゲルを、液体(有機溶剤及び水)により膨潤させる。ついで、有機溶剤を除去するために、ヒドロゲルの水による洗浄及び/又は水に対する透析及び/又は凍結乾燥を行う。
【0030】
有機溶液を水と接触させるためには、有機溶液を水中に注入するか又は水中に有機溶液を注入し得る。
【0031】
本発明のヒドロゲルを製造するために、特に、下記の方法を使用し得る:即ち、共重合体を水混和性有機溶剤に溶解させついで水を添加して軟質ゲルを形成させる。
【0032】
分散しているかつ凝集性に欠けるヒドロゲルが得られることを回避するためには、水を一度に、あるいは、徐々に、但し、過度に遅くなく、添加し得る。実際には、水の添加速度(又は有機溶剤の水への添加速度−この方法を選択した場合)であって、各々の場合に適当な添加速度は予め日常試験により決定し得る。
【0033】
水混和性有機溶剤は、一方はX及びYであり、他方はGである両者のタイプのブロックに対する良溶剤でなければならない。溶剤として、アセトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド又はジメチルスルホキシドを使用し得る。
【0034】
得られたヒドロゲル中に存在する有機溶剤並びに水は、水による洗浄操作を反復することにより又は透析により除去し得る。凍結乾燥により有機溶剤と水の両者を除去し得る。
【0035】
本発明のヒドロゲルは、特に、上記した方法により得られたものである。本発明のヒドロゲル中に親水性巨大分子を導入するためには、上記した方法において、水の代わりに上記巨大分子の水溶液を使用し得る。
【0036】
同様に、本発明のヒドロゲル中に疎水性物質を導入するためには、前記した方法において、水溶性有機溶剤の代わりに疎水性物質の上記有機溶剤中の溶液を使用し得る。
【0037】
十分な割合の水を保持するヒドロゲルを与えることのできる共重合体を選択するためには、例えば下記の方法で操作し得る:200mgの共重合体をある容量(これは0.4〜0.8cmであり得る)の、前記した溶剤の一つ、例えばアセトン中に溶解させる。4cmの水を徐々に添加してヒドロゲルを形成させる。過剰の液体の除去後、例えば少なくとも0.4gに等しい質量を有するヒドロゲルが選択される
本発明のヒドロゲルは、特に(前記で述べた)X及びY連鎖の分解の影響下で、該ヒドロゲル中に溶解している疎水性物質を徐々に放出し得る。
【0038】
更に、本発明のヒドロゲルは生分解性(biodegredable)でありかつ生体再吸収性(bioresorbable)であるという独特な性質を示す。これらのトリブロック共重合体の分解を検討した結果から、ポリエステル鎖が加水分解により徐々に分解し、その最終生成物は対応するヒドロキシ酸(又はジアシッド及びジオール)であり、これらは生体再吸収性であることが示されている。
【0039】
ポリエステル鎖の加水分解により、これが継続した場合、トリブロック共重合体の中央ブロックを形成する親水性重合体Gが最終的に放出される。比較的低い分子量(10,000以下)を有するかかる重合体は生体再吸収性であることは知られている:これらの重合体は腎臓によって除去される。
【0040】
本発明のヒドロゲルを形成するトリブロック共重合体の前記重合体G及びX及びY連鎖を構成する単量体は人体に十分耐性の、無毒性の生分解性又は生体再吸収性化合物である。
【0041】
従って、本発明のヒドロゲルは、特に、医薬組成物中に含有される医薬を徐々に放出することを可能にする医薬組成物として使用し得る。かかる組成物は、水に不溶性であると見なされている活性成分の場合に特に有利であることが認められている。本発明の組成物は親水性活性成分、特に、前記したごとき親水性巨大分子を徐々に放出させるのにも使用し得る。
【0042】
本発明のヒドロゲル中に含有させ得る疎水性物質としては、特に、ホルモン、特にステロイドホルモン(例えばプロゲステロン、エストラジオール、ノルゲステレル、ノルエチステロン、テストステロン、ヒドロコルチゾン、プレドニソロン又はデキサメタゾン)、他のホルモン(例えばプロスタグランジン、インスリン等)、抗生物質及び駆虫薬(例えばグリセオフルビン、エリスロマイシン又はキナゾリン及びその誘導体)、抗癌剤(例えばニトロソ尿素、フルオロウラシル、アザチオプリン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、シスプラチン又はマイトマイシン)、麻酔薬又は鎮静剤(例えばテトラカイン、クロルプロマジン、ジアゼパム、メタドン又はナルトレキソン)、又はテオフィリン、カフェイン又はキニジンのごとき他の活性成分又はペプチド(特にバソプレシン)が挙げられる。
【0043】
免疫原(特に、蛋白質又はそれ自体、既知の方法で得られる蛋白質−抗原複合体、例えば、抗原−テタヌスアナトキシン複合体)及び場合により補助薬も本発明のヒドロゲル中に配合し得る。かかるゲルは予防接種剤して使用することができ、免疫原が徐々に放出されるため、生体が長期間に亘って免疫原と接触するという利点を示す。
【0044】
本発明の医薬組成物は、その投与を特に経口的に又は直腸経由で行うことからなる治療処理法で使用し得る。対応する凍結乾燥物のヒドロゲルは生体又は体液と接触したとき、溶融、軟化又は溶解により崩壊することのできる材料中に封入し得る。これらの組成物は軟質移植体(implant)の形で、特に、注射により投与し得る。
【0045】
前記したごとく、本発明のヒドロゲルは軟質製品であり、一定の形状を有し得るが、ゼラチン又はタピオカによって形成される周知のヒドロゲルと同様、例えば指で加圧することにより容易に変形し得る。本発明のヒドロゲル及びこれを含有する組成物は、特に、例えば2mm内径を有する中空針又は1mmの内径を有する中空針さえ通過し得るのに十分な程度に変形し得るヒドロゲルである。
【0046】
本発明のヒドロゲルは推奨されている組織再生技術に従って、歯周組織の再生を促進するための移植可能なかつ生体再吸収性の基材として(例えば文献WO 93/24097に記載されている膜の代わりに)使用し得る。
【0047】
ヒドロゲルは、特にUV照射により殺菌し得るが、滅菌条件下で製造することが好ましい。
【0048】
着色剤、芳香物質、殺虫剤等も本発明のヒドロゲル中に含有させ得る。
【0049】
本発明のヒドロゲルは、特に、芳香剤(fragrnace)、香味剤(flavour)又は殺虫剤の持続性の拡散を行わせるための基材として使用し得る。
【0050】
疎水性微小領域を形成する凝集体の安定性を変性する作用を有する疎水性物質の1種又はそれ以上も本発明のヒドロゲル中に配合し得る。例えば、式(I)のX及びYブロックを構成するものと同一の単量体から得られるオリゴマーを添加し得る。
【0051】
本発明の他の主題は、疎水性物質及び前記したごときトリブロック共重合体を、該疎水性物質及び共重合体に対する溶剤である水混和性有機溶剤中に溶解させた溶液を調製しついでこの溶液を水と接触させて、上記疎水性物質を保持することのできるヒドロゲルを得ることを特徴とする、疎水性物質をヒドロゲル中に閉込める方法である。操作は既に述べた方法で行い得る。有機溶剤は前記したものから選択される。
【0052】
本発明は、更に、前記したごときトリブロック共重合体を水混和性有機溶剤中に溶解させた溶液を調製しついでこの溶液を疎水性巨大分子の水溶液と接触させて、上記巨大分子を保持することのできるヒドロゲルを得ることを特徴とする、疎水性巨大分子をヒドロゲル中に閉込める方法に関する。操作は既に述べた方法で行い得る。
【0053】
本発明は、勿論、少なくとも1種の疎水性物質及び/又は疎水性巨大分子が溶解している、前記で定義したごときヒドロゲルに適用される。
【0054】
本発明のヒドロゲルを形成する共重合体の分解速度は、部分的に、X及びY連鎖の多かれ少なかれ、非晶質であるか又は結晶質であるかの性質に依存する。かかる連鎖の非晶質性又は結晶質性を部分的に調節し得ることは知られている。例えば、(鏡像体の代わりに)ラセミラクチドから出発してX及びY連鎖を製造することにより、非晶質連鎖の生成が促進される;更に、X及びY連鎖の結晶性はこれらの連鎖の長さと共に増大することも知られている;特に、P.Cerrai等の前記文献参照。従って、分解速度はかくして調節し得る。
【0055】
以下に本発明の実施例を示す。
【0056】
実施例
実施例1共重合体の調製
1.1. 0.4モルのD,L-ラクチド(供給源:Purac,オランダ)を、丸底フラスコ中で0.4モル(オキシエチレン反復単位として)のPEG 2000(Fluka,スイス)及び37.6mg(反応剤の全重量の0.05%)の亜鉛粉末(Merck,ドイツ)と混合した。PEG 2000はクロロホルム中に溶解しついで-10℃でジエチルエーテルから沈殿させることにより予め精製した。
【0057】
ラクチド分子は2モルのラクテートからなることは想起されるであろう。従って、原料混合物中のオキシエチレン単位の数に対するラクテート単位の数の比は2に等しい。
【0058】
反応混合物を、真空下で脱ガスした後、該混合物が完全に液状になるまでアルゴン雰囲気下、140℃で加熱した。ついで、10−2mm Hgの真空を形成させ、丸底フラスコを密閉し、これを140℃のオーブン中に7日間放置した。ついで、丸底フラスコを室温に戻し、その内容物をアセトンに溶解させついでエタノールから沈殿させた。
【0059】
ついで、得られた生成物を減圧下で乾燥させた。
【0060】
共重合体をH NMRにより分析した。5.3-5.1 ppmでのPLAブロックのCHプロトンの積分値(integral)と、3.5 ppmでのPEOブロックの(O-CH2-CH2)プロトンの積分値との比から、共重合体中のLA/EOモル比は2.1等しいことが決定された。このことから、重合体の分子量は約8800であると推定される。
【0061】
1.2. PEG 2000及びD,L-ラクチド(PEG1モル(オキシエチレン反復単位として)当り1.5モル)及び亜鉛粉末(反応剤の全重量の0.05%)から出発して、実施例 1.1で述べた方法と同様の方法により共重合体を調製した;この共重合体はH NMRにより測定してLA/EOモル比が2.3であり、従って、分子量が約9400であることを特徴とする。
【0062】
1.3. 1.5モルのD,L-ラクチドと1モル(オキシエチレン反復単位として)のPEG 2000の混合物から出発して、PEG 1モル当り、水素化物2モルの割合の水素化カルシウム(Janssen,ベルギー)の存在下、前記の方法と同様の方法により共重合体を調製した;この共重合体はLA/EOモル比が3.2であり、従って、分子量が約12,300であることを特徴とする。
【0063】
1.4. ラクチドとPEG 2000の等モル混合物から出発して、水素化カルシウムの存在下、実施例 1.3で述べた方法と同様の方法により、約8000の分子量を有する共重合体を調製した。
【0064】
上記で述べた等モル混合物において、PEG のモル数はオキシエチレン反復単位のモル数である。
【0065】
1.5. PEG 1000、PEG1モル(オキシエチレン反復単位として)当り、1モルの割合のD,L-ラクチド及び亜鉛粉末から出発して、実施例 1.1で述べた方法と同様の方法により共重合体を調製した;この共重合体はH NMRにより測定してLA/EOモル比が3.4であり、従って、分子量が約6400であることを特徴とする。
【0066】
実施例2ヒドロゲルの調製
共重合体のサンプル200mgを0.4cmのアセトン(又は0.8cmのアセトン)に溶解しついで4cmの水を徐々に添加した。使用した共重合体は実施例1.1〜1.5で調製したものである。各々の場合に、軟質ヒドロゲル(高い割合の水を含有するヒドロゲル)が得られた。
【0067】
過剰の水を反復して除去し、新しい量の水で置換することにより、アセトンを除去した。
【0068】
アセトンは透析により或いはゆっくり蒸発させることによっても除去し得る。
【0069】
ヒドロゲル中に含有される水は凍結乾燥により除去し得る。凍結乾燥物は、水の存在下に置かれた場合、ヒドロゲルが含有する共重合体の重量に少なくとも等しい重量の水を急速に吸収し、水膨潤軟質ヒドロゲルが得られる。
【0070】
実施例3ヒドロゲル中への疎水性物質の配合
実施例 1.3の共重合体1gと5mgの市販の着色剤イエローOBを2cmのアセトンに溶解させた。
【0071】
これは非常に疎水性の、水不溶性の着色剤である。蒸留水(4cm)を徐々に添加した。原料アセトン溶液の容積の実質的に全てを占めるゲルが得られた。
【0072】
このゲルは均一に着色しており、着色剤の結晶は認められなかった。
【0073】
上記と同様の方法を共重合体の不存在下で行った場合には、水を添加する際に着色剤が晶出した。
【0074】
前記したごとくゲルを水で洗浄してアセトンを除去した場合、着色剤はゲル中に存在したままであった。
【0075】
プロゲステロンを配合したヒドロゲルを前記と同様の方法で調製した。ゲルを水で数回、洗浄した後においても、大部分のプロゲステロンはゲル中に閉込められたままであった。ゲルを水で洗浄する操作中、プロゲステロンをアセトン中に溶解させた溶液に水を添加した場合に観察されるのとは対照的に、プロゲステロンの沈殿は形成されなかった。皮下注射により投与した場合、ゲルは生体再吸収性軟質移植体を構成し、プロゲステロンを漸進的に放出した。
【0076】
実施例4 蛋白質の配合
前記で述べたものと同様の方法に従って、実施例 1.3の共重合体1gを2
cmのアセトンに溶解させついで10g/lのウシアルブミンを溶解して含有する水を徐々に添加した。
【0077】
得られたゲルを水で4回洗浄した。
【0078】
ゲルの容量に等しい量の生理学的血清を添加した。
【0079】
過剰の液体を(2分毎に行われるUV分析により)蛋白質について検査した。蛋白質だけが6分後に検出可能になり、放出は数時間に亘って続いた。
【0080】
同様の方法で他の蛋白質(特に免疫グロブリン)、及び、蛋白質がテタヌスアナトキシンであり、抗原が肺炎レンサ球菌からのポリグリコシド又はポリグリコシドフラグメントであるか又はチフス菌からのポリグリコシド又はポリグリコシドフラグメントである蛋白質−抗原複合体を本発明のヒドロゲル中に配合した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリブロック共重合体と水とを基材とするヒドロゲルであって、上記ヒドロゲルは上記トリブロック共重合体の重量と少なくとも等しい量の水を含有する軟質ヒドロゲルの形で提供されること及び上記共重合体は、式(I):
X−G−Y (I)
[式中、Gはp個の反復単位からなる非ヒドロキシル化親水性線状重合体ブロックであり、pは10から150まで変動し得る数であり、X及びYの各々は、それぞれ、m個及びn個の反復単位からなるポリエステルブロックを表し、比(m+n)/pは上記共重合体が水に不溶性であるのに十分な大きさでありかつ比(m+n)/pは上記共重合体の水混和性有機溶剤中の溶液に水を添加することにより、上記共重合体の重量と少なくとも等しい量の水を保持することのできる軟質ゲルが形成されるように選択される]で表されることを特徴とするヒドロゲル。
【請求項2】
pは10から120まで、特に、15から100まで変動し得る数である、請求項1に記載のヒドロゲル。
【請求項3】
前記比(m+n)/pは、前記ヒドロゲルが該ゲル中に含有される共重合体の重量と少なくとも等しい量〜その2倍の量の水を含有し得るように選択される、請求項1又は2に記載のヒドロゲル。
【請求項4】
前記比(m+n)/pは約1〜5の数である、請求項1〜3のいずれかに記載のヒドロゲル。
【請求項5】
X及びYが、(i)乳酸、グリコール酸、マレイン酸モノエステル、ラクチド、グリコシド又はパラ−ジオキサノンから選ばれた単量体から誘導される重合体、(ii)これらの単量体相互により形成される共重合体又は(iii)ジアシッドとジオールとの重縮合により得られる重合体を表す、請求項1〜4のいずれかに記載のヒドロゲル。
【請求項6】
Gによって表わされる重合体ブロックは下記のもの:ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルピロリドン)及びポリアクリルアミドから選ばれる、請求項1〜5のいずれかに記載のヒドロゲル。
【請求項7】
疎水性物質を含有する、請求項1〜6のいずれかに記載のヒドロゲル。
【請求項8】
疎水性物質は医薬、着色剤、芳香物質及び殺虫剤から選ばれる、請求項7に記載のヒドロゲル。
【請求項9】
疎水性物質はホルモン、抗生物質、駆虫薬、抗癌剤、麻酔剤、鎮静薬及びペプチドから選ばれる、請求項7及び8に記載のヒドロゲル。
【請求項10】
水溶性巨大分子を含有する、請求項1〜9のいずれかに記載のヒドロゲル。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれかに記載のヒドロゲルの凍結乾燥により得られる凍結乾燥物。
【請求項12】
請求項7〜10のいずれかに記載のヒドロゲルの凍結乾燥により得られる凍結乾燥物。
【請求項13】
請求項1〜6のいずれかに記載のヒドロゲル又は請求項11に記載の凍結乾燥物を基材として含有する組成物。
【請求項14】
請求項7〜10のいずれかに記載のヒドロゲル又は請求項12に記載の凍結乾燥物を含有する組成物。
【請求項15】
請求項1〜7のいずれかに記載のヒドロゲル又は請求項11又は12に記載の凍結乾燥物を含有する医薬組成物。
【請求項16】
水溶性巨大分子からなる医薬を更に含有する、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
2mmの内径を有する中空針又は1mmの内径を有する中空針を通過することができるのに十分な変形性を有する、請求項15又は16に記載の組成物。
【請求項18】
請求項1〜6のいずれかに記載の共重合体X−G−Yの水混和性有機溶剤中の溶液を調製しついでこの溶液を軟質ヒドロゲルを製造するのに十分な量の水と接触させることを特徴とする、請求項1〜12のいずれかに記載のヒドロゲル又は凍結乾燥物の製造方法。
【請求項19】
ヒドロゲルの水による洗浄及び/又は水に対する透析及び/又は凍結乾燥を更に行う、請求項18 に記載の方法。
【請求項20】
疎水性物質及び請求項1〜6のいずれかに記載のトリブロック共重合体を、該疎水性物質及び共重合体に対する溶剤である水混和性有機溶剤中に溶解させた溶液を調製しついでこの溶液を水と接触させて、上記疎水性物質を保持することのできる軟質ヒドロゲルを得ることを特徴とする、疎水性物質をヒドロゲル中に閉込める方法。
【請求項21】
請求項1〜6のいずれかに記載のトリブロック共重合体を水混和性有機溶剤中に溶解させた溶液を調製しついでこの溶液を疎水性巨大分子の水溶液と接触させて、上記巨大分子を保持することのできる軟質ヒドロゲルを得ることを特徴とする、疎水性巨大分子をヒドロゲル中に閉込める方法。

【公開番号】特開2008−56935(P2008−56935A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−248994(P2007−248994)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【分割の表示】特願平9−520237の分割
【原出願日】平成8年11月29日(1996.11.29)
【出願人】(507320133)
【Fターム(参考)】