トリプタンスリン誘導体
【課題】蛍光材料やFRET型化学センサー素材などとして有用な新規なトリプタンスリン誘導体の提供。
【解決手段】一般式(I)で表されるトリプタンスリン誘導体。
〔式中、R1とR2は水素原子または置換基を有していてもよいアルキル基である。R3とR4は同一または異なって置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニルオキシ基、ハロゲン原子、カルボキシル基、水酸基、シアノ基、ニトロ基のいずれかである。mとnは同一または異なって0〜3の整数である。〕
【解決手段】一般式(I)で表されるトリプタンスリン誘導体。
〔式中、R1とR2は水素原子または置換基を有していてもよいアルキル基である。R3とR4は同一または異なって置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニルオキシ基、ハロゲン原子、カルボキシル基、水酸基、シアノ基、ニトロ基のいずれかである。mとnは同一または異なって0〜3の整数である。〕
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なトリプタンスリン誘導体に関する。より詳細には、蛍光材料や蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)型化学センサー素材などとして有用なトリプタンスリン誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の藍から抽出され、下記の化学構造式で表されるトリプタンスリンは、優れた抗菌活性を有することが知られているが、その誘導体の研究については、例えば、非特許文献1において、ハロゲン原子やニトロ基を置換基として有する化合物の抗菌活性が報告されており、特許文献1では、ハロゲン原子やアルキル基などを置換基として有する化合物が着色剤として使用できることが報告されている程度であり、さほど多くはない。
【化1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−209132号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Lester A.Mitscherら,Heterocycles,15,1017(1981)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、新規なトリプタンスリン誘導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記の点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、これまでに報告がない、置換基を有していてもよいアミノ基を置換基として有するトリプタンスリン誘導体が、蛍光材料やFRET型化学センサー素材などとして有用であることを知見した。
【0007】
上記の知見に基づいてなされた本発明のトリプタンスリン誘導体は、請求項1記載の通り、下記の一般式(I)で表されることを特徴とする。
【化2】
〔式中、R1とR2は同一または異なって水素原子または置換基を有していてもよいアルキル基である。R3とR4は同一または異なって置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニルオキシ基、ハロゲン原子、カルボキシル基、水酸基、シアノ基、ニトロ基のいずれかである。mとnは同一または異なって0〜3の整数である。〕
また、請求項2記載のトリプタンスリン誘導体は、請求項1記載のトリプタンスリン誘導体において、R1とR2の少なくとも一方が−COO−((CH2)xO)y−R5で表される置換基(R5は水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基のいずれかである。xは1〜4の整数である。yは2〜8の整数である)で置換されたアルキル基であることを特徴とする。
また、請求項3記載のトリプタンスリン誘導体は、請求項1記載のトリプタンスリン誘導体において、R1とR2の少なくとも一方が−COO−((CH2)xO)y−R6で表される置換基(R6は置換基を有していてもよい単環のアリール基、置換基を有していてもよい単環のヘテロアリール基、置換基を有していてもよい縮合多環芳香族基、置換基を有していてもよい縮合多環複素環基、−COR7(R7は置換基を有していてもよい単環のアリール基、置換基を有していてもよい単環のヘテロアリール基、置換基を有していてもよい縮合多環芳香族基、置換基を有していてもよい縮合多環複素環基のいずれかである)のいずれかである。xとyは前記と同義である)で置換されたアルキル基であることを特徴とする。
また、本発明の蛍光材料は、請求項4記載の通り、請求項1記載のトリプタンスリン誘導体からなることを特徴とする。
また、本発明のFRET型化学センサー素材は、請求項5記載の通り、請求項3記載のトリプタンスリン誘導体からなることを特徴とする。
また、本発明のFRET型化学センサーは、請求項6記載の通り、請求項3記載のトリプタンスリン誘導体をセンサー素材として使用してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、蛍光材料やFRET型化学センサー素材などとして有用な新規なトリプタンスリン誘導体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明のトリプタンスリン誘導体を金属イオンの検出・回収のためのFRET型化学センサー素材として使用する場合の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のトリプタンスリン誘導体は、下記の一般式(I)で表されることを特徴とするものである。
【化3】
〔式中、R1とR2は同一または異なって水素原子または置換基を有していてもよいアルキル基である。R3とR4は同一または異なって置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニルオキシ基、ハロゲン原子、カルボキシル基、水酸基、シアノ基、ニトロ基のいずれかである。mとnは同一または異なって0〜3の整数である。〕
【0011】
本発明のトリプタンスリン誘導体は蛍光特性に優れることから、蛍光材料として有用である。中でもR1とR2の少なくとも一方が−COO−((CH2)xO)y−R5で表される置換基(R5は水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基のいずれかである。xは1〜4の整数である。yは2〜8の整数である)で置換されたアルキル基であるトリプタンスリン誘導体は、水溶性に優れる蛍光材料であることから、生化学分野における蛍光試薬などとして有用である。また、R1とR2の少なくとも一方が−COO−((CH2)xO)y−R6で表される置換基(R6は置換基を有していてもよい単環のアリール基、置換基を有していてもよい単環のヘテロアリール基、置換基を有していてもよい縮合多環芳香族基、置換基を有していてもよい縮合多環複素環基、−COR7(R7は置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよい縮合多環芳香族基、置換基を有していてもよい縮合多環複素環基のいずれかである)のいずれかである。xとyは前記と同義である)で置換されたアルキル基であるトリプタンスリン誘導体は、R6部をドナーとし、トリプタンスリン部をアクセプターとするFRET型化学センサー素材として有用であり、金属イオンの検出・回収や生体内における蛍光プローブなどに利用することができる。
【0012】
R1、R2、R3、R4、R5における置換基を有していてもよいアルキル基におけるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル、ヘキサデシル、オクタデシルなどの炭素数が1〜18個のアルキル基が挙げられる。
【0013】
R3、R4における置換基を有していてもよいアルケニル基におけるアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、2−メチル−1−プロペニル基、2−メチル−2−プロペニル基、1−メチル−1−プロペニル基などの炭素数が2〜10個のアルケニル基が挙げられる。
【0014】
R3、R4における置換基を有していてもよいアルコキシ基におけるアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基などの炭素数が1〜10個のアルコキシ基が挙げられる。
【0015】
R3、R4における置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基におけるアルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、ヘキシルオキシカルボニル基などのアルコキシ部の炭素数が1〜10個のアルコキシカルボニル基が挙げられる。
【0016】
R3、R4における置換基を有していてもよいアルキルカルボニルオキシ基におけるアルキルカルボニルオキシ基としては、メチルカルボニルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、プロピルカルボニルオキシ基、イソプロピルカルボニルオキシ基、ブチルカルボニルオキシ基、イソブチルカルボニルオキシ基、sec−ブチルカルボニルオキシ基、tert−ブチルカルボニルオキシ基、ペンチルカルボニルオキシ基、イソペンチルカルボニルオキシ基、ヘキシルカルボニルオキシ基、シクロヘキシルカルボニルオキシ基、オクチルカルボニルオキシ基、デシルカルボニルオキシ基、ドデシルカルボニルオキシ基、ヘキサデシルカルボニルオキシ基、オクタデシルカルボニルオキシ基などのアルキル部の炭素数が1〜18個のアルキルカルボニルオキシ基が挙げられる。
【0017】
R3、R4におけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
【0018】
R5における置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基におけるアルキルカルボニル基としては、メチルカルボニル基、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基、イソプロピルカルボニル基、ブチルカルボニル基、イソブチルカルボニル基、sec−ブチルカルボニル基、tert−ブチルカルボニル基、ペンチルカルボニル基、イソペンチルカルボニル基、ヘキシルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、オクチルカルボニル基、デシルカルボニル基、ドデシルカルボニル基、ヘキサデシルカルボニル基、オクタデシルカルボニル基などのアルキル部の炭素数が1〜18個のアルキルカルボニル基が挙げられる。
【0019】
R6、R7における置換基を有していてもよい単環のアリール基における単環のアリール基としては、フェニル基が挙げられる。
【0020】
R6、R7における置換基を有していてもよい単環のヘテロアリール基における単環のヘテロアリール基としては、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基、フリル基などが挙げられる。
【0021】
R6、R7における置換基を有していてもよい縮合多環芳香族基における縮合多環芳香族基としては、ナフチル基、フェナントリル基、ピレニル基、テトラセニル基、ペンタセニル基、トリフェニレニル基、ペリレニル基などが挙げられる。
【0022】
R6、R7における置換基を有していてもよい縮合多環複素環基における縮合多環複素環基としては、カルバゾリル基、フェナントロリル基、アクリジニル基などが挙げられる。
【0023】
R1、R2、R3、R4、R5における置換基を有していてもよいアルキル基における置換基としては、前記の−COO−((CH2)xO)y−R5で表される置換基や−COO−((CH2)xO)y−R6の他、アルケニル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、ハロゲン原子、カルボキシル基、水酸基、シアノ基、ニトロ基などが挙げられる。また、R3、R4における置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニルオキシ基における置換基や、R5における置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基における置換基としては、前記のアルケニル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、ハロゲン原子、カルボキシル基、水酸基、シアノ基、ニトロ基などが挙げられる。R6、R7における置換基を有していてもよい単環のアリール基、置換基を有していてもよい単環のヘテロアリール基、置換基を有していてもよい縮合多環芳香族基、置換基を有していてもよい縮合多環複素環基における置換基としては、前記のアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、ハロゲン原子、カルボキシル基、水酸基、シアノ基、ニトロ基の他、アミノ基、モノメチルアミノ基やモノエチルアミノ基などのアルキル部の炭素数が1〜10個のモノアルキルアミノ基、ジメチルアミノ基やジエチルアミノ基などのアルキル部の炭素数が1〜10個のジアルキルアミノ基などが挙げられる。
【0024】
上記の一般式(I)で表されるトリプタンスリン誘導体は、例えば、下記の化学反応式に従って対応するイサチン化合物とイサト酸無水物化合物から合成することができる(必要であれば非特許文献1を参照のこと)。
【化4】
〔式中、R1、R2、R3、R4、m、nは前記と同義である。〕
【0025】
また、R1および/またはR2が置換基を有していてもよいアルキル基であるトリプタンスリン誘導体は、1級アミノ基を有するトリプタンスリン誘導体から、当該アミノ基をアルキル化することによって合成することもできる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0027】
実施例1:2−アミノトリプタンスリン(略称:T2NH2)の合成
下記の化学構造式で表される2−アミノトリプタンスリンを、イサチンと5−アミノイサト酸無水物から合成した(赤褐色結晶:融点300〜302℃)。
【化5】
【0028】
1H NMR (400 MHz, CDCl3, Me4Si): δ 4.34 (2H, s, NH2), 7.00 - 8.65 (7H, m); FAB-MS: m/z 264 ([M + H]+)
【0029】
実施例2:2−アミノ−8−メトキシトリプタンスリン(略称:T2NH28OMe)の合成
下記の化学構造式で表される2−アミノ−8−メトキシトリプタンスリンを、5−メトキシイサチンと5−アミノイサト酸無水物から合成した(赤褐色結晶)。
【化6】
【0030】
1H NMR (500 MHz, CDCl3, Me4Si): δ 3.89 (3H, s, OCH3), 7.00 - 8.60 (7H, m); FAB-MS: m/z 294 ([M + H]+)
【0031】
実施例3:2−アミノ−8−ニトロトリプタンスリン(略称:T2NH28NO2)の合成
下記の化学構造式で表される2−アミノ−8−ニトロトリプタンスリンを、5−ニトロイサチンと5−アミノイサト酸無水物から合成した(赤褐色結晶)。
【化7】
【0032】
1H NMR (500 MHz, DMSO-d6, Me4Si): δ 6.40 - 8.60 (6H, m), 8.70 (2H, s, NH2); ESI-MS: m/z 309 ([M + H]+)
【0033】
実施例4:2−エトキシカルボニルメチルアミノトリプタンスリン(略称:T2NHCH2COOEt)の合成
下記の化学反応式に従って、2−アミノトリプタンスリンとブロモ酢酸エチルから合成した(赤褐色結晶)。
【化8】
【0034】
1H NMR (500 MHz, CDCl3, Me4Si): δ 1.34 (3H, t, -CH2CH3, J = 7.0 Hz), 4.07 (2H, d, -CH2CO-, J = 4.9 Hz), 4.31 (2H, q, -OCH2CH3, J = 7.0 Hz), 5.04 (1H, d, -NH-, J = 7.0 Hz), 7.00 - 8.80 (7H, m); ESI-MS: m/z 350 ([M + H]+)
【0035】
実施例5:水溶性トリプタンスリン誘導体(略称:T2N−(P2OH)2)の合成
下記の化学反応式に従って、2−アミノトリプタンスリンと、ブロモ酢酸とジエチレングリコールとの反応によって得られたブロモ酢酸エステルから合成した(赤褐色結晶)。
【化9】
【0036】
1H NMR (500 MHz, CDCl3, Me4Si): δ 3.40 - 3.80 (12H, m, -CH2OCH2CH2OH), 4.36 (4H, s, -CH2CO-), 4.40 (4H, t, -CO-OCH2-, J = 4.5 Hz), 7.10 - 8.70 (7H, m); ESI-MS: m/z 556 ([M + H]+)
【0037】
実施例6:水溶性トリプタンスリン誘導体(略称:T2NH−P4OH)の合成
下記の化学反応式に従って、2−アミノトリプタンスリンと、ブロモ酢酸とテトラエチレングリコールとの反応によって得られたブロモ酢酸エステルから合成した(赤褐色結晶)。
【化10】
【0038】
1H NMR (500 MHz, CDCl3, Me4Si): δ 3.60 - 3.80 (14H, m, -CH2O(CH2CH2O)3H), 4.13 (2H, d, -CH2CO-, J = 5.0 Hz), 4.40 (2H, t, -CO-OCH2-, J = 4.6 Hz), 5.26 (1H, t, -NH-, J = 5.0 Hz), 7.00 - 8.70 (7H, m); ESI-MS: m/z 498([M + H]+)
【0039】
実施例7:トリプタンスリン−ピレン結合誘導体(略称:T2NH−P5P)の合成
下記の化学反応式に従って、1−ピレンカルボン酸とペンタエチレングリコールから1−ピレンカルボン酸エステルを合成し、次に、得られた1−ピレンカルボン酸エステルとブロモ酢酸からブロモ酢酸エステルを合成した。最後に、2−アミノトリプタンスリンとブロモ酢酸エステルから目的化合物を合成した(赤褐色結晶)。
【化11】
【0040】
1H NMR (500 MHz, CDCl3, Me4Si): δ 3.50 - 4.02 (16H, m, -CH2O(CH2CH2O)4H), 4.03 (2H, d, -CH2CO-, J = 5.2 Hz), 4.35 (2H, t, -CH2CO-, J = 4.6 Hz), 4.66 (2H, t, -CH2CO-, J = 4.8 Hz), 5.19 (1H, t, -NH-, J = 5.2 Hz), 6.80 - 8.70 (16H, m)
【0041】
実施例8:トリプタンスリン−ナフタレン結合誘導体(略称:T2NH−P2N)の合成
実施例7と同様にして、2−ナフトエ酸とジエチレングリコールから2−ナフトエ酸エステルを合成し、次に、得られた2−ナフトエ酸エステルとブロモ酢酸からブロモ酢酸エステルを合成した。最後に、2−アミノトリプタンスリンとブロモ酢酸エステルから下記の化学構造式で表される目的化合物を合成した(赤褐色結晶)。
【化12】
【0042】
1H NMR (500 MHz, CDCl3, Me4Si): δ 3.84 (2H, t, -OCH2-, J =4.6 Hz), 3.91 (2H, t, -OCH2-, J = 4.6 Hz), 4.02 (2H, d, -CH2CO-, J = 5.0), 4.44 (2H, t, -CO-OCH2-, J = 4.6 Hz), 4.57 (2H, t, -CO-OCH2-, J = 4.6 Hz), 4.91 (1H, t, -NH-, J = 5.0 Hz), 6.90 - 8.70 (14H, m)
【0043】
試験例1:本発明のトリプタンスリン誘導体の光学的特性
実施例1において合成した2−アミノトリプタンスリンの光学的特性と実施例2において合成した2−アミノ−8−メトキシトリプタンスリンの光学的特性を、トリプタンスリンの光学的特性とあわせて表1に示す(4回の実験結果の平均)。なお、光学的特性の評価は、1.0×10−6mol/Lに調製した被験物質のアセトニトリル溶液を用いて紫外可視吸収スペクトル及び蛍光スペクトルを測定することにより行った。蛍光強度の比較は、励起波長の吸光度を一定にして行った。
【0044】
【表1】
【0045】
表1から明らかなように、2−アミノトリプタンスリンと2−アミノ−8−メトキシトリプタンスリンは、トリプタンスリンに比較して強い蛍光を示した。2−アミノトリプタンスリンと2−アミノ−8−メトキシトリプタンスリンのマラセチア・フルフル(M.furfur)菌に対するMIC(最小発育阻止濃度)はいずれも20μg/mL、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)に対するMICはいずれも2μg/mLであり、トリプタンスリンの抗菌活性(マラセチア・フルフル菌に対するMIC:5μg/mL,MRSAに対するMIC:0.5μg/mL)と比較すると弱いものの、それでもなお優れた抗菌活性であることから、これらの化合物は抗菌性を有する蛍光材料として有用であることがわかった。また、実施例5と実施例6において水溶性トリプタンスリン誘導体として合成したT2N−(P2OH)2とT2NH−P4OHは水に易溶であり、その水溶液は蛍光を示すことを確認した。
【0046】
試験例2:本発明のトリプタンスリン誘導体のFRET型化学センサー素材としての応用
実施例7において合成したトリプタンスリン誘導体(T2NH−P5P)を金属イオンの検出・回収のためのFRET型化学センサー素材として使用する場合の概念図を図1に示す。モデル実験として、T2NH−P5Pを用いてカルシウムイオン存在下における蛍光スペクトルの測定を行ったところ、T2NH−P5Pのピレン部の吸収極大波長である350nmで励起したにもかかわらずトリプタンスリン部に基づく蛍光が観察されたことから、T2NH−P5Pはカルシウムイオンと錯形成することによってFRETを起こす特性を有することが推察された。なお、蛍光スペクトルの測定は、溶媒としてアセトニトリルを用い、T2NH−P5Pの濃度を1.0×10−6mol/L、カルシウムイオン(金属塩として過塩素酸カルシウムを使用)の濃度をT2NH−P5Pの濃度の0.5,1.0,5.0,10,20,50,100,200,600,800,1000倍に調製して室温で行った。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、蛍光材料やFRET型化学センサー素材などとして有用な新規なトリプタンスリン誘導体を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なトリプタンスリン誘導体に関する。より詳細には、蛍光材料や蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)型化学センサー素材などとして有用なトリプタンスリン誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の藍から抽出され、下記の化学構造式で表されるトリプタンスリンは、優れた抗菌活性を有することが知られているが、その誘導体の研究については、例えば、非特許文献1において、ハロゲン原子やニトロ基を置換基として有する化合物の抗菌活性が報告されており、特許文献1では、ハロゲン原子やアルキル基などを置換基として有する化合物が着色剤として使用できることが報告されている程度であり、さほど多くはない。
【化1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−209132号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Lester A.Mitscherら,Heterocycles,15,1017(1981)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、新規なトリプタンスリン誘導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記の点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、これまでに報告がない、置換基を有していてもよいアミノ基を置換基として有するトリプタンスリン誘導体が、蛍光材料やFRET型化学センサー素材などとして有用であることを知見した。
【0007】
上記の知見に基づいてなされた本発明のトリプタンスリン誘導体は、請求項1記載の通り、下記の一般式(I)で表されることを特徴とする。
【化2】
〔式中、R1とR2は同一または異なって水素原子または置換基を有していてもよいアルキル基である。R3とR4は同一または異なって置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニルオキシ基、ハロゲン原子、カルボキシル基、水酸基、シアノ基、ニトロ基のいずれかである。mとnは同一または異なって0〜3の整数である。〕
また、請求項2記載のトリプタンスリン誘導体は、請求項1記載のトリプタンスリン誘導体において、R1とR2の少なくとも一方が−COO−((CH2)xO)y−R5で表される置換基(R5は水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基のいずれかである。xは1〜4の整数である。yは2〜8の整数である)で置換されたアルキル基であることを特徴とする。
また、請求項3記載のトリプタンスリン誘導体は、請求項1記載のトリプタンスリン誘導体において、R1とR2の少なくとも一方が−COO−((CH2)xO)y−R6で表される置換基(R6は置換基を有していてもよい単環のアリール基、置換基を有していてもよい単環のヘテロアリール基、置換基を有していてもよい縮合多環芳香族基、置換基を有していてもよい縮合多環複素環基、−COR7(R7は置換基を有していてもよい単環のアリール基、置換基を有していてもよい単環のヘテロアリール基、置換基を有していてもよい縮合多環芳香族基、置換基を有していてもよい縮合多環複素環基のいずれかである)のいずれかである。xとyは前記と同義である)で置換されたアルキル基であることを特徴とする。
また、本発明の蛍光材料は、請求項4記載の通り、請求項1記載のトリプタンスリン誘導体からなることを特徴とする。
また、本発明のFRET型化学センサー素材は、請求項5記載の通り、請求項3記載のトリプタンスリン誘導体からなることを特徴とする。
また、本発明のFRET型化学センサーは、請求項6記載の通り、請求項3記載のトリプタンスリン誘導体をセンサー素材として使用してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、蛍光材料やFRET型化学センサー素材などとして有用な新規なトリプタンスリン誘導体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明のトリプタンスリン誘導体を金属イオンの検出・回収のためのFRET型化学センサー素材として使用する場合の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のトリプタンスリン誘導体は、下記の一般式(I)で表されることを特徴とするものである。
【化3】
〔式中、R1とR2は同一または異なって水素原子または置換基を有していてもよいアルキル基である。R3とR4は同一または異なって置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニルオキシ基、ハロゲン原子、カルボキシル基、水酸基、シアノ基、ニトロ基のいずれかである。mとnは同一または異なって0〜3の整数である。〕
【0011】
本発明のトリプタンスリン誘導体は蛍光特性に優れることから、蛍光材料として有用である。中でもR1とR2の少なくとも一方が−COO−((CH2)xO)y−R5で表される置換基(R5は水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基のいずれかである。xは1〜4の整数である。yは2〜8の整数である)で置換されたアルキル基であるトリプタンスリン誘導体は、水溶性に優れる蛍光材料であることから、生化学分野における蛍光試薬などとして有用である。また、R1とR2の少なくとも一方が−COO−((CH2)xO)y−R6で表される置換基(R6は置換基を有していてもよい単環のアリール基、置換基を有していてもよい単環のヘテロアリール基、置換基を有していてもよい縮合多環芳香族基、置換基を有していてもよい縮合多環複素環基、−COR7(R7は置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよい縮合多環芳香族基、置換基を有していてもよい縮合多環複素環基のいずれかである)のいずれかである。xとyは前記と同義である)で置換されたアルキル基であるトリプタンスリン誘導体は、R6部をドナーとし、トリプタンスリン部をアクセプターとするFRET型化学センサー素材として有用であり、金属イオンの検出・回収や生体内における蛍光プローブなどに利用することができる。
【0012】
R1、R2、R3、R4、R5における置換基を有していてもよいアルキル基におけるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル、ヘキサデシル、オクタデシルなどの炭素数が1〜18個のアルキル基が挙げられる。
【0013】
R3、R4における置換基を有していてもよいアルケニル基におけるアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、2−メチル−1−プロペニル基、2−メチル−2−プロペニル基、1−メチル−1−プロペニル基などの炭素数が2〜10個のアルケニル基が挙げられる。
【0014】
R3、R4における置換基を有していてもよいアルコキシ基におけるアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基などの炭素数が1〜10個のアルコキシ基が挙げられる。
【0015】
R3、R4における置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基におけるアルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、ヘキシルオキシカルボニル基などのアルコキシ部の炭素数が1〜10個のアルコキシカルボニル基が挙げられる。
【0016】
R3、R4における置換基を有していてもよいアルキルカルボニルオキシ基におけるアルキルカルボニルオキシ基としては、メチルカルボニルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、プロピルカルボニルオキシ基、イソプロピルカルボニルオキシ基、ブチルカルボニルオキシ基、イソブチルカルボニルオキシ基、sec−ブチルカルボニルオキシ基、tert−ブチルカルボニルオキシ基、ペンチルカルボニルオキシ基、イソペンチルカルボニルオキシ基、ヘキシルカルボニルオキシ基、シクロヘキシルカルボニルオキシ基、オクチルカルボニルオキシ基、デシルカルボニルオキシ基、ドデシルカルボニルオキシ基、ヘキサデシルカルボニルオキシ基、オクタデシルカルボニルオキシ基などのアルキル部の炭素数が1〜18個のアルキルカルボニルオキシ基が挙げられる。
【0017】
R3、R4におけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
【0018】
R5における置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基におけるアルキルカルボニル基としては、メチルカルボニル基、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基、イソプロピルカルボニル基、ブチルカルボニル基、イソブチルカルボニル基、sec−ブチルカルボニル基、tert−ブチルカルボニル基、ペンチルカルボニル基、イソペンチルカルボニル基、ヘキシルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、オクチルカルボニル基、デシルカルボニル基、ドデシルカルボニル基、ヘキサデシルカルボニル基、オクタデシルカルボニル基などのアルキル部の炭素数が1〜18個のアルキルカルボニル基が挙げられる。
【0019】
R6、R7における置換基を有していてもよい単環のアリール基における単環のアリール基としては、フェニル基が挙げられる。
【0020】
R6、R7における置換基を有していてもよい単環のヘテロアリール基における単環のヘテロアリール基としては、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基、フリル基などが挙げられる。
【0021】
R6、R7における置換基を有していてもよい縮合多環芳香族基における縮合多環芳香族基としては、ナフチル基、フェナントリル基、ピレニル基、テトラセニル基、ペンタセニル基、トリフェニレニル基、ペリレニル基などが挙げられる。
【0022】
R6、R7における置換基を有していてもよい縮合多環複素環基における縮合多環複素環基としては、カルバゾリル基、フェナントロリル基、アクリジニル基などが挙げられる。
【0023】
R1、R2、R3、R4、R5における置換基を有していてもよいアルキル基における置換基としては、前記の−COO−((CH2)xO)y−R5で表される置換基や−COO−((CH2)xO)y−R6の他、アルケニル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、ハロゲン原子、カルボキシル基、水酸基、シアノ基、ニトロ基などが挙げられる。また、R3、R4における置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニルオキシ基における置換基や、R5における置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基における置換基としては、前記のアルケニル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、ハロゲン原子、カルボキシル基、水酸基、シアノ基、ニトロ基などが挙げられる。R6、R7における置換基を有していてもよい単環のアリール基、置換基を有していてもよい単環のヘテロアリール基、置換基を有していてもよい縮合多環芳香族基、置換基を有していてもよい縮合多環複素環基における置換基としては、前記のアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、ハロゲン原子、カルボキシル基、水酸基、シアノ基、ニトロ基の他、アミノ基、モノメチルアミノ基やモノエチルアミノ基などのアルキル部の炭素数が1〜10個のモノアルキルアミノ基、ジメチルアミノ基やジエチルアミノ基などのアルキル部の炭素数が1〜10個のジアルキルアミノ基などが挙げられる。
【0024】
上記の一般式(I)で表されるトリプタンスリン誘導体は、例えば、下記の化学反応式に従って対応するイサチン化合物とイサト酸無水物化合物から合成することができる(必要であれば非特許文献1を参照のこと)。
【化4】
〔式中、R1、R2、R3、R4、m、nは前記と同義である。〕
【0025】
また、R1および/またはR2が置換基を有していてもよいアルキル基であるトリプタンスリン誘導体は、1級アミノ基を有するトリプタンスリン誘導体から、当該アミノ基をアルキル化することによって合成することもできる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0027】
実施例1:2−アミノトリプタンスリン(略称:T2NH2)の合成
下記の化学構造式で表される2−アミノトリプタンスリンを、イサチンと5−アミノイサト酸無水物から合成した(赤褐色結晶:融点300〜302℃)。
【化5】
【0028】
1H NMR (400 MHz, CDCl3, Me4Si): δ 4.34 (2H, s, NH2), 7.00 - 8.65 (7H, m); FAB-MS: m/z 264 ([M + H]+)
【0029】
実施例2:2−アミノ−8−メトキシトリプタンスリン(略称:T2NH28OMe)の合成
下記の化学構造式で表される2−アミノ−8−メトキシトリプタンスリンを、5−メトキシイサチンと5−アミノイサト酸無水物から合成した(赤褐色結晶)。
【化6】
【0030】
1H NMR (500 MHz, CDCl3, Me4Si): δ 3.89 (3H, s, OCH3), 7.00 - 8.60 (7H, m); FAB-MS: m/z 294 ([M + H]+)
【0031】
実施例3:2−アミノ−8−ニトロトリプタンスリン(略称:T2NH28NO2)の合成
下記の化学構造式で表される2−アミノ−8−ニトロトリプタンスリンを、5−ニトロイサチンと5−アミノイサト酸無水物から合成した(赤褐色結晶)。
【化7】
【0032】
1H NMR (500 MHz, DMSO-d6, Me4Si): δ 6.40 - 8.60 (6H, m), 8.70 (2H, s, NH2); ESI-MS: m/z 309 ([M + H]+)
【0033】
実施例4:2−エトキシカルボニルメチルアミノトリプタンスリン(略称:T2NHCH2COOEt)の合成
下記の化学反応式に従って、2−アミノトリプタンスリンとブロモ酢酸エチルから合成した(赤褐色結晶)。
【化8】
【0034】
1H NMR (500 MHz, CDCl3, Me4Si): δ 1.34 (3H, t, -CH2CH3, J = 7.0 Hz), 4.07 (2H, d, -CH2CO-, J = 4.9 Hz), 4.31 (2H, q, -OCH2CH3, J = 7.0 Hz), 5.04 (1H, d, -NH-, J = 7.0 Hz), 7.00 - 8.80 (7H, m); ESI-MS: m/z 350 ([M + H]+)
【0035】
実施例5:水溶性トリプタンスリン誘導体(略称:T2N−(P2OH)2)の合成
下記の化学反応式に従って、2−アミノトリプタンスリンと、ブロモ酢酸とジエチレングリコールとの反応によって得られたブロモ酢酸エステルから合成した(赤褐色結晶)。
【化9】
【0036】
1H NMR (500 MHz, CDCl3, Me4Si): δ 3.40 - 3.80 (12H, m, -CH2OCH2CH2OH), 4.36 (4H, s, -CH2CO-), 4.40 (4H, t, -CO-OCH2-, J = 4.5 Hz), 7.10 - 8.70 (7H, m); ESI-MS: m/z 556 ([M + H]+)
【0037】
実施例6:水溶性トリプタンスリン誘導体(略称:T2NH−P4OH)の合成
下記の化学反応式に従って、2−アミノトリプタンスリンと、ブロモ酢酸とテトラエチレングリコールとの反応によって得られたブロモ酢酸エステルから合成した(赤褐色結晶)。
【化10】
【0038】
1H NMR (500 MHz, CDCl3, Me4Si): δ 3.60 - 3.80 (14H, m, -CH2O(CH2CH2O)3H), 4.13 (2H, d, -CH2CO-, J = 5.0 Hz), 4.40 (2H, t, -CO-OCH2-, J = 4.6 Hz), 5.26 (1H, t, -NH-, J = 5.0 Hz), 7.00 - 8.70 (7H, m); ESI-MS: m/z 498([M + H]+)
【0039】
実施例7:トリプタンスリン−ピレン結合誘導体(略称:T2NH−P5P)の合成
下記の化学反応式に従って、1−ピレンカルボン酸とペンタエチレングリコールから1−ピレンカルボン酸エステルを合成し、次に、得られた1−ピレンカルボン酸エステルとブロモ酢酸からブロモ酢酸エステルを合成した。最後に、2−アミノトリプタンスリンとブロモ酢酸エステルから目的化合物を合成した(赤褐色結晶)。
【化11】
【0040】
1H NMR (500 MHz, CDCl3, Me4Si): δ 3.50 - 4.02 (16H, m, -CH2O(CH2CH2O)4H), 4.03 (2H, d, -CH2CO-, J = 5.2 Hz), 4.35 (2H, t, -CH2CO-, J = 4.6 Hz), 4.66 (2H, t, -CH2CO-, J = 4.8 Hz), 5.19 (1H, t, -NH-, J = 5.2 Hz), 6.80 - 8.70 (16H, m)
【0041】
実施例8:トリプタンスリン−ナフタレン結合誘導体(略称:T2NH−P2N)の合成
実施例7と同様にして、2−ナフトエ酸とジエチレングリコールから2−ナフトエ酸エステルを合成し、次に、得られた2−ナフトエ酸エステルとブロモ酢酸からブロモ酢酸エステルを合成した。最後に、2−アミノトリプタンスリンとブロモ酢酸エステルから下記の化学構造式で表される目的化合物を合成した(赤褐色結晶)。
【化12】
【0042】
1H NMR (500 MHz, CDCl3, Me4Si): δ 3.84 (2H, t, -OCH2-, J =4.6 Hz), 3.91 (2H, t, -OCH2-, J = 4.6 Hz), 4.02 (2H, d, -CH2CO-, J = 5.0), 4.44 (2H, t, -CO-OCH2-, J = 4.6 Hz), 4.57 (2H, t, -CO-OCH2-, J = 4.6 Hz), 4.91 (1H, t, -NH-, J = 5.0 Hz), 6.90 - 8.70 (14H, m)
【0043】
試験例1:本発明のトリプタンスリン誘導体の光学的特性
実施例1において合成した2−アミノトリプタンスリンの光学的特性と実施例2において合成した2−アミノ−8−メトキシトリプタンスリンの光学的特性を、トリプタンスリンの光学的特性とあわせて表1に示す(4回の実験結果の平均)。なお、光学的特性の評価は、1.0×10−6mol/Lに調製した被験物質のアセトニトリル溶液を用いて紫外可視吸収スペクトル及び蛍光スペクトルを測定することにより行った。蛍光強度の比較は、励起波長の吸光度を一定にして行った。
【0044】
【表1】
【0045】
表1から明らかなように、2−アミノトリプタンスリンと2−アミノ−8−メトキシトリプタンスリンは、トリプタンスリンに比較して強い蛍光を示した。2−アミノトリプタンスリンと2−アミノ−8−メトキシトリプタンスリンのマラセチア・フルフル(M.furfur)菌に対するMIC(最小発育阻止濃度)はいずれも20μg/mL、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)に対するMICはいずれも2μg/mLであり、トリプタンスリンの抗菌活性(マラセチア・フルフル菌に対するMIC:5μg/mL,MRSAに対するMIC:0.5μg/mL)と比較すると弱いものの、それでもなお優れた抗菌活性であることから、これらの化合物は抗菌性を有する蛍光材料として有用であることがわかった。また、実施例5と実施例6において水溶性トリプタンスリン誘導体として合成したT2N−(P2OH)2とT2NH−P4OHは水に易溶であり、その水溶液は蛍光を示すことを確認した。
【0046】
試験例2:本発明のトリプタンスリン誘導体のFRET型化学センサー素材としての応用
実施例7において合成したトリプタンスリン誘導体(T2NH−P5P)を金属イオンの検出・回収のためのFRET型化学センサー素材として使用する場合の概念図を図1に示す。モデル実験として、T2NH−P5Pを用いてカルシウムイオン存在下における蛍光スペクトルの測定を行ったところ、T2NH−P5Pのピレン部の吸収極大波長である350nmで励起したにもかかわらずトリプタンスリン部に基づく蛍光が観察されたことから、T2NH−P5Pはカルシウムイオンと錯形成することによってFRETを起こす特性を有することが推察された。なお、蛍光スペクトルの測定は、溶媒としてアセトニトリルを用い、T2NH−P5Pの濃度を1.0×10−6mol/L、カルシウムイオン(金属塩として過塩素酸カルシウムを使用)の濃度をT2NH−P5Pの濃度の0.5,1.0,5.0,10,20,50,100,200,600,800,1000倍に調製して室温で行った。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、蛍光材料やFRET型化学センサー素材などとして有用な新規なトリプタンスリン誘導体を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I)で表されるトリプタンスリン誘導体。
【化1】
〔式中、R1とR2は同一または異なって水素原子または置換基を有していてもよいアルキル基である。R3とR4は同一または異なって置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニルオキシ基、ハロゲン原子、カルボキシル基、水酸基、シアノ基、ニトロ基のいずれかである。mとnは同一または異なって0〜3の整数である。〕
【請求項2】
R1とR2の少なくとも一方が−COO−((CH2)xO)y−R5で表される置換基(R5は水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基のいずれかである。xは1〜4の整数である。yは2〜8の整数である)で置換されたアルキル基である請求項1記載のトリプタンスリン誘導体。
【請求項3】
R1とR2の少なくとも一方が−COO−((CH2)xO)y−R6で表される置換基(R6は置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよい縮合多環芳香族基、置換基を有していてもよい縮合多環複素環基、−COR7(R7は置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよい縮合多環芳香族基、置換基を有していてもよい縮合多環複素環基のいずれかである)のいずれかである。xとyは前記と同義である)で置換されたアルキル基である請求項1記載のトリプタンスリン誘導体。
【請求項4】
請求項1記載のトリプタンスリン誘導体からなる蛍光材料。
【請求項5】
請求項3記載のトリプタンスリン誘導体からなる蛍光共鳴エネルギー移動型化学センサー素材。
【請求項6】
請求項3記載のトリプタンスリン誘導体をセンサー素材として使用してなる蛍光共鳴エネルギー移動型化学センサー。
【請求項1】
下記の一般式(I)で表されるトリプタンスリン誘導体。
【化1】
〔式中、R1とR2は同一または異なって水素原子または置換基を有していてもよいアルキル基である。R3とR4は同一または異なって置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニルオキシ基、ハロゲン原子、カルボキシル基、水酸基、シアノ基、ニトロ基のいずれかである。mとnは同一または異なって0〜3の整数である。〕
【請求項2】
R1とR2の少なくとも一方が−COO−((CH2)xO)y−R5で表される置換基(R5は水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基のいずれかである。xは1〜4の整数である。yは2〜8の整数である)で置換されたアルキル基である請求項1記載のトリプタンスリン誘導体。
【請求項3】
R1とR2の少なくとも一方が−COO−((CH2)xO)y−R6で表される置換基(R6は置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよい縮合多環芳香族基、置換基を有していてもよい縮合多環複素環基、−COR7(R7は置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよい縮合多環芳香族基、置換基を有していてもよい縮合多環複素環基のいずれかである)のいずれかである。xとyは前記と同義である)で置換されたアルキル基である請求項1記載のトリプタンスリン誘導体。
【請求項4】
請求項1記載のトリプタンスリン誘導体からなる蛍光材料。
【請求項5】
請求項3記載のトリプタンスリン誘導体からなる蛍光共鳴エネルギー移動型化学センサー素材。
【請求項6】
請求項3記載のトリプタンスリン誘導体をセンサー素材として使用してなる蛍光共鳴エネルギー移動型化学センサー。
【図1】
【公開番号】特開2010−248086(P2010−248086A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96311(P2009−96311)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)平成20年10月11日 日本化学会東北支部 支部長 板谷謹悟が発行する「平成20年度化学系学協会東北大会プログラムおよび講演予稿集」に発表(その1) (2)平成20年10月11日〜13日 日本化学会東北支部等が共催する「平成20年度化学系学協会東北大会」において文書をもって発表(その1) (3)平成20年10月11日 日本化学会東北支部 支部長 板谷謹悟が発行する「平成20年度化学系学協会東北大会プログラムおよび講演予稿集」に発表(その2) (4)平成20年10月11日〜13日 日本化学会東北支部等が共催する「平成20年度化学系学協会東北大会」において文書をもって発表(その2) (5)平成20年10月11日 日本化学会東北支部 支部長 板谷謹悟が発行する「平成20年度化学系学協会東北大会プログラムおよび講演予稿集」に発表(その3) (6)平成20年10月11日〜13日 日本化学会東北支部等が共催する「平成20年度化学系学協会東北大会」において文書をもって発表(その3)
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)平成20年10月11日 日本化学会東北支部 支部長 板谷謹悟が発行する「平成20年度化学系学協会東北大会プログラムおよび講演予稿集」に発表(その1) (2)平成20年10月11日〜13日 日本化学会東北支部等が共催する「平成20年度化学系学協会東北大会」において文書をもって発表(その1) (3)平成20年10月11日 日本化学会東北支部 支部長 板谷謹悟が発行する「平成20年度化学系学協会東北大会プログラムおよび講演予稿集」に発表(その2) (4)平成20年10月11日〜13日 日本化学会東北支部等が共催する「平成20年度化学系学協会東北大会」において文書をもって発表(その2) (5)平成20年10月11日 日本化学会東北支部 支部長 板谷謹悟が発行する「平成20年度化学系学協会東北大会プログラムおよび講演予稿集」に発表(その3) (6)平成20年10月11日〜13日 日本化学会東北支部等が共催する「平成20年度化学系学協会東北大会」において文書をもって発表(その3)
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】
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