説明

トリュフ栽培用の培地、トリュフ菌糸体、及びトリュフ子実体

【課題】本発明は、活性酸素消去能力の高いトリュフを栽培するための培地及びこの培地を用いて培養されたトリュフ菌糸体及びトリュフ子実体を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のトリュフ栽培用の培地は、米糠、ふすま、及びブドウ糖のうち少なくとも1つを含んだ糖類と、牛蒡、ナッツ類、及びベリー類のうち少なくとも1つを含んだ食用材料と、の混合物である。その混合物は、糖類の重量を1としたときに食用材料の重量が0.5〜5の比率になるように混ぜ合わせてなることを特徴とする。なお、食用材料は、粒状に粉砕された牛蒡であることが好ましい。この培地にトリュフ種菌を注入して培養させたトリュフ菌糸体及びトリュフ子実体を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリュフを栽培するための培地(培養基)に関するものであり、より詳細には、活性酸素消去能力の高いトリュフ菌糸体及びトリュフ子実体を培養させる培地に関するものである。
【背景技術】
【0002】
活性酸素は病気や老化の一因とされ、近年、これを除去・抑制させることが望まれている。活性酸素を取り除く成分としては、例えば、多糖類であるβ―グルカン、ビタミンC、ビタミンE、サポニン、カテキン、フラボノイド、タンニン、β―カロチン、ポリフェノール、アントシアニン等が知られている。
【0003】
ところで、キノコには、様々な生理活性があることが知られており、自然環境や生活環境の影響によって、生体が受けるダメージを抑制する効果があることが知られている。
【0004】
例えば、カバノアナタケは、スーパー・オキサイド・ディスムターゼ(SOD)という酵素を含有し、生体中のエネルギー代謝過程で生成する僅かな活性酸素によって、発症する可能性のある癌、心筋梗塞、脳血管障害、糖尿病、肝炎及び痴呆等の予防や治療に効果があることが知られている。
【0005】
また、トリュフにも免疫性改善や高脂血症改善等の効果を有することが知られている。トリュフは、フランス産のペリゴール・トリュフ(黒トリュフとも呼ばれている、学名:Tuber melanosporum)や、イタリア産の白トリュフ(学名:Tuber magnatum pico)、日本では、クロアミメセイヨウショウロ(学名:Tuber aestivum)が広く知られている。
【0006】
なお、特許文献1には、白トリュフを人工的に栽培する方法が開示されている。また、特許文献2には、トリュフの子実体や菌体等をエタノール等の溶媒で抽出したもの(トリュフの抽出物)が生体の老化抑制に効果があることが開示されている。特許文献3には、トリュフの抽出物が皮膚の保湿や免疫低下予防に効果があることが開示されている。特許文献4には、トリュフの抽出物が分泌型イムノグロブリンA(IgA)分泌促進、免疫バランス改善、抗高脂血症に効果があることが開示されている。
【0007】
上述の特許文献2〜4に例示されるように、一般に入手可能なトリュフを単なる珍味として食するだけでなく、トリュフ中の有効成分を抽出し、この抽出物を他の素材と組み合わせることで、生体機能の保護・改善、各種疾患の予防用に活用できる機能性食品を提供できることを意味している。
【0008】
しかしながら、特許文献2〜3に開示の手法では、原料の一部であるトリュフの子実体は、従来の方法で製造・市販された材料を利用しているに留まり、トリュフ菌糸体ひいてはトリュフ子実体を培養するための培地(培養基とも呼ぶ)について更なる検討又は改善を試みたものではない。
【0009】
なお、一般的なトリュフ培養基には、大鋸屑(木屑または木片)と米糠その他の栄養素などを混合・調製したものを用いる。培養基に穴を穿って種菌を注入し、低温に継続して培養する。その後、一週間ほどで培地全面に白色の菌糸がケバ立ったように生育しはじめ、1〜2ケ月で充分に菌糸が蔓延する(つまり、トリュフ菌糸体が形成される)。3〜4ケ月もすると、白色の気菌糸で覆われた培地表面に2〜3cm程度のトリュフ子実体が形成される。
【0010】
以上のように育成が完了し、培養基から採取されたトリュフ子実体は、食用成分として適さない大鋸屑を含まないため、珍味な食材として市場に提供することができる。しかしながら、培養途中段階であるトリュフ菌糸体を培養基から取り出そうとした場合は、食用に供さない大鋸屑を完全に分離してトリュフ菌糸体を得ることが出来ず、機能性食品の原料として利用するためには、その後の後処理を行う必要があった。
【0011】
また、従来の方法で培養されたトリュフ及びその抽出物には活性酸素消去能力(抗酸化力)が多少認められるかもしれないが、未だ、改善の余地がある。また、これを培養するための一般的な培地(培養基)については、それ自体が優れた抗酸化力を有しているとは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平10―127164号公報
【特許文献2】特開2002―249438号公報
【特許文献3】特開2006―69969号公報
【特許文献4】特開2010−222265号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】C. Folch-Cano 他3名,“Antioxidant activity of inclusion complexes of tea catechins with β−cyclodextrins by ORACassays”,FoodResearch International, 43,(2010), 2039−2044
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、活性酸素消去能力の高いトリュフ(トリュフ子実体)を提供することを目的とする。
【0015】
また、本発明は、活性酸素消去能力の高いトリュフを栽培するための培地及びこの培地を用いて培養されたトリュフ菌糸体を提供することを目的とする。
【0016】
本発明者は、鋭意検討の末、培地の原材料として、従来の方法において専ら使用されている大鋸屑に替えて、活性酸素吸収能力(ORAC:Oxygen Radical Absorbance Capacity)が高くかつ食用できる原料(つまり、抗酸化力の高い食用材料)を使用すれば、その培地のみならず、その培地に注入されたトリュフ種菌が食用材料を吸収することで、その培地で培養されるトリュフ菌糸体ひいてはトリュフ子実体も、従来のトリュフに比べて飛躍的に活性酸素消去能力を高くすることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0017】
すなわち本発明は、例えば、以下の構成・特徴を備えるものである。
米糠、ふすま、及びブドウ糖のうち少なくとも1つを含んだ糖類と、
牛蒡、ナッツ類、及びベリー類のうち少なくとも1つを含んだ食用材料と、
を、前記糖類の重量を1としたときに前記食用材料の重量が0.5〜5の比率になるように混ぜ合わせてなるトリュフ栽培用の培地。
【0018】
ここで、食用材料は、牛蒡、ナッツ類(例えば、クルミ)、及びベリー類(例えば、ブルーベリー)のうちから少なくとも1つ選択されているが、これらの野菜又は果物は、食用に供することができるとともにORAC値が非常に高いことが知られている。
【0019】
また、本発明では、従来の培地の原料としていた大鋸屑を全く使用せず、この食用材料が大鋸屑の代替物となっている。これにより、培養されるトリュフ菌糸体もそのまま食用可能な材料となるため、トリュフ菌糸体の利用範囲が拡大するメリットがある。
【0020】
なお、仕入等の原料コストの面からは、食用材料が牛蒡を含んでいることが好ましく、後述する本発明の効果を高めるには、例えば、1mm〜10mm程度の粒径を有するように粒状に粉砕された牛蒡を使用することが好ましい。粒径が1mm未満の粒になると、牛蒡は粉末に近い状態になり、これを用いた培地は通気性悪く、菌糸体が良好に培養されないからである。一方、粒径が10mmを超えると、糖類と良く混合しないために適切な培地を作ることができないからである。
【0021】
また、米糠等の糖類と食用材料とを混合する際は、重量比が糖類を1としたときに、食用材料が0.5〜5となるような重量比で混合することが好ましく、さらに好ましくは、食用材料が1〜2となるような重量比で混合することが好ましい。ここで、食用材料の割合が0.5未満となると、トリュフが培養過程で栄養障害を起こすので好ましくない。一方、食用材料の割合が5を超えると、トリュフの培養に要する時間が許容できない程に長時間になるために好ましくない。
【0022】
また、本発明に適用するトリュフ種菌は、特に限定されないが、黒トリュフ(学名:Tuber melanosporum)用の種菌や、白トリュフ(学名:Tuber magnatum pico)用種菌、クロアミメセイヨウショウロ(学名:Tuber aestivum)用種菌が挙げられる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、活性酸素消去能力が非常に高いトリュフ菌糸体及びトリュフ子実体を容易に栽培することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】ORAC分析法によりモニタリングした本発明のトリュフ培養物の蛍光強度減少を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
先ず、本発明の培地とその培地によってトリュフ種菌を注入して培養させた培養物について説明する。
【0026】
(実施例1の培地及び培養物)
本発明の実施例1の培養条件として、米糠0.5kg、牛蒡0.5kgと、を良く混ぜ合わせて培地とし、この培地にトリュフ菌子体10g、を注入してさらに混合し、無菌容器に移して無菌環境下のクリーンベンチ内に20℃の温度で60日間保管した。60日間の培養後、この培養物1gを試験管(20ml容量)に採取し、80%濃度のメタノール10mlを加えて、100〜105℃にて30分間ホットプレート中で加熱抽出した。この抽出液を取り出し、8000rpmで10分間、遠心分離操作を行って得られた上澄液を回収した。回収した上澄液は−20℃で冷凍保存した。
【0027】
なお、後述する抗酸化力(ORAC)の評価に際しては、この分析法による評価が適切に行えるように、上述した上澄液の濃度調整を行った。具体的には、冷凍保存しておいた上澄液から10μlを採り出し、25℃に加温した後、80%濃度メタノール溶液9990μlを加えて希釈した。
【0028】
(実施例2の培地及び培養物)
本発明の実施例2の培養条件として、培地を用意する際の米糠と牛蒡との重量を、米糠0.5kg、牛蒡1.0kgと、に設定した点のみが実施例1と異なり、それ以外の点は実施例1と同じであり、その説明は省略する。
【0029】
(比較例の培地及び培養物)
本発明のトリュフ培養物の作用効果を確認するために従来方法でもトリュフ培養物を作成し、これを比較例とした。具体的には、比較例の培地は、米糠0.5kgと大鋸屑1.0kgとを混合させたものであり、それ以外の点は実施例1と同じであり、その説明は省略する。
【0030】
(活性酸素吸収能力ORACに関する効果確認)
ORAC(Oxygen Radical Absorbance Capacity:活性酸素吸収能力)は1992年に米国農務省(USDA)と国立老化研究所(National Institute on Aging)の研究者らにより開発された抗酸化力を示す指標である。このORACの分析法は、特に食品中の抗酸化力の分析に優れており、この分析法によるORACのデータベースは、野菜や果物などの食品素材や加工食品に至るまで充実している。
【0031】
(ORAC分析原理)
一定の活性酸素種を発生させ、それによって分解される蛍光物質の蛍光強度を測定し、経時的に減少する蛍光強度の曲線を描いた場合、この反応系に抗酸化物質が共存すると蛍光物質の蛍光強度の減少速度が遅延する。この測定原理に基づき、検体(もしくは標準物質)存在下での蛍光強度の曲線下面積AUC(Area Under the Curve)と、検体等が存在しない状態(ブランク状態)でのAUCとの差(net AUCと呼ぶ。)を算出する。検体のnet AUCについては、濃度既知の標準物質(Trolox 登録商標)のnet AUCに対する相対値を求める。その相対値を基にTrolox濃度に換算して検体の活性酸素吸収能力とする。なお、net AUCの単位は、μmol TE/gである。
【0032】
上述した実施例1、実施例2、及び比較例のトリュフ培養物に対して上記評価を行った。ここで評価に際しては、標準物質としてトロロックス1mMのトロロックス溶液を調製し、更に80%メタノール溶液で0.782μM〜50μM間の濃度を段階的に変えたトロロックス溶液を用意した。
【0033】
上記測定のため蛍光色素には、緑色色素であるフルオレセインを使用し、活性酸素消去反応開始剤(ラジカル発生剤)には、2,2’-アゾビス二塩酸(2,2’-azo-bis(2-amidinopropane)dihydrochloride)AAPHを使用した。蛍光強度をモニタリングするための分析機器には、96穴黒色プレート(商品名OptiPlate-96、PerkinElmer社製)と、マルチラベルリーダ(商品名ARVOX、PekinElmer社製)とを用いた。なお、本評価の実施手順は、上記非特許文献1の評価手順を参考にした。
【0034】
図1に、ブランク状態、比較例、及び本発明の実施例の場合における蛍光強度減少のモニタリング結果を示す。また、以下の表1及び表2に、ブランク状態、各濃度の標準物質(トロロックス溶液)、比較例及び本発明の実施例1の分析結果(AUC及びnet AUC)を示す。なお、比較例及び本発明の実施例1として用いた培養物は、上述したように本評価のためにエタノールで1000倍希釈しているため、実際のトリュフ培養物のnet AUC(抗酸化力)は、その1000倍になると予測される。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
これらの測定結果より、従来の手法で用意された培地から培養された比較例の培養物に対して、本発明の培養物は高い抗酸化力を示すことがわかる。より具体的には、米糠と牛蒡との重量比が1:1の培地から培養された実施例1の培養物は、比較例の場合と比較して約3倍の抗酸化力(net AUC)を示すことがわかった。なお、図表に示さなかったが、米糠と牛蒡との重量比が1:2の培地から培養された実施例2の培養物では、実施例1と同様に、比較例の場合よりも高い抗酸化力を示すことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
上述したように、トリュフは、今後、珍味な食材として用いられるだけでなく、生体にとって有用な機能性食品の原料として利用されていくものと考えられる。本発明によって製造されるトリュフ菌糸体及びトリュフ子実体は、通常入手できるトリュフに比べ、それ自体が高い抗酸化力を有するものとなるため、より高い価値を付加した食材、或いは機能性食品の原料になると考えられる。従って、本発明は産業上の利用価値が非常に高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
米糠、ふすま、及びブドウ糖のうち少なくとも1つを含んだ糖類と、
牛蒡、ナッツ類、及びベリー類のうち少なくとも1つを含んだ食用材料と、
を、前記糖類の重量を1としたときに前記食用材料の重量が0.5〜5の比率になるように混ぜ合わせてなるトリュフ栽培用の培地。
【請求項2】
前記食用材料が粒状に粉砕された牛蒡であることを特徴とする請求項1に記載のトリュフ栽培用の培地。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の培地にトリュフ種菌を注入して培養させたトリュフ菌糸体。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の培地にトリュフ種菌を注入して培養させたトリュフ子実体。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−143170(P2012−143170A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2460(P2011−2460)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(509080244)新潟麦酒株式会社 (3)
【Fターム(参考)】