説明

トリプトリドの製造方法

本発明は、トリプテリジウム属(Tripterygium)の一種の細胞懸濁培養物からトリプトリドを製造する方法、トリプテリジウム(Tripterygium)種の脱分化細胞のイン・ビトロ培養物の培地から抽出によって得られるトリプトリド冨化抽出物、および前記抽出物の治療応用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
本発明は、トリプテリジウム属(Tripterygium)の一種、例えばトリプテリジウム・ウィルフォルディ(Tripterygium wilfordii)の細胞懸濁培養物からトリプトリドを製造する方法に関する。
【0002】
ジテルペントリエポキシドであるトリプトリドは、トリプテリジウム・ウィルフォルディ(Tripterygium wilfordii)から精製される化合物である。この植物は、自己免疫疾患や炎症性疾患、特に関節リウマチの治療のための伝統的漢方薬において4世紀以上にわたって使用されてきている。最近では、トリプトリドの強力な抗癌活性も発見されている。抗増殖およびアポトーシス促進活性が、イン・ビトロおよびイン・ビボにおいて様々な種類の癌細胞で示された。臨床試験が、関節リウマチおよび進行期癌、例えば白血病の治療を研究するために開始された。最近の公表文献(Brinker AM et al., Phytochemistry 68 (2007) 732-766)には、トリプテリジウム・ウィルフォルディ(Tripterygium wilfordii)由来のトリプトリドおよびその誘導体の薬理特性が要約されている。
【0003】
【化1】

【0004】
トリプトリドは、植物の樹皮および気部に極少量含まれるが、根にはそれ以上の量(平均濃度=10ppm)で天然に存在するジテルペンのファミリーに属する二次代謝物である。
【0005】
トリプトリドの化学合成は、ざっと20段階を含んでなる工程の実行が必要であるため、極めて困難である。
【0006】
現在は、トリプトリドは、Pharmagenesis社によって提供されている。トリプトリドは、トリプテリジウム・ウィルフォルディ(Tripterygium wilfordii)の根の抽出および2段階のクロマトグラフィーによる精製によって製造される。この方法は、長くて複雑である。
【0007】
根からの抽出/精製収率は、例えば0.0005%である。
【0008】
この植物が十分に成長した後に収穫するまでには10〜15年かかり、成長した植物からトリプトリドを生産することは、この植物の破壊をもたらす。従って、環境に優しく維持可能な開発に関しては、目的の化合物の工業生産に好適な収率を可能にするトリプトリド生産の代替法を提供する必要がある。
【0009】
Kutney JP at al.は、トリプテリジウム・ウィルフォルディ(Tripterygium wilfordii)の葉細胞懸濁培養物の調製方法、および前記培養物からトリプトリドおよびその誘導体を分離する方法を開示している(Can J Chem 58 (1981): 2677-2683)。しかしながら、生産収率は伝統的方法の収率より低いくらいである。
【0010】
2009年2月4日に公表された特許出願CN101358180A号明細書には、幹細胞懸濁培養物の製造方法が記載されている。これらの細胞は、トリプテリジウム・ウィルフォルディ(Tripterygium wilfordii)の根から生じたものである。前記のトリプトリド生産は、1日当たり0.027mg/lに達した。この特許の著者らは、とりわけ細胞増殖培地を含んでなる方法、すなわちトリプトリド産生培地および総アルカロイド産生培地からなる方法を記載している。しかしながら、前記出願明細書では、本発明において記載されているように、テルペン生合成前駆体の非生物的誘発剤またはホルモン除去段階(hormonal elimination step)は用いられていない。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、トリプテリジウム・ウィルフォルディ(Tripterygium wilfordii)の気部の幹細胞からトリプトリドを工業生産に好適な高収率で製造する方法を提供する。
【0012】
本発明は、この特に有利な収率を達成することができるようにした培地も提供する。
【0013】
実際に、本発明者らは、驚くべきことに、1日当たり培養物1L(リットル)当たり3mgのトリプトリド収率を観測した。この収率は、特許出願CN101358180A号明細書に記載されている最良の総収率より110倍高く、上清での最良の収率より73倍高く、乾燥バイオマスの重量百分率に比較してトリプトリドの重量百分率で表した最良の収率より127倍高い。
【0014】
驚くべきことには、本発明者らは、前記方法によって得られたトリプトリド冨化抽出物は、純粋なトリプトリドと同等な方法でTNFαによる転写因子NFκBの活性化を阻害することも示した。
【0015】
本発明者らは、本発明の方法によって得られたトリプトリド冨化抽出物が、純粋なトリプトリドより効果的にリポ多糖類によって誘導されるNOの生成を阻害することも示した。
【0016】
本発明者らは、本発明の方法によって得られたトリプトリド冨化抽出物が、プロテアーゼ活性化受容体2(PAR−2)のトリプシンによる特異刺激によって誘導される細胞内カルシウムの流入を阻害することを示した。
【0017】
これら3種類の試験により、本発明の方法によって得られたトリプトリド冨化抽出物の抗炎症活性が確認される。
【0018】
この活性は、アトピー性皮膚炎および乾癬のモデルにおいてPCRアレイを用いて確認されている。
【0019】
従って、本発明は、トリプテリジウム属(Tripterygium)の一種、例えば、トリプテリジウム・ウィルフォルディ(Tripterygium wilfordii)、トリプテリジウム・レゲリィ(Tripterygium regelii)またはトリプテリジウム・ヒポグラウクム(Tripterygium hypoglaucum)、またはセラストラセアエ(Celastraceae)科の植物の気部の細胞懸濁培養物からトリプトリドを製造する方法に関する。本発明の一態様では、トリプトリドの製造方法は、気部、例えば幹、葉柄、葉および/または花部の細胞懸濁培養物から行われる。
【0020】
本発明は、
(i) 例えば、バイオマス成長条件下にて増殖するための1または数種類の栄養培地における、例えばカルスから誘導されるトリプテリジウム(Tripterygium)種の脱分化細胞のバイオマスの生産期、
(ii) オーキシンを実質的に含まない除去培地において段階(i)で得られた細胞培養物のホルモン除去期、
(iii) 除去培地で段階(ii)の細胞に誘発カクテル(elicitation cocktail)の添加による誘発期、
(iv) 段階(iii)の終了時における培地からのトリプトリド冨化抽出物の調製
の段階を含んでなる、トリプテリジウム(Tripterygium)種の細胞培養物から培地中でトリプトリドを生産する方法に関する。
【0021】
誘発期は、段階(ii)で生成された分離バイオマスを含む除去培地に誘発カクテルを添加した後培養することに基づいており、トリプトリド産生は前記培地で起こる。従って、本発明の文脈における誘発期は、トリプトリド産生期に相当する。
【0022】
本発明によれば、本発明の方法で用いられる誘発カクテルは、
a) 植物細胞の少なくとも1種類の細胞分化因子、例えば、ベンジルアミノプリン(BAP)、アブシシン酸、カイネチン、チジアズロン、6−γ−γ−ジメチルアリルアミノプリン、ゼアチンまたはイソペンテニルアデニンなどから選択されるサイトカイニン、またはジベレリン、
b) 少なくとも1種類のストレッシング剤(stressing agent)、例えば非生物的誘発剤、および
c) 少なくとも1種類のテルペン合成経路、例えばトリプトリド合成経路の前駆体、例えばゲラニオール、ファルネソールおよびそれらのピロリン酸形態、酢酸エチル、ピルビン酸またはメバロン酸
を含んでなる。
【0023】
優先的には、本発明の方法の段階(i)は、
(α) 細胞脱分化インデューサーを含んでなる寒天培地で培養することによってトリプテリジウム・ウィルフォルディ(Tripterygium wilfordii)の気部由来の組織の外植片からカルスを誘導し、
(β) 段階(i)で得られたカルス細胞を増殖培地に懸濁して、懸濁細胞を増殖させる
段階によって先行する。
【0024】
「気部」とは、地面より上にある植物の部分、例えば葉、幹、葉柄および/または花部を指す。
【0025】
本発明によれば、前記の方法は、種子および根のような植物の任意の他の部分に応用することもできる。
【0026】
本発明の方法の段階(α)は、組織外植片、例えばトリプテリジウム・ウィルフォルディ(Tripterygium wilfordii)の気部の外植片、例えば大きさがおよそ1cmの葉から、脱分化インデューサーを含んでなる寒天培地で培養してカルスを生成することからなる。
【0027】
本発明の一態様によれば、トリプテリジウム・ウィルフォルディ(Tripterygium wilfordii)の(複数の)気部は、葉、幹、葉柄および/または花部を包含する。
【0028】
「カルス」とは、幹細胞とも呼ばれる脱分化細胞のクラスターを指す。
【0029】
脱分化培地は、例えば、
例えば、6000mg/lまでの濃度で、NHNO、KNO、CaCl・2HO、MgSO・7HO、KHPOなどから選択した少なくとも1種類の多量栄養素、
例えば、前記培地に培地の200mg/lまでの総微量栄養素濃度で、KI、HBO、MnSO・4HO、ZnSO・HO、NaMoO・2HO、CuSO・5HO、CoCl・6HO、FeSO・7HO、NaEDTA・2HOなどの少なくとも1種類の微量栄養素、
例えば、3g/lまでの培地中の濃度で、ミオイノシトール、ニコチン酸、ピリドキシン−HClまたはチアミン−HClなどの少なくとも1種類のビタミン、
例えば、培地の3g/lまでの濃度で、少なくとも1種類のアミノ酸、例えばグリシン、
例えば、培地の20〜70g/l、例えば30g/lの濃度で、スクロースなどの少なくとも1種類の炭素源、
例えば、培地の0.001〜10mg/l、例えば培地の0.1〜3mg/lの濃度で、少なくとも1種類のホルモン、好ましくは植物ホルモンまたは成長因子、好ましくは植物成長因子または成長調節因子、好ましくは植物成長調節因子、例えば、カイネチン、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D)またはナフタレン酢酸(NAA)
を含んでなる培地である。
【0030】
脱分化培地の組成およびその使用は、実施例に示す。
【0031】
前記培地のpHを、例えばpH6±0.5に調整し、それを121℃にて少なくとも20分間オートクレーブ処理を行うか、または0.2μmで濾過する。
【0032】
インキュベーションは、暗所で例えば約25〜30℃、例えば27℃または28℃の温度で行うことができる。
【0033】
脱分化培地は、例えば固体培地、例えば寒天を8〜12g/l、例えば8g/l添加することによってゲル化した固体培地である。
【0034】
本発明の方法の段階(β)は、第一段階で得られたカルス由来の脱分化細胞を液体培地に懸濁し、懸濁液の細胞を増殖させることからなる。培養は、例えば約27℃の温度で10〜30日間、例えば15〜20日間行う。培養は、暗所で撹拌しながら行う。
【0035】
この段階(β)の培地は、例えば細胞増殖培地、例えばpH6に調整し、121℃で少なくとも20分間オートクレーブ処理するか、または0.2μmで滅菌濾過によって滅菌した細胞増殖培地である。
【0036】
細胞増殖培地は、
例えば、6000mg/lまでの濃度で、NHNO、KNO、CaCl・2HO、MgSO・7HO、KHPOなどから選択した少なくとも1種類の多量栄養素、
例えば、培地の200mg/lまでの前記培地中の総微量栄養素濃度で、KI、HBO、MnSO・4HO、ZnSO・HO、NaMoO・2HO、CuSO・5HO、CoCl・6HO、FeSO・7HO、NaEDTA・2HOなどの少なくとも1種類の微量栄養素、
例えば、培地の3g/lまでの濃度で、ミオイノシトール、ニコチン酸、ピリドキシン−HCl、チアミン−HClなどの少なくとも1種類のビタミン、
例えば、3g/lまでの培地中の濃度で、少なくとも1種類のアミノ酸、例えばグリシン、
例えば、30g/lの濃度で、スクロースなどの少なくとも1種類の炭素源、
例えば、培地の0.001〜10mg/l、例えば0.1〜3mg/lの濃度で、少なくとも1種類のホルモン、好ましくは植物ホルモンまたは成長因子、好ましくは植物成長因子または成長調節因子、好ましくは植物成長調節因子、例えばカイネチン、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D)、ナフタレン酢酸(NAA)
を含んでなる培地である。
【0037】
増殖培地の例およびその使用は、実施例において提供する。
【0038】
増殖培地は、例えば、例2の培地である。
【0039】
本発明の代替態様によれば、脱分化(α)および/または増殖(β)の両段階は、増殖培地または脱分化培地で行うことができる。
【0040】
本発明の方法の段階(i)は、好適な栄養培地、例えば前記の増殖培地で、脱分化細胞、例えば段階(β)で得られた懸濁液の細胞からのバイオマスの産生からなる。これは、10〜30日間継続する。これは、好ましくは27〜28℃で行う。
【0041】
この段階中に、細胞は、定期的に、例えば7〜10日毎に移植または増殖させる。移植は、細胞培養物の一部を新たな培地で希釈することにある。例えば、培養物の1/5を、初期の培養物の容積に相当する容積の新たな培地に懸濁させる。これにより、細胞系を液体培地で保持することができる。
【0042】
同様に、バイオマスの量を、全培養物を用いて新たな栄養培地に、最終培養容積の約1/5の接種物を接種することによって増加させることができる。
【0043】
本発明の方法の段階(ii)は、例えば、5〜15日間、例えば約7日間のホルモン除去段階からなる。
【0044】
ホルモン除去の目的は、成長ホルモン2,4−Dおよび/またはNAAのようなオーキシンを除去することである。この段階により、細胞の代謝的同期、すなわち、テルペン生合成経路の抑制解除を得ることができる。
【0045】
ホルモン除去培地は、オーキシンを含まない、例えば2,4−DおよびNAAを含まない培地であるか、またはオーキシンを実質的に含まない培地、例えば2,4−DおよびNAAがそれぞれ培地の0.01mg/lを下回る濃度で含まれている培地である。
【0046】
除去培地は、下記の組成、
例えば、7000mg/lまでの濃度で、NHNO、KNO、CaCl・2HO、MgSO・7HO、KHPOまたはピルビン酸ナトリウムなどから選択した少なくとも1種類の多量栄養素、
例えば、培地の200mg/lまでの前記培地中の総微量栄養素濃度で、KI、HBO、MnSO・4HO、ZnSO・HO、NaMoO・2HO、CuSO・5HO、CoCl・6HO、FeSO・7HO、NaEDTA・2HOなどの少なくとも1種類の微量栄養素、
例えば、培地の60mg/lまでの濃度で、ミオイノシトール、ニコチン酸、ピリドキシン−HCl、チアミン−HClまたはグリシンなどの少なくとも1種類のビタミン、
例えば、20〜70g/l、例えば30g/lの濃度で、スクロースなどの少なくとも1種類の炭素源、
例えば、培地の0.001〜10mg/l、例えば1〜3mg/lの濃度で、少なくとも1種類のホルモン、好ましくは植物ホルモンまたは成長因子、好ましくは植物成長因子または成長調節因子、好ましくは植物成長調節因子、例えばカイネチンまたはインドール−酪酸(IBA)
を有する。
【0047】
本発明の除去培地は、例えば、組成が例3に示されている除去培地である。培地のpHは、例えばpH6±0.5に調整され、好適な手段によって滅菌される。
【0048】
本発明の方法の段階(iii)の誘発期により、除去された細胞培養物からトリプトリド産生を誘発することができる。誘発期は、トリプトリド産生期でもある。それは、15〜35日間、例えば20〜25日間継続する。
【0049】
本発明者らは、細胞分裂とトリプトリド産生は同時には起こらないことを実際に観察した。驚くべきことには、それらは両立しないことさえある。この問題を解決するために、本発明者らは、ホルモン除去段階および誘発剤のカクテルを開発し、細胞分裂を停止し、細胞ストレスを誘導することにより、トリプトリド産生を引き起こす生化学的防御経路を活性化し、テルペン生合成経路の前駆体を提供した。
【0050】
本発明によれば、前記カクテルはオーキシンを含まず、例えば、前記カクテルは2,4−Dを含まないか、またはNAAを含まないか、または2つの生成物のいずれをも含まない。
【0051】
本発明の一態様によれば、前記カクテルは、
1) 少なくとも1種類の植物細胞の細胞分化因子、例えばサイトカイニンまたはジベレリン、例えばベンジルアミノプリン(BAP)、
2) 化学的または「無生物」起源などの少なくとも1種類のストレッシング剤(stressing agent)または「誘発剤」、例えば5−クロロサリチル酸(5−クロロSA)、サリチル酸、アセチルサリチル酸(ASA)および/またはジャスモン酸メチル(MeJA)、
3) テルペン合成の少なくとも1種類の前駆体、例えば、ファルネソール、ゲラニオール、酢酸エチル、ピルビン酸またはメバロン酸
を含んでなる。
【0052】
本発明に関して、サイトカイニンは、例えば、アブシシン酸、ベンジルアミノプリン、ゼアチン、カイネチン、チジアズロン、イソペンテニルアデニン、6−γ−γ−ジメチルアリルアミノプリンまたはジベレリンである。
【0053】
BAPは、例えば、培地の0.01〜5mg/l、例えば0.5〜5mg/lの濃度で用いられる。
【0054】
5−クロロサリチル酸(5−クロロSA)は、例えば、培地の0.1〜15mg/lの濃度で用いられる。
【0055】
サリチル酸は、例えば、培地の0.1〜100mg、例えば20〜60mg/l、例えば培地の45mg/lの濃度で用いられる。
【0056】
ファルネソールは、培地の1〜100mg/l、例えば15〜30mg/l、例えば培地の30mg/lの濃度で含まれる。
【0057】
ゲラニオールは、培地の1〜100mg/l、例えば20〜30mg/lの濃度で含まれる。
【0058】
ジャスモン酸メチル(MeJA)は、1〜100mg/lの濃度で含まれる。
【0059】
前記の誘発剤カクテルは、細胞を細胞分化、例えば根に再配向する;細胞ストレスを生じることによって化学的防御反応生成物、例えばトリプトリドおよび/またはその誘導体の産生に関与する遺伝子を活性化する;植物細胞にテルペン合成前駆体を供給する、という3種類の作用を有する。
【0060】
誘発カクテルの組成は、例えば:0.5〜5mg/l、例えば0.5〜3mg/l、例えば0.7〜3mg/lのベンジルアミノプリン(BAP);2〜6mg/l、例えば3〜5mg/l、例えば3mg/lまたは5mg/lの5−クロロサリチル酸(5−クロロSA);20〜60mg/l、例えば30〜50mg/l、例えば33mg/lまたは45mg/lのアセチルサリチル酸(ASA)および/またはサリチル酸;22.4mg/lのジャスモン酸メチル(MeJA);19〜40mg/lのファルネソール(F−OH);および20〜30mg/lのゲラニオールであり、ここで、mg/lでの量は、培地1L当たりのmgに相当する。これらは、保存溶液における様々な生成物の濃度ではない。
【0061】
誘発カクテルは、例えば、ジメチルスルホキシド中で調製した濃縮保存溶液を用いて培地に導入される。
【0062】
誘発期(iii)は、3〜30日間、例えば10〜30日間、例えば21〜24日間行われる。
【0063】
好ましくは、誘発期(iii)は、暗所で行われる。好ましくは、誘発期は、約27℃で行われる。好ましくは、誘発期は、撹拌しながら行われる。
【0064】
第一の実験室規模の態様によれば、懸濁液中の細胞は、容積が約250mlの容器、例えば三角フラスコまたは培養ボトル中で培養される。
【0065】
第二の実験室規模の態様によれば、懸濁液中の細胞は、撹拌しながら純酸素が冨化されている空気が供給されるバイオリアクター中で培養される。培養装置は、例えば2つの相互連結したバイオリアクターを含んでなる。これは、バイナリー培養装置である。一方のバイオリアクターは、タンクまたはバッグバイオリアクターであることができる。バイナリー装置の第一のバイオリアクターは、増殖バイオリアクターである。第二のものは、産生バイオリアクターである。バイオマスは、第一のリアクターと第二のリアクターとの間で移動させることができる。従って、増殖期が行われる第一のリアクターは、第二のバイオリアクターに産生期のためのバイオマスを供給する。それぞれ移動しても、第一の増殖バイオリアクターは細胞懸濁液の一部を保持して、新鮮な増殖培地を用いて増殖段階を再開させる。これは、種培養技術である。第一のバイオリアクターは、小型のバイオリアクターによって前播種し、工業規模での生産に必要な前培養物を供給することができる。
【0066】
同時に、第一のバイオリアクターからバイオマスを受け取る第二の産生バイオリアクターは、ホルモン除去のための栄養培地または直接第二の代謝物のための産生培地が、場合により補足される。次いで、誘発カクテルが、産生バイオリアクターに導入される。
【0067】
これらの2種類のタンク培養物は、下記の方法で温度、酸素分圧(pO)および二酸化炭素分圧(pCO)が調節される。バイオリアクター温度は、バイオリアクター壁内の閉鎖系を循環している温度制御された水によって保持される。
【0068】
酸素プローブは、飽和空気で較正され、活性化されたコンピューター化pOレギュレーターにリアルタイムでのデータを提供して、曝気装置に滅菌した純酸素を注入することによってpOを80%に保持するようにする。このバイオリアクターは、流出ガス(ヘッドスペース)におけるCOのインライン測定の装置も備えており、コンピューター化pCOレギュレーターにリアルタイムでのデータを提供してpCOを6%に保持するようにする。後者は、滅菌大気を酸素と混合して曝気システムに注入することによって達成される。バイオリアクターは、細胞懸濁液を撹拌しかつそれが沈殿物を形成するのを防止するのに十分な一定速度で回転する撹拌ブレード装置も備えている。
【0069】
本発明の方法は、
培養物生産性が、1日1L当たり2.75mgを上回り、
段階(iii)の後の培養物上清のトリプトリド濃度が、50mg/lを上回り、かつ
乾燥バイオマスの百分率(w/w)でのトリプトリド濃度が、約0.385%である
ので、特に有利である。
【0070】
比較では、文書CN101358180A号明細書には、1日1L当たりのトリプトリド0.041mgの容積生産性(20日間の培養では0.82mg/l)が記載されている。本発明の方法は、CN101358180号明細書の方法が数日間で生産するものを約6.5時間で生産する。
【0071】
本発明の方法の段階(iv)は、トリプトリドが産生される培地からトリプトリドを抽出することにある。
【0072】
トリプトリドは、当業者に周知の方法によって、例えば液/液抽出によって培地から抽出することができる。
【0073】
前記抽出は、純粋なトリプトリドまたはトリプトリド冨化抽出物をもたらす。
【0074】
本発明の特定態様によれば、段階(iv)は酢酸イソプロピルによる液/液抽出である。
【0075】
本発明のもう一つの目的は、前記のような脱分化培地である。
【0076】
本発明のもう一つの目的は、バイオマスを産生するための増殖培地である。
【0077】
本発明のもう一つの目的は、ホルモン除去培地である。
【0078】
本発明のもう一つの目的は、前記の誘発カクテルである。
【0079】
本発明のもう一つの目的は、トリプテリジウム(Tripterygium)種の細胞培養のための前記の誘発カクテルの使用である。
【0080】
本発明のもう一つの目的は、トリプテリジウム属(Tripterygium)の一種、詳細にはトリプテリジウム・ウィルフォルディ(Tripterygium wilfordii)の脱分化細胞のイン・ビトロ培養物の培地から抽出によって得ることができるトリプトリド冨化抽出物に関する。優先的には、前記トリプトリド冨化抽出物は、本発明によるトリプテリジウム(Tripterygium)種の細胞培養物から培地でトリプトリドを産生する方法によって得ることができる。
【0081】
本発明のもう一つの目的は、活性成分としてのトリプトリドまたはトリプトリド冨化抽出物と、1種類以上の皮膚美容上および/または皮膚科学上許容可能な賦形剤とを含んでなる皮膚美容または皮膚科学組成物に関する。
【0082】
皮膚美容上および/または皮膚科学上許容可能な賦形剤は、クリーム、ローション、ゲル、ポマード、エマルション、マイクロエマルション、スプレーなどの形態で局所塗布用の組成物を得るための当業者に知られている任意の賦形剤であることができる。
【0083】
本発明の皮膚美容用または皮膚科学用組成物は、詳細には、乳化剤、増粘剤、ゲル化剤、水定着剤(water fixers)、展着剤、安定剤、着色料、香料および防腐剤のような添加剤および処方助剤(formulation aids)を含むことができる。
【0084】
本発明のもう一つの目的は、活性成分としてのトリプトリドまたはトリプトリド冨化抽出物と、1種類以上の皮膚美容上および/または皮膚科学上許容可能な賦形剤とを含んでなり、皮膚の炎症性疾患、優先的には掻痒症、湿疹、アトピー性皮膚炎および乾癬の治療に用いられる皮膚美容用または皮膚科学用組成物に関する。
【0085】
本発明のもう一つの目的は、活性成分としてのトリプトリドまたはトリプトリド冨化抽出物と、1種類以上の皮膚美容上および/または皮膚科学上許容可能な賦形剤とを含んでなり、皮膚の炎症性疾患、優先的には掻痒症、湿疹、アトピー性皮膚炎および乾癬の治療を目的とする薬剤を製造するための皮膚科学用組成物の使用に関する。
【0086】
本発明のもう一つの目的は、薬剤として使用するためのトリプトリド冨化抽出物に関する。
【0087】
本発明のもう一つの目的は、皮膚の炎症性疾患、優先的には掻痒症、湿疹、アトピー性皮膚炎および乾癬の治療に用いられるトリプトリドまたはトリプトリド冨化抽出物に関する。
【0088】
本発明のもう一つの目的は、皮膚の炎症性疾患、優先的には掻痒症、湿疹、アトピー性皮膚炎および乾癬の治療を目的とする薬剤を製造するためのトリプトリドまたはトリプトリド冨化抽出物の使用に関する。
【0089】
本発明のもう一つの目的は、トリプトリドまたはトリプトリド冨化抽出物の皮膚美容上の使用に関する。
【0090】
下記の図および実施例により本発明を説明するが、本発明の範囲を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】バイオリアクター培養(バイナリー装置)の例。発酵槽Aでのバイオマスの増殖、培地の産生発酵槽Bへの移動、数週間後、除去、誘発およびバイオマス採取。
【図2】発酵槽Bにおける誘発によるトリプトリド(PG490)産生の動態の例。
【図3】空気/純酸素混合制御装置(O2MIX)、溶存酸素分圧(pO)測定装置(DOOPT20+DOOPT−PROBE)および10および20Lの細胞バッグ(20EHTキット)を組込むための加熱プレート(温度を27℃に調節)を備えたディスポーザブルWAVE20/50EHTロッカーバイオリアクター(GE Healthcare Biosciences)。
【図4】WAVEディスポーザブルバイオリアクターでのトリプトリド産生培養の動態。物理化学的パラメーターのフォローアップ:pH、溶存酸素分圧(pO)、スクロース消費、乾燥バイオマス(DW)の発生、および培養物上清におけるトリプトリド濃度。
【図5】抽出物中のトリプトリド濃度を決定するためのHPLC分析。
【図6】PCC抽出物によるNFκB阻害の試験。
【図7】LPS1μg/mlで刺激したRAW264.7細胞によるNO産生に対するPCC抽出物(IBO.18.134)の効果。
【図8】PAR−2阻害に対するPCC抽出物の効果。
【図9】アトピー性皮膚炎モデルに対する化合物の効果。
【図10】乾癬モデルに対する化合物の効果。
【図11】細胞毒性試験(ATPliteおよびLDHアッセイ)。
【実施例】
【0092】
例1:細胞脱分化プロトコル
カルスは、トリプテリジウム・ウィルフォルディ(Tripterygium wilfordii)の葉の外植片から得られる。
【0093】
外植片を、70%エタノールに続いて2.5%活性塩素を含むジ亜塩素酸ナトリウムで殺菌した後、滅菌した脱塩水で洗浄する。場合によっては、外植片を滅菌した脱塩水で洗浄する前に7%過酸化水素で洗浄する。
【0094】
葉を、例えばそれぞれの辺が約8〜10mmの正方形のような細片に切断する。葉の外植片を寒天培地上に置き、脱分化誘導(MSO培地)および再接種する。
【0095】
脱分化培地の組成は、下記の通りである。
【0096】
多量栄養素: 1650mg/l NHNO、1900mg/l KNO、440mg/l CaCl・2HO、370mg/l MgSO・7HO、170mg/l KHPO
【0097】
微量栄養素: 0.83mg/l KI、6.2mg/l HBO、22.3mg/l MnSO・4HO、6.61mg/lまたは8.6mg/l ZnSO・HO、0.25mg/l NaMoO・2HO、0.025mg/l CuSO・5HO、0.025mg/l CoCl・6HO、27.8mg/l FeSO・7HO、37.3mg/l NaEDTA・2HO、
【0098】
ビタミン: 100mg/l ミオイノシトール、0.5mg/l ニコチン酸、0.5mg/l ピリドキシン−HCl、0.5mg/l チアミン−HCl、2g/l グリシン、
【0099】
炭素源: 30g/lスクロース、
【0100】
ホルモン: 0.1mg/l カイネチン、0.5mg/l 2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D)、1mg/l ナフタレン酢酸(NAA)。
【0101】
脱分化培地は、8〜12g/lの濃度で寒天を加えてゲル化し、そのpHを6±0.5に調整した後、121℃で20分間オートクレーブ処理を行う。外植片を含むペトリ皿を、27〜28℃にて暗所でインキュベーションする。
【0102】
得られたカルスを葉の外植片から分離し、新たな脱分化寒天上に置く。カルスを、同じ寒天培地で毎月再接種する。
【0103】
例2:増殖および培養培地の処方
数ヶ月間再接種を行い、脆いカルスを得た後、細胞懸濁液の増殖のために最適化した液体培地に移す。
【0104】
細胞懸濁液は、増殖培地を含む200ml三角フラスコに脆いカルス約40gを入れ、27〜28℃にて暗所で100rpmに設定した撹拌ミキサー上で1週間インキュベーションすることによって調製する。細胞上清をピペットで集め、残渣のカルスクラスターを残す。得られた細胞懸濁液を15日間培養した後、15日毎に新たな培地で1/5倍に希釈することによって増殖させる。増殖培地TW2H6上で培養した細胞懸濁液NS系を生じた。
【0105】
増殖培地は、例えば下記の組成を有する。
【0106】
多量栄養素: 1650mg/l NHNO、2500mg/l KNO、440mg/l CaCl・2HO、370mg/l MgSO・7HO、130mg/l KHPO
【0107】
微量栄養素: 0.41mg/l KI、6.2mg/l HBO、22.3mg/l MnSO・4HO、7.5mg/l ZnSO・HO、0.25mg/l NaMoO・2HO、0.025mg/l CuSO・5HO、0.025mg/l CoCl・6HO、19.85mg/l FeSO・7HO、26.64mg/l NaEDTA・2HO、
【0108】
ビタミン: 50mg/l ミオイノシトール、0.25mg/l ニコチン酸、0.25mg/l ピリドキシン−HCl、0.25mg/l チアミン−HCl、
【0109】
ホルモン: 0.083mg/l カイネチン、0.575mg/l 2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D)、0.350mg/l ナフタレン酢酸(NAA)、
【0110】
炭素源: 30g/lスクロース。
【0111】
培地のpHを6±0.5に調整した後、好適な滅菌処理、例えば121℃にて少なくとも20分間のオートクレーブ処理、または0.2μmでの滅菌濾過を行う。
【0112】
三角フラスコを20〜40%の容量まで満たし、細胞懸濁液移動(cell suspension transfer)当たりの接種物は容積の20〜25%、すなわち、新鮮なバイオマス1L当たり約50〜100gである。培養は、このようにして110〜120rpm(回転/分)で軌道撹拌しながら27〜28℃にて暗所で15日間進行する。この段階では、バイオマスは、新鮮なバイオマス約320〜350g/lまでの濃度で存在する。
【0113】
増殖は、脱分化培地で起こることもある。
【0114】
例3:三角フラスコでのトリプトリド産生
三角フラスコでの産生は、
1. 増殖培地での15日間の細胞培養、
2. 7日間のホルモン除去、
3. 約20日間の誘発によるトリプトリド産生
の3つの期に分けられる。
【0115】
前記のように、三角フラスコにおける15日間のバイオマスの増殖培養が終了したならば、それを沈降させて上清、例えば懸濁液の総容積の1/3を部分的に抜き取り、これを同容積のホルモン除去培地、例えば下記のホルモン除去培地で置換することができる。この除去培地の目的は、増殖培地に含まれるトリプトリド産生阻害剤である成長ホルモン2,4−Dの残渣を除去することである。ホルモン除去培地の組成は、下記の通りである。
【0116】
多量栄養素: 2g/l NHNO、3g/l KNO、440mg/l CaCl・2HO、370mg/l MgSO・7HO、43mg/l KHPO、2g/l ピルビン酸ナトリウム、
【0117】
微量栄養素: 0.41mg/l KI、6.2mg/l HBO、22.3mg/l MnSO・4HO、7.5mg/l ZnSO・HO、0.25mg/l NaMoO・2HO、0.025mg/l CuSO・5HO、0.025mg/l CoCl・6HO、19.85mg/l FeSO・7HO、26.64mg/l NaEDTA・2HO、
【0118】
ビタミン: 50mg/l ミオイノシトール、0.25mg/l ニコチン酸、0.25mg/l ピリドキシン−HCl、0.25mg/l チアミン−HCl、1g/l グリシン、
【0119】
ホルモン: 1.1mg/l カイネチン、2mg/l インドール酪酸(IBA)、
【0120】
炭素源: 30g/lスクロース。
【0121】
pHを6±0.5に調整した後、121℃にて20分間オートクレーブ処理を行う。
【0122】
除去は、110〜120rpmで軌道撹拌しながら27〜28℃にて暗所で7日間この方法で行う。
【0123】
除去段階を行ったならば、バイオマスを、ブッフナー濾過装置を用いて乾燥し、新鮮なバイオマス約100〜200g/lの濃度で新たなホルモン除去培地に接種する。
【0124】
誘発カクテルは、例えばジメチルスルホキシドで調製した保存溶液を用いて培地に導入される。カクテル誘発剤の組成は、下記の通りである: 1.25mg/l アブシシン酸(ABA)、0.7mg/lまたは3mg/l ベンジルアミノプリン(BAP)、3mg/lまたは5mg/l 5−クロロサリチル酸(5−クロロSA)、33mg/lまたは45mg/l アセチルサリチル酸(ASA)、22.4mg/l ジャスモン酸メチル(MeJA)、19mg/lまたは30mg/l ファルネソール(F−OH)、および23mg/l ゲラニオール。
【0125】
トリプトリド産生は、120rpmで軌道撹拌しながら27〜28℃にて暗所で10〜21日間この方法で行う。培養が停止したならば、培地を濾過して、トリプトリドの大部分を含んでいる透明な暗色上清を回収する。
【0126】
培養物上清のトリプトリド濃度は、培地の50〜70mg/l、例えば45〜65mg/lである。
【0127】
例4:撹拌タンク式バイオリアクターでのトリプトリド産生
バイオリアクターにおけるトリプトリド産生は、
1. 増殖培地での15日間の細胞培養、
2. 7日間のホルモン除去、
3. 誘発による21日間のトリプトリド産生
の3期に分けられる。
【0128】
増殖培地での細胞培養および増殖:
前記のように、三角フラスコでのバイオマスの15日間の増殖培養が終了したならば、これを接種物として用いて10Lバイオリアクター(リアクターA)にて培養する。図1のバイナリー装置を参照。
【0129】
2Lの接種物を、増殖バイオリアクター(A)に投入する。このバイオリアクターは、27.5℃で増殖培地8Lを含んでいる。
【0130】
酸素プローブを、飽和空気中で較正し、活性化されたコンピューター化pOレギュレーターにリアルタイムでのデータを提供して、pOを50〜80%に保持するようにする。このバイオリアクターは、流出ガス(ヘッドスペース)におけるCOのインライン測定の装置も備えており、コンピューター化pCOレギュレーターにリアルタイムでのデータを提供してpCOを6〜8%に保持するようにする。バイオリアクターは、75rpmで回転して細胞がリアクターの底に沈降しないようにする撹拌ブレード装置も備えている。
【0131】
培養をこれらの物理化学的条件下に15日間保持して、細胞密度を新鮮なバイオマス1L当たり320gのオーダーとなるようにする。
【0132】
次いで、このバイオリアクターを、産生バイオリアクター(B)と呼ばれるもう一つのバイオリアクターに無菌的に連結する。1700gの新鮮なバイオマスの当量(約5.3L容積)を、AからBに移す。
【0133】
増殖バイオリアクターAには、懸濁液の2Lの残余が保持されており、これに増殖培地を8Lの容積で投入して、細胞増殖を再開する。
【0134】
除去培地での除去および産生:
同時に、産生バイオリアクターBに除去培地を、容積が10Lおよび細胞密度が170g/lとなるように補足する。産生バイオリアクターの培養物を4〜6日間この状態に保持して、バイオマスを増殖培地に含まれる微量の成長ホルモン、すなわち2,4−Dのようなオーキシンから完全に分離する。次いで、誘発カクテルを産生バイオリアクターBに導入する。トリプトリド産生を、この状態で15〜21日間行う。図2に、タンクBにおける誘発後(t=0)のトリプトリド産生の動態追跡の一例を示す。培養が終了したならば、培養物上清を、前濾過段階(15〜20μm)に続いて0.2μmでの濾過によって回収する。透明な溶液が得られる。得られたトリプトリド濃度は、細胞外培地では20〜35mg/lである。
【0135】
このタイプのバイナリー培養は、一層大きな発酵槽(容積が100Lを上回る)にスケールアップすることができる。
【0136】
例5:WAVEディスポーザブルバッグ式バイオリアクターでのトリプトリド産生
極めて単純かつ廉価な装置を有利に用いるもう一つの方法により、前記の装置、すなわち伝統的なステンレススチール製発酵槽の場合におけるような大規模なメンテナンスおよびクリーニングを必要としないディスポーザブルリアクターに匹敵する収率を得ることができる。撹拌リアクターは、一般に懸濁哺乳類細胞の培養に用いられる。図解例には、例えば、10Lまたは20Lの容積のGE Healthcare Biosciencesから発売されているWAVEリアクターについて記載されているが、この方法は一層大きな容積および他の製造業者製の装置に適合させかつ応用することができる。
【0137】
伝統的なガラス製の実験室用バイオリアクターまたはステンレススチール製の工業用リアクターのための上記したバイナリー装置は、2個のWAVEバッグと同じ方法で応用される。図3の図解例を参照。
【0138】
増殖
支持体上に置かれたWAVEバイオリアクターA(10L)に、インライン滅菌濾過によって栄養培地を満たし、空気で膨張させる。次いで、それを、撹拌インキュベーター中で、15日間撹拌した三角フラスコ中で調製した前培養物を増殖培地に接種する。
【0139】
バイオリアクターは、下記の条件に準じてインキュベーションする:
ロッキング角度:6〜8°、
ロッキング速度:16〜20rpm、
曝気速度:50%純酸素冨化空気0.1〜0.15L/分、
T=27℃、
期間=14日間。
【0140】
誘発および産生
バッグAからの培養物約500mlの容積を、トレイ上にバッグAと並べて置かれているバッグB(10L)に移す。バッグAの残り(約2L)を、2X除去培地2Lで希釈する。撹拌を、T=27℃で継続する。誘発期の培養物を、一定のパラメーターを測定することによって観察する(図4参照)。最高トリプトリド濃度は、19日間のインキュベーション後には、培養上清1L当たり55mgである。トリプトリド産生速度は、培養1日当たり、無細胞上清1L当たり約2.87mgである。トリプトリド産生動態は、ほとんど総ての利用可能なスクロースが消費された直後に低下し始める。培養が終了したならば、培養物上清を回収した後、前濾過段階(15〜20μm)および0.2μmでの第二の濾過段階を行う。透明な着色した(黄色または藤紫〜桃色)溶液が得られる。
【0141】
例6:WAVEバイオリアクターでのトリプトリド産生
インキュベーション温度:総ての期(フラスコおよびバイオリアクターでの細胞増殖および誘発)について+27℃。
【0142】
前培養
前培養物を、約15日間培養したもの100mlを接種した増殖培地TW2H6 400mlを含む撹拌1Lフラスコで調製する。
【0143】
【表1】

【0144】
WAVEバイオリアクターでの培養
接種物500mlを、滅菌連結を介してディスポーザブルバイオリアクターセットアップに移し、滅菌した栄養培地を満たす。それを、下記の条件に準じてロッカー上でインキュベーションする:
ロッキング角度:6〜8°、
ロッキング速度:16〜18rpm、
曝気速度:50%純酸素冨化空気0.1〜0.15L/分、
培養期間=14日間。
【0145】
【表2】

【0146】
WAVEバイオリアクターでの誘発
この培養物の2Lの容積を、2X濃縮誘発カクテルを含む除去培地2Lで希釈することによって誘発させ、インキュベーションを下記の条件下で継続する:
ロッキング角度:6〜7°、
ロッキング速度:17〜21rpm、
曝気速度:50%純酸素冨化空気0.1〜0.15L/分。
【0147】
結果
誘発による細胞増殖および代謝物産生は、ディスポーザブルバイオリアクター、例えばWAVEバッグで行った。
【0148】
誘発期における培養の進行を、図4に示す。
【0149】
誘発期中に、一定のパラメーターを観察する:
【0150】
懸濁液における乾燥質量(DW):10日間で、5〜13g/lまで増加し、10日間停滞した後、おそらく細胞溶解の開始により10日間で10g/lまで若干減少する。
【0151】
pHは、20日間かなり安定であり(約5.5)、次いで培養の最後の10日間にわたって7まで漸増する。このpHの上昇は、細胞溶解および細胞質内容物の放出による可能性がある。
【0152】
酸素分圧(pO;培地の酸素飽和率)は、測定時に培地に溶解した酸素の量、従って培地が含むことができる総量(飽和)と細胞によって消費される酸素の量との結果を反映している。
【0153】
総スクロース濃度は、最初の15日間は1日当たり2.7g/lの割合で減少する。
【0154】
トリプトリド濃度は、19日間で約55〜56mg/lまで増加した後、培養終了までほぼ安定のままである。
【0155】
例7:トリプテリジウム・ウィルフォルディ(Tripterygium wilfordii)培養上清の液/液抽出によるトリプトリド冨化抽出物IBO.18.134の産生
例6で得られたトリプトリドを含む培養上清約30Lを、酢酸イソプロピル1容で抽出する(連続2回)。有機相を濃縮し、ロータリーエバポレーターで乾燥する。ベージュ〜黄色の乾燥物質650mgが得られる。HPLCアッセイを用いて、抽出物中のトリプトリド濃度を測定する:回収粉末0.65gに含まれるトリプトリド195mg、または乾燥抽出物1g当たりトリプトリド0.3g(図5参照)。
【0156】
例8(比較例):根からのトリプトリド冨化抽出物IBO.18.130の産生
トリプテリジウム・ウィルフォルディ(Tripterygium wilfordii)の根の樹皮を剥いで、乾燥し、粉砕する。次いで、それらを90%エタノールで抽出する。濃縮後、抽出物に1,2−ジクロロエタンで液/液抽出を行う。塩素化相(chlorinated phase)を塩基性溶液(NaOH)で洗浄し、濃縮して、シリカ上に吸着させる。このシリカ上の粗製抽出物を、−20℃で保管する。
【0157】
シリカに吸着させたトリプテリジウム・ウィルフォルディ(Tripterygium wilfordii)の根を、メタノールで下記の通りに抽出する:メタノール1L中のシリカ上の粗製抽出物200g(単回抽出)を、室温にて1時間磁気撹拌下に放置する。次いで、メタノール相を、ロータリーエバポレーターで乾燥させる。茶〜橙色の乾燥物質25gが得られる。HPLCアッセイを用いて、抽出物のトリプトリド濃度を測定する:トリプトリド90mgは、回収粉末25gに含まれているか、または乾燥抽出物1g当たりトリプトリド0.0036g(図5参照)。
【0158】
下記の例9〜12では、下記のものを比較する:
【0159】
1) (同一トリプトリド(TRP)濃度での)純粋なトリプトリドに比較した例7の植物細胞培養(PCC)抽出物:
NFκB転写の阻害(炎症誘発性および炎症性応答の阻害)、
亜硝酸塩(NO)産生の阻害、
PAR−2阻害。
【0160】
2) (同一TRP濃度での)薬理活性に関する例8の根(R)抽出物および例7の植物細胞培養(PCC)抽出物:
炎症性遺伝子の阻害(アトピー性皮膚炎モデル)、
炎症性遺伝子の阻害(乾癬モデル)。
【0161】
3) 2種類の抽出物RおよびPCCのイン・ビトロでの細胞毒性も、比較した。
【0162】
例9:PCC抽出物によるNFκB阻害の試験
転写因子NFκBは、炎症性応答調節に関与する多数の遺伝子の発現を制御する。ある種の炎症誘発性刺激、例えば腫瘍壊死因子−α(TNFα)は、NFκB活性化すなわちその核転座を生じる。従って、NFκBは、サイトカイン、ケモカイン、接着分子、成長因子およびシクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)および一酸化窒素合成酵素(iNOS)のような誘導酵素をコードする炎症誘発性遺伝子の転写を誘導する。NFκBは、炎症性応答の開始および増幅に重要な役割を果たす。皮膚のある種の慢性炎症性疾患、例えばアトピー性皮膚炎または乾癬は、ケラチン生成細胞によって発現される炎症メディエーターのディレギュレーションを特徴とする。同等量のトリプトリド(TRP)を有する植物細胞培養抽出物(IBO.18.134)に対する純粋なトリプトリド(TRP)の抗炎症活性を評価する。
【0163】
結果
図6は、HaCaTケラチン生成細胞におけるTNFα刺激に続くNFκB活性化に対する様々な抽出物の阻害を表す。ポジティブコントロールとして、NFκB活性化を36%だけ阻害するデキサメタゾン(2μΜ)を用いた。純粋なトリプトリドは、8nM〜83nMまで用量依存的に阻害する。
【0164】
8nM、28nMおよび83nMの同一トリプトリド濃度では、PCCおよびTRPによるNFκB阻害は同等である。
【0165】
例10:LPS 1μg/mlで刺激したRAW264.7細胞によるNO産生に対するPCC抽出物(IBO.18.134)の効果
この研究の目的は、PCC抽出物(IB−134)と純粋なトリプトリドの抗炎症活性を比較することであった。
【0166】
この目的のために、選択した試験は、リポ多糖類(LPS)で刺激したRAW264.7細胞によるNO産生であった。
【0167】
簡単に説明すれば、RAW264.7細胞(マウスマクロファージ)を、1.4・10細胞/cmで播種した。24時間後、細胞を様々な濃度の試験を行う生成物と共にインキュベーションした後、LPS 1μg/mlで24時間刺激した。NO濃度を、Griess試薬を用いて培養物上清で評価した。
【0168】
結果(図7)は、上記した様々な条件下で得られたNO産生を例示している。LPSコントロールに関して計算した百分率阻害は、それぞれのヒトスグラムに表れる。最後に、IC50を、これらの値から計算した(太青色)。
【0169】
得られたデータは、同一TRP濃度で試験した条件下では、PCC抽出物(IBO.18.134)およびTRPは、LPSによって誘導される亜硝酸塩産生を阻害し、PCCによる阻害の方が若干高いことを示している。
【0170】
IC50値は、PCCがTRPより大きいことを示している。PCC抽出物は、NO阻害に関して純粋なトリプトリドより活性であることが示されている(図7参照)。
【0171】
例11:PAR−2阻害に対するPCC抽出物の効果
プロテアーゼ活性化受容体−2(PAR−2)は、炎症性応答を含む様々な疾患の生理病理学と関連している。
【0172】
PAR−2は、G−タンパク質にカップリングした7−膜貫通ドメイン受容体のスーパーファミリーに属するが、単一の活性化経路を有する。
【0173】
実際に、PAR2は、トリプシン、トリプターゼ、および因子XaおよびVIIaのようなセリンプロテアーゼによって活性化される。これらのプロテアーゼによる受容体の細胞外部分の開裂は、受容体に「結合した(attached)」リガンドとして作用する新たなアミノ末端ドメイン(SLIGKV)を露出し、細胞外ループ2でそれ自身に結合し、自動活性化を受ける。
【0174】
PAR−2は、皮膚の様々な種類の細胞タイプ、すなわち、ケラチン生成細胞、汗腺の筋上皮細胞、毛嚢、真皮の樹状細胞様細胞、および基底膜および真皮の内皮細胞によって発現する。メラノサイトはこの受容体を発現させないが、PAR−2は、メラニンのメラノサイトからケラチン生成細胞への移動を促進することによって色素沈着に重要な役割を果たす。
【0175】
表皮によって生じるセリンプロテアーゼは、皮膚における白血球補充を誘導する走化性効果を有する。それらは、ホメオスタシス、有糸分裂誘発および表皮分化の調節にも関与しており、またそれらは皮膚のバリヤー機能を調節する。更に、セリンプロテアーゼは、炎症、宿主防御、発癌、線維症および神経刺激に関係した皮膚疾患の生理病理学に寄与する。
【0176】
セリンプロテアーゼの生理学的および生理病理学的皮膚特性は、部分的にはPARに関係している。実際に、PAR−2は、アトピー性皮膚炎、扁平苔癬および乾癬のような皮膚の炎症性疾患の表皮、真皮および脈管で過剰発現する。PAR−2は、アトピー性皮膚炎に罹っている患者の掻痒症の発生にも役割を果たしている。
【0177】
トリプシン型のプロテアーゼによるPAR−2の活性化は、ケラチン生成細胞(HaCaT)からIL8の産生を誘導する。更に最近では、白血球に化学誘引性であるケモカインであるIL8により、尋常性乾癬の患者の表皮へ好中球が浸潤できるようになる。
【0178】
細胞内PAR−2シグナル伝達は、細胞内カルシウムの流動化によってある程度まで補強される。
【0179】
従って、トリプシンによるPAR−2の特異的刺激に続いて誘導される細胞内カルシウムの流入を測定することによって、細胞系(HaCaT)からのヒトケラチン生成細胞に対するPCC抽出物(IBO.18.134)およびトリプトリドの抗PAR−2活性を評価することが提案される。
【0180】
イン・ビトロでの細胞スケールでは、トリプシンによるPAR−2の刺激により、細胞内カルシウムが流動化し、これは蛍光プローブを用いて検出することができる。
【0181】
同一のトリプトリド濃度では、PAR−2阻害は試験した両生成物を和らげるが、阻害は、試験した濃度のPCCによって更に顕著になる(図8参照)。
【0182】
例12:アトピー性皮膚炎モデルおよび乾癬モデルでの評価
根抽出物から得たトリプトリド(IBO.18.130)の抗炎症および鎮静活性を、PCC抽出物(IBO.18.134)の活性と比較する。
【0183】
この評価は、正常なヒト表皮のケラチン生成細胞におけるアトピー性皮膚炎表現型および乾癬表現型の誘導に関して検討した。更に詳細には、これらの化合物の効果を、ケラチン生成細胞の炎症におけるそれらの重要性、更に正確にはアトピー性皮膚炎または乾癬におけるそれらの関与について選択された32遺伝子(mRNA)の2つのパネルの発現についてPCRアレイ(RNAチップ)によって分析した。
【0184】
これらの化合物の効果は、
ポリ(I:C)+Th1サイトカイン(TNFα)とTh2サイトカイン(IL4+IL13)との組み合わせ物による刺激後にアトピー性皮膚炎の表現型を示すケラチン生成細胞、および
サイトカイン(IL17+OSM+TNFα)の組み合わせ物による刺激後に乾癬表現型を示すケラチン生成細胞
で検討した。
【0185】
材料および方法
1. 抽出物
抽出物をDMSOに可溶化して、純粋なトリプトリドの濃度で表した200mg/ml保存溶液を調製した。この濃度は、根抽出物の溶解度によって賦課されたものであり、特に注意を要するものである(緩やかに撹拌しながら室温で分離)。
【0186】
これらの化合物を直ちに薬理試験のために可溶化し、純粋なトリプトリド濃度当量2.5ng/mlの両抽出物について試験を行った。
【0187】
2. 細胞の種類
用いた細胞は、正常なヒト表皮のケラチン生成細胞(NHEK)であり、標準的培養条件下で増幅させる。
【0188】
3. 薬理学
3.1 方法
NHEK細胞を、ケラチン生成細胞−SFM培地に播種して、培養する。培地を、試験を行う抽出物を含むまたは含まない(コントロール)培地に換える。炎症インデューサー混合物を1時間プレインキュベーションした後、アトピー性皮膚炎の場合には、ポリ(I:C)、IL4、IL13およびTNFを含む混合物を加え、乾癬の場合には、IL17、オンコスタチンMおよびTNFを含む混合物を加える。
【0189】
インデューサーまたは化合物を含まないコントロールも平行して調製し、誘導したモデルを検証することができる(NHEK対NHEK+インデューサー)。
【0190】
総ての条件は、2回ずつ行った。
【0191】
インデューサー±純粋なトリプトリド当量2.5ng/ml抽出物の混合物と24時間インキュベーションした後、RNAを細胞から抽出する。
【0192】
3.2 RT−qPCRによる示唆的発現の分析
総RNAの抽出およびcDNAの合成の後、32個の特異的アトピー性皮膚炎遺伝子および32個の特異的乾癬遺伝子を定量的PCRによって分析する。
【0193】
定量化遺伝子
アトピー性皮膚炎の表現型および乾癬の表現型に特徴的な定量化遺伝子を、それぞれ表1および2に示す。
【0194】
結果
1. アトピー性皮膚炎表現型を示すケラチン生成細胞に対する化合物の効果
1.1 実験の検証
ポリ(I:C)とTh1/Th2サイトカイン(IL4、IL13、TNF)との組み合わせ物によるケラチン生成細胞の処理は、この病理に関与する様々な特徴的遺伝子の発現を誘導することによってアトピー性皮膚炎表現型を明確に誘導した。
【0195】
実際に、先天性免疫マーカーS100A7、サイトカイン(TSLP、IL1A、IFN1a)および検討したケモカインの大部分(CCL3、CCL5、CCL7、CCL20、CCL22、CCL27およびIL8)の発現には、増加が観察された。
【0196】
これらの効果は、転写調節マーカーRARRES3およびBCL3の増加を伴った。 同時に、ケラチン生成細胞の分化に関与したマーカー(KRT10、FLG、IVLおよびLASS6)の阻害が観察される。
【0197】
1.2 アトピー性皮膚炎モデルに対する化合物の効果
2種類の化合物を、2.5ng/ml(純粋なトリプトリド当量)の濃度で試験した。
【0198】
根抽出物(IBO.18.130)
根抽出物は、炎症誘発性混合物の効果を逆にすることによって、このモデルに対して適度の抗炎症効果を有する。実際に、先天性免疫マーカーS100A7、ケモカイン(CCL3、CCL5およびIL8)および酸化的ストレスマーカー(HMOX1)の発現は抑制されるのに対して、ケラチン生成細胞分化に関与するマーカーKRT10の発現は、刺激された(表1)。
【0199】
植物細胞培養物抽出物(IBO.18.134)
植物細胞培養(PCC)抽出物は、先天性免疫マーカーS100A7およびRNASE7、サイトカインTSLPおよびIL1A、ケモカイン(CCL3、CCL5およびIL8)、および酸化的ストレスマーカー(HMOX1)の発現を抑制することによって根抽出物より一層顕著な抗炎症効果を有する(図9)。
【0200】
【表3】

【0201】
2. 乾癬表現型を示すケラチン生成細胞に対する化合物の効果
2.1 実験の検証
サイトカイン混合物(オンコスタチンM+IL17+TNF)によるケラチン生成細胞の処理は、この病理に関与する様々な特徴的遺伝子の発現を誘導することによって乾癬表現型を明確に誘導した。
【0202】
サイトカイン混合物は、抗菌ペプチドをコードするまたは先天性免疫(CAMP、DEFB103A、DEFB4、PI3、S100A7、S100A7A、SPLIおよびTLR2)、走化性(CCL5、CXCL5、CXCL10およびIL8)、炎症(IL1B)、細胞外マトリックス分解(MMP1およびMMP3)、および酸化性ストレスに対する細胞防御(HMOX1)に関与する遺伝子の発現増加を誘導する。同時に、分化(KRT1、KRT10およびFLG)および細胞粘着(DSG1およびCALML5)に関与するマーカーの阻害が観察される。
【0203】
2.2 乾癬モデルに対する化合物の効果
両化合物を、2.5ng/ml(純粋なトリプトリド濃度当量)の濃度で試験した。
【0204】
根抽出物(IBO.18.130)
根抽出物は、このモデルに対して抗炎症効果を有する。実際に、サイトカインカクテルによって誘導される10個の遺伝子は、この抽出物によって抑制される。ある種の遺伝子に対する用量依存性効果も観察することができる(図10)。
【0205】
植物細胞培養物抽出物(IBO.18.134)
植物細胞培養(PCC)抽出物は、このモデルに対して抗炎症効果も有する。実際に、サイトカインカクテルによって誘導される13個の遺伝子は、抽出物によって2より大きなファクターだけ抑制される。乾癬モデルに対する抗炎症効果は、根抽出物よりも植物培養抽出物で一層顕著である(図10)。
【0206】
【表4】

【0207】
2つのモデルに対する結論
この試験の実験条件下で、抽出物IBO.18.130(根抽出物)およびIBO.18.134(植物培養抽出物)は、ケラチン生成細胞で誘導したアトピー性皮膚炎および乾癬のイン・ビトロモデルで抗炎症効果を有した。この効果は、純粋なトリプトリド当量での根抽出物と比較して植物培養抽出物で一層顕著である。
【0208】
細胞毒性試験
同一TRP濃度で3種類の化合物TRP(MP0001128)、根抽出物(IBO.18.130)およびPCC抽出物(IBO.18.134)の細胞毒性比較。
【0209】
NHEK細胞を、黒色の96ウェルマイクロプレートに播種し、37℃にて5%COで24時間インキュベーションする。
【0210】
96ウェルマイクロプレートを、1200rpmで10分間遠心分離する。
【0211】
ATPライト(ATPlite)アッセイ
ライシス緩衝液50μlを黒色マイクロプレートに加え、撹拌した後、基質50μlを加え、ルミネッセンスをTopCountカウンターで読み取る。
【0212】
LDHアッセイ
上清100μlを黒色マイクロプレートから採取し、透明なマイクロプレートに入れる。LDHアッセイ溶液100μlを加えた後、プレートを遮光して室温にて30分間インキュベーションする。LDHアッセイの比色反応を、1NHCl 50μlで停止する。細胞溶解を、EnVisionリーダー上で485nmの吸光度を読み取ることによって分析する。
【0213】
NHEK細胞を、様々な化合物の増加濃度と合わせる。
【0214】
LDHおよびATPライトアッセイによって得られた結果は、IBO.18.134(植物培養抽出物)およびMP00011128(純粋なトリプトリド)と比較してIBO.18.130(根抽出物)では一層大きな細胞毒性を明確に示している(図11参照)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリプテリジウム(Tripterygium)種の細胞培養物から培地中でトリプトリドを生産する方法であって、
(i) バイオマス成長条件下にて栄養培地におけるカルスから誘導されるトリプテリジウム(Tripterygium)種の脱分化細胞のバイオマスの生産期、
(ii) オーキシンを実質的に含まない除去培地において段階(i)で得られた細胞培養物のホルモン除去期、
(iii) 除去培地で段階(ii)の細胞に誘発カクテル(elicitation cocktail)の添加による誘発期、
(iv) 段階(iii)の終了時における培地からのトリプトリド冨化抽出物の調製
段階を含んでなる、方法。
【請求項2】
誘発カクテルが、
a) 植物細胞の少なくとも1種類の細胞分化因子、
b) 少なくとも1種類のストレッシング剤(stressing agent)、および
c) 少なくとも1種類のテルペン合成経路の前駆体、
を含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
植物細胞の細胞分化因子がサイトカインから選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ストレッシング剤(stressing agent)が非生物的誘発剤である、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
非生物的誘発剤が、5−クロロサリチル酸、アセチルサリチル酸またはサリチル酸、およびジャスモン酸メチルを含んでなる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
テルペン合成経路の前駆体が、ファルネソール、ゲラニオール、酢酸エチル、ピルビン酸またはメバロン酸を含んでなる群から選択される、請求項2〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
除去培地が、オーキシンを含まず、例えば2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D)またはナフタレン酢酸(NAA)を含まない、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ホルモン除去段階(ii)が5〜15日間、例えば7日間継続する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
誘発期(iii)が、15〜35日間、例えば20〜25日間継続する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
バイオマス産生期(i)が約27〜28℃にて10〜30日間撹拌しながら進行する、請求項1〜9のいずれか一項に記載のトリプトリド産生の方法。
【請求項11】
誘発カクテルが、ベンジルアミノプリン、5−クロロサリチル酸、アセチルサリチル酸またはサリチル酸、ジャスモン酸メチル、ファルネソールおよびゲラニオールを含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載のトリプトリド産生の方法。
【請求項12】
段階(iii)の後の培養物上清のトリプトリド濃度が培地1L当たり50mgを上回る、請求項1〜11のいずれか一項に記載のトリプトリド産生の方法。
【請求項13】
段階(iv)が液/液抽出である、請求項1〜12のいずれか一項に記載のトリプトリド産生の方法。
【請求項14】
トリプテリジウム(Tripterygium)種の細胞培養のための誘発カクテルの使用であって、誘発カクテルが
a) 植物細胞の少なくとも1種類の細胞分化因子、
b) 少なくとも1種類のストレッシング剤(stressing agent)、および
c) 少なくとも1種類のテルペン合成経路の前駆体
を含んでなる、使用。
【請求項15】
前記誘発カクテルが、ベンジルアミノプリン(BAP)0.7〜3mg/l、5−クロロサリチル酸(5−クロロSA)3〜5mg/l、アセチルサリチル酸(ASA)33〜45mg/l、ジャスモン酸メチル(MeJA)22.4〜24mg/l、ゲラニオール20〜30mg/lおよびファルネソール(F−OH)19〜30mg/lを含んでなり、mg/lは、培地1L当たりのmgを表す、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
トリプテリジウム(Tripterygium)種の脱分化細胞のイン・ビトロ培養物を培地から抽出することによって得られるトリプトリド冨化抽出物。
【請求項17】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法によって得られる、請求項16に記載のトリプトリド冨化抽出物。
【請求項18】
薬剤として使用するための、請求項16または17に記載のトリプトリド冨化抽出物。
【請求項19】
皮膚の炎症性疾患、特に掻痒症、湿疹、アトピー性皮膚炎および乾癬の治療に使用するための、請求項16または17に記載のトリプトリド冨化抽出物。
【請求項20】
活性成分としてのトリプトリドまたはトリプトリド冨化抽出物と、1種類以上の皮膚美容上および/または皮膚科学上許容可能な賦形剤とを含んでなる、皮膚美容または皮膚科学組成物。
【請求項21】
皮膚の炎症性疾患、特に掻痒症、湿疹、アトピー性皮膚炎および乾癬の治療に使用するための、請求項20に記載の皮膚科学組成物。
【請求項22】
トリプトリド冨化抽出物の皮膚美容上の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2013−510127(P2013−510127A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−537406(P2012−537406)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【国際出願番号】PCT/EP2010/066916
【国際公開番号】WO2011/054929
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(500033483)ピエール、ファーブル、メディカマン (73)
【Fターム(参考)】