説明

トルエン測定装置、及びトルエン検出ユニット

【課題】サンプリングガスに含まれているトルエンの減少を招くことなく、サンプリングガス中の水分による誤差の発生を防止すること。
【解決手段】トルエンと反応して呈色反応を生じるマルキス試薬を収容した検出ユニット20に至る流路の途中に顆粒状の過塩素酸マグネシウム16が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境に存在する低い濃度のトルエンを呈色反応を利用して測定するガス測定装置、及びトルエン検出ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
濃度が極めて低くても長時間の吸引により人体に影響を与えるトルエンは、マルキス試薬、つまり濃硫酸とパラホルムアルデヒドの混合液にバブリングなどにより反応させ、反応により生じた色変化を検出することにより測定されている。
しかしながら、液を取り扱ったり、またバブリング操作を必要とするため、装置を携帯用に小型化することが困難であるという問題がある。
【0003】
このため、一方の面に開口を備えた凹部を備えた基体の底部にマルキス試薬を含浸させた検出シートを固定して検出ユニットを構成することにより、ガス吸引手段と、測定ヘッドと、駆動用電源と、測定ヘッドの光学濃度の変化を検出する信号処理手段とを、測定ヘッドの一部を窓から露出させるようにケースに収容して構成された装置により測定することが提案されている。
これによれば、検出ユニットに予め試薬が用意されていて、かつバブリングが不要となるため、携帯用に測定装置を構成できる。
【0004】
このような検出ユニットは通常、遮気性の容器に個別に収容されているため、未使用状態では一定の検出感度を維持しているものの、使用時にはサンプリングガスに晒されるため、試薬を構成する硫酸がサンプリングガスに含まれている水分を吸収するため、検出感度が低下するという不都合がある。
このような問題を解消するためには、シリカゲルなどの乾燥剤を筒状体に収容し吸湿手段を構成し、吸湿手段を通過したサンプリングガスを検出ユニットに導くことも考えられるが、乾燥剤がトルエンをも吸収するため、トルエンの検出感度が大幅に低下したり、測定誤差が生じるなどの新たな問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであってその目的とするところは、サンプリングガスに含まれているトルエンの減少を招くことなく、サンプリングガス中の水分による誤差の発生を防止することができるトルエン測定装置を提供することである。
【0006】
また本発明の他の目的は、トルエンの減少を招くことなく、サンプリングガス中の水分による誤差の発生を防止できるトルエン検出ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような問題を解消するために請求項1の発明は、ガス吸引手段と、測定ヘッドと、駆動用電源と、前記測定ヘッドで検出された光学濃度の変化をトルエンの濃度に変換する信号処理手段と備え、トルエンと反応して呈色反応を生じるマルキス試薬を収容した検出ユニットを前記測定ヘッドに装着して測定するトルエン測定装置において、前記検出ユニットに至る流路の途中に顆粒状の過塩素酸マグネシウムが配置されている。
請求項2の発明は、前記顆粒状の過塩素酸マグネシウムが筒状体に収容され、前記ガス吸引手段のガス吸引口に着脱可能に構成されている。
請求項3の発明は、前記検出ユニットが、顆粒状の過塩素酸マグネシウムを収容した筒状体と同一の遮気性容器に収容されている。
請求項4の発明は、一方にガス流入口が、他方に光透過性窓が形成された容器に、前記光透過性窓の側にマルキス試薬の含浸体を収容するとともに、ガス透過性膜により前記含浸体とは区画して顆粒状の過塩素酸マグネシウムを収容して構成されている。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明によれば、サンプリングガスに含まれているトルエンの吸収を招くことなく水分を可及的に除去してマルキス試薬の硫酸の濃度変化に起因する測定誤差、感度の低下を防止することができる。
【0009】
請求項2の発明によれば、筒状体の着脱により簡単に乾燥剤を交換することができる。
【0010】
請求項3の発明によれば、検出ユニットの交換ごとに乾燥剤も交換できるため、乾燥剤の吸湿能力の低下による誤差を防止することができる。
【0011】
請求項4の発明によれば、検出ユニットの交換と同時に乾燥剤の交換もできるため、測定準備作業の簡素化と、乾燥剤の交換の忘却を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、本発明のガス検出装置の一実施例を示すものであって、携帯可能なサイズのケース1の上面1aに、一端を軸2aにより枢支された蓋体2により開閉可能な窓3を形成して、ここに後述する検出ユニット20が脱着される装填部4を設け、また比較的見やすい位置には測定結果や操作状況を表示する表示パネル5、及びスイッチパネル6を配置し、さらに側面1bに装填部4に連通するガス取入口7を設けて構成されている。
【0013】
図2(イ)は、装填部4を拡大して示すものであって、バネ16に付勢された蓋体2に常時閉鎖され窓3には、測定ヘッド9が配置されている。測定ヘッド9は、検出ユニット20を位置決めして載置できる凸部8を備え、これの中心部に測定室10が形成されている。
測定室10には、開口10aに光を照射する発光手段14と、検出ユニット20からの反射光を受ける受光手段15とが収容されている。
【0014】
一方、蓋体2にはガス取入口7に連通するガス流入口11と、吸引ポンプ12に連通する排出口13が形成され、検出ユニット20にサンプリングガスを供給できるように構成されている。なお、ガス流入口11とガス取入口7、及びガス排出口13と吸引ポンプ12とは図示しない流路、より詳細にはチューブにより接続されている。
【0015】
図2(ロ)に示したようにガス取入口7には、粒径0.1mm程度の顆粒状の過塩素酸マグネシウム16を筒状体17に充填した乾燥筒18が挿抜可能に装着されている。なお、図中符号19は過塩素酸マグネシウム16の抜け出しを防止する通気性押さえ部材を示す。
【0016】
図3は、前述の検出ユニット20の一実施例を示すものであって、貫通孔を有する本体21の一方の面にはガス透過性膜22が、また他方の面には遮気性と光透過性を備えた窓23が形成され、これらの窓23とガス透過性膜22との間に検出シート24が装填されて構成されている。なお、窓23は、光透過性フィルム25により封止されていて、硫酸の蒸気が検出装置に流入するを防止するように構成されている。
【0017】
検出シート24は、トルエンとの化学反応により呈色するマルキス試薬を、耐硫酸性を有する吸収材、例えば合成紙に含浸、または塗布して構成され、遮気性を備えた袋や容器に収容して商品に仕上げられている。
【0018】
図4は、検出ユニット20の他の実施例を示すものであって、底部の中心に貫通孔30aが形成され、内周面に螺条30bが形成されたホルダ本体30と、貫通孔30aを封止できるサイズの光透過性フィルム31と、後述するリング状蓋体35との間に一定の空間を形成でき、かつ気密性を確保するための環状パッキン32と、マルキス試薬を含浸した発色材33と、ガス透過性を備えた膜34と、前述の外周に螺条35aが形成され、中心部にテーパ状の貫通孔35bを備えたリング状押さえ部材35とを組み付けて構成されている。
【0019】
すなわち、ホルダ本体30の底部に貫通孔30aを封止するように光透過性膜31を接着、または溶着して液密性を確保し、環状パッキン32、マルキス試薬を含浸した発色材33、及びガス透過性膜34をこの順番に積層、装填し、好ましくはスリップリング36を介装してリング状押さえ部材35をホルダ本体30に螺合して構成されている。なお、スリップリング36は膜34と押さえ部材35との摩擦を軽減して螺合時に膜34がねじれるのを防止するための部材で、膜34の表面にフッ素樹脂などの低摩擦係数樹脂を被覆すれば、スリップリングを省略することもできる。
【0020】
そして、乾燥筒18の吸湿能力を、1つの検出ユニットでのサンプリング時間中に有効に吸湿できる程度とするとともに、検出ユニットと乾燥筒とを同一の遮気性容器に収容してキットとして構成するのが望ましい。
【0021】
このように構成された装置において、遮気性容器から未使用の検出ユニット20及び乾燥筒18を取り出し、乾燥筒18をガス取入口7に装着し(図2(ロ))、また蓋体2をバネ16に抗して開放し(図2(イ))、検出ニット20の窓23をヘッド9の側に向けて挿入すると、検出ユニット20が、測定ヘッド9の凸部8にガイドされた規定の位置にセットされる。この状態で蓋体2を元に戻すと、蓋体2が検出ユニット20に密着して検出ユニット20のガス透過性膜22の領域がガス流入口11とガス流出口13とに連通した状態となる(図2(ロ))。
【0022】
この状態で図5に示したスイッチパネル6の電源スイッチ6eを押圧すると、メインスイッチ40がONとなり、電池41の電力が電源回路42等に供給されるから、測定開始スイッチ6を押圧することにより電源回路42からポンプ12に駆動電力が供給され、ガス取入口7から環境中のエアが乾燥筒18に流入し、ここでエア中の水分だけが除去され、トルエンを含んだ可及的に除湿されたエアがガス流入口11を経由して検出ユニット20のガス透過膜22から検出シート24に流れ込み、排出口13から外部に排出される。
【0023】
この過程で、検出シート24に担持されているマルキス試薬の硫酸が、サンプリングガスに含まれる水分の吸収に起因する濃度の変化をきたすことなく、マルキス試薬がトルエンと反応してシート24に反応痕が形成されていく。元より反応跡の光学濃度は、トルエンの濃度とサンプリング時間とに比例する。
【0024】
このようにして規定のサンプリング時間T、例えば60秒が経過した段階で、マイクロコンピュータ43がポンプ12への電力の供給を断ち、発光素子14を発光させて光透過性フィルム25を介して検出シート24からの反射光を受光素子15により検出する。
このようにして検出された検出シート24の光学的濃度を予め不揮発性のRAMに格納されている検量線データに基づいてトルエンの濃度に換算し、デスプレイ駆動回路44によりデイスプレイ5にガス濃度を表示する。
【0025】
図6は、本発明と従来のトルエン測定装置により湿度を変えたエアにトルエン0.3ppmを混合した被検ガスを、一定のサンプリング時間(1分)で測定した場合の測定結果を示すものである。
この結果、本願発明は符号Aに示したように相対湿度80%程度のサンプリングガスに対してもほぼ一定の検出感度が保証されているのに対して、乾燥手段を備えない従来装置では符号Bに示したように湿度の増加とともに検出感度が低下し、相対湿度40%程度では検出が不能となっている。
【0026】
乾燥筒18に充填した過塩素酸マグネシウムの効果を確かめるため、シリカゲル粒子を充填した乾燥筒を作成して測定したところ、図6の符号Cに示したように相対湿度にかかわり無く検出感度はほぼ一定に維持できるものの、検出感度が30%程度も低下した。
このことから、トルエンを測定するための乾燥剤としては顆粒状の過塩素酸マグネシウムが有効であることが判明した。
【0027】
なお、上述の実施例においては、乾燥筒18をガス取入口7に装着するようにしているが、ガス取入口7から検出ユニット20に至る流路の途中に顆粒状の過塩素酸マグネシウムを収容し、かつサンプリングガスが通過可能な部屋を配置しても同様の作用を奏する。
【0028】
また、上述の実施例においては1つの検出ユニットを測定装置に装着する毎に、新しい乾燥筒をガス流入口11に装着するようにしているが、図7に示したように検出ユニットのサンプリングガス流入口側に第2の環状パッキン32’を介装してスペースを確保し、このスペースに顆粒状の過塩素酸マグネシウム18を装填するとともに通気性フィルム34’により封止しても同様の作用を奏する。
【0029】
この実施例によれば、マルキス試薬を含浸した発色材33に実際に流入するサンプリングガスについてだけ除湿できる量の過塩素酸マグネシウム18で足りるので、吸湿剤を節約できるばかりでなく、検出ユニットの交換と乾燥筒の交換とが同等に行われるため、測定作業の簡素化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の測定装置の一実施例を示す図である。
【図2】同上装置の検出ユニットの装填部を拡大して示す断面図であって、図(イ)は蓋体を開放した状態を、また図(ロ)は検出ユニット、及び乾燥筒を装填した状態を示す図である。
【図3】図(イ)、(ロ)は、それぞれ同上装置に使用する検出ユニットの一実施例を示す斜視図と断面図である。
【図4】同上検出ユニットの一実施例を示す組立斜視図である。
【図5】本発明の測定装置の一実施例を示すブロック図である。
【図6】本発明の装置と従来装置との検出特性を示す線図である。
【図7】本発明の検出ユニットの他の実施例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 ケース 2 蓋体 4 検出ユニット装填部 5 表示パネル 6 操作スイッチ 7 ガス取入口 9 測定ヘッド 10 測定室 11 ガス流入口 12 吸引ポンプ 13 排出口 14 発光手段 15 受光手段 16 顆粒状の過塩素酸マグネシウム 18 乾燥筒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス吸引手段と、測定ヘッドと、駆動用電源と、前記測定ヘッドで検出された光学濃度の変化をトルエンの濃度に変換する信号処理手段と備え、トルエンと反応して呈色反応を生じるマルキス試薬を収容した検出ユニットを前記測定ヘッドに装着して測定するトルエン測定装置において、
前記検出ユニットに至る流路の途中に顆粒状の過塩素酸マグネシウムが配置されているトルエン測定装置。
【請求項2】
前記顆粒状の過塩素酸マグネシウムが筒状体に収容され、前記ガス吸引手段のガス吸引口に着脱可能に構成されている請求項1に記載のトルエン測定装置。
【請求項3】
前記検出ユニットが、顆粒状の過塩素酸マグネシウムを収容した筒状体と同一の遮気性容器に収容されている請求項1に記載のトルエン測定装置。
【請求項4】
一方にガス流入口が、他方に光透過性窓が形成された容器に、前記光透過性窓の側にマルキス試薬の含浸体を収容するとともに、ガス透過性膜により前記含浸体とは区画して顆粒状の過塩素酸マグネシウムを収容して構成されているトルエン検出ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−64517(P2006−64517A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−246952(P2004−246952)
【出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(000250421)理研計器株式会社 (216)
【Fターム(参考)】