説明

トリメチルヒドロキノンジアルカノエートの製造方法

本発明は、触媒としてインジウム塩の存在下、ケトイソホロンをアシル化剤と反応させることを含む、2,3,5−トリメチルヒドロキノンジアルカノエートの製造方法に関する。好ましいのは、三塩化インジウムまたはトリス(トリフルオロメタンスルホン酸)インジウムなどのインジウム(III)塩である。本発明の更なる態様は、出発材料として2,3,5−トリメチルヒドロキノンジアルカノエートを用いる2,3,5−トリメチルヒドロキノンの製造方法、特に、2,3,5−トリメチルヒドロキノンジアルカノエートのエステル交換反応による2,3,5−トリメチルヒドロキノンの製造方法と、本発明に従うケトイソホロンの2,3,5−トリメチルヒドロキノンジアルカノエートへの反応を含む、α−トコフェロール(a−tocopherol)およびそのアルカノエート、特に(all−rac)−α−トコフェロールおよびそのアセテートの製造方法とである。更に本発明は、本発明に従うケトイソホロンの2,3,5−トリメチルヒドロキノンジアルカノエートへの反応を含む、α−トコフェロールおよびそのアルカノエートの製剤、特に(all−rac)−α−トコフェロールおよびそのアセテートの製剤の製造方法にも関係する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,3,5−トリメチルヒドロキノンジアルカノエートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
該方法の生成物は、2,3,5−トリメチルヒドロキノンを製造するための反応物として有用であり、それ自体は、ビタミンE群の最も活性なメンバーの(all−rac)−α−トコフェロールを製造するための既知の価値ある反応物である。
【0003】
2,3,5−トリメチルヒドロキノンジアルカノエートは、触媒の存在下でケトイソホロンをアシル化剤と反応させることにより製造可能であることが分かっている。このために、このような触媒はこれまでに多数が提唱されており、特にプロトン酸、例えば、硫酸のような無機酸、p−トルエンスルホン酸のような有機酸、強酸性イオン交換樹脂、ならびに塩化亜鉛、三フッ化ホウ素、五フッ化アンチモンおよび四塩化チタンのようなルイス酸であり、とりわけDE−OS2149159号明細書、EP−A0916642号明細書およびEP−A1028103号明細書が参照される。既知の手順は、使用される特定の触媒によって、触媒のコストおよび安定性の欠如、塩素化化合物の使用、満足のいかない収量、ならびに副産物の形成などの特定の不利益を伴う。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によると、ケトイソホロンの2,3,5−トリメチルヒドロキノンジアルカノエートへの転化は、触媒としてインジウム塩を使用することにより有利に達成できることが分かった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
従って、本発明は、2,3,5−トリメチルヒドロキノンジアルカノエートの製造方法を提供し、該方法は、触媒としてインジウム塩の存在下、ケトイソホロンをアシル化剤と反応させることを含む。
【0006】
本発明の方法で触媒として使用されるインジウム塩はインジウム(III)塩が適当であり、好ましくは、ハロゲン化インジウム(III)(例えば、三塩化、三臭化、または三ヨウ化インジウム)またはインジウム(III)トリフラート[トリス(トリフルオロメタンスルホン酸)インジウム、In(SOCF]である。触媒は、ケトイソホロンの量を基準にして約0.1モル%〜約2モル%の量、好ましくは約0.1モル%〜約1モル%の量で存在することができる。触媒は、無水または水和した(InCl・4HOがその例である)固体形態で反応混合物に添加することができる。また触媒は、溶液または懸濁液において使用することもできる。そのとき、触媒は、反応が実行され得る有機溶媒中に溶解または懸濁される。このような溶液または懸濁液の濃度は重要ではない。更に、触媒は、無水酢酸およびその他のアシル化剤、ならびに酢酸、メタノール、エタノールおよび水などの微量のプロトン溶媒に耐性である。
【0007】
本発明の方法で使用されるアシル化剤は、ケトイソホロンの2,3,5−トリメチルヒドロキノンジアルカノエートへの転化において従来使用されているどのアシル化剤でもよく、特に、酸無水物、ハロゲン化アシル、およびエノールエステルである。
【0008】
酸無水物の例は、無水酢酸、無水プロピオン酸および無水酪酸などの直鎖または分枝鎖アルカン酸無水物である。ハロゲン化アシルの例は、塩化アセチル、塩化プロピオニルおよび塩化ブチリルなどの直鎖または分枝鎖アルカノイル塩化物である。最後に、エノールエステルの例は、酢酸イソプロペニルおよび酪酸イソプロペニルである。
【0009】
好ましいアシル化剤は無水酢酸または塩化アセチルであり、特に無水酢酸である。
【0010】
本発明の方法は、溶媒の存在下または不在下で実行することができる。溶媒としては、不活性の極性または非極性有機溶媒、もしくはこのような溶媒の2つ以上の混合物を使用することができる。本発明の好ましい態様では、反応は溶媒を存在させずに実行される。
【0011】
極性有機溶媒の適切な種類には、脂肪族および環状カーボネート、脂肪族エステルおよび環状エステル(ラクトン)、脂肪族および環状ケトン、ならびにこれらの混合物が含まれる。脂肪族および環状カーボネートの好ましい例は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートおよび1,2−ブチレンカーボネートである。脂肪族エステルおよび環状エステル(ラクトン)の好ましい例は、酢酸エチル、酢酸イソプロピルおよび酢酸n−ブチル、およびγ−ブチロラクトンである。脂肪族および環状ケトンの好ましい例は、アセトン、ジエチルケトンおよびイソブチルメチルケトン、ならびにシクロペンタノンおよびイソホロンである。
【0012】
非極性有機溶媒の適切な種類としては、脂肪族炭化水素および芳香族炭化水素が挙げられる。脂肪族炭化水素の好ましい例は、線状、分枝状または環状のC〜C15−アルカンである。特に好ましいのは、線状、分枝状または環状C〜C10−アルカンであり、とりわけ好ましいのは、へキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサンおよびメチルシクロヘキサンまたはこれらの混合物である。芳香族炭化水素の好ましい例は、ベンゼン、トルエン、o−、m−およびp−キシレン、1,2,3−トリメチルベンゼン、プソイドクメン、メシチレン、ナフタレン、ならびにこれらの混合物である。
【0013】
反応は単一溶媒相において実施され得るが、極性および非極性溶媒を含む2相溶媒系が使用されてもよい。このような2相溶媒系における非極性溶媒の例は、上記で名前を挙げた非極性溶媒である。このような2相溶媒系における極性溶媒の例は、上記で名前を挙げた極性溶媒である。最も好ましい2相溶媒系は、エチレンカーボネートおよび/またはプロピレンカーボネートと、ヘキサン、ヘプタンまたはオクタンとの混合物、特にエチレンカーボネートおよびヘプタンの混合物、プロピレンカーボネートおよびオクタンの混合物、ならびにエチレンカーボネート、プロピレンカーボネートおよびヘプタンの混合物である。
【0014】
ケトイソホロンに対するアシル化剤の比率は厳密に重要ではないが、ケトイソホロンに対するアシル化剤のモル比は約1:1〜約5:1であるのが適切であり、好ましくは約2:1〜約3:1であり、最も好ましくは約3:1である。
【0015】
本発明の方法は、便宜上、約0℃〜約140℃の温度、好ましくは約25℃〜約90℃の温度、より好ましくは約25℃〜約70℃の温度で実行される。
【0016】
更に、該方法は、便宜上、不活性ガス雰囲気下、好ましくは気体窒素またはアルゴン下で実行される。
【0017】
反応の進行は、反応中、様々な時間間隔で反応混合物から採取されるサンプルのガスクロマトグラフィ(GC)および質量分析(MS)によって適切に監視される。
【0018】
生成される2,3,5−トリメチルヒドロキノンジアルカノエートは、粗生成混合物を適切な有機溶媒、例えばトルエンで抽出することにより、残存するアシル化剤およびアシル化で形成される副生成物、例えばアシル化剤として無水酢酸が使用される場合には酢酸を蒸留した後に単離することができる。もう1つの単離手順は、反応の終了後に冷却することによる混合物からの2,3,5−トリメチルヒドロキノンジアルカノエートの結晶化であり、任意選択で、混合物に水を添加して結晶化を促進させる。
【0019】
触媒は、水または酸−水による抽出および抽出物の濃縮によって回収することができる。あるいは、触媒は、2相溶媒系、例えば、カーボネート(特に、エチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネート)および脂肪族炭化水素(特に、ヘプタンまたはオクタン)を添加し、極性(カーボネート)相から単離することによって回収することができる。
【0020】
2,3,5−トリメチルヒドロキノンの製造方法
本発明の方法により得られる2,3,5−トリメチルヒドロキノンジアルカノエートは、例えばエステル交換反応によって、すなわち、アルコール、例えばイソプロパノールまたはn−ブタノールなどの脂肪族アルコールで処理することによって、2,3,5−トリメチルヒドロキノンに転化することができる。アルコールおよび触媒の量ならびに反応混合物の温度に依存して、エステル交換反応は、非エステル化2,3,5−トリメチルヒドロキノンと、更なる生成物として形成されるエステルとを生成する。2,3,5−トリメチルヒドロキノンジアルカノエートから2,3,5−トリメチルヒドロキノンを生成するために当業者に知られているその他の方法が使用されてもよい。このように更なる態様において、本発明は、本発明の方法により得られる2,3,5−トリメチルヒドロキノンジアルカノエートが出発材料として使用される2,3,5−トリメチルヒドロキノンの製造方法にも関係する。
【0021】
α−トコフェロールまたはそのアルカノエートの製造方法
前の生成物、2,3,5−トリメチルヒドロキノンは、好ましくは2相溶媒系において、例えば、エチレンまたはプロピレンカーボネートなどの極性溶媒と、非極性溶媒、特にヘプタンなどの脂肪族炭化水素とを含む溶媒系において、イソフィトール(および/またはフィトール)との反応によって、例えば(all−rac)−α−トコフェロールに転化することができる。中間体または出発材料として2,3,5−トリメチルヒドロキノンジアルカノエート、2,3,5−トリメチルヒドロキノンモノアルカノエートまたは2,3,5−トリメチルヒドロキノンを用いるα−トコフェロールのその他の製造方法は、例えば、米国特許第4,808,736号明細書、EP−A0257503号明細書、EP−A0269009号明細書、米国特許第5,283,346号明細書、米国特許第4,208,334号明細書、EP−A0012824号明細書、EP−A0782993号明細書、米国特許第5,900,494号明細書、国際公開第98/21197号パンフレット、米国特許5,908,939号明細書、EP−A1000940号明細書、米国特許第6,423,851号明細書、EP−A1134218号明細書、米国特許第6,369,242号明細書、国際公開第2004/046127号パンフレットおよび国際公開第2004/063182号パンフレットに開示されている。このように、更なる態様において、本発明は、α−トコフェロールまたはそのアルカノエートの製造方法、特に、(all−rac)−α−トコフェロールおよび/またはそのアセテートの製造方法に関係し、ここで本発明の方法に従って得られる2,3,5−トリメチルヒドロキノンジアルカノエートは、中間体または出発材料として使用される。
【0022】
α−トコフェロールまたはそのアルカノエートの製剤の製造方法
本発明に従う方法によって得られるトリメチルヒドロキノンジアルカノエートを中間体または出発材料として用いて、上記文献に開示される方法の1つによって得られるα−トコフェロールまたはそのアルカノエートは、例えば、米国特許第6,162,474号明細書、米国特許出願公開第2001/0009679号明細書、米国特許第6,180,130号明細書、米国特許第6,426,078号明細書、米国特許第6,030,645号明細書、米国特許第6,150,086号明細書、米国特許第6,146,825号明細書、米国特許第6,001,554号明細書、米国特許第5,938,990号明細書、米国特許第6,530,684号明細書、米国特許第6,536,940号明細書、米国特許出願公開第2004/0053372号明細書、米国特許第5,668,183号明細書、米国特許第5,891,907号明細書、米国特許第5,350,773号明細書、米国特許第6,020,003号明細書、米国特許第6,329,423号明細書、国際公開第96/32949号パンフレット、米国特許第5,234,695号明細書、国際公開第00/27362号パンフレット、EP0664116号明細書、米国特許出願公開第2002/0127303号明細書、米国特許第5,478,569号明細書、米国特許第5,925,381号明細書、米国特許第6,651,898号明細書、米国特許第6,358,301号明細書、米国特許第6,444,227号明細書、国際公開第96/01103号パンフレットおよび国際公開第98/15195号パンフレットに開示されるような当業者には既知の方法によって更に調剤することができる。従って、本発明は、上記のような本発明に従う2,3,5−トリメチルヒドロキノンジアルカノエートへのケトイソホロンの反応を含む、α−トコフェロールおよびそのアルカノエートの製剤、特に(all−rac)−α−トコフェロールおよびそのアセテートの製剤の製造方法にも関する。
【0023】
本発明は、以下の実施例によって説明される。
【実施例】
【0024】
加熱/冷却ジャケットを有し、温度計、Arパージ用ガラス管、還流冷却器およびメカニカルスターラーを備えた230mlの四つ口平底フラスコに、以下の表に与えられる量の触媒および20.65g(133mmol)のケトイソホロンを充填し、黄色の溶液を得た。10分以内に、40.64g(400mmol、37.60ml)の無水酢酸を攪拌下で添加した。添加の間に、混合物は暗い黄色に変化し、最終的には暗褐色に変化した。サーモスタットにより内部温度を調節した。サンプルを回収して定性GC分析を受けさせた。結果は、以下の表に示される。
【0025】
【表1】

【0026】
KIP=ケトイソホロン、TMHQ−DA=2,3,6−トリメチルヒドロキノンジアセテート、TMC−DA=2,3,6−トリメチルカテコールジアセテート。AcO/KIPのモル比は、3/1であった。触媒の量はKIPに基づく。表示された時間の後に反応の抑制。反応の抑制が生じた76時間後に1モル%の触媒を添加したが、この添加後に進展は観察されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒としてインジウム塩の存在下、ケトイソホロンをアシル化剤と反応させることを含む、2,3,5−トリメチルヒドロキノンジアルカノエートの製造方法。
【請求項2】
前記インジウム塩が、三塩化インジウムまたはトリス(トリフルオロメタンスルホン酸)インジウムである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アシル化剤が、酸無水物、ハロゲン化アシルまたはエノールエステルである請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記アシル化剤が、直鎖または分枝鎖アルカン酸無水物、好ましくは、無水酢酸、無水プロピオン酸または無水酪酸であるか、直鎖または分枝鎖アルカノイル塩化物、好ましくは塩化アセチル、塩化プロピオニルまたは塩化ブチリルであるか、あるいはエノールエステル、好ましくは酢酸イソプロペニルまたは酪酸イソプロペニルである請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ケトイソホロンに対する前記アシル化剤のモル比が、約1:1〜約5:1、好ましくは約2:1〜約3:1、最も好ましくは約3:1である請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
触媒として使用されるインジウム塩の量が、ケトイソホロンの量を基準にして約0.1モル%〜約2モル%、好ましくは約0.1〜約1モル%である請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記アシル化反応が、約0℃〜約140℃、好ましくは約25℃〜約90℃、より好ましくは約25℃〜約70℃の温度で実行される請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
得られる2,3,5−トリメチルヒドロキノンジアルカノエートが、2,3,5−トリメチルヒドロキノンを生成するためのエステル交換反応、ならびに2,3,5−トリメチルヒドロキノンとイソフィトールおよび/またはフィトールとの反応によって、(all−rac)−α−トコフェロールに転化される請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法に従って得られる2,3,5−トリメチルヒドロキノンジアルカノエートが、出発材料として使用される2,3,5−トリメチルヒドロキノンの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法により得られる2,3,5−トリメチルヒドロキノンジアルカノエートが、2,3,5−トリメチルヒドロキノンにエステル交換される請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法に従うケトイソホロンの2,3,5−トリメチルヒドロキノンジアルカノエートへの反応を含む、α−トコフェロールおよびそのアルカノエート、特に(all−rac)−α−トコフェロールおよびそのアセテートの製造方法。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法に従うケトイソホロンの2,3,5−トリメチルヒドロキノンジアルカノエートへの反応を含む、α−トコフェロールおよびそのアルカノエートの製剤、特に(all−rac)−α−トコフェロールおよびそのアセテートの製剤の製造方法。

【公表番号】特表2007−516262(P2007−516262A)
【公表日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−544280(P2006−544280)
【出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【国際出願番号】PCT/EP2004/013903
【国際公開番号】WO2005/058792
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】