説明

トリプシン様セリンプロテアーゼ阻害剤ならびにその調製および使用

本発明は、プラスミンのみならず血漿カリクレインも阻害する、一般式(I)のトリプシン様セリンプロテアーゼ阻害剤、ならびにその調製および使用、好ましくは、臓器移植または心臓手術介入、特に心肺バイパスを用いた場合における、特に線溶亢進状態の場合における、失血の処置のための薬剤としての使用、またはフィブリン接着剤の構成成分としての使用に関する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスミンに加えて血漿カリクレインも阻害する、一般式

のトリプシン様セリンプロテアーゼ阻害剤、ならびにその調製および使用、好ましくは、臓器移植または心臓外科手術、特に心肺バイパスを用いた場合における、特に線溶亢進状態(hyperfibrinolytic condition)における、失血の処置のための薬剤としての使用、またはフィブリン接着剤の構成成分としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスミンおよび血漿カリクレイン(PK)の阻害剤が開示されてきた。プラスミンは、トリプシン様セリンプロテアーゼであり、塩基性アミノ酸であるアルギニンまたはリジンのC末端で多数の基質を切断する。プラスミンは、プラスミノーゲン活性化因子であるウロキナーゼまたはtPAの触媒作用によって、酵素原プラスミノーゲンから形成される。プラスミン基質としては、細胞外基質および基底膜の種々のタンパク質、例えば、フィブロネクチン、ラミニン、IV型コラーゲンまたはフィブリンだけでなく、多数の酵素原、例えば、マトリックスメタロプロテアーゼまたはプラスミノーゲン活性化因子ウロキナーゼのプロフォーム(proform)が挙げられる。血液中において、プラスミンは、特に、フィブリンを可溶性産物へ切断することによるフィブリン溶解を担う。
【0003】
内因性プラスミン阻害剤としては、α2-マクログロブリンおよびセルピンα2-抗プラスミンが挙げられる。特定の病理学的条件下で、フィブリン溶解の自発的活性化が存在し得る。このような高プラスミン血症(hyperplasminemia)の場合、創傷を塞ぐフィブリンが分解されるだけでなく、フィブリノーゲン分解産物も形成される。したがって、止血の重篤な障害が生じ得る。臨床的に使用される抗線維素溶解剤は、合成アミノカルボン酸、例えば、ε-アミノカプロン酸、p-アミノメチル安息香酸またはトラネキサム酸(trans-4-(アミノメチル)シクロ-ヘキサンカルボン酸)である。これらの化合物は、フィブリンへの酵素原プラスミノーゲンの結合を遮断し、したがってプラスミンへのその活性化を阻害する。したがって、これらの化合物は、プラスミンの直接的な阻害剤ではなく、既に形成されているプラスミンを阻害することができない。使用されるさらなる抗線維素溶解剤は、アプロチニン(Trasylol(登録商標)、Bayer AG, Leverkusen)、ウシの肺から得られる58個のアミノ酸のポリペプチドである。アプロチニンは、1 nMの阻害定数でプラスミンを阻害するが、比較的非特異的であり、トリプシン(Ki=0.1 nM)および血漿カリクレイン(Ki=30 nM)も効果的に阻害する。アプロチニンはまた、低下した活性ではあるが、他の酵素も阻害する。
【0004】
アプロチニンの主な使用は、特に心肺バイパス(CPB)を用いる心臓外科手術において、失血を減少させるのに役立ち、したがって、手術時の輸血の必要性を明らかに低下させる(Sodhaら、2006年)。さらに、アプロチニンはまた、失血を阻害するために、他の手術において、例えば臓器移植において用いられ、またはフィブリン接着剤中の添加物として使用される。
【0005】
アプロチニンの使用は、いくつかの不利益を有する。それはウシの臓器から単離されるので、原則として、病原性汚染およびアレルギー反応の危険性が存在する。アナフィラキシーショックの危険性は、アプロチニンの最初の投与で比較的低い(<0.1%)が、200日以内の反復投与で4〜5%へ上昇する。
【0006】
ε-アミノカプロン酸またはトラネキサム酸と直接比較すると、アプロチニンの投与は、副作用数の増加を誘発することが、最近報告された(Manganoら、2006年)。アプロチニンの投与によって、腎臓損傷のケース数が倍増し、透析が必要となった。同様に、心筋梗塞および卒中発作の危険性が、対照群と比較して、アプロチニンの投与によって増加した。
【0007】
現在までに、ほんの僅かのプラスミン合成阻害剤が開示されている。SandersおよびSeto(1999年)は、プラスミンについて≧50μMの阻害定数を有する、比較的弱い活性を有する4-ヘテロシクロヘキサノン誘導体を記載した。XueおよびSeto(2005年)は、≧2μMのIC50値を有するペプチド性シクロヘキサノン誘導体について報告したが、それらのさらなる開発は知られていない。OkadaおよびTsudaは、≧0.1μMのIC50値でプラスミンを阻害する4-アミノメチルシクロヘキサノイル残基を有する種々の誘導体を記載したが、これらの阻害剤の臨床使用は知られていない(Okadaら、2000年;Tsudaら、2001年)。
【0008】
プラスミンについての阻害定数が、抗血栓剤としての凝固プロテアーゼ阻害剤の開発に関する多数の刊行物において公開され、ここで、これらの場合における目的は、可能な限り弱くプラスミンを阻害することであった。心臓外科手術における失血を減少させるためのこれらの化合物の可能な使用は、これらの論文のいずれにおいても言及されなかった。したがって、例えば、トロンビン阻害剤メラガトランは、0.7μMのKi値でプラスミンを阻害し、一方、構造的に密接に関連する化合物H317/86は、プラスミンについて0.22μMの阻害定数を有する(Gustafssonら、1998年)。しかし、両方の化合物は、≦2nMのKi値で明らかにより強くプロテアーゼトロンビンを阻害し、したがってメラガトランの投与によって強い抗凝固が生じる。
【0009】
導入において記載したように、アプロチニンは、プラスミンだけでなく血漿カリクレイン(PK)も阻害する。PKは、それについていくつかの生理学的基質が公知である多機能性トリプシン様セリンプロテアーゼである。したがって、PKは、高分子量キニノーゲンから血管作動性ペプチドブラジキニンをタンパク質分解性切断によって放出することができ、酵素原である凝固第XII因子、プロウロキナーゼ、プラスミノーゲンおよびプロMMP 3を活性化することができる。したがって、PK/キニン系は、種々の症状において、例えば、血栓塞栓状態、播種性血管内凝固症候群、敗血性ショック、アレルギー、胃切除後症候群、関節炎およびARDS(成人呼吸窮迫症候群)おいて、重要な役割を有すると考えられる(Tadaら、2001年)。
【0010】
したがって、アプロチニンは、PKに対するその阻害効果によって、ペプチドホルモンブラジキニンの放出を阻害する。ブラジキニンは、ブラジキニンB2受容体の活性化を介して、種々の効果を有する。内皮細胞からのtPA、NOおよびプロスタサイクリンのブラジキニン誘発放出は(Schmaierによる概説論文、2002年を参照のこと)、フィブリン溶解、血圧および炎症事象に影響を与える。手術において副作用として生じ得る全身性炎症プロセスを、ブラジキニン放出を阻害することによって減少させることが示唆される。
【0011】
マイクロモル濃度のKi値を有する、種々のビスベンズアミジン、例えば、ペンタミジンおよび関連化合物、ならびにω-アミノ-およびω-グアニジノアルキルカルボン酸のエステルが、PK阻害剤として記載された(Asgharら、1976年;MuramatuおよびFuji、1971年;MuramatuおよびFuji、1972年;Ohnoら、1980年;Muramatuら、1982年;Satohら、1985年;Tenoら、1991年)。
【0012】
アルギニンまたはフェニルアラニンから誘導される最初の選択的競合的阻害剤は、Okamotoら(1988年)によって開発され、約1μMのKi値でPKを阻害する。競合的PK阻害剤の開発に関するいくつかの論文が、Okadaグループによって公開され、trans-4-アミノメチルシクロヘキサンカルボニル-Phe-4-カルボキシメチルアニリドから誘導される最も活性の高い化合物は、約0.5μMの阻害定数を有する(Okadaら、1999年;Okadaら、2000年;Tsudaら、2001年)。それらが比較的高いKi値を有することは、前記PK阻害剤と共通している。US 6,472,393は、約1 nMの阻害定数を有しかつP1残基として4-アミジノアニリンを有する強力なPK阻害剤を記載した。PK阻害剤は、US 5,602,253にも記載された。US 2006/0148901は、PK阻害剤を記載したが、プラスミンに対するその阻害効果は比較的低く、したがって、これらの阻害剤は、本願に記載される阻害剤とは相違する。
【発明の概要】
【0013】
したがって、本発明は、治療的適用に好適であり、かつ、特にプラスミンおよび血漿カリクレインを高い活性および特異性で可逆的にかつ競合的に阻害し、したがって、種々の適用における、例えばCPBを用いる心臓外科手術、臓器移植、または他の手術における、止血に好適である、低分子量活性物質を提供するという目的に基づく。これらの化合物のさらなる利点は、血漿カリクレインの阻害剤としてのそれらの効果によって、さらにキニン放出が減少し、したがってキニン媒介炎症反応を抑制できることである。次に、内皮細胞からのtPAのキニン誘発放出が、キニン放出の阻害によって抑制され、したがって、この機構によってフィブリン溶解を下方制御することが可能である。これらの化合物のさらなる利点は、選択性にもかかわらず、FXaおよび/またはトロンビンに対してこれらの化合物が一定の阻害効果をもたらすことであり、したがって、これらの化合物の使用において血栓性合併症がさらに減少される。
【0014】
今回、驚くべきことに、式Iに示されるような2つの立体的に要求の厳しいおよび/または疎水性である残基R2およびR3、好ましくは置換または非置換芳香族系を組み合わせることによって、プラスミンおよび血漿カリクレインに対して強力な阻害定数を有する阻害剤を得ることが可能であることが見出された。さらに、R2において非芳香族残基を有しかつR3において塩基性置換されたフェニル残基を有する物質によって、同等に良好な効果を得ることが可能であった。
【発明を実施するための形態】
【0015】
したがって、本発明は、一般式(I)の化合物ならびにそのラセミ混合物および有機酸または無機酸との塩に関する:

式中、
R1は、1回または複数回出現してもよく、互いに独立しており、かつR1は、R5が水素に等しいかもしくは1〜6個の炭素原子を有する分岐もしくは直鎖低級アルキル基に、好ましくはメチルもしくはエチルに、特にメチルに等しい場合の、COOR5残基であるか;1〜6個の炭素原子、好ましくはメチルを有する分岐もしくは直鎖アミノアルキル残基であるか;ハロゲン残基もしくは擬ハロゲン残基、好ましくは塩素もしくはシアノ基であるか;または通常nが、ポリエチレングリコール残基が10 000 Da、5000 Da、3400 Da、2000 Da、1000 Da、もしくは750 Daの平均分子量を有するように定義され、通常、nが約18〜約250の整数、特に約18、約25、約50、約85、約125、もしくは約250である、式(II)もしくは(III)

のポリエチレングリコール残基であり;
R2は、5〜13個の炭素原子を有する置換されていてもよい芳香族もしくは非芳香族環式もしくは二環式系であるか、または4〜5個の炭素原子と1個の窒素原子、酸化窒素、酸素原子、もしくは硫黄原子、特に窒素原子もしくは酸化窒素とを有する置換されていてもよい芳香族ヘテロ環であるか、または下記の構造

の残基であり;
R3は、5〜6個の炭素原子を有する置換されていてもよい芳香族環式系であるか、または3〜5個の炭素原子と1〜2個の窒素原子、酸化窒素、酸素原子、もしくは硫黄原子、特に窒素原子もしくは酸化窒素とを有する置換されていてもよい芳香族ヘテロ環であり;
R4は、1回または複数回出現するハロゲン残基、好ましくはフッ素であってもよく;
o=1、2、または3、特に1であり;
p=0、1、2、3、または4、特に3であり;かつ
i=0または1、特に0である。
【0016】
実験結果によって、プラスミンおよび血漿カリクレインの阻害が、R2およびR3において環式構造を有する、特に、R2およびR3において芳香族炭素環式系を有する化合物で、特に良好であることが示された。さらに、置換基の適切な選択によって、R2およびR3において芳香族炭素環式系を有する化合物で、第Xa因子および/またはトロンビンの良好な阻害を達成することがさらに可能であることを示すことができた。
【0017】
実験結果によってまた、R1が3-COOH基を示す場合、トロンビンの阻害の著しい減少が達成されることが示された。したがって、好ましい態様において、R1はメタ位またはパラ位に1回出現し、R1は好ましくはCOOH残基であり、特に、R1は、1回出現しかつ水素、4-COOH基、または特に3-COOH基より選択される。フッ素原子を特にオルト位に示すR4によって、トロンビンの阻害のさらなる減少を達成することができた。
【0018】
本発明のさらに好ましい態様は、R2が、6〜13個の炭素原子を有する置換されたまたは置換されていない芳香族環式または二環式系、または5個の炭素原子と1個の窒素原子とを有する置換されたまたは置換されていないヘテロ環である化合物に関する。
【0019】
R2における置換は、一般的に、ハロゲン残基、好ましくは塩素またはフッ素、特に塩素;1〜6個の炭素原子を有するフッ素置換されていてもよい分岐または直鎖アルキル残基、好ましくはメチルまたは第3級ブチル;1〜6個の炭素原子、好ましくはメチルを有するフッ素置換されていてもよい分岐または直鎖アルキルオキシ残基;ヒドロキシ残基;またはシアノ残基であり得る。
【0020】
代替の態様において、R2はまた、6個の炭素原子を有する非芳香族環式系であり得る。
【0021】
特に好適な化合物は、R3における置換が、塩基性残基、特に、1〜3個の炭素原子、好ましくは1個の炭素原子を有するアルキルアミノ残基、アミジノ残基またはグアニジノ残基を有する芳香族系である、式(I)の化合物であることが分かった。特に、i=0でありかつR4を有さず以下の残基を有する式(I)の化合物が、特に好適であることが分かった。

【0022】
本発明の化合物の塩は、一般的に、塩酸、HBr、酢酸、トリフルオロ酢酸、トルエンスルホン酸または他の好適な酸より形成される。
【0023】
特に好適な化合物は、R2が以下の残基

より選択され、および/またはR3が以下

より選択されるものである。
【0024】
このような化合物の例は、以下の通りに定義される式(I)の化合物である。





【0025】
一般式(IV)の化合物ならびにそのラセミ混合物および有機酸または無機酸との塩もまた、本発明によれば好適であることが明らかとなった:

上記は一般式(I)に対応し、式中、
R1は、1回または複数回出現してもよく、互いに独立しており、かつR1は、R5が水素に等しいかもしくは1〜6個の炭素原子を有する分岐もしくは直鎖低級アルキル基に、好ましくはメチルもしくはエチルに、特にメチルに等しい場合の、COOR5残基であるか;1〜6個の炭素原子、好ましくはメチルを有する分岐もしくは直鎖アミノアルキル残基であるか;ハロゲン残基もしくは擬ハロゲン残基、好ましくは塩素もしくはシアノ基であるか;またはポリエチレングリコール鎖が10 000 Da、5000 Da、3400 Da、2000 Da、1000 Da、もしくは750 Daの平均分子量を有するようにnが定義され、好ましくはnが約18〜約250の整数、特に約18、約25、約50、約85、約125、もしくは約250である、式(V)もしくは(VI)

のポリエチレングリコール残基であり;
R2は、1〜6個の炭素原子、好ましくは第3級ブチルを有する分岐もしくは直鎖アルキルオキシ残基であるか、ヒドロキシル残基であるか、アミノ残基であるか、または1〜6個の炭素原子、好ましくは第3級ブチルを有する分岐もしくは直鎖アルキルオキシカルボニルアミド残基であるか、または上記に定義されたnを有する式(V)または(VI)のポリエチレングリコール残基であり;
R3は、以下の残基

より選択され;
R4は、1回または複数回出現するハロゲン残基、好ましくはフッ素であってもよく;
o=1または2であり;
p=1、2、3、または4、特に1または4であり;かつ
i=0または1、特に0である。
【0026】
この場合の好ましい化合物はまた、R1がメタ位またはパラ位に1回出現し、R1が好ましくは水素またはCOOH残基であり、特に、R1が、1回出現しかつ水素、4-COOH基、または3-COOH基より選択されるものである。
【0027】
これらの化合物の塩はここでもまた、一般的に、塩酸、HBr、酢酸、トリフルオロ酢酸、トルエンスルホン酸または他の好適な酸より形成される。
【0028】
このような化合物の例は、下記の通りに定義される、i=0でありかつR4残基を有さない式(IV)の化合物である。


【0029】
一般式Iの化合物は、本明細書以下に記載されるように、例えば以下のように、原則として公知の様式で調製することができ、一般的には、好適なアミノ酸を、アミジノ基において保護されたアミジノベンジルアミンへ連続して結合させる。この場合、N末端アミノ酸はP4残基を既に有しているか、または後者が続いてそこへ連結される。
【0030】
本発明の化合物の個々の構成要素P1、P2、P3およびP4の命名法は、本明細書以下において明らかである(SchechterおよびBerger、1967年もまた参照のこと)。
【0031】
例えば、アミジノ基において保護されている、保護アミジノベンジルアミン、好ましくはBoc保護アミジノベンジルアミン、特に4-アセチルオキサミジノベンジルアミンは、当業者に公知の方法によって市販の4-シアノベンジルアミン(Showa Denko K.K., Japan)から得られる。保護基の切断後、続いて、標準的な結合法によるさらなるアミノ酸およびP4残基との結合、さらにN末端保護基として、保護基、好ましくはBocが続く。P3アミノ酸はまた、保護された、好ましくはベンジルスルホニルで保護された、R1残基を既に有するアミノ酸として、直接結合され得る。ペプチドアナログが、アセチルオキサミジノベンジルアミンから出発して、連続して構築される。中間体の大部分は、十分に結晶化し、したがって容易に精製され得る。阻害剤の最終精製は、好ましくは分取(preparative)HPLC、逆相HPLCによって、最終段階で行われる。
【0032】
したがって、本発明は、好適なアミノ酸を、アミジノ基またはグアニジノ基において保護されたアミジノベンジルアミンまたはグアニジノベンジルアミンへ、例えば、4-アセチルオキサミジノベンジルアミンへまたは4-(ベンジルオキシカルボニルアミジノ)ベンジルアミンへ連続して結合させ、ここで、N末端アミノ酸はP4残基を既に有しているか、または後者が続いてそこへ連結される、本発明の化合物の調製方法にさらに関する。実行可能な精製の後、得られた化合物を任意でペグ化してもよい。
【0033】
本発明の化合物の例示的な調製方法は、以下の工程を含む:
(a)残基R3を有する好適なNα保護アミノ酸を、好適な保護アミノメチルベンズアミジンまたは保護アミノメチルベンズグアニジンでアミド化する工程、
(b)R3を有するアミノ酸のNα保護基を切断した後、得られた生成物と残基R1およびR2を有する好適なベンジルスルホニルアミノ酸とを反応させ、かつ残存する保護基を切断して、本発明の化合物を得る工程、ならびに実行可能な精製の後、
(c)得られた化合物を任意でペグ化する工程。
【0034】
例えば選択される保護基またはペグ化に関する、当業者に一般的に知られているさらなる方法の詳細は、実施例において見られ得る。アミド窒素の好ましい保護基は、例えば、tert-ブチルオキシカルボニル(Boc)である。出発化合物は、例えば、アミノ酸誘導体またはPEG誘導体である。化学物質は、一般的に購入によって得ることができる。ペグ化、即ち、ポリエチレングリコールでの誘導体化は、一般的に、P3アミノ酸またはP4ベンジルスルホニル残基のいずれかを介して、活性化PEG誘導体を用いて、例えば、n-ヒドロキシスクシンイミドエステルとして活性化されたPEGを用いて行った。
【0035】
PEGと結合した化合物の有利な特性は、血液循環中における阻害剤の半減期の延長である。以下の構造は、PEG鎖がP3アミノ酸(D-Lys)を介して結合している例を示す。

【0036】
以下の化合物を、スクシニルリンカーを使用することによって得た。

【0037】
さらに、PEG鎖を、下記の一般式に従う好適なP4-ベンジルスルホニル残基を介して結合させた。ここで、P4残基は、パラ位またはオルト位においてアミノメチル基で修飾されていた。

【0038】
以下の化合物を、スクシニルリンカーを使用して得た。

【0039】
しかし、同一の様式で行われ得る他の調製方法も当業者に公知である。ペグ化された化合物は、一般的に、種々の程度のペグ化を有する化合物の混合物であり、PEG残基の分子量は、通常、およそ750、1000、2000、3400、5000または10 000 Daである。しかし、規定の分子量を有する他の特定のポリエチレングリコールもまた、購入によって得ることができる。
【0040】
本発明はまた、好ましくは、臓器移植または心臓外科手術、特に心肺バイパスを用いた場合における、特に線溶亢進状態における、失血の処置のための、本発明の化合物の少なくとも1つを含む薬剤に関する。
【0041】
本発明はまた、アプロチニンが本発明の好適な阻害剤によって置換されている、本発明の化合物の少なくとも1つを含むフィブリン接着剤を含む。
【0042】
フィブリン接着剤は、一般的に、第1の構成成分としてフィブリノーゲン、第XIII因子、およびアプロチニンまたは少なくとも1つの本発明の化合物、ならびに第2の構成成分として第XIII因子の活性化のためのトロンビンおよび塩化カルシウムを含む、生理学的な二成分接着剤を意味する。
【0043】
本発明はまた、当業者に一般的に知られている方法による、例えば好適な賦形剤または添加剤と混合することによる、本発明の薬剤または本発明のフィブリン接着剤の製造のための、少なくとも1つの本発明の化合物の使用に関する。
【0044】
本発明はまた、以下の局面に関する。
【0045】
以下の一般式の化合物、ならびにそのラセミ体、結晶形態、および水和物、および有機酸および無機酸との塩:

iは、0または1、好ましくは0であり、
R4は、HまたはOH、好ましくはHであり、
Aは、以下の構造

より選択され、ここでAは、好ましくはフェニル残基であり、
R1は、H、COOH、COOR5(ここで、R5=メチルまたはエチル)、アミノメチル、ハロゲン、擬ハロゲン、しかし好ましくはHおよびCOOH、特に好ましくはCOOHであり、何故ならば、カルボキシル基は、循環中における阻害剤の半減期を延長するためであり、
R3は、

であり、
R2は、3〜12個のC原子を有する分岐もしくは非分岐アルキル、さらには、シクロアルキル置換された、6〜14個のC原子を有するアリールまたはアラルキル、6〜12個のC原子と1〜3個のヘテロ原子とを有するヘテロアリールまたはヘテロアリールアルキル、さらには、

であり、
R6は、ハロゲンまたは擬ハロゲンであり、ここでp=0、1、2である。
【0046】
個々の位置がP4〜P1と呼ばれる以下の式の化合物:

式中、
P4=修飾されていないまたは置換されたベンジルスルホニル残基
P3=D立体配置の疎水性アミノ酸、D-フェニルプロピルグリシン、およびさらなるアミノ酸
P2=L立体配置の塩基性-疎水性アミノ酸
P1=4-アミジノベンジルアミド残基および関連基。
【0047】
下記のようなP3を介してPEGと結合している以下の構造の化合物。

【0048】
名称R1、R2、R3、R4、Aおよびiは、上述の定義に対応する。Bは、末端においてメチルエーテルの形態であるPEG鎖に対応する。Yは、PEGをP3アミノ酸と結合させるために好適なリンカー、例えば、プロピオニル残基であり、Xは、NHまたはNH-アルキルまたはNH-アリール基のいずれかである。結合は、それ自体が公知の様式で行われる。
【0049】
本発明の化合物は、例えば、750 Da、1000 Da、2000 Da、5000 Da、10 000 Da、20 000 Daの平均分子量を有するかまたは特定のPEG鎖であるPEG鎖を有する。
【0050】
線溶亢進状態における失血を減少させるために好適である薬剤の製造のための本発明の化合物の使用、およびフィブリン接着剤を調製するための手段としての本発明の化合物の使用。
【0051】
以下の実施例は、本発明を限定することなく詳細に説明するように意図される。
【0052】
実施例
1.分析方法
1.1 分析HPLC
サブシステムであるCTO-10ASカラムオーブン、LC-10ADポンプ(2×)、DGU-14A脱気装置(degaser)、SIL-10ADオートインジェクター、SCL-10Aシステムコントローラー、SPD-10A UV-Vis検出器およびPhenomenex Luna 5μm C18(2) 100Å, 250×4.6 mmカラムからなるShimadzu LC-10A HPLCシステムを、関連のShimadzu CLASS-VPソフトウェアバージョン5.3を使用して、分析逆相HPLCについて使用した。検出を220 nmで行った。0.1% TFAを含む水(A)および0.1% TFAを含むアセトニトリル(B)を、1 ml/分の流量および線形勾配(1% B/分)で、溶離剤として役立てた。異なる出発条件を、化合物に応じて分析HPLCについて使用し、これらを対応の化合物について示す。
【0053】
Phenomenex Jupiter 5μm C18(2) 300Å, 250×4.6 mmカラムを、全てのポリエチレングリコール修飾した活性物質を分析するために使用した。
【0054】
1.2 分取HPLC
サブシステムであるLC-8A分取ポンプ(2×)、DGU-14A脱気装置、FRC-10Aフラクションコレクター、SCL-10Aシステムコントローラー、SPD-10A UV-Vis検出器およびPhenomenex Luna 5μm C8(2) 100Å, 250×30.0 mmカラムからなるShimadzu HPLCシステムを、関連のShimadzu CLASS-VPソフトウェアバージョン5.3を使用して、分取RP-HPLCについて使用した。検出を220 nmで行った。同様に、0.1% TFAを含む水(A)および0.1% TFAを含むアセトニトリル(B)を、10または20 ml/分の流量および好適な勾配で、溶離剤として役立てた。
【0055】
1.3 質量分析
質量スペクトルを、Finnigan ESI-MS LCQ(Bremen, Germany)において型通りに記録した。ポリエチレングリコールと結合した全ての化合物を、Bruker Maldi Ultraflex Tof/Tof機器において分析した。
【0056】
使用した略語
ACN アセトニトリル
4-Amba 4-アミジノベンジルアミド
Ame アミノメチル
Boc tert-ブチルオキシカルボニル
BSA ウシ血清アルブミン
Bzl ベンジル
Bzls ベンジルスルホニル
DIEA ジイソプロピルエチルアミン
DCM ジクロロメタン
DMF N,N-ジメチルホルムアミド
HBTU 2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート
HPLC 高速液体クロマトグラフィー
MS 質量分析
ONHS N-ヒドロキシスクシンイミドエステル
NMM N-メチルモルホリン
PEG ポリエチレングリコール
Phe(3-Ame) 3-アミノメチルフェニルアラニン
Ppg フェニルプロピルグリシン
RT 室温
tBu tert-ブチル
Tfa トリフルオロアセチル
TFA トリフルオロ酢酸
TEA トリエチルアミン
TMS-Cl トリメチルシリルクロリド
Me メチル
【0057】
2.阻害剤の合成
2.1 3-HOOC-Bzls-d-Ppg-Phe(3-Ame)-4-Amba × 2 酢酸塩(3)

a)Boc-Phe(3-Ame)-OH × 酢酸塩

5 g(17.2 mmol)のBoc-Phe(3-CN)-OH(Acros Organics)を、700 mlの90%強度酢酸に溶解し、40℃で3時間、大気圧および触媒としての800 mgの10% Pd/C下において水素で水素化した。溶媒を真空下で除去し、そして残渣を少量のメタノールに溶解し、ジエチルエーテルを添加することによって沈殿させた。
収量:4.1 g(HPLC:16.7分、10% Bで開始)
【0058】
b)Boc-Phe(3-Tfa-Ame)-OH

4.6 g(13 mmol)のBoc-Phe(3-Ame)-OH × 酢酸塩を30 mlのメタノールに溶解し、4 ml(29.9 mmol)のDIEAおよび2 ml(16.78 mmol)のトリフルオロ酢酸エチルを室温で添加した。元の懸濁液が約15分後に完全に溶解するまで、混合物を撹拌する。1時間後、溶媒を真空下で除去し、残渣を酢酸エチルおよび水に溶解する。酢酸エチル相を5% KHSO4溶液で2回、飽和NaCl溶液で3回洗浄し、有機相をNa2SO4で乾燥する。溶媒を真空下で除去する。
収量:4.9 gのアモルファス固体(HPLC:28.13分、20% Bで開始)
【0059】
c)Boc-Phe(3-Tfa-Ame)-4-(アセチルヒドロキシアミジノ)ベンジルアミド

5.43 g(13.9 mmol)のBoc-Phe(3-Tfa-Ame)-OHおよび4.28 g(15.3 mmol)の4-(アセチルヒドロキシアミジノ)ベンジルアミン(合成はSchweinitzら、2004年の補足に記載)を50 mlのDMFに溶解し、0℃で、5.2 ml(30 mmol)のDIEAおよび5.81 g(15.3 mmol)のHBTUを添加した。混合物を0℃で15分間、RTでさらに3時間撹拌する。溶媒を真空下で除去し、残渣を酢酸エチルに溶解する。酢酸エチル相を5% KHSO4溶液で3回、飽和NaCl溶液で1回、飽和NaHCO3溶液で3回、飽和NaCl溶液で2回洗浄する。相の間に沈殿する生成物を吸引で濾別し、真空下で乾燥する。
収量:4.17 gの白色結晶(HPLC:28.08分、20% Bで開始)
【0060】
d)H-Phe(3-Tfa-Ame)-4-(アセチルヒドロキシアミジノ)ベンジルアミド × HCl

4.1 gのBoc-Phe(3-Tfa-Ame)-4-(アセチルヒドロキシアミジノ)ベンジルアミドを、60 mlの乾燥ジオキサンに懸濁させ、ジオキサン中の4 N HCl 11 mlを添加した。短時間の超音波処理後、混合物を室温で1時間振盪する。1時間後、ジエチルエーテルを添加することによって生成物を沈殿させ、吸引で濾別し、真空下で乾燥する。
収量:3.8 gの白色固体(HPLC:9.47分、20% Bで開始)
【0061】
e)3-MeOOC-Bzl-SO3- × Na+

5 g(21.8 mmol)のメチル3-ブロモメチルベンゾエート(Acros Organics)を25 mlの水に懸濁させ、2.94 g(23.8 mmol)のNa2SO3を添加した。混合物を5時間還流し、次いで、結晶化が開始するまで、溶媒の一部を真空下で除去した。混合物を4℃で一晩保存し、生成物を濾別した。
収量:3.7 gの白色結晶(HPLC:12.02分、10% Bで開始)
【0062】
f)3-MeOOC-Bzls-Cl

2.5 g(9.91 mmol)の3-MeOOC-Bzl-SO3- × Na+を、塩化ホスホリルで湿らせ、2.27 g(10.9 mmol)のPCl5を添加した。混合物を0℃で約5分間冷却し、次いで油浴(浴温80℃)において4時間加熱した。次いで、混合物を氷上へ注ぎ、激しく撹拌した。約30分間撹拌した後、酸塩化物が沈殿し始め、これを吸引で濾別し、真空下で乾燥する。
収量:1.4 gの白色固体
【0063】
g)3-MeOOC-Bzls-d-Ppg-OH

1.3 g(6.72 mmol)のH-d-Ppg-OH(Peptech, Burlingtom, MA)を、90 mlの乾燥DCMに懸濁し、2 ml(15.7 mmol)のTMS-Clおよび2.6 ml(15 mmol)のDIEAを添加した。混合物を1時間還流し、透明溶液を0℃へ冷却し、2 g(8 mmol)の3-MeOOC-Bzls-Clおよび2.6 mlのDIEAを添加した。混合物を0℃で15分間、RTで1.5時間撹拌した。溶媒を真空下で除去し、残渣を700 mlの半飽和NaHCO3溶液に溶解した。混合物を少量の酢酸エチルで2回抽出し、次いで水相をHCl(pH約2〜3)で酸性化した。混合物を150 mlの酢酸エチルで3回抽出し、合わせた酢酸エチル相を5% KHSO4溶液で2回、飽和NaCl溶液で1回洗浄する。有機相をNa2SO4で乾燥し、溶媒を真空下で除去する。
収量:2.4 gのオイル(HPLC:33.53分、20% Bで開始)
【0064】
h)3-MeOOC-Bzls-d-Ppg-Phe(3-Tfa-Ame)-4-(アセチルヒドロキシアミジノ)ベンジルアミド

0.605 g(1.5 mmol)の3-MeOOC-Bzls-d-Ppg-OHおよび0.85 g(1.65 mmol)のH-Phe(3-Tfa-Ame)-4-(アセチルヒドロキシアミジノ)ベンジルアミド × HClを、40 mlの乾燥DMFに溶解し、0℃で、0.63 g(1.65 mmol)のHBTUおよび0.6 ml(0.34 mmol)のDIEAを添加した。混合物を0℃で15分間、RTでさらに3時間撹拌する。溶媒を真空下で除去し、残渣を酢酸エチルに溶解する。酢酸エチル相を5% KHSO4溶液で3回、飽和NaCl溶液で1回、飽和NaHCO3溶液で3回、飽和NaCl溶液で2回洗浄する。溶媒を真空下で除去する。
収量:1.36 gのオイル(HPLC:38.40分、20% Bで開始)
【0065】
i)3-MeOOC-Bzls-d-Ppg-Phe(3-Tfa-Ame)-4-アミジノベンジルアミド × 酢酸塩

1.3 gの3-MeOOC-Bzls-d-Ppg-Phe(3-Tfa-Ame)-4-(アセチルヒドロキシアミジノ)ベンジルアミドを100 mlの90%酢酸に溶解し、一晩、大気圧および触媒としての150 mgの10% Pd/C下において水素で水素化した。触媒を濾別し、濾液を真空下で濃縮する。
収量:1.2 gのオイル(HPLC:29.45分、20% Bで開始)
【0066】
2.2 3-HOOC-Bzls-d-Ppg-Phe(3-Ame)-4-アミジノベンジルアミド × 2 酢酸塩(3)

1.2 gの3-MeOOC-Bzls-d-Ppg-Phe(3-Tfa-Ame)-4-アミジノベンジルアミド × 酢酸塩を、1.5時間、10 mlのジオキサンおよび10 mlの1 N LiOHの混合物中において撹拌した。次いで、TFAを添加することによって混合物を中和し、生成物を分取逆相HPLCによって精製した。生成物を含有するフラクションを合わせ、凍結乾燥した。
収量:TFA塩として0.4 g(HPLC:24.16分、10% Bで開始)
MS:計算値:698.29 実測値:699.3 (M+H)+
【0067】
0.1%酢酸を含有する増加するアセトニトリル勾配を用いる溶離による分取HPLCによって、生成物を酢酸塩へ変換した。
収量:0.32 g
【0068】
異なるように置換されたまたは置換されていないベンジルスルホニル残基およびd-フェニルプロピルグリシンの代わりとしての種々のP3アミノ酸を組み込み、さらなる阻害剤を上記の合成説明に従って合成した。d-フェニルプロピルグリシンのさらなるアナログを、Heckカップリングによって合成し、阻害剤のP3位へ組み込んだ。合成は例えば以下の通りに行われ得る。
【0069】
2.3 Bzls-d-Gly(3-Cl-Phpr)-Phe(3-Ame)-4-Amba × 2 TFA(6)

a)Bzls-d-Gly(アリル)-OH

1.0 g(8.68 mmol)のD-アリルグリシン(Peptech, Burlingtom, MA)を50 mlの乾燥DCMに懸濁し、2.4 ml(19 mmol)のTMS-Clおよび3.3 ml(19 mmol)のDIEAを添加した。混合物を1時間還流し、透明溶液を0℃へ冷却し、2.35 g(9.55 mmol)のBzls-Clおよび1.8 mlのDIEAを添加した。混合物を0℃で15分間、RTで1.5時間撹拌した。溶媒を真空下で除去し、残渣を700 mlの半飽和NaHCO3溶液に溶解した。混合物を酢酸エチルで2回抽出し、次いで水相をHCl(pH約2〜3)で酸性化した。混合物を150 mlの酢酸エチルで3回抽出し、合わせた酢酸エチル相を5% KHSO4溶液で2回、飽和NaCl溶液で1回洗浄した。有機相をNa2SO4で乾燥し、溶媒を真空下で除去した。
収量:2.2 gのオイル(HPLC:21.1分、20% Bで開始)
MS (ESI, m/e): 267 [M-1]-
【0070】
b)Bzls-d-Ala(3-Cl-スチリル)-OH

2.5 mlのDMFおよび2.5 mlの水の混合物中の、0.476 g(1.48 mmol)のテトラ-n-ブチルアンモニウムブロミド、0.34 g(4.05 mmol)のNaHCO3、0.32 g(1.34 mmol)の1-Cl-3-ヨードベンゼンおよび9 mg(0.04 mmol)の酢酸パラジウム(II)の懸濁液を、RTで10分間撹拌する。2.5 mlのDMFおよび2.5 mlの水中の0.4 g(1.48 mmol)のBzls-d-Gly(アリル)-OHの溶液をこの懸濁液へ添加し、必要に応じて少量の触媒を繰り返し追加し、混合物を45〜50℃で4〜6日間加熱する。触媒を濾別し、溶媒を真空下で除去し、残渣を50 mlの5% KHSO4溶液に懸濁する。混合物を、各回、15〜20 mlの酢酸エチルで3回抽出し、合わせた酢酸エチル相を5% KHSO4溶液で2回、飽和NaCl溶液で1回洗浄する。有機相をNa2SO4で乾燥し、溶媒を真空下で除去する。残渣(0.55 gの暗色オイル)を、シリカゲル60(40〜63μm)におけるフラッシュクロマトグラフィーによって精製する(DCM中において勾配0〜20%メタノール)。
収量:0.23 g(HPLC:39.7分、20% Bで開始)
【0071】
阻害剤のさらなる構築を、阻害剤1について記載した合成と同様に行った。方法2hと同様に、中間体2.2.bを中間体2d(H-Phe(3-Tfa-Ame)-4-(アセチルヒドロキシアミジノ)ベンジルアミド × HCl)へ結合させた。得られた中間体を、方法2iと同様に水素化し、但しこの場合、P3アミノ酸のCl原子の切断は観察されなかった。最終工程において、トリフルオロアセチル保護基を、化合物3の調製における最終工程と同様に、ジオキサン中のLiOHで切断除去した。
HPLC:29.04分、10% Bで開始
MS:計算値:688.26 実測値:689.2 (M+H)+
【0072】
2.4 3-HOOC-Bzls-d-Ppg-Phe(3-Ame)-4-グアニジノベンジルアミド × 2 酢酸塩(4)

化合物4もまた、4-(アセチルヒドロキシアミジノ)ベンジルアミドの代わりに工程c)についてp-ニトロベンジルアミドを使用して、上記の合成説明2.2a-iと同様に合成した。ニトロベンジルアミド残基を、溶媒としてメタノール/THF(1:1)を用いて工程2.2iと同様に、p-アミノベンジルアミドへ還元した。p-アミノベンジルアミド残基のグアニル化を、グアニル化試薬として市販の1,3-ジ-Boc-2-(トリフルオロメチルスルホニル)グアニジン(Fluka)を用いて行った。この目的のために、還元からの中間体をジオキサンに溶解し、前記グアニル化試薬およびTEAと共に50℃で1日間撹拌した。溶媒を蒸発させた後、Boc保護基を公知の様式でTFAを用いて切断除去した。溶媒を蒸発させた後、トリフルオロアセチル保護基およびメチルエステルを、化合物3の調製における最終合成工程と同様に、ジオキサン中のLiOHを使用して最終工程において切断除去した。
HPLC:25.1分、10% Bで開始
MS:計算値:713.3 実測値:714.4 (M+H)+
【0073】
2.5 ペグ化化合物
種々の鎖長のポリエチレングリコール(PEG)鎖と共有結合で結合したさらなる阻害剤を、標準的な方法によって合成した。異なる平均分子量(1000 Da、2000 Da、5000 Da、10 000 Da)を有するFluka、Nektar TherapeuticsまたはRapp Polymere製の市販のPEG誘導体を、全ての合成について使用した。使用するPEG誘導体を、一方の末端においてメチルエーテルとして保護し、他方の末端においてN-ヒドロキシスクシンイミドエステルとして活性化されたプロピオン酸またはコハク酸残基で修飾する。したがって、これらの活性化PEG誘導体と阻害剤の遊離アミノ基とを反応させることが可能であった(合成スキーム1〜5を参照のこと)。最終工程において、TFA保護基を、1 N NaOH溶液と混合することによって切断除去し、生成物を、酢酸アンモニウム勾配を使用するFractogel(登録商標)CE(Merck KGaA, Darmstadt)におけるイオン交換クロマトグラフィーによって精製し、水から3回凍結乾燥した。以下の実施例によって、約1000、2000、5000または10 000 Daの平均質量のPEG鎖を有する阻害剤を得た。
【0074】
スキーム1

【0075】
スキーム2

【0076】
スキーム3

【0077】
スキーム4

【0078】
スキーム5

【0079】
実施例において合成した化合物を、下記の表において、それらの阻害定数と共に要約する。
【0080】
3.プラスミンおよびPKについての阻害定数(nMでのKi値)の測定
個々の酵素についての阻害効果を、以前に開示された方法(Sturzebecherら、1997年)と同様に測定した。
【0081】
ヒトプラスミンおよびヒト血漿カリクレインの阻害を測定するための反応を、25℃で、以下の混合物中において行った。
− 200μlのTBS(0.05 M トリスヒドロキシメチルアミノメタン;0.154 M NaCI、2%エタノール、pH 8.0;阻害剤を含有する)
− 25μlの基質(プラスミンについて、2 mM、1 mMおよび0.67 mM トシル-Gly-Pro-Lys-pNA=Chromozym PL、LOXO製、ならびにPKについて、2 mM、1 mMおよび0.5 mM H-D-Pro-Phe-Arg-pNA=S2302、Chromogenix製、H2Oに溶解)
− 50μlの酵素溶液(プラスミン、Calbiochem製:2〜5 mU/ml、0.154 M NaCl+0.1% BSA m/v+25% v/vグリセロール中;血漿カリクレイン、Enzyme Research Lab.製:20〜60 ng/ml、0.154 M NaCl+0.1% BSA m/v中)
【0082】
ゼロ次速度過程(zero order kinetics)について、25μlの酢酸(50% v/v)を添加することによって反応を20分後に停止させ、405 nmでの吸収を、Microplate Reader(Multiscan Ascent、Thermo製)を使用して測定した。擬一次速度過程(pseudo-first order kinetics)の場合、平衡状態での反応速度を、反応速度論を記録することによって確認した。コンピュータプログラムを使用する線形回帰によるDixon(1953年)に従って、または競合的阻害についての速度式に従うパラメータフィッティングによって、Ki値を確認した。Ki値は、少なくとも2つの測定の平均値である。
【0083】
(表)
Ki値:Aは<10 nMを意味し、Bは<100 nMを意味し、Cは<1000 nMを意味し、Dは>1000 nMを意味する。
第1グループ



【0084】
第2グループ

【0085】
ペグ化化合物

【0086】
結果
1.プラスミン阻害のKi値は、一般的に<100 nMであった。Ki値は、特に、R2およびR3において環式構造を有する化合物について明らかに100 nM未満であり、R2およびR3において芳香族炭素環式系を有する化合物については約10 nM未満であった。驚くべきことに、5 nM未満のKi値を有する特に多数の本発明の化合物、例えば、化合物番号1〜11、13、14、16〜18、20〜33、35、38、39、46および48〜56が存在する。
2.血漿カリクレイン阻害のKi値は、同様に、一般的に<100 nMであった。Ki値は、特に、R2およびR3において芳香族炭素環式系を有する化合物について明らかに100 nM未満であった。驚くべきことに、1 nM未満のKi値を有する特に多数の本発明の化合物、例えば、化合物番号1〜3、5〜6、8〜25、27、29、34〜36、39、40、49〜57、59〜61、64、65および68〜70が存在する。
3.P3におけるヘテロ環としてホモチロシンまたはピリジンおよび対応のN-オキシドを組み込むことによって、FXaについての選択性を明らかに低下させることが可能であった。
4.R1が3-COOH基を示す場合、トロンビンの阻害の明らかな減少を達成することが一般的に可能であった。R4が、特にオルト位において、フッ素原子を示す場合、トロンビンの阻害のさらなる減少が達成された。
5.特に好適な化合物は、i=0でありかつR4を有さず以下の残基を有する式(I)の化合物であることが分かった。

【0087】
参考文献


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の化合物ならびにそのラセミ混合物および有機酸または無機酸との塩:

式中、
R1は、1回または複数回出現してもよく、互いに独立しており、かつR1は、R5が水素に等しいかもしくは1〜6個の炭素原子を有する分岐もしくは直鎖低級アルキル基に、好ましくはメチルもしくはエチルに、特にメチルに等しい場合の、COOR5残基であるか;1〜6個の炭素原子、好ましくはメチルを有する分岐もしくは直鎖アミノアルキル残基であるか;ハロゲン残基もしくは擬ハロゲン残基、好ましくは塩素もしくはシアノ基であるか;またはポリエチレングリコール残基が10 000 Da、5000 Da、3400 Da、2000 Da、1000 Da、もしくは750 Daの平均分子量を有するようにnが定義され、好ましくはnが約25〜約250の整数、特に約18、約25、約50、約85、約125、もしくは約250である、式(II)もしくは(III)

のポリエチレングリコール残基であり;
R2は、5〜13個の炭素原子を有する置換されていてもよい芳香族もしくは非芳香族環式もしくは二環式系であるか、または4〜5個の炭素原子と1個の窒素原子、酸化窒素、酸素原子、もしくは硫黄原子、特に窒素原子もしくは酸化窒素とを有する置換されていてもよい芳香族ヘテロ環であるか、または以下の構造

の残基であり;
R3は、5〜6個の炭素原子を有する置換されていてもよい芳香族環式系であるか、または3〜5個の炭素原子と1〜2個の窒素原子、酸化窒素、酸素原子、もしくは硫黄原子、特に窒素原子もしくは酸化窒素とを有する置換されていてもよい芳香族ヘテロ環であり;
R4は、1回または複数回出現するハロゲン残基、好ましくはフッ素であってもよく;
o=1、2、または3、特に1であり;
p=0、1、2、3、または4、特に3であり;かつ
i=0または1、特に0である。
【請求項2】
R1がメタ位またはパラ位に1回出現し、R1が好ましくはCOOH残基であり、特に、R1が、1回出現しかつ水素、4-COOH基、または特に3-COOH基より選択されることを特徴とする、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
R2が、6〜13個の炭素原子を有する芳香族環式または二環式系であるか、または炭素原子5個と窒素原子とを有するヘテロ環であることを特徴とする、請求項1または2記載の化合物。
【請求項4】
R2における置換が、ハロゲン残基、好ましくは塩素もしくはフッ素、特に塩素であるか;1〜6個の炭素原子を有するフッ素置換されていてもよい分岐もしくは直鎖アルキル残基、好ましくはメチルもしくは第3級ブチルであるか;1〜6個の炭素原子、好ましくはメチルを有するフッ素置換されていてもよい分岐もしくは直鎖アルキルオキシ残基であるか;ヒドロキシ残基であるか;またはシアノ残基であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項記載の化合物。
【請求項5】
R2が、6個の炭素原子を有する非芳香族環式系であることを特徴とする、請求項1または2記載の化合物。
【請求項6】
R3における置換が、塩基性残基であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項記載の化合物。
【請求項7】
R3における置換が、1〜3個、好ましくは3個の炭素原子を有するアルキルアミノ残基であるか、アミジノ残基であるか、またはグアニジノ残基であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項記載の化合物。
【請求項8】
塩が、塩酸、HBr、酢酸、トリフルオロ酢酸、またはトルエンスルホン酸より形成されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項記載の化合物。
【請求項9】
R2が、以下の残基

より選択されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項記載の化合物。
【請求項10】
R3が、

より選択されることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項記載の化合物。
【請求項11】
以下の通りに定義されることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項記載の化合物:






【請求項12】
式(IV)の化合物ならびにそのラセミ混合物および有機酸または無機酸との塩:

式中、
R1は、1回または複数回出現してもよく、互いに独立しており、かつR1は、R5が水素に等しいかもしくは1〜6個の炭素原子を有する分岐もしくは直鎖低級アルキル基に、好ましくはメチルもしくはエチルに、特にメチルに等しい場合の、COOR5残基であるか;1〜6個の炭素原子、好ましくはメチルを有する分岐もしくは直鎖アミノアルキル残基であるか;ハロゲン残基もしくは擬ハロゲン残基、好ましくは塩素もしくはシアノ基であるか;またはポリエチレングリコール残基が10 000 Da、5000 Da、3400 Da、2000 Da、1000 Da、もしくは750 Daの平均分子量を有するようにnが定義され、好ましくはnが約25〜約250の整数、特に約18、約25、約50、約85、約125、もしくは約250である、式(V)もしくは(VI)

のポリエチレングリコール残基であり;
R2は、1〜6個の炭素原子、好ましくは第3級ブチルを有する分岐もしくは直鎖アルキルオキシ残基であるか、ヒドロキシル残基であるか、アミノ残基であるか、または1〜6個の炭素原子、好ましくは第3級ブチルを有する分岐もしくは直鎖アルキルオキシカルボニルアミド残基であるか、または上記に定義されたnを有する式(V)または(VI)のポリエチレングリコール残基であり;
R3は、以下の残基

より選択され;
R4は、1回または複数回出現するハロゲン残基、好ましくはフッ素であってもよく;
o=1または2であり;
p=1、2、3、または4、特に1または4であり;かつ
i=0または1、特に0である。
【請求項13】
R1がメタ位またはパラ位に1回出現し、R1が好ましくは水素またはCOOH残基であり、特に、R1が、1回出現しかつ水素、4-COOH基、または3-COOH基より選択されることを特徴とする、請求項12記載の化合物。
【請求項14】
塩が、塩酸、HBr、酢酸、トリフルオロ酢酸、またはトルエンスルホン酸より形成されることを特徴とする、請求項12または13記載の化合物。
【請求項15】
以下の通りに定義されることを特徴とする、請求項12〜14のいずれか一項記載の化合物:



【請求項16】
好適なアミノ酸を、アミジノ基またはグアニジノ基において保護されているアミジノベンジルアミンまたはグアニジノベンジルアミンへ連続して結合させ、ここで、N末端アミノ酸はP4残基を既に有しているか、または後者が続いてそこへ連結され、続いて、得られた化合物を、必要に応じて精製し、必要に応じてペグ化することを特徴とする、請求項1〜15のいずれか一項に記載された化合物を調製するための方法。
【請求項17】
以下の工程を含む、請求項1〜15のいずれか一項に記載された化合物を調製するための方法:
(a)残基R3を有する好適なNα保護アミノ酸を、好適な保護アミノメチルベンズアミジンまたは保護アミノメチルベンズグアニジンでアミド化する工程、
(b)R3を有するアミノ酸のNα保護基を切断し、得られた生成物と残基R1およびR2を有する好適なベンジルスルホニルアミノ酸とを反応させ、かつ残存する保護基を切断して、式(I)の化合物を得る工程、ならびに実行可能な精製の後、
(c)得られた化合物を任意でペグ化する工程。
【請求項18】
請求項1〜15のいずれか一項に記載された少なくとも1つの化合物を含む、薬剤。
【請求項19】
臓器移植または心臓外科手術、特に心肺バイパスを用いた場合における、特に線溶亢進状態(hyperfibrinolytic condition)における、失血の処置のための請求項18記載の薬剤。
【請求項20】
請求項1〜15のいずれか一項に記載された少なくとも1つの化合物を含む、フィブリン接着剤。
【請求項21】
請求項18もしくは19に記載の薬剤または請求項20に記載のフィブリン接着剤を製造するための、請求項1〜15のいずれか一項に記載された少なくとも1つの化合物の、使用。

【公表番号】特表2010−507610(P2010−507610A)
【公表日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−533726(P2009−533726)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【国際出願番号】PCT/EP2007/009220
【国際公開番号】WO2008/049595
【国際公開日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(509116956)ザ メディスンズ カンパニー (ライプチヒ) ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】