説明

トレハロース含有脂肪乳剤

【構成】 トレハロースと脂肪を主成分として含有する栄養組成。
【効果】 グルコースを用いた場合と異なり、有害な遊離脂肪酸の生成や輸液剤のpHの低下をきたさず、製剤学的に安定でなおかつ安全性に問題のない脂肪含有栄養組成物が提供できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、栄養組成物に関し、さらに詳しくは、脂肪乳剤中に糖源としてトレハロースを含有する製剤に関する。
【0002】
【従来の技術】脂肪のエネルギー代謝に糖質が重要な役割を果たしており、脂肪投与時に糖質の併用を行うと脂肪の利用性が高まることが知られている(芳田一宏ら、術後代謝研究会誌、13、89(1978))。したがって、脂肪に糖質を配合した製剤は臨床上は十分に意義がある。ところが、栄養輸液素材として一般に用いられているグルコースは脂肪乳剤が安定な中性水溶液中では分解し易く、ギ酸やレブリン酸などの有機酸を生成し、溶液のpHを低下させる(斉藤浩子ら、分析化学、33、T15(1984))ことが知られており、このpHの低下により脂肪乳剤からの遊離脂肪酸生成の増加が懸念される(I. Hakansson, Acta Chemica Scandinavica,20,2267(1966))。それらの遊離脂肪酸は生体にとって有害であるためグルコースを配合した脂肪乳剤では長期の安定性および安全性を保つことはできない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、生体に利用され易い糖質カロリー源と脂肪とを一剤に配合し、製剤学的な安定性と安全性に問題のない栄養組成物を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記実状に鑑み鋭意研究した結果、糖質カロリー源としてトレハロースを用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
【0005】すなわち、本発明は、トレハロースと脂肪を主成分として含有する栄養組成物を提供するものである。
【0006】本発明において、トレハロースと脂肪の好ましい濃度としてはトレハロース2〜40%(W/V)と脂肪2〜30%(W/V)である。
【0007】本発明で用いるトレハロースには、α、α-トレハロース、 α、β-トレハロース又はβ、β-トレハロースの3種が存在するが、好ましくは天然に存在するα、α-トレハロースである。また、脂肪としては、例えば精製した大豆油、サフラワー油、亜麻仁油、エゴマ油、ココナツ油等の植物油若しくは鯨油、魚油等の動物油を挙げることができる。
【0008】本発明の栄養組成物には、脂肪乳剤の安定性に影響を及ぼさない範囲で塩化ナトリウム、クエン酸カリウム、リン酸二水素カリウムなどの電解質や酢酸、クエン酸、乳酸などの有機酸または亜鉛、銅、鉄、マンガンなどの微量元素を含ませることができる。
【0009】本発明の栄養組成物は、通常、経静脈投与用の輸液剤として使用される。これらの製剤は、公知の方法に準拠して製造することができる。
【0010】
【作用】トレハロースは、製剤学的に安定な二糖類であり、脂肪乳剤中に配合しても分解してpHを低下せたり、遊離脂肪酸の生成を助長したりしない。したがって、特別な製剤学的な工夫をすることなく両者を一剤に配合し、安定かつ安全な栄養組成物を提供することができる。
【0011】
【実施例】
実施例1精製大豆油100gに精製大豆レシチン12gおよびグリセリン25gを加え、油浴上で加温し、ポリトロンホモジナイザーで攪拌した。溶液を冷却後、適当量の蒸留水を加え、ポリトロンホモジナイザーで粗乳化を行った。粗乳化の終わった液をマイクロフルイダイザーを用い、高圧乳化を行った。得られた乳化液に予めトレハロース80gを溶解した水溶液250mlを加え、さらに蒸留水で全液量を1000mlに調整した。次いで炭酸水素ナトリウム水溶液でpHを約7に調整しメンブレンフィルターで濾過後、濾液を200mlのバイアルに充填して、121℃で20分間高圧蒸気滅菌を行い目的とするトレハロース含有脂肪乳剤を得た。
【0012】実施例2精製大豆油100gに精製卵黄レシチン12gおよびグリセリン25gを加え、油浴上で加温し、ポリトロンホモジナイザーで攪拌した。溶液を冷却後、150gのα、α−トレハロースを含む水溶液400mlを加え、ポリトロンホモジナイザーで粗乳化を行った。粗乳化の終わった液をマイクロフルイダイザーを用い、高圧乳化を行った。得られた乳化液に蒸留水を加えて全液量を1000mlに調整した。メンブレンフィルターで濾過後、濾液を200mlのバイアルに充填し、121℃で20分間高圧蒸気滅菌を行い目的とするトレハロース含有脂肪乳剤を得た。
【0013】実施例3精製エゴマ油200gに精製卵黄レシチン12gおよびを加え、50gのα、α−トレハロースを含む水溶液400mlを加え、ポリトロンホモジナイザーで粗乳化を行った。粗乳化の終わった液をマイクロフルイダイザーを用い、高圧乳化を行った。得られた乳化液に蒸留水を加えて全液量を1000mlに調整した。メンブレンフィルターで濾過後、濾液を200mlのバイアルに充填し、121℃で20分間高圧蒸気滅菌を行い目的とするトレハロース含有脂肪乳剤を得た。
【0014】次に試験用の比較液1を調製した。
【0015】比較液1実施例1のα、α−トレハロースの代わりにグルコース(同量)を用いた他は、実施例1と同様にして高圧蒸気滅菌前のグルコース含有脂肪乳剤を得、比較液1とした。
【0016】試験例1実施例1の高圧蒸気滅菌前の輸液剤及び比較液1について、121℃で20分間高圧蒸気滅菌を行った。冷却後、各溶液の外観観察及び粒度分布、pH並びに遊離脂肪酸(FFA)の測定を行った。外観及び粒度分布は2つの溶液間に差はなく良好な乳化状態を保ったが、pHに大きな差を生じた。つまり、グルコースを含有する比較液1は滅菌前後で大きくpHが低下した(表1)。これらの結果より本発明に係わるα、α−トレハロース含有脂肪乳剤は、製剤学的安定性に優れ、全く問題ないことが判った。
【0017】
【表1】


【0018】試験例2121℃で20分間高圧蒸気滅菌した後の実施例1の輸液剤及び比較液1について、60℃で1週間保存した。冷却後、各溶液の外観観察及び粒度分布、pH並びに遊離脂肪酸(FFA)の測定を行った。外観及び粒度分布は2つの溶液間に差はなく良好な乳化状態を保ったが、pH及びFFAに大きな差を生じた(表2)。つまり、グルコースを含有する比較液におけるFFAは実施例1の輸液剤に比べ約6倍の濃度に上昇した。これらの結果より本発明に係わるα、α−トレハロース含有脂肪乳剤は、製剤学的安定性に優れ、全く問題ないことが判った。以上のことより、α、α−トレハロースは安定な糖質素材であり、グルコースと異なり、脂肪乳剤に配合してもpHの低下や、有害な遊離脂肪酸の生成を促進しないことが明かとなった。
【0019】
【表2】


【0020】
【発明の効果】本発明によれば、糖質カロリー源と脂肪とを一剤に配合し、製剤学的な安定性と安全性に問題のない栄養組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 トレハロースと脂肪を主成分として含有する栄養組成物。