説明

トルク変動吸収プーリユニット

【課題】回転駆動系において、エンジン起動時に補機ベルト系の共振点を通過することがなく、もってベルト変動が大きくなるのを抑制することができるトルク変動吸収プーリユニットを提供する。
【解決手段】無端ベルトを巻架して回転トルクを伝達するプーリを内周リングおよび外周リングの組み合わせによって形成し、外周リングの外周面に無端ベルトを巻架するための溝部を設け、内周リングおよび外周リングを両リング間に設けた円周方向ばねによって連結する。円周方向ばねが備える円周方向ばね性の範囲内で内周リングに対し外周リングが円周方向変位することによってトルク変動を吸収し、円周方向ばねが内周リングの外周面または外周リングの内周面に密着して弾性変形しなくなった時点で両リングは供回りする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転駆動系において、回転トルクを伝達する機能、および前記回転トルクに含まれるトルク変動を吸収する機能を備えるトルク変動吸収プーリユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から図7に示すように、ハブ51の外周側にカップリングゴム52を介してプーリ53を連結したトルク変動吸収ダンパが知られており、このトルク変動吸収ダンパは、ハブ51をもって回転軸に装着されるとともにプーリ53の溝部54に無端ベルトを巻架することにより、回転軸から各種の補機などへ回転トルクを伝達する機能を発揮し、併せて回転トルクに含まれるトルク変動を吸収する機能を発揮する(特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、上記従来のトルク変動吸収ダンパには、エンジン起動時に補機ベルト系の共振点を通過し、その際ベルト変動が大きくなると云う問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−033151号公報(図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は以上の点に鑑みて、回転駆動系においてエンジン起動時に補機ベルト系の共振点を通過することがなく、もってベルト変動が大きくなるのを抑制することができるトルク変動吸収プーリユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1によるトルク変動吸収プーリユニットは、無端ベルトを巻架して回転トルクを伝達するプーリを内周リングおよび外周リングの組み合わせによって形成し、前記外周リングの外周面に前記無端ベルトを巻架するための溝部を設け、前記内周リングおよび外周リングを両リング間に設けた円周方向ばねによって連結し、前記円周方向ばねが備える円周方向ばね性の範囲内で前記内周リングに対し前記外周リングが円周方向変位することによってトルク変動を吸収し、前記円周方向ばねが前記内周リングの外周面または前記外周リングの内周面に密着して弾性変形しなくなった時点で前記両リングは供回りすることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の請求項2によるトルク変動吸収プーリユニットは、上記した請求項1記載のプーリユニットにおいて、前記円周方向ばねは、金属または樹脂材質のCリング、または前記Cリングを複数組み合わせたものよりなることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項3によるトルク変動吸収プーリユニットは、上記した請求項1または2記載のプーリユニットにおいて、前記両リング間にラジアルベアリングが介装されるとともに前記ラジアルベアリングの軸方向両側にそれぞれ前記円周方向ばねが配置されていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項4によるトルク変動吸収プーリユニットは、上記した請求項1、2または3記載のプーリユニットにおいて、当該プーリユニットは、回転軸に固定するハブに装着されることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項5によるトルク変動吸収プーリユニットは、上記した請求項1、2または3記載のプーリユニットにおいて、当該プーリユニットは、回転軸に固定するハブにゴム状弾性体を介して装着されることを特徴とする。
【0011】
更にまた、本発明の請求項6によるトルク変動吸収プーリユニットは、上記した請求項1、2または3記載のプーリユニットにおいて、当該プーリユニットは、回転軸に固定するハブにゴム状弾性体および振動リングを介して装着されることを特徴とする。
【0012】
上記構成を備える本発明のトルク変動吸収プーリユニットにおいては、プーリが内周リングおよび外周リングの組み合わせによって形成され、外周リングの外周面に無端ベルトを巻架するための溝部が設けられ、内周リングおよび外周リングが両リング間に設けた円周方向ばねによって連結されているために、内周リングおよび外周リングは、円周方向ばねを捩りながら(弾性変形させながら)、円周方向に相対変位(相対回転)することが可能とされており、円周方向ばねが大きく捩れて内周リングの外周面または外周リングの内周面に密着してそれ以上捩れなくなると、両リングが直結状態となって供回り(同時回転)する。したがって前者の、円周方向ばねが捩れて両リングが相対変位する状態にてエンジンアイドリング時の小振幅トルク変動を受けるとともに、後者の、円周方向ばねがそれ以上捩れず両リングが直結・供回りする状態にてエンジン起動時の大振幅トルク変動を受けるようにばね特性を設定することにより、エンジン起動時に通過する共振点を実質的になくすことが可能となる。
【0013】
本発明のプーリユニットにおいては、円周方向ばねとして、ゴムではなくコイルばねが用いられ、このコイルばねの一端が内周リングに連結されるとともに他端が外周リングに連結される。また、この円周方向ばねに捩りを利かせる(円周方向ばねを円周方向に弾性変形可能とする)ために、円周方向ばねと内周リングの間および円周方向ばねと外周リングの間にそれぞれ初期的な径方向間隙が設定される。また、円周方向ばねとしてはコイルばねを形成するものとして、樹脂または金属材質のCリング(円周上一箇所が切断されたリング)を用いることが考えられ、この場合には、ばねが容易に製作され、Cリングを複数組み合わせることによってばね定数の設定も可能となる。
【0014】
尚、上記のようにプーリを内周側の内周リングと外周側の外周リングとに分割して相対変位可能に組み付けると、どうしても両リング間に径方向ガタが発生することが懸念される。そこで、これに対策するには、両リング間にラジアルベアリングを介在させることが考えられ、これによれば両リング間の径方向隙間が縮小もしくは消失するために、径方向ガタの発生を抑制することが可能とされる。またこの場合には、ラジアルベアリングの軸方向両側にそれぞれ円周方向ばねを配置するのが好適であり、このとき各円周方向ばねに軸方向の予圧縮を設定することにより、各部品間の軸方向ガタの発生を抑制することが可能となる。
【0015】
また、本発明のプーリユニットは、その構成部品である円周方向ばねのばね性によってトルク変動を吸収するために、カップリングゴムを必要とせず、ユニット単体にて回転駆動系の任意の箇所に装着することができる。また、以下のように組み合わせることにより、ハブをもって回転軸に装着されるトルク変動吸収ダンパとすることもできる。
(1)当該プーリユニットをハブに装着し、これにより当該プーリユニットおよびハブを備えるトルク変動吸収ダンパを形成する。
(2)当該プーリユニットをゴム状弾性体を介してハブに装着し、これにより当該プーリユニットならびにハブおよびゴム状弾性体を備えるトルク変動吸収ダンパを形成する。
(3)当該プーリユニットをゴム状弾性体および振動リングを介してハブに装着し、これにより当該プーリユニットならびにハブ、ゴム状弾性体および振動リングを備えるトルク変動吸収ダンパを形成する。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、以下の効果を奏する。
【0017】
すなわち、以上説明したように本発明のトルク変動吸収プーリユニットによれば、内周リングおよび外周リングは円周方向ばねを捩りながら円周方向に相対変位することが可能とされ、円周方向ばねが大きく捩れて内周リングの外周面または外周リングの内周面に密着してそれ以上捩れなくなると、両リングが直結状態となって供回りする。したがって前者の、円周方向ばねが捩れて両リングが相対変位する状態にてエンジンアイドリング時の小振幅トルク変動を受けるとともに、後者の、円周方向ばねがそれ以上捩れず両リングが直結・供回りする状態にてエンジン起動時の大振幅トルク変動を受けるようにばね特性を設定することにより、エンジン起動時に通過する共振点を実質的になくすことが可能となる。したがって本発明所期の目的どおり、エンジン起動時に補機ベルト系の共振点を通過せず、もってベルト変動が大きくなるのを抑制することができる。円周方向ばねを樹脂または金属材質のCリングまたはCリングを複数組み合わせたものとする場合には、ばねの製作が容易化され、ばね定数の設定も容易化される。内周リングおよび外周リング間にラジアルベアリングを介在させる場合には、両リング間の径方向ガタの発生を抑制することができる。ラジアルベアリングの軸方向両側にそれぞれ円周方向ばねを配置する場合には、軸方向の予圧縮を設定することにより各部品間の軸方向ガタの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第一実施例に係るトルク変動吸収プーリユニットの要部断面図
【図2】同プーリユニットにおける外周リングと円周方向ばねの組み付け状態を示す説明図
【図3】同プーリユニットを備えるトルク変動吸収ダンパの一例を示す半裁断面図
【図4】同プーリユニットを備えるトルク変動吸収ダンパの他の例を示す半裁断面図
【図5】本発明の第二実施例に係るトルク変動吸収プーリユニットの要部断面図
【図6】上記第一実施例に係るトルク変動吸収プーリユニットを備えるトルク変動吸収ダンパの他の例を示す半裁断面図
【図7】従来例に係るトルク変動吸収ダンパの断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明には、以下の実施形態が含まれる。
(1)従来のトルク変動吸収ダンパには、エンジン起動時に補機ベルト系の共振点を通過し、その際ベルト変動が大きくなると云う問題がある。
(2)上記問題を解消するため、以下の構成とする。
(2−1)カップリング構造ゴム部品を廃止し、樹脂もしくは金属性のCリングをカップリング部品とする。
(2−2)プーリとハウジング間に前記(2−1)項のCリングもしくはCリングを組み合わせてカップリングばねを形成する。
(2−3)スプリング断面外径とプーリ内径もしくは、スプリング断面内径とハウジング外径には微小隙間を設ける。
(3)前記(2)項の構成によれば、以下の作用効果が発揮される。
(3−1)アイドリング回転以上の小振幅入力時はCリングがばねとして働き、エンジンで発生する回転変動を絶縁する。
(3−2)エンジン始動時の大振幅入力時はCリングが大きく捩られ外径側に膨らむか内径側に縮む。このとき、構造上設けられた微小隙間がなくなり、外径側もしくは内径側にCリングがロックし、ばねの働きが無くなる(プーリと振動リングが直結状態)。したがってエンジン起動時に通過する共振点がなくなり、従来案よりもベルト変動を小さくすることができる。
(3−3)従来案に対し、カップリング構造がコンパクト化でき、小スペースでの設計が可能となる。また製品重量も軽くできる。
(3−4)ポリVの内周側にバネ部品を設け、コンパクトなプーリユニットを形成し、そのユニットを金属嵌合でさまざまな位置に設けることができる。
(3−5)バネ部品をCリング形状にすることで、樹脂または金属材料でも容易に成形でき、Cリングの組み合わせでばね定数設定も可能となる。
(3−6)本発明は、中心部に対し左右対称にバネを配置し、お互い予圧縮状態で組み立てるためバネのガタがなく打音が発生することがない。
【実施例】
【0020】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0021】
第一実施例・・・
図1および図2は、本発明の第一実施例に係るトルク変動吸収プーリユニット1を示している。
【0022】
当該実施例に係るプーリユニット1は、無端ベルト(図示せず)を巻架して回転トルクを伝達するプーリ2を有し(全体としてプーリ形状を呈し)、このプーリ2が内周側の内周リング(ハウジングまたはマスとも称する)11と外周側の外周リング(狭義のプーリとも称する)21との組み合わせによって形成され、外周リング21の外周面に無端ベルトを巻架するための溝部22が設けられている。溝部22としては、V溝を複数備えるポリV溝が描かれているが、V溝を1つのみ備えるモノV溝であっても良い。
【0023】
内周リング11および外周リング21は、両リング11,21間に設けた円周方向ばね31によって弾性的に連結され、この円周方向ばね31が備える円周方向ばね性の範囲内で内周リング11に対し外周リング21が円周方向変位(相対回転)することによってトルク変動を吸収し、円周方向ばね31が内周リング11の外周面または外周リング21の内周面に密着してそれ以上弾性変形しなくなった時点で両リング11,21が供回り(同時回転)するように構成されている。
【0024】
各部品は、以下のように構成されている。
【0025】
内周リング11は、金属材質の円筒体よりなり、軸方向両端にそれぞれ外向きのフランジ部12が一体に設けられている。また、この内周リング11はその外周側に円周方向ばね31などを組み付ける都合上、分割面11aをもって軸方向に2分割され、分割体11b同士が互いに嵌合されている。
【0026】
外周リング21は、これも金属材質の円筒体よりなり、上記したようにその外周面に溝部22が設けられている。また図2に示すように、外周リング21の内周面には、その軸方向中央に位置して円周上1箇所の凸部(ばね止着部)23が設けられている。
【0027】
円周方向ばね31は、前記凸部23の軸方向両側にそれぞれ設けられ、すなわち円周方向ばね31は軸方向一対が設けられている。また、この円周方向ばね31はそれぞれコイルばねよりなり、円周方向のばね性を発揮するようにその一端が図2に示すように前記凸部23の円周方向端面に連結(係合)されるとともにその他端が前記フランジ部12に連結(係合)されている。また、円周方向ばね31と内周リング11の間および円周方向ばね31と外周リング21の間にはそれぞれ初期的な径方向間隙c,cが設定されている。また、円周方向ばね31はそれぞれ軸方向に予圧縮された状態で凸部23およびフランジ部12間に装着されている。また、円周方向ばね31はそれぞれ図2に示すように、樹脂または金属材質のCリング32が複数組み合わされる(直列に接続される)ことによって構成されている(図ではそれぞれ、3本のCリング32によって1つの円周方向ばね31が形成されている)。
【0028】
上記構成のプーリユニット1は、内周リング11をもって例えば回転軸の外周に装着されるとともに外周リング21の溝部22に無端ベルトを巻架することにより、回転軸から各種の補機などへ回転トルクを伝達する機能を発揮し、併せて回転トルクに含まれるトルク変動を吸収する機能を発揮するものであって、上記構成により以下の作用効果を発揮する点に特徴を有している。
【0029】
すなわち先ず、上記したようにプーリ2が内周リング11および外周リング21の組み合わせによって形成され、外周リング21の外周面に無端ベルトを巻架するための溝部22が設けられ、両リング11,21が両リング11,21間に設けた円周方向ばね31によって連結されているために、両リング11,21は円周方向ばね31を捩りながら円周方向に相対変位することが可能とされ、また円周方向ばね31が大きく捩れて内周リング11の外周面または外周リング21の内周面に密着してそれ以上捩れなくなると、両リング11,21が直結状態となって供回りする。したがって前者の、円周方向ばね31が捩れて両リング11,21が相対変位する状態にてエンジンアイドリング時の小振幅トルク変動を受けるとともに、後者の、円周方向ばね31がそれ以上捩れず両リング11,21が直結・供回りする状態にてエンジン起動時の大振幅トルク変動を受けるようにばね特性を設定することにより、エンジン起動時に通過する共振点を実質的になくすことが可能となる。したがって、エンジン起動時に補機ベルト系の共振点を通過することがなく、もってベルト変動が大きくなるのを抑制することができる。
【0030】
また、円周方向ばね31を樹脂または金属材質のCリング32の組み合わせによって形成したために、ばね31の製作が容易化され、ばね定数の設定も容易化されている。
【0031】
また、外周リング21の内周面に設けた凸部23の軸方向両側にそれぞれ円周方向ばね31を配置したために、これら一対の円周方向ばね31に軸方向の予圧縮を設定することにより、各部品間に軸方向ガタが発生するのを抑制することができる。
【0032】
尚、上記説明では、当該プーリユニット1を内周リング11をもって回転軸の外周に装着(直付け)するとしたが、図3または図4に示すように、当該プーリユニット1をハブ42に装着し、これにより当該プーリユニット1およびハブ42を備えるトルク変動吸収ダンパ41を形成するようにしても良い。図3の例では、ハブ42の外周筒部42aの外周面に当該プーリユニット1が装着され、これにより当該プーリユニット1およびハブ42よりなるトルク変動吸収ダンパ41が形成されている。図4の例では、ハブ42の外周筒部42aの外周面にはゴム状弾性体43およびプーリ44が装着されているが、これらとは別に、ハブ42の筒部42bの外周面に当該プーリユニット1が装着されている。したがってこの場合には、当該プーリユニット1、ハブ42、ゴム状弾性体43およびプーリ44よりなるトルク変動吸収ダンパ41が形成されている。
【0033】
第二実施例・・・
図5は、本発明の第二実施例に係るトルク変動吸収プーリユニット1を示している。
【0034】
当該実施例に係るプーリユニット1は、無端ベルト(図示せず)を巻架して回転トルクを伝達するプーリ2を有し(全体としてプーリ形状を呈し)、このプーリ2が内周側の内周リング(ハウジングまたはマスとも称する)11と外周側の外周リング(狭義のプーリとも称する)21との組み合わせによって形成され、外周リング21の外周面に無端ベルトを巻架するための溝部22が設けられている。溝部22としては、V溝を複数備えるポリV溝が描かれているが、V溝を1つのみ備えるモノV溝であっても良い。
【0035】
内周リング11および外周リング21は、両リング11,21間に設けた円周方向ばね31によって弾性的に連結され、この円周方向ばね31が備える円周方向ばね性の範囲内で内周リング11に対し外周リング21が円周方向変位(相対回転)することによってトルク変動を吸収し、円周方向ばね31が内周リング11の外周面または外周リング21の内周面に密着してそれ以上弾性変形しなくなった時点で両リング11,21が供回り(同時回転)するように構成されている。
【0036】
また、内周リング11と外周リング21の間には、所定の樹脂材質よりなる環状のラジアルベアリング35が介装されている。
【0037】
また、内周リング11の軸方向一方の端部外周に外向きのフランジ部12が設けられるとともに内周リング11の軸方向他方の端部外周にストッパ36が設けられ(フランジ部12は一体成形による、ストッパ36は嵌合による)、このフランジ部12と外周リング21の間およびストッパ36と外周リング21の間にそれぞれ、前記円周方向ばね31が設けられている。
【0038】
各部品は、以下のように構成されている。
【0039】
内周リング11は、金属材質の円筒体よりなり、上記したようにその軸方向一方の端部外周に外向きのフランジ部12が設けられるとともに軸方向他方の端部外周にストッパ36が設けられている。
【0040】
外周リング21は、これも金属材質の円筒体よりなり、上記したようにその外周面に溝部22が設けられている。また、この外周リング21は、その内周にラジアルベアリング35、フランジ部12、ストッパ36および軸方向一対の円周方向ばね31を配置する都合上、溝部22を設けた軸方向中央のプーリ本体部24の軸方向両端にそれぞれ比較的内径寸法の大きな庇状の筒状部25が一体成形された形状とされており、軸方向中央のプーリ本体部24の内周側にラジアルベアリング35が配置され、軸方向一方の筒状部25の内周側にフランジ部12および一方の円周方向ばね31が配置され、軸方向他方の筒状部25の内周側にストッパ36および他方の円周方向ばね31が配置されている。
【0041】
円周方向ばね31は、上記したように前記プーリ本体部24の軸方向両側にそれぞれ設けられ、すなわち円周方向ばね31は軸方向一対が設けられている。また、この円周方向ばね31はそれぞれコイルばねよりなり、円周方向のばね性を発揮するようにその一端が前記プーリ本体部24に連結(係合)されるとともにその他端が前記フランジ部12または前記ストッパ36に連結(係合)されている。また、円周方向ばね31と内周リング11の間および円周方向ばね31と外周リング21(前記筒状部25)の間にはそれぞれ初期的な径方向間隙c,cが設定されている。また、円周方向ばね31はそれぞれ軸方向に予圧縮された状態でプーリ本体部24とフランジ部12の間およびプーリ本体部24とストッパ36の間に装着されている。
【0042】
上記構成のプーリユニット1は、内周リング11をもって例えば回転軸の外周に装着されるとともに外周リング21の溝部22に無端ベルトを巻架することにより、回転軸から各種の補機などへ回転トルクを伝達する機能を発揮し、併せて回転トルクに含まれるトルク変動を吸収する機能を発揮するものであって、上記構成により以下の作用効果を発揮する点に特徴を有している。
【0043】
すなわち先ず、上記したようにプーリ2が内周リング11および外周リング21の組み合わせによって形成され、外周リング21の外周面に無端ベルトを巻架するための溝部22が設けられ、両リング11,21が両リング11,21間に設けた円周方向ばね31によって連結されているために、両リング11,21は円周方向ばね31を捩りながら円周方向に相対変位することが可能とされており、また円周方向ばね31が大きく捩れて内周リング11の外周面または外周リング21の内周面に密着してそれ以上捩れなくなると、両リング11,21が直結状態となって供回りする。したがって前者の、円周方向ばね31が捩れて両リング11,21が相対変位する状態にてエンジンアイドリング時の小振幅トルク変動を受けるとともに、後者の、円周方向ばね31がそれ以上捩れず両リング11,21が直結・供回りする状態にてエンジン起動時の大振幅トルク変動を受けるようにばね特性を設定することにより、エンジン起動時に通過する共振点を実質的になくすことが可能となる。したがって、エンジン起動時に補機ベルト系の共振点を通過することがなく、もってベルト変動が大きくなるのを抑制することができる。
【0044】
また、外周リング21の内周面に凸状に設けたプーリ本体部24の軸方向両側にそれぞれ円周方向ばね31を配置したために、これら一対の円周方向ばね31に軸方向の予圧縮を設定することにより、各部品間に軸方向ガタが発生するのを抑制することができる。
【0045】
尚、上記したように内周リング11および外周リング21は、円周方向ばね31が備える円周方向ばね性の範囲内で円周方向に相対変位可能に組み合わされているが、これとは別に、両リング11,21を軸方向に相対変位可能に組み合わせることも考えられ、この場合には、外周リング21および無端ベルト間に巻架に係る軸方向ミスアライメントがあったときに、このミスアライメントを吸収する機能を発揮することができる。すなわち、外周リング21および無端ベルト間にミスアライメントが存在すると、外周リング21が無端ベルトの張力によって引っ張られるかたちにて内周リング11に対して軸方向変位し、これによりミスアライメントを吸収する。したがって溝部位置公差を厳しく管理しなくてもミスアライメントを低減させることができ、もってミスアライメントに起因するベルト鳴き現象が発生するのを抑制することができる。また、この場合には、円周方向ばね31が軸方向復帰ばねとしても作用するため、自動で外周リング21を軸方向初動位置へ復帰動させることができる。
【0046】
また、上記説明では、当該プーリユニット1を内周リング11をもって回転軸の外周に装着(直付け)するとしたが、図5に示したように、当該プーリユニット1をゴム状弾性体43を介してハブ42に装着し、これにより当該プーリユニット1ならびにハブ42およびゴム状弾性体43を備えるトルク変動吸収ダンパ41を形成するようにしても良い。
【0047】
また、前記両実施例に共通して、図6に示すように、当該プーリユニット1をゴム状弾性体43および振動リング(マスリング)45を介してハブ42に装着し、これにより当該プーリユニット1ならびにハブ42、ゴム状弾性体43および振動リング45を備えるトルク変動吸収ダンパ41を形成するようにしても良い。この場合、当該プーリユニット1は振動リング45の外周に装着されることになる。
【符号の説明】
【0048】
1 トルク変動吸収プーリユニット
2 プーリ
11 内周リング
11a 分割面
11b 分割体
12 フランジ部
21 外周リング
22 溝部
23 凸部
24 プーリ本体部
25,42b 筒状部
31 円周方向ばね
32 Cリング
35 ラジアルベアリング
36 ストッパ
41 トルク変動吸収ダンパ
42 ハブ
42a 外周筒部
43 ゴム状弾性体
44 プーリ
45 振動リング
,c 径方向間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端ベルトを巻架して回転トルクを伝達するプーリを内周リングおよび外周リングの組み合わせによって形成し、前記外周リングの外周面に前記無端ベルトを巻架するための溝部を設け、前記内周リングおよび外周リングを両リング間に設けた円周方向ばねによって連結し、前記円周方向ばねが備える円周方向ばね性の範囲内で前記内周リングに対し前記外周リングが円周方向変位することによってトルク変動を吸収し、前記円周方向ばねが前記内周リングの外周面または前記外周リングの内周面に密着して弾性変形しなくなった時点で前記両リングは供回りすることを特徴とするトルク変動吸収プーリユニット。
【請求項2】
請求項1記載のプーリユニットにおいて、
前記円周方向ばねは、金属または樹脂材質のCリング、または前記Cリングを複数組み合わせたものよりなることを特徴とするトルク変動吸収プーリユニット。
【請求項3】
請求項1または2記載のプーリユニットにおいて、
前記両リング間にラジアルベアリングが介装されるとともに前記ラジアルベアリングの軸方向両側にそれぞれ前記円周方向ばねが配置されていることを特徴とするトルク変動吸収プーリユニット。
【請求項4】
請求項1、2または3記載のプーリユニットにおいて、
当該プーリユニットは、回転軸に固定するハブに装着されることを特徴とするトルク変動吸収プーリユニット。
【請求項5】
請求項1、2または3記載のプーリユニットにおいて、
当該プーリユニットは、回転軸に固定するハブにゴム状弾性体を介して装着されることを特徴とするトルク変動吸収プーリユニット。
【請求項6】
請求項1、2または3記載のプーリユニットにおいて、
当該プーリユニットは、回転軸に固定するハブにゴム状弾性体および振動リングを介して装着されることを特徴とするトルク変動吸収プーリユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−229769(P2012−229769A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99218(P2011−99218)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】