トリレンジイソシアネート系ポリウレア化合物の分解処理方法
【課題】 これまで廃棄処分するしかなかったトリレンジイソシアネート(TDI)製造時に副生するウレア残さに、アルカリ等の加水分解促進剤を添加することなく、再利用可能なトリレンジアミン(TDA)を回収でき、また、反応装置の腐食性の問題を起こすことのないTDI系ポリウレア化合物の分解処理方法を提供する。
【解決手段】 TDI系ポリウレア化合物を超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素中で加水分解することを特徴とする、TDI系ポリウレア化合物の分解処理方法により解決する。
【解決手段】 TDI系ポリウレア化合物を超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素中で加水分解することを特徴とする、TDI系ポリウレア化合物の分解処理方法により解決する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリレンジイソシアネート(以後、TDIと略称する)系ポリウレア化合物を加水分解してトリレンジアミン(以後、TDAと略称する)を回収する、TDI系ポリウレア化合物の分解処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンは、ポリイソシアネートとポリオールとの重付加反応により合成される高分子材料である。ポリウレタンは、配合、処方、成形方法等により、種々の物性を付与することが可能である。このため、フォーム、エラストマー、塗料、接着剤等多種多様に利用されている。
【0003】
ポリウレタンの原料であるイソシアネートは、対応するアミンをホスゲンと反応させることにより得られているが、この際の副生成物として、ウレア残さが生成する。この残さは、常温下で固化するタール状の物質であり、ハンドリングが難しいため、従来はもっぱら焼却処理される廃棄物であった。
【0004】
この残さを分解・回収する方法として、超臨界状態又は亜臨界状態の水を用いてウレア残さを処理する方法が特許文献1に提案されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、超臨界状態又は亜臨界状態の水とするためには、高温(臨界温度=374℃)・高圧(臨界圧力=22.1MPa)の下で行うという過酷な条件が必要であるため、重厚な設備を必要とする。また超臨界状態又は亜臨界状態の水は、金属腐食の問題を内包しており、反応容器他の装置の維持管理が煩雑となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
特開2000−136264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、これまで廃棄処分するしかなかったTDI製造時に副生するポリウレア化合物を含有する残さに、アルカリ等の加水分解促進剤を添加することなく、再利用可能なポリアミンを回収でき、また、反応装置の腐食性の問題を起こすことのないTDI系ポリウレア化合物の分解処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、TDI系ポリウレア化合物を、超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素中にて、加水分解させることにより、TDAの効率的な回収、及びそのための好適条件を見い出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下の(1)〜(3)に示されるものである。
【0009】
(1)TDI系ポリウレア化合物を超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素中で、液体または気体状態の水を用いて加水分解し、TDAを回収することを特徴とする、TDI系ポリウレア化合物の分解処理方法。
【0010】
(2)TDI系ポリウレア化合物の質量に対して、水の質量が20倍以上であることを特徴とする、前記(1)のTDI系ポリウレア化合物の分解処理方法。
【0011】
(3)加水分解時の温度が170℃以上、374℃未満であることを特徴とする、前記(1)、(2)のTDI系ポリウレア化合物の分解処理方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法により、従来産業廃棄物として処分されていたTDI製造時の残さをアルカリ等の添加剤を使うことなく、TDAに効率よく変換することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、TDI系ポリウレア化合物とは、主に−NH−CO−NH−なる基(ウレア基)が、−(C6H4)−(トリル基)のオルソ位に−NH−が、パラ位に−NH−CO−が別れて隣接する繰り返し単位の化合物であり、前記ウレア基の一部がビウレット基となっているものも含む。具体的には、主にTDI製造時に副生する残さとして生成するものである。また残さとは、TDI製造時に発生する残さを意味する。
【化1】
【0014】
本発明の分解に用いられるTDI系ポリウレア化合物としてはTDI製造時に副生する残さであればいずれの工程で発生したものでもよい。具体的には、TDA製造工程、TDAとホスゲンの反応工程、TDI精製工程等のいずれかで副生する残さである。これら残さは各工程においては溶融、溶解していてもよい。なお本発明に適用できる残さとしてはホスゲンを用いて製造されるTDIには限定されず、非ホスゲン法で製造する場合それらの各工程のいずれかの工程で副生する残さをも分解することができることは言うまでもない。
【0015】
残さとしてはいずれを用いても良いが通常、各工程で発生した残さを固液分離工程、蒸留工程等により液状成分と分離した後に用いられる。
【0016】
これらTDI製造時に副生する残さは主としてアミン、イソシアネート等の熱重縮合物からなる混合物である。熱重縮合物は例えばウレア(ウレタン)、ビウレット、カルボジイミド、イソシアヌレート等の基又は環を有している。特にこれらの基又は環を複数有する複雑な構造を有する化合物が多く含有されている。
【0017】
上記の残さのようなTDI系ポリウレア化合物は、超臨界又は亜臨界状態の二酸化炭素中で、液体または気体状態の水を用いて、TDAに加水分解される。
【0018】
TDI系ポリウレア化合物と水の割合は、TDI系ポリウレア化合物の質量に対して、水の質量が20倍以上であることが好ましい。水の量が少なすぎる場合は、TDI系ポリウレア化合物への水の拡散が不十分になる。
【0019】
加水分解時の温度は170℃以上、374℃未満が好ましく、特に180℃以上、374℃未満がより好ましい。温度が170℃よりも低い場合は分解速度が遅くなる。
なお、圧力は1MPa・s以上22.1MPa・s未満が好ましく、特に5〜20MPa・sがより好ましい。
【0020】
TDI系ポリウレア化合物の加水分解時間は、特に制限されないが、所定温度に達した後、1分〜300分、好ましくは1分〜150分の範囲で行う。
【0021】
水と、TDI系ポリウレア化合物の混合加熱は、以下のいずれの方法によっても良いが、3)が好ましい。
1)水とTDI系ポリウレア化合物とを予め所定の温度にしておいて混合する。
2)水を、TDI系ポリウレア化合物と混合したときに所定温度になるように加熱しておき、加熱された水とTDI系ポリウレア化合物とを混合することにより分解温度とする。
3)水とTDI系ポリウレア化合物を予めスラリー調製ドラム等において所定濃度になるように混合してスラリーを調製した後、分解温度まで加熱する。
【0022】
このようにしてTDI系ポリウレア化合物を分解して得られた水溶液中には、TDAが主成分として含まれていることは言うまでもなく、TDAを通常の蒸留や抽出等の方法によって容易に回収することができる。回収されたTDAは、必要によりさらに精製されたのち、TDI製造工程に原料として用いることができる。
【0023】
TDAが分離された水溶液中には二酸化炭素を主成分とする軽沸点成分が溶解しているが、これをスチームストリッピング等を実施することにより除去したのち、あるいは除去することなく、加水分解用の水として循環使用することもできる。あるいは、通常の廃水処理をしたのち排水することもできる。
【0024】
TDI製造時の蒸留残さとは、TDIの製造設備のいずれかの工程において蒸留することによって発生した蒸留残さであればいずれでもよい。通常、主にアミン製造工程又はアミンとカルボニル源例えばホスゲンとを反応する工程で得られた反応液を蒸留することにより生じる。
【0025】
この蒸留残さの副生量はその製造方法によって異なるが、製造されるTDIに対して約10質量%程度の量である。この蒸留残さは通常液状であり、揮発成分を数10質量%、例えば50〜10質量%含有している。
【0026】
本発明において、上記蒸留残さから揮発成分を実質的に含有しない状態までに回収する装置としては薄膜蒸発器、ニーダー等攪拌及び加熱手段を有する装置等通常の揮発回収工程において用いられるものが挙げられる。これらの中で特にピストンフロー性を有する二相流型蒸発装置を用いることが好ましい。
【0027】
ピストンフロー性を有する蒸発装置とは、装置の上流から下流への一定方向に向かって被蒸発体が流れる設備のことを意味する。二相流型蒸発装置とは、少なくとも気液、気固のいずれかの二相の流れを有する蒸発装置であり、気液固の三相が共存してもよい。
【実施例】
【0028】
以下実施例により本発明を更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を何等制限するものではない。
【0029】
〔TDI系ポリウレア化合物の合成〕
メカニカルスターラーをつけたセパラブルフラスコ中、窒素気流下で2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)5.05gをジメチルホルムアミド(DMF)30mlに溶解させた。TDIのDMF溶液を撹拌しながら、80℃のオイルバスにて蒸留水0.54g/DMF100mlの混合液を、滴下ロートを用いて、約30分かけてTDIのDMF溶液に加えた。その後、80℃のオイルバスにて8時間、撹拌しながら加熱混合を続けた。反応液は、淡黄色の透明な液体であった。赤外分光測定により、イソシアネート基の吸収がなくなったことを確認した後、反応液を大過剰(2000ml)の水へ滴下して加え、得られた白色沈殿物を吸引濾過により回収した。濾物は、水とメタノールにて数回洗浄した後、減圧乾燥して、白色粉末状のTDI系ポリウレア化合物4.00gを収率93.2%で得た。得られたTDI系ポリウレア化合物は、DMF、ジメチルスホキサイド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMA)に可溶で、メタノール、クロロホルムなどの有機溶剤には溶解しなかった。
【0030】
〔TDI系ポリウレア化合物の分解〕
実施例1〜8、比較例1〜3
マグネットスターラーを入れた容量:200mlのステンレス製オートクレーブに、前記TDI系ポリウレア化合物0.5g及び所定量の水(比較例1は不使用)を仕込み、容器内の空気を二酸化炭素ガスで置換した。その後、オートクレーブに液化炭酸ガスを仕込み、バンドヒーターを取り付けて1時間加熱し、所定の内圧及び温度に達したところで、2時間撹拌した。その後、氷浴にオートクレーブを浸けて、すばやく冷却した後、常圧に戻し、反応混合物を水で濾過して、水への可溶物と不溶物に分けて回収した。可溶物は、ロータリーエバポレータを用いて濃縮し、残った残さを回収した。分解率(Decomposition ratio(%))は、仕込量からの重量減少率とした。
実施例の結果(実施例1〜8、比較例1〜3、比較例1は水を用いず)を表1に示す。不溶物(濾物)をFT−IR測定したところ(図1)、分解前のTDI系ポリウレア化合物のチャートと大きな差は見られなかった。また、ロータリーエバポレータを用いて濃縮して得られた、水へ可溶な成分は茶色みを帯びた黒色固体であった。該可溶物を 1H−NMR測定したところ(図2)、当該物質は2,4−トリレンジアミン(TDA)と同定できた。
TDI系ポリウレア化合物の重量損失温度は5%重量損失(Td5)が240.3℃、10%重量損失(Td10)が265.7℃であった。分解試験後に得られた水に不溶の濾物も同様の結果が得られた。
【0031】
【表1】
【0032】
FT−IR測定条件
測定機器:FTS3000型FT−IR測定装置(Bio−Rad社製)
測定法 :KBr法
検出器 :MCT
測定範囲:400〜4000cm-1
感度 :2
分解能 :4cm-1
積算回数:32
【0033】
1H−NMR測定条件
溶媒 :重水(D2O)
測定装置:超伝導多核種磁気共鳴装置JNM−GC400(日本電子社製)
積算回数:8回
【0034】
熱重量損失測定条件
測定機器:Thermo Plus ステーション及びTG8120(理学電気社製)
標準試料:アルミナ(Al2O3)
温度範囲:30〜450℃
昇温速度:10℃/分
窒素流量:100ml/分
【0035】
表1に示されている温度と圧力は、水の臨界条件(374℃、22.1MPa)に達していないので、水は超臨界状態にはなっていないと判断できる。表1の比較例1(水添加なし)、および実施例1〜4(水添加量(ml)10,20,40,80)は、温度190℃,圧力5.0MPaで2時間反応させた時のTDI系ポリウレア化合物の分解率に対する水添加量の影響を図3に示す。比較例1(水添加なし)でも28.7%の重量減少が確認され、水を10ml以上添加するとほぼ完全に分解する。TDI系ポリウレア化合物は、熱分解しやすいポリウレアであり、水の添加により、加水分解反応が促進されたものと考えられる。
【0036】
表1の比較例2、3、実施例2について、縦軸に分解率、横軸に温度をとったグラフを図4に示す。一定の圧力下で温度を120(比較例2),160(比較例2),190℃(実施例2)に加熱したところ、比較例2の重量減少率は12.4%と低かったのに対して、加熱に伴って分解率は顕著に上昇した。図4から、十分な分解率となるためには、温度が170℃以上であることが分かる。この結果から、分解時の温度は170℃以上、好ましくは180℃以上が適しているということが言える。
【0037】
表1の実施例5〜8について、縦軸に分解率、横軸に圧力をとったグラフを図5に示す。190℃、水20ml、反応時間2時間における種々の圧力下での重量減少率を示す。
分解率は、すべて99.9%以上であった。このことからTDI系ポリウレア化合物の分解反応は、圧力に依存しないことがわかる。TDI系ポリウレア化合物の繰り返し単位が非対称であるので、対称の繰り返し単位をもつヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)等の脂肪族系ポリウレア化合物よりも結晶性が低く、二酸化炭素によるウレタン基間の水素結合を切断する必要がなくなったためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】比較例3における、分解前のTDI系ポリウレア化合物及び分解後の濾物のFT−IRチャートである。
【図2】重水(D2O)可溶物の1H−NMRチャートである。
【図3】温度一定下(190℃)、圧力ほぼ一定(4.5〜5.2MPa)下、水添加量を変化させたときのTDI系ポリウレア化合物の分解結果である。
【図4】圧力一定下(5.0MPa)、水添加量一定下(20ml)で、温度を変化させたときのTDI系ポリウレア化合物の分解結果である。
【図5】温度一定(190℃)、水20ml、反応時間2時間における圧力を変化させたときのTDI系ポリウレア化合物の分解結果である。
【符号の説明】
【0039】
図1において
1.:分解前のTDI系ポリウレア化合物のFT−IRチャートである。
2.:分解後の濾物のFT−IRチャートである。
図2において
a:メチル基に隣接するメチレン基の水素のピークである。
b,c:アミノ基に隣接するメチレン基の水素のピークである。
d:メチル基の水素のピークである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリレンジイソシアネート(以後、TDIと略称する)系ポリウレア化合物を加水分解してトリレンジアミン(以後、TDAと略称する)を回収する、TDI系ポリウレア化合物の分解処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンは、ポリイソシアネートとポリオールとの重付加反応により合成される高分子材料である。ポリウレタンは、配合、処方、成形方法等により、種々の物性を付与することが可能である。このため、フォーム、エラストマー、塗料、接着剤等多種多様に利用されている。
【0003】
ポリウレタンの原料であるイソシアネートは、対応するアミンをホスゲンと反応させることにより得られているが、この際の副生成物として、ウレア残さが生成する。この残さは、常温下で固化するタール状の物質であり、ハンドリングが難しいため、従来はもっぱら焼却処理される廃棄物であった。
【0004】
この残さを分解・回収する方法として、超臨界状態又は亜臨界状態の水を用いてウレア残さを処理する方法が特許文献1に提案されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、超臨界状態又は亜臨界状態の水とするためには、高温(臨界温度=374℃)・高圧(臨界圧力=22.1MPa)の下で行うという過酷な条件が必要であるため、重厚な設備を必要とする。また超臨界状態又は亜臨界状態の水は、金属腐食の問題を内包しており、反応容器他の装置の維持管理が煩雑となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
特開2000−136264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、これまで廃棄処分するしかなかったTDI製造時に副生するポリウレア化合物を含有する残さに、アルカリ等の加水分解促進剤を添加することなく、再利用可能なポリアミンを回収でき、また、反応装置の腐食性の問題を起こすことのないTDI系ポリウレア化合物の分解処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、TDI系ポリウレア化合物を、超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素中にて、加水分解させることにより、TDAの効率的な回収、及びそのための好適条件を見い出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下の(1)〜(3)に示されるものである。
【0009】
(1)TDI系ポリウレア化合物を超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素中で、液体または気体状態の水を用いて加水分解し、TDAを回収することを特徴とする、TDI系ポリウレア化合物の分解処理方法。
【0010】
(2)TDI系ポリウレア化合物の質量に対して、水の質量が20倍以上であることを特徴とする、前記(1)のTDI系ポリウレア化合物の分解処理方法。
【0011】
(3)加水分解時の温度が170℃以上、374℃未満であることを特徴とする、前記(1)、(2)のTDI系ポリウレア化合物の分解処理方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法により、従来産業廃棄物として処分されていたTDI製造時の残さをアルカリ等の添加剤を使うことなく、TDAに効率よく変換することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、TDI系ポリウレア化合物とは、主に−NH−CO−NH−なる基(ウレア基)が、−(C6H4)−(トリル基)のオルソ位に−NH−が、パラ位に−NH−CO−が別れて隣接する繰り返し単位の化合物であり、前記ウレア基の一部がビウレット基となっているものも含む。具体的には、主にTDI製造時に副生する残さとして生成するものである。また残さとは、TDI製造時に発生する残さを意味する。
【化1】
【0014】
本発明の分解に用いられるTDI系ポリウレア化合物としてはTDI製造時に副生する残さであればいずれの工程で発生したものでもよい。具体的には、TDA製造工程、TDAとホスゲンの反応工程、TDI精製工程等のいずれかで副生する残さである。これら残さは各工程においては溶融、溶解していてもよい。なお本発明に適用できる残さとしてはホスゲンを用いて製造されるTDIには限定されず、非ホスゲン法で製造する場合それらの各工程のいずれかの工程で副生する残さをも分解することができることは言うまでもない。
【0015】
残さとしてはいずれを用いても良いが通常、各工程で発生した残さを固液分離工程、蒸留工程等により液状成分と分離した後に用いられる。
【0016】
これらTDI製造時に副生する残さは主としてアミン、イソシアネート等の熱重縮合物からなる混合物である。熱重縮合物は例えばウレア(ウレタン)、ビウレット、カルボジイミド、イソシアヌレート等の基又は環を有している。特にこれらの基又は環を複数有する複雑な構造を有する化合物が多く含有されている。
【0017】
上記の残さのようなTDI系ポリウレア化合物は、超臨界又は亜臨界状態の二酸化炭素中で、液体または気体状態の水を用いて、TDAに加水分解される。
【0018】
TDI系ポリウレア化合物と水の割合は、TDI系ポリウレア化合物の質量に対して、水の質量が20倍以上であることが好ましい。水の量が少なすぎる場合は、TDI系ポリウレア化合物への水の拡散が不十分になる。
【0019】
加水分解時の温度は170℃以上、374℃未満が好ましく、特に180℃以上、374℃未満がより好ましい。温度が170℃よりも低い場合は分解速度が遅くなる。
なお、圧力は1MPa・s以上22.1MPa・s未満が好ましく、特に5〜20MPa・sがより好ましい。
【0020】
TDI系ポリウレア化合物の加水分解時間は、特に制限されないが、所定温度に達した後、1分〜300分、好ましくは1分〜150分の範囲で行う。
【0021】
水と、TDI系ポリウレア化合物の混合加熱は、以下のいずれの方法によっても良いが、3)が好ましい。
1)水とTDI系ポリウレア化合物とを予め所定の温度にしておいて混合する。
2)水を、TDI系ポリウレア化合物と混合したときに所定温度になるように加熱しておき、加熱された水とTDI系ポリウレア化合物とを混合することにより分解温度とする。
3)水とTDI系ポリウレア化合物を予めスラリー調製ドラム等において所定濃度になるように混合してスラリーを調製した後、分解温度まで加熱する。
【0022】
このようにしてTDI系ポリウレア化合物を分解して得られた水溶液中には、TDAが主成分として含まれていることは言うまでもなく、TDAを通常の蒸留や抽出等の方法によって容易に回収することができる。回収されたTDAは、必要によりさらに精製されたのち、TDI製造工程に原料として用いることができる。
【0023】
TDAが分離された水溶液中には二酸化炭素を主成分とする軽沸点成分が溶解しているが、これをスチームストリッピング等を実施することにより除去したのち、あるいは除去することなく、加水分解用の水として循環使用することもできる。あるいは、通常の廃水処理をしたのち排水することもできる。
【0024】
TDI製造時の蒸留残さとは、TDIの製造設備のいずれかの工程において蒸留することによって発生した蒸留残さであればいずれでもよい。通常、主にアミン製造工程又はアミンとカルボニル源例えばホスゲンとを反応する工程で得られた反応液を蒸留することにより生じる。
【0025】
この蒸留残さの副生量はその製造方法によって異なるが、製造されるTDIに対して約10質量%程度の量である。この蒸留残さは通常液状であり、揮発成分を数10質量%、例えば50〜10質量%含有している。
【0026】
本発明において、上記蒸留残さから揮発成分を実質的に含有しない状態までに回収する装置としては薄膜蒸発器、ニーダー等攪拌及び加熱手段を有する装置等通常の揮発回収工程において用いられるものが挙げられる。これらの中で特にピストンフロー性を有する二相流型蒸発装置を用いることが好ましい。
【0027】
ピストンフロー性を有する蒸発装置とは、装置の上流から下流への一定方向に向かって被蒸発体が流れる設備のことを意味する。二相流型蒸発装置とは、少なくとも気液、気固のいずれかの二相の流れを有する蒸発装置であり、気液固の三相が共存してもよい。
【実施例】
【0028】
以下実施例により本発明を更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を何等制限するものではない。
【0029】
〔TDI系ポリウレア化合物の合成〕
メカニカルスターラーをつけたセパラブルフラスコ中、窒素気流下で2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)5.05gをジメチルホルムアミド(DMF)30mlに溶解させた。TDIのDMF溶液を撹拌しながら、80℃のオイルバスにて蒸留水0.54g/DMF100mlの混合液を、滴下ロートを用いて、約30分かけてTDIのDMF溶液に加えた。その後、80℃のオイルバスにて8時間、撹拌しながら加熱混合を続けた。反応液は、淡黄色の透明な液体であった。赤外分光測定により、イソシアネート基の吸収がなくなったことを確認した後、反応液を大過剰(2000ml)の水へ滴下して加え、得られた白色沈殿物を吸引濾過により回収した。濾物は、水とメタノールにて数回洗浄した後、減圧乾燥して、白色粉末状のTDI系ポリウレア化合物4.00gを収率93.2%で得た。得られたTDI系ポリウレア化合物は、DMF、ジメチルスホキサイド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMA)に可溶で、メタノール、クロロホルムなどの有機溶剤には溶解しなかった。
【0030】
〔TDI系ポリウレア化合物の分解〕
実施例1〜8、比較例1〜3
マグネットスターラーを入れた容量:200mlのステンレス製オートクレーブに、前記TDI系ポリウレア化合物0.5g及び所定量の水(比較例1は不使用)を仕込み、容器内の空気を二酸化炭素ガスで置換した。その後、オートクレーブに液化炭酸ガスを仕込み、バンドヒーターを取り付けて1時間加熱し、所定の内圧及び温度に達したところで、2時間撹拌した。その後、氷浴にオートクレーブを浸けて、すばやく冷却した後、常圧に戻し、反応混合物を水で濾過して、水への可溶物と不溶物に分けて回収した。可溶物は、ロータリーエバポレータを用いて濃縮し、残った残さを回収した。分解率(Decomposition ratio(%))は、仕込量からの重量減少率とした。
実施例の結果(実施例1〜8、比較例1〜3、比較例1は水を用いず)を表1に示す。不溶物(濾物)をFT−IR測定したところ(図1)、分解前のTDI系ポリウレア化合物のチャートと大きな差は見られなかった。また、ロータリーエバポレータを用いて濃縮して得られた、水へ可溶な成分は茶色みを帯びた黒色固体であった。該可溶物を 1H−NMR測定したところ(図2)、当該物質は2,4−トリレンジアミン(TDA)と同定できた。
TDI系ポリウレア化合物の重量損失温度は5%重量損失(Td5)が240.3℃、10%重量損失(Td10)が265.7℃であった。分解試験後に得られた水に不溶の濾物も同様の結果が得られた。
【0031】
【表1】
【0032】
FT−IR測定条件
測定機器:FTS3000型FT−IR測定装置(Bio−Rad社製)
測定法 :KBr法
検出器 :MCT
測定範囲:400〜4000cm-1
感度 :2
分解能 :4cm-1
積算回数:32
【0033】
1H−NMR測定条件
溶媒 :重水(D2O)
測定装置:超伝導多核種磁気共鳴装置JNM−GC400(日本電子社製)
積算回数:8回
【0034】
熱重量損失測定条件
測定機器:Thermo Plus ステーション及びTG8120(理学電気社製)
標準試料:アルミナ(Al2O3)
温度範囲:30〜450℃
昇温速度:10℃/分
窒素流量:100ml/分
【0035】
表1に示されている温度と圧力は、水の臨界条件(374℃、22.1MPa)に達していないので、水は超臨界状態にはなっていないと判断できる。表1の比較例1(水添加なし)、および実施例1〜4(水添加量(ml)10,20,40,80)は、温度190℃,圧力5.0MPaで2時間反応させた時のTDI系ポリウレア化合物の分解率に対する水添加量の影響を図3に示す。比較例1(水添加なし)でも28.7%の重量減少が確認され、水を10ml以上添加するとほぼ完全に分解する。TDI系ポリウレア化合物は、熱分解しやすいポリウレアであり、水の添加により、加水分解反応が促進されたものと考えられる。
【0036】
表1の比較例2、3、実施例2について、縦軸に分解率、横軸に温度をとったグラフを図4に示す。一定の圧力下で温度を120(比較例2),160(比較例2),190℃(実施例2)に加熱したところ、比較例2の重量減少率は12.4%と低かったのに対して、加熱に伴って分解率は顕著に上昇した。図4から、十分な分解率となるためには、温度が170℃以上であることが分かる。この結果から、分解時の温度は170℃以上、好ましくは180℃以上が適しているということが言える。
【0037】
表1の実施例5〜8について、縦軸に分解率、横軸に圧力をとったグラフを図5に示す。190℃、水20ml、反応時間2時間における種々の圧力下での重量減少率を示す。
分解率は、すべて99.9%以上であった。このことからTDI系ポリウレア化合物の分解反応は、圧力に依存しないことがわかる。TDI系ポリウレア化合物の繰り返し単位が非対称であるので、対称の繰り返し単位をもつヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)等の脂肪族系ポリウレア化合物よりも結晶性が低く、二酸化炭素によるウレタン基間の水素結合を切断する必要がなくなったためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】比較例3における、分解前のTDI系ポリウレア化合物及び分解後の濾物のFT−IRチャートである。
【図2】重水(D2O)可溶物の1H−NMRチャートである。
【図3】温度一定下(190℃)、圧力ほぼ一定(4.5〜5.2MPa)下、水添加量を変化させたときのTDI系ポリウレア化合物の分解結果である。
【図4】圧力一定下(5.0MPa)、水添加量一定下(20ml)で、温度を変化させたときのTDI系ポリウレア化合物の分解結果である。
【図5】温度一定(190℃)、水20ml、反応時間2時間における圧力を変化させたときのTDI系ポリウレア化合物の分解結果である。
【符号の説明】
【0039】
図1において
1.:分解前のTDI系ポリウレア化合物のFT−IRチャートである。
2.:分解後の濾物のFT−IRチャートである。
図2において
a:メチル基に隣接するメチレン基の水素のピークである。
b,c:アミノ基に隣接するメチレン基の水素のピークである。
d:メチル基の水素のピークである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリレンジイソシアネート系ポリウレア化合物を超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素中で、液体または気体状態の水を用いて加水分解し、トリレンジアミンを回収することを特徴とする、トリレンジイソシアネート系ポリウレア化合物の分解処理方法。
【請求項2】
トリレンジイソシアネート系ポリウレア化合物の質量に対して、水の質量が20倍以上であることを特徴とする、請求項1記載のトリレンジイソシアネート系ポリウレア化合物の分解処理方法。
【請求項3】
加水分解時の温度が170℃以上、374℃未満であることを特徴とする、請求項1又は2記載のトリレンジイソシアネート系ポリウレア化合物の分解処理方法。
【請求項1】
トリレンジイソシアネート系ポリウレア化合物を超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素中で、液体または気体状態の水を用いて加水分解し、トリレンジアミンを回収することを特徴とする、トリレンジイソシアネート系ポリウレア化合物の分解処理方法。
【請求項2】
トリレンジイソシアネート系ポリウレア化合物の質量に対して、水の質量が20倍以上であることを特徴とする、請求項1記載のトリレンジイソシアネート系ポリウレア化合物の分解処理方法。
【請求項3】
加水分解時の温度が170℃以上、374℃未満であることを特徴とする、請求項1又は2記載のトリレンジイソシアネート系ポリウレア化合物の分解処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2010−215519(P2010−215519A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60554(P2009−60554)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000230135)日本ポリウレタン工業株式会社 (222)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000230135)日本ポリウレタン工業株式会社 (222)
【Fターム(参考)】
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