説明

トレハローストランスポーター遺伝子および該遺伝子を利用した細胞内にトレハロースを導入する方法

【課題】新規のトレハローストランスポーター遺伝子の単離・同定、ならびに該遺伝子を利用した細胞内にトレハロースを導入する方法を提供する。
【解決手段】ネムリユスリカESTデータベースの中から、糖トランスポーターにアノテーションされたESTクローンを複数同定した。そのESTクローンで構成されたクラスターの塩基配列情報を元に、RACE法を用いて、ネムリユスリカから約2.3kbの完全長のcDNA(PvTRET1)を単離した。このcDNAは、糖トランスポーターの保存ドメインを有している。PvTRET1のオーソログは昆虫で広く保存されており、それらは全て促進拡散型トレハロース輸送活性を有していた。この活性は、いかなる生物にもトレハロース輸送活性を付与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトレハローストランスポーター遺伝子および該遺伝子を利用した細胞内にトレハロースを導入する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トレハロースは、2つのグルコースがα1,1結合した非還元糖であり、昆虫や甲殻類、カビ、バクテリアなどに広く存在し、それら生物のエネルギー源や炭素源に利用されている。トレハロースは他の糖とは異なり非還元糖であるため、還元糖にみられるメイラード反応によるタンパク変性のような毒性は全くない。そればかりか、トレハロースは、破骨細胞分化誘導抑制剤として機能して骨粗鬆症を防いだり(特許文献1、非特許文献1)、ハンチントン病や眼咽頭型筋ジストロフィーに代表されるポリグルタミン・ポリアラニン病で起きる神経細胞や筋細胞内の異常タンパク質蓄積を妨いだり(非特許文献2、12)、タンパク質や細胞膜などの生体成分の構造保護機能がある(非特許文献3、4)。このようにトレハロースは、他の糖には見られない特別な生理活性を有している。
【0003】
このトレハロースの持つ生理活性を利用する応用研究が進められている。例えば、アメリカの高等研究計画局(DARPA-国防総省の理論研究を監督する機関)では、トレハロースの高い生体高分子保護機能を利用した輸血用血液の乾燥保存法の開発が行われ、無核細胞である血小板については、エンドサイトーシスと凍結乾燥処理によるトレハロースの細胞導入法によって、約2年間の乾燥保存に成功している(非特許文献5)。しかし、血小板が唯一の成功例で、それ以外の一般の有核細胞ではうまくいかない。また、トレハロースの生理活性を利用した骨粗鬆症やハンチントン病に対する治療薬の実用化に向けた開発も進んでいない。これは、通常の状態で細胞膜がトレハロースを含む糖類を透過させないということに起因する。従って、現在、トレハロースを細胞の内部に、容易にかつ、悪影響が無いように導入する方法を見つけることが、有核細胞や生体をターゲットとしたトレハロース利用法の確立の鍵となっている(非特許文献11)。
【0004】
これまでトレハロースをセキツイ動物細胞へ導入する系として、トレハロース合成酵素を遺伝子導入する方法(非特許文献6)や、遺伝子改変したヘモリシンやP2X7のように低分子を非選択的に透過させるポアやチャネルを用いて導入する方法(非特許文献7、13)が報告されている。両者ともトレハロースを細胞内に蓄積させるが、前者は細胞内の炭素源を消費する上、構成発現プロモータの支配下にあるためトレハロースが永続的に残存する欠点がある。また、後者の方法は、ポアやチャネルの基質選択性が極めて低いため、トレハロース以外の物質が容易に細胞内外に流入および流出してしまう問題点がある。また、最近、動物細胞が元来持つピノサイトーシス(飲作用)を利用して、トレハロースを動物細胞に導入する方法が検討されている(非特許文献8)。しかしこの方法では、細胞内に取り込まれたとしてもトレハロースはエンドソームの中に一旦保持された後、24時間以上経ってから細胞質に拡散するため、迅速な導入系とはいえない。また、ピノサイトーシス能が細胞の種類に強く依存するため、一般化しにくい系と思われる。従って、トレハロースを細胞内に選択的に透過させ、しかも、速やかにかつ容易に"細胞質"内のトレハロース濃度を制御できるようにするためには、何らかの細胞膜局在性のトレハロース特異的な輸送担体を利用する必要がある。
【0005】
トレハロースの輸送活性をもつ担体として、既にバクテリアや酵母などの単細胞生物から、MalEGFK2 (Gene Bank no. P68187)(非特許文献9)やMAL11/Agt1(Gene Bank no. P53048)(非特許文献10)といったトレハロース輸送活性をもつ能動輸送型のトランスポーターが単離されている。しかしながら、これらのトランスポーターを利用した動物細胞にトレハロースを導入する方法の報告は全くない。それは、異なる遺伝子産物で構成されるヘテロ五量体でないと活性が無かったり(MalEGFK2)(非特許文献9)、至適pHが酸性側に偏っていたり(MAL11/Agt1)(非特許文献10)して、これらのトランスポーター遺伝子を動物細胞に発現しても、簡単には機能を発揮しないことが容易に推察できるためであると思われる。また、輸送の駆動力として、ATPの加水分解(MalEGFK2)(非特許文献9)や水素イオン濃度勾配を利用する(MAL11/Agt1)(非特許文献10)ため、導入細胞のエネルギーの消費は避けられない点も欠点である。従って、単一の遺伝子産物に由来し、中性付近で活性を示し、かつATPの消費が無く、トレハロース以外の物質に非依存性で、発現する細胞の種類に依存しない新規のトレハローストランスポーター、すなわち促進輸送型トレハローストランスポーターを利用すれば、これらの問題は、すべて解決すると考えられる。
【0006】
尚、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000-38343、「抗骨粗鬆症剤」、吉實 知代、西崎泰司、新井成之、栗本雅司.
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Nishizaki, Y. et al. (2000) Nutrition Research 20, 653.
【非特許文献2】Tanaka, M. et al. (2004) Nat Med 10, 148-54.
【非特許文献3】Crowe, J.H., Crowe, L.M., Carpenter, J.F. and Aurell Wistrom, C. (1987) Biochem J 242, 1-10.
【非特許文献4】Crowe, J.H., Carpenter, J.F. and Crowe, L.M. (1998) Annu Rev Physiol 60, 73-103.
【非特許文献5】Wolkers, W.F., Walker, N.J., Tablin, F. and Crowe, J.H. (2001) Cryobiology 42, 79-87.
【非特許文献6】Guo, N., Puhlev, I., Brown, D.R., Mansbridge, J. and Levine, F. (2000) Nat Biotechnol 18, 168-71.
【非特許文献7】Eroglu, A., Russo, M.J., Bieganski, R., Fowler, A., Cheley, S., Bayley, H. and Toner, M. (2000) Nat Biotechnol 18, 163-7.
【非特許文献8】Oliver, A.E., Jamil, K., Crowe, J.H. and Tablin, F. (2004) Cell Preservation Technology 2, 35-49.
【非特許文献9】Boos, W. and Shuman, H. (1998) Microbiol Mol Biol Rev 62, 204-29.
【非特許文献10】Stambuk, B.U., De Araujo, P.S., Panek, A.D. and Serrano, R. (1996) Eur J Biochem 237, 876-81.
【非特許文献11】Brumfiel, G. Nature,(2004) 428, 14-15
【非特許文献12】Davies JE, Sarkar S, Rubinsztein DC. (2006) Hum Mol Genet.15(23-31)
【非特許文献13】Elliott GD, Liu XH, Cusick JL, Menze M, Vincent J, Witt T, Hand S, Toner M. (2006) Cryobiology 52, 114-127
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はこのような状況を鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、新規のトレハローストランスポーター遺伝子を単離・同定すること、ならびに該遺伝子を利用した細胞内にトレハロースを導入する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、乾燥に伴いトレハロースを大量に蓄積するネムリユスリカを材料にして、未だ単離されていない促進輸送型トレハローストランスポーターの単離を試みた。具体的には、本願発明者らはまず、独自に作製したネムリユスリカESTデータベースの中から、糖トランスポーターにアノテーションされたESTクローンを複数同定した。これらのクローンは、1つのクラスターを形成していることがわかった。そこで本願発明者らは、クラスターの塩基配列情報を元に、RACE (rapid amplification of cDNA ends) 法を用いて遺伝子の単離を試みた。結果、ネムリユスリカから約2.3kbの完全長のcDNAを単離することに成功した。そしてこの新規の遺伝子を、PvTRET1(Trehalose transporter of P. vanderplankiの意味)と名付けた。
【0011】
単離されたcDNAには、504アミノ酸残基のタンパク質をコードする1512bpのORFが1つ含まれていた。そして、そのORFから翻訳されるタンパク質は、Pfamサーチの結果、糖トランスポーターの保存ドメインを有していることが確認された。また、SOSUIアルゴリズムによりPvTRET1タンパクの立体構造を推定したところ、糖トランスポーターに典型的な12回膜貫通型の膜タンパクであることが示された。さらに、ネムリユスリカにおけるPvTRET1遺伝子の発現は、トレハロースの蓄積変化と同様に乾燥誘導性の発現変動を示すことも確認された。これらの結果から、このPvTRET1がトレハロース輸送と深く関連があると考えられた。
【0012】
そこで本願発明者らは、アフリカツメガル卵母細胞を用いた発現系で、単離したPvTRET1タンパク質が本当にトレハロース輸送能を有するかどうか調べた。その結果、確かにネムリユスリカから単離したcDNAの翻訳産物に、トレハロース輸送活性が認められた。加えて、本願発明者らは、PvTRET1は、様々な二糖類の中でもトレハロースに対して特異的な活性を示すことを見出した。PvTRET1のトレハロース輸送動力学を調べたところ、Kmは114.5±27.9 mMで、Vmaxが7.84±0.77 nmol/15 min/oocyteであった。このことから、PvTRET1は、非常に高い濃度の基質に対しても活性が飽和しない機能性の高いトランスポーターであることが示された。また、反応条件が中性、酸性に関わらず活性を示したことから、pHに非依存的であると考えられた。更に、この輸送活性は、能動輸送を阻害するイオノフォアや脱共役剤の存在下でも変化しなかったので、PvTRET1は、促進輸送型のトランスポーターであることも確認された。促進輸送型トランスポーターは、一般に、膜内外の基質濃度差に依存して、輸送方向が決まる。事実、PvTRET1を発現した細胞では、トレハロース培地から無トレハロース培地に変えるだけで、一旦取り込まれた細胞内のトレハロースを除去することが可能であった。また、ハムスターやマウス、ヒトの細胞でもアフリカツメガエル卵母細胞に発現させた時と同様な機能を発揮したことから、PvTRET1の活性は、発現する細胞の種類に依存しないことが示唆された。
【0013】
ところで、トレハロースは昆虫の血糖であるので、ネムリユスリカ以外の昆虫もトレハローストランスポーターを有していることが考えられた。そこで本願発明者らは、既に公開されている遺伝子データベースを用いて、PvTRET遺伝子のオーソログの探索を試みた。その結果、キイロショウジョウバエ、ガンビエハマダラカ、セイヨウミツバチ、カイコにおいて、PvTRET1遺伝子のオーソログを発見することに成功した。これらのクローンはPvTRET1と高い相同性を示すが、アノテーションはされておらず、その活性が全て未同定なものであった。そこで、これらの昆虫から遺伝子を単離し、それぞれ、DmTRET1、AgTRET1、AmTRET1およびBmTRET1と名付けた。
【0014】
次に本願発明者らは、これら遺伝子産物にトレハロース輸送活性があるか否かを調べた。その結果、昆虫の促進輸送型トレハローストランスポーター(TRET1)オーソログを発現させたアフリカツメガエル卵母細胞はいずれもトレハロースを透過することが確認された。したがって、TRET1遺伝子は、ネムリユスリカ特異的な遺伝子ではなく、昆虫に普遍的に存在する遺伝子であることが示唆された。
【0015】
また、TRET1の生理機能を調べる目的で、PvTRET1遺伝子をプローブとして乾燥後12時間の幼虫を用いたin situハイブリダイゼーションを行った。その結果、PvTRET1遺伝子が脂肪体に特異的に発現していることが分かった。脂肪体は昆虫の血糖であるトレハロースを合成する器官であることから、TRET1はトレハロースを脂肪体から血リンパ液へ放出する役割が示唆された。
【0016】
すなわち本発明は、新規のトレハローストランスポーター遺伝子に関し、具体的には以下の発明を提供するものである。
〔1〕以下(a)〜(d)のいずれかに記載のDNA;
(a)配列番号:2、4、6、8、又は10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:1、3、5、7、又は9に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:2、4、6、8、又は10に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:2、4、6、8、又は10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(d)配列番号:1、3、5、7、又は9に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであって、配列番号:2、4、6、8、又は10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA。
〔2〕以下(a)又は(b)に記載のDNA;
(a)配列番号:21に記載のアミノ酸配列を含み、配列番号:2、4、6、8、又は10に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:2、4、6、8、又は10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:21に記載のアミノ酸配列を含み、配列番号:1、3、5、7、又は9に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、配列番号:2、4、6、8、又は10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA。
〔3〕以下(a)又は(b)に記載のDNA;
(a)12回膜貫通領域のアミノ酸配列を含み、配列番号:2、4、6、8、又は10に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:2、4、6、8、又は10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(b)12回膜貫通領域のアミノ酸配列を含み、配列番号:1、3、5、7、又は9に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、配列番号:2、4、6、8、又は10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA。
〔4〕〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のDNAを含むベクター。
〔5〕〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のDNA又は〔4〕に記載のベクターを発現可能に保持する形質転換細胞。
〔6〕細胞がネムリユスリカ、ガンビエハマダラカ、キイロショウジョウバエ、セイヨウミツバチ、カイコのいずれかに由来する、〔5〕に記載の形質転換細胞。
〔7〕〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のDNA又は〔4〕に記載のベクターが導入されたトランスジェニック非ヒト生物。
〔8〕非ヒト生物が、昆虫又は脊椎動物から選択される、〔7〕に記載のトランスジェニック非ヒト生物。
〔9〕昆虫がネムリユスリカ、ガンビエハマダラカ、キイロショウジョウバエ、セイヨウミツバチ又はカイコから選択される、〔8〕に記載のトランスジェニック非ヒト生物。
〔10〕〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のDNA又はその相補配列に相補的な少なくとも15の連続する塩基を含むオリゴヌクレオチド。
〔11〕配列番号:11〜20、34のいずれかに記載の塩基配列を含むオリゴヌクレオチド。
〔12〕配列番号:1、3、5、7、又は9に記載の塩基配列の全部又は一部を増幅するプライマーセット。
〔13〕以下(a)〜(e)のいずれかに示す、少なくとも1組のプライマーセット;
(a)配列番号:11に記載の塩基配列を含むDNAおよび配列番号:12に記載の塩基配列を含むDNA、
(b)配列番号:13に記載の塩基配列を含むDNAおよび配列番号:14に記載の塩基配列を含むDNA、
(c)配列番号:15に記載の塩基配列を含むDNAおよび配列番号:16に記載の塩基配列を含むDNA、
(d)配列番号:17に記載の塩基配列を含むDNAおよび配列番号:18に記載の塩基配列を含むDNA、
(e)配列番号:19に記載の塩基配列を含むDNAおよび配列番号:20に記載の塩基配列を含むDNA。
〔14〕〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のDNAによりコードされるタンパク質。
〔15〕〔5〕又は〔6〕に記載の形質転換細胞を培養し、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のDNAの発現産物を回収することを特徴とする、〔14〕に記載のタンパク質の製造方法。
〔16〕〔14〕に記載のタンパク質と結合する抗体。
〔17〕配列番号:2、4、6、8、又は10に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質のエピトープを認識する〔16〕に記載の抗体。
〔18〕配列番号:2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質のエピトープが配列番号:32に記載のアミノ酸配列からなるエピトープである、〔17〕に記載の抗体。
〔19〕配列番号:2、4、6、8、又は10に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質のエピトープが配列番号:33に記載のアミノ酸配列からなるエピトープである、〔17〕に記載の抗体。
〔20〕抗体がモノクローナル抗体である〔18〕又は〔19〕に記載の抗体。
〔21〕〔1〕〜〔3〕に記載のDNA、〔4〕に記載のベクター、又は〔14〕に記載のタンパク質のいずれか1つを含む、細胞にトレハロースを導入するための薬剤。
〔22〕〔1〕〜〔3〕に記載のDNA、〔4〕に記載のベクター、又は〔14〕に記載のタンパク質のいずれか1つを含む、細胞の乾燥耐性を増加させる薬剤。
〔23〕〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のDNAを任意の細胞内において発現させる工程を含む、細胞のトレハロース透過性を上昇させる方法。
〔24〕〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のDNAを任意の細胞内において発現させる工程を含む、細胞にトレハロースを導入する方法。
〔25〕以下の(a)〜(c)の工程を含む、被検化合物のスクリーニング方法;
(a)〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のDNAの転写産物に被検化合物を接触させる工程、
(b)〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のDNAの転写産物と被検化合物の結合を検出する工程、
(c)〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のDNAの転写産物と結合する被検化合物を選択する工程。
〔26〕以下の(a)〜(c)の工程を含む、被検化合物のスクリーニング方法;
(a)無脊椎動物から採取した細胞に、被検化合物を接触させる工程、
(b)〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のDNAの転写産物の発現レベルを測定する工程、
(c)被検化合物を接触させていない場合と比較して、上記転写産物の発現レベルを増加又は減少させた被検化合物を選択する工程。
〔27〕以下の(a)〜(d)の工程を含む、被検化合物のスクリーニング方法;
(a)〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のDNAのプロモータ領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞又は細胞抽出液を提供する工程、
(b)該細胞又は該細胞抽出液に被検化合物を接触させる工程、
(c)該細胞又は該細胞抽出液における該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程、
(d)被検化合物を接触させていない場合と比較して、該レポーター遺伝子の発現レベルを増加又は減少させた被検化合物を選択する工程。
〔28〕〔25〕〜〔27〕のいずれかに記載のスクリーニング方法に用いるためのキット。
〔29〕〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のDNAのプロモータと任意の遺伝子が機能的に結合したDNAを発現させる工程を含む、脂肪体において任意の遺伝子を発現させる方法。
〔30〕〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のDNAの転写産物と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNA。
〔31〕配列番号:35に記載の塩基配列からなる、〔30〕に記載のDNA。
【発明の効果】
【0017】
本発明によって、トレハローストランスポーター遺伝子および該遺伝子を利用した細胞内にトレハロースを導入する方法が提供された。PvTRET1をはじめとする昆虫のTRET1遺伝子は、促進輸送型トレハロース輸送体として活性を有しており、これら遺伝子を動物細胞に導入するだけで、細胞外のトレハロースを容易に細胞に取り込ませることが可能となった。
【0018】
昆虫のTRET1は、表1に示すように、単細胞生物のトレハロース輸送活性を有したトランスポーターと比較して、多くの優位性を有している。例えば、MalEGFK2とMAL11/Agt1の場合、どちらも輸送方向が細胞の外側から内側への一方向であるため輸送平衡に至らず細胞内のトレハロース濃度を任意に制御することが困難な事に加え、輸送にエネルギーが必要で、細胞にATPを常に供給する必要がある。一方、TRET1は輸送方向が任意のため、輸送されたトレハロースの濃度が膜内外で平衡に達したら輸送が停止することから、細胞外液のトレハロース濃度を調節することにより細胞内のトレハロースを制御できる。またTRET1はトレハロース輸送にエネルギーを必要としない。さらに、MalEFGK2は異なる4つの遺伝子産物で構成されるため遺伝子導入方法が複雑であること、MAL11/Agt1はpHが中性では有効な活性を示さないため動物に遺伝子導入しても作動しない事などがそれぞれの大きな問題点だが、TRTET1は単一の遺伝子産物のみで構成され発現が大変容易であるし、中性でも作動する。
【0019】
また、表2に示すように、既存の動物細胞にトレハロースを導入する方法とTRET1の発現によるトレハロース導入法を比較した場合も、多くの優位性がある。例えば、改変型ヘモリシンやP2X7を利用した場合、ポアサイズ以下の大きさの分子は非選択的に膜を透過させてしまうため、トレハロース以外の分子の流出入を止めることはできない。一方、TRET1は、トレハロースに対して高い基質選択性を有するため、望まない分子の流出入は起きない。また、大腸菌由来のトレハロース合成酵素を細胞に発現させる方法の場合、恒常的発現プロモータの支配下で遺伝子発現を行うため、細胞内のグルコースに代表される炭素源を消費する上、トレハロースが必要で無くなっても除去することはできない。一方、TRET1は、細胞外からエネルギーを介さずにトレハロースを導入することが可能なため、細胞内の炭素源を消費することは全くない上、不要になったトレハロースを容易にかつ選択的に除去することが可能である。ピノサイトーシス(非選択的飲作用)を利用した場合、このピノサイトーシス能は細胞の種類に大きく依存する上、取り込まれる物質はトレハロースに限定されないため、任意の細胞に任意の量のトレハロースを導入する系としては適当でない。一方、TRET1は、遺伝子導入可能であればいかなる細胞でも発現が可能であり、いったん発現されればトレハロース輸送能をその細胞に付加することが可能である。
【0020】
以上の点から、TRET1は、既存のトレハロース輸送活性を有したトランスポーターやトレハロース導入系と比して、簡便に、かつ、細胞に不要なダメージを与えずにトレハロースを導入できる系として非常に優位である。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
TRET1を利用したトレハロースを動物細胞に導入する方法の確立によって動物細胞・組織の乾燥保存技術の開発が可能となった。また、トレハロース誘導体を抗骨粗鬆症薬や抗ハンチントン病薬などに使用した場合、新規のDDS(Drug delivery system)開発に寄与できることが考えられる。また、トレハロース誘導体を合成する際(いわゆるdrug design)において、トレハローストランスポーターのもつ基質選択性を利用して、その誘導体がトレハロースと同じような活性を持ちうるのか否か判定する指標とすることも可能となった。
【0024】
さらに、トレハローストランスポーターは、昆虫の血糖であるトレハロースの脂肪体からの放出を司っていることから、新規の殺虫剤開発のターゲット分子になることが予想される。
このように、本発明は、トレハロースの持つ優れた生物活性を、動物細胞に最大限に効果的に付与し利用する上で、重要なものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】PvTRET1の遺伝子とタンパク質の構造を示す図である。(A)PvTRET1 cDNAのクローニング。PD1202M17f、PD3608G15f、PD3606D10f、PD1205C05f、PD1204L14f及びPD1202F04fは、ネムリユスリカのESTクローンである。PvTRET1 cDNAは、2,337bpで、121から1,632bの位置に1つの翻訳読み取り枠(ORF)を有していた。(B) PvTRET1 cDNAの翻訳産物は、糖トランスポーターの保存ドメインを持つ。(C) PvTRET1タンパクの立体構造モデル。SOSUIを用いた分析の結果、12回膜貫通型タンパクであることが示された。第1ループに典型的なN型糖鎖の付加サイトが存在している。
【図2】ネムリユスリカにおける乾燥時のPvTRET1遺伝子の発現変動を示す図である。ネムリユスリカを乾燥処理し、図中に示した時間でtotal RNAをサンプリングした。15μgのRNAを電気泳動し、PvTRET1 cDNAの全長をプローブとして、ノーザンブロット分析を行った。約2.3 kbの位置に1つのバンドを確認した。EtBrは、電気泳動時の28S rRNAの臭化エチジウム染色像を示す。
【図3】PvTRET1がトレハローストランスポーターであることを示す図である。(A)アフリカツメガエル卵母細胞にPvTRET1のcRNAまたは滅菌超純水を注入し、96時間培養して十分にタンパク質を発現させた。その後、105mMトレハロースを含むMBSで培養した時の卵母細胞に取り込まれたトレハロースの量の変動を図に示す。4個の卵母細胞を用いて1つの実験とした。それぞれの値は、平均値±標準誤差、n=3である。(B) PvTRET1の基質選択性。PvTRET1及びヒトグルコーストランスポーター1 (hGLUT1)を発現させた卵母細胞を105mMの糖を含む緩衝液に3時間放置したときの取り込まれた糖の量を示す。Tre:トレハロース、Mal:マルトース、Suc:スクロース、Lac:ラクトース、MAG:メチル-α-グルコピラノシド、2-DOG:2-デオキシグルコース。値は(A)と同様で、平均値±標準誤差、n=3である。
【図4】PvTRET1が促進輸送型のトランスポーターであることを示す図である。(A) PvTRET1のpH依存性。トレハロースを含むpHの異なる2種類の緩衝液にPvTRET1を発現させた卵母細胞を3時間放置した時のトレハロースの取り込み量を示す。(B)脱共役剤とイオノフォアのPvTRET1活性に対する影響。脱共役剤またはイオノフォア共存下でのトレハロースの取り込み量を示す。図中の同じ文字 (aとb)は、有意差が無いことを示している。(ANOVA-Tukey’s multiple comparison test, p>0.05, n=3)
【図5】PvTRET1のトレハロース輸送には方向性が無いことを示す図である。PvTRET1発現卵母細胞を105mMトレハロース含緩衝液に3時間放置し、トレハロースを取り込ませた。その後、トレハロースフリーの緩衝液に卵母細胞を移し替えて後の細胞内のトレハロース量の変動を示す。
【図6】PvTRET1は哺乳動物細胞でも機能することを示す図である。3種類の哺乳動物細胞(CHO-K1, HuH-7及びNIH/3T3-3-4)へPvTRET1発現ベクター (pPvTRET1-IRES2-AcGFP1)とインサートを含まない発現ベクター (pIRES2-AcGFP1)を導入した時の導入効率 (A) とトレハロースの取り込み量 (B) を示す。図中の同じ文字(a、b、c)は有意差が無いことを示している。(ANOVA-Tukey’s multiple comparison test, p>0.05, n=3)
【図7】昆虫のTRET1オーソログがトレハロース輸送活性を持つことを示す図である。昆虫のTRET1オーソログ(PvTRET1: ネムリユスリカ、AgTRET1: ガンビエハマダラカ、DmTRET1: キイロショウジョウバエ、AmTRET1: セイヨウミツバチ、BmTRET1: カイコ)を発現させたアフリカツメガエル卵母細胞を用いたトレハロース取り込みアッセイの結果を示す。図中の同じ文字(a、b)は有意差が無いことを示している。(ANOVA-Tukey’s multiple comparison test, p>0.05)
【図8】昆虫のTRET1が脂肪体で発現することを示す図である。乾燥24時間のネムリユスリカの横断切片に対して、PvTRET1遺伝子アンチセンス鎖(Antisense)及びセンス鎖 (Sense)をコードするリボプローブを用いたin situハイブリダイゼーション像を示す。FB: 脂肪体、MG: 中腸、Mu: 筋肉。
【図9】PvTRET1タンパクのトレハロース輸送活性の動力学を示す図である。任意のトレハロース濃度に対するPvTRET1の活性変化をMichaeris-Mentenプロットで示した。なお、結果は平均値±標準誤差で示し、実験は3反復行った。また、四角で囲まれた図は、Eadie-Hofsteeプロットである。
【図10−a】昆虫のTRET1のアミノ酸配列のアライメント比較を示す図である。アライメント解析には、ClustalXを用いた。昆虫のTRET1で完全に一致した箇所をアスタリスクで、性質が非常に似たアミノ酸の箇所をコロンで、性質がやや似たアミノ酸の箇所をドットで示す。これら一致した配列の内、ヒトGLUT1, 2, 3, 4及び5の間で保存されている領域と比較して、昆虫のTRET1のみに認められる保存領域の位置をボックスで示した。
【図10−b】図10-aの続きを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、昆虫から単離された新規のトレハローストランスポーター遺伝子TRET1を提供する。具体的には、本発明のTRET1遺伝子には、
(1)配列番号:2、4、6、8、または10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(2)配列番号:1、3、5、7、または9に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(3)配列番号:2、4、6、8、または10に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:2、4、6、8、または10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(4)配列番号:1、3、5、7、または9に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであって、配列番号:2、4、6、8、または10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
が含まれる。
【0027】
本発明のTRET1遺伝子は、ネムリユスリカ、ガンビエハマダラカ、キイロショウジョウバエ、セイヨウミツバチ、およびカイコから単離されたTRET1遺伝子である。ネムリユスリカから単離されたTRET1の塩基配列を配列番号:1に、該塩基配列から生成されるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:2に示す。また、ガンビエハマダラカ、キイロショウジョウバエ、セイヨウミツバチ、カイコから単離されたTRET1の塩基配列を、それぞれ、配列番号:3、5、7、9に、これらの塩基配列から生成されるタンパク質のアミノ酸配列を、それぞれ、配列番号:4、6、8、10に示す。
【0028】
上記TRET1遺伝子から生成されるTRET1タンパク質は、ヒトのグルコーストランスポーターと比較して、配列番号:21に示すアミノ酸配列を有することを特徴とする。従って、本発明のTRET1遺伝子には、
(a)配列番号:21に記載のアミノ酸配列を含み、配列番号:2、4、6、8、又は10に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:2、4、6、8、又は10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
が含まれる。
【0029】
配列番号:21に記載のアミノ酸配列は、TRET1において、第一膜貫通領域に相当する。配列番号:21において、第2、6、10、13、14、18、及び20番目のアミノ酸は任意の疎水性アミノ酸、7番目のアミノ酸はセリン又はアラニン、11番目のアミノ酸はグリシン又はアラニン、15番目のアミノ酸はバリン又はイソロインシン、17番目のアミノ酸はフェニルアラニン又はチロシン、26番目のアミノ酸はロイシン又はバリン、27番目のアミノ酸はロイシン又はバリン、28番目のアミノ酸はセリン又はスレオニンを意味する。ネムリユスリカ、ガンビエハマダラカ、キイロショウジョウバエ、セイヨウミツバチおよびカイコにおける、配列番号:21に相当する領域のアミノ酸配列を、それぞれ、配列番号:22、23、24、25及び26に示す。従って、本発明のTRET1遺伝子には、
配列番号:22に記載のアミノ酸配列を含み、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
配列番号:23に記載のアミノ酸配列を含み、配列番号:4に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
配列番号:24に記載のアミノ酸配列を含み、配列番号:6に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:6に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
配列番号:25に記載のアミノ酸配列を含み、配列番号:8に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:8に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
配列番号:26に記載のアミノ酸配列を含み、配列番号:10に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
が含まれる。
【0030】
ここで、配列番号:22に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列は、配列番号:1の塩基配列の247番目から333番目の塩基配列に対応し、
配列番号:23に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列は、配列番号:3の塩基配列の133番目から219番目の塩基配列に対応し、
配列番号:24に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列は、配列番号:5の塩基配列の127番目から213番目の塩基配列に対応し、
配列番号:25に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列は、配列番号:7の塩基配列の124番目から210番目の塩基配列に対応し、
配列番号:26に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列は、配列番号:9の塩基配列の151番目から237番目の塩基配列に対応する。
【0031】
さらに本発明のTRET1遺伝子には、
(b)配列番号:21に記載のアミノ酸配列を含み、配列番号:1、3、5、7、又は9に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、配列番号:2、4、6、8、又は10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
が含まれる。配列番号:21のアミノ酸配列の説明は、上述の通りである。
【0032】
ここで、上述のように、ネムリユスリカ、ガンビエハマダラカ、キイロショウジョウバエ、セイヨウミツバチおよびカイコにおける、配列番号:21に相当する領域のアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号:22、23、24、25及び26に相当することから、本発明のTRET1遺伝子には、
配列番号:22に記載のアミノ酸配列を含み、配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
配列番号:23に記載のアミノ酸配列を含み、配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、配列番号:4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
配列番号:24に記載のアミノ酸配列を含み、配列番号:5に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、配列番号:6に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
配列番号:25に記載のアミノ酸配列を含み、配列番号:7に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、配列番号:8に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
配列番号:26に記載のアミノ酸配列を含み、配列番号:9に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、配列番号:10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
が含まれる。ここで、配列番号:22〜26に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列は、上述の通りである。
【0033】
さらに、本発明のTRET1遺伝子から生成されるTRET1タンパク質は、sugar transporter領域と呼ばれる12回膜貫通領域を有することを特徴とする。従って、本発明のTRET1遺伝子には、
(i)12回膜貫通領域のアミノ酸配列を含み、配列番号:2、4、6、8、又は10に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:2、4、6、8、又は10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
が含まれる。
【0034】
ここで、ネムリユスリカ、ガンビエハマダラカ、キイロショウジョウバエ、セイヨウミツバチおよびカイコにおける12回膜貫通領域のアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号:27、28、29、30及び31に該当する(図10参照)。従って、本発明のTRET1遺伝子には、
配列番号:27に記載のいずれかのアミノ酸配列を含み、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
配列番号:28に記載のいずれかのアミノ酸配列を含み、配列番号:4に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
配列番号:29に記載のいずれかのアミノ酸配列を含み、配列番号:6に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:6に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
配列番号:30に記載のいずれかのアミノ酸配列を含み、配列番号:8に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:8に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
配列番号:31に記載のいずれかのアミノ酸配列を含み、配列番号:10に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
が含まれる。
【0035】
ここで、配列番号:27に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列は、配列番号:1の塩基配列の250番目から1572番目の塩基配列に対応し、
配列番号:28に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列は、配列番号:3の塩基配列の136番目から1458番目の塩基配列に対応し、
配列番号:29に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列は、配列番号:5の塩基配列の130番目から1452番目の塩基配列に対応し、
配列番号:30に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列は、配列番号:7の塩基配列の127番目から1446番目の塩基配列に対応し、
配列番号:31に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列は、配列番号:9の塩基配列の154番目から1461番目の塩基配列に対応する。
【0036】
さらに本発明のTRET1遺伝子には、
(ii)12回膜貫通領域のアミノ酸配列を含み、配列番号:1、3、5、7、又は9に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、配列番号:2、4、6、8、又は10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
が含まれる。
【0037】
ここで、上述のように、ネムリユスリカ、ガンビエハマダラカ、キイロショウジョウバエ、セイヨウミツバチおよびカイコにおける12回膜貫通領域のアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号:27、28、29、30及び31に該当することから、本発明のTRET1遺伝子には、
配列番号:27に記載のいずれかのアミノ酸配列を含み、配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
配列番号:28に記載のいずれかのアミノ酸配列を含み、配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、配列番号:4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
配列番号:29に記載のいずれかのアミノ酸配列を含み、配列番号:5に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、配列番号:6に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
配列番号:30に記載のいずれかのアミノ酸配列を含み、配列番号:7に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、配列番号:8に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
配列番号:31に記載のいずれかのアミノ酸配列を含み、配列番号:9に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、配列番号:10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
が含まれる。ここで、配列番号:27〜31に記載のアミノ酸配列をコードするDNAの塩基配列は上述の通りである。
本発明のTRET1遺伝子を利用することにより、例えば、組み換えタンパク質の調製や、トレハローストランスポーター遺伝子が導入されたトランスジェニック動物の作出などが可能となる。
【0038】
本発明の「TRET1遺伝子」は、「TRET1タンパク質」をコードしうるものであれば、その形態に特に制限はなく、「TRET1遺伝子」にはcDNAの他、ゲノムDNA、化学合成DNAなども含まれる。
ゲノムDNAおよびcDNAの調製は、当業者にとって常套手段を利用して行うことが可能である。ゲノムDNAは、例えば、昆虫(例えば、ネムリユスリカ、ガンビエハマダラカ、キイロショウジョウバエ、セイヨウミツバチ、またはカイコ)からゲノムDNAを抽出し、ゲノミックライブラリー(ベクターとしては、プラスミド、ファージ、コスミド、BAC、PACなどが利用できる)を作成し、これを展開して、TRET1遺伝子(例えば、配列番号:1、3、5、7、または9に記載のDNA)を基に調製したプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより調製することが可能である。また、TRET1遺伝子に特異的なプライマーを作成し、これを利用したPCRを行うことによって調製することも可能である。また、cDNAは、例えば、昆虫(例えば、ネムリユスリカ、ガンビエハマダラカ、キイロショウジョウバエ、セイヨウミツバチ、またはカイコ)から抽出したmRNAを基にcDNAを合成し、これをλZAP等のベクターに挿入してcDNAライブラリーを作成し、これを展開して、上記と同様にコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより、また、PCRを行うことにより調製することが可能である。
【0039】
TRET1遺伝子を単離するための当業者によく知られた方法としては、ハイブリダイゼーション技術(Southern, E. M., Journal of Molecular Biology, Vol. 98, 503, 1975)やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki, R. K., et al. Science, vol. 230, 1350-1354, 1985, Saiki, R. K. et al. Science, vol.239, 487-491,1988)が挙げられる。即ち、当業者にとっては、TRET1遺伝子の塩基配列(例えば、配列番号:1、3、5、7、または9に記載の配列)もしくはその一部をプローブとして、またTRET1遺伝子に特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとして、昆虫からTRET1遺伝子を単離することは通常行いうることである。
【0040】
さらに、TRET1遺伝子は広く昆虫に存在すると考えられるため、TRET1遺伝子には、ネムリユスリカ、ガンビエハマダラカ、キイロショウジョウバエ、セイヨウミツバチ、またはカイコのみならず、種々の昆虫に存在する相同遺伝子も含まれる。ここで「相同遺伝子」とは、種々の昆虫において、ネムリユスリカ、ガンビエハマダラカ、キイロショウジョウバエ、セイヨウミツバチ、またはカイコにおけるTRET1遺伝子産物と同様の生理機能(例えばトレハロース輸送活性)を有するタンパク質をコードする遺伝子を指す。
【0041】
相同性遺伝子を単離するためには、通常ストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション反応を行なう。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件としては、6M 尿素、0.4%SDS、0.5 x SSCの条件またはこれと同等のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を例示できる。よりストリンジェンシーの高い条件、例えば、6M 尿素、0.4%SDS、0.1 x SSCの条件を用いれば、より相同性の高いDNAの単離を期待することができる。単離したDNAの配列の決定は、公知の方法で行うことができる。単離されたDNAの相同性は、アミノ酸配列全体で、少なくとも50%以上の相同性を有する(実施例8 表3 参照)。また、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%、96%、97%、98%、99%以上)の配列の同一性を有する。配列の相同性は、BLASTN(核酸レベル)やBLASTX(アミノ酸レベル)のプログラム(Altschul et al. J. Mol. Biol., 215: 403-410, 1990)を利用して決定することができる。該プログラムは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST (Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:2264-2268, 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877, 1993) に基づいている。BLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore = 100、wordlength =12とする。また、BLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore = 50、wordlength = 3とする。また、Gapped BLASTプログラムを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、Altschulら(Nucleic Acids Res. 25: 3389-3402, 1997)に記載されているように行うことができる。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。
【0042】
本発明において、昆虫(例えば、ネムリユスリカ、ガンビエハマダラカ、キイロショウジョウバエ、セイヨウミツバチ、カイコ)の種類は品種・系統に制限されるものではない。例えばネムリユスリカの場合、ナイジェリア産の系統であっても、マラウィ産の系統であってもよく、または、これらの交配品種・系統等であってもよい。また、キイロショウジョウバエの場合、オレゴンR系統であっても、カントンS系統であってもよく、またはこれらの交雑系統であってもよい。また、セイヨウミツバチの場合、イタリアン系統であってもカーニオラン系統であってもよく、またはこれらの交雑系統であってもよい。またカイコの場合、大造系統であってもC108系統であってもよく、またはこれらの交雑品種・系統であってもよい。またガンビエハマダラカの場合は、PEST系統でもヤウンデ系統であってもよく、またはこれらの交雑系統であってもよい。
【0043】
また本発明は、TRET1遺伝子を含むベクター、または該ベクターを含む形質転換細胞を提供する。
上記ベクターとしては、例えば、大腸菌を宿主とする場合には、ベクターを大腸菌(例えば、JM109、DH5α、HB101、XL1Blue)等で大量に増幅させ大量調製するために、大腸菌で増幅されるための「ori」をもち、さらに形質転換された大腸菌の選抜遺伝子(例えば、なんらかの薬剤(アンピシリンやテトラサイクリン、カナマイシン、クロラムフェニコールにより判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有すれば特に制限はない。ベクターの例としては、M13系ベクター、pUC系ベクター、pBR322、pBluescript、pCR-Script等が挙げられる。また、cDNAのサブクローニング、切り出しを目的とした場合、上記ベクターの他に、例えば、pGEM-T、pDIRECT、pT7等が挙げられる。TRET1遺伝子から生成されるタンパク質を生産する目的においてベクターを使用する場合には、特に、発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、例えば、大腸菌での発現を目的とした場合は、ベクターが大腸菌で増幅されるような上記特徴を持つほかに、宿主をJM109、DH5α、HB101、XL1-Blue等の大腸菌とした場合においては、大腸菌で効率よく発現できるようなプロモータ、例えば、lacZプロモータ(Wardら, Nature (1989) 341, 544-546;FASEB J. (1992) 6, 2422-2427)、araBプロモータ(Betterら, Science (1988) 240, 1041-1043 )、またはT7プロモータ等を持っていることが不可欠である。このようなベクターとしては、上記ベクターの他にpGEX-5X-1(アマシャム社製)、「QIAexpress system」(キアゲン社製)、pEGFP、またはpET等が挙げられる。
【0044】
また、ベクターには、ポリペプチド分泌のためのシグナル配列が含まれていてもよい。ポリペプチド分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei, S. P. et al J. Bacteriol. (1987) 169, 4379)を使用すればよい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法を用いて行うことができる。
【0045】
大腸菌以外にも、TRET1遺伝子から生成されるタンパク質を製造するためのベクターとしては、例えば、哺乳動物由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3 (インビトロゲン社製)や、pEGF-BOS (Nucleic Acids. Res.1990, 18(17),p5322)、pEF 、pCDM8 )、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば「Bac-to-BAC baculovairus expression system」(ギブコBRL社製)、pBacPAK8)、植物由来の発現ベクター(例えばpMH1、pMH2)、動物ウィルス由来の発現ベクター(例えば、pHSV、pMV、pAdexLcw )、レトロウィルス由来の発現ベクター(例えば、pZIPneo)、酵母由来の発現ベクター(例えば、「Pichia Expression Kit」(インビトロゲン社製)、pNV11、SP-Q01)、枯草菌由来の発現ベクター(例えば、pPL608、pKTH50)等が挙げられる。
【0046】
CHO細胞、COS細胞、NIH3T3細胞等の動物細胞での発現を目的とした場合には、細胞内で発現させるために必要なプロモータ、例えばSV40プロモータ(Mulliganら, Nature (1979) 277, 108)、MMLV-LTRプロモータ、EF1αプロモータ(Mizushimaら, Nucleic Acids Res. (1990) 18, 5322)、CMVプロモータ等を持っていることが不可欠であり、細胞への形質転換を選抜するための遺伝子(例えば、薬剤(ネオマイシン、G418等)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有すればさらに好ましい。このような特性を有するベクターとしては、例えば、pMAM、pDR2、pBK-RSV、pBK-CMV、pOPRSV、pOP13等が挙げられる。
【0047】
本発明のDNAの細胞への導入は、当業者においては、公知の方法、例えば電気穿孔法(エレクトロポーレーション法)などにより実施することができる。
なお、本発明においては、上記ベクターを含む形質転換細胞としては、ネムリユスリカ、ガンビエハマダラカ、キイロショウジョウバエ、セイヨウミツバチ、またはカイコに由来する形質転換細胞やマウス、ラットやヒトに由来する形質転換細胞であることが好ましい。TRET1遺伝子を含むベクターをこれらの昆虫やセキツイ動物に由来する形質転換細胞に導入することも、上述の方法によって行うことが可能である。
【0048】
本発明はまた、TRET1遺伝子またはTRET1遺伝子を含むベクターを有する形質転換細胞を含む、トランスジェニック非ヒト生物を提供する。本発明のトランスジェニック非ヒト生物において好ましい非ヒト生物としては、これらに限定されるものではないが、昆虫や脊椎動物が挙げられる。昆虫としては、これらに限定されるものではないが、ネムリユスリカ、ガンビエハマダラカ、キイロショウジョウバエ、セイヨウミツバチ、カイコなどが挙げられ、脊椎動物としては、これらに限定されるものではないが、マウス、ラット、ゼブラフィッシュ、又はアフリカツメガエルなどが挙げられる。
【0049】
例えば、TRET1遺伝子を有するトランスジェニックカイコの作出は、これに限定されるものではないが、次のようにして行うことが出来る。すわなち、TRET1遺伝子を有するベクターを、カイコ卵に導入する。カイコ卵へのDNAの導入は、例えば、カイコの発生初期卵へ、トランスポゾンをベクターとして注射する方法(Tamura, T., Thibert, C., Royer ,C., Kanda, T., Abraham, E., Kamba, M., Komoto, N., Thomas, J.-L., Mauchamp, B., Chavancy, G., Shirk, P., Fraser, M., Prudhomme, J.-C. and Couble, P., 2000, Nature Biotechnology 18, 81-84)に従って行うことができる。例えば、トランスポゾンの逆位末端反復配列(Handler AM, McCombs SD, Fraser MJ, Saul SH.(1998) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 95(13):7520-5)の間に上記DNAを挿入したベクターとともに、トランスポゾン転移酵素をコードするDNAを有するベクター(ヘルパーベクター)をカイコ卵に導入する。ヘルパーベクターとしては、pHA3PIG (Tamura, T., Thibert, C., Royer ,C., Kanda, T., Abraham, E., Kamba, M., Komoto, N., Thomas, J.-L., Mauchamp, B., Chavancy, G., Shirk, P., Fraser, M., Prudhomme, J.-C. and Couble, P., 2000, Nature Biotechnology 18, 81-84)が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0050】
本発明におけるトランスポゾンとしては、piggyBacが好ましいが、これに限定されるものではなく、マリーナ(mariner)、ミノス(minos)等を用いることもできる(Shimizu, K., Kamba, M., Sonobe, H., Kanda, T., Klinakis, A. G., Savakis, C. and Tamura, T. (2000) Insect Mol. Biol., 9, 277-281;Wang W, Swevers L, Iatrou K.(2000) Insect Mol Biol 9(2):145-55)。
また、本発明では、バキュロウイルスベクターを使用することによりトランスジェニックカイコを作出することも可能である(Yamao, M., N. Katayama, H. Nakazawa, M. Yamakawa, Y. Hayashi et al., 1999, Genes Dev 13: 511-516)。
【0051】
例えば、TRET1遺伝子を有するトランスジェニックマウスの作出は、これに限定されるものではないが、次のようにして行うことが出来る。すわなち、TRET1遺伝子を、マウス受精卵に導入する。マウス受精卵の前核にTRET1遺伝子を直接に微量注入する方法 (Gordon, J. H., Scangos, G. A., Plotkin, D. J., Barbosa, J. A., Ruddle, F. H. (1980) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77 7380-7384)に従って行うことができる。しかし、本発明におけるトランスジェニックマウスの作出方法はこれに限定されるものではなく、当業者に公知のあらゆる方法が含まれる。
【0052】
トランスジェニック非ヒト生物の作出は、カイコ以外の昆虫、マウス以外の脊椎動物に関しても、当業者に公知の方法によって行うことが可能である。本発明のトランスジェニック非ヒト生物には、当業者に公知のあらゆる方法によって作出されるトランスジェニック非ヒト生物が含まれる。
【0053】
また本発明は、配列番号:1、3、5、7、又は9に記載の塩基配列の全部又は一部を増幅するプライマーセットを提供する。本発明のプライマーにおいて、その長さは、通常15bp〜100bpであり、好ましくは17bp〜30bpであり、さらに好ましくは、例えば、21、24、25、26、28、29、30ヌクレオチドである。プライマーは、本発明のDNAまたはその相補鎖の少なくとも一部を増幅しうるものであれば、特に制限されない。また、プライマーとして用いる場合、3'側の領域は相補的とし、5'側には制限酵素認識配列やタグなどを付加することができる。
【0054】
具体的には、本発明のプライマーセットとしては、
(a)配列番号:11に記載の塩基配列からなるDNAおよび配列番号:12に記載の塩基配列からなるDNA(配列番号:1に記載の塩基配列の全部または一部を含むマーカーを検出するプライマーセット)、
(b)配列番号:13に記載の塩基配列からなるDNAおよび配列番号:14に記載の塩基配列からなるDNA(配列番号:3に記載の塩基配列の全部または一部を含むマーカーを検出するプライマーセット)、
(c)配列番号:15に記載の塩基配列からなるDNAおよび配列番号:16に記載の塩基配列からなるDNA(配列番号:5に記載の塩基配列の全部または一部を含むマーカーを検出するプライマーセット)、
(d)配列番号:17に記載の塩基配列からなるDNAおよび配列番号:18に記載の塩基配列からなるDNA(配列番号:7に記載の塩基配列の全部または一部を含むマーカーを検出するプライマーセット)、
(e)配列番号:19に記載の塩基配列からなるDNAおよび配列番号:20に記載の塩基配列からなるDNA(配列番号:9に記載の塩基配列の全部または一部を含むマーカーを検出するプライマーセット)、
を例示することが出来る。これらのプライマーセットによって増幅されるDNA配列によって特徴付けられる情報を、本発明のTRET1遺伝子の塩基配列と比較することによって、増幅されるDNA配列が由来する細胞がTRET1遺伝子を有するか否かを判定することが可能である。
【0055】
また上記のプライマー以外にも、当業者であれば、配列番号:1、3、5、7、または9に記載の塩基配列を利用して、同様の機能を有するプライマーセットを作成することが可能である。本発明のプライマーには、このようなプライマーもまた含まれる。
本発明のPCRプライマーは、当業者においては、例えば、自動オリゴヌクレオチド合成機等を利用して作製することができる。また、当業者においては周知の多型検出方法、例えば、上記PCRプライマーを用いた後述のPCR-SSCP法等によっても本発明の方法を実施することが可能である。
【0056】
本発明は、以下(1)又は(2)に記載のDNAによりコードされる単離されたTRET1タンパク質を提供する。
(1)配列番号:2、4、6、8、又は10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(2)配列番号:1、3、5、7、又は9に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA
【0057】
上記タンパク質は、例えば、組換え体として調製することができる。例えば、ネムリユスリカTRET1タンパク質(PvTRET1)であれば、PvTRET1タンパク質を発現している細胞(例えば、脂肪体、脂肪体由来の培養細胞及びトレハロース産生能を有する細胞や組織)から抽出したmRNAをもとにcDNAライブラリーを得る(Short, J.M. et al., Nucleic Acid Research, 16, 7583, 1988)。配列番号:1、3、5、7又は9に記載の塩基配列に基づいて設定したプローブを用いて、このライブラリーからハイブリダイズするクローンをスクリーニングすることによってPvTRET1タンパク質をコードするDNAを単離することができる。該DNAからコードされるPvTRET1タンパク質は、当業者に周知のタンパク質発現系を利用することで得ることができる。また、PvTRET1タンパク質は、PvTRET1タンパク質を発現している細胞の培養物から回収・精製できる。ガンビエハマダラカ、キイロショウジョウバエ、セイヨウミツバチ、カイコ由来のTRET1タンパク質も同様の方法によって取得することが可能である。
【0058】
本発明はまた、上記TRET1タンパク質と機能的に同等なタンパク質も提供する。このようなタンパク質が由来する生物種は、特に制限はなく、例えば、昆虫の研究に利用されているトノサマバッタやワモンゴキブリ、タバコスズメガ、セクロピア蚕などが例示できる。
【0059】
上記TRET1タンパク質と機能的に同等なタンパク質としては、例えば、
(3)配列番号:2、4、6、8、又は10に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:2、4、6、8、又は10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(4)配列番号:1、3、5、7、又は9に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであって、配列番号:2、4、6、8、又は10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
によりコードされる単離されたタンパク質が挙げられる。
【0060】
ここで、上記TRET1タンパク質と機能的に同等なタンパク質は、ヒトのグルコーストランスポーターと比較して、配列番号:21に示すアミノ酸配列を有することを特徴とする。従って、本発明のTRET1タンパク質と機能的に同等なタンパク質には、
(a)配列番号:21に記載のアミノ酸配列を含み、配列番号:2、4、6、8、又は10に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:2、4、6、8、又は10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
によりコードされる単離されたタンパク質が含まれる。配列番号:21のアミノ酸配列の説明は、上述の通りである。
【0061】
ここで、ネムリユスリカ、ガンビエハマダラカ、キイロショウジョウバエ、セイヨウミツバチおよびカイコにおける、配列番号:21に相当する領域のアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号:22、23、24、25及び26に相当する。従って、本発明のTRET1タンパク質と機能的に同等なタンパク質には、
配列番号:22に記載のアミノ酸配列を含み、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
配列番号:23に記載のアミノ酸配列を含み、配列番号:4に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
配列番号:24に記載のアミノ酸配列を含み、配列番号:6に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:6に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
配列番号:25に記載のアミノ酸配列を含み、配列番号:8に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:8に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
配列番号:26に記載のアミノ酸配列を含み、配列番号:10に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
によりコードされる単離されたタンパク質が含まれる。
【0062】
ここで、配列番号:22に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列は、配列番号:1の塩基配列の247番目から333番目の塩基配列に対応し、
配列番号:23に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列は、配列番号:3の塩基配列の133番目から219番目の塩基配列に対応し、
配列番号:24に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列は、配列番号:5の塩基配列の127番目から213番目の塩基配列に対応し、
配列番号:25に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列は、配列番号:7の塩基配列の124番目から210番目の塩基配列に対応し、
配列番号:26に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列は、配列番号:9の塩基配列の151番目から237番目の塩基配列に対応する。
【0063】
さらに本発明のTRET1タンパク質と機能的に同等なタンパク質としては、
(b)配列番号:21に記載のアミノ酸配列を含み、配列番号:1、3、5、7、又は9に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、配列番号:2、4、6、8、又は10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
によりコードされる単離されたタンパク質が含まれる。配列番号:21に記載のアミノ酸配列の説明は、上述の通りである。
【0064】
ここで、上述のように、ネムリユスリカ、ガンビエハマダラカ、キイロショウジョウバエ、セイヨウミツバチおよびカイコにおける、配列番号:21に相当する領域のアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号:22、23、24、25及び26に相当することから、本発明のTRET1タンパク質と機能的に同等なタンパク質には、
配列番号:22に記載のアミノ酸配列を含み、配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
配列番号:23に記載のアミノ酸配列を含み、配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、配列番号:4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
配列番号:24に記載のアミノ酸配列を含み、配列番号:5に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、配列番号:6に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
配列番号:25に記載のアミノ酸配列を含み、配列番号:7に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、配列番号:8に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
配列番号:26に記載のアミノ酸配列を含み、配列番号:9に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、配列番号:10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
によりコードされる単離されたタンパク質が含まれる。ここで、配列番号:22〜26に記載のアミノ酸配列をコードするDNAの塩基配列は、上述の通りである。
【0065】
さらに、本発明のTRET1遺伝子から生成されるTRET1タンパク質は、sugar transporter領域と呼ばれる12回膜貫通領域を有することを特徴とする。従って、本発明のTRET1から生成されるTRET1タンパク質には、
(i)12回膜貫通領域のアミノ酸配列を含み、配列番号:2、4、6、8、又は10に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:2、4、6、8、又は10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
によりコードされる単離されたタンパク質が含まれる。
【0066】
ここで、ネムリユスリカ、ガンビエハマダラカ、キイロショウジョウバエ、セイヨウミツバチおよびカイコにおける12回膜貫通領域のアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号:27、28、29、30及び31に該当する(図10参照)。従って、本発明のTRET1遺伝子から生成されるTRET1タンパク質には、
配列番号:27に記載のいずれかのアミノ酸配列を含み、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
配列番号:28に記載のいずれかのアミノ酸配列を含み、配列番号:4に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
配列番号:29に記載のいずれかのアミノ酸配列を含み、配列番号:6に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:6に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
配列番号:30に記載のいずれかのアミノ酸配列を含み、配列番号:8に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:8に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
配列番号:31に記載のいずれかのアミノ酸配列を含み、配列番号:10に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
が含まれる。
【0067】
ここで、配列番号:27に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列は、配列番号:1の塩基配列の250番目から1572番目の塩基配列に対応し、
配列番号:28に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列は、配列番号:3の塩基配列の136番目から1458番目の塩基配列に対応し、
配列番号:29に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列は、配列番号:5の塩基配列の130番目から1452番目の塩基配列に対応し、
配列番号:30に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列は、配列番号:7の塩基配列の127番目から1446番目の塩基配列に対応し、
配列番号:31に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列は、配列番号:9の塩基配列の154番目から1461番目の塩基配列に対応する。
【0068】
さらに、本発明のTRET1遺伝子から生成されるTRET1タンパク質には、
(ii)12回膜貫通領域のアミノ酸配列を含み、配列番号:1、3、5、7、又は9に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、配列番号:2、4、6、8、又は10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
が含まれる。
【0069】
ここで、上述のように、ネムリユスリカ、ガンビエハマダラカ、キイロショウジョウバエ、セイヨウミツバチおよびカイコにおける12回膜貫通領域のアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号:27、28、29、30及び31に該当することから、本発明のTRET1遺伝子から生成されるTRET1タンパク質には、
配列番号:27に記載のいずれかのアミノ酸配列を含み、配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
配列番号:28に記載のいずれかのアミノ酸配列を含み、配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、配列番号:4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
配列番号:29に記載のいずれかのアミノ酸配列を含み、配列番号:5に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、配列番号:6に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
配列番号:30に記載のいずれかのアミノ酸配列を含み、配列番号:7に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、配列番号:8に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
配列番号:31に記載のいずれかのアミノ酸配列を含み、配列番号:9に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、配列番号:10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
によりコードされる単離されたタンパク質が含まれる。ここで、配列番号:22〜26に記載のアミノ酸配列をコードするDNAの塩基配列は、上述の通りである。また、上記TRET1タンパク質と「同等な機能を有する」タンパク質としては、トレハロース輸送活性を有するタンパク質が挙げられる。
【0070】
また、上記TRET1タンパク質と同等な機能を有するタンパク質としては、免疫学的に同等なタンパク質を挙げることが出来る。本発明において「TRET1タンパク質と免疫学的に同等なタンパク質」とは、TRET1タンパク質を特異的に認識する抗体と反応するものであれば、特に限定されない。例えば、TRET1タンパク質のエピトープペプチド、該エピトープを含有するTRET1タンパク質のドメイン、あるいは該ドメインを含むタンパク質を、TRET1タンパク質と免疫学的に同等なタンパク質として挙げることができる。
【0071】
TRET1タンパク質の断片は、プロテアーゼを使った消化により得ることができる。また、配列番号:1、3、5、7または9に示したTRET1タンパク質をコードするDNAをランダムに切断し、それをファージベクターに挿入してドメインペプチドを提示したファージライブラリーを作成することによっても得ることができる。これらのライブラリーを、TRET1タンパク質を認識する抗体でイムノスクリーニングすれば、免疫学的に活性なドメインを決定することができる。クローニングしたファージについて、挿入断片の塩基配列を決定すれば、活性ドメインのアミノ酸配列も明らかにすることができる。
【0072】
加えて本発明によるTRET1タンパク質と機能的に同等なタンパク質は、TRET1タンパク質が有する生化学的な活性に基づいても定義される。TRET1タンパク質の生化学的な活性とは、主としてATPやプロトンなどのトレハロース以外の物質に依存しないトレハロース輸送活性を指し、一部でグルコース輸送活性及びスクロースやマルトースなどを除いたα-グルコシド輸送活性を指す。
【0073】
これらのTRET1タンパク質と同等な機能を有するタンパク質は、他のタンパク質との融合タンパク質とすることができる。たとえば、FLAGタグ、HAタグ、あるいはヒスチジンタグなどの付加的なアミノ酸配列が付加され、前記TRET1タンパク質と同等な機能を有するタンパク質としての少なくとも一つの性状を維持したタンパク質は、前記と同等な機能を有するタンパク質に含まれる。付加するタンパク質が、TRET1タンパク質とは異なる活性を有している場合も、TRET1タンパク質が有する少なくとも一つの機能を維持している場合には、その融合タンパク質は、本発明における同等な機能を有するタンパク質に含まれる。
【0074】
上記TRET1タンパク質と同等な機能を有するタンパク質は、当業者によって公知の方法(実験医学別冊・遺伝子工学ハンドブック, pp246-251、羊土社、1991年発行)で単離することができる。たとえば所望のライブラリーを対象に、配列番号:1、3、5、7または9に示す塩基配列(またはその断片)をプローブとしてスクリーニングすれば、相同性の高い塩基配列を持ったDNAをクローニングすることが可能である。このようなライブラリーとしては、配列番号:1、3、5、7または9の塩基配列に対してランダムに変異を入れたものが提示できる。また、ネムリユスリカであれば脂肪体及び脂肪体由来の培養細胞など、ガンビエハマダラカであれば脂肪体及び脂肪体由来の培養細胞など、キイロショウジョウバエであれば脂肪体及び脂肪体由来の培養細胞など、セイヨウミツバチであれば脂肪体及び脂肪体由来の培養細胞など、カイコであれば脂肪体及び脂肪体由来の培養細胞などのcDNAライブラリー等も利用可能である。
【0075】
与えられた塩基配列に対してランダムに変異を加える方法としては、たとえばDNAの亜硝酸処理による塩基対の置換が知られている(Hirose, S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 79:7258-7260, 1982)。この方法では、変異を導入したいセグメントを亜硝酸処理することにより、特定のセグメント内にランダムに塩基対の置換を導入することができる。あるいはまた、目的とする変異を任意の場所にもたらす技術としてはgapped duplex法等がある(Kramer W. and Fritz HJ., Methods in Enzymol., 154:350-367, 1987)。変異を導入すべき遺伝子をクローニングした環状2本鎖のベクターを1本鎖とし、目的とする部位に変異を持つ合成オリゴヌクレオチドをハイブリダイズさせる。制限酵素により切断して線状化させたベクター由来の相補1本鎖DNAを、前記環状1本鎖ベクターにアニールさせ、前記合成ヌクレオチドとの間のギャップをDNAポリメラーゼで充填し、更にライゲーションすることにより完全な2本鎖環状ベクターとする。
【0076】
改変されるアミノ酸の数は、典型的には50アミノ酸以内であり、好ましくは30アミノ酸以内であり、さらに好ましくは5アミノ酸以内(例えば、1アミノ酸)であると考えられる。
アミノ酸を人為的に置換する場合、性質の似たアミノ酸に置換すれば、もとのタンパク質の活性が維持されやすいと考えられる。本発明のタンパク質には、上記アミノ酸置換において保存的置換が加えられたタンパク質であって、TRET1タンパク質(配列番号:2、4、6、8または10)と同等な機能を有するタンパク質が含まれる。保存的置換は、タンパク質の活性に重要なドメインのアミノ酸を置換する場合などにおいて重要であると考えられる。このようなアミノ酸の保存的置換は、当業者にはよく知られている。
【0077】
保存的置換に相当するアミノ酸のグループとしては、例えば、塩基性アミノ酸(例えばリジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性アミノ酸 (例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性アミノ酸(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性アミノ酸 (例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐アミノ酸(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)、および芳香族アミノ酸(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)などが挙げられる。
また、非保存的置換によりタンパク質の活性などをより上昇(例えば恒常的活性化型タンパク質などを含む)または下降(例えばドミナントネガティブなどを含む)させることも考えられる。
【0078】
配列番号:2、4、6、8または10に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:2、4、6、8または10に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質は、天然に存在するタンパク質を含む。一般に真核生物の遺伝子は、インターフェロン遺伝子等で知られているように、多型現象(polymorphism)を有する。この多型現象によって生じた塩基配列の変化によって、1または複数個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入、および/または付加される場合がある。このように自然に存在するタンパク質であって、かつ配列番号:2、4、6、8または10に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が、置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を有し、配列番号:2、4、6、8または10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質は、本発明に含まれる。
【0079】
あるいは多型現象によって塩基配列に変化はあっても、アミノ酸配列が変わらない場合もある。このような塩基配列の変異は、サイレント変異と呼ばれる。サイレント変異を有する塩基配列からなるDNAよりコードされるタンパク質も、本発明に含まれる。なおここで言う多型現象とは、集団内において、ある遺伝子が個体間で異なる塩基配列を有することを言う。多型現象は、異なる遺伝子が見出される割合とは無関係である。
【0080】
この他、TRET1タンパク質と同等の機能を有するタンパク質を得る方法として、ハイブリダイゼーションを利用する方法を挙げることができる。すなわち、配列番号:1、3、5、7または9に示すような本発明によるTRET1タンパク質をコードするDNA、あるいはその断片をプローブとし、これとハイブリダイズすることができるDNAを単離する。ハイブリダイゼーションをストリンジェントな条件下で実施すれば、塩基配列としては相同性の高いDNAが選択され、その結果として単離されるタンパク質にはTRET1タンパク質と同等の機能を有するタンパク質が含まれる可能性が高まる。
【0081】
なおストリンジェントな条件とは、例えば上述の条件を示すことができる。ストリンジェンシーは、塩濃度、ホルムアミドの濃度、あるいは温度といった条件に左右されるが、当業者であればこれらの条件を必要なストリンジェンシーを得られるように設定することは自明である。
【0082】
ハイブリダイゼーションを利用することによって、たとえばネムリユスリカ、ガンビエハマダラカ、キイロショウジョウバエ、セイヨウミツバチ、またはカイコ以外の昆虫種におけるTRET1タンパク質のホモログをコードするDNAの単離が可能である。これら以外の昆虫種、例えば、昆虫の研究に利用されているトノサマバッタやワモンゴキブリ、タバコスズメガ、セクロピア蚕などから得ることができるDNAがコードするTRET1タンパク質のホモログは、本発明における機能的に同等なタンパク質を構成する。
【0083】
上記TRET1タンパク質(配列番号:2、4、6、8または10)に変異を導入して得たタンパク質や、上記のようなハイブリダイゼーション技術等を利用して単離されるDNAがコードするタンパク質は、通常、上記TRET1タンパク質(配列番号:2、4、6、8または10)とアミノ酸配列において高い相同性を有する。高い相同性とは、少なくとも30%以上、好ましくは50%以上、さらに好ましくは80%以上(例えば、95%以上)の配列の同一性を指す。塩基配列やアミノ酸配列の同一性は、上述したように、インターネットを利用したホモロジー検索サイトを利用して行うことができる。また、National Center for Biotechnology Information (NCBI) において、BLASTを用いた検索を行うことができる(例えばNCBIのホームページのウェブサイトのBLASTのページ; http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/; Altschul, S.F. et al., J. Mol. Biol., 1990, 215(3):403-10; Altschul, S.F. & Gish, W., Meth. Enzymol., 1996, 266:460-480; Altschul, S.F. et al., Nucleic Acids Res., 1997, 25:3389-3402)。
【0084】
例えば Advanced BLAST 2.1におけるアミノ酸配列の同一性の算出は、プログラムにblastpを用い、Expect値を10、Filterは全てOFFにして、MatrixにBLOSUM62を用い、Gap existence cost、Per residue gap cost、および Lambda ratioをそれぞれ 11、1、0.85(デフォルト値)に設定して検索を行い、同一性(identity)の値(%)を得ることができる(Karlin, S. and S. F. Altschul (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-68; Karlin, S. and S. F. Altschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-7)。
【0085】
本発明によるタンパク質、またはそれと同等の機能を有するタンパク質は、糖鎖等の生理的な修飾、蛍光や放射性物質のような標識、あるいは他のタンパク質との融合といった各種の修飾を加えたタンパク質であることができる。後に述べる遺伝子組換え体においては、発現させる宿主によって糖鎖による修飾に差異が生じる可能性がある。しかしたとえ糖鎖の修飾に違いを持っていても、本明細書中に開示されたTRET1タンパク質と同様の性状を示すものであれば、いずれも本発明によるTRET1タンパク質、または同等な機能を有するタンパク質である。
【0086】
TRET1タンパク質は、生体材料のみならず、これをコードする遺伝子を適当な発現系に組み込んで遺伝子組換え体(recombinant)として得ることもできる。TRET1タンパク質を遺伝子工学的な手法によって得るためには、先に述べたTRET1タンパク質をコードするDNAを適当な発現系に組み込んで発現させれば良い。本発明に応用可能なホスト/ベクター系としては、例えば、発現ベクターpGEXと大腸菌を示すことができる。pGEXは外来遺伝子をグルタチオン S-トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質として発現させることができる(Gene, 67:31-40, 1988)ので、TRET1タンパク質をコードする遺伝子を組み込んだpGEXをヒートショックでBL21のような大腸菌株に導入し、適当な培養時間の後に isopropylthio-β-D-galactoside(IPTG)を添加してGST融合TRET1タンパク質の発現を誘導する。TRET1タンパク質をコードする遺伝子は、例えば脂肪体及び脂肪体由来の培養細胞などのcDNAライブラリー等を鋳型としてPCR等で増幅することにより得ることができる。本発明によるGSTはグルタチオンセファロース4Bに吸着するため、発現生成物はアフィニティクロマトグラフィーによって容易に分離・精製することが可能である。
【0087】
TRET1タンパク質のrecombinantを得るためのホスト/ベクター系としては、この他にも次のようなものを応用することができる。まず細菌をホストに利用する場合には、ヒスチジンタグ、HAタグ、FLAGタグ等を利用した融合タンパクの発現用ベクターが市販されている。酵母では、Pichia属酵母が糖鎖を備えたタンパク質の発現に有効なことが公知である。糖鎖の付加という点では、昆虫細胞をホストとするバキュロウイルスベクターを利用した発現系も有用である(Bio/Technology, 6:47-55, 1988)。更に、哺乳動物の細胞を利用して、CMV、RSV、あるいはSV40等のプロモータを利用したベクターのトランスフェクションが行われており、これらのホスト/ベクター系は、いずれもTRET1タンパク質の発現系として利用することができる。また、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター等のウイルスベクターを利用して遺伝子を導入することもできる。
【0088】
得られた本発明のタンパク質は、宿主細胞内または細胞外(培地など)から単離し、実質的に純粋で均一なタンパク質として精製することができる。タンパク質の分離、精製は、通常のタンパク質の精製で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、組み合わせればタンパク質を分離、精製することができる。
【0089】
クロマトグラフィーとしては、例えばアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる(Marshak et al., Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1996)。これらのクロマトグラフィーは、液相クロマトグラフィー、例えばHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。
【0090】
また、本発明のタンパク質は、生理的な高次構造、糖鎖付加、ジスルフィド結合、脂質付加、メチル化等の修飾が加えられたものが好ましい。また、本発明のタンパク質は、実質的に精製されたタンパク質であることが好ましい。ここで「実質的に精製された」とは、本発明のタンパク質の精製度(タンパク質成分全体における本発明のタンパク質の割合)が、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、100%若しくは100%に近いことを意味する。100%に近い上限は当業者の精製技術や分析技術に依存するが、例えば、99.999%、99.99%、99.9%、99%などである。
【0091】
また、上記の精製度を有するものであれば、如何なる精製方法によって精製されたものでも、実質的に精製されたタンパク質に含まれる。例えば、上述のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、または組み合わせることにより、実質的に精製されたタンパク質を例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0092】
また、本発明は、上述した本発明のタンパク質の部分ペプチド(部分断片)も提供する。該部分ペプチドは、本発明のタンパク質と機能的に同等なものであれば、その長さ等は特に制限されない。部分ペプチドは、細胞の乾燥耐性を増加させる薬剤や、骨粗鬆症予防のための破骨細胞分化抑制剤、ハンチントン病に代表されるポリグルタミン・ポリアラニン病の症状改善薬などに利用することが可能である。
【0093】
本発明は、TRET1タンパク質等を認識する抗体を提供する。本発明の抗体は、本発明のTRET1タンパク質あるいはその断片を免疫原として、公知の方法により得ることができる(Harlow, E. & Lane, D.; Antibodies; A Laboratry manual. Cold Spring Harbor, New York, 1988、Kohler, G. & Milstein, C., Nature 256: 495-7, 1975)。
【0094】
免疫には、本発明のTRET1タンパク質またはその断片を適当なアジュバントとともに免疫動物に免疫する。TRET1タンパク質の断片は、担体蛋白質と結合させて免疫原とすることも可能である。免疫原を得るための担体蛋白質には、スカシガイヘモシアニン(KLH)、あるいはウシ血清アルブミン(BSA)等を用いることができる。
【0095】
免疫動物には、ウサギ、マウス、ラット、ヤギ、あるいはヒツジなどが一般に利用される。アジュバントとしては、フロイントのコンプリートアジュバント(FCA)等が一般に用いられる(Adv. Tubercl. Res., 1:130-148, 1956)。適当な間隔で免疫を追加し、抗体価の上昇を確認したところで採血し抗血清を得ることができる。更にその抗体画分を精製すれば、精製抗体(ポリクローナル抗体)とすることもできる。
【0096】
あるいはまた、抗体産生細胞を採取して細胞融合法などによりクローニングすれば、モノクローナル抗体を得ることもできる。モノクローナル抗体はイムノアッセイにおいて高い感度と特異性を達成するための重要なツールである。
【0097】
抗体産生細胞としては、免疫動物に由来するものを利用することもできる。更に、こうして得られた免疫動物に由来するモノクローナル抗体産生細胞の抗体遺伝子をもとに、キメラ抗体やヒト化抗体の構築が可能である。
【0098】
また、本発明の抗体は、TRET1タンパク質等の免疫学的検出用試薬とすることができる。さらに本発明の抗体は、トランスジェニック哺乳類を作製したときの、トランスフォーマント判定に用いることも可能である。組織や血中に存在するタンパク質等を、抗体を用いて免疫学的に検出する方法は公知である。
【0099】
また本発明の抗体は、TRET1タンパク質等、またはTRET1タンパク質等を発現する細胞の分離あるいは検出に利用することができる。抗体を用いたタンパク質等の単離精製方法は、当業者に周知である。また、本発明のTRET1タンパク質等は、脂肪体、脂肪体由来の細胞及びトレハロース産生能を有した細胞のマーカーとして使用されうる。すなわちTRET1タンパク質等の発現を指標に、脂肪体、脂肪体由来の細胞及びトレハロース産生能を有した細胞を検出したり分離したりすることができる。抗体は適宜蛍光等により標識される。例えば、TRET1タンパク質等に対する抗体を用い、セルソーティング等によりTRET1タンパク質等を発現する細胞を分離することができる。
【0100】
本発明は、本発明の遺伝子、該遺伝子を含むベクター、又は該遺伝子から生成されるタンパク質を含有する、細胞にトレハロース導入するための薬剤に関する。また本発明は、本発明の遺伝子、該遺伝子を含むベクター、該遺伝子から生成されるタンパク質又はその部分配列を含むタンパク質を含有する、細胞の乾燥耐性を増加させる薬剤に関する。「細胞の乾燥耐性を増加させる」は上記の通りである。さらに、本発明は、本発明のタンパク質又はその部分配列を含むタンパク質を含有する細胞や組織の乾燥耐性を増強させる薬剤や、骨粗鬆症予防のための破骨細胞分化抑制剤、ハンチントン病に代表されるポリグルタミン・ポリアラニン病の症状改善薬などを提供する。これら薬剤におけるタンパク質又はその部分配列を含むタンパク質は、単離されたものであれば、その状態に特に制限はなく、上記薬剤として使用できる限り、実質的に精製されたタンパク質又はその部分配列を含むタンパク質でも、クルードな状態のタンパク質又はその部分配列を含むタンパク質でも使用することができる。また、乾燥耐性が増強される細胞としては、昆虫ならばSf-9細胞、シュナイダー細胞など、哺乳動物細胞ならばCHO-K1細胞、NIH/3T3細胞、HuH-7細胞などが挙げられ、組織としては昆虫ならば脂肪体や筋肉、哺乳動物ならば血液を構成する細胞群、肝臓、筋肉などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
これら薬剤は、ヒトやヒト以外の動物(例えば実験動物、畜産動物、愛玩動物等)の骨粗鬆症予防のための破骨細胞分化抑制剤、ハンチントン病に代表されるポリグルタミン・ポリアラニン病の症状改善薬などとしても利用することができる。
【0101】
本発明のタンパク質又はその部分配列を含むタンパク質は、例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、例えば、滅菌水や生理食塩水、安定剤、賦形剤、防腐剤、界面活性剤、キレート剤(EDTA等)、結合剤等などと適宜組み合わせて製剤化して投与することが考えられる。また、本発明の遺伝子を任意の組織特異的なプロモータ下に繋いだものをアデノウィルスなどのベクターに組込み、ヒトやヒト以外の動物に投与することも考えられる。
本発明の薬剤の形態(剤形)としては、注射剤形、凍結乾燥剤形、溶液剤形などが例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0102】
患者への投与は経口、非経口投与のいずれでも可能であるが、好ましくは非経口投与であり、例えば、注射投与が可能である。注射投与の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身または局部的に投与することができる。
【0103】
投与量は、患者の体重や年齢、投与方法、症状などにより変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。一般的な投与量は、薬剤の有効血中濃度や代謝時間により異なるが、1日の維持量として約0.1mg/kg〜約1.0g/kg、好ましくは約0.1mg/kg〜約10mg/kg、より好ましくは約0.1mg/kg〜約1.0mg/kgであると考えられる。投与は1回から数回に分けて行うことができる。
【0104】
本発明はまた、本発明の遺伝子を任意の細胞内において発現させる工程を含む、細胞のトレハロース透過性を上昇させる方法に関する。本発明はさらに、本発明の遺伝子を任意の細胞内において発現させる工程を含む、細胞にトレハロースを導入する方法に関する。本発明において用いられる細胞は、特に制限されるものではなく、任意の細胞を用いることが可能である。また、本発明の遺伝子を細胞内で発現させる方法も特に制限されず、当業者に公知の種々の方法を用いることが可能である。
【0105】
本発明はまた、TRET1遺伝子からなるDNAまたはその相補鎖に相補的な少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドを提供する。本発明におけるオリゴヌクレオチドの鎖長は、15ヌクレオチド以上であれば特に制限されるものではないが、好ましくは20ヌクレオチド以上であり、より好ましくは、例えば、21、24、25、26、28、29、30ヌクレオチドである。
【0106】
また「相補鎖」とは、A:T(ただしRNAの場合はU)、G:Cの塩基対からなる2本鎖核酸の一方の鎖に対する他方の鎖を指す。また、「相補的」とは、少なくとも15個の、より好ましくは20個以上の連続したヌクレオチド領域で完全に相補配列である場合に限られず、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは90%、さらに好ましくは95%以上の塩基配列上の相同性を有すればよい。相同性を決定するためのアルゴリズムは当業者に周知のものを使用すればよい。本発明のオリゴヌクレオチドとしては、例えば、配列番号11〜20、35のいずれかに記載の塩基配列を含むDNAが挙げられる。
【0107】
本発明のオリゴヌクレオチドは、配列番号:1、3、5、7または9に記載の塩基配列からなるDNAの検出に用いるプローブとして使用することができる。また、本発明のオリゴヌクレオチドは、DNAアレイの基板の形態で使用することができる。
【0108】
本発明のオリゴヌクレオチドをプローブとして用いる場合は、適宜標識して用いることが好ましい。標識する方法としては、T4ポリヌクレオチドキナーゼを用いて、オリゴヌクレオチドの5'端を32Pでリン酸化することにより標識する方法、およびクレノウ酵素等のDNAポリメラーゼを用い、ランダムヘキサマーオリゴヌクレオチド等をプライマーとして32P等のアイソトープ、蛍光色素、またはビオチン等によって標識された基質塩基を取り込ませる方法(ランダムプライム法等)を例示することができる。
【0109】
本発明のオリゴヌクレオチドは、例えば市販のオリゴヌクレオチド合成機により作製することができる。プローブは、制限酵素処理等によって取得される二本鎖DNA断片として作製することもできる。
【0110】
本発明はまた、被験化合物のスクリーニング方法を提供する。
本発明のスクリーニング方法の第一の態様としては、以下の(a)〜(c)の工程を含む、被験化合物のスクリーニング方法が挙げられる。
(a)TRET1遺伝子の転写産物に被検化合物を接触させる工程
(b)TRET1遺伝子の転写産物と被検化合物の結合を検出する工程
(c)TRET1遺伝子の転写産物と結合する被検化合物を選択する工程
【0111】
第一の態様では、まず、TRET1遺伝子の転写産物に被検化合物を接触させる。本発明のスクリーニング方法における「TRET1遺伝子の転写産物」としては、TRET1遺伝子の転写産物および該転写産物より翻訳される翻訳産物も含まれる。
【0112】
本発明の方法における「被検化合物」としては、特に制限はなく、例えば、天然化合物、有機化合物、無機化合物、タンパク質、ペプチド等の単一化合物、並びに、化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物、原核細胞抽出物、真核単細胞抽出物もしくは動物細胞抽出物等を挙げることができる。上記被検化合物は必要に応じて適宜標識して用いることができる。標識としては、例えば、放射標識、蛍光標識等を挙げることができる。
【0113】
本発明において「接触」は、以下のようにして行う。例えば、TRET1遺伝子の転写産物が精製された状態であれば、精製標品に被検化合物を添加することにより行うことができる。また、細胞内に発現した状態または細胞抽出液内に発現した状態であれば、それぞれ、細胞の培養液または該細胞抽出液に被検化合物を添加することにより行うことができる。本発明における細胞としては、TRET1が発現されるものであれば特に制限されず、任意の生物に由来する細胞を利用することが可能である。本発明に利用する細胞としては、例えば、ネムリユスリカ、ガンビエハマダラカ、キイロショウジョウバエ、セイヨウミツバチ、またはカイコを含む昆虫由来の細胞を挙げることが出来るが、これらに制限されない。被検化合物がタンパク質の場合には、例えば、該タンパク質をコードするDNAを含むベクターを、TRET1遺伝子が発現している細胞へ導入する、または該ベクターをTRET1遺伝子が発現している細胞抽出液に添加することで行うことも可能である。また、例えば、酵母または動物細胞等を用いた2ハイブリッド法を利用することも可能である。
【0114】
第一の態様では、次いで、上記TRET1遺伝子の転写産物と被検化合物の結合を検出する。タンパク質間の結合を検出または測定する手段は、例えばタンパク質に付した標識を利用することにより行うことができる。標識の種類は、例えば、蛍光標識、放射標識等が挙げられる。また、酵素ツーハイブリット法や、BIACOREを用いた測定方法等、公知の方法によって測定することもできる。本方法においては、ついで、上記TRET1遺伝子の転写産物と結合した被検化合物を選択する。選択された被検化合物との結合が、TRET1の細胞内局在性やTRET1の活性に変化を与えるものであれば、被検化合物を用いたTRET1活性調節に利用できる。従って、被検化合物は、より精密なトレハロース導入系を与えるために有用であると考えられる。また、選択された被検化合物を、以下のスクリーニングの被検化合物として用いてもよい。
【0115】
また、本発明のスクリーニング方法の第二の態様として、以下の(a)〜(c)の工程を含む、被検化合物のスクリーニング方法を提供する。
(a)無脊椎動物から採取した細胞に、被検化合物を接触させる工程
(b)TRET1遺伝子の転写産物の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物を接触させていない場合と比較して、上記転写産物の発現レベルを増加又は減少させた被検化合物を選択する工程
【0116】
第二の態様では、まず、トレハロースを血糖とする無脊椎動物から採取した細胞に被検化合物を接触させる。ここで「無脊椎動物」としては、甲殻類や、ネムリユスリカ、ガンビエハマダラカ、キイロショウジョウバエ、セイヨウミツバチ、またはカイコを含む昆虫などが挙げられる。また、「無脊椎動物から採取した細胞」は、TRET1遺伝子を有することが明らかな、無脊椎動物由来の任意の細胞を指す。「被検化合物」、「接触」の記載に関しては上記の説明の通りである。
【0117】
第二の態様では、次いで、TRET1遺伝子の転写産物の発現レベルを測定する。TRET1遺伝子の転写産物の発現レベルの測定は、当業者に公知の方法によって行うことができる。例えば、TRET1遺伝子の転写産物をコードするmRNAを定法に従って抽出し、このmRNAを鋳型としたノーザンハイブリダイゼーション法、またはRT-PCR法を実施することによって該遺伝子の転写レベルの測定を行うことができる。さらに、DNAアレイ技術を用いて、TRET1遺伝子の転写産物の発現レベルを測定することも可能である。
【0118】
また、TRET1遺伝子の転写産物を含む画分を定法に従って回収し、TRET1遺伝子の転写産物の発現をSDS-PAGE等の電気泳動法で検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うこともできる。また、TRET1遺伝子の転写産物に対する抗体を用いて、ウェスタンブロッティング法を実施し、TRET1遺伝子の転写産物の発現を検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うことも可能である。
【0119】
TRET1遺伝子の転写産物の検出に用いる抗体としては、検出可能な抗体であれば、特に制限はないが、例えばモノクローナル抗体、またはポリクローナル抗体の両方を利用することができる。該抗体は、上述のように、当業者に公知の方法により調製することが可能である。
【0120】
第二の態様においては、ついで、TRET1遺伝子の転写産物の発現レベルが、被検化合物を接触させないときに比べ変化する場合に、被検化合物を、昆虫の成長を制御するための化合物として選択する。具体的には、被検化合物がTRET1遺伝子の発現を増加させた場合には、該被検化合物はヤドリバエのような天敵昆虫やカイコのような産業昆虫の成長促進に有用であり、TRET1遺伝子の発現を減少させた場合には害虫の発育遅延、すなわち農薬として利用することに有用であると考えられる。
【0121】
本発明のスクリーニング方法の第三の態様は、以下の(a)〜(d)の工程を含む、被検化合物のスクリーニング方法である。
(a)TRET1遺伝子のプロモータ領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞または細胞抽出液を提供する工程
(b)該細胞または該細胞抽出液に被検化合物を接触させる工程
(c)該細胞または該細胞抽出液における該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(d)被検化合物を接触させていない場合と比較して、該レポーター遺伝子の発現レベルを増加又は減少させた被検化合物を選択する工程
【0122】
第三の態様では、まず、TRET1遺伝子のプロモータ領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞または細胞抽出液を提供する。
第三の態様において、「機能的に結合した」とは、TRET1遺伝子のプロモータ領域に転写因子が結合することにより、レポーター遺伝子の発現が誘導されるように、TRET1遺伝子のプロモータ領域とレポーター遺伝子とが結合していることをいう。従って、レポーター遺伝子が他の遺伝子と結合しており、他の遺伝子産物との融合タンパク質を形成する場合であっても、TRET1遺伝子のプロモータ領域に転写因子が結合することによって、該融合タンパク質の発現が誘導されるものであれば、上記「機能的に結合した」の意に含まれる。
【0123】
上記レポーター遺伝子としては、その発現が検出可能なものであれば特に制限されず、例えば、当業者において一般的に使用されるCAT遺伝子、lacZ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、β-グルクロニダーゼ遺伝子(GUS)およびGFP遺伝子等を挙げることができる。
【0124】
第三の態様では、次いで、上記細胞または上記細胞抽出液に被検化合物を接触させる。次いで、該細胞または該細胞抽出液における上記レポーター遺伝子の発現レベルを測定する。「被検化合物」および「接触」の記載に関しては上記の説明の通りである。
【0125】
レポーター遺伝子の発現レベルは、使用するレポーター遺伝子の種類に応じて、当業者に公知の方法により測定することができる。例えば、レポーター遺伝子がCAT遺伝子である場合には、該遺伝子産物によるクロラムフェニコールのアセチル化を検出することによって、レポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。レポーター遺伝子がlacZ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による色素化合物の発色を検出することにより、また、ルシフェラーゼ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による蛍光化合物の蛍光を検出することにより、また、β-グルクロニダーゼ遺伝子(GUS)である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用によるGlucuron(ICN社)の発光や5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-グルクロニド(X-Gluc)の発色を検出することにより、さらに、GFP遺伝子である場合には、GFPタンパク質による蛍光を検出することにより、レポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。
【0126】
第三の態様においては、最後に、上記レポーター遺伝子の発現レベルが、被検化合物を接触させないときに比べ変化する場合に、被検化合物を、昆虫の成長を制御するための化合物として選択する。具体的には、被検化合物がTRET1遺伝子の発現を増加させた場合には、該被検化合物はヤドリバエのような天敵昆虫やカイコのような産業昆虫の成長促進に有用であり、TRET1遺伝子の発現を減少させた場合には害虫の発育遅延、すなわち農薬として利用することに有用であると考えられる。
【0127】
本発明はまた、上記に記載のスクリーニング方法に用いるためのキットに関する。このようなキットには、上記に記載のスクリーニング方法の検出工程や測定工程に使用されるものを含みうる。例えば、TRET1遺伝子、TRET1のアンチセンスRNA、プライマー、抗体、染色液等を挙げることができる。その他、蒸留水、塩、緩衝液、タンパク質安定剤、保存剤等が含まれていてもよい。
【0128】
本発明はまた、本発明の遺伝子のプロモータと任意の遺伝子が機能的に結合したDNAを発現させる工程を含む、脂肪体において任意の遺伝子を発現させる方法を提供する。本発明のTRET1遺伝子は、ネムリユスリカ、ガンビエハマダラカ、キイロショウジョウバエ、セイヨウミツバチ、及びカイコにおいて、脂肪体特異的に発現する。従って、本発明の遺伝子のプロモータを用いることで、任意の遺伝子を脂肪体特異的に発現させることが可能となる。ここで、上記「機能的に結合した」とは、上述の通りである。
【0129】
本発明の方法においては、本発明の遺伝子のプロモータの下流に任意の遺伝子を発現させるように構築したベクターを昆虫に導入する。本発明の遺伝子のプロモータと機能的に結合させる遺伝子は、特に制限されるものではなく、例えば、GFP、beta-galなどが挙げられる。脂肪体は、昆虫内でも遺伝子発現が活発な組織の一つであるため、本発明のTRET1プロモータは、昆虫を用いた有用遺伝子発現には利用できる考えられる。
【0130】
また本発明は、本発明のTRET1遺伝子の転写産物と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNAを提供する。本発明のTRET1遺伝子の転写産物と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNAは、TRET1遺伝子の検出等に使用することが可能である。また「相補的」の定義は、上述の通りである。
【0131】
本発明のアンチセンスDNAの配列は、TRET1の転写産物と完全に相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に阻害できる限り、完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNAは、標的とする遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上(例えば、95%、96%、97%、98%、99%以上)の相補性を有する。アンチセンスDNAの長さは、少なくとも15塩基以上であり、好ましくは100塩基以上であり、さらに好ましくは500塩基以上である。通常、用いられるアンチセンスDNAの長さは5kbよりも短く、好ましくは2.5kbよりも短い。TRET1遺伝子の転写産物と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNAとしては、配列番号:34に記載の塩基配列を含むDNAが挙げられる。
【0132】
また、本発明において、TRET1遺伝子の発現を抑制する非ヒト生物には特に制限はないが、ガンビエハマダラカ、キイロショウジョウバエ、セイヨウミツバチ、カイコ、トノサマバッタやワモンゴキブリ、タバコスズメガ、セクロピア蚕などの昆虫に代表される無脊椎動物などが好適である。
【0133】
アンチセンスDNAは、例えば、配列番号:1、3、5、7、又は9に記載のDNAの配列情報を基にホスホロチオネート法(Stein, Nucleic Acids Res., 16: 3209-3221, 1988)などにより調製することが可能である。調製されたDNAは、公知の方法で、所望の植物へ形質転換できる。
【実施例】
【0134】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない
【0135】
材料および方法
1.促進輸送型トレハローストランスポーター(PvTRET1, BmTRET1, AgTRET1, AmTRET1, DmTRET1)遺伝子の単離と発現ベクターの構築
ネムリユスリカのプライベートESTデータベースを用い,BLASTサーチによるアノテーションを進めた結果,糖輸送体のモチーフをもつESTクローンを同定できた。同定したESTクローンにアライメントを施し、得られたクラスターの塩基配列情報を元に、特異的プライマーを設計し、RT-PCRとSMART-RACE (クロンテック)によって、cDNAの完全長の塩基配列を決定し、PvTRET1と名付けた。アフリカツメガエル卵母細胞発現ベクターを構築するために、PvTRET1 cDNAから、ORFの部分をPCRによって増幅し、pXbG-ev1ベクター(Preston, G.M., Carroll, T.P., Guggino, W.B. and Agre, P. (1992) Science 256, 385-7.)のBgl IIサイトまたは、pIRES2AcGFP1ベクター(クロンテック)のBgl IIとEco RIサイトの間に挿入した。得られたプラスミドを順に、pPvTRET1-XbG-ev1とpPvTRET1-IRES2-AcGFP1と名付けた。
【0136】
また、PvTRET1遺伝子のオーソログを同定するために、カイコ(KAIKOBLAST: http://kaikoblast.dna.affrc.go.jp/)、ガンビエハマダラカ (AnoBase: http://www.anobase.org/index.html)、セイヨウミツバチ (BeeBase: http:// racerx00.tamu.edu/bee_resources.html) 及びキイロショウジョウバエ(Fly Base: http://shigen.lab.nig.ac.jp:7081/)の各DNAデータベースに対するtBlastnサーチで検索した。得られたクローンからプライマーを作製し、RT-PCRとRACEによってcDNAクローンを得、それぞれ順にBmTRET1, AgTRET1, AmTRET1及び DmTRET1と名付けた。またPvTRET1と同様にして、アフリカツメガエル卵母細胞発現用にpBmTRET1-XbG-ev1, pAgTRET1-XbG-ev1, pAmTRET1-XbG-ev1, pDmTRET1-XbG-ev1といったベクターを構築した。
【0137】
2.RNA単離とノーザンブロット分析
乾燥処理後0、1、3、6、24、48時間のネムリユスリカ幼虫個体からISOGEN (ニッポンジーン)を用いてtotal RNAを抽出した。得られたRNAは、グアニジン変性アガロースゲルを用いて電気泳動を行い、陰圧ブロッターを用いてナイロンメンブレンに転写した。このナイロンメンブレンに対して、今回得られた完全長のPvTRET1 cDNAからStrip-EZキット (Ambion)を用いて32Pの放射ラベルしたプローブを用いてハイブリダイゼーション反応を行った。特異的なバンドのみを残すための洗浄処理した後に、LAS-2500 (富士フイルム)を用いて、画像解析を行った。
【0138】
3.アフリカツメガエル卵母細胞を用いたトレハロース輸送アッセイ
pPvTRET1-XbG-ev1, pBmTRET1-XbG-ev1, pAgTRET1-XbG-ev1, pAmTRET1-XbG-ev1, pDmTRET1-XbG-ev1を鋳型としたベクター特異的プライマーを用いたPCRによって、T7ポリメラーゼ結合領域を含むXenopus b-globin非翻訳領域を5‘及び3’末端に結合したPvTRET1, BmTRET1, AgTRET1, AmTRET1, DmTRET1 DNA断片をそれぞれ作製した。このDNA断片を鋳型にmMESSAGE mMACHINE (Ambion)を用いて、キャップRNA (cRNA)を合成した。合成した1ng/nlのcRNA (40 nl) をコラゲナーゼ処理したアフリカツメガエル卵母細胞 (ステージ V-VI) に微量注入した。同時に、ネガティブコントロールとして40 nlの滅菌超純水も微量注入した。トレハロース輸送活性は、cRNA注入の72〜96時間後に、等浸透圧になるように調整したアッセイ用緩衝液:105mM トレハロースを含む0.5 x MBS (44.0 mM NaCl, 0.5 mM KCl, 1.2 mM NaHCO3, 7.5 mM Tris-HCl (pH7.6), 0.15 mM Ca(NO3)2, 0.21 mM CaCl2, 0.41 mM MgSO4)中に卵母細胞を15℃で3時間放置した後、取り込まれたトレハロースの定量を行った。酸性でのトレハロース輸送活性を調べた際には、上記のMBS中のTris 緩衝液を等濃度の酢酸-酢酸ナトリウム緩衝液 (pH4.2)に換えて、アッセイを行った。また、イオノフォアを用いた時は、アッセイ用緩衝液に任意の量のナイジェリシン、バリノマイシン及びCCCP (Carbonyl cyanide 3-chlorophenylhydrazone) を添加してアッセイを行った。トレハロースの放出アッセイを行う場合は、105 mMトレハロース含0.5xMBSに3時間放置後、卵母細胞を1 x MBSに移し、適当な時間で回収した後、取り込まれたトレハロースの定量を行った。
【0139】
4.動物細胞を用いたトレハロース輸送アッセイ
動物細胞として、CHO-K1, NIH/3T3-3-4, HuH-7を用いた。培養は、10%FBSを含むF-12ハム培地(CHO-K1用)または10%FBAを含むDMEM培地(NIH/3T3-3-4及びHuH-7用)を用い、5%炭酸ガス、95%湿度、37℃の環境で行った。これら細胞を1〜5 x 105細胞ずつ6穴培養ディッシュに播種し、一晩培養後,FuGene6 (ロシュ)を用いてpPvTRET1-IRES2-AcGFP1またはpIRES2AcGFP1(ネガティブコントロール)を細胞に導入した。トレハロース輸送活性は、遺伝子導入2日後、培地を100 mMトレハロースを含む培地に交換し、3時間培養を行った後、取り込まれたトレハロースの定量を行った。また、回収した細胞の一部を用いて、AcGFP1陽性細胞をフローサイトメーター(EPICS ALTRA, ベックマン)で計数して、遺伝子導入効率を決定した。
【0140】
5.トレハロース定量
トレハロースを取り込ませた卵母細胞または動物細胞をそれぞれ1 x MBSまたはダルベッコPBS (Invitorogen)で数回リンス後、80%エタノール中で摩砕し、その遠心上澄を減圧乾固し、0.5 mlの超純水に溶解させてトレハロース画分を得た。トレハロースの定量は、HPLC分析を利用した。HPLCは、超純水を移動相とし、80℃に熱した糖分析用カラム(アミネックスHPX-87C, BioRad)を接続したHPLC 装置(LC-10A, 島津)で分画し、示差屈折率検出器(RID-6A, 島津)でピークを検出し、その面積値からトレハロースの定量を行った。
【0141】
6.in situハイブリダイゼーション
in situハイブリダイゼーションはジェノスタッフ(東京)で行った。具体的には、乾燥処理後24時間の幼虫個体をホルマリン固定し、パラフィン切片 (6μM)を作製した。PvTRET1 cDNAの1298番目から1594番目に相当する領域をサブクローニングし、DIG RNA labeling kit (Roche)を用いてアンチセンス鎖及びセンス鎖をコードするジゴキシゲニン標識リボプローブを作製し、パラフィン切片にハイブリダイズさせた。ハイブリ後、抗ジゴキシゲニン抗体を反応させ、NBT/BCIPを用いて発色させた。染色後,Kernechtrot液(武藤化学薬品)を用いて、対比染色を行った。
【0142】
〔実施例1〕PvTRET1遺伝子の単離とPvTRET1タンパクの構造
本願発明者らは、独自に構築したネムリユスリカのESTデータベースのアノテーションを進めていた。その過程で、ヒトのグルコーストランスポーターやビートの糖トランスポーター様タンパク質に比較的似ているタンパク質をコードしているESTクローンが複数存在することを確認した。糖トランスポーターは、バリアントが非常に多く、どのホモログがトレハロース輸送に関与するかわからない。事実、キイロショウジョウバエのゲノムデータベースを調査すると、44個も存在する。また、トレハロースは昆虫の血糖であり、量的変動が少ないため、トレハローストランスポーター自体の発現変動が少ないと思われ、多数あるホモログから絞り込む作業は困難を極めることは容易に予想された。この事実は、糖トランスポーターとの相同性の高さだけでは、どれがトレハローストランスポーターであるかわからないと言うことを示している。一方、ネムリユスリカのトレハロースは乾燥に伴って増大する為、トレハローストランスポーターの発現も誘導されることが考えられた。そこで、ネムリユスリカESTデータベース上で糖トランスポーターにアノテーションされたものの内、乾燥誘導性の発現変動を示すものをトレハローストランスポーターの第一候補と考え、実験に望んだ。そこで、これらクローンを手がかりにESTデータベースをBLASTNサーチで再検索したところ、6つのESTクローンが見つかった。これらESTクローンは、BLASTNサーチに用いたクローンを含めて、1つのクラスターを形成した。このクラスターの塩基配列を元にプライマーを作製し、12時間の乾燥処理を施したネムリユスリカから単離したRNAを鋳型に用いたRT-PCRとRACEを行った結果、約2.3kbpの完全長cDNAを単離することに成功し、このcDNAをPvTRET1と名付けた (図1A)。PvTRET1の塩基配列を配列番号:1、アミノ酸配列を配列番号:2に示す。PvTRET1には1つのORFが含まれ、それから翻訳されるタンパク質は、504アミノ酸残基、55kDaと予想された。また、BlastXサーチを行った結果,PvTRET1は、糖トランスポーターモチーフ (pfam00083: Sugar_tr) が含まれていることが明らかとなった (図1B)。SOSUI (http://sosui.proteome.bio.tuat.ac.jp/) を用いてPvTRET1の構造を予測した結果、既知の糖トランスポーターファミリーと同様に、12回膜貫通型タンパクであることが予想された (図1C)。PSORT II (http://psort.ims.u-tokyo.ac.jp/) を用いたタンパク質局在性予測の結果、PvTRET1タンパクは87.0%の確率で細胞膜に局在していることが予想された。これらの結果から、PvTRET1遺伝子の翻訳産物は、何らかの糖の膜透過を促す活性(すなわち、糖輸送活性)を有する膜タンパクである可能性が示唆された。
【0143】
〔実施例2〕PvTRET1遺伝子の発現変動は、トレハロース量の変化と一致する
PvTRET1遺伝子を単離したネムリユスリカは、乾燥に伴ってトレハロースを爆発的に合成する(Watanabe, M., Kikawada, T., Minagawa, N., Yukuhiro, F. and Okuda, T. (2002) J Exp Biol 205, 2799-802.、Watanabe, M., Kikawada, T. and Okuda, T. (2003) J Exp Biol 206, 2281-6.)。この乾燥刺激時のPvTRET1の遺伝子発現変動を調べた。PvTRET1遺伝子は、乾燥に伴って発現量が増大し、乾燥6時間でプラトーに達して、幼虫個体が完全に乾燥する48時間までほぼ一定であり、トレハロース量の変化とよく似た変動パターンを示していた (図2)。このことから、PvTRET1がトレハロース代謝に関連した糖トランスポーターである可能性が示唆された。
【0144】
〔実施例3〕PvTRET1は、トレハロース輸送活性を持つ
アフリカツメガエル卵母細胞発現系を用いて、PvTRET1がトレハロース輸送活性を持つかどうか調べた。手始めに、PvTRET1を発現させた卵母細胞を、105 mMトレハロースを含むバース改変緩衝液(MBS)に浸したところ、細胞内のトレハロースが増加していた。一方、水を微量注入した卵母細胞は、トレハロースの増加を認めなかった (図3A)。また、PvTRET1を発現させた卵母細胞を、105mMの種々の糖(トレハロース、スクロース、マルトース、ラクトース、メチル-α-グルコピラノシド (MAG)及び2-デオキシグルコース(2-DOG))を含むMBSに浸し、どの糖が透過するか調べた。その結果、PvTRET1は、トレハロース、MAG及び2-DOGのみを選択的に透過させた。しかも、そのトレハロースの透過量は、MAGの約2倍、2-DOGの約8倍であった (図3B)。トレハロースと同じα-グルコシドであるスクロースやマルトースがほとんど透過しなかった点は非常に興味深い。一方、コントロールに用いたヒトグルコーストランスポーター1 (hGLUT1)を発現した卵母細胞は、2-DOGしか透過させなかった (図3B)。これらのことから、PvTRET1は、既知のグルコーストランスポーターとは異なり、トレハロースに高い特異性を持った糖トランスポーターであることが明らかとなった。
【0145】
〔実施例4〕PvTRET1の活性は、H+イオンに依存しない
トランスポーターが行う輸送は、膜の両側の濃度差に逆らう場合と従う場合とに大きく分けられる。前者は、濃度勾配に逆らうために、ATP依存性ポンプで強制的に作られたイオン(H+やNa+)の電気化学的勾配を利用する輸送法で、共輸送または二次能動輸送と呼ばれる。後者は、1種類の分子を一度に1個だけ濃度勾配に従って輸送する輸送法で、単一輸送または促進輸送と呼ぶ。例えば、トレハロース輸送活性も持つ酵母のマルトース-H+シンポーター (MAL11/Agt1) は、前者の典型例である。このMAL11/Agt1は、H+イオンの濃度勾配を利用するためその活性は強いpH依存性が認められ、pH4付近を至適として、中性付近ではほとんど活性を示さない(Stambuk, B.U., De Araujo, P.S., Panek, A.D. and Serrano, R. (1996) Eur J Biochem 237, 876-81.)。そこで、PvTRET1のトレハロース輸送活性にH+イオン依存性があるのかどうか知る目的で、pHの異なる2種類の緩衝液を用いて、トレハロース輸送活性を調べた。その結果,PvTRET1は、pHが4.2でも7.6でも活性に変化は無かった(図4A)。したがって、H+イオンの影響は無いことが示唆されたことから、PvTRET1は、少なくともMAL11/Agt1のようなH+シンポーターではないと考えられた。
【0146】
〔実施例5〕PvTRET1は、促進輸送型のトランスポーターである
PvTRET1が本当に促進輸送型のトランスポーターか判定するために、電気化学的勾配やATP合成を妨げる薬剤(イオノフォアと脱共役剤)存在下のトレハロース輸送活性を調べた。その結果、バリノマイシン(K+-イオノフォア)、ナイジェリシン(アルカリ金属イオン-H+アンチポート型イオノフォア)によって膜電位を撹乱したり、CCCP(H+-イオノフォア)によってミトコンドリアの酸化的リン酸化反応とATP合成を脱共役したりしても、PvTRET1のトレハロース輸送活性には変化が無かった (図4B)。このことから、PvTRET1は、電気化学的勾配やATPに依存しないトランスポーター、すなわち促進輸送型のトランスポーターであることが分かった。
【0147】
〔実施例6〕PvTRET1のトレハロース輸送に方向性は無い
促進輸送型のトランスポーターは、膜の両側の濃度差に依存して物質を輸送するため、膜内外の濃度差が逆転するとその輸送方向も逆転する。そこで、PvTRET1も同様かどうか調べた。その結果、PvTRET1を発現したアフリカツメガエル卵母細胞に105mMトレハロースを含む緩衝液に3時間放置して十分にトレハロースを取り込ませた後,無トレハロース緩衝液に交換した。すると細胞内のトレハロース濃度は低下していき、終には完全にトレハロースが無くなった (図5)。このことから、PvTRET1のトレハロース輸送の方向は、膜内外の濃度差に応じて変化することが明らかとなった。
【0148】
〔実施例7〕PvTRET1は、哺乳動物細胞でも機能する
PvTRET1が、アフリカツメガエル卵母細胞以外の細胞でも機能するかどうか、由来の異なる3つの樹立哺乳類細胞株(CHO-K1, NIH/3T3-3-4及びHuH-7)へPvTRET1 遺伝子を組み込んだ発現ベクターを遺伝子導入して、トレハロース輸送アッセイを行った。その結果、3種類のいずれの細胞でも、遺伝子導入効率に差がない (図6A) にもかかわらず、PvTRET1遺伝子を導入した細胞が、ベクターのみを導入した細胞より有意に多くのトレハロースを取り込んでいた (図6B)。したがって、PvTRET1は、発現する細胞の種類に関係なく、その機能を発揮することが分かった。
【0149】
〔実施例8〕促進輸送型トレハローストランスポーター (TRET1)は、昆虫に広く存在する
促進輸送型トレハローストランスポーターが、ネムリユスリカ特異的なのか、昆虫に普遍的に存在するか調べた。tBTASTnサーチを用いた解析の結果、昆虫(キイロショウジョウバエ、ガンビエハマダラカ、セイヨウミツバチおよびカイコガ)のゲノムデータベースやESTデータベースの中から、PvTRET1と相同なアミノ酸配列をコードするcDNA(またはEST)を同定した。得られたDNAの塩基配列情報を元に、RT-PCRとRACE法を用いて、それぞれの昆虫からcDNAを単離することに成功した。これらクローンは、それぞれ1つのORFを含み、そのORFがコードするタンパク質は、PvTRET 1と高い相同性を示していた (表3)。このことから、キイロショウジョウバエの促進輸送型トレハローストランスポーター(TRET1)をDmTRET1(塩基配列を配列番号:3に、アミノ酸配列を配列番号:4に示す)、ガンビエハマダラカのTRET1をAgTRET1(塩基配列を配列番号:5に、アミノ酸配列を配列番号:6に示す)、セイヨウミツバチのTRET1をAmTRET1(塩基配列を配列番号:7に、アミノ酸配列を配列番号:8に示す)およびカイコガのTRET1をBmTRET1(塩基配列を配列番号:9に、アミノ酸配列を配列番号:10に示す)と命名した。これら昆虫のTRET1オーソログは、活性に種間差があったが、確かにトレハロース輸送能を有していた (図7)。以上のことから、TRET1は、少なくとも昆虫には普遍的に存在することが分かった。
【0150】
【表3】

【0151】
〔実施例9〕TRET1は、脂肪体からのトレハロース放出に関与している
TRET1の生理的役割を考察する目的で、PvTRET1遺伝子のin situハイブリダイゼーションを行った。その結果、脂肪体でのみ強いPvTRET1遺伝子の発現を確認した (図8)。昆虫において脂肪体はトレハロース合成器官であることから、TRET1は、脂肪体で合成されたトレハロースを血リンパに放出する役割を担っていることが考えられる。
【0152】
〔実施例10〕PvTRET1タンパクの動力学
PvTRET1のトレハロース輸送活性の動力学的解析を行った。PvTRET1を発現したアフリカツメガエル卵母細胞を任意の濃度のトレハロースを含む緩衝液に15分間、15℃の条件で培養し、取り込まれたトレハロースを定量した。その結果、Eadie-Hofsteeプロット上で直線を示したことから、典型的なミカエリス-メンテンの反応式に乗っ取った反応速度の変化を示すことがわかった。また、Prism ver4 (GraphPad社)を用いた非線形近似による計算によって、PvTRET1は、トレハロースに対してKmは114.5±27.9 mMで、Vmaxが7.84±0.77 nmol/15 min/oocyteであった。このことから、PvTRET1は、非常に高い濃度の基質に対しても活性が飽和しない機能性の高いトランスポーターであることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下(a)又は(b)のいずれかに記載のDNA;
(a)配列番号:4又は6に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:3又は5に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10−a】
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【図10−b】
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【図2】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−105677(P2012−105677A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−47475(P2012−47475)
【出願日】平成24年3月5日(2012.3.5)
【分割の表示】特願2006−58787(P2006−58787)の分割
【原出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【出願人】(501167644)独立行政法人農業生物資源研究所 (200)
【Fターム(参考)】