説明

トリプレート線路

【課題】任意の基板線路において位相調整可能な機構を有するトリプレート線路を提供する。
【解決手段】本発明に係るトリプレート線路では、信号線路31,32と冗長線路34とが別々のフィルムに形成される。信号線路31,32は一部が2層構造をしており、冗長線路34をこの2層構造部で挟み込むことにより冗長線路34と電気的に接触する。そして、信号線路31,32と冗長線路34とからなる信号層30は、グランド層10,20の溝に内包され、信号線路31,32と冗長線路34との接触部位は、補助部材40により押え付けられるようになっている。これにより、冗長線路34は信号線路31,32と接触したままスライドすることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば高周波信号を伝送する多層基板におけるトリプレート線路に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波回路では、通過位相を所望量に調整することが求められることがある。一般にケーブル線路では、線路間に位相調整用のコンポーネントを接続して、線路長を変えることで位相調整可能である(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、トリプレート線路のような基板線路の場合では、線路長自体を製造後に変更することは不可能である。
【0003】
また、特許文献2では、位相調整用の回路を線路方向に対してスライドさせて位相を調整する方法を提案している。しかし、これは分岐線路の場合のみに適用できる方法であり、任意の線路の位相調整に適用できる訳ではない。
【特許文献1】特開2004−56687号公報
【特許文献2】特開平4−339402号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上のように、線路間に位相調整用のコンポーネントを接続する従来の位相調整方法では、基板線路における位相調整に適用することは不可能であった。また、基板線路における位相調整が可能である場合であっても、任意の基板線路における位相調整は不可能であった。
【0005】
本発明は上記事情によりなされたものであり、その目的は、任意の基板線路において位相調整可能な機構を有するトリプレート線路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係るトリプレート線路は、第1及び第2の信号線路が形成される第1のフィルムと、両端がそれぞれ前記第1及び第2の信号線路の端部と接触して前記第1の信号線路と前記第2の信号線路とを導通させる冗長線路が形成される第2のフィルムと、前記第1及び第2の信号線路と前記冗長線路とが接触した状態の形状に沿った溝が形成され、当該溝に前記第1及び第2の信号線路と前記冗長線路とを内包する一対の接地導体層と、前記一対の接地導体層それぞれの溝に配置され、前記第1及び第2の信号線路と前記冗長線路との接触部それぞれを上下から押え付けて接触させるための絶縁体による補助部材とを具備する。
【0007】
上記構成によるトリプレート線路は、第1及び第2の信号線路と冗長線路とを接触させることで第1及び第2の信号線路を導通させ、これらの線路を一対の接地導体層で内包するようにしている。このとき、第1及び第2の信号線路と冗長線路との接触部は、接地導体層それぞれの溝に配置された補助部材により押え付けられる。この構造により、冗長線路は第1及び第2の信号線路との接触を維持したままスライドすることが可能となる。つまり、本発明によるトリプレート線路は、冗長線路をスライドさせることにより、第1及び第2の信号線路と冗長線路とからなる線路の線路長を操作でき、伝送信号の通過位相を調整することが可能となる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、任意の基板線路において位相調整可能な機構を有するトリプレート線路を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明に係るトリプレート線路について詳細に説明する。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係るトリプレート線路の平面形状を示す構造図である。図2は、図1のトリプレート線路におけるA−A’断面の断面図を示す構造図である。図3は、図1のトリプレート線路を層毎に分離して示した模式図である。
【0011】
図1乃至図3に示されるトリプレート線路は、グランド層10,20が信号層30を挟み込むように形成される。グランド層10,20と信号層30との間の絶縁層は、真空又は空気からなる、いわゆるエアラインである。
【0012】
上記信号層30は、信号線路31,32が形成されるフィルム33と、冗長線路34が形成されるフィルム35とを備える。信号線路31,32及び冗長線路34は、フィルム33,35上に導体薄膜をエッチング加工することにより形成される。
【0013】
信号線路31,32は、鉤型形状をしている。このとき、信号線路31の一方の端部と信号線路32の一方の端部とは、フィルム33における同一の端辺にそれぞれ接する。また、信号線路31の他方の端部と信号線路32の他方の端部とは、フィルム33における互いに対向する端辺にそれぞれ接する。信号線路31,32は、フィルム33の同一端辺に接する一方の端部の一定領域において2層構造をしている。2層構造の上層に形成される導体薄膜においてフィルム33の端辺と接しない側の端部は、下層の導体薄膜に溶接接続される。
【0014】
冗長線路34は、コの字型形状をしている。冗長線路34の端部の両方は、フィルム35における同一の端辺にそれぞれ接している。冗長線路34の端部間の距離は、フィルム33の同一端辺に接する信号線路31,32の端部間の距離と同一となっている。
【0015】
図2に示すように、フィルム33とフィルム35とは、冗長線路34が信号線路31,32の2層構造における上層の導体薄膜と下層の導体薄膜とにより挟み込まれることにより接続する。これにより、フィルム33上に形成された信号線路31,32とフィルム35上に形成された冗長線路34とが電気的に接触する。つまり、信号線路31と信号線路32とが、冗長線路34を介して導通することとなる。
【0016】
上記グランド層10,20は、信号線路31,32と冗長線路34とに沿った形状の溝を備えている。また、この溝における、冗長線路34が信号線路31,32の2層構造部に挟み込まれる部位と対向する部位には、補助部材40が設置される。信号線路31,32における2層の導体薄膜は、それのみでは冗長線路34を押え込む力がない。そのため、補助部材40は、これらの線路を押え付けるために設置されている。ここで、補助部材40は、絶縁体であり、具体的には、比誘電率が真空とほぼ等しい発泡剤等が使用される。
【0017】
以下では、上記構成におけるトリプレート線路の位相調整方法について説明する。
【0018】
図4は、本発明の一実施形態に係るトリプレート線路の位相調整方法を示す模式図である。また、図5は図4の位相調整方法による作用を示す平面図であり、図6は図5のB−B’断面における断面図である。
【0019】
トリプレート線路における冗長線路34は、信号線路31,32に対して図4に示す矢印方向に可動である。つまり、冗長線路34を矢印方向へ移動させることにより、信号線路31,32と冗長線路34とによる全体の線路長が変化することになる。これにより、通過位相を可変にすることができる。この際、信号線路31,32自体の線路長は変化しない。
【0020】
例えば、冗長線路34を図4における上方向にΔdだけ移動した場合、冗長線路34は、図5に示すように信号線路31,32に対して上方向にΔdだけスライドされる。このとき、信号線路31,32の2層構造部に挟み込まれた冗長線路34の端部は、図6に示すように信号線路31,32と接触したまま上方向にΔdだけスライドされる。これにより、全体の線路長は、Δd×2mmだけ延びることになる。つまり、この線路により伝送される信号の位相を、Δd×2×(2π/λ)rad(λは伝送信号の波長)だけ、遅らせることができる。なお、信号線路31,32と冗長線路34との接触部は、線路の絶縁層(ここでは真空又は空気)の比誘電率と等価な補助部材40で十分に接触を保持できているためインピーダンス不整合となることは無い。
【0021】
以上のように、本発明に係るトリプレート線路では、信号線路31,32と冗長線路34とが別々のフィルムに形成される。そして、信号線路31,32は一部が2層構造をしており、冗長線路34をこの2層構造部で挟み込むことにより冗長線路34と電気的に接触する。信号線路31,32と冗長線路34とからなる信号層30は、グランド層10,20の溝に内包され、信号線路31,32と冗長線路34との接触部位は、補助部材40により押え付けられる。この構造により、冗長線路34は信号線路31,32と接触したままスライドすることが可能となる。つまり、本発明によるトリプレート線路は、冗長線路34をスライドさせることにより、信号線路31,32自体には影響を与えずに、信号線路31,32と冗長線路34とからなる線路の線路長を変化でき、伝送信号の通過位相を変化させることが可能となる。
【0022】
したがって、本発明のトリプレート線路は、容易にかつ電気性能を劣化させずに任意の基板線路における位相調整をすることが可能な機構を有することとなる。
【0023】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、冗長線路34がコの字形状である例について説明したが、線路の両端部がフィルム35における同一端辺に接していれば、この形状に限らずとも同様に実施可能である。
【0024】
また、上記実施形態では、信号線路31,32が鉤型形状をしている例について説明したが、それぞれの線路の一方の端部がフィルム33における同一端辺に接していれば、この形状に限らずとも同様に実施可能である。
【0025】
また、上記実施形態では、信号線路31,32の端部の一部が2層構造である例について説明したが、2層構造となるのは信号線路31,32に限定されるわけではなく、冗長線路34の端部の一部が2層構造であっても同様に実施可能である。
【0026】
また、上記実施形態では、冗長線路34が信号線路31,32に対して可動である例について説明したが、信号線路31,32が冗長線路34に対して可動である場合でも同様に実施可能である。
【0027】
さらに、本発明は、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係るトリプレート線路の平面図。
【図2】図1のトリプレート線路におけるA−A’断面の断面図。
【図3】図1のトリプレート線路を層毎に分離して示した模式図。
【図4】上記実施形態のトリプレート線路の位相調整方法を示す模式図。
【図5】図4の位相調整方法による作用を示す平面図。
【図6】図5におけるB−B’断面の断面図。
【符号の説明】
【0029】
10,20…グランド層
30…信号層
31,32…信号線路
33,35…フィルム
34…冗長線路
40…補助部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の信号線路が形成される第1のフィルムと、
両端がそれぞれ前記第1及び第2の信号線路の端部と接触して前記第1の信号線路と前記第2の信号線路とを導通させる冗長線路が形成される第2のフィルムと、
前記第1及び第2の信号線路と前記冗長線路とが接触した状態の形状に沿った溝が形成され、当該溝に前記第1及び第2の信号線路と前記冗長線路とを内包する一対の接地導体層と、
前記一対の接地導体層それぞれの溝に配置され、前記第1及び第2の信号線路と前記冗長線路との接触部それぞれを上下から押え付けて接触させるための絶縁体による補助部材と
を具備するトリプレート線路。
【請求項2】
前記第1及び第2の信号線路と前記冗長線路との接触位置を変えることで、前記第1及び第2の信号線路と前記冗長線路とからなる線路長を変化させることを特徴とする請求項1記載のトリプレート線路。
【請求項3】
前記第1及び第2の信号線路、又は、前記冗長線路の一方は、前記第1及び第2の信号線路と前記冗長線路との接触部で2層構造の線路であり、当該2層構造の線路で他方の線路を挟み込んで接触し、
前記補助部材は、前記2層構造の線路が他方の線路を挟み込んだ接触部を上下から押し付けることを特徴とする請求項1記載のトリプレート線路。
【請求項4】
前記絶縁体の誘電率は、真空の誘電率と同等であることを特徴とする請求項1記載のトリプレート線路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−224989(P2009−224989A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65991(P2008−65991)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】