説明

トリメチルインジウムの精製方法

【解決手段】トリメチルアルミニウムとインジウムハライドより製造したトリメチルインジウムをノルマルヘキサンで加熱溶解した後、冷却し再結晶を行って、高純度トリメチルインジウムを得ることを特徴とするトリメチルインジウムの精製方法。
【効果】本発明によれば、トリメチルインジウムを容易に精製でき、製造設備構成及び製造設備サイズを低減でき、その後の廃棄物処理も容易でかつ廃棄物のコストを低減できるといった工業的利益が発揮される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体デバイスの製造に有用なトリメチルインジウムの精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化合物半導体材料、例えばヒ化ガリウム、リン化インジウム、窒化ガリウムのような材料は、高速デバイスや発光デバイスとして用いられており、移動体通信、デジタル家電、及び半導体照明等のエレクトロニクス分野の発展と相まって、近年急速にその需要を増してきている。
【0003】
これらの化合物半導体は、トリメチルガリウム、トリメチルインジウム等のIII族有機金属化合物とアルシン、ホスフィン等のV属有機金属化合物を用いたMOCVD法により製造される。
【0004】
これらのIII族有機金属化合物のうち、トリメチルインジウムを製造する方法として、トリメチルアルミニウムとインジウムハライドを反応させる方法が非特許文献1(J. Cryst. Growth, 93(1988)45−51)に示されている。しかし、トリメチルアルミニウムをインジウムハライドに対して大過剰に用いなければならず、結果として生成したトリメチルインジウム中には有機アルミニウム成分及びトリメチルアルミニウム由来の有機珪素成分が混入してしまうといった問題がある。
【0005】
特許文献1(特開平11−71381号公報)には、インジウムハライドとトリメチルアルミニウムを反応させて製造したトリメチルインジウムの精製方法として、シクロペンタンで洗浄する方法が報告されている。しかし、トリメチルインジウムを溶剤で洗浄するのみでは、固体のトリメチルインジウム表面に付着した不純物が洗浄除去されるのみで、トリメチルインジウム固体内部の不純物を除去する効果が十分でない。特許文献2(特開2003−335785号公報)には、インジウムハライドとトリメチルアルミニウムを反応させて製造したトリメチルインジウムの精製方法として、トリメチルインジウムの溶液を減圧留去もしくはトリメチルインジウム溶液にシクロペンタン、シクロヘキサンを加えて再結晶化する方法が報告されている。しかし、いずれの方法も大量の溶剤を加える必要があり、大容積の設備が必要であり、かつ大量の廃溶剤が生ずるため不経済である。また、特許文献2では、再結晶精製したトリメチルインジウムを濾過する工程が報告されているが、濾過装置については記述が無く、晶析、濾過工程で用いる装置が明確でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−71381号公報
【特許文献2】特開2003−335785号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. Cryst. Growth, 93(1988)45−51
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、高純度トリメチルインジウムを容易かつ確実にしかも経済的に得ることができるトリメチルインジウムの精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、トリメチルインジウムを精製する際にノルマルヘキサンを用いてトリメチルインジウムを溶解し、この溶液を加熱冷却することによる再結晶操作を行うこと、これによりトリメチルインジウム中の有機珪素成分と有機アルミニウム成分を効果的に除去し得ること、またこの場合より好適には、上記トリメチルインジウムの加熱溶解及び再結晶操作に濾過乾燥機を用いることが効率よく操作し得ることを知見し、本発明をなすに至った。
【0010】
従って、本発明は、トリメチルアルミニウムとインジウムハライドより製造したトリメチルインジウムをノルマルヘキサンで完全に加熱溶解した後、冷却し再結晶操作により高純度トリメチルインジウムを得ることを特徴とするトリメチルインジウムの精製方法を提供する。この場合、再結晶操作によりトリメチルインジウム中の有機珪素成分と有機アルミニウム成分を除去することができる。また、再結晶操作に濾過乾燥機を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、トリメチルインジウムを容易に精製でき、製造設備構成及び製造設備サイズを低減でき、その後の廃棄物処理も容易でかつ廃棄物のコストを低減できるといった工業的利益が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明を実施するための設備構成図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のトリメチルインジウムの精製方法において、再結晶溶媒としてノルマルヘキサンを用いる。トリメチルインジウム再結晶溶媒としては、トリメチルインジウムと反応しないことを考えると炭化水素溶媒が適している。炭化水素溶媒の中でも、ノルマルヘキサンはトリメチルインジウム中の不純物である有機珪素成分や有機アルミニウム成分を溶解し、かつトリメチルインジウムは高温でのみ多量に溶解するとの特徴を有しており、かつトリメチルインジウムと比較的蒸気圧差が大きく、容易に除去可能との特徴を有している。ノルマルヘキサンよりも低沸点の炭化水素溶媒では、トリメチルインジウムを溶解するために多量必要であり、かつ再結晶工程で加熱冷却の温度差が大きくとれないために精製効果が低いといった問題がある。ノルマルヘキサンよりも高沸点の炭化水素溶媒ではトリメチルインジウムと蒸気圧差が小さく、再結晶後の分離が困難である、またトリメチルインジウムよりも蒸気圧差の非常に大きな炭化水素溶媒ではトリメチルインジウムの溶解度が低いといった問題がある。
【0014】
この場合、トリメチルインジウムとしては、有機珪素成分1〜100ppm、特に1〜10ppm、アルミニウム成分100〜50,000ppm、特に1,000〜10,000ppmのものを使用、精製し得る。
【0015】
本発明を実施するにあたり、系内は不活性ガス、例えば窒素、アルゴン、ヘリウムにより置換して行う。
【0016】
本発明で使用するノルマルヘキサンは市販品で十分であるが、脱水したものや高純度化したものも使用できる。ノルマルヘキサンは精製するトリメチルインジウムに対して100〜300質量%、特に200〜300質量%が好ましい。100質量%未満ではトリメチルインジウムが一部しか溶解しないため精製の効果が低い場合があり、300質量%を超えると再結晶操作でのトリメチルインジウム回収率が低下してしまう場合がある。
【0017】
トリメチルインジウムにノルマルヘキサンを加えた後、加熱してノルマルヘキサンにトリメチルインジウムを完全に溶解させる。加熱はトリメチルインジウムが溶解する温度まで行い、通常は60〜80℃まで加熱する。なお、加熱によりノルマルヘキサンを沸騰、還流させても問題ない。加熱中は溶液を撹拌することが好ましいが、撹拌しなくてもよい。
【0018】
加熱溶解したトリメチルインジウムのノルマルヘキサン溶液は徐々に冷却し、トリメチルインジウムの結晶を晶析させる。冷却は、0〜30℃、特に20℃まで行うことが好ましい。晶析操作中は溶液を撹拌しても、撹拌しなくてもよい。生成したトリメチルインジウム結晶と母液のノルマルヘキサンは濾過により分離する。濾過は常圧濾過、加圧濾過、減圧濾過等公知の濾過方法のいずれも使用できる。分離したトリメチルインジウム結晶は必要に応じてノルマルヘキサンで洗浄することにより精製できる。なお、必要に応じて再結晶、濾過工程を繰り返してもよい。
【0019】
濾過後の母液ノルマルヘキサンは蒸留精製することで、再利用することができる。再結晶されたトリメチルインジウム結晶は、真空昇華操作により残存する微量のノルマルヘキサンと分離され、精製される。分離したトリメチルインジウムの純度は、有機珪素成分が<0.05ppm、有機アルミニウム成分が<0.1ppm、酸素不純物、金属不純物及び炭化水素不純物は検出限界以下となる。なお、有機珪素、有機アルミニウム、金属量はICP発光分析(高周波誘導結合発光分析)により、酸素、炭化水素量は1H−NMR分析による。
【0020】
再結晶、濾過工程は濾過乾燥機を用いて行うことが好ましい。濾過乾燥機は1基で晶析、濾過、加熱ができる装置で、代表的な装置構成を例示すると、ジャケット及び撹拌機付円筒容器の下部に濾材が取り付けられている構成が挙げられる。適当な濾過乾燥機としては、タナベウィルテック株式会社の濾過乾燥機TR03F、株式会社ニッセンの多機能濾過器WDフィルター等が例示される。
【0021】
濾材としては公知の濾過操作に用いるものが使用できるが、トリメチルインジウムの純度に影響しないものとして焼結金属製の金網が好適に使用でき、特にSUS焼結金属製の濾材が好適に使用できる。焼結金網のメッシュはトリメチルインジウム結晶よりも小さな物であれば、いずれのメッシュも使用可能であるが、好適には5〜30μmのメッシュが使用できる。
【0022】
濾過乾燥機を用いて、トリメチルインジウムを再結晶、濾過する工程では、濾過したトリメチルインジウム結晶が濾過乾燥機内に留まるため、濾過工程の後にそのまま結晶を洗浄したり、再結晶操作を繰り返したり、真空乾燥できるといった特徴がある。通常の晶析槽と濾過装置の組み合わせ装置では、装置構成が2基になる上に、濾過後のトリメチルインジウムを再度、晶析しようとすれば、固体のトリメチルインジウムを濾過器から晶析器へ移送しなければならず、トリメチルインジウムが自然発火性であることを鑑みると、安全に移送する操作は煩雑になり、かつトリメチルインジウムの回収率が低下する。
【実施例】
【0023】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0024】
[実施例1]
図1に示したように、還流冷却器6及び10μmSUS焼結金属金網3を備えた10Lの濾過乾燥機1に、不純物として有機珪素成分7ppm、アルミニウム成分7,600ppmを含むトリメチルインジウム(TMI)1kg、ノルマルヘキサン(ヘキサン)2kgを仕込み、撹拌翼5により撹拌しながら昇温し、ジャケット2により70℃で加熱還流した。この際、トリメチルインジウムはノルマルヘキサンに完全に溶解していた。
加熱を止め、トリメチルインジウムのノルマルヘキサン溶液をゆっくりと20℃まで冷却したところ、釜内にはトリメチルインジウムの結晶が生成した。ノルマルヘキサンをSUS焼結金属金網3を通して濾過して濾液を母液ノルマルヘキサン受器4に移し、生成したトリメチルインジウムと分離した。上記晶析濾過工程を同条件でもう一度繰り返した。濾過したトリメチルインジウムを20℃で真空乾燥し、残存するノルマルヘキサンを除去した。濾過乾燥機を80℃に昇温してトリメチルインジウムを昇華移送した。得られたトリメチルインジウムは0.8kgであった。得られたトリメチルインジウムの純度は有機珪素成分が<0.05ppm、有機アルミニウム成分が<0.1ppm、酸素不純物、金属不純物及び炭化水素不純物は検出限界以下であった。
【0025】
[比較例1]
再結晶溶媒をシクロペンタンに換えたことを除いて実施例1と同様の操作を行った。シクロペンタン2kgでは49℃で還流し、トリメチルインジウムの一部に溶け残りが生じた。得られたトリメチルインジウムは0.8kgであった。得られたトリメチルインジウムの純度は有機珪素成分が1ppm、有機アルミニウム成分が12ppmであった。
【0026】
[比較例2]
再結晶溶媒を流動パラフィンに換えたことを除いて実施例1と同様の操作を行った。流動パラフィンにトリメチルインジウムは溶解せず、再結晶操作を行うことができなかった。加熱温度を90℃まで上げるとトリメチルインジウムは溶解した。20℃まで冷却したところ、釜内にはトリメチルインジウムの結晶が生成したが、流動パラフィンの粘度が高く、濾過できなかった。
【0027】
[比較例3]
再結晶溶媒をトルエンに換えたことを除いて実施例1と同様の操作を行った。トルエンにトリメチルインジウムは容易に溶解したが、20℃まで冷却してもトリメチルインジウムの結晶は晶析せず、再結晶操作を行うことができなかった。
【符号の説明】
【0028】
1 濾過乾燥機
2 ジャケット
3 SUS焼結金属金網
4 母液ノルマルヘキサン受器
5 撹拌翼
6 還流冷却器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリメチルアルミニウムとインジウムハライドより製造したトリメチルインジウムをノルマルヘキサンで加熱溶解した後、冷却し再結晶を行って、高純度トリメチルインジウムを得ることを特徴とするトリメチルインジウムの精製方法。
【請求項2】
再結晶操作によりトリメチルインジウム中の有機珪素成分と有機アルミニウム成分を除去することを特徴とする請求項1記載の精製方法。
【請求項3】
再結晶操作に濾過乾燥機を用いることを特徴とする請求項1又は2記載の精製方法。

【図1】
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