説明

トレッド用ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】グリップ性能、耐摩耗性及び転がり抵抗特性をバランス良く改善できるトレッド用ゴム組成物、及びそれを用いたトレッドを有する空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】ゴム成分及び芳香族ビニル重合体を含有し、上記ゴム成分は、リチウム開始剤により重合され、スズ原子の含有量が50〜3000ppm、ビニル結合量が5〜50重量%、分子量分布(Mw/Mn)が2以下であるスズ変性ポリブタジエンゴムを10〜60質量%含み、上記芳香族ビニル重合体は、ガラス転移温度が10℃以下、芳香族ビニル単量体単位の含有量が95質量%以上であり、上記ゴム成分100質量部に対して、上記芳香族ビニル重合体の含有量が5〜100質量部であるトレッド用ゴム組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド用ゴム組成物、及びそれを用いて作製したトレッドを有する空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用の空気入りタイヤに要求される特性は、低燃費性(転がり抵抗特性)のほか、グリップ性能(操縦安定性)、耐摩耗性など多岐にわたり、これらの性能を向上するために種々の工夫がなされている。
【0003】
耐摩耗性を向上させる方法としては、例えば、ゴム成分として天然ゴムやブタジエンゴムを使用する方法が挙げられる。しかしながら、この方法を用いた場合、グリップ性能が悪化する傾向があるという点で改善の余地があった。
【0004】
耐摩耗性及びグリップ性能を両立させる方法としては、例えば、カーボンブラックやシリカ等の補強剤を増量する方法が挙げられる。しかしながら、この方法を用いた場合、転がり抵抗特性が悪化する傾向があるという点で改善の余地があった。
【0005】
特許文献1には、グリップ性能及び耐摩耗性を改善する方法として、芳香族ビニルモノマーのみを重合して得られた重合体を配合する方法が開示されているが、グリップ性能及び耐摩耗性以外の性能については検討されていない。
【0006】
また、特許文献2には、グリップ性能、耐摩耗性及び耐ブリード性を改善する方法として、低分子量芳香族ビニル−共役ジエン共重合体を配合する方法が開示されているが、グリップ性能、耐摩耗性及び耐ブリード性以外の性能については検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−112994号公報
【特許文献2】特開2005−225946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決し、グリップ性能、耐摩耗性及び転がり抵抗特性をバランス良く改善できるトレッド用ゴム組成物、及びそれを用いたトレッドを有する空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ゴム成分及び芳香族ビニル重合体を含有し、上記ゴム成分は、リチウム開始剤により重合され、スズ原子の含有量が50〜3000ppm、ビニル結合量が5〜50重量%、分子量分布(Mw/Mn)が2以下であるスズ変性ポリブタジエンゴムを10〜60質量%含み、上記芳香族ビニル重合体は、ガラス転移温度が10℃以下、芳香族ビニル単量体単位の含有量が95質量%以上であり、上記ゴム成分100質量部に対して、上記芳香族ビニル重合体の含有量が5〜100質量部であるトレッド用ゴム組成物に関する。
【0010】
上記芳香族ビニル重合体の芳香族ビニル単量体単位の含有量は、100質量%であることが好ましい。
【0011】
本発明はまた、上記ゴム組成物を用いて作製したトレッドを有する空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、特定のスズ変性ポリブタジエンゴムと、ガラス転移温度が一定以下であり、かつ芳香族ビニル単量体単位の含有量が一定以上である芳香族ビニル重合体とをそれぞれ所定量含有するゴム組成物であるので、該ゴム組成物をトレッドに使用することにより、グリップ性能、耐摩耗性及び転がり抵抗特性がバランス良く得られる空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のゴム組成物は、特定のスズ変性ポリブタジエンゴム(BR)と、ガラス転移温度が一定以下であり、かつ芳香族ビニル単量体単位の含有量が一定以上である芳香族ビニル重合体とをそれぞれ所定量含有する。上記芳香族ビニル重合体を配合した場合、グリップ性能を向上させることができるが、転がり抵抗特性が悪化する傾向がある。これに対し、上記スズ変性BRを配合すると、カーボンブラック等のフィラーとゴム成分との間に結合が形成され、フィラーの分散性が改善されるため、転がり抵抗特性及び耐摩耗性を改善することができる。したがって、上記芳香族ビニル重合体及び上記スズ変性BRを併用することにより、グリップ性能、耐摩耗性及び転がり抵抗特性をバランスよく改善することができる。
【0014】
本発明のゴム組成物は、ゴム成分として、リチウム開始剤により重合されたスズ変性BRを含有する。これにより、ゴム組成物のガラス転移温度(Tg)を低くすることができ、また、フィラー(特にカーボンブラック)とゴム成分との結合を強固にして、フィラーの分散性を改善することができる。
【0015】
上記スズ変性BRとしては、例えば、リチウム開始剤により1,3−ブタジエンの重合を行った後、スズ化合物を添加することにより得られたものを使用することができる。上記スズ変性BR分子の末端炭素は、スズと結合していることが好ましい。
【0016】
リチウム開始剤としては、例えば、アルキルリチウム、アリールリチウム、アリルリチウム、ビニルリチウム、有機スズリチウム、有機窒素リチウム化合物などのリチウム系化合物が挙げられる。リチウム系化合物を用いることで、ビニル結合量が高く、シス結合量の低いスズ変性BRを容易に作製できる。
【0017】
スズ化合物としては、例えば、四塩化スズ、ブチルスズトリクロライド、ジブチルスズジクロライド、ジオクチルスズジクロライド、トリブチルスズクロライド、トリフェニルスズクロライド、ジフェニルジブチルスズ、トリフェニルスズエトキシド、ジフェニルジメチルスズ、ジトリルスズクロライド、ジフェニルスズジオクタノエート、ジビニルジエチルスズ、テトラベンジルスズ、ジブチルスズジステアレート、テトラアリルスズ、p−トリブチルスズスチレンなどが挙げられ、これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
スズ変性BR中のスズ原子の含有量は、50ppm以上、好ましくは60ppm以上、より好ましくは100ppm以上である。スズ原子の含有量が50ppm未満では、フィラーの分散性の改善効果が小さくなり、tanδが増大(転がり抵抗特性が悪化)する傾向がある。また、スズ変性BR中のスズ原子の含有量は、3000ppm以下、好ましくは2500ppm以下、より好ましくは1500ppm以下、更に好ましくは500ppm以下である。スズ原子の含有量が3000ppmを超えると、混練り物のまとまりが悪く、エッジが整わないため、混練り物の押出し性が悪化する傾向がある。
【0019】
スズ変性BRの分子量分布(Mw/Mn)は、2以下、好ましくは1.8以下、より好ましくは1.5以下である。Mw/Mnが2を超えると、フィラーの分散性が悪化し、tanδが増大(転がり抵抗特性が悪化)する傾向がある。
なお、本明細書において、数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)(東ソー(株)製GPC−8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ−M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めたものである。
【0020】
スズ変性BRのビニル結合量は、5質量%以上、好ましくは7質量%以上である。ビニル結合量が5質量%未満のスズ変性BRは、重合(製造)が困難になる傾向がある。また、スズ変性BRのビニル結合量は、50質量%以下、好ましくは20質量%以下である。ビニル結合量が50質量%を超えると、フィラーの分散性が悪化したり、ゴム組成物の引張強さが低下する傾向がある。
【0021】
ゴム成分100質量%中のスズ変性BRの含有量は、10質量%以上、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。10質量%未満であると、転がり抵抗特性及び耐摩耗性を充分に改善できない傾向がある。また、ゴム成分100質量%中のスズ変性BRの含有量は、60質量%以下、好ましくは55質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。60質量%を超えると、ゴム組成物の破断強度が低下する傾向がある。
【0022】
本発明のゴム組成物は、上記スズ変性BR以外のゴム成分として、例えば、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)等のジエン系ゴムを用いてもよい。なかでも、相溶性が高く、安価であるという理由から、SBRを用いることが好ましい。
【0023】
SBRとしては特に限定されず、例えば、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E−SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S−SBR)等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。
【0024】
SBRのスチレン含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。10質量%未満の場合、グリップ性能が悪化する傾向がある。また、SBRのスチレン含有量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下である。50質量%を超えると、耐摩耗性が悪化する傾向がある。
なお、本明細書において、スチレン含有量は、H−NMR測定によって算出される。
【0025】
ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上である。30質量%未満であると、グリップ性能が悪化する傾向がある。また、ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である。90質量%を超えると、耐摩耗性が悪化する傾向がある。
【0026】
本発明のゴム組成物は、芳香族ビニル重合体を含有する。本明細書において、芳香族ビニル重合体とは、芳香族ビニル単量体単位の含有量が95質量%以上のものをいう。なお、上記芳香族ビニル重合体は、ゴム成分には含まれない。
【0027】
芳香族ビニル重合体を構成する芳香族ビニル単量体(単位)としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、1−ビニルナフタレン、3−ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、4−シクロヘキシルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン等が挙げられる。これらは1種であってもよく、2種以上であってもよい。なかでも、経済的で、加工しやすく、グリップ性に優れていることから、スチレン、α−メチルスチレン及び1−ビニルナフタレンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、スチレンであることがより好ましい。
【0028】
芳香族ビニル重合体は、芳香族ビニル単量体単位以外の成分(エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン等)も含んでもよいが、該成分の含有量をできるだけ少なくすることが好ましい。エチレン、プロピレン等のオレフィン系単量体は、ゴム成分との相溶性が悪いため、芳香族ビニル重合体中のオレフィン系単量体単位の含有量が多くなると、ブリードアウトが発生しやすくなる傾向がある。また、ブタジエン、イソプレン等のジエン系単量体は、ゴム成分と共架橋することによりヒステリシスロスが低下するため、芳香族ビニル重合体中のジエン系単量体単位の含有量が多くなると、ヒステリシスロスが低下することにより、グリップ性能が悪化する傾向がある。このような理由から、芳香族ビニル重合体中の芳香族ビニル単量体単位の含有量は、95質量%以上、好ましくは97質量%以上、より好ましくは99質量%以上、最も好ましくは100質量%である。すなわち、上記芳香族ビニル重合体は、芳香族ビニル単量体の単独重合体(ポリスチレン等)であることが好ましい。
【0029】
芳香族ビニル重合体のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは−50℃以上、より好ましくは−45℃以上、更に好ましくは−40℃以上である。−50℃未満の場合、グリップ性能が悪化する傾向がある。また、芳香族ビニル重合体のTgは、10℃以下、好ましくは9℃以下、より好ましくは8℃以下、更に好ましくは6℃以下である。10℃を超えると、耐摩耗性及び低温時のグリップ性能が悪化する傾向がある。
なお、本明細書において、Tgは、JIS−K7121に従い、(株)島津製作所製の自動示差走査熱量計(DSC−60A)を用いて、昇温速度10℃/分の条件で測定した値である。
【0030】
芳香族ビニル重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは300以上、より好ましくは350以上である。300未満では、転がり抵抗特性及びグリップ性能の充分な改善効果が得られにくい傾向がある。また、芳香族ビニル重合体の重量平均分子量は、好ましくは20000以下、より好ましくは15000以下である。20000を超えると、転がり抵抗特性が悪化する傾向がある。
【0031】
芳香族ビニル重合体の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、5質量部以上、好ましくは10質量部以上、より好ましくは15質量部以上である。5質量部未満であると、グリップ性能の充分な改善効果が得られにくい傾向がある。また、芳香族ビニル重合体の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、100質量部以下、好ましくは95質量部以下、より好ましくは90質量部以下である。100質量部を超えると、転がり抵抗特性及び耐摩耗性が悪化する傾向がある。
【0032】
本発明のゴム組成物は、上記成分に加え、充填剤(カーボンブラック、シリカ等)、オイル、粘着付与剤、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤等、必要に応じた添加剤が適宜配合され得る。
【0033】
本発明のゴム組成物は、上記充填剤として、カーボンブラックを含有することが好ましい。これにより、補強性を高め、耐摩耗性をより改善することができる。また、スズ変性BRは、カーボンブラックの表面に存在するカルボニル基やカルボキシル基と強固な結合を形成することができるため、カーボンブラックを含有する場合において、スズ変性BRによる改善効果をより強く発揮することができる。カーボンブラックとしては特に限定されず、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAFなどを用いることができる。カーボンブラックは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
カーボンブラックのチッ素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは50m/g以上、より好ましくは100m/g以上である。50m/g未満では、充分な補強性が得られない傾向がある。また、カーボンブラックのNSAは、200m/g以下が好ましく、150m/g以下がより好ましい。200m/gを超えると、カーボンブラックが分散しにくくなり、転がり抵抗特性が悪化する傾向がある。
なお、カーボンブラックのチッ素吸着比表面積は、JIS K6217のA法によって求められる。
【0035】
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上、更に好ましくは30質量部以上である。10質量部未満では、充分な補強性が得られない傾向がある。また、カーボンブラックの含有量はゴム成分100質量部に対して、好ましくは100質量部以下、より好ましくは80質量部以下、更に好ましくは60質量部以下である。100質量部を超えると、カーボンブラックが分散しにくくなり、転がり抵抗特性が悪化する傾向がある。
【0036】
本発明のゴム組成物は、上記充填剤として、シリカを含有することが好ましい。これにより、補強性を高めながら、転がり抵抗特性をより改善することができる。使用できるシリカとしては、例えば、湿式法で製造されたシリカ、乾式法で製造されたシリカ等が挙げられるが、特に制限はない。なお、シリカは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
シリカのチッ素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは170m/g以上、より好ましくは200m/g以上である。170m/g未満であると、充分な補強性が得られない傾向がある。また、シリカのNSAは、好ましくは250m/g以下、より好ましくは230m/g以下である。250m/gを超えると、シリカの分散性が低下するため、ヒステリシスロスが増大し、転がり抵抗特性が悪化する傾向がある。
なお、シリカのNSAは、ASTM D3037−81に準じてBET法で測定される値である。
【0038】
シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは15質量部以上、より好ましくは25質量部以上、更に好ましくは35質量部以上である。15質量部未満では、充分な補強性が得られない傾向がある。また、当該シリカの含有量は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは85質量部以下、更に好ましくは65質量部以下である。100質量部を超えると、シリカの分散性が低下するため、ヒステリシスロスが増大し、転がり抵抗特性が悪化する傾向がある。
【0039】
本発明では、シリカとともにシランカップリング剤を併用しても良い。シランカップリング剤としては、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド等が挙げられる。なかでも、補強性改善効果が高いという点から、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドが好ましい。これらのシランカップリング剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上である。1質量部未満では、未加硫ゴム組成物の粘度が高くなるため、加工性が悪くなる傾向がある。また、シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下である。20質量部を超えると、コストの増加に見合った効果が得られない傾向がある。
【0041】
本発明のゴム組成物は、一般的な方法で製造される。すなわち、バンバリーミキサー、ニーダー、オープンロール等の混練機で上記各成分を混練りし、その後加硫する方法等により製造できる。
【0042】
本発明のゴム組成物は、空気入りタイヤのトレッドとして用いられるものである。
また、該ゴム組成物は、乗用車、商用車、2輪車などに好適に使用できる。
【0043】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法で製造される。
すなわち、上記成分を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でトレッドの形状にあわせて押出し加工し、他のタイヤ部材とともに、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、本発明の空気入りタイヤを製造することができる。
【実施例】
【0044】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0045】
以下、実施例及び比較例で用いた各種薬品について説明する。
SBR:JSR(株)製のSBR1502(スチレン含有量:23.5質量%)
スズ変性BR(1):日本ゼオン(株)製のBR1250H(リチウム開始剤を用いて重合、ビニル結合量:10〜13質量%、Mw/Mn:1.5、スズ原子の含有量:250ppm)
スズ変性BR(2):スズ変性BR(1)のMw/Mnを1.9に変更したもの
芳香族ビニル重合体:下記重合方法により重合(芳香族ビニル単量体単位:スチレン、スチレン含有量:100質量%、Tg:5℃、Mw:1020)
シリカ:デグッサ社製のウルトラジルVN3(NSA:175m/g)
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN220(NSA:111m/g)
シランカップリング剤:デグッサ社製のSi69(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
オイル:(株)ジャパンエナジー製のJOMOプロセスX140
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックN
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
ステアリン酸:日油(株)製の椿
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0046】
(芳香族ビニル重合体の重合)
充分に窒素置換した100mlの容器に、ヘキサン35ml、スチレン2.5ml及び1.6mol/Lのn−ブチルリチウムヘキサン水溶液2.7mLを添加し、室温で1時間撹拌した後、メタノールを添加して反応を停止させ、芳香族ビニル重合体を重合した。
【0047】
実施例1〜4及び比較例1〜5
バンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の薬品を150℃の条件下で5分間混練りし、混練り物を得た。次に、2軸オープンロールを用いて、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、50℃の条件下で5分間混練りし、未加硫ゴム組成物を得た。
得られた未加硫ゴム組成物を170℃の条件下で15分間プレス加硫することにより、加硫ゴム組成物を得た。
また、得られた未加硫ゴム組成物をトレッド形状に加工し、他のタイヤ部材と貼り合わせ、170℃の条件下で15分間加硫することで試験用タイヤ(タイヤサイズ:195/65R15)を得た。
【0048】
得られた加硫ゴム組成物及び試験用タイヤを用いて、以下の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0049】
(グリップ指数)
上記試験用タイヤを車両(国産FF2000cc)の全輪に装着して、ドライアスファルト路面のテストコースにて実車走行を行なった。その際における操舵時のコントロールの安定性をテストドライバーが評価し、比較例1を100として指数表示をした。数値が大きいほどドライ路面におけるグリップ性能(操縦安定性)が高いことを示す。
【0050】
(摩耗指数)
ランボーン型摩耗試験機を用いて、室温、負荷荷重1.0kgf、スリップ率30%の条件で上記加硫ゴム組成物のランボーン摩耗量を測定した。そして、測定したランボーン摩耗量から容積損失量を計算し、比較例1の容積損失量を100として、各配合の容積損失量を下記計算式により指数表示した。数値が大きいほど耐摩耗性に優れることを示す。
(摩耗指数)=(比較例1の容積損失量)/(各配合の容積損失量)×100
【0051】
(転がり抵抗指数)
粘弾性スペクトロメーターVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度70℃、初期歪み10%、動歪み2%の条件下で上記加硫ゴム組成物のtanδを測定した。そして、比較例1のtanδを100として、下記計算式により指数表示した。数値が大きいほど転がり抵抗特性に優れる(転がり抵抗が低い)ことを示す。
(転がり抵抗指数)=(比較例1のtanδ)/(各配合のtanδ)×100
【0052】
【表1】

【0053】
表1より、特定のスズ変性ポリブタジエンゴムと、ガラス転移温度が一定以下であり、かつ芳香族ビニル単量体単位の含有量が一定以上である芳香族ビニル重合体とをそれぞれ所定量含有する実施例では、グリップ性能、耐摩耗性及び転がり抵抗特性がバランス良く改善された。一方、比較例では、これらの性能をバランス良く得ることができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分及び芳香族ビニル重合体を含有し、
前記ゴム成分は、リチウム開始剤により重合され、スズ原子の含有量が50〜3000ppm、ビニル結合量が5〜50重量%、分子量分布(Mw/Mn)が2以下であるスズ変性ポリブタジエンゴムを10〜60質量%含み、
前記芳香族ビニル重合体は、ガラス転移温度が10℃以下、芳香族ビニル単量体単位の含有量が95質量%以上であり、
前記ゴム成分100質量部に対して、前記芳香族ビニル重合体の含有量が5〜100質量部であるトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
前記芳香族ビニル重合体の芳香族ビニル単量体単位の含有量が100質量%である請求項1記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載のゴム組成物を用いて作製したトレッドを有する空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2011−94016(P2011−94016A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248944(P2009−248944)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】