説明

トリプルネガティブ乳癌に対する制癌剤

【課題】本発明の目的は、エストロゲンレセプター発現陰性、プロゲステロンレセプター発現陰性、及びHER2発現陰性を示すトリプルネガティブ乳癌を有効に治療できる治療薬を提供することである。
【解決手段】上記トリプルネガティブ乳癌の制癌剤の有効成分として、CRM197又はその変異体を使用することによって、従来の技術では解決できなかったトリプルネガティブ乳癌の有効な治療を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エストロゲンレセプター発現陰性、プロゲステロンレセプター発現陰性、及びHER2発現陰性を示すトリプルネガティブ乳癌を有効に治療できる制癌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
乳癌は、発生の若年化等を含め、その発生頻度が加速的に増大している悪性腫瘍で、壮年期の女性の乳癌による死亡数は、本邦及び先進諸国でも第一位を占めている。現在まで、アドリアマイシン、タキソールをはじめとする抗癌剤、抗エストロゲン製剤、HER2(human epidermal growth factor receptor type 2)を標的としたハーセプチン等の多くの治療薬が乳癌に対して開発され、一定の効果をあげている。
【0003】
しかしながら、乳癌の内、10〜15%を占めている、エストロゲンレセプター発現陰性、プロゲステロンレセプター発現陰性、及びHER2発現陰性という特徴を有するトリプルネガティブ乳癌(以下、単にTNBCと表記することもある)では、前述する治療薬では有効な改善効果が認められず、未だ有効な治療法が確立されておらず、極めて予後は不良である(例えば、非特許文献1−3参照)。また、これまでに、TNBCに対して、抗EGFR(epidermal growth factor receptor)抗体やEGFRに作用する低分子化合物を用いて治療効果が臨床試験されているが、明らかな有効性は実証されていない。更に、TNBC細胞株(BT-549細胞株、MDA-MB-231細胞株:Rahman M et al., Breast Cancer Res. Treat., 2008 doi:10.1007/s10549-008-9924-5)を用いた研究でも、有効な治療薬の探索が全く進んでいない。
【0004】
このように、従来の乳癌の治療薬ではTNBCを治療することができず、TNBCの有効な治療法の確立されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Preu CM et al., Nature, 406: 747-752, 2000
【非特許文献2】Sotiriou C et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 100: 10393-10398, 2003
【非特許文献3】Sotiriou C et al., J. Natl. Cancer Inst., 98: 262-272, 2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の課題を解決することを目的とする。即ち、本発明は、従来有効な治療法が見つかっていないTNBCに対する治療薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、TNBCについて詳細に分析したところ、TNBCにおけるHB-EGF(Heparin-binding EGF-like Growth Factor)の発現量が、TNBC以外の乳癌に比べて著しく低いことを確認した。このようにHB-EGFの発現量が低いTNBCには、HB-EGF阻害薬が有効であるとは一般的には極めて予測し難いところである。しかしながら、本発明者らは、意外にも、CRM197又はその変異体が、TNBCの治療に有効であることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0008】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. エストロゲンレセプター発現陰性、プロゲステロンレセプター発現陰性、及びHER2発現陰性を示すトリプルネガティブ乳癌に対する制癌剤であって、CRM197又はその変異体を有効成分として含有することを特徴とする、制癌剤。
項2. 前記有効成分が、CRM197又はDT52E148Kである、項1に記載の制癌剤。
項3. CRM197又はその変異体の、エストロゲンレセプター発現陰性、プロゲステロンレセプター発現陰性、及びHER2発現陰性を示すトリプルネガティブ乳癌に対する制癌剤の製造のための使用。
項4. エストロゲンレセプター発現陰性、プロゲステロンレセプター発現陰性、及びHER2発現陰性を示すトリプルネガティブ乳癌の患者に、治療有効量のCRM197又はその変異体を投与することを特徴とする、該トリプルネガティブ乳癌の治療方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の制癌剤は、TNBCに対する優れた抗腫瘍効果があり、TNBCの予後を大きく改善することが可能になる。また、TNBCは有効な治療法が従来確立されておらず、本発明によって、TNBCの有効な治療を可能にする画期的な制癌剤を世界で初めて提供することになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】参考試験例1において、乳癌(TNBC9例、TNBC以外36例)におけるHB-EGFの発現量を測定した結果を示す図である。
【図2】参考試験例1において、9例のTNBCの乳癌におけるEGFRリガンド(HB-EGF、amphiregulin、TGFα、及びEGF)の発現量を測定した結果を示す図である。
【図3】参考試験例1において、TNBCの特徴を示す乳癌細胞(BT-549株及びMDA-MB-231株)におけるEGFRリガンド(HB-EGF、amphiregulin、TGFα、Epiregulin、Betacellulin、EGF、及びEpigen)の発現量を測定した結果を示す図である。
【図4】実施例2において、CRM197によって、TNBCの特徴を示す乳癌細胞(BT-549株及びMDA-MB-231株)に及ぼされるアポトーシス誘導効果を評価した結果を示す図である。
【図5】実施例3において、CRM197の投与によって、TNBCの特徴を示す乳癌細胞により形成された腫瘍に対する抗腫瘍効果を評価した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の制癌剤は、エストロゲンレセプター発現陰性、プロゲステロンレセプター発現陰性、及びHER2発現陰性を示すTNBCに対する制癌剤であって、CRM197又はその変異体を有効成分として含有することを特徴とするものである。以下に、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の制癌剤は、CRM197又はその変異体を有効成分として含有する。
【0013】
本発明において使用されるCRM197は、ジフテリア毒素のレセプター結合ドメインを保持しつつ触媒作用ドメインを変異させることによりジフテリア毒素を弱毒化させたジフテリア毒素変異体であって、ジフテリア毒素のアミノ酸配列において25個のシグナル配列を除いてカウントした場合の52番目のGlyがGluに変異した変異体として公知である。CRM197のアミノ酸配列(最初の25個の配列はシグナル配列を表す)を配列番号1に示す。なお、本明細書において、CRM197におけるアミノ酸配列の番号は、配列番号1のアミノ酸配列においてシグナル配列(1番目〜25番目)を除いた26位のアミノ酸(Gly)を1番として番号付けしている。
【0014】
また、本発明に使用されるCRM197の変異体としては、CRM197のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸を置換、欠失、挿入及び/又は付加したものが例示される。なお、CRM197において、25個のシグナル配列を除いてカウントした場合の52番目のアミノ酸であるGluが、ジフテリア毒素の弱毒化に寄与しているため、本発明においてCRM197の変異体としては、25個のシグナル配列を除いてカウントした場合の52番目のアミノ酸(Glu)は変異されていないものが使用される。本発明に使用されるCRM197の変異体において、アミノ酸の置換、欠失、挿入及び/又は付加の数としては、特に制限されないが、通常1〜10個、好ましくは1〜5個、更に好ましくは1〜3個、特に好ましくは1〜2個が例示される。また、本発明に使用されるCRM197の変異体において、アミノ酸の置換、欠失、挿入及び/又は付加の部位についても、特に制限されず、触媒作用ドメイン(1番目から193番目のアミノ酸配列部分)、レセプター結合ドメイン(378番目から535番目のアミノ酸配列部分)、触媒作用ドメインとレセプター結合ドメインの間に存在する膜貫通ドメイン(194番目から377番目のアミノ酸配列部分)のいずれか1又は2以上の部位が挙げられる。
【0015】
本発明に使用されるCRM197の変異体としては、好ましくはHB-EGFに結合することによりHB-EGFとEGFレセプターとの結合を阻害できるもの、更に好ましくはジフテリア毒素のレセプター結合ドメインが変異されていないものが挙げられ、好適な一例としてDT52E148Kが例示される。DT52E148Kとは、CRM197のアミノ酸配列において、シグナル配列を除いてカウントした場合の148番目のGluがLysに変異した変異体である。
【0016】
本発明の制癌剤は、エストロゲンレセプター発現陰性、プロゲステロンレセプター発現陰性、及びHER2発現陰性を示すTNBCに対して適用される。即ち、本発明の治療薬は、ヒトを含む哺乳動物のTNBCの治療、特にヒトのTNBCの治療に使用される。
【0017】
乳癌がTNBCであるかについては、乳癌患者から採取された乳癌細胞について、免疫組織化学法により上記3つのタンパク質を発現しているか否かを測定することにより判定される。具体的には、下記の測定によって、エストロゲンレセプター、プロゲステロンレセプター及びHER2のいずれも発現していないと判定される乳癌が、本発明の制癌剤の適用対象となるTNBCである。
<エストロゲンレセプターの発現の測定>
乳癌細胞におけるエストロゲンレセプター発現は、Allred scoring systemを用いて判定される。具体的には、抗ヒトエストロゲンレセプターモノクローナル抗体(例えば、クローン1D5、DAKO, Glostrup)を用いて、乳癌細胞のエストロゲンレセプターを染色し、染色された細胞の割合と染色の程度の平均を下記基準に従ってスコア化する。次いで、染色された細胞の割合のスコアと染色の程度の平均のスコアを合計し、合計スコアが3未満である場合を陰性、3以上である場合を陽性と判定する。なお、強染色陽性コントロール(染色の程度のスコアが3である陽性コントロール)として、ヒト由来の乳管上皮細胞を用いる。
【0018】
【表1】

【0019】
<プロゲステロンレセプターの発現の測定>
乳癌細胞におけるプロゲステロンレセプター発現は、Allred scoring systemを用いて判定される。具体的には、抗ヒトプロゲステロンレセプターモノクローナル抗体(例えば、クローンPgR636、DAKO, Glostrup)を用いて、乳癌細胞のプロゲステロンレセプターを染色し、染色された細胞の割合と染色の程度の平均を下記基準に従ってスコア化する。次いで、染色された細胞の割合のスコアと染色の程度の平均のスコアを合計し、合計スコアが3未満である場合を陰性、3以上である場合を陽性と判定する。強染色陽性コントロール(染色の程度のスコアが3である陽性コントロール)として、ヒト由来の子宮頸管細胞を用いる。
【0020】
【表2】

【0021】
<HER2の発現の測定>
乳癌細胞におけるHER2発現は、抗HER2抗体を用いた免疫染色において、染色の程度を下記基準に従ってスコア化し、スコアが0又は1+である場合を陰性、スコアが2+又は3+である場合を陽性と判定する。より具体的には、HercepTest kit scoring guidelines (DAKO, Glostrup)に準じたスコアで2+と3+が陽性、0と1+が陰性と判定する。
【0022】
【表3】

【0023】
本発明の制癌剤は、上記有効成分をそのまま、又は薬学的に許容される医薬用担体や添加剤と組合せて製剤化することができる。
【0024】
本発明の制癌剤の投与形態としては、特に制限されるものではなく、経口投与又は非経口投与のいずれであってもよい。非経口投与の形態としては、静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下又は皮内等への注射、直腸内投与、経粘膜投与、経気道投与等が例示される。これらの投与形態の内、好ましくは静脈内、腹腔内、又は皮下である。
【0025】
本発明の制癌剤を経口投与形態に調製する場合、その剤型としては、例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、散剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤等が挙げられる。また、本発明の制癌剤を非経口投与形態に調製する場合であれば、その剤型としては、例えば、注射剤、点滴剤、坐剤、経皮吸収剤等が挙げられる。但し、本発明の制癌剤の剤形はこれらに限定されるものではない。
【0026】
本発明の制癌剤に用いられる医薬用担体及び添加剤の種類は特に限定されず、当業者が適宜選択可能である。例えば、賦形剤、崩壊剤又は崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、基剤、溶解剤又は溶解補助剤、分散剤、懸濁剤、乳化剤、緩衝剤、抗酸化剤、防腐剤、等張化剤、pH調節剤、溶解剤、安定化剤等を用いることができ、これらの目的で使用される個々の具体的成分は当業者に周知されている。
【0027】
具体的には、本発明の制癌剤を経口投与形態に調製する場合であれば、使用される医薬用担体及び添加剤としては、例えば、ブドウ糖、乳糖、D−マンニトール、デンプン、結晶セルロース等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、デンプン、又はカルボキシメチルセルロースカルシウム等の崩壊剤又は崩壊補助剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ゼラチン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム又はタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール又は酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、ハードファット等の基剤が挙げられる。
【0028】
また、本発明の制癌剤を注射剤又は点滴剤として調製する場合であれば、使用される医薬用担体及び添加剤としては、例えば、注射用蒸留水、生理食塩水、プロピレングリコール等の水性又は用時溶解型注射剤を構成しうる溶解剤又は溶解補助剤;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D-マンニトール、グリセリン等の等張化剤;無機酸、有機酸、無機塩基又は有機塩基等のpH調節剤等が挙げられる。
【0029】
本発明の制癌剤における上記有効成分の配合量については、後述する投与量、製剤形態、投与経路等に基づいて適宜設定されるが、通常、制癌剤中に、0.0001〜70重量%程度の範囲から適宜選択すればよい。
【0030】
本発明の制癌剤の投与量については、患者の年齢、性別、体重、症状、投与経路等に応じて適宜設定されるが、通常、成人一日当たりの有効成分の投与量として、体重1kg当たり1μgから50mg程度の範囲であることが望ましい。上記投与量の医薬は一日一回に投与してもよいし、数回に分けて投与してもよい。
【0031】
また、本発明の制癌剤の投与スケジュールについても、患者の年齢、性別、体重、症状、投与経路等に応じて適宜設定される。例えば、1週間に1度ずつ6〜8週にわたって投与してもよく、一日おきに2〜3週間にわたって投与してもよく、また10日〜14日間毎日投与してもよい。
【0032】
また、本発明の制癌剤は、必要に応じて、タキソール、タキソテール、5−FU、シスプラチン、カルボプラチン、アドリアマイシン、カンプトテンシン等の公知の制癌剤と併用して投与してもよい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例等を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
参考試験例1
Informed consentの得られた乳癌患者から採取された乳癌組織45例について、TNBCであるか否かを前述するTNBCの判定基準に従って測定し、該45例中9例がTNBCであり、36例がTNBCではなかった。これらの乳癌組織、及びTNBCの特徴を示す乳癌細胞(BT-549株(ATCC Number:HTB-122)及びMDA-MB-231株(ATCC Number: HTB-26))について、EGFRリガンド(HB-EGF、amphiregulin、TGFα、Epiregulin、Betacellulin、EGF、及びEpigen)の発現量を測定した。具体的には、上記乳癌組織及びTNBCの乳癌細胞に対してTRIzolを用いてRNA抽出を行い、続いてSuperScript II reverse transcriptase (Invitrogen Corp.)を用いてcDNA合成を行った。斯くして得られたcDNAを利用して、TaqMan probeを用いたReal Time PCR法 (Applied Biosystems)によりEGFRリガンドの発現量を測定した。EGFRリガンドの発現量は、GAPDHを内在性コントロールとして解析した(mRNA Expression Index = それぞれのEGFR ligand mRNAのコピー数 / GAPDH mRNAのコピー数×10000)。
【0035】
図1に乳癌組織45例についてHB-EGFの発現量を測定した結果、図2にTNBCである乳癌組織9例についてEGFRリガンド(HB-EGF、amphiregulin、TGFα、及びEGF)の発現量を測定した結果、及び図3にTNBCの特徴を示す乳癌細胞(BT-549株及びMDA-MB-231株)についてHB-EGFの発現量を測定した結果を、それぞれ示す。
【0036】
この結果、TNBCにおけるHB-EGFの発現量は、TNBC以外の乳癌に比べて有意に低いことが確認された(図1参照)。また、TNBCにおけるHB-EGF以外のEGFRリガンドの発現量は、HB-EGFと比較しても、更に少ないことも明らかになった(図2参照)。更に、TNBCの特徴を示す乳癌細胞(BT-549株及びMDA-MB-231株)においても、HB-EGF以外のEGFRリガンドの発現量は、HB-EGFよりも少ないことが確認された(図3参照)。
【0037】
本試験結果から、TNBCではHB-EGFの発現量自体が少なく、更にTNBCにおいて、HB-EGF以外のEGFRリガンドの発現量はHB-EGFの発現量よりも更に少ないという特有の特徴を有していることが解明された。
【0038】
実施例1:TNBCの特徴を示す乳癌細胞のアポトーシス誘導効果の評価
TNBCの特徴を示す乳癌細胞(BT-549株及びMDA-MB-231株)を10容量%ウシ胎児血清を含むRPMI-1640培地を用いて培養ディッシュにて培養した後に、培養ディッシュに接着した細胞をトリプシンで剥がし、10容量%ウシ胎児血清を含むRPMI-1640で洗浄して、乳癌細胞を回収した。次いで、ポリリジンコートした6cmの培養ディッシュに6mlのRPMI-164(無血清培地)を入れ、これに上記で回収した乳癌細胞を1×106個ずつ播いた。その後、37℃、5%CO2下で静置し、培養皿に細胞が完全に接着させた後に、CRM197(財団法人阪大微生物病研究会作製;終濃度100nM)、抗EGFRモノクローナル抗体(clone LA1, Upstate Biotechnologies社(Lake Placid, NY);終濃度100nM)、及びハーセプチン(Chugai pharmaceutical Co, Tokyo;終濃度1μM)を添加し、37℃、5%CO2下で48時間培養を行った。
【0039】
培養後の各乳癌細胞におけるアポトーシスの誘導について、TUNEL法(MEBSTAIN Apoptosis Kit Direct(MBL code no.8445))により評価した。具体的には、上記培養後の各乳癌細胞を回収し、10容量%ウシ胎児血清を含むRPMI-1640で1回洗浄し、更に0.2容量%ウシ胎児血清アルブミンを含むPBSで2回洗浄を行った。斯くして洗浄された乳癌細胞を4容量%パラホルムアルデヒド含有PBS中で4℃にて30分間静置し、次いで0.2容量%ウシ胎児血清アルブミンを含むPBSで2回洗浄した。その後、回収した細胞残渣に対してエタノール水溶液(エタノール70容量%含有)を添加して、十分に攪拌した後に、20℃で30分間静置し、次いで0.2容量%ウシ胎児血清アルブミンを含むPBSで2回洗浄した。斯くして固定化処理された細胞に対して、TdT反応液(FITC-dUTP及びTdT含有)を30μl加え、十分撹拌後、37℃で1時間反応させた。斯くして反応させることによりアポトーシスが誘導されている細胞はFITCで特異的に標識されるので、FITC標識された細胞をフローサイトメトリー(Becton Dickinson, FACScalibur)で検出した。
【0040】
得られた結果を図4に示す。この結果から、CRM197はTNBCの特徴を示す乳癌細胞に対してアポトーシスを誘導できたが、従来、乳癌の治療薬として使用されている抗EGFRモノクローナル抗体及びハーセプチンではTNBCの特徴を示す乳癌細胞に対してアポトーシスを誘導させることはできなかった。
【0041】
本試験結果から、TNBCの治療薬としてCRM197が有効であることが明らかとなった。
【0042】
実施例2:TNBCに対する抗腫瘍効果の評価
TNBCの特徴を示す乳癌細胞(MDA-MB-231株)5×106cellsをヌードマウス(BALB/c-nu/nu)の皮下に播種して飼育した後、100 mm3以上の腫瘍体積の形成を認めた時点(乳癌細胞の播種から1週間後)から、CRM197を50mg/kgでヌードマウスの腹腔内に10日間連続で投与し、乳癌細胞の播種から8週間飼育を行った。ヌードマウスの腫瘍体積を毎週測定した。また、コントロールとして、CRM197の代わりに生理食塩水を投与すること以外は、上記と同条件で試験を実施した。なお、本試験において、CRM197投与群及びコントロール群はn=10で実施し、腫瘍体積は長径×短径×短径×1/2によって求めた。
【0043】
得られた結果を図5に示す。この結果から、CRM197の投与によって、TNBCの特徴を示す乳癌細胞により形成された腫瘍細胞が消失しており、CRM197は、TNBCの治療に有効であることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エストロゲンレセプター発現陰性、プロゲステロンレセプター発現陰性、及びHER2発現陰性を示すトリプルネガティブ乳癌に対する制癌剤であって、CRM197又はその変異体を有効成分として含有することを特徴とする、制癌剤。
【請求項2】
前記有効成分が、CRM197又はDT52E148Kである、請求項1に記載の制癌剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−229038(P2010−229038A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74998(P2009−74998)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業による委託研究「HB−EGFを標的とした卵巣癌標的治療法の開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(598015084)学校法人福岡大学 (114)
【出願人】(000173692)一般財団法人阪大微生物病研究会 (23)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】