説明

トレハルロースをベースとする高活性抗酸化剤

本発明は、食品、飼料、化粧品および医薬品のための改善された抗酸化剤ならびにこの抗酸化剤を好ましくは唯一の添加される抗酸化作用性添加物として含む組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食品、飼料、化粧品および医薬品のための添加物または補助物質、特に抗酸化作用を有する添加物および抗酸化剤の技術分野に関する。本発明はとりわけ食品、飼料、化粧品および医薬品のための改善された抗酸化剤ならびにこの抗酸化剤を好ましくは唯一添加された抗酸化作用添加物として含む食品、飼料、化粧品および医薬品を提供する。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬用または化粧用製剤のための抗酸化作用添加物または補助物質は周知である。これらの物質はとりわけ食品、飼料、化粧品または医薬品の製造および貯蔵の際に酸化に敏感な含有物と大気酸素またはその他の酸化作用物質が接触して生じる分解産物の発生を抑制する。以下で食品については、とりわけ食品および飼料だけでなく、動物または人間の身体内でまたはこれに接して適用しうるその他のすべての製剤および組成物、例えば化粧品および医薬品をも意味するものとする。抗酸化剤は食品添加物として、食品の貯蔵性または耐老化性を改善する効果がある。抗酸化剤は場合によってはさらに治療および/または予防効果のある作用物質の働きもし、動物または人間の身体でその効果を発揮し、そこで有害な酸化過程を抑制する。このような抗酸化剤の一例はアスコルビン酸(ビタミンC)である。アスコルビン酸およびその塩は例えば果実飲料、ジャム、コンデンスミルクまたは肉製品に添加される。
【0003】
抗酸化剤は、通常、酸化に敏感な基質と比較して低い濃度で存在し、基質の酸化を著しく遅らせまたは阻止する食品添加物または補助物質である。抗酸化剤はそれ自体が還元剤であり、従って酸化過程の基質であるという性質のほかに、酸化反応で触媒作用を有する金属イオン、例えば2価鉄をキレートの形に結合し、かつ/または開始ラジカルの捕捉(スカベンジングまたはクエンチ)または中間ラジカルの捕捉(連鎖の中断)によりラジカル連鎖反応を抑制するという特徴がある。
【0004】
アスコルビン酸も含めて多くの抗酸化剤は、食品に対して一部で大きな風味変化効果を有する。これを意図的に利用することができる。例えばアスコルビン酸はクエン酸を想起させる酸味がある。通常、抗酸化剤の抗酸化作用はpH値に左右される。即ちアスコルビン酸は酸の中でのみ高い抗酸化作用を有する。ところが多くの食品で酸味は望ましくなく、または例えば生乳製品で酸性環境を維持することは不可能である。現在では幾つかの周知の抗酸化剤について、動物または人間の身体に不都合な健康上の影響が発見されている。アスコルビン酸ならびに二酸化硫黄およびその塩(亜硫酸塩、重亜硫酸塩、二亜硫酸塩、亜硫酸水素塩)もこれに数えられる。
【0005】
さらに、公知の抗酸化剤の多くはあまりに強い還元作用があり、このため条件によっては食品の成分と望ましくない反応を生じる。
【0006】
多くの公知の抗酸化剤、例えばアスコルビン酸はそれ自体が酸化および/または光に非常に敏感であり、このことがその工業的利用を阻害する。
【0007】
そこで、抗酸化作用があるが、周知の抗酸化剤の欠点のない別の物質を抗酸化剤として使用できるようにすることが必要である。
【0008】
発明のもう一つの態様は醸造技術、とりわけ高い貯蔵性を有するビールの製造およびそのための手段に関するものである。ビールは、自然の老化過程にさらされる、香味が不安定な食品として知られている。香味安定性は貯蔵が予定されるビールの重要な品質上の特徴である。一般に、充填から消費にいたるまでビールのもともとの特徴を保持するという目標が追求される。老化過程はとりわけビールの成分の酸化的分解およびそのとき生じるいわゆる「老化成分」によって特徴づけられる。これらはビールの香味を不利に変化させる。酸化的分解にとって重要なのは、発酵の後および充填の際の酸素の混入である。大気酸素分子は反応性酸素形態、とりわけヒドロキシルラジカルを形成する。ヒドロキシルラジカルはとりわけビール中に存在する成分であるエタノール、遊離脂肪酸およびイソフムロンを酸化してアルデヒドおよびケトンを生じる。即ちヒドロキシルラジカルは別のラジカル形態への反応のための開始ラジカルの役割もし、この反応からやはりアルデヒドが生じる。
【0009】
ビールは元来、複数の還元作用性成分を含み、これらの成分がこのような不都合な酸化産物の形成を一定期間のあいだ阻止する。ビールのこのいわゆる内因性抗酸化活性または内因性抗酸化能力(EAP)は、ビールに若干の貯蔵性を持たせる。ビールに含まれる抗酸化作用性成分はとりわけ二酸化硫黄、遊離フェノール、ポリフェノールまたはキサントフモールである。これらの成分の抗酸化能力が尽きれば、ビールの貯蔵性の終りとなる。それ故ビールはそれ自身では限られた貯蔵性しかない。
【0010】
二酸化硫黄の一部は主発酵時に、使用される発酵酵母によって形成される。ところが二酸化硫黄の形成は発酵の経過および使用される酵母株に依存する。ビールの内因性抗酸化能力を二酸化硫黄により高めようとすれば、特殊な発酵経過と特殊な酵母選択を行わなければならない。その場合、発酵を実施する際の柔軟性が限られる。
【0011】
ビールのこのようなフェノール系物質の割合を高めるために、ビール製造で様々な技術的対策が適用される。このような方法は一部で費用がかかり、醸造成績を変え、しかも醸造の実施の際の柔軟性が制限される。
【0012】
二酸化硫黄がビールに添加される抗酸化剤であることは周知である。これは一般に長い貯蔵、例えば海外への輸出が予定されたビールに添加される。二酸化硫黄はビールの香味をあらかじめ不利に変化する。その他の周知の抗酸化剤、例えばアスコルビン酸もまたビールの香味を不利に変化する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで本発明の課題は、風味上の欠点および周知の抗酸化剤に伴うその他の欠点を容認せずに、ビール、ビール混合飲料および類似の醸造製品の内因性抗酸化能力(EAP)を高める手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明の根底にある技術的課題は、抗酸化作用成分としてトレハルロースまたはトレハルロース含有シロップを含む、とりわけ食品、飼料、化粧品および医薬品で使用するための抗酸化剤または抗酸化剤組成物を提供することによって解決される。本発明に基づく抗酸化剤は唯一の抗酸化作用成分としてトレハルロースまたはトレハルロース含有シロップを含むか、またはこれからなることが好ましい。発明の一変型ではトレハルロースまたはトレハルロース含有シロップは、トレハルロースのほかに、トレハルロースまたはトレハルロース含有シロップの抗酸化作用を相乗的に助長する少なくとも1つの別の成分を有する抗酸化剤組成物の成分である。このような相乗効果は、好ましくは酸化および触媒作用性金属イオンの錯化またはキレート化に関連する。
【0015】
本発明者らは、意外なことにトレハルロースまたはトレハルロース含有シロップの添加が食品または飼料の酸化安定性を著しく改善することを発見した。トレハルロースは貯蔵安定性、耐老化性または酸化安定性の効率的な改善のための補助物質の働きをする。トレハルロースは酸化的分解産物、例えばビールまたはビール類似飲料のような食品でその香味劣化および/または健康危害作用により貯蔵性を制限するいわゆる老化成分の発生を効果的に阻止または減少させる。トレハルロースは酸化に敏感な食物成分、例えば着色料、調味料および薬理的作用物質、とりわけω-3および/またはω-6脂肪酸を含む不飽和脂肪酸および同等の脂肪酸を保護する作用がある。定説にかかわりなく、トレハルロースは意外にも他の公知の還元糖、例えばグルコースと比較して著しく大きな、従って効果的に適用される抗酸化作用を示す。
【0016】
したがって、本発明は、物質、トレハルロースのとりわけ食品、化粧用製品および医薬用製剤のための抗酸化剤としての使用を提供する。トレハルロースを製品に加えられる唯一の抗酸化剤として使用することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】トレハルロース、イソマルツロースを添加しまたは添加しないダイエットビールの作りたてのバッチのESR(電子スピン共鳴)測定(信号強度およびEAP値)を示す。
【図2】暗所に20℃で3ヵ月貯蔵した後の老化したバッチ(上記参照)のESR測定(信号強度およびEAP値)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
トレハルロース即ちα-D-グルコピラノシル-1,1-β-D-フルクトフラノースはグルコースとフルクトースからなる二糖であり、スクロースの構造異性体である。トレハルロースはとりわけスクロースの異性化によって得られる。トレハルロース・シロップとも呼ばれるトレハルロース含有シロップは、周知のように好ましくはスクロースから生体触媒法で、例えばMX-45株のPseudomonas mesoacidophilaまたは対応するその他の形質転換生物の固定化した増殖不能な細胞を使用して、とりわけ10〜10℃の温度で得られる。得られた粗シロップは75〜92重量%、多くの場合85〜90重量%(乾物重量)のトレハルロースを含む。これをそのまま本発明に基づくトレハルロース含有シロップとして使用することができる。公知の方法、例えばクロマトグラフィーおよび結晶化によってトレハルロースの割合を高め、異物および残留スクロースの割合を減少させることができる。
【0019】
本発明に基づくトレハルロース含有シロップは典型的には下記の組成を有する:
【表1】

【0020】
もちろんこの組成は一定範囲内で偏差を示し、変動することがある。本発明に基づくトレハルロース・シロップは場合によっては約1%の割合のロイクロースを含む。トレハルロース・シロップは場合によっては約1%の割合の残留スクロースも含む。
【0021】
本発明はこのトレハルロース・シロップに限定されない。本発明に関連してトレハルロース・シロップとは、少なくとも60重量%、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上のトレハルロースを含むトレハルロース含有組成物を意味する。
【0022】
好ましい実施形態ではイソマルツロースの割合が小さく、常に15%未満、場合によっては5%未満である。イソマルツロースは最終産物で結晶化の発生の原因となる。これは最終製品によっては望ましくない。別の好ましい実施形態ではトレハルロース・シロップにイソマルツロースが含まれていない。このような変型は例えば副生物、とりわけイソマルツロースの結晶化によって得られる。
【0023】
トレハルロースおよびトレハルロース含有シロップは、これまで基本的には公知のスクロース含有食品配合物でスクロースの代替品とされた。その場合トレハルロースはとりわけこくのある甘味料(「bulk substance」)として使用された。これに対して本発明は異なる教示を提示する。即ち、トレハルロースまたはトレハルロース含有シロップを、好ましくは食品および飼料、さらには化粧用および医薬用組成物のために抗酸化作用性補助または添加物(抗酸化剤)として使用する。したがって、本発明は異なる技術的応用分野にある。本発明によればトレハルロースは、甘味作用および/またはこくのある成分としての機能が必要でなくかつ/または効果が表れない組成物および食品でも使用することができる。したがって、トレハルロースまたはトレハルロース含有シロップの本発明に基づく使用は、甘味品の分野の範囲外かつ/または炭水化物含有食品の分野の範囲外にある。例えば酪農製品(チーズ、ヨーグルト等)のようなタンパク質および/または脂肪に富む食品または油脂含有調理品(マーガリン、食料油等)ならびに例えば酸化に敏感な脂肪酸の割合が高い牛乳生産用の飼料がこれに数えられる。
【0024】
本発明に基づくトレハルロース含有組成物で、他の抗酸化作用物質の存在がトレハルロースの抗酸化または保護作用を助長することはもちろんである。
【0025】
本発明者らは、意外なことにトレハルロース組成物中のイソマルツロースの存在がトレハルロースの抗酸化または保護作用を超化成的または相乗的に改善することを見出した。発明の特に好ましい実施形態は、食品、飼料、化粧品または医薬品で好ましくは唯一の抗酸化または保護作用成分としてのイソマルツロースおよびトレハルロースを含む組成物の使用である。この実施形態の一変型では、この組成物中のトレハルロースの割合が少なくとも50重量%以上、イソマルツロースの割合が50重量%以下である。別の変型では、トレハルロースはイソマルツロースの抗酸化または保護作用を超化成的に改善する成分である。この変型では、組成物中のトレハルロースの割合が50重量%以下、イソマルツロースの割合が50重量%以上である。したがってイソマルツロースまたはイソマルツロース含有組成物の抗酸化または保護作用の改善/増進のためのトレハロースまたはトレハルロース含有シロップの使用も本発明の目的である。
【0026】
また本発明は、本発明の抗酸化剤を含む食品、化粧用製品および医薬製剤に関する。また本発明は、このような製品での抗酸化剤としてのトレハルロースまたはトレハルロース含有シロップの使用に関する。製品が、製品に加えられる唯一の抗酸化剤としてトレハルロースまたはトレハルロース含有シロップを含むことが好ましい。その場合とりわけ相乗的機能に関連してトレハルロースの抗酸化効果を助長または増進する少なくとも1つの別の成分をトレハルロースに添加することが可能である。
【0027】
抗酸化剤としてトレハルロースまたはトレハルロース含有シロップを含む本発明に基づく食品は、下記から選択されることが好ましい:
i. 牛乳加工品および乳製品、例えばチーズ、バター、ヨーグルト、ケフィア、クワルク、サワーミルク、バターミルク、生クリーム、コンデンスミルク、ドライミルク、ホエイ、乳糖、乳タンパク質、混合乳、低脂肪乳、ホエイ混合物または乳脂等の製品または調理品
ii. プリン、クリーム、ムースおよびその他のデザート
iii. 乳脂加工品、混合脂肪製品、食用脂および食用油
iv. ベーキング製品、例えばクッキーおよびケーキ類を含むパン、保存ベーキング製品、ビスケット製品およびワッフル
v. スプレッド、特に脂肪含有スプレッド、マーガリン加工品およびショートニング
vi. インスタント製品および醸造製品
vii. 果物製品または調理品、例えばジャム、マーマレード、ゼリー、果物缶詰、果実パルプ、果実ピューレ、果汁、濃縮果汁、果肉飲料および粉末果汁
viii. シリアル、ミュースリおよびシリアル混合物ならびに調理済みシリアル含有製品、例えばミュースリバーおよび朝食用製品
ix. 本来非アルコール性の飲料、飲料原料および粉末飲料、ココア飲料、ココア飲料粉末
x. 本来アルコール性の飲料および発酵製品、ワイン、ワイン混合飲料、ビール、ビール混合飲料、無アルコール・ビールまたはビール混合飲料、減アルコール・ビールまたはビール混合飲料
xi. 肉製品およびソーセージ製品
xii. 甘味品、例えばチョコレート、ハードキャラメル、ソフトキャラメル、チューインガム、キャンデー、フォンダン加工品、ゼリー加工品、リコリス、発泡砂糖菓子、フレーク、糖菓、圧縮加工品、砂糖漬け果実、クロカン、ヌガー加工品、アイスキャンデー、マジパン、アイスクリーム。
【0028】
もちろん本発明は上記の製品から派生した食品または飼料、特にダイエット用特別食にも関する。さらに本発明は人間の飲食のためにまったくまたはほとんど考えられていないまたは適さない食品にも関する。飼料、動物食餌、動物食餌用粗混合物、デンプン強化飼料、タンパク質強化飼料、脂肪強化飼料、高カロリー飼料および濃厚飼料がこれに数えられる。意外なことに、トレハルロースまたはトレハルロース含有シロップの保護/抗酸化作用に基づき飼料中の酸化に敏感な脂肪酸、例えば粗飼料または粗飼料調合物中のω-3脂肪酸の当初の含量もしくは添加した脂肪酸の含量が、飼料の貯蔵時だけでなく、動物体内での飼料の消化/利用時にも保存されることが判明した。したがって、酸化に敏感な食物成分または添加物がより多量に動物に供給される。
【0029】
抗酸化剤としてのトレハルロースまたはトレハルロース含有シロップの本発明に基づく適用の対象は、酸化に敏感であり、老化過程にさらされ、こうして食品の消費期限または寿命を短縮する少なくとも1つの成分を含む食品である。本発明によれば、これは特に食品の製造および/または貯蔵の際に酸化的分解を受ける物質または物質混合物を意味する。この酸化的分解はとりわけ酸素含有成分との接触、とりわけ大気酸素との接触によって引き起こされる。さらに酸化的分解は、食品または食品組成物に含まれ、それ自体が酸化作用を有する別の物質が原因となることもある。例えば酸化性の酸、高い酸化数の金属およびその化合物、酸化作用性保存剤ならびにその他の酸化作用性酸素、硫黄またはハロゲン化合物がこれに数えられる。また抗酸化剤としてのトレハルロースまたはトレハルロース含有シロップはこのような製品で遊離ラジカルに対する安定性を高め、遊離ラジカルの形成を抑制する。
【0030】
本発明の好ましい目的は、好ましくは唯一の抗酸化剤としてトレハルロースまたはトレハルロース含有シロップを含み、乳製品または牛乳混合物製品、とりわけヨーグルトであって、酸化に敏感な成分として不飽和脂肪酸、とりわけω-3脂肪酸、ω-6脂肪酸等を含む食品である。意外なことに抗酸化剤としてのトレハルロースはω-3脂肪酸およびω-6脂肪酸の酸化的分解を効果的に抑制することが判明した。トレハルロースを含む乳製品、特にヨーグルトでは、長く貯蔵しても添加されたω-3脂肪酸、ω-6脂肪酸またはその他の酸化に敏感な成分(上記を参照)が僅かしか分解されない。
【0031】
発明の別の好ましい目的は、トレハルロースまたはトレハルロース含有シロップが好ましくは唯一の抗酸化剤、特に好ましくは唯一添加された抗酸化剤として含まれている食品、ビールまたはそれから変換された形態、例えばビール混合飲料または無アルコールまたは減アルコール・ビールまたはビール混合飲料である。意外なことにトレハルロース含有ビールは特に高い貯蔵安定性を有することが判明した。長く貯蔵しても、老化に起因する不利な香味変化が許容範囲内に保たれる。トレハルロースはビールの酸化に敏感な成分を安定化し、EAP(内因性抗酸化能力)値を高める。トレハルロースは貯蔵したビールのいわゆる「老化臭」の原因となる老化成分の早期の富化を防止する。
【0032】
したがって、食品、飼料、化粧品および医薬品、特に酸化に敏感な食品、飼料、化粧品および医薬品、特にビール、ビール混合飲料、インスタント飲料およびインスタントココア飲料の耐老化性、酸化安定性および/または貯蔵安定性の改善のためのトレハルロースまたはトレハルロース含有シロップの使用、とりわけビールまたはビール混合飲料の香味を劣化する老化成分の発生を減少させるためのトレハルロースまたはトレハルロース含有シロップの使用も本発明の目的である。最後に、食品、特にヨーグルト等の酸化に敏感な着色料、調味料、薬理的作用物質および/または不飽和脂肪酸、とりわけω-3脂肪酸等の酸化を減少させるためのトレハルロースの使用も本発明の目的である。
【0033】
実施例と図にもとづき発明を詳述する。ただしこれを限定的と解すべきでない。
【実施例】
【0034】
実施例1:乳製品のω-3脂肪酸の安定化
ヨーグルト基質に入れたω-3脂肪酸の酸化的分解を抑制または減少させるトレハルロース含有シロップ(約89重量%トレハルロース)の能力を調べた。
【0035】
そのために、全脂ヨーグルト(ヨーグルト、マイルド、脂肪分3.5%;Milram)を使用し、これにω-3脂肪酸としてDHA CL(Lonza)を掻き混ぜた。下記のヨーグルト調合物(100g当りg)を調製した:
バッチA(本発明に基づく): 5g トレハルロース・シロップ
バッチB: 5g フルクトース
バッチC: 5g スクロース
【0036】
それぞれ240gのこれらのバッチにそれぞれ150mgのDHA-CL(Lonza)および内部標準として約40mgの飽和脂肪酸(C22:0)をUltraturraxにより掻き混ぜた。すべての処置は窒素保護雰囲気下で行った。
【0037】
ヨーグルト調合物の調製の直後にそれぞれゼロ試料を取り、調製したての調合物中のω-3脂肪酸の回収率を測定した。
【0038】
ω-3脂肪酸の測定のためにそれぞれ0.85mlのヨーグルト調合物を試験管(Eppendorf)にピペットで移し、秤量し、それぞれ1mlのtert-ブチルメチルエーテルを混合し、激しく振とうした。約3分間の振とうの後に試験管を13000rpmで3分間遠心した。続いてそれぞれ200μlの透明な上清を採取し、それぞれ100μlのTHMSを混合した。使用した脂肪酸の検出のために周知のように最適化したガスクロマトグラフ(Agilent、6890型)にそれぞれ1μlのこの溶液を注入した。
【0039】
すべてのゼロ試料バッチで、初めに投入されたω-3脂肪酸の96〜99%の回収率が例外なく認められた。
【0040】
調製したヨーグルト調合物を次に7℃で28日間貯蔵した。試料をそれぞれガスクロマトグラフィーで分析した。
【0041】
結果:トレハルロース含有調合物(バッチA)は酸化に敏感な脂肪酸で最高の回収率を示した。この調合物の風味は完全である。フルクトースまたはスクロースを混合した試料は著しく低い回収率を示した。風味の障害が現れた(脂肪味)。
【0042】
意外なことにケト・エノール互変異性により還元糖の働きをするフルクトースは、高いモル濃度でもトレハルロースより著しく小さな保護効果を有することが示された。定説にかかわりなく、トレハルロースの意外に高い抗酸化作用は反応性アルデヒド基の存在だけに帰せられるものではない。アルデヒド糖の還元活性(酸化還元電位)は、見出された高い抗酸化作用をもっぱらそれから導き出すには一般にあまりに小さいと思われた。この場合、別の機序が抗酸化および保護作用を促進するようである。
【0043】
実施例2:ビールの安定化
ビールの酸化安定性への影響を調べるために、市販のダイエットビール(炭水化物をほとんど含まない)にトレハルロースを混合した(本発明に基づき)。比較試料では市販のダイエットビールにイソマルツロース(対照)を混合し、または添加物のないダイエットビールを使用した。すべての試料に所定のビール老化を施した。ESRによる酸化安定性の測定をビール老化の初めと終りに行った。
【0044】
市販のダイエットビール
原麦汁エキス(実測%) 9.1
外観残留エキス(重量%) 0
真正残留エキス(重量%) 1.66
アルコール含量(容積%) 4.78
苦味単位(BE) 24
バッチ1:2g/100mlのトレハルロース・シロップを含むダイエットビール(本発明に基づく)
バッチ2:1g/100mlのイソマルツロースを含むダイエットビール(比較例)
バッチ3:2g/100mlのイソマルツロースを含むダイエットビール(比較例)
バッチ4:添加物なしのダイエットビール(比較例)
すべてのバッチを20℃で暗所に3ヵ月貯蔵した(ビール老化試験)。
【0045】
試料の酸化安定性をMethnerおよびKunzの方法(MethnerおよびKunz、2006年、電子スピン共鳴分光法によるビールの酸化安定性の正確な予測、Brauerei Forum 2006:7-9)でESR(電子スピン共鳴)分光法により決定した。その場合高いEAP値は良好な酸化安定性を示す。さらに絶対信号強度を判定に採用した。これは測定時に酸化過程によって形成されるラジカル物質の尺度だからである。
【0046】
図1は作りたてのバッチ(上記を参照)の冷蔵(0〜2℃)の後のESR測定の結果(信号強度およびEAP値)を示す。
【0047】
図2は20℃で暗所に3ヵ月貯蔵後の老化したバッチ(上記を参照)のESR測定の結果(信号強度およびEAP値)を示す。
【0048】
トレハルロースを含む本発明に基づくバッチ1(「2% Tre」)のEAP値は最高である。即ち新しいバッチではEAP=312分であり、3ヵ月貯蔵したバッチではEAP=190分である。ESR信号強度は本発明に基づくバッチ(「2% Tre」)で最も小さい。このことは抗酸化作用剤としてのトレハルロースの高い抗酸化能力を示唆している。
【0049】
これと比較してイソマルツロース(バッチ2および3:「1%Pal」および「2%Pal」)も同じく抗酸化作用を示す。しかしこれは同じ添加量ではるかに明瞭さが劣る。本発明はトレハルロースによって、意外にも他の糖類、特に他の低血糖性の糖類、とりわけ例えば二糖、イソマルツロースよりはるかに強い抗酸化作用を有する抗酸化作用剤(抗酸化剤)を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗酸化作用成分としてトレハルロース、トレハルロース組成物またはトレハルロース含有シロップを含む、食品、飼料、化粧品または医薬品のための抗酸化剤。
【請求項2】
請求項1に記載の抗酸化剤を含む食品、飼料、化粧品または医薬品。
【請求項3】
食品に添加される唯一の抗酸化作用性補助物質としてトレハルロースまたはトレハルロース含有シロップを含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
不飽和脂肪酸から選択される少なくとも1つの酸化に敏感な成分を含む、請求項2または3に記載の組成物。
【請求項5】
不飽和脂肪酸がω-3脂肪酸およびω-6脂肪酸から選択される、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
食品が
i. 牛乳加工品および乳製品、例えばチーズ、バター、ヨーグルト、ケフィア、クワルク、サワーミルク、バターミルク、生クリーム、コンデンスミルク、ドライミルク、ホエイ、乳糖、乳タンパク質、混合乳、低脂肪乳、ホエイ混合物または乳脂等の製品または調理品
ii. プリン、クリーム、ムースおよびその他のデザート
iii. 乳脂加工品、混合脂肪製品、食用脂、食用油
iv. ベーキング製品、例えばクッキーおよびケーキ類を含むパン、保存ベーキング製品、ビスケット製品およびワッフル
v. スプレッド、特に脂肪含有スプレッド、マーガリン加工品およびショートニング
vi. インスタント製品および醸造製品
vii. 果物製品または調理品、例えばジャム、マーマレード、ゼリー、果物缶詰、果実パルプ、果実ピューレ、果汁、濃縮果汁、果肉飲料および粉末果汁
viii. シリアル、ミュースリおよびシリアル混合物ならびに調理済みシリアル含有製品、例えばミュースリバーおよび朝食用製品
ix. 本来非アルコール性の飲料、飲料原料および粉末飲料、ココア飲料、ココア飲料粉末
x. 本来アルコール性の飲料および発酵製品、ワイン、ワイン混合飲料、ビール、ビール混合飲料、無アルコール・ビールまたはビール混合飲料、減アルコール・ビールまたはビール混合飲料
xi. 肉製品およびソーセージ製品
xii. 甘味品、例えばチョコレート、ハードキャラメル、ソフトキャラメル、チューインガム、キャンデー、フォンダン加工品、ゼリー加工品、リコリス、発泡砂糖菓子、フレーク、糖菓、圧縮加工品、砂糖漬け果実、クロカン、ヌガー加工品、アイスキャンデー、マジパン、アイスクリーム
ならびにこれらから派生するダイエット用特別食
から選択される、請求項2〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
飼料、動物食餌、動物食餌用粗混合物、デンプン強化、タンパク質強化または脂肪強化飼料、濃厚飼料または高カロリー飼料である、請求項2〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
ω-3またはω-6脂肪酸含有乳製品、ヨーグルトまたは牛乳混合製品である、請求項2〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
ビール、ビール混合飲料または無アルコールもしくは減アルコールビールまたはビール混合飲料である、請求項2〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
抗酸化剤としてのトレハルロースまたはトレハルロース含有シロップの使用。
【請求項11】
食品、飼料、化粧品および医薬品の耐老化性および/または貯蔵安定性の改善のためのトレハルロースまたはトレハルロース含有シロップの使用。
【請求項12】
食品、飼料、化粧品および医薬品の酸化安定性の改善のためのトレハルロースまたはトレハルロース含有シロップの使用。
【請求項13】
食品、飼料、化粧品および医薬品の風味を劣化させる老化成分の発生を減少させるためのトレハルロースまたはトレハルロース含有シロップの使用。
【請求項14】
食品、飼料、化粧品および医薬品の不飽和脂肪酸の酸化を減少させるためのトレハルロースまたはトレハルロース含有シロップの使用。
【請求項15】
食品が請求項2〜9のいずれか1項に記載の組成物から選択される、請求項11〜14のいずれか1項に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−522548(P2011−522548A)
【公表日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512843(P2011−512843)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【国際出願番号】PCT/EP2009/002599
【国際公開番号】WO2009/149785
【国際公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(500175772)ズートツッカー アクチェンゲゼルシャフト マンハイム/オクセンフルト (47)
【Fターム(参考)】